説明

C/C複合材製のパーツ上に耐火性カーバイド層を作る方法

本発明は、C/C複合材の接触可能表面上に耐火性カーバイドからなる層を作る方法に関し、前記方法は、前記複合材を、2000℃を超える融点を有する所定のカーバイドの前駆体である1/3以上95 %以下の原子比の金属と、5 %以上2/3以下の原子比のシリコンとを含有する固体状の反応性組成物と接触させて配置することからなる工程を含む。本方法は、前記C/C複合材の接触可能表面を、所定のカーバイドの前駆体である金属の融点以上の温度で溶融された反応性組成物で含浸することからなる工程をさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の背景
本発明は、攻撃性媒体中での攻撃に対する、カーボン/カーボン(C/C)熱構造複合材の保護に関する。
【0002】
C/C複合材は周知であり、それらは、それらの熱特性(カーボンの耐火性)、および特にそれらが高温下でも示す優れた機械的挙動のために使用される。それにも拘らず、このような材料は多孔質であり、そして元素カーボンに対して活性のある任意の腐食剤によって腐食されるという欠点がある。
【0003】
C/C複合材は、特に、ロケットエンジンのノズル、航空機のブレーキディスク、核反応炉(核分裂、核融合)の壁、大気圏再突入デバイスなどのような、高温に曝されるパーツを形成するために使用される。このようなC/C複合材パーツは使用されているが、パーツの「接触可能表面(surface accessible)」で露出したカーボンが、酸化性種、とりわけ存在している酸化剤と相互作用することを防止することが非常に重要である。「接触可能表面」という用語は、材料の内側にあり、かつ外側に開口している孔の表面、すなわち外側からの腐食性媒体に接触可能な孔の表面を含むパーツの外側表面の全てを指すために使用される。
【0004】
この材料の接触可能表面を保護するために、一つのよく知られた解決策は、溶融金属を、存在するカーボンと反応させ、カーバイド層を得ることから構成される。金属は、この材料のカーボンを溶融シリコンと反応させることによって得られるシリコンカーバイドのように、当該腐食性媒体に耐え、高温でも安定なカーバイドを生成するように選択される。C/C材を保護するために、より具体的には、高度に耐火性であり、超耐火性カーバイドとも称されるカーバイド、すなわちチタンカーバイド(TiC)、ジルコニウムカーバイド(ZrC)、ニオブカーバイド(NbC)、およびハフニウムカーバイド(HfC)のような2000℃を超える融点を呈するカーバイドを形成することが望ましい。これらのカーバイドは、例えば周知の反応性融解物溶浸(Reactive Melt Infiltration: RMI)を用いることによって、融点まで高められた対応する金属から得られる。
【0005】
図1Aおよび1Bは、C/C複合材に溶融ジルコニウムを溶浸させた後に得られた結果を示す。図1Aおよび1Bに示す材料の一部からわかるように、ジルコニウムカーバイド(ZrC)の層は、実際、Zr + C → ZrCの反応の結果として、溶融ジルコニウムに接触可能なカーボンの表面上に得られる。例として、L.M. Adelsbergらによる文献「”Kinetics of the zirconium-carbon reaction at temperatures above 2000℃", Transactions of the Metallurgical Society of AIME, 1966, No. 236, pp. 972-977」は、ジルコニウムをおよそ2000℃でカーボンと反応させ、ジルコニウムカーバイドを生成することを記載している。
【0006】
図1Aおよび1Bに示される金属区域は、この材料のカーボン上に形成されたジルコニウムカーバイドの層の間に結合欠陥が存在することを示す。脱結合(decohesion;図1Aおよび1B中の、カーボンとZrCとの間の黒い領域に相当する)は、1つ以上の腐食剤にとって好ましい経路、ひいては、C/C材のパーツのカーボンが、その後の使用の間に攻撃されることについて好ましい経路を構成する。
【0007】
カーバイド層を、この材料のカーボンと接続しようとする方法が開発されている。特に、文献US 2004/0207133は、耐火性金属を用いた一次のRMI反応性溶浸を実行して所望のカーバイドを形成し、引続いて、シリコン自体による二次のRMI反応性溶浸操作を実行し、溶融シリコンと接触可能カーボンとの間の反応により得られたシリコンカーバイドの二次層によって、脱結合から生じた空隙を充填することを提案している。それにも拘らず、その方法は、材料の二次的な高温の熱処理を要し、それにより余分な製造コストの増大をもたらすという事実はさておき、出願人は、一次のカーバイドが形成された後にこのようなSiC層を形成する場合でさえも、種々の層間の、特に結合の構造的および熱的連続性に関して、良好な結合を得ることが不可能であることを見い出している。
【0008】
出願人は、複合材のカーボンと、カーバイドとの間の脱結合が、材料の上およびその中に堆積された溶融金属の冷却の間に生じることを観察している。溶融金属と複合材との間の熱膨張係数の差異は、この脱結合に少なくとも部分的に関与し得る。
【0009】
発明の目的および概要
本発明の目的は、超耐火性カーバイド層を、一回の処理操作でC/C複合材の接触可能なカーボン上に形成することを可能にし、かつ、C/C複合材のカーボンと形成されたカーバイドとの間に脱結合を生じない方法を提供することである。
【0010】
この目的は、C/C複合材を、2000℃超の融点を有する所定のカーバイド(超耐火性カーバイド)の前駆体である1/3以上95 %以下の原子比の金属と、5 %以上2/3以下の原子比のシリコンとを含む固体状の反応性組成物と接触させて配置することにある工程と、前記C/C複合材の接触可能表面に、所定のカーバイドの前駆体である前記金属の融点以上の温度で実行される熱処理の適用によって溶融した前記反応性組成物によって含浸させて、前記C/C複合材と接触したシリコンカーバイドからなる第1の相と、前記所定のカーバイドからなる第2の相とを形成することにある工程とを含む方法によって達成される。これらのカーバイドの相は、専ら、材料のカーボンとの反応によって生成する。
【0011】
したがって、前記カーバイド前駆体金属と共に少なくとも5 %のシリコンを含む組成物を用い、かつ、前記組成物を、処理された前記材料のカーボンと、前記金属の融点を超える温度で反応させることによって、単一の操作で十分に、前記カーボン上にシリコンカーバイドからなる第1の相と、その次の超耐火性カーバイドからなる第2の相とを含む2つのカーバイドの相を形成することができる。材料のカーボンに強く接着したシリコンカーバイド相の生成のおかげで、処理されたカーボンの表面での脱結合の出現が防止され、もはや、腐食剤または酸化剤が到達し得る脱結合が全く存在しなくなる。
【0012】
さらに、得られたシリコンカーバイドおよび超耐火性カーバイドの層は、材料のカーボンから超耐火性カーバイドの層に連続的に延びる二重の層を形成する。この連続性は構造的および熱的の両方である。熱的連続性は、特に、材料の、高温に耐える性能を向上させることに役立つ。
【0013】
本発明の特定の側面によれば、反応性組成物は、少なくとも、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、およびタングステンより選択される金属を含む。
【0014】
本発明の他の側面によれば、本発明の方法は、有利には、少なくともTiSi2、ZrSi2、NbSi2、HfSi2、TaSi2およびWSi2より選択される金属二珪化物のような所定の化合物をベースとした反応性組成物により実施され得る。
【0015】
本発明のさらに他の側面によれば、反応性組成物は第3の元素をさらに含み得る。この第3の元素は、材料に特定の性質を与えるように選択され得る。特に、第3の元素は、その後の酸化の間に働き、特定の特性を有する保護層を形成するように選択され得る。このような状況下で、第3の元素はアルミニウムであり得る。超耐火性カーバイドの前駆体である金属から生じる反応生成物を安定化させるために役立つ、カルシウムまたはイットリウムのような元素を選択することも可能である。
【0016】
反応性組成物は、カーボンとは反応せずに、かつ前記カーバイド前駆体金属よりも低い融点を有するスズまたは銅のような溶融添加物も含有し得る。
【0017】
本発明の他の特徴および利点は、以下の、非限定的な例として与えられ、かつ添付図を参照した、本発明の特定の態様の記述から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】図1Aは、溶融ジルコニウムで処理されたC/C複合材を示す顕微鏡写真である。
【図1B】図1Bは、溶融ジルコニウムで処理されたC/C複合材を示す顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明の方法により得られた超耐火性カーバイド層の構造を示す。
【図3】図3は、C/C複合材に、ジルコニウム及びシリコンの溶融組成物を溶浸させた後の理論上の結果の模式的な例である。
【図4】図4は、C/C複合材に、1650℃まで加熱されたZrSi2組成物を溶浸させた後に得られた結果を示す顕微鏡写真である。
【図5】図5は、本発明の方法により、C/C複合材に、1900℃まで加熱されたZrSi2組成物を溶浸させた後に得られた結果を示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は、本発明の方法により、C/C複合材に、1900℃まで加熱されたZrSi2組成物を溶浸させた後に得られた結果を示す模式図である。
【図7】図7は、本発明の方法により得られたチタンカーバイドの層の構造を示す顕微鏡写真である。
【図8】図8は、本発明の方法により、C/C複合材に、1900℃まで加熱されたTi-Al10at%-Si10at%組成物を溶浸させた後に得られた結果を示す顕微鏡写真である。
【図9】図9は、C/C複合材に、1700℃まで加熱されたTi-Al6at%-V4at%組成物を溶浸させた後に得られた結果を示す顕微鏡写真である。
【0019】
実施の詳細な記述
本発明の方法は、カーボン/カーボン(C/C)複合材製のパーツの「接触可能表面」上に、高耐火性カーバイドからなる少なくとも1つの層を形成するための一つの解決策を提案する。「接触可能表面」という用語は、パーツの外側表面だけでなく、材料の内側にもあり、かつ外側に開口する孔の表面、すなわち、外側から接触可能な孔の表面のことも指すように使用される。以下に詳細に記載するように、何れもC/C剤の外側と内側とにある、組成物中に存在する金属と接触可能カーボンとの間の反応を得るべく、本発明に特有な溶融反応性組成物と接触させるのは、この接触可能表面である。
【0020】
C/C複合材製のパーツの製造は周知である。それは一般に、製造されるパーツのものに近い形状のカーボンファイバープリフォームを作り、プリフォームをカーボンマトリクスで緻密化することを含む。
【0021】
ファイバープリフォームはパーツの補強を構成し、それは、機械的特性の点で必須の役割を果たす。プリフォームは、繊維生地、ヤーン、トウ、ブレイド、織布、フェルトなどから得られる。成形は、ワインディング、ウィービング、スタッキング、あるいは布帛またはトウのシートの二次元プライをニードリングすることによっても実行される。
【0022】
繊維補強は、液体技術(カーボンマトリクスの前駆体である樹脂を含浸させ、架橋および熱分解によって樹脂を変性させ、これらのプロセスは繰り返されてもよい)によって、または気体技術(カーボンマトリクスの化学気相溶浸(CVI))によって緻密化され得る。
【0023】
この製造の段階において、パーツを構成するC/C材は、いまだ、外側から接触可能なものをいくらか含む孔を呈する。
【0024】
一旦、C/C複合パーツが作られると、それは、本発明により、少なくとも5 %ないし2/3 (原子百分率または比)のシリコンと、パーツの材料のカーボンと反応して高耐火性または超耐火性、すなわち2000℃を超える融点を有するカーバイドを形成するために適切な1/3ないし95 %の金属とを含有する溶融反応性組成物で含浸させられる。このようなカーバイドを形成するために適切な金属のうちで、本発明の組成物は、特に、以下の金属、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、およびタングステンのうちのいずれかを含有し得る。
【0025】
出願人によって実行され、かつ以下に記載される試験は、超耐火性カーバイドの前駆体である金属の二珪化物のような多量のシリコンを含有する組成物は、同じ結果、すなわち、材料のカーボン、SiC層、およびカーバイド層の間の構造的および熱的連続性の獲得も可能にすることを示している。これは、特に本発明の方法が、反応性組成物として所定の化合物を、例えば、ジルコニウムについてはジルコニウム二珪化物(ZrSi2)を、またはチタンについてはチタン二珪化物(ZRSi2)を用いることによって実施され得ることを可能にする。
【0026】
C/C複合材の接触可能表面に本発明の反応性組成物を含浸させるために、パーツのC/C材に溶融状態にある組成物を含浸させることからなる、反応性融解溶浸(RMI)の周知の方法が使用される。この目的のために、C/C複合材パーツが、上部に固体状、例えば粉末状の組成物を帯びたグラファイト坩堝の中に配置され得る。熱処理を開始する前に、パーツ上に組成物を粉末状で保持することが難しい場合、粉末の粒子が、コークス含有量がゼロである犠牲樹脂(resine fugitive)によって結合され得る。一旦、固体状の組成物がパーツ上に配置されると、その後、熱処理が適用されて組成物を溶融させ、それは、その外側表面と接触し、パーツの孔の中へと溶浸することによって、材料の接触可能表面を含浸する。
【0027】
本発明によれば、外部のカーボンがなくとも、SiCの層または相、および超耐火性カーバイドの層またはSiCの相が、専らC/C複合材のカーボンとの反応によって形成され、このようにして、特に、材料の接触可能表面と連続的に接触するSiC層/相を形成し、それにより、材料とカーボン層/相との間の脱結合を防止することが可能になる。この目的のために、本発明で使用される固体状の反応性組成物は、カーボンまたはカーボン前駆体を含有しない。さらに、反応性組成物がバインダーと共に適用される場合は、先述したようにコークスの含有量がゼロである犠牲樹脂が使用され、当該樹脂は熱処理の間に速やかに蒸発し、その中に存在し得るいかなるカーボンも、反応性組成物と反応しないことを保証する。例として、この目的のために、犠牲樹脂として、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、水などを使用することが可能である。
【0028】
本発明によれば、熱処理は、超耐火性カーバイドの前駆体としての反応性組成物に使用される金属の融点よりも高い温度で実行される。出願人は、熱処理温度が、使用される反応性組成物の融点よりも高いが、組成物の金属に特有の融点よりも低い温度である場合、その後、先述したような2つの別個のカーバイドの相が形成されないことを観察している。
【0029】
図2は、C/C複合材に、ジルコニウムおよびシリコンを含有する反応性組成物(Zr-Si)を溶浸させた後に得られた結果を示し、ここで、組成物はジルコニウムに特有の融点よりも高い温度で溶融されている。この図は、単一の熱処理操作、すなわち単一の反応性溶浸操作において、カーバイドからなる少なくとも2つの層、すなわちパーツのC/C複合材のカーボンと接触する接着性のシリコンカーバイド(SiC)層、およびSiC層を覆うジルコニウムカーバイド(ZrC)からなる層が、2つの別個の相で得られることを示す。
【0030】
これらの2つのカーバイドの層を2つの別個の相で得ることは、一般に、形成される単一の混合カーバイドの相、すなわち、ここで想定される例において、図3に示すようなジルコニウムおよびシリコンの混合カーバイド((Zr、Si)C) の相をもたらす通常の反応機構の範囲内においては驚くべきことである。
【0031】
出願人は、1520℃で溶融するジルコニウム二珪化物(ZrSi2)を用いた場合、熱処理は、材料のカーボンに近いSiC相を、SiC相を覆うZrC相とともに得るために、ジルコニウム自体の融点に相当する1852℃を超える温度で実行される必要があることを示す試験を実施している。より正確には、出願人はC/C複合材をZrSi2で処理しており、化合物を溶融するための熱処理は、異なる温度での2つの休止(palier)、すなわち1650℃での30分(min)の第1の休止、その後の1900℃での30 minの第2の休止を有する。1650℃での第1の休止の終わりに、図4に示すようにSiCが形成されるが、それは不連続な粒子の形態すぎず、種々の相の間の連続性を確保することを可能にするものではない。さらに、ジルコニウムは珪化物(ZrSiまたはZr2Si)の形態でのみ存在する。対照的に、1900℃での休止の後は、図5に示すように、SiCおよびZrCの2つの相のみが観察される。これらの2つの相は常に同じ順序で連続している。すなわち、連続したSiC層は、材料のカーボンと、過剰なシリコンをZrC中のSiC領域の形態で含有したZrC相とに接着している(図6)。
【0032】
同様に、反応性組成物としてチタン二珪化物を使用する場合、チタン自体の融点は1687℃であるが、この化合物の融点は1540℃である。TiSi2をベースとする反応性組成物が、1540℃を超えるが1687℃より低い温度までしか加熱されない場合、そのようにして混合Ti3SiC2カーバイドが得られるが、C/C材のカーボンにより近い、SiC相を伴う2つの別個のカーバイド相は得られない。
【0033】
2成分の金属-Si混合物についての周知の相図、より具体的には、Max Hansenによる"Constitution of binary alloys"と題されたMcGraw-Hill (1958)における報告中で与えられたもののような、0〜100 %の範囲に収まるシリコンの原子比を有し、Zr、Ti、Nb、Hf、TaまたはWのような金属を含む系についての2成分図について参照がなされた場合、5 %のシリコン(原子比)を有する共融混合物が存在しないことがわかる。しかしながら、C/C複合材に、5 %の原子比のシリコンと、95 %の原子比のジルコニウムまたはチタンとを含有する組成物、例えば、この割合のシリコンを用いて共融混合物を生じない組成物を溶浸させ、本発明の方法によりこの組成物をジルコニウムまたはチタンの融点よりも高い温度まで加熱することによって、その後、SiCおよびZrCの2つの連続する相が、材料のカーボンからZrC層に至る連続性をもって、実際に得られる。
【0034】
さらに、Zr-Si組成物中での8.8 %の最小原子比のシリコンのように、共融混合物がそこに存在するのに十分な原子比のシリコンが使用される場合でも、ここでは1600℃である混合物の融点で実行される溶浸は、未だ、2つの別個の、連続しかつ連なったSiCおよびZrCの相を得ることを可能にしていない。
【0035】
結果として、得ようとする高耐火性カーバイドのための前駆体である金属と共に5 %未満のシリコンを使用し、かつ、金属に特有の融点以上の温度まで前記組成物を加熱することによって、SiC相が材料の接触可能なカーボンと直接接触している2つの別個のカーバイド相が形成される。超耐火性カーバイド相が、もはや材料のカーボンと直接接触していないので、材料のカーボンと超耐火性カーバイドとの間の脱結合領域の形成が防止される。このような領域は、C/C材が、耐火性カーバイドの前駆体である金属で専ら含浸させられた場合に形成され得る。腐食剤による引続いての攻撃に好ましい経路をこのようにして除くことによって、C/C材のカーボンのために与えられる保護が向上する。
【0036】
さらに、本発明の反応性組成物をC/C材と共に使用することは、それぞれSiC層および超耐火性カーバイドからなる層で連続的に形成される2つの層をもたらすが、それでもなお、材料のカーボンから超耐火性カーバイドの層に至る連続する多層系が得られる。この連続性は構造的および熱的の両方である。構造的連続性は、特に、腐食性種が材料のカーボンに到達することを防ぐことに役立つ一方で、熱的連続性は、材料の、高温に耐える性能を向上させることに役立つ。熱拡散性は、C/C材について、それを本発明の方法によるZrSi2組成物で反応性溶浸させた後に測定されている。溶浸の前に、材料は、秒あたり284平方ミリメートル(mm2/s)の熱拡散性を呈した。溶浸の後、すなわちシリコンカーバイドおよびジルコニウムカーバイド相が材料の上に形成された後、それは292 mm2/sの熱拡散性を呈した。これらの測定は、形成された2つのカーバイド相に拘らず、熱的連続性が実際に維持されていることを示す。
【0037】
さらに、ジルコニウム以外の、超耐火性カーバイドの前駆体である金属についての試験は、材料のカーボンと、得られたカーバイドとの間の結合の連続性の点でも良好な結果を与えている。図7は、チタンおよび20 %シリコン(原子百分率)を含有する組成物によるC/C材の反応性溶浸の後に得られた結果を示し、ここで組成物は1700℃まで加熱された。SiC層は材料のカーボン上に良好に固定されており、そのようにしてチタンカーバイドTiCとカーボンとの間に連続性を与えることが理解され得る。
【0038】
本発明において使用される反応性組成物は、シリコンと、超耐火性カーバイドの前駆体である金属とに加えて、1つ以上の追加の活性元素を含み得る。
【0039】
図8は、Zr-Al10 %at-Si10 %at組成物によるC/C複合材の反応性溶浸の後に得られた結果を示し、ここで、組成物を溶融するための熱処理は1900℃で実行される。このような溶浸の後、材料の接触可能なカーボンが、その上に、材料のカーボンに結合したSiCからなる層、混合カーバイド(Zr-Al)Cからなる層、およびZrCからなる層をカーボン側から順番に含む、3つの連続する層からなる系を形成したことが観察される。ここではアルミニウムである第3の元素の追加は、ここではジルコニウムであるカーバイド前駆体金属によって混合カーバイドを形成することが理解され得る。
【0040】
同様に、カーバイド前駆体金属をそのままで、すなわちシリコン無しで使用する場合、前駆体金属と、シリコン以外の追加の元素とを含有する合金の使用は、脱結合の無い超耐火性カーバイド層の獲得を可能にしない。特に、出願人は、C/C複合材に、シリコンを全く含有しないTi-Al6 %at-V4 %atチタン合金を溶浸させる試験を実行しており、ここで、組成物を溶融するための熱処理は1700℃、すなわち、チタンの融点(1687℃)より高い温度で実行された。その試験の結果は図9に示され、ここで、チタンカーバイド(TiC)は実際に形成されるが、TiCと材料のカーボンとの間に脱結合が存在していることがわかる。
【0041】
本発明の方法の反応性組成物に使用される第3の元素は、特に、C/C材に付与することが望まれる特定の特性または性質により選択され得る。例えば、図8を参照して先に記載されたような、Zr-Al10 %at-Si10 %at合金で処理されたC/C複合材パーツについては、高温での、例えばロケットエンジンまたは大気圏再突入シールドにおける前記パーツの使用は、ジルコニウムカーバイドの酸化をもたらし、ジルコニア(ZiO2)からなる耐火性酸化物層を生成する一方で、第3の元素すなわちAlもアルミナ(Al2O3)を生成する。したがって、このような状況下では、酸化の間に得られる保護層は、例えば専らジルコニア(ZrO2)からなる保護層と比較すると、自身の特定の特性を有するAl2O3-ZrO2系に位置づけられる。
【0042】
したがって、本発明の方法において3成分の組成物を使用し、かつ組成物のための第3の元素を選択することによって、材料に反応性組成物を反応性溶浸させた直後に得られるカーバイドの性質および特性のみでなく、その後の酸化の間に形成されるもののような、生成される反応生成物の特性にも影響を与えることが可能である。
【0043】
例として、ジルコニウムカーバイドの酸化の間に生成するジルコニア(ZrO2)は、良好な耐火性断熱材として既知である。それにも拘らず、それは、ジルコニア層内に自発的な破断を生じさせる突然の体積変化を伴う、マルテンサイト相変態があるという欠点を示す。その問題を軽減するために、酸化イットリウムまたは酸化カルシウムをジルコニアと組合せることが知られている。本発明の文脈において、このようにして、本発明の方法により、Zr-Si≧5 %at-Y合金またはZr-Si≧5 %at-Ca合金を使用して、材料のカーボン上にSiCからなる層、次にZrCからなる層を形成することが可能であるが、元素YまたはCaがZrCからなる層の中に存在しているので、その後の酸化の間に、ジルコニアがその安定化酸化物と共に同時に生成する(すなわち、ZrO2+Y2O3、またはZrO2+CaO)。
【0044】
先述したように、本発明の方法は、C/C複合材パーツの接触可能表面に存在するカーボンと、所定のカーバイドの前駆体である金属、少なくとも5 %のシリコン、並びに、場合によっては、得られるカーバイドの組成およびその次に、例えば、パーツを酸化環境で使用する間に形成される生成物の組成の変更に役立つ1つ以上の元素を含有する反応性組成物との間の反応を実施する。組成物の溶融を可能にし、かつ組成物とカーボンとを反応させ得る熱処理は、超耐火性カーバイドの前駆体である金属の融点よりも高い温度で実行される必要がある。
【0045】
溶融された反応性組成物は、パーツの表面に存在する材料のカーボンと接触し得るだけでなく、開いた孔の中で露出した材料のカーボン、すなわちパーツの内側に存在し、かつパーツの外側表面から接触可能なカーボンとも接触し得るものでなければならない。溶融合金による、材料の反応性溶浸を実施する方法は周知である。先述したように、それらは、特に、複合材パーツを固体状の反応性組成物と直接接触させて配置し、その後、熱処理によって合金を溶融させることから構成され得る。
【0046】
材料の中への溶融された反応性組成物の流れは、必要ならば、例えば窒化ホウ素(BN)をベースとする無反応性の、防湿潤(anti-moillante)組成物の局所的な適用により、制御され、導かれる。複合材パーツの1つ以上の外面は、例えば、このような防湿潤組成物で被覆され得、溶融した反応性組成物がパーツの外側に溢れることを防ぎ、そのようにして、それが材料をその厚さ全体に亘って含浸させた状態に制限する。
【0047】
本発明の方法の、その他の種々の実施において、カーボンと反応しない溶融添加物を使用することが可能であり、ここで添加物は合金の融点および反応温度を下げることに役立つ。既知の添加剤のうちで、特に、低温で溶融し、低い蒸気圧を呈するスズを使用することができる。スズは、ジルコニウム、シリコン、およびチタンを含む数多くの元素を溶解させることでも知られている。したがって、それは本発明の反応性組成物中への組入れに良く馴染み、それゆえ、処理されるべき露出したカーボンとの反応のための領域への、組成物の化学種(特にシリコンおよびカーバイド前駆体金属)の輸送を強化する融剤としての振舞いにも良く馴染む。銅も、本発明の方法における融剤としての振舞いに適切な溶剤の、その他の例を構成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C/C複合材の接触可能表面上に、耐火性カーバイドからなる少なくとも1つの層を作る方法であって、前記方法は、
前記複合材を、2000℃より高い融点を有する所定のカーバイドの前駆体である1/3以上95 %以下の原子比の金属と、5 %以上2/3以下の原子比のシリコンとを含有する固体状の反応性組成物に接触させて配置することにある工程と、
前記C/C複合材の接触可能表面に、所定のカーバイドの前駆体である前記金属の融点以上の温度で熱処理を適用することにより溶融された前記反応性組成物を含浸させて、前記C/C複合材と接触したシリコンカーバイドからなる第1の相と、前記所定のカーバイドからなる第2の相とを形成することにある工程と
を含み、前記カーバイドの相が、専ら、前記材料のカーボンとの反応によって形成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反応性組成物が、少なくとも、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、およびタングステンより選択される金属を含むことを特徴とする請求項1による方法。
【請求項3】
前記反応性組成物が、少なくとも、TiSi2、ZrSi2、NbSi2、HfSi2、TaSi2、およびWSi2より選択される金属二珪化物を含むことを特徴とする請求項1または請求項2による方法。
【請求項4】
前記反応性組成物が、第3の元素をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項による方法。
【請求項5】
前記反応性組成物がジルコニウムを含有し、かつ、前記第3の元素が少なくともアルミニウム、カルシウム、およびイットリウムより選択されることを特徴とする請求項4による方法。
【請求項6】
前記複合材を反応性組成物と接触させて配置する前に、前記材料の1以上の外側部分が、防湿潤剤(anti-moillante)で被覆されることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1項による方法。
【請求項7】
前記反応性組成物が、カーボンと反応せずかつ前記カーバイド前駆体金属よりも低い融点を有する溶融添加剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1項による方法。
【請求項8】
前記溶融添加剤が、少なくともスズおよび銅より選択されることを特徴とする請求項7による方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−506248(P2011−506248A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537499(P2010−537499)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/FR2008/052289
【国際公開番号】WO2009/081006
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(502202281)スネクマ・プロピュルシオン・ソリド (48)
【氏名又は名称原語表記】SNECMA PROPULSION SOLIDE
【出願人】(500174661)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・レシェルシュ・サイエンティフィーク−セ・エン・エール・エス− (54)