説明

Cu−Ga合金材およびその製造方法

【課題】Ga濃度が高いにもかかわらず、加工処理を容易に行うことができるCu−Ga合金材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Cu−Ga合金材の製造方法は、銅(Cu)及びガリウム(Ga)を溶解し、Cu−Ga合金を鋳造する溶解鋳造工程と、溶解鋳造工程で得られたCu−Ga合金を相変態温度の直下の温度に昇温させる昇温工程と、昇温工程がなされたCu−Ga合金を、所定の時間、昇温させた温度から所定の範囲内の温度に保持する温度保持工程と、温度保持工程がなされたCu−Ga合金を冷却する冷却工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu−Ga合金材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物薄膜太陽電池を構成する光吸収層を形成するために、Cu−Ga合金材を加工することで得られるスパッタリングターゲットが使用される。このスパッタリングターゲットを製造するために用いられるCu−Ga合金材は、Ga濃度が高いもの、例えば、28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)を含むものが求められている。
【0003】
このGa濃度が高いCu−Ga合金材を用いたスパッタリングターゲットの製造方法の一例として、溶解鋳造を用いた製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−73163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の製造方法により得られたCu−Ga合金材は、非常に脆弱であり、このCu−Ga合金材をスパッタリングターゲットに加工することは困難である。このように、Cu−Ga合金材は、Ga濃度の増加により、延性が低下し、さらに、硬度が高くなるので、脆弱となり、特にGa濃度が30at%付近においては、著しく脆弱となることが知られている。この組成を有するCu−Ga合金材は、加工時の取り扱いが難しく、容易に割れる問題がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、Ga濃度が高いにもかかわらず、加工処理を容易に行うことができるCu−Ga合金材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)と、銅(Cu)および不可避的不純物からなる残部と、を含み、結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおいて、Ga濃度が、22at%以上26at%以下となるCu−Ga合金析出相を有するCu−Ga合金材を提供する。
【0008】
上記のCu−Ga合金材は、粒径が1μm以上のCu−Ga合金析出相を面積率で0.1%以上含むことが好ましい。
【0009】
上記のCu−Ga合金材のCu−Ga合金析出相は、CuGaのξ相であることが好ましい。
【0010】
上記のCu−Ga合金材の曲げ強度が300MPa以上であることが好ましい。
【0011】
本発明は、上記目的を達成するため、28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)と、銅(Cu)および不可避的不純物からなる残部と、を含むCu−Ga合金に熱処理を行い、結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおけるGa濃度が、22at%以上26at%以下となるCu−Ga合金析出相を形成することを含むCu−Ga合金材の製造方法を提供する。
【0012】
上記のCu−Ga合金材の製造方法のCu−Ga合金析出相は、CuGaのξ相であることが好ましい。
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、銅(Cu)及びガリウム(Ga)を溶解し、Cu−Ga合金を鋳造する溶解鋳造工程と、溶解鋳造工程で得られたCu−Ga合金を相変態温度の直下の温度に昇温させる昇温工程と、昇温工程がなされたCu−Ga合金を、所定の時間、昇温させた温度から所定の範囲内の温度に保持する温度保持工程と、温度保持工程がなされたCu−Ga合金を冷却する冷却工程と、を含むCu−Ga合金材の製造方法を提供する。
【0014】
上記のCu−Ga合金材の製造方法の相変態温度の直下の温度は、474℃以上475℃以下であり、温度保持工程の所定の範囲は、450℃以上475℃以下であり、保持時間は、少なくとも1時間以上であることが好ましい。
【0015】
上記のCu−Ga合金材の製造方法の冷却工程における冷却速度は、5℃/min以下であることが好ましい。
【0016】
上記のCu−Ga合金材の製造方法の温度保持工程において、結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおけるGa濃度が、22at%以上26at%以下となるCuGaのξ相が形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Ga濃度が高いにもかかわらず、加工処理を容易に行うことができるCu−Ga合金材およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、第2の実施の形態に係るフローチャートである。
【図2】図2(a)および(b)は、実施例の試料3の表面を75倍に拡大した写真である。
【図3】図3(a)および(b)は、実施例の試料3の表面を300倍に拡大した写真である。
【図4】図4(a)および(b)は、比較例の試料10の表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係るCu−Ga合金材は、28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)と、銅(Cu)および不可避的不純物からなる残部と、を含み、結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおいて、Ga濃度が、22at%以上26at%以下となるCu−Ga合金析出相を有する。
【0020】
また、第1の実施の形態に係るCu−Ga合金材の製造方法は、28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)と、銅(Cu)および不可避的不純物からなる残部と、を含むCu−Ga合金に熱処理を行い、結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおけるGa濃度が、22at%以上26at%以下となるCu−Ga合金析出相を形成することを含む。
【0021】
(効果)
本実施の形態に係るCu−Ga合金材によれば、Ga濃度が高いにもかかわらず、加工処理を容易に行うことができる。また、本実施の形態に係るCu−Ga合金材の製造方法によれば、Ga濃度が高いにもかかわらず、加工処理を容易に行うことができるCu−Ga合金材を製造することができる。
【0022】
[第2の実施の形態]
(Cu−Ga合金材の製造方法)
図1は、第2の実施の形態に係るフローチャートである。以下では、図1に示すフローチャートに従って、Cu−Ga合金材の製造方法について説明する。
【0023】
(S1:溶解鋳造工程)
まず、銅(Cu)およびガリウム(Ga)を溶解鋳造してCu−Ga合金を作製する(溶解鋳造工程)。
【0024】
具体的には、28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)と、銅(Cu)および不可避的不純物からなる残部と、を含むCu−Ga合金を鋳造する場合、CuGa(最密六方晶、A3型、以下ξと記載)相を母相とした合金として凝固させる。
【0025】
まず、銅(Cu)とガリウム(Ga)を所定の組成になるように坩堝に入れ、不活性雰囲気中で溶解し、そのCu−Ga合金溶湯を鋳型に鋳込み、Cu−Ga合金を作製する。
【0026】
Cu−Ga合金溶湯を鋳型に鋳込んだ後、常温(例えば、25℃)まで冷却する。Cu−Ga合金溶湯を冷却するとき、Cu−Ga合金溶湯の内部では温度が不均一になることに起因する応力が発生する。なお、冷却速度は、10℃/min以上である。
【0027】
(熱処理工程について)
次に、上記で得られたCuGa相として凝固したCu−Ga合金を電気炉に入れ、不活性雰囲気で加熱・冷却する熱処理工程を行う。この熱処理工程は、以下に説明する昇温工程(S2)、温度保持工程(S3)および冷却工程(S3)を含んでいる。
【0028】
(S2:昇温工程)
Cu−Ga合金の内部の温度を相変態温度(結晶構造が変わる温度)の直下まで昇温させる(昇温工程)。なお、相変態温度の直下とは、例えば、相変態温度が475℃のとき、474℃以上475℃以下の温度を示している。
【0029】
ここで、電気炉内の昇温速度が速すぎる場合、Cu−Ga合金内部の温度勾配が急になり、内部応力が増加してCu−Ga合金にクラックが発生することがある。また、電気炉内の昇温速度が遅すぎる場合、Cu−Ga合金材の生産性が低下する。従って、昇温速度は、例えば、10〜30℃/minが好ましい。
【0030】
(S3:温度保持工程)
Cu−Ga合金の内部の温度が相変態温度の直下まで昇温した後、所定の範囲に留まるように、温度を保持する(温度保持工程)。続いて、この温度保持工程による、結晶粒界および結晶粒へのCuGaのξ相(Cu−Ga合金析出相)の析出について説明する。
【0031】
CuGa相を含むCu−Ga合金の内部の温度が、相変態温度(475℃)の直下まで上がった後、所定の時間(例えば、1時間以上)保持する。内部の温度を475℃以下450℃以上で保持することで、結晶粒界、または残留応力が周囲より大きい箇所、を起点として、延性のあるCuGaのξ相が結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおいて析出する。なお、ξ相は、結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおけるGa濃度が、22at%以上26at%以下である相である。
【0032】
ここで、残留応力とは、外部から応力を付加していなくてもCu−Ga合金内部に生じる応力である。例えば、高温から常温に冷却するときに、Cu−Ga合金内部の温度分布が均一でないため、場所により熱収縮量が異なり、残留応力が発生する。
【0033】
Cu−Ga合金内部の温度は、相変態温度である475℃を超えると、CuGaが優先的に、すなわち、ξ相よりもξ相が析出する。このξ相よりも、ξ相の方が、延性があり、脆弱性への改善に貢献する。
【0034】
よって、本実施の形態では、ξ相を析出させる温度ぎりぎりの温度を上限とした。なお、温度が高い方が、すなわち、相変態温度(例えば、475℃)に近い方が、ξ相の析出を促すことができる。
【0035】
また、CuGa相(以降、母相と呼ぶこともある)の粒径は、約200μm〜500μmの範囲となる。この母相の中に、CuGaのξ相(D019、Ga濃度:22at%以上26at%以下)が析出する。また、ξ相は、円柱状に析出する。粒径が1μm以上のξ相が、面積率で0.1%以上、存在する。
【0036】
ここで、粒径は、切り出し面によって、円柱の直径か、円柱の長さ以下である。円柱の直径より、粒径が小さくなることはないので、切り出し面における最大の長さを粒径とし、これが1μm以上であることを要するものとする。
【0037】
(S4:冷却工程)
次に、所定の時間、475℃以下450℃以上の温度で保持されたCu−Ga合金を常温まで冷却する(冷却工程)。冷却速度は、例えば、5℃/min以下である。
【0038】
冷却速度が増すとCu−Ga合金の内部の温度勾配が急になり、内部応力が残留して破壊され易くなる。よって、Cu−Ga合金の冷却速度は5℃/min以下が好ましい。
【0039】
(S5:仕上加工工程)
次に、上記の工程を経て得られたCu−Ga合金材をスパッタリングターゲットに加工する(仕上加工工程)。
【0040】
具体的には、ステップ4で得られたCu−Ga合金材の表面を切削し、スパッタリングターゲットに加工し、所望のスパッタリングターゲットを得る。
【0041】
(効果)
本実施の形態に係るCu−Ga合金材の製造方法によれば、Ga濃度が高いにもかかわらず、加工処理を容易に行うことができるCu−Ga合金材を製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例について説明する。まず、次の表1に示す実施例の試料1について説明する。
【表1】

この試料1は、以下の製造方法により作製される。まず、ガリウム(Ga)の平均組成が、30at%となるように、純銅(Cu)11.5Kgと、純ガリウム(Ga)5.4Kgと、を電気炉内のカーボン坩堝に充填し、油回転ポンプで10−2Torr程度で電気炉内の雰囲気を吸引し、さらに、電気炉内の雰囲気をArガスで置換した後、高周波誘導加熱により溶解した。
【0043】
次に、この溶解の後、鉄製の鋳型に鋳造し、寸法Φ100×11mmのCu−Ga合金を作製する。次に、Cu−Ga合金をAr雰囲気に保った電気炉において、475℃まで10/minの昇温速度で昇温し、昇温した温度を475℃以下450℃以上の範囲となるように、1hr保持する。次に、Cu−Ga合金を常温(25℃)まで冷却して、試料1を作製した。この冷却工程における冷却速度は、0.5℃/minとした。なお、後述する試料1のCuGa相の面積率は0.62%であり、曲げ強度は、740MPaであった。
【0044】
続いて、上記に示した製造方法において、Ga濃度、熱処理工程の有無、昇温工程における昇温速度、温度保持工程における保持時間、および冷却工程における冷却速度の条件を変えて、本実施例に係る試料2〜試料6のCu−Ga合金材を作製した。以下に、試料2〜試料6の条件を示す。
【0045】
・試料2
試料2は、Ga濃度が28at%、熱処理工程有り、昇温速度が10℃/min、保持時間が1hr、冷却速度が5℃/min、の条件で作製された。なお、後述する試料2のCuGa相の面積率は0.64%であり、曲げ強度は、650MPaであった。
・試料3
試料3は、Ga濃度が30at%、熱処理工程有り、昇温速度が10℃/min、保持時間が1hr、冷却速度が0.5℃/min、の条件で作製された。なお、後述する試料3のCuGa相の面積率は0.17%であり、曲げ強度は、370MPaであった。
・試料4
試料4は、Ga濃度が30at%、熱処理工程有り、昇温速度が10℃/min、保持時間が1hr、冷却速度が5℃/min、の条件で作製された。なお、後述する試料4のCuGa相の面積率は0.18%であり、曲げ強度は、320MPaであった。
・試料5
試料5は、Ga濃度が30at%、熱処理工程有り、昇温速度が10℃/min、保持時間が10hr、冷却速度が5℃/min、の条件で作製された。なお、後述する試料5のCuGa相の面積率は0.22%であり、曲げ強度は、350MPaであった。
・試料6
試料6は、Ga濃度が32at%、熱処理工程有り、昇温速度が10℃/min、保持時間が1hr、冷却速度が5℃/min、の条件で作製された。なお、後述する試料6のCuGa相の面積率は0.14%であり、曲げ強度は、320MPaであった。
【0046】
(比較例1)
続いて、比較例1に係る試料7〜試料10の条件について説明する。
【0047】
・試料7
試料7は、Ga濃度が30at%、熱処理工程無し、の条件で作製された。なお、後述する試料7のCuGa相の面積率は0.00%であり、曲げ強度は、50MPaであった。
・試料8
試料8は、Ga濃度が30at%、熱処理工程有り、昇温速度が10℃/min、保持時間が0.5hr、冷却速度が5℃/min、の条件で作製された。なお、後述する試料8のCuGa相の面積率は0.04%であり、曲げ強度は、240MPaであった。
・試料9
試料9は、Ga濃度が30at%、熱処理工程有り、昇温速度が10℃/min、保持時間が1hr、冷却速度が20℃/min、の条件で作製された。なお、後述する試料9のCuGa相の面積率は0.18%であり、曲げ強度は、190MPaであった。
・試料10
試料10は、Ga濃度が32at%、熱処理工程無し、の条件で作製された。なお、後述する試料10のCuGa相の面積率は0.00%であり、曲げ強度は、60MPaであった。
【0048】
上記に示すように、試料7および試料10は、熱処理工程を行わずに作製されている。試料8は、温度保持工程における保持時間が、実施例の各試料と比べて短いものである。試料9は、実施例の各試料と比べて冷却速度が速いものである。
【0049】
(面積率について)
面積率の測定方法は、まず、冷却工程を経た後のCu−Ga合金を、鋳造の方向(地面と垂直な面)と直交する方向(地面と平行な面)に、リファインカッターを用いて切り出す。次に、切り出した表面を、エメリー紙を用いて研磨した後、結晶方位が異なる少なくとも2つの相の結晶粒界を明確に認識することを目的としてアンモニア水を塗布し、5秒ほど経過した後、アンモニア水を水で洗い流す。次に、Cu−Ga合金の表面の結晶組織の画像データを撮る。次に、この画像データを画像解析ソフト(株式会社日本ローパー社製、Image Pro Plus J)において、輝度を基準にして、析出相と母相を分離することにより、析出相の面積率を算出した。
【0050】
実施例の試料4は、CuGaのξ相の面積率が比較例の試料9と同じであるが、曲げ強度がおよそ1.7倍となっている。この結果は、冷却工程における冷却速度が、実施例の試料4では、5℃/minであるのに対し、比較例の試料9においては、20℃/minと、4倍となっていることに起因している。
【0051】
また、比較例の試料7、試料8および試料10は、実施例の試料1〜試料6と比べて、CuGaのξ相の面積率が小さく、また、曲げ強度が小さい。これは、CuGaのξ相が、CuGaのξ相内部でのクラックの進行を止めるので、CuGaのξ相の面積率が大きい方が、曲げ強度が大きくなることが分かる。
【0052】
(曲げ強度について)
曲げ強度試験は、圧縮試験機を用いて、実施例の試料1〜試料6、および比較例1の試料7〜試料10に荷重をかけて破断させることにより行われた。この曲げ強度試験により曲げ強度を求め、脆弱性の指標とした。
【0053】
まず、熱処理工程を行った実施例の試料1〜試料6、比較例1の試料8および試料9を寸法Φ100×10mmに加工してサンプルを作製する。続いて、このサンプルを寸法Φ90×100mmの炭素鋼製リングの上に置き、圧縮試験機でサンプルの中央に荷重を徐々にかけて破断させる。
【0054】
例えば、実施例の試料1は、破断するときの荷重から曲げ強度を計算した。その結果、熱処理工程後の試料1の曲げ強度は、740MPaとなり、熱処理工程により脆弱性の改善が見られた。なお、熱処理工程前のCu−Ga合金材の曲げ強度は、50MPaであり、曲げ強度が大きく向上していることが分かる。つまり、熱処理工程がなされたCu−Ga合金材は、CuGaのξ相内部でのクラックの進行をCuGaのξ相により止めているので、曲げ強度が向上する。
【0055】
表1に示すように、熱処理工程が行われた実施例の試料1〜試料6と、熱処理工程が行われなかった比較例1の試料7および試料10との比較により、熱処理工程を行うことで、曲げ強度が増加していることが分かる。特に、Ga濃度が30at%以上となる実施例の試料3〜試料6は、Ga濃度が高いことによる脆弱性があるにも関わらず、熱処理工程によって、曲げ強度が320MPa以上になり、効果が著しい。
【0056】
また、実施例の試料4および試料5と、比較例1の試料8と、を比較すると、温度保持工程の保持時間を長くすることで、CuGa相の面積率が増加し、曲げ強度が増加することが分かる。また、保持時間を短くすることで、CuGa相の面積率が減少し、曲げ強度が減少することが分かる。
【0057】
さらに、実施例の試料3および試料5と、比較例1の試料9と、を比較すると、冷却工程の冷却速度を遅くすることで、曲げ強度が増加することが分かる。つまり、冷却工程の冷却速度を遅くすることにより、冷却工程で発生する応力を抑制することができ、さらに、Cu−Ga合金内部の残留応力を抑制することができる。
【0058】
(比較例1の試料10について)
比較例1の試料10は、28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)と、銅(Cu)および不可避的不純物からなる残部と、を含むCu−Ga合金を鋳造した場合、CuGa相を母相としたCu−Ga合金として凝固する。
【0059】
凝固した後、熱処理工程を行わずに、上記のCu−Ga合金の厚みを薄くする加工を行ってスパッタリングターゲットを製造しようとした場合は、このCu−Ga合金の延性が乏しく、加工が困難である。
【0060】
特に、平均組成で30at%以上32at%以下のガリウム(Ga)を含むCuGa合金は、CuGa相のみで構成されて非常に脆弱な合金となり、加工等で容易に破壊され、所望の最終形状まで、加工できない。理由は、以下のように考えられる。
【0061】
CuGa相のみで構成されたCu−Ga合金は、鋳造後の冷却過程で、合金内部の温度分布が不均質となり合金内部に応力が発生し、常温中においても応力が残留し続ける。さらに合金内部には、不可避な微細クラックが存在する。
【0062】
また、CuGa相のみで構成されたCu−Ga合金は、応力が付加されると、このクラックの先端に応力が局所的に集中する。そのため、このCu−Ga合金は、外部から何かしらの力を加えてない状態であっても、残留応力により局所的に大きな応力がかかり、加工等で外部からCu−Ga合金に応力が付加されると、容易に破壊応力に達し、クラックが進展して加工途中のCu−Ga合金が破壊される。特に、延性の乏しい、Ga濃度が高いCu−Ga合金(例えば、試料10)では、上記の特徴が顕著である。
【0063】
しかし、実施例の試料6は、表1に示すように、比較例1の試料10と同様にGa濃度が32at%でありながら、曲げ強度が、比較例1の試料10の曲げ強度の5倍以上となっている。
【0064】
(粒径について)
続いて、粒径の計測方法を以下に述べる。
【0065】
粒径の計測方法は、まず、冷却工程を経た後のCu−Ga合金を、鋳造の方向(地面と垂直)と直交する方向(地面の平行な面)に、リファインカッターを用いて切り出す。次に、切り出した表面を、エメリー紙を用いて研磨した後、結晶方位が異なる少なくとも2つの相の結晶粒界を明確に認識することを目的としてアンモニア水を塗布し、5秒ほど経過した後、アンモニア水を水で洗い流す。次に、Cu−Ga合金の表面の結晶組織を、顕微鏡で観察した。
【0066】
図2(a)および(b)は、実施例の試料3の表面を75倍に拡大した写真である。図2(b)において、実線で示した箇所が結晶粒界である。なお、図2(b)では、一部の結晶粒界を実線で示している。この図2(a)および(b)に示す試料3は、75倍の倍率で観察した表面が、CuGaのξ相以外の相も有して構成されていることが分かる。
【0067】
一方、図3(a)および(b)は、実施例の試料3の表面を300倍に拡大した写真である。図3(b)において、実線で示した箇所が結晶粒界である。実施例の試料3は、表1に示すように、粒径1μm以上のCuGaのξ相が面積率で0.17%存在する。つまり、図3(b)において点線で囲んだ箇所が、CuGaのξ相である。従って、Cu−Ga合金に熱処理工程を行う場合は、Cu−Ga合金材にξ相が形成されることが分かる。
【0068】
なお、図3(a)および(b)において、針状のものと、円状のものが観察されるが、切り出し方向に対して、向きが違っているために、形状が異なっているように見えるだけであり、両者とも、円柱状に結晶が成長している。
【0069】
図4(a)および(b)は、比較例の試料10の表面の写真である。この比較例の試料10は、Cu−Ga合金を鋳造後、熱処理工程を行わずに冷却した状態のものである。図4(a)および(b)に示す写真は、試料10の表面を300倍で撮影したものであり、上記の図3(a)と同様に、結晶粒界を確認し易くしたものである。図4(b)において、実線で示した箇所が結晶粒界である。図4(a)および(b)に示す写真では、ほぼCuGaのξ相のみで構成されていることが分かる。つまり、Cu−Ga合金に熱処理工程を行わない場合は、Cu−Ga合金材にξ相が形成されないことが分かる。
【0070】
(効果)
本実施例によるCu−Ga合金材によれば、熱処理工程を行うことにより、CuGaのξ相の面積率が大きくなるので、熱処理工程を行わない場合に比べて、曲げ強度が大きくなり、Ga濃度が高いにもかかわらず、加工処理を容易に行うことができる。つまり、本実施例に係るCu−Ga合金材によれば、28at%以上32at%以下という高いGa濃度でありながら、脆弱性を解決することが可能である。また、このCu−Ga合金材を用いることにより、割れ難く、品質の高いスパッタリングターゲットを作製することができる。さらに、このCu−Ga合金を用いて作製されたスパッタリングターゲットにより、例えば、CIGS太陽電池の製造において、優れた材料を提供することが可能となる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態および実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態および実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態および実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)と、
銅(Cu)および不可避的不純物からなる残部と、
を含み、
結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおいて、Ga濃度が、22at%以上26at%以下となるCu−Ga合金析出相を有するCu−Ga合金材。
【請求項2】
粒径が1μm以上の前記Cu−Ga合金析出相を面積率で0.1%以上含む請求項1に記載のCu−Ga合金材。
【請求項3】
前記Cu−Ga合金析出相は、CuGaのξ相である請求項2に記載のCu−Ga合金材。
【請求項4】
曲げ強度が300MPa以上である請求項3に記載のCu−Ga合金材。
【請求項5】
28at%以上32at%以下のガリウム(Ga)と、銅(Cu)および不可避的不純物からなる残部と、を含むCu−Ga合金に熱処理を行い、結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおけるGa濃度が、22at%以上26at%以下となるCu−Ga合金析出相を形成することを含むCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項6】
前記Cu−Ga合金析出相は、CuGaのξ相である請求項5に記載のCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項7】
銅(Cu)及びガリウム(Ga)を溶解し、Cu−Ga合金を鋳造する溶解鋳造工程と、
前記溶解鋳造工程で得られたCu−Ga合金を相変態温度の直下の温度に昇温させる昇温工程と、
前記昇温工程がなされたCu−Ga合金を、所定の時間、昇温させた温度から所定の範囲内の温度に保持する温度保持工程と、
前記温度保持工程がなされたCu−Ga合金を冷却する冷却工程と、
を含むCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項8】
前記相変態温度の直下の温度は、474℃以上475℃以下であり、
前記温度保持工程の前記所定の範囲は、450℃以上475℃以下であり、
保持時間は、少なくとも1時間以上である請求項7に記載のCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項9】
前記冷却工程における冷却速度は、5℃/min以下である請求項8に記載のCu−Ga合金材の製造方法。
【請求項10】
前記温度保持工程において、結晶粒界および結晶粒の少なくともいずれかにおけるGa濃度が、22at%以上26at%以下となるCuGaのξ相が形成される請求項9に記載のCu−Ga合金材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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