説明

CNT分散剤及びそれを用いたCNT分散液

【課題】CNTを水に短時間で高濃度に分散する分散剤を提供する。
【解決手段】(1)ジアリルアミン系カチオン性ポリマー(2)アニオン性界面活性剤、(3)ノニオン性界面活性剤からなる分散剤により短時間で高濃度に分散できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(以下CNTと略す)を均一に分散させる分散剤及びその分散剤を用いた分散液の製造方法に関する。より詳しくはCNTを水に均一に分散させる分散剤及びその分散剤を用いた分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CNTはナノオーダーの直径を有すること、炭素原子のみで構成されることから導電性、熱伝導性、機械的強度など特異な性質を示すことから様々な用途への利用が期待される物質である。
【0003】
CNTがこのような物性を示すためには溶媒に均一に分散していることが有益である。また、環境への影響を考慮すると、溶媒は水であることが好ましい。カーボンナノチューブを溶媒に分散させる方法としてアセトンにCNTを添加し、超音波分散を行うことにより分散させる方法(特許文献1)、CNTをドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む水溶液に添加し、分散させる方法(特許文献2)、CNTを酸化性の酸に添加し、CNT表面に官能基を導入する方法(特許文献3)などが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に示される方法では有機溶剤への分散は行えるものの、水への分散は困難である。特許文献2に記載される方法では水への分散は行えるものの、その分散濃度は1%以下と低く、有効な手段とは言い難い。特許文献3に記載される方法では操作が複雑になり、不必要な表面欠損を招き、CNTの特性が発揮されない可能性がある。特許文献4には5%以上の濃度まで分散させる方法が開示されているが、CNTの種類、が異なり、評価方法は粘度5000mPa・s以上になることから十分な分散性を得られているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−086219号公報
【特許文献2】特開平6−228824号公報
【特許文献3】特開2003−095624号公報
【特許文献4】特開2005−263608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような実情を考慮し、CNTの機能を低下させることなく、CNTを水に短時間で高濃度に分散させることを目的とし、なされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は(1)ジアリルアミン系カチオン性ポリマーと(2)アニオン性界面活性剤、(3)ノニオン性界面活性剤からなる分散剤を含む水溶液にCNTを添加し分散させることによって達成される。
【0008】
本発明では、分散剤によるCNT同士の相互作用の緩和と機械的分散によりCNTを分散させるため、CNT表面を直接化学修飾することはなく、不必要な表面欠損を招く恐れはない。また、カチオン性ポリマーとアニオン性界面活性剤がイオンコンプレックスをつくることにより、CNT表面と相互作用を示す部分と疎水性を示す部分が有効に働き、分散効果が向上するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、CNTの機能を低下させることなく、CNTを水に短時間で高濃度に分散させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、(1)ジアリルアミン系カチオン性ポリマーと(2)アニオン性界面活性剤、(3)ノニオン性界面活性剤からなる分散剤を含む水溶液にCNTを添加分散させることによって達成される。
【0011】
本発明に使用される分散剤は(1)ジアリルアミン系カチオンポリマーと(2)アニオン性界面活性剤、(3)ノニオン性界面活性剤からなる分散剤を含む水溶液を作成することでイオンコンプレックスにより部分疎水化されたポリマーと界面活性剤の作用によりCNTを一本一本に孤立させ、高濃度に分散させるものである。
【0012】
CNTはアーク放電法、CVD法、レーザー・アブレーション法などの方法で製造されるが、本発明の分散剤はいずれの方法で作成したCNTにも適用される。また、CNTはその層の構成数から一層構造のシングルウォールカーボンナノチューブ(以下SWCNTと略す)、二層構造のダブルウォールカーボンナノチューブ(以下DWCNTと略す),二層以上の構造のマルチウォールカーボンナノチューブ(以下MWCNT略す)などに分けられるが、本発明の分散剤はSWCNT,DWCNT,MWCNTのいずれのCNTにも使用可能である。
【0013】
CNTは直径数〜数十nm、長さ1〜500μmの構造を有しているが、本発明の分散剤は上記の範囲の大きさであればいずれの大きさにも対応可能である。
【0014】
本発明の分散剤は(1)ジアリルアミン系カチオンポリマーと(2)アニオン性界面活性剤、(3)ノニオン性界面活性剤で構成される。
【0015】
本発明の分散剤のジアリルアミン系カチオンポリマーはジアリルアミンの塩酸塩、硫酸塩などの2級アミン塩ポリマー、ジアリルジアルキルアンモニウムクロライド、ジアリルジアルキルアンモニウムブロマイドなどの4級アンモニウム塩ポリマーなどが挙げられるが、これらのうち、4級アンモニウム塩ポリマーが好ましく、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(以下DADMACと略す)が特に好ましい。
【0016】
本発明の分散剤のジアリルアミン系カチオンポリマーは特定の分子量を有していることを特徴とする。本発明の分散剤のジアリルアミン系カチオンポリマーは少なくとも70重量%以上が1〜5万の分子量を有するジアリルアミン系ポリマーで構成される。分散剤は1〜5万の分子量を有するポリマーのみでもCNTを分散可能であるが、分子量10〜30万のポリマーを併用することにより、分散性の向上が達成される。その理由は定かではないが、比較的低分子量のポリマーはCNT表面と相互作用を起こし、分散させるのに対して、比較的高分子量のポリマーはその粘性により再凝集を抑制する効果を示し、結果として分散性が向上するものと考えられる。
【0017】
本発明の分散剤のアニオン性界面活性剤は水溶性を有するものであれば特に限定されない。例えば、ラウリルスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩などのアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤などが挙げられる。特にアルキルスルホン酸塩が好ましい。
【0018】
本発明の分散剤のノニオン性界面活性剤は水溶性を有するものであれば特に限定されない。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤が挙げられる。特にポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。HLBは15〜20の範囲であることが特に好ましい。
【0019】
本発明の分散剤のカチオンポリマーとアニオン性界面活性剤の比率は1:0.1〜1:0.5重量%であることが望ましい。アニオン活性剤の比率が0.1重量%以下であると生成するイオンコンプレックス部分が少なく、十分な分散性が付与できない。またアニオン活性剤の比率が0.5重量%以上となるとイオンコンプレックス部分が多すぎ、不溶解性のポリマーが析出してしまうため好ましくない。
【0020】
本発明の分散剤のカチオンポリマーとノニオン性界面活性剤の比率は1:0.5〜1:2.0重量%が望ましい。ノニオン性界面活性剤はCNT表面への相互作用とカチオンポリマーとアニオン界面活性剤によってできたイオンコンプレックスの分散作用の両方に寄与していると考えられる。ノニオン界面活性剤の比率が0.5重量%以下になるとイオンコンプレックスを分散させるのに不十分なため、不溶解性のポリマーが析出してしまうため好ましくない。ノニオン性界面活性剤の比率が2.0重量%以上になると分散剤成分が過剰になってしまうため、分散性を損なう恐れがある。
【0021】
本発明の分散剤の使用量はCNTの大きさや分散濃度によって異なるが、CNTに対して1〜5倍で使用されることが好ましい。1倍以下であるとその効果は小さく、分散性が乏しかったり、経時によりCNTが凝集するなど問題が生じる恐れがある。5倍以上であると使用量を増やすことによる分散性の向上はみられないばかりか、分散性を損ねる場合があり、多量に使用することで経済的にも不利となる。
【0022】
本発明においてCNTを分散させる溶媒は水であることが好ましい。
【0023】
本発明の分散方法はホモジナイザー、ホモミキサー、ウルトラミキサーなどの高せん断分散機やビーズミル、サンドミルなどの湿式メディア型分散機、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなど公知の分散方法のいずれも使用できるが、泡立ちの発生や夾雑物の混入の点で超音波ホモジナイザーにより分散させるのが特に好ましい。
【0024】
超音波処理を行う際は分散液の温度が上がることによる水の蒸発防止とCNTの凝集防止のために冷却しながら行うことが望ましい。
【0025】
次に本発明の分散液の評価方法について説明する。本発明の分散液を高速遠心分離機を用いて遠心力1000×gで遠心分離処理し、遠心分離前後の分散液のCNT濃度を紫外可視分光光度計により測定し、分散率を算出した。分散率90%以上を分散性良好と判断した。
分散率(%)=遠心分離後のCNT濃度/遠心分離前のCNT濃度
【実施例】
【0026】
以下に本発明の具体的な実施例を示し、さらに説明するものとする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例内に示す部は重量部を示し、分子量はゲル濾過クロマトグラフィー(CO−8020,RI−8020,SD−8022,PX−8020、東ソー社製、標準ポリスチレン)を用いて測定した。
【0027】
実施例1
DADMACポリマーA2.4部(分子量3万)、DADMACポリマーB(分子量20万)1.0部、ラウリル硫酸ナトリウム0.6部、ポリオキシエチレンオレイルエーテル2.0部、水94.0部を混合、攪拌し、固形分6.0重量部の分散剤Aを得た。
【0028】
実施例2
DADMACポリマーAをDADMACポリマーC(分子量1万)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Bを得た。
【0029】
実施例3
DADMACポリマーAをDADMACポリマーD(分子量5万)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Cを得た。
【0030】
実施例4
DADMACポリマーBをDADMACポリマーE(分子量10万)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Dを得た。
【0031】
実施例5
DADMACポリマーBをDADMACポリマーF(分子量30万)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Eを得た。
【0032】
実施例6
ラウリル硫酸ナトリウムをステアリル硫酸ナトリウムに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Fを得た。
【0033】
実施例7
ポリオキシエチレンオレイルエーテルをポリオキシエチレンラウリルエーテルに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Gを得た。
【0034】
比較例1
DADMACポリマーA3.4部、ラウリル硫酸ナトリウム0.6部、ポリオキシエチレンオレイルエーテル2.0部、水94.0部を混合、攪拌し、固形分6.0重量部の分散剤Hを得た。
【0035】
比較例2
DADMACポリマーAをDADMACポリマーG(分子量7万)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤1を得た。
【0036】
比較例3
DADMACポリマーBをDADMACポリマーH(分子量40万)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Jを得た。
【0037】
比較例4
DADMACポリマーAを水に変更し,DADMACポリマーBの量を3.4重量部に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Kを得た。
【0038】
比較例5
ラウリル硫酸ナトリウムとポリオキシエチレンオレイルエーテルを水に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分3.4重量部の分散剤Lを得た。
【0039】
比較例6
ポリオキシエチレンオレイルエーテルを水に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分4.0重量部の分散剤Mを得た。
【0040】
比較例7
ラウリル硫酸ナトリウムを水に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分5.4重量部の分散剤Nを得た。
【0041】
比較例8
DADMACポリマーAをメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドポリマー(分子量3万)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、固形分6.0重量部の分散剤Oを得た。
【0042】
性能評価例
実施例及び比較例に示した分散剤にMWCNTを混合攪拌し、超音波分散機(US−150T,日本精機製作所製)で30分間超音波処理を行った。得られた分散液を目視確認し、均一であったものは分散率を測定した。分散率の測定結果は表−1に示す。
【0043】
【表−1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)分子量が1〜5万であるジアリルアミン系カチオン性ポリマー70〜90重量%及び分子量10〜30万であるジアリルアミン系カチオン性ポリマー10〜30重量%からなるジアリルアミン系カチオン性ポリマー混合物、(2)アニオン性界面活性剤、(3)ノニオン性界面活性剤を含む水溶液からなるCNT分散剤。
【請求項2】
ジアリルアミン系カチオンポリマーがジアリルジメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項1に記載のCNT分散剤。
【請求項3】
アニオン性界面活性剤がアルキルスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載のCNT分散剤。
【請求項4】
ノニオン性界面活性剤がポリオキシアルキレンアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載のCNT分散剤。
【請求項5】
請求項1に記載の分散剤を用いることを特徴とするCNT分散液。

【公開番号】特開2010−241668(P2010−241668A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105681(P2009−105681)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(391003473)センカ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】