CD59表面発現の証拠となる、細胞における細胞毒性の媒介
本発明は、癌疾患の診断および治療、特に腫瘍細胞における細胞毒性の媒介、ならびに、特に、細胞毒性反応の開始方法として、任意で1以上の化学療法剤と併用した癌疾患改善抗体(CDMAB:cancerous disease modifying antibodies)の使用に関する。本発明は、さらに、本発明のCDMABを使用した結合アッセイに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌疾患の診断および治療、特に腫瘍細胞における細胞毒性の媒介、ならびに、特に、細胞毒性反応の開始方法として、任意で1以上の化学療法剤と併用した癌疾患改善抗体(CDMAB)の使用に関する。発明は、さらに、本発明のCDMABを使用した結合アッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
CD59は、18〜20kDaのグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合膜糖タンパク質である。CD59は、ヒト赤血球表面から最初に単離され、補体活性化の阻害因子として機能する。その後、補体媒介性の溶解性を高めるために開発された数種の抗体の標的がCD59であることが発見された。これらの抗体が独立して開発されたため、MEM−43抗原、反応性細胞融解の膜阻害因子(MIRL)、H19、膜攻撃複合体抑制因子(MACIF)、分子量20,000のホモロガス制限因子(HRF20)、プロテクティン(Walsh, Tone et al.1992)など、CD59には複数の名称がつけられている。
【0003】
CD59抗原は、アミノ酸解析およびNMRによって十分に特性付けされている。CD59抗原は、128個のアミノ酸から成り、最初の25個がシグナル配列を構成する。10個のシステイン残基が存在し、強固に折り畳まれた分子をもたらす。18番目の位置のアスパラギン残基はN−グリコシル化されることが判明しており、77番目の位置のアスパラギン残基はGPIアンカーに連結されている。C末端残基は、GPI結合タンパク質の特徴である(Davies and Lachmann 1993)。
【0004】
CD59は、ヒトの赤血球表面において最初に発見されたが、広く発現している分子である。フローサイトメトリー、免疫組織化学、ノーザンブロット解析からの細胞分布に関する多数のデータによって、赤血球の他、血小板、白血球、線維芽細胞などの造血細胞を含む多種類の細胞や組織における発現が明らかになっている(Meri, Waldmann et al.1991)。CD59は、体全体、特に腎臓、気管支、膵臓、皮膚表皮、胆管、だ液腺の血管や管内皮に多量に存在する(Meri, Waldmann et al.1991)。発現は、肺、肝臓、胎盤、甲状腺、精子において認められている(Davies and Lachmann 1993)。可溶性CD59が、だ液、尿、涙、汗、髄液、母乳、羊水、精漿において検出されている(Davies and Lachmann 1993)。可溶性CD59の起源は依然として特定されておらず、可溶性CD59が分泌されて、ホスホリパーゼによって切断されるのか、または別の方法によって細胞から流出するのかは依然として不明である(Davies and Lachmann 1993)。CD59は、多くのB細胞株、中枢神経系組織、肝実質、膵ランゲルハンス島には存在しないと考えられる(Meri, Waldmann et al.1991)。
【0005】
CD59は正常な細胞や組織において広く発現しているが、CD59は悪性腫瘍においても広く発現している。正常組織と比較して、特定種の癌においてはCD59発現が上昇しており、発現レベルは腫瘍の分化段階と相関しているとの証拠がある。悪性神経膠腫、白血病、リンパ腫の他、甲状腺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、胃癌、腎臓癌、皮膚癌において中程度から高レベルのCD59発現が報告されている(Fishelson、Donin et al.2003)。
【0006】
CD59によって補体活性化後の膜攻撃複合体(MAC)の形成が抑制されることが知られている。MAC形成は、補体カスケードの最終事象の1つであり、細胞膜に孔を開けて、最終的には細胞を破壊する。CD59はC5b−8に結合して、その後のC9分子の重合およびMAC形成を妨げる。補体受容体1型(CR1、CD35)、膜補因子タンパク質(MCP、CD46)、分解促進因子(DAF、CD55)などの他の補体抑制性タンパク質は、補体カスケードにおいてより早い時期に作用する。補体活性化は、標的細胞の破壊または細胞の活性化をもたらし、これによって白血球が集まり、周囲の平滑筋が縮小して、血管透過性が高まる。
補体活性化は、抗体依存性の細胞毒性(ADCC)および補体依存性の細胞毒性(CDCC)においても役割を果たす。補体活性化は、調節が不十分な場合、標的組織に損傷を与えうる炎症反応を招く。CD59および他の補体抑制性タンパク質によって、補体カスケードの活性化による自己組織傷害が防がれる。CD59などの補体抑制性タンパク質の過剰発現が、悪性腫瘍が獲得することの多い補体活性化に対する耐性亢進の一因となりうると仮定されている(Jarvis, Li et al.1997)。この場合、補体抑制性タンパク質に対するモノクローナル抗体による治療によって、この耐性を克服可能であり、免疫療法や他の治療に対する腫瘍の反応性が高まる。
【0007】
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は造血性幹細胞に影響を与える稀な遺伝性疾患であり、補体攻撃に対する感受性が異常に高まった細胞が生じる(Davies and Lachmann 1993)。症状としては、慢性溶血、貧血、血栓症が挙げられる(Sugita and Masuho 1995)。赤血球、顆粒球、単球、血小板、場合によってはリンパ球など、PNHの影響を受ける細胞は、GPI結合タンパク質を欠損している(Davies and Lachmann 1993)。罹患細胞では、アセチルコリンエステラーゼ、LFA−3、HUPAR、補体制御因子タンパク質CD35、CD46、CD55、CD59が欠損している(Davies and Lachmann 1993)。CD59発現が完全に欠けているが、他の補体制御GPI結合タンパク質のいずれの発現も欠けていない1症例が報告されている。この欠損は、溶血性貧血や血栓症などのPNH様症状と関連している(Davies and Lachmann 1993)。CD59機能欠損と関連する望ましくない作用があるが、完全な喪失が致命的ではないことがこの個人によって証明されている。癌治療の困難な仕事に直面している場合、溶血の副作用は克服すべき許容可能な障害である。
【0008】
CD59遺伝子の1つをノックアウトしたマウスモデルにおいても、CD59欠損がインビボにおいて致命的ではないことが証明されている。マウスにおいては2つの型のCD59(CD59aおよびCD59b)が発現している。CD59aは血液細胞などの様々なマウス組織で発現しているが、CD59b発現は精巣でのみ確認されている。Miwaらは、インビボでの自然発生的な補体攻撃から赤血球を保護するためのCD59の役割を評価するためにCD59a欠損マウスを作成した。彼らは、ノックアウトマウスが発育して、溶血性貧血の徴候もなく正常に生存し、ヘモグロビン濃度の有意な上昇は認められないと報告した。コブラ毒因子(CVF)の注射によって誘発させた補体攻撃に対して赤血球の感受性が高まるにもかかわらず、野生型と比較して、自然発生的な補体攻撃による赤血球排除が有意に高まることはなかった(Miwa, Zhou et al.2002)。
【0009】
ラット抑制性タンパク質(RIP)と呼ばれる21kDaの膜糖タンパク質がラットにおいて同定されている。RIPはC5b−8段階以降のMAC集合を抑制して、ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCによってラット赤血球から放出される。N端末配列とともに、これらの因子は、RIPがヒトCD59のラットホモログであることを示唆している。ラットRIPに対するマウスのモノクローナル抗体である6D1のF(ab’)2断片を雄のウィスター系ラット群に投与した。同じ試験において、ラットの異なる膜結合補体調節タンパク質に対する抗体である5I2の断片も投与した。6D1断片の注入後、心拍数や血圧に変化は認められなかった。心臓、肺、肝臓において断片結合が検出された。唯一の観察された影響は、白血球数のわずかな増加と赤血球数の減少であり、血小板数に変化は認められなかった。対照的に、5I2断片を注入することで、注入後2時間までに、血圧が急上昇し、白血球と血小板が急減し、赤血球数が断続的に上昇した(Matsuo, Ichida et al.1994)。
【0010】
キメラモノクローナル抗体であるRituximab(Rituxan, Genentech, San Francisco, CA)は、CD20抗原に対するものであり、非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療における使用が認められている。多くのCD20+患者が治療に反応せず、また反応する大半の患者が最終的には治療に耐性となる。この耐性を克服する取り組みでは、CDCCを増やすための抗CD59抗体の使用について研究されてきた。補体の存在下においてRituxan治療に対して耐性であるNHLおよびMM細胞株はインビトロでCD59を発現するが、同じ治療に感受性のNHLおよびMM細胞株はCD59を発現しない。耐性細胞株の1つを抗CD59抗体(YTH53.1)とプレインキュベーションさせることで、Rituximabとヒトの補体での治療に対する細胞の感受性が高まった。CD20+であるが、Rituximab治療で疾患が進行した患者から分離した腫瘍においても高いCD59発現レベルが認められている(Treon, Emmanouilides et al.2005)。
【0011】
三次元極小腫瘍球状体(MTS)を使用して、乳癌(T47D)および卵巣奇形腫(PA−1)においてインビトロでのCD59抗体YTH53.1の活性を評価した。MTSは培養において増殖させた多細胞の凝集体であり、単層培養物や浮遊液培養物よりもインビボで認められる凝集体に近いモデルを示している。このグループによる過去の研究では、MTSとして増殖させたPA−1細胞が浮遊培養させたPA−1細胞よりも補体による溶解により耐性であることが示されていた。この耐性が克服できたか否かを評価するために、クロム放出アッセイによって細胞毒性を測定し、ビオチン化YTH53.1によるMTSの前処理後のヨウ化プロピジウム(PI)の取り込みによって細胞傷害を可視化させた。抗体はビオチン標識CD59に対する親和性を保持していたが、古典的補体経路の活性化能を喪失していた。乳癌細胞(S2)に対して作成したウサギの抗ヒトポリクローナル抗体が使用して、古典的経路を活性化させた。オーバーナイトでのYTH53.1とのインキュベーションによってMTSが完全に浸潤し、クロム放出アッセイによってYTH53.1、S2、ヒト補体の存在下での1〜2時間の誘導期後に33%の細胞が殺されることが示された。電子顕微鏡検査法によって、YTH53.1、S2、ヒト補体とのインキュベーション後にT47D腫瘍の平均容積が28%減少したことが明らかになった。PIインキュベーション後の螢光顕微鏡検査法によって、YTH53.1、S2、ヒト補体とのインキュベーション後、T47D、PA−1、MTSにおいていくつかの死んだ細胞層が明らかになった。これらの結果をまとめると、抗CD59抗体によってインビトロでの腫瘍細胞の補体媒介性溶解を促進できることが示されている(Hakulinen and Meri 1998)。
【0012】
別のグループは、ヒトの転移性前立腺腺癌細胞株DU145およびPC3の補体媒介性溶解に対する耐性が、CD59抗体YTH53.1で処理することでインビトロで克服できることを見出した。クロム放出アッセイは、YTH53.1とビオチン化YTH53.1の存在下、非存在下における細胞死の測定に利用した。CD59抗体の非存在下では、いずれの細胞株も補体媒介性溶解に対して完全に耐性であった。YTH53.1処理では、PC3細胞の56%、DU145細胞の34%の殺傷によって、この耐性が克服された。ビオチン化YTH53.1処理では、耐性克服の程度は低かった、PC3の47%、DU145細胞の20%が殺傷された。DU145との比較で、PC3の感受性の増大は、PC3によるCD59発現の増加に起因すると考えられる。ビオチン化抗体は恐らくは古典的経路(Jarvis, Li et al.1997)を活性化しないため、天然抗体とビオチン化抗体との効果の差は、補体の古典的経路の活性化とCD59の中和の複合的な結果を実証している。古典的経路による補体活性化を加えることで、活性が限界量しか増大されないため(例、PC3細胞においてビオチン化YTH53.1での47%に対してYTH53.1で56%)、抗体活性の大部分は補体抑制の遮断に起因すると考えられる(Jarvis, Li et al.1997)。今日まで抗CD59抗体であるYTH53.1のインビボ分析はない。インビボの前臨床癌モデルにおける治療効果を示す抗CD59抗体に関する報告はない。
【0013】
癌治療としてのモノクローナル抗体:癌を示す各個人は他者とは異なり、個人識別と同様に他の癌とは異なる癌を持つ。これにもかかわらず、現在の治療法では、癌の病期および種類が同じ患者は同じ方法で治療している。これらの患者の少なくとも30%が一次治療で失敗するため、治療をさらに繰り返すことになり、治療の失敗、転移、最終的には死の可能性が高まる優れた治療法は、特定の個人に対するオーダーメイド治療であろう。オーダーメイドに適する現行の唯一の治療法は外科手術である。化学療法および放射線治療を患者に対して個別化することはできず、外科手術自体は、たいていの場合、治癒をもたらすには不十分である。
【0014】
モノクローナル抗体の出現によって、各抗体が一つのエピトープを標的にしているため、オーダーメイド治療の開発方法の可能性はいっそう現実的になった。さらに、特定の個人の腫瘍を特異的に特徴付ける一連のエピトープを標的とする抗体の組み合わせを作成できる。
【0015】
癌細胞と正常細胞との有意差を識別することは、癌細胞に形質転換細胞に特異的な抗原が含まれることであり、科学界では、これらの癌抗原に特異的に結合する形質転換細胞を特異的に標的とするようにモノクローナル抗体を設計できると長い間考えられているため、モノクローナル抗体は癌細胞排除するための「特効薬」としての役割を果たすことができると考えられている。しかし、1種のモノクローナル抗体が全ての癌症例において有用となるわけではなく、クラス、標的癌治療としてモノクローナル抗体を配置できることが現在広く認識されている。開示している本発明の教示に従って単離したモノクローナル抗体は、例えば、全身腫瘍組織量の減少など、患者に有益となるように癌疾患の経過を改善することが示されており、癌疾患改善抗体(CDMAB)または「抗癌」抗体など様々に呼ばれうる。
【0016】
現在、癌患者に治療の選択肢がほとんどないのが通例である。癌治療への管理アプローチは全生存率および全罹患率を改善させた。しかし、特定の個人に対して、これらの改善された統計データは、それらの各人の状況における改善とは必ずしも相関していない。
【0017】
このように、同じコホート内の他の患者の各腫瘍を医師が個別に治療できる方法論が出される場合、これによって1個人のみに対するオーダーメイド治療の個別アプローチが可能になりうる。このような治療経過によって、理想的には、治癒率が向上し、より良好な転帰がもたらされて、長年にわたる要求が満たされうる。
【0018】
歴史的には、ヒトの癌治療においてポリクローナル抗体の使用による成功例はわずかである。リンパ腫および白血病はヒト血漿で治療されてきたが、長期にわたる鎮静や反応はほとんど認められなかった。さらに、再現性に欠けており、また化学療法と比較してさらなる利益はなかった。乳癌、黒色腫、腎細胞癌などの固形腫瘍は、ヒトの血液、チンパンジー血清、ヒト血漿、ウマ血清でも治療されてきたが、対応する結果は予測不可能で効果は認められていない。
【0019】
固形腫瘍に対するモノクローナル抗体については多くの臨床試験が行なわれてきた。1980年代には、少なくとも4例のヒト乳癌における臨床試験が行なわれており、ここでは、特定の抗原に対する抗体を使用して、もしくは組織選択性に基づき、少なくとも47人の患者において反応者が1例しか認められなかった。1998年にヒト化抗Her2/neu抗体(Herceptin(登録商標))とシスプラチンとの併用を利用した臨床試験に初成功した。この試験では、患者37例において反応を評価しており、その内の約4分の1が部分的に反応し、別の4分の1において疾患の軽微な、または安定した進行が認められた。反応者における進行までの期間の中央値は8.4ヶ月間で、反応持続期間の中央値は5.3カ月であった。
【0020】
Herceptin(登録商標)はTAXOL(登録商標)との併用で第一選択薬として1998年に承認された。臨床試験の結果では、TAXOL(登録商標)単剤投与群(3.0カ月)との比較で、TAXOL(登録商標)を併用した抗体療法(6.9カ月)を受けた人において病気進行までの期間の中央値の延長が認められた。生存期間のわずかな延長も認められた、Herceptin(登録商標)+Taxol(登録商標)治療群対Taxol(登録商標)単剤治療群=22ヶ月:18ヶ月。また、TAXOL(登録商標)との比較で、抗体+TAXOL(登録商標)の併用群における完全寛解患者と部分寛解のいずれの患者数も増加していた(それぞれ8%対2%、34%対15%)。しかし、Herceptin(登録商標)+TAXOL(登録商標)治療では、TAXOLR単剤治療との比較で、心毒性の発生率が高まった(13%対1%)。また、Herceptin(登録商標)治療は、現在、その機能や生物学的に重要なリガンドが不明である受容体、ヒト上皮増殖因子受容体(Her2/neu)を過剰発現する患者(免疫組織化学(IHC)解析により測定)においてのみ効果的である(転移性乳癌を持つ患者の約25%)。したがって、乳癌患者での必要性は依然ほとんど満たされていない。Herceptin(登録商標)治療から利益を得ることができる患者でさえやはり化学療法が必要であり、結果的に、依然として、少なくともある程度はこの種の治療による副作用に対処する必要がある。
【0021】
結腸直腸癌を調査する臨床試験では、糖タンパク質と糖脂質の両方を標的とする抗体が含まれる。腺癌にある程度の特異性を有する17−1 Aなどの抗体は、患者60例以上における第2相臨床試験を受ける。他の試験では、17−1 Aの使用によって、シクロホスファミドを追加使用したプロトコルでの患者52例において完全寛解が1例、そして軽微な反応が2例認められた。今日まで、17−1 Aに関する第3相臨床試験において、ステージIII結腸癌に対するアジュバント治療と同様の有効性の改善は実証されていない。撮像用に初めて承認されたヒト化マウスモノクローナル抗体を使用した場合でも腫瘍は退縮しなかった。
【0022】
ごく最近になって、モノクローナル抗体を使用した結腸直腸癌の臨床的試験において陽性結果が得られている。2004年、イリノテカン化学療法に難治性である、EGFRを発現している転移性結腸直腸癌患者の二次治療にERBITUX(登録商標)が承認された。第2相試験(2治療群)および1治療群での試験の結果において、イリノテカンと併用したERBITUX(登録商標)での奏功率はそれぞれ23%、15%であり、疾患進行までの期間の中央値はそれぞれ4.1ヶ月間、6.5ヶ月間であった。第2相試験(2治療群)および1治療群での別の試験の結果において、ERBITUX(登録商標)での奏功率はそれぞれ11%、9%であり、疾患進行までの期間の中央値はそれぞれ1.5ヶ月間、4.2ヶ月間であった。
【0023】
結果的に、スイスおよび米国の両国では、イリノテカンとの併用でのERBITUX(登録商標)治療、米国では、ERBITUX(登録商標)単剤治療が、一次治療であるイリノテカン治療に失敗した直腸癌患者における二次治療として承認されている。したがって、Herceptin(登録商標)と同様に、スイスではモノクローナル抗体と化学療法の併用治療のみが承認されている。また、スイスおよび米国では、患者に対する治療は二次治療としてのみ承認されている。また、2004年には、転移性結腸直腸癌の一次治療として5−フルオロウラシル静注化学療法との併用でAVASTIN(登録商標)が承認された。第3相臨床試験の結果では、AVASTIN(登録商標)+5−フルオロウラシルで治療した患者の生存期間の中央値の延長が実証された(20ヶ月間対16ヶ月間)。一方、ここでもHerceptin(登録商標)およびERBITUX(登録商標)と同様に、モノクローナル抗体と化学療法の併用としてのみ治療は承認されている。
【0024】
また、肺癌、脳腫瘍、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、胃癌については好ましくない結果が続く。非小細胞肺癌における最も有望な最近の結果は、第3相臨床試験から出されており、この試験では、化学療法薬Taxotereと併用した殺細胞薬ドキソルビシン結合モノクローナル抗体(SGN−15; dox−BR96, anti−Sialyl−LeX)が治療に含まれる。タキソテールは、肺癌の二次治療用にFDAが承認した唯一の化学療法薬である。初期データにおいては、タキソテール単剤と比較して、全生存率の改善が示されている。試験のために募集された患者62例中3分の2がタキソテールとの併用でSGN−15を服用し(併用投与)、残りの3分の1がタキソテール単剤を服用した。タキソテール単剤での5.9ヶ月間と比較して、タキソテールとの併用でSGN−15を服用した患者での全生存期間の中央値は7.3ヶ月間であった。1年目、18ヶ月目の全生存率は、タキソテールとの併用でSGN−15を服用した患者ではそれぞれ29%、18%、タキソテール単剤を服用した患者では24%、8%であった。さらなる臨床試験が計画されている。
【0025】
前臨床においては、黒色腫に対するモノクローナル抗体の使用で限られた一定の成功を収めている。これらの抗体のごく少数しか臨床試験まで進んでおらず、今日までいずれも承認されておらず、第3相臨床試験において好ましい結果は示されていない。
【0026】
明らかに発病の一因となる既知の遺伝子30,000種の産物中、関与する標的が同定されていないために疾患を治療するための新薬の発見が遅れている。癌研究において、潜在的な薬剤標的は、それらが腫瘍細胞中で過剰発現しているという事実のみを理由に選択される場合が多い。次に、このようにして同定した標的を複数の化合物との相互作用でスクリーニングする。潜在的な抗体治療の場合、これらの候補化合物は、通例、Kohler&Milsteinが定めた基本原理に従った従来のモノクローナル抗体作成方法でよって得られる(1975, Nature, 256, 495−497, Kohler and Milstein)。抗原(例、全細胞、細胞分画、精製抗原)で免疫したマウスから脾細胞を回収して、不死化させたハイブリドーマのパートナー細胞と融合させた。結果として得られるハイブリドーマをスクリーニングして、標的に最も強固に結合する抗体の分泌物で選択する。これらの方法を利用して、Herceptin(登録商標)やRITUXIMABなど、癌細胞を標的とする多くの治療/診断用抗体が作成され、親和性に基づいて選択されている。この戦略には2つの欠点がある。第一に、組織特異的な発癌過程に関する知見が不足しており、これらの標的を同定するための過剰発現による選択など、結果として得られる方法が単純なために、治療や診断での抗体結合に適当な標的の選択は制限される。第二に、受容体に最も高い親和性で結合する薬物分子が、通例、シグナルを開始または抑制する確率が最も高いという仮定は常には当てはまらない。
【0027】
乳癌および結腸癌の治療でのある程度の進歩にもかかわらず、単剤または併用で有効な抗体治療の開発は全ての種類の癌に対しては不十分であった。
【0028】
先行特許:
特許文献1には、患者の細胞または組織からクローニングしたMHC遺伝子を患者の腫瘍由来の細胞にトランスフェクションさせる過程が開示されている。次に、トランスフェクションさせたこれらの細胞を患者へのワクチン接種に使用する。
【0029】
特許文献2には、哺乳動物の腫瘍細胞または正常細胞の細胞内成分には特異的であるが、細胞外成分には特異的ではないモノクローナル抗体の入手、モノクローナル抗体の標識、標識抗体と腫瘍細胞の殺傷治療を受けた哺乳動物の組織との接触、標識抗体と変性腫瘍細胞の細胞内成分との結合測定による治療効果の判定の段階を含む過程が開示されている。ヒトの細胞内抗原を標的とする抗体の調製時において、悪性細胞がこのような抗原の便利な供給源であることを該出願人は認識している。
【0030】
特許文献3は、新規抗体およびその作成方法を提供している。具体的には、この特許においては、正常細胞への結合性がずっと低く、例えば結腸や肺などのヒトの腫瘍に関連するタンパク質抗原への強い結合特性を持つモノクローナル抗体の作成を教示している。
【0031】
特許文献4は、外科手術によるヒト癌患者からの腫瘍組織の摘出、腫瘍細胞を得るための腫瘍組織の処理、腫瘍細胞に対する、生存可能であるが、腫瘍形成能のない放射線照射、転移を同時抑制しながら一次細胞の再発を抑制可能な患者に対するワクチンの調製におけるこれらの細胞の利用を含む、癌治療方法を提供する。この特許においては、腫瘍細胞の表面抗原に反応するモノクローナル抗体の作成について教示している。col.4, lines 45 et seq.に記載の通り、該出願人はモノクローナル抗体の作成において自己腫瘍細胞を使用しており、ヒトの腫瘍における積極的な特異的免疫療法を示している。
【0032】
特許文献5では、ヒトの癌腫を特徴とするが、上皮性組織由来であることに依存しない糖タンパク質抗原について教示している。
【0033】
特許文献6には、Her2発現細胞においてアポトーシスを誘導する抗Her2抗体、抗体を産生するハイブリドーマ細胞株、抗体を使用した癌の治療方法、抗体を含む薬学的組成物について記載されている。
【0034】
特許文献7には、腫瘍や非腫瘍組織の材料から精製した粘液抗原に対するモノクローナル抗体産生用の新しいハイブリドーマ細胞株について記載されている。
【0035】
特許文献8には、所望の抗原に特異的な抗体を産生するヒトリンパ球の作成方法、つまり、モノクローナル抗体の産生方法、そしてこの方法によって産生されるモノクローナル抗体について記載されている。この特許には、癌の診断や治療に有用な抗HDヒトモノクローナル抗体の産生について特記されている。
【0036】
特許文献9は、ヒト癌細胞に反応性の抗体、抗体断片、抗体複合体、一本鎖免疫毒素に関する。これらの抗体が作用する機序は2つの要素からなり、つまり分子がヒトの癌の表面に発現している細胞膜抗原と反応する点、さらに抗体は癌細胞内に内在化されて、続いて結合可能となり、抗体‐薬物、抗体‐毒素複合体を形成する際に有用となる点である。非修飾状態では、抗体は特定濃度で細胞毒素特性も示す。
【0037】
特許文献10には、腫瘍の治療と予防のための自己抗体の使用が開示されている。しかし、この抗体は老齢の哺乳動物由来の抗細胞核自己抗体である。この場合、自己抗体は免疫系において認められる自然抗体の1種と言われている。自己抗体は「老齢の哺乳動物」に由来するため、自己抗体が治療を受ける患者に実際に由来している必要はない。また、この特許には、老齢の哺乳動物由来の天然のモノクローナル抗細胞核自己抗体、およびモノクローナル抗細胞核自己抗体を産生するハイブリドーマ細胞株について開示されている。
【0038】
特許文献11明細書には、糖尿病治療用の抗糖化CD59抗体の使用について開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,750,102号
【特許文献2】米国特許第4,861,581号
【特許文献3】米国特許第5,171,665号
【特許文献4】米国特許第5,484,596号
【特許文献5】米国特許第5,693,763号
【特許文献6】米国特許第5,783,186号
【特許文献7】米国特許第5,849,876号
【特許文献8】米国特許第5,869,268号
【特許文献9】米国特許第5,869,045号
【特許文献10】米国特許第5,780,033号
【特許文献11】米国特許出願第20050032128A1号
【発明の開示】
【0039】
本発明者らは、過去に、癌性疾患の治療において有用な個別のオーダーメイド抗腫瘍抗体の選択過程に関する米国特許第6,180,357号(表題:Individualized Patient Specific Anti−Cancer Antibodies)を与えている。タンパク質の構造物や機能に顕著な影響を及ぼすことなく、一部のアミノ酸配列のポリペプチドを様々に改変できることは、当技術分野において十分に認識されている。抗体の分子再配列において、骨格部位の核酸やアミノ酸の配列における修飾を一般に許容できる。これらには、限定はされないが、置換(好ましくは保存的置換)、欠失、付加が挙げられる。さらに、標準的な化学療法薬(例、放射性核種)を本発明のCDMABと結合させることで、前記化学療法剤の使用に重点を置くことは本発明の範囲内である。CDMABを毒素、細胞毒素成分、酵素(例、ビオチン結合酵素)、造血細胞に結合させて、抗体複合体を形成させることもできる。
【0040】
本出願では、癌性疾患改善モノクローナル抗体をコード化するハイブリドーマ細胞株を単離するために、患者357例において教示された患者に特異的な癌抗体の作成方法を利用している。これらの抗体は、1つの腫瘍に対して特異的にすることができるため、癌治療のオーダーメイドが可能になる。本請求において、以降、細胞殺傷(細胞毒素)または細胞増殖抑制(細胞分裂停止)特性を有する抗腫瘍抗体を「細胞毒性を有する」と呼ぶ。癌の病期分類や診断にこれらの抗体を使用でき、腫瘍の転移を治療するために使用できる。予防的治療による癌予防にこれらの抗体を使用できる。従来の創薬パラダイムに従って作成した抗体とは異なり、このようにして作成した抗体は過去に悪性組織の増殖および/または生存率にとって不可欠であることが示されていない分子や経路を標的にしうる。さらに、これらの抗体の結合親和性は、より強い親和性相互作用に適さない可能性のある細胞毒素事象の開始要件として適している。
【0041】
個別化された抗腫瘍治療への期待は、患者の管理方法に変化をもたらしうる。可能性が高い臨床シナリオは、提出時での腫瘍サンプルの回収、そして保存である。このサンプルによって、既存の癌性疾患改善抗体パネルから腫瘍型を決めることができる。従来、患者は病期分類されるが、患者をさらに病期分類する際に利用可能な抗体を使用できる。患者は既存の抗体で迅速に治療でき、本明細書において開示するスクリーニング方法との併用で、本明細書に記載の方法により、もしくはファージディスプレイライブラリーを使用して、腫瘍特異的抗体パネルを作成できる。治療する腫瘍と同じエピトープの一部を他の腫瘍が持つ可能性があるため、作成した全ての抗体を抗腫瘍抗体ライブラリーに添加する。この方法に従って作成した抗体は、これらの抗体に結合する癌を持つ全ての患者の癌性疾患の治療にも有用となりうる。
【0042】
抗腫瘍抗体に加えて、多様な治療計画の一部として、現在推奨されている治療を受けることを患者は選択できる。この方法論で単離した抗体については非癌性細胞に対する毒性が比較的低いという事実から、単剤または従来の治療との併用で、高用量の抗体を併用できる。高い治療指数は、治療耐性細胞の出現の可能性を低下させる短いタイムスケールでの再治療を可能にするであろう。
【0043】
患者が初回治療に難治性である、もしくは転移が発生した場合には、再治療のために腫瘍特異的抗体の作成過程を繰り返すことができる。さらに、抗腫瘍抗体は患者から入手した赤血球に結合させて、転移治療のために再注入できる。転移癌に対する効果的な治療はほとんどなく、通例、転移は死を招く不良転帰の前兆になる。一方で、通例、転移性癌においては血管新生が活発であり、赤血球による抗腫瘍抗体の送達によって、腫瘍部位での抗体の濃縮効果が認められうる。転移前でさえ、大部分の癌細胞が生存のために宿主の血液供給に依存しており、赤血球に結合させた抗腫瘍抗体はin situの腫瘍に対しても効果的となりうる。または、他の造血細胞(例、リンパ球、マクロファージ、単球、ナチュラルキラー細胞など)に抗体を結合させることができる。
【0044】
5種類の抗体が存在しており、それぞれがその重鎖によって付与される機能に関連している。裸抗体による癌細胞の殺傷は、抗体依存性の細胞毒性または補体依存性の細胞毒性によって媒介されると一般に考えられる。例えば、マウスのIgM抗体およびIgG2a抗体は、補体系のC1成分に結合することによってヒトの補体を活性化させることで、腫瘍溶解に導くことができる補体活性化の古典的経路を活性化できる。ヒト抗体では、補体活性化に最も効果的な抗体は一般にIgMとIgG1である。IgG2aアイソタイプおよびIgG3アイソタイプのマウス抗体は、単球、マクロファージ、顆粒球、および特定のリンパ球による細胞殺害に導きうるFc受容体を持つ細胞傷害性細胞を動員する際に効果的である。IgG1アイソタイプおよびIgG3アイソタイプいずれのヒト抗体もADCCを媒介する。
【0045】
抗体媒介性の癌殺傷の考えられる別の機序は、細胞膜内および関連する糖タンパク質や糖脂質において様々な化学結合の加水分解を触媒するように機能する抗体、いわゆる触媒抗体の利用を介している。
【0046】
抗体媒介性の癌細胞殺傷にはさらに3つの機序が存在する。第1は、癌細胞に存在する推定抗原に対する免疫反応を身体に誘導させるワクチンとしての抗体の使用である。第2は、増殖受容体を標的にして、それらの機能を妨げる、もしくはその機能が効果的に失われるように受容体をダウンレギュレーションさせる抗体の使用である。第3は、TRAIL R1またはTRAIL R2などの死受容体、もしくはαVβ3などのインテグリン分子のライゲーションなど、細胞死を直接招く細胞表面成分の直接ライゲーションによるこれらの抗体の作用である。
【0047】
制癌剤の臨床的有用性は、許容範囲内のリスクプロファイル下での患者に対する薬物の利益に基づいている。癌治療において、一般に最も求められる利益は延命であるが、延命の他に十分に認識された他の利益も多数存在する。治療が生存に悪影響を及ぼさない場合、これらの他の利益として、症状の軽減、有害事象に対する防御、再発までの期間や無病生存期間の延長、進行までの時間の延長が挙げられる。これらの基準が一般に受け入れられており、米食品医薬品局(FDA)などの規制機関によってこれらの利益をもたらす薬物が承認される(Hirschfeld et al. Critical Reviews in Oncology/Hematolgy 42:137−143 2002)。これらの基準に加えて、これらの種類の利益の前兆となりうる他の評価項目の存在が十分に認識されている。一部では、米国FDAが認めた早期承認過程では、患者への利益を予測しうる代用評価項目の存在を認めている。2003年末時点で、この過程により16の薬品が承認され、これらの内の4つが完全に承認された(つまり、追跡調査において代用評価項目によって予測された患者への直接の利益が実証された)。固形腫瘍における薬効を判定する際の1つの重要な評価項目は、治療に対する反応の測定による全身腫瘍組織量の評価である(Therasse et al.Journal of the National Cancer Institute 92(3):205−216 2000)。このような評価のための臨床基準(RECIST基準)は、癌の国際専門家グループSolid Tumors Working GroupのResponse Evaluation Criteriaによって公表されている。全身腫瘍組織量に及ぼす効果が実証されている薬物は、RECIST基準による客観的反応によって示される通り、適当な対照群と比較して、最終的には患者に直接の利益をもたらす傾向がある。前臨床現場においては、一般に、全身腫瘍組織量は評価や記録がより簡単である。前臨床試験を臨床現場に置き換えることができる点で、前臨床モデルにおいて生存期間を延長させる薬物の臨床的有用性が最も期待される。臨床治療に好反応をもたらすのと同様に、前臨床現場において全身腫瘍組織量を減少させる薬物も疾患に顕著な直接的影響を及ぼしうる。生存期間の延長は、制癌剤治療において最も求められる臨床転帰であるが、臨床的有用性を伴う他の利益も存在しており、疾患進行の遅延、生存期間の延長、またはこれらの両方と相関しうる全身腫瘍組織量の低下によって、直接の利益や臨床的影響ももたらすことができる(Eckhardt et al.Developmental Therapeutics: Successes and Failures of Clinical Trial Designs of Targeted Compounds; ASCO Educational Book, 39th Annual Meeting, 2003, pages 209−219)。その内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,180,357号の過程、および米国特許第6,794,494号、出願番号10/994,664、出願番号11/067,366、仮出願出願番号60/548,667に開示されている過程を実質的に利用して、ヒトの結腸(10A304.7)または前立腺(AR36A36.11.1)腫瘍組織由来の細胞でマウスを免疫後、マウスモノクローナル抗体10A304.7およびAR36A36.11.1を得た。10A304.7抗原およびAR36A36.11.1抗原を異なる組織由来の広範なヒト細胞株の細胞表面上に発現させた。乳癌細胞株MDA−MB−231(MB−231)およびMCF−7、結腸癌細胞株SW1116、前立腺癌細胞株PC−3、卵巣癌細胞株OVCAR−3は、インビトロで10A304.7の細胞毒素作用に感受性であった。前立腺癌細胞株LnCapはインビトロでのAR36A36.11.1の細胞毒素作用に感受性であった。
【0048】
インビボでの抗腫瘍活性を実証することで、インビトロでの乳癌細胞に対する10A304.7の細胞毒性の結果をさらに拡大適用させた(出願番号10/994,664に開示)。インビボのヒト乳癌モデルにおいて、10A304.7によって腫瘍増殖が抑制されて、全身腫瘍組織量が減少した。移植後56日目、最終投与後6日目、10A304.7治療群における平均腫瘍容積は、アイソタイプ対照治療群における腫瘍容積の1%であった(p=0.0003,t検定)。試験を通して毒性の臨床徴候は認められなかった。週1回の間隔で測定する体重は、健康の代用評価項目であった。治療期間の終わりに、群間において体重に有意差は認められなかった(p=0.35I2,t検定)。したがって、ヒトの乳癌異種移植モデルにおいて10A304.7は耐容性に優れており、全身腫瘍組織量を低下させた。
【0049】
インビボでの抗腫瘍活性を実証することで、インビトロでの前立腺癌細胞に対するAR36A36.11.1の細胞毒性の結果をさらに拡大適用させた(出願番号11/067,366に開示)。ヒト前立腺癌のインビボモデルでの予防において、AR36A36.11.1によって腫瘍増殖が抑制され、全身腫瘍組織量が減少した。移植後41日目、最終投与後5日目、AR36A36.11.1治療群における平均腫瘍容積は、緩衝剤対照治療群における腫瘍容積の14%であった(p=0.0009,t検定)。PC−3前立腺癌異種移植モデルにおいて、体重は疾患進行の代用指標として使用できる(Wang et al.Int J Cancer, 2003)。試験終了(41日目)までに、対照動物は、試験開始から、27%の体重減少を示した。対照的に、AR36A36.11.1治療群は、対照群より有意に体重が増えていた(p=0.017)。全般的に、AR36A36.11.1治療群においては体重がわずか6%減少し、緩衝剤対照群での27%減少よりもずっと少なかった。したがって、AR36A36.11.1は耐容性に優れており、ヒト前立腺癌異種移植モデルにおいて全身腫瘍組織量および悪液質を減少させた。
【0050】
抗前立腺癌作用に加えて、AR36A36.11.1については、インビボの腫瘍予防モデルにおいてSW1116結腸癌細胞に対する抗腫瘍活性が実証された(出願番号11/067,366に開示)。移植後55日目、最終投与後5日目、AR36A36.11.1治療群における平均腫瘍容積は、緩衝剤対照群における腫瘍容積の51%であった(p=0.0055,t検定)。試験を通して毒性の臨床徴候は認められなかった。週1回の間隔で測定する体重は健康および発育不全の代用評価項目であった。治療期間の終わりに、群間において体重に有意差は認められなかった(p=0.4409,t検定)。したがって、ヒトの結腸癌異種移植モデルにおいてAR36A36.11.1は耐容性に優れており、全身腫瘍組織量を低下させた。
【0051】
また、AR36A36.11.1については、インビボの腫瘍予防モデルにおいてMDA−MB−231(MB−231)乳癌細胞に対する抗腫瘍活性が実証された(出願番号11/067,366に開示)。AR36A36.11.1は腫瘍増殖を完全に抑制して、全身腫瘍組織量を低下させた。移植後56日目、最終投与後6日目、AR36A36.11.1治療群における平均腫瘍容積は、アイソタイプ対照治療群における腫瘍容積の0%であった(p=0.0002,t検定)。試験を通して毒性の臨床徴候は認められなかった。週1回の間隔で測定する体重は健康および発育不全の代用評価項目であった。治療期間の終わりに、群間において体重に有意差は認められなかった(p=0.0676,t検定)。したがって、ヒトの結腸癌異種移植モデルにおいてAR36A36.11.1は耐容性に優れており、全身腫瘍組織量を低下させた。
【0052】
また、AR36A36.11.1については、インビボの腫瘍予防モデルにおいてMB−231乳癌細胞に対する抗腫瘍活性が実証された(出願番号11/067,366に開示)。この確立されたインビボのヒト乳癌モデルにおいて、AR36A36.11.1は腫瘍増殖を完全に抑制して、全身腫瘍組織量を低下させた。移植後83日目、最終投与後2日目、AR36A36.11.1治療群における平均腫瘍容積は、緩衝剤対照治療群における腫瘍容積の46%であった(p=0.0038,t検定)。これは平均T/C 32%に相当する。試験を通して毒性の臨床徴候は認められなかった。週1回の間隔で測定する体重は健康および発育不全の代用評価項目であった。治療期間の終わりに、群間において体重に有意差は認められなかった(p=0.6493,t検定)。
【0053】
まとめると、このデータは、10A304.7およびAR36A36.11.1の抗原が癌関連抗原であり、ヒトの癌細胞において発現され、病理学的に関連する癌標的であることを示している。
【0054】
本発明には10A304.7およびAR36A36.11.1の開発および使用について記載されており、これらは米国特許第6,180,357号に記載の過程により作成し、動物モデルでの確立されていない/確立された腫瘍増殖における細胞毒性アッセイでのその効果によって同定している。本発明は、標的分子CD59に存在するエピトープまたはエピトープ群に特異的に結合し、悪性腫瘍に対してインビトロでの細胞毒性も持つが、正常細胞に対しては持たず、インビボのヒト癌モデルにおける腫瘍増殖の抑制を直接媒介する試薬について初めて記載している点で、癌治療分野における進歩を示している。同様の特性が示されていないため、これは過去に記載した他の抗CD59抗体に関連する進歩である。さらなる進歩は、これらの抗体を抗腫瘍抗体ライブラリーに包含させることで、異なる抗腫瘍抗体の適当な併用の決定により、異なる抗原マーカーを発現する腫瘍を標的にできる可能性が高まり、腫瘍の増殖および発生を標的として、抑制する際に最も効果的になる点である。
【0055】
全体として、本発明は、治療剤の標的としての10A304.7およびAR36A36.11.1抗原の使用について教示しており、これらを投与した際、哺乳動物において抗原を発現している癌の全身腫瘍組織量を低下させて、治療を受けた動物の生存期間を延長させることもできる。本発明は、これらの抗原を標的として、哺乳動物において抗原を発現している癌の全身腫瘍組織量を抑制・低下させて、この抗原を発現する癌を持つ哺乳動物の生存期間を延長させるためのCDMAB(10A304.7およびAR36A36.11.1)、およびこれらの誘導体、これらのリガンド(例、細胞毒性を誘導するこれらのリガンド、これらの抗原結合断片)の使用についても教示している。さらに、本発明は、この抗原を発現する腫瘍を持つ哺乳動物の診断、治療予測、予後診断に有用となりうる癌性細胞における10A304.7抗原およびAR36A36.11.1抗原の検出の利用についても教示している。
【0056】
したがって、ハイブリドーマ細胞株および対応する単離モノクローナル抗体および前記ハイブリドーマ細胞株がコード化されるその抗原結合断片を単離するために、特定の個人に由来する癌性細胞、または1以上の特定の細胞株に対して作成した癌性疾患改善抗体(CDMAB)の作成方法の利用が本発明の目的であり、CDMABは癌細胞に対して細胞毒性を有するが、同時に非癌性細胞に対する毒性は比較的低い。
【0057】
癌性疾患改善抗体、そのリガンドおよび抗原結合断片について教示することも本発明の別の目的である。
【0058】
細胞毒性が抗体依存性の細胞毒性によって媒介される癌性疾患改善抗体の作成も本発明のさらなる目的である。
【0059】
細胞毒性が補体依存性の細胞毒性によって媒介される癌性疾患改善抗体の作成も本発明のさらなる目的である。
【0060】
細胞毒性が細胞の化学結合の加水分解における触媒作用である癌性疾患改善抗体の作成も本発明のさらなる目的である。
【0061】
癌の診断、予後診断、モニタリング用の結合アッセイに有用な癌性疾患改善抗体の作成も本発明のさらなる目的である。
【0062】
具体例、実施例、具体的な態様によって示した以下の記載から、本発明の他の目的および利点が明らかになろう。
【0063】
(図面の簡単な説明)
図1は細胞毒性アッセイにおける10A304.7対陽性/陰性対照の比較。
図2はAR36A36.11.1(パネルA)および10A304.7(パネルB)をプローブに用いたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロット。分子量マーカーを左に示している。
図3は10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、IgG2aアイソタイプ対照(8A304.7、パネルC)、IgG2bアイソタイプ対照(8B1B.1、パネルD)をプローブに用いたウエスタンブロット。レーン1〜4は、10A304.7(レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A304.7、レーン3)、IgG2bアイソタイプ対照(8B1B.1、レーン4)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜である。レーン5はMDA−MB−231膜タンパク質であり、レーン6はシアリダーゼA、O−グリカナーゼ、β(1−4)ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼ、PNGaseFで脱グリコシル化させた脱グリコシル化MDA−MB−231膜タンパク質である。分子量マーカーを左に示している。
図4はAR36A36.11.1(レーン1)およびIgG2aアイソタイプ対照(レーン2)で免疫沈降させたMDA−MB−231のコロイドブルー染色(パネルA)およびウエスタンブロット(パネルB)。分子量マーカーを左に示している。
図5は10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、パネルC)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、パネルD)をプローブに用いた、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、レーン3)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロット。分子量マーカーを左に示している。
図6A−6Cはヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
図7はヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはAR36A36.11.1(B)または抗アクチン(C)または陰性アイソタイプ対照(D)で得られたヒト正常子宮内膜/分泌組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7では染色は陰性を示し、AR36A36.11.1は血管内皮での染色は弱陽性を示した(矢参照)。倍率は200Xである。
図8A−8Cは様々なヒト腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
図9はヒトの複数腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはAR36A36.11.1(B)または抗アクチン(C)または陰性アイソタイプ対照(D)で得られたヒト正常子宮内膜/分泌組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7およびAR36A36.11.1では腫瘍細胞に対して染色は陽性を示した。倍率は200Xである。
図10はヒト肝臓腫瘍および正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7結合のまとめ。
図11はヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはアイソタイプ対照抗体(B)で得られた肝細胞癌組織、および10A304.7(C)またはアイソタイプ対照抗体(D)で得られた非腫瘍肝臓組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7では腫瘍細胞において染色は強陽性を示し、正常組織において染色は陰性を示した。倍率は200Xである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
一般に、概要、説明、実施例、請求項において使用する語句や表現は、以下のように定義している。
【0065】
「抗体」とは、広義で使用されており、具体的には、例えば、一つのモノクローナル抗体(アゴニスト、アンタゴニスト、中和抗体、脱免疫化させたマウスキメラ抗体またはヒト抗体)、多エピトープ特異性を持つ抗体組成物、単鎖抗体、免疫複合体、抗体断片(下記参照)を指す。
【0066】
本明細書の「モノクローナル抗体」とは、実質的に同種の抗体集団から入手された抗体を指し、つまり、集団を構成する個別の抗体は微量で存在しうる考えられる天然の突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体の特異性は高く、一つの抗原部位を標的としている。さらに、異なる決定基(エピトープ)を標的とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は一つの決定基を標的とする。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は他の抗体が混入することなく合成できる点で有利である。「モノクローナルの」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から入手される抗体の特徴を指しており、特定の方法による抗体産生が必要になるとは解釈されない。例えば、本発明で使用するモノクローナル抗体は、Kohlerらが最初に記載した(マウスまたはヒト)ハイブリドーマ法(Nature, 256:495 (1975))によって作成でき、または組み換えDNA法(米国特許第4,816,567号参照)によって作成できる。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clacksonら(Nature, 352:624−628 (1991))およびMarksら(J. Mol.Biol, 222:581−597 (1991))が記載した方法を利用して、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0067】
「抗体断片」は、好ましくは抗原結合またはその可変領域を含む、完全な抗体の1部を構成する。抗体断片の例としては、完全長未満の抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、diabody、線状抗体、単鎖抗体分子、単鎖抗体、単一ドメイン抗体分子、融合タンパク質、組み換えタンパク質、抗体断片から形成された多特異性抗体が挙げられる。
【0068】
「完全な」抗体は、軽鎖定常領域(CL)および重鎖定常領域、CH1、CH2、CH3の他、抗原結合可変領域を含む抗体である。定常領域は、天然配列定常領域(例、ヒト天然配列定常領域)またはそのアミノ酸配列の変異体でありうる。好ましくは、完全な抗体は1以上のエフェクター機能を持つ。
【0069】
重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、完全な抗体を異なる「クラス」に割り当てることができる。完全な抗体には5つの主なクラスが存在する:IgA、IgD、IgE、IgG、IgM。これらの数種は、さらに、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgA2に分けることができる。抗体の異なるクラスに対応する定常領域のドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる。免疫グロブリンの異なったクラスのサブユニット構造と3次本来の形状はよく知られている。
【0070】
抗体の「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域またはアミノ酸配列の変異Fc領域)に起因するそれらの生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性の細胞毒性、Fc受容体結合、抗体依存性の細胞によって媒介される細胞毒性(ADCC)、貪食作用能、細胞表面受容体(例、B細胞受容体、BCR)などのダウンレギュレーションが挙げられる。
【0071】
「抗体依存性の細胞によって媒介される細胞毒性」および「ADCC」とは、Fc受容体(FcRs)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、マクロファージ)が標的細胞上の結合抗体を認識して、その後、標的細胞を溶解させる細胞媒介性の反応を指す。ADCCを媒介する主な細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII、FcγRIIIを発現する。造血細胞でのFcR発現は、RavetchとKinet(Annu.Rev.Immunol 9:457−92(1991))のp464、表3にまとめられている。目的分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または米国特許第5,821,337号に記載のようなインビトロADCCアッセイを実施できる。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核球細胞(PBMC)やナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。または、もしくは、さらに、例えば、Clynesら(PNAS (USA) 95:652−656 (1998))が開示しているような動物モデルにおいて、目的分子のADCC活性をインビボで評価できる。
【0072】
「エフェクター細胞」は、1以上のFcRを発現し、エフェクター機能を担う白血球である。好ましくは、細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を担う。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核球細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、好中球が挙げられ、PBMCとNK細胞が好ましい。例えば、エフェクター細胞は天然材料(例、血液または本明細書に記載のPBMC)から単離できる。
【0073】
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を記載する際に使用される。好ましいFcRは、天然配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(γ受容体)を結合させる受容体であり、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライスを受けた受容体を含む、FcγRI、FcγRII、Fcγ RIIIサブクラスの受容体が含まれる。FcγRII受容体としては、FcγRIIA(「「活性化受容体」)そしてFcγRIIB(「抑制性受容体」)が挙げられ、主にその細胞質ドメインにおいて異なる類似のアミノ酸配列を持つ。受容体活性化FcγRIIAは、その細胞質ドメインにおいて免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を含む. 受容体抑制性FcγRIIBは、その細胞質ドメインにおいて免疫受容体チロシン抑制モチーフ(ITIM)を含む(例、M. in Daeron, Annu.Rev.Immunol.15:203−234 (1997)のレビュー参照)。FcRは、RavetchおよびKinet(Annu.Rev.Immunol 9:457−92 (1991))、Capelら(Immunomethods 4:25−34 (1994))、de Haasら(J. Lab.Clin.Med.126:330−41 (1995))において再検討されている。今後同定されるFcRsを含む他のFcRが、本明細書の「FcR」に含まれる。該用語には、新生児受容体FcRnも含まれ、これは母親から胎児へのIgGの移入に関与する(Guyer et al., J. Immunol.1 17:587 (1976) and Kim et al., Eur.J.Immunol.24:2429 (1994))。
【0074】
「補体依存性の細胞毒性」または「CDC」は、補体の存在下で標的を溶解させる能力を指す。同種抗原が結合した分子(例、抗体)に補体系(C1q)の第1成分が結合することで補体活性化経路が始動する。補体活性化を評価するために、CDCアッセイ(例、 Gazzano−Santoro et al., J. Immunol.Methods 202: 163 (1996)に記載)を実施できる。
【0075】
「可変」とは、抗体間において可変領域の特定部分の配列が広範囲にわたって異なり、特定抗原に対する各特定抗体の結合および特異性において使用されるという事実を指す。しかし、可変性は抗体の可変領域全体に一様に分布しているわけではない。これは、軽鎖/重鎖可変領域内の超可変領域と呼ばれる3つの断片に集中している。可変領域のより保存性の高い部分をフレームワーク領域(FR)と呼ぶ。天然の重鎖および軽鎖の可変領域は、それぞれ4つのFRから成り、3つの超可変領域に結合したβシートの配置を主に取り、これはループを形成して、βシート構造の一部を形成する場合がある。各鎖の超可変領域はFRによって他の鎖の超可変領域とまとめられ近接しており、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991)参照). 定常領域は、抗原への抗体の結合に直接関与しないが、抗体依存性の細胞毒性(ADCC)における抗体の関与など様々なエフェクター機能を示す。
【0076】
本明細書の「超可変領域」とは、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。一般に、超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」のアミノ酸残基(例、軽鎖可変領域の24−34(L1)、50−56(L2)、89−97(L3)残基および重鎖可変領域の31−35(H1)、50−65(H2)、95−102(H3)残基、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991))、および/または「高頻度可変性ループ」の残基(例、軽鎖可変領域の2632 (L1)、50−52 (L2)、91−96 (L3)残基および重鎖可変領域の26−32(H1)、53−55(H2)、96−101(H3)残基、Chothia and Lesk J. Mol.Biol.196:901−917 (1987))から成る。「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書に定める超可変領域の残基以外の可変領域の残基である。抗体のパパイン分解によって、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片が生じ、それぞれが一つの抗原結合部位および残りの「Fc」を伴い、「Fc」の名称は易結晶性を反映している。ペプシン処理によって、2つの抗原結合部位を持ち、依然として抗原を架橋できるF(ab’)2 断片が生じる。
【0077】
「Fv」は、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含む最小抗体断片である。この部位は、1つの重鎖と1つの軽鎖の可変領域が非共有結合的に強固に結合した二量体から成る。各可変領域の3つの超可変領域が相互作用して、VH−VL二量体の表面上に抗原結合部位の輪郭を示すのはこの構造である。集合して、6つの超可変領域は抗体に抗原結合特異性を与える。しかし、全結合部位よりも親和性が低いものの、一つの可変領域(または抗原に特異的なわずか3つの超可変領域を含むFvの半分)でも抗原を識別して、結合する能力を持つ。Fab断片は、軽鎖の定常領域と重鎖の第1定常領域(CH1)も含む。抗体のヒンジ領域からの1以上のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端に数個の残基が付加することで、Fab’断片はFab断片とは異なる。Fab’−SHは、定常領域のシステイン残基が少なくとも1つのチオール基を持つFab’の本明細書における表記である。F(ab’)2抗体断片は、本来、間にヒンジシステインを持つFab’対として産生された。抗体断片の他の化学結合も公知である。
【0078】
任意の脊椎動物種由来の抗体の「軽鎖」は、それらの定常領域のアミノ酸配列に基づき、カッパ(K)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なるタイプの内の1つに割り当てられることができる。
【0079】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVH/VL領域から成り、これらの領域は1つのポリペプチド鎖に存在している。好ましくは、FvポリペプチドはさらにVHとVLドメインの間にポリペプチドリンカーを含み、これによってscFvが抗原結合のための所望の構造を形成できる。scFvに関するレビュー(Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 1 13, Rosenburg and Moore eds., Springer−Verlag, New York, pp.269−315 (1994))を参照すること。
【0080】
「Diabody」とは、2つの抗原結合部位を伴う小さな抗体断片を指し、この断片は同じポリペプチド鎖(VH−VL)内において可変軽鎖領域(VL)に結合した可変重鎖領域(VH)から成る。同じ鎖上の2つの領域間での対合を可能にするための非常に短いリンカーを使用することで、領域を別の鎖の相補領域と対合させて、2つの抗原結合部位を形成させる。Diabodyについては、例えば、欧州特許第404,097号、国際公開広報第93/11161号、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444−6448(1993)に詳述されている。
【0081】
「単離」抗体は、同定、分離、および/またはその自然環境の成分から回収された抗体である。自然環境の混入成分は、抗体の診断や治療における使用を妨げ、酵素、ホルモン、他のタンパク性/非タンパク質性の溶質を含みうる原料である。抗体の自然環境において少なくとも1成分が存在しないため、単離抗体には組み換え細胞内のin situの抗体が含まれる。一方、通常、単離抗体は少なくとも1つの精製段階によって調製できる。
【0082】
目的の抗原(例、CD59)に「結合する」抗体は、十分な親和性で抗原に結合可能な抗体であり、該抗体は該抗原を発現する細胞を標的とする治療薬として有用である。抗体がCD59に結合する抗体である場合、通常、これは他の受容体とは対照的に選択的にCD59に結合し、Fcとの非特異的接触などの偶発的な結合、または他の抗原に共通する翻訳後修飾物への結合を含まず、他のタンパク質と有意に交差反応しない抗体である。目的の抗原に結合する抗体の検出方法は、当技術分野において周知であり、限定はされないが、FACS、細胞ELISA、ウエスタンブロットなどのアッセイを挙げることができる。
【0083】
本明細書で使用する「細胞」、「細胞株」、「細胞培養」という表現は、互換性を持って使用しており、全てのこれらの表記には子孫細胞も含まれる。故意の、または偶発的な突然変異のため、全ての子孫細胞がDNA含量において厳密に同一ではない可能性があることも理解されている。本来の形質転換細胞においてスクリーニングした同じ機能または生物活性を持つ突然変異体の子孫細胞が含まれる。別の表記が意図されている状況から明らかであろう。
【0084】
「治療」とは、治療的処置および予防対策の両方を指し、目的は、標的となる病態や疾患を予防または抑制(低下)させることである。治療を必要とする人々としては、疾患傾向のある人々や疾患を予防する必要のある人々の他、既に疾患を伴う人々が挙げられる。このように、本明細書において治療される哺乳動物は、疾患の診断が下されている、もしくは疾患に罹りやすい、または疾患に感受性がありうる。
【0085】
「癌」および「癌性の」とは、通例、無制御の細胞増殖や細胞死を特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指す、またはこれについて記載している。癌の例としては、限定はされないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、白血病、リンパ様悪性腫瘍が挙げられる。これらの癌のより具体的な例としては、頭頚部癌の他、扁平上皮癌(例、上皮性扁平上皮癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺と扁平上皮癌および肺の腺癌、腹膜癌、肝細胞性癌、消化管癌を含む胃癌、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞癌、乳房癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌が挙げられる。
【0086】
「化学療法薬」は癌の治療に有用な化合物である。化学療法薬の例としては、チオテパとシクロホスファミド(CYTOXAN(商標))などのアルキル化剤、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファンなどのスルホン酸アルキル、ベンゾドーパ、カルボコン、メチュアドーパ(meturedopa)、ウレドーパ(uredopa)などのアジリジン、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホロアミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethylenethiophosphaoramide)、トリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類(ethylenimines)およびメチルメラミン類(methylamelamines)、クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミン酸化物、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスアミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード系、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソウレア、アクラシノマイシン(aclacinomysins)、アクチノマイシン、アスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケミシン(calicheamicin)、カラビシン(carabicin)、carnomycin、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピュロマイシン、キラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなどの抗生物質、メトトレキセートおよび5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗薬、デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセートなどの葉酸類似体、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニンなどのプリン類似体、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、dideoxyuridine、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FUなどのピリミジン類似体、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン、アミノグルテチミド、ミトーテン、トリロスタンなどの抗副腎剤、フロリン酸のような葉酸補充物、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド、アミノレブリン酸、アムサクリン、ベストラブシル(bestrabucil)、ビサントレン(bisantrene)、エデトラキサート(edatraxate)、デホファミン(defofamine)、デメコルチン、ジアジコン、elformithine、酢酸エリプチニウム、エトグルシド(etoglucid)、硝酸ガリウム、ヒドロキシ尿素、レンチナン、ロニダミン、ミトグアゾン、ミトキサントロン、モピダモール(mopidamol)、ニトラクリン、ペントスタチン、フェナメット(phenamet)、ピラルビシン、ポドフィリン酸、2−ethylhydrazide、プロカルバジン、PSK(登録商標)、ラゾキサン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム、テヌアゾン酸、トリアジコン(triaziquone)、2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン、ウレタン、ビンデシン、ダカルバジン、マンノムスチン、ミトブロニトール、ミトラクトール、ピポブロマン、ガシトシン(gacytosine)、アラビノシド(Ara−C)、シクロホスファミド、チオテパ、タキサン、例、パクリタキセル(TAXOL(登録商標), Bristol−Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)およびドセタキセル(TAXOTERE(登録商標), Aventis, Rhone−Poulenc Rorer, Antony, France)、クロラムブシル、ゲムシタビン、6−チオグアニン、メルカプトプリン、メトトレキセート、シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ類似体、ビンブラスチン、プラチナ、エトポシド(VP−16)、イホスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ナベルビン、ミトキサントロン、テニポシド、ダウノマイシン、アミノプテリン、ゼローダ、イバンドロネート、CPT−11、トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000、ジフルオロメチルオルニチン(DMFO)、レチノイン酸、エスペラミシン、カペシタビン、および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、誘導薬が挙げられる。タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ抑制性4(5)−イミダゾール、4‐ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、トレミフェン(Fareston)、およびフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロライド、ゴセレリンなどの抗アンドロゲン剤、および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、誘導薬などの腫瘍に及ぼすホルモンの作用を調節または抑制するように作用する抗ホルモン薬もこの定義に含まれる。
【0087】
治療の目的となる「哺乳動物」とは、ヒト、マウス、SCIDマウスまたはヌードマウスまたはマウス系統、家畜を含む哺乳動物、そして羊、犬、馬、猫、牛などの動物園、ペット、スポーツ用の動物に分類される任意の動物を指す。好ましくは、本明細書の哺乳動物はヒトである。
【0088】
「オリゴヌクレオチド」は、既知の方法(1988年5月4日に公開された欧州特許第266,032号などに記載の固相技術を利用したホスホロトリエステル、フォスファイト、またはホスホラミダイト化学、もしくは(Froehler et al., Nucl.Acids Res., 14:5399−5407, 1986)に記載のデオキシヌクレオシドH−ホスホン酸中間体による)によって化学合成される長さの短い単鎖または二本鎖のポリデオキシヌクレオチドである。次にポリアクリルアミドゲルでこれらを精製する。
【0089】
特に断らない限り、本明細書の「CD59」とは、哺乳動物のグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合膜糖タンパク質(別名、MEM−43抗原、反応性細胞融解の膜阻害因子(MIRL)、H19、膜攻撃複合体抑制因子(MACIF)、分子量20,000のホモロガス制限因子(HRF20)、プロテクティン(Walsh, Tone et al.1992)など)を指す。
【0090】
「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定種に由来する抗体または特定の抗体クラスやサブクラスに属する抗体における対応する配列と同じである、もしくは相同である免疫グロブリンであり、鎖の残り部分は、所望の生物活性を示す限り、これらの抗体の断片の他、別の種に由来する抗体または別の抗体クラスやサブクラスに属する抗体における対応する配列と同じ、もしくは相同である(米国特許第4,816,567号、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851−6855 (1984))。
【0091】
ヒト以外(例、マウス)の「ヒト化」型抗体は、特異的なキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖または免疫グロブリン鎖の断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab)2、または抗体の他の抗原結合部分配列)であり、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含んでいる。大半において、ヒト化抗体はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、このヒト免疫グロブリンにおいて、レシピエント抗体の相補性決定領域(CDR)由来の残基を、所望の特異性、親和性、能力を有する、マウス、ラット、ラットなどのヒト以外の種(ドナー抗体)のCDRに由来する残基で置換している。一部の例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基を対応するヒト以外のFR残基と置換させている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体および取り込ませたCDR配列やFR配列のいずれでも認められない残基を含みうる。これらの改変を施すことで、抗体の性能を向上・最適化させる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、通例、2つの可変領域の実質的に全てを含み、ここでCDR領域の全て、または実質的に全てがヒト以外の免疫グロブリンの領域と一致しており、FR残基の全て、または実質的に全てがヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列の領域である。ヒト化抗体は、任意で、免疫グロブリン定常領域の一部(Fc)、通例、ヒト免疫グロブリンの一部を含む。
【0092】
「脱免疫化」抗体は、任意の種に対して、免疫原性のない、もしくは免疫原性の低い免疫グロブリンである。抗体に対する構造変化によって脱免疫化させることができる。当業者に公知の脱免疫化技術を利用できる。適当な脱免疫化技術は、例えば、2000年6月15日に公開された国際公開広報第00/34317号に記載されている。
【0093】
「相同性」については、配列を並べて、相同性(%)を最高にするために適宜ギャップを導入した後でのアミノ酸配列変異体における同一残基の割合と定義している。配列比較の方法およびコンピュータプログラムは当技術分野において周知である。
【0094】
本出願では一貫して、ハイブリドーマ細胞株から産生された単離モノクローナル抗体の他、ハイブリドーマ細胞株は、それらの内部表記(10A304.7またはAR36A36.11.1)または寄託表記(ATCC PTA−5065またはIDAC 280104−02)によっても呼ばれる。
【0095】
本明細書の「リガンド」としては、標的抗原への結合特異性を示す部分が挙げられ、これは完全な抗体分子や少なくとも抗原結合領域またはその一部を持つ任意の分子(抗体分子の可変部分)、例えば、Fv分子、Fab分子、Fab’分子、F(ab’).sub.2分子、二重特異性抗体、融合タンパク質、またはATCC PTA−5065またはIDAC 280104−02と表記されるハイブリドーマ細胞株から産生された単離モノクローナル抗体が結合した抗原(ATCC PTA−5065抗原またはIDAC 280104−02抗原)を特異的に識別して結合する遺伝子組み換え分子でありうる。
【0096】
本明細書の「抗原結合部位」は、標的抗原を識別する分子の一部を意味する。
【0097】
本明細書の「競合阻害する」とは、従来の抗体相互競合アッセイを利用して、ATCC PTA−5065またはIDAC 280104−02と表記されるハイブリドーマ細胞株から産生された単離モノクローナル抗体(ATCC PTA−5065抗体またはIDAC 280104−02抗体)が標的とする決定基部位を認識して結合できることを意味する(Belanger L., Sylvestre C. and Dufour D. (1973), Enzyme linked immunoassay for alpha fetoprotein by competitive and sandwich procedures. Clinica Chimica Acta 48, 15)。
【0098】
本明細書の「標的抗原」とは、ATCCPTA−5065抗原またはIDAC280104−02抗原、またはこれらの一部である。
【0099】
本明細書の「免疫複合体」とは、細胞毒素、放射性薬剤、酵素、毒素、抗腫瘍薬、治療剤に化学的または生物学的に結合させた抗体などの分子またはリガンドである。標的に結合可能な限り、抗体を分子に沿った任意の部位で細胞毒素、放射性薬剤、抗腫瘍薬、治療剤に結合させることができる。免疫複合体の例としては、抗体‐毒素化学複合体や抗体‐毒素融合タンパク質が挙げられる。
【0100】
本明細書の「融合タンパク質」とは、抗原結合領域を生物活性分子(例、毒素、酵素、タンパク質薬剤)に結合させた任意のキメラタンパク質を意味している。
【0101】
本明細書に記載の発明をより十分に理解するために、以下の記載を示す。
【0102】
本発明は、ATCCPTA−5065抗原またはIDAC280104−02抗原を識別して結合するリガンド(ATCCPTA−5065リガンドまたはIDAC280104−02リガンド)を提供する。
【0103】
ハイブリドーマATCC PTA−5065またはIDAC 280104−02によって産生されるモノクローナル抗体のその標的抗原への免疫特異的結合を競合阻害する抗原結合領域を持つ限り、発明のリガンドは任意の形状でよい。このように、ATCCPTA−5065抗体またはIDAC280104−02抗体と同じ結合特異性を持つ任意の組み換えタンパク質(例、抗体がリンホカインまたは腫瘍抑制増殖因子などの第二のタンパク質と結合した融合タンパク質)も本発明の範囲内にある。
【0104】
本発明の一態様では、リガンドはATCCPTA−5065抗体またはIDAC280104−02抗体である。
【0105】
他の態様では、リガンドは抗原結合断片であり、抗原結合断片は、Fv分子(単鎖Fv分子など)、Fab分子、Fab’分子、F(ab’)2分子、融合タンパク質、二重特異的抗体、ヘテロ抗体、ATCC PTA−5065抗体またはIDAC 280104−02抗体の抗原結合領域を持つ任意の組み換え分子でよい。本発明のリガンドは、ATCC PTA−5065モノクローナル抗体またはIDAC280104−02モノクローナル抗体が標的とするエピトープに向けられている。
【0106】
本発明のリガンドは、誘導体分子を産生するように修飾できる(分子内のアミノ酸修飾による)。化学修飾も可能である。
【0107】
誘導体分子はポリペプチドの機能特性を保持しており、つまり、このような置換を持つ分子によってATCCPTA−5065抗原またはIDAC280104−02抗原、もしくはこれらの一部へのポリペプチドの結合が依然として可能になりうる。
【0108】
これらのアミノ酸置換には、限定はされないが、当技術分野において「保存的」として知られるアミノ酸置換が挙げられる。
【0109】
例えば、これは、「保存的アミノ酸置換」と呼ばれる、タンパク質の立体構造や機能を変えることなく特定のアミノ酸置換をタンパク質に施すことができる場合が多いという、タンパク質化学において十分に確立された原則である。
【0110】
このような変化としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)とこれらの疎液性アミノ酸の他のいずれかとの置換およびその逆、アスパラギン酸(D)とグルタミン酸(E)およびその逆、グルタミン(Q)とアスパラギン(N)およびその逆、そしてセリン(S)とスレオニン(T)およびその逆が挙げられる。タンパク質の3次元構造の特定アミノ酸の環境およびその役割に応じて、他の置換も保存的と見なすことができる。例えば、アラニンとバリン(V)と同様に、グリシン(G)とアラニン(A)は置換可能な場合が多い。比較的疎液性の高いメチオニン(M)は、ロイシンやイソロイシン、そして場合によってはバリンで置換できることが多い。リジン(K)とアルギニン(R)については、電荷をアミノ酸残基の顕著な特徴としており、2つのアミノ酸残基のpK値に有意差がない部位において置換可能な場合が多い。特定の環境において、さらに他の変化を「保存的」と見なすことができる。
【0111】
抗体が与えられれば、当業者であれば、競合阻害リガンド、例えば、同じエピトープを識別する競合抗体を作成できる(Belanger et al., 1973)。1つの方法では、抗体によって識別される抗原を発現する免疫原での免疫付与が必要となりうる。サンプルとしては、限定はされないが、組織、単離タンパク質、または細胞株を挙げることができる。結果として得られるハイブリドーマは、競合アッセイを利用してスクリーニング可能であり、これはELISA、FACS、免疫沈降など、試験抗体の結合を抑制する抗体を同定するアッセイである。別の方法では、前記抗原を識別する抗体のファージディスプレイライブラリーおよびパニングを利用可能であった(Rubinstein et al., 2003)。いずれの場合でも、標的抗原への結合における本来の抗体よりも高い競合性に基づいてハイブリドーマが選択されうる。したがって、このようなハイブリドーマは、本来の抗体と同じ抗原を識別するという特徴を持ち、同じエピトープをより特異的に識別しうる。
【0112】
実施例1
インビトロでの細胞毒性
CL−1000フラスコ(BD Biosciences, Oakville, ON)にハイブリドーマを培養して、回収、再播種を週2回行なうことで10A304.7モノクローナル抗体を作成した。Protein G Sepharose 4 Fast Flow(Amersham Biosciences, Baie d’Urfe, QC)を用いた標準的な抗体精製方法に従った。ヒト化、キメラ化、またはマウスのモノクローナル抗体の利用は本発明の範囲内である。
【0113】
細胞毒性アッセイにおける緩衝剤の希釈液対照の他、両陽性対照(抗EGFR抗体(C225, IgG1, kappa, 5μg/mL, Cedarlane, Hornby, ON、抗FAS, IgM, kappa, 10μg/mL, eBiosciences, San Diego, CA)、シクロヘキシミド(CHX, 0.5 micromolar, Sigma, Oakville, ON)、NaN3(0.1%, Sigma, Oakville, ON)、および陰性アイソタイプ対照8B1B.1(抗ブルータングウイルス、自家精製)を10A304.7と比較した(図1)。2つの膵臓癌細胞株(BxPC−3、PL45)において、10μg/mLで10A304.7とアイソタイプ対照抗体を評価した。両細胞株はATCC(Manassas, VA)から入手した。カルセインAMは、Molecular Probes(Eugene, OR)から入手した。以下の変更を加えて、メーカーの説明書に従ってアッセイを実施した。アッセイの前に、所定の適当な密度で細胞を播種した。2日後、100μLの精製抗体または対照を培地中に希釈させて、次に細胞プレートに移して、5% CO2インキュベーター内で5日間培養させた。次に、プレートを裏返すことで空にして、培養液を吸い取り乾燥させた。マルチチャネルスクイーズボトルから各ウェルにMgCl2とCaCl2を含む室温のDPBSを分注して、3回軽くたたき、裏返すことで空にして、培養液を吸い取り乾燥させた。各ウェルにMgCl2とCaCl2を含むDPBSで希釈させた蛍光カルセイン染色液50μLを加えて、37℃の5% CO2インキュベーター内で30分間培養させた。Perkin−Elmer HTS7000蛍光プレートリーダーでプレートを読ませて、Microsoft Excelでデータを解析して、図1の表に結果を示した。各抗体について、3回試験を行なった4つの実験において認められた平均細胞毒性に基づく5〜50のスコア、およびアッセイ間で認められた変動に基づく25〜100のスコアが得られた。これらの2つのスコア(細胞毒性スコア)の合計を図1に示している。試験した細胞株における55以上の細胞毒性スコアを陽性と見なした。米国特許第6,794,494号において過去に開示された通り、10A304.7はBxPC−3細胞に細胞毒性作用を持たなかった。膵臓PL45細胞株において、緩衝剤陰性対照およびアイソタイプ陰性対照のいずれをも上回る、特異的な細胞毒性が10A304.7抗体について認められた。緩衝剤では測定可能な細胞毒性は認められなかった。この特定の実験において、8B1B.1アイソタイプ対照は、PL45細胞株に対して通常の細胞毒性よりも高い細胞毒性を示し、これはバイオアッセイにおいて固有の変動作用でありうる。アイソタイプ対照の効果は高かったが、10A304.7で得られた結果は各実験において一貫して高かった。これらの結果は、10A304.7が機能的特異性を持ち、ヒト膵臓癌由来の標的癌細胞を標的にできることを示している。
【0114】
実施例2
ウエスタンブロット法による結合タンパク質の同定
10A304.7抗体およびAR36A36.11.1抗体によって識別される抗原を同定するために、抗原を発現する細胞膜をゲル電気泳動にかけて、ウエスタンブロッティングを利用してメンブレンにトランスファーさせ、これらの抗体に結合するタンパク質を判定した。
【0115】
1.膜の調製
過去の研究から、重症複合型免疫不全症(SCID)マウスにおける異種移植片として増殖させたMDA−MB−231(MB−231)細胞株によって例示される通り、10A304.7およびAR36A36.11.1は乳癌に対して効果を示した。したがって、MB−231膜調製物を抗原の同定に使用した。全細胞膜はMB−231細胞のコンフルエント培養物から調製した。細胞重層から培地を除き、細胞をリン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)で洗った。プラットホームシェーカー上で分離緩衝液(Gibco−BRL, Grand Island, NY)を用いて細胞を37℃、20分間分離させた。細胞を回収して、4℃で10分間、900gの遠心分離にかけた。遠心分離後、細胞の沈殿をPBS中で再浮遊させて、4℃で10分間、900gの遠心分離に再びかけて洗った。上精を捨てて、沈殿を−8O℃で保存した。細胞1g当たり緩衝液3 mLの比率で、Complete protease inhibitor cocktail(Roche, Laval QC)50mL当たり錠剤1個を含むホモジナイゼーション緩衝液に細胞の沈殿を再浮遊させた。細胞を溶解させるために、氷上でポリトロンホモジナイザー使用して細胞浮遊液をホモジナイズした。核小片を除去するために、細胞ホモジネートを4℃で10分間、15,000gの遠心分離にかけた。上精を回収して、チューブに分注し、4℃で90分間、75,600gの遠心分離にかけた。上精を静かにチューブから除去して、各膜沈殿物を約5mLのホモジナイゼーション緩衝液に再浮遊させた。全てのチューブの再浮遊させた沈殿物を1本のチューブに合わせて、4℃で90分間、75,600gの遠心分離にかけた。チューブから上精を静かに除去して、沈殿物の重さを量った。膜沈殿物1g当たり緩衝液3mLの比率で、1% Triton X−100を含む可溶化緩衝液を沈殿に加えた。プラットホームシェーカー上で300rpm、1時間、膜を氷上で可溶化させた。膜溶液を75,600gの遠心分離にかけて、不溶性物質を沈殿させた。可溶化膜タンパク質を含む上精を静かにチューブから除去して、タンパク質含量を分析し、−80℃で保存した。
【0116】
2.ウエスタンブロット
膜タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離させた。MB−231膜タンパク質20μgを非還元SDS−PAGEサンプル緩衝液と混合させて、2枚の4〜20%勾配SDS−PAGEゲル(Bio−Rad, Mississauga, ON)のレーンに添加した。未染色分子量マーカー(Invitrogen, Burlington, ON)のサンプルをレファレンスのレーンに流した。100Vで10分間、その後、サンプル緩衝液の染色先端部はゲルから流出するまで150Vで電気泳動を実施した。16時間の40V電気ブロッティングによって、タンパク質をゲルからPVDFメンブレン(Millipore, Billerica, MA)にトランスファーさせた。トランスファー後、0.5% Tween−20(TBST)を含む5%スキムミルク粉末のトリス緩衝生理食塩水溶液でメンブレンをブロッキングした。メンブレンをTBSTで3回洗い、5%スキムミルク粉末のTBST溶液に希釈させた5μg/mL 10A304.7または5μg/mL AR36A36.11.1と2時間インキュベートさせた。TBSTで3回洗った後、Jackson Immunologicals(West Grove, PA)のホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG(Fc)と共にメンブレンをインキュベートさせた。このインキュベーション後、TBSTで3回洗い、ECL Plus western detection reagents(Amersham Biosciences, Baie d’Urfe, QC)とインキュベーションさせた。ブロットを化学発光フィルム(Kodak, Cedex, France)に暴露させて、X光線メディカルプロセッサを使用して現像した。
【0117】
図2は、メンブレン下部においてタンパク質と強く結合したAR36A36.11.1(パネルA)、10A304.7(パネルB)を示している。分子量スタンダードとの比較で、抗体は約20kDaのタンパク質と結合している。両方の抗体が同様のパターンでMB−231メンブレンに結合している。
【0118】
実施例3
AR36A36.11.1、10A304.7が結合した抗原の交差免疫沈降および脱グリコシル化
【0119】
10A304.7およびAR36A36.11.1が結合した抗原が同一であるか否かを判定するために、MB−231膜を2つの抗体で交差免疫沈降させた。反応が機能的抗体に特異的であることを保証するために、適当なアイソタイプ対照(AR36A36.11.1のアイソタイプであるIgG2aに対しては8A3B.6、10A304.7のアイソタイプであるIgG2bに対しては8B1B.1)が含まれた。
【0120】
1.免疫沈降
各抗体200μgを0.1 M リン酸ナトリウム(pH6.0)1mLに希釈させた。1抗体当たり100μLのプロテインGセファロースビーズ(Amersham Biosciences, Baie d’Urfe, QC)を1mLの0.1 M リン酸ナトリウム(pH6.0)で3回洗った。希釈した抗体を一定分量のビーズに添加して、撹拌しながら室温で1時間インキュベートした。14,000rpmの極小遠心分離機で20秒間スピンさせて、上精を吸引除去し、非結合抗体を除去した。抗体コートビーズを1mLの0.1 Mリン酸ナトリウム(pH7.4)で3回洗い、続いて1mLの0.2 M トリエタノールアミン(pH8.2)で2回洗った。抗体結合ビーズを1mLの0.2 M トリエタノールアミン(pH8.2)に再浮遊させて、次に5.2mgのジメチルピメリミデート(Sigma, Oakville, ON)を加えて、撹拌しながら1時間インキュベートさせることで化学的架橋させた。抗体架橋ビーズを1.5mLの50mM Tris(pH7.5)で1回洗い、続いて撹拌させながら1mLの50mM Tris(pH7.5)と30分間室温でインキュベーションさせた。ビーズをPBSで3回洗い、次に0.02%アジ化ナトリウムを含むPBS 100μLに再浮遊させて、4℃で保存した。
【0121】
前記結合ビーズを使用して、MB−231膜との免疫沈降のために、4種の抗体(AR36A36.11.1、10A304.7、8A3B.6、8B1B.1)を使用した。200μgのMB−231膜調製物を1抗体当たり1mLの通常の溶解緩衝液(50mM Tris(pH7.4)、150mM 塩化ナトリウム、2mM EDTA、1% Triton X−100、50mM フッ化水素ナトリウム、2mM オルトバナジン酸ナトリウム、1Xプロテアーゼ阻害剤混合液)で希釈させた。1抗体ごとに50μgの抗体結合ビーズを希釈したMB−231膜に加えて、転倒撹拌させながら40℃で2時間インキュベートさせた。免疫複合体結合ビーズを通常の溶解緩衝液で3回、PBSで1回洗った。免疫複合体結合ビーズをPBSで再浮遊させて、使用まで4℃で保存した。
【0122】
2.脱グリコシル化
AR36A36.11.1および10A304.7の抗原結合における炭水化物基の役割を検証するために、MB−231膜を脱グリコシル化させた。メーカーの説明書に従い、非還元条件下で、GLYKO酵素消化キット(ProZyme, San Leandro, CA)のPNGaseF、シアリダーゼA、O−グリカナーゼ、β(1−4)ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼと100μgのMB−231膜をインキュベートさせた。追加で100μgのMB−231膜を脱グリコシル緩衝液とのみインキュベートさせて、グリコシル化対照反応とした。
【0123】
3.ウエスタンブロット
グリコシル化/脱グリコシルMB−231膜の他、10A304.7およびAR36A36.11.1、IgG2aアイソタイプ、IgG2bアイソタイプ、免疫沈降MB−231膜を非還元SDS−PAGEサンプル緩衝液と合わせて、4枚の12% SDS−PAGEゲル(Bio−Rad, Mississauga, ON)に添加した。未染色分子量マーカーをレファレンスのレーンに添加した。SDS−PAGE、続いて実施例2に記載のウエスタンブロットによってメンブレンを分離させた。図3には、10304.7で免疫沈降させたMB−231膜(レーン1)、AR36A36.11.1で免疫沈降させたMB−231膜(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照で免疫沈降させたMB−231膜(レーン3)、IgG2bアイソタイプ対照で免疫沈降させたMB−231膜(レーン4)、MB−231グリコシル化膜(レーン5)、MB−231脱グリコシル化膜(レーン6)に対する10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、IgG2aアイソタイプ対照(パネルC)、IgG2bアイソタイプ対照(パネルD)の結合を示している。パネルAとBでは全てレーンで結合が同一であり、AR36A36.11.1と10A304.7が同じ抗原を識別することを示している。10A304.7およびAR36A36.11.1で免疫沈降させたMB−231膜(レーン1、2)の20kDa領域における大きなスミアは、10A304.7およびAR36A36.11.1をプローブとして用いた場合にのみ現われ(パネルA、B)、アイソタイプ対照をプローブとして用いた場合には現れず(パネルC、D)、この領域における結合が機能的抗体に特異的であることを示している。MB−231膜をアイソタイプ対照(レーン3、4)と免疫沈降させた場合、20kDa領域において反応が認められず、抗原に対する機能的抗体の特異性をさらに示している。10A304.7およびAR36A36.11.1のいずれも、グリコシル化MB−231膜(レーン5)の20 kDa領域の二重バンドに結合する。膜を脱グリコシル化した場合に反応のシフトが認められ(レーン6)、抗原はグリコシル化を受けるが、炭水化物基が抗原結合に必須ではないことを示している。
【0124】
実施例4
10A304.7およびAR36A36.11.1が結合する抗原の同定
【0125】
1.免疫沈降
AR36A36.11.1が結合した抗原は、免疫沈降によってMB−231細胞から単離した。実施例3に従い、適宜スケールアップさせて、1mLのProtein G Sepharose(Amersham Bioscience, Baie d’Urfe, QC)を2mgの抗体と架橋させた。AR36A36.11.1と8A3B.6の両方を架橋させた。
【0126】
10mLのRIPA緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1% NP−40、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、2 mM オルトバナジン酸ナトリウム、1Xプロテアーゼ阻害剤混合液)で10 mgのMB−231を希釈させた。3 mLのSepharose 4B(Sigma, Oakville, ON)を添加して、転倒混和させながら、4℃で2時間インキュベートさせた。転倒混和させながら、4℃で2時間、4℃の0.1 M NaH2PO4(pH7.4)で希釈した0.5 mg/mL BSAと60μLの抗体結合ビーズを同時にインキュベーションさせた。抗体結合ビーズをRIPA緩衝液で2回洗い、水分を捨てた。免疫沈降において、事前に余分なものを除去したMB−231膜をSepharose 4Bビーズから除いて、8A3B.6結合ビーズに加えて、転倒混和させながら4℃で2時間インキュベーションさせた。アイソタイプ対照とのインキュベーション後、希釈させた膜調製物を転倒混和させながら4℃で2時間AR36A36.11.1結合ビーズとインキュベーションさせた。両方のビーズを緩衝液で2回、PBSで1回洗った。
【0127】
2.SDS−PAGE
免疫沈降させたビーズを30μLのSDS−PAGEサンプル緩衝液に再浮遊させて、3分間沸騰させて、室温まで冷ました。21μLのサンプルを12% SDS−PAGEゲル(Bio−Rad, Mississauga, ON)の1つのレーンに、残りの7μLを別のレーンに添加した。タンパク質スタンダードおよび事前に染色した分子量マーカー(Invitrogen, Burlington, ON)もゲルに含めた。100Vで10分間、次に、染料の先端がゲルから流れ出るまで150Vでゲルを泳動させた。事前に染色した分子量マーカーを添加したレーンに沿ってゲルをカットした。実施例2に開示したプロトコルに従って、21μLを添加したゲルの一部をColloidal Blueで染色させて、ゲルの他の一部はAR36A36.11.1を用いたウエスタンブロッティング用PVDFメンブレンにトランスファーさせた。
【0128】
メーカーの説明書に従って、Colloidal Blue染色試薬(Invitrogen, Burlington, ON)を調製して、ゲルを室温の染色液中で撹拌させながらオーバーナイトでインキュベートさせた。ゲルを水中で2時間インキュベートさせて、バックグラウンドの染色液を取り除いた。図4は、AR36A36.11.1で免疫沈降させたMB−231膜(レーン1)および8A3B.6 IgG2aアイソタイプ対照で免疫沈降させたMB−231膜(レーン2)を示している。染色したゲル上の20kDaの薄い二本のバンド(パネルA、レーン1)は、ウエスタンブロットで認められる反応に対応している(パネルB、レーン1)。これらの2本のバンドは、レーン2のゲルの領域およびタンパク質を添加しなかったバックグラウンド対照の領域と一緒に、滅菌ガラスパスツールピペットを使用して染色ゲルから抽出した。
【0129】
3.質量分析
抽出したゲル小片は、In−Gel Tryptic Digestion kit(Pierce, Rockford, IL)を使用して消化させた。CHCAマトリックスを使用して、各サンプルの一部をH4 ProteinChip Array(Ciphergen, Freemont, CA)にスポットした。ProteinChip Software(Ciphergen)を使用して、Ciphergen SELDI /MSでアレイチップを分析した。AR36A36.11.1免疫沈降反応での下二本のバンド固有のペプチドピークは1540.6 Da、1649.6 Da、1741.6 Da、1778.1 Da、2015.2 Daであった。ProFoundペプチドマッピングデータベース(Rockefeller University)を利用して、CD59がこれらのペプチドの供給源として同定される確率は1.00、推定Z値は1.92であった。CD59には1539.6 Da、1648.6 Da、2014.1 Daのペプチドが含まれる。
【0130】
4.確認
AR36A36.11.1と10A304.7によって識別される抗原がCD59であることを確認するために、MB−231膜を市販の研究用抗CD59抗体と交差免疫沈降させた。実施例3に記載の通り、マウス抗ヒトCD59であるクローンMEM−43(IgG2a)(Serotec, Raleigh, NC)50μgを25μLのプロテインGセファロースビーズと架橋させた。実施例3に記載の通り、抗CD59、AR36A36.11.1、8A3B.6 IgG2aアイソタイプ対照に結合させたビーズ25μLで150μg X 3のMB−231膜を免疫沈降させた。ビーズを45μLのPBSに再浮遊させて、次に15μLのSDS−PAGEサンプル緩衝液を加えて、サンプルは3分間沸騰させた。室温まで冷ました後、サンプルを4〜20% SDS−PAGEゲル(Bio−Rad, Mississauga, ON)の1ウェル毎に15μLのサンプルを添加した。前記の通りに電気泳動およびウエスタンブロットを実施した。5%スキムミルクに希釈させた3.33μg/mLの抗CD59 (MEM−43)、5μg/mLのAR36A36.11.1、5μg/mLの10A304.7、5μg/mLの8A3B.6 IgG2aアイソタイプ対照とメンブレンを2時間インキュベーションさせた。図5は、10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、パネルC)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、パネルD)をプローブに用いた、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、レーン3)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロットを示している。アイソタイプ対照(パネルD)をプローブに用いたメンブレンの場合、高分子量の領域において反応が現れたため、バックグラウンドと見なした。10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、抗CD59(パネルC)でインキュベートさせたブロットは、全3レーンにおいて染色が同じであり、低分子量バンドがAR36A36.11.1と抗CD59で免疫沈降させたメンブレンと特異的に反応している。これによって、10A304.7およびAR36A36.11.1によって識別される抗原がCD59であることが確認される。
【0131】
実施例5
正常ヒト組織の染色
IHC試験を実施して、ヒトにおける10A304.7およびAR36A36.11.1抗原の分布を特性付けした。更なる実験の条件を決定するために、IHC最適化試験が先に実施された。
【0132】
組織切片を58℃のオーブン内で1時間乾燥させることで脱パラフィン処理して、Coplin jar内のキシレンに4分間5回浸すことでワックス除去した。一連の段階的エタノール洗浄(100%〜75%)による処理後、水中で切片を再水和させた。次にスライドを10mM クエン酸緩衝液(pH6)(Dako, Toronto, Ontario)に浸して、高、中、低出力に設定したマイクロ波に5分間かけて、最後に冷PBS中に浸した。次にスライドを3%過酸化水素水溶液に6分間浸して、PBSで5分間3回洗い、乾燥させて、室温のUniversal blocking solution(Dako, Toronto, Ontario)中で5分間インキュベーションさせた。10A304.7およびAR36A36.11.1、モノクローナルマウス抗ビメンチン(Dako, Toronto, Ontario)、またはアイソタイプ対照抗体(哺乳動物の組織においては存在しない、または誘導されない酵素であるアスペルギルスニガーグルコース酸化酵素、Dako, Toronto, Ontario)を抗体希釈緩衝液(Dako, Toronto, Ontario)中で作業濃度(各抗体5μg/mL)にまで希釈させて、室温で1時間インキュベーションさせた。スライドをPBSで5分間3回洗った。HRP結合二次抗体(Dako Envision System, Toronto, Ontario)を用いて、室温で30分間、一次抗体の免疫反応を検出/可視化させた。この段階の後、スライドをPBSで5分間3回洗い、免疫ペルオキシダーゼ染色用DAB(3,3’−diaminobenzidine tetrahydrachloride、Dako, Toronto, Ontario)発色基質溶液を添加して、室温で10分間、発色反応を起こさせた。スライドを水道水で洗って、発色反応を終わらせた。Meyer’s Hematoxylin(Sigma Diagnostics, Oakville, ON)での対比染色後、、スライドを段階的エタノール(75〜100%)で脱水させて、キシレンで不要物を除去した。封入剤(Dako Faramount, Toronto, Ontario)を用いてスライドにカバーガラスを付けた。Axiovert 200(Ziess Canada, Toronto, ON)を用いてスライドを顕微鏡検査して、デジタル画像を撮影して、Northern Eclipse Imaging Software(Mississauga, ON)を用いて保存した。組織病理学者が結果を読み取り、得点化し、解釈した。
【0133】
ヒト正常臓器組織アレイ(Imgenex, San Diego, CA)を用いて59の正常ヒト組織へ抗体を結合させた。図6は、正常ヒト組織のアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1染色の結果を示している。AR36A36.11.1抗体は、主に、上皮組織(様々な臓器の血管内皮、皮膚および扁桃腺の扁平上皮、乳管上皮、鼻粘膜上皮、だ液腺の腺上皮および管上皮、肝臓の胆管上皮、膵臓の腺上皮およびランゲルハンス島、膀胱の粘膜上皮、前立腺の腺上皮に結合した。10A304.7抗体は、脾臓のリンパ球および好中球、末梢神経繊維、血管の平滑筋繊維、精巣のライディヒ細胞、胎盤の栄養膜組織への結合を示した。細胞は細胞質と膜に局在しており、広範な染色パターンを伴った。抗体は、主に、上皮組織(皮膚の脂線、乳管上皮、鼻粘膜、だ液腺の腺上皮および管上皮、血管内皮、膀胱の粘膜上皮、前立腺の腺上皮および筋上皮)に結合した。抗体は平滑筋繊維や栄養膜胎盤組織への結合も示した。10A304.7は、AR36A36.11.1との結合を示したヒト正常組織のサブグループに結合した(図7)。10A304.7およびAR36A36.11.1抗体は、過去に抗CD59抗体について報告された結合と一致するヒト組織への結合を示した。したがって、10A304.7およびAR36A36.11.1抗体は、ヒトでの使用に適用できる。
【0134】
実施例6
ヒト腫瘍組織の染色
10A304.7または36A36.11.1抗原がヒト腫瘍組織において発現しているか否かを判定するために、複数のヒト腫瘍組織アレイ(Imgenex, San Diego, CA)で抗体を個別に試験した。各患者について以下の情報を与えた:年齢、性別、器官、診断。利用した染色方法は、実施例5で開示した染色方法と同じであった。ヒト正常組織アレイについて記載されている通り、同じ陽性/陰性対照抗体を使用した。全ての抗体を作業濃度5μg/mLで使用した。
【0135】
図8に開示されている通り、試験した腫瘍の17/54(32%)にAR36A36.11.1抗体は結合した。抗体の結合は、2/17の腫瘍で強く、2/17で中程度、4/17で弱く、そして9/17で判定不能であった。腫瘍細胞および間質血管で組織特異性が認められた。細胞は膜と細胞質に局在しており、広範な染色パターンを伴った。試験した腫瘍の9/54(17%)に10A304.7抗体が結合した。抗体の結合は、4/54で中程度、2/54で弱く、そして3/54で判定不能であり、試験したいずれの腫瘍でも強い結合は認められなかった。腫瘍細胞および間質血管で組織特異性が認められた。細胞は膜と細胞質に局在しており、広範な染色パターンを伴った。正常ヒト組織と同様に、10A304.7抗体は、AR36A36.11.1が結合した腫瘍のサブグループに結合した。
【0136】
したがって、10A304.7およびAR36A36.11.1抗原が様々な腫瘍種の膜に局在していることが示された。これらの結果は、10A304.7とAR36A36.11.1抗体が、限定はされないが、皮膚癌、肝臓癌(図9)、膵臓癌を含む多種類の癌における治療薬としての可能性を持つことを示唆している。
【0137】
実施例7
ヒト肝臓腫瘍組織の染色
10A304.7がヒト腫瘍組織に結合するか否かをさらに評価するために、肝臓腫瘍組織アレイ(Imgenex, San Diego, CA)で抗体を試験した。各患者について以下の情報を与えた:年齢、性別、器官、診断。利用した染色方法は、実施例5で開示した染色方法と同じであった。ヒト正常組織アレイにおいて記載されている通り、同じ陰性対照抗体を使用した。使用した陽性対照抗体は、抗AFP(α1フェトプロテイン、クローンAFP−11Abcam, Cambridge, MA)であった。作業濃度10μg/mLで使用した抗AFPを除き、全ての抗体を作業濃度5μg/mLで使用した。
【0138】
図10に開示されている通り、10A304.7については、10/49(20%)の肝臓癌の切片に結合し、主に原発性肝細胞癌に結合していることが示された。原発性胆管癌および転移性胆管癌のいずれも抗体との50%の結合を示した。腫瘍細胞および血管内皮で組織特異性が認められた。抗体の結合と腫瘍の病期との間に関係は認められなかった。抗体は1/9の非腫瘍性肝臓組織の切片に対する弱い結合を示し、小血管の内皮に限定されなかった(図11)。10A304.7抗原は、肝臓腫瘍組織において特異的に発現していると考えられる。したがって、10A304.7は肝臓癌の治療における治療薬としての可能性を持っている。
【0139】
証拠の優勢から、10A304.7とAR36A36.11.1はCD59に存在するエピトープのライゲーションを通じて抗腫瘍効果を媒介することが示されている。実施例2〜4において、10A304.7およびAR36A36.11.1抗体を使用して、MDA−MB−231細胞などの発現細胞から同種抗原を免疫沈降できることが示されている。さらに、限定はされないが、FACS、細胞ELISA、IHCによって例示される方法を利用して、CD59抗原部分を発現し、CD59抗原部分に特異的に結合する細胞および/または組織の検出において10A304.7およびAR36A36.11.1抗体を使用可能であることを示すことができた。
【0140】
このように、免疫沈降させた10A304.7およびAR36A36.11.1抗原は、FACS、細胞ELISA、IHCアッセイを利用して、これらの細胞または組織への抗体の結合を抑制可能であることを示すことができた。さらに、10A304.7およびAR36A36.11.1抗体の場合と同様、他の抗CD59抗体を使用して、他の形状のCD59抗原を免疫沈降、単離させることが可能であり、同じ種類のアッセイを利用して、抗原を発現する細胞または組織へのこれらの抗体の結合を抑制するために抗原を使用することもできる。
【0141】
本明細書に記載の全ての特許および出版物は、本発明の当業者の水準を示している。全ての特許および出版物は、各出版物が具体的かつ個別に示されて、参照により本明細書に組み入れられるかのように、同程度に参照により本明細書に組み入れられる。
【0142】
特定の形の発明を例示しており、本明細書に記載し、示している部分の特定の形や配置に限定されないことを理解する必要がある。本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を施すことができ、本明細書に示し、記載したものに本発明が限定されないことは、当業者には明らかである。本発明が目的を実行して、本発明に本来備わっている目的や利点の他、記載の目的や利点を達成するために十分に適用されることを当業者であれば容易に理解しうる。本明細書に記載の任意のオリゴヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、生物学的に関連する化合物、方法、手順、技術は、ここでは好ましい態様を示しており、例示を意図しており、範囲を制限することを意図していない。本明細書における変更および他の用途は、当業者が考え付くものであり、本発明の精神に含まれ、添付の請求項の範囲によって定義される。本発明は特定の好ましい態様に関連して記載しているが、主張の通り、本発明はこれらの特定の態様に限定されないことを理解する必要がある。実際に、当業者には明らかな本発明の実施方法に関する様々な改変が、以下の請求の範囲に含まれることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】細胞毒性アッセイにおける10A304.7対陽性/陰性対照の比較。
【図2】AR36A36.11.1(パネルA)および10A304.7(パネルB)をプローブに用いたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロット。分子量マーカーを左に示している。
【図3】10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、IgG2aアイソタイプ対照(8A304.7、パネルC)、IgG2bアイソタイプ対照(8B1B.1、パネルD)をプローブに用いたウエスタンブロット。レーン1〜4は、10A304.7(レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A304.7、レーン3)、IgG2bアイソタイプ対照(8B1B.1、レーン4)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜である。レーン5はMDA−MB−231膜タンパク質であり、レーン6はシアリダーゼA、O−グリカナーゼ、β(1−4)ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼ、PNGaseFで脱グリコシル化させた脱グリコシル化MDA−MB−231膜タンパク質である。分子量マーカーを左に示している。
【図4】AR36A36.11.1(レーン1)およびIgG2aアイソタイプ対照(レーン2)で免疫沈降させたMDA−MB−231のコロイドブルー染色(パネルA)およびウエスタンブロット(パネルB)。分子量マーカーを左に示している。
【図5】10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、パネルC)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、パネルD)をプローブに用いた、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、レーン3)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロット。分子量マーカーを左に示している。
【図6A】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図6B】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図6C】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図7】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはAR36A36.11.1(B)または抗アクチン(C)または陰性アイソタイプ対照(D)で得られたヒト正常子宮内膜/分泌組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7では染色は陰性を示し、AR36A36.11.1は血管内皮での染色は弱陽性を示した(矢参照)。倍率は200Xである。
【図8A】様々なヒト腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図8B】様々なヒト腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図8C】様々なヒト腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図9】ヒトの複数腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはAR36A36.11.1(B)または抗アクチン(C)または陰性アイソタイプ対照(D)で得られたヒト正常子宮内膜/分泌組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7およびAR36A36.11.1では腫瘍細胞に対して染色は陽性を示した。倍率は200Xである。
【図10】ヒト肝臓腫瘍および正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7結合のまとめ。
【図11】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはアイソタイプ対照抗体(B)で得られた肝細胞癌組織、および10A304.7(C)またはアイソタイプ対照抗体(D)で得られた非腫瘍肝臓組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7では腫瘍細胞において染色は強陽性を示し、正常組織において染色は陰性を示した。倍率は200Xである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌疾患の診断および治療、特に腫瘍細胞における細胞毒性の媒介、ならびに、特に、細胞毒性反応の開始方法として、任意で1以上の化学療法剤と併用した癌疾患改善抗体(CDMAB)の使用に関する。発明は、さらに、本発明のCDMABを使用した結合アッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
CD59は、18〜20kDaのグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合膜糖タンパク質である。CD59は、ヒト赤血球表面から最初に単離され、補体活性化の阻害因子として機能する。その後、補体媒介性の溶解性を高めるために開発された数種の抗体の標的がCD59であることが発見された。これらの抗体が独立して開発されたため、MEM−43抗原、反応性細胞融解の膜阻害因子(MIRL)、H19、膜攻撃複合体抑制因子(MACIF)、分子量20,000のホモロガス制限因子(HRF20)、プロテクティン(Walsh, Tone et al.1992)など、CD59には複数の名称がつけられている。
【0003】
CD59抗原は、アミノ酸解析およびNMRによって十分に特性付けされている。CD59抗原は、128個のアミノ酸から成り、最初の25個がシグナル配列を構成する。10個のシステイン残基が存在し、強固に折り畳まれた分子をもたらす。18番目の位置のアスパラギン残基はN−グリコシル化されることが判明しており、77番目の位置のアスパラギン残基はGPIアンカーに連結されている。C末端残基は、GPI結合タンパク質の特徴である(Davies and Lachmann 1993)。
【0004】
CD59は、ヒトの赤血球表面において最初に発見されたが、広く発現している分子である。フローサイトメトリー、免疫組織化学、ノーザンブロット解析からの細胞分布に関する多数のデータによって、赤血球の他、血小板、白血球、線維芽細胞などの造血細胞を含む多種類の細胞や組織における発現が明らかになっている(Meri, Waldmann et al.1991)。CD59は、体全体、特に腎臓、気管支、膵臓、皮膚表皮、胆管、だ液腺の血管や管内皮に多量に存在する(Meri, Waldmann et al.1991)。発現は、肺、肝臓、胎盤、甲状腺、精子において認められている(Davies and Lachmann 1993)。可溶性CD59が、だ液、尿、涙、汗、髄液、母乳、羊水、精漿において検出されている(Davies and Lachmann 1993)。可溶性CD59の起源は依然として特定されておらず、可溶性CD59が分泌されて、ホスホリパーゼによって切断されるのか、または別の方法によって細胞から流出するのかは依然として不明である(Davies and Lachmann 1993)。CD59は、多くのB細胞株、中枢神経系組織、肝実質、膵ランゲルハンス島には存在しないと考えられる(Meri, Waldmann et al.1991)。
【0005】
CD59は正常な細胞や組織において広く発現しているが、CD59は悪性腫瘍においても広く発現している。正常組織と比較して、特定種の癌においてはCD59発現が上昇しており、発現レベルは腫瘍の分化段階と相関しているとの証拠がある。悪性神経膠腫、白血病、リンパ腫の他、甲状腺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、胃癌、腎臓癌、皮膚癌において中程度から高レベルのCD59発現が報告されている(Fishelson、Donin et al.2003)。
【0006】
CD59によって補体活性化後の膜攻撃複合体(MAC)の形成が抑制されることが知られている。MAC形成は、補体カスケードの最終事象の1つであり、細胞膜に孔を開けて、最終的には細胞を破壊する。CD59はC5b−8に結合して、その後のC9分子の重合およびMAC形成を妨げる。補体受容体1型(CR1、CD35)、膜補因子タンパク質(MCP、CD46)、分解促進因子(DAF、CD55)などの他の補体抑制性タンパク質は、補体カスケードにおいてより早い時期に作用する。補体活性化は、標的細胞の破壊または細胞の活性化をもたらし、これによって白血球が集まり、周囲の平滑筋が縮小して、血管透過性が高まる。
補体活性化は、抗体依存性の細胞毒性(ADCC)および補体依存性の細胞毒性(CDCC)においても役割を果たす。補体活性化は、調節が不十分な場合、標的組織に損傷を与えうる炎症反応を招く。CD59および他の補体抑制性タンパク質によって、補体カスケードの活性化による自己組織傷害が防がれる。CD59などの補体抑制性タンパク質の過剰発現が、悪性腫瘍が獲得することの多い補体活性化に対する耐性亢進の一因となりうると仮定されている(Jarvis, Li et al.1997)。この場合、補体抑制性タンパク質に対するモノクローナル抗体による治療によって、この耐性を克服可能であり、免疫療法や他の治療に対する腫瘍の反応性が高まる。
【0007】
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は造血性幹細胞に影響を与える稀な遺伝性疾患であり、補体攻撃に対する感受性が異常に高まった細胞が生じる(Davies and Lachmann 1993)。症状としては、慢性溶血、貧血、血栓症が挙げられる(Sugita and Masuho 1995)。赤血球、顆粒球、単球、血小板、場合によってはリンパ球など、PNHの影響を受ける細胞は、GPI結合タンパク質を欠損している(Davies and Lachmann 1993)。罹患細胞では、アセチルコリンエステラーゼ、LFA−3、HUPAR、補体制御因子タンパク質CD35、CD46、CD55、CD59が欠損している(Davies and Lachmann 1993)。CD59発現が完全に欠けているが、他の補体制御GPI結合タンパク質のいずれの発現も欠けていない1症例が報告されている。この欠損は、溶血性貧血や血栓症などのPNH様症状と関連している(Davies and Lachmann 1993)。CD59機能欠損と関連する望ましくない作用があるが、完全な喪失が致命的ではないことがこの個人によって証明されている。癌治療の困難な仕事に直面している場合、溶血の副作用は克服すべき許容可能な障害である。
【0008】
CD59遺伝子の1つをノックアウトしたマウスモデルにおいても、CD59欠損がインビボにおいて致命的ではないことが証明されている。マウスにおいては2つの型のCD59(CD59aおよびCD59b)が発現している。CD59aは血液細胞などの様々なマウス組織で発現しているが、CD59b発現は精巣でのみ確認されている。Miwaらは、インビボでの自然発生的な補体攻撃から赤血球を保護するためのCD59の役割を評価するためにCD59a欠損マウスを作成した。彼らは、ノックアウトマウスが発育して、溶血性貧血の徴候もなく正常に生存し、ヘモグロビン濃度の有意な上昇は認められないと報告した。コブラ毒因子(CVF)の注射によって誘発させた補体攻撃に対して赤血球の感受性が高まるにもかかわらず、野生型と比較して、自然発生的な補体攻撃による赤血球排除が有意に高まることはなかった(Miwa, Zhou et al.2002)。
【0009】
ラット抑制性タンパク質(RIP)と呼ばれる21kDaの膜糖タンパク質がラットにおいて同定されている。RIPはC5b−8段階以降のMAC集合を抑制して、ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼCによってラット赤血球から放出される。N端末配列とともに、これらの因子は、RIPがヒトCD59のラットホモログであることを示唆している。ラットRIPに対するマウスのモノクローナル抗体である6D1のF(ab’)2断片を雄のウィスター系ラット群に投与した。同じ試験において、ラットの異なる膜結合補体調節タンパク質に対する抗体である5I2の断片も投与した。6D1断片の注入後、心拍数や血圧に変化は認められなかった。心臓、肺、肝臓において断片結合が検出された。唯一の観察された影響は、白血球数のわずかな増加と赤血球数の減少であり、血小板数に変化は認められなかった。対照的に、5I2断片を注入することで、注入後2時間までに、血圧が急上昇し、白血球と血小板が急減し、赤血球数が断続的に上昇した(Matsuo, Ichida et al.1994)。
【0010】
キメラモノクローナル抗体であるRituximab(Rituxan, Genentech, San Francisco, CA)は、CD20抗原に対するものであり、非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療における使用が認められている。多くのCD20+患者が治療に反応せず、また反応する大半の患者が最終的には治療に耐性となる。この耐性を克服する取り組みでは、CDCCを増やすための抗CD59抗体の使用について研究されてきた。補体の存在下においてRituxan治療に対して耐性であるNHLおよびMM細胞株はインビトロでCD59を発現するが、同じ治療に感受性のNHLおよびMM細胞株はCD59を発現しない。耐性細胞株の1つを抗CD59抗体(YTH53.1)とプレインキュベーションさせることで、Rituximabとヒトの補体での治療に対する細胞の感受性が高まった。CD20+であるが、Rituximab治療で疾患が進行した患者から分離した腫瘍においても高いCD59発現レベルが認められている(Treon, Emmanouilides et al.2005)。
【0011】
三次元極小腫瘍球状体(MTS)を使用して、乳癌(T47D)および卵巣奇形腫(PA−1)においてインビトロでのCD59抗体YTH53.1の活性を評価した。MTSは培養において増殖させた多細胞の凝集体であり、単層培養物や浮遊液培養物よりもインビボで認められる凝集体に近いモデルを示している。このグループによる過去の研究では、MTSとして増殖させたPA−1細胞が浮遊培養させたPA−1細胞よりも補体による溶解により耐性であることが示されていた。この耐性が克服できたか否かを評価するために、クロム放出アッセイによって細胞毒性を測定し、ビオチン化YTH53.1によるMTSの前処理後のヨウ化プロピジウム(PI)の取り込みによって細胞傷害を可視化させた。抗体はビオチン標識CD59に対する親和性を保持していたが、古典的補体経路の活性化能を喪失していた。乳癌細胞(S2)に対して作成したウサギの抗ヒトポリクローナル抗体が使用して、古典的経路を活性化させた。オーバーナイトでのYTH53.1とのインキュベーションによってMTSが完全に浸潤し、クロム放出アッセイによってYTH53.1、S2、ヒト補体の存在下での1〜2時間の誘導期後に33%の細胞が殺されることが示された。電子顕微鏡検査法によって、YTH53.1、S2、ヒト補体とのインキュベーション後にT47D腫瘍の平均容積が28%減少したことが明らかになった。PIインキュベーション後の螢光顕微鏡検査法によって、YTH53.1、S2、ヒト補体とのインキュベーション後、T47D、PA−1、MTSにおいていくつかの死んだ細胞層が明らかになった。これらの結果をまとめると、抗CD59抗体によってインビトロでの腫瘍細胞の補体媒介性溶解を促進できることが示されている(Hakulinen and Meri 1998)。
【0012】
別のグループは、ヒトの転移性前立腺腺癌細胞株DU145およびPC3の補体媒介性溶解に対する耐性が、CD59抗体YTH53.1で処理することでインビトロで克服できることを見出した。クロム放出アッセイは、YTH53.1とビオチン化YTH53.1の存在下、非存在下における細胞死の測定に利用した。CD59抗体の非存在下では、いずれの細胞株も補体媒介性溶解に対して完全に耐性であった。YTH53.1処理では、PC3細胞の56%、DU145細胞の34%の殺傷によって、この耐性が克服された。ビオチン化YTH53.1処理では、耐性克服の程度は低かった、PC3の47%、DU145細胞の20%が殺傷された。DU145との比較で、PC3の感受性の増大は、PC3によるCD59発現の増加に起因すると考えられる。ビオチン化抗体は恐らくは古典的経路(Jarvis, Li et al.1997)を活性化しないため、天然抗体とビオチン化抗体との効果の差は、補体の古典的経路の活性化とCD59の中和の複合的な結果を実証している。古典的経路による補体活性化を加えることで、活性が限界量しか増大されないため(例、PC3細胞においてビオチン化YTH53.1での47%に対してYTH53.1で56%)、抗体活性の大部分は補体抑制の遮断に起因すると考えられる(Jarvis, Li et al.1997)。今日まで抗CD59抗体であるYTH53.1のインビボ分析はない。インビボの前臨床癌モデルにおける治療効果を示す抗CD59抗体に関する報告はない。
【0013】
癌治療としてのモノクローナル抗体:癌を示す各個人は他者とは異なり、個人識別と同様に他の癌とは異なる癌を持つ。これにもかかわらず、現在の治療法では、癌の病期および種類が同じ患者は同じ方法で治療している。これらの患者の少なくとも30%が一次治療で失敗するため、治療をさらに繰り返すことになり、治療の失敗、転移、最終的には死の可能性が高まる優れた治療法は、特定の個人に対するオーダーメイド治療であろう。オーダーメイドに適する現行の唯一の治療法は外科手術である。化学療法および放射線治療を患者に対して個別化することはできず、外科手術自体は、たいていの場合、治癒をもたらすには不十分である。
【0014】
モノクローナル抗体の出現によって、各抗体が一つのエピトープを標的にしているため、オーダーメイド治療の開発方法の可能性はいっそう現実的になった。さらに、特定の個人の腫瘍を特異的に特徴付ける一連のエピトープを標的とする抗体の組み合わせを作成できる。
【0015】
癌細胞と正常細胞との有意差を識別することは、癌細胞に形質転換細胞に特異的な抗原が含まれることであり、科学界では、これらの癌抗原に特異的に結合する形質転換細胞を特異的に標的とするようにモノクローナル抗体を設計できると長い間考えられているため、モノクローナル抗体は癌細胞排除するための「特効薬」としての役割を果たすことができると考えられている。しかし、1種のモノクローナル抗体が全ての癌症例において有用となるわけではなく、クラス、標的癌治療としてモノクローナル抗体を配置できることが現在広く認識されている。開示している本発明の教示に従って単離したモノクローナル抗体は、例えば、全身腫瘍組織量の減少など、患者に有益となるように癌疾患の経過を改善することが示されており、癌疾患改善抗体(CDMAB)または「抗癌」抗体など様々に呼ばれうる。
【0016】
現在、癌患者に治療の選択肢がほとんどないのが通例である。癌治療への管理アプローチは全生存率および全罹患率を改善させた。しかし、特定の個人に対して、これらの改善された統計データは、それらの各人の状況における改善とは必ずしも相関していない。
【0017】
このように、同じコホート内の他の患者の各腫瘍を医師が個別に治療できる方法論が出される場合、これによって1個人のみに対するオーダーメイド治療の個別アプローチが可能になりうる。このような治療経過によって、理想的には、治癒率が向上し、より良好な転帰がもたらされて、長年にわたる要求が満たされうる。
【0018】
歴史的には、ヒトの癌治療においてポリクローナル抗体の使用による成功例はわずかである。リンパ腫および白血病はヒト血漿で治療されてきたが、長期にわたる鎮静や反応はほとんど認められなかった。さらに、再現性に欠けており、また化学療法と比較してさらなる利益はなかった。乳癌、黒色腫、腎細胞癌などの固形腫瘍は、ヒトの血液、チンパンジー血清、ヒト血漿、ウマ血清でも治療されてきたが、対応する結果は予測不可能で効果は認められていない。
【0019】
固形腫瘍に対するモノクローナル抗体については多くの臨床試験が行なわれてきた。1980年代には、少なくとも4例のヒト乳癌における臨床試験が行なわれており、ここでは、特定の抗原に対する抗体を使用して、もしくは組織選択性に基づき、少なくとも47人の患者において反応者が1例しか認められなかった。1998年にヒト化抗Her2/neu抗体(Herceptin(登録商標))とシスプラチンとの併用を利用した臨床試験に初成功した。この試験では、患者37例において反応を評価しており、その内の約4分の1が部分的に反応し、別の4分の1において疾患の軽微な、または安定した進行が認められた。反応者における進行までの期間の中央値は8.4ヶ月間で、反応持続期間の中央値は5.3カ月であった。
【0020】
Herceptin(登録商標)はTAXOL(登録商標)との併用で第一選択薬として1998年に承認された。臨床試験の結果では、TAXOL(登録商標)単剤投与群(3.0カ月)との比較で、TAXOL(登録商標)を併用した抗体療法(6.9カ月)を受けた人において病気進行までの期間の中央値の延長が認められた。生存期間のわずかな延長も認められた、Herceptin(登録商標)+Taxol(登録商標)治療群対Taxol(登録商標)単剤治療群=22ヶ月:18ヶ月。また、TAXOL(登録商標)との比較で、抗体+TAXOL(登録商標)の併用群における完全寛解患者と部分寛解のいずれの患者数も増加していた(それぞれ8%対2%、34%対15%)。しかし、Herceptin(登録商標)+TAXOL(登録商標)治療では、TAXOLR単剤治療との比較で、心毒性の発生率が高まった(13%対1%)。また、Herceptin(登録商標)治療は、現在、その機能や生物学的に重要なリガンドが不明である受容体、ヒト上皮増殖因子受容体(Her2/neu)を過剰発現する患者(免疫組織化学(IHC)解析により測定)においてのみ効果的である(転移性乳癌を持つ患者の約25%)。したがって、乳癌患者での必要性は依然ほとんど満たされていない。Herceptin(登録商標)治療から利益を得ることができる患者でさえやはり化学療法が必要であり、結果的に、依然として、少なくともある程度はこの種の治療による副作用に対処する必要がある。
【0021】
結腸直腸癌を調査する臨床試験では、糖タンパク質と糖脂質の両方を標的とする抗体が含まれる。腺癌にある程度の特異性を有する17−1 Aなどの抗体は、患者60例以上における第2相臨床試験を受ける。他の試験では、17−1 Aの使用によって、シクロホスファミドを追加使用したプロトコルでの患者52例において完全寛解が1例、そして軽微な反応が2例認められた。今日まで、17−1 Aに関する第3相臨床試験において、ステージIII結腸癌に対するアジュバント治療と同様の有効性の改善は実証されていない。撮像用に初めて承認されたヒト化マウスモノクローナル抗体を使用した場合でも腫瘍は退縮しなかった。
【0022】
ごく最近になって、モノクローナル抗体を使用した結腸直腸癌の臨床的試験において陽性結果が得られている。2004年、イリノテカン化学療法に難治性である、EGFRを発現している転移性結腸直腸癌患者の二次治療にERBITUX(登録商標)が承認された。第2相試験(2治療群)および1治療群での試験の結果において、イリノテカンと併用したERBITUX(登録商標)での奏功率はそれぞれ23%、15%であり、疾患進行までの期間の中央値はそれぞれ4.1ヶ月間、6.5ヶ月間であった。第2相試験(2治療群)および1治療群での別の試験の結果において、ERBITUX(登録商標)での奏功率はそれぞれ11%、9%であり、疾患進行までの期間の中央値はそれぞれ1.5ヶ月間、4.2ヶ月間であった。
【0023】
結果的に、スイスおよび米国の両国では、イリノテカンとの併用でのERBITUX(登録商標)治療、米国では、ERBITUX(登録商標)単剤治療が、一次治療であるイリノテカン治療に失敗した直腸癌患者における二次治療として承認されている。したがって、Herceptin(登録商標)と同様に、スイスではモノクローナル抗体と化学療法の併用治療のみが承認されている。また、スイスおよび米国では、患者に対する治療は二次治療としてのみ承認されている。また、2004年には、転移性結腸直腸癌の一次治療として5−フルオロウラシル静注化学療法との併用でAVASTIN(登録商標)が承認された。第3相臨床試験の結果では、AVASTIN(登録商標)+5−フルオロウラシルで治療した患者の生存期間の中央値の延長が実証された(20ヶ月間対16ヶ月間)。一方、ここでもHerceptin(登録商標)およびERBITUX(登録商標)と同様に、モノクローナル抗体と化学療法の併用としてのみ治療は承認されている。
【0024】
また、肺癌、脳腫瘍、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、胃癌については好ましくない結果が続く。非小細胞肺癌における最も有望な最近の結果は、第3相臨床試験から出されており、この試験では、化学療法薬Taxotereと併用した殺細胞薬ドキソルビシン結合モノクローナル抗体(SGN−15; dox−BR96, anti−Sialyl−LeX)が治療に含まれる。タキソテールは、肺癌の二次治療用にFDAが承認した唯一の化学療法薬である。初期データにおいては、タキソテール単剤と比較して、全生存率の改善が示されている。試験のために募集された患者62例中3分の2がタキソテールとの併用でSGN−15を服用し(併用投与)、残りの3分の1がタキソテール単剤を服用した。タキソテール単剤での5.9ヶ月間と比較して、タキソテールとの併用でSGN−15を服用した患者での全生存期間の中央値は7.3ヶ月間であった。1年目、18ヶ月目の全生存率は、タキソテールとの併用でSGN−15を服用した患者ではそれぞれ29%、18%、タキソテール単剤を服用した患者では24%、8%であった。さらなる臨床試験が計画されている。
【0025】
前臨床においては、黒色腫に対するモノクローナル抗体の使用で限られた一定の成功を収めている。これらの抗体のごく少数しか臨床試験まで進んでおらず、今日までいずれも承認されておらず、第3相臨床試験において好ましい結果は示されていない。
【0026】
明らかに発病の一因となる既知の遺伝子30,000種の産物中、関与する標的が同定されていないために疾患を治療するための新薬の発見が遅れている。癌研究において、潜在的な薬剤標的は、それらが腫瘍細胞中で過剰発現しているという事実のみを理由に選択される場合が多い。次に、このようにして同定した標的を複数の化合物との相互作用でスクリーニングする。潜在的な抗体治療の場合、これらの候補化合物は、通例、Kohler&Milsteinが定めた基本原理に従った従来のモノクローナル抗体作成方法でよって得られる(1975, Nature, 256, 495−497, Kohler and Milstein)。抗原(例、全細胞、細胞分画、精製抗原)で免疫したマウスから脾細胞を回収して、不死化させたハイブリドーマのパートナー細胞と融合させた。結果として得られるハイブリドーマをスクリーニングして、標的に最も強固に結合する抗体の分泌物で選択する。これらの方法を利用して、Herceptin(登録商標)やRITUXIMABなど、癌細胞を標的とする多くの治療/診断用抗体が作成され、親和性に基づいて選択されている。この戦略には2つの欠点がある。第一に、組織特異的な発癌過程に関する知見が不足しており、これらの標的を同定するための過剰発現による選択など、結果として得られる方法が単純なために、治療や診断での抗体結合に適当な標的の選択は制限される。第二に、受容体に最も高い親和性で結合する薬物分子が、通例、シグナルを開始または抑制する確率が最も高いという仮定は常には当てはまらない。
【0027】
乳癌および結腸癌の治療でのある程度の進歩にもかかわらず、単剤または併用で有効な抗体治療の開発は全ての種類の癌に対しては不十分であった。
【0028】
先行特許:
特許文献1には、患者の細胞または組織からクローニングしたMHC遺伝子を患者の腫瘍由来の細胞にトランスフェクションさせる過程が開示されている。次に、トランスフェクションさせたこれらの細胞を患者へのワクチン接種に使用する。
【0029】
特許文献2には、哺乳動物の腫瘍細胞または正常細胞の細胞内成分には特異的であるが、細胞外成分には特異的ではないモノクローナル抗体の入手、モノクローナル抗体の標識、標識抗体と腫瘍細胞の殺傷治療を受けた哺乳動物の組織との接触、標識抗体と変性腫瘍細胞の細胞内成分との結合測定による治療効果の判定の段階を含む過程が開示されている。ヒトの細胞内抗原を標的とする抗体の調製時において、悪性細胞がこのような抗原の便利な供給源であることを該出願人は認識している。
【0030】
特許文献3は、新規抗体およびその作成方法を提供している。具体的には、この特許においては、正常細胞への結合性がずっと低く、例えば結腸や肺などのヒトの腫瘍に関連するタンパク質抗原への強い結合特性を持つモノクローナル抗体の作成を教示している。
【0031】
特許文献4は、外科手術によるヒト癌患者からの腫瘍組織の摘出、腫瘍細胞を得るための腫瘍組織の処理、腫瘍細胞に対する、生存可能であるが、腫瘍形成能のない放射線照射、転移を同時抑制しながら一次細胞の再発を抑制可能な患者に対するワクチンの調製におけるこれらの細胞の利用を含む、癌治療方法を提供する。この特許においては、腫瘍細胞の表面抗原に反応するモノクローナル抗体の作成について教示している。col.4, lines 45 et seq.に記載の通り、該出願人はモノクローナル抗体の作成において自己腫瘍細胞を使用しており、ヒトの腫瘍における積極的な特異的免疫療法を示している。
【0032】
特許文献5では、ヒトの癌腫を特徴とするが、上皮性組織由来であることに依存しない糖タンパク質抗原について教示している。
【0033】
特許文献6には、Her2発現細胞においてアポトーシスを誘導する抗Her2抗体、抗体を産生するハイブリドーマ細胞株、抗体を使用した癌の治療方法、抗体を含む薬学的組成物について記載されている。
【0034】
特許文献7には、腫瘍や非腫瘍組織の材料から精製した粘液抗原に対するモノクローナル抗体産生用の新しいハイブリドーマ細胞株について記載されている。
【0035】
特許文献8には、所望の抗原に特異的な抗体を産生するヒトリンパ球の作成方法、つまり、モノクローナル抗体の産生方法、そしてこの方法によって産生されるモノクローナル抗体について記載されている。この特許には、癌の診断や治療に有用な抗HDヒトモノクローナル抗体の産生について特記されている。
【0036】
特許文献9は、ヒト癌細胞に反応性の抗体、抗体断片、抗体複合体、一本鎖免疫毒素に関する。これらの抗体が作用する機序は2つの要素からなり、つまり分子がヒトの癌の表面に発現している細胞膜抗原と反応する点、さらに抗体は癌細胞内に内在化されて、続いて結合可能となり、抗体‐薬物、抗体‐毒素複合体を形成する際に有用となる点である。非修飾状態では、抗体は特定濃度で細胞毒素特性も示す。
【0037】
特許文献10には、腫瘍の治療と予防のための自己抗体の使用が開示されている。しかし、この抗体は老齢の哺乳動物由来の抗細胞核自己抗体である。この場合、自己抗体は免疫系において認められる自然抗体の1種と言われている。自己抗体は「老齢の哺乳動物」に由来するため、自己抗体が治療を受ける患者に実際に由来している必要はない。また、この特許には、老齢の哺乳動物由来の天然のモノクローナル抗細胞核自己抗体、およびモノクローナル抗細胞核自己抗体を産生するハイブリドーマ細胞株について開示されている。
【0038】
特許文献11明細書には、糖尿病治療用の抗糖化CD59抗体の使用について開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,750,102号
【特許文献2】米国特許第4,861,581号
【特許文献3】米国特許第5,171,665号
【特許文献4】米国特許第5,484,596号
【特許文献5】米国特許第5,693,763号
【特許文献6】米国特許第5,783,186号
【特許文献7】米国特許第5,849,876号
【特許文献8】米国特許第5,869,268号
【特許文献9】米国特許第5,869,045号
【特許文献10】米国特許第5,780,033号
【特許文献11】米国特許出願第20050032128A1号
【発明の開示】
【0039】
本発明者らは、過去に、癌性疾患の治療において有用な個別のオーダーメイド抗腫瘍抗体の選択過程に関する米国特許第6,180,357号(表題:Individualized Patient Specific Anti−Cancer Antibodies)を与えている。タンパク質の構造物や機能に顕著な影響を及ぼすことなく、一部のアミノ酸配列のポリペプチドを様々に改変できることは、当技術分野において十分に認識されている。抗体の分子再配列において、骨格部位の核酸やアミノ酸の配列における修飾を一般に許容できる。これらには、限定はされないが、置換(好ましくは保存的置換)、欠失、付加が挙げられる。さらに、標準的な化学療法薬(例、放射性核種)を本発明のCDMABと結合させることで、前記化学療法剤の使用に重点を置くことは本発明の範囲内である。CDMABを毒素、細胞毒素成分、酵素(例、ビオチン結合酵素)、造血細胞に結合させて、抗体複合体を形成させることもできる。
【0040】
本出願では、癌性疾患改善モノクローナル抗体をコード化するハイブリドーマ細胞株を単離するために、患者357例において教示された患者に特異的な癌抗体の作成方法を利用している。これらの抗体は、1つの腫瘍に対して特異的にすることができるため、癌治療のオーダーメイドが可能になる。本請求において、以降、細胞殺傷(細胞毒素)または細胞増殖抑制(細胞分裂停止)特性を有する抗腫瘍抗体を「細胞毒性を有する」と呼ぶ。癌の病期分類や診断にこれらの抗体を使用でき、腫瘍の転移を治療するために使用できる。予防的治療による癌予防にこれらの抗体を使用できる。従来の創薬パラダイムに従って作成した抗体とは異なり、このようにして作成した抗体は過去に悪性組織の増殖および/または生存率にとって不可欠であることが示されていない分子や経路を標的にしうる。さらに、これらの抗体の結合親和性は、より強い親和性相互作用に適さない可能性のある細胞毒素事象の開始要件として適している。
【0041】
個別化された抗腫瘍治療への期待は、患者の管理方法に変化をもたらしうる。可能性が高い臨床シナリオは、提出時での腫瘍サンプルの回収、そして保存である。このサンプルによって、既存の癌性疾患改善抗体パネルから腫瘍型を決めることができる。従来、患者は病期分類されるが、患者をさらに病期分類する際に利用可能な抗体を使用できる。患者は既存の抗体で迅速に治療でき、本明細書において開示するスクリーニング方法との併用で、本明細書に記載の方法により、もしくはファージディスプレイライブラリーを使用して、腫瘍特異的抗体パネルを作成できる。治療する腫瘍と同じエピトープの一部を他の腫瘍が持つ可能性があるため、作成した全ての抗体を抗腫瘍抗体ライブラリーに添加する。この方法に従って作成した抗体は、これらの抗体に結合する癌を持つ全ての患者の癌性疾患の治療にも有用となりうる。
【0042】
抗腫瘍抗体に加えて、多様な治療計画の一部として、現在推奨されている治療を受けることを患者は選択できる。この方法論で単離した抗体については非癌性細胞に対する毒性が比較的低いという事実から、単剤または従来の治療との併用で、高用量の抗体を併用できる。高い治療指数は、治療耐性細胞の出現の可能性を低下させる短いタイムスケールでの再治療を可能にするであろう。
【0043】
患者が初回治療に難治性である、もしくは転移が発生した場合には、再治療のために腫瘍特異的抗体の作成過程を繰り返すことができる。さらに、抗腫瘍抗体は患者から入手した赤血球に結合させて、転移治療のために再注入できる。転移癌に対する効果的な治療はほとんどなく、通例、転移は死を招く不良転帰の前兆になる。一方で、通例、転移性癌においては血管新生が活発であり、赤血球による抗腫瘍抗体の送達によって、腫瘍部位での抗体の濃縮効果が認められうる。転移前でさえ、大部分の癌細胞が生存のために宿主の血液供給に依存しており、赤血球に結合させた抗腫瘍抗体はin situの腫瘍に対しても効果的となりうる。または、他の造血細胞(例、リンパ球、マクロファージ、単球、ナチュラルキラー細胞など)に抗体を結合させることができる。
【0044】
5種類の抗体が存在しており、それぞれがその重鎖によって付与される機能に関連している。裸抗体による癌細胞の殺傷は、抗体依存性の細胞毒性または補体依存性の細胞毒性によって媒介されると一般に考えられる。例えば、マウスのIgM抗体およびIgG2a抗体は、補体系のC1成分に結合することによってヒトの補体を活性化させることで、腫瘍溶解に導くことができる補体活性化の古典的経路を活性化できる。ヒト抗体では、補体活性化に最も効果的な抗体は一般にIgMとIgG1である。IgG2aアイソタイプおよびIgG3アイソタイプのマウス抗体は、単球、マクロファージ、顆粒球、および特定のリンパ球による細胞殺害に導きうるFc受容体を持つ細胞傷害性細胞を動員する際に効果的である。IgG1アイソタイプおよびIgG3アイソタイプいずれのヒト抗体もADCCを媒介する。
【0045】
抗体媒介性の癌殺傷の考えられる別の機序は、細胞膜内および関連する糖タンパク質や糖脂質において様々な化学結合の加水分解を触媒するように機能する抗体、いわゆる触媒抗体の利用を介している。
【0046】
抗体媒介性の癌細胞殺傷にはさらに3つの機序が存在する。第1は、癌細胞に存在する推定抗原に対する免疫反応を身体に誘導させるワクチンとしての抗体の使用である。第2は、増殖受容体を標的にして、それらの機能を妨げる、もしくはその機能が効果的に失われるように受容体をダウンレギュレーションさせる抗体の使用である。第3は、TRAIL R1またはTRAIL R2などの死受容体、もしくはαVβ3などのインテグリン分子のライゲーションなど、細胞死を直接招く細胞表面成分の直接ライゲーションによるこれらの抗体の作用である。
【0047】
制癌剤の臨床的有用性は、許容範囲内のリスクプロファイル下での患者に対する薬物の利益に基づいている。癌治療において、一般に最も求められる利益は延命であるが、延命の他に十分に認識された他の利益も多数存在する。治療が生存に悪影響を及ぼさない場合、これらの他の利益として、症状の軽減、有害事象に対する防御、再発までの期間や無病生存期間の延長、進行までの時間の延長が挙げられる。これらの基準が一般に受け入れられており、米食品医薬品局(FDA)などの規制機関によってこれらの利益をもたらす薬物が承認される(Hirschfeld et al. Critical Reviews in Oncology/Hematolgy 42:137−143 2002)。これらの基準に加えて、これらの種類の利益の前兆となりうる他の評価項目の存在が十分に認識されている。一部では、米国FDAが認めた早期承認過程では、患者への利益を予測しうる代用評価項目の存在を認めている。2003年末時点で、この過程により16の薬品が承認され、これらの内の4つが完全に承認された(つまり、追跡調査において代用評価項目によって予測された患者への直接の利益が実証された)。固形腫瘍における薬効を判定する際の1つの重要な評価項目は、治療に対する反応の測定による全身腫瘍組織量の評価である(Therasse et al.Journal of the National Cancer Institute 92(3):205−216 2000)。このような評価のための臨床基準(RECIST基準)は、癌の国際専門家グループSolid Tumors Working GroupのResponse Evaluation Criteriaによって公表されている。全身腫瘍組織量に及ぼす効果が実証されている薬物は、RECIST基準による客観的反応によって示される通り、適当な対照群と比較して、最終的には患者に直接の利益をもたらす傾向がある。前臨床現場においては、一般に、全身腫瘍組織量は評価や記録がより簡単である。前臨床試験を臨床現場に置き換えることができる点で、前臨床モデルにおいて生存期間を延長させる薬物の臨床的有用性が最も期待される。臨床治療に好反応をもたらすのと同様に、前臨床現場において全身腫瘍組織量を減少させる薬物も疾患に顕著な直接的影響を及ぼしうる。生存期間の延長は、制癌剤治療において最も求められる臨床転帰であるが、臨床的有用性を伴う他の利益も存在しており、疾患進行の遅延、生存期間の延長、またはこれらの両方と相関しうる全身腫瘍組織量の低下によって、直接の利益や臨床的影響ももたらすことができる(Eckhardt et al.Developmental Therapeutics: Successes and Failures of Clinical Trial Designs of Targeted Compounds; ASCO Educational Book, 39th Annual Meeting, 2003, pages 209−219)。その内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,180,357号の過程、および米国特許第6,794,494号、出願番号10/994,664、出願番号11/067,366、仮出願出願番号60/548,667に開示されている過程を実質的に利用して、ヒトの結腸(10A304.7)または前立腺(AR36A36.11.1)腫瘍組織由来の細胞でマウスを免疫後、マウスモノクローナル抗体10A304.7およびAR36A36.11.1を得た。10A304.7抗原およびAR36A36.11.1抗原を異なる組織由来の広範なヒト細胞株の細胞表面上に発現させた。乳癌細胞株MDA−MB−231(MB−231)およびMCF−7、結腸癌細胞株SW1116、前立腺癌細胞株PC−3、卵巣癌細胞株OVCAR−3は、インビトロで10A304.7の細胞毒素作用に感受性であった。前立腺癌細胞株LnCapはインビトロでのAR36A36.11.1の細胞毒素作用に感受性であった。
【0048】
インビボでの抗腫瘍活性を実証することで、インビトロでの乳癌細胞に対する10A304.7の細胞毒性の結果をさらに拡大適用させた(出願番号10/994,664に開示)。インビボのヒト乳癌モデルにおいて、10A304.7によって腫瘍増殖が抑制されて、全身腫瘍組織量が減少した。移植後56日目、最終投与後6日目、10A304.7治療群における平均腫瘍容積は、アイソタイプ対照治療群における腫瘍容積の1%であった(p=0.0003,t検定)。試験を通して毒性の臨床徴候は認められなかった。週1回の間隔で測定する体重は、健康の代用評価項目であった。治療期間の終わりに、群間において体重に有意差は認められなかった(p=0.35I2,t検定)。したがって、ヒトの乳癌異種移植モデルにおいて10A304.7は耐容性に優れており、全身腫瘍組織量を低下させた。
【0049】
インビボでの抗腫瘍活性を実証することで、インビトロでの前立腺癌細胞に対するAR36A36.11.1の細胞毒性の結果をさらに拡大適用させた(出願番号11/067,366に開示)。ヒト前立腺癌のインビボモデルでの予防において、AR36A36.11.1によって腫瘍増殖が抑制され、全身腫瘍組織量が減少した。移植後41日目、最終投与後5日目、AR36A36.11.1治療群における平均腫瘍容積は、緩衝剤対照治療群における腫瘍容積の14%であった(p=0.0009,t検定)。PC−3前立腺癌異種移植モデルにおいて、体重は疾患進行の代用指標として使用できる(Wang et al.Int J Cancer, 2003)。試験終了(41日目)までに、対照動物は、試験開始から、27%の体重減少を示した。対照的に、AR36A36.11.1治療群は、対照群より有意に体重が増えていた(p=0.017)。全般的に、AR36A36.11.1治療群においては体重がわずか6%減少し、緩衝剤対照群での27%減少よりもずっと少なかった。したがって、AR36A36.11.1は耐容性に優れており、ヒト前立腺癌異種移植モデルにおいて全身腫瘍組織量および悪液質を減少させた。
【0050】
抗前立腺癌作用に加えて、AR36A36.11.1については、インビボの腫瘍予防モデルにおいてSW1116結腸癌細胞に対する抗腫瘍活性が実証された(出願番号11/067,366に開示)。移植後55日目、最終投与後5日目、AR36A36.11.1治療群における平均腫瘍容積は、緩衝剤対照群における腫瘍容積の51%であった(p=0.0055,t検定)。試験を通して毒性の臨床徴候は認められなかった。週1回の間隔で測定する体重は健康および発育不全の代用評価項目であった。治療期間の終わりに、群間において体重に有意差は認められなかった(p=0.4409,t検定)。したがって、ヒトの結腸癌異種移植モデルにおいてAR36A36.11.1は耐容性に優れており、全身腫瘍組織量を低下させた。
【0051】
また、AR36A36.11.1については、インビボの腫瘍予防モデルにおいてMDA−MB−231(MB−231)乳癌細胞に対する抗腫瘍活性が実証された(出願番号11/067,366に開示)。AR36A36.11.1は腫瘍増殖を完全に抑制して、全身腫瘍組織量を低下させた。移植後56日目、最終投与後6日目、AR36A36.11.1治療群における平均腫瘍容積は、アイソタイプ対照治療群における腫瘍容積の0%であった(p=0.0002,t検定)。試験を通して毒性の臨床徴候は認められなかった。週1回の間隔で測定する体重は健康および発育不全の代用評価項目であった。治療期間の終わりに、群間において体重に有意差は認められなかった(p=0.0676,t検定)。したがって、ヒトの結腸癌異種移植モデルにおいてAR36A36.11.1は耐容性に優れており、全身腫瘍組織量を低下させた。
【0052】
また、AR36A36.11.1については、インビボの腫瘍予防モデルにおいてMB−231乳癌細胞に対する抗腫瘍活性が実証された(出願番号11/067,366に開示)。この確立されたインビボのヒト乳癌モデルにおいて、AR36A36.11.1は腫瘍増殖を完全に抑制して、全身腫瘍組織量を低下させた。移植後83日目、最終投与後2日目、AR36A36.11.1治療群における平均腫瘍容積は、緩衝剤対照治療群における腫瘍容積の46%であった(p=0.0038,t検定)。これは平均T/C 32%に相当する。試験を通して毒性の臨床徴候は認められなかった。週1回の間隔で測定する体重は健康および発育不全の代用評価項目であった。治療期間の終わりに、群間において体重に有意差は認められなかった(p=0.6493,t検定)。
【0053】
まとめると、このデータは、10A304.7およびAR36A36.11.1の抗原が癌関連抗原であり、ヒトの癌細胞において発現され、病理学的に関連する癌標的であることを示している。
【0054】
本発明には10A304.7およびAR36A36.11.1の開発および使用について記載されており、これらは米国特許第6,180,357号に記載の過程により作成し、動物モデルでの確立されていない/確立された腫瘍増殖における細胞毒性アッセイでのその効果によって同定している。本発明は、標的分子CD59に存在するエピトープまたはエピトープ群に特異的に結合し、悪性腫瘍に対してインビトロでの細胞毒性も持つが、正常細胞に対しては持たず、インビボのヒト癌モデルにおける腫瘍増殖の抑制を直接媒介する試薬について初めて記載している点で、癌治療分野における進歩を示している。同様の特性が示されていないため、これは過去に記載した他の抗CD59抗体に関連する進歩である。さらなる進歩は、これらの抗体を抗腫瘍抗体ライブラリーに包含させることで、異なる抗腫瘍抗体の適当な併用の決定により、異なる抗原マーカーを発現する腫瘍を標的にできる可能性が高まり、腫瘍の増殖および発生を標的として、抑制する際に最も効果的になる点である。
【0055】
全体として、本発明は、治療剤の標的としての10A304.7およびAR36A36.11.1抗原の使用について教示しており、これらを投与した際、哺乳動物において抗原を発現している癌の全身腫瘍組織量を低下させて、治療を受けた動物の生存期間を延長させることもできる。本発明は、これらの抗原を標的として、哺乳動物において抗原を発現している癌の全身腫瘍組織量を抑制・低下させて、この抗原を発現する癌を持つ哺乳動物の生存期間を延長させるためのCDMAB(10A304.7およびAR36A36.11.1)、およびこれらの誘導体、これらのリガンド(例、細胞毒性を誘導するこれらのリガンド、これらの抗原結合断片)の使用についても教示している。さらに、本発明は、この抗原を発現する腫瘍を持つ哺乳動物の診断、治療予測、予後診断に有用となりうる癌性細胞における10A304.7抗原およびAR36A36.11.1抗原の検出の利用についても教示している。
【0056】
したがって、ハイブリドーマ細胞株および対応する単離モノクローナル抗体および前記ハイブリドーマ細胞株がコード化されるその抗原結合断片を単離するために、特定の個人に由来する癌性細胞、または1以上の特定の細胞株に対して作成した癌性疾患改善抗体(CDMAB)の作成方法の利用が本発明の目的であり、CDMABは癌細胞に対して細胞毒性を有するが、同時に非癌性細胞に対する毒性は比較的低い。
【0057】
癌性疾患改善抗体、そのリガンドおよび抗原結合断片について教示することも本発明の別の目的である。
【0058】
細胞毒性が抗体依存性の細胞毒性によって媒介される癌性疾患改善抗体の作成も本発明のさらなる目的である。
【0059】
細胞毒性が補体依存性の細胞毒性によって媒介される癌性疾患改善抗体の作成も本発明のさらなる目的である。
【0060】
細胞毒性が細胞の化学結合の加水分解における触媒作用である癌性疾患改善抗体の作成も本発明のさらなる目的である。
【0061】
癌の診断、予後診断、モニタリング用の結合アッセイに有用な癌性疾患改善抗体の作成も本発明のさらなる目的である。
【0062】
具体例、実施例、具体的な態様によって示した以下の記載から、本発明の他の目的および利点が明らかになろう。
【0063】
(図面の簡単な説明)
図1は細胞毒性アッセイにおける10A304.7対陽性/陰性対照の比較。
図2はAR36A36.11.1(パネルA)および10A304.7(パネルB)をプローブに用いたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロット。分子量マーカーを左に示している。
図3は10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、IgG2aアイソタイプ対照(8A304.7、パネルC)、IgG2bアイソタイプ対照(8B1B.1、パネルD)をプローブに用いたウエスタンブロット。レーン1〜4は、10A304.7(レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A304.7、レーン3)、IgG2bアイソタイプ対照(8B1B.1、レーン4)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜である。レーン5はMDA−MB−231膜タンパク質であり、レーン6はシアリダーゼA、O−グリカナーゼ、β(1−4)ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼ、PNGaseFで脱グリコシル化させた脱グリコシル化MDA−MB−231膜タンパク質である。分子量マーカーを左に示している。
図4はAR36A36.11.1(レーン1)およびIgG2aアイソタイプ対照(レーン2)で免疫沈降させたMDA−MB−231のコロイドブルー染色(パネルA)およびウエスタンブロット(パネルB)。分子量マーカーを左に示している。
図5は10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、パネルC)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、パネルD)をプローブに用いた、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、レーン3)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロット。分子量マーカーを左に示している。
図6A−6Cはヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
図7はヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはAR36A36.11.1(B)または抗アクチン(C)または陰性アイソタイプ対照(D)で得られたヒト正常子宮内膜/分泌組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7では染色は陰性を示し、AR36A36.11.1は血管内皮での染色は弱陽性を示した(矢参照)。倍率は200Xである。
図8A−8Cは様々なヒト腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
図9はヒトの複数腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはAR36A36.11.1(B)または抗アクチン(C)または陰性アイソタイプ対照(D)で得られたヒト正常子宮内膜/分泌組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7およびAR36A36.11.1では腫瘍細胞に対して染色は陽性を示した。倍率は200Xである。
図10はヒト肝臓腫瘍および正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7結合のまとめ。
図11はヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはアイソタイプ対照抗体(B)で得られた肝細胞癌組織、および10A304.7(C)またはアイソタイプ対照抗体(D)で得られた非腫瘍肝臓組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7では腫瘍細胞において染色は強陽性を示し、正常組織において染色は陰性を示した。倍率は200Xである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
一般に、概要、説明、実施例、請求項において使用する語句や表現は、以下のように定義している。
【0065】
「抗体」とは、広義で使用されており、具体的には、例えば、一つのモノクローナル抗体(アゴニスト、アンタゴニスト、中和抗体、脱免疫化させたマウスキメラ抗体またはヒト抗体)、多エピトープ特異性を持つ抗体組成物、単鎖抗体、免疫複合体、抗体断片(下記参照)を指す。
【0066】
本明細書の「モノクローナル抗体」とは、実質的に同種の抗体集団から入手された抗体を指し、つまり、集団を構成する個別の抗体は微量で存在しうる考えられる天然の突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体の特異性は高く、一つの抗原部位を標的としている。さらに、異なる決定基(エピトープ)を標的とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は一つの決定基を標的とする。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は他の抗体が混入することなく合成できる点で有利である。「モノクローナルの」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から入手される抗体の特徴を指しており、特定の方法による抗体産生が必要になるとは解釈されない。例えば、本発明で使用するモノクローナル抗体は、Kohlerらが最初に記載した(マウスまたはヒト)ハイブリドーマ法(Nature, 256:495 (1975))によって作成でき、または組み換えDNA法(米国特許第4,816,567号参照)によって作成できる。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clacksonら(Nature, 352:624−628 (1991))およびMarksら(J. Mol.Biol, 222:581−597 (1991))が記載した方法を利用して、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0067】
「抗体断片」は、好ましくは抗原結合またはその可変領域を含む、完全な抗体の1部を構成する。抗体断片の例としては、完全長未満の抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、diabody、線状抗体、単鎖抗体分子、単鎖抗体、単一ドメイン抗体分子、融合タンパク質、組み換えタンパク質、抗体断片から形成された多特異性抗体が挙げられる。
【0068】
「完全な」抗体は、軽鎖定常領域(CL)および重鎖定常領域、CH1、CH2、CH3の他、抗原結合可変領域を含む抗体である。定常領域は、天然配列定常領域(例、ヒト天然配列定常領域)またはそのアミノ酸配列の変異体でありうる。好ましくは、完全な抗体は1以上のエフェクター機能を持つ。
【0069】
重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、完全な抗体を異なる「クラス」に割り当てることができる。完全な抗体には5つの主なクラスが存在する:IgA、IgD、IgE、IgG、IgM。これらの数種は、さらに、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgA2に分けることができる。抗体の異なるクラスに対応する定常領域のドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる。免疫グロブリンの異なったクラスのサブユニット構造と3次本来の形状はよく知られている。
【0070】
抗体の「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域またはアミノ酸配列の変異Fc領域)に起因するそれらの生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性の細胞毒性、Fc受容体結合、抗体依存性の細胞によって媒介される細胞毒性(ADCC)、貪食作用能、細胞表面受容体(例、B細胞受容体、BCR)などのダウンレギュレーションが挙げられる。
【0071】
「抗体依存性の細胞によって媒介される細胞毒性」および「ADCC」とは、Fc受容体(FcRs)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、マクロファージ)が標的細胞上の結合抗体を認識して、その後、標的細胞を溶解させる細胞媒介性の反応を指す。ADCCを媒介する主な細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII、FcγRIIIを発現する。造血細胞でのFcR発現は、RavetchとKinet(Annu.Rev.Immunol 9:457−92(1991))のp464、表3にまとめられている。目的分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または米国特許第5,821,337号に記載のようなインビトロADCCアッセイを実施できる。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核球細胞(PBMC)やナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。または、もしくは、さらに、例えば、Clynesら(PNAS (USA) 95:652−656 (1998))が開示しているような動物モデルにおいて、目的分子のADCC活性をインビボで評価できる。
【0072】
「エフェクター細胞」は、1以上のFcRを発現し、エフェクター機能を担う白血球である。好ましくは、細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を担う。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核球細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、好中球が挙げられ、PBMCとNK細胞が好ましい。例えば、エフェクター細胞は天然材料(例、血液または本明細書に記載のPBMC)から単離できる。
【0073】
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を記載する際に使用される。好ましいFcRは、天然配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(γ受容体)を結合させる受容体であり、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライスを受けた受容体を含む、FcγRI、FcγRII、Fcγ RIIIサブクラスの受容体が含まれる。FcγRII受容体としては、FcγRIIA(「「活性化受容体」)そしてFcγRIIB(「抑制性受容体」)が挙げられ、主にその細胞質ドメインにおいて異なる類似のアミノ酸配列を持つ。受容体活性化FcγRIIAは、その細胞質ドメインにおいて免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を含む. 受容体抑制性FcγRIIBは、その細胞質ドメインにおいて免疫受容体チロシン抑制モチーフ(ITIM)を含む(例、M. in Daeron, Annu.Rev.Immunol.15:203−234 (1997)のレビュー参照)。FcRは、RavetchおよびKinet(Annu.Rev.Immunol 9:457−92 (1991))、Capelら(Immunomethods 4:25−34 (1994))、de Haasら(J. Lab.Clin.Med.126:330−41 (1995))において再検討されている。今後同定されるFcRsを含む他のFcRが、本明細書の「FcR」に含まれる。該用語には、新生児受容体FcRnも含まれ、これは母親から胎児へのIgGの移入に関与する(Guyer et al., J. Immunol.1 17:587 (1976) and Kim et al., Eur.J.Immunol.24:2429 (1994))。
【0074】
「補体依存性の細胞毒性」または「CDC」は、補体の存在下で標的を溶解させる能力を指す。同種抗原が結合した分子(例、抗体)に補体系(C1q)の第1成分が結合することで補体活性化経路が始動する。補体活性化を評価するために、CDCアッセイ(例、 Gazzano−Santoro et al., J. Immunol.Methods 202: 163 (1996)に記載)を実施できる。
【0075】
「可変」とは、抗体間において可変領域の特定部分の配列が広範囲にわたって異なり、特定抗原に対する各特定抗体の結合および特異性において使用されるという事実を指す。しかし、可変性は抗体の可変領域全体に一様に分布しているわけではない。これは、軽鎖/重鎖可変領域内の超可変領域と呼ばれる3つの断片に集中している。可変領域のより保存性の高い部分をフレームワーク領域(FR)と呼ぶ。天然の重鎖および軽鎖の可変領域は、それぞれ4つのFRから成り、3つの超可変領域に結合したβシートの配置を主に取り、これはループを形成して、βシート構造の一部を形成する場合がある。各鎖の超可変領域はFRによって他の鎖の超可変領域とまとめられ近接しており、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991)参照). 定常領域は、抗原への抗体の結合に直接関与しないが、抗体依存性の細胞毒性(ADCC)における抗体の関与など様々なエフェクター機能を示す。
【0076】
本明細書の「超可変領域」とは、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。一般に、超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」のアミノ酸残基(例、軽鎖可変領域の24−34(L1)、50−56(L2)、89−97(L3)残基および重鎖可変領域の31−35(H1)、50−65(H2)、95−102(H3)残基、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991))、および/または「高頻度可変性ループ」の残基(例、軽鎖可変領域の2632 (L1)、50−52 (L2)、91−96 (L3)残基および重鎖可変領域の26−32(H1)、53−55(H2)、96−101(H3)残基、Chothia and Lesk J. Mol.Biol.196:901−917 (1987))から成る。「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書に定める超可変領域の残基以外の可変領域の残基である。抗体のパパイン分解によって、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片が生じ、それぞれが一つの抗原結合部位および残りの「Fc」を伴い、「Fc」の名称は易結晶性を反映している。ペプシン処理によって、2つの抗原結合部位を持ち、依然として抗原を架橋できるF(ab’)2 断片が生じる。
【0077】
「Fv」は、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含む最小抗体断片である。この部位は、1つの重鎖と1つの軽鎖の可変領域が非共有結合的に強固に結合した二量体から成る。各可変領域の3つの超可変領域が相互作用して、VH−VL二量体の表面上に抗原結合部位の輪郭を示すのはこの構造である。集合して、6つの超可変領域は抗体に抗原結合特異性を与える。しかし、全結合部位よりも親和性が低いものの、一つの可変領域(または抗原に特異的なわずか3つの超可変領域を含むFvの半分)でも抗原を識別して、結合する能力を持つ。Fab断片は、軽鎖の定常領域と重鎖の第1定常領域(CH1)も含む。抗体のヒンジ領域からの1以上のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端に数個の残基が付加することで、Fab’断片はFab断片とは異なる。Fab’−SHは、定常領域のシステイン残基が少なくとも1つのチオール基を持つFab’の本明細書における表記である。F(ab’)2抗体断片は、本来、間にヒンジシステインを持つFab’対として産生された。抗体断片の他の化学結合も公知である。
【0078】
任意の脊椎動物種由来の抗体の「軽鎖」は、それらの定常領域のアミノ酸配列に基づき、カッパ(K)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なるタイプの内の1つに割り当てられることができる。
【0079】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVH/VL領域から成り、これらの領域は1つのポリペプチド鎖に存在している。好ましくは、FvポリペプチドはさらにVHとVLドメインの間にポリペプチドリンカーを含み、これによってscFvが抗原結合のための所望の構造を形成できる。scFvに関するレビュー(Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 1 13, Rosenburg and Moore eds., Springer−Verlag, New York, pp.269−315 (1994))を参照すること。
【0080】
「Diabody」とは、2つの抗原結合部位を伴う小さな抗体断片を指し、この断片は同じポリペプチド鎖(VH−VL)内において可変軽鎖領域(VL)に結合した可変重鎖領域(VH)から成る。同じ鎖上の2つの領域間での対合を可能にするための非常に短いリンカーを使用することで、領域を別の鎖の相補領域と対合させて、2つの抗原結合部位を形成させる。Diabodyについては、例えば、欧州特許第404,097号、国際公開広報第93/11161号、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444−6448(1993)に詳述されている。
【0081】
「単離」抗体は、同定、分離、および/またはその自然環境の成分から回収された抗体である。自然環境の混入成分は、抗体の診断や治療における使用を妨げ、酵素、ホルモン、他のタンパク性/非タンパク質性の溶質を含みうる原料である。抗体の自然環境において少なくとも1成分が存在しないため、単離抗体には組み換え細胞内のin situの抗体が含まれる。一方、通常、単離抗体は少なくとも1つの精製段階によって調製できる。
【0082】
目的の抗原(例、CD59)に「結合する」抗体は、十分な親和性で抗原に結合可能な抗体であり、該抗体は該抗原を発現する細胞を標的とする治療薬として有用である。抗体がCD59に結合する抗体である場合、通常、これは他の受容体とは対照的に選択的にCD59に結合し、Fcとの非特異的接触などの偶発的な結合、または他の抗原に共通する翻訳後修飾物への結合を含まず、他のタンパク質と有意に交差反応しない抗体である。目的の抗原に結合する抗体の検出方法は、当技術分野において周知であり、限定はされないが、FACS、細胞ELISA、ウエスタンブロットなどのアッセイを挙げることができる。
【0083】
本明細書で使用する「細胞」、「細胞株」、「細胞培養」という表現は、互換性を持って使用しており、全てのこれらの表記には子孫細胞も含まれる。故意の、または偶発的な突然変異のため、全ての子孫細胞がDNA含量において厳密に同一ではない可能性があることも理解されている。本来の形質転換細胞においてスクリーニングした同じ機能または生物活性を持つ突然変異体の子孫細胞が含まれる。別の表記が意図されている状況から明らかであろう。
【0084】
「治療」とは、治療的処置および予防対策の両方を指し、目的は、標的となる病態や疾患を予防または抑制(低下)させることである。治療を必要とする人々としては、疾患傾向のある人々や疾患を予防する必要のある人々の他、既に疾患を伴う人々が挙げられる。このように、本明細書において治療される哺乳動物は、疾患の診断が下されている、もしくは疾患に罹りやすい、または疾患に感受性がありうる。
【0085】
「癌」および「癌性の」とは、通例、無制御の細胞増殖や細胞死を特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指す、またはこれについて記載している。癌の例としては、限定はされないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、白血病、リンパ様悪性腫瘍が挙げられる。これらの癌のより具体的な例としては、頭頚部癌の他、扁平上皮癌(例、上皮性扁平上皮癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺と扁平上皮癌および肺の腺癌、腹膜癌、肝細胞性癌、消化管癌を含む胃癌、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞癌、乳房癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌が挙げられる。
【0086】
「化学療法薬」は癌の治療に有用な化合物である。化学療法薬の例としては、チオテパとシクロホスファミド(CYTOXAN(商標))などのアルキル化剤、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファンなどのスルホン酸アルキル、ベンゾドーパ、カルボコン、メチュアドーパ(meturedopa)、ウレドーパ(uredopa)などのアジリジン、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホロアミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethylenethiophosphaoramide)、トリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類(ethylenimines)およびメチルメラミン類(methylamelamines)、クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミン酸化物、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスアミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード系、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソウレア、アクラシノマイシン(aclacinomysins)、アクチノマイシン、アスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケミシン(calicheamicin)、カラビシン(carabicin)、carnomycin、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピュロマイシン、キラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなどの抗生物質、メトトレキセートおよび5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗薬、デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセートなどの葉酸類似体、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニンなどのプリン類似体、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、dideoxyuridine、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FUなどのピリミジン類似体、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン、アミノグルテチミド、ミトーテン、トリロスタンなどの抗副腎剤、フロリン酸のような葉酸補充物、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド、アミノレブリン酸、アムサクリン、ベストラブシル(bestrabucil)、ビサントレン(bisantrene)、エデトラキサート(edatraxate)、デホファミン(defofamine)、デメコルチン、ジアジコン、elformithine、酢酸エリプチニウム、エトグルシド(etoglucid)、硝酸ガリウム、ヒドロキシ尿素、レンチナン、ロニダミン、ミトグアゾン、ミトキサントロン、モピダモール(mopidamol)、ニトラクリン、ペントスタチン、フェナメット(phenamet)、ピラルビシン、ポドフィリン酸、2−ethylhydrazide、プロカルバジン、PSK(登録商標)、ラゾキサン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム、テヌアゾン酸、トリアジコン(triaziquone)、2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン、ウレタン、ビンデシン、ダカルバジン、マンノムスチン、ミトブロニトール、ミトラクトール、ピポブロマン、ガシトシン(gacytosine)、アラビノシド(Ara−C)、シクロホスファミド、チオテパ、タキサン、例、パクリタキセル(TAXOL(登録商標), Bristol−Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)およびドセタキセル(TAXOTERE(登録商標), Aventis, Rhone−Poulenc Rorer, Antony, France)、クロラムブシル、ゲムシタビン、6−チオグアニン、メルカプトプリン、メトトレキセート、シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ類似体、ビンブラスチン、プラチナ、エトポシド(VP−16)、イホスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ナベルビン、ミトキサントロン、テニポシド、ダウノマイシン、アミノプテリン、ゼローダ、イバンドロネート、CPT−11、トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000、ジフルオロメチルオルニチン(DMFO)、レチノイン酸、エスペラミシン、カペシタビン、および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、誘導薬が挙げられる。タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ抑制性4(5)−イミダゾール、4‐ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、トレミフェン(Fareston)、およびフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロライド、ゴセレリンなどの抗アンドロゲン剤、および上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、誘導薬などの腫瘍に及ぼすホルモンの作用を調節または抑制するように作用する抗ホルモン薬もこの定義に含まれる。
【0087】
治療の目的となる「哺乳動物」とは、ヒト、マウス、SCIDマウスまたはヌードマウスまたはマウス系統、家畜を含む哺乳動物、そして羊、犬、馬、猫、牛などの動物園、ペット、スポーツ用の動物に分類される任意の動物を指す。好ましくは、本明細書の哺乳動物はヒトである。
【0088】
「オリゴヌクレオチド」は、既知の方法(1988年5月4日に公開された欧州特許第266,032号などに記載の固相技術を利用したホスホロトリエステル、フォスファイト、またはホスホラミダイト化学、もしくは(Froehler et al., Nucl.Acids Res., 14:5399−5407, 1986)に記載のデオキシヌクレオシドH−ホスホン酸中間体による)によって化学合成される長さの短い単鎖または二本鎖のポリデオキシヌクレオチドである。次にポリアクリルアミドゲルでこれらを精製する。
【0089】
特に断らない限り、本明細書の「CD59」とは、哺乳動物のグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合膜糖タンパク質(別名、MEM−43抗原、反応性細胞融解の膜阻害因子(MIRL)、H19、膜攻撃複合体抑制因子(MACIF)、分子量20,000のホモロガス制限因子(HRF20)、プロテクティン(Walsh, Tone et al.1992)など)を指す。
【0090】
「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定種に由来する抗体または特定の抗体クラスやサブクラスに属する抗体における対応する配列と同じである、もしくは相同である免疫グロブリンであり、鎖の残り部分は、所望の生物活性を示す限り、これらの抗体の断片の他、別の種に由来する抗体または別の抗体クラスやサブクラスに属する抗体における対応する配列と同じ、もしくは相同である(米国特許第4,816,567号、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851−6855 (1984))。
【0091】
ヒト以外(例、マウス)の「ヒト化」型抗体は、特異的なキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖または免疫グロブリン鎖の断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab)2、または抗体の他の抗原結合部分配列)であり、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含んでいる。大半において、ヒト化抗体はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、このヒト免疫グロブリンにおいて、レシピエント抗体の相補性決定領域(CDR)由来の残基を、所望の特異性、親和性、能力を有する、マウス、ラット、ラットなどのヒト以外の種(ドナー抗体)のCDRに由来する残基で置換している。一部の例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基を対応するヒト以外のFR残基と置換させている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体および取り込ませたCDR配列やFR配列のいずれでも認められない残基を含みうる。これらの改変を施すことで、抗体の性能を向上・最適化させる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、通例、2つの可変領域の実質的に全てを含み、ここでCDR領域の全て、または実質的に全てがヒト以外の免疫グロブリンの領域と一致しており、FR残基の全て、または実質的に全てがヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列の領域である。ヒト化抗体は、任意で、免疫グロブリン定常領域の一部(Fc)、通例、ヒト免疫グロブリンの一部を含む。
【0092】
「脱免疫化」抗体は、任意の種に対して、免疫原性のない、もしくは免疫原性の低い免疫グロブリンである。抗体に対する構造変化によって脱免疫化させることができる。当業者に公知の脱免疫化技術を利用できる。適当な脱免疫化技術は、例えば、2000年6月15日に公開された国際公開広報第00/34317号に記載されている。
【0093】
「相同性」については、配列を並べて、相同性(%)を最高にするために適宜ギャップを導入した後でのアミノ酸配列変異体における同一残基の割合と定義している。配列比較の方法およびコンピュータプログラムは当技術分野において周知である。
【0094】
本出願では一貫して、ハイブリドーマ細胞株から産生された単離モノクローナル抗体の他、ハイブリドーマ細胞株は、それらの内部表記(10A304.7またはAR36A36.11.1)または寄託表記(ATCC PTA−5065またはIDAC 280104−02)によっても呼ばれる。
【0095】
本明細書の「リガンド」としては、標的抗原への結合特異性を示す部分が挙げられ、これは完全な抗体分子や少なくとも抗原結合領域またはその一部を持つ任意の分子(抗体分子の可変部分)、例えば、Fv分子、Fab分子、Fab’分子、F(ab’).sub.2分子、二重特異性抗体、融合タンパク質、またはATCC PTA−5065またはIDAC 280104−02と表記されるハイブリドーマ細胞株から産生された単離モノクローナル抗体が結合した抗原(ATCC PTA−5065抗原またはIDAC 280104−02抗原)を特異的に識別して結合する遺伝子組み換え分子でありうる。
【0096】
本明細書の「抗原結合部位」は、標的抗原を識別する分子の一部を意味する。
【0097】
本明細書の「競合阻害する」とは、従来の抗体相互競合アッセイを利用して、ATCC PTA−5065またはIDAC 280104−02と表記されるハイブリドーマ細胞株から産生された単離モノクローナル抗体(ATCC PTA−5065抗体またはIDAC 280104−02抗体)が標的とする決定基部位を認識して結合できることを意味する(Belanger L., Sylvestre C. and Dufour D. (1973), Enzyme linked immunoassay for alpha fetoprotein by competitive and sandwich procedures. Clinica Chimica Acta 48, 15)。
【0098】
本明細書の「標的抗原」とは、ATCCPTA−5065抗原またはIDAC280104−02抗原、またはこれらの一部である。
【0099】
本明細書の「免疫複合体」とは、細胞毒素、放射性薬剤、酵素、毒素、抗腫瘍薬、治療剤に化学的または生物学的に結合させた抗体などの分子またはリガンドである。標的に結合可能な限り、抗体を分子に沿った任意の部位で細胞毒素、放射性薬剤、抗腫瘍薬、治療剤に結合させることができる。免疫複合体の例としては、抗体‐毒素化学複合体や抗体‐毒素融合タンパク質が挙げられる。
【0100】
本明細書の「融合タンパク質」とは、抗原結合領域を生物活性分子(例、毒素、酵素、タンパク質薬剤)に結合させた任意のキメラタンパク質を意味している。
【0101】
本明細書に記載の発明をより十分に理解するために、以下の記載を示す。
【0102】
本発明は、ATCCPTA−5065抗原またはIDAC280104−02抗原を識別して結合するリガンド(ATCCPTA−5065リガンドまたはIDAC280104−02リガンド)を提供する。
【0103】
ハイブリドーマATCC PTA−5065またはIDAC 280104−02によって産生されるモノクローナル抗体のその標的抗原への免疫特異的結合を競合阻害する抗原結合領域を持つ限り、発明のリガンドは任意の形状でよい。このように、ATCCPTA−5065抗体またはIDAC280104−02抗体と同じ結合特異性を持つ任意の組み換えタンパク質(例、抗体がリンホカインまたは腫瘍抑制増殖因子などの第二のタンパク質と結合した融合タンパク質)も本発明の範囲内にある。
【0104】
本発明の一態様では、リガンドはATCCPTA−5065抗体またはIDAC280104−02抗体である。
【0105】
他の態様では、リガンドは抗原結合断片であり、抗原結合断片は、Fv分子(単鎖Fv分子など)、Fab分子、Fab’分子、F(ab’)2分子、融合タンパク質、二重特異的抗体、ヘテロ抗体、ATCC PTA−5065抗体またはIDAC 280104−02抗体の抗原結合領域を持つ任意の組み換え分子でよい。本発明のリガンドは、ATCC PTA−5065モノクローナル抗体またはIDAC280104−02モノクローナル抗体が標的とするエピトープに向けられている。
【0106】
本発明のリガンドは、誘導体分子を産生するように修飾できる(分子内のアミノ酸修飾による)。化学修飾も可能である。
【0107】
誘導体分子はポリペプチドの機能特性を保持しており、つまり、このような置換を持つ分子によってATCCPTA−5065抗原またはIDAC280104−02抗原、もしくはこれらの一部へのポリペプチドの結合が依然として可能になりうる。
【0108】
これらのアミノ酸置換には、限定はされないが、当技術分野において「保存的」として知られるアミノ酸置換が挙げられる。
【0109】
例えば、これは、「保存的アミノ酸置換」と呼ばれる、タンパク質の立体構造や機能を変えることなく特定のアミノ酸置換をタンパク質に施すことができる場合が多いという、タンパク質化学において十分に確立された原則である。
【0110】
このような変化としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)とこれらの疎液性アミノ酸の他のいずれかとの置換およびその逆、アスパラギン酸(D)とグルタミン酸(E)およびその逆、グルタミン(Q)とアスパラギン(N)およびその逆、そしてセリン(S)とスレオニン(T)およびその逆が挙げられる。タンパク質の3次元構造の特定アミノ酸の環境およびその役割に応じて、他の置換も保存的と見なすことができる。例えば、アラニンとバリン(V)と同様に、グリシン(G)とアラニン(A)は置換可能な場合が多い。比較的疎液性の高いメチオニン(M)は、ロイシンやイソロイシン、そして場合によってはバリンで置換できることが多い。リジン(K)とアルギニン(R)については、電荷をアミノ酸残基の顕著な特徴としており、2つのアミノ酸残基のpK値に有意差がない部位において置換可能な場合が多い。特定の環境において、さらに他の変化を「保存的」と見なすことができる。
【0111】
抗体が与えられれば、当業者であれば、競合阻害リガンド、例えば、同じエピトープを識別する競合抗体を作成できる(Belanger et al., 1973)。1つの方法では、抗体によって識別される抗原を発現する免疫原での免疫付与が必要となりうる。サンプルとしては、限定はされないが、組織、単離タンパク質、または細胞株を挙げることができる。結果として得られるハイブリドーマは、競合アッセイを利用してスクリーニング可能であり、これはELISA、FACS、免疫沈降など、試験抗体の結合を抑制する抗体を同定するアッセイである。別の方法では、前記抗原を識別する抗体のファージディスプレイライブラリーおよびパニングを利用可能であった(Rubinstein et al., 2003)。いずれの場合でも、標的抗原への結合における本来の抗体よりも高い競合性に基づいてハイブリドーマが選択されうる。したがって、このようなハイブリドーマは、本来の抗体と同じ抗原を識別するという特徴を持ち、同じエピトープをより特異的に識別しうる。
【0112】
実施例1
インビトロでの細胞毒性
CL−1000フラスコ(BD Biosciences, Oakville, ON)にハイブリドーマを培養して、回収、再播種を週2回行なうことで10A304.7モノクローナル抗体を作成した。Protein G Sepharose 4 Fast Flow(Amersham Biosciences, Baie d’Urfe, QC)を用いた標準的な抗体精製方法に従った。ヒト化、キメラ化、またはマウスのモノクローナル抗体の利用は本発明の範囲内である。
【0113】
細胞毒性アッセイにおける緩衝剤の希釈液対照の他、両陽性対照(抗EGFR抗体(C225, IgG1, kappa, 5μg/mL, Cedarlane, Hornby, ON、抗FAS, IgM, kappa, 10μg/mL, eBiosciences, San Diego, CA)、シクロヘキシミド(CHX, 0.5 micromolar, Sigma, Oakville, ON)、NaN3(0.1%, Sigma, Oakville, ON)、および陰性アイソタイプ対照8B1B.1(抗ブルータングウイルス、自家精製)を10A304.7と比較した(図1)。2つの膵臓癌細胞株(BxPC−3、PL45)において、10μg/mLで10A304.7とアイソタイプ対照抗体を評価した。両細胞株はATCC(Manassas, VA)から入手した。カルセインAMは、Molecular Probes(Eugene, OR)から入手した。以下の変更を加えて、メーカーの説明書に従ってアッセイを実施した。アッセイの前に、所定の適当な密度で細胞を播種した。2日後、100μLの精製抗体または対照を培地中に希釈させて、次に細胞プレートに移して、5% CO2インキュベーター内で5日間培養させた。次に、プレートを裏返すことで空にして、培養液を吸い取り乾燥させた。マルチチャネルスクイーズボトルから各ウェルにMgCl2とCaCl2を含む室温のDPBSを分注して、3回軽くたたき、裏返すことで空にして、培養液を吸い取り乾燥させた。各ウェルにMgCl2とCaCl2を含むDPBSで希釈させた蛍光カルセイン染色液50μLを加えて、37℃の5% CO2インキュベーター内で30分間培養させた。Perkin−Elmer HTS7000蛍光プレートリーダーでプレートを読ませて、Microsoft Excelでデータを解析して、図1の表に結果を示した。各抗体について、3回試験を行なった4つの実験において認められた平均細胞毒性に基づく5〜50のスコア、およびアッセイ間で認められた変動に基づく25〜100のスコアが得られた。これらの2つのスコア(細胞毒性スコア)の合計を図1に示している。試験した細胞株における55以上の細胞毒性スコアを陽性と見なした。米国特許第6,794,494号において過去に開示された通り、10A304.7はBxPC−3細胞に細胞毒性作用を持たなかった。膵臓PL45細胞株において、緩衝剤陰性対照およびアイソタイプ陰性対照のいずれをも上回る、特異的な細胞毒性が10A304.7抗体について認められた。緩衝剤では測定可能な細胞毒性は認められなかった。この特定の実験において、8B1B.1アイソタイプ対照は、PL45細胞株に対して通常の細胞毒性よりも高い細胞毒性を示し、これはバイオアッセイにおいて固有の変動作用でありうる。アイソタイプ対照の効果は高かったが、10A304.7で得られた結果は各実験において一貫して高かった。これらの結果は、10A304.7が機能的特異性を持ち、ヒト膵臓癌由来の標的癌細胞を標的にできることを示している。
【0114】
実施例2
ウエスタンブロット法による結合タンパク質の同定
10A304.7抗体およびAR36A36.11.1抗体によって識別される抗原を同定するために、抗原を発現する細胞膜をゲル電気泳動にかけて、ウエスタンブロッティングを利用してメンブレンにトランスファーさせ、これらの抗体に結合するタンパク質を判定した。
【0115】
1.膜の調製
過去の研究から、重症複合型免疫不全症(SCID)マウスにおける異種移植片として増殖させたMDA−MB−231(MB−231)細胞株によって例示される通り、10A304.7およびAR36A36.11.1は乳癌に対して効果を示した。したがって、MB−231膜調製物を抗原の同定に使用した。全細胞膜はMB−231細胞のコンフルエント培養物から調製した。細胞重層から培地を除き、細胞をリン酸塩緩衝生理食塩液(PBS)で洗った。プラットホームシェーカー上で分離緩衝液(Gibco−BRL, Grand Island, NY)を用いて細胞を37℃、20分間分離させた。細胞を回収して、4℃で10分間、900gの遠心分離にかけた。遠心分離後、細胞の沈殿をPBS中で再浮遊させて、4℃で10分間、900gの遠心分離に再びかけて洗った。上精を捨てて、沈殿を−8O℃で保存した。細胞1g当たり緩衝液3 mLの比率で、Complete protease inhibitor cocktail(Roche, Laval QC)50mL当たり錠剤1個を含むホモジナイゼーション緩衝液に細胞の沈殿を再浮遊させた。細胞を溶解させるために、氷上でポリトロンホモジナイザー使用して細胞浮遊液をホモジナイズした。核小片を除去するために、細胞ホモジネートを4℃で10分間、15,000gの遠心分離にかけた。上精を回収して、チューブに分注し、4℃で90分間、75,600gの遠心分離にかけた。上精を静かにチューブから除去して、各膜沈殿物を約5mLのホモジナイゼーション緩衝液に再浮遊させた。全てのチューブの再浮遊させた沈殿物を1本のチューブに合わせて、4℃で90分間、75,600gの遠心分離にかけた。チューブから上精を静かに除去して、沈殿物の重さを量った。膜沈殿物1g当たり緩衝液3mLの比率で、1% Triton X−100を含む可溶化緩衝液を沈殿に加えた。プラットホームシェーカー上で300rpm、1時間、膜を氷上で可溶化させた。膜溶液を75,600gの遠心分離にかけて、不溶性物質を沈殿させた。可溶化膜タンパク質を含む上精を静かにチューブから除去して、タンパク質含量を分析し、−80℃で保存した。
【0116】
2.ウエスタンブロット
膜タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離させた。MB−231膜タンパク質20μgを非還元SDS−PAGEサンプル緩衝液と混合させて、2枚の4〜20%勾配SDS−PAGEゲル(Bio−Rad, Mississauga, ON)のレーンに添加した。未染色分子量マーカー(Invitrogen, Burlington, ON)のサンプルをレファレンスのレーンに流した。100Vで10分間、その後、サンプル緩衝液の染色先端部はゲルから流出するまで150Vで電気泳動を実施した。16時間の40V電気ブロッティングによって、タンパク質をゲルからPVDFメンブレン(Millipore, Billerica, MA)にトランスファーさせた。トランスファー後、0.5% Tween−20(TBST)を含む5%スキムミルク粉末のトリス緩衝生理食塩水溶液でメンブレンをブロッキングした。メンブレンをTBSTで3回洗い、5%スキムミルク粉末のTBST溶液に希釈させた5μg/mL 10A304.7または5μg/mL AR36A36.11.1と2時間インキュベートさせた。TBSTで3回洗った後、Jackson Immunologicals(West Grove, PA)のホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG(Fc)と共にメンブレンをインキュベートさせた。このインキュベーション後、TBSTで3回洗い、ECL Plus western detection reagents(Amersham Biosciences, Baie d’Urfe, QC)とインキュベーションさせた。ブロットを化学発光フィルム(Kodak, Cedex, France)に暴露させて、X光線メディカルプロセッサを使用して現像した。
【0117】
図2は、メンブレン下部においてタンパク質と強く結合したAR36A36.11.1(パネルA)、10A304.7(パネルB)を示している。分子量スタンダードとの比較で、抗体は約20kDaのタンパク質と結合している。両方の抗体が同様のパターンでMB−231メンブレンに結合している。
【0118】
実施例3
AR36A36.11.1、10A304.7が結合した抗原の交差免疫沈降および脱グリコシル化
【0119】
10A304.7およびAR36A36.11.1が結合した抗原が同一であるか否かを判定するために、MB−231膜を2つの抗体で交差免疫沈降させた。反応が機能的抗体に特異的であることを保証するために、適当なアイソタイプ対照(AR36A36.11.1のアイソタイプであるIgG2aに対しては8A3B.6、10A304.7のアイソタイプであるIgG2bに対しては8B1B.1)が含まれた。
【0120】
1.免疫沈降
各抗体200μgを0.1 M リン酸ナトリウム(pH6.0)1mLに希釈させた。1抗体当たり100μLのプロテインGセファロースビーズ(Amersham Biosciences, Baie d’Urfe, QC)を1mLの0.1 M リン酸ナトリウム(pH6.0)で3回洗った。希釈した抗体を一定分量のビーズに添加して、撹拌しながら室温で1時間インキュベートした。14,000rpmの極小遠心分離機で20秒間スピンさせて、上精を吸引除去し、非結合抗体を除去した。抗体コートビーズを1mLの0.1 Mリン酸ナトリウム(pH7.4)で3回洗い、続いて1mLの0.2 M トリエタノールアミン(pH8.2)で2回洗った。抗体結合ビーズを1mLの0.2 M トリエタノールアミン(pH8.2)に再浮遊させて、次に5.2mgのジメチルピメリミデート(Sigma, Oakville, ON)を加えて、撹拌しながら1時間インキュベートさせることで化学的架橋させた。抗体架橋ビーズを1.5mLの50mM Tris(pH7.5)で1回洗い、続いて撹拌させながら1mLの50mM Tris(pH7.5)と30分間室温でインキュベーションさせた。ビーズをPBSで3回洗い、次に0.02%アジ化ナトリウムを含むPBS 100μLに再浮遊させて、4℃で保存した。
【0121】
前記結合ビーズを使用して、MB−231膜との免疫沈降のために、4種の抗体(AR36A36.11.1、10A304.7、8A3B.6、8B1B.1)を使用した。200μgのMB−231膜調製物を1抗体当たり1mLの通常の溶解緩衝液(50mM Tris(pH7.4)、150mM 塩化ナトリウム、2mM EDTA、1% Triton X−100、50mM フッ化水素ナトリウム、2mM オルトバナジン酸ナトリウム、1Xプロテアーゼ阻害剤混合液)で希釈させた。1抗体ごとに50μgの抗体結合ビーズを希釈したMB−231膜に加えて、転倒撹拌させながら40℃で2時間インキュベートさせた。免疫複合体結合ビーズを通常の溶解緩衝液で3回、PBSで1回洗った。免疫複合体結合ビーズをPBSで再浮遊させて、使用まで4℃で保存した。
【0122】
2.脱グリコシル化
AR36A36.11.1および10A304.7の抗原結合における炭水化物基の役割を検証するために、MB−231膜を脱グリコシル化させた。メーカーの説明書に従い、非還元条件下で、GLYKO酵素消化キット(ProZyme, San Leandro, CA)のPNGaseF、シアリダーゼA、O−グリカナーゼ、β(1−4)ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼと100μgのMB−231膜をインキュベートさせた。追加で100μgのMB−231膜を脱グリコシル緩衝液とのみインキュベートさせて、グリコシル化対照反応とした。
【0123】
3.ウエスタンブロット
グリコシル化/脱グリコシルMB−231膜の他、10A304.7およびAR36A36.11.1、IgG2aアイソタイプ、IgG2bアイソタイプ、免疫沈降MB−231膜を非還元SDS−PAGEサンプル緩衝液と合わせて、4枚の12% SDS−PAGEゲル(Bio−Rad, Mississauga, ON)に添加した。未染色分子量マーカーをレファレンスのレーンに添加した。SDS−PAGE、続いて実施例2に記載のウエスタンブロットによってメンブレンを分離させた。図3には、10304.7で免疫沈降させたMB−231膜(レーン1)、AR36A36.11.1で免疫沈降させたMB−231膜(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照で免疫沈降させたMB−231膜(レーン3)、IgG2bアイソタイプ対照で免疫沈降させたMB−231膜(レーン4)、MB−231グリコシル化膜(レーン5)、MB−231脱グリコシル化膜(レーン6)に対する10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、IgG2aアイソタイプ対照(パネルC)、IgG2bアイソタイプ対照(パネルD)の結合を示している。パネルAとBでは全てレーンで結合が同一であり、AR36A36.11.1と10A304.7が同じ抗原を識別することを示している。10A304.7およびAR36A36.11.1で免疫沈降させたMB−231膜(レーン1、2)の20kDa領域における大きなスミアは、10A304.7およびAR36A36.11.1をプローブとして用いた場合にのみ現われ(パネルA、B)、アイソタイプ対照をプローブとして用いた場合には現れず(パネルC、D)、この領域における結合が機能的抗体に特異的であることを示している。MB−231膜をアイソタイプ対照(レーン3、4)と免疫沈降させた場合、20kDa領域において反応が認められず、抗原に対する機能的抗体の特異性をさらに示している。10A304.7およびAR36A36.11.1のいずれも、グリコシル化MB−231膜(レーン5)の20 kDa領域の二重バンドに結合する。膜を脱グリコシル化した場合に反応のシフトが認められ(レーン6)、抗原はグリコシル化を受けるが、炭水化物基が抗原結合に必須ではないことを示している。
【0124】
実施例4
10A304.7およびAR36A36.11.1が結合する抗原の同定
【0125】
1.免疫沈降
AR36A36.11.1が結合した抗原は、免疫沈降によってMB−231細胞から単離した。実施例3に従い、適宜スケールアップさせて、1mLのProtein G Sepharose(Amersham Bioscience, Baie d’Urfe, QC)を2mgの抗体と架橋させた。AR36A36.11.1と8A3B.6の両方を架橋させた。
【0126】
10mLのRIPA緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1% NP−40、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、2 mM オルトバナジン酸ナトリウム、1Xプロテアーゼ阻害剤混合液)で10 mgのMB−231を希釈させた。3 mLのSepharose 4B(Sigma, Oakville, ON)を添加して、転倒混和させながら、4℃で2時間インキュベートさせた。転倒混和させながら、4℃で2時間、4℃の0.1 M NaH2PO4(pH7.4)で希釈した0.5 mg/mL BSAと60μLの抗体結合ビーズを同時にインキュベーションさせた。抗体結合ビーズをRIPA緩衝液で2回洗い、水分を捨てた。免疫沈降において、事前に余分なものを除去したMB−231膜をSepharose 4Bビーズから除いて、8A3B.6結合ビーズに加えて、転倒混和させながら4℃で2時間インキュベーションさせた。アイソタイプ対照とのインキュベーション後、希釈させた膜調製物を転倒混和させながら4℃で2時間AR36A36.11.1結合ビーズとインキュベーションさせた。両方のビーズを緩衝液で2回、PBSで1回洗った。
【0127】
2.SDS−PAGE
免疫沈降させたビーズを30μLのSDS−PAGEサンプル緩衝液に再浮遊させて、3分間沸騰させて、室温まで冷ました。21μLのサンプルを12% SDS−PAGEゲル(Bio−Rad, Mississauga, ON)の1つのレーンに、残りの7μLを別のレーンに添加した。タンパク質スタンダードおよび事前に染色した分子量マーカー(Invitrogen, Burlington, ON)もゲルに含めた。100Vで10分間、次に、染料の先端がゲルから流れ出るまで150Vでゲルを泳動させた。事前に染色した分子量マーカーを添加したレーンに沿ってゲルをカットした。実施例2に開示したプロトコルに従って、21μLを添加したゲルの一部をColloidal Blueで染色させて、ゲルの他の一部はAR36A36.11.1を用いたウエスタンブロッティング用PVDFメンブレンにトランスファーさせた。
【0128】
メーカーの説明書に従って、Colloidal Blue染色試薬(Invitrogen, Burlington, ON)を調製して、ゲルを室温の染色液中で撹拌させながらオーバーナイトでインキュベートさせた。ゲルを水中で2時間インキュベートさせて、バックグラウンドの染色液を取り除いた。図4は、AR36A36.11.1で免疫沈降させたMB−231膜(レーン1)および8A3B.6 IgG2aアイソタイプ対照で免疫沈降させたMB−231膜(レーン2)を示している。染色したゲル上の20kDaの薄い二本のバンド(パネルA、レーン1)は、ウエスタンブロットで認められる反応に対応している(パネルB、レーン1)。これらの2本のバンドは、レーン2のゲルの領域およびタンパク質を添加しなかったバックグラウンド対照の領域と一緒に、滅菌ガラスパスツールピペットを使用して染色ゲルから抽出した。
【0129】
3.質量分析
抽出したゲル小片は、In−Gel Tryptic Digestion kit(Pierce, Rockford, IL)を使用して消化させた。CHCAマトリックスを使用して、各サンプルの一部をH4 ProteinChip Array(Ciphergen, Freemont, CA)にスポットした。ProteinChip Software(Ciphergen)を使用して、Ciphergen SELDI /MSでアレイチップを分析した。AR36A36.11.1免疫沈降反応での下二本のバンド固有のペプチドピークは1540.6 Da、1649.6 Da、1741.6 Da、1778.1 Da、2015.2 Daであった。ProFoundペプチドマッピングデータベース(Rockefeller University)を利用して、CD59がこれらのペプチドの供給源として同定される確率は1.00、推定Z値は1.92であった。CD59には1539.6 Da、1648.6 Da、2014.1 Daのペプチドが含まれる。
【0130】
4.確認
AR36A36.11.1と10A304.7によって識別される抗原がCD59であることを確認するために、MB−231膜を市販の研究用抗CD59抗体と交差免疫沈降させた。実施例3に記載の通り、マウス抗ヒトCD59であるクローンMEM−43(IgG2a)(Serotec, Raleigh, NC)50μgを25μLのプロテインGセファロースビーズと架橋させた。実施例3に記載の通り、抗CD59、AR36A36.11.1、8A3B.6 IgG2aアイソタイプ対照に結合させたビーズ25μLで150μg X 3のMB−231膜を免疫沈降させた。ビーズを45μLのPBSに再浮遊させて、次に15μLのSDS−PAGEサンプル緩衝液を加えて、サンプルは3分間沸騰させた。室温まで冷ました後、サンプルを4〜20% SDS−PAGEゲル(Bio−Rad, Mississauga, ON)の1ウェル毎に15μLのサンプルを添加した。前記の通りに電気泳動およびウエスタンブロットを実施した。5%スキムミルクに希釈させた3.33μg/mLの抗CD59 (MEM−43)、5μg/mLのAR36A36.11.1、5μg/mLの10A304.7、5μg/mLの8A3B.6 IgG2aアイソタイプ対照とメンブレンを2時間インキュベーションさせた。図5は、10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、パネルC)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、パネルD)をプローブに用いた、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、レーン3)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロットを示している。アイソタイプ対照(パネルD)をプローブに用いたメンブレンの場合、高分子量の領域において反応が現れたため、バックグラウンドと見なした。10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、抗CD59(パネルC)でインキュベートさせたブロットは、全3レーンにおいて染色が同じであり、低分子量バンドがAR36A36.11.1と抗CD59で免疫沈降させたメンブレンと特異的に反応している。これによって、10A304.7およびAR36A36.11.1によって識別される抗原がCD59であることが確認される。
【0131】
実施例5
正常ヒト組織の染色
IHC試験を実施して、ヒトにおける10A304.7およびAR36A36.11.1抗原の分布を特性付けした。更なる実験の条件を決定するために、IHC最適化試験が先に実施された。
【0132】
組織切片を58℃のオーブン内で1時間乾燥させることで脱パラフィン処理して、Coplin jar内のキシレンに4分間5回浸すことでワックス除去した。一連の段階的エタノール洗浄(100%〜75%)による処理後、水中で切片を再水和させた。次にスライドを10mM クエン酸緩衝液(pH6)(Dako, Toronto, Ontario)に浸して、高、中、低出力に設定したマイクロ波に5分間かけて、最後に冷PBS中に浸した。次にスライドを3%過酸化水素水溶液に6分間浸して、PBSで5分間3回洗い、乾燥させて、室温のUniversal blocking solution(Dako, Toronto, Ontario)中で5分間インキュベーションさせた。10A304.7およびAR36A36.11.1、モノクローナルマウス抗ビメンチン(Dako, Toronto, Ontario)、またはアイソタイプ対照抗体(哺乳動物の組織においては存在しない、または誘導されない酵素であるアスペルギルスニガーグルコース酸化酵素、Dako, Toronto, Ontario)を抗体希釈緩衝液(Dako, Toronto, Ontario)中で作業濃度(各抗体5μg/mL)にまで希釈させて、室温で1時間インキュベーションさせた。スライドをPBSで5分間3回洗った。HRP結合二次抗体(Dako Envision System, Toronto, Ontario)を用いて、室温で30分間、一次抗体の免疫反応を検出/可視化させた。この段階の後、スライドをPBSで5分間3回洗い、免疫ペルオキシダーゼ染色用DAB(3,3’−diaminobenzidine tetrahydrachloride、Dako, Toronto, Ontario)発色基質溶液を添加して、室温で10分間、発色反応を起こさせた。スライドを水道水で洗って、発色反応を終わらせた。Meyer’s Hematoxylin(Sigma Diagnostics, Oakville, ON)での対比染色後、、スライドを段階的エタノール(75〜100%)で脱水させて、キシレンで不要物を除去した。封入剤(Dako Faramount, Toronto, Ontario)を用いてスライドにカバーガラスを付けた。Axiovert 200(Ziess Canada, Toronto, ON)を用いてスライドを顕微鏡検査して、デジタル画像を撮影して、Northern Eclipse Imaging Software(Mississauga, ON)を用いて保存した。組織病理学者が結果を読み取り、得点化し、解釈した。
【0133】
ヒト正常臓器組織アレイ(Imgenex, San Diego, CA)を用いて59の正常ヒト組織へ抗体を結合させた。図6は、正常ヒト組織のアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1染色の結果を示している。AR36A36.11.1抗体は、主に、上皮組織(様々な臓器の血管内皮、皮膚および扁桃腺の扁平上皮、乳管上皮、鼻粘膜上皮、だ液腺の腺上皮および管上皮、肝臓の胆管上皮、膵臓の腺上皮およびランゲルハンス島、膀胱の粘膜上皮、前立腺の腺上皮に結合した。10A304.7抗体は、脾臓のリンパ球および好中球、末梢神経繊維、血管の平滑筋繊維、精巣のライディヒ細胞、胎盤の栄養膜組織への結合を示した。細胞は細胞質と膜に局在しており、広範な染色パターンを伴った。抗体は、主に、上皮組織(皮膚の脂線、乳管上皮、鼻粘膜、だ液腺の腺上皮および管上皮、血管内皮、膀胱の粘膜上皮、前立腺の腺上皮および筋上皮)に結合した。抗体は平滑筋繊維や栄養膜胎盤組織への結合も示した。10A304.7は、AR36A36.11.1との結合を示したヒト正常組織のサブグループに結合した(図7)。10A304.7およびAR36A36.11.1抗体は、過去に抗CD59抗体について報告された結合と一致するヒト組織への結合を示した。したがって、10A304.7およびAR36A36.11.1抗体は、ヒトでの使用に適用できる。
【0134】
実施例6
ヒト腫瘍組織の染色
10A304.7または36A36.11.1抗原がヒト腫瘍組織において発現しているか否かを判定するために、複数のヒト腫瘍組織アレイ(Imgenex, San Diego, CA)で抗体を個別に試験した。各患者について以下の情報を与えた:年齢、性別、器官、診断。利用した染色方法は、実施例5で開示した染色方法と同じであった。ヒト正常組織アレイについて記載されている通り、同じ陽性/陰性対照抗体を使用した。全ての抗体を作業濃度5μg/mLで使用した。
【0135】
図8に開示されている通り、試験した腫瘍の17/54(32%)にAR36A36.11.1抗体は結合した。抗体の結合は、2/17の腫瘍で強く、2/17で中程度、4/17で弱く、そして9/17で判定不能であった。腫瘍細胞および間質血管で組織特異性が認められた。細胞は膜と細胞質に局在しており、広範な染色パターンを伴った。試験した腫瘍の9/54(17%)に10A304.7抗体が結合した。抗体の結合は、4/54で中程度、2/54で弱く、そして3/54で判定不能であり、試験したいずれの腫瘍でも強い結合は認められなかった。腫瘍細胞および間質血管で組織特異性が認められた。細胞は膜と細胞質に局在しており、広範な染色パターンを伴った。正常ヒト組織と同様に、10A304.7抗体は、AR36A36.11.1が結合した腫瘍のサブグループに結合した。
【0136】
したがって、10A304.7およびAR36A36.11.1抗原が様々な腫瘍種の膜に局在していることが示された。これらの結果は、10A304.7とAR36A36.11.1抗体が、限定はされないが、皮膚癌、肝臓癌(図9)、膵臓癌を含む多種類の癌における治療薬としての可能性を持つことを示唆している。
【0137】
実施例7
ヒト肝臓腫瘍組織の染色
10A304.7がヒト腫瘍組織に結合するか否かをさらに評価するために、肝臓腫瘍組織アレイ(Imgenex, San Diego, CA)で抗体を試験した。各患者について以下の情報を与えた:年齢、性別、器官、診断。利用した染色方法は、実施例5で開示した染色方法と同じであった。ヒト正常組織アレイにおいて記載されている通り、同じ陰性対照抗体を使用した。使用した陽性対照抗体は、抗AFP(α1フェトプロテイン、クローンAFP−11Abcam, Cambridge, MA)であった。作業濃度10μg/mLで使用した抗AFPを除き、全ての抗体を作業濃度5μg/mLで使用した。
【0138】
図10に開示されている通り、10A304.7については、10/49(20%)の肝臓癌の切片に結合し、主に原発性肝細胞癌に結合していることが示された。原発性胆管癌および転移性胆管癌のいずれも抗体との50%の結合を示した。腫瘍細胞および血管内皮で組織特異性が認められた。抗体の結合と腫瘍の病期との間に関係は認められなかった。抗体は1/9の非腫瘍性肝臓組織の切片に対する弱い結合を示し、小血管の内皮に限定されなかった(図11)。10A304.7抗原は、肝臓腫瘍組織において特異的に発現していると考えられる。したがって、10A304.7は肝臓癌の治療における治療薬としての可能性を持っている。
【0139】
証拠の優勢から、10A304.7とAR36A36.11.1はCD59に存在するエピトープのライゲーションを通じて抗腫瘍効果を媒介することが示されている。実施例2〜4において、10A304.7およびAR36A36.11.1抗体を使用して、MDA−MB−231細胞などの発現細胞から同種抗原を免疫沈降できることが示されている。さらに、限定はされないが、FACS、細胞ELISA、IHCによって例示される方法を利用して、CD59抗原部分を発現し、CD59抗原部分に特異的に結合する細胞および/または組織の検出において10A304.7およびAR36A36.11.1抗体を使用可能であることを示すことができた。
【0140】
このように、免疫沈降させた10A304.7およびAR36A36.11.1抗原は、FACS、細胞ELISA、IHCアッセイを利用して、これらの細胞または組織への抗体の結合を抑制可能であることを示すことができた。さらに、10A304.7およびAR36A36.11.1抗体の場合と同様、他の抗CD59抗体を使用して、他の形状のCD59抗原を免疫沈降、単離させることが可能であり、同じ種類のアッセイを利用して、抗原を発現する細胞または組織へのこれらの抗体の結合を抑制するために抗原を使用することもできる。
【0141】
本明細書に記載の全ての特許および出版物は、本発明の当業者の水準を示している。全ての特許および出版物は、各出版物が具体的かつ個別に示されて、参照により本明細書に組み入れられるかのように、同程度に参照により本明細書に組み入れられる。
【0142】
特定の形の発明を例示しており、本明細書に記載し、示している部分の特定の形や配置に限定されないことを理解する必要がある。本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を施すことができ、本明細書に示し、記載したものに本発明が限定されないことは、当業者には明らかである。本発明が目的を実行して、本発明に本来備わっている目的や利点の他、記載の目的や利点を達成するために十分に適用されることを当業者であれば容易に理解しうる。本明細書に記載の任意のオリゴヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、生物学的に関連する化合物、方法、手順、技術は、ここでは好ましい態様を示しており、例示を意図しており、範囲を制限することを意図していない。本明細書における変更および他の用途は、当業者が考え付くものであり、本発明の精神に含まれ、添付の請求項の範囲によって定義される。本発明は特定の好ましい態様に関連して記載しているが、主張の通り、本発明はこれらの特定の態様に限定されないことを理解する必要がある。実際に、当業者には明らかな本発明の実施方法に関する様々な改変が、以下の請求の範囲に含まれることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】細胞毒性アッセイにおける10A304.7対陽性/陰性対照の比較。
【図2】AR36A36.11.1(パネルA)および10A304.7(パネルB)をプローブに用いたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロット。分子量マーカーを左に示している。
【図3】10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、IgG2aアイソタイプ対照(8A304.7、パネルC)、IgG2bアイソタイプ対照(8B1B.1、パネルD)をプローブに用いたウエスタンブロット。レーン1〜4は、10A304.7(レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A304.7、レーン3)、IgG2bアイソタイプ対照(8B1B.1、レーン4)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜である。レーン5はMDA−MB−231膜タンパク質であり、レーン6はシアリダーゼA、O−グリカナーゼ、β(1−4)ガラクトシダーゼ、β−N−アセチルグルコサミニダーゼ、PNGaseFで脱グリコシル化させた脱グリコシル化MDA−MB−231膜タンパク質である。分子量マーカーを左に示している。
【図4】AR36A36.11.1(レーン1)およびIgG2aアイソタイプ対照(レーン2)で免疫沈降させたMDA−MB−231のコロイドブルー染色(パネルA)およびウエスタンブロット(パネルB)。分子量マーカーを左に示している。
【図5】10A304.7(パネルA)、AR36A36.11.1(パネルB)、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、パネルC)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、パネルD)をプローブに用いた、マウス抗ヒトCD59(MEM−43、レーン1)、AR36A36.11.1(レーン2)、IgG2aアイソタイプ対照(8A3B.6、レーン3)で免疫沈降させたMDA−MB−231膜タンパク質のウエスタンブロット。分子量マーカーを左に示している。
【図6A】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図6B】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図6C】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図7】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはAR36A36.11.1(B)または抗アクチン(C)または陰性アイソタイプ対照(D)で得られたヒト正常子宮内膜/分泌組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7では染色は陰性を示し、AR36A36.11.1は血管内皮での染色は弱陽性を示した(矢参照)。倍率は200Xである。
【図8A】様々なヒト腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図8B】様々なヒト腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図8C】様々なヒト腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7およびAR36A36.11.1に対する陽性/陰性対照の比較。
【図9】ヒトの複数腫瘍組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはAR36A36.11.1(B)または抗アクチン(C)または陰性アイソタイプ対照(D)で得られたヒト正常子宮内膜/分泌組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7およびAR36A36.11.1では腫瘍細胞に対して染色は陽性を示した。倍率は200Xである。
【図10】ヒト肝臓腫瘍および正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7結合のまとめ。
【図11】ヒト正常組織でのマイクロアレイにおける10A304.7(A)またはアイソタイプ対照抗体(B)で得られた肝細胞癌組織、および10A304.7(C)またはアイソタイプ対照抗体(D)で得られた非腫瘍肝臓組織での結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。10A304.7では腫瘍細胞において染色は強陽性を示し、正常組織において染色は陰性を示した。倍率は200Xである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD59へ特異的に結合できるモノクローナル抗体またはリガンドであり、前記モノクローナル抗体またはそのリガンドが、ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7から得られた単離モノクローナル抗体と同じヒトCD59のエピトープまたはエピトープ群と反応して、前記モノクローナル抗体またはリガンドが前記単離モノクローナル抗体のその標的ヒトCD59抗原への結合を競合阻害できることを特徴とする、モノクローナル抗体またはリガンド。
【請求項2】
ヒトCD59へ特異的に結合できるモノクローナル抗体またはリガンドであり、前記モノクローナル抗体またはそのリガンドが、IDAC Accession No.280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1から得られた単離モノクローナル抗体と同じヒトCD59のエピトープまたはエピトープ群と反応して、前記モノクローナル抗体またはリガンドが前記単離モノクローナル抗体のその標的ヒトCD59抗原への結合を競合阻害できることを特徴とする、モノクローナル抗体またはリガンド。
【請求項3】
ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7およびIDAC Accession No.280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1からなるグループから選択されるハイブリドーマによって産生される単離モノクローナル抗体が識別するエピトープまたはエピトープ群と同じエピトープまたはエピトープ群を識別するモノクローナル抗体またはリガンドであり、前記モノクローナル抗体またはリガンドが前記単離モノクローナル抗体のその標的ヒトCD59抗原への結合を競合阻害できることを特徴とする、モノクローナル抗体またはリガンド。
【請求項4】
ヒトCD59抗原を発現するヒト癌性腫瘍の治療過程であり、ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7およびIDAC Accession No.280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1からなるグループから選択されるハイブリドーマによって産生される単離モノクローナル抗体が識別するのと同じエピトープまたはエピトープ群を識別する少なくとも1つのモノクローナル抗体またはリガンドの前記ヒト癌を患う個人への投与を含み、前記エピトープまたはエピトープ群の結合が全身腫瘍組織量の減少に効果的である治療過程。
【請求項5】
ヒトCD59抗原を発現するヒト癌性腫瘍の治療過程であり、少なくとも1つの化学療法剤との併用での、ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7およびIDAC Accession No. 280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1からなるグループから選択されるハイブリドーマによって産生される単離モノクローナル抗体が識別するのと同じエピトープまたはエピトープ群を識別する少なくとも1つのモノクローナル抗体またはリガンドの前記ヒト癌を患う個人への投与を含み、前記投与が全身腫瘍組織量の減少に効果的である治療過程。
【請求項6】
ヒト腫瘍から選択される組織サンプルにおいてCD59のエピトープまたはエピトープ群を発現する癌性細胞の有無を判定するための結合アッセイであり、前記ヒト腫瘍由来の組織サンプルの提供、ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7およびIDAC Accession No.280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1からなるグループから選択されるハイブリドーマによって産生される単離モノクローナル抗体が識別するのと同じエピトープまたはエピトープ群を識別する少なくとも1つのモノクローナル抗体またはリガンドの提供、前記の少なくとも1つのモノクローナル抗体またはそのリガンドと前記組織サンプルとの接触、および前記の少なくとも1つのモノクローナル抗体またはそのリガンドと前記組織サンプルとの結合、これにより前記組織サンプルにおける前記癌性細胞の有無を示す結合アッセイ。
【請求項1】
ヒトCD59へ特異的に結合できるモノクローナル抗体またはリガンドであり、前記モノクローナル抗体またはそのリガンドが、ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7から得られた単離モノクローナル抗体と同じヒトCD59のエピトープまたはエピトープ群と反応して、前記モノクローナル抗体またはリガンドが前記単離モノクローナル抗体のその標的ヒトCD59抗原への結合を競合阻害できることを特徴とする、モノクローナル抗体またはリガンド。
【請求項2】
ヒトCD59へ特異的に結合できるモノクローナル抗体またはリガンドであり、前記モノクローナル抗体またはそのリガンドが、IDAC Accession No.280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1から得られた単離モノクローナル抗体と同じヒトCD59のエピトープまたはエピトープ群と反応して、前記モノクローナル抗体またはリガンドが前記単離モノクローナル抗体のその標的ヒトCD59抗原への結合を競合阻害できることを特徴とする、モノクローナル抗体またはリガンド。
【請求項3】
ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7およびIDAC Accession No.280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1からなるグループから選択されるハイブリドーマによって産生される単離モノクローナル抗体が識別するエピトープまたはエピトープ群と同じエピトープまたはエピトープ群を識別するモノクローナル抗体またはリガンドであり、前記モノクローナル抗体またはリガンドが前記単離モノクローナル抗体のその標的ヒトCD59抗原への結合を競合阻害できることを特徴とする、モノクローナル抗体またはリガンド。
【請求項4】
ヒトCD59抗原を発現するヒト癌性腫瘍の治療過程であり、ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7およびIDAC Accession No.280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1からなるグループから選択されるハイブリドーマによって産生される単離モノクローナル抗体が識別するのと同じエピトープまたはエピトープ群を識別する少なくとも1つのモノクローナル抗体またはリガンドの前記ヒト癌を患う個人への投与を含み、前記エピトープまたはエピトープ群の結合が全身腫瘍組織量の減少に効果的である治療過程。
【請求項5】
ヒトCD59抗原を発現するヒト癌性腫瘍の治療過程であり、少なくとも1つの化学療法剤との併用での、ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7およびIDAC Accession No. 280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1からなるグループから選択されるハイブリドーマによって産生される単離モノクローナル抗体が識別するのと同じエピトープまたはエピトープ群を識別する少なくとも1つのモノクローナル抗体またはリガンドの前記ヒト癌を患う個人への投与を含み、前記投与が全身腫瘍組織量の減少に効果的である治療過程。
【請求項6】
ヒト腫瘍から選択される組織サンプルにおいてCD59のエピトープまたはエピトープ群を発現する癌性細胞の有無を判定するための結合アッセイであり、前記ヒト腫瘍由来の組織サンプルの提供、ATCC Accession No.PTA−5065を有するハイブリドーマ細胞株10A304.7およびIDAC Accession No.280104−02を有するハイブリドーマ細胞株AR36A36.11.1からなるグループから選択されるハイブリドーマによって産生される単離モノクローナル抗体が識別するのと同じエピトープまたはエピトープ群を識別する少なくとも1つのモノクローナル抗体またはリガンドの提供、前記の少なくとも1つのモノクローナル抗体またはそのリガンドと前記組織サンプルとの接触、および前記の少なくとも1つのモノクローナル抗体またはそのリガンドと前記組織サンプルとの結合、これにより前記組織サンプルにおける前記癌性細胞の有無を示す結合アッセイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−531293(P2009−531293A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555587(P2008−555587)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/CA2007/000280
【国際公開番号】WO2007/095747
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(504236592)アリアス リサーチ、インコーポレイテッド (28)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/CA2007/000280
【国際公開番号】WO2007/095747
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(504236592)アリアス リサーチ、インコーポレイテッド (28)
【Fターム(参考)】
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