説明

9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドの製造法

【課題】α,β−不飽和カルボニル化合物に対する、有用な不斉1,4−付加反応用触媒の提供。
【解決手段】6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)より誘導される、9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(6)。


(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を、Rは置換もしくは無置換のアリール基を;XおよびXは、同一または異なって、ハロゲン原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉1,4−付加反応の触媒として有用な光学活性9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
後掲の式(6)で表される光学活性9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドは、β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉1,4−付加反応の触媒として有用である(例えば、非特許文献1)。
これまでに報告された光学活性9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドの製造法としては、6’−メトキシシンコナアルカロイドにハロゲン化アラルキルを反応させて9−アラルキルオキシ−6’−メトキシシンコナアルカロイドを得、続いてナトリウムエタンチオラート処理により選択的に6’位のメチル基を脱保護して製造する方法が知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では高価なナトリウムエタンチオラートが4当量必要で非経済的であることに加え、目的物の回収と精製において多量の溶媒を用いた抽出操作とシリカゲルカラムクロマトグラフィー操作が必要であり、さらに、ナトリウムエタンチオラートは悪臭物質であり、工業的大量製造には不向きである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Organic Letters,2005年,第7巻,第2号,167−169頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の上記問題点に鑑み、大量製造に対応できる安価かつ簡便な光学活性9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドの製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の問題点を解決すべく種々検討を重ねた結果、安価かつ高収率で光学活性9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドを製造する新たな方法を見出し、さらに、不斉触媒として有用な光学活性シンコナアルカロイド誘導体の製造に有用な新規中間体を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明はすなわち、下記[1]ないし[15]等に関する。
[1]下記工程(b)および(c)を含むことを特徴とする、下記式(6)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を意味し、Rは置換もしくは無置換のアリール基を意味する。)で表される9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩の製造法;
(b)下記式(3)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を、塩基試薬の存在下、下記式(4)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、Xはハロゲン原子を意味し、Rは前掲と同じものを意味する。)で表されるハロゲン化アラルキルと反応させて、下記式(5)
【0012】
【化4】

【0013】
(式中、RおよびRは前掲と同じものを意味する。)で表される9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程;および
(c)式(5)で表される9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を、酸試薬と反応させて、式(6)で表される9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程。
【0014】
[2]工程(b)において、塩基試薬がアルカリ金属アルコキシドであることを特徴とする上記[1]に記載の製造法。
【0015】
[3]工程(b)を、非プロトン性極性溶媒と炭化水素系溶媒の混合溶媒中で行うことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の製造法。
【0016】
[4]工程(c)において、酸試薬が塩酸水であり、反応液のpHが1以上2以下であることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造法。
【0017】
[5]出発原料として、光学活性な6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩を使用することを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造法。
【0018】
[6]下記工程(a)ないし(c)を含むことを特徴とする、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の、下記式(6)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を意味し、Rは置換もしくは無置換のアリール基を意味する。)で表される9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩の製造法;
(a)下記式(1)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)で表される6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩に、塩基試薬の存在下、下記式(2)
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、Xはハロゲン原子を意味する。)で表されるハロゲン化トリフェニルメチルを反応させて、下記式(3)
【0025】
【化8】

【0026】
(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程;
(b)式(3)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を、塩基試薬の存在下、下記式(4)
【0027】
【化9】

【0028】
(式中、Xはハロゲン原子を意味し、Rは前掲と同じものを意味する。)で表されるハロゲン化アラルキルと反応させて、下記式(5)
【0029】
【化10】

【0030】
(式中、RおよびRは前掲と同じものを意味する。)で表される9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程;および
(c)式(5)で表される9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を、酸試薬と反応させて、式(6)で表される9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程。
【0031】
[7]工程(a)を、水と非水溶性有機溶剤からなる液−液二相系溶媒中、相間移動触媒の存在下で行うことを特徴とする上記[6]に記載の製造法。
【0032】
[8]工程(a)において、塩基試薬がアルカリ金属の水酸化物であり、相間移動触媒が4級アンモニウム塩であることを特徴とする上記[7]に記載の製造法。
【0033】
[9]出発原料として、光学活性な6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)を使用することを特徴とする上記[6]〜[8]のいずれかに記載の製造法。
【0034】
[10]下記式(3)
【0035】
【化11】

【0036】
(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を意味する。)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩。
【0037】
[11]光学活性体である、上記[10]に記載の6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩。
【0038】
[12]下記式(1)
【0039】
【化12】

【0040】
(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を意味する。)で表される6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩に、塩基試薬の存在下、下記式(2)
【0041】
【化13】

【0042】
(式中、Xはハロゲン原子を意味する。)で表されるハロゲン化トリフェニルメチルを反応させることを特徴とする、下記式(3)
【0043】
【化14】

【0044】
(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩の製造法。
【0045】
[13]水と非水溶性有機溶剤からなる液−液二相系溶媒中、相間移動触媒の存在下で行うことを特徴とする上記[12]に記載の製造法。
【0046】
[14]塩基試薬がアルカリ金属の水酸化物であり、相間移動触媒が4級アンモニウム塩であることを特徴とする上記[13]に記載の製造法。
【0047】
[15]出発原料として、光学活性な6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)を使用することを特徴とする上記[12]〜[14]のいずれかに記載の製造法。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、α,β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉1,4−付加反応の触媒として有用な光学活性9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドを安価かつ簡便に製造することができる。
また、不斉触媒として有用なシンコナアルカロイド誘導体を製造するために有用な新規中間体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の概要を下記スキームに示す。
【0050】
【化15】

【0051】
(式中、各記号は前掲と同じものを意味する。)
本明細書中、6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)、6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)、9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(5)および9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(6)は、分子中に塩基性窒素原子を有しており、塩の形態であってもよい。
当該塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硫酸、過塩素酸、硝酸等の無機酸または、例えばギ酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、安息香酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸等の酸付加塩が挙げられる。
【0052】
以下、本発明を工程ごとに詳述する。
工程(a)
6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)またはその塩に、塩基試薬の存在下、ハロゲン化トリフェニルメチル(2)を反応させると、6’位の水酸基が選択的にトリフェニルメチル化され、6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩が得られる。
【0053】
出発原料である式(1)の6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドは、Tetrahedron,62,381(2006)に記載の方法あるいは後述する参考例に順じて容易に得ることができる。なお、Rで示される置換基としては、水素原子、エチル基、またはビニル基が挙げられる。
【0054】
式(2)のハロゲン化トリフェニルメチルにおいてXで示されるハロゲン原子としては、塩素原子または臭素原子が好ましい。また、その使用量は6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)またはその塩に対して1当量以上であり、好ましくは1〜1.2当量である。
【0055】
本工程は無水系で一般的な有機溶剤(例えば、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒)中、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ルチジン、コリジン等の3級アミン存在下で行う方法も考えられるが、化合物(1)の溶解性を考慮すると、水と非水溶性有機溶剤からなる液−液二相系溶媒中、塩基試薬の存在下で行う方法の方が望ましい。
【0056】
使用できる非水溶性有機溶剤としては、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル等のエーテル系溶剤;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤;ならびにこれらの混合溶剤が挙げられ、好ましくはトルエンである。
【0057】
使用できる塩基試薬としては、無機塩基が好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩などが挙げられ、好ましくはアルカリ金属の水酸化物である。その使用量は6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)またはその塩に対して1当量以上であり、好ましくは3〜6当量である。
【0058】
この液−液二相系溶媒中での反応は無触媒でも進行するが、相間移動触媒を添加すると反応が促進される。使用できる相間移動触媒としては、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、N−ベンジルキニウムクロリド等の4級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド等の4級ホスホニウム塩;12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6等のクラウンエーテルが挙げられ、好ましくは4級アンモニウム塩である。その添加量は6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)またはその塩に対して0.01当量以上であり、好ましくは0.01〜0.1当量である。
【0059】
反応温度は0℃〜溶媒の還流温度の範囲でよいが、位置選択性を考慮すると低温の方が望ましい。ただし、低温になるにつれて反応液中に固形物が増えて撹拌しづらくなり反応効率が低下するので注意が必要である。好ましくは20〜50℃であり、この範囲の温度下において反応の位置選択性はほぼ独占的である。
【0060】
反応終了後、反応液を冷却して得られる懸濁液をろ過することで、6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)を固体として収率よく回収することができる。なお、この簡便な操作のみで高純度な目的物を得ることができる。
【0061】
工程(a)で得られる6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩は、新規化合物であり、9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(6)またはその塩の合成中間体として有用である。
また、6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)は、結晶として取り扱いが容易で、9位水酸基やその他の部分を種々修飾後に、緩和な酸性条件下で6’−トリフェニルメチル基を容易に脱保護でき、その後必要に応じて、6’位水酸基を種々修飾することができるので、不斉触媒として有用な各種シンコナアルカロイド誘導体の合成中間体として汎用性が高い。
【0062】
工程(b)
工程(a)で得られる6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩に、溶媒中、塩基試薬の存在下、ハロゲン化アラルキル(4)を反応させると9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(5)またはその塩が得られる。
【0063】
式(2)のハロゲン化アラルキルにおいてXで示されるハロゲン原子としては、塩素原子または臭素原子が好ましい。
また、Rで示される「置換もしくは無置換のアリール基」の「アリール基」としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラシル基、フェナントレニル基等の炭素数6〜14個のアリール基が挙げられ、ナフチル基、アントラシル基等が好ましい。当該アリール基の置換基としては、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アルキル基(例、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基)、アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルコキシ基)等が挙げられる。置換基の数は特に限定されないが、1〜4個が好ましく、2以上ある場合は、同一でも異なっていてもよい。
としては、具体的には、フェニル、2−クロロフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、2−ブロモフェニル、3−ブロモフェニル、4−ブロモフェニル、4−メチルフェニル、2,4,5−トリメチルフェニル、2,3,5,6−テトラメチルフェニル、4−イソプロピルフェニル、4−ビフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、9−アントラシルなどの置換もしくは無置換のアリール基が挙げられる。
ハロゲン化アラルキル(4)の使用量は6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩に対して1当量以上であり、好ましくは1〜1.5当量である。
【0064】
使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグリム、トリグリム等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒;ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒ならびにこれらの混合溶媒が挙げられ、非プロトン性極性溶媒と炭化水素系溶媒の混合溶媒が溶解性または攪拌性の観点から好ましく、より好ましくはジメチルスルホキシドとトルエンの混合溶媒である。
【0065】
使用できる塩基試薬としては、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属の水素化物、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシドが挙げられ、好ましくはアルカリ金属アルコキシドであり、より好ましくはナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシドである。その使用量は6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)に対して1当量以上であり、好ましくは1〜2当量である。
【0066】
反応温度は0℃〜溶媒の還流温度の範囲でよいが、低温下で行う方が、副生成物が少なく、収率は高い。好ましくは0〜25℃である。
【0067】
反応終了後、反応液に水を加えてクエンチし、分離した有機層を回収してそのまま次の工程に使用することができる。また、有機層中の溶媒を減圧下留去し、残さを蒸留、再結晶、あるいはシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの精製処理を施すことにより高純度の9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(5)またはその塩を得ることもできる。
【0068】
工程(c)
工程(b)で得られる9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(5)またはその塩に、溶媒中、酸試薬を作用させると9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(6)またはその塩が得られる。
【0069】
使用できる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグリム、トリグリム等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒;ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒ならびにこれらの混合溶媒が挙げられ、好ましくはアルコール系溶媒と炭化水素系溶媒の混合溶媒であり、より好ましくはメタノールとトルエンの混合溶媒である。
【0070】
使用できる酸試薬としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸、ギ酸ならびにこれらの水溶液が挙げられ、好ましくは塩酸水溶液である。酸試薬は反応液のpHが1以上、4以下の値を示すまで添加する。pH1以下となると9位のアラルキル基の開裂も懸念されるため、反応液のpHは1以上、4以下であることが好ましい。特に好ましくは1以上、2以下である。
【0071】
反応温度は0〜40℃の範囲であるが、低温下で行う方が副生成物が少なく収率は高い。好ましくは0〜25℃である。
【0072】
反応終了後、中和処理、抽出、水洗による分液操作、過剰の溶媒の減圧下留去、そして、結晶化やシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの精製処理を施すことにより、9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(6)またはその塩を得ることができる。
【0073】
本発明において、出発原料として光学活性な6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)またはその塩を用いると、光学活性な9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(6)またはその塩が得られる。この場合、各工程において反応中の顕著なラセミ化は起こらず、中間体としての6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩も光学活性体として得られる。
【実施例】
【0074】
以下、参考例、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのこれら参考例、実施例に限定されるものではない。
参考例1
(8R,9S)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9,6’−ジオール二臭化水素酸塩の製造
【0075】
【化16】

【0076】
1Lの丸底フラスコに47%臭素酸水(400mL)を仕込み、続いて室温下、ジヒドロキニジン塩酸塩(100g,0.276mol)を少量ずつ加えた後、混合物を120℃下で13時間撹拌した。得られた懸濁液を75℃に冷却後、2−プロパノール(300mL)を加え、続いて25℃に冷却後、さらに同温度下で1時間撹拌した。固形物を減圧ろ過にて回収し、2−プロパノール(50mL)にて洗浄後、減圧下で乾燥して、標題の(8R,9S)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9,6’−ジオール二臭化水素酸塩を白色固体として得た(125g,収率96%)。
HNMR(270MHz,CDCl+DMSO−d)δ0.95(3H,t,J=7.6Hz),1.15(1H,m),1.61(2H,m),1.80−1.98(4H,m),2.29(1H,m),3.26−3.63(4H,m),3.87(1H,m),6.36(1H,s),6.88(1H,bs),7.79(1H,dd,J=9.2,2.3Hz),7.89(1H,d,J=2.3Hz),8.17(1H,d,J=5.6Hz),8.31(1H,d,J=9.2Hz),9.12(1H,d,J=5.6Hz),10.49(1H,s),10.90(1H,bs).
13CNMR(67.8MHz,CDCl+DMSO−d)δ9.94,16.02,21.71,22.48,23.12,32.90,47.49,48.33,57.46,65.35,104.31,117.78,121.41,125.25,125.78,130.67,138.19,153.67,157.36.
【0077】
参考例2
(8S,9R)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9,6’−ジオール二臭化水素酸塩の製造
【0078】
【化17】

【0079】
1Lの丸底フラスコに47%臭素酸水(200mL)を仕込み、続いて室温下、ジヒドロキニン(50.0g,0.153mol)を少量ずつ加えた後、混合物を120℃下で11時間撹拌した。得られた懸濁液を75℃に冷却後、2−プロパノール(150mL)を加え、続いて25℃に冷却後、さらに同温度下で1時間撹拌した。固形物を減圧ろ過にて回収し、2−プロパノール(50mL)にて洗浄後、減圧下で乾燥して標題の(8S,9R)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9,6’−ジオール二臭化水素酸塩を白色固体として得た(72.2g,収率99%)。
HNMR(270MHz,CDCl+DMSO−d)δ0.84(3H,t,J=7.3Hz),1.23−1.51(3H,m),1.82−1.99(2H,m),2.10−2.23(3H,m),3.04(1H,dd,J=12.5,4.9Hz),3.27(1H,ddd,J=11.9,11.9,5.6Hz),3.59(2H,m),4.30(1H,m),6.41(1H,s),6.78(1H,d,J=4.0Hz),7.79(1H,dd,J=9.2,2.3Hz),8.08(1H,d,J=2.3Hz),8.21(1H,d,J=5.6Hz),8.39(1H,d,J=9.2Hz),9.00(1H,d,J=5.6Hz),10.65(1H,bs),10.81(1H,s).
13CNMR(67.8MHz,CDCl+DMSO−d)δ10.46,17.00,23.19,23.40,25.41,33.94,42.97,55.40,58.40,65.69,105.16,118.39,121.74,126.05,126.51,131.08,137.82,154.69,158.22.
【0080】
実施例1
(8R,9S)−6’−トリフェニルメチルオキシ−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9−オールの製造
【0081】
【化18】

【0082】
1Lの丸底フラスコに48%水酸化ナトリウム水(105g,1.27mol)、イオン交換水(420mL)、トルエン(420mL)およびテトラブチルアンモニウムブロミド(4.08g,12.7mmol)を仕込み、続いて25℃下、参考例1で調製した(8R,9S)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9,6’−ジオール二臭化水素酸塩(120g,0.253mol)を少量ずつ加えた。同温度下で固形物がほとんど溶解するまで撹拌した後、トリチルクロライド(84.7g,0.304mol)を少量ずつ加え、25℃下で27時間撹拌した。得られた懸濁液を0℃に冷却後さらに同温度下で1時間撹拌した。固形物を減圧ろ過にて回収し、イオン交換水(360mL)にて洗浄後、減圧下で乾燥して標題の(8R,9S)−6’−トリフェニルメチルオキシ−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9−オールを白色固体として得た(140g,収率99%)。
M.p.78−84℃.
[α]20=+121.8°(c1,MeOH).
HNMR(270MHz,CDCl)δ0.80(3H,t,J=7.3Hz),1.06(1H,m),1.14−1.53(6H,m),1.86(1H,bs),2.40−2.89(6H,m),4.87(1H,d,J=7.3Hz),7.10(1H,d,J=2.6Hz),7.16−7.31(11H,m),7.48−7.52(6H,m),7.80(1H,d,J=9.2Hz),8.55(1H,d,J=4.3Hz).
13CNMR(67.8MHz,CDCl)δ12.10,23.12,25.21,26.15,27.21,37.46,49.92,50.88,59.42,72.03,90.64,111.44,118.84,124.78,126.09,127.23,127.76,128.74,130.57,143.56,144.15,147.16,147.78,153.87.
【0083】
実施例2
(8R,9S)−9−(9−アントラセニルメチルオキシ)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−6’−オールの製造
【0084】
【化19】

【0085】
1Lの丸底フラスコにジメチルスルホキシド(270mL)およびトルエン(270mL)を仕込み、続いて室温下、カリウムtert−ブトキシド(27.3g,0.243mol)および(8R,9S)−6’−トリフェニルメチルオキシ−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9−オール(90.0g,0.162mol)を順次、少量ずつ加えた。同温度下で固形物がほとんど溶解するまで撹拌した後、窒素ガス雰囲気下0℃に冷却し、9−(クロロメチル)アントラセン(40.5g,0.178mol)を少量ずつ加え、同温度下で4時間撹拌した。イオン交換水(270mL)加えて室温にもどした後、反応混合物を1L分液ロートに移して水層を除去、トルエン層を水洗した(270mL×2)。
1Lの丸底フラスコに上記のトルエン層とメタノール(270mL)を仕込み、続いて25℃下、35%塩酸水(33.8g,0.324mol)を滴下して加え、同温度下で3時間撹拌した(反応液のpH:1.0〜2.0)。イオン交換水(180mL)加えた後、反応混合物を1L分液ロートに移してトルエン層を除去、水層をトルエンにて洗浄した(270mL×2)。
1Lの丸底フラスコに上記の水層とトルエン(270mL)を仕込み、続いて40℃下、48%水酸化ナトリウム水(27.0g,0.324mol)を加えた。反応液のpHが7.0〜8.0であることを確認後、撹拌を止めて水層を除去、40℃下でトルエン層を水洗した(180mL)。撹拌下、トルエン層にイオン交換水(180mL)を加え25℃に冷却し、種結晶を添加後さらに同温度下で1時間撹拌して晶出させた。続いて得られた懸濁液を0℃に冷却後さらに同温度下で1時間撹拌した。固形物を減圧ろ過にて回収し、ヘプタン(180mL)にて洗浄後、減圧下で乾燥して標題の(8R,9S)−9−(9−アントラセニルメチルオキシ)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−6’−オールを淡黄色粉末として得た(65.6g,収率81%)。
M.p.124−126℃.
[α]20=+229.4°(c1,DMF).
HNMR(270MHz,CDCl)δ0.18(3H,bs),0.73−1.47(7H,m),2.03(1H,bs),2.62−2.92(4H,m),3.25(1H,bs),5.29(2H,s),6.01(1H,bs),7.15−7.59(7H,m),7.93−8.22(5H,m),8.41(1H,s),8.76(1H,bs),10.54(1H,bs).
13CNMR(67.8MHz,CDCl)δ11.21,21.52,24.63,26.29,36.61,49.66,50.52,59.17,63.77,77.20,78.60,106.54,118.18,123.63,124.43,124.78,125.16,125.96,127.93,128.09,128.21,128.35,128.76,128.89,130.66,131.23,131.40,143.66,146.23,157.52.
【0086】
実施例3
(8R,9S)−9−(1−ナフチルメチルオキシ)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−6’−オールの製造
【0087】
【化20】

【0088】
100mLの丸底フラスコにジメチルスルホキシド(27mL)およびトルエン(27mL)を仕込み、続いて室温下、ナトリウムtert−ブトキシド(2.41g,24.3mmol)および(8R,9S)−6’−トリフェニルメチルオキシ−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9−オール(9.00g,16.2mmol)を順次、少量ずつ加えた。同温度下で固形物がほとんど溶解するまで撹拌した後、窒素ガス雰囲気下0℃に冷却し、1−(クロロメチル)ナフタレン(2.91mL,19.5mmol)を少量ずつ加え、0〜25℃下で7時間撹拌した。イオン交換水(27mL)加えた後、反応混合物を150mL分液ロートに移して水層を除去、トルエン層を水洗した(27mL×2)。
100mLの丸底フラスコに上記のトルエン層とメタノール(27mL)を仕込み、続いて25℃下、37.5%塩酸水(3.16g,32.5mmol)を滴下して加え、同温度下で12時間撹拌した(反応液のpH:1.0〜2.0)。イオン交換水(18mL)加えた後、反応混合物を150mL分液ロートに移してトルエン層を除去、水層をトルエンにて洗浄した(27mL×2)。
100mLの丸底フラスコに上記の水層とトルエン(27mL)を仕込み、続いて40℃下、50%水酸化ナトリウム水(2.60,32.5mmol)を加えた。反応液のpHが7.0〜8.0であることを確認後、反応混合物を150mL分液ロートに移して水層を除去、トルエン層を水洗(18mL×2)、トルエン層を減圧下濃縮し、続いて得られた橙色の油状残渣をトルエン(15mL)に溶解した。
100mLの丸底フラスコにヘプタン(60mL)を仕込み、続いて25℃下、上記の粗生成物のトルエン溶液を2時間かけて滴下して加えた。得られた懸濁液をさらに同温度下で1時間撹拌後、減圧ろ過にて固形物を回収し、ヘプタン(15mL)にて洗浄後、40℃/減圧下で乾燥して標題の(8R,9S)−9−(1−ナフチルメチルオキシ)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−6’−オールを淡黄色粉末として得た(6.53g,収率89%)。
HNMR(400MHz,CDCl)δ0.62(3H,t,J=6.8Hz),1.10−1.41(6H,m),1.65(1H,bs),2.22(1H,bs),2.76−3.05(4H,m),3.30(1H,bs),4.79(2H,s),5.77(1H,bs),7.35−7.47(6H,m),7.76−8.02(5H,m),8.65(1H,s),8.97(1H,bs).
13CNMR(100MHz,CDCl)δ11.59,24.88,26.12,36.73,49.67,50.39,59.09,69.38,106.58,123.74,125.16,125.20,125.75,125.97,126.17,127.82,128.50,131.17,131.56,133.53,143.10,143.73,146.45,157.56.
【0089】
実施例4
(8S,9R)−6’−トリフェニルメチルオキシ−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9−オールの製造
【0090】
【化21】

【0091】
1Lの丸底フラスコに48%水酸化ナトリウム水(61.5g,0.738mol)、イオン交換水(245mL)、トルエン(245mL)およびテトラブチルアンモニウムブロミド(2.38g,7.38mmol)を仕込み、続いて25℃下、参考例2で調製した(8S,9R)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9,6’−ジオール二臭化水素酸塩(70.0g,0.148mol)を少量ずつ加えた。同温度下で固形物がほとんど溶解するまで撹拌した後、トリチルクロライド(49.4g,0.177mol)を少量ずつ加え、25℃下で5時間撹拌した。ヘプタン(140mL)を加え、得られた懸濁液を0℃に冷却後さらに同温度下で1時間撹拌した。固形物を減圧ろ過にて回収し、イオン交換水(210mL)にて洗浄後、減圧下で乾燥して標題の(8S,9R)−6’−トリフェニルメチルオキシ−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9−オールを白色固体として得た(71.1g,収率87%)。
M.p.114−118℃.
[α]20=−69.0°(c1,MeOH).
HNMR(270MHz,CDCl)δ0.85(3H,t,J=7.6Hz),1.21−1.54(7H,m),1.85(1H,bs),2.14(1H,m),2.41(1H,m),2.70(1H,bs),2.89(3H,m),4.86(1H,d,J=6.6Hz),7.11−7.30(12H,m),7.48−7.52(6H,m),7.78(1H,d,J=9.2Hz),8.53(1H,d,J=4.3Hz).
13CNMR(67.8MHz,CDCl)δ12.33,23.69,25.50,27.72,28.52,37.58,42.78,58.33,59.57,72.10,90.70,111.12,118.53,124.79,126.13,127.24,127.76,127.82,128.75,130.53,143.56,144.12,147.24,147.85,154.07.
【0092】
実施例5
(8S,9R)−9−(9−アントラセニルメチルオキシ)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−6’−オールの製造
【0093】
【化22】

【0094】
1Lの丸底フラスコにジメチルスルホキシド(210mL)およびトルエン(210mL)を仕込み、続いて室温下、カリウムtert−ブトキシド(21.2g,0.189mol)および(8S,9R)−6’−トリフェニルメチルオキシ−10,11−ジヒドロ−シンコナン−9−オール(70.0g,0.189mol)を順次、少量ずつ加えた。同温度下で固形物がほとんど溶解するまで撹拌した後、窒素ガス雰囲気下0℃に冷却し、9−(クロロメチル)アントラセン(31.5g,0.139mol)を少量ずつ加え、同温度下で3時間撹拌した。イオン交換水(210mL)加えて室温にもどした後、反応混合物を1L分液ロートに移して水層を除去、トルエン層を水洗した(210mL×2)。
1Lの丸底フラスコに上記のトルエン層とメタノール(210mL)を仕込み、続いて25℃下、35%塩酸水(26.3g,0.252mol)を滴下して加え、同温度下で3時間撹拌した(反応液のpH:1.0〜2.0)。イオン交換水(140mL)加えた後、反応混合物を1L分液ロートに移してトルエン層を除去、水層をトルエンにて洗浄した(210mL×2)。
1Lの丸底フラスコに上記の水層とトルエン(210mL)を仕込み、続いて40℃下、48%水酸化ナトリウム水(21.0g,0.252mol)を加えた。反応液のpHが7.0〜8.0であることを確認後、種結晶を添加して晶出させた。40℃下で1時間撹拌した後、得られた懸濁液を0℃に冷却後さらに同温度下で1時間撹拌した。固形物を減圧ろ過にて回収し、ヘプタン(140mL)にて洗浄後、減圧下で乾燥して標題の(8S,9R)−9−(9−アントラセニルメチルオキシ)−10,11−ジヒドロ−シンコナン−6’−オールを淡黄色粉末として得た(47.8g,収率75%)。
M.p.235℃(dec.).
[α]20=−207.4°(c1,DMF).
HNMR(270MHz,CDCl+AcOH−d4)δ0.76(3H,t,J=7.3Hz),1.11−1.39(3H,m),1.54(1H,bs),1.64−2.07(4H,m),2.94−3.13(2H,m),3.38−3.52(2H,m),3.94(1H,m),5.55(2H,q,J=11.2Hz),6.30(1H,s),7.46−7.57(6H,m),7.68(1H,d,J=4.9Hz),8.02(2H,d,J=9.2Hz),8.17(1H,d,J=9.2Hz),8.25(2H,d,J=8.9Hz),8.48(1H,s),8.80(1H,d,J=4.9Hz).
13CNMR(67.8MHz,CDCl+AcOH−d4)δ11.46,18.81,24.29,24.60,26.88,35.44,43.73,56.13,63.78,74.96,103.58,118.78,123.61,123.67,124.98,126.54,126.60,126.99,129.02,129.10,129.57,130.80,131.15,141.48,142.32,144.51,156.76.
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明により得られる9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(6)は、α,β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉1,4−付加反応の触媒として有用である。また、6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)は、不斉触媒として有用なシンコナアルカロイド誘導体の汎用性が高い中間体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(b)および(c)を含むことを特徴とする、下記式(6)
【化1】


(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を意味し、Rは置換もしくは無置換のアリール基を意味する。)で表される9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩の製造法;
(b)下記式(3)
【化2】


(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を、塩基試薬の存在下、下記式(4)
【化3】


(式中、Xはハロゲン原子を意味し、Rは前掲と同じものを意味する。)で表されるハロゲン化アラルキルと反応させて、下記式(5)
【化4】


(式中、RおよびRは前掲と同じものを意味する。)で表される9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程;および
(c)式(5)で表される9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を、酸試薬と反応させて、式(6)で表される9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程。
【請求項2】
工程(b)において、塩基試薬がアルカリ金属アルコキシドであることを特徴とする請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
工程(b)を、非プロトン性極性溶媒と炭化水素系溶媒の混合溶媒中で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
工程(c)において、酸試薬が塩酸水であり、反応液のpHが1以上2以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
出発原料として、光学活性な6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩を使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
下記工程(a)ないし(c)を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の、下記式(6)
【化5】


(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を意味し、Rは置換もしくは無置換のアリール基を意味する。)で表される9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩の製造法;
(a)下記式(1)
【化6】


(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)で表される6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩に、塩基試薬の存在下、下記式(2)
【化7】


(式中、Xはハロゲン原子を意味する。)で表されるハロゲン化トリフェニルメチルを反応させて、下記式(3)
【化8】


(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程;
(b)式(3)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を、塩基試薬の存在下、下記式(4)
【化9】


(式中、Xはハロゲン原子を意味し、Rは前掲と同じものを意味する。)で表されるハロゲン化アラルキルと反応させて、下記式(5)
【化10】


(式中、RおよびRは前掲と同じものを意味する。)で表される9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程;および
(c)式(5)で表される9−アラルキルオキシ−6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を、酸試薬と反応させて、式(6)で表される9−アラルキルオキシ−6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程。
【請求項7】
工程(a)を、水と非水溶性有機溶剤からなる液−液二相系溶媒中、相間移動触媒の存在下で行うことを特徴とする請求項6に記載の製造法。
【請求項8】
工程(a)において、塩基試薬がアルカリ金属の水酸化物であり、相間移動触媒が4級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項7に記載の製造法。
【請求項9】
出発原料として、光学活性な6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)を使用することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の製造法。
【請求項10】
下記式(3)
【化11】


(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を意味する)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩。
【請求項11】
光学活性体である、請求項10に記載の6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩。
【請求項12】
下記式(1)
【化12】


(式中、Rは水素原子、エチル基、あるいはビニル基を意味する。)で表される6’−ヒドロキシシンコナアルカロイドまたはその塩に、塩基試薬の存在下、下記式(2)
【化13】


(式中、Xはハロゲン原子を意味する。)で表されるハロゲン化トリフェニルメチルを反応させることを特徴とする、下記式(3)
【化14】


(式中、Rは前掲と同じものを意味する。)で表される6’−トリフェニルメチルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩の製造法。
【請求項13】
水と非水溶性有機溶剤からなる液−液二相系溶媒中、相間移動触媒の存在下で行うことを特徴とする請求項12に記載の製造法。
【請求項14】
塩基試薬がアルカリ金属の水酸化物であり、相間移動触媒が4級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項13に記載の製造法。
【請求項15】
出発原料として、光学活性な6’−ヒドロキシシンコナアルカロイド(1)を使用することを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の製造法。

【公開番号】特開2010−168307(P2010−168307A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12285(P2009−12285)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】