C型肝炎ウイルス複製系
【課題】HCV全ゲノム複製を支持することができ、かつウイルス粒子を産生し得る、改良されたインビトロ細胞培養系を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸;ならびに(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を含む細胞を提供する。本発明はまた、(a)C型肝炎ウイルスが複製し、(b)C型肝炎ウイルス生活環の結果として発現されるE1タンパク質および/またはE2タンパク質の他にも、C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2が発現されるような細胞も提供する。
【解決手段】本発明は、(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸;ならびに(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を含む細胞を提供する。本発明はまた、(a)C型肝炎ウイルスが複製し、(b)C型肝炎ウイルス生活環の結果として発現されるE1タンパク質および/またはE2タンパク質の他にも、C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2が発現されるような細胞も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で引用する文書はいずれも、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、C型肝炎ウイルス培養およびタンパク質発現の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
C型肝炎ウイルス(HCV)には、効率のよいインビトロ培養系がないので、ウイルスの構造および集合については、ほとんどわかっていない。HCVの非構造タンパク質の大半を含有するサブゲノムレプリコンは、ヘパトーム細胞株中で複製することが示されており[1(非特許文献1)]、トランスフェクション効率が改善されたさらなるサブゲノムレプリコンも開示されている[2(非特許文献2)、3(特許文献1)]。これらの系はHCV複製機序に関する詳細な研究を可能にしたが、それらのレプリコンに構造遺伝子が存在しないことは、ビリオンの集合が可能でないことを意味する。
参考文献4(非特許文献3)には、細胞培養中で全長HCVゲノムを持続性および一過性に複製させるための方法が記載されており、そこでは、変異型の「選択可能な全長」(selectable full−length:sfl)ゲノムが、(Huh−7細胞株に由来する)21−5細胞中で安定に複製することができ、そして全てのウイルスタンパク質を発現させることができた。これらの変異を選択可能なサブゲノムレプリコンに導入することにより、RNA複製と高いコロニー形成効率(ECF)とが可能になったものの、sflゲノムの場合、そのECFは、サブゲノムレプリコンと比較すると3〜4桁低かった。21−5培養物の上清にはウイルスRNAが見られたが、この作用はサブゲノムレプリコンでも見られたので、この放出はウイルス構造タンパク質の関与によるものではなく、むしろ非特異的機序によるものであったと、著者らは考えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第01/89364号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lohmammら(1999)Science 285:110−113
【非特許文献2】Blightら(2000)Science 290:1972−1974
【非特許文献3】Pietschmannら(2002)J Virol 76:4008−21
【非特許文献4】Kleinら(2004)J Virol 78:9257−69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HCVウイルス粒子のインビトロ集合は無細胞系では可能であるが[5]、効率のよい細胞系は2005年まで報告されなかった[6−8]。参考文献4に記載された21−5細胞はウイルス粒子を産生しないことがわかったので、HCV全ゲノム複製を支持することができ、かつウイルス粒子を産生し得るインビトロ細胞培養系、ならびに参考文献6〜8と比較して、さらなる改良された系は、依然として、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の開示)
参考文献4の著者らは、21−5細胞がウイルス粒子形成を支持できないのは、宿主細胞因子の欠如が理由であるかもしれないことを示唆した。これとは対照的に、本発明者らは、この不首尾は、HCV構造エンベロープタンパク質E1およびE2を発現できないことによって、少なくとも部分的には説明され得ると考えている。そこで本発明者らは、この不足を克服するために、これらのタンパク質をトランスに補完することを選択した。その結果得られる細胞は、HCV複製をより良く支持することができ、HCV粒子をより良く産生し得る。
したがって本発明は、(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸;ならびに(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を含む細胞を提供する。
【0008】
本発明は、(a)C型肝炎ウイルスが複製し、(b)C型肝炎ウイルス生活環の結果として発現されるE1タンパク質および/またはE2タンパク質の他にも、C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2が発現されるような細胞も提供する。したがってE1および/またはE2は、ウイルス生活環中にHCVゲノムから発現されるHCVポリタンパク質のタンパク質分解プロセシングから生じるE1/E2とは別個の形態で発現される。2つの異なるタイプのRNA、すなわちHCV RNAゲノムになるタイプと、E1および/またはE2タンパク質に翻訳されるタイプとが産生される。
【0009】
本発明は、(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を含み、(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2を発現し、そして(c)インビトロ培養で増殖し得る細胞も提供する。
【0010】
本発明は、以下の2つの核酸をトランスに含有する細胞も提供する:(a)C型肝炎ウイルスゲノム;ならびに(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2をコードする核酸。本発明は、以下の2つの核酸をトランスに含有する細胞も提供する:(a)C型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸;ならびに(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2をコードする核酸。
【0011】
本発明の細胞は、HCV複製を支持するために培養下で増殖させ得、HCVビリオンおよびE1/E2複合体をそこから精製し得る。
【0012】
本発明は、本発明の細胞を調製するための方法であって、(a)細胞にC型肝炎ウイルスゲノムおよび/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を導入する工程;(b)細胞にC型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を導入する工程を包含する方法も提供する。工程(a)と工程(b)とは別個に行ってもよく、または同時に行なってもよい。本発明は、細胞中でC型肝炎ウイルスを培養するためのインビトロでの方法であって、上記工程(a)および工程(b)、続いて(c)得られた細胞を培養する工程を包含する方法も提供する。
【0013】
本発明は、C型肝炎ウイルスのE1タンパク質およびE2タンパク質を調製するための方法であって、(a)本発明の細胞を培養する工程;ならびに(b)培養した細胞からE1タンパク質およびE2タンパク質を精製する工程を包含する方法も提供する。E1タンパク質およびE2タンパク質は好ましくは複合体の形態にあり、本発明は、本発明の方法によって得られ得るE1/E2複合体を提供する。
【0014】
本発明は、C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を含む細胞であって、その中に、C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を導入し得る細胞も提供する。同様に、本発明は、C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を含む細胞であって、その中に、C型肝炎ウイルスゲノムおよび/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を導入し得る細胞も提供する。本発明は、HCVのE1タンパク質および/またはE2タンパク質をコードする配列を含むベクターも提供する。このベクターは、インビトロでの細胞培養においてHCV複製を支持するという細胞の能力を強化するのに使用される。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
細胞であって、
(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸、ならびに
(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2の一方または両方をコードする核酸を含む、細胞。
(項目2)
前記C型肝炎ウイルスが複製し、C型肝炎ウイルス生活環の結果として発現されるE1および/またはE2タンパク質に加えて、C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2が発現される、項目1に記載の細胞。
(項目3)
前記E1および/またはE2が、ウイルス生活環中にHCVゲノムから発現されるHCVポリタンパク質のタンパク質分解プロセシングから生じるE1/E2とは別個の形態で発現される、項目1または2に記載の細胞。
(項目4)
前記細胞が、
(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を含み、
(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2を発現し、そして
(c)インビトロ培養で増殖し得る、
項目1〜3のいずれか一項に記載の細胞。
(項目5)
前記細胞が、以下の2つの核酸:
(a)C型肝炎ウイルスゲノム;ならびに
(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2をコードする核酸
をトランスに含有する、項目1〜4のいずれか一項に記載の細胞。
(項目6)
前記細胞が、以下の2つの核酸:
(a)C型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸;ならびに
(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2をコードする核酸
をトランスに含有する、項目1〜5のいずれか一項に記載の細胞。
(項目7)
項目1〜6のいずれか一項に記載の細胞を調製するための方法であって、
(a)細胞にC型肝炎ウイルスゲノムおよび/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を導入する工程;
(b)該細胞にC型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2の一方または両方をコードする核酸を導入する工程
を包含する、方法。
(項目8)
工程(a)と工程(b)とが別個に行なわれる、項目7に記載の方法。
(項目9)
工程(a)と工程(b)とが同時に行なわれる、項目7に記載の方法。
(項目10)
細胞中でC型肝炎ウイルスを培養するためのインビトロ方法であって、項目7〜9のいずれか一項に従って細胞を調製する工程、次に(c)得られた細胞を培養する工程を包含する、方法。
(項目11)
C型肝炎ウイルスのE1タンパク質およびE2タンパク質を調製するための方法であって、
(a)項目1〜6のいずれか一項に記載の細胞を培養する工程;ならびに
(b)培養した細胞からE1タンパク質およびE2タンパク質を精製する工程
を包含する、方法。
(項目12)
前記E1タンパク質および前記E2タンパク質がC型肝炎ウイルス非構造タンパク質のうちの1以上と共に精製される、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記E1タンパク質および前記E2タンパク質が複合体の形態にある、項目11または項目12に記載の方法。
(項目14)
項目13に記載の方法によって得られ得る、E1/E2複合体。
(項目15)
前記複合体がビリオン様粒子である、項目14に記載のE1/E2複合体。
(項目16)
前記ビリオン様粒子がC型肝炎ウイルス非構造タンパク質および/またはRNAのうちの1以上を含む、項目15に記載のE1/E2複合体。
(項目17)
C型肝炎ウイルスを処置または予防するためのワクチンであって、項目13〜16のいずれか一項のE1/E2複合体を含むワクチン。
(項目18)
C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を含む細胞であって、その中に、C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2の一方または両方をコードする核酸を導入し得る、細胞。
(項目19)
C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2の一方または両方をコードする核酸を含む細胞であって、その中に、C型肝炎ウイルスゲノムおよび/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を導入し得る、細胞。
【0015】
(細胞)
本発明の細胞は、HCV生活環およびその複製を支持するためにHCVゲノムを発現させることができ、HCV生活環中に産生されるE1タンパク質およびE2タンパク質とは別個に、E1タンパク質および/またはE2タンパク質を発現させ得る。したがって、ウイルスRNAゲノムから翻訳されたウイルスポリタンパク質のタンパク質分解プロセシングによるE1およびE2の産生が、別個の非HCV RNAから(例えば細胞性mRNAから)翻訳されるタンパク質によって補完される。
【0016】
HCVのE1タンパク質およびE2タンパク質は本来、グリコシル化されるので、本発明では一般に真核細胞を使用する。哺乳動物細胞、例えばヒト細胞を含む霊長類細胞を使用することが好ましい。HCVは本来、肝臓細胞に感染するので、肝臓由来の細胞を使用すると好都合である。
【0017】
代表的には、本発明で使用される細胞は細胞株、好ましくはパッケージング細胞株である。本発明での使用に好ましい細胞株は肝細胞癌、すなわち、「Huh7」として知られているヒトヘパトーム細胞株に由来する[9]。最も好ましい細胞株は、「21−5」として知られている、全長HCV複製を支持する、Huh7由来の細胞株である。他の好ましい細胞株は、細胞培養下での完全な複製を支持し得るHuh7の亜系統である、Huh−7.5、Huh−7.5.1[8]およびHuh−7.8である。Huh7細胞(およびそれらの誘導物)の継代培養によって誘導される細胞、ならびにHuh7細胞をα−インターフェロンおよび/またはγ−インターフェロンで処理することによって誘導される細胞も、使用され得る。参考文献[10]に開示されているように、HCVを許容する細胞株は、(a)HCVに感染させた細胞を培養すること;(b)その細胞をHCVから治癒させること;および(c)その治癒細胞の亜系統であってHCV複製を許容するものを同定することを含むプロセスによって調製され得る。
【0018】
他の樹立ヒトヘパトーム細胞株および樹立肝芽腫細胞株としては、HuH−6 cl−5、PLC/PRF/5、huH−1、およびhuH−4が挙げられる。Huh7細胞を、完全DMEM(例えば、2mM L−グルタミン、非必須アミノ酸、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコ改変最小必須培地)などの培地で単層として増殖させ得る。
【0019】
特定のウイルス株には特定の細胞タイプを使用することが好ましい場合があり、逆もまた同様である。
【0020】
本発明の細胞は、HCVゲノムからポリタンパク質を発現させると共に、補完的なE1タンパク質および/またはE2タンパク質も発現させる。その結果、本細胞は、ビリオンおよびウイルス様粒子(VLP)を含むHCV粒子を発現させるためのタンパク質構築ブロックを含む。したがってビリオンおよびVLPを本発明の細胞から調製し得る。これらはRNAゲノムを含んでも含まなくてもよい。本細胞はまた、E1およびE2の複合体を発現させ得る。本細胞はE1、E2、NS3およびNS5aの複合体も発現させ得る。
【0021】
以下でより詳細に述べるように、本発明の細胞はHCVゲノムおよび/またはHCVゲノムをコードする核酸を含む。HCVゲノムはウイルス感染によって細胞内に導入され得るか、またはウイルス感染(実際の感染または人工的感染)後もしくは当該ゲノムのDNAコピーからの転写後に、インサイチュで産生され得る。HCVゲノムまたはHCVゲノムをコードするDNAを細胞内に導入するための方法は、当技術分野では慣用されている。インビトロで転写されたHCVゲノムは、参考文献4に開示されているように、エレクトロポレーションを使ってHuh7細胞内に導入され得る(1μgの精製インビトロ転写物でエレクトロポレーションされた4×106個のHuh−7細胞または60μgのHCV RNAをエレクトロポレーションされた2.4×107個のHuh−7細胞)。
【0022】
本発明の細胞は、E1タンパク質および/またはE2タンパク質をコードする核酸も含む。そのような核酸を導入するための方法は、当技術分野では慣用されている。
【0023】
HCVゲノムおよびE1/E2核酸を両方とも発現させた場合、免疫蛍光染色を用いると、ドット状粒子を見ることができる。所望であれば、細胞を(例えばエキソソームの放出を引き起こすために)適切な放出剤で処理することなどにより、細胞からのこれらの粒子の放出を促進し得る。そのような薬剤としては、アルコール、ストレス状態などが挙げられる。非共有結合的E1/E2ヘテロ二量体は小胞体中に検出されており、この細胞区画から回収され得る。
【0024】
(C型肝炎ウイルスゲノム)
本発明の細胞はHCVゲノムおよび/またはHCVゲノムをコードする核酸を含む。したがって本細胞は、+鎖一本鎖RNAゲノムを含み得るか、または転写されて直接的または間接的に+鎖RNAゲノムを与え得る核酸を含み得る。例えば(本来のHCV生活環はDNA段階を含まないものの)ゲノムのDNAコピーが正しい向きに転写されると、HCVゲノムとして作用し得る(すなわち、HCVポリタンパク質の発現を指示することができ、そしてそのポリタンパク質は、正常なHCV生活環に見られるようにプロセシングされる)RNAが生じる。
【0025】
HCVゲノムRNAは、本来、5’キャップ(m7G5’ppp5’A)を含み、ポリAテールを含まず、5’非コード領域および3’非コード領域(NCR)の両方を伴っている。本発明で使用されるHCVゲノムには、代表的には、これらのエレメントが存在するが、HCVゲノムおよび/または同ゲノムをコードする核酸は、天然ゲノムには見られない1以上のエレメントを含んでもよい。例えば、インビトロ複製系で使用するHCVゲノムの場合、以下のエレメントのうちの1以上を含むことが普通である:例えばポリタンパク質の上流、ゲノムの5’末端近くに、選択マーカー(ネオマイシン耐性マーカーなど)をコードする配列;たとえ他の上流コード配列が存在してもポリタンパク質の翻訳が可能であるように、例えばポリタンパク質コード配列の上流に、内部リボソーム侵入部位(IRES)(EMCVに由来するものなど)。ゲノムの5’末端に5’T7プロモーターを持つ構築物が記述されているが[101]、これは好ましくない。
【0026】
HCVゲノムは、どのタイプ(例えば1、2、3、4、5、6)でも、どのサブタイプ(1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k、1l、1m、2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h、2i、2k、2l、2m、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3k、4a、4c、4d、4e、4f、4g、4h、4k、4l、4m、4n、4o、4p、4q、4r、4s、4t、5a、6a、6b、6d、6f、6g、6h、6i、6j、6k、6l、6m、6n)でもよい。この命名法はNIAIDの「Hepatitis C Virus(HCV)Sequence Database」[11]に説明されているように現在の標準であり、この命名法では、以前の遺伝子型7〜9が、参考文献12に基づいてタイプ6のサブタイプとして再分類されている。したがって、この新しい分類には、以前の分類I、II、III、IV、V、VI、4α、4β、7a、7b、7c/NGII/VII、7d、NGI、8a、8b、9a、9b、9c、10a/TD3および11aが含まれる。本発明での使用に適したHCV株の1つは、遺伝子型2aのJFH1株である[6]。HCVゲノムは野生型ゲノムに対して1以上の変異(挿入、欠失および/または置換を含む)を含んでもよく、あるいは1より多くの野生型ゲノムのハイブリッド、例えばサブタイプ2aの株(例えばJ6)とサブタイプ1aの株(例えばH77)とのキメラなどであってもよい[7]。ウイルスRNAレプリカーゼはプルーフリーディング活性を持たないので、ゲノムにおける変異は頻繁に起こり、その結果生じる変異型ゲノム(または「疑似種」)を容易に取得して解析し得る。参考文献4には、E1202G、T1280I、K1846TおよびS2197Pを含め、細胞適応のための変異体が記載されている。参考文献3には、トランスフェクション効率および二次継代(subpassage)に耐える能力を増加させる変異(例えばR1164G、S1172C、S1172P、A1174S、S1179I)を含むHCV改変体が記載されている。他の既知変異としては、L1757I、N2109D、P2327SおよびK2350Eが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。特定の宿主細胞には特定の変異を使用することが好ましい場合があり、逆もまた同様である。HCVのポリタンパク質はC、E1、E2、p7、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5AおよびNS5Bを全て含むことが好ましいものの、より大きな欠失および挿入も可能である(例えば、非構造タンパク質などの成熟コード領域の欠失、または非HCV配列の挿入)。サブゲノムHCV(すなわち、全ゲノムより小さいものを含むもの;代表的には、非構造タンパク質を含むが、構造タンパク質を含まないもの;例えば全長C、全長E1、全長E2を欠いているもの)でも本発明を使用し得るが、本発明の重要な利点は、それが全長ゲノムの複製を可能にするということである。
【0027】
本発明に従って使用されるHCVゲノムには、これらおよび他の変異が存在し得るが、HCVポリタンパク質(このポリタンパク質を発現されたHCVゲノムを複製し得るもの)の発現を指示するというゲノムの能力がこれらの変異によって失われることは、一般にない。
【0028】
HCV RNAまたはHCV RNAをコードする核酸は、細胞内に導入され得るか、または既に細胞の一部であり得る。例えば、21−5細胞株[4]は既にHCVに感染している。
【0029】
細胞がHCVゲノムをコードする核酸を含む場合、これはDNAまたはRNAの形態をとることができ、染色体核酸または染色体外(例えばエピソーム)核酸であり得る。HCVゲノムをコードするDNAプラスミドは便利に使用し得る。
【0030】
HCVゲノムとE1/E2タンパク質との両方をコードするDNAを使用し得る。このDNAは通常は2つの別個の転写物:(i)HCVゲノム(または場合によりアンチゲノム)、および(ii)E1/E2タンパク質をコードするmRNAを有するが、(i)HCVゲノム(またはアンチゲノム)およびE1/E2のコード配列を含み、下流配列の翻訳を制御するためにIRESを伴う、単一の転写物を持つことも可能である。
【0031】
HCVゲノムは代表的には、レプリコン(すなわち自分自身のコピーの生成を指示し得す核酸)の形態で含まれる。ゲノムレプリコン系またはサブゲノムレプリコン系を用いる細胞ベースのHCV複製系は周知である。レプリコンはウイルスRNAのセンス鎖に基づくが、本発明では、センス鎖に変換されてレプリコンを与えることができる相補的配列を利用することもできる。レプリコンは、例えばレポーター遺伝子などの非HCV遺伝子も含有し得る。
【0032】
(E1および/またはE2をコードする核酸)
本発明の細胞は、E1およびE2の一方または好ましくは両方をコードする核酸を含む。この核酸はHCVゲノムとは別個であり、HCVゲノムをコードするどの核酸とも別個である。しかし、補完的E1およびE2の配列は、好ましくは、HCVポリタンパク質中に見出されるE1配列およびE2配列と同じである。
【0033】
E1および/またはE2をコードする核酸はDNAであることも、RNAであることもできる。DNAベクターは好ましい。核酸は染色体核酸または染色体外(例えばエピソーム)核酸であり得る。
【0034】
細胞にE1およびE2を導入するための好ましい核酸ベクターはレトロウイルスベクターであり、それは組込み型ベクターであってもよい。したがって、E1配列およびE2配列をレトロウイルスのRNAゲノムにインサートとして導入し得る。逆転写(そして該当する場合は組込み)後は、E1配列およびE2配列が細胞内でDNAの形態をとる。他の適切なベクターとしてはDNAプラスミドが挙げられる。
【0035】
E1およびE2を両方とも発現させる場合、これらは同じ核酸から発現させてもよいし、異なる核酸から発現させてもよい。例えば、両方のタンパク質をコードする1つのプラスミド(例えば2つの異なる遺伝子、またはIRESを有する1つの遺伝子)を使用してもよく、または2つのプラスミドを使用してもよい。さらにまた、これらのタンパク質は互いに別個に翻訳されてもよいし、HCVポリタンパク質と同様にしてタンパク質分解的に切断されて分離したE1およびE2を与える単一のポリペプチドとして翻訳されてもよい。
【0036】
E1/E2発現の制御は一般にプロモーターの制御を受ける。本発明では、構成的プロモーターを使用することも、制御可能なプロモーターを使用することもできる。好ましいプロモーターは、糖分解酵素に由来するもの、例えばホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターである。ヒトプロモーターが好ましく、HCV E1および/またはE2は、好ましくは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(hPGK)の制御を受ける。
【0037】
本核酸は、E1およびE2を発現することに加え、p7を発現してもよい。別法として、E1またはE2の一方のみと同じ核酸からp7を発現させてもよく、あるいはE1およびE2とは異なる核酸からp7を発現させてもよい。例えば、E1、E2およびp7にそれぞれ1つのプラスミドを使用してもよい。
【0038】
(E1/E2組成物)
E1およびE2タンパク質は、本発明に従って発現させた場合、一緒に局在することが見出された。そのため、これらを細胞から共に精製し得る。次に、E1/E2複合体(例えばヘテロ二量体)は、HCV感染を処置および/または予防するためのワクチンなどといった免疫原性組成物において例えば活性成分として使用され得る。
【0039】
本発明の細胞によって産生されるビリオンおよび/またはVLPも、免疫原性組成物に活性成分として使用され得る。これらのビリオン/VLPにRNAが含まれる場合、RNAは好ましくはサブゲノムである。
【0040】
本発明の組成物は、薬学的に許容され得るキャリアを含む薬学的組成物であり得る。そのような組成物は、E1/E2複合体を薬学的に許容され得るキャリアと混合する工程を含むプロセスを使って調製され得る。
【0041】
代表的な「薬学的に許容され得るキャリア」としては、当該組成物を受容する個体にとって有害な抗体の産生をそれ自体が誘導することのない任意のキャリアが挙げられる。適切なキャリアは、代表的には、大きくてゆっくり代謝される高分子(例えば、タンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマー状アミノ酸、アミノ酸コポリマー、および脂質凝集体(例えば油滴またはリポソーム))などである。そのようなキャリアは当業者には周知である。ワクチンは水、食塩水、グリセロールなどの希釈剤も含有することができる。さらに、例えば湿潤または乳化剤、pH緩衝物質、ショ糖などの補助物質も存在し得る。無菌で発熱物質を含まないリン酸緩衝生理食塩水は代表的キャリアである(例えば注射用水に基づくもの)。薬学的に許容され得る賦形剤の詳細な考察は参考文献13において入手可能である。
【0042】
本発明の組成物は、代表的には、乾燥形態(例えば凍結乾燥形態)よりむしろ、水性形態(例えば溶液または懸濁液)である。水性組成物は、他の材料を凍結乾燥形態から再構成するのにも適している。本発明の組成物がそのような即時再構成に使用されるべきである場合、本発明はキットも提供する。このキットは、二本のバイアルを含んでもよく、または1本の充填済み注射器と1本のバイアルとを含んでもよい(注射に先だって、注射器の水性内容物がバイアルの乾燥内容物を再活性化するために使用される)。
【0043】
本発明の組成物はバイアルに入れて提供されてもよく、または充填済み注射器に入れて提供されてもよい。注射器は針を付けて供給されてもよく、または針を付けずに供給されてもよい。組成物は1回用量型または複数回用量型に包装され得る。注射器は一般に1回用量の組成物を含む。これに対して、バイアルは1回用量または複数回用量を含むことができる。したがって、複数回量型には、バイアルの方が充填済み注射器より好ましい。
【0044】
有効投薬体積は慣用的に確立され得るが、本組成物の代表的なヒト用量は、例えば筋肉内注射の場合、約0.5mlの体積を持つ。
【0045】
組成物のpHは、好ましくは6と8との間、より好ましくは6.5と7.5との間(例えば約7)である。Tris緩衝液、リン酸緩衝液、またはヒスチジン緩衝液などの緩衝液を使用することにより、安定したpHを維持することができる。本発明の組成物は一般に緩衝液を含む。組成物が水酸化アルミニウム塩を含む場合は、例えば1〜10mM(好ましくは約5mM)のヒスチジン緩衝液[14]を使用することが好ましい。本組成物は無菌である、および/または発熱物質を含まないことができる。本発明の組成物は、ヒトに関して等張性であり得る。組成物は、好ましくは、HCV RNAおよび/またはHCVビリオンを含まない。
【0046】
本発明の組成物は免疫原性であり、より好ましくはワクチン組成物である。本発明によるワクチンは、予防用(すなわち感染症を防止するため)であっても、治療用(すなわち感染症を処置するため)であってもよいが、代表的には予防用である。ワクチンとして使用される免疫原性組成物は免疫有効量の抗原を含み、必要に応じて他の任意の成分を含む。「免疫有効量」とは、その量を、単回投与で、または一連の投与の一部として、個体に投与することが、処置または予防に有効であることを意味する。この量は、処置される個体の健康状態および身体状態、年齢、処置される個体の分類群(例えば非ヒト霊長類、霊長類など)、その個体の免疫系が持つ抗体合成能力、所望する保護の程度、ワクチンの処方、処置医による医学的状況の評価、および他の関連要因に依存して変動する。この量は、慣用的な試行によって決定することができる比較的広い範囲に収まると予想される。
【0047】
組成物は注射剤として、液状の溶液または懸濁液の形で調製され得る。組成物は、例えば微粉末を用いた吸入器またはスプレーとして、肺投与用に調製され得る。組成物は坐剤または膣坐薬として調製され得る。組成物は、鼻、耳または眼への投与のために、例えばスプレー剤、滴剤、ゲル剤または粉末剤として調製され得る[例えば参考文献15および16]。筋肉内投与用の注射剤が代表的である。
【0048】
本発明の組成物は、複数回用量形式で包装される場合は特に、抗微生物剤を含み得る。
チオメルサールおよび2−フェノキシエタノールなどの抗微生物剤はワクチンには一般に見出されるが、水銀を含まない保存剤を使用するか、保存剤を全く使用しないことが好ましい。
【0049】
本発明の組成物は界面活性剤、例えば、Tween 80などのTween(ポリソルベート)を含み得る。界面活性剤は一般に低レベルで、例えば<0.01%で、存在する。
【0050】
本発明の組成物は、張性を得るためにナトリウム塩(例えば塩化ナトリウム)を含むことができる。10±2mg/mlのNaCl濃度が代表的である。塩化ナトリウムの濃度は好ましくは約9mg/mlである。
【0051】
本発明の組成物は一般に、他の免疫調節剤と一緒に投与される。特に、組成物は通常、1以上のアジュバントを含む。そして本発明は、本発明の組成物を調製するためのプロセスであって、本発明の小胞をアジュバントと、例えば薬学的に許容され得るキャリア中で混合する工程を包含するプロセスを提供する。適切なアジュバントとしては、以下が挙げられるが、それらに限定されるわけではない:
(A.無機物含有組成物)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適した無機物含有組成物には、アルミニウム塩およびカルシウム塩などの無機塩が含まれる。本発明は、水酸化物(例えばオキシ水酸化物)、リン酸塩(例えばヒドロキシリン酸塩、オルトリン酸塩)、硫酸塩などの無機塩[例えば参考文献17の第8章および第9章を参照されたい]、または異なる無機化合物の混合物を包含し、化合物は任意の適切な形態(例えばゲル、結晶、非晶質など)をとり、吸着が好ましい。無機物含有組成物は、金属塩の粒子として処方され得る[18]。
【0052】
代表的なリン酸アルミニウムアジュバントは、0.6mg Al3+/mlで含まれる、PO4/Alモル比が0.84と0.92との間の非晶質ヒドロキシリン酸アルミニウムである。低用量のリン酸アルミニウムによる吸着(例えば1用量あたり1コンジュゲートあたり50〜100μg Al3+)を使用し得る。リン酸アルミニウムを使用し、抗原をアジュバントに吸着させないことを望む場合は、(例えばリン酸緩衝液を使用することにより)溶解した状態の遊離リン酸イオンを含めることが好ましい。
【0053】
アルミニウムアジュバントの代表的な用量は約3.3mg/ml(Al3+濃度として表現)である。
【0054】
(B.油エマルジョン)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適した油エマルジョン組成物としては、スクアレン−水エマルジョン、例えばMF59[参考文献17の第10章;参考文献19も参照されたい](マイクロフルイダイザーを使ってサブミクロン粒子へと処方された5%スクアレン、0.5% Tween80、および0.5% Span85)が挙げられる。完全フロイントアジュバント(CFA)および不完全フロイントアジュバント(IFA)も使用され得る。
【0055】
(C.サポニン処方物[参考文献17の第22章])
本発明ではサポニン処方物もアジュバントとして使用し得る。サポニンは、広範囲にわたる植物種の樹皮、葉、幹、根、そしてさらには花にも見出される異種のステロール配糖体およびトリテルペノイド配糖体群である。キラヤ(Quillaia saponaria Molina)の木の樹皮から得られるサポニンはアジュバントとして広く研究されてきた。Smilax ornata(サルサプリラ(sarsaprilla))、Gypsophilla paniculata(ブライダルベール(brides veil))、およびSaponaria officianalis(サボンソウ)由来のサポニンも市販されている。サポニンアジュバント処方物としては、QS21などの精製処方物の他、ISCOMなどの脂質処方物も挙げられる。QS21はStimulonTMとして販売されている。
【0056】
サポニン組成物はHPLCおよびRP−HPLCを使って精製されている。QS7、QS17、QS18、QS21、QH−A、QH−BおよびQH−Cを含め、これらの技法を使った特定の精製画分が同定されている。サポニンは好ましくはQS21である。QS21の生産方法は参考文献20に開示されている。サポニン処方物はコレステロールなどのステロールも含み得る[21]。
【0057】
サポニン類とコレステロール類との組み合わせを使って、免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれるユニークな粒子を形成させることができる[参考文献17の第23章]。ISCOMは代表的には、ホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンなどのリン脂質も含む。既知のサポニンはどれでもISCOMに使用し得る。ISCOMは、好ましくは、QuilA、QHAおよびQHCのうちの1以上を含む。ISCOMは参考文献21〜23にさらに詳しく記述されている。必要に応じて、ISCOMは余分な界面活性剤を欠いてもよい[24]。
【0058】
サポニンベースのアジュバントの開発に関する総説は、参考文献25および26に見出すことができる。
【0059】
(D.ビロゾームおよびウイルス様粒子)
本発明ではビロゾームおよびウイルス様粒子(VLP)もアジュバントとして使用され得る。これらの構造物は一般に、ウイルスに由来する1以上のタンパク質を含有し、このタンパク質は、必要に応じて、リン脂質と組み合わされるか、またはリン脂質を使って処方される。これらは一般に非病原性、非複製性であり、一般に天然ウイルスゲノムを一切含有しない。ウイルスタンパク質は組換え生産されるか、またはウイルス全体から単離され得る。ビロゾームまたはVLPでの使用に適したこれらのウイルスタンパク質としては、インフルエンザウイルスに由来するタンパク質(HAまたはNAなど)、B型肝炎ウイルスに由来するタンパク質(コアタンパク質またはキャプシドタンパク質など)、E型肝炎ウイルスに由来するタンパク質、麻疹ウイルスに由来するタンパク質、シンドビスウイルスに由来するタンパク質、ロタウイルスに由来するタンパク質、口蹄疫ウイルスに由来するタンパク質、レトロウイルスに由来するタンパク質、ノーウォークウイルスに由来するタンパク質、ヒトパピローマウイルスに由来するタンパク質、HIVに由来するタンパク質、RNAファージに由来するタンパク質、Qβファージに由来するタンパク質(コートタンパク質など)、GAファージに由来するタンパク質、frファージに由来するタンパク質、AP205ファージに由来するタンパク質、およびTyに由来するタンパク質(レトロトランスポゾンTyタンパク質p1など)が挙げられる。VLPは参考文献27〜32でさらに詳しく論じられている。ビロゾームは例えば参考文献33でさらに詳しく論じられている。
【0060】
(E.細菌誘導体または微生物誘導体)
本発明での使用に適したアジュバントとしては、腸内細菌リポ多糖(LPS)の無毒性誘導体、リピドA誘導体、免疫刺激オリゴヌクレオチドならびにADPリボシル化毒素およびその無毒化誘導体などといった細菌誘導体または微生物誘導体が挙げられる。
【0061】
LPSの無毒性誘導体としてはモノホスホリルリピドA(MPL)および3−O−脱アシル化MPL(3dMPL)が挙げられる。3dMPLは、4,5または6アシル化鎖を持つ3脱−O−アシル化モノホスホリルリピドAの混合物である。好ましい「小粒子」状の3脱−O−アシル化モノホスホリルリピドAが参考文献34に開示されている。3dMPLのそのような「小粒子」は、0.22μm膜による滅菌濾過が可能なほど小さい[34]。他の無毒性LPS誘導体としては、アミノアルキルグルコサミニドリン酸誘導体、例えばRC−529などの、モノホスホリルリピドA模倣物が挙げられる[35,36]。
【0062】
リピドA誘導体としては、OM−174などの大腸菌(Escherichia coli)に由来するリピドAの誘導体が挙げられる。OM−174は例えば参考文献37および38に記載されている。
【0063】
本発明においてアジュバントとして使用するのに適した免疫刺激オリゴヌクレオチドとしては、CpGモチーフ(リン酸結合によってグアノシンに連結された非メチル化シトシンを含有するジヌクレオチド配列)を含むヌクレオチド配列が挙げられる。パリンドローム配列またはポリ(dG)配列を含有する二本鎖RNAおよびオリゴヌクレオチドも、免疫刺激性であることが示されている。
【0064】
これらのCpGは、ホスホロチオエート修飾などのヌクレオチド修飾/類似体を含むことができ、二本鎖または一本鎖であり得る。参考文献39、40および41には、例えば2’−デオキシ−7−デアザグアノシンによるグアノシンの置換など、可能な類似体置換が開示されている。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント作用は、参考文献42〜47で、さらに論じられている。
【0065】
モチーフGTCGTTまたはTTCGTTなどのCpG配列は、TLR9に関し得る[48]。CpG配列は、Th1免疫応答の誘導に特異的(例えばCpG−A ODN)であってもよく、またはB細胞応答の誘導に特異的(例えばCpG−B ODN)であってもよい。CpG−A ODNおよびCpG−B ODNは参考文献49〜51で論じられている。CpGは、好ましくは、CpG−A ODNである。
【0066】
CpGオリゴヌクレオチドは、好ましくは、5’末端を受容体認識に利用することができるように構築される。必要に応じて、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列を、それらの3’末端で結合して、「イムノマー(immunomer)」を形成させてもよい。例えば参考文献48および52〜54を参照されたい。
【0067】
本発明では細菌ADPリボシル化毒素およびその無毒化誘導体をアジュバントとして使用し得る。このタンパク質は、好ましくは、大腸菌(大腸菌熱不安定性エンテロトキシン「LT」)、コレラ(「CT」)、または百日咳(「PT」)に由来する。粘膜アジュバントとしての無毒化ADPリボシル化毒素の使用は参考文献55に、また非経口アジュバントとしての使用は参考文献56に記載されている。この毒素またはトキソイドは、好ましくは、AサブユニットおよびBサブユニットを両方とも含むホロ毒素の形態にある。Aサブユニットは、好ましくは、無毒化変異を含有し、Bサブユニットは、好ましくは、変異していない。アジュバントは、好ましくは、LT−K63、LT−R72、およびLT−G192などの無毒化LT変異体である。ADPリボシル化毒素およびその無毒化誘導体、特にLT−K63およびLT−R72の、アジュバントとしての使用は、参考文献57〜64に見出すことができる。アミノ酸置換に関する参照番号は、好ましくは、参考文献65に記載されているADPリボシル化毒素のAサブユニットおよびBサブユニットの整列に基づき、この参考文献は、参照によりその全体が、特に本明細書に援用される。
【0068】
(F.ヒト免疫調節物質)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適したヒト免疫調節物質としては、インターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−12[66]など)[67]、インターフェロン(例えばインターフェロンγ)、マクロファージコロニー刺激因子、および腫瘍壊死因子などのサイトカインが挙げられる。
【0069】
(G.生体接着剤および粘膜付着剤)
本発明では生体接着剤および粘膜付着剤もアジュバントとして使用され得る。適切な生体接着剤としては、エステル化ヒアルロン酸ミクロスフェア[68]または粘膜付着剤(例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖およびカルボキシメチルセルロースの架橋誘導体)が挙げられる。本発明ではキトサンおよびその誘導体もアジュバントとして使用し得る[69]。
【0070】
(H.微粒子)
本発明では微粒子もアジュバントとして使用し得る。生分解性であってかつ無毒性である材料(例えばポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリカプロラクトンなど;ポリ(ラクチド−co−グリコリド)が好ましい)から形成され、そして必要に応じて、(例えばSDSで)負に荷電した表面を持つように処理されるかまたは(例えばCTABなどのカチオン性界面活性剤で)正に荷電した表面を持つように処理された、微粒子(すなわち直径約100nm〜約150μm、より好ましくは直径約200nm〜約30μm、最も好ましくは直径約500nm〜約10μmの粒子)。
【0071】
(I.リポソーム(参考文献17の第13章および第14章))
アジュバントとしての使用に適したリポソーム処方物の例は、参考文献70〜72に記載されている。
【0072】
(J.ポリオキシエチレンエーテル処方物およびポリオキシエチレンエステル処方物)
本発明での使用に適したアジュバントとしては、ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステルが挙げられる[73]。そのような処方物には、さらに、オクトキシノールと組み合わされたポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤[74]、ならびにオクトキシノールなどの少なくとも1つのさらなる非イオン性界面活性剤と組み合わされたポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはエステル界面活性剤[75]が含まれる。好ましいポリオキシエチレンエーテルは以下の群から選択される:ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(ラウレス9)、ポリオキシエチレン−9−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−8−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−4−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−35−ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテル。
【0073】
(K.ポリホスファゼン(PCPP))
PCPP製剤は、例えば参考文献76および77に記載されている。
【0074】
(L.ムラミルペプチド)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適したムラミルペプチドの例としては、N−アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、およびN−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミンMTP−PE)が挙げられる。
【0075】
(M.イミダゾキノロン化合物)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適したイミダゾキノロン化合物の例としては、イミクアモド(Imiquamod)およびその同族体(例えば「レシキモド3M」)が挙げられ、それらは参考文献78および79にさらに記述されている。
【0076】
本発明は、上述したアジュバントのうちの1以上の局面の組み合わせも含み得る。例えば、本発明では以下のアジュバント組成物を使用し得る:(1)サポニンおよび水中油型エマルジョン[80];(2)サポニン(例えばQS21)+無毒性LPS誘導体(例えば3dMPL)[81];(3)サポニン(例えばQS21)+無毒性LPS誘導体(例えば3dMPL)+コレステロール;(4)サポニン(例えばQS21)+3dMPL+IL−12(必要に応じて+ステロール)[82];(5)3dMPLと、例えばQS21および/または水中油型エマルジョンとの組み合わせ[83];(6)10%スクアラン、0.4% Tween80TM、5%プルロニックブロックポリマーL121、およびthr−MDPを含有するSAFであって、マイクロフルイダイザーでサブミクロンエマルジョンにするか、ボルテックスによってさらに大粒径のエマルジョンを生成させたもの;(7)2%スクアレン、0.2% Tween80、ならびにモノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)および細胞壁骨格(CWS)からなる群より選択される1以上の細菌細胞壁成分(好ましくはMPL+CWS(DetoxTM)を含有する、RibiTMアジュバントシステム(RAS)(Ribi Immunochem);ならびに(8)1以上の無機塩(アルミニウム塩など)+LPSの無毒性誘導体(3dMPLなど)。
【0077】
免疫刺激剤として作用する他の物質が、参考文献17の第7章に開示されている。
【0078】
アルミニウム塩アジュバントの使用は特に好ましく、一般的には抗原をそのような塩に吸着させる。本発明の組成物では、抗原の一部は水酸化アルミニウムに吸着させるが、他の抗原はリン酸アルミニウムと会合させておくということも可能である。しかし一般的には、塩を1つだけ使用し(例えば水酸化物だけまたはリン酸塩だけを使用し)、両方は使用しないことが好ましい。全ての小胞を吸着させる必要はない。すなわち一部または全部が溶解状態で遊離していてもよい。
【0079】
(処置の方法)
本発明は、哺乳動物の免疫応答を惹起するための方法であって、その哺乳動物に本発明の薬学的組成物を投与することを包含する方法も提供する。免疫応答は、好ましくは防御であり、好ましくは抗体が関与する。本方法では、HCVに対する初回免疫を既に受けている患者における追加免疫応答を惹起することもできる。
【0080】
哺乳動物は好ましくはヒトである。ワクチンが予防用である場合、ヒトは、好ましくは、小児(例えば幼児もしくは乳児)またはティーンエージャーであり、ワクチンが治療用である場合、ヒトは、好ましくは、成人である。小児用のワクチンを、例えば安全性、投薬量、免疫原性などを評価するために、成人に投与してもよい。
【0081】
本発明は、医薬として使用するための本発明のE1/E2複合体も提供する。この医薬は、好ましくは、哺乳動物の免疫応答を惹起することができ(すなわち免疫原性組成物であり)、より好ましくはワクチンである。
【0082】
本発明は、哺乳動物の免疫応答を惹起するための医薬の製造における本発明のE1/E2複合体の使用も提供する。
【0083】
これらの使用および方法は、好ましくは、HCVによって引き起こされる疾患(例えば肝炎)の予防用および/または処置用である。
【0084】
治療的肝炎処置の効力をチェックするための方法は当技術分野では知られている。予防的処置の効力をチェックする一方法では、当該組成物の投与後に、E1/E2抗原に対する免疫応答をモニタリングする工程を含む。本発明の組成物の免疫原性は、それらを試験対象(例えば12〜16ヶ月齢の小児、または動物モデル)に投与した後、ELISA力価(GMT)などの標準的パラメータを決定することによって決定され得る。これらの免疫応答は一般に、組成物投与の約4週間後に決定され、組成物の投与前に決定した値と比較される。
【0085】
一般に、本発明の組成物は、患者に直接投与される。直接送達は、非経口注射(例えば皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、筋肉内注射、もしくは組織の間質腔への注射)によって、または直腸投与、経口投与、膣投与、局所外用、経皮投与、鼻腔内投与、眼投与、耳投与、肺投与もしくは他の粘膜投与によって、達成され得る。大腿部または上腕への筋肉内投与が好ましい。注射は針(例えば皮下針)を通して行なわれ得るが、これに代えて無針注射を使用してもよい。代表的な筋肉内用量は0.5mlである。
【0086】
投薬処置は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであり得る。複数回投与は、一次免疫スケジュールおよび/または追加免疫スケジュールで使用され得る。一次投与スケジュールに続いて、追加投与スケジュールを行なうことができる。初回投与間(例えば4〜16週間)および初回投与と追加投与との間の適切なタイミングは、慣用的に決定され得る。
【0087】
本発明は全身免疫および/または粘膜免疫を惹起するために使用され得る。
【0088】
(一般事項)
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」および「からなる(consisting)」を包含する。例えば、Xを「含む」組成物は、もっぱらXからなってもよいし、何か他のものを含んでもよい(例えばX+Y)。
【0089】
数値xに関して「約」という用語は、例えばx±10%を意味する。
【0090】
「実質的に」という単語は、「完全に」を排除しない。例えばYを「実質的に含まない」組成物は、Yを全く含まなくてもよい。必要な場合は、「実質的に」という用語を本発明の定義から省略することができる。
C型肝炎ウイルスに関する詳細な情報は、その生活環、複製、培養条件、ゲノム、ポリタンパク質、タンパク質分解プロセッシングなどを含めて、参考文献84の第32〜34章に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、rvE1809(R809)レトロウイルスベクターを生成させ、細胞をそれに感染させるために使用した方法の概略図を示す。
【図2】図2は、R809ベクターをトランスフェクトしたHepG2、Huh−7または21−5細胞のウェスタンブロットを示す。染色抗体は抗E1/E2である。
【図3】図3は、抗E1E2、抗コアまたは抗E2を使った免疫沈降後の、抗E1/E2抗体で染色した、21−5細胞および培養上清のウェスタンブロットを示す。図3は非還元ゲルである。
【図4】図4は、抗E1E2、抗コアまたは抗E2を使った免疫沈降後の、抗E1/E2抗体で染色した、21−5細胞のウェスタンブロットを示す。図4は還元ゲルである。
【図5】図5は、図3と同様であるが、染色抗体は抗E1/E2ではなく抗コアである。
【図6】図6は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2または抗コアのいずれかで染色した。これら2つの個別の染色を重ね合わせると、E1/E2とコアとが一緒に局在することが示される。
【図7】図7は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2または抗コアのいずれかで染色した。これら2つの個別の染色を重ね合わせると、E1/E2とコアとが一緒に局在することが示される。
【図8】図8は、個々の21−5/R809細胞の免疫蛍光解析を示す。E1/E2を発現させる細胞の一部はコアタンパク質を発現しておらず、コアを発現する細胞の一部はE1/E2を発現していなかった。
【図9】図9は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。E1およびE2は、さまざまな形状、寸法および個々の分布を持つ「ドット」に構造化される。
【図10】図10は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。E1およびE2の「ドット」は、非構造タンパク質NS3と部分的に一緒に局在することを示す。
【図11】図11は、HCVレプリコンを欠くHuh7/R809の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2で染色した。E1/E2はドット状の分布を示すが、標識は21−5/R809細胞の場合の約5分の1だった。
【図12】図12は、約3μmの最大長を持つ細胞に沿ったE1/E2の分布の3次元グラフィック表示を示す。
【図13】図13は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2と抗カルネキシン(CNX)または抗ERP60のいずれかとで染色した。重ね合わせにより、E1/E2は標準的なERマーカーであるCNXおよびERP60と全く一緒に局在しないことが示唆される。
【図14】図14は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2と抗カルネキシン(CNX)または抗ERP60のいずれかとで染色した。重ね合わせにより、E1/E2は標準的なERマーカーであるCNXおよびERP60と全く一緒に局在しないことが示唆される。
【図15】図15は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2および抗GM130で染色した。重ね合わせにより、E1/E2とGM130とは一緒に局在しないことが示唆される。
【図16】図16は、IFN−αによる細胞培養物の処理前および処理後の21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2で染色した。IFN−αで処理した細胞は、E1およびE2の代表的なERパターン分布を失う。
【図17】図17は、細胞培養物のIFN−α処理後のHCV RNAのレベルを示す。
【図18】図18は、細胞培養物のIFN−α処理後のリボソームRNAのレベルを示す。
【図19】図19は、分画遠心分離後の画分のウェスタンブロットを示す。
【図20】図20は、E1およびE2の大半がNP−40耐性膜と会合し、細胞内脂質ラフトのマーカーであるカベオリン−2と一緒に分画されることを実証する膜浮遊解析の結果を示す。
【図21】図21は、レプリコン細胞株におけるHCV糖タンパク質E1/E2の発現を示す。(A)HIV gag/polタンパク質、ウイルスエンベロープタンパク質(VSV−G)、HIV調節タンパク質revをコードするプラスミド、ならびにヒトホスホグリセロキナーゼ(hPGK)プロモーターの制御下にキャプシド形成シグナルおよびE1E2p7転写単位をコードする自己不活化型レンチウイルスベクターを同時トランスフェクトしたHEK293T細胞で、VSV−シュードタイプ粒子を産生させた。(B)Huh−7および21−5形質導入細胞株におけるE1/E2発現を、抗E1/E2チンパンジー抗血清L559を用いる免疫蛍光解析によって検出した[85]。E1/E2は赤色で視覚化され、青色は核のDAPI染色を表す。(C)21−5および21−5 R809から得た細胞溶解物を、コンフォメーショナルモノクローナル抗体CBH−2で免疫沈降させ、その免疫沈降物を抗E1/E2チンパンジー抗血清L559でブロットして、E1およびE2の両方を明らかにした。
【図22】図22は、HCV糖タンパク質E1およびE2が、コア、NS3およびNS5Aと一緒に局在することを示す。接種の1日後に、21−5および21−5R809を、コア、NS3またはNS5Aに対するマウスモノクローナル抗体(元は緑色として検出される)と抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は赤色として検出される)とで二重染色した。
【図23】図23は、HCV構造タンパク質およびHCV非構造タンパク質の、新生RNAが一緒に局在することを示す。(A)接種の1日後に、21−5R809細胞を固定し、抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は赤色)、NS5Aに対するマウスモノクローナル抗体7−D4(元は緑色)およびNS3に対するマウスモノクローナル抗体MMM33(元は青色)で染色した。(B)リポフェクトアミン2000を使って21−5R809をトランスフェクトし、そしてBrUTPで2時間または4時間、標識した。細胞を、抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は赤色)、NS3に対するマウスモノクローナル抗体MMM33(元は青色)、およびBrdUTPに対するモノクローナル抗体(元は緑色)で染色した。(C)では、細胞を4時間パルスし、(B)と同様に染色した。底面および側面の帯は、表示した線を通るz切片を表し、斑紋様構造をしたE1/E2、NS3およびRNAが一緒に局在することを示している。バーは5μm。
【図24】図24は、HCV RNA複製を支持する異なる細胞株におけるHCV非構造タンパク質の分布を示す。接種の1日後に、全長レプリコンを保有する21−5、サブゲノムレプリコンを保有するNS3−3’およびNS3−3’R809を固定し、NS5Aに対するマウスモノクローナル抗体7−D4(元は赤色)およびNS3に対するマウスモノクローナル抗体MMM33(元は緑色)で染色した。下のパネルでは、挿入図は、抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は青色)によるE1/E2染色を示す。バーは5μm。
【図25】図25は、HCV糖タンパク質E1およびE2の細胞内局在を示す。(A)21−5R809を固定し、そして示した抗体で染色した。組み合わせた画像だけを示す。(B)抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は赤色)、カルネキシンに対するウサギポリクローナル抗体(元は緑色)およびNS3に対するマウスモノクローナル抗体MMM33(元は真ん中のパネルでは赤色、または下のパネルでは緑色)で染色した21−5R809細胞の拡大像。バーは2.2μm。
【図26】図26は、HCVタンパク質の細胞成分分画および界面活性剤可溶化を示す。(A)21−5R809細胞から得た細胞溶解物をそのまま処理しないか、1%TX−100により氷上で処理するか、1%TX−100により37℃で処理した。不連続ショ糖密度勾配遠心分離によって細胞成分分画を行なった。勾配の上端から下端まで画分を集めた。回収した画分を、等体積ずつ、10%SDS−PAGEで解析し、ニトロセルロース膜に転写し、E1/E2に対する抗体、NS3に対する抗体、コアに対する抗体、カベオリン−2に対する抗体、カルネキシンに対する抗体で免疫ブロットした。画分には上端から下端に向かって1から11までの番号を付ける。(B)収集した画分の密度プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0092】
(発明を実施するための形態)
(HCVゲノムレプリコン系における糖タンパク質発現の補強)
HCV複製/集合複合体の性質および細胞内区画化を明確にするために、本発明者らは、全長遺伝子型1bレプリコンを保有する21−5細胞におけるHCV構造タンパク質およびHCV非構造タンパク質の局在を調べた[4]。これらの細胞では、ノーザンブロットによって持続的RNA複製が証明され、ウェスタンブロットおよび35S−Met/Cys標識と、それに続く免疫沈降によって、タンパク質発現が証明された。これらの技法を使って、本発明者らは、細胞抽出物におけるコア、NS3、NS5aおよびNS5bの存在を明らかにした。意外なことに、ウェスタンブロット法、代謝標識法、または免疫蛍光解析法では、E1およびE2の発現を検出することができなかった。
【0093】
この低い糖タンパク質発現レベルが、この系がウイルス粒子を産生できないことの原因になっているかどうかを決定するために[4]、本発明者らは、レンチウイルスベクターによる遺伝子導入を使って、21−5細胞にE1およびE2の安定な発現を提供することにした[86]。本発明者らは、HCV1a遺伝子型のE1E2p7コード領域を、自己不活化型レンチウイルスベクターにおいて、遍在発現されるホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PGKp)の下流にクローニングし[87]、VSVシュードタイプ粒子を生成させた。
【0094】
(細胞株)
この研究では、以下の3つの異なる細胞株を使用した:1)ナイーブHuh7;2)全長レプリコンI389neo/core−3’/5.1を持つHuh−21−5[4]、サブゲノムレプリコンI389neo/NS3−3’を持つHuh−5−15[1]。これらの細胞を、HCVレプリコンを保持する細胞株については、完全DMEM+G418(ジェネティシン;Life Technologies)中で増殖させた(Huh−21−5には250μg/ml;Huh−5−15には750μg/ml)。Huh7細胞および21−5細胞[4]は供給業者から入手した。比較のためにHepG2細胞も使用した。Huh7細胞はHCVに感染していないが、21−5細胞は感染している。
【0095】
(レンチウイルスベクターの作製およびHCVレプリコン細胞株の形質導入)
PGK/HCV E1E2p7レンチウイルスベクターを生成させるために、本発明者らは、Tyr164の上流にMet残基が付加され、Ala809の下流に停止コドンが付加されたセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーを使って、HCV1a遺伝子型のTyr164からAla809までをコードする1935塩基対断片を増幅した。本発明者らは、自己不活化型レンチウイルスベクターpCCLsin.PPT.hPGK.GFP.Wpre[88],[87]の緑色蛍光タンパク質(GFP)を、増幅したE1E2p7断片で置き換えた。
【0096】
図1に示すプロセスにより、E1タンパク質およびE2タンパク質をコードするRNAを含有するレトロウイルス粒子を調製した。ウイルスLTRが両側に隣接した、E1タンパク質、E2タンパク質およびp7タンパク質をコードするDNA(10μgのpCCL.sin.PPT.hPGK.E1E2p7)を、10cmディッシュにプレーティングしたHEK293T細胞に、リン酸カルシウム法で、(i)サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にあるVSV−G(水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質)をコードするDNA(3.5μg)、(ii)RSVプロモーターの制御下にあるREVをコードするDNA(2.5μg)、および(iii)CMVプロモーターの制御下にあるGAGおよびPOLをコードするDNAで一過性にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞は、E1E2 RNAを含有するレトロウイルス粒子を産生し、これらの粒子を、そのHEK293T細胞培養物の上清から集めることができた。ウイルス上清の収集は、トランスフェクションの24時間後と48時間後とで2回行なった。0.2μmフィルター(Millipore,マサチューセッツ州ベッドフォード)を通して濾過した後、超遠心分離によってレンチウイルスベクターを濃縮した。精製された粒子(50μlまたは100μlのいずれか)を使用し、ポリブレン(8μg/ml)の存在下に、37℃および5%CO2で、濃縮レンチウイルスベクターに6時間曝露することにより、ナイーブHuh−7、Huh−5−15または21−5細胞を感染させ、形質導入の96時間後に、これらの細胞を、E1タンパク質およびE2タンパク質の発現について、フローサイトメトリーおよびウェスタンブロット法で解析した。このレトロウイルスベクターを「rvE1809」または「R809」と名付けた。
【0097】
ナイーブHuh−7細胞および21−5細胞のレンチウイルス形質導入は、どちらも非常に効率よく起こり、透過処理した細胞のFACS解析によって評価したところ、これらの細胞のほとんど100%で、HCV E1およびE2の安定な発現を可能にした。本発明者らは、HCV−1a E1E2p7で形質導入された細胞をR809と呼ぶ。
【0098】
ウェスタンブロットで抗E1/E2抗体を使用したところ、E1およびE2がHuh7細胞と21−5細胞とのどちらにも見られた(図2)。この解析により、E1およびE2が必要なシグナルペプチダーゼによってプロセシングされることも確認された。
【0099】
抗E1E2、抗コアおよび抗E2(「H2」)抗体を使用し、21−5細胞で、免疫沈降実験を行なった。図3(非還元ゲル)および図4(還元ゲル)のウェスタンブロットは抗E1E2抗体で染色したものであり、R809ベクターを持たない21−5細胞ではE1発現が検出されないこと;E1は抗E2モノクローナル抗体によって共沈されるので、E1とE2はヘテロ二量体として安定に会合していること;そして抗コア抗体はE1もE2も沈降させないので、E1/E2はコアとは会合していないことを示している。図5のウェスタンブロットは抗コア抗体で染色したものであり、コアタンパク質はR809ベクターを含む21−5細胞またはR809ベクターを含まない21−5細胞によって発現されるが、抗コアモノクローナル抗体によって沈降されないことを示している。35S−Met標識でもE1/E2発現を検出することができた。
【0100】
(免疫蛍光染色および共焦点顕微鏡法)
細胞を、24ウェルプレート中の30mmカバースリップ上に、1ウェルあたり5×104細胞の密度でプレーティングした。プレーティングの1日後に、細胞をPBS中で洗浄し、4%ホルムアルデヒドで30分間固定した後、PBS中の0.1% Triton X−100で15分間透過処理した。次に、製造者の指示に従って、細胞をブロッキング溶液(PBS中の0.5%ウシ血清アルブミン)で30分間、前処理し、ブロッキング溶液で希釈した一次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。PBS中で3回洗浄した後、AlexaFlourコンジュゲート二次抗体を、1:200の希釈率で、室温で1時間、細胞に加えた。PBSで洗浄した後、カバースリップを蒸留水で洗浄し、DAPI(4’,6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール)と共に水性封入媒体Vectashieldで封入した。
【0101】
21−5/R809細胞の免疫蛍光解析は、E1とE2とが一緒に局在すること(細胞の20〜30%にドット)を示し、コアタンパク質がE1/E2複合体と共に蓄積していることも示した(図6および図7)。抗コアによる可視蛍光スポットは、抗E1/E2で見られるものと、同じ形状を持っていた。図7に示すように、一部の例では、スポットが部分的にしか重なっていないことから、コアタンパク質とE1/E2タンパク質とは、同じドットに蓄積しようと試みていることが示唆された。異なる細胞を個別に調べたところ、E1/E2ドットを持つ一部の細胞はコアタンパク質を発現せず、コアドットを持つ細胞の一部は、E1/E2を発現しなかったので(図8)、細胞は均質ではなかった。しかし、コアとE1/E2とをどちらも発現させる細胞は、他の細胞から容易に識別され得、そして分離することができた。E1/E2スポットの形状、寸法および細胞内分布もさまざまだった(図9)。この変動性は、ウイルス疑似種の相違、トランスフェクション効率の相違(異なるクローン)に起因し得るか、またはそれは、ウイルス生活環の異なる段階にある同一の細胞であり得る。
【0102】
HCV糖タンパク質の細胞内分布を可視化するために、Huh−7細胞、Huh−7R809細胞、21−5細胞および21−5R809細胞で、さらなる免疫蛍光解析を行なった。図21Bに示す実験では、E1とE2との両方を明らかにするために、本発明者らは抗E1/E2チンパンジー抗血清L559[85]を使用した。しかし、ヒト起源またはマウス起源のモノクローナル抗E2抗体を使った場合にも、同様のパターンが得られた。Huh−7R809および21−5R809はどちらも、E1/E2の発現レベルに大きな変動性を示した(図21Bの上のパネル)が、これはおそらくそれらの起源がクローン性でないという事実に依存する。全体としてE1/E2はER様分布を持つようだったが、細胞の有意なサブセットが、サブゲノムレプリコンを保有する細胞で記載されているNS3およびNS5Aに富むドット状構造[89〜92]に似たドット状構造へのこれら2つの構造タンパク質の濃縮を示した(図21B)。代表的な細胞の拡大図によって証明されるように、これらの構造はどちらの細胞タイプにも存在したが、それらの構造の形状および局在は同等ではなかった(図21Bの下のパネル)。一般的所見として、Huh−7では、ドット状構造がより散漫に見え、細胞の辺縁部にある程度局在しているのに対して、21−5R809では核の近くに、より密集してみえた。
【0103】
(21−5R809におけるE1/E2と他のHCVタンパク質との一緒の局在)
さらなる実験により、E1/E2はNS3(図10)およびNS5aとも一緒に局在することが示された。
【0104】
サブゲノムレプリコンの活発なRNA複製を支持するHuh−7細胞では、NS3とNS5Aがどちらも、新たに合成されたHCV RNAと共に、HCV複製複合体を表し得る明確なドット状構造上に局在することが示されている[90、91、93]。さらにまた、HCV非構造タンパク質を含有する精製された膜画分は内在性レプリコンRNAに会合することも見出され、dNTP類が供給されると、このRNAをインビトロで複製することができた[89〜92,94〜97]。21−5R809細胞では、E1/E2も、ドット状の形状をした稠密構造に組織化されることを、本発明者らは明らかにした。次に、本発明者らは、21−5および21−5R809細胞において、非構造HCVタンパク質も何らかの種類の構造に組織化されるかどうか、そしてE1/E2との一緒の局在が存在するかどうかを、決定しようとした。本発明者らは、L559抗血清によってE1/E2を明らかにする共焦点顕微鏡法を、それぞれコア、NS3およびNS5Aと組み合わせて行なった。結果を図22に示す。
【0105】
左側のパネルでは、全長レプリコンを保有する21−5細胞における、コア(上)、NS3(真ん中)およびNS5A(下)の分布が、明らかにされた。これらの細胞では、コア、NS3およびNS5Aが、一定数の稠密局在領域を持つER様分布を示した。コアタンパク質は、かなりの数のドット状構造を形成すると共に、文献(34)に記載されているように輪状構造もいくつか形成するようだった。2つのHCV非構造タンパク質NS3およびNS5Aは、よりER様の分布パターンを示し、小さなドットが主に核周囲領域に局在していた(図22の左側のパネルの真ん中の段および下段)。このように、NS3およびNS5Aのパターンは、より大きな多数のドットの形成が記述されているサブゲノムレプリコンを保有する細胞に見出されるパターン[90〜93,98]とは異なるようだった。これらのタンパク質の分布パターンは、E1およびE2が高レベルに発現される21−5R809細胞では、異なるように見えた(図22,右側のパネル)。この場合、コアタンパク質、NS3タンパク質およびNS5Aタンパク質は、弱いER様分布を伴うドット状構造を形成した。注目すべきことに、E1/E2が形成するドットは、コア、NS3またはNS5Aによって形成される同様の構造との強い、一緒での局在を示した(図22、右側のパネル)。一方、散漫なER様パターンは、個別に解析した4つのタンパク質に関して類似していたが、これらの化学種の厳密な一緒の局在はもたらさなかった。
【0106】
さらにまた、抗アイソタイプ・フルオレシネート(fluorescinate)二次抗体を使って、21−5R809細胞におけるNS3、NS5AおよびE1/E2の同時染色を達成した。NS5Aに代えて、新生細胞質RNAを抗BrUTP抗体で標識した。これらの実験で得た結果を図23に示す。組合せ写真で得られる色により、任意の組み合わせでの異なる化学種の一緒の局在が明らかになった。NS3化学種とE1/E2、およびNS5AまたはウイルスRNAとの会合は、青色がより明るくなることによって明らかになった。E1/E2とNS5A(またはウイルスRNA)とが一緒に局在することによって黄色が生成したのに対して、白色の領域は3つ全ての化学種の完全な一緒の局在を示した。図23Cでは、三重に染色したこれらドット状構造の一部を、z切片でも示す(上側および右側の帯)。
【0107】
図23Aに示すように、E1/E2とNS3またはNS5Aのいずれかとの幅広い一緒の局在が観察された。さらにまた、これらのドット状構造のいくつかは、解析した3つの化学種全てについて陽性だった。これらの知見は、全ての化学種が一緒に局在している構造を生成させる、このレプリコンを背景として発現されるHCVタンパク質の共通する分布を示唆している。
【0108】
類似する状況が、他のウイルスタンパク質と比較した新生ウイルスRNAの分布にも観察された(図23Bおよび図23C)。これらの実験では、免疫蛍光染色および共焦点解析のために固定する前に、細胞を、アクチノマイシンDの存在下に、RNA前駆体BrUTPで2時間および4時間処理した。図23Bに示すように、2時間パルスでは、新生RNAが、E1/E2およびNS3も蓄積しているドットに対応する不連続な構造と会合していた。細胞をBrUTPでさらに長い期間(4時間)パルスすると、標識されたウイルスRNAは、E1/E2およびNS3と共にドット内に見出すことができるだけでなく、細胞全体にも広がっていた(図23C)。これは、複製されなければならないウイルスゲノムを構成するが、メッセンジャーとしても機能するという、HCV RNAが持つ二重の機能と合致する。非構造タンパク質と新生RNAとが一緒に局在することは、ウイルス複製複合体を表すと報告されている[89〜92]。本発明者らのデータは、上記2つのHCV糖タンパク質も、それらを発現させた場合には、これらの複合体とも会合することを示唆している。
【0109】
免疫蛍光ドットの共焦点顕微鏡法により、E1/E2ラベルは、約3μmの最大長の細胞に沿って分布することが明らかになった。このことは、管状構造を示唆する(図11)。
【0110】
R809ベクター(すなわち、HCVが存在しないもの)でトランスフェクトしたHuh7細胞も、E1/E2ドットを示したが、標識は21−5細胞の5分の1程度(50%対10%)であり、細胞内分布はわずかに異なるようだった(図12)。これは、R809ベクターから発現されるE1およびE2は細胞内で集合できるが、それらはコア(および他の)タンパク質がなければウイルス自己集合をさらに進めることができないことを示唆している。
【0111】
(E1/E2の細胞内局在)
ほとんどの報告では、HCVタンパク質はER膜またはER由来の膜に会合すると記述されており、一部の研究では、ゴルジ装置またはトランスゴルジ網の関与が指摘されている[89,90,92,98〜100]。本発明者らは、21−5R809細胞におけるE1/E2の位置を、共焦点解析により、これら2つのHCV糖タンパク質とさまざまな細胞区画の既知マーカーとの同時標識によって捉えようとした。
【0112】
簡単に述べると、細胞内局在を評価するために、細胞を抗カルネキシン(CNX)または抗ERP60(どちらも小胞体(それぞれ膜および内腔)のマーカーである)でも染色した。E1/E2はCNXと完全には一緒に局在せず、一部のE1/E2は細胞の周辺部に見られたことから、このタンパク質複合体はERを超えて進行していたことが示唆される(図13および図14)。次に細胞を、シスゴルジのマーカーである抗GM130で標識した。E1/E2とGM130とが一緒に局在していることは見られなかった(図15)。E1/E2はエンドグリコシダーゼH処理に対して感受性であったことから、それらはERに保持されていることが示された。
【0113】
より詳細に述べると、図25Aに示すこのような解析の結果から、本発明者らは、E1/E2はゴルジ装置(GM−130)にもミトコンドリア(TCP1)にも一緒に局在はせず、かつこれらは微小管(α−チューブリン)に結合せず、カベオリン−2にも会合しないと結論することができた。非常に限られた領域しか組合せの可能性が見えない図25Aに示すように、2つのERマーカーである、可溶性内腔タンパク質ジスルフィドイソメラーゼErp57および膜貫通タンパク質カルネキシンとの幅広い一緒の局在もなさそうだった。E1/E2、Erp57およびカルネキシンは、有意な重なりの不在を特徴とする幅広い細網状のパターンを示した。一方、E1/E2によって形成されるドット状構造を取り囲む領域の周辺における両化学種の分布は、判定がはるかに困難だった。
【0114】
カルネキシンはしばしばHCV糖タンパク質に会合していたので、いくつかの異なる試料で、より高倍率の共焦点走査解析を行なった。図25Bは、そのような解析の代表的画像を示している。カルネキシンとE1/E2との一緒の局在は、ドットの辺縁部にある数少ない微小な領域に限定されていた(図25Bの上段)。NS3化学種がカルネキシンから完全に離れて存在することは、もっとはっきりしていて(図25Bの中段)、E1/E2とNS3との強い一緒の局在は明白だった(図25Bの下段)。後者の場合、2つの化学種は、一緒の局在の稠密なコアと、周辺部に数少ない単化学種分布の領域を示した。
【0115】
結論として、ER膜貫通型シャペロン・カルネキシンは、本質的にはE1/E2と一緒に分布するが、一緒の局在は非常にわずかな部分でしか起こらないようだった。さらにまた、カルネキシンは、ドットの中心領域からは排除されるようだった。このように、高い百分率の21−5R809細胞では、コア、E1/E2、NS3およびNS5AというHCVタンパク質が稠密構造中に蓄積すると共に厳密に一緒に局在した。また、その周辺で唯一認識できる細胞マーカーはER膜貫通シャペロンである。まとめて考えると、これらのデータは、ER由来区画におけるHCVタンパク質の局在と合致した。
【0116】
(E1/E2発現の存在下または不在下でのNS3およびNS5Aの細胞分布)
ドット状構造におけるHCV非構造タンパク質、特にNS3およびNS5Aの会合は、サブゲノムレプリコンを保有する細胞で既に報告されている。
【0117】
これら異なるウイルスタンパク質のドット形成プロセスへの相対的寄与を解明するために、本発明者らは、21−5細胞(コアタンパク質の検出可能な発現はあるが、2つの糖タンパク質の検出可能な発現はない系)、ならびにE1およびE2を発現するかまたは発現しない、サブゲノムレプリコンを保有するHuh−7において、非構造タンパク質NS3およびNS5Aの分布を解析した。NS3−3’HCV−1b領域に相当するサブゲノムレプリコンの複製を支持するHuh−7細胞株は、参考文献1に記載された。本発明者らは、図21Aに示すように、遺伝子型1a由来のE1E2p7遺伝子を保持するレンチウイルスベクターによって、この細胞株の形質導入を行なった。2つの糖タンパク質の発現をウェスタンブロットによってチェックしたが、免疫蛍光解析では、細胞の事実上100%がE1/E2を発現させることがわかった。これらの細胞タイプでの共焦点解析で得た代表的画像を図24に示す。21−5細胞では、NS3とNS5Aがどちらも、細胞表面全体に小さなドット状領域をいくつか持つ散漫なER様分布を示した(図24の上段)。これら2つの非構造タンパク質の一緒の局在は、数少ない可視ドットに限定されるらしく、細網状に分布したタンパク質は会合していないようだった。NS3−3’細胞では、ER様パターンが減少し、両タンパク質を含有する、より大きなドットの数の増加を伴った(図24の中段)。ドット状構造におけるNS3とNS5Aとの同時存在は、NS3−3’R809細胞でははるかに明確だった(図24の下段)。これらの細胞において、これらの構造は数および大きさの両方が増し、それと同時にどちらの化学種についてもER様分布の減少が観察された。ここでもまた、2つの非構造タンパク質の一緒の局在は、ドット領域に優先的に限定された。これらの細胞におけるE1/E2の同時標識を挿入図内に示す(図24の下段)。結果は、2つの化学種が一緒に局在するドットおよびいくつかの領域におけるこれら2つの非構造タンパク質とE1/E2との広範な一緒の局在を明確に示した。これらの観察は、全長レプリコンまたはサブゲノムレプリコンを保有する細胞におけるドット状構造形成の誘発にE1/E2発現が及ぼす相乗効果と合致した。
【0118】
まとめると、これらの観察は、これらの細胞におけるドット状構造の形成を駆動し得る相互作用の複雑なパターンを示した。現在までに解析されたウイルスタンパク質はいずれも、細網状の分布を示したか、またはドット状構造に濃縮され、その数および位置は、特定ウイルスタンパク質の存在に依存するのではなく、それが発現される状況に依存するようだった。さらにまた、HCV RNA複製を許す細胞のサブタイプは、利用できるウイルス産物の全てを、出芽前領域に相当し得る大きな構造に蓄積させることも明らかだった。
【0119】
インターフェロンアルファ(IFN−α)は細胞培養中でHCV複製を阻害することが知られている[101]。21−5/R809細胞をIFN−αと共にインキュベートすると、E1およびE2のERパターン分布が変化し(図16)、絶対的にも(図17)、リボソームRNAとの比較でも(図18)、HCV RNAレベルの減少を引き起こした。
【0120】
(a)Huh7細胞;(b)R809トランスフェクトHuh7細胞、および(c)21−5/R809細胞からエキソソームを精製するために、分画遠心分離を使用した。図19に示すように、ある遠心分離実験のP5画分に、ゴルジ修飾E2タンパク質に一致するかすかなバンドが検出された。CD81も検出することができた。
【0121】
(新規合成されたウイルスRNAの標識)
細胞を、24ウェルプレート中のカバースリップ上に、1ウェルあたり5×104細胞の密度でプレーティングした。接種の1日後に、リポフェクトアミン2000を製造者の指示に従って使用することにより、細胞をブロモ−UTP(BrUTP)でトランスフェクトした。簡単に述べると、Optimem中の12mM BrUTP 50μlを、50μlのOptimenに希釈した1μlのリポフェクトアミン2000に加えた。室温で20分間インキュベートした後、そのBrUTP−リポフェクトアミン複合体を、アクチノマイシンD(5μg/μl)の存在下で、DMEM完全培地500μl中の細胞に直接加えた。2時間または4時間のインキュベーション後に、細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS中の1% Triton X−100で透過処理した。HCVタンパク質を上述のように同定し、一方、新たに合成されたウイルスRNAを、2μg/mlのマウス抗BrUTP抗体を使って検出した。一次抗体を、PBS/BSA 0.5%に200:1に希釈したAlexaFluorコンジュゲート二次抗体で検出した。
【0122】
新規合成されたHCV RNAを標識することにより、本発明者らは、本発明の複合体がウイルスRNA合成の部位を構成することを示した。
【0123】
(膜浮遊アッセイ)
HCVタンパク質と会合する細胞内膜の性質をより良く特徴づけるために、本発明者らは、膜画分と細胞質ゾル画分とを分離するための細胞成分分画研究を行なった。
【0124】
細胞を1mlの低張緩衝液(10mM Tris−HCl pH7.5、10mM KCl、5mM MgCl2)中で溶解し、Wheatonルーズフィットダウンスホモジナイザーで50ストローク、ホモジナイズした。4℃、1000×gで5分間の遠心分離によって、核および未破砕細胞を除去した。膜構造を特徴づけるために、細胞溶解物の核成分分画後上清(postnuclear supernatant)を4℃または37℃で30分間、1%トリトンX−100で処理した。次に、低塩濃度緩衝液(50mM Tris−HCl pH7.5、25mM KCl、5mM MgCl2)中で80%ショ糖と混合することによって細胞溶解物を55%ショ糖にし、そして6mlの35%ショ糖を重層し、最後に3mlの5%ショ糖を重層した。この勾配を、Beckman SW40ローター中、4℃、38000rpmで、20時間遠心分離した。遠心分離後に、勾配の上端から1mlずつの画分を集め、PBSに希釈し、350000×gで60分間遠心分離することにより、物質を沈降させた。ペレットをSDS試料緩衝液に再懸濁し、10%ポリアクリルアミドゲルで分離し、そしてニトロセルロース膜に転写した。ブロッキング後に、膜を一次抗体と共に室温で1時間インキュベートし、次に適切な化学種特異的セイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体と共に、室温でさらに1時間インキュベートした。
【0125】
21−5R809細胞株からの細胞抽出物をショ糖勾配で分画し、そしてHCVの構造タンパク質およびHCVの非構造タンパク質、ER膜結合型タンパク質カルネキシン、ならびに細胞質脂質ラフトマーカーのカベオリン−2の存在について調べた。膜結合型タンパク質は勾配内の平衡な密度へと浮遊すると予想された。実際、E1/E2およびNS3はどちらも充分な割合のものが膜画分(画分4〜5)に見出され、一方、コアタンパク質は、最も可能性が高いのはその発現レベルが低いことに起因して、可溶性画分にしか検出できなかった(図26A、左図)。ERマーカーであるカルネキシンは、これらの生物学的手法で一般に見出されるように、膜画分および細胞質ゾル画分の両方に分布した。分画に先だって細胞抽出物を1% Triton X−100で4℃(ERタンパク質を細胞質ゾルに放出させる条件)にて処理した場合は、全てのHCVタンパク質が勾配の最下部の細胞質ゾル画分に見出された(図26A、真ん中の図)。したがって、以前の報告[95]と一致して、細胞抽出物のTriton X−100処理は、HCV複製複合体とER膜との解離をもたらした。これと同じ処理では、Cav−2と一緒に分画される界面活性剤耐性膜(DRM)は破壊されなかった(図26A、真ん中のパネル)。TX−100と共に37℃でインキュベートすると、DRMタンパク質の完全な可溶化が起こった(図26A、左のパネル)。まとめて考えると、これらのデータは、今までに記載されたHCV複製/集合複合体が、ER起源の膜構造と会合することを示した。
【0126】
膜浮遊解析により、E2の大半は、1%NP40による処理に対して耐性でかつカベオリン−2と一緒に分画される膜と会合することが証明された(図20)。
【0127】
(まとめ)
この報文で、本発明者らは、HCV構造タンパク質およびHCV非構造タンパク質の細胞内局在の解析ならびにウイルス出芽機序の研究に役立ち得る新しい細胞系を記載する。本発明者らは、全長遺伝子型1bレプリコンを保有する細胞株におけるE1E2(およびp7)の安定かつ検出可能な発現を樹立し、これら2つの糖タンパク質の局在を、非構造タンパク質、ウイルスRNAおよび細胞内マーカーとの関連で特徴づけた。この系では、2つの糖タンパク質の発現は妥当に持続し続け、予想どおり、E1E2ヘテロ二量体の形成をもたらした。さらにまた、これら2つの糖タンパク質の染色体発現は、これら2つの化学種の遺伝的浮動を防止するので、E1E2の安定性に影響を及ぼし得る変異蓄積が回避される。タンパク質分布には2つのパターン、すなわち他の任意のERマーカー標識に似た「細網状」パターンと、ウイルスタンパク質の局在した蓄積がドット状構造を生成した「斑点状」パターンが観察された。細網状分布の場合、HCVタンパク質は、互いとも、細胞内区域を同定するために用いられる標準的マーカーとも、優先的には一緒に局在しなかった。
【0128】
全てのHCVタンパク質は宿主細胞膜と、膜結合タンパク質として直接的に、または間接的に相互作用して、特異的な変化のパターンを誘発する。本発明者らは、ナイーブHuh7細胞においてドット様構造を誘発するには、E1E2p7の孤立した発現で十分であることを確認した(図21B)。しかし、これらの構造の数、形状および局在は、同時に発現されるウイルスタンパク質の状況に依存していた。実際、本発明者らは、全長レプリコンまたはサブゲノムレプリコンを保有する細胞における補強されたE1E2発現が、NS3およびNS5Aの細網状分布の減少と、それに付随する、全てのウイルス成分が濃縮される、より明確な領域への蓄積とを誘発することを実証した(図22および図24)。逆に、発現された外因性E1/E2は、レプリコンとの関連で発現させた場合に、ナイーブHuh7細胞中でのそれらの細胞局在と比較して、より輪郭のはっきりした、より大きい、より核周囲性の強いドット状構造に組織化される。
【0129】
以上は本発明を例示するための説明に過ぎず、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく改変を加え得ることが理解される。
【0130】
(参考文献:これらの内容は、本明細書中に参考として援用される)
【0131】
【表1−1】
【0132】
【表1−2】
【0133】
【表1−3】
【技術分野】
【0001】
本明細書で引用する文書はいずれも、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、C型肝炎ウイルス培養およびタンパク質発現の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
C型肝炎ウイルス(HCV)には、効率のよいインビトロ培養系がないので、ウイルスの構造および集合については、ほとんどわかっていない。HCVの非構造タンパク質の大半を含有するサブゲノムレプリコンは、ヘパトーム細胞株中で複製することが示されており[1(非特許文献1)]、トランスフェクション効率が改善されたさらなるサブゲノムレプリコンも開示されている[2(非特許文献2)、3(特許文献1)]。これらの系はHCV複製機序に関する詳細な研究を可能にしたが、それらのレプリコンに構造遺伝子が存在しないことは、ビリオンの集合が可能でないことを意味する。
参考文献4(非特許文献3)には、細胞培養中で全長HCVゲノムを持続性および一過性に複製させるための方法が記載されており、そこでは、変異型の「選択可能な全長」(selectable full−length:sfl)ゲノムが、(Huh−7細胞株に由来する)21−5細胞中で安定に複製することができ、そして全てのウイルスタンパク質を発現させることができた。これらの変異を選択可能なサブゲノムレプリコンに導入することにより、RNA複製と高いコロニー形成効率(ECF)とが可能になったものの、sflゲノムの場合、そのECFは、サブゲノムレプリコンと比較すると3〜4桁低かった。21−5培養物の上清にはウイルスRNAが見られたが、この作用はサブゲノムレプリコンでも見られたので、この放出はウイルス構造タンパク質の関与によるものではなく、むしろ非特異的機序によるものであったと、著者らは考えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第01/89364号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lohmammら(1999)Science 285:110−113
【非特許文献2】Blightら(2000)Science 290:1972−1974
【非特許文献3】Pietschmannら(2002)J Virol 76:4008−21
【非特許文献4】Kleinら(2004)J Virol 78:9257−69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HCVウイルス粒子のインビトロ集合は無細胞系では可能であるが[5]、効率のよい細胞系は2005年まで報告されなかった[6−8]。参考文献4に記載された21−5細胞はウイルス粒子を産生しないことがわかったので、HCV全ゲノム複製を支持することができ、かつウイルス粒子を産生し得るインビトロ細胞培養系、ならびに参考文献6〜8と比較して、さらなる改良された系は、依然として、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の開示)
参考文献4の著者らは、21−5細胞がウイルス粒子形成を支持できないのは、宿主細胞因子の欠如が理由であるかもしれないことを示唆した。これとは対照的に、本発明者らは、この不首尾は、HCV構造エンベロープタンパク質E1およびE2を発現できないことによって、少なくとも部分的には説明され得ると考えている。そこで本発明者らは、この不足を克服するために、これらのタンパク質をトランスに補完することを選択した。その結果得られる細胞は、HCV複製をより良く支持することができ、HCV粒子をより良く産生し得る。
したがって本発明は、(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸;ならびに(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を含む細胞を提供する。
【0008】
本発明は、(a)C型肝炎ウイルスが複製し、(b)C型肝炎ウイルス生活環の結果として発現されるE1タンパク質および/またはE2タンパク質の他にも、C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2が発現されるような細胞も提供する。したがってE1および/またはE2は、ウイルス生活環中にHCVゲノムから発現されるHCVポリタンパク質のタンパク質分解プロセシングから生じるE1/E2とは別個の形態で発現される。2つの異なるタイプのRNA、すなわちHCV RNAゲノムになるタイプと、E1および/またはE2タンパク質に翻訳されるタイプとが産生される。
【0009】
本発明は、(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を含み、(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2を発現し、そして(c)インビトロ培養で増殖し得る細胞も提供する。
【0010】
本発明は、以下の2つの核酸をトランスに含有する細胞も提供する:(a)C型肝炎ウイルスゲノム;ならびに(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2をコードする核酸。本発明は、以下の2つの核酸をトランスに含有する細胞も提供する:(a)C型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸;ならびに(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2をコードする核酸。
【0011】
本発明の細胞は、HCV複製を支持するために培養下で増殖させ得、HCVビリオンおよびE1/E2複合体をそこから精製し得る。
【0012】
本発明は、本発明の細胞を調製するための方法であって、(a)細胞にC型肝炎ウイルスゲノムおよび/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を導入する工程;(b)細胞にC型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を導入する工程を包含する方法も提供する。工程(a)と工程(b)とは別個に行ってもよく、または同時に行なってもよい。本発明は、細胞中でC型肝炎ウイルスを培養するためのインビトロでの方法であって、上記工程(a)および工程(b)、続いて(c)得られた細胞を培養する工程を包含する方法も提供する。
【0013】
本発明は、C型肝炎ウイルスのE1タンパク質およびE2タンパク質を調製するための方法であって、(a)本発明の細胞を培養する工程;ならびに(b)培養した細胞からE1タンパク質およびE2タンパク質を精製する工程を包含する方法も提供する。E1タンパク質およびE2タンパク質は好ましくは複合体の形態にあり、本発明は、本発明の方法によって得られ得るE1/E2複合体を提供する。
【0014】
本発明は、C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を含む細胞であって、その中に、C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を導入し得る細胞も提供する。同様に、本発明は、C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2のうちの一方または両方をコードする核酸を含む細胞であって、その中に、C型肝炎ウイルスゲノムおよび/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を導入し得る細胞も提供する。本発明は、HCVのE1タンパク質および/またはE2タンパク質をコードする配列を含むベクターも提供する。このベクターは、インビトロでの細胞培養においてHCV複製を支持するという細胞の能力を強化するのに使用される。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
細胞であって、
(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸、ならびに
(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2の一方または両方をコードする核酸を含む、細胞。
(項目2)
前記C型肝炎ウイルスが複製し、C型肝炎ウイルス生活環の結果として発現されるE1および/またはE2タンパク質に加えて、C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2が発現される、項目1に記載の細胞。
(項目3)
前記E1および/またはE2が、ウイルス生活環中にHCVゲノムから発現されるHCVポリタンパク質のタンパク質分解プロセシングから生じるE1/E2とは別個の形態で発現される、項目1または2に記載の細胞。
(項目4)
前記細胞が、
(a)C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を含み、
(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2を発現し、そして
(c)インビトロ培養で増殖し得る、
項目1〜3のいずれか一項に記載の細胞。
(項目5)
前記細胞が、以下の2つの核酸:
(a)C型肝炎ウイルスゲノム;ならびに
(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2をコードする核酸
をトランスに含有する、項目1〜4のいずれか一項に記載の細胞。
(項目6)
前記細胞が、以下の2つの核酸:
(a)C型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸;ならびに
(b)C型肝炎ウイルスタンパク質E1および/またはE2をコードする核酸
をトランスに含有する、項目1〜5のいずれか一項に記載の細胞。
(項目7)
項目1〜6のいずれか一項に記載の細胞を調製するための方法であって、
(a)細胞にC型肝炎ウイルスゲノムおよび/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を導入する工程;
(b)該細胞にC型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2の一方または両方をコードする核酸を導入する工程
を包含する、方法。
(項目8)
工程(a)と工程(b)とが別個に行なわれる、項目7に記載の方法。
(項目9)
工程(a)と工程(b)とが同時に行なわれる、項目7に記載の方法。
(項目10)
細胞中でC型肝炎ウイルスを培養するためのインビトロ方法であって、項目7〜9のいずれか一項に従って細胞を調製する工程、次に(c)得られた細胞を培養する工程を包含する、方法。
(項目11)
C型肝炎ウイルスのE1タンパク質およびE2タンパク質を調製するための方法であって、
(a)項目1〜6のいずれか一項に記載の細胞を培養する工程;ならびに
(b)培養した細胞からE1タンパク質およびE2タンパク質を精製する工程
を包含する、方法。
(項目12)
前記E1タンパク質および前記E2タンパク質がC型肝炎ウイルス非構造タンパク質のうちの1以上と共に精製される、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記E1タンパク質および前記E2タンパク質が複合体の形態にある、項目11または項目12に記載の方法。
(項目14)
項目13に記載の方法によって得られ得る、E1/E2複合体。
(項目15)
前記複合体がビリオン様粒子である、項目14に記載のE1/E2複合体。
(項目16)
前記ビリオン様粒子がC型肝炎ウイルス非構造タンパク質および/またはRNAのうちの1以上を含む、項目15に記載のE1/E2複合体。
(項目17)
C型肝炎ウイルスを処置または予防するためのワクチンであって、項目13〜16のいずれか一項のE1/E2複合体を含むワクチン。
(項目18)
C型肝炎ウイルスゲノム、および/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を含む細胞であって、その中に、C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2の一方または両方をコードする核酸を導入し得る、細胞。
(項目19)
C型肝炎ウイルスタンパク質E1およびE2の一方または両方をコードする核酸を含む細胞であって、その中に、C型肝炎ウイルスゲノムおよび/またはC型肝炎ウイルスゲノムをコードする核酸を導入し得る、細胞。
【0015】
(細胞)
本発明の細胞は、HCV生活環およびその複製を支持するためにHCVゲノムを発現させることができ、HCV生活環中に産生されるE1タンパク質およびE2タンパク質とは別個に、E1タンパク質および/またはE2タンパク質を発現させ得る。したがって、ウイルスRNAゲノムから翻訳されたウイルスポリタンパク質のタンパク質分解プロセシングによるE1およびE2の産生が、別個の非HCV RNAから(例えば細胞性mRNAから)翻訳されるタンパク質によって補完される。
【0016】
HCVのE1タンパク質およびE2タンパク質は本来、グリコシル化されるので、本発明では一般に真核細胞を使用する。哺乳動物細胞、例えばヒト細胞を含む霊長類細胞を使用することが好ましい。HCVは本来、肝臓細胞に感染するので、肝臓由来の細胞を使用すると好都合である。
【0017】
代表的には、本発明で使用される細胞は細胞株、好ましくはパッケージング細胞株である。本発明での使用に好ましい細胞株は肝細胞癌、すなわち、「Huh7」として知られているヒトヘパトーム細胞株に由来する[9]。最も好ましい細胞株は、「21−5」として知られている、全長HCV複製を支持する、Huh7由来の細胞株である。他の好ましい細胞株は、細胞培養下での完全な複製を支持し得るHuh7の亜系統である、Huh−7.5、Huh−7.5.1[8]およびHuh−7.8である。Huh7細胞(およびそれらの誘導物)の継代培養によって誘導される細胞、ならびにHuh7細胞をα−インターフェロンおよび/またはγ−インターフェロンで処理することによって誘導される細胞も、使用され得る。参考文献[10]に開示されているように、HCVを許容する細胞株は、(a)HCVに感染させた細胞を培養すること;(b)その細胞をHCVから治癒させること;および(c)その治癒細胞の亜系統であってHCV複製を許容するものを同定することを含むプロセスによって調製され得る。
【0018】
他の樹立ヒトヘパトーム細胞株および樹立肝芽腫細胞株としては、HuH−6 cl−5、PLC/PRF/5、huH−1、およびhuH−4が挙げられる。Huh7細胞を、完全DMEM(例えば、2mM L−グルタミン、非必須アミノ酸、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコ改変最小必須培地)などの培地で単層として増殖させ得る。
【0019】
特定のウイルス株には特定の細胞タイプを使用することが好ましい場合があり、逆もまた同様である。
【0020】
本発明の細胞は、HCVゲノムからポリタンパク質を発現させると共に、補完的なE1タンパク質および/またはE2タンパク質も発現させる。その結果、本細胞は、ビリオンおよびウイルス様粒子(VLP)を含むHCV粒子を発現させるためのタンパク質構築ブロックを含む。したがってビリオンおよびVLPを本発明の細胞から調製し得る。これらはRNAゲノムを含んでも含まなくてもよい。本細胞はまた、E1およびE2の複合体を発現させ得る。本細胞はE1、E2、NS3およびNS5aの複合体も発現させ得る。
【0021】
以下でより詳細に述べるように、本発明の細胞はHCVゲノムおよび/またはHCVゲノムをコードする核酸を含む。HCVゲノムはウイルス感染によって細胞内に導入され得るか、またはウイルス感染(実際の感染または人工的感染)後もしくは当該ゲノムのDNAコピーからの転写後に、インサイチュで産生され得る。HCVゲノムまたはHCVゲノムをコードするDNAを細胞内に導入するための方法は、当技術分野では慣用されている。インビトロで転写されたHCVゲノムは、参考文献4に開示されているように、エレクトロポレーションを使ってHuh7細胞内に導入され得る(1μgの精製インビトロ転写物でエレクトロポレーションされた4×106個のHuh−7細胞または60μgのHCV RNAをエレクトロポレーションされた2.4×107個のHuh−7細胞)。
【0022】
本発明の細胞は、E1タンパク質および/またはE2タンパク質をコードする核酸も含む。そのような核酸を導入するための方法は、当技術分野では慣用されている。
【0023】
HCVゲノムおよびE1/E2核酸を両方とも発現させた場合、免疫蛍光染色を用いると、ドット状粒子を見ることができる。所望であれば、細胞を(例えばエキソソームの放出を引き起こすために)適切な放出剤で処理することなどにより、細胞からのこれらの粒子の放出を促進し得る。そのような薬剤としては、アルコール、ストレス状態などが挙げられる。非共有結合的E1/E2ヘテロ二量体は小胞体中に検出されており、この細胞区画から回収され得る。
【0024】
(C型肝炎ウイルスゲノム)
本発明の細胞はHCVゲノムおよび/またはHCVゲノムをコードする核酸を含む。したがって本細胞は、+鎖一本鎖RNAゲノムを含み得るか、または転写されて直接的または間接的に+鎖RNAゲノムを与え得る核酸を含み得る。例えば(本来のHCV生活環はDNA段階を含まないものの)ゲノムのDNAコピーが正しい向きに転写されると、HCVゲノムとして作用し得る(すなわち、HCVポリタンパク質の発現を指示することができ、そしてそのポリタンパク質は、正常なHCV生活環に見られるようにプロセシングされる)RNAが生じる。
【0025】
HCVゲノムRNAは、本来、5’キャップ(m7G5’ppp5’A)を含み、ポリAテールを含まず、5’非コード領域および3’非コード領域(NCR)の両方を伴っている。本発明で使用されるHCVゲノムには、代表的には、これらのエレメントが存在するが、HCVゲノムおよび/または同ゲノムをコードする核酸は、天然ゲノムには見られない1以上のエレメントを含んでもよい。例えば、インビトロ複製系で使用するHCVゲノムの場合、以下のエレメントのうちの1以上を含むことが普通である:例えばポリタンパク質の上流、ゲノムの5’末端近くに、選択マーカー(ネオマイシン耐性マーカーなど)をコードする配列;たとえ他の上流コード配列が存在してもポリタンパク質の翻訳が可能であるように、例えばポリタンパク質コード配列の上流に、内部リボソーム侵入部位(IRES)(EMCVに由来するものなど)。ゲノムの5’末端に5’T7プロモーターを持つ構築物が記述されているが[101]、これは好ましくない。
【0026】
HCVゲノムは、どのタイプ(例えば1、2、3、4、5、6)でも、どのサブタイプ(1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k、1l、1m、2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h、2i、2k、2l、2m、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3k、4a、4c、4d、4e、4f、4g、4h、4k、4l、4m、4n、4o、4p、4q、4r、4s、4t、5a、6a、6b、6d、6f、6g、6h、6i、6j、6k、6l、6m、6n)でもよい。この命名法はNIAIDの「Hepatitis C Virus(HCV)Sequence Database」[11]に説明されているように現在の標準であり、この命名法では、以前の遺伝子型7〜9が、参考文献12に基づいてタイプ6のサブタイプとして再分類されている。したがって、この新しい分類には、以前の分類I、II、III、IV、V、VI、4α、4β、7a、7b、7c/NGII/VII、7d、NGI、8a、8b、9a、9b、9c、10a/TD3および11aが含まれる。本発明での使用に適したHCV株の1つは、遺伝子型2aのJFH1株である[6]。HCVゲノムは野生型ゲノムに対して1以上の変異(挿入、欠失および/または置換を含む)を含んでもよく、あるいは1より多くの野生型ゲノムのハイブリッド、例えばサブタイプ2aの株(例えばJ6)とサブタイプ1aの株(例えばH77)とのキメラなどであってもよい[7]。ウイルスRNAレプリカーゼはプルーフリーディング活性を持たないので、ゲノムにおける変異は頻繁に起こり、その結果生じる変異型ゲノム(または「疑似種」)を容易に取得して解析し得る。参考文献4には、E1202G、T1280I、K1846TおよびS2197Pを含め、細胞適応のための変異体が記載されている。参考文献3には、トランスフェクション効率および二次継代(subpassage)に耐える能力を増加させる変異(例えばR1164G、S1172C、S1172P、A1174S、S1179I)を含むHCV改変体が記載されている。他の既知変異としては、L1757I、N2109D、P2327SおよびK2350Eが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。特定の宿主細胞には特定の変異を使用することが好ましい場合があり、逆もまた同様である。HCVのポリタンパク質はC、E1、E2、p7、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5AおよびNS5Bを全て含むことが好ましいものの、より大きな欠失および挿入も可能である(例えば、非構造タンパク質などの成熟コード領域の欠失、または非HCV配列の挿入)。サブゲノムHCV(すなわち、全ゲノムより小さいものを含むもの;代表的には、非構造タンパク質を含むが、構造タンパク質を含まないもの;例えば全長C、全長E1、全長E2を欠いているもの)でも本発明を使用し得るが、本発明の重要な利点は、それが全長ゲノムの複製を可能にするということである。
【0027】
本発明に従って使用されるHCVゲノムには、これらおよび他の変異が存在し得るが、HCVポリタンパク質(このポリタンパク質を発現されたHCVゲノムを複製し得るもの)の発現を指示するというゲノムの能力がこれらの変異によって失われることは、一般にない。
【0028】
HCV RNAまたはHCV RNAをコードする核酸は、細胞内に導入され得るか、または既に細胞の一部であり得る。例えば、21−5細胞株[4]は既にHCVに感染している。
【0029】
細胞がHCVゲノムをコードする核酸を含む場合、これはDNAまたはRNAの形態をとることができ、染色体核酸または染色体外(例えばエピソーム)核酸であり得る。HCVゲノムをコードするDNAプラスミドは便利に使用し得る。
【0030】
HCVゲノムとE1/E2タンパク質との両方をコードするDNAを使用し得る。このDNAは通常は2つの別個の転写物:(i)HCVゲノム(または場合によりアンチゲノム)、および(ii)E1/E2タンパク質をコードするmRNAを有するが、(i)HCVゲノム(またはアンチゲノム)およびE1/E2のコード配列を含み、下流配列の翻訳を制御するためにIRESを伴う、単一の転写物を持つことも可能である。
【0031】
HCVゲノムは代表的には、レプリコン(すなわち自分自身のコピーの生成を指示し得す核酸)の形態で含まれる。ゲノムレプリコン系またはサブゲノムレプリコン系を用いる細胞ベースのHCV複製系は周知である。レプリコンはウイルスRNAのセンス鎖に基づくが、本発明では、センス鎖に変換されてレプリコンを与えることができる相補的配列を利用することもできる。レプリコンは、例えばレポーター遺伝子などの非HCV遺伝子も含有し得る。
【0032】
(E1および/またはE2をコードする核酸)
本発明の細胞は、E1およびE2の一方または好ましくは両方をコードする核酸を含む。この核酸はHCVゲノムとは別個であり、HCVゲノムをコードするどの核酸とも別個である。しかし、補完的E1およびE2の配列は、好ましくは、HCVポリタンパク質中に見出されるE1配列およびE2配列と同じである。
【0033】
E1および/またはE2をコードする核酸はDNAであることも、RNAであることもできる。DNAベクターは好ましい。核酸は染色体核酸または染色体外(例えばエピソーム)核酸であり得る。
【0034】
細胞にE1およびE2を導入するための好ましい核酸ベクターはレトロウイルスベクターであり、それは組込み型ベクターであってもよい。したがって、E1配列およびE2配列をレトロウイルスのRNAゲノムにインサートとして導入し得る。逆転写(そして該当する場合は組込み)後は、E1配列およびE2配列が細胞内でDNAの形態をとる。他の適切なベクターとしてはDNAプラスミドが挙げられる。
【0035】
E1およびE2を両方とも発現させる場合、これらは同じ核酸から発現させてもよいし、異なる核酸から発現させてもよい。例えば、両方のタンパク質をコードする1つのプラスミド(例えば2つの異なる遺伝子、またはIRESを有する1つの遺伝子)を使用してもよく、または2つのプラスミドを使用してもよい。さらにまた、これらのタンパク質は互いに別個に翻訳されてもよいし、HCVポリタンパク質と同様にしてタンパク質分解的に切断されて分離したE1およびE2を与える単一のポリペプチドとして翻訳されてもよい。
【0036】
E1/E2発現の制御は一般にプロモーターの制御を受ける。本発明では、構成的プロモーターを使用することも、制御可能なプロモーターを使用することもできる。好ましいプロモーターは、糖分解酵素に由来するもの、例えばホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターである。ヒトプロモーターが好ましく、HCV E1および/またはE2は、好ましくは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(hPGK)の制御を受ける。
【0037】
本核酸は、E1およびE2を発現することに加え、p7を発現してもよい。別法として、E1またはE2の一方のみと同じ核酸からp7を発現させてもよく、あるいはE1およびE2とは異なる核酸からp7を発現させてもよい。例えば、E1、E2およびp7にそれぞれ1つのプラスミドを使用してもよい。
【0038】
(E1/E2組成物)
E1およびE2タンパク質は、本発明に従って発現させた場合、一緒に局在することが見出された。そのため、これらを細胞から共に精製し得る。次に、E1/E2複合体(例えばヘテロ二量体)は、HCV感染を処置および/または予防するためのワクチンなどといった免疫原性組成物において例えば活性成分として使用され得る。
【0039】
本発明の細胞によって産生されるビリオンおよび/またはVLPも、免疫原性組成物に活性成分として使用され得る。これらのビリオン/VLPにRNAが含まれる場合、RNAは好ましくはサブゲノムである。
【0040】
本発明の組成物は、薬学的に許容され得るキャリアを含む薬学的組成物であり得る。そのような組成物は、E1/E2複合体を薬学的に許容され得るキャリアと混合する工程を含むプロセスを使って調製され得る。
【0041】
代表的な「薬学的に許容され得るキャリア」としては、当該組成物を受容する個体にとって有害な抗体の産生をそれ自体が誘導することのない任意のキャリアが挙げられる。適切なキャリアは、代表的には、大きくてゆっくり代謝される高分子(例えば、タンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマー状アミノ酸、アミノ酸コポリマー、および脂質凝集体(例えば油滴またはリポソーム))などである。そのようなキャリアは当業者には周知である。ワクチンは水、食塩水、グリセロールなどの希釈剤も含有することができる。さらに、例えば湿潤または乳化剤、pH緩衝物質、ショ糖などの補助物質も存在し得る。無菌で発熱物質を含まないリン酸緩衝生理食塩水は代表的キャリアである(例えば注射用水に基づくもの)。薬学的に許容され得る賦形剤の詳細な考察は参考文献13において入手可能である。
【0042】
本発明の組成物は、代表的には、乾燥形態(例えば凍結乾燥形態)よりむしろ、水性形態(例えば溶液または懸濁液)である。水性組成物は、他の材料を凍結乾燥形態から再構成するのにも適している。本発明の組成物がそのような即時再構成に使用されるべきである場合、本発明はキットも提供する。このキットは、二本のバイアルを含んでもよく、または1本の充填済み注射器と1本のバイアルとを含んでもよい(注射に先だって、注射器の水性内容物がバイアルの乾燥内容物を再活性化するために使用される)。
【0043】
本発明の組成物はバイアルに入れて提供されてもよく、または充填済み注射器に入れて提供されてもよい。注射器は針を付けて供給されてもよく、または針を付けずに供給されてもよい。組成物は1回用量型または複数回用量型に包装され得る。注射器は一般に1回用量の組成物を含む。これに対して、バイアルは1回用量または複数回用量を含むことができる。したがって、複数回量型には、バイアルの方が充填済み注射器より好ましい。
【0044】
有効投薬体積は慣用的に確立され得るが、本組成物の代表的なヒト用量は、例えば筋肉内注射の場合、約0.5mlの体積を持つ。
【0045】
組成物のpHは、好ましくは6と8との間、より好ましくは6.5と7.5との間(例えば約7)である。Tris緩衝液、リン酸緩衝液、またはヒスチジン緩衝液などの緩衝液を使用することにより、安定したpHを維持することができる。本発明の組成物は一般に緩衝液を含む。組成物が水酸化アルミニウム塩を含む場合は、例えば1〜10mM(好ましくは約5mM)のヒスチジン緩衝液[14]を使用することが好ましい。本組成物は無菌である、および/または発熱物質を含まないことができる。本発明の組成物は、ヒトに関して等張性であり得る。組成物は、好ましくは、HCV RNAおよび/またはHCVビリオンを含まない。
【0046】
本発明の組成物は免疫原性であり、より好ましくはワクチン組成物である。本発明によるワクチンは、予防用(すなわち感染症を防止するため)であっても、治療用(すなわち感染症を処置するため)であってもよいが、代表的には予防用である。ワクチンとして使用される免疫原性組成物は免疫有効量の抗原を含み、必要に応じて他の任意の成分を含む。「免疫有効量」とは、その量を、単回投与で、または一連の投与の一部として、個体に投与することが、処置または予防に有効であることを意味する。この量は、処置される個体の健康状態および身体状態、年齢、処置される個体の分類群(例えば非ヒト霊長類、霊長類など)、その個体の免疫系が持つ抗体合成能力、所望する保護の程度、ワクチンの処方、処置医による医学的状況の評価、および他の関連要因に依存して変動する。この量は、慣用的な試行によって決定することができる比較的広い範囲に収まると予想される。
【0047】
組成物は注射剤として、液状の溶液または懸濁液の形で調製され得る。組成物は、例えば微粉末を用いた吸入器またはスプレーとして、肺投与用に調製され得る。組成物は坐剤または膣坐薬として調製され得る。組成物は、鼻、耳または眼への投与のために、例えばスプレー剤、滴剤、ゲル剤または粉末剤として調製され得る[例えば参考文献15および16]。筋肉内投与用の注射剤が代表的である。
【0048】
本発明の組成物は、複数回用量形式で包装される場合は特に、抗微生物剤を含み得る。
チオメルサールおよび2−フェノキシエタノールなどの抗微生物剤はワクチンには一般に見出されるが、水銀を含まない保存剤を使用するか、保存剤を全く使用しないことが好ましい。
【0049】
本発明の組成物は界面活性剤、例えば、Tween 80などのTween(ポリソルベート)を含み得る。界面活性剤は一般に低レベルで、例えば<0.01%で、存在する。
【0050】
本発明の組成物は、張性を得るためにナトリウム塩(例えば塩化ナトリウム)を含むことができる。10±2mg/mlのNaCl濃度が代表的である。塩化ナトリウムの濃度は好ましくは約9mg/mlである。
【0051】
本発明の組成物は一般に、他の免疫調節剤と一緒に投与される。特に、組成物は通常、1以上のアジュバントを含む。そして本発明は、本発明の組成物を調製するためのプロセスであって、本発明の小胞をアジュバントと、例えば薬学的に許容され得るキャリア中で混合する工程を包含するプロセスを提供する。適切なアジュバントとしては、以下が挙げられるが、それらに限定されるわけではない:
(A.無機物含有組成物)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適した無機物含有組成物には、アルミニウム塩およびカルシウム塩などの無機塩が含まれる。本発明は、水酸化物(例えばオキシ水酸化物)、リン酸塩(例えばヒドロキシリン酸塩、オルトリン酸塩)、硫酸塩などの無機塩[例えば参考文献17の第8章および第9章を参照されたい]、または異なる無機化合物の混合物を包含し、化合物は任意の適切な形態(例えばゲル、結晶、非晶質など)をとり、吸着が好ましい。無機物含有組成物は、金属塩の粒子として処方され得る[18]。
【0052】
代表的なリン酸アルミニウムアジュバントは、0.6mg Al3+/mlで含まれる、PO4/Alモル比が0.84と0.92との間の非晶質ヒドロキシリン酸アルミニウムである。低用量のリン酸アルミニウムによる吸着(例えば1用量あたり1コンジュゲートあたり50〜100μg Al3+)を使用し得る。リン酸アルミニウムを使用し、抗原をアジュバントに吸着させないことを望む場合は、(例えばリン酸緩衝液を使用することにより)溶解した状態の遊離リン酸イオンを含めることが好ましい。
【0053】
アルミニウムアジュバントの代表的な用量は約3.3mg/ml(Al3+濃度として表現)である。
【0054】
(B.油エマルジョン)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適した油エマルジョン組成物としては、スクアレン−水エマルジョン、例えばMF59[参考文献17の第10章;参考文献19も参照されたい](マイクロフルイダイザーを使ってサブミクロン粒子へと処方された5%スクアレン、0.5% Tween80、および0.5% Span85)が挙げられる。完全フロイントアジュバント(CFA)および不完全フロイントアジュバント(IFA)も使用され得る。
【0055】
(C.サポニン処方物[参考文献17の第22章])
本発明ではサポニン処方物もアジュバントとして使用し得る。サポニンは、広範囲にわたる植物種の樹皮、葉、幹、根、そしてさらには花にも見出される異種のステロール配糖体およびトリテルペノイド配糖体群である。キラヤ(Quillaia saponaria Molina)の木の樹皮から得られるサポニンはアジュバントとして広く研究されてきた。Smilax ornata(サルサプリラ(sarsaprilla))、Gypsophilla paniculata(ブライダルベール(brides veil))、およびSaponaria officianalis(サボンソウ)由来のサポニンも市販されている。サポニンアジュバント処方物としては、QS21などの精製処方物の他、ISCOMなどの脂質処方物も挙げられる。QS21はStimulonTMとして販売されている。
【0056】
サポニン組成物はHPLCおよびRP−HPLCを使って精製されている。QS7、QS17、QS18、QS21、QH−A、QH−BおよびQH−Cを含め、これらの技法を使った特定の精製画分が同定されている。サポニンは好ましくはQS21である。QS21の生産方法は参考文献20に開示されている。サポニン処方物はコレステロールなどのステロールも含み得る[21]。
【0057】
サポニン類とコレステロール類との組み合わせを使って、免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれるユニークな粒子を形成させることができる[参考文献17の第23章]。ISCOMは代表的には、ホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンなどのリン脂質も含む。既知のサポニンはどれでもISCOMに使用し得る。ISCOMは、好ましくは、QuilA、QHAおよびQHCのうちの1以上を含む。ISCOMは参考文献21〜23にさらに詳しく記述されている。必要に応じて、ISCOMは余分な界面活性剤を欠いてもよい[24]。
【0058】
サポニンベースのアジュバントの開発に関する総説は、参考文献25および26に見出すことができる。
【0059】
(D.ビロゾームおよびウイルス様粒子)
本発明ではビロゾームおよびウイルス様粒子(VLP)もアジュバントとして使用され得る。これらの構造物は一般に、ウイルスに由来する1以上のタンパク質を含有し、このタンパク質は、必要に応じて、リン脂質と組み合わされるか、またはリン脂質を使って処方される。これらは一般に非病原性、非複製性であり、一般に天然ウイルスゲノムを一切含有しない。ウイルスタンパク質は組換え生産されるか、またはウイルス全体から単離され得る。ビロゾームまたはVLPでの使用に適したこれらのウイルスタンパク質としては、インフルエンザウイルスに由来するタンパク質(HAまたはNAなど)、B型肝炎ウイルスに由来するタンパク質(コアタンパク質またはキャプシドタンパク質など)、E型肝炎ウイルスに由来するタンパク質、麻疹ウイルスに由来するタンパク質、シンドビスウイルスに由来するタンパク質、ロタウイルスに由来するタンパク質、口蹄疫ウイルスに由来するタンパク質、レトロウイルスに由来するタンパク質、ノーウォークウイルスに由来するタンパク質、ヒトパピローマウイルスに由来するタンパク質、HIVに由来するタンパク質、RNAファージに由来するタンパク質、Qβファージに由来するタンパク質(コートタンパク質など)、GAファージに由来するタンパク質、frファージに由来するタンパク質、AP205ファージに由来するタンパク質、およびTyに由来するタンパク質(レトロトランスポゾンTyタンパク質p1など)が挙げられる。VLPは参考文献27〜32でさらに詳しく論じられている。ビロゾームは例えば参考文献33でさらに詳しく論じられている。
【0060】
(E.細菌誘導体または微生物誘導体)
本発明での使用に適したアジュバントとしては、腸内細菌リポ多糖(LPS)の無毒性誘導体、リピドA誘導体、免疫刺激オリゴヌクレオチドならびにADPリボシル化毒素およびその無毒化誘導体などといった細菌誘導体または微生物誘導体が挙げられる。
【0061】
LPSの無毒性誘導体としてはモノホスホリルリピドA(MPL)および3−O−脱アシル化MPL(3dMPL)が挙げられる。3dMPLは、4,5または6アシル化鎖を持つ3脱−O−アシル化モノホスホリルリピドAの混合物である。好ましい「小粒子」状の3脱−O−アシル化モノホスホリルリピドAが参考文献34に開示されている。3dMPLのそのような「小粒子」は、0.22μm膜による滅菌濾過が可能なほど小さい[34]。他の無毒性LPS誘導体としては、アミノアルキルグルコサミニドリン酸誘導体、例えばRC−529などの、モノホスホリルリピドA模倣物が挙げられる[35,36]。
【0062】
リピドA誘導体としては、OM−174などの大腸菌(Escherichia coli)に由来するリピドAの誘導体が挙げられる。OM−174は例えば参考文献37および38に記載されている。
【0063】
本発明においてアジュバントとして使用するのに適した免疫刺激オリゴヌクレオチドとしては、CpGモチーフ(リン酸結合によってグアノシンに連結された非メチル化シトシンを含有するジヌクレオチド配列)を含むヌクレオチド配列が挙げられる。パリンドローム配列またはポリ(dG)配列を含有する二本鎖RNAおよびオリゴヌクレオチドも、免疫刺激性であることが示されている。
【0064】
これらのCpGは、ホスホロチオエート修飾などのヌクレオチド修飾/類似体を含むことができ、二本鎖または一本鎖であり得る。参考文献39、40および41には、例えば2’−デオキシ−7−デアザグアノシンによるグアノシンの置換など、可能な類似体置換が開示されている。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント作用は、参考文献42〜47で、さらに論じられている。
【0065】
モチーフGTCGTTまたはTTCGTTなどのCpG配列は、TLR9に関し得る[48]。CpG配列は、Th1免疫応答の誘導に特異的(例えばCpG−A ODN)であってもよく、またはB細胞応答の誘導に特異的(例えばCpG−B ODN)であってもよい。CpG−A ODNおよびCpG−B ODNは参考文献49〜51で論じられている。CpGは、好ましくは、CpG−A ODNである。
【0066】
CpGオリゴヌクレオチドは、好ましくは、5’末端を受容体認識に利用することができるように構築される。必要に応じて、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列を、それらの3’末端で結合して、「イムノマー(immunomer)」を形成させてもよい。例えば参考文献48および52〜54を参照されたい。
【0067】
本発明では細菌ADPリボシル化毒素およびその無毒化誘導体をアジュバントとして使用し得る。このタンパク質は、好ましくは、大腸菌(大腸菌熱不安定性エンテロトキシン「LT」)、コレラ(「CT」)、または百日咳(「PT」)に由来する。粘膜アジュバントとしての無毒化ADPリボシル化毒素の使用は参考文献55に、また非経口アジュバントとしての使用は参考文献56に記載されている。この毒素またはトキソイドは、好ましくは、AサブユニットおよびBサブユニットを両方とも含むホロ毒素の形態にある。Aサブユニットは、好ましくは、無毒化変異を含有し、Bサブユニットは、好ましくは、変異していない。アジュバントは、好ましくは、LT−K63、LT−R72、およびLT−G192などの無毒化LT変異体である。ADPリボシル化毒素およびその無毒化誘導体、特にLT−K63およびLT−R72の、アジュバントとしての使用は、参考文献57〜64に見出すことができる。アミノ酸置換に関する参照番号は、好ましくは、参考文献65に記載されているADPリボシル化毒素のAサブユニットおよびBサブユニットの整列に基づき、この参考文献は、参照によりその全体が、特に本明細書に援用される。
【0068】
(F.ヒト免疫調節物質)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適したヒト免疫調節物質としては、インターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−12[66]など)[67]、インターフェロン(例えばインターフェロンγ)、マクロファージコロニー刺激因子、および腫瘍壊死因子などのサイトカインが挙げられる。
【0069】
(G.生体接着剤および粘膜付着剤)
本発明では生体接着剤および粘膜付着剤もアジュバントとして使用され得る。適切な生体接着剤としては、エステル化ヒアルロン酸ミクロスフェア[68]または粘膜付着剤(例えば、ポリ(アクリル酸)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、多糖およびカルボキシメチルセルロースの架橋誘導体)が挙げられる。本発明ではキトサンおよびその誘導体もアジュバントとして使用し得る[69]。
【0070】
(H.微粒子)
本発明では微粒子もアジュバントとして使用し得る。生分解性であってかつ無毒性である材料(例えばポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリカプロラクトンなど;ポリ(ラクチド−co−グリコリド)が好ましい)から形成され、そして必要に応じて、(例えばSDSで)負に荷電した表面を持つように処理されるかまたは(例えばCTABなどのカチオン性界面活性剤で)正に荷電した表面を持つように処理された、微粒子(すなわち直径約100nm〜約150μm、より好ましくは直径約200nm〜約30μm、最も好ましくは直径約500nm〜約10μmの粒子)。
【0071】
(I.リポソーム(参考文献17の第13章および第14章))
アジュバントとしての使用に適したリポソーム処方物の例は、参考文献70〜72に記載されている。
【0072】
(J.ポリオキシエチレンエーテル処方物およびポリオキシエチレンエステル処方物)
本発明での使用に適したアジュバントとしては、ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステルが挙げられる[73]。そのような処方物には、さらに、オクトキシノールと組み合わされたポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤[74]、ならびにオクトキシノールなどの少なくとも1つのさらなる非イオン性界面活性剤と組み合わされたポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはエステル界面活性剤[75]が含まれる。好ましいポリオキシエチレンエーテルは以下の群から選択される:ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(ラウレス9)、ポリオキシエチレン−9−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−8−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−4−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−35−ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテル。
【0073】
(K.ポリホスファゼン(PCPP))
PCPP製剤は、例えば参考文献76および77に記載されている。
【0074】
(L.ムラミルペプチド)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適したムラミルペプチドの例としては、N−アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、およびN−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミンMTP−PE)が挙げられる。
【0075】
(M.イミダゾキノロン化合物)
本発明においてアジュバントとして使用するのに適したイミダゾキノロン化合物の例としては、イミクアモド(Imiquamod)およびその同族体(例えば「レシキモド3M」)が挙げられ、それらは参考文献78および79にさらに記述されている。
【0076】
本発明は、上述したアジュバントのうちの1以上の局面の組み合わせも含み得る。例えば、本発明では以下のアジュバント組成物を使用し得る:(1)サポニンおよび水中油型エマルジョン[80];(2)サポニン(例えばQS21)+無毒性LPS誘導体(例えば3dMPL)[81];(3)サポニン(例えばQS21)+無毒性LPS誘導体(例えば3dMPL)+コレステロール;(4)サポニン(例えばQS21)+3dMPL+IL−12(必要に応じて+ステロール)[82];(5)3dMPLと、例えばQS21および/または水中油型エマルジョンとの組み合わせ[83];(6)10%スクアラン、0.4% Tween80TM、5%プルロニックブロックポリマーL121、およびthr−MDPを含有するSAFであって、マイクロフルイダイザーでサブミクロンエマルジョンにするか、ボルテックスによってさらに大粒径のエマルジョンを生成させたもの;(7)2%スクアレン、0.2% Tween80、ならびにモノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)および細胞壁骨格(CWS)からなる群より選択される1以上の細菌細胞壁成分(好ましくはMPL+CWS(DetoxTM)を含有する、RibiTMアジュバントシステム(RAS)(Ribi Immunochem);ならびに(8)1以上の無機塩(アルミニウム塩など)+LPSの無毒性誘導体(3dMPLなど)。
【0077】
免疫刺激剤として作用する他の物質が、参考文献17の第7章に開示されている。
【0078】
アルミニウム塩アジュバントの使用は特に好ましく、一般的には抗原をそのような塩に吸着させる。本発明の組成物では、抗原の一部は水酸化アルミニウムに吸着させるが、他の抗原はリン酸アルミニウムと会合させておくということも可能である。しかし一般的には、塩を1つだけ使用し(例えば水酸化物だけまたはリン酸塩だけを使用し)、両方は使用しないことが好ましい。全ての小胞を吸着させる必要はない。すなわち一部または全部が溶解状態で遊離していてもよい。
【0079】
(処置の方法)
本発明は、哺乳動物の免疫応答を惹起するための方法であって、その哺乳動物に本発明の薬学的組成物を投与することを包含する方法も提供する。免疫応答は、好ましくは防御であり、好ましくは抗体が関与する。本方法では、HCVに対する初回免疫を既に受けている患者における追加免疫応答を惹起することもできる。
【0080】
哺乳動物は好ましくはヒトである。ワクチンが予防用である場合、ヒトは、好ましくは、小児(例えば幼児もしくは乳児)またはティーンエージャーであり、ワクチンが治療用である場合、ヒトは、好ましくは、成人である。小児用のワクチンを、例えば安全性、投薬量、免疫原性などを評価するために、成人に投与してもよい。
【0081】
本発明は、医薬として使用するための本発明のE1/E2複合体も提供する。この医薬は、好ましくは、哺乳動物の免疫応答を惹起することができ(すなわち免疫原性組成物であり)、より好ましくはワクチンである。
【0082】
本発明は、哺乳動物の免疫応答を惹起するための医薬の製造における本発明のE1/E2複合体の使用も提供する。
【0083】
これらの使用および方法は、好ましくは、HCVによって引き起こされる疾患(例えば肝炎)の予防用および/または処置用である。
【0084】
治療的肝炎処置の効力をチェックするための方法は当技術分野では知られている。予防的処置の効力をチェックする一方法では、当該組成物の投与後に、E1/E2抗原に対する免疫応答をモニタリングする工程を含む。本発明の組成物の免疫原性は、それらを試験対象(例えば12〜16ヶ月齢の小児、または動物モデル)に投与した後、ELISA力価(GMT)などの標準的パラメータを決定することによって決定され得る。これらの免疫応答は一般に、組成物投与の約4週間後に決定され、組成物の投与前に決定した値と比較される。
【0085】
一般に、本発明の組成物は、患者に直接投与される。直接送達は、非経口注射(例えば皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、筋肉内注射、もしくは組織の間質腔への注射)によって、または直腸投与、経口投与、膣投与、局所外用、経皮投与、鼻腔内投与、眼投与、耳投与、肺投与もしくは他の粘膜投与によって、達成され得る。大腿部または上腕への筋肉内投与が好ましい。注射は針(例えば皮下針)を通して行なわれ得るが、これに代えて無針注射を使用してもよい。代表的な筋肉内用量は0.5mlである。
【0086】
投薬処置は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであり得る。複数回投与は、一次免疫スケジュールおよび/または追加免疫スケジュールで使用され得る。一次投与スケジュールに続いて、追加投与スケジュールを行なうことができる。初回投与間(例えば4〜16週間)および初回投与と追加投与との間の適切なタイミングは、慣用的に決定され得る。
【0087】
本発明は全身免疫および/または粘膜免疫を惹起するために使用され得る。
【0088】
(一般事項)
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」および「からなる(consisting)」を包含する。例えば、Xを「含む」組成物は、もっぱらXからなってもよいし、何か他のものを含んでもよい(例えばX+Y)。
【0089】
数値xに関して「約」という用語は、例えばx±10%を意味する。
【0090】
「実質的に」という単語は、「完全に」を排除しない。例えばYを「実質的に含まない」組成物は、Yを全く含まなくてもよい。必要な場合は、「実質的に」という用語を本発明の定義から省略することができる。
C型肝炎ウイルスに関する詳細な情報は、その生活環、複製、培養条件、ゲノム、ポリタンパク質、タンパク質分解プロセッシングなどを含めて、参考文献84の第32〜34章に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、rvE1809(R809)レトロウイルスベクターを生成させ、細胞をそれに感染させるために使用した方法の概略図を示す。
【図2】図2は、R809ベクターをトランスフェクトしたHepG2、Huh−7または21−5細胞のウェスタンブロットを示す。染色抗体は抗E1/E2である。
【図3】図3は、抗E1E2、抗コアまたは抗E2を使った免疫沈降後の、抗E1/E2抗体で染色した、21−5細胞および培養上清のウェスタンブロットを示す。図3は非還元ゲルである。
【図4】図4は、抗E1E2、抗コアまたは抗E2を使った免疫沈降後の、抗E1/E2抗体で染色した、21−5細胞のウェスタンブロットを示す。図4は還元ゲルである。
【図5】図5は、図3と同様であるが、染色抗体は抗E1/E2ではなく抗コアである。
【図6】図6は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2または抗コアのいずれかで染色した。これら2つの個別の染色を重ね合わせると、E1/E2とコアとが一緒に局在することが示される。
【図7】図7は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2または抗コアのいずれかで染色した。これら2つの個別の染色を重ね合わせると、E1/E2とコアとが一緒に局在することが示される。
【図8】図8は、個々の21−5/R809細胞の免疫蛍光解析を示す。E1/E2を発現させる細胞の一部はコアタンパク質を発現しておらず、コアを発現する細胞の一部はE1/E2を発現していなかった。
【図9】図9は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。E1およびE2は、さまざまな形状、寸法および個々の分布を持つ「ドット」に構造化される。
【図10】図10は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。E1およびE2の「ドット」は、非構造タンパク質NS3と部分的に一緒に局在することを示す。
【図11】図11は、HCVレプリコンを欠くHuh7/R809の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2で染色した。E1/E2はドット状の分布を示すが、標識は21−5/R809細胞の場合の約5分の1だった。
【図12】図12は、約3μmの最大長を持つ細胞に沿ったE1/E2の分布の3次元グラフィック表示を示す。
【図13】図13は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2と抗カルネキシン(CNX)または抗ERP60のいずれかとで染色した。重ね合わせにより、E1/E2は標準的なERマーカーであるCNXおよびERP60と全く一緒に局在しないことが示唆される。
【図14】図14は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2と抗カルネキシン(CNX)または抗ERP60のいずれかとで染色した。重ね合わせにより、E1/E2は標準的なERマーカーであるCNXおよびERP60と全く一緒に局在しないことが示唆される。
【図15】図15は、21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2および抗GM130で染色した。重ね合わせにより、E1/E2とGM130とは一緒に局在しないことが示唆される。
【図16】図16は、IFN−αによる細胞培養物の処理前および処理後の21−5/R809細胞の細胞内免疫蛍光解析を示す。細胞を抗E1/E2で染色した。IFN−αで処理した細胞は、E1およびE2の代表的なERパターン分布を失う。
【図17】図17は、細胞培養物のIFN−α処理後のHCV RNAのレベルを示す。
【図18】図18は、細胞培養物のIFN−α処理後のリボソームRNAのレベルを示す。
【図19】図19は、分画遠心分離後の画分のウェスタンブロットを示す。
【図20】図20は、E1およびE2の大半がNP−40耐性膜と会合し、細胞内脂質ラフトのマーカーであるカベオリン−2と一緒に分画されることを実証する膜浮遊解析の結果を示す。
【図21】図21は、レプリコン細胞株におけるHCV糖タンパク質E1/E2の発現を示す。(A)HIV gag/polタンパク質、ウイルスエンベロープタンパク質(VSV−G)、HIV調節タンパク質revをコードするプラスミド、ならびにヒトホスホグリセロキナーゼ(hPGK)プロモーターの制御下にキャプシド形成シグナルおよびE1E2p7転写単位をコードする自己不活化型レンチウイルスベクターを同時トランスフェクトしたHEK293T細胞で、VSV−シュードタイプ粒子を産生させた。(B)Huh−7および21−5形質導入細胞株におけるE1/E2発現を、抗E1/E2チンパンジー抗血清L559を用いる免疫蛍光解析によって検出した[85]。E1/E2は赤色で視覚化され、青色は核のDAPI染色を表す。(C)21−5および21−5 R809から得た細胞溶解物を、コンフォメーショナルモノクローナル抗体CBH−2で免疫沈降させ、その免疫沈降物を抗E1/E2チンパンジー抗血清L559でブロットして、E1およびE2の両方を明らかにした。
【図22】図22は、HCV糖タンパク質E1およびE2が、コア、NS3およびNS5Aと一緒に局在することを示す。接種の1日後に、21−5および21−5R809を、コア、NS3またはNS5Aに対するマウスモノクローナル抗体(元は緑色として検出される)と抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は赤色として検出される)とで二重染色した。
【図23】図23は、HCV構造タンパク質およびHCV非構造タンパク質の、新生RNAが一緒に局在することを示す。(A)接種の1日後に、21−5R809細胞を固定し、抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は赤色)、NS5Aに対するマウスモノクローナル抗体7−D4(元は緑色)およびNS3に対するマウスモノクローナル抗体MMM33(元は青色)で染色した。(B)リポフェクトアミン2000を使って21−5R809をトランスフェクトし、そしてBrUTPで2時間または4時間、標識した。細胞を、抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は赤色)、NS3に対するマウスモノクローナル抗体MMM33(元は青色)、およびBrdUTPに対するモノクローナル抗体(元は緑色)で染色した。(C)では、細胞を4時間パルスし、(B)と同様に染色した。底面および側面の帯は、表示した線を通るz切片を表し、斑紋様構造をしたE1/E2、NS3およびRNAが一緒に局在することを示している。バーは5μm。
【図24】図24は、HCV RNA複製を支持する異なる細胞株におけるHCV非構造タンパク質の分布を示す。接種の1日後に、全長レプリコンを保有する21−5、サブゲノムレプリコンを保有するNS3−3’およびNS3−3’R809を固定し、NS5Aに対するマウスモノクローナル抗体7−D4(元は赤色)およびNS3に対するマウスモノクローナル抗体MMM33(元は緑色)で染色した。下のパネルでは、挿入図は、抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は青色)によるE1/E2染色を示す。バーは5μm。
【図25】図25は、HCV糖タンパク質E1およびE2の細胞内局在を示す。(A)21−5R809を固定し、そして示した抗体で染色した。組み合わせた画像だけを示す。(B)抗E1/E2チンパンジー抗血清L559(元は赤色)、カルネキシンに対するウサギポリクローナル抗体(元は緑色)およびNS3に対するマウスモノクローナル抗体MMM33(元は真ん中のパネルでは赤色、または下のパネルでは緑色)で染色した21−5R809細胞の拡大像。バーは2.2μm。
【図26】図26は、HCVタンパク質の細胞成分分画および界面活性剤可溶化を示す。(A)21−5R809細胞から得た細胞溶解物をそのまま処理しないか、1%TX−100により氷上で処理するか、1%TX−100により37℃で処理した。不連続ショ糖密度勾配遠心分離によって細胞成分分画を行なった。勾配の上端から下端まで画分を集めた。回収した画分を、等体積ずつ、10%SDS−PAGEで解析し、ニトロセルロース膜に転写し、E1/E2に対する抗体、NS3に対する抗体、コアに対する抗体、カベオリン−2に対する抗体、カルネキシンに対する抗体で免疫ブロットした。画分には上端から下端に向かって1から11までの番号を付ける。(B)収集した画分の密度プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0092】
(発明を実施するための形態)
(HCVゲノムレプリコン系における糖タンパク質発現の補強)
HCV複製/集合複合体の性質および細胞内区画化を明確にするために、本発明者らは、全長遺伝子型1bレプリコンを保有する21−5細胞におけるHCV構造タンパク質およびHCV非構造タンパク質の局在を調べた[4]。これらの細胞では、ノーザンブロットによって持続的RNA複製が証明され、ウェスタンブロットおよび35S−Met/Cys標識と、それに続く免疫沈降によって、タンパク質発現が証明された。これらの技法を使って、本発明者らは、細胞抽出物におけるコア、NS3、NS5aおよびNS5bの存在を明らかにした。意外なことに、ウェスタンブロット法、代謝標識法、または免疫蛍光解析法では、E1およびE2の発現を検出することができなかった。
【0093】
この低い糖タンパク質発現レベルが、この系がウイルス粒子を産生できないことの原因になっているかどうかを決定するために[4]、本発明者らは、レンチウイルスベクターによる遺伝子導入を使って、21−5細胞にE1およびE2の安定な発現を提供することにした[86]。本発明者らは、HCV1a遺伝子型のE1E2p7コード領域を、自己不活化型レンチウイルスベクターにおいて、遍在発現されるホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター(PGKp)の下流にクローニングし[87]、VSVシュードタイプ粒子を生成させた。
【0094】
(細胞株)
この研究では、以下の3つの異なる細胞株を使用した:1)ナイーブHuh7;2)全長レプリコンI389neo/core−3’/5.1を持つHuh−21−5[4]、サブゲノムレプリコンI389neo/NS3−3’を持つHuh−5−15[1]。これらの細胞を、HCVレプリコンを保持する細胞株については、完全DMEM+G418(ジェネティシン;Life Technologies)中で増殖させた(Huh−21−5には250μg/ml;Huh−5−15には750μg/ml)。Huh7細胞および21−5細胞[4]は供給業者から入手した。比較のためにHepG2細胞も使用した。Huh7細胞はHCVに感染していないが、21−5細胞は感染している。
【0095】
(レンチウイルスベクターの作製およびHCVレプリコン細胞株の形質導入)
PGK/HCV E1E2p7レンチウイルスベクターを生成させるために、本発明者らは、Tyr164の上流にMet残基が付加され、Ala809の下流に停止コドンが付加されたセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーを使って、HCV1a遺伝子型のTyr164からAla809までをコードする1935塩基対断片を増幅した。本発明者らは、自己不活化型レンチウイルスベクターpCCLsin.PPT.hPGK.GFP.Wpre[88],[87]の緑色蛍光タンパク質(GFP)を、増幅したE1E2p7断片で置き換えた。
【0096】
図1に示すプロセスにより、E1タンパク質およびE2タンパク質をコードするRNAを含有するレトロウイルス粒子を調製した。ウイルスLTRが両側に隣接した、E1タンパク質、E2タンパク質およびp7タンパク質をコードするDNA(10μgのpCCL.sin.PPT.hPGK.E1E2p7)を、10cmディッシュにプレーティングしたHEK293T細胞に、リン酸カルシウム法で、(i)サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にあるVSV−G(水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質)をコードするDNA(3.5μg)、(ii)RSVプロモーターの制御下にあるREVをコードするDNA(2.5μg)、および(iii)CMVプロモーターの制御下にあるGAGおよびPOLをコードするDNAで一過性にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞は、E1E2 RNAを含有するレトロウイルス粒子を産生し、これらの粒子を、そのHEK293T細胞培養物の上清から集めることができた。ウイルス上清の収集は、トランスフェクションの24時間後と48時間後とで2回行なった。0.2μmフィルター(Millipore,マサチューセッツ州ベッドフォード)を通して濾過した後、超遠心分離によってレンチウイルスベクターを濃縮した。精製された粒子(50μlまたは100μlのいずれか)を使用し、ポリブレン(8μg/ml)の存在下に、37℃および5%CO2で、濃縮レンチウイルスベクターに6時間曝露することにより、ナイーブHuh−7、Huh−5−15または21−5細胞を感染させ、形質導入の96時間後に、これらの細胞を、E1タンパク質およびE2タンパク質の発現について、フローサイトメトリーおよびウェスタンブロット法で解析した。このレトロウイルスベクターを「rvE1809」または「R809」と名付けた。
【0097】
ナイーブHuh−7細胞および21−5細胞のレンチウイルス形質導入は、どちらも非常に効率よく起こり、透過処理した細胞のFACS解析によって評価したところ、これらの細胞のほとんど100%で、HCV E1およびE2の安定な発現を可能にした。本発明者らは、HCV−1a E1E2p7で形質導入された細胞をR809と呼ぶ。
【0098】
ウェスタンブロットで抗E1/E2抗体を使用したところ、E1およびE2がHuh7細胞と21−5細胞とのどちらにも見られた(図2)。この解析により、E1およびE2が必要なシグナルペプチダーゼによってプロセシングされることも確認された。
【0099】
抗E1E2、抗コアおよび抗E2(「H2」)抗体を使用し、21−5細胞で、免疫沈降実験を行なった。図3(非還元ゲル)および図4(還元ゲル)のウェスタンブロットは抗E1E2抗体で染色したものであり、R809ベクターを持たない21−5細胞ではE1発現が検出されないこと;E1は抗E2モノクローナル抗体によって共沈されるので、E1とE2はヘテロ二量体として安定に会合していること;そして抗コア抗体はE1もE2も沈降させないので、E1/E2はコアとは会合していないことを示している。図5のウェスタンブロットは抗コア抗体で染色したものであり、コアタンパク質はR809ベクターを含む21−5細胞またはR809ベクターを含まない21−5細胞によって発現されるが、抗コアモノクローナル抗体によって沈降されないことを示している。35S−Met標識でもE1/E2発現を検出することができた。
【0100】
(免疫蛍光染色および共焦点顕微鏡法)
細胞を、24ウェルプレート中の30mmカバースリップ上に、1ウェルあたり5×104細胞の密度でプレーティングした。プレーティングの1日後に、細胞をPBS中で洗浄し、4%ホルムアルデヒドで30分間固定した後、PBS中の0.1% Triton X−100で15分間透過処理した。次に、製造者の指示に従って、細胞をブロッキング溶液(PBS中の0.5%ウシ血清アルブミン)で30分間、前処理し、ブロッキング溶液で希釈した一次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。PBS中で3回洗浄した後、AlexaFlourコンジュゲート二次抗体を、1:200の希釈率で、室温で1時間、細胞に加えた。PBSで洗浄した後、カバースリップを蒸留水で洗浄し、DAPI(4’,6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール)と共に水性封入媒体Vectashieldで封入した。
【0101】
21−5/R809細胞の免疫蛍光解析は、E1とE2とが一緒に局在すること(細胞の20〜30%にドット)を示し、コアタンパク質がE1/E2複合体と共に蓄積していることも示した(図6および図7)。抗コアによる可視蛍光スポットは、抗E1/E2で見られるものと、同じ形状を持っていた。図7に示すように、一部の例では、スポットが部分的にしか重なっていないことから、コアタンパク質とE1/E2タンパク質とは、同じドットに蓄積しようと試みていることが示唆された。異なる細胞を個別に調べたところ、E1/E2ドットを持つ一部の細胞はコアタンパク質を発現せず、コアドットを持つ細胞の一部は、E1/E2を発現しなかったので(図8)、細胞は均質ではなかった。しかし、コアとE1/E2とをどちらも発現させる細胞は、他の細胞から容易に識別され得、そして分離することができた。E1/E2スポットの形状、寸法および細胞内分布もさまざまだった(図9)。この変動性は、ウイルス疑似種の相違、トランスフェクション効率の相違(異なるクローン)に起因し得るか、またはそれは、ウイルス生活環の異なる段階にある同一の細胞であり得る。
【0102】
HCV糖タンパク質の細胞内分布を可視化するために、Huh−7細胞、Huh−7R809細胞、21−5細胞および21−5R809細胞で、さらなる免疫蛍光解析を行なった。図21Bに示す実験では、E1とE2との両方を明らかにするために、本発明者らは抗E1/E2チンパンジー抗血清L559[85]を使用した。しかし、ヒト起源またはマウス起源のモノクローナル抗E2抗体を使った場合にも、同様のパターンが得られた。Huh−7R809および21−5R809はどちらも、E1/E2の発現レベルに大きな変動性を示した(図21Bの上のパネル)が、これはおそらくそれらの起源がクローン性でないという事実に依存する。全体としてE1/E2はER様分布を持つようだったが、細胞の有意なサブセットが、サブゲノムレプリコンを保有する細胞で記載されているNS3およびNS5Aに富むドット状構造[89〜92]に似たドット状構造へのこれら2つの構造タンパク質の濃縮を示した(図21B)。代表的な細胞の拡大図によって証明されるように、これらの構造はどちらの細胞タイプにも存在したが、それらの構造の形状および局在は同等ではなかった(図21Bの下のパネル)。一般的所見として、Huh−7では、ドット状構造がより散漫に見え、細胞の辺縁部にある程度局在しているのに対して、21−5R809では核の近くに、より密集してみえた。
【0103】
(21−5R809におけるE1/E2と他のHCVタンパク質との一緒の局在)
さらなる実験により、E1/E2はNS3(図10)およびNS5aとも一緒に局在することが示された。
【0104】
サブゲノムレプリコンの活発なRNA複製を支持するHuh−7細胞では、NS3とNS5Aがどちらも、新たに合成されたHCV RNAと共に、HCV複製複合体を表し得る明確なドット状構造上に局在することが示されている[90、91、93]。さらにまた、HCV非構造タンパク質を含有する精製された膜画分は内在性レプリコンRNAに会合することも見出され、dNTP類が供給されると、このRNAをインビトロで複製することができた[89〜92,94〜97]。21−5R809細胞では、E1/E2も、ドット状の形状をした稠密構造に組織化されることを、本発明者らは明らかにした。次に、本発明者らは、21−5および21−5R809細胞において、非構造HCVタンパク質も何らかの種類の構造に組織化されるかどうか、そしてE1/E2との一緒の局在が存在するかどうかを、決定しようとした。本発明者らは、L559抗血清によってE1/E2を明らかにする共焦点顕微鏡法を、それぞれコア、NS3およびNS5Aと組み合わせて行なった。結果を図22に示す。
【0105】
左側のパネルでは、全長レプリコンを保有する21−5細胞における、コア(上)、NS3(真ん中)およびNS5A(下)の分布が、明らかにされた。これらの細胞では、コア、NS3およびNS5Aが、一定数の稠密局在領域を持つER様分布を示した。コアタンパク質は、かなりの数のドット状構造を形成すると共に、文献(34)に記載されているように輪状構造もいくつか形成するようだった。2つのHCV非構造タンパク質NS3およびNS5Aは、よりER様の分布パターンを示し、小さなドットが主に核周囲領域に局在していた(図22の左側のパネルの真ん中の段および下段)。このように、NS3およびNS5Aのパターンは、より大きな多数のドットの形成が記述されているサブゲノムレプリコンを保有する細胞に見出されるパターン[90〜93,98]とは異なるようだった。これらのタンパク質の分布パターンは、E1およびE2が高レベルに発現される21−5R809細胞では、異なるように見えた(図22,右側のパネル)。この場合、コアタンパク質、NS3タンパク質およびNS5Aタンパク質は、弱いER様分布を伴うドット状構造を形成した。注目すべきことに、E1/E2が形成するドットは、コア、NS3またはNS5Aによって形成される同様の構造との強い、一緒での局在を示した(図22、右側のパネル)。一方、散漫なER様パターンは、個別に解析した4つのタンパク質に関して類似していたが、これらの化学種の厳密な一緒の局在はもたらさなかった。
【0106】
さらにまた、抗アイソタイプ・フルオレシネート(fluorescinate)二次抗体を使って、21−5R809細胞におけるNS3、NS5AおよびE1/E2の同時染色を達成した。NS5Aに代えて、新生細胞質RNAを抗BrUTP抗体で標識した。これらの実験で得た結果を図23に示す。組合せ写真で得られる色により、任意の組み合わせでの異なる化学種の一緒の局在が明らかになった。NS3化学種とE1/E2、およびNS5AまたはウイルスRNAとの会合は、青色がより明るくなることによって明らかになった。E1/E2とNS5A(またはウイルスRNA)とが一緒に局在することによって黄色が生成したのに対して、白色の領域は3つ全ての化学種の完全な一緒の局在を示した。図23Cでは、三重に染色したこれらドット状構造の一部を、z切片でも示す(上側および右側の帯)。
【0107】
図23Aに示すように、E1/E2とNS3またはNS5Aのいずれかとの幅広い一緒の局在が観察された。さらにまた、これらのドット状構造のいくつかは、解析した3つの化学種全てについて陽性だった。これらの知見は、全ての化学種が一緒に局在している構造を生成させる、このレプリコンを背景として発現されるHCVタンパク質の共通する分布を示唆している。
【0108】
類似する状況が、他のウイルスタンパク質と比較した新生ウイルスRNAの分布にも観察された(図23Bおよび図23C)。これらの実験では、免疫蛍光染色および共焦点解析のために固定する前に、細胞を、アクチノマイシンDの存在下に、RNA前駆体BrUTPで2時間および4時間処理した。図23Bに示すように、2時間パルスでは、新生RNAが、E1/E2およびNS3も蓄積しているドットに対応する不連続な構造と会合していた。細胞をBrUTPでさらに長い期間(4時間)パルスすると、標識されたウイルスRNAは、E1/E2およびNS3と共にドット内に見出すことができるだけでなく、細胞全体にも広がっていた(図23C)。これは、複製されなければならないウイルスゲノムを構成するが、メッセンジャーとしても機能するという、HCV RNAが持つ二重の機能と合致する。非構造タンパク質と新生RNAとが一緒に局在することは、ウイルス複製複合体を表すと報告されている[89〜92]。本発明者らのデータは、上記2つのHCV糖タンパク質も、それらを発現させた場合には、これらの複合体とも会合することを示唆している。
【0109】
免疫蛍光ドットの共焦点顕微鏡法により、E1/E2ラベルは、約3μmの最大長の細胞に沿って分布することが明らかになった。このことは、管状構造を示唆する(図11)。
【0110】
R809ベクター(すなわち、HCVが存在しないもの)でトランスフェクトしたHuh7細胞も、E1/E2ドットを示したが、標識は21−5細胞の5分の1程度(50%対10%)であり、細胞内分布はわずかに異なるようだった(図12)。これは、R809ベクターから発現されるE1およびE2は細胞内で集合できるが、それらはコア(および他の)タンパク質がなければウイルス自己集合をさらに進めることができないことを示唆している。
【0111】
(E1/E2の細胞内局在)
ほとんどの報告では、HCVタンパク質はER膜またはER由来の膜に会合すると記述されており、一部の研究では、ゴルジ装置またはトランスゴルジ網の関与が指摘されている[89,90,92,98〜100]。本発明者らは、21−5R809細胞におけるE1/E2の位置を、共焦点解析により、これら2つのHCV糖タンパク質とさまざまな細胞区画の既知マーカーとの同時標識によって捉えようとした。
【0112】
簡単に述べると、細胞内局在を評価するために、細胞を抗カルネキシン(CNX)または抗ERP60(どちらも小胞体(それぞれ膜および内腔)のマーカーである)でも染色した。E1/E2はCNXと完全には一緒に局在せず、一部のE1/E2は細胞の周辺部に見られたことから、このタンパク質複合体はERを超えて進行していたことが示唆される(図13および図14)。次に細胞を、シスゴルジのマーカーである抗GM130で標識した。E1/E2とGM130とが一緒に局在していることは見られなかった(図15)。E1/E2はエンドグリコシダーゼH処理に対して感受性であったことから、それらはERに保持されていることが示された。
【0113】
より詳細に述べると、図25Aに示すこのような解析の結果から、本発明者らは、E1/E2はゴルジ装置(GM−130)にもミトコンドリア(TCP1)にも一緒に局在はせず、かつこれらは微小管(α−チューブリン)に結合せず、カベオリン−2にも会合しないと結論することができた。非常に限られた領域しか組合せの可能性が見えない図25Aに示すように、2つのERマーカーである、可溶性内腔タンパク質ジスルフィドイソメラーゼErp57および膜貫通タンパク質カルネキシンとの幅広い一緒の局在もなさそうだった。E1/E2、Erp57およびカルネキシンは、有意な重なりの不在を特徴とする幅広い細網状のパターンを示した。一方、E1/E2によって形成されるドット状構造を取り囲む領域の周辺における両化学種の分布は、判定がはるかに困難だった。
【0114】
カルネキシンはしばしばHCV糖タンパク質に会合していたので、いくつかの異なる試料で、より高倍率の共焦点走査解析を行なった。図25Bは、そのような解析の代表的画像を示している。カルネキシンとE1/E2との一緒の局在は、ドットの辺縁部にある数少ない微小な領域に限定されていた(図25Bの上段)。NS3化学種がカルネキシンから完全に離れて存在することは、もっとはっきりしていて(図25Bの中段)、E1/E2とNS3との強い一緒の局在は明白だった(図25Bの下段)。後者の場合、2つの化学種は、一緒の局在の稠密なコアと、周辺部に数少ない単化学種分布の領域を示した。
【0115】
結論として、ER膜貫通型シャペロン・カルネキシンは、本質的にはE1/E2と一緒に分布するが、一緒の局在は非常にわずかな部分でしか起こらないようだった。さらにまた、カルネキシンは、ドットの中心領域からは排除されるようだった。このように、高い百分率の21−5R809細胞では、コア、E1/E2、NS3およびNS5AというHCVタンパク質が稠密構造中に蓄積すると共に厳密に一緒に局在した。また、その周辺で唯一認識できる細胞マーカーはER膜貫通シャペロンである。まとめて考えると、これらのデータは、ER由来区画におけるHCVタンパク質の局在と合致した。
【0116】
(E1/E2発現の存在下または不在下でのNS3およびNS5Aの細胞分布)
ドット状構造におけるHCV非構造タンパク質、特にNS3およびNS5Aの会合は、サブゲノムレプリコンを保有する細胞で既に報告されている。
【0117】
これら異なるウイルスタンパク質のドット形成プロセスへの相対的寄与を解明するために、本発明者らは、21−5細胞(コアタンパク質の検出可能な発現はあるが、2つの糖タンパク質の検出可能な発現はない系)、ならびにE1およびE2を発現するかまたは発現しない、サブゲノムレプリコンを保有するHuh−7において、非構造タンパク質NS3およびNS5Aの分布を解析した。NS3−3’HCV−1b領域に相当するサブゲノムレプリコンの複製を支持するHuh−7細胞株は、参考文献1に記載された。本発明者らは、図21Aに示すように、遺伝子型1a由来のE1E2p7遺伝子を保持するレンチウイルスベクターによって、この細胞株の形質導入を行なった。2つの糖タンパク質の発現をウェスタンブロットによってチェックしたが、免疫蛍光解析では、細胞の事実上100%がE1/E2を発現させることがわかった。これらの細胞タイプでの共焦点解析で得た代表的画像を図24に示す。21−5細胞では、NS3とNS5Aがどちらも、細胞表面全体に小さなドット状領域をいくつか持つ散漫なER様分布を示した(図24の上段)。これら2つの非構造タンパク質の一緒の局在は、数少ない可視ドットに限定されるらしく、細網状に分布したタンパク質は会合していないようだった。NS3−3’細胞では、ER様パターンが減少し、両タンパク質を含有する、より大きなドットの数の増加を伴った(図24の中段)。ドット状構造におけるNS3とNS5Aとの同時存在は、NS3−3’R809細胞でははるかに明確だった(図24の下段)。これらの細胞において、これらの構造は数および大きさの両方が増し、それと同時にどちらの化学種についてもER様分布の減少が観察された。ここでもまた、2つの非構造タンパク質の一緒の局在は、ドット領域に優先的に限定された。これらの細胞におけるE1/E2の同時標識を挿入図内に示す(図24の下段)。結果は、2つの化学種が一緒に局在するドットおよびいくつかの領域におけるこれら2つの非構造タンパク質とE1/E2との広範な一緒の局在を明確に示した。これらの観察は、全長レプリコンまたはサブゲノムレプリコンを保有する細胞におけるドット状構造形成の誘発にE1/E2発現が及ぼす相乗効果と合致した。
【0118】
まとめると、これらの観察は、これらの細胞におけるドット状構造の形成を駆動し得る相互作用の複雑なパターンを示した。現在までに解析されたウイルスタンパク質はいずれも、細網状の分布を示したか、またはドット状構造に濃縮され、その数および位置は、特定ウイルスタンパク質の存在に依存するのではなく、それが発現される状況に依存するようだった。さらにまた、HCV RNA複製を許す細胞のサブタイプは、利用できるウイルス産物の全てを、出芽前領域に相当し得る大きな構造に蓄積させることも明らかだった。
【0119】
インターフェロンアルファ(IFN−α)は細胞培養中でHCV複製を阻害することが知られている[101]。21−5/R809細胞をIFN−αと共にインキュベートすると、E1およびE2のERパターン分布が変化し(図16)、絶対的にも(図17)、リボソームRNAとの比較でも(図18)、HCV RNAレベルの減少を引き起こした。
【0120】
(a)Huh7細胞;(b)R809トランスフェクトHuh7細胞、および(c)21−5/R809細胞からエキソソームを精製するために、分画遠心分離を使用した。図19に示すように、ある遠心分離実験のP5画分に、ゴルジ修飾E2タンパク質に一致するかすかなバンドが検出された。CD81も検出することができた。
【0121】
(新規合成されたウイルスRNAの標識)
細胞を、24ウェルプレート中のカバースリップ上に、1ウェルあたり5×104細胞の密度でプレーティングした。接種の1日後に、リポフェクトアミン2000を製造者の指示に従って使用することにより、細胞をブロモ−UTP(BrUTP)でトランスフェクトした。簡単に述べると、Optimem中の12mM BrUTP 50μlを、50μlのOptimenに希釈した1μlのリポフェクトアミン2000に加えた。室温で20分間インキュベートした後、そのBrUTP−リポフェクトアミン複合体を、アクチノマイシンD(5μg/μl)の存在下で、DMEM完全培地500μl中の細胞に直接加えた。2時間または4時間のインキュベーション後に、細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS中の1% Triton X−100で透過処理した。HCVタンパク質を上述のように同定し、一方、新たに合成されたウイルスRNAを、2μg/mlのマウス抗BrUTP抗体を使って検出した。一次抗体を、PBS/BSA 0.5%に200:1に希釈したAlexaFluorコンジュゲート二次抗体で検出した。
【0122】
新規合成されたHCV RNAを標識することにより、本発明者らは、本発明の複合体がウイルスRNA合成の部位を構成することを示した。
【0123】
(膜浮遊アッセイ)
HCVタンパク質と会合する細胞内膜の性質をより良く特徴づけるために、本発明者らは、膜画分と細胞質ゾル画分とを分離するための細胞成分分画研究を行なった。
【0124】
細胞を1mlの低張緩衝液(10mM Tris−HCl pH7.5、10mM KCl、5mM MgCl2)中で溶解し、Wheatonルーズフィットダウンスホモジナイザーで50ストローク、ホモジナイズした。4℃、1000×gで5分間の遠心分離によって、核および未破砕細胞を除去した。膜構造を特徴づけるために、細胞溶解物の核成分分画後上清(postnuclear supernatant)を4℃または37℃で30分間、1%トリトンX−100で処理した。次に、低塩濃度緩衝液(50mM Tris−HCl pH7.5、25mM KCl、5mM MgCl2)中で80%ショ糖と混合することによって細胞溶解物を55%ショ糖にし、そして6mlの35%ショ糖を重層し、最後に3mlの5%ショ糖を重層した。この勾配を、Beckman SW40ローター中、4℃、38000rpmで、20時間遠心分離した。遠心分離後に、勾配の上端から1mlずつの画分を集め、PBSに希釈し、350000×gで60分間遠心分離することにより、物質を沈降させた。ペレットをSDS試料緩衝液に再懸濁し、10%ポリアクリルアミドゲルで分離し、そしてニトロセルロース膜に転写した。ブロッキング後に、膜を一次抗体と共に室温で1時間インキュベートし、次に適切な化学種特異的セイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体と共に、室温でさらに1時間インキュベートした。
【0125】
21−5R809細胞株からの細胞抽出物をショ糖勾配で分画し、そしてHCVの構造タンパク質およびHCVの非構造タンパク質、ER膜結合型タンパク質カルネキシン、ならびに細胞質脂質ラフトマーカーのカベオリン−2の存在について調べた。膜結合型タンパク質は勾配内の平衡な密度へと浮遊すると予想された。実際、E1/E2およびNS3はどちらも充分な割合のものが膜画分(画分4〜5)に見出され、一方、コアタンパク質は、最も可能性が高いのはその発現レベルが低いことに起因して、可溶性画分にしか検出できなかった(図26A、左図)。ERマーカーであるカルネキシンは、これらの生物学的手法で一般に見出されるように、膜画分および細胞質ゾル画分の両方に分布した。分画に先だって細胞抽出物を1% Triton X−100で4℃(ERタンパク質を細胞質ゾルに放出させる条件)にて処理した場合は、全てのHCVタンパク質が勾配の最下部の細胞質ゾル画分に見出された(図26A、真ん中の図)。したがって、以前の報告[95]と一致して、細胞抽出物のTriton X−100処理は、HCV複製複合体とER膜との解離をもたらした。これと同じ処理では、Cav−2と一緒に分画される界面活性剤耐性膜(DRM)は破壊されなかった(図26A、真ん中のパネル)。TX−100と共に37℃でインキュベートすると、DRMタンパク質の完全な可溶化が起こった(図26A、左のパネル)。まとめて考えると、これらのデータは、今までに記載されたHCV複製/集合複合体が、ER起源の膜構造と会合することを示した。
【0126】
膜浮遊解析により、E2の大半は、1%NP40による処理に対して耐性でかつカベオリン−2と一緒に分画される膜と会合することが証明された(図20)。
【0127】
(まとめ)
この報文で、本発明者らは、HCV構造タンパク質およびHCV非構造タンパク質の細胞内局在の解析ならびにウイルス出芽機序の研究に役立ち得る新しい細胞系を記載する。本発明者らは、全長遺伝子型1bレプリコンを保有する細胞株におけるE1E2(およびp7)の安定かつ検出可能な発現を樹立し、これら2つの糖タンパク質の局在を、非構造タンパク質、ウイルスRNAおよび細胞内マーカーとの関連で特徴づけた。この系では、2つの糖タンパク質の発現は妥当に持続し続け、予想どおり、E1E2ヘテロ二量体の形成をもたらした。さらにまた、これら2つの糖タンパク質の染色体発現は、これら2つの化学種の遺伝的浮動を防止するので、E1E2の安定性に影響を及ぼし得る変異蓄積が回避される。タンパク質分布には2つのパターン、すなわち他の任意のERマーカー標識に似た「細網状」パターンと、ウイルスタンパク質の局在した蓄積がドット状構造を生成した「斑点状」パターンが観察された。細網状分布の場合、HCVタンパク質は、互いとも、細胞内区域を同定するために用いられる標準的マーカーとも、優先的には一緒に局在しなかった。
【0128】
全てのHCVタンパク質は宿主細胞膜と、膜結合タンパク質として直接的に、または間接的に相互作用して、特異的な変化のパターンを誘発する。本発明者らは、ナイーブHuh7細胞においてドット様構造を誘発するには、E1E2p7の孤立した発現で十分であることを確認した(図21B)。しかし、これらの構造の数、形状および局在は、同時に発現されるウイルスタンパク質の状況に依存していた。実際、本発明者らは、全長レプリコンまたはサブゲノムレプリコンを保有する細胞における補強されたE1E2発現が、NS3およびNS5Aの細網状分布の減少と、それに付随する、全てのウイルス成分が濃縮される、より明確な領域への蓄積とを誘発することを実証した(図22および図24)。逆に、発現された外因性E1/E2は、レプリコンとの関連で発現させた場合に、ナイーブHuh7細胞中でのそれらの細胞局在と比較して、より輪郭のはっきりした、より大きい、より核周囲性の強いドット状構造に組織化される。
【0129】
以上は本発明を例示するための説明に過ぎず、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく改変を加え得ることが理解される。
【0130】
(参考文献:これらの内容は、本明細書中に参考として援用される)
【0131】
【表1−1】
【0132】
【表1−2】
【0133】
【表1−3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2012−196233(P2012−196233A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−160273(P2012−160273)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【分割の表示】特願2007−534114(P2007−534114)の分割
【原出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(592243793)ノバルティス ヴァクシンズ アンド ダイアグノスティクス エスアールエル (107)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160273(P2012−160273)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【分割の表示】特願2007−534114(P2007−534114)の分割
【原出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(592243793)ノバルティス ヴァクシンズ アンド ダイアグノスティクス エスアールエル (107)
【Fターム(参考)】
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