説明

ATS−P符号処理器

【課題】モデムICの複数化を契機として故障判別を細分化するとともに、それが有効に機能するよう回路構成を更に改良する。
【解決手段】ポーリング電文Pが正常なら正常なアンサ電文Aを返すが軽度な異常では受信電文を返信し中度の異常なら返信しない地上子11それぞれに個別の半二重通信回線で接続されていて地上子11の故障時には回路29で電力供給を断つATS−P符号処理器において、送信部と受信部を搭載したモデムIC27を複数導入して、送信部と受信部の組を半二重通信回線と地上子11に対し個別に割り当てる際、同組の送信部と受信部は別のモデムIC27から選出し、しかも各モデムICからは別組の送信部と受信部を選出し、更に電文判別手段43には、ループバック電文Qとアンサ電文Aの受信状態に応じて地上子11ばかりか送信部や受信部が正常か故障かまで判定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ATS(Automatic Train Stop 自動列車停止装置)のうち、有電源トランスポンダによるATSであるATS−Pに関し、詳しくはATS−Pの地上設備のうち、ATS−P符号処理器に関し、更に詳しくは、地上子側との電文の送受信の状態に基づいて故障を検知するATS−P符号処理器に関する。
【背景技術】
【0002】
[前提技術]
ATS−Pでは一台のATS−P符号処理器(EC,質問器)に対して一台または複数台の地上子(中継器,応答器)がケーブルで接続されるが、ATS−PのうちATS−P IV型やATS−P IV(N)型さらには統合型ATS−Pの地上装置では、ATS−P符号処理器と地上子とを繋ぐ情報・電源ケーブルが、複数の地上子で共用されるのでなく、それぞれの地上子が個別に割り当てられた独自のケーブルを占用してATS−P符号処理器と交信するようになっている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
図5は、そのような個別接続のATS−Pの地上装置の基本構成を示したものであり、(a)が、ATS−P地上装置(ATS−Pの地上設備)の設置状況のブロック図、(b)が、ATS−P地上装置の概要ブロック図、(c)が、そのうちのATS−P符号処理器20の概要ブロック図である。また、図6は、(a)が、ATS−P符号処理器20の詳細ブロック図、(b)が、電文送受信状態を示すタイムチャートである。さらに、図7は、(a)〜(c)が何れも電文のフレーム構成図、(d)がATS−P符号処理器20のうちの制御ユニット21における電文判別手段23の判別表である。
【0004】
このATS−P地上装置は(図5(a)参照)、線路10を走行する図示しない列車に搭載されたATS−Pの車上子や車上装置と協動するものであり、線路10に沿って地上子11が幾つか分散設置され、それぞれの地上子11とATS−P符号処理器20とが情報・電源ケーブルにて個別に接続されて電文を送受信しうる状態になっており、さらにATS−P符号処理器20は、上位装置である駅処理装置12とも光ケーブル等で接続されて交信しうる状態になっている。ATS−P符号処理器20が複数の場合、それらと駅処理装置12とは、ケーブルを共用するマルチドロップ方式で接続される。
【0005】
地上子11は(図5(b)参照)、接近した車上子との無線通信を可能にするアンテナを主体としたものであり、これには一対一で中継器が組み合わせられている。中継器を内蔵した一体形の地上子11を図示したが、中継器が地上子11とは別体になっていてケーブル接続されているものや、中継器が地上子11とATS−P符号処理器20とに分かれて組み込まれているものもある。何れの態様であれ、地上子11は、中継器が組み合わさることで、トランスポンダの応答器として、トランスポンダの質問器であるATS−P符号処理器20からポーリング電文が送られてくるとそれを受信するとともに、アンサ電文をATS−P符号処理器20へ返送することができるものとなっている。
【0006】
駅処理装置12は(図5(b),(c)参照)、ポーリング電文Pのデータ部分を作成してATS−P符号処理器20に送信するとともに、地上子11のアンサ電文Aのうち列車情報などのデータ部分をATS−P符号処理器20から受信するようになっている。ポーリング先の地上子11は一定の順序で選択するのが基本であるが列車走行状況等に応じて適宜変更するようにもなっており、ポーリング電文Pの内容は信号機の現示情報などに応じて決定するようになっている。なお、システムによっては、信号機の現示情報の取り込みとそれに対応したポーリング電文Pの内容決定をATS−P符号処理器20が行うようになっているものもある。
【0007】
ATS−P符号処理器20は(図5(b),(c)参照)、制御ユニット21とATS−Pユニット24とに大別されるが、そのうち制御ユニット21は、多重系で信頼性の高いフェールセーフコンピュータからなり、駅処理装置12との交信を担っている。一方、ATS−Pユニット24は、多数の地上子11と個別にケーブル接続されていて、各地上子11に対し動作電力の供給とポーリング方式での交信を行うものであるが、それを一回線で済ませるために、電力供給は直流重畳で行い、交信は半二重通信で行うようになっている。
【0008】
制御ユニット21には(図5(c)参照)、プログラムからなる電文整正手段22と電文判別手段23とがインストールされている。
電文整正手段22は、駅処理装置12から受け取ったポーリング電文Pにチェックコードを付加して電文の体裁を整えてからポーリング電文PをATS−Pユニット24に引き渡すようになっている。チェックコードにはCRC(サイクリック冗長度チェック)コードが用いられている。
【0009】
電文判別手段23は、電文整正手段22がポーリング電文PをATS−Pユニット24に引き渡してから所定時間以内にATS−Pユニット24からアンサ電文Aを受け取ることができたときには、そのアンサ電文Aについて、フラグの有無やデータのビット数などが正しいか否かを調べるフレームチェックと、CRCが正しいか否かを調べるコードチェックとを行い、何れも正しければアンサ電文Aが「正常」と判定するが、そうでなければアンサ電文Aが「異常」と判定する。電文整正手段22がポーリング電文PをATS−Pユニット24に引き渡してから所定時間経ってもATS−Pユニット24からアンサ電文Aを受け取れないときにもアンサ電文Aが「異常」と判定するようになっている。また、アンサ電文Aが「異常」のときには、対応する地上子11が故障したものとして、電力供給制御信号Sにて地上子電力供給回路29を制御して、故障の地上子11との接続を断たせることも行うようになっている。
【0010】
ATS−Pユニット24は(図5(c)参照)、論理部25と送受信回路26と地上子電力供給回路29とに大別されるが、そのうち論理部25は、例えばマイクロプロセッサやシステムLSIといった制御・演算・記憶機能を持った回路からなり、制御ユニット21からポーリング電文Pを受け取って一時保持するとともに送受信回路26を制御してポーリング電文Pの送信を行わせることと、送受信回路26からアンサ電文Aその他の受信電文を受け取って制御ユニット21に引き渡すようになっている。送受信回路26は、既定の変調処理を行ってポーリング電文Pの送信を行うとともに、既定の復調処理を行ってアンサ電文A等の受信を行うようになっている。地上子電力供給回路29は、例えばリレーを用いた開閉回路からなり、各地上子11との接続を、地上子11寄りの所で、電力供給制御信号Sに従って個別に確立したり断絶したりするようになっている。
【0011】
[従来技術]
送受信回路26は(図6(a)参照)、モデムが高価だった頃の構成を踏襲していて、電文の送受信を担うモデムIC27を一個と、送信側のマルチプレクサ28と、受信側のマルチプレクサ28とを具えている。なお、アンプ等の図示や説明は割愛している。
モデムIC27は、送信部と受信部と共通部とを具えているが、最近はデジタルシグナルプロセッサ(DSP)をプログラミングにてカスタマイズすることで作り上げられているので、送信部と受信部とが完全に独立している部分が少なく、内部電源回路などの回路ばかりか共用のサブプログラムや上位の管理プログラムの不具合が送受信双方に影響するものとなっている。
【0012】
マルチプレクサ28は、何れも、モデムIC27と地上子電力供給回路29との間で、論理部25の制御に従って、交信対象の地上子11をモデムIC27に接続させる接続切替を行うものである。そして、ATS−Pユニット24では、モデムIC27の送信ポートに接続されたポーリング電文P送信用ラインが送信側マルチプレクサ28の所で地上子11の個数nに分岐するとともに、モデムIC27の受信ポートに接続されたアンサ電文A受信用ラインが受信側マルチプレクサ28の所でやはりn個に分岐している。また、各地上子11への外部ケーブルに個別接続されるケーブル接続用ラインも、同じくn個に分かれており、各ラインを開閉する地上子電力供給回路29も、同じくn個に分かれており、それらを個別に制御する電力供給制御信号Sもn個S1〜Snに分かれている。
【0013】
さらに、それらのポーリング電文P送信用ラインとアンサ電文A受信用ラインとケーブル接続用ラインは、一組ずつ、マルチプレクサ28と地上子電力供給回路29との間で、互いに接続されている。そのため、マルチプレクサ28で接続されている組についてみると(図6(b)参照)、モデムIC27の送信部から送り出されたポーリング電文Pが、送信用ラインとケーブル接続用ラインと個別ケーブルを経て地上子11に伝わると同時に、送信用ラインと受信用ラインで折り返されて受信部に戻って来てループバック電文Qとされる。また、地上子11から送り出されたアンサ電文Aが、個別ケーブルとケーブル接続用ラインと受信用ラインを経てモデムIC27の受信部に伝わる。このようにポーリング電文Pもアンサ電文Aも同じケーブル接続用ラインと個別ケーブルを共用するため、ポーリング電文Pの送信とループバック電文Qの受信はアンサ電文Aの無い時に行われる一方、アンサ電文Aはポーリング電文Pから遅れて返信されるので、両方向の電文P,Aが時期をずらして送受信される半二重通信が行われるようになっている。
【0014】
これらのポーリング電文P,アンサ電文Aについてフレーム構成および受信状態を詳述すると(図7参照)、各電文は、フレームの先頭に位置していて既定の固定ビットパターンからなる第1のフラグと、信号現示等に応じて内容の変わるデータと、データに応じて内容の変わるCRCと、フレームの最後尾に位置していてやはり既定の固定ビットパターンからなる第2のフラグとを連ねたものであり、それら総てが正しく伝送されれば受信時にフレームチェックもコードチェックもパスして受信電文の状態が「正常」となる(図7(a)参照)。
【0015】
これに対し、フラグは正常に伝送されても、データとCRCの何れか一方または双方が正しく伝送されないと、受信時にコードチェックで不正状態が検出されて、受信電文の状態が異常状態のうち軽度な異常であるデータ不正の「異常(不正)」となる(図7(b)参照)。また、フラグが正常に伝送されなかったときには、受信時にフレームチェックで不正状態が検出されて、受信電文の状態が異常状態のうち中度の異常であるフレーム崩れの「異常(崩れ)」となる(図7(c)参照)。さらに、そもそも電文を所定時間内に受信できなかったときには、受信電文の状態が異常状態のうち重度な異常である受信無しの「異常(無し)」となる(図示せず)。
【0016】
とはいえ(図7(d)参照)、上述したように、電文判別手段23は、アンサ電文Aをチェックする際にアンサ電文Aが「正常」なのか「異常」なのかを判別するにとどまり、「異常」が、フレームの崩れていない軽度な異常の「異常(不正)」と、フレームの崩れた中度の異常な「異常(崩れ)」と、アンサ電文Aの受信すらない重度な異常の「異常(無し)」とのうちの何れであるかまでは区別しない。そして、「正常」ならモデムIC27の送信部も受信部も地上子11も正常状態「○」であるとして地上子電力供給回路29に電力供給を継続させるが、アンサ電文Aが「異常」のときには、モデムIC27の送信部や受信部は正常状態「○」であるが、地上子11は故障状態「×」であるとして、地上子電力供給回路29に電力供給を断絶させるようになっている。
【0017】
そのため、故障しているのが地上子11でなくモデムIC27の送信部や受信部であってもそのような判定が出されることはなく、また、ループバック電文Qが正常か異常かの判別がなされることもない。アンサ電文Aの正否をフェールセーフコンピュータでチェックすることにより、電文伝達経路が全域で正常なのか否かが分かり、電文伝達に不具合の生じたときに該当する地上子11の動作を強制停止すれば、地上子11の故障時には故障した地上子11だけが動作を停止し、モデムIC27の故障時には総ての地上子11が動作を停止するので、列車の安全運転に必要なフェールセーフ性が確保されるからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】鉄道電気技術者のための信号概論「ATS・ATC」69−73頁 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成17年6月28日 改訂版2刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このように、従来のATS−P符号処理器では、モデムICを1個として、マルチプレクサで該当地上子を選択し、送受信回路を構成するが、以下の問題点(1)〜(3)がある。列挙すると、問題点(1)は、信頼度を低下させる要因があることであり、問題点(2)は、ポーリング周期が長いため精密な列車制御が出来ないことであり、問題点(3)は、地上子と送受信回路の故障切り分け性能が低いことである。
【0020】
各問題点を詳述すると、問題点(1)の信頼度低下要因としては、以下の(ア)〜(ウ)が挙げられる。
(ア)モデムは1個で済むが、マルチプレクサ及びその照査回路が必要となり、全体的に複雑な回路構成となる。
(イ)マルチプレクサが故障すると、故障モードによっては全ての地上子との送受信が出来なくなる。
(ウ)1個のモデムが故障すると全ての地上子に対する送受信が不可能となる。
【0021】
また、問題点(2)としては、時分割に送受信する必要があり、一つの地上子に対するポーリング周期が長いため、列車制御の時間単位が粗く、精密な列車制御が出来ない。
現在、列車走行に合わせて地上子へのポーリング順序を変化させる対策により(列車追跡論理)上記問題に対応しているが、ソフトウェア論理が複雑となる。
【0022】
さらに、問題点(3)の地上子と送受信回路の故障切り分け性能が低いことについては、上述したように、従来装置は送受信回路もしくは地上子どちらかが異常の場合、最終的には地上子が異常という定義としていた。従来装置は送受信回路が一重系であり、稼働率向上のための系切替を実施する必要が無かったため、「送受信回路」と「地上子」の故障を明確に切り分ける必要が無かったからである。
しかし、今後、地上子は1重系のまま、送受信回路を2重系にしてシステム稼働率の向上を確保する必要が出てきた。このため、確実かつ迅速に地上子と送受信回路の異常を切り分け、系切替を行う必要性が出てきた。
【0023】
そして、地上子と送受信回路との異常を切り分けるには、そのレベルの細やかさで故障箇所を特定することが必要であり、そのような故障箇所特定手法のうち、追加ハードウェアの必要が無くて小形かつ低コストで実現できる改良案として、送信電文の折り返しであるループバック電文Q及び地上子からの返信であるアンサ電文Aといった受信電文Q,Aを監視する方法が考えられる。かかる受信電文監視は、従来のマルチプレクサ方式でも可能だが、従来方式を踏襲したのでは以下の問題点(エ),(オ)がある。
【0024】
(エ)時分割送受信であるため、1地上子当たりの送受信間隔が長く、迅速に故障検出(送受信回路及び地上子両方)が出来ない。送受信器の故障検出をするときでも、地上子への送信が実施されたときにしか分からないため、マルチプレクサを使用しない場合に比べて、送受信器の故障発生時、正常系に切り替わるまでの時間が長くなる。
(オ)送信電文を折り返すとき、同一のモデムで受信するため、照査としての信頼度が低い。例えば送信電文の崩れによって地上子が無応答となったとき、送信回路単独の問題ではなく、モデム全体の問題(クロックや電源の不安定性等)によって受信回路が正確に機能していない可能性がある。このため、本当に送信電文崩れであるかの検知信頼度が低い。
【0025】
これらの問題点のうち後者(オ)については、送受信回路を一つの系として考えれば、何らかの異常は検出できるため、これをもって系切替を実施すればよく、送受信回路としての稼働を維持させることができる。現在、故障解析性、要因分析性の向上が求められており、確実に上記事象を捉えるには、他の素子(モデム)で監視(折り返し)した方がより精度向上が実現出来る。
しかし、モデムICが近年は安価かつ小形になったとはいえ、監視のためだけにモデムを追加するのは回路規模増大、コストアップとなり、最良とは言えない。
【0026】
そこで、モデムIC27が安価かつ小形になったことを勘案して従来のATS−P符号処理器20を改良するに際し、送受信回路26からマルチプレクサ28を無くし、その代わりにモデムIC27を複数にするとともに、モデムIC27と地上子11とを一対一で接続して、地上子11に対する電文の送受信を地上子11毎に独立に行うことも可能なATS−P符号処理器30を試作した(図8(a)参照)。その構成等を説明するが、ここでは、簡明化のため、地上子11がNo.1とNo.2との二個だけの場合を説明する。
【0027】
図8は、(a)がATS−P符号処理器30のブロック図、(b)が電文判別手段33の判別表である。また、図9は、判別時の不具合を示し、(a)が、試作前に期待した故障状態と電文受信状態との対応表、(b)が、課題のある故障状態と電文受信状態との対応表、(c)が、電文判別手段33の判別表である。
ATS−P符号処理器30は(図8(a)参照)、制御ユニット21を一部改造した制御ユニット31と、ATS−Pユニット24からマルチプレクサ28を無くした代わりにモデムIC27をモデムIC1(27)とモデムIC2(27)とに複数化するとともに論理部25を一部改造して論理部35にしたATS−Pユニット34とに大別される。
【0028】
モデムIC1(27)は、地上子電力供給回路29を介して地上子11No.1に接続されて、それとの半二重通信を担うようになっている。また、モデムIC2(27)は、地上子電力供給回路29を介して地上子11No.2に接続されて、それとの半二重通信を担うようになっている。さらに、論理部35は、マルチプレクサ28の制御という役目を解かれた代わりに、交信対象の地上子11に接続されたモデムIC27を選択して、そのモデムIC27を個別に制御してポーリング電文Pやアンサ電文A及びループバック電文Qの授受を行うようになっている。また、電文判別手段33はアンサ電文Aだけでなくループバック電文Qもチェックして細かな判別を行うようになっている。
【0029】
すなわち、地上子11だけでなくモデムIC27についても複数物のうちどれが故障したのかを特定して修理や交換などの作業が容易かつ的確に行えるようにするとともに、予備などの冗長性を具える余裕があれば予備等への切替を手動や自動で素早く行えるようにするために、できるだけ細分化して、地上子11とモデムIC27との切り分けに加え、モデムIC27における送信部と受信部との切り分けも、試みている。
具体的には(図8(b)参照)、送信部が正常で受信部も正常で地上子も正常であれば、ループバック電文Qが正常になるとともにアンサ電文Aも正常になり、逆にループバック電文Qが正常になってアンサ電文Aも正常になる場合は、送信部が正常状態「○」であり受信部も正常状態「○」であり地上子も正常状態「○」であるときがほとんであると考えられるので、そのような判別条件が判定表に規定されている(C1行)。
【0030】
同様の考え方で、かつ、ATS−Pの地上子11は、ポーリング電文Pを正常に受信できたときには応答データを含んだ正常なアンサ電文Aを返信するが、CRCコードチェックで異常が見つかったときには受信した異常なポーリング電文Pをそのままアンサ電文Aとして返信し、フレームチェックで異常が見つかったときにはアンサ電文Aを返信しないようになっている、ということを前提として、判定表には、更に、ループバック電文Qが正常なのにアンサ電文Aが「異常(不正)」か「異常(崩れ)」か「異常(無し)」のときは送信部が正常状態「○」であり受信部も正常状態「○」であるが地上子は故障状態「×」であると規定され(C2行)、ループバック電文Qもアンサ電文Aも「異常(無し)」のときは送信部と受信部の何れか一方または双方が故障状態「×」であるが地上子は正常状態「○」であると規定されている(C11行)。
【0031】
また、ループバック電文Qが「異常(不正)」のときには(C3〜C6行)、アンサ電文Aで更に細分化され、アンサ電文Aが正常なときには、送信部が故障状態「×」であり受信部は正常状態「○」であるが地上子は故障状態「×」であると規定され(C3行)、アンサ電文Aが「異常(不正)」のときは、送信部が故障状態「×」であるが受信部は正常状態「○」であり地上子も正常状態「○」であると規定され(C4行)、アンサ電文Aが「異常(崩れ)」のときと「異常(無し)」のときは、送信部が故障状態「×」であり受信部は正常状態「○」であるが地上子は故障状態「×」であると規定されている(C5,C6行)。
【0032】
さらに、ループバック電文Qが「異常(崩れ)」のときにも(C7〜C10行)、アンサ電文Aで更に細分化され、アンサ電文Aが正常なときと「異常(不正)」のときには、送信部が故障状態「×」であり受信部は正常状態「○」であるが地上子は故障状態「×」であると規定され(C7,C8行)、アンサ電文Aが「異常(崩れ)」のときは、送信部は正常状態「○」であるが受信部が故障状態「×」であり地上子は正常状態「○」であると規定され(C9行)、アンサ電文Aが「異常(無し)」のときは送信部が故障状態「×」であるが受信部は正常状態「○」であり地上子も正常状態「○」であると規定されている(C10行)。
【0033】
そして、このような木目細かい判別に基づく故障部位の特定により、系切替や修繕といった不具合対応が迅速かつ的確に行えるようになると思われた。
しかしながら、仕様の具体化とともに動作検証や効果確認などを注意深く進めたところ、上述の当初案(図8(a)参照)では期待した効果が十分には得られないことが判明した。その構成では、一の地上子11に対応する送信部と受信部とが一のモデムIC27に搭載されているうえ、デジタルシグナルプロセッサ化が進んで共通部が増えたため、送信部の故障と受信部の故障とに強い相関があり、一方が故障すると他方も同時に故障状態になることが多く、そのような状況では送信部の故障と受信部の故障と地上子とがそれぞれ故障した場合を想定して場合分けを細分化する判別手法が無力化されるからである。そのため、上述した問題点(3)の(オ)項が未だ十分には解決されていない。
【0034】
ループバック電文Qが「異常(崩れ)」になったときの判別部分(図8(b)C7〜C10参照)を具体例として上記の解決不足部分を詳述すると、送信部と受信部のうち何れか一方が故障するとその故障が他方にも及ぶため(図9(a)矢付き破線を参照)、しばしば送信部も受信部も故障状態「×」となる(図9(b)☆印を参照)。その場合、ループバック電文Qは、「異常(崩れ)」にとどまることもあるが、「異常(無し)」になることが多く(図9(b)C7,C8,C10行☆印を参照)、アンサ電文Aは、正常から「異常(不正)」や「異常(崩れ)」になったり(図9(b)C7行☆印を参照)、「異常(不正)」から「異常(崩れ)」に(図9(b)C8☆印を参照)、「異常(崩れ)」から「異常(無し)」になってしまう(図9(b)C9行☆印を参照)。
【0035】
そうすると、地上子が正常状態「○」であれば切り分けられると思われた送信部と受信部の故障が切り分けられなくなるうえ(図9(b)C9,C10行から図9(c)のC11行への矢印を参照)、故障状態「×」の地上子が正常状態「○」と判別されてしまうことにもなる(図9★印参照、図9(b)C7,C8行から図9(c)のC9,C10,C11行への矢印を参照)。これでは、ループバック電文Qが「異常(崩れ)」時の判別部分の有用性が乏しい。詳細な説明は割愛するが「異常(不正)」時の判別も同様である。
そこで、モデムICの複数化を契機とした故障判別の細分化が有効に機能するよう、回路構成等に更なる工夫を凝らすことが、技術的な課題となる。また、その改造に際しては、回路の複雑化や規模増大を避けて簡便に実現することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明のATS−P符号処理器は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、鉄道の線路に沿って配設されていて何れも正常なポーリング電文には正常なアンサ電文を返信するがフレームの崩れていない軽度な異常のポーリング電文にはその受信電文をそのままアンサ電文として返信しフレームの崩れた中度の異常なポーリング電文にはアンサ電文を返信しない複数の地上子それぞれに個別の半二重通信回線で接続されるとともに前記地上子の故障時には該当する前記半二重通信回線での電力供給を断つATS−P符号処理器において、前記半二重通信回線を介してポーリング電文を送信する送信部とアンサ電文を受信する受信部との組が前記半二重通信回線の回線数以上設けられて前記半二重通信回線に対し個別に割り当てられており、同じ組に属する前記送信部と前記受信部が別のモデムICに搭載されており、前記モデムICは別の組に属する前記送信部と前記受信部を搭載しており、アンサ電文が正常か異常かに応じて前記地上子が正常か故障かを判定する電文判別手段が、ポーリング電文を折り返し受信したループバック電文が正常か異常かに応じて前記地上子の故障判定に加えて前記送信部と前記受信部が正常か故障かまで判定するようになっていることを特徴とする。
【0037】
また、本発明のATS−P符号処理器は(解決手段2)、上記解決手段1のATS−P符号処理器であって、前記電文判別手段が、前記アンサ電文と前記ループバック電文とのうち何れか一方または双方について受信電文が正常か異常かの場合分けを行う際に、異常のときにはその異常がフレームの崩れていない軽度な異常なのかフレームの崩れた中度の異常なのか電文の受信すらない重度な異常なのかという細分化を行うようになっていることを特徴とする。
【0038】
さらに、本発明のATS−P符号処理器は(解決手段3)、上記解決手段1,2のATS−P符号処理器であって、前記半二重通信回線に割り当てられている前記送信部と前記受信部とが正常な間はポーリング電文を前記半二重通信回線に送出しない予備のモデムICが設けられており、前記送信部と前記受信部とのうち何れか一つ又は複数が故障したが地上子は正常であると前記電文判別手段が判定したときには、その故障部を搭載した前記モデムICに代えて前記の予備のモデムICの送信部または受信部を該当する前記半二重通信回線に割り当てるようになっていることを特徴とする。
【0039】
また、本発明のATS−P符号処理器は(解決手段4)、上記解決手段1〜3のATS−P符号処理器を複数具備していて、そのうち一つには稼動系として前記地上子へポーリング電文を送信させるが他のものは待機系としてそこからは前記地上子にポーリング電文が送信されないようにするとともに、前記稼動系に故障が生じたときにはそれに代えて前記待機系の何れかを稼動させるようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
このような本発明のATS−P符号処理器にあっては(解決手段1,解決手段2)、故障発生時に無条件で地上子への電力供給を断つだけでなく安全性を確保しながら他の対処も選択できるようにするために、改良が重ねられている。
すなわち、先ず、送信部と受信部とを搭載したモデムICを複数用いて送信部及び受信部を各地上子に一対一で割り付けることでマルチプレクサが省かれている。
そして、これによって、上述した問題点(1)の(ア)〜(ウ)項と問題点(2)と問題点(3)の(エ)項とが解決されている。
【0041】
また、それに加えて、正常か故障かを判別するのにアンサ電文の受信状態だけでなくループバック電文の受信状態によっても場合分けして故障の有無に加えて故障部位まで切り分ける、という改良を行ったうえ更に、半二重通信回線ひいては地上子それぞれに一組ずつ送信部と受信部を割り当てる際に、同じ組に属するの送信部と受信部を別のモデムICから選定して組み合わせるようにしたことにより、判別の場合分けの対象となる各組における送信部と受信部とについて故障発生の相関がほとんど無くなるため、モデムICの複数化を契機とした故障判別の細分化が有効に機能することとなる。しかも、その更なる改良は配線変更で簡便に実現される。
これによって、上述した問題点(3)の(オ)項まで解決されている。
【0042】
また、本発明のATS−P符号処理器にあっては(解決手段3,解決手段4)、送受信回路の故障と地上子の故障とが切り分けられることに基づいて送受信回路が故障したときに地上子が故障していなければ、送受信の担当を故障回路から予備や待機系へ切り替えることが迅速に行え、そうすることでATS−P地上装置の全体動作が適切な状態に維持される。そのため、本発明の契機となった「地上子は1重系のまま送受信回路を2重系にしてシステム稼働率の向上を確保する必要が出てきたため確実かつ迅速に地上子と送受信回路の異常を切り分けて系切替を行う」という要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例1について、ATS−P符号処理器の構造を示し、(a)が全体のブロック図、(b)が電文判別手段の判定表である。
【図2】本発明の実施例2について、ATS−P符号処理器のATS−Pユニットの構造を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例3について、ATS−P符号処理器のATS−Pユニットの構造を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例4について、(a),(b)何れもATS−P符号処理器を二系統にしたものの構造を示すブロック図である。
【図5】前提技術に関し、(a)がATS−P地上設備の設置状況のブロック図、(b)がATS−P地上設備の概要ブロック図、(c)がATS−P符号処理器の概要ブロック図である。
【図6】従来技術に関し、(a)がATS−P符号処理器の詳細ブロック図、(b)が電文送受信状態を示すタイムチャートである。
【図7】従来技術に関し、(a)〜(c)が何れも電文のフレーム構成図、(d)が電文判別手段の判別表である。
【図8】本発明の技術課題を顕在化させるに至った当初改良案について、ATS−P符号処理器の構造を示し、(a)がATS−P符号処理器のブロック図、(b)が電文判別手段の判別表である。
【図9】本発明の技術課題について、判別時の不具合を示し、(a)が、期待した故障状態と電文受信状態との対応表、(b)が、課題のある故障状態と電文受信状態との対応表、(c)が、電文判別手段の判別表である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
このような本発明のATS−P符号処理器について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜4により説明する。
図1に示した実施例1は、上述した解決手段1,2(出願当初の請求項1,2)を具現化したものであり、図2に示した実施例2は、その実用的な変形例であり、図3に示した実施例3は、上述した解決手段3(出願当初の請求項3)を具現化したものであり、図4に示した実施例4は、上述した解決手段4(出願当初の請求項4)を具現化したものである。
【0045】
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、機械的構造や,電気回路の詳細,電子回路の詳細などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心にブロック図で示した。また、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、さらに、それらについて背景技術(特に前提技術)の欄や解決課題の欄で述べたことは以下の各実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来品(20)や課題品(30)との相違点を中心に説明する。
【実施例1】
【0046】
本発明のATS−P符号処理器の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、(a)がATS−P符号処理器40の全体ブロック図、(b)がそのうちの電文判別手段43の判定表である。
【0047】
このATS−P符号処理器40(図1(a)参照)が既述の当初改良案30(図8(a)参照)と相違する主な点は、モデムIC1(27)の受信部の受信ポートの接続先が地上子11No.1への半二重通信回線から地上子11No.2への半二重通信回線に変更された点と、モデムIC2(27)の受信部の受信ポートの接続先が地上子11No.2への半二重通信回線から地上子11No.1への半二重通信回線に変更された点である。
また、そのような受信部の地上子11への割り当てを入れ替える変更に対応した微修正により、電文判別手段33が電文判別手段43になり、論理部35が論理部45になり、送受信回路36が送受信回路46になっている。
【0048】
そして、その追加改造により、ATS−P符号処理器40は、正常なポーリング電文Pには正常なアンサ電文Aを返信するがフレームの崩れていない軽度な異常のポーリング電文Pにはその受信電文をそのままアンサ電文Aとして返信しフレームの崩れた中度の異常なポーリング電文Pにはアンサ電文Aを返信しない複数の地上子11それぞれに個別の半二重通信回線で接続されているとともに地上子11の故障時には地上子電力供給回路29にて該当する半二重通信回線での電力供給を個別に断つATS−P符号処理器において、半二重通信回線を介してポーリング電文Pを送信する送信部とアンサ電文Aを受信する受信部との組が、半二重通信回線の回線数以上設けられて、半二重通信回線に対し個別に割り当てられたものとなっている。
【0049】
また、同じ組に属する送信部と受信部が別のモデムIC27に搭載されたものとなっている。さらに、モデムIC27は別の組に属する送信部と受信部を搭載したものとなっている。また、電文判別手段43は(図1(b)参照)、アンサ電文Aが正常か異常かに応じて地上子11が正常か故障かを判定するにとどまらず、ポーリング電文Pを折り返し受信したループバック電文Qが正常か異常かに応じて場合分けを細分化することで、地上子11の故障判定に加えてATS−Pユニット44における各組の送信部と受信部が正常か故障かまで判定するようになっている。
【0050】
さらに、電文判別手段43は、ループバック電文Qとアンサ電文Aとについてそれらの受信電文が正常か異常かの場合分けを行う際に、異常のときには,その異常が,フレームの崩れていない軽度な異常である「異常(不正)」なのか,フレームの崩れた中度の異常である「異常(崩れ)」なのか,電文の受信すらない重度な異常である「異常(無し)」なのか,という細分化までも行うようになっている。このような電文判別手段43の判定表は、電文判別手段33(図8(b)参照)のときと同じままであるが(図1(b)参照)、上述したモデムIC27の受信部の受信ポートの接続先の変更によって、後で詳述するようにループバック電文Qとアンサ電文Aに係る異常状態の細分化が有効なものとなっている。
【0051】
この実施例1のATS−P符号処理器40の動作を説明する。
【0052】
駅処理装置12等の上位装置や図示しない信号機の現示に応じてポーリング電文Pのデータ部分が決まり、そのポーリング電文Pが例えば一定周期で地上子11に送信されるが、その際、電文整正手段22によってポーリング電文Pにチェックコード等が付加され、論理部45によって地上子11No.1と地上子11No.2のうちから適宜な送信先が選択される。そして、送信先が地上子11No.1であれば、ポーリング電文PがモデムIC1(27)の送信部から送信されて、地上子11No.1に割り当てられた地上子電力供給回路29及び半二重通信回線を介して地上子11No.1に伝達されるとともに、モデムIC2(27)の受信部によって受信されてループバック電文Qとなる。
【0053】
また、送信先が地上子11No.2であれば、ポーリング電文PがモデムIC2(27)の送信部から送信されて、地上子11No.2に割り当てられた地上子電力供給回路29及び半二重通信回線を介して地上子11No.2に伝達されるとともに、モデムIC1(27)の受信部によって受信されてループバック電文Qとなる。
何れにしても、ループバック電文Qは、直ちに論理部45を介して、電文判別手段43に引き渡される。
【0054】
一方、ポーリング電文Pを正常に受信した地上子11からは送受信電文の重複回避のため少し遅れて正常なアンサ電文Aが返信されるが、地上子11がポーリング電文Pを受信できたときでも正常に受信できなかったときには、受信電文の異常の程度に応じて応答が異なる。具体的には、ポーリング電文Pの受信電文が軽度な異常の「異常(不正)」のときには、その受信電文がそのままアンサ電文Aとされて、「異常(不正)」なアンサ電文Aが返信される。また、ポーリング電文Pの受信電文が中度な異常の「異常(崩れ)」のときや、ポーリング電文Pをそもそも受信すらできなかった重度な異常の「異常(無し)」のときには、アンサ電文Aの返信が無い。
【0055】
ATS−P符号処理器40から送信されたポーリング電文Pに地上子11が応答してアンサ電文Aを返信したとき、地上子11No.1から返信されたアンサ電文Aは、地上子11No.1に割り当てられた半二重通信回線と電力供給回路29を介して、モデムIC2(27)の受信部によって受信される。また、地上子11No.2から返信されたアンサ電文Aは、地上子11No.2に割り当てられた半二重通信回線と電力供給回路29を介して、モデムIC1(27)の受信部によって受信される。
何れのアンサ電文Aも論理部45を介して電文判別手段43に引き渡される。
【0056】
そして、電文判別手段43では、ループバック電文Qが正常なのか異常なのか更に異常であれば「異常(不正)」なのか「異常(崩れ)」なのか「異常(無し)」なのかと、アンサ電文Aが正常なのか異常なのか更に異常であれば「異常(不正)」なのか「異常(崩れ)」なのか「異常(無し)」なのかとに基づく総ての場合分けのうち、有り得ない三つの場合を除いたうえで、一部を圧縮して(図1(b)C2行)、残った十一の場合分けが行われ(図1(b)C1〜C11行を参照)、ポーリング電文Pの送信先の地上子11とそれに割り当てられた送信部および受信部について、解決課題欄で述べた当初案で想定された規定の通りに、正常状態「○」であるのか故障状態「×」であるのかが判別される。
【0057】
ATS−P符号処理器40にあっては、開発途上のATS−P符号処理器30と異なり、地上子11No.1に割り当てられている組(対)をなす送信部と受信部がそれぞれモデムIC1(27)とモデムIC2(27)に別れて搭載されており、地上子11No.2に割り当てられている送信部と受信部がそれぞれモデムIC2(27)とモデムIC1(27)に別れて搭載されているため、モデムIC27の使用に無駄がないうえ、何れか一の地上子11に割り当てられた送信部と受信部とが相互影響で同時に故障する確率が小さいので、正常か故障かを判別するに際して故障部位を送信部と受信部と地上子とについてまで細かく切り分けることが、当初案について期待した通り、実効性を伴ったものとなっている。
【0058】
その判別内容を一部重複するができるだけ簡潔に再掲すると、送信部も受信部も地上子も正常なら、ループバック電文Qもアンサ電文Aも正常になるので、送信部も受信部も地上子も正常状態「○」であると判定される(C1行)。
また、送信部と受信部が正常で地上子が故障なら、ループバック電文Qが正常でアンサ電文Aが「異常(不正)」か「異常(崩れ)」か「異常(無し)」になるので、送信部と受信部が正常状態「○」で地上子が故障状態「×」と判定される(C2行)。
【0059】
さらに、送信部が故障で受信部が正常で地上子が正常で而も送信部が「異常(不正)」のポーリング電文Pを送信しそれを地上子が「異常(不正)」と判定するようなときには、ループバック電文Qとアンサ電文Aが同じ異常状態になりうるので、その場合は、送信部が故障状態「×」で受信部が正常状態「○」で地上子が正常状態「○」と判定される(C4行)。これに対し、送信部が故障で受信部が正常で地上子が故障で而も送信部が「異常(不正)」のポーリング電文Pを送信しそれを地上子が「異常(不正)」以外の電文と誤判定するときには、ループバック電文Qとアンサ電文Aが異なる異常状態になるので、その場合は、送信部が故障状態「×」で受信部が正常状態「○」で地上子が故障状態「×」と判定される(C3,C5,C6行)。
【0060】
また、送信部が故障で受信部が正常で地上子が故障で而も送信部が「異常(崩れ)」のポーリング電文Pを送信しそれを地上子が正常か「異常(不正)」と判定して応答する故障のときには、ループバック電文Qとアンサ電文Aが異なる異常状態になるので、その場合は、送信部が故障状態「×」で受信部が正常状態「○」で地上子が故障状態「×」と判定される(C7,C8行)。これに対し、送信部が正常で受信部が故障で地上子が正常で而も受信部が不完全ながら一応受信するときには、送信部が正常なポーリング電文Pを送信しそれを地上子が正常か「異常(不正)」と判定して応答したのに受信部がループバック電文Qもアンサ電文Aも誤受信したと考えられるので、その場合は、送信部が正常状態「○」で受信部が故障状態「×」で地上子が正常状態「○」と判定される(C9行)。
【0061】
また、送信部が故障で受信部が正常で地上子が正常で而も送信部が「異常(崩れ)」のポーリング電文Pを送信しそれを地上子が「異常(崩れ)」と判定して応答しないときには、ループバック電文Qが異常でアンサ電文Aが無しになるので、その場合は、送信部が故障状態「×」で受信部が正常状態「○」で地上子が正常状態「○」と判定される(C10行)。
また、送信部が異常でそもそもポーリング電文Pが送信されないときや、受信部が異常でループバック電文Qもアンサ電文Aも受信できないときには、ループバック電文Qもアンサ電文Aも無しになるので、その場合は、送信部か受信部の何れかが故障状態「×」で地上子が正常状態「○」と判定される(C11行)。
【0062】
こうして、各地上子11の故障有無にとどまらず送受信回路46の各送信部および受信部についても故障の有無が検知される。ATS−P符号処理器40は、判別機能を向上させた最もベーシックなタイプのものなので、故障が検知されると、その故障部位が地上子11側の場合はもとより送受信回路46であっても、フェールセーフのため、該当する地上子11については地上子電力供給回路29によって動作電力の供給が断たれる。この対処方は従来手法を踏襲したものであるが、従来はできていなかった故障部位の特定ができるようになったので、特に故障したのが送受信回路46なのか地上子11なのかという切り分けが高い確度でなされるので、その情報を例えばATS−P符号処理器40にLED点灯で表示させたり駅処理装置12の端末画面に表示させて活用することができる。
【実施例2】
【0063】
図2にATS−Pユニット54のブロック図を示した本発明のATS−P符号処理器が上述した実施例1のATS−P符号処理器40と相違する主な点は、二個の地上子11しか接続できなかったATS−Pユニット44がNo.1〜No.8まで最大八個の地上子11を接続できるATS−Pユニット54になったことである。
【0064】
具体的には、送受信回路46を改造した送受信回路56にあっては、地上子11に接続される可能性のある半二重通信回線が八回線に増えたことに対応して地上子電力供給回路29の数が増やされており、さらに、モデムIC1(27)とモデムIC2(27)それぞれに代えてモデムIC1(57)とモデムIC2(57)が導入されている。各モデムIC57には送信部も受信部も四つずつ搭載されており、モデムIC1(57)の送信部1〜4がそれぞれ地上子11No.1〜No.4の半二重通信回線に接続され、モデムIC1(57)の受信部5〜8がそれぞれ地上子11No.5〜No.8の半二重通信回線に接続されており、モデムIC2(57)の送信部5〜8がそれぞれ地上子11No.5〜No.8の半二重通信回線に接続され、モデムIC2(57)の受信部1〜4がそれぞれ地上子11No.1〜No.4の半二重通信回線に接続されている。また、そのような対応を反映させた改造により論理部45が論理部55になっている。
【0065】
この場合、本発明の実施に必要な要件を満たしつつ地上子11の接続可能な最大個数が八つに増えているので、実用性が高い。
【実施例3】
【0066】
図3にATS−Pユニット64のブロック図を示した本発明のATS−P符号処理器が上述した実施例2のATS−P符号処理器と相違する主な点は、送受信回路56を改造した送受信回路66についてモデムIC1(57)とモデムIC2(57)に加えて予備のモデムIC3(57)が設けられた点と、論理部55を改造した論理部65がモデムIC1(57)かモデムIC2(57)の故障時にその機能をモデムIC3(57)に代行させるようになっている点である。
【0067】
詳述すると、モデムIC1,IC2の送信部1〜8及び受信部1〜8と地上子11No.1〜No.8の各半二重通信回線との接続には変更がなく、それに加える形で、モデムIC3(57)の送信部1〜4がそれぞれ地上子11No.1〜No.4の半二重通信回線に接続されるとともに夫々地上子11No.5〜No.8の半二重通信回線にも接続され、モデムIC3(57)の受信部5〜8がそれぞれ地上子11No.5〜No.8の半二重通信回線に接続されるとともに夫々地上子11No.1〜No.4の半二重通信回線にも接続されている。
【0068】
また、モデムIC3(57)の送信部1〜4と受信部5〜8とからそれぞれ地上子11No.1〜No.8の半二重通信回線に至る配線には、切替信号R1に従う開閉スイッチが介挿接続されており、モデムIC3(57)の受信部5〜8と送信部1〜4とからそれぞれ地上子11No.1〜No.8の半二重通信回線に至る配線には、切替信号R2に従う開閉スイッチが介挿接続されている。
【0069】
さらに、論理部65は、電力供給制御信号PW1,PW2,PW3を出力してモデムIC1,IC2,IC3それぞれに動作電力を供給するか否かを個別に切替制御するとともに、切替信号R1,R2を出力してモデムIC3(57)の送信部1〜4及び受信部5〜8の接続先を切り替えるようになっている。また、それらの切替制御が電文判別手段43の故障検知結果に応じて行われるようになっている。
【0070】
この場合、どこも故障していない正常状態では、予備のモデムIC3(57)の送信部1〜4も受信部5〜8も、ポーリング電文Pを送出したり半二重通信回線同士を短絡したりといった不都合なことを行わないよう、地上子11No.1〜No.8の半二重通信回線から切り離されている。これに対し、モデムIC1,IC2は動作電力が供給され、その送信部1〜8と受信部1〜8は、それぞれ、接続先の半二重通信回線を介して地上子11No.1〜No.8と交信を行う。繰り返しとなる詳細な説明は割愛するが、実施例1,2について上述したのと同様に、各送信部からポーリング電文Pが送信されて、同じ組の受信部にて、直ちにループバック電文Qが得られるとともに、遅れて地上子11から返信されて来たアンサ電文Aも得られる。そして、ループバック電文Qとアンサ電文Aの受信状態に基づく故障検知が電文判別手段43によって行われる。
【0071】
このような動作が繰り返されているところで、地上子11が故障して、それが検知されると、やはり該当する地上子11への動作電力の供給が地上子電力供給回路29によって断たれるが、送受信回路66の故障時は異なる。
すなわち、例えばモデムIC1(57)の送信部か受信部が故障したが、それが割り当てられた地上子11は正常状態を維持している場合、そのことが電文判別手段43によって検知されると、その故障検知結果に応じて電力供給制御信号PW1,PW3と切替信号R1,R2が論理部65によって変更されて、モデムIC1(57)が動作を停止し、その代わりにモデムIC3(57)が動作を開始するとともに、モデムIC3(57)の送信部1〜4と受信部5〜8がそれぞれ地上子11No.1〜No.4に接続されてポーリング電文Pの送信とアンサ電文Aの受信を行う。
【0072】
こうして、当初は各地上子11及び半二重通信回線に割り当てられているモデムIC1(57)及びモデムIC2(57)の送信部1〜8と受信部1〜8が使用されて正常に動作している間は、予備のモデムIC3(57)は、各半二重通信回線から切り離されて、ポーリング電文Pを各半二重通信回線に送出することもないが、地上子11は正常なのにモデムIC1,IC2の送信部1〜8及び受信部1〜8のうち何れか一つ又は複数が故障したと電文判別手段43が判定したときには、その故障部を搭載したモデムIC57に代えて予備のモデムIC3(57)の送信部1〜4や受信部5〜8が該当する半二重通信回線に割り当てられる。そのため、正常な地上子11を停止させることなく、ポーリング電文Pとアンサ電文Aの送受信を継続することができる。
【実施例4】
【0073】
図4(a)にブロック図を示した本発明のATS−P符号処理器70が上述した実施例1のATS−P符号処理器40と相違するのは、制御ユニット41が改造されて制御ユニット71になっている点と、1系のATS−P符号処理器70に加えて2系のATS−P符号処理器70も導入されて複数台が並設されている点である。
【0074】
1系,2系のATS−P符号処理器70は駅処理装置12に対しても各地上子11に対しても並列に接続されている。
また、双方の制御ユニット71同士が、例えば専用線やバス結合などを利用して、稼動権の排他制御のための交信を行えるようになっている。
さらに、制御ユニット71は、他の制御ユニット71と交信して、複数台の制御ユニット71のうち何れか一台だけが稼動権を取得できて稼動系になり、稼動権を取得できなかった残りのユニット71は待機系になる。
【0075】
そして、稼動系になった制御ユニット71を持つATS−P符号処理器70だけが、駅処理装置12と交信し、各地上子11へポーリング電文Pを送信し、装置内でループバック電文Qを受信し、ポーリング先の地上子11からアンサ電文Aを受信するようになっている。
待機系になった制御ユニット71を持つATS−P符号処理器70は、稼動系の動作の妨げにならないよう、駅処理装置12や地上子11との交信を控える。特に地上子11へポーリング電文Pを送信するようなことは行わないようになっている。
【0076】
そして、稼動系になっているATS−P符号処理器70において送受信回路46のモデムIC27の送信部か受信部に故障が生じたことが制御ユニット71の電文判別手段43によって検知されたときには、その制御ユニット71はATS−Pユニット44による地上子11との交信動作を停止するとともに稼動権を放棄して他の制御ユニット71に引き渡すようになっている。
この場合、稼動系のATS−P符号処理器70で送受信回路46が故障すると、その制御ユニット71が保持していた稼動権が他の制御ユニット71のうち何れか一台だけに移転され、稼動権を得た制御ユニット71ひいてはATS−P符号処理器70が新たな稼動系になって地上子11との交信処理等を引き継ぐ。そのため、正常な地上子11を停止させることなく、ポーリング電文Pとアンサ電文Aの送受信を継続することができる。
【0077】
また、図4(b)にブロック図を示した本発明のATS−P符号処理器80が上記のATS−P符号処理器70と相違するのは、上位装置である駅処理装置12も1系に加えて2系が導入されて複数並設状態になっている点と、それに対応した改造により制御ユニット71が制御ユニット81になった点である。
ATS−P符号処理器80は、駅処理装置12の並列化に対応していること以外、上述したATS−P符号処理器70と同様に使用され同様に動作する。
【符号の説明】
【0078】
10…線路(軌道)、11…地上子(中継器,応答器)、
12…駅処理装置(上位装置)、20…ATS−P符号処理器、
21…制御ユニット、22…電文整正手段、23…電文判別手段、
24…ATS−Pユニット、25…論理部、26…送受信回路、
27…モデムIC、28…マルチプレクサ、29…地上子電力供給回路、
30…ATS−P符号処理器、31…制御ユニット、33…電文判別手段、
34…ATS−Pユニット、35…論理部、36…送受信回路、
40…ATS−P符号処理器、41…制御ユニット、43…電文判別手段、
44…ATS−Pユニット、45…論理部、46…送受信回路、
54…ATS−Pユニット、55…論理部、56…送受信回路、57…モデムIC、
64…ATS−Pユニット、65…論理部、66…送受信回路、
70…ATS−P符号処理器、71…制御ユニット、
80…ATS−P符号処理器、81…制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の線路に沿って配設されていて何れも正常なポーリング電文には正常なアンサ電文を返信するがフレームの崩れていない軽度な異常のポーリング電文にはその受信電文をそのままアンサ電文として返信しフレームの崩れた中度の異常なポーリング電文にはアンサ電文を返信しない複数の地上子それぞれに個別の半二重通信回線で接続されるとともに前記地上子の故障時には該当する前記半二重通信回線での電力供給を断つATS−P符号処理器において、前記半二重通信回線を介してポーリング電文を送信する送信部とアンサ電文を受信する受信部との組が前記半二重通信回線の回線数以上設けられて前記半二重通信回線に対し個別に割り当てられており、同じ組に属する前記送信部と前記受信部が別のモデムICに搭載されており、前記モデムICは別の組に属する前記送信部と前記受信部を搭載しており、アンサ電文が正常か異常かに応じて前記地上子が正常か故障かを判定する電文判別手段が、ポーリング電文を折り返し受信したループバック電文が正常か異常かに応じて前記地上子の故障判定に加えて前記送信部と前記受信部が正常か故障かまで判定するようになっていることを特徴とするATS−P符号処理器。
【請求項2】
前記電文判別手段が、前記アンサ電文と前記ループバック電文とのうち何れか一方または双方について受信電文が正常か異常かの場合分けを行う際に、異常のときにはその異常がフレームの崩れていない軽度な異常なのかフレームの崩れた中度の異常なのか電文の受信すらない重度な異常なのかという細分化を行うようになっていることを特徴とする請求項1記載のATS−P符号処理器。
【請求項3】
前記半二重通信回線に割り当てられている前記送信部と前記受信部とが正常な間はポーリング電文を前記半二重通信回線に送出しない予備のモデムICが設けられており、前記送信部と前記受信部とのうち何れか一つ又は複数が故障したが地上子は正常であると前記電文判別手段が判定したときには、その故障部を搭載した前記モデムICに代えて前記の予備のモデムICの送信部または受信部を該当する前記半二重通信回線に割り当てるようになっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載されたATS−P符号処理器。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうち何れか一項に記載されたATS−P符号処理器を複数具備していて、そのうち一つには稼動系として前記地上子へポーリング電文を送信させるが他のものは待機系としてそこからは前記地上子にポーリング電文が送信されないようにするとともに、前記稼動系に故障が生じたときにはそれに代えて前記待機系の何れかを稼動させるようになっていることを特徴とするATS−P符号処理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−187997(P2012−187997A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52731(P2011−52731)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【Fターム(参考)】