説明

C/Cコンポジットに基づく摩擦部材の作成方法

【課題】耐磨耗と摩擦磨耗の間の良好な調和、耐酸化性およびブレーキング性能の安定性を示す、C/Cコンポジット材料に基づく摩擦部材を得る。
【解決手段】炭素/炭素ンポジット材料は、少なくとも外部主要相においてガス状の前駆体に由来する熱分解炭素マトリックスで緻密化することにより得られ、緻密化の終わりに、最終熱処理が1400℃〜1800℃の範囲にある温度で実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/Cコンポジット材料の摩擦部材、特に航空機用ブレーキディスク、の作成に関するが、これに限定されない。
【0002】
ここで、C/Cコンポジット材料に「基づく」摩擦部材という用語は、C/Cコンポジットから、または本質的にC/Cコンポジット(すなわち、特に耐摩耗性を改良するために、少量のwt%の付加的な成分、たとえばセラミック粒子、を含んでいてもよい)から、製造される摩擦部材を意味するのに使用される。
【背景技術】
【0003】
C/Cコンポジット材料に基づく航空機用ブレーキディスクは、広く使用されている。このようなディスクの周知の作成方法は、次の段階を含む:
・ 炭素前躯体繊維、典型的には予備酸化されたポリアクリロニトリル(PAN)繊維、から環状プリフォームを製造する;
・ 炭素前躯体を変化させ、炭素繊維から製造され、コンポジット材料の繊維強化を形成するように意図された、環状プリフォームを得るように、炭化熱処理に供する;ならびに
・ 炭素マトリックスで炭素繊維プリフォームを緻密化する。
【0004】
炭素前躯体繊維の環状プリフォームは、種々の方法で製造され得る:
・ 二次元繊維織物(fiber texture)のプライを重ね、その重ねられたプライを一緒に結合し、そして繊維構造から環状プリフォームを切り出すことにより、厚い繊維構造を形成し、その二次元繊維織物は、たとえば一方向性(UD)繊維シートを重ね、そのUDシートを、たとえば軽いニードリングにより、一緒に結合する、ことにより得られる、多方向性(nD)繊維シートである;
・ 二次元繊維織物、たとえばnD繊維シート、から、環状プライまたは中空でない(solid)ディスクの形状のプライを切り出し、ついで環状繊維プライを重ねて、重ねられたプライを一緒に結合して、その結果、環状繊維プリフォームを直接に得、またはディスク形状繊維プリフォームを得、それより中央部分切り出され、環状プリフォームを得る;または、重ねられたプライ環状繊維プリフォームを形成するために、らせん状のあみひも(braid)または織物の平らな折り返し(flat turns)を巻き(wind)、そしてそのプライを一緒に結合する。
【0005】
これらの結合方法において、重ねられたプライ間の結合は、ニードリングにより実施されるのが通常である。この目的のために、典型的には、重ねられたプライは水平な支持体上に置かれ、プライが互いに重ねられるように、ニードリングは次第に実施され、ニードリングのパス(pass)は、新たなプライが付加される度に実施される。ニードリングはとげのある針により実施され、針は形成される繊維構造または繊維プリフォーム中に垂直に(Z方向)突き通し、Z方向を占めるように針によって移動される繊維により得られるプライ間を結合する。水平支持体は、ニードリングのパス後に、新たなプライが適用される度に、1ステップで繰り下げる(move down)ようにされ、その結果、繊維構造または繊維プリフォームの厚さを通過する繊維のZ方向の密度を調節する。
【0006】
炭素前駆体繊維が製造される環状プリフォームの製造に関して、たとえば次の文献:US4,790,052、US5,792,715およびUS6,009,605が参照され得る。
【0007】
炭素繊維プライを重ね、ニードリングによりこれらのプライを一緒に結合することによって、直接に炭素繊維から環状プリフォームを製造することも提案されていることが観察されるべきである。
【0008】
熱分解炭素(PyC)マトリックスで緻密化する前に、炭素繊維プリフォームについて、特に繊維に含まれる不純物、特に炭素前駆体繊維の製造プロセスから生じる残留ナトリウム、を消去するために、典型的には少なくとも1600℃の温度で、高温熱処理を実施することが知られている。例として、次の文献:US7,351,390、US7,052,643およびUS7,410,630が参照され得る。
【0009】
炭素マトリックスによる緻密化は、液体タイプの方法により、すなわち樹脂またはピッチのような、液状の炭素前駆体にプリフォームを含浸し、そして熱処理下の炭化により前駆体を炭素に変えることにより、達成され得る。
【0010】
炭素マトリックスでの緻密化は、化学蒸気浸透(CVI)法によっても実施され得、公知の態様でエンクロージャ内に炭素繊維プリフォームエンクロージャ内に炭素繊維プリフォームを置き、1つ以上のガス状の炭素前駆体を含むガスをエンクロージャ内に入れ、温度と圧力の条件下で、エンクロージャは、プリフォーム内でガスを接触させることができるように制御され、前駆体の分解により、その中でPyC堆積を形成する。典型的には、ガスは炭素前駆体としてメタンおよび/またはプロパンを含むが、他のガス状炭化水素前駆体も使用され得る。積み重ねて置かれた、多数の環状プリフォームは、特に文献US5,904,957に記載されるように、単一エンクロージャ内で同時に緻密化され得る。
【0011】
公知の方法と同様に、液体炭素前駆体の浴中に環状炭素繊維プリフォームを浸すこと、そしてたとえば誘導コイルと連結することにより、プリフォームを加熱すること、を含む「蒸発」プロセスを用いて、PyCマトリックスで緻密化を実施することもできる。加熱されたプリフォームと接触して、液体は蒸発する。蒸気は拡散し、プリフォーム内で分解によりPyC堆積を生じる。特に、文献US5,733,611が参照され得る。
【0012】
CVIプロセスと液体タイプのプロセスを組み合わせることにより緻密化を達成することも知られている。文献EP2 088 347およびEP2093 453は、CVIによる緻密化ステップ、ついでピッチに含浸し、炭化することによる緻密化ステップを開示する。ピッチ炭化は、1200℃〜1800℃、典型的には1600℃の温度で実施され、ついでピッチ前駆体炭素を黒鉛化するために1600℃〜2400℃の温度で黒鉛化処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US4,790,052
【特許文献2】US5,792,715
【特許文献3】US6,009,605
【特許文献4】US7,351,390
【特許文献5】US7,052,643
【特許文献6】US7,410,630
【特許文献7】US5,904,957
【特許文献8】US5,733,611
【特許文献9】EP2 088 347
【特許文献10】EP2 093 453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、C/Cコンポジット材料ブレーキディスク、もっと一般的には耐磨耗と摩擦磨耗の間の良好な調和、耐酸化性およびブレーキング性能の安定性を示す、C/Cコンポジット材料に基づく摩擦部材、の製造方法を提案することであり、マトリックスの炭素は、少なくとも主要外部相でガス状の前駆体に由来する熱分解炭素から形成される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、C/Cコンポジット材料に基づく摩擦部材の製造に関し、マトリックスの炭素は、少なくとも炭素マトリックスの主要な外部相で、ガス状の前駆体に由来するPyCからなる。「ガス状の前駆体に由来するPyC」は、通常のCVIで得られるPyC、ならびに上述の蒸発プロセスにより得られるPyCを意味する。
【0016】
PyCマトリックスの緻密化後に、 PyCマトリックスが粗い薄片状の PyC、すなわち「RL-PyC」であるとき、そのPyCマトリックスを黒鉛化するために、高温、典型的には2000℃超で、任意に最終熱処理を進めることも知られている。CVIプロセスが実施される(特に等方性PyC)条件下で得られ得る種々のタイプのPyCのうちで、 RL-PyCが黒鉛化に適しているタイプである。RL-PyCマトリックスを製造する方法は、文献US6,001,419に記載されている。
【0017】
高温での最終熱処理により黒鉛化された RL-PyCマトリックスを有するC/Cコンポジット材料(材料「A」)から製造された航空機用ブレーキディスクは、良好な耐酸化性を示し、良好なブレーキ特性、特に離陸前の高速での緊急停止ブレーキング(拒絶された離陸(RTO)ブレーキングとしても知られる)のような、高エネルギーブレーキングの間に、摩擦係数の良好な安定性を与える。にもかかわらず、そのようなディスクの摩耗は比較的高い。
【0018】
高温で最終熱処理を受けていないが、緻密化の前に炭素繊維前駆体について実施された高温熱処理を受けたC/Cコンポジット材料(材料「B」)から製造されたブレーキディスクは、低エネルギー(特に冷間に陸上走行(taxiing)中のブレーキング)で、低摩耗を示し、そのことは、駐車ポイントから、離陸、飛行、着陸時のブレーキングの冷間(ブレーキングを含む)の陸上走行、ならびに滑走路から駐車ポイントへの熱間(ブレーキングを含む)の陸上走行、からなる正常操作サイクルの間に通常観察される全磨耗のうちの大きな成分(component)を構成する。それにもかかわらず、材料Aと比べて、比較的低い耐酸化性、および高エネルギーブレーキングの間の比較的小さな摩擦係数が観察された。
【0019】
本発明の目的は、C/Cコンポジット材料ブレーキディスク、もっと一般的には耐磨耗と摩擦磨耗の間の良好な調和、耐酸化性およびブレーキング性能の安定性を示す、C/Cコンポジット材料に基づく摩擦部材、の製造方法を提案することであり、マトリックスの炭素は、少なくとも主要外部相でガス状の前駆体に由来する熱分解炭素から形成される。
【0020】
この目的は、炭素/炭素ンポジット材料に基づく摩擦部材の作成方法により達成され、その方法は炭素繊維プリフォームを製造すること、熱分解炭素でプリフォームを緻密化すること、そして緻密化の後に、1400℃〜1800℃の範囲、好ましくは1550℃〜1700℃の範囲にある温度で、最終熱処理を実施することからなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による方法の実施において、C/Cコンポジット材料ブレーキディスクの作成方法の連続的ステップの一例を示す。
【図2】緻密化前の、炭素繊維プリフォームの異なる熱処理温度に関して、C/Cコンポジット材料から製造される航空機用ブレーキディスクの、摩耗と最終熱処理温度の関係を示す曲線をプロットする図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に示されるように、そして全く予測されない態様で、このような特定の特定の温度範囲内で最終熱処理を実施することは、高温での最終熱処理を含まない従来法に比べて、低摩耗を保つこと、または実に摩耗を低下させることを可能にし、同時に高エネルギーブレーキングの間を含む、ブレーキング性能を著しく改良し、耐酸化性を改良する(最終熱処理がPyCマトリックスを黒鉛化する閾値よりも十分に低い温度で実施されても)。
【0023】
1つの態様において、マトリックス全体で、マトリックスの炭素はガス状の前駆体に由来する熱分解炭素により形成される。
【0024】
もう1つの態様において、マトリックスの内部の少ない相(internal minority phase)において、マトリックスの炭素は液体状態の炭素前駆体によりプリフォームを含浸し、前駆体を炭化することにより得られ、マトリックスの内部の少ない相の炭素は、好ましくはマトリックスの炭素の全体容量の20%未満を示す。
【0025】
有利には、緻密化の前に、熱処理が1600℃より高い温度で炭素繊維プリフォームについて実施される。
【0026】
さらに、有利には、熱分解炭素マトリックスは、粗い薄片状タイプのもので形成される。
【0027】
1つの態様において、繊維プリフォームは、炭素前躯体繊維から製造される二次元繊維プライを重ね、プライが重なるように次第にニードリングすることによりプライを一緒に結合し、そして炭素前躯体繊維を炭素繊維に変えるために炭化することにより製造される。
【0028】
もう1つの態様において、プリフォームは、炭素繊維から製造される二次元繊維プライを重ねること、そしてプライが重なるように次第にニードリングすることによりプライを一緒に結合することにより製造される。
【0029】
両方の場合において、新たにそれぞれ重ねられるプライのニードリングは、90ストローク/cm2未満のニードリング密度で実施される。
【0030】
本発明の特定の実施が航空機用ブレーキディスクへの適用に関して、以下に説明される。にもかかわらず、本発明は種々の摩擦部材、特にディスク、パッドおよびシューズ(shoes)にもっと一般的に適用され得る。
【0031】
図1の最初のステップ10は、炭素前躯体繊維から繊維プリフォームを製造することにある。この目的のために、上述のいかなるプロセスを用いることも可能である。すなわち、
・ 二次元繊維織物のプライを重ねること、そしてこれらのプライをニードリングにより結合することにより厚い繊維構造を形成すること、ここでその繊維構造は、たとえばnDシートであり、ならびにその繊維構造から環状プリフォームを切り出すこと;
・ 二次元織物から環状プリフォームを切り出すこと、そしてプライを重ね、ニードリングによりプライを結合してプリフォームを形成すること;または
・重ねられた環状プライを形成するために、らせん状織物またはらせん状あみひもの平らな折り返しを巻くこと、そしてそのプライをニードリングにより一緒に結合すること。
【0032】
ニードリングは、とげのある(barbed)針を用いて連続的パスで実施され、ニードリングは新たに適用される各プライの全領域にわたって実施される。文献WO96/12842に記載されるニードリング法を用いることができる。好ましくは、各プライをニードリングする間、ニードリング密度(単位面積あたりの針のストローク数)は比較的小さい。にもかかわらず、製造されるブレーキディスクにおいて要求されるはく離抵抗性、すなわちプライ間の結合破壊の結果としての脱結合(decohesion)への抵抗性、を付与するように、十分な
プライ相互の結合を与える。30ストローク/cm2以上で90ストローク/cm2以下のニードリング密度が好適である。
【0033】
次のステップ20において、炭素前躯体繊維から製造されたプリフォームは、750℃〜1100℃の範囲にある温度、たとえば約900℃で、炭化熱処理により、炭素繊維プリフォームに変換される。
【0034】
炭化後に、高温熱処理が炭素繊維プリフォームについて実施される(ステップ30)。熱処理は、不活性雰囲気下に、たとえば窒素気流によって掃引されているエンクロージャ内で、1600℃より高い温度で、たとえば1600℃〜2500℃の範囲にある温度で実施される。その目的は、繊維に含まれ得る残留不純物、特にナトリウムを消去することである。
【0035】
炭化(ステップ20)および高温熱処理(ステップ30)は、文献EP1 521 731に示されるように、同一エンクロージャ内で後に引き続き得る。
【0036】
その後、ステップ40において、熱処理された炭素繊維プリフォームは、ガス状の前駆体に由来するPyCマトリックスにより緻密化される。通常のCVIプロセスにおいて、たとえばメタンおよびプロパンの混合物を含むガス相が用いられ、緻密化は約0.5kPa〜3.3kPaの範囲にある低圧力で、約850℃〜1050℃の範囲にある温度で実施され、通常のCVIプロセスのパラメータ(温度、圧力、ガス流速、緻密化エンクロージャを通過するガスの通過時間)は、たとえばRL-PyCタイプのマトリックスを得るために、処理の間、選定され、または変動される。上述の文献US6,001,419が参照され得る。炭素繊維の高温熱処理(ステップ30)および通常のCVIプロセスによる緻密化は、文献US7,052,643に記載されるように、同一エンクロージャ内で後に引き続き得る。蒸発による分解のプロセスにおいて、炭素の液体前駆体として、たとえばシクロヘキサンが使用され、そしてプリフォームは約850℃〜1050℃の範囲にある温度に加熱される(特に文献WO99/40042参照)。
【0037】
緻密化の終わりに、高温での最終的な熱処理が実施される(ステップ50)。この熱処理は、1400℃〜1800℃、好ましくは1550℃〜1700℃、の範囲にある温度で実施される。これはC/Cコンポジット材料ブレーキディスクを生じさせ、そこではマトリックスの炭素はガス状の前駆体に由来するPyCが形成される。ディスクは、所望の寸法に機械加工され、耐酸化性保護が非摩擦表面に適用された後に、使用に供される。
【0038】
この特定の温度範囲(1400℃〜1800℃)で実施される最終的な熱処理は、RL-PyCマトリックスの黒鉛化を生じさせないが、得られるC/C材料ディスクの厚さに、熱拡散の増加、比較的良好な耐酸化性、および比較的良好なブレーキング性能に寄与し、同時に低い摩擦摩耗を示す、ことが、全く予期しないことに見出された。さらに、この最終的な熱処理は、横方向の剛性(ディスクの面において)および軸方向の剛性(ディスクの厚さにおいて)、を低減させることも見出された。その結果、ブレーキングの間、良好な幾何学的調和が、ディスクの摩擦面(1つのみの摩擦面を有するディスクについて)またはディスクの各摩擦面(2つの摩擦面を有するディスクについて)から得られ、すなわち比較的大きな接触領域が面する摩擦表面で得られる。これは、これらの摩擦面の小さな領域に摩擦を制限するリスク回避する、すなわち酸化による摩耗を助長し、摩擦性能を制限するような非常に熱い点の出現を生じさせないようにするものである。
【0039】
図1に関して説明された方法の変形において、ステップ10および20は、一緒に結合された繊維プライを有する炭素繊維プライの重なりから直接に炭素繊維プリフォームを製造するように組み合わせられ得る。結合は、好ましくは90ストローク/cm2以下のニードリング密度でニードリングすることにより達成され得る。
【0040】
もう1つの変形において、ガス状の前駆体に由来するPyCでの緻密化は、繊維プリフォームを液体状態の炭素前駆体、たとえば樹脂またはピッチに含浸し、そして炭化により前駆体を炭素に変換することにより得られた炭素が、製造される内部マトリックス相で、第1の緻密化ステップにより先行され得る。このような内部マトリックス相は、プリフォームの統合、すなわちプリフォームに剛性を与えるのに十分に繊維を結合させる、ことを特に達成し得る。このような内部相は、マトリックス炭素の少ない部分、好ましくはマトリックスの炭素の全容量の20%以下を示し、ガス状の前駆体に由来するPyCから形成される外部マトリックス相はマトリックスの主要部分、または大部分を形成する。
【0041】
さらに、1つの変形において、炭素以外の材料の固体フィラーがコンポジット材料に導入され得、特に耐摩耗性を改良するためにセラミック粒子が用意される。このようなフィラーの量は、比較的少なく、たとえばコンポジット材料の5wt%未満である。セラミック粒子を導入するための1つの方法は、文献WO2006/067184に記載されている。
【実施例】
【0042】
例1
C/Cコンポジット材料ブレーキディスクが、次の特定条件下に、図1に関して述べられる種類の方法により製造された:
・ 環状プリフォームが、予備酸化PAN繊維の三次元(3D)シートにより構成されるプライを重ね、ニードリングでプライを一緒に結合することにより得られた繊維構造から切り出されて製造された。
3Dシートは、互いに60度の角度をなすUDシートを重ね、軽いニードリングでUDシートを一緒に結合することにより製造された。プライは、文献US5,792,715に記載される方法を用いて、プリフォームの厚さによって実質的は、次の定であるZ方向の繊維密度を得るように、一緒にニードリングされた。Z方向の繊維含量は約3%であった(すなわち、プリフォームの見かけ容積の3%はZ繊維で占められた。)。
・ 炭素繊維を得るために約900℃の温度で、予備酸化PAN繊維プリフォームを炭化すること。
・ 不活性ガス(窒素)下に、炭素繊維プリフォームの高温熱処理(HTT)。プリフォームの第1ファミリーは1600℃、第2ファミリーは1900℃、そして第3ファミリーは2200℃、で処理された。
・ メタンとプロパンの混合物により構成されるガスを用いて、通常のCVIプロセスによる緻密化。緻密化パラメータは、RL-PyCマトリックスが得られるように選定された。
・ 異なる選定温度での緻密化後に得られたC/Cコンポジット材料ディスクの最終熱処理。最終熱処理後に、ディスクは次の操作サイクルを再現したブレーキング試験を適用することにより、同一の摩耗試験に供された:
・ 駐車ポイントと離陸の間にいくつかのブレーキング操作を伴う、冷間陸上走行;
・ 飛行;
・ 着陸の間にブレーキング(ディスクを熱間に);
・ 滑走路と駐車ポイントの間にいくつかのブレーキング操作を伴う、熱間陸上走行;
摩耗が、操作サイクルあたり、摩擦面あたり、で測定された(μm/面/サイクル)。
【0043】
図2の曲線は、ブレーキング試験が、最終熱処理温度の異なる温度Tについて3つのファミリーから得られたブレーキにより構成された二ローターブレーキを用いて実施されたときに、測定された。
【0044】
黒鉛化をもたらす2200℃での最終熱処理に比べて、1400℃〜1800℃、特に1550℃〜1700℃、の範囲にある温度の最終熱処理に関して、非常に大きな摩耗低減があることがわかる。
【0045】
最終熱処理のない、すなわち緻密化で受けたよりも実質的に高い温度での熱処理のない、ディスクに比べて、驚くべきことに、炭素繊維プリフォームが1600℃より高い、高温での熱処理に供されたときに、摩耗抵抗の大きな改良があることも見出された。
例2
手順は次の点を除いて、例1と同様であった:
・ 1850℃での炭素繊維プリフォームのHTT;および
・ 炭素前駆体として蒸発されたシクロヘキサンの分解による緻密化。
【0046】
緻密化後に得られたC/Cコンポジット材料ディスクの異なる最終熱処理温度について、例1と同様な摩耗試験結果は次のとおりである・
最終熱処理温度 摩耗(μm/面/サイクル)
2000℃ 3.75
1850℃ 3.15
1650℃ 2.50
摩耗の著しい低減が、最終熱処理温度2000℃に比べて、1650℃で観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維補強材および炭素マトリックスから形成されるC/Cコンポジット材料に基づく摩擦部材の製造方法であり、マトリックスの炭素は、少なくとも主要外部相でガス状の前駆体に由来する熱分解炭素から形成され、その製造方法は、炭素繊維プリフォームを製造すること、熱分解炭素でプリフォームを緻密化すること、そして緻密化の後に、1400℃〜1800℃の範囲にある温度で、最終熱処理を実施することからなる摩擦部材の製造方法。
【請求項2】
最終熱処理が、1550℃〜1700℃の範囲にあるある温度で実施される請求項1に記載の摩擦部材の製造方法。
【請求項3】
マトリックス全体で、マトリックスの炭素はガス状の前駆体に由来する熱分解炭素により形成される請求項1または2に記載の摩擦部材の製造方法。
【請求項4】
マトリックスの内部の少ない相において、マトリックスの炭素は液体状態の炭素前駆体によりプリフォームを含浸し、前駆体を炭化することにより得られる、請求項1または2に記載の摩擦部材の製造方法。
【請求項5】
マトリックスの内部の少ない相の炭素は、マトリックスの炭素の全体容量の20%未満を示す、請求項4に記載の摩擦部材の製造方法。
【請求項6】
緻密化の前に、熱処理が1600℃より高い温度で炭素繊維プリフォームについて実施される、請求項1〜5のいずれかに記載の摩擦部材の製造方法。
【請求項7】
熱分解炭素マトリックスは、粗い薄片状タイプのもので形成される、請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦部材の製造方法。
【請求項8】
繊維プリフォームは、炭素前躯体繊維から製造される二次元繊維プライを重ね、プライが重なるように次第にニードリングすることによりプライを一緒に結合し、そして炭素前躯体繊維を炭素繊維に変えるために炭化することにより製造される、請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦部材の製造方法。
【請求項9】
プリフォームは、炭素繊維から製造される二次元繊維プライを重ねること、そしてプライが重なるように次第にニードリングすることによりプライを一緒に結合することにより製造される、請求項1〜8のいずれかに記載の摩擦部材の製造方法。
【請求項10】
新たにそれぞれ重ねられるプライのニードリングは、90ストローク/cm2未満のニードリング密度で実施される、請求項8または9に記載の摩擦部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−126776(P2011−126776A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280909(P2010−280909)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(591131361)メシエ−ブガッティ (64)
【氏名又は名称原語表記】MESSIER BUGATTI
【Fターム(参考)】