説明

9−シスレチノイン酸の調製方法

15−トリフェニルホスホニウム塩を用いて3−メチル−4−オキソクロトン酸のアルカリ金属塩を変換することを特徴とする、9−(Z)−レチノイン酸の産業上利用可能な新規調製方法が記述されている。9−(Z)−レチノイン酸は、多くの皮膚科学的疾患の治療について用途が広い化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9−(Z)−レチノイン酸(9−(Z)−RA)の産業上利用可能な新規調製方法に関する。
【0002】
9−(Z)−RAは、例えばWO99/09969に開示されているように、非常に多くの皮膚科学的疾患の処置に有用であるといわれている、用途が広い化合物である。
【0003】
EP−A−0659739には、9−(Z)−RAの調製方法が開示されており、該調製方法は、塩基の存在下におけるアルキルβ−ホルミルクロトネートとC15−トリアリールホスホニウム塩のウィッティッヒ反応、及び、それに続く、形成されたレチノイン酸エステルの塩基による鹸化を特徴とする。
【0004】
この調製方法は、レチノイン酸エステルを鹸化するための溶媒の交換を伴う2つの工程を必要とするという不利点を有する。鹸化には非常に激しい温度条件が必要とされるので、好ましくない異性体の著しい形成も観察された。
【0005】
従って、本発明の目的は、当技術分野で既知の調製方法で知られている不利点を有さない9−(Z)−RAの改善された代替的な調製方法を見いだすことであった。
【0006】
上記目的は、式:
【0007】
【化3】

【0008】
[式中、Mは、ナトリウム又はカリウムを表す]
で表される3−メチル−4−オキソクロトン酸のアルカリ金属塩を塩基の存在下で式:
【0009】
【化4】

【0010】
[式中、Phはフェニルを表し、Xはハロゲンを表す]
で表されるC15−トリフェニルホスホニウム塩の(Z)−異性体と反応させることを特徴とする本発明の調製方法により達成された。
【0011】
好ましい実施形態では、メチル−4−オキソクロトン酸の上記アルカリ金属塩は、アルキル−3−メチル−4−オキソクロトネートからインシチュで調製し(ここで、アルキル−3−メチル−4−オキソクロトネートは水酸化アルカリの存在下で加水分解される)、単離することなく次の反応工程で使用する。
【0012】
しかしながら、メチル−4−オキソクロトン酸の上記アルカリ金属塩は、もちろん、単離してから式(II)で表されるC15−トリフェニルホスホニウム塩の(Z)−異性体との反応に用いることも可能である。
【0013】
最も好ましくは、水酸化カリウムを用いた加水分解により、エチル−3−メチル−4−オキソクロトネートからメチル−4−オキソクロトン酸のカリウム塩を調製する。
【0014】
上記加水分解は、低級アルコールの存在下で行うのが好ましく、−10℃〜10℃(理想的には、0℃〜5℃)の温度でエタノール中で行うのが最も好ましいことが見いだされた。好ましい水酸化カリウムは、水溶液(例えば、50%水溶液)の形態で用いるのが都合がよい。
【0015】
15−トリフェニルホスホニウム塩の(Z)−異性体は、β−カロテンの調製において得られる母液中で、(E)−異性体との異性体混合物の形態で生じる(Rueggら, Helv.44, 985(1961))。
【0016】
この母液は、一般に、(Z)−異性体と(E)−異性体の両方をさまざまな割合で含み得るが、通常は、約2:1の割合で含んでいる。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、C15−トリフェニルホスホニウム塩の(Z)−異性体は、上記母液から、以下の工程に従って単離することができる:
(a)塩化メチレンで母液濃厚物を抽出する工程、
(b)有機相を酢酸エチル/n−ブタノールに入れる工程、
(c)酢酸エチル/塩化メチレンを留去する工程、
(d)留去された量を酢酸エチルで補う工程、
(e)(Z)−異性体を結晶化させる工程、及び
(f)濾過及び乾燥させる工程。
【0018】
工程(b)では、酢酸エチル中のn−ブタノールの含有量を3%〜10%(好ましくは、3%〜5%)の範囲で選択するのが有利であるということが分かった。
【0019】
9−(Z)−異性体の結晶種を入れて結晶化を開始させることが必要な場合もあり得る。
【0020】
式(II)で表される好ましいC15−トリフェニルホスホニウム塩は、クロリド塩である。
【0021】
その後に続く9−(Z)−RAへの変換に対して、該(Z)−異性体をアルコール溶液の形態(最も好ましくは、エタノール溶液の形態)で送達するのが有利である。
【0022】
上記調製方法は、−15℃〜15℃の温度で実施するのが都合が良く、好ましくは、0℃〜5℃の温度で実施する。この範囲外の温度では、反応速度が低下するか、又は、副産物の形成が増加する。
【0023】
有利には、該反応は、低級アルコール(好ましくは、エタノール)の存在下で行う。
【0024】
9−(Z)−RAへの変換に適する塩基は、水酸化アルカリである。水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを使用するのが好ましく、水溶液(例えば、50%水溶液)の形態にある水酸化カリウムを使用するのが最も好ましい。
【0025】
反応混合物の後処理は、以下の工程に従って行うことができる:
(a)有機溶媒、好ましくは塩化メチレンで抽出する工程、
(b)適切な鉱酸、例えばリン酸を用いて水相のpHを約3〜4にする工程、
(c)塩化メチレンで抽出する工程、
(d)塩化メチレンを留去し、好ましくは同時に連続的にメタノールを導入することにより、溶媒をメタノールに代える工程、
(e)前記混合物から結晶化している9−(Z)−RAを分離する工程。
【0026】
9−(Z)−RAは、低級アルコール(好ましくは、イソプロパノール)中で再結晶させることによりさらに精製することが可能である。
【0027】
反応物と生成物の感受性に関しては、上記反応工程を光及び酸素が概ね存在しない条件下で実施するのが極めて重要である。
【0028】
以下の実施例により本発明を例証するが、該実施例は本発明を限定するものではない。
【0029】
実施例
実施例1
(a)9−(Z)−C15−トリフェニルホスホニウムクロリドの単離
9−(Z)−C15−トリフェニルホスホニウムクロリドと9−(E)−C15−トリフェニルホスホニウムクロリドの異性体混合物を含有する油性濃厚物(200.0g)(E含有量 18%,Z含有量 36%)を、アルゴン雰囲気下、20〜25℃で、塩化メチレン(400mL)と混合した。水相を分離し、次いで、15〜25℃で、5〜10分間かけて酢酸エチル(1000mL)を添加した。得られた透明な橙色−褐色の溶液に、n−ブタノール(35mL)を添加した。28〜33℃/180〜200mbarで、酢酸エチル及び塩化メチレンを留去した。留去された量を、酢酸エチル(1600mL)で補った。30〜35℃で、9−(Z)−C15−トリフェニルホスホニウムクロリドの懸濁液(0.2mL)を用いて、9−(Z)−C15−トリフェニルホスホニウムクロリドの結晶化を開始させた。次いで、この懸濁液を、30〜35℃でさらに2〜3時間撹拌した。次いで、結晶を濾過し、酢酸エチル(400mL)で洗浄した後、40℃/25mbarの減圧下で乾燥させた。白色の結晶形態にある62.06g(油性濃厚物に基づいて31.0%)の9−(Z)−C15−トリフェニルホスホニウムクロリド(含有量 93.6%Z−異性体(HPLC))を得た。
【0030】
(b)9−(Z)−レチノイン酸の調製
アルゴン雰囲気下、エチル−3−メチル−4−オキソクロトネート(40.4g,278.5mmol)をエタノール(80mL)中に入れた。次いで、水酸化カリウムの50%水溶液(30.6g,272.7mmol)を、反応温度が0〜5℃に維持されるように、20分間かけて注意深く添加した。得られた混合物を、次いで、該エステルがHPLCクロマトグラフ中で消失するまで同温度で撹拌した。次いで、9−(Z)−C15−トリフェニルホスホニウムクロリドのエタノール溶液(258.0g)(含有量 38.8%,199.5mmol)を20分間かけて注意深く添加した。この添加の間、反応温度は、0〜5℃に維持した。次いで、水酸化カリウムの50%水溶液(29.8g,265.6mmol)を、反応温度が0〜5℃に維持されるように、20分間かけて注意深く添加した。次いで、この混合物を、該ホスホニウム塩がHPLCクロマトグラフ中で消失するまで同温度で撹拌した。形成された橙色の懸濁液に脱イオン水(900mL)を添加した。それにより、透明な橙色の溶液が形成された。この混合物をさらに10分間撹拌し、次いで、脱イオン水(400mL)及び塩化メチレン(260mL)を添加し、さらに10分間撹拌した。有機相を分離し、次いで、水相を塩化メチレン(総容積540mL)で3回抽出した。有機相を分離した。水相を85%リン酸(21mL)でpH3.5〜4.0に調節し、アルゴン雰囲気下、20〜30℃で20分間撹拌した。次いで、水相を塩化メチレン(200mL)で抽出した。水相を塩化メチレン(総容積160mL)でさらに2回抽出した。有機相を合して濾過した。塩化メチレンを留去(開始時30℃/250mbar,終了時40℃/700mbar)すると同時にメタノール(800mL)を添加することにより、溶媒をメタノールに代えた。蒸留している間に、9−(Z)−レチノイン酸が晶出し始めた。次いで、得られた懸濁液を0〜5℃に冷却し、2時間撹拌した。この黄色−橙色の懸濁液を、濾過し、0〜5℃のメタノール(総量170mL)で洗浄し、得られた結晶を、40〜50℃/30mbarの減圧下で一晩乾燥させた。黄色の結晶形態にある10.6g(17.7%)の生成物(含有量98.5%)を得た。
【0031】
(c)9−(Z)−レチノイン酸の結晶化
アルゴン雰囲気下、9−(Z)−レチノイン酸(28.0g)を、約20℃で、イソプロパノール(1120mL)に入れた。得られた懸濁液を60〜70℃に加熱した。それにより、透明な黄色の溶液が形成された。0〜5℃に徐々に冷却することにより、結晶化した。次いで、その懸濁液を濾過し、冷イソプロパノールで洗浄した。得られた結晶を、40〜50℃/30mbarの減圧下で一晩乾燥させた。黄色の結晶形態にある24.4g(87.3%)の分析的に純粋な9−(Z)−レチノイン酸が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
9−(Z)−レチノイン酸を調製する方法であって、式:
【化1】


[式中、Mは、ナトリウム又はカリウムを表す]
で表される3−メチル−4−オキソクロトン酸のアルカリ金属塩を、塩基の存在下、式:
【化2】


[式中、Xは、ハロゲンを表す]
で表されるC15−トリフェニルホスホニウム塩の(Z)−異性体と反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
水酸化アルカリの存在下で加水分解されるアルキル−3−メチル−4−オキソクロトネートからメチル−4−オキソクロトン酸の前記アルカリ金属塩をインシチュで調製することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Mがカリウムを表すことを特徴とし、かつ、水酸化カリウムの存在下で加水分解されるエチル−3−メチル−4−オキソクロトネートからメチル−4−オキソクロトン酸のカリウム塩をインシチュで調製することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
式(II)のXが塩素を表すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
15−トリフェニルホスホニウム塩の前記(Z)−異性体を、β−カロテンの合成で使用した(E)−異性体と(Z)−異性体の異性体混合物を含有している母液から単離し、ここで、該単離が、
(a)塩化メチレンで母液濃厚物を抽出する工程;
(b)有機相を酢酸エチル/n−ブタノールに入れる工程;
(c)酢酸エチル/塩化メチレンを留去する工程;
(d)留去された量を酢酸エチルで補う工程;
(e)(Z)−異性体を結晶化させる工程;
(f)濾過及び乾燥させる工程;
を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
−15℃〜15℃の温度で反応を行わせることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
低級アルコールの存在下で反応を行わせることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記塩基が水酸化アルカリであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が水酸化カリウムであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
反応混合物の後処理を、
(a)塩化メチレンで抽出する工程;
(b)適切な鉱酸を用いて水相のpHを約3〜4にする工程;
(c)塩化メチレンで抽出する工程;
(d)塩化メチレンを留去し、連続的にメタノールを導入することにより、溶媒をメタノールに代える工程;
(e)前記混合物から結晶化している9−(Z)−レチノイン酸を分離する工程;に従って行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の方法で調製した9−(Z)−レチノイン酸。
【請求項12】
本明細書に記載されている発明。

【公表番号】特表2006−522757(P2006−522757A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504958(P2006−504958)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003493
【国際公開番号】WO2004/089887
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】