説明

DNAの検出方法

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明はDNAの検出方法に関するものである。
更に詳しくは、遺伝子増幅技術とキャピラリー電気泳動法を利用したDNAの検出方法に関する。
[従来の技術]
近年、遺伝子工学の発展に伴いDNAの検出方法が開発され試みられるようになった。例えば、オリゴヌクレオチドを用いたDNAプローブ法、ハイブリダイゼーション法が試みられ、またDNAをエチジウムブロマイドを含有するアガロースゲルを用いて電気泳動を行い分離し、UVを照射して発生する蛍光を写真に撮るという方法でDNAの検出が行われている。
このようなDNAの検出を利用した応用は、種々の分野に広がっており、例えば、遺伝子導入された形質転換体の検出、遺伝病の診断等が挙げられるが、微生物検査における応用もその1つである。
微生物検査は、従来、感染症の診断あるいは食品の細菌検査においてまずその試料中に存在する細菌等を好気条件及び嫌気条件下等において増菌培養を行い集落の観察を行った後、選択培地を用いて分離培養し集落の観察を行い菌の諸性状の検査を行うことにより菌の同定を行っている。あるいは、増菌培養の段階を省き試料中に存在する細菌等を好気条件及び嫌気条件下等において選択培地を用いて分離培養し集落の観察を行い菌の諸性状の検査を行うことにより菌の同定を行っている(臨床検査技術全書第7巻微生物検査、小酒井望編集、1985年医学書院発行)。
近年、このような微生物検査においてもオリゴヌクレオチドを用いたDNAプローブ法あるいはハイブリダイゼーション法が試みられるようになってきており、DNAの検出による微生物検査の実用化が期待されている。
また、DNAはオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた遺伝子増幅法(Polymerase Chain Reaction法以下、略してPCR法;Saikiら、Science,230,1350(1985)によって増幅させる方法が知られており、DNAの検出には増幅させたDNAを用いる方法が試みられている。
[発明が解決しようとする課題]
DNAの検出方法のうち、特に微生物検査等においては、オリゴヌクレオチドを標識修飾したプローブにより膜上あるいは他の支持体上でハイブリダイゼーションを行い、標識修飾したプローブを検出する方法は、十分な検出感度と選択性を得るのが難しいのが実情である。
また、検体から得られた微生物由来のDNAをPCR法によって増幅し、その増幅したDNAをアガロースゲル電気泳動によって検出する方法では、ゲル作製に手間がかかる、ゲルが扱いにくい、サンプルをゲルにアプライするのに手間がかかる、見た目には分かりやすいが定量性がよくないなどの短所がある。従って、特に微生物検査のような迅速性、簡便性かつ高感度が要求される分野では自動化あるいは装置化しようとした場合に問題となっている。このような状況下、迅速、簡便かつ検出感度の高いDNAの検出方法の開発が期待されている。
本発明の目的は、まさにこの点にあり、PCR法を利用して増幅されたDNAの検出を迅速かつ簡便に行う方法を提供することにある。
詳しくは、理論段数が高く十分な分離が得られる、分析時間が短く時間当りの試料処理能力が高い、サンプルのインジェクトが行いやすい、サンプルが少なくてよく、ゲルの作製が不要である、またこれらのことよりランニングコストを低く抑えることができる、その他定量性および再現性がよい等の長所を持つDNAの検出方法を提供することにある。
[課題を解決するための手段および作用]
本発明者は、上記の目的を達成するため鋭意検討を行った結果、微生物検査等を行う際に検体中のDNAの一部分をまずPCR法を利用して増幅し、増幅したDNAの検出をキャピラリー電気泳動法を用いて行うことにより、迅速、簡便かつ高感度にDNAを検出することができることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
ここで、本発明で検出されるDNAは、DNAの検出の目的によりどのような由来のものであってもよい。例えば、微生物検査においては、微生物由来のDNAが用いられ、遺伝子導入された形質転換体の検出法として用いられる場合は、導入された外来遺伝子のDNAが用いられ、また、遺伝病の場合は、塩基配列の一部が変異したDNAが用いられる。
本発明においては、公知の方法(生化学実験講座2、核酸の化学I、41〜54(1975)、日本生化学会編、東京化学同人発行)によってまず検体試料中の目的とする微生物等からDNAを抽出し、そのDNAをPCR法(Polymerase Chain Reaction法以下、Saikiら、Science,230,1350(1985))によって増幅する。この増幅されたDNAを含むPCR反応液を上層のミネラルオイルを除いた後直接、キャピラリー電気泳動によって分析する。
キャピラリー電気泳動は以下の方法によって行うが分析条件及び操作方法等はこれに限定されない。
本発明に用いるキャピラリー電気泳動では、電気泳動用緩衝液にゲル化していないポリマーを添加して電気泳動を行うが、使用時にゲル化しないポリマーであればいかなるものであっても使用することができる。例えば、ゲル化温度が低いいわゆる低融点アガロース、デンプン等が挙げられるが、本発明では特に低融点アガロースを用いる。
また、電気泳動用緩衝液には、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、胆汁酸系等の界面活性剤を0.01〜0.5%添加することが好ましいが添加しなくてもよい。
また、電気泳動用緩衝液は例えば0.1Mのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びほう酸を緩衝剤として含有するもの等が用いられるが、分離分析対象となる試料に応じて種々の緩衝剤を用いることができる。
キャピラリーの材質は、フューズドシリカが好ましいがこれに限定されない。例えば、テフロンチューブ等であってもよい。キャピラリーの内径は10〜200μmが好ましく、特に好ましくは50〜100μmであるがこれに限定されない。キャピラリーの長さは、通常30〜50cmが用いられるがこれに限定されない。
また、電源としては最大出力電圧30kV程度のものが好ましいがこれより小さいものであってもよく、これより大きなものであってもよい。また、電流は直流が好ましいがパルス状に発生するものでもよくまた、これらに限定されない。
また、検出器としては例えばUV検出器あるいは蛍光検出器が好ましいが電気化学検出器等であってもよく、また、これらに限定されない。
また、記録計は保持期間、ピーク高、ピーク面積計算等のデータ処理機能を持つものが好ましいがこれに限定されない。
上記のポリマー等を含有する電気泳動用緩衝液を満たしたキャピラリー内に端部から試料を導入し、キャピラリーの両端をポリマー等を含有する電気泳動用緩衝液を入れたそれぞれ別の電極槽に浸す。この二つの電極槽にそれぞれPt電極を浸し両極に電圧を印加する。キャピラリー両端に電圧を印加することによってキャピラリー内部のポリマー等を含む電気泳動用緩衝液に流れが生じ、溶出された試料の成分を上記の検出器によって検出する。検出器からの電気的な信号は記録計に伝達されそこで処理される。
[実施例]
以下の実施例により本発明のさらに詳細な説明を行うが、本発明はこれらの実施例によって何等限定されるものではない。
サルモネラ菌の検出1.試料の調製 サルモネラ菌はSalmonella typhimuriumを用いて適当な増菌培地に接種し、37℃、好気的条件下で終夜培養を行い、その培地1.5mlから遠心操作により菌体を回収した。10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で1回洗浄後、同緩衝液にリゾチームを1mg/mlとなるように溶かした液0.5mlで懸濁させ、37℃、10分で溶菌させた。溶菌液に前記緩衝液で飽和させたフェノールを同容量加え、よく撹はんした。遠心後、上層液を回収し、エタノール沈澱処理を行って核酸成分を沈澱させ、その沈澱物を前記緩衝液、1mlに溶かして、これを試料とした。
2.プライマーの合成 サルモネラ菌DNAを特異的に増幅するプライマーとして、下記の塩基配列をもつオリゴヌクレオチド(特願平1-185683号)を化学合成した。
(5')d-GGCGAGCAGTTTGTCTGTC(3')
(5')d-GTTTCGCCTGGCTGATACG(3')
化学合成は島津DNA合成装置NS-1を用い、トリエステル法により行った。合成したオリゴヌクレオチドの精製はC18逆相カラムを用いて行った。
3.PCR 前記試料液を3μl用いそれに滅菌蒸留水16.05μl、10×反応用緩衝液3μl、dNTP溶液4.8μl、プライマーをそれぞれ1.5μlそして耐熱性DNAポリメラーゼ0.15μlを加え、30μlの反応液を調製した。この反応液の入った容器にミネラルオイル(SIGMA社製)を50μl加え反応液上に重層する。各添加された液の内容を下記に示す。
10×反応用緩衝液;500mM KCl,100mM Tris-HCl(pH8.3),15mM Mgcl2,0.1%(w/v)ゼラチンdNTP溶液;dATP,dCTP,dGTP,dTTPを混合させたもので各最終濃度が1.25mMプライマー;前述した化学合成精製品の各水溶液(5 OD unit/ml)
耐熱性DNAポリメラーゼ;Taq DNAポリメラーゼ(5 unit/ml;Perkin Elmer Cetus社製)
反応条件は、次の通りである。
熱変性;94℃ 1分アニーリング;37℃ 1分重合反応;60℃ 1分 熱変性からアニーリングを経て重合反応に至る過程を1サイクル(所要時間5.7分)とし、これを42サイクル(所要時間約4時間)行った。これらの操作は、Perkin Elmer Cetus社製DNA Thermal Cyclerに上記反応条件をプログラムすることにより行った。
4.検出(キャピラリー電気泳動)
(4-1)電気泳動用緩衝液の調製 80mlの蒸留水に0.5gの低融点アガロースを加え、よく撹はんした後加熱し溶解させ放冷後、これに1.21gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、93mgのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、20mgのドデシル硫酸ナトリウムおよび100μgのエチジウムブロマイドを溶解させた。これにさらにほう酸を加え、pHを8.1に調製し、蒸留水を加えて正確に100mlにした。
(4-2)増幅されたサルモネラ菌DNAを含むPCR反応液のキャピラリー電気泳動 第1図に示したシステムを用いてキャピラリー電気泳動を行った。すなわち、蛍光検出器(1)はRF-540型(島津製作所製、励起波長300nm、検出波長590nmに設定)、高電圧電源(2)はHER-30P 0.16-SI型(松定プレシジョンデバイセズ製)、記録計(3)はC-R4A型(島津製作所製)、電極(4)はPt線(0.5mmφ−30mm)、電極槽(5)は1.5mlのサンプリングチューブを用いた。
キャピラリー(6)はScientific Glass Engineering社のフューズドシリカキャピラリーの内径75μmのものを使用した。キャピラリーの全長は450mmであり+極側から300mmの所から2mmの幅で被覆を剥し、蛍光検出器に取り付けた。このキャピラリー内には使用時に上記の低融点アガロースを含有する電気泳動用緩衝液を満たし、両端はそれぞれ低融点アガロースを含有する電気泳動用緩衝液を入れた+極側電極槽及び−極側電極槽に浸しておいた。このとき二つの電極槽内の緩衝液の液面の高さが同じになるように調整しておいた。
試料のキャピラリーへの導入はキャピラリーの+極側の端部を+側電極槽から引き上げ試料溶液中に10秒間浸して行った。このとき試料の液面の高さは電極槽内の緩衝液の液面より50mm高くなるように調整して行った。
試料をキャピラリー内に導入した後、キャピラリーの端部を電極槽に戻しキャピラリーの両端に7.5kVの直流電圧を印加した。電流値は12〜15μAとなり、キャピラリー内には+極側から−極側に向かって緩衝液の流れが生じ、DNAは分離され、溶出されて蛍光検出器で検出された。PCR反応によって増幅されたサルモネラ菌DNAは期待される溶出時間にシャープなピークとして検出された。この結果を第2図に示す。
[発明の効果]
本発明の方法によれば、低融点アガロースを含有する電気泳動用緩衝液を用いてキャピラリー電気泳動法によってDNAを分離検出するようにしたので、キャピラリー内の分離環境が均質となり、PCR反応後の増幅されたDNAを含む溶液をゲルを作成することなしに簡便迅速かつ定量性再現性よく十分な分離度で分析でき、しかもキャピラリー電気泳動に必要なサンプル量が少なくて済むためPCRの反応系を小さくすることができランニングコストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、キャピラリー電気泳動のシステムを、第2図は、増幅されたサルモネラDNAの蛍光検出器による検出を示す。
1……蛍光検出器
2……高電圧電源
3……記録計
4……電極
5……電極槽
6……キャピラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】遺伝子増幅法により増幅させたDNAの検出を、低融点アガロースを含有する電気泳動用緩衝液を用いてキャピラリー電気泳動法によって行うことを特徴とするDNAの検出方法。

【第1図】
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【第2図】
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【特許番号】第2722752号
【登録日】平成9年(1997)11月28日
【発行日】平成10年(1998)3月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−40303
【出願日】平成2年(1990)2月21日
【公開番号】特開平3−243858
【公開日】平成3年(1991)10月30日
【出願人】(999999999)株式会社島津製作所
【参考文献】
【文献】“Analitical Chemistry”,Vol.59,No.7 (1987),P.1021−1027