CNT浸出EMI遮蔽複合材料及びコーティング
電磁妨害(EMI)遮蔽用途に使用され、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含む複合材料。前記複合材料は、約0.01MHzから約18GHzの範囲の周波数において、電磁(EM)放射を吸収すること、もしくはEM放射を反射すること、又はその両方が可能である。電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲である。
マトリクス材の一部に、前記マトリクス材内でCNT浸出繊維材料の配向が制御された状態でCNT浸出繊維材料を配置することと、前記マトリクス材を硬化することとを含む複合材料の製造方法。
複合材料を含み、EMI遮蔽用途に使用される装置と適合するよう調整可能なパネル。前記パネルは、電気接地をさらに備える。
マトリクス材の一部に、前記マトリクス材内でCNT浸出繊維材料の配向が制御された状態でCNT浸出繊維材料を配置することと、前記マトリクス材を硬化することとを含む複合材料の製造方法。
複合材料を含み、EMI遮蔽用途に使用される装置と適合するよう調整可能なパネル。前記パネルは、電気接地をさらに備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に関する記載)
本出願は、2009年4月24日に出願された米国仮出願第61/172,503号及び2009年4月28日に出願された米国仮出願第61/173,435号の利益を主張し、これらの出願の全ての内容は参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して電磁(EM)放射を吸収する材料に関する。
【背景技術】
【0003】
電気回路及び電子回路の動作は、電磁誘導又は外部放射源から放射された電磁放射に起因する望ましくない障害により悪影響を受けるおそれがある。このような望ましくない障害は、電気回路及び電子回路の効率的な動作を、中断し、妨害し又は低下させることがある。外部の電磁妨害(EMI)から電気回路及び電子回路を遮蔽するためのハウジング構造が開発された。EMI遮蔽は、一般に、密閉空間への電磁場の侵入を制限するように構成されたハウジング構造を備えることにより行われる。ハウジング構造は、電磁場を遮断するバリアとして機能する「ファラデー箱(Faraday cage)」として知られる導体材料を使用して組み立てられる。より具体的には、当該技術分野で周知のように、ファラデー箱は、導体材料により形成された筐体であり、外部の電磁妨害を遮蔽するために使用することができる。ハウジング構造が外部の電磁力を受けた場合、導電性ハウジング構造内に電流が生じ、そしてこの電流が反対方向の電磁力を発生させ、外部の電磁力を相殺する。
【0004】
同様に、避雷設備は、雷電流の低インピーダンス経路を提供し、さらに導電性ハウジング構造を流れる電流の加熱効果を低下させるために導電性ハウジングを利用する。低下した加熱効果は、落雷による火災の危険性を軽減する。
【0005】
一般に、このようなEMI遮蔽ハウジング構造又は避雷用途の組立に使用される導電性材料には、銅及びアルミニウム等の高い導電性の金属が含まれる。しかしながら、これらの金属は比較的重い。複合金属等の軽い金属又は炭素等の導電性繊維からなる「複合材料」でさえ、一般に絶縁しているため、マトリクス材(matrix material)(例えば、樹脂)の存在による低いEMI遮蔽特性及び避雷特性を有する。このような複合材料は、その特性は望ましいとはいえ、高いEMI遮蔽又は避雷特性を要する用途に適さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合材料のEMI遮蔽特性及び避雷特性を向上させるために、金属充填剤(metal filler)、金属コーティング(metal coating)、金属メッシュ(metal mesh)又は他の金属部材が、複合材料に組み込まれている。しかしながら、このような組み込みにより、複合材料は、重量化し、より複雑になる。EMI遮蔽又は避雷用途に使用するのに適切な他の複合材料が望ましい。本発明は、この要求を満たし、これに関連した利点をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある態様において、本明細書で開示される実施形態は、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(carbon nanotube, CNT)浸出繊維材料を含んで構成される電磁妨害(EMI)遮蔽用途に使用される複合材料に関する。前記複合材料は、約0.01MHzから約18GHzまでの周波数帯域において、電磁(EM)放射の吸収、EM放射の反射又はこれらの両方が可能である。電磁妨害(EMI)遮蔽効果(shielding effectiveness, SE)として測定される複合材料のEM遮蔽能力は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲である。
【0008】
ある態様において、本明細書で開示される実施形態は、マトリクス材内でCNT浸出繊維材料の配向が制御された状態で、マトリクス材の少なくとも一部にCNT浸出繊維材料を配置すること及びマトリクス材を硬化させることを含む、上記複合材料の製造方法に関する。CNT浸出繊維材料の制御された配向は、複合材料構造全体中のCNT浸出繊維材料に浸出されたCNTの相対配向を制御する。
【0009】
ある態様において、本明細書で開示される実施形態は、上記複合材料を含むパネルに関する。前記パネルは、EMI遮蔽用途に使用する装置と整合するように調整可能である。さらに、前記パネルは、電気接地(electrical ground)を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長した多層CNT(MWNT)の投下型電子顕微鏡(TEM)画像。
【図2】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長した二層CNT(DWNT)のTEM画像。
【図3】CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料表面に浸出された部分のバリアコーティング(barrier coating)内部から成長したCNTの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図4】炭素繊維材料上で目標とする長さである約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像。
【図5】CNT成長におけるバリアコーティングの効果を明示するSEM画像。バリアコーティングが適用された部分では高密度かつ良好な配列のCNTが成長し、バリアコーティングが存在しない部分ではCNTは成長しなかった。
【図6】繊維全域における約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTの低倍率SEM画像。
【図7】カーボンナノチューブ浸出繊維材料を有するレーダー吸収複合材料の断面図。
【図8】EMI遮蔽パネル等の部材上のEMI遮蔽材料として使用するために調整されたカーボンナノチューブ浸出繊維トウ(tow)。
【図9】複合材料のEMI遮蔽特性を向上させるために複合材料に適用されたカーボンナノチューブ浸出繊維トウコーティング。
【図10】カーボンナノチューブ浸出繊維用のコーティングシステムの概略図。
【図11】本発明の実施形態によるCNT浸出繊維材料を製造するための処理。
【図12】EMI遮蔽を含む熱伝導性及び電気伝導性の向上を目的とした連続処理において、どのように炭素繊維材料にCNTが浸出されるかを示す。
【図13】EMI遮蔽を含む熱伝導性及び電気伝導性の向上を目的とした連続処理において、どのようにガラス繊維材料にCNTが浸出されるかを示す。
【図14】CNT浸出ガラス繊維エポキシ複合材料のEMI遮蔽有効性。
【図15】CNT浸出炭素繊維エポキシ複合材料のEMI遮蔽有効性。
【図16】複合材料中のCNT重量%の関数としての、CNT浸出複合材料の平均EMI遮蔽有効性のグラフ。
【図17】複合材料中のCNT重量%の関数としての、低周波数帯域におけるCNT浸出複合材料の平均EMI遮蔽有効性のグラフ。
【図18】複合材料中のCNT重量%の関数としての、高周波数帯域におけるCNT浸出複合材料の平均EMI遮蔽有効性のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1つには、EMI遮蔽を提供する複合材料を目指すものである。本明細書に開示されるEMI遮蔽複合材料は、マトリクス材の一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を有する。CNTは、高アスペクト比を有することで、望ましい電磁吸収性を備える。本発明の複合材料中のCNTは、広範囲のEM放射周波数を吸収し、吸収したエネルギーを、例えば、電気接地へ又は熱として消散させることができる。CNTはまた、機構的にEM放射を反射することができる。その上、EMI遮蔽用途において、吸収及び反射のいずれの組み合わせも、電磁放射の透過率が最小化される限りは有用である。実用可能な機構に関わらず、そして、理論に制限されることなく、本発明の複合材料は、かなりの電磁妨害を減少又は防止することができる。
【0012】
本発明のEMI遮蔽複合材料は、既にEMI遮蔽用途に使用されている材料の遮蔽特性を向上させることができる。ある実施形態において、CNT浸出繊維は、誘電性及び導電性複合材料のEMI遮蔽を向上させ、結果として、軽量で高強度の複合材料がもたらされる。このような複合材料の中には、その本質的に低いEMI遮蔽能力のために、以前は用途が制限されていたものもある。
【0013】
本発明のEMI遮蔽複合材料は、可視スペクトル、赤外(IR)スペクトル及び様々なレーダー帯域の他の部分を含んだ電磁スペクトルの異なる領域にわたってほとんど黒体である吸収表面を提供することができる。黒体様の性質を実現するために、繊維材料上のCNT密度が制御される。したがって、例えば、CNT浸出繊維材料の屈折率は、空気の屈折率に厳密に一致するように調整される。フレネルの法則(Fresnel's law)によれば、このとき反射率が最小となる。反射率の最小化は、EM吸収の最適化には有用であるが、本発明の複合材料はまた、EMI遮蔽層の透過率が最小となるように設計することもできる。言い換えれば、吸収は、EMI遮蔽を提供できる限りにおいては有益である。CNT浸出繊維材料により効果的に吸収されない特定の波長に対して、反射率又はCNT浸出繊維材料により吸収されない放射を吸収できる第2構造を提供することは有益である。これに関し、交互に並んだ吸収特性を提供するために、異なるCNT浸出繊維材料の漸進的な層化を提供するのが有益なことがある。多層材料にかえて又は加えて、CNT浸出繊維材料であってもよい反射材料を組み込むことも有益である。このように、例えば、本発明の複合材料は、CNT浸出繊維材料を含んで構成される吸収層又は反射層を複数有する。
【0014】
繊維材料自体は、EM放射吸収にエネルギーを消散させる効果的なパーコレーション経路(percolation pathway)を形成するのに十分なCNT密度を全体に備えた複合材料を提供するCNTの配列を形成する足場である。浸出されたCNTは、EM放射吸収を最大化するために、繊維材料上及び複合材料全体で、均一な長さ、密度及び制御された配向を有するように、適合することができる。
【0015】
EM遮蔽特性をCNTに依存することにより、複合材料は、導電又は絶縁している繊維材料又はマトリクスを利用することができる。その上、EMI遮蔽複合材料は、それが用いられている部材の表面構造の一部として一体化することができる。ある実施形態において、表面だけでなく全部材が、EMI遮蔽として機能する。ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、EMI遮蔽用途に用いるために予め組み立てられた複合材料のコーティングとして使用することができる。
【0016】
上記EM遮蔽材料のためのCNT浸出繊維を形成する製造処理は、本明細書の以下に記載される。前記処理は、大規模連続処理に適している。前記処理において、CNTは、炭素、ガラス、セラミック又はトウもしくはロービング(roving)等の類似した巻取り可能な寸法の繊維材料に直接的に成長する。CNTの成長は、約5ミクロから約500ミクロまでの間で調整可能な長さの深い森(dense forest)状に堆積する性質があり、前記長さは以下に記載した様々な要素により制御されている。この森は、CNTが繊維材料のそれぞれのフィラメント(filament)の表面に対して垂直であるように配向することができ、このようにして半径方向に被覆する。ある実施形態において、繊維材料の軸に対して平行な配向を与えるように、CNTをさらに処理することができる。結果として得られたCNT浸出繊維材料は、製品として巻き取られるか、又はEMI遮蔽用途に用いられるEMI遮蔽複合材料を製造するためのファブリック製品(fabric goods)に織り込まれる。
【0017】
本明細書において、「EMI遮蔽複合材料」とは、マトリクス材に配置されたCNT浸出繊維材料を少なくとも有し、透過率を最小化するとともに電磁放射を吸収又は反射することができる全ての複合材料をいう。本発明のEMI遮蔽複合材料は、少なくとも3つの構成要素、すなわちCNT、繊維材料及びマトリクス材を有する。これらの構成要素は、階層構造を形成するが、ここではCNTは、浸出された繊維材料によりまとめられている。同様に、CNT浸出繊維材料は、それが配置されたマトリクス材によりまとめられる。これは、一般に、ブレンディング(blending)、ミキシング(mixing)、押し出し成形又は引き抜き成形等の様々な技術によって作られる遊離カーボンナノチューブを利用する複合材料とは対照的である。本発明のEMI遮蔽複合材料のCNTは、送信源からの電磁放射を吸収又は反射することができる。吸収された電磁放射は全て、例えば、電気信号に変換されるか、電気接地に供給されるか、又は熱に変換される。
【0018】
本明細書において、「電磁放射」又は「EM放射」とは、約0.01メガヘルツから約300ギガヘルツまでの全てのEM周波数をいう。本発明のEMI遮蔽複合材料は、以下でさらに記載する低周波数(LFからUHF)及び高周波数(LからK帯域)レーダー帯域において、特に効果的である。
【0019】
本明細書において、「電磁妨害」又は「EMI」とは、電子機器が他の発生源からの電磁場(EM場)の近くにある場合の動作の阻害をいう。「EMI遮蔽」は、このような妨害から保護することができる材料を用いる処理である。このような材料は、妨害している電磁放射を吸収又は反射することができる。「EMI遮蔽有効性」、「EMI−SE」、「遮蔽有効性」もしくは「SE」又はこれらの文法的な均等物は、他の発生源の電磁場による減衰/妨害から電子機器を保護する物質の能力の標準化された尺度をいう。EMI−SEは、遮蔽前の妨害電磁信号の強度と、遮蔽後の強度との間の差の関数として計測され、一般的には、メガヘルツ(MHz)、ギガヘルツ(GHz)等のヘルツ(Hz)で計測された特定の周波数で、デシベル(dB)で計測される。
【0020】
本明細書において、「EM遮蔽能力」とは、任意の周波数の電磁放射を吸収又は反射する本発明の複合材料の能力をいう。これは、標準化されたEMI−SE計測により計測することができる。
【0021】
本明細書において、「繊維材料」とは、その基本的な構成成分として繊維を有する全ての材料をいう。この用語は、繊維、フィラメント(filament)、ヤーン(yarn)、トウ(tow)、テープ(tape)、織物(woven)及び不織布(non-woven)製品、プライ(ply)、マット(mat)、3D織物構造物(woven structure)等を包含する。繊維材料は、炭素、ガラス、セラミック、金属及びアラミド等の有機繊維又はシルク、セルロース系繊維等の天然有機繊維を含む有機又は無機材料のいずれであってもよい。
【0022】
本明細書において、「巻取り可能な寸法」は、長さには限定されない少なくとも1つの寸法を有し、これにより材料をスプール又はマンドレル(mandrel)に保存可能となった繊維に言及する。「巻取り可能な寸法」の繊維材料は、本明細書に記載されたCNT浸出のためのバッチ又は連続処理のいずれか一方の使用を示唆する少なくとも1つの寸法を有する。「巻取り可能な寸法」の繊維材料は、市販のガラス、炭素、セラミック及び類似する製品として入手できる。代表的な市販の巻取り可能な寸法の炭素繊維材料として、800テックス(1テックス=1g/1000m)又は620ヤード/lb(Grafil, Inc., Sacramento, CA)のAS4の12k炭素繊維トウが例示される。特に、市販の炭素繊維トウの場合には、5,10,20,50及び100lb(重たいスプール用。通常は3k/12Kトウ)の形で入手できるが、さらに大きいスプールの場合には特注の必要があるかもしれない。本発明の処理は、より大きなスプールを使用可能であるが、5から20lbスプールで動作しやすい。また、例えば、100lb以上の極めて大きな巻取り可能な長さを、2つの50lbスプール等の扱いやすい寸法に分割する前処理を組み込むこともできる。
【0023】
本明細書において、「カーボンナノチューブ(CNT)」は、単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotube, SWNT)、二層カーボンナノチューブ(double-walled carbon nanotube, DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotube, MWNT)を含む多数あるフラーレン族の炭素の円筒形の同素体のいずれかをいう。CNTは、フラーレン様構造により閉塞されていてもよいし、開口端であってもよい。CNTには、他の材料を封入したものが含まれる。
【0024】
本明細書において、「長さが均一」とは、反応器内で成長したCNTの長さに言及する。「均一な長さ」とは、約1ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTにおいて、CNTの長さが、CNTの全長に対して±約20%以下の許容誤差を有することを意味する。1〜4ミクロンのような極めて短い長さの場合、この誤差は、CNTの全長の約20%から±約1ミクロンまでの範囲であり、CNTの全長の約20%をやや上回る。EMI遮蔽への利用において、CNTの長さ(及び被覆の密度)は、EM放射の吸収又は反射の調整に使用することができ、目標とするEM周波数帯域の吸収極大又は反射を最大活用することができる。
【0025】
本明細書において、「分布が均一」とは、炭素繊維材料上のCNT密度の一貫性に言及する。「均一な分布」とは、CNTが、CNTにより被覆された繊維の表面領域の割合として定義される被覆率において±約10%の許容誤差を備えた炭素繊維材料上の密度を有することを意味する。これは、直径8nmの5層CNTに関していえば±1500CNT/μm2であることに等しい。この数値は、CNTの内部空間が充填可能であることを前提としている。
【0026】
本明細書において、「CNT重量%」とは、最終合成物中に存在するCNTの重量又は質量パーセントを意味する。この割合は、前記合成物中のCNTの総重量を、前記最終合成物構造の総重量で除算したものを100%倍した割合を意味する。「CNT重量%」は、CNTの分布とCNTの長さとを結び付ける材料特性である。結果として、「CNT重量%」は、複合材料中のCNTの平均EMI−SEに対する効果を説明するために使用される。例えば、図16に示すように、0〜60dBの平均EMI−SEのために1%未満のCNT重量%が採用され、60〜80dBの平均EMI−SEのために0.5〜2%のCNT重量%が採用され、80dBより大きい平均EMI−SEのために2%より大きいCNT重量%が採用される。
【0027】
本明細書において、「浸出された」とは結合されたことを意味し、「浸出」とは結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用又はファンデルワールス力媒介物理吸着(van der Waals force-mediated physisorption)が含まれる。例えば、ある実施形態において、CNTは炭素繊維材料に直接的に結合されてもよい。CNTと炭素繊維材料の間に配置された、バリアコーティング(barrier corting)又は介在遷移金属ナノ粒子を介した炭素繊維材料へのCNT浸出のように、結合は非直接的であってもよい。本明細書に開示されるCNT浸出炭素繊維材料において、カーボンナノチューブは、上記のように、炭素繊維材料に直接的又は間接的に「浸出」されてもよい。CNTを炭素繊維材料に「浸出」する特定の方法は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。
【0028】
本明細書において、「遷移金属」とは、周期表のdブロックの元素のいずれか又はその合金をいう。また、「遷移金属」には、酸化物、炭化物及び窒化物等の卑遷移金属元素の塩形態が含まれる。
【0029】
本明細書において、「ナノ粒子」もしくはNP又はこれらの文法的な均等物は、NPが球形である必要はないが、均等な球径で約0.1から約100ナノメートルの大きさの粒子をいう。特に、遷移金属NPは、炭素繊維材料上でのCNT成長のための触媒としての役割を果たす。
【0030】
本明細書において、「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」又は単に「サイジング(sizing)」とは、炭素及びガラス繊維(もしくは保護用のコーティングが必要なことがある他の繊維)の製造において、繊維の品質を保護し、複合材料中の繊維とマトリクス材との間の強い界面相互作用を提供し、又は繊維の特定の物理的特性を変化もしくは強化するためのコーティングとして使用される材料の総称をいう。ある実施形態において、繊維材料に浸出されたCNTは、サイジング繊維(sized fiber)として振舞う。すなわち、CNTは繊維を保護し、サイジング材料として振舞う。
【0031】
本明細書において、「マトリクス材(matrix material)」とは、ランダム配向を含む特定の配向で、サイジングCNT浸出炭素繊維材料をまとめる役割を果たすバルク材をいう。マトリクス材は、マトリクス材にCNT浸出繊維材料の物理的又は化学的特性の一部が与えられることにより、CNT浸出繊維材料の存在からの利益を享受することができる。EMI遮蔽に用いる場合、繊維材料に近接したマトリクス材は、マトリクス単独とCNTの単純な混合により得られるよりも良好なCNT密度及びCNT配向を提供する。密度及びCNT浸出繊維材料の「充填(packing)」は、吸収した電磁放射をより効果的に蒸散する手段を提供することによりEMI遮蔽有効性を向上させるか、又は効果的な反射を提供するパーコレーション経路(percolation pathway)を提供することができる。
【0032】
本明細書において、「材料滞留時間(material residence time)」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間に、巻取り可能な寸法の繊維材料に沿った離散点でCNT成長環境にさらされる時間をいう。この定義には、複数のCNT成長チャンバーを採用した場合の滞留時間も含まれる。
【0033】
本明細書において、「ラインスピード(linespeed)」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理に、巻取り可能な寸法の繊維材料が送り出される速度をいい、CNTチャンバーの長さを材料滞留時間で除算して測定される速度である。
【0034】
ある実施形態において、本発明は、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたCNT浸出繊維材料を含むEMI遮蔽複合材料を提供する。前記複合材料は、約0.01MHzから約18GHzの周波数のEM放射を吸収又は反射することができる。前記EMI遮蔽能力は、電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)として計測可能であり、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲でありえる。例えば、図17において、HF、VHF及びUHF帯域でのCNT質量%の増加は、複合材料中のおよそ20%のCNT重量%で、EMI−SEを40dBから70dBにまで向上させる。図17によれば、LF帯域のEMI−SEは、概してCNT重量%の増加からは大幅な影響は受けず、75dBあたりで略一定のままである。図18に関しては、L帯域EMI−SEはまた、CNTの存在に対し比較的一定であり、一貫して約60dBのEMI−SEを提供する。S及びC帯域は、略同一の反応を示し、1重量%CNTで約70dBから20重量%CNTで約90dBの範囲のEMI−SEである。最後に、X及びK帯域のEMI−SEは、類似した反応を示し、1重量%CNTでは60dBのEMI−SEが生じ、20重量%CNTでは120から130dBのEMI−SEが生じる。これらの遮蔽材料は、単なる例示に過ぎない。当業者は、例えばCNT浸出繊維材料の複数の層を使用することによりさらなる遮蔽有効性を達成することができるということ、並びにCNT密度、長さ及び配向は、CNT浸出繊維材料の吸収又は反射特性の変化の組み合わせにより、遮蔽有効性を調整するために変更することができるということを理解するだろう。
【0035】
当業者はまた、SEはEM放射周波数の関数であるということを理解するだろう。したがって、2GHzにおけるSEは、18GHzにおけるSEとは相違することがある。当業者はまた、EMI遮蔽に関する用途において、EM放射の吸収又は反射が望ましいということを理解するだろう。一方、ステルス用途における特性制御のためのレーダー吸収においては、例えば、EM放射を吸収又は透過する材料を製造するのが好ましい。機構的な見地から、EMI遮蔽及びレーダー吸収用途は、CNT浸出繊維材料の存在により提供されるいずれの吸収特性からも利益を享受する。非吸収性の放射の透過又は反射は、例えば、バルクマトリクスの固有の特性などの他のパラメータにより決定することができる。ある実施形態において、繊維材料上での最大化されたCNT充填は、EMI遮蔽用途に特に有用な反射金属のように作用する複合材料を提供することができる。
【0036】
EMI遮蔽複合材料には、トウ、ロービング又はファブリック等の繊維材料の「連続的な」又は「巻取り可能な」長さに、CNTを浸出することにより一般的に構成されたCNT浸出繊維材料が含まれる。SE及びそれ故EM放射吸収能力は、例えば、CNTの長さ、CNT密度及びCNT配向に応じて変化することがある。CNT浸出繊維材料が製造される処理によって、特定の吸収、又は反射能力を備えたEMI遮蔽複合材料の構成物が可能となる。繊維材料上でのCNTの長さ及び配向は、本明細書の以下に記載されるCNT成長処理において制御される。成長処理からの繊維周辺でのCNT配向は、一般に繊維軸の周りに放射状に成長したCNTを提供する。繊維へ浸出されたCNTの成長後の再配向(reoriented)は、機械的もしくは化学的手段又は電場を用いて達成することができる。このようなある実施形態において、CNTは、繊維軸に沿って横たわるように再配向することができる。複合材料におけるCNTの相対配向は、CNT浸出繊維を配向する複合材料の製造処理により順々に制御される。
【0037】
本発明のEMI遮蔽複合材料は、1つ以上のEM放射周波数帯域を吸収又は反射するように構成することができる。ある実施形態において、異なるEM放射周波数帯の吸収又は反射を最大化するために、異なる長さ及び配向のCNTに沿った単一の巻取り可能な長さの異なる部分を有する、単一の巻取り可能な長さのCNT浸出繊維を提供することができる。あるいは、異なるCNTの長さ又は配向を備えた繊維材料の複数の巻取り可能な長さを、同様の効果のために複合材料中に配置することができる。いずれか一方の方策は、異なるEM放射吸収又は反射特性を備えた層を複合材料中に提供する。また、CNTの複数の配向により、EMI遮蔽複合材料は、複合材料に異なる入射角で衝突する複数のEM放射源から発せられた電磁放射の吸収又は反射が可能となる。
【0038】
当業者は、CNT浸出繊維材料のどの特定部分でも、EM放射の単一の波長でさえも、EM吸収及び反射特性の両方を示すことができるということを理解するだろう。したがって、一定のCNT浸出繊維材料のEM遮蔽有効性は、EM放射を吸収及び反射する能力の組み合わせを示し、単なる吸収材料又は反射材料である必要はない。多層構造において、異なる層は主に反射するように設計し、他の層は主に吸収するように設計することができる。
【0039】
複合材料構造物へCNTを充填することにより、吸収されたEM放射全てのエネルギーを蒸散するパーコレーション経路が与えられる。理論に制限されることなく、これは、CNT間点接触、又は図7〜9に例示されたCNTとCNTとの相互嵌合の結果得られたものである。ある実施形態において、EM放射発信源に応じて、又は例えば探知用途内で反射されたEM信号中でのEM放射吸収を最大化するために、CNTに吸収されたEMエネルギーの全ては、パネル等のEMI遮蔽複合材料を含む部品の配向を変化させるコンピュータシステムに統合可能な電気信号に変換することができる。同様に、EM放射を反射する能力はまた、CNT密度及び配向に関係する。例えば、約1%を上回る高密度値において、CNTはある程度EM放射を反射する金属として作用することができる。
【0040】
ある実施形態において、EMI遮蔽複合材料は、部品全体と一体化した部分として、又はステルス用構造物として提供される。このような実施形態において、EMI遮蔽特性は、主に吸収機構により提供され、一方反射機構は最小化される。このようなある実施形態において、CNT浸出繊維材料上のCNT密度は、材料に空気に近い屈折率を提供するように調整され、これによって反射を最小化し、EM放射の吸収を最大化する。
【0041】
EMI遮蔽CNT浸出繊維材料は、複合材料構造物全体の一部分に提供することができる。例えば、複合材料構造物は、EM放射を吸収又は反射するためにCNT浸出繊維材料を組み込んだ表面「外板(skin)」を備えることができる。他の実施形態において、EMI遮蔽複合材料は、他の複合材料又は他の部品の既存の表面へのコーティングとして塗布することができる。ある実施形態において、コーティングは、従来のコーティングにおいて生じるおそれのあるチッピング(chipping)の防止に役立つ長い繊維材料を採用する。その上、コーティングとして使用される場合には、前記EMI複合材料をさらに保護するためのオーバーコーティングを使用することができる。また、コーティングとして使用される場合には、CNT浸出繊維複合材料のマトリクスは、コーティングと構造物との間の強力な結合を提供するように、構造物全体のバルクマトリクスと近接する又は一致することができる。
【0042】
EMI遮蔽複合材料のCNT浸出繊維材料は、浸出されたCNTの部分が略均一な長さで提供される。これにより、複合材料製品全体に、広い断面領域に亘って確かな吸収特性が与えられる。CNT浸出繊維材料の製造のための本明細書に記載の連続処理において、CNT成長チャンバー内での繊維材料の滞留時間は、CNT成長、そして最終的にCNTの長さを制御するために調整される。これは、成長したCNTの特定の性質を制御する手段を提供する。CNTの長さはまた、炭素源並びに搬送ガスの流量及び反応温度の調整を通して制御することができる。CNT特性の付加的な制御は、例えば、CNTを形成するために使用される触媒の大きさを制御することにより得られる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTを提供するために使用することができる。より大きな触媒は、主にMWNTを形成するために使用することができる。
【0043】
加えて、採用されたCNT成長処理は、CNTが溶媒溶液中に懸濁又は分散し、繊維材料に手で塗布される処理で生じるおそれのある、CNTの束化(bundling)又は凝集を避けつつ、繊維材料上に均一に分布したCNTをCNT浸出繊維材料に提供する上で有用である。このような凝集したCNTは、繊維材料に弱く付着する傾向があり、CNT固有の特性は、たとえ現れたとしても弱く現れる。ある実施形態において、被覆率として表される最大分布密度、すなわち、被覆された繊維の表面領域は、直径8nmの5層CNTの場合、約55%となる。この被覆率は、CNTの内部空間を「充填可能」な空間として計算される。様々な分布/密度値は、表面への触媒分布を変化させ、ガスの組成及び処理速度を制御することにより達成することができる。通常のパラメータ設定において、繊維表面に亘って約10%以内の被覆率が達成可能となる。高密度の短いCNTは、機械的特性の向上に有効であり、一方低密度の長いCNTは、EMI遮蔽及びレーダー吸収を含む熱及び電気特性の向上に有効であるが、高密度であればそれにこしたことはない。低密度は、長いCNTが成長した場合に生じることがある。これは、高温及び触媒粒子の州立をもたらすより早い成長速度の結果生じる。
【0044】
繊維材料への浸出に有用なCNTには、単層CNT、二層CNT、多層CNT及びこれらの混合物が含まれる。使用されるCNTの正確な量は、EMI遮蔽複合材料の最終用途に応じて決まる。CNTは、EMI遮蔽及びレーダー吸収に加えて、熱又は電気伝導用に用いることができる。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、単層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、多層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、単層ナノチューブ及び多層ナノチューブの組み合わせである。単層及び多層ナノチューブの特性には、繊維のいくつかの最終用途にとって、一方又は他方のタイプのナノチューブの合成に影響するいくつかの相違がある。例えば、単層ナノチューブは、半導体又は金属的であるが、多層ナノチューブは金属的である。したがって、もし吸収されたEM放射が、例えば、コンピュータシステムに統合することができる電気信号に変換される場合には、CNTの種類を制御するのが好ましい。
【0045】
CNTは、機械的強度、低・中程度の電気抵抗率、高い熱伝導性等の特性を、CNT浸出繊維材料に付与する。例えば、ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料の電気抵抗率は、親繊維材料(parent fiber material)単独の電気抵抗率より低いことがある。さらに一般に、結果として生じたCNT浸出繊維がこれらの特性を示す程度は、カーボンナノチューブによる炭素繊維の被覆の程度及び密度の関数でありえる。これらの特性はまた、それらが組み込まれたEMI遮蔽複合材料全体に伝わることがある。繊維表面領域の任意の面積において、直径8nmで5層のMWNTの場合には、繊維の0〜55%の被覆が可能である(この計算は、CNTの内部空間が充填可能とみなしている)。この値は、小径のCNTの場合小さくなり、大径のCNTの場合大きくなる。表面領域の55%の被覆率は、約15000CNT/micron2に等しい。さらに、CNT特性は、CNTの長さに応じた方法で、炭素繊維材料に与えられる。浸出されたCNTの長さは、1ミクロン,2ミクロン,3ミクロン,4ミクロン,5ミクロン,6ミクロン,7ミクロン,8ミクロン,9ミクロン,10ミクロン,15ミクロン,20ミクロン,25ミクロン,30ミクロン,35ミクロン,40ミクロン,45ミクロン,50ミクロン,60ミクロン,70ミクロン,80ミクロン,90ミクロン,100ミクロン,150ミクロン,200ミクロン,250ミクロン,300ミクロン,350ミクロン,400ミクロン,450ミクロン,500ミクロン及びこれらの間の全ての値を含む、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲で変化することができる。CNTはまた、例えば約0.5ミクロンを含む、約1ミクロンより小さい長さとすることもできる。CNTはまた、例えば510ミクロン,520ミクロン,550ミクロン,600ミクロン,700ミクロン及びこれらの間の全ての値を含む、500ミクロンより大きい長さとすることができる。あるEMI遮蔽用途において、CNTの長さは、約100nmから約25ミクロンの間で変化させることができる。純粋にEMI遮蔽用途である場合、CNTの長さは、約100nmから約500μmの間で変化させることができる。本発明のEM遮蔽複合材料は、約1ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTを組み込むことができる。このようなCNTの長さは、せん断強度(shear strength)の強化にも有用でありえる。CNTの長さはまた、約5から約70ミクロンであってもよい。このようなCNTの長さは、CNTが繊維方向に整列した場合、伸張強度(tensile strength)の強化にも有用でありえる。CNTの長さはまた、約10ミクロンから約100ミクロンであってもよい。このようなCNTの長さは、機械的特性同様、電気的/熱的特性の向上に有用でありえる。CNT浸出のために用いられる処理はまた、約100ミクロンから約500ミクロンの長さのCNTを提供することができるが、これはレーダー吸収及びEMI遮蔽を含む電気的及び熱的特性の向上に有益でありえる。このように、CNT浸出繊維材料は多機能であり、EMI遮蔽複合材料全体の他の多くの特性を向上させることができる。したがって、ある実施形態において、巻取り可能な長さのCNT浸出繊維材料を含む複合材料は、目標とする異なる特性に対処するCNTの異なる長さの様々な均一な領域を有することができる。例えば、せん断強度特性を強化する均一に短いCNTを備えたCNT浸出炭素繊維材料の第1部分と、EMI遮蔽有効性又はレーダー吸収特性を向上させる均一な長いCNTを備えた同一の巻取り可能な材料の第2部分と、を有するのが望ましい。機械的強化は、例えば、EMI遮蔽複合材料の少なくとも一部に上記のように、CNT浸出繊維材料中の短いCNTを提供することにより達成できる。前記複合材料は、EM放射遮蔽のためにEMI遮蔽複合材料の表面に長いCNTと、そして機械的強化のために表面の下側に配置された短いCNTと、を備えた外板の形態をとることができる。CNTの長さの制御は、炭素源と、様々なラインスピード及び成長温度と一体となった不活性ガス流量と、の調整を通じて容易に行うことができる。これによって、同一の巻取り可能な長さの繊維材料のうちの異なる部分のCNTの長さを変化させることができるか、あるいは、異なるスプールが採用され、前記異なるスプールが複合材料構造物の適切な部分に組み込まれる。
【0046】
本発明のEMI遮蔽複合材料には、CNT浸出繊維材料とともに複合材料を形成するためのマトリクス材が含まれる。このマトリクス材には、例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド及びビスマレイミドが含まれる。本発明において有用なマトリクス材には、周知のマトリクス材の全てを含むことができる(Mel M.Schwartz, Composites Handbook(2d ed. 1992)参照)。より一般に、マトリクス材には、熱硬化性及び熱可塑性の両方の樹脂(ポリマー)、金属、セラミック及びセメントを含むことができる。
【0047】
マトリクス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸タイプのポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール系樹脂、シアン酸塩、ビスマレイミド及びナド末端封鎖ポリイミド(nadic end-capped polyimide)(例えば、PMR−15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、多硫化物(polysulfide)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド−イミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート及び液晶ポリエステルが含まれる。
【0048】
マトリクス材として有用な金属には、アルミニウム6061,2024及び713アルミニウムブレーズ(aluminum braze)等のアルミニウム合金が含まれる。マトリクス材として有用なセラミックには、アルミノケイ酸リチウム等の炭素セラミック、アルミナ及びムライト等の酸化物、窒化ケイ素等の窒化物及び炭化ケイ素等の炭化物が含まれる。マトリクス材として有用なセメントには、炭化物ベースセメント(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステン−トリア(tungsten-thoria)及び炭化バリウムニッケル(barium-carbonate-nickel))、及びクロム−アルミナ(chromium-alumina)、ニッケル−マグネシア・鉄−ジルコニウム炭化物(nickel-magnesia iron-zirconium carbide)が含まれる。上記全てのマトリクス材料は、単独で又は組み合わせて使用することができる。セラミック及び金属マトリクス複合材料は、例えば、スラストベクトル制御表面、又は高温用途に用いられる電子機器等のEMI遮蔽特性を利用する他の高温用途において、使用することができる。
【0049】
ある実施形態において、EMI遮蔽複合材料には、多量の遷移金属ナノ粒子がさらに含まれる。これらの遷移金属ナノ粒子は、ある実施形態において、CNT成長処理から潜在的な触媒として存在することができる。理論に制限されることなく、CNT形成触媒としての役割を果たす遷移金属NPは、CNT成長核構造(CNT growth seed structure)を形成することにより、CNT成長に触媒作用を及ぼすことができる。前記CNT形成触媒は、存在する場合には任意のバリアコーティングにより固定されて、繊維材料の基部に留まり、繊維材料の表面に浸出される(バリアコーティングの存在は、採用された繊維材料の種類によって決まり、例えば一般に、炭素及び金属繊維に使用される)。このような場合、遷移金属ナノ粒子触媒により初期に形成された核構造は、従来しばしば見られたように、CNT成長の先端に沿って触媒を移動させなくても、連続非触媒CNT成長(non-catalyzed seeded CNT growth)には十分である。このような場合、NPは、繊維材料へのCNTの付着点としての役割を果たす。バリアコーティングの存在はまた、CNT浸出のためのさらなる間接的な結合モチーフももたらす。例えば、CNT形成触媒は、繊維材料と表面接触せずに、上記のようにバリアコーティング内に固定される。このような場合、CNT形成触媒と繊維材料との間に配置されたバリアコーティングによるスタック構造が生じる。どちらの場合でも、形成されたCNTは、繊維材料に浸出される。ある実施形態において、いくつかのバリアコーティングにより、CNT成長触媒は成長中のナノチューブの先端に向けて進むことが可能となる。このような場合、これは、繊維材料への、又は任意にバリアコーティングへの、CNTの直接の結合をもたらす。カーボンナノチューブと繊維材料との間に形成された実際の結合モチーフの性質に関わらず、浸出されたCNTは強固であり、CNT浸出繊維材料がカーボンナノチューブの性質又は特性を示すことが可能となる。
【0050】
バリアコーティングが存在しない場合、潜在的なCNT成長粒子は、カーボンナノチューブの基部、頂部及びこの間のどこにでも現れることができる。この場合もやはり、繊維材料へのCNTの浸出は、介在遷移金属ナノ粒子によって直接的に又は間接的に行われる。ある実施形態において、潜在的なCNT成長触媒には、鉄ナノ粒子が含まれる。これらは、例えば、ゼロ価鉄(zero-valent iron)、鉄(II)、鉄(III)及びこれらの混合物を含む様々な酸化状態でありえる。CNT成長からの潜在的な鉄ベースナノ粒子の存在は、複合材料全体のEMI遮蔽特性を促進する。
【0051】
ある実施形態において、CNT浸出繊維は、成長後に、鉄、フェライト又は鉄ベースナノ粒子溶液を通過する。CNTは、EMI遮蔽をさらに促進する鉄ナノ粒子を大量に吸収することができる。したがって、この付加的な処理ステップは、EM放射吸収を向上させるための追加の鉄ナノ粒子を提供する。
【0052】
本発明のEMI遮蔽複合材料は、レーダー周波数帯域のスペクトルを含むスペクトルの広範囲に亘ってEM放射を吸収又は反射することができる。ある実施形態において、前記複合材料は、高周波レーダーを吸収又は反射することができる。高周波(HF)レーダー帯域は、約3から約30MHz(10〜100m)の範囲の周波数を有する。このレーダー帯域は、沿岸レーダー及び水平線越え(OTH)レーダー用途に有用である。ある実施形態において、前記複合材料は、P帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。これは、約300MHz未満のレーダー周波数を含む。ある実施形態において、前記複合材料は、超短波(VHF)帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。VHFレーダー帯域は、約30から約330MHzの範囲の周波数を有する。VHF帯域は、地中探知用途を含む超長距離用途に有用である。ある実施形態において、前記複合材料は、極超短波(UHF)帯域のレーダーを吸収することができる。UHF帯域は、約300から約1000MHzの範囲の周波数を有する。UHFの用途は、弾道ミサイル早期警戒システム、地中探知及び群葉貫通(foliage penetrating)用途等の超長距離用途を含む。ある実施形態において、前記複合材料は、ロング(L)帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。L帯域は、約1から約2GHzの範囲の周波数を有する。L帯域は、例えば、航空管制及び監視を含む長距離用途に有用である。ある実施形態において、前記複合材料はショート(S)帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。S帯域は、約2から約4GHzの範囲の周波数を含む。S帯域は、ターミナル航空管制、遠距離気象及び航海用レーダー等の用途に有用であり得る。ある実施形態において、前記複合材料は、約4から約8GHzの範囲の周波数を有するC帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。C帯域は、衛星トランスポンダーや気象用途に使用されている。ある実施形態において、前記複合材料は、約8から約12GHzの範囲の周波数を有するX帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。X帯域は、ミサイル誘導、航海用レーダー、気象、中分解能マッピング及び地上監視用途に有用である。ある実施形態において、前記複合材料は、約12から約18GHzの範囲の周波数を含むK帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。K帯域は、気象学者により測雲に使用され、警察によりK帯域レーダーガンを使用したスピード違反取締り(detecting speeding motorist)に使用されることがある。ある実施形態において、前記複合材料は、約24から約40GHzの範囲の周波数を含むKa帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。Ka帯域は、交通信号のトリガーカメラで使用されるようなレーダー式速度違反取締装置に使用されることがある。
【0053】
ある実施形態において、前記複合材料は、広く約40から約300GHzのミリメーター(mm)帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。mm帯域には、軍事通信に使用される約40から約60GHzのQ帯域、大気中の酸素により強力に吸収される約50から約75GHzのV帯域、約60から約90GHzのE帯域、実験自律走行車(experimental autonomous vehicle)用の視覚センサ、高分解能気象観測、及び画像化(imaging)に使用される約75から約110GHzのW帯域、及び壁透過レーダーや画像化システムに使用される約1.6から約10.5GHzのUWB帯域が含まれる。
【0054】
ある実施形態において、前記複合材料は、K帯域における約90dBから約110dBのSEを有する。ある実施形態において、前記複合材料は、X帯域における約90dBから約100dBのSEを有する。ある実施形態において、前記複合材料は、C帯域における約80dBから約90dBのSEを有する。ある実施形態において、前記複合材料は、S帯域における約70dBから約80dBのSEを有する。ある実施形態において、前記複合材料は、L帯域における約50dBから約60dBのSEを有する。図15〜18は、本発明によるEMI遮蔽用途のために構成された例示的なパネルのEMI遮蔽結果を示す。例えば、パネル220(図15)は、0.1MHzから18GHzの範囲で試験されたものである。
【0055】
上記のように、遮蔽有効性(SE)は、本発明のEMI遮蔽複合材料のEM放射吸収又は反射能力を評価する1つの手段である。SEは、EM吸収又は反射材料による電磁場の減衰の程度を計測する。SEは、遮蔽前の電磁信号の強度と遮蔽後の強度との間の差である。減衰/SEは、吸収/反射材料が存在する場合としない場合との間の電磁場の強度の比率に対応するデシベル(dB)で計測される。デシベルの範囲が対数目盛りにしたがうのに対し、信号強度又は振幅における減少は、通常距離に対して指数関数的である。したがって、50dBの減衰率は、40dBの10倍の遮蔽強度を意味する。一般に、約10から約30dBの遮蔽範囲は、低レベルの遮蔽を提供する。60から90dBの遮蔽は、高レベルの遮蔽とみなされ、これに対し、90から120dBでは「除外(exceptional)」とみなされる。
【0056】
EMI遮蔽に対する減衰のレベルの測定は、特定の遮蔽用途に依存するが、遮蔽強度を試験する周知技術には、オープンフィールド試験(open field test)、同軸伝送線路試験(coaxial transmission line test)、遮蔽ボックス試験(shielded box test)及び遮蔽室試験(shielded room test)が含まれる。オープンフィールド試験は、電子機器の通常の使用状態と可能な限り近い状態でシミュレートするよう設計されている。試験装置以外に金属素材がない状態で、領域内において装置から様々な距離にアンテナが設置される。これは通常、放射された電磁場及び伝導放射の自由空間計測を可能とするために、オープンサイト(open site)で行われる。結果は、生じたEMIのレベルを検知するノイズレベルメーター(noise level meter)により記録される。オープンフィールド試験は、一般に完成した電子製品に用いられる。
【0057】
同軸伝送線路試験は、平面材料の遮蔽有効性を測定するために、平面波の電磁場の電磁波放射を計測する方法であり、一般に比較試験に採用される。参考試験装置が専用の保持ユニットに配置され、それが受けた複数の周波数の電圧が記録される。そして、第1の対象は負荷装置と交換され、負荷装置は同様の一連の試験を受ける。前記参考装置と負荷装置との比較により、遮蔽材料がある場合とない場合とに受けた電圧の比率が規定される。
【0058】
遮蔽ボックス試験は、一部を切り取られた密封ボックスを使用する。伝導的に被覆された遮蔽ユニットがボックスの開口部に配置され、透過及び発生した放射が全て計測される。ボックスの内側及び外側からの電磁信号は記録され、遮蔽有効性を示す信号の割合と比較される。
【0059】
場合によっては、領域内の周辺雑音の量を減少させるのが困難な時がある。このような場合、遮蔽室試験を採用することができる。この試験は一般に、センサが通った壁面で仕切られた少なくとも2つの遮蔽された部屋を要する。試験装置及び試験設備は一方の部屋に、センサアレイは他方の部屋に配置される。外部信号による計測エラーの可能性を低下させるため、遮蔽鉛(shielding lead)が使用される。遮蔽室試験は、装置の感受性(susceptibility)を評価するのに適している。
【0060】
ある実施形態において、遮蔽有効性を評価するための試験方法は、修正オープン参照技術(open reference technique)を使用する、IEEE−STD−299に記載の標準化された方法であってもよい。試験は、EM発信源を提供する一方の側と、受信装置を提供する他方の側と、を備えた分割されたチャンバー内で行われる。
【0061】
ある実施形態において、複合材料には、EM放射遮蔽複合材料の1重量%から7重量%の範囲で存在するCNTが含まれる。ある実施形態において、CNT充填量は、EMI遮蔽複合材料の1重量%から20重量%の範囲とすることができる。ある実施形態において、EMI遮蔽複合材料中のCNT充填量は、EMI遮蔽複合材料の1重量%,2重量%,3重量%,4重量%,5重量%,6重量%,7重量%,8重量%,9重量%,10重量%,11重量%,12重量%,13重量%,14重量%,15重量%,16重量%,17重量%,18重量%,19重量%及び20重量%並びにこれらの間の全ての値とすることができる。EMI遮蔽複合材料中のCNT充填量はまた、例えば約0.1%から約1%を含む1%より小さい値であってもよい。EMI遮蔽複合材料中のCNT充填量はまた、例えば約25%,30%,40%及び約50%まで並びにこれらの間の全ての値を含む20%より大きい値であってもよい。
【0062】
ある実施形態において、EMI遮蔽複合材料には、カーボンナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料が含まれる。CNT浸出炭素繊維材料は、巻取り可能な寸法の炭素繊維材料、炭素繊維材料の周囲に沿って配置されたバリアコーティング、及び炭素繊維材料に浸出されたカーボンナノチューブ(CNT)が含まれ得る。炭素繊維材料へのCNTの浸出は、炭素繊維材料へのそれぞれのCNTの直接的な結合又は遷移金属NP、バリアコーティングもしくはその両方を介した間接的な結合の結合モチーフが含まれ得る。
【0063】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料には、バリアコーティングが含まれ得る。バリアコーティングには、例えば、アルコキシシラン、メチルシロキサン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス及びガラスナノ粒子が含まれる。CNT形成触媒は、硬化していないバリアコーティング材料に添加され、まとめて炭素繊維材料に塗布することができる。他の実施形態において、バリアコーティング材料は、CNT形成触媒の堆積の前に、炭素繊維材料に加えることができる。バリアコーティング材料の厚さは、後続のCVD成長のために、CNT形成触媒を炭素源にさらせるぐらい十分に薄くすることができる。ある実施形態において、前記厚さは、CNT形成触媒の有効径より薄いか又は略等しい。ある実施形態において、バリアコーティングの厚さは、約10nmから約100nmの範囲である。バリアコーティングはまた、1nm,2nm,3nm,4nm,5nm,6nm,7nm,8nm,9nm及び10nm並びにこれらの間の全ての値を含む10nm未満の値でもよい。
【0064】
理論に制限されることなく、バリアコーティングは、炭素繊維材料とCNTとの間の中間層の役割を果たし、炭素繊維材料へのCNTの機械的な浸出を提供することができる。このような機械的浸出は、炭素繊維材料へCNTが特性の付与しながらも、炭素繊維材料がCNTを形成するためのプラットフォームとしての役割を果たす強固なシステムを尚も提供する。さらに、バリアコーティングを含むことの恩恵として、蒸気にさらされることによる化学損傷からの、又は炭素繊維材料のCNT成長を促進するために用いられる温度まで加熱することによる熱損傷からの、炭素繊維材料の直接の保護がある。
【0065】
炭素繊維材料にCNTが成長する際、高温又はその可能性のある反応器内の残留酸素もしくは蒸気は、炭素繊維材料に損傷を与えることがある。その上、炭素繊維材料自体がCNT形成触媒との反応により損傷を受けることがある。すなわち、炭素繊維材料は、CNT合成のために採用された反応温度において、前記触媒の炭素源としての役割を果たすことがある。このような過剰炭素は、炭素原料ガスの制御された導入を阻害し、炭素を過剰に充填することにより触媒を害することがある。本発明で採用されたバリアコーティングは、炭素繊維材料上でのCNT合成を促進するよう設計される。理論に制限されることなく、前記コーティングは、熱分解に対する熱障壁を提供し、又は高温の環境に炭素繊維材料をさらすことを防ぐ物的障壁となりえる。かわりに又は加えて、バリアコーティングはCNT形成触媒と炭素繊維材料との間の表面領域接触を最小化するか、又はCNT成長温度におけるCNT形成触媒への炭素繊維材料の暴露を軽減することができる。
【0066】
繊維を生成するために使用される前駆体に基づいて分類される炭素繊維には3種類あり、これらのいずれもが本発明に使用することができる。すなわち、レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチである。セルロース系材料であるレーヨン前駆体からの炭素繊維は、比較的低い約20%の炭素含有量を有し、前記繊維は低い強度及び剛性を有する傾向がある。ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体は、約55%の炭素含有量の炭素繊維を提供する。一般に、PAN前駆体に基づく炭素繊維は、最小の表面欠陥のため、他の炭素繊維前駆体に基づく炭素繊維よりも高いせん断強度を有する。
【0067】
また、石油アスファルト、コールタール及びポリビニルクロリドに基づくピッチ前駆体は、炭素繊維を製造するために使用することができる。ピッチは比較的安価で炭素収率が高いが、一定のバッチにおける不均一の問題があり得る。
【0068】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料には、ガラス繊維材料が含まれる。CNT浸出ガラス繊維材料は、任意で使用することはできるが、上記のバリアコーティングの組み込みを必要としない。ガラス繊維材料に使用されるガラスの種類は、例えばE−ガラス、A−ガラス、E−CR−ガラス、C−ガラス、D−ガラス、R−ガラス及びS−ガラスを含むいずれであってもよい。E−ガラスには、1重量%未満のアルカリ酸化物を有するアルミノ−ホウケイ酸ガラスが含まれ、主にガラス強化プラスチックに使用される。A−ガラスには、ほとんど又は全く酸化ホウ素を有さないアルカリ−ライムガラスが含まれる。E−CR−ガラスには、アルカリ酸化物を1重量%未満有するアルミノ−ライムケイ酸塩が含まれ、高い耐酸性を備える。C−ガラスには、高い酸化ホウ素含有量を有するアルカリ−ライムガラスが含まれ、例えばガラスステープル繊維に使用される。D−ガラスには、ホウケイ酸ガラスが含まれ、高い誘電率を有する。R−ガラスには、MgO及びCaOを含まないアルミノケイ酸ガラスが含まれ、高い機械的強度を有する。S−ガラスには、CaOを含まないが高いMgO含有量を備えたアルミノケイ酸ガラスが含まれ、高いせん断強度を有する。これらのガラスの種類の1つ以上は、上記のガラス繊維材料に加工することができる。特定の実施形態において、前記ガラスはE−ガラスである。他の実施形態において、前記ガラスはS−ガラスである。
【0069】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料にはセラミック繊維材料が含まれる。セラミック繊維材料を使用する場合、ガラスのように、バリアコーティングの使用は任意である。セラミック繊維材料に使用されるセラミックの種類は、例えば、アルミナ及びジルコニア等の酸化物、炭化ホウ素、炭化ケイ素及び炭化タングステン等の炭化物、及び窒化ホウ素及び窒化ケイ素等の窒化物を含むいずれの種類であってもよい。他のセラミック繊維材料には、例えば、ホウ化物及びケイ化物が含まれる。セラミック繊維にはまた、玄武岩繊維材料が含まれる。セラミック繊維材料は、他の種類の繊維とともに複合材料に使用することができる。ファブリック様(fabric-like)セラミック繊維材料を例えばガラス繊維に組み込むことは周知である。
【0070】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料には金属繊維材料が含まれ、さらに他の実施形態においては、CNT浸出繊維材料には有機繊維材料が含まれる。当業者は、いずれの繊維材料もEMI遮蔽用途に使用することができ、的確な繊維材料の選択は全体構造物の最終用途によって決まることを理解するだろう。例えば、高温利用と関連して使用されるEMI遮蔽用にセラミック繊維材料を使用することができる。
【0071】
CNT浸出繊維材料には、フィラメント、ヤーン、テープ、繊維ブレイズ(fiber-braid)、織物ファブリック(woven fabric)、不織布繊維マット(non-woven fiber mat)、繊維プライ及び3D織物構造物が含まれる。フィラメントには、約1ミクロンから約100ミクロンの大きさの直径を有する高アスペクト比繊維が含まれる。繊維トウは、一般に密に結合したフィラメントの束であり、通常はヤーンを形成するために互いによりあわされている。
【0072】
ヤーンには、近接して結合した捩れたフィラメントの束が含まれる。ヤーンのそれぞれのフィラメントの直径は比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメータあたりのグラムの重さで表される「テックス(tex)」、又は10000ヤードあたりのポンドの重さで表されるデニール(denier)により説明される様々な重量を有し、この値は使用されている繊維材料によるが、標準的なテックスの範囲は、通常約200テックスから約2000テックスである。
【0073】
トウには、ゆるく結合した捩れのないフィラメントの束が含まれる。ヤーンの場合と同様に、トウに含まれるフィラメントの直径は一般に均一である。また、トウは様々な重量を有し、テックスの範囲は通常約200テックスから2000テックスである。これらはしばしばトウに含まれた数千本のフィラメントの本数により特徴付けられ、例えば、12Kトウ、24Kトウ、48Kトウ等がある。さらに、これらの値は使用されている繊維材料の種類に応じて変化する。
【0074】
テープは、ウィーブ(weave)としてまとめられるか、又は不織扁平トウ(non-woven flattened tow)を示す材料である。テープの幅は様々であり、一般にリボンと同様な二面構造である。本発明の処理は、テープの片面又は両面へのCNT浸出に対応できる。CNT浸出テープは、平らな基質表面の「カーペット(carpet)」又は「森(forest)」と類似する。さらに、本発明の処理は、テープのスプールを機能化するために連続モードで行うことができる。
【0075】
繊維ブレイズは、高密度に充填された炭素繊維のロープ様構造物を意味する。このような構造物は、例えばヤーンから形成することができる。ブレイズ構造は、中空部分を含むか又は他のコア材料の周りに形成される。
【0076】
ある実施形態において、多くの繊維材料の一次構造は、ファブリック又はシート様構造物に加工される。これらには例えば、上記のテープに加えて、織物ファブリック、不織繊維マット及び繊維プライが含まれる。このようなより高秩序の構造物は、親繊維(parent fiber)に既に浸出されたCNTとともに、親トウ、ヤーン又はフィラメント等から形成することができる。あるいは、このような構造物は、本明細書に記載されるCNT浸出処理のための基質としての役割を果たすことができる。
【0077】
図1〜6は、本明細書に記載の処理により作成された炭素繊維材料上に形成したCNTのTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を作成するための処理は、以下及び実施例I〜IIIにおいてさらに詳細に説明される。これらの図及び処理は、炭素繊維材料の処理を例示するが、当業者は、これらの処理から大幅に逸脱しない限りにおいて、上で列挙された他の繊維材料の使用が可能なことを理解するだろう。図1及び2は、連続処理においてAS4に作成された多層及び二層カーボンナノ粒子のTEM画像をそれぞれ示す。図3は、炭素繊維材料表面にCNT形成ナノ粒子触媒が機械的に浸出された後に、バリアコーティング内から成長したCNTの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、炭素繊維材料上で目標とする長さである約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像である。図5は、CNT成長に対するバリアコーティングの効果を明示するSEM画像を示す。バリアコーティングが塗布されたところからは、高密度で整然と並んだCNTが成長するが、バリアコーティングがないところからは、CNTは成長しない。図6は、繊維全域における約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTの低倍率SEM画像を示す。
【0078】
図7を参照すると、本発明のある実施形態による、複合材料100の概略断面図が図示されている。複合材料100は、例えば、望ましいEM放射遮蔽特性を有する電気部品用のハウジングパネル等のEMI遮蔽構造物を形成するのに適している。複合材料100には、マトリクス140中に存在しえるトウ又はロービング等の、多数の繊維又はフィラメント110が含まれている。繊維110にはカーボンナノチューブ120が浸出される。例示的な実施形態において、繊維110はガラス(例えば、E−ガラス、S−ガラス、D−ガラス)繊維であってもよい。他の実施形態において、繊維110は炭素(グラファイト)繊維であってもよい。ポリアミド(芳香族ポリアミド、アラミド)(例えば、Kevlar 29及びKevlar 49)、金属繊維(例えば、鉄、アルミニウム、モリブデン、タンタラム、チタン、銅及びタングステン)、タングステン一炭化物(tungsten monocarbide)、セラミック繊維、金属セラミック繊維(例えば、ケイ酸アルミニウム)、セルロース系繊維、ポリエステル、石英及び炭化ケイ素等の他の繊維もまた用いられてよい。炭素繊維に関して本明細書に記載のCNT合成処理は、いずれの種類の繊維でのCNT合成にも使用することができる。ある実施形態において、金属繊維は、触媒微粒子が塗布される前に、適切なバリアコーティングで被覆することにより、触媒微粒子と金属繊維との間の合金化等の望ましくない化学反応を避けることができる。したがって、金属繊維材料を使用する場合、炭素繊維材料用に使用される前記処理は平行して用いることができる。同様に、熱に敏感なアラミド繊維はまた、CNT成長の間に使用される標準的な温度から繊維材料を保護するために、バリアコーティングを使用することができる。
【0079】
例示的な実施形態において、カーボンナノチューブ120は繊維110の外面から概して垂直に成長し、これによりそれぞれの繊維110は放射状に被覆されてもよい。カーボンナノチューブ120は、繊維110にその場で成長してもよい。例えば、ガラス繊維110は、所定の約500℃〜750℃を維持した成長チャンバーから与えられてもよい。そして、炭素含有搬送ガスは、成長チャンバーに導入され、炭素ラジカルが解離し、触媒ナノ粒子存在下でガラス繊維上でのカーボンナノチューブの形成が開始される。
【0080】
一構成において、複合材料100を形成するために、CNT浸出繊維110は樹脂浴に送られる。他の構成において、ファブリックはCNT浸出繊維110から編み上げられ、その後、ファブリックは樹脂浴に送られてもよい。樹脂浴は、CNT浸出繊維110及びマトリクス140を含んで構成される複合材料100の製造のために、任意の樹脂を含むことができる。一構成において、マトリクス140は、エポキシ樹脂マトリクスの形態をとってもよい。他の構成において、マトリクス140は、汎用ポリエステル(オルトフタル酸ポリエステル等)、改良ポリエステル(イソフタル酸ポリエステル等)、フェノール樹脂、ビスマレイミド(BMI)樹脂、ポリウレタン及びビニルエステルの1つであってもよい。マトリクス140はまた、航空宇宙又は軍事用途等の高い動作温度での性能を要求される用途に有用な非樹脂マトリクス(例えばセラミックマトリクス)の形態をとることができる。当然のことながら、マトリクス140はまた、金属マトリクスの形態をとることができる。
【0081】
CNT浸出繊維110又はこれによるファブリック織物に樹脂マトリクスを含浸させる真空樹脂浸出法(vacuum assisted resin infusion method)及び樹脂押出法(resin extrusion method)等の周知の複合材料製造方法が適用されてよい。例えば、CNT浸出繊維110又はこれのファブリックは、型に入れられ、そこに樹脂が浸出されてもよい。他の構成において、CNT浸出繊維110又はこれのファブリックは、そこから樹脂を取り出すために空にする型に据えられてもよい。他の構成において、CNT浸出繊維110は、巻き付けにより「0/90」配向に編み上げられてもよい。これは、例えば、垂直方向などの第1方向に、第1層又はCNT浸出繊維100のパネルを巻き上げ、そして次に、第1方向に対して約90度傾いた水平方向等の第2方向に、第2層又はCNT浸出繊維110のパネルを巻き取ることにより達成される。このような「0/90」配向は、複合材料100にさらなる構造強度を与えることができる。
【0082】
カーボンナノチューブ120を浸出された繊維110は、複合材料100を形成するために、熱硬化プラスチックマトリクス(例えば、エポキシ樹脂マトリクス)に組み込むことができる。マトリクスに繊維を組み込むための方法は、当該技術分野において周知である。一構成において、CNT浸出繊維110は、高圧硬化法(high pressure curing method)を用いてマトリクス140に組み込むことができる。複合材料のCNT充填量は、所定の複合材料中のカーボンナノチューブの重量パーセントを意味する。CNTベース複合材料を形成するための周知の処理には、初期の複合材料の樹脂/マトリクスへの遊離(すなわち、巻取り可能な長さの繊維に結合されていない)カーボンナノチューブの直接的な混合が含まれる。このような処理により得られる複合材料は、粘着性の上昇等の要因により、完成した複合材料中のカーボンナノチューブが、最大で約5重量パーセントに制限されることがある。これに対し、複合材料100は、上記のように、25重量%を上回るCNT充填量を有することがある。CNT浸出繊維110を使用することにより、60重量%ものCNT充填量を有する複合材料が実証されている。材料のEM遮蔽特性は、その電気伝導性に依存する。複合材料100の全体の電気伝導性は、1つには、複合材料100のCNT充填量の関数である。したがって、複合材料100の遮蔽有効性は、1つには、複合材料100のCNT充填量の関数である。
【0083】
CNT浸出繊維材料が組み込まれた上記複合材料100は、レーダー遮蔽特性を含む電磁放射を備えた部品の製造に適し、多くのEMI遮蔽用途に適する。複合材料100は、赤外線(約700nmから約15cm)、可視光線(約400nmから約700nm)及び紫外線(約10nmから約400nm)の放射を含むレーダースペクトルの電磁放射を効果的に吸収又は反射できることが実証されている。
【0084】
例えば、その重量及び強度特性が好ましい複合材料構造物は、その低いEMI遮蔽のために、電子機器部品の形成には適さないことがある。例えば、ある繊維複合材料は通常EM放射を透過させるため、比較的低いEMI遮蔽特性を有する。例えば、ガラス繊維複合材料は、一般にEM放射の広いスペクトルに対して透明である。これらはまた、誘電性であり、低い電気及び熱伝導性を有する。ガラス繊維複合材料へのCNTの組み込みにより、結果として得られる複合材料のEM放射吸収性は効果的に向上する。炭素繊維複合材料は、特定の周波数範囲における良好なEM放射反射率を与えることにより、高いEMI遮蔽からの恩恵を享受することができる。炭素繊維材料にCNTを組み込んだ結果、EM放射の少なくとも一部の吸光度及び高い反射率をさらに与えることにより、炭素繊維複合材料のEMI遮蔽を向上させることができる。吸収の場合、エネルギーは、続いて例えば、電気接地に伝達される。したがって、CNT浸出繊維110を備えた複合材料100は、複合材料の有する低強度重量比等の望ましい特性は維持したまま、EMI遮蔽を向上させる。EM放射遮蔽における複合材料の有効性は、図16〜18に例示するように、複合材料中のカーボンナノチューブの重量パーセントを適合させることにより調整される。
【0085】
図8を参照すると、CNT浸出繊維材料200の断面図が概略図示されている。繊維材料200は任意にマトリクスを含むことができる。マトリクス材の有無に関わらず、CNT浸出繊維材料200は、複合材料のEM遮蔽特性を大幅に向上させるために、予め形成された複合材料の表面に塗布することができる。ある実施形態において、予め形成された複合材料は、そのままでは低いEMI遮蔽を示すことがある。しかしながら、その表面に配置されたCNT浸出繊維材料は、十分なEM遮蔽能力を与えることにより、良好なEMI遮蔽を提供することができる。CNT浸出繊維材料200は、予め形成された複合材料の周囲に巻き付ける又は編むことができる。ある実施形態において、CNT浸出繊維材料200を複合材料に配置するまでマトリクス材が存在しない場合、CNT浸出繊維材料200が配置された後に、マトリクス材を加えることができる。その上、このようにして加えられたマトリクス材は、予め形成された材料と同一のマトリクスでもよいし、又は強い結合を促進する類似した特長を備えていてもよい。
【0086】
CNT浸出繊維材料200には、トウ又はロービング等の繊維材料210中の多数の繊維が含まれる。カーボンナノチューブ120は繊維材料210に浸出される。近接したカーボンナノチューブ120のグループ間のファンデルワールス力は、CNT120間の相互作用を大幅に増大させる。ある実施形態において、この結果、フィラメント同士を結合又は付着させる、カーボンナノチューブ120のCNT「相互嵌合」を生じさせることがある。例示的な実施形態において、カーボンナノチューブ120の相互嵌合は、CNT浸出繊維材料200を強化するために、繊維材料210に圧力をかけることにより、さらに誘発されてもよい。このフィラメント間の結合は、樹脂マトリクス不在下での繊維トウ、テープ及びウィーブの形成を促進することができる。フィラメント間の結合により、従来の繊維トウ複合材料において使用されているようなフィラメントと樹脂との結合に比べて、せん断及び伸張強度が増す。このようなCNT浸出繊維トウから形成された複合繊維材料は、高い層間せん断強度、伸張強度及び軸外強度(out-of-axis strength)とともに、良好なEMI遮蔽特性を示す。
【0087】
ある実施形態において、EMI遮蔽特性を向上させるために、CNTは、厳密に全て相互嵌合する必要はない。例えば、パーコレーション経路は、CNT間のシンプルな点接触により形成することができる。このような実施形態において、「遊離」CNT構成は、少ないもしくはまばらな電気経路、又は特定の終端点で短絡する閉回路経路を提供することがある。この結果、構造物全体におけるEM放射捕捉のために使用される材料内に様々なレベルの誘電率を与えることにより、EM吸収特性に有利に働く個別の電気経路が提供される。
【0088】
一構成において、CNT浸出繊維材料200は、従来の複合材料等に良好なEMI遮蔽特性を与えるため、ガラス繊維複合材料パネル又は炭素繊維複合材料パネル等の従来の複合材料の表面に、コーティングとして塗布することができる。一構成において、CNT浸出繊維材料200は、複合材料構造物のEMI遮蔽特性を強化するために、複合材料構造物の周囲に巻き付けられてもよい。樹脂マトリクス等のマトリクスのコーティングは、CNT浸出繊維材料200又はこれで織ったファブリック織物の1つ以上の層に塗布されてもよく、外部環境からCNT浸出複合繊維200を保護するために、複合材料の表面に塗布されてもよい。多層のCNT浸出繊維材料は、異なる周波数帯域のEM放射を吸収するためのEM放射吸収特性を変化させ、異なる角度から構造物全体に衝突するEM放射を吸収するため、複数のCNTの配向、長さ及び密度を提供するように配置することができる。
【0089】
図9を参照すると、複合材料350の上面355に浸出されたCNTが配置された繊維材料210のコーティング層が概略図示されている。複合材料350は、例えば、従来の複合ガラス又はガラス強化プラスチックの形態をとってもよい。他の構成において、複合材料350は、炭素繊維複合材料構造物又は繊維強化プラスチック構造物の形態をとってもよい。複合材料350自体は、良好なレーダー吸収又はEMI遮蔽特性が要求される用途への使用には概して適さない。しかしながら、浸出されたCNTを備える繊維材料210のコーティング又は層230を、複合材料350の表面355に塗布することにより、その組み合わせ(すなわち、複合材料350及びCNT浸出繊維の組み合わせ)は、大幅に向上したレーダー吸収又はEMI遮蔽特性を示す。例示的な実施形態において、繊維210は、樹脂マトリクス等のマトリクスとともに、カーボンナノチューブ220を浸出された繊維トウであってもよい。さらに他の例示的な実施形態において、繊維210は、複合材料350の上面355に塗布されるファブリックの形態に編まれてもよい。
【0090】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料200はファブリックの形態に編まれてもよい。一構成において、繊維のコーティングの厚さは、CNT浸出繊維の単層の場合には約20ナノメートル(nm)から、CNT浸出繊維の多層の場合の約12.5mmの範囲とすることができる。図示された実施形態は単純化のために繊維の単層を表現しているが、当然のことながら、複合材料35のコーティングを形成するために繊維の多層を使用することができる。
【0091】
CNT浸出繊維材料200を使用することの利点は、このようなコーティングは、重量強度比(weight to strength ratio)や他の望ましい機械的及び構造的特性を維持したまま、EMI遮蔽特性の低い従来の複合材料とともに使用できることである。
【0092】
CNT浸出繊維材料200の層又はコーティングは、複合材料構造物のEMI遮蔽特性を強化するために、複合材料の表面に配置することができる。従来の複合材料に塗布されたCNT浸出繊維材料200の層又はコーティングの使用により、複雑な処理を必要とせずに、製造のために従来の複合材料を用いることが容易になる。
【0093】
図10を参照すると、例示的な実施形態によるコーティングシステム400が図示されている。システム400は、上流の繊維源からCNT浸出繊維110を受け取る。例示的な実施形態において、CNT浸出繊維は、カーボンナノチューブ120が繊維材料上に浸出される成長チャンバーからコーティングシステム400に直接的に導入される。CNT浸出繊維110は、CNT浸出繊維110のさらなる処理のために、浴槽410に入っている化学溶液420に浸漬される。CNT浸出繊維110は、2つの誘導ローラー440,450により誘導される。浴槽ローラー430は、CNT浸出繊維110を溶液420に浸漬する。例示的な実施形態において、溶液420は鉄ベースナノ粒子溶液である。一構成において、溶液420はヘキサン溶媒200に対し、1体積の鉄ベース溶質を含む。CNT浸出繊維110上のカーボンナノチューブ120は、鉄ナノ粒子を吸収し、これによりさらに、CNT浸出繊維110及びこれにより製造されたいずれの複合材料のレーダー吸収又はEMI遮蔽特性が強化される。当然のことながら、CNT浸出繊維110から製造された幅広のファブリックは、鉄ベースナノ粒子を組み込むために同様に処理されてもよい。
【0094】
ある実施形態において、EM放射遮蔽複合材料は、制御された方法で繊維材料に浸出されたCNTを有してもよい。例えば、CNTは、繊維材料のそれぞれの繊維要素の周囲に密な放射状に成長してもよい。他の実施形態において、CNTは、直接繊維軸に沿って並べるために、成長後にさらに処理することができる。これは、例えば、機械的もしくは化学的技術、又は電場の適用により行うことができる。
【0095】
CNTは繊維軸に対して明確な配向を有することができるので、これにより形成されたいずれの複合材料の全体構造において制御配向を有することができる。これは、上記の巻き付け又は組立処理のいずれにおいても、又は硬化等のための樹脂マトリクス内のCNT浸出繊維材料の配向制御により行うことができる。
【0096】
このようにして、ある実施形態において、本発明は、次のEMI遮蔽複合材料の製造方法を提供する1)マトリクス材内でCNT浸出繊維材料の配向を制御された状態で、マトリクス材の一部にCNT浸出繊維材料を配置すること、及び2)マトリクス材を硬化し、CNT浸出繊維材料の制御配向により、そこに浸出されたCNTの相対配向を制御する。複合材料製造処理は、これに制限されるものではないが、湿式及び乾式フィラメント巻き付け、フィラメント配置、ハンドレイアップ(hand layup)及び樹脂浸出を含む。これらの処理は、EMI−SEを向上させるために、パネル、部品、複合材料又は構造物の形成に使用することができる。
【0097】
ある実施形態において、本発明は、本発明のEMI遮蔽複合材料を含むパネルを提供する。前記パネルは、ある実施形態において、EMI遮蔽用の電子機器との整合が調整可能に形成される。CNT浸出繊維材料を有するパネルは、複合材料内に制御配向を備えたCNTを有する。前記パネルには、EMI遮蔽を最大化するために連続EM放射発信源の入射角度に対する角度を調整する機構を備えることができる。例えば、吸収されたEM放射の全てのエネルギーは、パネルの配向を変化させるコンピュータシステムに統合される電気信号へ変換され、これによりEMI遮蔽を最大化することができる。ある実施形態において、EM遮蔽材料はまた、反射されたEM放射信号の効率的な補足が必要とされる探知用途において、EM遮蔽を吸収するために用いられる。
【0098】
上で簡単に述べたように、本発明は、CNT浸出繊維材料を生成するために連続CNT浸出処理を使用する。前記処理は、(a)巻取り可能な寸法の繊維材料の表面にカーボンナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(b)炭素繊維材料上に直接カーボンナノチューブを合成し、これによりカーボンナノチューブ浸出繊維材料を形成することを含む。使用されている繊維材料の種類に応じて、さらなるステップを採用することができる。例えば、炭素繊維材料を使用している場合、バリアコーティングを組み込むステップを前記処理に追加することができる。
【0099】
長さ9フィートのシステムにおいて、前記処理のラインスピードは、約1.5ft/分から約108ft/分の範囲とすることができる。本明細書に記載の処理により達成される前記ラインスピードにより、短い生産時間でCNT浸出繊維材料を従来の市販の量だけ形成することを可能とする。例えば、36ft/分のラインスピードで、CNT浸出繊維(繊維に5重量%を上回るCNTが浸出されている)の量は、5つの別々のトウ(20lb/tow)を同時に処理するよう設計されたシステムでは、1日あたり生産される材料は100ポンド以上より多くなることがある。システムは、より多くのトウを同時に生産するように、又は成長領域を繰り返すことにより高速で生産するように作ることができる。また、CNT製造のいくつかのステップの速度は、当該技術分野で周知のように、極めて遅く、工程の連続モードを阻むものである。例えば、当該技術分野において周知な典型的な処理の場合、CNT形成触媒還元ステップには1〜12時間かかることがある。CNT成長自体もまた、例えばCNT成長に数十分を要する等時間がかかり、このため本発明で実現される速いラインスピードが不可能となることがある。本明細書に記載の処理は、このような律速ステップを克服する。
【0100】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料形成処理は、予め形成されたカーボンナノチューブの懸濁液を繊維材料に塗布しようとするときに生じるCNTのもつれ(entanglement)を避けることができる。すなわち、予め形成されたCNTは炭素繊維材料に浸出されないので、CNTは束化する又はもつれる傾向がある。結果として、炭素繊維材料に弱く付着するCNTの不均一な分布が生じる。しかしながら、本発明の処理は、必要に応じて、成長密度を減少させることにより、炭素繊維材料の表面に極めて均一なもつれたCNTマット(mat)を提供することができる。低密度で成長したCNTは、まず炭素繊維材料に浸出される。このような実施形態において、繊維は垂直配列を誘導するほど密には成長せず、結果として炭素繊維材料表面のもつれたマットが生じる。一方、予め形成されたCNTを手作業で塗布する場合に、炭素繊維材料上でのCNTマットの均一な分布及び密度は保証されない。
【0101】
図11は、本発明の一実施形態によるCNT浸出炭素繊維材料製造のための処理700のフローチャートを表す。当業者は、炭素繊維材料へのCNT浸出を例示しているこの処理のわずかなバリエーションは、例えばガラス又はセラミック繊維等の他のCNT浸出繊維材料を提供するために変更することができることを理解するだろう。条件のこのような変更のいくつかには、例えば、ガラス及びセラミックにとっては任意的な、バリアコーティングの塗布ステップを除去することが含まれる。
【0102】
処理700には少なくとも以下の工程が含まれる。
【0103】
701:炭素繊維材料の機能化。
【0104】
702:機能化された炭素繊維材料へのバリアコーティング及びCNT形成触媒の塗布。
【0105】
704:カーボンナノチューブ合成に十分な温度までの炭素繊維材料の加熱。
【0106】
706:触媒含浸炭素繊維へのCVD媒介CNT成長の促進。
【0107】
ステップ701において、炭素繊維材料は機能化されて、これにより繊維の表面湿潤を促進し、バリアコーティングの付着力を向上させる。
【0108】
カーボンナノチューブを炭素繊維材料に浸出するために、例えば、カーボンナノチューブはバリアコーティングを被覆された炭素繊維材料に合成される。一実施形態において、これは工程702のように、まずバリアコーティングにより炭素繊維材料を被覆し、そして次にバリアコーティングにナノチューブ形成触媒を配置することにより行われる。ある実施形態において、バリアコーティングは、触媒堆積の前に部分的に硬化させることができる。これにより、前記触媒の受容が可能であり、例えばCNT形成触媒と炭素繊維材料との間の表面接触など、バリアコーティングへの埋め込みが受容可能となる表面が提供される。このような実施形態において、バリアコーティングは、触媒を埋め込まれた後に完全に硬化させることができる。ある実施形態において、バリアコーティングは、CNT形成触媒の堆積と同時に、炭素繊維材料に沿って被覆される。CNT形成触媒及びバリアコーティングが配置された時点で、バリアコーティングを完全に硬化させることができる。
【0109】
ある実施形態において、バリアコーティングは触媒が堆積する前に完全に硬化させることができる。このような実施形態において、完全に硬化されたバリア被覆炭素繊維材料は、触媒を受け入れる表面を準備するために、プラズマ処理することができる。例えば、硬化したバリアコーティングを有するプラズマ処理された炭素繊維材料は、CNT形成触媒が堆積することができる粗面化された表面を提供することができる。したがって、バリア表面の「粗面化」のためのプラズマ処理は、触媒堆積を促進する。表面粗さは概してナノメートルスケールである。プラズマ処理において、ナノメートルスケールの深さ及びナノメートルスケールの直径の孔又は窪みが形成される。このような表面改質は、これに制限されないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素を含む1つ以上の様々な異なったガスのプラズマを使用して行うことができる。ある実施形態において、プラズマ粗面化はまた、炭素繊維材料自体に直接行うことができる。これは、炭素繊維材料へのバリアコーティングの付着を促進する。
【0110】
図11に関連して以下でさらに記載されるように、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含む溶液として形成される。上記のように、合成されたナノチューブの直径は、金属微粒子の大きさに関係する。ある実施形態において、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の市販の分散系を入手可能であり、希釈することなく使用され、他の実施形態においては、触媒の市販の分散系は希釈することができる。このような溶液を希釈するか否かは、上記のように、成長したCNTの望ましい密度及び長さによって決めることができる。
【0111】
図11の図示された実施形態に関して、カーボンナノチューブ合成は、化学蒸着(chemical vapor deposition, CVD)処理に基づいて示され、高温で生じる。具体的な温度は触媒選択によるが、一般的には約500から1000℃の範囲であろう。したがって、工程704は、カーボンナノチューブ合成を支援するために、バリア被覆炭素繊維材料を上記の範囲の温度まで加熱することを含む。
【0112】
そして、工程706において、触媒含浸炭素繊維材料上でのCVDに促進されたナノチューブ成長が行われる。CVD処理は、例えば、アセチレン、エチレン又はエタノール等の炭素含有原料ガスにより促進することができる。CNT合成処理は一般に、主な搬送ガスとして不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)を使用する。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲まで供給される。CVD成長用の実質的な不活性環境は、成長チャンバーから蒸気及び酸素を除去することにより形成される。
【0113】
CNT合成処理において、CNTは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部位で成長する。プラズマが形成する強電場の存在を、ナノチューブ成長に作用させるために任意に使用することができる。すなわち前記成長は電場の方向にしたがう傾向がある。プラズマスプレー及び電場の配置を適切に調整することにより、垂直配列CNT(すなわち、炭素繊維材料に垂直な)が合成される。ある状態において、プラズマが存在せずとも、密集したナノチューブは垂直な成長方向を維持し、その結果、カーペット又は森のようなCNTの密な配置を生じさせる。バリアコーティングの存在はまた、CNT成長の方向性に影響を与えることがある。
【0114】
炭素繊維材料に触媒を配置する工程は、溶液をスプレー又は浸漬被覆することにより、又は例えばプラズマ処理等を介した気相堆積により行われる。技術の選択は、バリアコーティングを塗布する方法に合わせることができる。したがって、ある実施形態において、溶媒中の触媒の溶液を形成した後、触媒は、溶液とともにスプレーもしくは浸漬被覆によって、又はスプレー及び浸漬被覆の組み合わせによって、バリア被覆された炭素繊維材料に塗布される。単独で又は組み合わせて使用されるいずれかの技術は、CNT形成触媒により十分均一に被覆された炭素繊維材料を提供するために、1回、2回、3回、4回及び何回でも使用することができる。浸漬被覆が採用された場合、例えば、炭素繊維材料は、第1浸漬槽に第1滞留時間の間、設置することができる。第2浸漬槽が採用された場合、炭素繊維材料は第2浸漬槽に第2滞留時間の間、設置することができる。例えば、炭素繊維材料は、浸漬構成及びラインスピードに応じて、約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらすことができる。スプレー又は浸漬被覆処理を採用すると、炭素繊維材料は、CNT形成触媒ナノ粒子が略単分子層の表面被覆が約5%未満から約80%までもの触媒の表面密度を備える。ある実施形態において、炭素繊維材料へのCNT形成触媒の被覆処理は、単分子層を形成する。例えば、多量のCNT形成触媒上でのCNT成長は、炭素繊維材料へのCNTの浸出度合いを損なうことがある。他の実施形態において、遷移金属触媒は、蒸発技術、電解析出技術、及び有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物の遷移金属触媒をプラズマ原料ガスへ添加する等、当業者に周知の他の処理を使用して炭素繊維材料に堆積させることができる。
【0115】
本発明の処理は連続的に設計されているため、巻取り可能な炭素繊維材料は、浸漬被覆槽が空間的に分離された一連の浴槽中で、浸漬被覆することができる。初期の炭素繊維が新たに生成されている連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、バリアコーティングを炭素繊維材料に塗布及び硬化(又は部分的に硬化)した後の最初のステップとすることができる。バリアコーティング及びCNT形成触媒の塗布は、新たに形成された炭素繊維材料に対して、サイジング剤の塗布のかわりに行うことができる。他の実施形態において、CNT形成触媒は、バリアコーティング後に他のサイジング剤の存在下で、新たに形成された炭素繊維に塗布することができる。このようなCNT形成触媒と他のサイジング剤との同時塗布により、CNT浸出を確かなものにする、炭素繊維材料のバリアコーティングと表面接触したCNT形成触媒が提供される。
【0116】
使用された触媒溶液は、上記のように、dブロック遷移金属のいずれの遷移金属ナノ粒子とすることができる。加えて、前記ナノ粒子には、元素形態又は塩形態のdブロック金属の合金及び非合金混合物並びにこれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定されないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。制限されない例示的な遷移金属NPには、Ni,Fe,Co,Mo,Cu,Pt,Au,Ag及びこれらの塩、並びにこれらの混合物が含まれる。ある実施形態において、このようなCNT形成触媒は、バリアコーティング堆積と同時に炭素繊維材料にCNT形成触媒を直接的に塗布又は浸出することにより、炭素繊維に配置される。これらの遷移金属触媒の多くは、例えばFerrotec Corporation(Bedford, NH)を含む様々なサプライヤーから容易に購入可能である。
【0117】
炭素繊維材料へCNT形成触媒を塗布するために使用される触媒溶液は、CNT形成触媒を均一に分散可能とするいずれの溶媒と共通してもよい。このような溶媒には、これに制限されないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成する制御された極性を備えた他の溶媒が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒が、約1:1から1:10000の範囲とすることができる。このような濃度は、バリアコーティングとCNT形成触媒とが同時に塗布された場合に使用することができる。
【0118】
ある実施形態において、炭素繊維材料の加熱は、CNT形成触媒を堆積させた後にカーボンナノチューブを合成するために、約500℃から1000℃の範囲とすることができる。これらの温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入の前に、又は略同時に行うことができる。
【0119】
ある実施形態において、本発明は、炭素繊維材料からサイジング剤を除去することと、炭素繊維材料に合わせてバリアコーティングを塗布することと、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布することと、炭素繊維材料を少なくとも500℃まで加熱することと、炭素繊維材料上にカーボンナノチューブを合成することと、を含む処理を提供する。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、炭素繊維材料からサイジング剤を除去することと、炭素繊維材料にバリアコーティングを塗布することと、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布することと、前記繊維をCNT合成温度まで加熱することと、触媒含浸炭素繊維材料上でのCVD促進CNT成長させることと、が含まれる。したがって、市販の炭素繊維材料が使用される場合、CNT浸出炭素繊維を構成するための処理には、炭素繊維材料上のバリアコーティング及び触媒を配置する前に、炭素繊維材料からサイジング剤を除去する個別のステップが含まれてもよい。
【0120】
カーボンナノチューブを合成するステップには、参照により本出願に組み込まれた同時継続中の米国特許出願第2004/0245088号明細書に開示された技術を含む、カーボンナノチューブを形成するための多くの技術が含まれてもよい。これに制限されないが、微小共振動、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザアブレーション、アーク放電及び高圧一酸化炭素(HiPCO)を含む当該技術分野で周知の技術により、本発明の繊維上に成長したCNTを得ることができる。特にCVDの間、そこに配置されたCNT形成触媒によりバリア被覆された繊維材料は、直接的に使用することができる。ある実施形態において、従来のサイジング剤のいずれも、CNT合成の前に除去することができる。ある実施形態において、アセチレンガスはイオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマの噴流を生み出す。前記プラズマは触媒担持炭素繊維材料に誘導される。したがって、ある実施形態において、炭素繊維材料上でのCNTの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)炭素繊維材料上に配置された触媒に炭素プラズマを誘導することが含まれる。成長するCNTの直径は、上記のように、CNT形成触媒の大きさに左右される。ある実施形態において、サイジング繊維基質は、CNT合成を促進するために、約550から約800℃まで加熱される。CNT成長を開始させるために、2つのガス(アルゴン、ヘリウム又は窒素等の処理ガス及びアセチレン、エチレン、エタノール又はメタン等の炭素含有ガス)が反応器内に抽気される。CNTは、CNT形成触媒の場所で成長する。
【0121】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマ助長される。プラズマは、成長処理の間に電場を与えることによって生じさせることができる。これらの状況下で成長したCNTは、電場の方向にしたがう。したがって、反応器の形状を調整することにより、円筒形繊維の周囲に放射状に垂直に配列されたカーボンナノチューブを成長させることができる。ある実施形態においては、繊維周囲における放射状の成長のためにプラズマを必要としない。テープ、マット、ファブリック、プライ等の区別できる面を有する炭素繊維材料に対して、触媒は片面又は両面に配置することができ、CNTは同様に、片面又は両面で成長することができる。
【0122】
上記の通り、CNT合成は、巻取り可能な炭素繊維材料を機能化するための連続処理を可能にするのに十分な速度で行われる。様々な装置構成により、以下に例示されるように連続合成を容易にすることができる。
【0123】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、「全プラズマ」処理により構成することができる。全プラズマ処理は、上記のプラズマによる炭素繊維材料の粗面化をともない、これによって表面湿潤特性を向上させ、より同化したバリアコーティングを提供し、及びアルゴン中の酸素、窒素もしくは水素、又はヘリウムに基づくプラズマ等の特定の反応ガス種を使用した炭素繊維材料の機能化による機械的インターロック及び化学的接着を介した塗膜密着性を向上させることができる。
【0124】
バリア被覆炭素繊維材料は、最終CNT浸出製品を形成するために、多くのさらなるプラズマ媒介工程を経る。ある実施形態において、全プラズマ処理には、バリアコーティングが硬化された後の第2表面改質が含まれ得る。これは、触媒堆積を容易にする、炭素繊維材料上のバリアコーティング表面の「粗面化」のためのプラズマ処理である。上記のように、表面改質は、これに制限されないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素及び窒素を含む様々な異なるガスの1つ以上のプラズマを使用して行うことができる。
【0125】
表面改質の後、バリア被覆炭素繊維材料は触媒を塗布される。これは、前記繊維上にCNT形成触媒を堆積させるためのプラズマ処理である。前記CNT形成触媒は、一般に上記の遷移金属である。遷移金属触媒は、気相輸送を促進するために、磁性流体、有機金属、金属塩又は他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに加えることができる。前記触媒は、真空も不活性雰囲気も必要とはしない、周囲環境の室温で塗布することができる。ある実施形態において、炭素繊維材料は、触媒塗布の前に冷却される。
【0126】
全プラズマ処理を継続すると、カーボンナノチューブ合成がCNT成長反応器内で生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着により行うことができ、この場合、炭素プラズマは、触媒含浸繊維にスプレーされる。カーボンナノチューブ成長は高温(触媒に応じて、一般的に約500から1000℃の範囲)で生じるため、触媒含浸繊維は、炭素プラズマにさらされる前に加熱されることがある。浸出処理のために、炭素繊維材料は、任意で軟化するまでさらに過熱することができる。加熱後、炭素繊維材料は炭素プラズマを受ける用意ができる。前記炭素プラズマは、例えば、アセチレン、エチレン、エタノール等の炭素含有ガスを、イオン化可能な電場を通過させることで生み出される。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルを介して、炭素繊維材料へ誘導される。炭素繊維材料は、プラズマを受けるために、スプレーノズルから約1センチメートル以内等に近接させる。ある実施形態において、炭素繊維材料の高い温度を維持するために、炭素繊維材料上方のプラズマスプレイヤーに加熱器が設けられる。
【0127】
連続カーボンナノチューブ合成の他の構成には、カーボンナノチューブを炭素繊維材料に直接合成及び成長させるための特別な長方形反応器が含まれる。前記反応器は、カーボンナノチューブ担持繊維を製造する連続インライン処理で使用するために設計される。ある実施形態において、CNTは、化学蒸着(CVD)を介して、複数領域(multi-zone)反応器内にて、大気圧及び約550℃から約800℃までの範囲の高温で成長する。大気圧で合成されるという事実は、繊維上にCNTを合成するために前記反応器を連続処理ラインへ組み込むのが容易になる一因である。このような領域反応器(zone reactor)を用いるインライン連続処理のもう1つの利点は、CNT成長が、当該技術分野では標準的な他の処理又は装置構成では数分(又はそれ以上)で生じるのに対し、数秒で生じることである。
【0128】
様々な実施形態に係るCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0129】
(長方形に構成された合成反応器)
当該技術分野で周知の典型的なCNT合成反応器の断面は円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では大抵円筒形反応器が使用される)、利便性(円筒形反応器では流動力学のモデル化が容易であり、加熱システムは円環(クオーツ(quartz)等)に容易に対応する)、及び製造の容易さを含む多くの理由がある。円筒形の慣習から離れ、本発明は、断面が長方形のCNT合成反応器を提供する。離れる理由は以下の通りである。1.反応器により処理することができる多くの炭素繊維材料は、平らなテープ又はシート様形態等のように比較的平面的なので、円形断面は反応器体積の使用が非効率である。この非効率は、例えば、a)十分なシステムパージ(system purge)を維持すること(増加した反応器体積は、同レベルのガスパージを維持するために、さらなるガス流量を必要とする)を含む、円筒形CNT合成反応器にいくつかの欠点を生じさせる。これは、開放環境におけるCNTの大量生産による非効率なシステムを生じさせる。b)増加した炭素原料ガス流(不活性ガス流内での相対的な増加は、上記a)のように、さらなる炭素原料ガス流を必要とする)。12K炭素繊維トウの体積は、断面が長方形の合成反応器の全体積の2000分の1であると考えられたい。同等成長円筒形反応器(すなわち、長方形断面反応器と同様の平面的な炭素繊維材料に対応する幅を有する円筒形反応器)において、炭素繊維材料の体積は、前記チャンバーの17500分の1である。一般に、CVD等のガス蒸着処理は、圧力又は温度にもっぱら影響されるが、体積は蒸着の効率に大きな影響力を有する。それでもまだ、長方形反応器の体積は過剰である。この過剰体積は望ましくない反応を促進するが、しかし円筒形反応器はこの約8倍の体積を有するのである。競合する反応が生じるこの大きな機会により、所望の反応は、円筒形反応器チャンバー内で事実上緩やかに生じる。CNT成長のこのような減速は、連続処理の進行において問題となっている。長方形反応器構成の1つの恩恵は、高さの低い長方形チャンバーを使用することにより、反応器体積を減少させ、これによって、この体積比を良好にし、反応を効率的にすることである。本発明のある実施形態において、長方形合成反応器の全体積は、合成反応器を通過している炭素繊維材料の全体積の約3000倍に過ぎない。さらなる実施形態において、長方形合成反応器の全体積は、合成反応器を通過している炭素繊維材料の全体積の約4000倍に過ぎない。またさらなる実施形態において、長方形合成反応器の全体積は、合成反応器を通過している炭素繊維材料の全体積の約10000倍未満である。さらに、円筒形反応器を使用した場合、長方形断面の反応器と同様の流率(flow percent)を提供するために、より多くの炭素原料ガスが必要となることは注目すべきである。他の実施形態において、合成反応器は、長方形ではないが、比較的それに類似しており、円形断面の反応器に対して反応器体積を同様に減少させる多角形形状で表される断面を有することは十分に評価されてよい。c)問題のある温度分布。比較的小さな直径の反応器が使用された場合、チャンバーの中央部からその壁面までの温度勾配は最小となる。しかし、工業規模の生産に使用される等、規模が大きくなるにつれ、温度勾配は大きくなる。このような温度勾配は、炭素繊維基質全域での製品品質のばらつきを生じさせる(すなわち、製品の品質は、半径方向の位置の関数として変化する)。長方形断面の反応器を使用した場合、この問題は大きく避けられる。特に、平面的な基質が使用された場合、反応器の高さを、基質の上向きの大きさに一定に保つことができる。反応器の頂部と底部との間の温度勾配は、基本的にごくわずかであり、結果として、熱問題及びこれにより生じる製品品質のばらつきは避けられる。2.ガス導入。当該技術分野では管状炉が通常使用されるため、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端から導入し、反応器を通じてそれを他端へ引き込む。本明細書に記載のある実施形態において、ガスは、反応器の側面又は頂板及び底板を通って、反応器の中央部又は目標となる成長領域に、対照的に導入され得る。流入する原料ガスがシステムの最も高温の(CNT成長が最も盛んな)部分に連続的に補給されるため、これはCNT成長率全体を向上させる。この持続するガス補給は、長方形CNT反応器が示す高い成長率における重要な側面である。
【0130】
(領域化)
比較的低温のパージ領域を提供するチャンバーは、長方形合成反応器の両端に左右される。出願人は、高温のガスが外部環境(すなわち、反応器の外側)と接した場合、炭素繊維材料の劣化が増すことを究明している。低温のパージ領域は、内部システムと外部環境との間の緩衝材を提供する。当該技術分野で周知の典型的なCNT合成反応器構成は、基質を注意深く(そして緩やかに)冷却することが通常求められる。この長方形CNT成長反応器の出口の低温パージ領域は、連続インライン処理に必要とされる短時間で冷却することができる。
【0131】
(非接触、高温壁(hot-walled)、金属反応器)
ある実施形態において、金属(特にステンレス鋼)製の高温壁反応器が使用される。金属(特にステンレス鋼)は、炭素堆積(すなわち、煤及び副生成物形成)の影響を受けやすいため、これは直感に反するように思える。したがって、ほとんどのCNT反応器構成は、炭素の堆積が少なく、石英は清掃が容易であり、石英は試料の観察を容易にするため、石英反応器を使用する。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上の煤及び炭素堆積の増大の結果、より着実で、より速く、より効率的で、より安定したCNT成長が起きることを観察している。理論に制限されることなく、大気稼働と関連して、反応器内で生じるCVD処理は拡散律速であることが示されている。すなわち、触媒は、その相対的に(反応器が不完全真空下で稼働していた場合より)高い分圧により、反応器システム内で得られる多すぎる炭素を「過剰供給」される。結果として、開放システム(特にクリーン(clean)なもの)において、多すぎる炭素が触媒粒子に付着し、そのCNT合成能力を低下させる。ある実施形態において、長方形反応器は、反応器が「汚れている(dirty)」(すなわち、金属反応器壁面に煤が堆積している)場合、故意に稼働される。炭素が反応器の壁面の単分子層として堆積すると、炭素はその上に容易に堆積するだろう。このメカニズムにより、得られる炭素の一部が「回収される」ため、ラジカルの形態で残っている炭素原料は、触媒を害さない速度で触媒と反応する。既存のシステムは、「クリーンに」稼働し、もしそれが連続処理のために開放していれば、低い成長速度でCNTのはるかに低い収率を生じさせるだろう。
【0132】
上記のように、CNT合成を「汚い」状態で行うことは概して有益であるが、それでもなお、ガスマニホールド及び吸入口等の装置の一部は、煤が妨害物(blockage)を作った場合、CNT成長処理に悪影響を与えることがある。この問題を解決するために、CNT成長反応器チャンバーのこのような領域を、シリカ、アルミナ又はMgO等の煤抑制コーティングにより保護することができる。実際には、装置のこれらの部分を、これらの煤抑制コーティングに浸漬被覆することができる。INVARは、高温でコーティングを確実に適切に付着させ、煤が重要な領域に大幅に蓄積するのを妨げる類似したCTE(熱膨張係数)を有するため、INVAR(R)等の金属をこれらのコーティングとともに使用することができる。
【0133】
(併合された触媒還元とCNT合成)
本明細書に開示のCNT合成反応器において、触媒還元とCNT成長とはいずれも反応器ないで生じる。もし別々の工程として行われた場合、連続処理で使用するのに十分適時に還元ステップを行うことができないため、これは重要である。当該技術分野で周知の典型的な処理において、還元ステップを行うのに通常は1〜12時間かかる。両方の工程は、少なくとも一部には、炭素原料ガスが(円筒形反応器を使用する当該技術分野においては典型的な端部ではなく)反応器の中央部から導入されることにより、本発明の係る反応器内で生じる。繊維が加熱領域に入るにつれ、前記還元処理が生じる。この時点までには、ガスは、触媒と反応し(水素ラジカル相互作用を介した)酸化還元を引き起こす前に、壁面と反応し冷却される時間を得てしまっている。還元はこの遷移領域で行われる。システム内で最も高温の等温領域で、CNT成長は生じ、反応器の中央部付近のガス吸入口近傍で最大成長速度が生じる。
【0134】
ある実施形態において、炭素トウ等の緩やかに構成された炭素繊維材料が使用された場合、連続処理には、前記トウのストランド又はフィラメントを広げるステップを含むことができる。したがって、トウが巻き出されるにしたがい、例えば、真空ベース繊維展開システムを使用してトウが広げられてもよい。比較的固いサイジング炭素繊維が使用される場合、トウを「軟化」させて繊維が広がるのを容易にするために、さらに加熱が行われてもよい。個別のフィラメントを含んで構成された広げられた繊維は、フィラメントの全表面領域をさらすのに十分なように広げられ、このようにして、トウはその後の処理ステップでより効率的に反応可能とされてもよい。このような展開は、3kのトウに対して約4インチから約6インチの範囲に達してもよい。広げられた炭素トウは、上記のプラズマシステムからなる表面処理ステップを経ることができる。バリアコーティングが塗布され粗面化された後、広げられた繊維は、CNT形成触媒浸漬槽を通過することができる。結果として、その表面に触媒粒子が半径方向に分布した炭素トウの繊維が得られる。そして、前記トウの触媒含浸繊維は、秒速数ミクロンという高速度でCNTを合成するために使用される大気圧CVD又はPE−CVDが流れる上記の長方形チャンバー等の、適切なCNT成長チャンバーに進入する。放射状に配列されたCNTを備えたトウの繊維は、CNT成長反応器から退出する。
【0135】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、ある実施形態においてはCNTを機能化するために使用されるプラズマ処理である、さらに他の加工処理を経ることができる。さらなるCNTの機能化は、特定の樹脂に対するその付着を促進させるために用いることができる。したがって、ある実施形態において、本発明は、機能化されたCNTを有するCNT浸出炭素繊維材料を提供する。
【0136】
巻取り可能な炭素繊維材料の連続処理の一部として、CNT浸出炭素繊維材料は、サイジング剤浸漬槽をさらに通過し、これによって最終製品に有用となりえるさらなる任意のサイジング剤を塗布することができる。最終的に湿式巻き付けが所望であれば、CNT浸出炭素繊維材料は、樹脂浴(resin bath)を通過し、マンドレル又はスプールに巻きつけられてもよい。得られた炭素繊維材料と樹脂との組み合わせは、CNTを炭素繊維材料に固定し、これによって容易な取扱及び複合材料の形成を可能にする。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメントの巻き付けを向上させるために使用される。このようにして、炭素トウ等の炭素繊維に形成されたCNTは、樹脂含浸CNT浸出炭素トウを製造するために、樹脂浴を通過してもよい。樹脂含浸の後、炭素トウは、送出し水頭により、回転するマンドレルの表面に設置されてもよい。そしてトウは、周知の方法により、正確な幾何学パターンでマンドレルに巻きつけられてもよい。
【0137】
上記の巻き付け処理は、パイプ(pipe)、チューブ(tube)又は雄型により特徴的に製造される他の構造物を提供する。しかし、本明細書で開示された巻き付け処理により作られる前記構造物は、従来のフィラメント巻き付け処理を介して作られるものとは異なる。特に、本明細書で開示された処理において、前記構造物はCNT浸出トウを含む複合材料から形成される。それゆえ、このような構造物は、CNT浸出トウから与えられた高い強度等からの利益を享受するだろう。
【0138】
ある実施形態において、巻取り可能な炭素繊維材料上でのCNTの浸出のための連続処理は、約0.5ft/分から約36ft/分の範囲のラインスピードを達成することができる。CNT成長チャンバーは3フィートであり、750℃の成長温度で稼働するこの実施形態において、前記処理は、例えば、約1ミクロンから約10ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約6ft/分から約36ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。前記処理はまた、約10ミクロンから約100ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約1ft/分から約6ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。前記処理は、約100ミクロンから約200ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約0.5ft/分から約1ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。CNTの長さはラインスピード及び成長温度のみによって制限されるわけではなく、炭素原料及び不活性搬送ガスの両方の流量もまたCNTの長さに影響し得る。例えば、高いラインスピード(6ft/分から36ft/分)の不活性ガス中に1%未満の炭素原料を含む流量は、1ミクロンから約5ミクロンの長さのCNTを生じさせるだろう。高いラインスピード(6ft/分から36ft/分)の不活性ガス中に1%より多い炭素原料を含む流量は、5ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTを生じさせるだろう。
【0139】
ある実施形態において、2つ以上の炭素材料を同時に処理を実行することができる。例えば、複数のテープトウ、フィラメント、ストランド等を並列に処理を実行することができる。したがって、炭素繊維材料の予め形成されたスプールはいくつでも並列に処理を実行し、処理の最後に再びスプールに巻き取ることができる。並列して実行することができる巻き取られた炭素繊維材料の数には、1,2,3,4,5,6及びCNT成長反応チャンバーの幅が適合するだけ任意の数まで含まれる。さらに、複数の炭素繊維材料が処理を実行される場合、回収スプールの数は、処理開始時点のスプールの数より少なくすることができる。このような実施形態において、炭素ストランド又はトウ等は、これらの炭素繊維材料を、織物ファブリック等のより高度な秩序構造へ組み合わせるさらなる処理に送ることができる。また、連続処理には、例えば、CNT浸出チョップド繊維構造を容易にする後処理チョッパーを組み込むことができる。
【0140】
繊維材料へのCNT浸出のための本発明の処理は、CNTの長さの均一な制御を可能とし、連続処理において、巻取り可能な繊維材料が高速でCNTにより機能化されることを可能にする。5から300秒の材料滞留時間で、3フィートのシステム用の連続処理におけるラインスピードは、約0.5ft/分から約36ft/分の範囲のいずれか及びそれ以上となり得る。前記スピードは、さらに以下に例示された様々なパラメータに依存して決まる。
【0141】
ある実施形態において、約5から約30秒の材料滞留時間では、約1ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTを製造することができる。ある実施形態において、約30から約180秒の材料滞留時間では、約10ミクロンから約100ミクロンの長さのCNTを製造することができる。さらなる実施形態において、約180から約300秒の材料滞留時間では、約100ミクロンから約500ミクロンの長さのCNTを製造することができる。当業者は、これらの範囲は概算であり、CNTの長さはまた、反応温度並びに搬送及び炭素原料の濃度及び流量により調整することができることを理解するだろう。
【0142】
(実施例I)
本実施例は、高いEMI遮蔽特性を目的とする連続処理において、どのようにCNTが炭素繊維材料に浸出されるかを示す。
【0143】
この実施例において、繊維上のCNTの最大充填が目的とされる。テックス値800の34−700の12K炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)は、炭素繊維基質として実現される。この炭素繊維トウのそれぞれのフィラメントの直径はおよそ7μmである。
【0144】
図12は、本発明の実施形態によるCNT浸出繊維製造のためシステム800を示す。システム800には、図示されたように関連する、炭素繊維材料繰り出し及び伸張手段(tensioner)工程805と、サイジング剤除去及び繊維拡張手段(spreader)工程810と、プラズマ処理工程815と、バリアコーティング塗布工程820と、空気乾燥工程825と、触媒塗布工程830と、溶媒の蒸発分離工程835と、CNT浸出工程840と、繊維束化手段(bundler)工程845と、炭素繊維材料取り込みボビン850とが含まれる。
【0145】
繰り出し及び伸張工程805は、繰り出しボビン806及び伸張手段807を含む。繰り出しボビンは、炭素繊維材料860を処理へ導入し、繊維は、伸張手段807により伸張される。例えば、炭素繊維は、2ft/分のラインスピードで処理される。
【0146】
繊維材料860は、サイジング剤除去加熱器865及び繊維拡張手段870を含むサイジング剤除去及び繊維拡張工程810へ導入される。この工程において、繊維860上の全てのサイジング剤は除去される。一般に、除去は繊維のサイジング剤を燃焼させることにより行われる。例えば、赤外線加熱器、マッフル炉及び他の非接触加熱処理を含む様々な加熱手段はいずれもこの目的で使用することができる。サイジング剤除去はまた、化学的に行うこともできる。繊維拡張手段は、繊維の個々の要素を分離する。平坦で均一な直径のバー(bar)の上方及び下方に、不均一な直径のバーの上方及び下方に、半径方向に広がった溝とニーディングローラー(kneading roller)とを備えたバーの上方に、又は振動バー(vibratory bar)の上方に、繊維を引っ張る等の様々な技術及び装置を、繊維の拡張のために使用することができる。繊維の拡張は、より広い繊維表面領域が暴露されることにより、プラズマ適用、バリアコーティング塗布及び触媒塗布等の下流工程の効率を向上させる。
【0147】
複数のサイジング剤除去加熱器865を、繊維のデサイジング(desizing)及び拡張を同時に徐々に行うことを可能にする繊維拡張手段870の至る所に配置することができる。繰り出し及び伸張工程805並びにサイジング剤除去及び繊維拡張手段工程810は、繊維工業においてごく普通に使用される。当業者は、これらの設計及び使用に精通しているだろう。
【0148】
サイジング剤を燃焼するために要する温度及び時間は、(1)サイジング剤及び(2)炭素繊維材料860の商業的供給源/特性の関数として変化する。炭素繊維材料上の従来のサイジング剤は、約650℃で除去することができる。この温度において、サイジング剤の完全な燃焼を確保するために15分を要することがある。前記燃焼温度を越えた温度の上昇は、燃焼時間を削減することができ、特定の商品のサイジング剤における最低の燃焼温度を決定するために熱重量分析(thermogravimetric analysis)が使用される。
【0149】
サイジング剤除去に要する時間に応じて、サイジング剤除去加熱器は必ずしも厳密な意味でのCNT浸出処理に含まれなくてもよく、除去は別々に(例えば、並列して)行うことができる。このような方法で、サイジング剤を含まない(sizing-free)炭素繊維材料の在庫は蓄積され、繊維除去加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために巻取ることができる。そして、サイジング剤を含まない繊維は、繰り出し及び伸張工程805に巻取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含む製造ラインより高速で稼働させることができる。
【0150】
サイジング剤を除去された繊維880は、プラズマ処理工程815に導入される。例えば、大気圧プラズマ処理は、流れに沿って、広げられた炭素繊維材料から1mmの距離から使用される。ガス状原料は、100%のヘリウムから構成される。
【0151】
プラズマ助長繊維885は、バリアコーティング工程820に導入される。本実施形態において、シロキサンベースバリアコーティング溶液が、浸漬被覆構成に用いられる。前記溶液は、体積比40対1の希釈率でイソプロピルアルコールに希釈された「T−11スピンオンガラスAccuglass(登録商標)(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)」である。結果として得られる炭素繊維材料上のバリアコーティングの厚さは、およそ40nmである。バリアコーティングは、周囲環境の室温で塗布することができる。
【0152】
バリアコーティング炭素繊維890は、ナノスケールのバリアコーティングの部分硬化のための空気乾燥工程825に導入される。空気乾燥工程は、炭素繊維スプレッド全体に加熱された気流を送る。温度は100℃から約500℃の範囲である。
【0153】
空気乾燥の後、バリアコーティング炭素繊維890は、触媒塗布工程830に導入される。本実施例において、酸化鉄ベースCNT形成触媒溶液が、浸漬被覆構成に用いられる。前記溶液は、体積比200対1の希釈率でヘキサンに希釈された「EFH−1(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)」である。触媒被覆の単原子層が、炭素繊維材料上に形成される。希釈される前の「EFH−1」は、3〜15%の体積濃度のナノ粒子を有する。酸化鉄ナノ粒子の組成は、Fe2O3及びFe3O4であり、およそ8nmの粒径を有する。
【0154】
触媒含有炭素繊維材料895は、溶媒の蒸発分離工程835に導入される。溶媒蒸発分離工程は、炭素繊維スプレッドの全体に亘って気流を送る。本実施例において、触媒含有炭素繊維材料上に残された全てのヘキサンを蒸発分離するために、室温の空気を使用することができる。
【0155】
溶媒の蒸発分離の後、触媒含有繊維895は、最終的にCNT浸出工程840に送られる。本実施例において、12インチの成長領域を有する長方形反応器は、大気圧でのCVD成長を採用するために使用される。全ガス流の97.6%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.4%は炭素原料(アセチレン)である。前記成長領域は、750℃に保たれる。上記長方形反応器において、750℃は、最高の成長率を可能にする比較的高い成長温度である。
【0156】
CNT浸出の後、CNT浸出繊維897は、繊維束化工程845において、再び束ねられる。この工程は、繊維のストランドのそれぞれを再びまとめ、工程810において行われた拡張工程を事実上無効にする。
【0157】
束ねられたCNT浸出繊維897は、保管のために、取り込み繊維ボビン850の周りに巻かれる。CNT浸出繊維897は、およそ60μmの長さのCNTを充填され、高いEMI遮蔽能力を備えた複合材料に使用する用意ができる。
【0158】
繊維ボビン850上のCNT浸出繊維897は、パネルに巻きなおされ、エポキシ樹脂を浸出される。そして、浸出された複合構造物は、100psiかつ250°F以上の温度(選択されたエポキシ樹脂システムに要求される特定のプロファイル)で、オートクレーブ(autoclave)内にて硬化される。得られたCNT浸出複合パネルは、図14のパネル#132に示されるように、2〜18GHzで83dBの平均EMI−SEを示す。
【0159】
上記の工程の中には、環境分離のために、不活性雰囲気下又は真空下で行えるものがあるということは注目に値する。例えば、炭素繊維材料のサイジング剤が燃焼している場合、繊維を環境的に分離し、これによってガス放出(off-gassing)を封じ、蒸気による損傷を妨げることができる。便宜上、システム800において、環境分離は、製造ラインの最初に行われる炭素繊維材料繰り出し及び伸張並びに製造ラインの最後に行われる繊維の取り込みを除く、全ての工程に提供することができる。
【0160】
(実施例II)
本実施例は、高いEMI遮蔽特性を必要とする用途のための連続処理において、どのようにCNTが初期のガラス繊維材料に浸出されるかを示す。
【0161】
図13は、本発明の実施形態によるCNT浸出繊維を製造するためのシステム900を示す。システム900には、ガラス繊維材料繰り出し及び伸張手段システム902と、CNT浸出システム912と、繊維巻取り機924とが含まれる。
【0162】
繰り出し及び伸張システム902には、繰り出しボビン904と伸張手段906とが含まれる。繰り出しボビンは、繊維スプールを保持し、ガラス繊維材料901を1ft/分のラインスピードで前記処理に搬送する。前記繊維伸張は、前記伸張手段906を介して1〜5lbsに維持する。繰り出し及び伸張工程902は、繊維製造にごく普通に使用されている。当業者は、これらの設計及び使用に精通しているだろう。
【0163】
伸張された繊維905は、CNT浸出システム912に搬送される。工程912には、触媒適用システム914と微小共振CVDに基づくCNT浸出工程925とが含まれる。
【0164】
本実施例において、触媒溶液は、伸張された繊維930が浸漬槽935を通過する等の浸漬処理を介して塗布される。本実施例において、体積比で1の磁性流体溶液と200のヘキサンとからなる触媒溶液が使用される。高いILSSを目的としたCNT浸出繊維用の処理ラインスピードで、前記繊維は30秒間浸漬槽に留まる。触媒は、必要とされる真空下でも不活性雰囲気下でもなく、周囲環境の室温で塗布することができる。
【0165】
そして、触媒含浸ガラス繊維907は、前成長低温不活性ガスパージ領域(pre-growth cool inert gas purge zone)、CNT成長領域及び後成長ガスパージ領域(post-growth gas purge zone)からなるCNT浸出工程925に進む。室温窒素ガスは、上記のように、CNT成長領域からの流出ガスを冷却するために、前成長パージ領域に導入される。前記流出ガスは、繊維酸化を防ぐための高速の窒素パージを介して、350℃未満まで冷却される。繊維は、98%の質量流量の不活性ガス(窒素)と、マニホールドを介して中心部に導入される2%の質量流量のガス炭素含有原料ガス(アセチレン)との混合物を高温で加熱するCNT成長領域に進入する。本実施例において、システムの長さは、2.5フィートであり、CNT成長領域の温度は750℃である。触媒含浸繊維は、本実施例におけるCNT成長環境に60秒間さらされ、その結果ガラス繊維表面に2.5容量パーセント浸出された60ミクロンの長さのCNTが生じる。前記CNT浸出ガラス繊維は、最後に、繊維と、繊維表面及びCNTの酸化を妨げるための流出ガスと、を冷却する350℃の後成長パージ領域を通過する。
【0166】
CNT浸出繊維909は、繊維巻取り機924にまとめられ、高いEMI遮蔽能力を必要とする様々な用途に用いられるための準備ができる。
【0167】
CNT浸出繊維909は、エポキシ樹脂を使用してフレームに湿式巻き付けされる。前記フレームは、結果として得られるパネルに対し、0°及び90°配向で繊維を配列するために使用される。繊維がパネルに巻き付けられた場合、複合材料は、200psiの圧力をかけ、250°F以上の温度(エポキシ樹脂システムが使用する特定の温度プロファイル)の高温のキャビティ内で硬化される。得られたパネルは、図15のパネル#220に示されるように、複合材料中の6.5%より大きなCNT重量%を備え、2〜18GHzの範囲で92dBの高い平均EMI−SEを得る。
【0168】
当然のことながら、上記実施形態は、単に本発明を説明するためのものであり、当業者は、本発明の範囲から離れることなく、上記実施形態の多くのバリエーションを考え出すことができる。例えば、本明細書において、本発明の実施形態の詳細な説明及び理解を提供するために、多くの具体的な詳細が提供された。しかしながら、当業者は、本発明がこれら詳細の1つ以上を備えずに又は他の処理、材料及び構成要素等を備えて実施することができることを理解するだろう。
【0169】
さらに、場合によっては、周知の構造、材料又は工程は、実施形態の側面が不明瞭になるのを避けるため、詳細に示されず、記載されていない。当然のことながら、図示された様々な実施形態は、説明のためのものであり、必ずしもこの縮尺でなくてもよい。本明細書を通じて、「一実施形態」、「実施形態」又は「ある実施形態」とは、実施形態と関連して記載された特定の外観、構造、材料又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれるが、全ての実施形態に含まれる必要はない、ということを意味する。結果として、本明細書を通じて様々な箇所に使用された「一実施形態において」、「実施形態において」又は「ある実施形態において」という言い回しは、全てが同一の実施形態について言及している必要はない。さらに、特定の外観、構造、材料又は特性は、1つ以上の実施形態に適切な方法で組み合わせることができる。それゆえ、そのようなバリエーションは、特許請求の範囲及びその均等の範囲に含まれることを意味する。
【技術分野】
【0001】
(関連出願に関する記載)
本出願は、2009年4月24日に出願された米国仮出願第61/172,503号及び2009年4月28日に出願された米国仮出願第61/173,435号の利益を主張し、これらの出願の全ての内容は参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して電磁(EM)放射を吸収する材料に関する。
【背景技術】
【0003】
電気回路及び電子回路の動作は、電磁誘導又は外部放射源から放射された電磁放射に起因する望ましくない障害により悪影響を受けるおそれがある。このような望ましくない障害は、電気回路及び電子回路の効率的な動作を、中断し、妨害し又は低下させることがある。外部の電磁妨害(EMI)から電気回路及び電子回路を遮蔽するためのハウジング構造が開発された。EMI遮蔽は、一般に、密閉空間への電磁場の侵入を制限するように構成されたハウジング構造を備えることにより行われる。ハウジング構造は、電磁場を遮断するバリアとして機能する「ファラデー箱(Faraday cage)」として知られる導体材料を使用して組み立てられる。より具体的には、当該技術分野で周知のように、ファラデー箱は、導体材料により形成された筐体であり、外部の電磁妨害を遮蔽するために使用することができる。ハウジング構造が外部の電磁力を受けた場合、導電性ハウジング構造内に電流が生じ、そしてこの電流が反対方向の電磁力を発生させ、外部の電磁力を相殺する。
【0004】
同様に、避雷設備は、雷電流の低インピーダンス経路を提供し、さらに導電性ハウジング構造を流れる電流の加熱効果を低下させるために導電性ハウジングを利用する。低下した加熱効果は、落雷による火災の危険性を軽減する。
【0005】
一般に、このようなEMI遮蔽ハウジング構造又は避雷用途の組立に使用される導電性材料には、銅及びアルミニウム等の高い導電性の金属が含まれる。しかしながら、これらの金属は比較的重い。複合金属等の軽い金属又は炭素等の導電性繊維からなる「複合材料」でさえ、一般に絶縁しているため、マトリクス材(matrix material)(例えば、樹脂)の存在による低いEMI遮蔽特性及び避雷特性を有する。このような複合材料は、その特性は望ましいとはいえ、高いEMI遮蔽又は避雷特性を要する用途に適さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合材料のEMI遮蔽特性及び避雷特性を向上させるために、金属充填剤(metal filler)、金属コーティング(metal coating)、金属メッシュ(metal mesh)又は他の金属部材が、複合材料に組み込まれている。しかしながら、このような組み込みにより、複合材料は、重量化し、より複雑になる。EMI遮蔽又は避雷用途に使用するのに適切な他の複合材料が望ましい。本発明は、この要求を満たし、これに関連した利点をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある態様において、本明細書で開示される実施形態は、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(carbon nanotube, CNT)浸出繊維材料を含んで構成される電磁妨害(EMI)遮蔽用途に使用される複合材料に関する。前記複合材料は、約0.01MHzから約18GHzまでの周波数帯域において、電磁(EM)放射の吸収、EM放射の反射又はこれらの両方が可能である。電磁妨害(EMI)遮蔽効果(shielding effectiveness, SE)として測定される複合材料のEM遮蔽能力は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲である。
【0008】
ある態様において、本明細書で開示される実施形態は、マトリクス材内でCNT浸出繊維材料の配向が制御された状態で、マトリクス材の少なくとも一部にCNT浸出繊維材料を配置すること及びマトリクス材を硬化させることを含む、上記複合材料の製造方法に関する。CNT浸出繊維材料の制御された配向は、複合材料構造全体中のCNT浸出繊維材料に浸出されたCNTの相対配向を制御する。
【0009】
ある態様において、本明細書で開示される実施形態は、上記複合材料を含むパネルに関する。前記パネルは、EMI遮蔽用途に使用する装置と整合するように調整可能である。さらに、前記パネルは、電気接地(electrical ground)を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長した多層CNT(MWNT)の投下型電子顕微鏡(TEM)画像。
【図2】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長した二層CNT(DWNT)のTEM画像。
【図3】CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料表面に浸出された部分のバリアコーティング(barrier coating)内部から成長したCNTの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図4】炭素繊維材料上で目標とする長さである約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像。
【図5】CNT成長におけるバリアコーティングの効果を明示するSEM画像。バリアコーティングが適用された部分では高密度かつ良好な配列のCNTが成長し、バリアコーティングが存在しない部分ではCNTは成長しなかった。
【図6】繊維全域における約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTの低倍率SEM画像。
【図7】カーボンナノチューブ浸出繊維材料を有するレーダー吸収複合材料の断面図。
【図8】EMI遮蔽パネル等の部材上のEMI遮蔽材料として使用するために調整されたカーボンナノチューブ浸出繊維トウ(tow)。
【図9】複合材料のEMI遮蔽特性を向上させるために複合材料に適用されたカーボンナノチューブ浸出繊維トウコーティング。
【図10】カーボンナノチューブ浸出繊維用のコーティングシステムの概略図。
【図11】本発明の実施形態によるCNT浸出繊維材料を製造するための処理。
【図12】EMI遮蔽を含む熱伝導性及び電気伝導性の向上を目的とした連続処理において、どのように炭素繊維材料にCNTが浸出されるかを示す。
【図13】EMI遮蔽を含む熱伝導性及び電気伝導性の向上を目的とした連続処理において、どのようにガラス繊維材料にCNTが浸出されるかを示す。
【図14】CNT浸出ガラス繊維エポキシ複合材料のEMI遮蔽有効性。
【図15】CNT浸出炭素繊維エポキシ複合材料のEMI遮蔽有効性。
【図16】複合材料中のCNT重量%の関数としての、CNT浸出複合材料の平均EMI遮蔽有効性のグラフ。
【図17】複合材料中のCNT重量%の関数としての、低周波数帯域におけるCNT浸出複合材料の平均EMI遮蔽有効性のグラフ。
【図18】複合材料中のCNT重量%の関数としての、高周波数帯域におけるCNT浸出複合材料の平均EMI遮蔽有効性のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1つには、EMI遮蔽を提供する複合材料を目指すものである。本明細書に開示されるEMI遮蔽複合材料は、マトリクス材の一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を有する。CNTは、高アスペクト比を有することで、望ましい電磁吸収性を備える。本発明の複合材料中のCNTは、広範囲のEM放射周波数を吸収し、吸収したエネルギーを、例えば、電気接地へ又は熱として消散させることができる。CNTはまた、機構的にEM放射を反射することができる。その上、EMI遮蔽用途において、吸収及び反射のいずれの組み合わせも、電磁放射の透過率が最小化される限りは有用である。実用可能な機構に関わらず、そして、理論に制限されることなく、本発明の複合材料は、かなりの電磁妨害を減少又は防止することができる。
【0012】
本発明のEMI遮蔽複合材料は、既にEMI遮蔽用途に使用されている材料の遮蔽特性を向上させることができる。ある実施形態において、CNT浸出繊維は、誘電性及び導電性複合材料のEMI遮蔽を向上させ、結果として、軽量で高強度の複合材料がもたらされる。このような複合材料の中には、その本質的に低いEMI遮蔽能力のために、以前は用途が制限されていたものもある。
【0013】
本発明のEMI遮蔽複合材料は、可視スペクトル、赤外(IR)スペクトル及び様々なレーダー帯域の他の部分を含んだ電磁スペクトルの異なる領域にわたってほとんど黒体である吸収表面を提供することができる。黒体様の性質を実現するために、繊維材料上のCNT密度が制御される。したがって、例えば、CNT浸出繊維材料の屈折率は、空気の屈折率に厳密に一致するように調整される。フレネルの法則(Fresnel's law)によれば、このとき反射率が最小となる。反射率の最小化は、EM吸収の最適化には有用であるが、本発明の複合材料はまた、EMI遮蔽層の透過率が最小となるように設計することもできる。言い換えれば、吸収は、EMI遮蔽を提供できる限りにおいては有益である。CNT浸出繊維材料により効果的に吸収されない特定の波長に対して、反射率又はCNT浸出繊維材料により吸収されない放射を吸収できる第2構造を提供することは有益である。これに関し、交互に並んだ吸収特性を提供するために、異なるCNT浸出繊維材料の漸進的な層化を提供するのが有益なことがある。多層材料にかえて又は加えて、CNT浸出繊維材料であってもよい反射材料を組み込むことも有益である。このように、例えば、本発明の複合材料は、CNT浸出繊維材料を含んで構成される吸収層又は反射層を複数有する。
【0014】
繊維材料自体は、EM放射吸収にエネルギーを消散させる効果的なパーコレーション経路(percolation pathway)を形成するのに十分なCNT密度を全体に備えた複合材料を提供するCNTの配列を形成する足場である。浸出されたCNTは、EM放射吸収を最大化するために、繊維材料上及び複合材料全体で、均一な長さ、密度及び制御された配向を有するように、適合することができる。
【0015】
EM遮蔽特性をCNTに依存することにより、複合材料は、導電又は絶縁している繊維材料又はマトリクスを利用することができる。その上、EMI遮蔽複合材料は、それが用いられている部材の表面構造の一部として一体化することができる。ある実施形態において、表面だけでなく全部材が、EMI遮蔽として機能する。ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、EMI遮蔽用途に用いるために予め組み立てられた複合材料のコーティングとして使用することができる。
【0016】
上記EM遮蔽材料のためのCNT浸出繊維を形成する製造処理は、本明細書の以下に記載される。前記処理は、大規模連続処理に適している。前記処理において、CNTは、炭素、ガラス、セラミック又はトウもしくはロービング(roving)等の類似した巻取り可能な寸法の繊維材料に直接的に成長する。CNTの成長は、約5ミクロから約500ミクロまでの間で調整可能な長さの深い森(dense forest)状に堆積する性質があり、前記長さは以下に記載した様々な要素により制御されている。この森は、CNTが繊維材料のそれぞれのフィラメント(filament)の表面に対して垂直であるように配向することができ、このようにして半径方向に被覆する。ある実施形態において、繊維材料の軸に対して平行な配向を与えるように、CNTをさらに処理することができる。結果として得られたCNT浸出繊維材料は、製品として巻き取られるか、又はEMI遮蔽用途に用いられるEMI遮蔽複合材料を製造するためのファブリック製品(fabric goods)に織り込まれる。
【0017】
本明細書において、「EMI遮蔽複合材料」とは、マトリクス材に配置されたCNT浸出繊維材料を少なくとも有し、透過率を最小化するとともに電磁放射を吸収又は反射することができる全ての複合材料をいう。本発明のEMI遮蔽複合材料は、少なくとも3つの構成要素、すなわちCNT、繊維材料及びマトリクス材を有する。これらの構成要素は、階層構造を形成するが、ここではCNTは、浸出された繊維材料によりまとめられている。同様に、CNT浸出繊維材料は、それが配置されたマトリクス材によりまとめられる。これは、一般に、ブレンディング(blending)、ミキシング(mixing)、押し出し成形又は引き抜き成形等の様々な技術によって作られる遊離カーボンナノチューブを利用する複合材料とは対照的である。本発明のEMI遮蔽複合材料のCNTは、送信源からの電磁放射を吸収又は反射することができる。吸収された電磁放射は全て、例えば、電気信号に変換されるか、電気接地に供給されるか、又は熱に変換される。
【0018】
本明細書において、「電磁放射」又は「EM放射」とは、約0.01メガヘルツから約300ギガヘルツまでの全てのEM周波数をいう。本発明のEMI遮蔽複合材料は、以下でさらに記載する低周波数(LFからUHF)及び高周波数(LからK帯域)レーダー帯域において、特に効果的である。
【0019】
本明細書において、「電磁妨害」又は「EMI」とは、電子機器が他の発生源からの電磁場(EM場)の近くにある場合の動作の阻害をいう。「EMI遮蔽」は、このような妨害から保護することができる材料を用いる処理である。このような材料は、妨害している電磁放射を吸収又は反射することができる。「EMI遮蔽有効性」、「EMI−SE」、「遮蔽有効性」もしくは「SE」又はこれらの文法的な均等物は、他の発生源の電磁場による減衰/妨害から電子機器を保護する物質の能力の標準化された尺度をいう。EMI−SEは、遮蔽前の妨害電磁信号の強度と、遮蔽後の強度との間の差の関数として計測され、一般的には、メガヘルツ(MHz)、ギガヘルツ(GHz)等のヘルツ(Hz)で計測された特定の周波数で、デシベル(dB)で計測される。
【0020】
本明細書において、「EM遮蔽能力」とは、任意の周波数の電磁放射を吸収又は反射する本発明の複合材料の能力をいう。これは、標準化されたEMI−SE計測により計測することができる。
【0021】
本明細書において、「繊維材料」とは、その基本的な構成成分として繊維を有する全ての材料をいう。この用語は、繊維、フィラメント(filament)、ヤーン(yarn)、トウ(tow)、テープ(tape)、織物(woven)及び不織布(non-woven)製品、プライ(ply)、マット(mat)、3D織物構造物(woven structure)等を包含する。繊維材料は、炭素、ガラス、セラミック、金属及びアラミド等の有機繊維又はシルク、セルロース系繊維等の天然有機繊維を含む有機又は無機材料のいずれであってもよい。
【0022】
本明細書において、「巻取り可能な寸法」は、長さには限定されない少なくとも1つの寸法を有し、これにより材料をスプール又はマンドレル(mandrel)に保存可能となった繊維に言及する。「巻取り可能な寸法」の繊維材料は、本明細書に記載されたCNT浸出のためのバッチ又は連続処理のいずれか一方の使用を示唆する少なくとも1つの寸法を有する。「巻取り可能な寸法」の繊維材料は、市販のガラス、炭素、セラミック及び類似する製品として入手できる。代表的な市販の巻取り可能な寸法の炭素繊維材料として、800テックス(1テックス=1g/1000m)又は620ヤード/lb(Grafil, Inc., Sacramento, CA)のAS4の12k炭素繊維トウが例示される。特に、市販の炭素繊維トウの場合には、5,10,20,50及び100lb(重たいスプール用。通常は3k/12Kトウ)の形で入手できるが、さらに大きいスプールの場合には特注の必要があるかもしれない。本発明の処理は、より大きなスプールを使用可能であるが、5から20lbスプールで動作しやすい。また、例えば、100lb以上の極めて大きな巻取り可能な長さを、2つの50lbスプール等の扱いやすい寸法に分割する前処理を組み込むこともできる。
【0023】
本明細書において、「カーボンナノチューブ(CNT)」は、単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotube, SWNT)、二層カーボンナノチューブ(double-walled carbon nanotube, DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotube, MWNT)を含む多数あるフラーレン族の炭素の円筒形の同素体のいずれかをいう。CNTは、フラーレン様構造により閉塞されていてもよいし、開口端であってもよい。CNTには、他の材料を封入したものが含まれる。
【0024】
本明細書において、「長さが均一」とは、反応器内で成長したCNTの長さに言及する。「均一な長さ」とは、約1ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTにおいて、CNTの長さが、CNTの全長に対して±約20%以下の許容誤差を有することを意味する。1〜4ミクロンのような極めて短い長さの場合、この誤差は、CNTの全長の約20%から±約1ミクロンまでの範囲であり、CNTの全長の約20%をやや上回る。EMI遮蔽への利用において、CNTの長さ(及び被覆の密度)は、EM放射の吸収又は反射の調整に使用することができ、目標とするEM周波数帯域の吸収極大又は反射を最大活用することができる。
【0025】
本明細書において、「分布が均一」とは、炭素繊維材料上のCNT密度の一貫性に言及する。「均一な分布」とは、CNTが、CNTにより被覆された繊維の表面領域の割合として定義される被覆率において±約10%の許容誤差を備えた炭素繊維材料上の密度を有することを意味する。これは、直径8nmの5層CNTに関していえば±1500CNT/μm2であることに等しい。この数値は、CNTの内部空間が充填可能であることを前提としている。
【0026】
本明細書において、「CNT重量%」とは、最終合成物中に存在するCNTの重量又は質量パーセントを意味する。この割合は、前記合成物中のCNTの総重量を、前記最終合成物構造の総重量で除算したものを100%倍した割合を意味する。「CNT重量%」は、CNTの分布とCNTの長さとを結び付ける材料特性である。結果として、「CNT重量%」は、複合材料中のCNTの平均EMI−SEに対する効果を説明するために使用される。例えば、図16に示すように、0〜60dBの平均EMI−SEのために1%未満のCNT重量%が採用され、60〜80dBの平均EMI−SEのために0.5〜2%のCNT重量%が採用され、80dBより大きい平均EMI−SEのために2%より大きいCNT重量%が採用される。
【0027】
本明細書において、「浸出された」とは結合されたことを意味し、「浸出」とは結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用又はファンデルワールス力媒介物理吸着(van der Waals force-mediated physisorption)が含まれる。例えば、ある実施形態において、CNTは炭素繊維材料に直接的に結合されてもよい。CNTと炭素繊維材料の間に配置された、バリアコーティング(barrier corting)又は介在遷移金属ナノ粒子を介した炭素繊維材料へのCNT浸出のように、結合は非直接的であってもよい。本明細書に開示されるCNT浸出炭素繊維材料において、カーボンナノチューブは、上記のように、炭素繊維材料に直接的又は間接的に「浸出」されてもよい。CNTを炭素繊維材料に「浸出」する特定の方法は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。
【0028】
本明細書において、「遷移金属」とは、周期表のdブロックの元素のいずれか又はその合金をいう。また、「遷移金属」には、酸化物、炭化物及び窒化物等の卑遷移金属元素の塩形態が含まれる。
【0029】
本明細書において、「ナノ粒子」もしくはNP又はこれらの文法的な均等物は、NPが球形である必要はないが、均等な球径で約0.1から約100ナノメートルの大きさの粒子をいう。特に、遷移金属NPは、炭素繊維材料上でのCNT成長のための触媒としての役割を果たす。
【0030】
本明細書において、「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」又は単に「サイジング(sizing)」とは、炭素及びガラス繊維(もしくは保護用のコーティングが必要なことがある他の繊維)の製造において、繊維の品質を保護し、複合材料中の繊維とマトリクス材との間の強い界面相互作用を提供し、又は繊維の特定の物理的特性を変化もしくは強化するためのコーティングとして使用される材料の総称をいう。ある実施形態において、繊維材料に浸出されたCNTは、サイジング繊維(sized fiber)として振舞う。すなわち、CNTは繊維を保護し、サイジング材料として振舞う。
【0031】
本明細書において、「マトリクス材(matrix material)」とは、ランダム配向を含む特定の配向で、サイジングCNT浸出炭素繊維材料をまとめる役割を果たすバルク材をいう。マトリクス材は、マトリクス材にCNT浸出繊維材料の物理的又は化学的特性の一部が与えられることにより、CNT浸出繊維材料の存在からの利益を享受することができる。EMI遮蔽に用いる場合、繊維材料に近接したマトリクス材は、マトリクス単独とCNTの単純な混合により得られるよりも良好なCNT密度及びCNT配向を提供する。密度及びCNT浸出繊維材料の「充填(packing)」は、吸収した電磁放射をより効果的に蒸散する手段を提供することによりEMI遮蔽有効性を向上させるか、又は効果的な反射を提供するパーコレーション経路(percolation pathway)を提供することができる。
【0032】
本明細書において、「材料滞留時間(material residence time)」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間に、巻取り可能な寸法の繊維材料に沿った離散点でCNT成長環境にさらされる時間をいう。この定義には、複数のCNT成長チャンバーを採用した場合の滞留時間も含まれる。
【0033】
本明細書において、「ラインスピード(linespeed)」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理に、巻取り可能な寸法の繊維材料が送り出される速度をいい、CNTチャンバーの長さを材料滞留時間で除算して測定される速度である。
【0034】
ある実施形態において、本発明は、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたCNT浸出繊維材料を含むEMI遮蔽複合材料を提供する。前記複合材料は、約0.01MHzから約18GHzの周波数のEM放射を吸収又は反射することができる。前記EMI遮蔽能力は、電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)として計測可能であり、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲でありえる。例えば、図17において、HF、VHF及びUHF帯域でのCNT質量%の増加は、複合材料中のおよそ20%のCNT重量%で、EMI−SEを40dBから70dBにまで向上させる。図17によれば、LF帯域のEMI−SEは、概してCNT重量%の増加からは大幅な影響は受けず、75dBあたりで略一定のままである。図18に関しては、L帯域EMI−SEはまた、CNTの存在に対し比較的一定であり、一貫して約60dBのEMI−SEを提供する。S及びC帯域は、略同一の反応を示し、1重量%CNTで約70dBから20重量%CNTで約90dBの範囲のEMI−SEである。最後に、X及びK帯域のEMI−SEは、類似した反応を示し、1重量%CNTでは60dBのEMI−SEが生じ、20重量%CNTでは120から130dBのEMI−SEが生じる。これらの遮蔽材料は、単なる例示に過ぎない。当業者は、例えばCNT浸出繊維材料の複数の層を使用することによりさらなる遮蔽有効性を達成することができるということ、並びにCNT密度、長さ及び配向は、CNT浸出繊維材料の吸収又は反射特性の変化の組み合わせにより、遮蔽有効性を調整するために変更することができるということを理解するだろう。
【0035】
当業者はまた、SEはEM放射周波数の関数であるということを理解するだろう。したがって、2GHzにおけるSEは、18GHzにおけるSEとは相違することがある。当業者はまた、EMI遮蔽に関する用途において、EM放射の吸収又は反射が望ましいということを理解するだろう。一方、ステルス用途における特性制御のためのレーダー吸収においては、例えば、EM放射を吸収又は透過する材料を製造するのが好ましい。機構的な見地から、EMI遮蔽及びレーダー吸収用途は、CNT浸出繊維材料の存在により提供されるいずれの吸収特性からも利益を享受する。非吸収性の放射の透過又は反射は、例えば、バルクマトリクスの固有の特性などの他のパラメータにより決定することができる。ある実施形態において、繊維材料上での最大化されたCNT充填は、EMI遮蔽用途に特に有用な反射金属のように作用する複合材料を提供することができる。
【0036】
EMI遮蔽複合材料には、トウ、ロービング又はファブリック等の繊維材料の「連続的な」又は「巻取り可能な」長さに、CNTを浸出することにより一般的に構成されたCNT浸出繊維材料が含まれる。SE及びそれ故EM放射吸収能力は、例えば、CNTの長さ、CNT密度及びCNT配向に応じて変化することがある。CNT浸出繊維材料が製造される処理によって、特定の吸収、又は反射能力を備えたEMI遮蔽複合材料の構成物が可能となる。繊維材料上でのCNTの長さ及び配向は、本明細書の以下に記載されるCNT成長処理において制御される。成長処理からの繊維周辺でのCNT配向は、一般に繊維軸の周りに放射状に成長したCNTを提供する。繊維へ浸出されたCNTの成長後の再配向(reoriented)は、機械的もしくは化学的手段又は電場を用いて達成することができる。このようなある実施形態において、CNTは、繊維軸に沿って横たわるように再配向することができる。複合材料におけるCNTの相対配向は、CNT浸出繊維を配向する複合材料の製造処理により順々に制御される。
【0037】
本発明のEMI遮蔽複合材料は、1つ以上のEM放射周波数帯域を吸収又は反射するように構成することができる。ある実施形態において、異なるEM放射周波数帯の吸収又は反射を最大化するために、異なる長さ及び配向のCNTに沿った単一の巻取り可能な長さの異なる部分を有する、単一の巻取り可能な長さのCNT浸出繊維を提供することができる。あるいは、異なるCNTの長さ又は配向を備えた繊維材料の複数の巻取り可能な長さを、同様の効果のために複合材料中に配置することができる。いずれか一方の方策は、異なるEM放射吸収又は反射特性を備えた層を複合材料中に提供する。また、CNTの複数の配向により、EMI遮蔽複合材料は、複合材料に異なる入射角で衝突する複数のEM放射源から発せられた電磁放射の吸収又は反射が可能となる。
【0038】
当業者は、CNT浸出繊維材料のどの特定部分でも、EM放射の単一の波長でさえも、EM吸収及び反射特性の両方を示すことができるということを理解するだろう。したがって、一定のCNT浸出繊維材料のEM遮蔽有効性は、EM放射を吸収及び反射する能力の組み合わせを示し、単なる吸収材料又は反射材料である必要はない。多層構造において、異なる層は主に反射するように設計し、他の層は主に吸収するように設計することができる。
【0039】
複合材料構造物へCNTを充填することにより、吸収されたEM放射全てのエネルギーを蒸散するパーコレーション経路が与えられる。理論に制限されることなく、これは、CNT間点接触、又は図7〜9に例示されたCNTとCNTとの相互嵌合の結果得られたものである。ある実施形態において、EM放射発信源に応じて、又は例えば探知用途内で反射されたEM信号中でのEM放射吸収を最大化するために、CNTに吸収されたEMエネルギーの全ては、パネル等のEMI遮蔽複合材料を含む部品の配向を変化させるコンピュータシステムに統合可能な電気信号に変換することができる。同様に、EM放射を反射する能力はまた、CNT密度及び配向に関係する。例えば、約1%を上回る高密度値において、CNTはある程度EM放射を反射する金属として作用することができる。
【0040】
ある実施形態において、EMI遮蔽複合材料は、部品全体と一体化した部分として、又はステルス用構造物として提供される。このような実施形態において、EMI遮蔽特性は、主に吸収機構により提供され、一方反射機構は最小化される。このようなある実施形態において、CNT浸出繊維材料上のCNT密度は、材料に空気に近い屈折率を提供するように調整され、これによって反射を最小化し、EM放射の吸収を最大化する。
【0041】
EMI遮蔽CNT浸出繊維材料は、複合材料構造物全体の一部分に提供することができる。例えば、複合材料構造物は、EM放射を吸収又は反射するためにCNT浸出繊維材料を組み込んだ表面「外板(skin)」を備えることができる。他の実施形態において、EMI遮蔽複合材料は、他の複合材料又は他の部品の既存の表面へのコーティングとして塗布することができる。ある実施形態において、コーティングは、従来のコーティングにおいて生じるおそれのあるチッピング(chipping)の防止に役立つ長い繊維材料を採用する。その上、コーティングとして使用される場合には、前記EMI複合材料をさらに保護するためのオーバーコーティングを使用することができる。また、コーティングとして使用される場合には、CNT浸出繊維複合材料のマトリクスは、コーティングと構造物との間の強力な結合を提供するように、構造物全体のバルクマトリクスと近接する又は一致することができる。
【0042】
EMI遮蔽複合材料のCNT浸出繊維材料は、浸出されたCNTの部分が略均一な長さで提供される。これにより、複合材料製品全体に、広い断面領域に亘って確かな吸収特性が与えられる。CNT浸出繊維材料の製造のための本明細書に記載の連続処理において、CNT成長チャンバー内での繊維材料の滞留時間は、CNT成長、そして最終的にCNTの長さを制御するために調整される。これは、成長したCNTの特定の性質を制御する手段を提供する。CNTの長さはまた、炭素源並びに搬送ガスの流量及び反応温度の調整を通して制御することができる。CNT特性の付加的な制御は、例えば、CNTを形成するために使用される触媒の大きさを制御することにより得られる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTを提供するために使用することができる。より大きな触媒は、主にMWNTを形成するために使用することができる。
【0043】
加えて、採用されたCNT成長処理は、CNTが溶媒溶液中に懸濁又は分散し、繊維材料に手で塗布される処理で生じるおそれのある、CNTの束化(bundling)又は凝集を避けつつ、繊維材料上に均一に分布したCNTをCNT浸出繊維材料に提供する上で有用である。このような凝集したCNTは、繊維材料に弱く付着する傾向があり、CNT固有の特性は、たとえ現れたとしても弱く現れる。ある実施形態において、被覆率として表される最大分布密度、すなわち、被覆された繊維の表面領域は、直径8nmの5層CNTの場合、約55%となる。この被覆率は、CNTの内部空間を「充填可能」な空間として計算される。様々な分布/密度値は、表面への触媒分布を変化させ、ガスの組成及び処理速度を制御することにより達成することができる。通常のパラメータ設定において、繊維表面に亘って約10%以内の被覆率が達成可能となる。高密度の短いCNTは、機械的特性の向上に有効であり、一方低密度の長いCNTは、EMI遮蔽及びレーダー吸収を含む熱及び電気特性の向上に有効であるが、高密度であればそれにこしたことはない。低密度は、長いCNTが成長した場合に生じることがある。これは、高温及び触媒粒子の州立をもたらすより早い成長速度の結果生じる。
【0044】
繊維材料への浸出に有用なCNTには、単層CNT、二層CNT、多層CNT及びこれらの混合物が含まれる。使用されるCNTの正確な量は、EMI遮蔽複合材料の最終用途に応じて決まる。CNTは、EMI遮蔽及びレーダー吸収に加えて、熱又は電気伝導用に用いることができる。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、単層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、多層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出されたカーボンナノチューブは、単層ナノチューブ及び多層ナノチューブの組み合わせである。単層及び多層ナノチューブの特性には、繊維のいくつかの最終用途にとって、一方又は他方のタイプのナノチューブの合成に影響するいくつかの相違がある。例えば、単層ナノチューブは、半導体又は金属的であるが、多層ナノチューブは金属的である。したがって、もし吸収されたEM放射が、例えば、コンピュータシステムに統合することができる電気信号に変換される場合には、CNTの種類を制御するのが好ましい。
【0045】
CNTは、機械的強度、低・中程度の電気抵抗率、高い熱伝導性等の特性を、CNT浸出繊維材料に付与する。例えば、ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出繊維材料の電気抵抗率は、親繊維材料(parent fiber material)単独の電気抵抗率より低いことがある。さらに一般に、結果として生じたCNT浸出繊維がこれらの特性を示す程度は、カーボンナノチューブによる炭素繊維の被覆の程度及び密度の関数でありえる。これらの特性はまた、それらが組み込まれたEMI遮蔽複合材料全体に伝わることがある。繊維表面領域の任意の面積において、直径8nmで5層のMWNTの場合には、繊維の0〜55%の被覆が可能である(この計算は、CNTの内部空間が充填可能とみなしている)。この値は、小径のCNTの場合小さくなり、大径のCNTの場合大きくなる。表面領域の55%の被覆率は、約15000CNT/micron2に等しい。さらに、CNT特性は、CNTの長さに応じた方法で、炭素繊維材料に与えられる。浸出されたCNTの長さは、1ミクロン,2ミクロン,3ミクロン,4ミクロン,5ミクロン,6ミクロン,7ミクロン,8ミクロン,9ミクロン,10ミクロン,15ミクロン,20ミクロン,25ミクロン,30ミクロン,35ミクロン,40ミクロン,45ミクロン,50ミクロン,60ミクロン,70ミクロン,80ミクロン,90ミクロン,100ミクロン,150ミクロン,200ミクロン,250ミクロン,300ミクロン,350ミクロン,400ミクロン,450ミクロン,500ミクロン及びこれらの間の全ての値を含む、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲で変化することができる。CNTはまた、例えば約0.5ミクロンを含む、約1ミクロンより小さい長さとすることもできる。CNTはまた、例えば510ミクロン,520ミクロン,550ミクロン,600ミクロン,700ミクロン及びこれらの間の全ての値を含む、500ミクロンより大きい長さとすることができる。あるEMI遮蔽用途において、CNTの長さは、約100nmから約25ミクロンの間で変化させることができる。純粋にEMI遮蔽用途である場合、CNTの長さは、約100nmから約500μmの間で変化させることができる。本発明のEM遮蔽複合材料は、約1ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTを組み込むことができる。このようなCNTの長さは、せん断強度(shear strength)の強化にも有用でありえる。CNTの長さはまた、約5から約70ミクロンであってもよい。このようなCNTの長さは、CNTが繊維方向に整列した場合、伸張強度(tensile strength)の強化にも有用でありえる。CNTの長さはまた、約10ミクロンから約100ミクロンであってもよい。このようなCNTの長さは、機械的特性同様、電気的/熱的特性の向上に有用でありえる。CNT浸出のために用いられる処理はまた、約100ミクロンから約500ミクロンの長さのCNTを提供することができるが、これはレーダー吸収及びEMI遮蔽を含む電気的及び熱的特性の向上に有益でありえる。このように、CNT浸出繊維材料は多機能であり、EMI遮蔽複合材料全体の他の多くの特性を向上させることができる。したがって、ある実施形態において、巻取り可能な長さのCNT浸出繊維材料を含む複合材料は、目標とする異なる特性に対処するCNTの異なる長さの様々な均一な領域を有することができる。例えば、せん断強度特性を強化する均一に短いCNTを備えたCNT浸出炭素繊維材料の第1部分と、EMI遮蔽有効性又はレーダー吸収特性を向上させる均一な長いCNTを備えた同一の巻取り可能な材料の第2部分と、を有するのが望ましい。機械的強化は、例えば、EMI遮蔽複合材料の少なくとも一部に上記のように、CNT浸出繊維材料中の短いCNTを提供することにより達成できる。前記複合材料は、EM放射遮蔽のためにEMI遮蔽複合材料の表面に長いCNTと、そして機械的強化のために表面の下側に配置された短いCNTと、を備えた外板の形態をとることができる。CNTの長さの制御は、炭素源と、様々なラインスピード及び成長温度と一体となった不活性ガス流量と、の調整を通じて容易に行うことができる。これによって、同一の巻取り可能な長さの繊維材料のうちの異なる部分のCNTの長さを変化させることができるか、あるいは、異なるスプールが採用され、前記異なるスプールが複合材料構造物の適切な部分に組み込まれる。
【0046】
本発明のEMI遮蔽複合材料には、CNT浸出繊維材料とともに複合材料を形成するためのマトリクス材が含まれる。このマトリクス材には、例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド及びビスマレイミドが含まれる。本発明において有用なマトリクス材には、周知のマトリクス材の全てを含むことができる(Mel M.Schwartz, Composites Handbook(2d ed. 1992)参照)。より一般に、マトリクス材には、熱硬化性及び熱可塑性の両方の樹脂(ポリマー)、金属、セラミック及びセメントを含むことができる。
【0047】
マトリクス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸タイプのポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール系樹脂、シアン酸塩、ビスマレイミド及びナド末端封鎖ポリイミド(nadic end-capped polyimide)(例えば、PMR−15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、多硫化物(polysulfide)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド−イミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート及び液晶ポリエステルが含まれる。
【0048】
マトリクス材として有用な金属には、アルミニウム6061,2024及び713アルミニウムブレーズ(aluminum braze)等のアルミニウム合金が含まれる。マトリクス材として有用なセラミックには、アルミノケイ酸リチウム等の炭素セラミック、アルミナ及びムライト等の酸化物、窒化ケイ素等の窒化物及び炭化ケイ素等の炭化物が含まれる。マトリクス材として有用なセメントには、炭化物ベースセメント(炭化タングステン、炭化クロム及び炭化チタン)、耐火セメント(タングステン−トリア(tungsten-thoria)及び炭化バリウムニッケル(barium-carbonate-nickel))、及びクロム−アルミナ(chromium-alumina)、ニッケル−マグネシア・鉄−ジルコニウム炭化物(nickel-magnesia iron-zirconium carbide)が含まれる。上記全てのマトリクス材料は、単独で又は組み合わせて使用することができる。セラミック及び金属マトリクス複合材料は、例えば、スラストベクトル制御表面、又は高温用途に用いられる電子機器等のEMI遮蔽特性を利用する他の高温用途において、使用することができる。
【0049】
ある実施形態において、EMI遮蔽複合材料には、多量の遷移金属ナノ粒子がさらに含まれる。これらの遷移金属ナノ粒子は、ある実施形態において、CNT成長処理から潜在的な触媒として存在することができる。理論に制限されることなく、CNT形成触媒としての役割を果たす遷移金属NPは、CNT成長核構造(CNT growth seed structure)を形成することにより、CNT成長に触媒作用を及ぼすことができる。前記CNT形成触媒は、存在する場合には任意のバリアコーティングにより固定されて、繊維材料の基部に留まり、繊維材料の表面に浸出される(バリアコーティングの存在は、採用された繊維材料の種類によって決まり、例えば一般に、炭素及び金属繊維に使用される)。このような場合、遷移金属ナノ粒子触媒により初期に形成された核構造は、従来しばしば見られたように、CNT成長の先端に沿って触媒を移動させなくても、連続非触媒CNT成長(non-catalyzed seeded CNT growth)には十分である。このような場合、NPは、繊維材料へのCNTの付着点としての役割を果たす。バリアコーティングの存在はまた、CNT浸出のためのさらなる間接的な結合モチーフももたらす。例えば、CNT形成触媒は、繊維材料と表面接触せずに、上記のようにバリアコーティング内に固定される。このような場合、CNT形成触媒と繊維材料との間に配置されたバリアコーティングによるスタック構造が生じる。どちらの場合でも、形成されたCNTは、繊維材料に浸出される。ある実施形態において、いくつかのバリアコーティングにより、CNT成長触媒は成長中のナノチューブの先端に向けて進むことが可能となる。このような場合、これは、繊維材料への、又は任意にバリアコーティングへの、CNTの直接の結合をもたらす。カーボンナノチューブと繊維材料との間に形成された実際の結合モチーフの性質に関わらず、浸出されたCNTは強固であり、CNT浸出繊維材料がカーボンナノチューブの性質又は特性を示すことが可能となる。
【0050】
バリアコーティングが存在しない場合、潜在的なCNT成長粒子は、カーボンナノチューブの基部、頂部及びこの間のどこにでも現れることができる。この場合もやはり、繊維材料へのCNTの浸出は、介在遷移金属ナノ粒子によって直接的に又は間接的に行われる。ある実施形態において、潜在的なCNT成長触媒には、鉄ナノ粒子が含まれる。これらは、例えば、ゼロ価鉄(zero-valent iron)、鉄(II)、鉄(III)及びこれらの混合物を含む様々な酸化状態でありえる。CNT成長からの潜在的な鉄ベースナノ粒子の存在は、複合材料全体のEMI遮蔽特性を促進する。
【0051】
ある実施形態において、CNT浸出繊維は、成長後に、鉄、フェライト又は鉄ベースナノ粒子溶液を通過する。CNTは、EMI遮蔽をさらに促進する鉄ナノ粒子を大量に吸収することができる。したがって、この付加的な処理ステップは、EM放射吸収を向上させるための追加の鉄ナノ粒子を提供する。
【0052】
本発明のEMI遮蔽複合材料は、レーダー周波数帯域のスペクトルを含むスペクトルの広範囲に亘ってEM放射を吸収又は反射することができる。ある実施形態において、前記複合材料は、高周波レーダーを吸収又は反射することができる。高周波(HF)レーダー帯域は、約3から約30MHz(10〜100m)の範囲の周波数を有する。このレーダー帯域は、沿岸レーダー及び水平線越え(OTH)レーダー用途に有用である。ある実施形態において、前記複合材料は、P帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。これは、約300MHz未満のレーダー周波数を含む。ある実施形態において、前記複合材料は、超短波(VHF)帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。VHFレーダー帯域は、約30から約330MHzの範囲の周波数を有する。VHF帯域は、地中探知用途を含む超長距離用途に有用である。ある実施形態において、前記複合材料は、極超短波(UHF)帯域のレーダーを吸収することができる。UHF帯域は、約300から約1000MHzの範囲の周波数を有する。UHFの用途は、弾道ミサイル早期警戒システム、地中探知及び群葉貫通(foliage penetrating)用途等の超長距離用途を含む。ある実施形態において、前記複合材料は、ロング(L)帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。L帯域は、約1から約2GHzの範囲の周波数を有する。L帯域は、例えば、航空管制及び監視を含む長距離用途に有用である。ある実施形態において、前記複合材料はショート(S)帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。S帯域は、約2から約4GHzの範囲の周波数を含む。S帯域は、ターミナル航空管制、遠距離気象及び航海用レーダー等の用途に有用であり得る。ある実施形態において、前記複合材料は、約4から約8GHzの範囲の周波数を有するC帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。C帯域は、衛星トランスポンダーや気象用途に使用されている。ある実施形態において、前記複合材料は、約8から約12GHzの範囲の周波数を有するX帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。X帯域は、ミサイル誘導、航海用レーダー、気象、中分解能マッピング及び地上監視用途に有用である。ある実施形態において、前記複合材料は、約12から約18GHzの範囲の周波数を含むK帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。K帯域は、気象学者により測雲に使用され、警察によりK帯域レーダーガンを使用したスピード違反取締り(detecting speeding motorist)に使用されることがある。ある実施形態において、前記複合材料は、約24から約40GHzの範囲の周波数を含むKa帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。Ka帯域は、交通信号のトリガーカメラで使用されるようなレーダー式速度違反取締装置に使用されることがある。
【0053】
ある実施形態において、前記複合材料は、広く約40から約300GHzのミリメーター(mm)帯域のレーダーを吸収又は反射することができる。mm帯域には、軍事通信に使用される約40から約60GHzのQ帯域、大気中の酸素により強力に吸収される約50から約75GHzのV帯域、約60から約90GHzのE帯域、実験自律走行車(experimental autonomous vehicle)用の視覚センサ、高分解能気象観測、及び画像化(imaging)に使用される約75から約110GHzのW帯域、及び壁透過レーダーや画像化システムに使用される約1.6から約10.5GHzのUWB帯域が含まれる。
【0054】
ある実施形態において、前記複合材料は、K帯域における約90dBから約110dBのSEを有する。ある実施形態において、前記複合材料は、X帯域における約90dBから約100dBのSEを有する。ある実施形態において、前記複合材料は、C帯域における約80dBから約90dBのSEを有する。ある実施形態において、前記複合材料は、S帯域における約70dBから約80dBのSEを有する。ある実施形態において、前記複合材料は、L帯域における約50dBから約60dBのSEを有する。図15〜18は、本発明によるEMI遮蔽用途のために構成された例示的なパネルのEMI遮蔽結果を示す。例えば、パネル220(図15)は、0.1MHzから18GHzの範囲で試験されたものである。
【0055】
上記のように、遮蔽有効性(SE)は、本発明のEMI遮蔽複合材料のEM放射吸収又は反射能力を評価する1つの手段である。SEは、EM吸収又は反射材料による電磁場の減衰の程度を計測する。SEは、遮蔽前の電磁信号の強度と遮蔽後の強度との間の差である。減衰/SEは、吸収/反射材料が存在する場合としない場合との間の電磁場の強度の比率に対応するデシベル(dB)で計測される。デシベルの範囲が対数目盛りにしたがうのに対し、信号強度又は振幅における減少は、通常距離に対して指数関数的である。したがって、50dBの減衰率は、40dBの10倍の遮蔽強度を意味する。一般に、約10から約30dBの遮蔽範囲は、低レベルの遮蔽を提供する。60から90dBの遮蔽は、高レベルの遮蔽とみなされ、これに対し、90から120dBでは「除外(exceptional)」とみなされる。
【0056】
EMI遮蔽に対する減衰のレベルの測定は、特定の遮蔽用途に依存するが、遮蔽強度を試験する周知技術には、オープンフィールド試験(open field test)、同軸伝送線路試験(coaxial transmission line test)、遮蔽ボックス試験(shielded box test)及び遮蔽室試験(shielded room test)が含まれる。オープンフィールド試験は、電子機器の通常の使用状態と可能な限り近い状態でシミュレートするよう設計されている。試験装置以外に金属素材がない状態で、領域内において装置から様々な距離にアンテナが設置される。これは通常、放射された電磁場及び伝導放射の自由空間計測を可能とするために、オープンサイト(open site)で行われる。結果は、生じたEMIのレベルを検知するノイズレベルメーター(noise level meter)により記録される。オープンフィールド試験は、一般に完成した電子製品に用いられる。
【0057】
同軸伝送線路試験は、平面材料の遮蔽有効性を測定するために、平面波の電磁場の電磁波放射を計測する方法であり、一般に比較試験に採用される。参考試験装置が専用の保持ユニットに配置され、それが受けた複数の周波数の電圧が記録される。そして、第1の対象は負荷装置と交換され、負荷装置は同様の一連の試験を受ける。前記参考装置と負荷装置との比較により、遮蔽材料がある場合とない場合とに受けた電圧の比率が規定される。
【0058】
遮蔽ボックス試験は、一部を切り取られた密封ボックスを使用する。伝導的に被覆された遮蔽ユニットがボックスの開口部に配置され、透過及び発生した放射が全て計測される。ボックスの内側及び外側からの電磁信号は記録され、遮蔽有効性を示す信号の割合と比較される。
【0059】
場合によっては、領域内の周辺雑音の量を減少させるのが困難な時がある。このような場合、遮蔽室試験を採用することができる。この試験は一般に、センサが通った壁面で仕切られた少なくとも2つの遮蔽された部屋を要する。試験装置及び試験設備は一方の部屋に、センサアレイは他方の部屋に配置される。外部信号による計測エラーの可能性を低下させるため、遮蔽鉛(shielding lead)が使用される。遮蔽室試験は、装置の感受性(susceptibility)を評価するのに適している。
【0060】
ある実施形態において、遮蔽有効性を評価するための試験方法は、修正オープン参照技術(open reference technique)を使用する、IEEE−STD−299に記載の標準化された方法であってもよい。試験は、EM発信源を提供する一方の側と、受信装置を提供する他方の側と、を備えた分割されたチャンバー内で行われる。
【0061】
ある実施形態において、複合材料には、EM放射遮蔽複合材料の1重量%から7重量%の範囲で存在するCNTが含まれる。ある実施形態において、CNT充填量は、EMI遮蔽複合材料の1重量%から20重量%の範囲とすることができる。ある実施形態において、EMI遮蔽複合材料中のCNT充填量は、EMI遮蔽複合材料の1重量%,2重量%,3重量%,4重量%,5重量%,6重量%,7重量%,8重量%,9重量%,10重量%,11重量%,12重量%,13重量%,14重量%,15重量%,16重量%,17重量%,18重量%,19重量%及び20重量%並びにこれらの間の全ての値とすることができる。EMI遮蔽複合材料中のCNT充填量はまた、例えば約0.1%から約1%を含む1%より小さい値であってもよい。EMI遮蔽複合材料中のCNT充填量はまた、例えば約25%,30%,40%及び約50%まで並びにこれらの間の全ての値を含む20%より大きい値であってもよい。
【0062】
ある実施形態において、EMI遮蔽複合材料には、カーボンナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料が含まれる。CNT浸出炭素繊維材料は、巻取り可能な寸法の炭素繊維材料、炭素繊維材料の周囲に沿って配置されたバリアコーティング、及び炭素繊維材料に浸出されたカーボンナノチューブ(CNT)が含まれ得る。炭素繊維材料へのCNTの浸出は、炭素繊維材料へのそれぞれのCNTの直接的な結合又は遷移金属NP、バリアコーティングもしくはその両方を介した間接的な結合の結合モチーフが含まれ得る。
【0063】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料には、バリアコーティングが含まれ得る。バリアコーティングには、例えば、アルコキシシラン、メチルシロキサン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス及びガラスナノ粒子が含まれる。CNT形成触媒は、硬化していないバリアコーティング材料に添加され、まとめて炭素繊維材料に塗布することができる。他の実施形態において、バリアコーティング材料は、CNT形成触媒の堆積の前に、炭素繊維材料に加えることができる。バリアコーティング材料の厚さは、後続のCVD成長のために、CNT形成触媒を炭素源にさらせるぐらい十分に薄くすることができる。ある実施形態において、前記厚さは、CNT形成触媒の有効径より薄いか又は略等しい。ある実施形態において、バリアコーティングの厚さは、約10nmから約100nmの範囲である。バリアコーティングはまた、1nm,2nm,3nm,4nm,5nm,6nm,7nm,8nm,9nm及び10nm並びにこれらの間の全ての値を含む10nm未満の値でもよい。
【0064】
理論に制限されることなく、バリアコーティングは、炭素繊維材料とCNTとの間の中間層の役割を果たし、炭素繊維材料へのCNTの機械的な浸出を提供することができる。このような機械的浸出は、炭素繊維材料へCNTが特性の付与しながらも、炭素繊維材料がCNTを形成するためのプラットフォームとしての役割を果たす強固なシステムを尚も提供する。さらに、バリアコーティングを含むことの恩恵として、蒸気にさらされることによる化学損傷からの、又は炭素繊維材料のCNT成長を促進するために用いられる温度まで加熱することによる熱損傷からの、炭素繊維材料の直接の保護がある。
【0065】
炭素繊維材料にCNTが成長する際、高温又はその可能性のある反応器内の残留酸素もしくは蒸気は、炭素繊維材料に損傷を与えることがある。その上、炭素繊維材料自体がCNT形成触媒との反応により損傷を受けることがある。すなわち、炭素繊維材料は、CNT合成のために採用された反応温度において、前記触媒の炭素源としての役割を果たすことがある。このような過剰炭素は、炭素原料ガスの制御された導入を阻害し、炭素を過剰に充填することにより触媒を害することがある。本発明で採用されたバリアコーティングは、炭素繊維材料上でのCNT合成を促進するよう設計される。理論に制限されることなく、前記コーティングは、熱分解に対する熱障壁を提供し、又は高温の環境に炭素繊維材料をさらすことを防ぐ物的障壁となりえる。かわりに又は加えて、バリアコーティングはCNT形成触媒と炭素繊維材料との間の表面領域接触を最小化するか、又はCNT成長温度におけるCNT形成触媒への炭素繊維材料の暴露を軽減することができる。
【0066】
繊維を生成するために使用される前駆体に基づいて分類される炭素繊維には3種類あり、これらのいずれもが本発明に使用することができる。すなわち、レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチである。セルロース系材料であるレーヨン前駆体からの炭素繊維は、比較的低い約20%の炭素含有量を有し、前記繊維は低い強度及び剛性を有する傾向がある。ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体は、約55%の炭素含有量の炭素繊維を提供する。一般に、PAN前駆体に基づく炭素繊維は、最小の表面欠陥のため、他の炭素繊維前駆体に基づく炭素繊維よりも高いせん断強度を有する。
【0067】
また、石油アスファルト、コールタール及びポリビニルクロリドに基づくピッチ前駆体は、炭素繊維を製造するために使用することができる。ピッチは比較的安価で炭素収率が高いが、一定のバッチにおける不均一の問題があり得る。
【0068】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料には、ガラス繊維材料が含まれる。CNT浸出ガラス繊維材料は、任意で使用することはできるが、上記のバリアコーティングの組み込みを必要としない。ガラス繊維材料に使用されるガラスの種類は、例えばE−ガラス、A−ガラス、E−CR−ガラス、C−ガラス、D−ガラス、R−ガラス及びS−ガラスを含むいずれであってもよい。E−ガラスには、1重量%未満のアルカリ酸化物を有するアルミノ−ホウケイ酸ガラスが含まれ、主にガラス強化プラスチックに使用される。A−ガラスには、ほとんど又は全く酸化ホウ素を有さないアルカリ−ライムガラスが含まれる。E−CR−ガラスには、アルカリ酸化物を1重量%未満有するアルミノ−ライムケイ酸塩が含まれ、高い耐酸性を備える。C−ガラスには、高い酸化ホウ素含有量を有するアルカリ−ライムガラスが含まれ、例えばガラスステープル繊維に使用される。D−ガラスには、ホウケイ酸ガラスが含まれ、高い誘電率を有する。R−ガラスには、MgO及びCaOを含まないアルミノケイ酸ガラスが含まれ、高い機械的強度を有する。S−ガラスには、CaOを含まないが高いMgO含有量を備えたアルミノケイ酸ガラスが含まれ、高いせん断強度を有する。これらのガラスの種類の1つ以上は、上記のガラス繊維材料に加工することができる。特定の実施形態において、前記ガラスはE−ガラスである。他の実施形態において、前記ガラスはS−ガラスである。
【0069】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料にはセラミック繊維材料が含まれる。セラミック繊維材料を使用する場合、ガラスのように、バリアコーティングの使用は任意である。セラミック繊維材料に使用されるセラミックの種類は、例えば、アルミナ及びジルコニア等の酸化物、炭化ホウ素、炭化ケイ素及び炭化タングステン等の炭化物、及び窒化ホウ素及び窒化ケイ素等の窒化物を含むいずれの種類であってもよい。他のセラミック繊維材料には、例えば、ホウ化物及びケイ化物が含まれる。セラミック繊維にはまた、玄武岩繊維材料が含まれる。セラミック繊維材料は、他の種類の繊維とともに複合材料に使用することができる。ファブリック様(fabric-like)セラミック繊維材料を例えばガラス繊維に組み込むことは周知である。
【0070】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料には金属繊維材料が含まれ、さらに他の実施形態においては、CNT浸出繊維材料には有機繊維材料が含まれる。当業者は、いずれの繊維材料もEMI遮蔽用途に使用することができ、的確な繊維材料の選択は全体構造物の最終用途によって決まることを理解するだろう。例えば、高温利用と関連して使用されるEMI遮蔽用にセラミック繊維材料を使用することができる。
【0071】
CNT浸出繊維材料には、フィラメント、ヤーン、テープ、繊維ブレイズ(fiber-braid)、織物ファブリック(woven fabric)、不織布繊維マット(non-woven fiber mat)、繊維プライ及び3D織物構造物が含まれる。フィラメントには、約1ミクロンから約100ミクロンの大きさの直径を有する高アスペクト比繊維が含まれる。繊維トウは、一般に密に結合したフィラメントの束であり、通常はヤーンを形成するために互いによりあわされている。
【0072】
ヤーンには、近接して結合した捩れたフィラメントの束が含まれる。ヤーンのそれぞれのフィラメントの直径は比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメータあたりのグラムの重さで表される「テックス(tex)」、又は10000ヤードあたりのポンドの重さで表されるデニール(denier)により説明される様々な重量を有し、この値は使用されている繊維材料によるが、標準的なテックスの範囲は、通常約200テックスから約2000テックスである。
【0073】
トウには、ゆるく結合した捩れのないフィラメントの束が含まれる。ヤーンの場合と同様に、トウに含まれるフィラメントの直径は一般に均一である。また、トウは様々な重量を有し、テックスの範囲は通常約200テックスから2000テックスである。これらはしばしばトウに含まれた数千本のフィラメントの本数により特徴付けられ、例えば、12Kトウ、24Kトウ、48Kトウ等がある。さらに、これらの値は使用されている繊維材料の種類に応じて変化する。
【0074】
テープは、ウィーブ(weave)としてまとめられるか、又は不織扁平トウ(non-woven flattened tow)を示す材料である。テープの幅は様々であり、一般にリボンと同様な二面構造である。本発明の処理は、テープの片面又は両面へのCNT浸出に対応できる。CNT浸出テープは、平らな基質表面の「カーペット(carpet)」又は「森(forest)」と類似する。さらに、本発明の処理は、テープのスプールを機能化するために連続モードで行うことができる。
【0075】
繊維ブレイズは、高密度に充填された炭素繊維のロープ様構造物を意味する。このような構造物は、例えばヤーンから形成することができる。ブレイズ構造は、中空部分を含むか又は他のコア材料の周りに形成される。
【0076】
ある実施形態において、多くの繊維材料の一次構造は、ファブリック又はシート様構造物に加工される。これらには例えば、上記のテープに加えて、織物ファブリック、不織繊維マット及び繊維プライが含まれる。このようなより高秩序の構造物は、親繊維(parent fiber)に既に浸出されたCNTとともに、親トウ、ヤーン又はフィラメント等から形成することができる。あるいは、このような構造物は、本明細書に記載されるCNT浸出処理のための基質としての役割を果たすことができる。
【0077】
図1〜6は、本明細書に記載の処理により作成された炭素繊維材料上に形成したCNTのTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を作成するための処理は、以下及び実施例I〜IIIにおいてさらに詳細に説明される。これらの図及び処理は、炭素繊維材料の処理を例示するが、当業者は、これらの処理から大幅に逸脱しない限りにおいて、上で列挙された他の繊維材料の使用が可能なことを理解するだろう。図1及び2は、連続処理においてAS4に作成された多層及び二層カーボンナノ粒子のTEM画像をそれぞれ示す。図3は、炭素繊維材料表面にCNT形成ナノ粒子触媒が機械的に浸出された後に、バリアコーティング内から成長したCNTの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、炭素繊維材料上で目標とする長さである約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像である。図5は、CNT成長に対するバリアコーティングの効果を明示するSEM画像を示す。バリアコーティングが塗布されたところからは、高密度で整然と並んだCNTが成長するが、バリアコーティングがないところからは、CNTは成長しない。図6は、繊維全域における約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTの低倍率SEM画像を示す。
【0078】
図7を参照すると、本発明のある実施形態による、複合材料100の概略断面図が図示されている。複合材料100は、例えば、望ましいEM放射遮蔽特性を有する電気部品用のハウジングパネル等のEMI遮蔽構造物を形成するのに適している。複合材料100には、マトリクス140中に存在しえるトウ又はロービング等の、多数の繊維又はフィラメント110が含まれている。繊維110にはカーボンナノチューブ120が浸出される。例示的な実施形態において、繊維110はガラス(例えば、E−ガラス、S−ガラス、D−ガラス)繊維であってもよい。他の実施形態において、繊維110は炭素(グラファイト)繊維であってもよい。ポリアミド(芳香族ポリアミド、アラミド)(例えば、Kevlar 29及びKevlar 49)、金属繊維(例えば、鉄、アルミニウム、モリブデン、タンタラム、チタン、銅及びタングステン)、タングステン一炭化物(tungsten monocarbide)、セラミック繊維、金属セラミック繊維(例えば、ケイ酸アルミニウム)、セルロース系繊維、ポリエステル、石英及び炭化ケイ素等の他の繊維もまた用いられてよい。炭素繊維に関して本明細書に記載のCNT合成処理は、いずれの種類の繊維でのCNT合成にも使用することができる。ある実施形態において、金属繊維は、触媒微粒子が塗布される前に、適切なバリアコーティングで被覆することにより、触媒微粒子と金属繊維との間の合金化等の望ましくない化学反応を避けることができる。したがって、金属繊維材料を使用する場合、炭素繊維材料用に使用される前記処理は平行して用いることができる。同様に、熱に敏感なアラミド繊維はまた、CNT成長の間に使用される標準的な温度から繊維材料を保護するために、バリアコーティングを使用することができる。
【0079】
例示的な実施形態において、カーボンナノチューブ120は繊維110の外面から概して垂直に成長し、これによりそれぞれの繊維110は放射状に被覆されてもよい。カーボンナノチューブ120は、繊維110にその場で成長してもよい。例えば、ガラス繊維110は、所定の約500℃〜750℃を維持した成長チャンバーから与えられてもよい。そして、炭素含有搬送ガスは、成長チャンバーに導入され、炭素ラジカルが解離し、触媒ナノ粒子存在下でガラス繊維上でのカーボンナノチューブの形成が開始される。
【0080】
一構成において、複合材料100を形成するために、CNT浸出繊維110は樹脂浴に送られる。他の構成において、ファブリックはCNT浸出繊維110から編み上げられ、その後、ファブリックは樹脂浴に送られてもよい。樹脂浴は、CNT浸出繊維110及びマトリクス140を含んで構成される複合材料100の製造のために、任意の樹脂を含むことができる。一構成において、マトリクス140は、エポキシ樹脂マトリクスの形態をとってもよい。他の構成において、マトリクス140は、汎用ポリエステル(オルトフタル酸ポリエステル等)、改良ポリエステル(イソフタル酸ポリエステル等)、フェノール樹脂、ビスマレイミド(BMI)樹脂、ポリウレタン及びビニルエステルの1つであってもよい。マトリクス140はまた、航空宇宙又は軍事用途等の高い動作温度での性能を要求される用途に有用な非樹脂マトリクス(例えばセラミックマトリクス)の形態をとることができる。当然のことながら、マトリクス140はまた、金属マトリクスの形態をとることができる。
【0081】
CNT浸出繊維110又はこれによるファブリック織物に樹脂マトリクスを含浸させる真空樹脂浸出法(vacuum assisted resin infusion method)及び樹脂押出法(resin extrusion method)等の周知の複合材料製造方法が適用されてよい。例えば、CNT浸出繊維110又はこれのファブリックは、型に入れられ、そこに樹脂が浸出されてもよい。他の構成において、CNT浸出繊維110又はこれのファブリックは、そこから樹脂を取り出すために空にする型に据えられてもよい。他の構成において、CNT浸出繊維110は、巻き付けにより「0/90」配向に編み上げられてもよい。これは、例えば、垂直方向などの第1方向に、第1層又はCNT浸出繊維100のパネルを巻き上げ、そして次に、第1方向に対して約90度傾いた水平方向等の第2方向に、第2層又はCNT浸出繊維110のパネルを巻き取ることにより達成される。このような「0/90」配向は、複合材料100にさらなる構造強度を与えることができる。
【0082】
カーボンナノチューブ120を浸出された繊維110は、複合材料100を形成するために、熱硬化プラスチックマトリクス(例えば、エポキシ樹脂マトリクス)に組み込むことができる。マトリクスに繊維を組み込むための方法は、当該技術分野において周知である。一構成において、CNT浸出繊維110は、高圧硬化法(high pressure curing method)を用いてマトリクス140に組み込むことができる。複合材料のCNT充填量は、所定の複合材料中のカーボンナノチューブの重量パーセントを意味する。CNTベース複合材料を形成するための周知の処理には、初期の複合材料の樹脂/マトリクスへの遊離(すなわち、巻取り可能な長さの繊維に結合されていない)カーボンナノチューブの直接的な混合が含まれる。このような処理により得られる複合材料は、粘着性の上昇等の要因により、完成した複合材料中のカーボンナノチューブが、最大で約5重量パーセントに制限されることがある。これに対し、複合材料100は、上記のように、25重量%を上回るCNT充填量を有することがある。CNT浸出繊維110を使用することにより、60重量%ものCNT充填量を有する複合材料が実証されている。材料のEM遮蔽特性は、その電気伝導性に依存する。複合材料100の全体の電気伝導性は、1つには、複合材料100のCNT充填量の関数である。したがって、複合材料100の遮蔽有効性は、1つには、複合材料100のCNT充填量の関数である。
【0083】
CNT浸出繊維材料が組み込まれた上記複合材料100は、レーダー遮蔽特性を含む電磁放射を備えた部品の製造に適し、多くのEMI遮蔽用途に適する。複合材料100は、赤外線(約700nmから約15cm)、可視光線(約400nmから約700nm)及び紫外線(約10nmから約400nm)の放射を含むレーダースペクトルの電磁放射を効果的に吸収又は反射できることが実証されている。
【0084】
例えば、その重量及び強度特性が好ましい複合材料構造物は、その低いEMI遮蔽のために、電子機器部品の形成には適さないことがある。例えば、ある繊維複合材料は通常EM放射を透過させるため、比較的低いEMI遮蔽特性を有する。例えば、ガラス繊維複合材料は、一般にEM放射の広いスペクトルに対して透明である。これらはまた、誘電性であり、低い電気及び熱伝導性を有する。ガラス繊維複合材料へのCNTの組み込みにより、結果として得られる複合材料のEM放射吸収性は効果的に向上する。炭素繊維複合材料は、特定の周波数範囲における良好なEM放射反射率を与えることにより、高いEMI遮蔽からの恩恵を享受することができる。炭素繊維材料にCNTを組み込んだ結果、EM放射の少なくとも一部の吸光度及び高い反射率をさらに与えることにより、炭素繊維複合材料のEMI遮蔽を向上させることができる。吸収の場合、エネルギーは、続いて例えば、電気接地に伝達される。したがって、CNT浸出繊維110を備えた複合材料100は、複合材料の有する低強度重量比等の望ましい特性は維持したまま、EMI遮蔽を向上させる。EM放射遮蔽における複合材料の有効性は、図16〜18に例示するように、複合材料中のカーボンナノチューブの重量パーセントを適合させることにより調整される。
【0085】
図8を参照すると、CNT浸出繊維材料200の断面図が概略図示されている。繊維材料200は任意にマトリクスを含むことができる。マトリクス材の有無に関わらず、CNT浸出繊維材料200は、複合材料のEM遮蔽特性を大幅に向上させるために、予め形成された複合材料の表面に塗布することができる。ある実施形態において、予め形成された複合材料は、そのままでは低いEMI遮蔽を示すことがある。しかしながら、その表面に配置されたCNT浸出繊維材料は、十分なEM遮蔽能力を与えることにより、良好なEMI遮蔽を提供することができる。CNT浸出繊維材料200は、予め形成された複合材料の周囲に巻き付ける又は編むことができる。ある実施形態において、CNT浸出繊維材料200を複合材料に配置するまでマトリクス材が存在しない場合、CNT浸出繊維材料200が配置された後に、マトリクス材を加えることができる。その上、このようにして加えられたマトリクス材は、予め形成された材料と同一のマトリクスでもよいし、又は強い結合を促進する類似した特長を備えていてもよい。
【0086】
CNT浸出繊維材料200には、トウ又はロービング等の繊維材料210中の多数の繊維が含まれる。カーボンナノチューブ120は繊維材料210に浸出される。近接したカーボンナノチューブ120のグループ間のファンデルワールス力は、CNT120間の相互作用を大幅に増大させる。ある実施形態において、この結果、フィラメント同士を結合又は付着させる、カーボンナノチューブ120のCNT「相互嵌合」を生じさせることがある。例示的な実施形態において、カーボンナノチューブ120の相互嵌合は、CNT浸出繊維材料200を強化するために、繊維材料210に圧力をかけることにより、さらに誘発されてもよい。このフィラメント間の結合は、樹脂マトリクス不在下での繊維トウ、テープ及びウィーブの形成を促進することができる。フィラメント間の結合により、従来の繊維トウ複合材料において使用されているようなフィラメントと樹脂との結合に比べて、せん断及び伸張強度が増す。このようなCNT浸出繊維トウから形成された複合繊維材料は、高い層間せん断強度、伸張強度及び軸外強度(out-of-axis strength)とともに、良好なEMI遮蔽特性を示す。
【0087】
ある実施形態において、EMI遮蔽特性を向上させるために、CNTは、厳密に全て相互嵌合する必要はない。例えば、パーコレーション経路は、CNT間のシンプルな点接触により形成することができる。このような実施形態において、「遊離」CNT構成は、少ないもしくはまばらな電気経路、又は特定の終端点で短絡する閉回路経路を提供することがある。この結果、構造物全体におけるEM放射捕捉のために使用される材料内に様々なレベルの誘電率を与えることにより、EM吸収特性に有利に働く個別の電気経路が提供される。
【0088】
一構成において、CNT浸出繊維材料200は、従来の複合材料等に良好なEMI遮蔽特性を与えるため、ガラス繊維複合材料パネル又は炭素繊維複合材料パネル等の従来の複合材料の表面に、コーティングとして塗布することができる。一構成において、CNT浸出繊維材料200は、複合材料構造物のEMI遮蔽特性を強化するために、複合材料構造物の周囲に巻き付けられてもよい。樹脂マトリクス等のマトリクスのコーティングは、CNT浸出繊維材料200又はこれで織ったファブリック織物の1つ以上の層に塗布されてもよく、外部環境からCNT浸出複合繊維200を保護するために、複合材料の表面に塗布されてもよい。多層のCNT浸出繊維材料は、異なる周波数帯域のEM放射を吸収するためのEM放射吸収特性を変化させ、異なる角度から構造物全体に衝突するEM放射を吸収するため、複数のCNTの配向、長さ及び密度を提供するように配置することができる。
【0089】
図9を参照すると、複合材料350の上面355に浸出されたCNTが配置された繊維材料210のコーティング層が概略図示されている。複合材料350は、例えば、従来の複合ガラス又はガラス強化プラスチックの形態をとってもよい。他の構成において、複合材料350は、炭素繊維複合材料構造物又は繊維強化プラスチック構造物の形態をとってもよい。複合材料350自体は、良好なレーダー吸収又はEMI遮蔽特性が要求される用途への使用には概して適さない。しかしながら、浸出されたCNTを備える繊維材料210のコーティング又は層230を、複合材料350の表面355に塗布することにより、その組み合わせ(すなわち、複合材料350及びCNT浸出繊維の組み合わせ)は、大幅に向上したレーダー吸収又はEMI遮蔽特性を示す。例示的な実施形態において、繊維210は、樹脂マトリクス等のマトリクスとともに、カーボンナノチューブ220を浸出された繊維トウであってもよい。さらに他の例示的な実施形態において、繊維210は、複合材料350の上面355に塗布されるファブリックの形態に編まれてもよい。
【0090】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料200はファブリックの形態に編まれてもよい。一構成において、繊維のコーティングの厚さは、CNT浸出繊維の単層の場合には約20ナノメートル(nm)から、CNT浸出繊維の多層の場合の約12.5mmの範囲とすることができる。図示された実施形態は単純化のために繊維の単層を表現しているが、当然のことながら、複合材料35のコーティングを形成するために繊維の多層を使用することができる。
【0091】
CNT浸出繊維材料200を使用することの利点は、このようなコーティングは、重量強度比(weight to strength ratio)や他の望ましい機械的及び構造的特性を維持したまま、EMI遮蔽特性の低い従来の複合材料とともに使用できることである。
【0092】
CNT浸出繊維材料200の層又はコーティングは、複合材料構造物のEMI遮蔽特性を強化するために、複合材料の表面に配置することができる。従来の複合材料に塗布されたCNT浸出繊維材料200の層又はコーティングの使用により、複雑な処理を必要とせずに、製造のために従来の複合材料を用いることが容易になる。
【0093】
図10を参照すると、例示的な実施形態によるコーティングシステム400が図示されている。システム400は、上流の繊維源からCNT浸出繊維110を受け取る。例示的な実施形態において、CNT浸出繊維は、カーボンナノチューブ120が繊維材料上に浸出される成長チャンバーからコーティングシステム400に直接的に導入される。CNT浸出繊維110は、CNT浸出繊維110のさらなる処理のために、浴槽410に入っている化学溶液420に浸漬される。CNT浸出繊維110は、2つの誘導ローラー440,450により誘導される。浴槽ローラー430は、CNT浸出繊維110を溶液420に浸漬する。例示的な実施形態において、溶液420は鉄ベースナノ粒子溶液である。一構成において、溶液420はヘキサン溶媒200に対し、1体積の鉄ベース溶質を含む。CNT浸出繊維110上のカーボンナノチューブ120は、鉄ナノ粒子を吸収し、これによりさらに、CNT浸出繊維110及びこれにより製造されたいずれの複合材料のレーダー吸収又はEMI遮蔽特性が強化される。当然のことながら、CNT浸出繊維110から製造された幅広のファブリックは、鉄ベースナノ粒子を組み込むために同様に処理されてもよい。
【0094】
ある実施形態において、EM放射遮蔽複合材料は、制御された方法で繊維材料に浸出されたCNTを有してもよい。例えば、CNTは、繊維材料のそれぞれの繊維要素の周囲に密な放射状に成長してもよい。他の実施形態において、CNTは、直接繊維軸に沿って並べるために、成長後にさらに処理することができる。これは、例えば、機械的もしくは化学的技術、又は電場の適用により行うことができる。
【0095】
CNTは繊維軸に対して明確な配向を有することができるので、これにより形成されたいずれの複合材料の全体構造において制御配向を有することができる。これは、上記の巻き付け又は組立処理のいずれにおいても、又は硬化等のための樹脂マトリクス内のCNT浸出繊維材料の配向制御により行うことができる。
【0096】
このようにして、ある実施形態において、本発明は、次のEMI遮蔽複合材料の製造方法を提供する1)マトリクス材内でCNT浸出繊維材料の配向を制御された状態で、マトリクス材の一部にCNT浸出繊維材料を配置すること、及び2)マトリクス材を硬化し、CNT浸出繊維材料の制御配向により、そこに浸出されたCNTの相対配向を制御する。複合材料製造処理は、これに制限されるものではないが、湿式及び乾式フィラメント巻き付け、フィラメント配置、ハンドレイアップ(hand layup)及び樹脂浸出を含む。これらの処理は、EMI−SEを向上させるために、パネル、部品、複合材料又は構造物の形成に使用することができる。
【0097】
ある実施形態において、本発明は、本発明のEMI遮蔽複合材料を含むパネルを提供する。前記パネルは、ある実施形態において、EMI遮蔽用の電子機器との整合が調整可能に形成される。CNT浸出繊維材料を有するパネルは、複合材料内に制御配向を備えたCNTを有する。前記パネルには、EMI遮蔽を最大化するために連続EM放射発信源の入射角度に対する角度を調整する機構を備えることができる。例えば、吸収されたEM放射の全てのエネルギーは、パネルの配向を変化させるコンピュータシステムに統合される電気信号へ変換され、これによりEMI遮蔽を最大化することができる。ある実施形態において、EM遮蔽材料はまた、反射されたEM放射信号の効率的な補足が必要とされる探知用途において、EM遮蔽を吸収するために用いられる。
【0098】
上で簡単に述べたように、本発明は、CNT浸出繊維材料を生成するために連続CNT浸出処理を使用する。前記処理は、(a)巻取り可能な寸法の繊維材料の表面にカーボンナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(b)炭素繊維材料上に直接カーボンナノチューブを合成し、これによりカーボンナノチューブ浸出繊維材料を形成することを含む。使用されている繊維材料の種類に応じて、さらなるステップを採用することができる。例えば、炭素繊維材料を使用している場合、バリアコーティングを組み込むステップを前記処理に追加することができる。
【0099】
長さ9フィートのシステムにおいて、前記処理のラインスピードは、約1.5ft/分から約108ft/分の範囲とすることができる。本明細書に記載の処理により達成される前記ラインスピードにより、短い生産時間でCNT浸出繊維材料を従来の市販の量だけ形成することを可能とする。例えば、36ft/分のラインスピードで、CNT浸出繊維(繊維に5重量%を上回るCNTが浸出されている)の量は、5つの別々のトウ(20lb/tow)を同時に処理するよう設計されたシステムでは、1日あたり生産される材料は100ポンド以上より多くなることがある。システムは、より多くのトウを同時に生産するように、又は成長領域を繰り返すことにより高速で生産するように作ることができる。また、CNT製造のいくつかのステップの速度は、当該技術分野で周知のように、極めて遅く、工程の連続モードを阻むものである。例えば、当該技術分野において周知な典型的な処理の場合、CNT形成触媒還元ステップには1〜12時間かかることがある。CNT成長自体もまた、例えばCNT成長に数十分を要する等時間がかかり、このため本発明で実現される速いラインスピードが不可能となることがある。本明細書に記載の処理は、このような律速ステップを克服する。
【0100】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料形成処理は、予め形成されたカーボンナノチューブの懸濁液を繊維材料に塗布しようとするときに生じるCNTのもつれ(entanglement)を避けることができる。すなわち、予め形成されたCNTは炭素繊維材料に浸出されないので、CNTは束化する又はもつれる傾向がある。結果として、炭素繊維材料に弱く付着するCNTの不均一な分布が生じる。しかしながら、本発明の処理は、必要に応じて、成長密度を減少させることにより、炭素繊維材料の表面に極めて均一なもつれたCNTマット(mat)を提供することができる。低密度で成長したCNTは、まず炭素繊維材料に浸出される。このような実施形態において、繊維は垂直配列を誘導するほど密には成長せず、結果として炭素繊維材料表面のもつれたマットが生じる。一方、予め形成されたCNTを手作業で塗布する場合に、炭素繊維材料上でのCNTマットの均一な分布及び密度は保証されない。
【0101】
図11は、本発明の一実施形態によるCNT浸出炭素繊維材料製造のための処理700のフローチャートを表す。当業者は、炭素繊維材料へのCNT浸出を例示しているこの処理のわずかなバリエーションは、例えばガラス又はセラミック繊維等の他のCNT浸出繊維材料を提供するために変更することができることを理解するだろう。条件のこのような変更のいくつかには、例えば、ガラス及びセラミックにとっては任意的な、バリアコーティングの塗布ステップを除去することが含まれる。
【0102】
処理700には少なくとも以下の工程が含まれる。
【0103】
701:炭素繊維材料の機能化。
【0104】
702:機能化された炭素繊維材料へのバリアコーティング及びCNT形成触媒の塗布。
【0105】
704:カーボンナノチューブ合成に十分な温度までの炭素繊維材料の加熱。
【0106】
706:触媒含浸炭素繊維へのCVD媒介CNT成長の促進。
【0107】
ステップ701において、炭素繊維材料は機能化されて、これにより繊維の表面湿潤を促進し、バリアコーティングの付着力を向上させる。
【0108】
カーボンナノチューブを炭素繊維材料に浸出するために、例えば、カーボンナノチューブはバリアコーティングを被覆された炭素繊維材料に合成される。一実施形態において、これは工程702のように、まずバリアコーティングにより炭素繊維材料を被覆し、そして次にバリアコーティングにナノチューブ形成触媒を配置することにより行われる。ある実施形態において、バリアコーティングは、触媒堆積の前に部分的に硬化させることができる。これにより、前記触媒の受容が可能であり、例えばCNT形成触媒と炭素繊維材料との間の表面接触など、バリアコーティングへの埋め込みが受容可能となる表面が提供される。このような実施形態において、バリアコーティングは、触媒を埋め込まれた後に完全に硬化させることができる。ある実施形態において、バリアコーティングは、CNT形成触媒の堆積と同時に、炭素繊維材料に沿って被覆される。CNT形成触媒及びバリアコーティングが配置された時点で、バリアコーティングを完全に硬化させることができる。
【0109】
ある実施形態において、バリアコーティングは触媒が堆積する前に完全に硬化させることができる。このような実施形態において、完全に硬化されたバリア被覆炭素繊維材料は、触媒を受け入れる表面を準備するために、プラズマ処理することができる。例えば、硬化したバリアコーティングを有するプラズマ処理された炭素繊維材料は、CNT形成触媒が堆積することができる粗面化された表面を提供することができる。したがって、バリア表面の「粗面化」のためのプラズマ処理は、触媒堆積を促進する。表面粗さは概してナノメートルスケールである。プラズマ処理において、ナノメートルスケールの深さ及びナノメートルスケールの直径の孔又は窪みが形成される。このような表面改質は、これに制限されないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素を含む1つ以上の様々な異なったガスのプラズマを使用して行うことができる。ある実施形態において、プラズマ粗面化はまた、炭素繊維材料自体に直接行うことができる。これは、炭素繊維材料へのバリアコーティングの付着を促進する。
【0110】
図11に関連して以下でさらに記載されるように、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含む溶液として形成される。上記のように、合成されたナノチューブの直径は、金属微粒子の大きさに関係する。ある実施形態において、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の市販の分散系を入手可能であり、希釈することなく使用され、他の実施形態においては、触媒の市販の分散系は希釈することができる。このような溶液を希釈するか否かは、上記のように、成長したCNTの望ましい密度及び長さによって決めることができる。
【0111】
図11の図示された実施形態に関して、カーボンナノチューブ合成は、化学蒸着(chemical vapor deposition, CVD)処理に基づいて示され、高温で生じる。具体的な温度は触媒選択によるが、一般的には約500から1000℃の範囲であろう。したがって、工程704は、カーボンナノチューブ合成を支援するために、バリア被覆炭素繊維材料を上記の範囲の温度まで加熱することを含む。
【0112】
そして、工程706において、触媒含浸炭素繊維材料上でのCVDに促進されたナノチューブ成長が行われる。CVD処理は、例えば、アセチレン、エチレン又はエタノール等の炭素含有原料ガスにより促進することができる。CNT合成処理は一般に、主な搬送ガスとして不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)を使用する。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲まで供給される。CVD成長用の実質的な不活性環境は、成長チャンバーから蒸気及び酸素を除去することにより形成される。
【0113】
CNT合成処理において、CNTは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部位で成長する。プラズマが形成する強電場の存在を、ナノチューブ成長に作用させるために任意に使用することができる。すなわち前記成長は電場の方向にしたがう傾向がある。プラズマスプレー及び電場の配置を適切に調整することにより、垂直配列CNT(すなわち、炭素繊維材料に垂直な)が合成される。ある状態において、プラズマが存在せずとも、密集したナノチューブは垂直な成長方向を維持し、その結果、カーペット又は森のようなCNTの密な配置を生じさせる。バリアコーティングの存在はまた、CNT成長の方向性に影響を与えることがある。
【0114】
炭素繊維材料に触媒を配置する工程は、溶液をスプレー又は浸漬被覆することにより、又は例えばプラズマ処理等を介した気相堆積により行われる。技術の選択は、バリアコーティングを塗布する方法に合わせることができる。したがって、ある実施形態において、溶媒中の触媒の溶液を形成した後、触媒は、溶液とともにスプレーもしくは浸漬被覆によって、又はスプレー及び浸漬被覆の組み合わせによって、バリア被覆された炭素繊維材料に塗布される。単独で又は組み合わせて使用されるいずれかの技術は、CNT形成触媒により十分均一に被覆された炭素繊維材料を提供するために、1回、2回、3回、4回及び何回でも使用することができる。浸漬被覆が採用された場合、例えば、炭素繊維材料は、第1浸漬槽に第1滞留時間の間、設置することができる。第2浸漬槽が採用された場合、炭素繊維材料は第2浸漬槽に第2滞留時間の間、設置することができる。例えば、炭素繊維材料は、浸漬構成及びラインスピードに応じて、約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらすことができる。スプレー又は浸漬被覆処理を採用すると、炭素繊維材料は、CNT形成触媒ナノ粒子が略単分子層の表面被覆が約5%未満から約80%までもの触媒の表面密度を備える。ある実施形態において、炭素繊維材料へのCNT形成触媒の被覆処理は、単分子層を形成する。例えば、多量のCNT形成触媒上でのCNT成長は、炭素繊維材料へのCNTの浸出度合いを損なうことがある。他の実施形態において、遷移金属触媒は、蒸発技術、電解析出技術、及び有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物の遷移金属触媒をプラズマ原料ガスへ添加する等、当業者に周知の他の処理を使用して炭素繊維材料に堆積させることができる。
【0115】
本発明の処理は連続的に設計されているため、巻取り可能な炭素繊維材料は、浸漬被覆槽が空間的に分離された一連の浴槽中で、浸漬被覆することができる。初期の炭素繊維が新たに生成されている連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、バリアコーティングを炭素繊維材料に塗布及び硬化(又は部分的に硬化)した後の最初のステップとすることができる。バリアコーティング及びCNT形成触媒の塗布は、新たに形成された炭素繊維材料に対して、サイジング剤の塗布のかわりに行うことができる。他の実施形態において、CNT形成触媒は、バリアコーティング後に他のサイジング剤の存在下で、新たに形成された炭素繊維に塗布することができる。このようなCNT形成触媒と他のサイジング剤との同時塗布により、CNT浸出を確かなものにする、炭素繊維材料のバリアコーティングと表面接触したCNT形成触媒が提供される。
【0116】
使用された触媒溶液は、上記のように、dブロック遷移金属のいずれの遷移金属ナノ粒子とすることができる。加えて、前記ナノ粒子には、元素形態又は塩形態のdブロック金属の合金及び非合金混合物並びにこれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定されないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。制限されない例示的な遷移金属NPには、Ni,Fe,Co,Mo,Cu,Pt,Au,Ag及びこれらの塩、並びにこれらの混合物が含まれる。ある実施形態において、このようなCNT形成触媒は、バリアコーティング堆積と同時に炭素繊維材料にCNT形成触媒を直接的に塗布又は浸出することにより、炭素繊維に配置される。これらの遷移金属触媒の多くは、例えばFerrotec Corporation(Bedford, NH)を含む様々なサプライヤーから容易に購入可能である。
【0117】
炭素繊維材料へCNT形成触媒を塗布するために使用される触媒溶液は、CNT形成触媒を均一に分散可能とするいずれの溶媒と共通してもよい。このような溶媒には、これに制限されないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成する制御された極性を備えた他の溶媒が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒が、約1:1から1:10000の範囲とすることができる。このような濃度は、バリアコーティングとCNT形成触媒とが同時に塗布された場合に使用することができる。
【0118】
ある実施形態において、炭素繊維材料の加熱は、CNT形成触媒を堆積させた後にカーボンナノチューブを合成するために、約500℃から1000℃の範囲とすることができる。これらの温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入の前に、又は略同時に行うことができる。
【0119】
ある実施形態において、本発明は、炭素繊維材料からサイジング剤を除去することと、炭素繊維材料に合わせてバリアコーティングを塗布することと、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布することと、炭素繊維材料を少なくとも500℃まで加熱することと、炭素繊維材料上にカーボンナノチューブを合成することと、を含む処理を提供する。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、炭素繊維材料からサイジング剤を除去することと、炭素繊維材料にバリアコーティングを塗布することと、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布することと、前記繊維をCNT合成温度まで加熱することと、触媒含浸炭素繊維材料上でのCVD促進CNT成長させることと、が含まれる。したがって、市販の炭素繊維材料が使用される場合、CNT浸出炭素繊維を構成するための処理には、炭素繊維材料上のバリアコーティング及び触媒を配置する前に、炭素繊維材料からサイジング剤を除去する個別のステップが含まれてもよい。
【0120】
カーボンナノチューブを合成するステップには、参照により本出願に組み込まれた同時継続中の米国特許出願第2004/0245088号明細書に開示された技術を含む、カーボンナノチューブを形成するための多くの技術が含まれてもよい。これに制限されないが、微小共振動、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザアブレーション、アーク放電及び高圧一酸化炭素(HiPCO)を含む当該技術分野で周知の技術により、本発明の繊維上に成長したCNTを得ることができる。特にCVDの間、そこに配置されたCNT形成触媒によりバリア被覆された繊維材料は、直接的に使用することができる。ある実施形態において、従来のサイジング剤のいずれも、CNT合成の前に除去することができる。ある実施形態において、アセチレンガスはイオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマの噴流を生み出す。前記プラズマは触媒担持炭素繊維材料に誘導される。したがって、ある実施形態において、炭素繊維材料上でのCNTの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)炭素繊維材料上に配置された触媒に炭素プラズマを誘導することが含まれる。成長するCNTの直径は、上記のように、CNT形成触媒の大きさに左右される。ある実施形態において、サイジング繊維基質は、CNT合成を促進するために、約550から約800℃まで加熱される。CNT成長を開始させるために、2つのガス(アルゴン、ヘリウム又は窒素等の処理ガス及びアセチレン、エチレン、エタノール又はメタン等の炭素含有ガス)が反応器内に抽気される。CNTは、CNT形成触媒の場所で成長する。
【0121】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマ助長される。プラズマは、成長処理の間に電場を与えることによって生じさせることができる。これらの状況下で成長したCNTは、電場の方向にしたがう。したがって、反応器の形状を調整することにより、円筒形繊維の周囲に放射状に垂直に配列されたカーボンナノチューブを成長させることができる。ある実施形態においては、繊維周囲における放射状の成長のためにプラズマを必要としない。テープ、マット、ファブリック、プライ等の区別できる面を有する炭素繊維材料に対して、触媒は片面又は両面に配置することができ、CNTは同様に、片面又は両面で成長することができる。
【0122】
上記の通り、CNT合成は、巻取り可能な炭素繊維材料を機能化するための連続処理を可能にするのに十分な速度で行われる。様々な装置構成により、以下に例示されるように連続合成を容易にすることができる。
【0123】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、「全プラズマ」処理により構成することができる。全プラズマ処理は、上記のプラズマによる炭素繊維材料の粗面化をともない、これによって表面湿潤特性を向上させ、より同化したバリアコーティングを提供し、及びアルゴン中の酸素、窒素もしくは水素、又はヘリウムに基づくプラズマ等の特定の反応ガス種を使用した炭素繊維材料の機能化による機械的インターロック及び化学的接着を介した塗膜密着性を向上させることができる。
【0124】
バリア被覆炭素繊維材料は、最終CNT浸出製品を形成するために、多くのさらなるプラズマ媒介工程を経る。ある実施形態において、全プラズマ処理には、バリアコーティングが硬化された後の第2表面改質が含まれ得る。これは、触媒堆積を容易にする、炭素繊維材料上のバリアコーティング表面の「粗面化」のためのプラズマ処理である。上記のように、表面改質は、これに制限されないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素及び窒素を含む様々な異なるガスの1つ以上のプラズマを使用して行うことができる。
【0125】
表面改質の後、バリア被覆炭素繊維材料は触媒を塗布される。これは、前記繊維上にCNT形成触媒を堆積させるためのプラズマ処理である。前記CNT形成触媒は、一般に上記の遷移金属である。遷移金属触媒は、気相輸送を促進するために、磁性流体、有機金属、金属塩又は他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに加えることができる。前記触媒は、真空も不活性雰囲気も必要とはしない、周囲環境の室温で塗布することができる。ある実施形態において、炭素繊維材料は、触媒塗布の前に冷却される。
【0126】
全プラズマ処理を継続すると、カーボンナノチューブ合成がCNT成長反応器内で生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着により行うことができ、この場合、炭素プラズマは、触媒含浸繊維にスプレーされる。カーボンナノチューブ成長は高温(触媒に応じて、一般的に約500から1000℃の範囲)で生じるため、触媒含浸繊維は、炭素プラズマにさらされる前に加熱されることがある。浸出処理のために、炭素繊維材料は、任意で軟化するまでさらに過熱することができる。加熱後、炭素繊維材料は炭素プラズマを受ける用意ができる。前記炭素プラズマは、例えば、アセチレン、エチレン、エタノール等の炭素含有ガスを、イオン化可能な電場を通過させることで生み出される。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルを介して、炭素繊維材料へ誘導される。炭素繊維材料は、プラズマを受けるために、スプレーノズルから約1センチメートル以内等に近接させる。ある実施形態において、炭素繊維材料の高い温度を維持するために、炭素繊維材料上方のプラズマスプレイヤーに加熱器が設けられる。
【0127】
連続カーボンナノチューブ合成の他の構成には、カーボンナノチューブを炭素繊維材料に直接合成及び成長させるための特別な長方形反応器が含まれる。前記反応器は、カーボンナノチューブ担持繊維を製造する連続インライン処理で使用するために設計される。ある実施形態において、CNTは、化学蒸着(CVD)を介して、複数領域(multi-zone)反応器内にて、大気圧及び約550℃から約800℃までの範囲の高温で成長する。大気圧で合成されるという事実は、繊維上にCNTを合成するために前記反応器を連続処理ラインへ組み込むのが容易になる一因である。このような領域反応器(zone reactor)を用いるインライン連続処理のもう1つの利点は、CNT成長が、当該技術分野では標準的な他の処理又は装置構成では数分(又はそれ以上)で生じるのに対し、数秒で生じることである。
【0128】
様々な実施形態に係るCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0129】
(長方形に構成された合成反応器)
当該技術分野で周知の典型的なCNT合成反応器の断面は円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では大抵円筒形反応器が使用される)、利便性(円筒形反応器では流動力学のモデル化が容易であり、加熱システムは円環(クオーツ(quartz)等)に容易に対応する)、及び製造の容易さを含む多くの理由がある。円筒形の慣習から離れ、本発明は、断面が長方形のCNT合成反応器を提供する。離れる理由は以下の通りである。1.反応器により処理することができる多くの炭素繊維材料は、平らなテープ又はシート様形態等のように比較的平面的なので、円形断面は反応器体積の使用が非効率である。この非効率は、例えば、a)十分なシステムパージ(system purge)を維持すること(増加した反応器体積は、同レベルのガスパージを維持するために、さらなるガス流量を必要とする)を含む、円筒形CNT合成反応器にいくつかの欠点を生じさせる。これは、開放環境におけるCNTの大量生産による非効率なシステムを生じさせる。b)増加した炭素原料ガス流(不活性ガス流内での相対的な増加は、上記a)のように、さらなる炭素原料ガス流を必要とする)。12K炭素繊維トウの体積は、断面が長方形の合成反応器の全体積の2000分の1であると考えられたい。同等成長円筒形反応器(すなわち、長方形断面反応器と同様の平面的な炭素繊維材料に対応する幅を有する円筒形反応器)において、炭素繊維材料の体積は、前記チャンバーの17500分の1である。一般に、CVD等のガス蒸着処理は、圧力又は温度にもっぱら影響されるが、体積は蒸着の効率に大きな影響力を有する。それでもまだ、長方形反応器の体積は過剰である。この過剰体積は望ましくない反応を促進するが、しかし円筒形反応器はこの約8倍の体積を有するのである。競合する反応が生じるこの大きな機会により、所望の反応は、円筒形反応器チャンバー内で事実上緩やかに生じる。CNT成長のこのような減速は、連続処理の進行において問題となっている。長方形反応器構成の1つの恩恵は、高さの低い長方形チャンバーを使用することにより、反応器体積を減少させ、これによって、この体積比を良好にし、反応を効率的にすることである。本発明のある実施形態において、長方形合成反応器の全体積は、合成反応器を通過している炭素繊維材料の全体積の約3000倍に過ぎない。さらなる実施形態において、長方形合成反応器の全体積は、合成反応器を通過している炭素繊維材料の全体積の約4000倍に過ぎない。またさらなる実施形態において、長方形合成反応器の全体積は、合成反応器を通過している炭素繊維材料の全体積の約10000倍未満である。さらに、円筒形反応器を使用した場合、長方形断面の反応器と同様の流率(flow percent)を提供するために、より多くの炭素原料ガスが必要となることは注目すべきである。他の実施形態において、合成反応器は、長方形ではないが、比較的それに類似しており、円形断面の反応器に対して反応器体積を同様に減少させる多角形形状で表される断面を有することは十分に評価されてよい。c)問題のある温度分布。比較的小さな直径の反応器が使用された場合、チャンバーの中央部からその壁面までの温度勾配は最小となる。しかし、工業規模の生産に使用される等、規模が大きくなるにつれ、温度勾配は大きくなる。このような温度勾配は、炭素繊維基質全域での製品品質のばらつきを生じさせる(すなわち、製品の品質は、半径方向の位置の関数として変化する)。長方形断面の反応器を使用した場合、この問題は大きく避けられる。特に、平面的な基質が使用された場合、反応器の高さを、基質の上向きの大きさに一定に保つことができる。反応器の頂部と底部との間の温度勾配は、基本的にごくわずかであり、結果として、熱問題及びこれにより生じる製品品質のばらつきは避けられる。2.ガス導入。当該技術分野では管状炉が通常使用されるため、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端から導入し、反応器を通じてそれを他端へ引き込む。本明細書に記載のある実施形態において、ガスは、反応器の側面又は頂板及び底板を通って、反応器の中央部又は目標となる成長領域に、対照的に導入され得る。流入する原料ガスがシステムの最も高温の(CNT成長が最も盛んな)部分に連続的に補給されるため、これはCNT成長率全体を向上させる。この持続するガス補給は、長方形CNT反応器が示す高い成長率における重要な側面である。
【0130】
(領域化)
比較的低温のパージ領域を提供するチャンバーは、長方形合成反応器の両端に左右される。出願人は、高温のガスが外部環境(すなわち、反応器の外側)と接した場合、炭素繊維材料の劣化が増すことを究明している。低温のパージ領域は、内部システムと外部環境との間の緩衝材を提供する。当該技術分野で周知の典型的なCNT合成反応器構成は、基質を注意深く(そして緩やかに)冷却することが通常求められる。この長方形CNT成長反応器の出口の低温パージ領域は、連続インライン処理に必要とされる短時間で冷却することができる。
【0131】
(非接触、高温壁(hot-walled)、金属反応器)
ある実施形態において、金属(特にステンレス鋼)製の高温壁反応器が使用される。金属(特にステンレス鋼)は、炭素堆積(すなわち、煤及び副生成物形成)の影響を受けやすいため、これは直感に反するように思える。したがって、ほとんどのCNT反応器構成は、炭素の堆積が少なく、石英は清掃が容易であり、石英は試料の観察を容易にするため、石英反応器を使用する。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上の煤及び炭素堆積の増大の結果、より着実で、より速く、より効率的で、より安定したCNT成長が起きることを観察している。理論に制限されることなく、大気稼働と関連して、反応器内で生じるCVD処理は拡散律速であることが示されている。すなわち、触媒は、その相対的に(反応器が不完全真空下で稼働していた場合より)高い分圧により、反応器システム内で得られる多すぎる炭素を「過剰供給」される。結果として、開放システム(特にクリーン(clean)なもの)において、多すぎる炭素が触媒粒子に付着し、そのCNT合成能力を低下させる。ある実施形態において、長方形反応器は、反応器が「汚れている(dirty)」(すなわち、金属反応器壁面に煤が堆積している)場合、故意に稼働される。炭素が反応器の壁面の単分子層として堆積すると、炭素はその上に容易に堆積するだろう。このメカニズムにより、得られる炭素の一部が「回収される」ため、ラジカルの形態で残っている炭素原料は、触媒を害さない速度で触媒と反応する。既存のシステムは、「クリーンに」稼働し、もしそれが連続処理のために開放していれば、低い成長速度でCNTのはるかに低い収率を生じさせるだろう。
【0132】
上記のように、CNT合成を「汚い」状態で行うことは概して有益であるが、それでもなお、ガスマニホールド及び吸入口等の装置の一部は、煤が妨害物(blockage)を作った場合、CNT成長処理に悪影響を与えることがある。この問題を解決するために、CNT成長反応器チャンバーのこのような領域を、シリカ、アルミナ又はMgO等の煤抑制コーティングにより保護することができる。実際には、装置のこれらの部分を、これらの煤抑制コーティングに浸漬被覆することができる。INVARは、高温でコーティングを確実に適切に付着させ、煤が重要な領域に大幅に蓄積するのを妨げる類似したCTE(熱膨張係数)を有するため、INVAR(R)等の金属をこれらのコーティングとともに使用することができる。
【0133】
(併合された触媒還元とCNT合成)
本明細書に開示のCNT合成反応器において、触媒還元とCNT成長とはいずれも反応器ないで生じる。もし別々の工程として行われた場合、連続処理で使用するのに十分適時に還元ステップを行うことができないため、これは重要である。当該技術分野で周知の典型的な処理において、還元ステップを行うのに通常は1〜12時間かかる。両方の工程は、少なくとも一部には、炭素原料ガスが(円筒形反応器を使用する当該技術分野においては典型的な端部ではなく)反応器の中央部から導入されることにより、本発明の係る反応器内で生じる。繊維が加熱領域に入るにつれ、前記還元処理が生じる。この時点までには、ガスは、触媒と反応し(水素ラジカル相互作用を介した)酸化還元を引き起こす前に、壁面と反応し冷却される時間を得てしまっている。還元はこの遷移領域で行われる。システム内で最も高温の等温領域で、CNT成長は生じ、反応器の中央部付近のガス吸入口近傍で最大成長速度が生じる。
【0134】
ある実施形態において、炭素トウ等の緩やかに構成された炭素繊維材料が使用された場合、連続処理には、前記トウのストランド又はフィラメントを広げるステップを含むことができる。したがって、トウが巻き出されるにしたがい、例えば、真空ベース繊維展開システムを使用してトウが広げられてもよい。比較的固いサイジング炭素繊維が使用される場合、トウを「軟化」させて繊維が広がるのを容易にするために、さらに加熱が行われてもよい。個別のフィラメントを含んで構成された広げられた繊維は、フィラメントの全表面領域をさらすのに十分なように広げられ、このようにして、トウはその後の処理ステップでより効率的に反応可能とされてもよい。このような展開は、3kのトウに対して約4インチから約6インチの範囲に達してもよい。広げられた炭素トウは、上記のプラズマシステムからなる表面処理ステップを経ることができる。バリアコーティングが塗布され粗面化された後、広げられた繊維は、CNT形成触媒浸漬槽を通過することができる。結果として、その表面に触媒粒子が半径方向に分布した炭素トウの繊維が得られる。そして、前記トウの触媒含浸繊維は、秒速数ミクロンという高速度でCNTを合成するために使用される大気圧CVD又はPE−CVDが流れる上記の長方形チャンバー等の、適切なCNT成長チャンバーに進入する。放射状に配列されたCNTを備えたトウの繊維は、CNT成長反応器から退出する。
【0135】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、ある実施形態においてはCNTを機能化するために使用されるプラズマ処理である、さらに他の加工処理を経ることができる。さらなるCNTの機能化は、特定の樹脂に対するその付着を促進させるために用いることができる。したがって、ある実施形態において、本発明は、機能化されたCNTを有するCNT浸出炭素繊維材料を提供する。
【0136】
巻取り可能な炭素繊維材料の連続処理の一部として、CNT浸出炭素繊維材料は、サイジング剤浸漬槽をさらに通過し、これによって最終製品に有用となりえるさらなる任意のサイジング剤を塗布することができる。最終的に湿式巻き付けが所望であれば、CNT浸出炭素繊維材料は、樹脂浴(resin bath)を通過し、マンドレル又はスプールに巻きつけられてもよい。得られた炭素繊維材料と樹脂との組み合わせは、CNTを炭素繊維材料に固定し、これによって容易な取扱及び複合材料の形成を可能にする。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメントの巻き付けを向上させるために使用される。このようにして、炭素トウ等の炭素繊維に形成されたCNTは、樹脂含浸CNT浸出炭素トウを製造するために、樹脂浴を通過してもよい。樹脂含浸の後、炭素トウは、送出し水頭により、回転するマンドレルの表面に設置されてもよい。そしてトウは、周知の方法により、正確な幾何学パターンでマンドレルに巻きつけられてもよい。
【0137】
上記の巻き付け処理は、パイプ(pipe)、チューブ(tube)又は雄型により特徴的に製造される他の構造物を提供する。しかし、本明細書で開示された巻き付け処理により作られる前記構造物は、従来のフィラメント巻き付け処理を介して作られるものとは異なる。特に、本明細書で開示された処理において、前記構造物はCNT浸出トウを含む複合材料から形成される。それゆえ、このような構造物は、CNT浸出トウから与えられた高い強度等からの利益を享受するだろう。
【0138】
ある実施形態において、巻取り可能な炭素繊維材料上でのCNTの浸出のための連続処理は、約0.5ft/分から約36ft/分の範囲のラインスピードを達成することができる。CNT成長チャンバーは3フィートであり、750℃の成長温度で稼働するこの実施形態において、前記処理は、例えば、約1ミクロンから約10ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約6ft/分から約36ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。前記処理はまた、約10ミクロンから約100ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約1ft/分から約6ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。前記処理は、約100ミクロンから約200ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約0.5ft/分から約1ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。CNTの長さはラインスピード及び成長温度のみによって制限されるわけではなく、炭素原料及び不活性搬送ガスの両方の流量もまたCNTの長さに影響し得る。例えば、高いラインスピード(6ft/分から36ft/分)の不活性ガス中に1%未満の炭素原料を含む流量は、1ミクロンから約5ミクロンの長さのCNTを生じさせるだろう。高いラインスピード(6ft/分から36ft/分)の不活性ガス中に1%より多い炭素原料を含む流量は、5ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTを生じさせるだろう。
【0139】
ある実施形態において、2つ以上の炭素材料を同時に処理を実行することができる。例えば、複数のテープトウ、フィラメント、ストランド等を並列に処理を実行することができる。したがって、炭素繊維材料の予め形成されたスプールはいくつでも並列に処理を実行し、処理の最後に再びスプールに巻き取ることができる。並列して実行することができる巻き取られた炭素繊維材料の数には、1,2,3,4,5,6及びCNT成長反応チャンバーの幅が適合するだけ任意の数まで含まれる。さらに、複数の炭素繊維材料が処理を実行される場合、回収スプールの数は、処理開始時点のスプールの数より少なくすることができる。このような実施形態において、炭素ストランド又はトウ等は、これらの炭素繊維材料を、織物ファブリック等のより高度な秩序構造へ組み合わせるさらなる処理に送ることができる。また、連続処理には、例えば、CNT浸出チョップド繊維構造を容易にする後処理チョッパーを組み込むことができる。
【0140】
繊維材料へのCNT浸出のための本発明の処理は、CNTの長さの均一な制御を可能とし、連続処理において、巻取り可能な繊維材料が高速でCNTにより機能化されることを可能にする。5から300秒の材料滞留時間で、3フィートのシステム用の連続処理におけるラインスピードは、約0.5ft/分から約36ft/分の範囲のいずれか及びそれ以上となり得る。前記スピードは、さらに以下に例示された様々なパラメータに依存して決まる。
【0141】
ある実施形態において、約5から約30秒の材料滞留時間では、約1ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTを製造することができる。ある実施形態において、約30から約180秒の材料滞留時間では、約10ミクロンから約100ミクロンの長さのCNTを製造することができる。さらなる実施形態において、約180から約300秒の材料滞留時間では、約100ミクロンから約500ミクロンの長さのCNTを製造することができる。当業者は、これらの範囲は概算であり、CNTの長さはまた、反応温度並びに搬送及び炭素原料の濃度及び流量により調整することができることを理解するだろう。
【0142】
(実施例I)
本実施例は、高いEMI遮蔽特性を目的とする連続処理において、どのようにCNTが炭素繊維材料に浸出されるかを示す。
【0143】
この実施例において、繊維上のCNTの最大充填が目的とされる。テックス値800の34−700の12K炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)は、炭素繊維基質として実現される。この炭素繊維トウのそれぞれのフィラメントの直径はおよそ7μmである。
【0144】
図12は、本発明の実施形態によるCNT浸出繊維製造のためシステム800を示す。システム800には、図示されたように関連する、炭素繊維材料繰り出し及び伸張手段(tensioner)工程805と、サイジング剤除去及び繊維拡張手段(spreader)工程810と、プラズマ処理工程815と、バリアコーティング塗布工程820と、空気乾燥工程825と、触媒塗布工程830と、溶媒の蒸発分離工程835と、CNT浸出工程840と、繊維束化手段(bundler)工程845と、炭素繊維材料取り込みボビン850とが含まれる。
【0145】
繰り出し及び伸張工程805は、繰り出しボビン806及び伸張手段807を含む。繰り出しボビンは、炭素繊維材料860を処理へ導入し、繊維は、伸張手段807により伸張される。例えば、炭素繊維は、2ft/分のラインスピードで処理される。
【0146】
繊維材料860は、サイジング剤除去加熱器865及び繊維拡張手段870を含むサイジング剤除去及び繊維拡張工程810へ導入される。この工程において、繊維860上の全てのサイジング剤は除去される。一般に、除去は繊維のサイジング剤を燃焼させることにより行われる。例えば、赤外線加熱器、マッフル炉及び他の非接触加熱処理を含む様々な加熱手段はいずれもこの目的で使用することができる。サイジング剤除去はまた、化学的に行うこともできる。繊維拡張手段は、繊維の個々の要素を分離する。平坦で均一な直径のバー(bar)の上方及び下方に、不均一な直径のバーの上方及び下方に、半径方向に広がった溝とニーディングローラー(kneading roller)とを備えたバーの上方に、又は振動バー(vibratory bar)の上方に、繊維を引っ張る等の様々な技術及び装置を、繊維の拡張のために使用することができる。繊維の拡張は、より広い繊維表面領域が暴露されることにより、プラズマ適用、バリアコーティング塗布及び触媒塗布等の下流工程の効率を向上させる。
【0147】
複数のサイジング剤除去加熱器865を、繊維のデサイジング(desizing)及び拡張を同時に徐々に行うことを可能にする繊維拡張手段870の至る所に配置することができる。繰り出し及び伸張工程805並びにサイジング剤除去及び繊維拡張手段工程810は、繊維工業においてごく普通に使用される。当業者は、これらの設計及び使用に精通しているだろう。
【0148】
サイジング剤を燃焼するために要する温度及び時間は、(1)サイジング剤及び(2)炭素繊維材料860の商業的供給源/特性の関数として変化する。炭素繊維材料上の従来のサイジング剤は、約650℃で除去することができる。この温度において、サイジング剤の完全な燃焼を確保するために15分を要することがある。前記燃焼温度を越えた温度の上昇は、燃焼時間を削減することができ、特定の商品のサイジング剤における最低の燃焼温度を決定するために熱重量分析(thermogravimetric analysis)が使用される。
【0149】
サイジング剤除去に要する時間に応じて、サイジング剤除去加熱器は必ずしも厳密な意味でのCNT浸出処理に含まれなくてもよく、除去は別々に(例えば、並列して)行うことができる。このような方法で、サイジング剤を含まない(sizing-free)炭素繊維材料の在庫は蓄積され、繊維除去加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために巻取ることができる。そして、サイジング剤を含まない繊維は、繰り出し及び伸張工程805に巻取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含む製造ラインより高速で稼働させることができる。
【0150】
サイジング剤を除去された繊維880は、プラズマ処理工程815に導入される。例えば、大気圧プラズマ処理は、流れに沿って、広げられた炭素繊維材料から1mmの距離から使用される。ガス状原料は、100%のヘリウムから構成される。
【0151】
プラズマ助長繊維885は、バリアコーティング工程820に導入される。本実施形態において、シロキサンベースバリアコーティング溶液が、浸漬被覆構成に用いられる。前記溶液は、体積比40対1の希釈率でイソプロピルアルコールに希釈された「T−11スピンオンガラスAccuglass(登録商標)(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)」である。結果として得られる炭素繊維材料上のバリアコーティングの厚さは、およそ40nmである。バリアコーティングは、周囲環境の室温で塗布することができる。
【0152】
バリアコーティング炭素繊維890は、ナノスケールのバリアコーティングの部分硬化のための空気乾燥工程825に導入される。空気乾燥工程は、炭素繊維スプレッド全体に加熱された気流を送る。温度は100℃から約500℃の範囲である。
【0153】
空気乾燥の後、バリアコーティング炭素繊維890は、触媒塗布工程830に導入される。本実施例において、酸化鉄ベースCNT形成触媒溶液が、浸漬被覆構成に用いられる。前記溶液は、体積比200対1の希釈率でヘキサンに希釈された「EFH−1(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)」である。触媒被覆の単原子層が、炭素繊維材料上に形成される。希釈される前の「EFH−1」は、3〜15%の体積濃度のナノ粒子を有する。酸化鉄ナノ粒子の組成は、Fe2O3及びFe3O4であり、およそ8nmの粒径を有する。
【0154】
触媒含有炭素繊維材料895は、溶媒の蒸発分離工程835に導入される。溶媒蒸発分離工程は、炭素繊維スプレッドの全体に亘って気流を送る。本実施例において、触媒含有炭素繊維材料上に残された全てのヘキサンを蒸発分離するために、室温の空気を使用することができる。
【0155】
溶媒の蒸発分離の後、触媒含有繊維895は、最終的にCNT浸出工程840に送られる。本実施例において、12インチの成長領域を有する長方形反応器は、大気圧でのCVD成長を採用するために使用される。全ガス流の97.6%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.4%は炭素原料(アセチレン)である。前記成長領域は、750℃に保たれる。上記長方形反応器において、750℃は、最高の成長率を可能にする比較的高い成長温度である。
【0156】
CNT浸出の後、CNT浸出繊維897は、繊維束化工程845において、再び束ねられる。この工程は、繊維のストランドのそれぞれを再びまとめ、工程810において行われた拡張工程を事実上無効にする。
【0157】
束ねられたCNT浸出繊維897は、保管のために、取り込み繊維ボビン850の周りに巻かれる。CNT浸出繊維897は、およそ60μmの長さのCNTを充填され、高いEMI遮蔽能力を備えた複合材料に使用する用意ができる。
【0158】
繊維ボビン850上のCNT浸出繊維897は、パネルに巻きなおされ、エポキシ樹脂を浸出される。そして、浸出された複合構造物は、100psiかつ250°F以上の温度(選択されたエポキシ樹脂システムに要求される特定のプロファイル)で、オートクレーブ(autoclave)内にて硬化される。得られたCNT浸出複合パネルは、図14のパネル#132に示されるように、2〜18GHzで83dBの平均EMI−SEを示す。
【0159】
上記の工程の中には、環境分離のために、不活性雰囲気下又は真空下で行えるものがあるということは注目に値する。例えば、炭素繊維材料のサイジング剤が燃焼している場合、繊維を環境的に分離し、これによってガス放出(off-gassing)を封じ、蒸気による損傷を妨げることができる。便宜上、システム800において、環境分離は、製造ラインの最初に行われる炭素繊維材料繰り出し及び伸張並びに製造ラインの最後に行われる繊維の取り込みを除く、全ての工程に提供することができる。
【0160】
(実施例II)
本実施例は、高いEMI遮蔽特性を必要とする用途のための連続処理において、どのようにCNTが初期のガラス繊維材料に浸出されるかを示す。
【0161】
図13は、本発明の実施形態によるCNT浸出繊維を製造するためのシステム900を示す。システム900には、ガラス繊維材料繰り出し及び伸張手段システム902と、CNT浸出システム912と、繊維巻取り機924とが含まれる。
【0162】
繰り出し及び伸張システム902には、繰り出しボビン904と伸張手段906とが含まれる。繰り出しボビンは、繊維スプールを保持し、ガラス繊維材料901を1ft/分のラインスピードで前記処理に搬送する。前記繊維伸張は、前記伸張手段906を介して1〜5lbsに維持する。繰り出し及び伸張工程902は、繊維製造にごく普通に使用されている。当業者は、これらの設計及び使用に精通しているだろう。
【0163】
伸張された繊維905は、CNT浸出システム912に搬送される。工程912には、触媒適用システム914と微小共振CVDに基づくCNT浸出工程925とが含まれる。
【0164】
本実施例において、触媒溶液は、伸張された繊維930が浸漬槽935を通過する等の浸漬処理を介して塗布される。本実施例において、体積比で1の磁性流体溶液と200のヘキサンとからなる触媒溶液が使用される。高いILSSを目的としたCNT浸出繊維用の処理ラインスピードで、前記繊維は30秒間浸漬槽に留まる。触媒は、必要とされる真空下でも不活性雰囲気下でもなく、周囲環境の室温で塗布することができる。
【0165】
そして、触媒含浸ガラス繊維907は、前成長低温不活性ガスパージ領域(pre-growth cool inert gas purge zone)、CNT成長領域及び後成長ガスパージ領域(post-growth gas purge zone)からなるCNT浸出工程925に進む。室温窒素ガスは、上記のように、CNT成長領域からの流出ガスを冷却するために、前成長パージ領域に導入される。前記流出ガスは、繊維酸化を防ぐための高速の窒素パージを介して、350℃未満まで冷却される。繊維は、98%の質量流量の不活性ガス(窒素)と、マニホールドを介して中心部に導入される2%の質量流量のガス炭素含有原料ガス(アセチレン)との混合物を高温で加熱するCNT成長領域に進入する。本実施例において、システムの長さは、2.5フィートであり、CNT成長領域の温度は750℃である。触媒含浸繊維は、本実施例におけるCNT成長環境に60秒間さらされ、その結果ガラス繊維表面に2.5容量パーセント浸出された60ミクロンの長さのCNTが生じる。前記CNT浸出ガラス繊維は、最後に、繊維と、繊維表面及びCNTの酸化を妨げるための流出ガスと、を冷却する350℃の後成長パージ領域を通過する。
【0166】
CNT浸出繊維909は、繊維巻取り機924にまとめられ、高いEMI遮蔽能力を必要とする様々な用途に用いられるための準備ができる。
【0167】
CNT浸出繊維909は、エポキシ樹脂を使用してフレームに湿式巻き付けされる。前記フレームは、結果として得られるパネルに対し、0°及び90°配向で繊維を配列するために使用される。繊維がパネルに巻き付けられた場合、複合材料は、200psiの圧力をかけ、250°F以上の温度(エポキシ樹脂システムが使用する特定の温度プロファイル)の高温のキャビティ内で硬化される。得られたパネルは、図15のパネル#220に示されるように、複合材料中の6.5%より大きなCNT重量%を備え、2〜18GHzの範囲で92dBの高い平均EMI−SEを得る。
【0168】
当然のことながら、上記実施形態は、単に本発明を説明するためのものであり、当業者は、本発明の範囲から離れることなく、上記実施形態の多くのバリエーションを考え出すことができる。例えば、本明細書において、本発明の実施形態の詳細な説明及び理解を提供するために、多くの具体的な詳細が提供された。しかしながら、当業者は、本発明がこれら詳細の1つ以上を備えずに又は他の処理、材料及び構成要素等を備えて実施することができることを理解するだろう。
【0169】
さらに、場合によっては、周知の構造、材料又は工程は、実施形態の側面が不明瞭になるのを避けるため、詳細に示されず、記載されていない。当然のことながら、図示された様々な実施形態は、説明のためのものであり、必ずしもこの縮尺でなくてもよい。本明細書を通じて、「一実施形態」、「実施形態」又は「ある実施形態」とは、実施形態と関連して記載された特定の外観、構造、材料又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれるが、全ての実施形態に含まれる必要はない、ということを意味する。結果として、本明細書を通じて様々な箇所に使用された「一実施形態において」、「実施形態において」又は「ある実施形態において」という言い回しは、全てが同一の実施形態について言及している必要はない。さらに、特定の外観、構造、材料又は特性は、1つ以上の実施形態に適切な方法で組み合わせることができる。それゆえ、そのようなバリエーションは、特許請求の範囲及びその均等の範囲に含まれることを意味する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含んで構成された電磁妨害(EMI)遮蔽用途に使用される複合材料であって、
前記複合材料は約0.01MHzから約18GHzの範囲の周波数において、電磁(EM)放射の吸収、EM放射の反射、又はその両方が可能であり、
前記複合材料の前記EM遮蔽能力は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲の電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)として計測される複合材料。
【請求項2】
多数の遷移金属ナノ粒子をさらに含んで構成された請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記ナノ粒子は、鉄を含んで構成された請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記SEは、K帯域レーダーにおいて、約90dBから約110dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記SEは、X帯域レーダーにおいて、約90dBから約100dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記SEは、C帯域レーダーにおいて、約80dBから約90dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
前記SEは、S帯域レーダーにおいて、約70dBから約80dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
前記SEは、L帯域レーダーにおいて、約50dBから約60dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記CNTは、前記複合材料の約1重量%から約20重量%の範囲で存在する請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
前記CNT浸出繊維材料は、ガラス、炭素、セラミックから選択される繊維を含んで構成される請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
前記繊維材料上に浸出された前記CNTは、前記複合材料内で制御された配向を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項12】
複合材料の製造方法であって、
前記複合材料は、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含んで構成され、約0.01MHzから約18GHzの範囲の周波数において、電磁(EM)放射の吸収、EM放射の反射、又はその両方が可能であり、
前記複合材料のEM遮蔽能力は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲の電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)として計測され、
前記方法は、マトリクス材の一部に、前記マトリクス材内でCNT浸出繊維材料の配向が制御された状態でCNT浸出繊維材料を配置することと、前記マトリクス材を硬化することと、を含んで構成され、
前記CNT浸出繊維材料の前記制御された配向は、そこに浸出されたCNTの相対配向を制御する複合材料の製造方法。
【請求項13】
複合材料を含んで構成されるパネルであって、
前記複合材料は、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含んで構成され、約0.01MHzから約18GHzの範囲の周波数において、電磁(EM)放射の吸収、EM放射の反射、又はその両方が可能であり、
前記複合材料のEM遮蔽能力は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲の電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)として計測され、
前記パネルは、EMI遮蔽用途に使用される装置と適合するよう調整可能であり、電気接地をさらに備えるパネル。
【請求項1】
マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含んで構成された電磁妨害(EMI)遮蔽用途に使用される複合材料であって、
前記複合材料は約0.01MHzから約18GHzの範囲の周波数において、電磁(EM)放射の吸収、EM放射の反射、又はその両方が可能であり、
前記複合材料の前記EM遮蔽能力は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲の電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)として計測される複合材料。
【請求項2】
多数の遷移金属ナノ粒子をさらに含んで構成された請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記ナノ粒子は、鉄を含んで構成された請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記SEは、K帯域レーダーにおいて、約90dBから約110dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記SEは、X帯域レーダーにおいて、約90dBから約100dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記SEは、C帯域レーダーにおいて、約80dBから約90dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
前記SEは、S帯域レーダーにおいて、約70dBから約80dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
前記SEは、L帯域レーダーにおいて、約50dBから約60dBの範囲である請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記CNTは、前記複合材料の約1重量%から約20重量%の範囲で存在する請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
前記CNT浸出繊維材料は、ガラス、炭素、セラミックから選択される繊維を含んで構成される請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
前記繊維材料上に浸出された前記CNTは、前記複合材料内で制御された配向を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項12】
複合材料の製造方法であって、
前記複合材料は、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含んで構成され、約0.01MHzから約18GHzの範囲の周波数において、電磁(EM)放射の吸収、EM放射の反射、又はその両方が可能であり、
前記複合材料のEM遮蔽能力は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲の電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)として計測され、
前記方法は、マトリクス材の一部に、前記マトリクス材内でCNT浸出繊維材料の配向が制御された状態でCNT浸出繊維材料を配置することと、前記マトリクス材を硬化することと、を含んで構成され、
前記CNT浸出繊維材料の前記制御された配向は、そこに浸出されたCNTの相対配向を制御する複合材料の製造方法。
【請求項13】
複合材料を含んで構成されるパネルであって、
前記複合材料は、マトリクス材の少なくとも一部に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含んで構成され、約0.01MHzから約18GHzの範囲の周波数において、電磁(EM)放射の吸収、EM放射の反射、又はその両方が可能であり、
前記複合材料のEM遮蔽能力は、約40デシベル(dB)から約130dBの範囲の電磁妨害(EMI)遮蔽有効性(SE)として計測され、
前記パネルは、EMI遮蔽用途に使用される装置と適合するよう調整可能であり、電気接地をさらに備えるパネル。
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【公表番号】特表2012−525012(P2012−525012A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507452(P2012−507452)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/032312
【国際公開番号】WO2010/124260
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/032312
【国際公開番号】WO2010/124260
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】
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