説明

CNT配合樹脂材料

【課題】気泡残留が少なく強度がより増強、好ましくは伝導性が改善した樹脂材料を提供する。
【解決手段】当該樹脂材料に主として高強度を付与する目的で複数のカーボンナノチューブ(CNT)1からなるCNT材が、マトリクス樹脂4中に配合されてなる樹脂材料において、アスペクト比がCNT1より小さい複数のカーボン粒子3が、上記各CNT1の隙間2内でマトリクス樹脂4よりもその存在割合が高くなるように当該隙間2中に混合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリクス樹脂中に複数のカーボンナノチューブ(CNT)からなるCNT材が混合されて機械的強度が強化されたCNT配合樹脂材料に関するものであり、特に、上記樹脂材料の機械的強度および、好ましくは電気ないしは熱伝導性をさらに向上させることに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CNTは、炭素原子が六角形に配置されたグラフェンシートを筒状に巻いた形状で長さ方向にほぼ一様な直径形状をなし、長さと直径との比であるアスペクト比が大きく直径が微細であるが、機械的強度が高く、導電性に優れている(特許文献1参照)。そして、この性質を利用することにより、CNTの複数からなるCNT材を樹脂材に混合してCNT配合樹脂材料(以下、樹脂材料)となし、この樹脂材料を、高強度樹脂、導電性樹脂、透明導電フィルム、等の用途の開発が行われている。
【0003】
図2で示す樹脂材料は、CNT材を構成する複数のCNT1の隙間2に、マトリクス樹脂4が入り込み、このマトリクス樹脂4が複数のCNT1同士を結合させる結合材としての役割を果たしている。この構成では、樹脂材料の特徴である高強度、あるいは電気や熱伝導性のためにマトリクス樹脂4と比較してCNT1の混合率が極めて高くなっている。そして、この構成で注目すべきは、マトリクス樹脂4中に気泡5が混入していることである。
【0004】
以下にこの樹脂材料の製法を説明すると、まず、CNT分散溶液とマトリクス樹脂溶液とを混ぜてCNT入り樹脂溶液を作る。この場合、高強度、高伝導性を得る目的でマトリクス樹脂に比較してCNTの混合率を高くしている。そして、上記溶液を脱液するのであるが、CNT材の混合率が高いためにCNT1の隙間2内にマトリクス樹脂4が十分に入り込むことができにくくなる。そのため、CNT1の隙間2中には気泡5が多数残留している。このような状態で次の脱液過程では、CNT1の隙間2中に残留していた気泡5が脱液作用でも外部に出ずに内部に残留してしまうこととなる。
【0005】
こうして図2で示すように内部に気泡5が残留した樹脂材料が得られる。この気泡5は樹脂材料の機械的強度、電気や熱伝導性の大幅な低下を招いてしまう。
【0006】
一方、CNT1の混合率を下げた場合では、CNT1同士の接触率やCNT1間の隙間2の形成率も低下して脱液工程で気泡5が残留する率も下がるものの、それでは、高強度、高伝導性の樹脂材料を得難くなってしまう。そのため、CNT1の混合率を高く維持して高強度、高伝導性を保持できた状態とする一方で、上記気泡5の残留率を大幅に下げることに加えて、さらに、より高強度、高伝導性を高くできるような樹脂材料の開発が求められ、本願発明者は鋭意研究した。
【特許文献1】特開2001−303250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明により解決する主たる課題は、気泡残留を少なくし、かつ、少なくとも強度をより増強させ、好ましくは、電気や熱の伝導性を改善することである。その他の課題は後述から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る樹脂材料は、当該樹脂材料に主として高強度を付与する目的で複数のカーボンナノチューブ(CNT)からなるCNT材が、マトリクス樹脂中に配合されてなる樹脂材料において、アスペクト比がCNTより小さい複数のカーボン粒子が、上記各CNTの隙間内でマトリクス樹脂よりもその存在割合が高くなるように当該隙間中に混合されている、ことを特徴とするものである。
【0009】
上記「主として」の意義は、高強度だけでなく、高電気伝導性、高熱伝導性を付与することを目的とすることも含むことができる意義である。カーボンナノチューブは一般に電気や熱伝導性に優れており、上記カーボン粒子は、CNTの隙間中に存在することで、マトリクス樹脂に起因した気泡の残留が減り、カーボンナノチューブの上記性状を補助することができる。
【0010】
以上のごとく、本発明では、上記CNTの隙間内でのカーボン粒子の存在割合がマトリクス樹脂よりも高いので必然的にマトリクス樹脂中の気泡残留率が下がった樹脂材料となっている。そのため、本発明では、従来よりも強度がより向上した樹脂材料を提供できる。
【0011】
具体的に、CNTとカーボン粒子とマトリクス樹脂それぞれの存在意義を説明すると、まず、機械的強度に関しては、CNTは引張強度が高い。マトリクス樹脂はCNT同士を接着する役割を有する一方、本発明では、CNTの隙間中にカーボン粒子がマトリクス樹脂よりも高い存在割合で含まれるので、その引張強度だけでなく圧縮、曲げ、加工強度が極めて高くなっている。そのため、強化歯車や、強化ケース等の各種用途に適した樹脂材料を提供することができるようになる。また、電気伝導性においては、CNTの隙間中にカーボン粒子が高い存在割合で存在することにより、電気伝導性に寄与できる断面積拡大により、電気伝導性がより高くなっている。また、熱伝導性に関しては、CNTの隙間中にカーボン粒子がマトリクス樹脂よりも高い存在割合で存在しているので、熱伝導性に劣るマトリクス樹脂がCNTの隙間中に多く存在する樹脂材料よりも、その熱伝導性はより高くなっている。
【0012】
そして、本発明の樹脂材料では、CNTの隙間中がカーボン粒子でほぼ埋め尽くされているので、微小加工した場合、加工面にCNT間の隙間による空隙が現れにくく、ミリ単位あるはミクロン単位という微小な加工精度が要求される各種加工物の材料に適したものとなる。
【0013】
以上から本発明の樹脂材料では、従来のそれよりも、より一層の高強度が付与されるうえ、伝導性も大幅に改善された樹脂材料とすることができるようになる。
【0014】
本発明の樹脂材料は、さらに、高電気伝導性ないし高熱伝導性を付与することを目的とすることが好ましい。この場合、高電気伝導性では体積抵抗率(Ω・cm)のことであり、高熱伝導性では熱伝導率(W/m・k)のことと定義することができる。
【0015】
本発明においては、上記CNT材を構成するCNTは、単層CNTでも、多層CNTでもよい。本発明のCNT材は、基板表面上の触媒微粒子の作用で成長する複数の多層CNTの集合で構成することができる。
【0016】
本発明の樹脂材料はその用途に限定されるものではないが、用途の例としては、高強度としては、ケース材料、プーリ材料、建築材料、等、高電気伝導性としては静電除去材料、また、高熱伝導性としては放熱器材料、等を例示することができる。
【0017】
本発明の樹脂材料は、高強度、高電気伝導性、好ましくは、さらに高熱伝導性とした場合、透明で光波長以下の極薄の導電フィルム材料に用いることができる。このフィルム材料は、例えば電子電界放出用エミッタからの電子を引き寄せるアノード電極に用いることができる。
【0018】
本発明の樹脂材料をケース材料、例えば携帯電話のケース材料とした場合、ソフト軽量でかつ高強度の携帯電話ケースを作ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の樹脂材料は、CNTの隙間中でマトリクス樹脂よりもカーボン粒子の存在割合が高いために、従来の樹脂材料よりも気泡残留率が下がり、その分、高強度、好ましくは、高伝導性の樹脂材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る樹脂材料を詳細に説明する。
【0021】
図1は、実施の形態の樹脂材料の断面構成を示す。図1を参照して、実施の形態の樹脂材料は、CNT材を構成する複数のCNT1の隙間2に、カーボン粒子3とマトリクス樹脂4とが入り込む一方で、CNT1の隙間2中でのカーボン粒子3の存在割合は、マトリクス樹脂4のそれよりも高くなっている。これにより、マトリクス樹脂4内の気泡5の存在は少ない。
【0022】
CNT1は、単層、多層のCNTであり、単層CNTだけ、あるいは多層CNTだけ、あるいはこれら両者の混合CNTで構成することができる。CNT1の隙間2の大きさは例えば100μm以下程度であり、このCNT1の隙間2中におけるカーボン粒子3個々の平均断面寸法は0.1μm〜200μm程度であり、また、マトリクス樹脂4に対する存在割合は例えば体積の20〜80%程度である。
【0023】
マトリクス樹脂4として、耐衝撃・エラストマーを例示することができる。用途別にすると、例えば耐衝撃用途では高剛性材料の樹脂、エラストマーとなる様な用途では粘、弾性体の樹脂を好ましく例示することができる。
【0024】
このカーボン粒子3は、アスペクト比がCNTよりも小さく粒子径がサブミクロンオーダーの粒子であり、その形状は球形、矩形、線形、無定形、等に限定されず、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、カーボンブラックを適用することができる。カーボンブラックとしては、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、SRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等を例示することができる。
【0025】
本実施の形態の樹脂材料では、まず、機械的強度に関しては、CNT1は引張強度が高い。マトリクス樹脂4はCNT1同士を接着するが、本発明では、CNT1の多くの隙間2中で、カーボン粒子3がマトリクス樹脂4よりも高い存在割合で含まれるので、その圧縮強度が極めて高くなっている。そのため、強化歯車や、強化ケースの用途に適した樹脂材料を提供することができるようになる。また、電気伝導性においては、CNT1の隙間2中にカーボン粒子3がマトリクス樹脂4よりも高い存在割合で存在することにより、電気伝導性がより高くなっている。また、熱伝導性に関しては、CNT1の隙間2中にカーボン粒子3がマトリクス樹脂4よりも高い存在割合で存在しているので、熱伝導性に劣るマトリクス樹脂4がCNT1の隙間2中に多く存在する樹脂材料よりも、その熱伝導性はより高くなっている。
【0026】
以上から本発明の樹脂材料では、従来のそれよりも、より一層の高強度が付与されるうえ、伝導性も大幅に改善された樹脂材料とすることができるようになる。
【0027】
なお、上記樹脂材料は、例えば、次の製造方法で製造することができる。すなわち、マトリクス樹脂溶液とCNT分散溶液とを混合する混合工程において、上記カーボン粒子を上記CNTと共に分散溶液中に分散させて混合するか、あるいはまた、マトリクス樹脂溶液とCNT分散溶液とは別の溶液中にカーボン粒子を分散させた分散溶液を混合させる。そして、次にこの混合溶液を脱液することで、本発明の樹脂材料が得られる。
【0028】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で、種々な変更ないしは変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る樹脂材料を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は従来の樹脂材料を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 CNT
2 CNTの隙間
3 カーボン粒子
4 マトリクス樹脂
5 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
当該樹脂材料に主として高強度を付与する目的で複数のカーボンナノチューブ(CNT)からなるCNT材が、マトリクス樹脂中に配合されてなる樹脂材料において、アスペクト比がCNTより小さい複数のカーボン粒子が、上記各CNTの隙間内でマトリクス樹脂よりもその存在割合が高くなるように当該隙間中に混合されている、ことを特徴とするCNT配合樹脂材料。
【請求項2】
上記カーボン粒子が、高電気伝導性および/または高熱伝導性を有する、請求項1に記載のCNT配合樹脂材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138305(P2010−138305A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316592(P2008−316592)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】