ABA型トリブロック共重合体
【課題】側鎖に脂環式骨格を有するビニルエーテルを用いると共に、重合の態様を工夫することにより、ガラス転移温度が室温以上という物性以外の好ましい物性を有する共重合体の提供。
【解決手段】ABAトリブロック型共重合体は、
で表されることを特徴とする。このABA型トリブロック共重合体。
【解決手段】ABAトリブロック型共重合体は、
で表されることを特徴とする。このABA型トリブロック共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABA型トリブロック共重合体に関し、更に詳しくは、側鎖に脂環式骨格を有するポリビニルエーテルと、側鎖に脂肪族骨格を有するポリビニルエーテルとのABA型トリブロック共重合体に関するものである。該ABA型トリブロック共重合体は、例えば新規な熱可塑性エラストマーとして利用される。
【背景技術】
【0002】
重合性の官能基を有する化合物から誘導される重合体である熱可塑性樹脂、例えば、スチレン類、(メタ)アクリル酸エステル類、オレフィン類、ポリウレタン類、塩化ビニル類などから製造される熱可塑性樹脂は、各種成形品や接着剤、コーティング材など多岐に亘る用途に用いられており、中でもこれらから誘導されるゴム状弾性体(熱可塑性エラストマー)は、接着剤、構造部材、改質剤など様々に応用されている。
【0003】
一方で、同じく重合性の官能基を有するビニルエーテル類から誘導される重合体は、一般的にガラス転移温度が室温以下と低いため、用途が限られていた。
【0004】
本発明の発明者らは、ビニルエーテル類から誘導される各種重合体の開発の中で、脂環式骨格を有するビニルエーテルを用いることで、ガラス転移温度が室温以上のビニルエーテル共重合体が得られることを見出し、特にリビングカチオン重合により得られるブロック共重合体では、各セグメントに起因する2以上のガラス転移温度が見られることを明らかにしている(非特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】高分子学会予稿集54巻2号2497頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、脂環式骨格を有するビニルエーテルを用いると共に、重合の態様を工夫することにより、ガラス転移温度が室温以上という物性に加え、更に好ましい物性を有する共重合体を提供できる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記のような従来技術を背景として、鋭意研究の結果、脂環式骨格を有する8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンと、脂肪族骨格を有するn−ブチルビニルエーテルの、いわゆるABA型トリブロック共重合体において、これまでのビニルエーテル共重合体にはないゴム状弾性を有する熱可塑性エラストマーの性質が発現することを発見し、更に研究の結果、本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明は、式(1)
【化2】
(式中、n及びmはそれぞれ30〜1000の整数を表す。)
で表されるABA型トリブロック共重合体を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンと、n−ブチルビニルエーテルの、いわゆるABA型トリブロック共重合体が提供され、このABA型トリブロック共重合体は新規であると共に、常温でゴム状弾性を有し、これまでのビニルエーテル共重合体にはない熱可塑性エラストマーの性質を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のABA型トリブロック共重合体は、上記式(1)で表されるように、脂環式骨格を有するビニルエーテル(以下、モノマーAと略す。)と、脂肪族骨格を有するビニルエーテル(以下、モノマーBと略す。)とから誘導され、脂環式骨格と脂肪族骨格とを側鎖に有すると共に、ポリ(A)−ポリ(B)−ポリ(A)という構造を有する、いわゆるABA型トリブロック共重合体である。
【0011】
本発明のABA型トリブロック共重合体におけるモノマーAは、式
【化3】
で表される8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンであり、モノマーBは、式
【化4】
で表されるn−ブチルビニルエーテルである。
【0012】
上記式(1)のn及びmはそれぞれ30〜1000の整数を表しており、好ましくは、nが350〜1000、mが150〜1000である。nが350より小さい場合又はmが150より小さい場合、トリブロック共重合体は常温でのゴム状弾性を発現しない場合がある。
【0013】
上記本発明のビニルエーテル共重合体は、上記8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(モノマーA)と、n−ブチルビニルエーテル(モノマーB)とを、溶媒中で重合することにより製造することができる。
【0014】
本発明における上記重合の態様は、モノマー及び重合体を溶解する溶媒を用いたリビングカチオン重合が採用される。リビングカチオン重合は、重合度を容易に制御することが可能であり、分子量分布が狭い重合物を得る方法として有用である。特にブロック共重合体を製造する工程においては、まず第1のモノマーの重合を完結させた後、そこへ第2のモノマーを連続的に添加することで、ポリ(第1のモノマー)の末端からポリ(第2のモノマー)を伸長させ、各セグメントの長さを任意に制御することが可能であり、one−potでブロック共重合体を得ることができる技術として有効である。リビングカチオン重合により得られたブロック共重合体は、分子量分布が狭いため、Mw/Mnが1に近い値となり、Mnは、重合度に応じて直線的に変化する特徴がある。
【0015】
上記リビングカチオン重合における溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶剤や塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。
【0016】
上記リビングカチオン重合における重合開始剤系としては、一般的なリビングカチオン重合に用いられるものを特に制限無く使用することができ、例えば、ヨウ素や遷移金属のハロゲン化物と、塩酸や酢酸及びそれらの付加体などとを組み合わせた酸性開始剤等を使用することができる。酸性開始剤の具体的な例としては、HI/I2系開始剤、塩酸/塩化亜鉛系開始剤、四塩化スズ、四臭化スズなどスズのハロゲン化物と、ビニルエーテルの酢酸付加物とを組み合わせた開始剤等が挙げられる。
【0017】
本発明のABA型トリブロック共重合体を製造するための上記リビングカチオン重合は、具体的にはまず8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(モノマーA)を溶媒中で所望の重合度まで反応させた後、n−ブチルビニルエーテル(モノマーB)を添加し、AB型ブロック共重合体を得る。次いで、更に前記モノマーAを添加して、ABA型トリブロック共重合体を得るものである。
【0018】
このようにして得られる本発明のABA型トリブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーとしての性質を有している。熱可塑性エラストマーは、一般的に末端(エンド)ブロック同士と中間(ミッド)ブロック同士が集合し、ミクロ相分離構造(海島構造)を形成していて、それぞれのセグメントの絡み合いを含む分子運動が緩和若しくは束縛される現象が、加熱若しくは冷却時に剛性率や弾性率の変化として観測される。一般的には常温付近では弾性率が温度により変化しないゴム状領域を有していることが特徴であり、高温にすると融解する熱可塑性樹脂の性質を併せ持っている。
【0019】
以下に実施例により本発明を詳細に説明する。尚、分子量及び分子量分布の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(溶離液:クロロホルム、標準ポリスチレン換算)により行った。
【0020】
実施例
(m=150、n=700のトリブロック共重合体の合成)
よく乾燥させ、窒素置換したガラス製フラスコに8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(以下、実施例及び比較例の記載ではTCDVEと略す)を乾燥トルエンに溶解した。攪拌しながらフラスコ内温を-30℃に保ち、塩酸のトルエン溶液と塩化亜鉛(ZnCl2)のジエチルエーテル溶液を滴下し、初濃度が[TCDVE]=0.3M、[HCl]=2.0mM、[ZnCl2]=0.5mMとなるように調製しTCDVEを重合させた。この反応液にn−ブチルビニルエーテル(以下、実施例及び比較例の記載ではNBVEと略す)を添加して共重合させた。このときのNBVEの初濃度[NBVE]は1.4Mとした。得られたブロック共重合体の数平均分子量Mnは15,200、分子量分布Mw/Mnは1.19と単分散に近い共重合体が得られた。
【0021】
更に反応液にTCDVEを添加しトリブロック共重合体を得た。このときの添加後のTCDVE濃度[TCDVE]addは0.3Mとした。完全にモノマーが消費されたところで、反応液から重合物をメタノールで沈殿させて回収した。回収したトリブロック共重合体の数平均分子量Mnは97,000、分子量分布Mw/Mnは1.12であった。
【0022】
(物性測定)
上記で得られたトリブロック共重合体の示差走査熱量分析(DSC)を行ったところ、-48℃と66℃に吸熱ピークが見られ、即ち、ブロック共重合特有の2つのガラス転移温度が観測された。
【0023】
(動的粘弾性測定)
Reometrics社製の動的粘弾性装置RSA-IIを用い、幅5mm、厚み0.6mmの膜状試験片を作成して、試験片の測定長22.4mmで動的粘弾性挙動を測定した(周波数1Hz)。その結果、貯蔵弾性率E’は-20℃から60℃付近で平坦部分が観測された。又、40℃付近にはtanδのピークが見られ、DSCで観測された低温側のガラス転移温度と相関している。
【0024】
(引っ張り特性試験)
東洋ボールドウィン社製の引張試験装置Tensilon UTM-III-100Sを用い、幅5mm、厚
み0.6mmの膜状試験片を作成して、試験片の測定長20mmで引っ張り試験を実施した(
引張速度10mm/min、25℃、湿度50%)。その結果、2.4MPの負荷に対して90%伸びという
塑性変形を示し、熱可塑性樹脂の脆さは解消され、エラストマーとして有用な性質が得られたことが確認できた。
【0025】
比較例1
{ランダム共重合体の合成(リビングカチオン重合)}
窒素置換後、十分に水分を除去したガラス製フラスコ内で、NBVE20mmolとTCDVE80mmol
をトルエンに溶解させた。次いでイソブチルビニルエーテルの酢酸付加物(以下、IBEAと略す。)のトルエン溶液と2,4−ジ−tert−ブチルピリジンのトルエン溶液を加え、0℃まで冷却し、四臭化すず(SnBr4)のトルエン溶液を加えて重合を開始した。5時間後、反応液を水洗し、トルエンを濃縮した後、メタノールで重合体を析出させた。得られた数平均分子量Mnは85,000、分子量分布Mw/Mnは1.39、DSCで観測したガラス転移温度は71℃であった。この重合物ではゴム状弾性は発現しなかった。
【0026】
比較例2
(ジブロック共重合体の合成)
窒素置換後、十分に水分を除去したガラス製フラスコ内で、NBVE60mmolをトルエンに溶解させた。次いでIBEAのトルエン溶液と2,4−ジ−tert−ブチルピリジンのトルエン溶液を加え、0℃まで冷却し、四臭化すず(SnBr4)のトルエン溶液を加えて重合を開始し
た。5時間後、予めトルエンに溶解しておいたTCDVEをNBVEと当モル量添加し、更に5時
間反応を継続した。反応液を水洗し、トルエンを濃縮後、メタノールでブロック共重合体を析出させた。GPCから数平均分子量Mnは26,600、分子量分布Mw/Mnは1.15であり、DSCの
測定から−52℃と77℃にガラス転移温度を有する共重合体が得られた。このジブロック共重合体では機械的物性を測定できるような成形体が得られず、またゴム状弾性も発現しなかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABA型トリブロック共重合体に関し、更に詳しくは、側鎖に脂環式骨格を有するポリビニルエーテルと、側鎖に脂肪族骨格を有するポリビニルエーテルとのABA型トリブロック共重合体に関するものである。該ABA型トリブロック共重合体は、例えば新規な熱可塑性エラストマーとして利用される。
【背景技術】
【0002】
重合性の官能基を有する化合物から誘導される重合体である熱可塑性樹脂、例えば、スチレン類、(メタ)アクリル酸エステル類、オレフィン類、ポリウレタン類、塩化ビニル類などから製造される熱可塑性樹脂は、各種成形品や接着剤、コーティング材など多岐に亘る用途に用いられており、中でもこれらから誘導されるゴム状弾性体(熱可塑性エラストマー)は、接着剤、構造部材、改質剤など様々に応用されている。
【0003】
一方で、同じく重合性の官能基を有するビニルエーテル類から誘導される重合体は、一般的にガラス転移温度が室温以下と低いため、用途が限られていた。
【0004】
本発明の発明者らは、ビニルエーテル類から誘導される各種重合体の開発の中で、脂環式骨格を有するビニルエーテルを用いることで、ガラス転移温度が室温以上のビニルエーテル共重合体が得られることを見出し、特にリビングカチオン重合により得られるブロック共重合体では、各セグメントに起因する2以上のガラス転移温度が見られることを明らかにしている(非特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】高分子学会予稿集54巻2号2497頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、脂環式骨格を有するビニルエーテルを用いると共に、重合の態様を工夫することにより、ガラス転移温度が室温以上という物性に加え、更に好ましい物性を有する共重合体を提供できる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記のような従来技術を背景として、鋭意研究の結果、脂環式骨格を有する8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンと、脂肪族骨格を有するn−ブチルビニルエーテルの、いわゆるABA型トリブロック共重合体において、これまでのビニルエーテル共重合体にはないゴム状弾性を有する熱可塑性エラストマーの性質が発現することを発見し、更に研究の結果、本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明は、式(1)
【化2】
(式中、n及びmはそれぞれ30〜1000の整数を表す。)
で表されるABA型トリブロック共重合体を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンと、n−ブチルビニルエーテルの、いわゆるABA型トリブロック共重合体が提供され、このABA型トリブロック共重合体は新規であると共に、常温でゴム状弾性を有し、これまでのビニルエーテル共重合体にはない熱可塑性エラストマーの性質を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のABA型トリブロック共重合体は、上記式(1)で表されるように、脂環式骨格を有するビニルエーテル(以下、モノマーAと略す。)と、脂肪族骨格を有するビニルエーテル(以下、モノマーBと略す。)とから誘導され、脂環式骨格と脂肪族骨格とを側鎖に有すると共に、ポリ(A)−ポリ(B)−ポリ(A)という構造を有する、いわゆるABA型トリブロック共重合体である。
【0011】
本発明のABA型トリブロック共重合体におけるモノマーAは、式
【化3】
で表される8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンであり、モノマーBは、式
【化4】
で表されるn−ブチルビニルエーテルである。
【0012】
上記式(1)のn及びmはそれぞれ30〜1000の整数を表しており、好ましくは、nが350〜1000、mが150〜1000である。nが350より小さい場合又はmが150より小さい場合、トリブロック共重合体は常温でのゴム状弾性を発現しない場合がある。
【0013】
上記本発明のビニルエーテル共重合体は、上記8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(モノマーA)と、n−ブチルビニルエーテル(モノマーB)とを、溶媒中で重合することにより製造することができる。
【0014】
本発明における上記重合の態様は、モノマー及び重合体を溶解する溶媒を用いたリビングカチオン重合が採用される。リビングカチオン重合は、重合度を容易に制御することが可能であり、分子量分布が狭い重合物を得る方法として有用である。特にブロック共重合体を製造する工程においては、まず第1のモノマーの重合を完結させた後、そこへ第2のモノマーを連続的に添加することで、ポリ(第1のモノマー)の末端からポリ(第2のモノマー)を伸長させ、各セグメントの長さを任意に制御することが可能であり、one−potでブロック共重合体を得ることができる技術として有効である。リビングカチオン重合により得られたブロック共重合体は、分子量分布が狭いため、Mw/Mnが1に近い値となり、Mnは、重合度に応じて直線的に変化する特徴がある。
【0015】
上記リビングカチオン重合における溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶剤や塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。
【0016】
上記リビングカチオン重合における重合開始剤系としては、一般的なリビングカチオン重合に用いられるものを特に制限無く使用することができ、例えば、ヨウ素や遷移金属のハロゲン化物と、塩酸や酢酸及びそれらの付加体などとを組み合わせた酸性開始剤等を使用することができる。酸性開始剤の具体的な例としては、HI/I2系開始剤、塩酸/塩化亜鉛系開始剤、四塩化スズ、四臭化スズなどスズのハロゲン化物と、ビニルエーテルの酢酸付加物とを組み合わせた開始剤等が挙げられる。
【0017】
本発明のABA型トリブロック共重合体を製造するための上記リビングカチオン重合は、具体的にはまず8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(モノマーA)を溶媒中で所望の重合度まで反応させた後、n−ブチルビニルエーテル(モノマーB)を添加し、AB型ブロック共重合体を得る。次いで、更に前記モノマーAを添加して、ABA型トリブロック共重合体を得るものである。
【0018】
このようにして得られる本発明のABA型トリブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーとしての性質を有している。熱可塑性エラストマーは、一般的に末端(エンド)ブロック同士と中間(ミッド)ブロック同士が集合し、ミクロ相分離構造(海島構造)を形成していて、それぞれのセグメントの絡み合いを含む分子運動が緩和若しくは束縛される現象が、加熱若しくは冷却時に剛性率や弾性率の変化として観測される。一般的には常温付近では弾性率が温度により変化しないゴム状領域を有していることが特徴であり、高温にすると融解する熱可塑性樹脂の性質を併せ持っている。
【0019】
以下に実施例により本発明を詳細に説明する。尚、分子量及び分子量分布の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(溶離液:クロロホルム、標準ポリスチレン換算)により行った。
【0020】
実施例
(m=150、n=700のトリブロック共重合体の合成)
よく乾燥させ、窒素置換したガラス製フラスコに8−ビニロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(以下、実施例及び比較例の記載ではTCDVEと略す)を乾燥トルエンに溶解した。攪拌しながらフラスコ内温を-30℃に保ち、塩酸のトルエン溶液と塩化亜鉛(ZnCl2)のジエチルエーテル溶液を滴下し、初濃度が[TCDVE]=0.3M、[HCl]=2.0mM、[ZnCl2]=0.5mMとなるように調製しTCDVEを重合させた。この反応液にn−ブチルビニルエーテル(以下、実施例及び比較例の記載ではNBVEと略す)を添加して共重合させた。このときのNBVEの初濃度[NBVE]は1.4Mとした。得られたブロック共重合体の数平均分子量Mnは15,200、分子量分布Mw/Mnは1.19と単分散に近い共重合体が得られた。
【0021】
更に反応液にTCDVEを添加しトリブロック共重合体を得た。このときの添加後のTCDVE濃度[TCDVE]addは0.3Mとした。完全にモノマーが消費されたところで、反応液から重合物をメタノールで沈殿させて回収した。回収したトリブロック共重合体の数平均分子量Mnは97,000、分子量分布Mw/Mnは1.12であった。
【0022】
(物性測定)
上記で得られたトリブロック共重合体の示差走査熱量分析(DSC)を行ったところ、-48℃と66℃に吸熱ピークが見られ、即ち、ブロック共重合特有の2つのガラス転移温度が観測された。
【0023】
(動的粘弾性測定)
Reometrics社製の動的粘弾性装置RSA-IIを用い、幅5mm、厚み0.6mmの膜状試験片を作成して、試験片の測定長22.4mmで動的粘弾性挙動を測定した(周波数1Hz)。その結果、貯蔵弾性率E’は-20℃から60℃付近で平坦部分が観測された。又、40℃付近にはtanδのピークが見られ、DSCで観測された低温側のガラス転移温度と相関している。
【0024】
(引っ張り特性試験)
東洋ボールドウィン社製の引張試験装置Tensilon UTM-III-100Sを用い、幅5mm、厚
み0.6mmの膜状試験片を作成して、試験片の測定長20mmで引っ張り試験を実施した(
引張速度10mm/min、25℃、湿度50%)。その結果、2.4MPの負荷に対して90%伸びという
塑性変形を示し、熱可塑性樹脂の脆さは解消され、エラストマーとして有用な性質が得られたことが確認できた。
【0025】
比較例1
{ランダム共重合体の合成(リビングカチオン重合)}
窒素置換後、十分に水分を除去したガラス製フラスコ内で、NBVE20mmolとTCDVE80mmol
をトルエンに溶解させた。次いでイソブチルビニルエーテルの酢酸付加物(以下、IBEAと略す。)のトルエン溶液と2,4−ジ−tert−ブチルピリジンのトルエン溶液を加え、0℃まで冷却し、四臭化すず(SnBr4)のトルエン溶液を加えて重合を開始した。5時間後、反応液を水洗し、トルエンを濃縮した後、メタノールで重合体を析出させた。得られた数平均分子量Mnは85,000、分子量分布Mw/Mnは1.39、DSCで観測したガラス転移温度は71℃であった。この重合物ではゴム状弾性は発現しなかった。
【0026】
比較例2
(ジブロック共重合体の合成)
窒素置換後、十分に水分を除去したガラス製フラスコ内で、NBVE60mmolをトルエンに溶解させた。次いでIBEAのトルエン溶液と2,4−ジ−tert−ブチルピリジンのトルエン溶液を加え、0℃まで冷却し、四臭化すず(SnBr4)のトルエン溶液を加えて重合を開始し
た。5時間後、予めトルエンに溶解しておいたTCDVEをNBVEと当モル量添加し、更に5時
間反応を継続した。反応液を水洗し、トルエンを濃縮後、メタノールでブロック共重合体を析出させた。GPCから数平均分子量Mnは26,600、分子量分布Mw/Mnは1.15であり、DSCの
測定から−52℃と77℃にガラス転移温度を有する共重合体が得られた。このジブロック共重合体では機械的物性を測定できるような成形体が得られず、またゴム状弾性も発現しなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
(式中、n及びmはそれぞれ30〜1000の整数を表す。)
で表されることを特徴とするABA型トリブロック共重合体。
【請求項2】
nが350〜1000、mが150〜1000である請求項1に記載のABA型トリブロック共重合体。
【請求項3】
リビングカチオン重合により製造される請求項1又は2に記載のABA型トリブロック共重合体。
【請求項1】
式(1)
【化1】
(式中、n及びmはそれぞれ30〜1000の整数を表す。)
で表されることを特徴とするABA型トリブロック共重合体。
【請求項2】
nが350〜1000、mが150〜1000である請求項1に記載のABA型トリブロック共重合体。
【請求項3】
リビングカチオン重合により製造される請求項1又は2に記載のABA型トリブロック共重合体。
【公開番号】特開2008−138177(P2008−138177A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280574(P2007−280574)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所 社団法人 高分子学会 刊行物名 高分子学会予稿集 55巻342ページ 発行 平成18年5月10日 研究集会 第55回高分子学会年次大会 主催者 社団法人 高分子学会 開催日 平成18年5月26日
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所 社団法人 高分子学会 刊行物名 高分子学会予稿集 55巻342ページ 発行 平成18年5月10日 研究集会 第55回高分子学会年次大会 主催者 社団法人 高分子学会 開催日 平成18年5月26日
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]