説明

9α−ヒドロキシ−ステロイドの合成方法

本発明は、生物変換において、寄託番号がNCAIM (P) - B 001342であるノカルジア ファルシニカ バクテリア株をヒドロキシル化微生物として用いることによる、一般式(II):


(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物の生物変換によって、一般式(I):


(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の9α-ヒドロキシ-ステロイド誘導体の新規な選択的合成を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(II):
【化1】

(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物の生物変換による、一般式(I):
【化2】

(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の9α-ヒドロキシ-ステロイド誘導体の新規な選択的合成に関する。
【背景技術】
【0002】
9α-ヒドロキシ-ステロイドは治療において幅広く用いられていることが知られており、例えば、プレグナンステロイドの9α-ヒドロキシ-誘導体はグルココルチコイド活性を有し、ならびにアンドロスタン誘導体の9α-ヒドロキシ-誘導体は抗アンドロゲン薬および抗エストロゲン薬の活性成分として用いられている。
【0003】
11位に置換基を持たない9α-ヒドロキシ-ステロイドは、公知の化学的手法によって容易に脱水することができ、そうして得られた9(11)-デヒドロ-ステロイドは、高い生物学的活性を有する化合物の合成における重要な中間体である。そのような化合物は、例えば、抗炎症活性を有するヒドロコルチゾン(化学名: 11β,17,21-トリヒドロキシ-プレグナ-4-エン-3,20-ジオン)およびプレドニゾロン(化学名: 11β,17,21-トリヒドロキシ-プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン)、または広い適応特性を有するエプレレノン(化学名: 9α,11α-エポキシ-17β-ヒドロキシ-3-オキソ-プレグナ-4-エン-7,21-ジカルボン酸γラクトン)であり; 例えば、β-遮断薬のように心臓および血管疾患によりもたらされる死亡率のリスクを減少させるだけでなく高血圧症の治療用および利尿薬として用いられる。
【0004】
Δ4-3-ケト-プレグナンファミリーのメンバーは最初、1958年にHanzeらによって、クスダマカビおよびハリエダケカビ糸状菌(thread fungus)株を用いて9α-位でヒドロキシル化された(参照: 特許文献1)。1960年にSihらは、Δ1-デヒドロゲナーゼ阻害剤の存在下でΔ1-デヒドロゲナーゼ酵素活性を有する微生物を用いたステロイドの9α-ヒドロキシル化を記述した(参照: 特許文献2)。2年後にSebekが、アスコチタ リネコラ(Ascochyta linecola)株を用いることによってステロイドの9α-ヒドロキシル化を行った(参照: 特許文献3)。
【0005】
前述の特許においてSihらはまた、ステロイド9α-ヒドロキシラーゼ酵素を有する微生物としてマイコバクテリア株を記載した(参照: 特許文献2)。
【0006】
1977年にFrederickらが、変異誘発処理(mutagenic treatment)によって、検討したステロール基質の一部のみを分解し、その結果9α-ヒドロキシ-誘導体を蓄積する新しい微生物株を作出したことが知られている(参照: 特許文献4)。Wovchaは、新しい9α-ヒドロキシ-誘導体の合成に、同じ株-マイコバクテリウム・フォーチュイタム NRRL B-8119株-を用いた(参照: 特許文献5)。
【0007】
Wovchaらは、ステロイド骨格の分解におけるマイコバクテリウム・フォーチュイタム ATCC 6842株の役割を研究した。彼らは、二酸化炭素および水への分解における主要な工程が、Δ1-デヒドロゲナーゼおよび9α-ヒドロキシラーゼ酵素の連続した機能であることを見いだした。該2つの変換工程は相互に置き換えることができ、両方の反応工程は2-2酵素(two-two enzymes)(酵素群)により行うことができる; 例えばそれらの一つ、該Δ1-デヒドロゲナーゼ酵素は出発物質を変換し、他方は9α-ヒドロキシ-誘導体をΔ1-脱水素する。該実験において彼らは、上記の酵素は誘導することができ; 異なる誘導因子を用いることによって形成される生成物の量および組成は顕著に変えられると推定した[非特許文献1]。
【0008】
1981年にMarsheckらは、新しい変異ノカルジア カニクルリア(Nocardia canicruria)株を用いることにより、Δ1-デヒドロゲナーゼ酵素阻害剤を用いる必要のない方法で、ステロイド化合物の9α-ヒドロキシル化を行った。上述の例において、9α-ヒドロキシ-ケトラクトン(化学名: 9α,17-ジヒドロキシ-3-オキソ-17α-プレグナ-4-エン-21-カルボン酸γラクトン)の合成について、ケトラクトン(化学名: 17-ヒドロキシ-3-オキソ-17α-プレグナ-4-エン-21-カルボン酸γラクトン)から開始し; 0.5 g/dm3の濃度のケトラクトン基質を用いることにより、目的のヒドロキシル化生成物が30%の変換で形成されたと記載されている(参照: 特許文献6)。
【0009】
とりわけMutafovらは、ステロイド9α-ヒドロキシラーゼ酵素の誘導能についてロドコッカス種株を用いて研究し、生成物として形成された9α-ヒドロキシ-4-アンドロステン-3,17-ジオンは、それを誘導因子として用いると反応速度が半分になり、形成された9α-ヒドロキシ生成物の量は誘導因子として4-アンドロステン-3,17-ジオンを用いた場合の4分の1であったことから、非常に貧弱な誘導因子であることを見いだした[非特許文献2]。
【0010】
Brzostekらは、ステロイド骨格の分解について遺伝子レベルで研究し、異なるタイプのΔ1-デヒドロゲナーゼ酵素が存在するだけでなく、該ゲノムには場合によって5つのΔ1-デヒドロゲナーゼ遺伝子が含まれることから、9α-ヒドロキシステロイド誘導体の合成に必要なΔ1-デヒドロゲナーゼ酵素活性を阻害することは困難であることを見いだした[非特許文献3]。
【0011】
エプレレノンの合成において、化学反応工程に加えて微生物学的工程が実施されること、とりわけ、重要な中間体、カンレノン(化学名: 17-ヒドロキシ-3-オキソ-17α-プレグナ-4,6-ジエン-21-カルボン酸γラクトン)のヒドロキシル化は微生物(ディプロディア(Diplodia)、アスペルギルス(Aspergillus)、アブシディア(Absidia)種)により行われることが知られている(参照: 特許文献7および特許文献8さらに特許文献9)。
【0012】
エプレレノンの別の合成は、カンレノンの9α-ヒドロキシル化を介して行うことができる。該9α-ヒドロキシ-カンレノン(化学名: 9α,17-ジヒドロキシ-3-3-オキソ-17α-プレグナ-4,6-ジエン-21-カルボン酸γラクトン)は、微生物学的ヒドロキシル化を用いてNgらにより最初に合成され(参照: 特許文献10および特許文献11)、上記特許の実施例17に記載されている。
【0013】
生成物としての該9α-ヒドロキシ-カンレノンは、1998年に、Ngらの特許請求の範囲に最初に記載されている(参照: 特許文献12;または後の特許文献13)。
【0014】
国際調査審査機関(international search examining authority)は特許文献10および特許文献12に18の独立発明を見いだしたことから、発明者に、選択発明として出願するように勧めた。この結果として、100を超える特許出願が出願され、そのうちのいくつかは上述の特許文献10に記載の実施例17を含む(特許文献14参照)。
【0015】
上述の実施例17は、ステロイド9α-ヒドロキシル化酵素活性を有する可能性がある83の微生物のスクリーニングデータについて記載し、カンレノンの生物変換の間に形成された生成物のTLC、HPLC/UVおよびLC/MSデータを提供する。提示した表からは、可能な生成物において上述の分析方法により該9α-ヒドロキシ-カンレノンを検出することができるか、またはできないかが示されうるのみである。この表には、微生物、マイコバクテリウム・フォーチュイタム ATCC 6842株があるが、適当な列に分析データが記載されていない。この株の生物変換能は文献[非特許文献4以降の公開]から公知であり、故に、カンレノンの分解が生じることが推定できる(特許文献4および特許文献5を参照)。
【0016】
この推定は、上述のパテントファミリーの発明者である微生物学者により2003年に記述された公表文献により裏付けされている。この公表文献は、同一の表(しかしこの表のマイコバクテリウム・フォーチュイタム株は、ステロイドの9α-ヒドロキシル化のために開発された上記の改良型: 登録番号NRRL B-8119である)を有する[非特許文献5]。発明者らによると、この場合、該マイコバクテリウム・フォーチュイタム NRRL B-8119はヒドロキシまたは脱水素化された生成物を生成せず、代謝が生じなかった。
【0017】
上述の実施例17には、3つのタイプのノカルジア(Nocardia)株、すなわち: ノカルジア オウレニティス(Nocardia aurentis)、ノカルジア カニクルリア(Nocardia cancicruria)およびノカルジア コラリン(Nocardia coralline)株が挙げられている。TLCおよびHPLC測定によると2つの株の該変換生成物は9α-ヒドロキシ-カンレノンに類似しているが、9α-ヒドロキシ-カンレノンの構造はLC/MS分析により開示されていた。
【0018】
数値データが提示されている9α-ヒドロキシ-カンレノンの微生物学的合成のみが上述の公表文献に記載されており: コリネスポラ カッシコラ(Corynespora cassiicola) ATCC 16718株を用いて、フラスコ中で0.1 g/dm3の濃度のカンレノン基質を用いて好気性発酵を行い、目的のヒドロキシル化生成物が30%の変換で形成された[非特許文献5]。
【0019】
上述の公表文献から分かるように、工業的に適用可能な、カンレノンまたはケトラクトンの9α-ヒドロキシ-誘導体の微生物学的合成はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第3,038,913号
【特許文献2】米国特許第3,065,146号
【特許文献3】米国特許第3,116,220号
【特許文献4】米国特許第4,029,549号
【特許文献5】米国特許第4,035,236号
【特許文献6】米国特許第4,397,947号
【特許文献7】米国特許出願第2004/087562号
【特許文献8】米国特許出願第2004/097475号
【特許文献9】PCT国際特許出願第2005/000865号
【特許文献10】PCT国際特許出願第97/21720号
【特許文献11】ハンガリー特許第222,453号
【特許文献12】PCT国際特許出願第98/25948号
【特許文献13】米国特許第7,129,345号
【特許文献14】PCT第2005/239761号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Biochimica et Biophysica Acta 574, 471-479 (1979)
【非特許文献2】Process Biochemistry 32 (7), 585-589 (1997)
【非特許文献3】Microbiology 151, 2393-2402 (2005)
【非特許文献4】1936, Acta Med. Rio de Janeiro 1,1
【非特許文献5】J. Nat. Prod. 66, 350-356 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従って本発明の目的は、工業的に適用可能な、著しい分解および副生成物の形成を伴わずに9位における基質としての一般式(II)(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)のステロイドのヒドロキシル化を行うための微生物学的方法を提供することである。
【0023】
最初の実験において、マイコバクテリウム株が9α-ヒドロキシ-カンレノンの微生物学的合成に最も適することを検証した。38のマイコバクテリウム株およびノカルジア株の変換能を、基質としてケトラクトンおよびカンレノンを用いてスクリーニングした。これらの株の中には、野生型のステロール分解性の、例えばマイコバクテリウム・フォーチュイタム ATCC 6842、もしくは部分的骨格分解性のマイコバクテリウム・フォーチュイタム NRRL B-8129; ならびに、9α-ヒドロキシル化のために開発されたことが明らかであるいくつかの株: マイコバクテリウム・フォーチュイタム NRRL B-8119、マイコバクテリウム種 NCAIM 1072、マイコバクテリウム種 NCAIM 324がある。
【0024】
スクリーニングにおいて本発明者らは3つの株を見いだし、それらは-TLC分析によると-検出可能な量の9α-ヒドロキシ-誘導体を生成した: マイコバクテリウム・フォーチュイタム NCAIM 00327、マイコバクテリウム・フォーチュイタム NCAIM 00323およびノカルジア種 RG 1369。
【0025】
該3つの株の全てが、一般式(II)(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-基を意味する)の化合物を、9α-ヒドロキシ-誘導体に変換することができる。しかしながら本発明者らは、ノカルジア種 RG 1369株のみが一般式(II)(式中、-A-A'-は-CH=CH-基を意味する)の化合物を9α-ヒドロキシ-誘導体に変換することができることを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この変換能を向上させるために本発明者らは、振盪フラスコ中で、炭素源としてグルコース、ショ糖もしくはグリセロール、好ましくは5-25 g/dm3グリセロール、より好ましくは15 g/dm3グリセロールを用いて、ならびに窒素源として酵母抽出物、植物性ペプトンもしくは麦芽抽出物を用いて、好ましくは該酵母抽出物、植物性ペプトンおよび麦芽抽出物を1-10 g/dm3の濃度、より好ましくは5-5 g/dm3の濃度で一緒に用いて、特定の場合においてはアンモニウム、ホスフェート、カリウム、マグネシウムおよび鉄を適当な化合物に添加して、実験を行った。培養温度は28-35℃、好ましくは32℃であった。ノカルジア種 RG 1369株を上記の通り培養して該カンレノン基質を4 g/dm3の濃度で添加すると、数時間でかなりの量のステロイドが分解されたとはいえ9α-ヒドロキシ-カンレノン生成物はまだ単離できたが、基質を添加した24時間後にはステロイド骨格の完全な分解が観察されることを見いだした。
【0027】
さらなる実験において本発明者らは、選択的誘導因子を用いることにより9α-ヒドロキシ-カンレノンの形成の方向に反応をシフトさせることを試みた。公知の誘導因子の中では、AD(化学名: 4-アンドロステン-3,17-ジオン)および10,11-ジヒドロキシ-レボジオン(levodione)(化学名: 13-エチル-10,11α-ジヒドロキシ-4-ゴネン(gonene)-3,17-ジオン)が有効であった。10,11-ジヒドロキシ-レボジオンを誘導因子として用いた場合、ADの場合よりも6-10時間遅く分解が生じた。該10,11-ジヒドロキシ-レボジオン誘導因子を、メタノール-水の混合液、好ましくは3:1の混合液に、高温、好ましくは50℃で溶解させ、濾過して滅菌溶液を得た。誘導期(lag period)の後、10-24時間培養後、好ましくは18時間培養後に、それを0.01-0.5 g/dm3の濃度、好ましくは0.05 g/dm3の濃度で培養物に添加した。
【0028】
本発明者らの実験によると、Δ1-デヒドロゲナーゼ酵素阻害剤(例えば、クロラムフェニコール、オキシテトラサイクリンおよびストレプトマイシン抗生物質)、ならびにキノン(例えばヒドロキノン、ナフトキノンおよびニンヒドリン)の添加により、該分解を遅延させることができる。ストレプトマイシンを用いた場合に最良の結果が得られた; 該分解時間は3-7時間長かった。本実験において、該抗生物質を、誘導の2-8時間後、好ましくは6時間後に、2-10 mg/dm3、好ましくは6 mg/dm3の最終濃度で添加した。
【0029】
実験結果の分析から本発明者らは、ノカルジア種 RG 1369株から、変異誘発処理および選択によって、一般式(I)(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物の工業的合成方法に用いることができる株を製造することを試みる必要があると認識した。
【0030】
可能な変異誘発処理の中から、本発明者らは254 nm波長のUV光を用いた照射法を選択した。変異誘発処理の間、生理食塩水中に懸濁して無菌状態に維持したノカルジア種 RG 1369の培養物を、Mineralight UVGL-58型ランプを用いて公知の方法により、15 cmから23分間処理した-該照射時間は、予め測定した致死曲線(lethality curve)に基づいて選択した。
【0031】
公知の方法により得たニート(neat)培養物をスクリーニングしたところ、驚くべきことに、著しい分解を伴わずに、一般式(II)(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物を一般式(I)(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物に変換することができる1つの分離株(isolate)を見いだした。そうして得たノカルジア種 F1a (RG 4451)バクテリア(bacterium)変異株は80%以上の変換を行うことができる。rRNAシークエンスにより該バクテリアをノカルジア ファルシニカ(Nocardia farcinica) NCAIM (P) - B 001342として同定し、ブタペスト条約下における特許手続きのために寄託した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上述の事実により、本発明は、一般式(II):
【化3】

(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物の生物変換による、一般式(I):
【化4】

(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物の選択的合成方法であって、生物変換におけるヒドロキシル化微生物として寄託番号NCAIM (P) - B 001342のノカルジア ファルシニカバクテリア株を用いることを含む方法に関する。
【0033】
新しい変異株ノカルジア ファルシニカ NCAIM (P) - B 001342株の形態学的特徴は、出発ノカルジア種 RG 1369株の形態学的特徴に対して小さな相違を示す。この差異は、YTA寒天培地(その組成は: 10 g/dm3のトリプカゼイン(tripcasein); 1 g/dm3の酵母抽出物; 5 g/dm3の塩化ナトリウム; 0.25 g/dm3の硫酸マグネシウム7水和物; 0.07 g/dm3の塩化カルシウム二水和物; 20 g/dm3の寒天である)の表面上において最も明白であり: 該出発ノカルジア種 RG 1369株は黄-オレンジ色の色素を産生し、その表面は平坦で、輝いており、増殖した培養物(developed culture)のほとんどは寒天培地の表面上ではなく表面下に認められ得る。これとは対照的に、新しい変異株ノカルジア ファルシニカ NCAIM (P) - B 001342株の培養物の表面は平坦ではなくしわが寄っており、それらのほんの一部のみが寒天培地の表面下に認められ得る。
【0034】
16S rRNA遺伝子の部分的シークエンス解析により、該バクテリア株の同定を行った。
>RG1(Nocardia sp. F1a (RG 4451) fullseqed2:
GTCGAGCGGTAAGGCCCTTCGGGGTACACGAGCGGCGAACGGGTGAGTAACACGTGGGTGATCTGCCCTGTACTTCGGGATAAGCCTGGGAAACTGGGTCTAATACCGGATATGACCTTACATCGCATGGTGTTTGGTGGAAAGATTTATCGGTACAGGATGGGCCCGCGGCCTATCAGCTTGTTGGTGGGGTAATGGCCTACCAAGGCGACGACGGGTAGCCGGCCTGAGAGGGCGACCGGCCACACTGGGACTGAGACACGGCCCAGACTCCTACGGGAGGCAGCAGTGGGGAATATTGCACAATGGGCGAAAGCCTGATGCAGCGACGCCGCGTGAGGGATGACGGCCTTCGGGTTGTAAACCTCTTTCGACAGGGACGAAGCGCAAGTGACGGTACCTGTAGAAGAAGCACCGGCCAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGGTGCGAGCGTTGTCCGGAATTACTGGGCGTAAAGAGCTTGTAGGCGGTTTGTCGCGTCGTCCGTGAAAACTTGGGGCTCAACCCCAAGCTTGCGGGCGATACGGGCAGACTTGAGTACTGCAGGGGAGACTGGAATTCCTGGTGTAGCGGTGAAATGCGCAGATATCAGGAGGAACACCGGTGGCGAAGGCGGGTCTCTGGGCAGTAACTGACGCTGAGAAGCGAAAGCGTGGGTAGCGAACAGGATTAGATACCCTGGTAGTCCACGCCGTAAACGGTGGGCGCTAGGTGTGGGTTTCCTTCCACGGGATCCGTGCCGTAGCTAACGCATTAAGCGCCCCGCCTGGGGAGTACGGCCGCAAGGCTAAAACTCAAAGGAATTGACGGGGGCCCGCACAAGCGGCGGAGCATGTGGATTAATTCGATGCAACGCGAAGAACCTTACCTGGGTTTGACATACACCGGAAACCTGCAGAGATGTAGGCCCCCTTGTGGTCGGTGTACAGGTGGTGCATGGCTGTCGTCAGCTCGTGTCGTGAGATGTTGGGTTAAGTCCCGCAACGAGCGCAACCCTTGTCCTGTGTTGCCAGCGCGTTATGGCGGGGACTCGCAGGAGACTGCCGGGGTCAACTCGGAGGAAGGTGGGGACGACGTCAAGTCATCATGCCCCTTATGTCCAGGGCTTCACACATGCTACAATGGCCGGTACAGAGGGCTGCGATACCGTGAGGTGGAGCGAATCCCTTAAAGCCGGTCTCAGTTCGGATCGGGGTCTGCAACTCGACCCCGTGAAGTTGGAGTCGCTAGTAATCGCAGATCAGCAACGCTGCGGTGAATACGTTCCCGGGCCTTGTACACACCGCCCGTCACGTCATGAAAGTCGGTAACACCCGAAGCCGGTGGCCTAACCCCTTGT
【0035】
得られた配列(1396 bp)は、全遺伝子(1527 bp)の91%をカバーしている。
【0036】
検討した株の種の同定は、NCBI BLAST検索に基づいて応用ゲノム分類学的(genotaxonomical)方法により決定することができる: 記号表示RG 4451株の正しい種はノカルジア ファルシニカである。
生物の系統分類学における位置: ノカルジア ファルシニカ トレビサン(Nocardia farcinica Trevisan) 1889 [3]
細胞生物(Cellular organisms); 細菌界; 放線菌門; 放線菌類; アクチノバクテリア亜綱; アクチノミセス目; コリネバクテリウム亜目; ノカルディア科; ノカルディア属; ノカルジア ファルシニカ
【0037】
応用NCBI BLAST [2]同定の正確なデータ:
アクセス: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/, バージョン: BLASTN 2.2.16 (Mar-25-2007)
データベース: EST、STS、GSS、環境サンプルまたはフェーズ0、1もしくは2のHTGS配列以外の全てのGenBank+EMBL+DDBJ+PDB配列); 5,284,371配列; 20,692,750,832総文字(total letters), アルゴリズム: megablast
【0038】
ノカルジア ファルシニカ種に属する株の16S rRNS遺伝子配列は、互いに同一または非常に類似している。該類似性は亜属においてもかなりのものであるが、コリネバクテリウム亜目の類のファミリー(ノカルディア科、マイコバクテリウム科参照)は大きく異なっている。
【0039】
該2株間の重要で明白な注目すべき差異は、一般式(I)(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物の合成における変換能であり、すなわち、新しい変異株ノカルジア ファルシニカ NCAIM (P) - B 001342株は9α-ヒドロキシル化能を保持していたが、ステロイド骨格の分解を抑制する。従って-前述の実験条件下において-分解が抑制されることにより9α-ヒドロキシ生成物の量が多くなり、単離することができ: 工業規模の合成に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、カンレノン基質を用いた前述の発酵条件下における、ノカルジア種 RG 1369母株の特徴的なステロイド変換パターンを示す。
【図2】図2は、前記同様の条件下における、ノカルジア ファルシニカ NCAIM (P) - B 001342株の変換能を示す。
【0041】
本発明は以下の実施例により説明されるが、それに制限されることはない。
【実施例】
【0042】
実施例1
ノカルジア ファルシニカ NCAIM (P) -B 001342の培養物を以下の寒天斜面培地(slope)で維持する。
【表1】

【0043】
播種した培養物を32℃で4日間インキュベートし、次いで+4-10℃でさらに30日間維持して、増殖を開始させた。表面培養物の懸濁液を500 cm3フラスコ中の以下の組成の100 cm3の滅菌培地に移すことにより、増殖性培養物(vegetative culture)とした。
【表2】

【0044】
該培養物を32℃で48時間、200 rpmで振盪させた後、その10%を、500 cm3フラスコ中の以下の組成の100 cm3の滅菌培地に播種した。
【表3】

【0045】
該培養物を32℃で72時間、200 rpmで振盪させた後、その10%を、500 cm3フラスコ中の以下の組成の100 cm3の滅菌培地に播種した。
【表4】

【0046】
該培養物を32℃で72時間、200 rpmで振盪させた後、18時間培養した時点で、メタノール-水の3:1混合液に溶解させた5 mgの10,11-ジヒドロキシ-レボジオンを添加して9α-ヒドロキシラーゼ酵素の形成を誘導した。6時間誘導した後、ジメチルホルムアミドに溶解させた0.4 gのケトラクトン基質(化学名: 17-ヒドロキシ-3-3-オキソ-17α-プレグナ-4-エン-21-カルボン酸γラクトン)を該培養物に添加した。さらに16時間後、該培養物をクロロホルムで抽出し、有機層を濃縮し、該残渣を酢酸エチルから再結晶化し、濾過して乾燥させた。そうして得た結晶性物質は456 mgであった。HPLC測定によると、それは74.3 %の生成物、すなわち339 mg(収率84.7 %を意味する)の9α-ヒドロキシ-ケトラクトン(化学名: 9α,17-ジヒドロキシ-3-3-オキソ-17α-プレグナ-4-エン-21-カルボン酸γラクトン)を含有する。
そうして得た生成物をNMR測定によりキャラクタライズした。典型的な化学シフトは以下である。
1H NMR {500 MHz, DMSO-d6(TMS), δ(ppm)}: 0.87 (3H,s,18-Me); 1.20 & 1.67 (2H,m & m,H-12); 1.25 (3H,s,19-Me); 1.32 & 1.54 (2H,m & m,H-15); 1.43 & 1.48 (2H,m & m,H-7); 1.47 & 1.67 (2H,m & m,H-11); 1.58 & 2.33 (2H,m & m,H-1); 1.65 (1H,m,H-9); 1.86 & 2.05 (2H,m & m,H-16); 1.90 (1H,m,H-8); 1.92 & 2.37 (2H,m & m,H-20); 2.17 & 2.38 (2H,m & m,H-2); 2.20 & 2.43 (2H,m & m,H-6); 2.40 & 2.54 (2H,m & m,H-21); 4.18 (1H,s,OH); 5.65 (1H,m,H-4)
13C NMR {125 MHz, DMSO-d6(TMS), δ(ppm)}: 13.6 (C-18); 19.4 (C-19); 22.3 (C-15); 24.3 (C-7); 25.8 (C-11); 26.5 (C-12); 27.9 (C-1); 28.8 (C-21); 30.5 (C-20); 31.3 (C-6); 33.8 (C-2); 34.8 (C-16); 37.4 (C-8); 42.0 (C-14); 44.0 (C-10); 44.9 (C-13); 75.1 (C-9); 95.3 (C-17); 124.9 (C-4); 170.6 (C-5); 176.3 (C-22); 197.9 (C-3)
【0047】
実施例2
該実験は実施例1に記載のとおり実施したが、主フェーズ(main phase)の培養物は実験用ファーメンター(fermenter)で作製した。
該種菌培養物を32℃で72時間、200 rpmで振盪させた後、5つのフラスコの内容物を用いて、9 dm3のジャーファーメンター(jar fermenter)に5 dm3の滅菌した以下の組成の主フェーズ培地を播種した。
【表5】

【0048】
該培養液を、32℃、300 l/分の速度および200 dm3/時間の通気速度で撹拌した。18時間培養後、メタノール-水の3:1混合液に溶解させた250 mgの10,11-ジヒドロキシ-レボジオンを添加して、培養液中で9α-ヒドロキシラーゼ酵素の形成を誘導した。6時間の誘導後、エタノールに溶解させた5 gのカンレノン基質(化学名: 17-ヒドロキシ-3-3-オキソ-17α-プレグナ-4,6-ジエン-21-カルボン酸γラクトン)を培養液に添加した。同じファーメンテーターにおいて、30℃で、300 l/分の速度および200 dm3/時間の通気速度で撹拌しながら、生物変換を行った。さらに16時間後、該培養液をクロロホルムで抽出し、該有機層を濃縮し、該残渣を酢酸エチルから再結晶化し、濾過して乾燥させた。そうして得た結晶性物質は5.66 gであった。HPLC測定によると、それは72.4 %の生成物、すなわち4.1 g(収率82 %を意味する)の9α-ヒドロキシ-カンレノン(化学名: 9α,17-ジヒドロキシ-3-3-オキソ-17α-プレグナ-4,6-ジエン-21-カルボン酸γラクトン)を含有する。
そうして得た生成物をNMR測定によりキャラクタライズした。典型的な化学シフトは以下である。
1H NMR {500 MHz, DMSO-d6(TMS), δ(ppm)}: 0.92 (3H,s,18-Me); 1.15 (3H,s,19-Me); 1.22 & 1.75 (2H,m & m,H-12); 1.48 & 1.67 (2H,m & m,H-11); 1.48 & 1.77 (2H,m & m,H-15); 1.64 & 2.25 (2H,m & m,H-1); 1.92 & 2.10 (2H,m & m,H-16); 1.94 & 2.36 (2H,m & m,H-20); 1.97 (1H,m,H-8); 2.26 & 2.54 (2H,m & m,H-2); 2.42 & 2.57 (2H,m & m,H-21); 2.50 (1H,m,H-9); 4.13 (1H,s,OH); 5.65 (1H,ブロード,H-4); 5.89 (1H,dd,H-7); 6.18 (1H,dd,H-6)
13C NMR {125 MHz, DMSO-d6(TMS), δ(ppm)}: 13.3 (C-18); 18.8 (C-19); 21.5 (C-15); 25.2 (C-11); 26.2 (C-12); 26.7 (C-1); 28.6 (C-21); 30.4 (C-20); 33.3 (C-2); 34.7 (C-16); 39.2 (C-8); 40.6 (C-14); 42.0 (C-10); 45.5 (C-13); 74.1 (C-9); 94.9 (C-17); 124.6 (C-4); 127.9 (C-6); 136.2 (C-7); 162.5 (C-5); 176.2 (C-22); 198.1 (C-3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II):
【化1】

(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物の生物変換による、一般式(I):
【化2】

(式中、-A-A'-は-CH2-CH2-または-CH=CH-基を意味する)の化合物の選択的合成方法であって、該生物変換において、ヒドロキシル化微生物として寄託番号NCAIM (P) - B 001342のノカルジア ファルシニカ バクテリア株を用いることを特徴とする、該方法。
【請求項2】
80 %以上の生物変換を得ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−531660(P2010−531660A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514150(P2010−514150)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【国際出願番号】PCT/HU2008/000078
【国際公開番号】WO2009/004394
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(596035695)
【氏名又は名称原語表記】Richter Gedeon Nyrt.
【Fターム(参考)】