説明

Al−Zn合金を外皮材とした2層クラッド管

【課題】耐食性をさらに向上させた2層クラッド管を提供する
【解決手段】2層アルミニウム合金クラッド管をMnを0.5〜1.5質量%、Cuを0.1〜0.8質量%、Siを0.2〜1.0質量%、Feを0.7質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる内管層と、Znを0.5〜4.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる外皮層を有し、該外皮層とのクラッド率を15〜25%とすることで耐食性が向上され、大気暴露環境下でも長期に渡り性能を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性を大幅に向上させたアルミニウム製の2層クラッド管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジエータ、コンデンサ、エバポレータ等をはじめとする自動車用アルミニウム製熱交換器は軽量化を目的として製造、使用されてきた。また、エアコンなどの空調設備においては、コスト面の観点から銅製の配管が使用されており、アルミニウム製配管の使用はなかった。しかし近年、銅の価格高騰から銅よりもアルミニウムの方がコスト面で優れる情勢となり、銅に替わってアルミニウムを配管に使用した空調設備用の熱交換器が注目されている。
【0003】
アルミニウム合金製管としては、Mnを有するアルミニウム合金製溝付管の外周に、内管層よりも卑な電極電位を有し、Znを有するアルミニウム合金シートを外周に沿うように形成し、シート縁面の突合せ面を溶接して外皮材を形成する2層クラッド管が知られている。(特許文献1を参照)
【0004】
また、内面および外面の耐食性に優れた多層管として、Si、Feを特定量含有するアルミニウム合金を筒状芯材とし、その外面に皮材としてZn含有アルミニウム合金のスリーブ状被覆材を長さ方向へ分割型に形成し、さらに筒状芯材の内面にZn又はAl-Zn合金が犠牲層として押出し前に溶射法により形成されているクラッド管が提案されている。(特許文献2を参照)
【0005】
さらに、Al-Mn合金の芯材を円筒状中空状ビレットとして、Al-Zn合金の外皮材用の押出管を円筒状の中空ビレットとして得て、芯材中空ビレットを外皮材中空ビレット内に挿入し、その2層中空ビレットを熱間押出および引抜加工することで形成した2層クラッド管が知られている。(特許文献3を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−121270
【特許文献2】特開平10−46312
【特許文献3】特開2008−267714
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
配管材に使用されているクラッド管は、耐食性の観点から外皮層を形成する外皮材にAl-Zn系合金のJIS7072などを使用するのが一般的である。また2層クラッド管において、全肉厚の中での外皮層の割合を示すクラッド率は、概ね10%前後である。
しかし、エアコン室外機などの空調設備は、数十年という長期間にわたって大気暴露環境におかれるため、10%程度の外皮材のクラッド層では、犠牲防食の効果が十分でなく、Znを有する外皮層が腐食によって消費され、孔食が芯材に達して最終的に貫通に至る。エアコン室外機などに使用される配管材は、大気暴露環境下でも数十年にわたって性能を維持させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み鋭意研究を行った結果なされたもので、芯材の外周に形成する外皮層のクラッド率を大幅に増加させ、かつZnの添加量を従来のJIS7072よりも多く添加し、耐食性をさらに向上させた2層クラッド管を提供するものである。
【0009】
請求項1の発明は、Mnを0.5〜1.5mass%、Cuを0.1〜0.8mass%、Siを0.2〜1.0mass%、Feを0.7mass%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる内管層と、Znを0.5〜4.0mass%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる外皮層を有し、該外皮層とのクラッド率が15〜25%であることを特徴とする耐食性に優れた2層アルミニウム合金クラッド管。
【0010】
請求項2の発明は、2層クラッド管の肉厚が0.3〜1.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れた2層アルミニウム合金クラッド管。
【発明の効果】
【0011】
以上に述べたように、本発明により製造される2層クラッド管は、従来の2層クラッド管よりも耐食性に優れる。よって、工業上顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例に用いた2層クラッドのアルミニウム合金クラッド管の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
内管層
まず、本発明における2層クラッド管の合金組成について説明する。本発明における2層クラッド管の内管層を形成する芯材の合金は、JIS3003に代表されるAl-Mn合金である。すなわち、Mnを0.5〜1.5mass%、Cuを0.1〜0.8mass%以下、Siを0.2〜1.0mass%、Feを0.7mass%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金であることが望ましい。
【0014】
以下に、前記合金元素の役割について説明する。Mnは強度向上に大きく寄与する。0.5質量%以下では、その効果が十分でなく、1.5質量%を超えると加工性が低下し、加工時に破断が生じやすくなる。Cuはアルミニウム合金中に固溶して強度を向上させることに寄与する。0.5mass%以下では、その効果が十分でなく、1.5mass%を超えると耐食性が低下する。また、SiはAl-Mn-Si系またはAl-Mn-Si-Cu系の金属間化合物を形成し、強度をさらに向上させるのに寄与する。0.2mass%以下では、その効果が十分でなく、1.0mass%を超えると、合金の加工性が低下し、加工時に破断が生じやすくなる。Feは不純物として混入することが多いが、上記の濃度以下であれば含有していてもかまわない。しかし、0.7mass%を超えると耐食性が低下する。
【0015】
外皮層
外皮層を形成する外皮材の合金は、JIS7072に代表されるAl-Zn合金である。すなわち、Znを0.5〜4.0mass%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金であることが望ましい。
【0016】
以下に、前記合金元素の役割について説明する。Znは、耐食性を向上させるのに寄与する。0.5mass%以下ではその効果が十分でなく、4.0mass%以上では、腐食速度が大きくなりすぎてしまい、長期間の大気暴露環境下では耐食性を維持できなくなる懸念がある。
本発明においては、1.0〜3.0mass%が最も好ましい。
【0017】
上記合金の他、不純物としてSiやFeが混入する事がある。Siにおいては0.6質量%以下であれば含有してもかまわない。しかし、その1.0mass%を超えると、合金の加工性が低下し、加工時に破断が生じやすくなる。Feにおいても、0.7mass%以下であれば含有していてもかまわない。しかし、0.7mass%を超えると耐食性が低下する。
【0018】
2層クラッド管
この2層クラッド管の外皮材のクラッド率は、全肉厚に対して15%〜25%が望ましく、さらに18〜20%が最も好ましい。15%未満では、犠牲防食を有する外皮層が薄すぎて、耐食性が劣り、25%を超えると内管層の耐圧性を維持できない懸念がある。
【0019】
この2層クラッド管の肉厚は、0.3〜1.5mmであることが望ましく、さらに0.8〜0.9mmが好ましい。0.3mm未満では、犠牲層の肉厚も薄すぎるために耐食性が低下する懸念がある。また1.5mmを超えると、肉厚が厚すぎるために加工性が低下する懸念がある。
【0020】
この2層クラッド管の内管層と外皮層との電位差は100〜300mV以内であることが望ましい。100mV未満では、電位差による犠牲防食効果が十分でなく、300mVを超えると、外皮層の腐食速度が大きくなりすぎてしまい、外皮層の減肉が加速され、早い段階で内管層を形成している芯材が大気環境中に露出し、発生した孔食が芯材を貫通させてしまう。そこで電位差を上記の範囲内にする事により、外皮層の腐食速度を抑制し、2層クラッド管の長寿命化が可能になる。
【0021】
本発明におけるアルミニウム合金クラッド管の製造方法は、特に規定されない。例えば、 前記したJIS 3003合金の円筒状芯材の外側に外皮材を被せ、組み合わせビレットを作製し、350℃〜600℃に加熱後、押出しを行い継ぎ目無しの2層クラッド管を得る。また、押出により得られた継目なし2層クラッド管を押出加工後に引抜加工を施した継ぎ目無しの2層クラッド管を得る事もできる。作製する2層クラッド管の内管層は、内面に連続また不連続の溝を有する溝付管でも良い。
【実施例】
【0022】
次に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。図1は本発明の一実施例に用いた2層クラッドのアルミニウム合金クラッド管の断面図を示している。
【0023】
図1において、1は2層クラッドのアルミニウム合金クラッド管、2はクラッド管を形成するAl-Zn合金のアルミニウム合金外皮層、3はクラッド管を形成するAl-Mn合金のアルミニウム合金内管層である。
【0024】
図1に示す2層クラッド管の外径φは7mm、全肉厚tは0.8mm、クラッド率は20%、すなわちクラッド厚さは160μmである。
【0025】
次に2層クラッド管の製造法の実施例について説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。本発明例の2層クラッドの中空ビレットは、内管層としての芯材合金は円筒状芯材(外径370mm、内径80mm、長さ9mm)である148mmφの芯材中空ビレットであり、外皮材は本発明例の合金である。また、各成分組成およびクラッド率(数値は質量%、残部はAlを示す)は表1に示すものとする。外皮材を495℃加熱後、常温の芯材中空ビレットの外側に外皮材を被せ、2層クラッドの中空ビレットを得た。2層クラッドの中空ビレットを460℃で間接押出行い、外径45mm、肉厚4.0mmの押出管とし、この押出管に引抜加工を繰返し施して、外径7mm、肉厚0.8mmの2層クラッド管を得た。
【0026】
該方法により得た各管の特性を以下の試験により、発明例および比較例として評価した。得られた結果を表1、表2、表3に示す。
(a)各本発明例および比較例の管の曲げ加工性を評価するために、曲げ加工を行った際の管の状態を目視で観察した。目視による観察で不具合の無いものを「○」、破断などの不具合があったものを「△」とした。
(b)各本発明例および比較例の管の耐圧性を評価するため、耐圧試験を行った際の管の状態を目視で観察した。リーク漏れなどの不具合が無いものを「○」、それ以外のものを「△」とした。
(c)各本発明例および比較例の管の外部耐食性を評価するために、腐食試験を2500時間および3000時間行った。試験後、供試管の表面腐食生成物を除去して、管の腐食状況を評価した。評価方法は、試験後に光学顕微鏡のより最大孔食深さを測定し、2500時間で心材まで孔食が到達しているものを「×」、2500時間で孔食が外皮層内にとどまっているものを「○」、3000時間で孔食が外皮層内にとどまっているものを「◎」とした。
(d)曲げ加工性、耐圧性および耐食性の結果から、各本発明例および比較例No.の管の特性を総合的に評価した。各試験項目において、「△」の数が0個の場合は「◎」、「△」の数が1個以上の場合は「○」、「△」の数が2個以上の場合は「△」、「×」が一個でもある場合には「×」とした。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


【0029】
【表3】

【0030】
表1、表2に示すように、実施例No.1〜27の2層アルミニウム合金クラッド管は、各元素の含有量およびクラッド率が本願発明の規定範囲内であるので、曲げ加工性、耐圧性および耐食性において良好な結果となった。
【0031】
一方、表3に示すように、比較例No.28、29、31、38は心材のMn、比較例No.30は心材のCu、比較例No.32、37は心材のFe、比較例No.33、34は心材のSi、比較例No.35、36は外皮層のZn、比較例No.39、40は外皮層とのクラッド率がそれぞれ本発明の規定範囲を外れたため、曲げ加工性、耐圧性および耐食性について総合的には良好とはいえない結果となった。
【符号の説明】
【0032】
1 2層クラッドのアルミニウム合金クラッド管
2 クラッド管を形成するAl-Zn合金のアルミニウム合金外皮層
3 クラッド管を形成するAl-Mn合金のアルミニウム合金内管層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnを0.5〜1.5質量%、Cuを0.1〜0.8質量%、Siを0.2〜1.0質量%、Feを0.7質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる内管層と、Znを0.5〜4.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる外皮層を有し、該外皮層とのクラッド率が15〜25%であることを特徴とする耐食性に優れた2層アルミニウム合金クラッド管。
【請求項2】
2層クラッド管の肉厚が0.3〜1.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れた2層アルミニウム合金クラッド管。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23711(P2013−23711A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157559(P2011−157559)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)