説明

DNAをベースとするプラスミド及びワクチン並びにそれを含む予防剤

本発明は、DNAをベースとするワクチンの性能を改良するための一般的な方法である。この方法は、DNAをベースとするワクチンの効果を高め、免疫応答を広範にするために、DNAと一般化されたプロファイルの抗原の複合体を利用する。広範な免疫応答は、病原体の分岐した(但し、関連性を有する)菌株からの受容体の保護を向上させる。さらに、後天性免疫不全症候群(AIDS)を含むウイルス性疾患の治療に使用されるDNAベースのワクチンの有効性を効果的に向上させる。この方法は、標的ウイルス病原体がHIV(エイズの原因物質)である一実施例において、関連性ある配列の秩序あるプラスミド群を同定し、そのプラスミドを用いて、HLAが制限されたウイルス抗原に対して広範で強力な免疫応答がプライミングされる。それゆえ、このプラスミド混合物は、HIV感染者のウイルス負担を低減し、又は未感染患者をHIV感染から保護するために、適当な免疫応答をプライミングすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<発明の分野>
本発明は、ワクチン及び疾病予防の分野に関し、より具体的には、複数形態の1又は複数の抗原を有するワクチン及び予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
<発明の背景>
ワクチン接種は、生命を救うための医療方法うち、費用効果に最もすぐれる方法1つであるが、人間の最も深刻な疾病、例えば肺炎連鎖球菌によって引き起こされる肺炎、ロタウイルスによって引き起こされる下痢、及び赤痢を含む多くの疾病については、効果的な開発が行われていない。HIV、結核、マラリア伝染病の他、他の寄生虫症及び抗生物質耐性菌の増加からも明らかなように、有効なワクチン及び予防薬の開発に対する要請は増加しているが、この開発は、多くの病原体に対して困難であることがわかっている。例えば、インフルエンザウイルスは、抗原連続変異として知られているため、新たなワクチンが絶えず開発されており、先進国及び発展途上国において、重要な多くの他の疾病と同様、狂犬病[Xiang, et al, 1994]、ヘルペス[Rouse, 1995]、結核[Lowrie, et al, 1994]、HIV[Coney, et al, 1994]に対する有効なワクチンを見出すために、研究努力が続けられている。
【0003】
さらに、一旦、従来の抗生物質によって簡単に治療された細胞の菌株の多くは、今では、治療に対する耐性が増してきている。標準の多価ワクチンは、一般的には、限られた数の所定の病原性菌株に対して作用するように設計されている。様々な抗原の違いを示す各種病原体に対して有効なワクチン又は予防薬を作る一般的な方法はない。
【0004】
現在使用されているワクチンの多くは、弱毒生病原体[Ada, 1991]で構成され、接種されると細胞を感染させ、宿主に広範な免疫応答を引き出す。生ワクチンは、広いレベルの防御応答を引き出す傾向を有するため、抗原又はサブユニットワクチンよりも優れていることがある。しかしながら、そのようなワクチンを使用するときの重大の不都合として、ワクチンに誘導される感染、ワクチンの製造及び保存時の問題の他、免疫応答を起こさない(即ち、抗原提示(antigen presentation)が制限される)問題がある。おそらく、生ワクチンを使用するときの最も厄介な点は、予防しようとする疾病を実際に引き起こすかもしれないことであろう。ポリオワクチン及び麻疹ワクチンでは、このような重大な危険性を有することが明らかになっている。
【0005】
免疫応答を起こすために、弱毒生病原体(live/attenuated pathogen)のワクチンに代えて、病原体に関連する単一又は限られた数のタンパク質を用いることがある。しかしながら、抗原に応答して産生された抗体が、抗原となる病原体に対して防護する保証はない。それゆえに、病原体から単離される多数の抗原を調べる必要が生ずる。サブユニット又は不活化ワクチンが広範な免疫応答を引き出す能力は、一般的にはかなり限られているため、単一の抗原が有効なワクチンとなることはできない。特に、ペプチド・サブユニット・ワクチンは、キラーT細胞応答を誘導する効果は殆どない。
【0006】
従来のワクチンのこれらの不都合は、「遺伝子免疫化(genetic immunization)」[Tang, 1992]と呼ばれる手法を用いることによって解消させることができる。この技術は、病原体タンパク質(抗原)をエンコードする、単純で(simple)、裸の(naked)プラスミドDNAを、宿主の細胞に接種することを含んでいる。その抗原は、付着した標的シグナルに応じて細胞内で産生され、有効な主要組織適合性複合体(MHC)クラスI又はII提示がされる[Ulmer, et al, 1993; Wang, et al, 1993]。感染の危険性は本質的に排除されているから、DNAは、通常は病原体に感染していない細胞へ送達されることができる。従来のワクチンと比較すると、遺伝子ワクチンの生成は直接的であり、DNAは、タンパク質性又は弱毒生ワクチンよりも遙かに安定している。特異的遺伝子による免疫化(DNA、ポリヌクレオチド等の免疫としても知られている)は、病原性疾病の幾つかのモデル系[Davis, et al, 1993; Conry, et al, 1994; Xiang, et al, 1994]及び数少ない自然系[Cox, et al, 1993; Fynan, et al, 1993]で効果を発揮した。このように、DNA(又はRNA)を使用することにより、動物に抗原が直接的に提示されたときに起こる問題の幾つかが解消される。
【0007】
DNAワクチンの開発のために、病原性ゲノムのポリペプチドをエンコードする領域は、親抗原(parental antigen)として選択される。それゆえ、特定の抗原性ポリペプチドのどれに対しても、一般的には、抗原の1又は2の領域(アミノ酸長がおよそ9で「優性エピトープ(dominant epitope)」と呼ばれる)が提供され、その領域は、MHC媒介性免疫応答を支配する。
【0008】
遺伝子ワクチンの接種で初期結果が約束されているにも拘わらず、病原体の挑戦(challenge)に対して迅速且つ防護的な応答を行なうために、免疫系(immune system)をプライミングできる抗原を発現する特定の遺伝子を同定するという基本的な問題が依然として存在する。この問題を解決するために提案された解決策の1つは、各々が病原体ゲノムの個々の部分をエンコードする複数のプラスミドを含むDNAワクチンを調製することである[Johnston SA, Barry MA. Vaccine 1997 Jun; 15(8): 808-809]。HIVのようによく研究された病原体の場合、多くの抗原タンパク質の優性エピトープはマップが作成されている。レトロウイルス複製機構に固有の高い突然変異率と、持続感染中に起こる極端な選択圧(selective pressure)により、AIDSの流行を駆り立てるウイルス集団は非常に変異しやすい。この変異性は、DNAをベースとするワクチンの有効性を2つの点で制限すると考えられる。第1に、集団の中には多くの変異体が存在し、これらが現在未感染の宿主へ送達される可能性があるから、ワクチンは、予知不能で、おそらくはこれまで未検出のウイルス菌株を抑制する能力を必要とすることである。第2に、持続感染の場合、患者体内のウイルス集団は、抗原不連続変異(antigenic shift)が起こり、感染ウイルスの新規な変異体によって支配され得ることである。
【0009】
ここに記載するワクチン/予防的特異性を拡大する方法は、病原体とは関連性のない抗原をエンコードする多数のプラスミドを使うこれまでの方法とは異なる。これは、抗原領域のうちの1つの領域に対して十分な免疫応答を起こすことを期待して、例えば、病原体のゲノムの異なる領域からの遺伝子を含む複数のプラスミドを混合することによって行われる。
【0010】
<発明の要旨>
本発明は、1又は2以上の病原性有機体からタンパク質又はペプチド抗原をエンコードする複数の核酸配列を含む組成物に関する。本発明は、宿主体(host organisms)における免疫系応答の向上を誘導する方法及び組成物を提供する。そのような病原体の例として、限定するものではないが、後天性免疫不全症候群(AIDS)で観察され、免疫系欠如の原因となるレトロウイルス病原体HIVを挙げることができる。
【0011】
<発明の詳細な説明>
この明細書で使用する用語の意味は次のとおりである。
「高多価(Hyperpolyvalent)」は、20以上の異なる(distinct)プラスミドがDNAワクチンの成分として使用され、宿主の免疫応答を起こすのに用いられる調製物(preparation)である。標的病原体に対して有効であると共に、その免疫応答は、プラスミドが単独で送達される場合に引き起こされる免疫応答よりもさらに広範(broader)である。
「核酸配列」は、アデニン、グアニン、シトシン及びチミンの4種のモノマーの様々な組合せから成るポリヌクレオチド鎖である。
「核酸の全長配列(full-length nucleic acid sequence)」は、タンパク質をエンコードする核酸配列である。
「核酸配列の断片」は、核酸の全長配列のうち、タンパク質の一領域だけをエンコードする部分である。
「抗原」は、抗体(通常はタンパク質)を生成するために免疫系を刺激する物質である。
「突然変異」は、野生型遺伝子内のヌクレオチドが、異なるヌクレオチドと置換されることである。
【0012】
「同類置換(conservative substitution)」について、「同類アミノ酸置換」は、同様な側鎖を有する残基の互換性を意味する。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンである。脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリン及びトレオニンである。アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギン及びグルタミンである。芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンである。塩基側鎖を有するアミノ酸のグループは、リジン、アルギニン及びヒスチジンである。硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システイン及びメチオニンである。望ましい保存性アミノ酸置換は、バリン−イソロイシン−ロイシン;フェニルアラニン−チロシン;リジン−アルギニン;アラニン−バリン及びアスパラギン−グルタミンである。
「エピトープ」は、抗体によって認識され、抗体と結合する抗原の部分である。
「優性エピトープ」は、抗体と抗原との間の相互作用に重要なエピトープである。
【0013】
改良された点は、関連性を持つが別個の抗原の混合物を宿主体内に発現する核酸配列の高多価混合物(hyperpolyvalent mixture)にある。これらには、DNA、RNA、これら以外の核酸、核酸の全長配列及び部分配列が含まれる。核酸は、「裸の」核酸として存在してもよいし、或いはベクター内に存在してもよい。そのようなベクターとしては、自己複製プラスミド及びウイルスベクター(例えばアデノウイルス)を挙げられるが、これらに限定されるものでない。プラスミドという語は、ある生物から他の生物へトランスファされることができるDNAであって、独立して複製する全てのDNAの小片を意味する。これらは、原核生物と真核生物の両方に見られる線状又は環状のDNA分子を含んでいる。プラスミドは、宿主ゲノムに組み込まれることができるか、又は独立して存在し続けることができ、遺伝子を宿主へ移すために用いられる。この改良では、宿主の免疫系に免疫を付与するのに、関連性の強いプラスミド変異体を数多く用いるから、関連性を有するが異なる様々な標的病原体菌株による挑戦に対して応答を起こすことができる。このプラスミド群は、宿主の免疫系をプライミングするために用いられるエピトープの範囲を規定する系統的構造(systematic design)を有している。本発明の方法は、標的病原体の一又は少数の遺伝子に由来するポリヌクレオチドを使用し、選択された抗原の複数の変異体が産生される。
【0014】
DNAワクチンは、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を誘導するのに特に有効である。CTLの特異性及び他の免疫応答は、細部にわたって、産生される抗原の種類及び量に依存し、また、プラスミドを受け取る細胞における抗原の存在に依存する。動物に免疫性を与えるために、抗原をエンコードする単一のプラスミドを用いることは、その抗原に特異性のT細胞の突然変異を促進することになる。しかしながら、応答全体は、高特異性の反応に支配され、免疫応答全体の多くの要素は、僅かな抗原の変異でさえも、相対的に耐えられない。関連性の強いポリペプチド群を発現するが、単一の優性特異抗原を発現しないプラスミドの混合物は、特異性が広い免疫応答を引き起こす。プラスミド群は、提示されたエピトープの性質を変えるために開発され、提示(presentation)の相対的効率により、病原体及び変異体への広い特異性がもたらされる。これにより、宿主は、これまで未記載の(undescribed)変異体菌株による挑戦に直面したとき、病原体に対して効果的に抵抗することができるし、免疫系の除去(elimination)に応答して病原体の迅速な突然変異を克服することができる。
【0015】
ワクチンの成分として秩序ある集合(orderly set)のプラスミドの開発
一の態様において、DNAワクチンの開発において、病原体ゲノムのポリペプチドをエンコードする領域が、親抗原として選択される。一例として、HIV遺伝子polの親抗原に対してヌクレオチドをコードする配列を図1に示している。しかしながら、これは単なる一例として挙げたものであって、本発明の範囲をHIVに限定することを意図するものでなく、また本発明をHIVのpol遺伝子に限定することを意図するものではない。特定の抗原ポリペプチドのどれに対しても、一般的には、抗原の1領域又は2領域(アミノ酸長がおよそ9で「優性ペプチド」と呼ばれる)が提示され、前記領域は、MHC媒介性免疫応答を支配する。抗原領域の各アミノ酸をエンコードするDNAポリヌクレオチドは、融合ポリペプチドの免疫性を高めるために一般的に用いられる種類の抗原ペプチドをエンコードするポリヌクレオチドと融合されることができる。
【0016】
本発明では、核酸塩基配列を含むプラスミド群が作られ、これが翻訳されると、例えば、同類アミノ酸置換により、優性エピトープ領域のアミノ酸残基を置換する。同類置換の例は、次の表1から確認される。
【表1】

【0017】
しかしながら、ランダムな突然変異を組み入れられることもできる。さらに、アミノ酸配列のフランキング領域のエピトープを変えて、抗原のMHC拘束システムの提示に関する強度及び特異性を変えることができる。
【0018】
優性エピトープについて翻訳ポリヌクレオチド配列の例を、図2のA及びBに示している。HIVのpol遺伝子の断片を使用し、複数の変異(multivariant)を含むエピトープの例を、図2のBに示している。しかしながら、これは一例として挙げただけであって、本発明の範囲をHIVに限定することを意図するものでなく、また、本発明をHIVのpol遺伝子に限定することを意図するものではない。さらに、高多価(hyperpolyvalent)混合物は、同じ生物の1又は複数の遺伝子の変異体(variants)を含むことができる。
【0019】
システムの重要な特徴の1つは、関連性をもつ豊富な抗原をエンコードするプラスミドであって、各プラスミドがそれを受け取る宿主細胞に有意量の抗原を発現させることができるプラスミド混合物を産生することである。各々がトランスフェクトされた宿主細胞に提示された変異型優性エピトープは、宿主体の全免疫応答をトリガする役割を果たす。利用可能なエピトープに焦点を絞ることができるTリンパ球は、制限的に狭い応答特異性を有するものを選択するのに好ましい。それゆえ、全体的なCTL応答は、単一の抗原プラスミドによってトリガされる応答よりも広範な免疫応答プロファイルを有するTリンパ球によって支配される。
【0020】
本発明の組成物は、細菌及び/又はウイルスの病原菌によって引き起こされる様々な疾病に対して、動物のワクチン接種に使用されることができる。例えば、本発明の組成物は、HIV、狂犬病、ペスト、インフルエンザ、天然痘、エボラ、マールブルグ及びウエスト・ナイル・ウイルス対するワクチン接種の他、炭疽菌、ブドウ球菌及び連鎖球菌の耐性菌、サルモネラ、大腸菌及びその他の細菌性因子による感染の治療にも使用されることができる。また、この技術は、異なる癌や毒素の治療に使用されることができる。さらに、現在の抗生物質、ワクチン又は予防薬の強化に使用されることができる。この実施例において、本発明の組成物は、HIVワクチンを動物に接種するために使用されることができる。
【0021】
ワクチン開発の一部としての試験
本発明のこの態様では、ヒトの被験者で評価する前に、全てのワクチンを試験するステップとして、マウスのモデルシステムで試験した。DNAをベースとするワクチンをマウスのモデルシステムで試験するという一般的概念は、ワクチン開発の技術分野の専門家では広く知られている。この試験において、マウスの適当な菌株は、プラスミドをベースとするワクチン調製物を用いて接種される。この調製物は、裸のDNAを筋肉注射する標準技術を用いて送達される。この送達システムは、プラスミドを徐々に放出するために、ゲルをベースとするdepoの食塩水でよい。また、DNAプラスミドから発現した抗原に対する免疫応答を高めるために、アジュバントを使用することもできる。プラスミド混合物を受け取り且つ発現する細胞は、関連する抗原の混合物を免疫系に合わせて処理した。サイトカインIL6をプラスミドと共に供給すると、免疫系がさらに刺激される。IL6は、この試験のためにタンパク質として供給されることができるが、サイトカインは、プラスミドに挿入される発現可能な(expressible)DNA配列としてその上にエンコードされるから、注入部位近傍の細胞はサイトカインを産生する。免疫性は、ワクチン調製物で定期的に再接種することによって高められ、免疫応答が向上する。対照マウスには生理食塩水だけを注射し、さらなる対照マウスには、アジュバントだけを加えたIL6が接種される。第3の対照群は、提示された特異的HIV(pol)に対する相対的に狭い免疫応答を刺激する抗原供給プラスミドの単一種で接種されたマウスから構成される。マウスは、所定日数(2、6及び12週間後)毎に解剖し、CTL応答の試験を行うために脾臓を採取した。標準試験は、合成ペプチドを用いて、CTL応答の活性化を調べるものである[Wu L, Barry MA., Mol Ther 2000 Sep; 2(3): 288-297]。この試験において、優性エピトープの特定の一種を、試験マウスを接種するために使用されたプラスミド混合物から意図的に取り除いた。ワクチンの広範なCTL応答刺激の有効性を評価するために、既知の優性抗原を使用できるように、親抗原を取り除いた。その理由は、複合プラスミド混合物(complex plasmid mixture)によって刺激された広範なCTL応答は、ワクチンの中に特異的に供給されていない関連エピトープを認識できるからである(対照マウスとの比較により)。さらに、親型に関する検定は信頼性が高い。また、追加の抗原を試験して、広範囲の抗原に対する免疫応答の有効性を検証した。
【0022】
最近提案された自動DNA合成技術[US 60/276,161]を使用することにより、配列に関連のある大量のDNAプラスミドを実際に作ることは可能である。これらの技術は、自動液体処理装置を使用しており、クローニングのために、配列に関連のあるポリヌクレオチドを数十乃至数百生成することができる。このようなシステムを用いることにより、抗原の優性エピトープ及びフランキング領域に人工的変化が加えられた、秩序あるクローンが生成される。
【0023】
この発明の重要な点は、AIDSの原因物質であるHIVに対するワクチン接種を行なう方法である。HIV/AIDSに関する現在の治療では、ウイルスの抗原不連続変異/突然変異率による問題がある。HIVの中に含まれる遺伝子/病原性エピトープの変異体の接種により、広範な免疫応答が誘導される。これは、HIVに見られる抗原不連続変異から宿主を守ることに役立つ。
【0024】
本発明は、プラスミドの一部として関連性のある遺伝子の高多価混合物(hypervalent mixture)を含む医薬品を提供する。この高多価混合物は、関連のある遺伝子のそれぞれのエピトープ変異を含んでいる。変異の数は9以上であって、優性エピトープ内の1アミノ酸につき1つある。各ポリヌクレオチドは、生物学的活性ポリペプチドをコードする。高多価ポリヌクレオチドは、生理学的に許容可能な形態で容器に入れられ、その容器には、薬剤の製造、販売及び/又は使用を規制する政府機関によって定められた形式で告知が付される。本発明は、上記の開示に基づいて、多くの変形及び変更を成し得ることは明らかであろう。それゆえに、発明は、特に記載されていない点については、添付の請求の範囲内で変形をなし得るものと理解されるべきである。
【0025】
本発明の実施例を次のとおり記載するが、この実施例は、単に例示の目的で提供されるものであり、如何なる意味でも、発明を制限するものと解されるべきではない。当該分野の専門家であれば、発明の精神及び範囲から逸脱することなく、以下の実施例に変形を成し得るであろう。
【0026】
実施例1
マウス菌株BALB/C (H-2d)を使用し、高多価ワクチン接種のct細胞応答への影響を調べた。簡単に説明すると、30匹のマウスを、10匹づつの3つのグループに分けた。マウスは、病原体の無い環境で飼育した。3つのグループは、生理食塩水だけを投与した対照マウス群と、親配列(parental sequence)を有し、標的エピトープをエンコードする単一プラスミドタイプを注射したマウス群と、配列型の混合物をエンコードするために調製され、親エピトープを意図的に含有しない多価ワクチンを注射した第3群である。この調製物を使用することにより、親エピトープに対するどの応答も、t細胞応答の広範な特異性を直接的に示すことができる。精製したDNAプラスミド(ワクチン又は対照)と共に、28ゲージの針を具えた0.5ccシリンジを使用して、マウスの大腿四頭筋及び頸骨筋に注射した(食塩水50マイクロリットル)。脾臓と血清は、2、4及び12週の間隔で解剖し、採取した。ウェスタンブロット分析により、ウイルスのエンコードされた抗原に対して、上腕骨(抗体応答)を測定した。CTL応答は、T細胞活性化検定を使用して測定した[Ulmer, J.B., et al, Science 259:1745-1749]。
【0027】
上記説明に基づいて、本発明の新規な概念に関する真の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変形及び変更を成し得ることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】Pol HTLV-IIIbに由来する親ペプチドの核酸配列を示しており、複数の変異の2つの部位を太字で示している。
【図2】Aは、Pol HTLV-IIIbに由来する親抗原ペプチドのアミノ酸配列を示している。複数の変異を含むエピトープを太字で示している。Bは、多価エピトープ内のアミノ酸置換を示している。これらは、HIVの臨床分離株の既知配列から設計される。2つのエピトープにおける置換のあらゆる可能な組合せは、ワクチンの設計に使用される。実際の抗原は、DNAワクチンから抗原を発現するためにペプチドに融合される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる抗原の混合物を宿主体内で発現する能力を有する核酸配列の高多価混合物(hypervalent mixture)を含んでおり、前記宿主の免疫応答は、高多価混合物の任意の一種が単独で起こす免疫応答よりも広範である、ポリモーフィック型ワクチン。
【請求項2】
核酸配列の高多価価混合物は、自己複製するプラスミド及びウイルスベクターである、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
自己複製するプラスミド及びウイルスベクターはアデノウイルスである、請求項2に記載のワクチン。
【請求項4】
核酸配列の高多価混合物はベクターの中にある、請求項1に記載のワクチン。
【請求項5】
20以上の異なるプラスミドを含むDNAベースのワクチン又は予防剤であって、各プラスミドは、病原体の異なる抗原に対してヌクレオチドをエンコードする領域を有しており、前記プラスミドは、どれもが優性ではなく、病原体に対して広範な特異性を引き起こす能力を有しており、宿主の免疫応答は、プラスミドの任意の一種が単独で起こす免疫応答よりも広範である、ワクチン又は予防剤。
【請求項6】
病原体はレトロウイルス病原体HIVである、請求項5に記載のワクチン。
【請求項7】
1以上のプラスミドは、原核細胞又は真核細胞に由来する線状又は環状DNA分子である、請求項5に記載のワクチン。
【請求項8】
プラスミド又はその変異体は、標的病原体による挑戦に対して応答できるように、宿主免疫系に免疫性を与える能力を有している、請求項5に記載のワクチン。
【請求項9】
各プラスミドは、宿主の免疫系をプライミングする能力をもつエピトープを含んでいる、請求項5に記載のワクチン。
【請求項10】
核酸配列は、選択された抗原の複数の変異体が産生されるように、標的病原体の1以上の遺伝子に由来するポリヌクレオチドである、請求項5に記載のワクチン。
【請求項11】
1以上の病原体に対するポリモーフィック型ワクチンであって、ワクチンは、異なるプラスミドの混合物を含み、各プラスミドは、関連性をもつが異なる抗原を発現するためにヌクレオチドをエンコードする領域又はポリペプチドをエンコードする領域を有しており、前記プラスミドは、どれもが優性ではなく、病原体及びその変異体に対して広範な特異性を引き起こす能力を有しており、宿主の免疫応答は、プラスミドの任意の一種が単独で起こす免疫応答よりも広範である、ポリモーフィック型ワクチン。
【請求項12】
異なるプラスミドは、親プラスミドの変異体、又は、親プラスミドとその変異体の組合せから成る、請求項11に記載のポリモーフィック型ワクチン。
【請求項13】
プラスミドは、発現したときに、親エピトープ又はその変異体のどちらかのためにポリペプチドを産生する能力を有する、請求項11に記載のポリモーフィック型ワクチン。
【請求項14】
ワクチンは、HIV、狂犬病、ペスト、インフルエンザ、天然痘、エボラ、マールブルグ、ウエスト・ナイル・ウイルス、炭疽菌、ブドウ球菌の耐性菌、連鎖球菌の耐性菌、サルモネラ、大腸菌、又はそれらの任意の組合せに対するものである、請求項11に記載のポリモーフィック型ワクチン。
【請求項15】
病原体は、細菌又はウイルスである、請求項11に記載のポリモーフィック型ワクチン。
【請求項16】
ワクチンは、癌又は毒素の治療に対するものである、請求項11に記載のポリモーフィック型ワクチン。
【請求項17】
病原体は、レトロウイルス病原体HIVである、請求項11に記載のポリモーフィック型ワクチン。
【請求項18】
プラスミドは、親エピトープのアミノ酸残基の同類置換により、病原性変異体をエンコードする能力を有する、請求項12に記載のポリモーフィック型ワクチン。
【請求項19】
核酸配列は、AAG ATG ATC GGC GGC ATC GGC GGC TTC ATCを含んでいる、請求項1に記載のポリモーフィック型ワクチン。
【請求項20】
核酸配列は、GTG CTG GTG GGA CCC ACC CCC GTG AAC ATCを含んでいる、請求項1に記載のポリモーフィック型ワクチン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−505602(P2006−505602A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550413(P2004−550413)
【出願日】平成15年11月3日(2003.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2003/034928
【国際公開番号】WO2004/041200
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(505166203)ピコスクリプト リミテッド,エルエルピー (1)
【氏名又は名称原語表記】PICOSCRIPT LTD,LLP
【Fターム(参考)】