説明

DNAを固定化するための基体

【課題】DNAを固定してDNAライブラリーとして用いるための基体の提供、さらに、DNA増幅反応によりDNAを複製するために使用するのに最適な基体の提供。
【解決手段】非晶質炭素、無定形炭素、グラファイトからなる構成要素のうち、1つ又は複数からなる基体表面にDNAを固定化する。また、基体体表面に水酸基を結合させるか、または末端にカルボキシル基を有する、炭化水素基とカルボキシル基が結合してなる基を、エステル結合またはペプチド結合をを介して、基体表面に結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAを固定化するための基体に関し、より詳しくは、化学修飾された基体に関し、さらに詳しくは、末端に水酸基、カルボキシル基等を有する化学修飾された基体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DNAの増幅反応等においては、目的とするDNAを特定量得るために、
1)二本鎖DNAの水素結合をほどくために試料の温度を95℃に上昇させる、
2)次いでDNAを複製するためのプライマーと再結合させるために試料の温度を45℃に下降させる、
3)さらに耐熱性ポリメラーゼによりプライマーを伸長させてDNAを複製させるために試料の温度を74℃に上昇させる、
といった1)〜3)のヒートサイクルを幾度も繰り返す必要があった。
このようなDNAの増幅反応では、試料を合成樹脂の容器などに入れ、この容器をアルミニウムブロックに収容し前記ヒートサイクルを行っていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記ヒートサイクルは多大な時間がかかり、目的とする量のDNAを得るには数時間を要していた。また、温度制御の精度が低いために、目的とする以外のDNAも複製されるという問題点もあった。
本発明は、このような問題点に鑑み、DNAを容易に固定化できて、DNA増幅反応によりDNAを複製するために最適な基体を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の基体は、DNAを固定化するための基体であり、非晶質炭素、無定形炭素、グラファイトからなる構成要素のうち、1つ又は複数からなることを特徴とする。
上記基体は、末端に極性基、水酸基又はカルボキシル基を有する化学修飾されていることが望ましい。また、前記カルボキシル基が、エステル結合を介して基体表面に結合していることも望ましく、前記カルボキシル基が、ペプチド結合を介して基体表面に結合していることも望ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明のDNAを固定化するための基体は、非晶質炭素、無定形炭素、グラファイト等の炭素物質からなり、炭素が表層に存在するので、表面を水酸基やカルボキシル基等で化学修飾しやすく、DNAの固定化を容易に行え、DNA増幅反応によりDNAを複製するためのチップなどに最適である。また、本発明の基体は、表面が汚染された場合に、加水分解させて化学修飾を再生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に用いる基体は、非晶質炭素、無定形炭素、グラファイト等の炭素物質を構成要素とし、これらの形成方法は適宜選択できるが、好適には、マイクロ波プラズマCVD法、ECRCVD法、高周波プラズマCVD法、IPC法、直流スパッタリング法、ECRスパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、EB蒸着法、抵抗加熱蒸着法などである。また、たとえば、ポリイミド系材料からなるレジスト膜を蒸し焼きにして得られる水素を含有した非晶質炭素であってもよい。さらに、グラファイト粉末を樹脂を混合してスラリー状にして焼き固めたもの等でもよい。本発明では、上記の構成要素を1つ又は複数を組み合わせたものでもよい。
【0007】
また、本発明の基体表面は、意図的に粗面にされていることも望ましい。このような粗面表面は表面積が増えて多量のDNAを固定化させることができるからである。また、基体の形状は、平板状、球状、多角形状など特に問わない。さらにこれらの基体と他の物質との合成体であってもよい。本発明の基体が表層に存在すればよい。
【0008】
次に、上記の基体の表面に特定の基を付加(化学修飾)させる。この化学修飾によって、DNAが基体の表面に固定化されやすくなる。基体表面に付加(化学修飾)され、末端に極性基を有する特定の基としては、水酸基、カルボキシル基、硫酸基、シアノ基、ニトロ基、チオル基、アミノ基などの基が該当する。また、この他、有機カルボン酸も含まれる。
また、カルボキシル基は、基体との間に他の炭化水素基を介し、末端にカルボキシル基を有する基としてもよい。ここで、炭化水素基は炭素数0〜10のものが、DNAの固定化にあたって好ましい。炭化水素基となりうるような酸は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などのモノカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸などのジカルボン酸や、トリメリット酸などの多価カルボン酸などがあげられる。
【0009】
DNA増幅反応に本発明の基体を適用する場合、耐加水分解性が必要とされる場合と、加水分解させて化学修飾を再生させる必要がある場合との2通りの適用ケースがある。
耐加水分解性が必要とされる場合は、耐アルカリ性を付与するために、上記の炭化水素基の末端にカルボキシル基が結合した基を、ペプチド結合を介して基体表面に結合させることが好ましい。
【0010】
一方、生成した化学修飾を加水分解させて除去し再生させる必要がある場合は、アルカリ溶液で加水分解可能とするために、上記の炭化水素基の末端にカルボキシル基が結合した基を、エステル結合を介して基体表面に結合させることが好ましい。
【0011】
炭化水素基の末端に水酸基を基体表面に結合させる方法としては、基体表面を酸素プラズマで酸化し、次いで水蒸気処理する方法、または塩素ガス中で紫外線照射して基体表面を塩素化した後アルカリ溶液中で加水分解してヒドロキシル化する方法、さらに基体表面を酸素プラズマで酸化し、次いで塩素化した後アルカリ溶液中で加水分解してヒドロキシル化する方法を挙げることができる。
【0012】
また、炭化水素基の末端にカルボキシル基が結合した基をペプチド結合を介して基体表面に結合させる方法としては、塩素ガス中で紫外線照射して基体表面を塩素化し、次いでアンモニアガス中で紫外線照射してアミノ化した後、非水溶媒中でカルボン酸クロライドと反応させ、次いで弱アルカリ溶液中で中和させる方法を挙げることができる。
【0013】
また、炭化水素基の末端にカルボキシル基が結合した基をエステル結合を介して基体表面に結合させる方法としては、塩素ガス中で紫外線照射して基体表面を塩素化し、次いで非水溶媒中でカルボン酸ソーダと反応させ、次いで弱酸溶液中で中和させる方法、または、基体表面を酸素プラズマで酸化し、次いで塩素化した後アルカリ溶液中で加水分解してヒドロキシル化した後、非水溶媒中でカルボン酸クロライドと反応させ、次いで弱アルカリ溶液中で中和させる方法を挙げることができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
マイクロ波プラズマCVD法を用いて、直径が64mm、厚さが0.1mmの表面粗さがRaで0.5mmの非ダイヤモンド炭素を含有したダイヤモンド円板を気相合成した。この円板を、10mm×10mmの面積において、ラマン分光分析法により分析した結果、ダイヤモンド炭素(完全ダイヤモンド)と非ダイヤモンド炭素(不完全ダイヤモンド)とのピーク比を調査したところ、非ダイヤモンド炭素の存在が確認できた。この非ダイヤモンド炭素を含む円板からレーザーにより10mm角の試料を切り出した。
実施例1においては、マイクロ波により励起した酸素プラズマで試料表面を酸化した後、セパラブルフラスコ中に配置し、フラスコ中の雰囲気を水蒸気で置換した後、水蒸気を流入させながら400℃に加熱し30分間保持した後放冷した。次いで試料を取り出し乾燥し、末端に水酸基を有する基体を得た。
また、SIMSにより、試料切り出し後、酸素プラズマ処理後、および水蒸気処理後の水素及び水酸基のピーク強度を測定したところ、水素のピーク強度を1とした場合の、水酸基のピーク強度比は下記の表1に示す値となった。
【0015】
表1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
水酸基のピーク強度比
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料切り出し後 0.11
酸素プラズマ処理後 0.61
水蒸気処理後 1.09

上記に示すように、水酸基のピーク強度比は、酸素プラズマ処理、それに続く水蒸気処理により増加しており、基体表面が水酸基により化学修飾されていることが確認された。
【0016】
(実施例2)
マイクロ波プラズマCVD法を用いて、直径が64mm、厚さが0.1mmの表面粗さがRaで0.3mmの非ダイヤモンド炭素を含むダイヤモンド円板を気相合成した。この円板を、10mm×10mmの面積において、ラマン分光分析法により分析した結果、全部が非ダイヤモンド炭素(不完全ダイヤモンド)であった。この円板をレーザーにより10mm角の試料を切り出した。
この試料をセパラブルフラスコ中に配置し、フラスコ中の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、塩素ガスを1SCCMの流量で流入させながらHg−Xeランプを用い、主波長が3600オングストロームの紫外線を60分間照射して試料表面を塩素化した。雰囲気をアルゴンガスで置換した後試料を取り出し、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で15分間煮沸し、さらに水洗した後乾燥し、末端に水酸基を有する基体を得た。
また、SIMSにより、塩素化の前後および水酸化ナトリウム処理後の、水素、水酸基および塩素基のピーク強度を測定したところ、水素のピーク強度を1とした場合の、水酸基、塩素基のピーク強度比は下記表2に示す値となった。
【0017】
表2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ピーク強度比
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
水酸基 塩素基
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
塩素化前 0.11 −
塩素化後 0.17 0.47
水酸化ナトリウム処理後 0.45 0.31

上記に示すように、水酸基のピーク強度比は、塩素化処理、それに続く水酸化ナトリウム処理により増加しており、基体表面が水酸基により化学修飾されていることが確認された。また、塩素基が減少していることから水酸基により置換されたことが確認された。
【0018】
(実施例3)
マイクロ波プラズマCVD法を用いて、直径が64mm、厚さが0.1mmの表面粗さがRaで0.5mmの完全及び不完全ダイヤモンドが混在したダイヤモンド円板を気相合成した。この円板を、10mm×10mmの面積において、ラマン分光分析法により分析した結果、ダイヤモンド炭素と非ダイヤモンド炭素(不完全ダイヤモンド)とのピーク比を調査したところ、非ダイヤモンド炭素の存在が確認できた。この非ダイヤモンド炭素を含むダイヤモンド円板からレーザーにより10mm角の試料を切り出し、マイクロ波により励起した酸素プラズマで表面を酸化した後、試料表面を塩素化した。雰囲気をアルゴンガスで置換した後試料を取り出し、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で15分間煮沸し、さらに水洗した後乾燥し、末端に水酸基を有する基体を得た。
また、SIMSにより、表面研磨後、酸素プラズマ処理後、塩素化後、および水酸化ナトリウム処理後の水素、水酸基、塩素基のピーク強度を測定したところ、水素のピーク強度を1とした場合の、水酸基、塩素基のピーク強度比は、下記表3に示す値となった。
【0019】
表3
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ピーク強度比
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
水酸基 塩素基
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
酸素プラズマ処理前 0.11 −
酸素プラズマ処理後 0.67 −
塩素化後 0.19 0.44
水酸化ナトリウム処理後 0.50 0.30

上記に示すように、水酸基のピーク強度比は、酸素プラズマ処理、それに続く塩素化、さらにそれに続く水酸化ナトリウム処理により増加しており、基体表面が水酸基により化学修飾されていることが確認された。また、塩素基が減少していることから水酸基により置換されたことが確認された。
【0020】
(実施例4)
スパッタ法によりグラファイト円板を形成し、この円板をレーザーにより10mm角の試料を切り出し、セパラブルフラスコ中に配置し、フラスコ中の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、塩素ガスを1SCCMの流量で流入させながらHg−Xeランプを用い、主波長が3600オングストロームの紫外線を60分間照射して試料表面を塩素化した。再びフラスコ中の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、1重量%のセバシン酸ソーダのN,N−ジメチルホルムアミド溶液100mlを添加し、セパラブルフラスコにコンデンサを設置し、2時間還流した。次いで試料を取り出し、1重量%の酢酸水溶液で洗浄し、さらにアセトンで洗浄した後乾燥し、セバシン酸がエステル結合を介して結合した、末端にカルボキシル基を有する基体を得た。
また、SIMSにより、塩素化の前後、およびセバシン酸ソーダ処理後の水素、水酸基、塩素基のピーク強度を測定したところ、水素のピーク強度を1とした場合の、水酸基、塩素基のピーク強度比は、下記表4に示す値となった。
【0021】
表4
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ピーク強度比
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
水酸基 塩素基
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
塩素化前 0.11 −
塩素化後 0.17 0.47
セバシン酸ソーダ処理後 0.35 0.31

上記に示すように、水酸基のピーク強度比は、塩素化、さらにそれに続くセバシン酸ソーダ処理により増加していること、またFTIR法を用いてで試料表面の炭素−水素の伸縮振動に由来する吸収強度、および炭素−酸素の伸縮振動に由来する吸収強度を測定したところ、いずれの吸収強度も増大していた(試料の表面ブランクに対する吸収強度の増大率は約30%であった)。このことから、基体表面がセバシン酸の炭化水素基の末端にカルボキシル基が結合した基により化学修飾されていることが確認された。また、塩素基が減少していることから水酸基により置換されたことが確認された。
【0022】
(実施例5)
ポリイミド系材料からなるレジスト膜を蒸し焼きにして水素を含有する非晶質炭素からなる薄板を形成した。この薄板をレーザーにより10mm角の試料を切り出し、マイクロ波により励起した酸素プラズマで表面を酸化した後、試料表面を塩素化した。雰囲気をアルゴンガスで置換した後試料を取り出し、10重量%の水酸化カリウム水溶液中で15分間煮沸して試料表面をヒドロキシル基で置換した。乾燥した後、上部に塩化カルシウム乾燥管を備えたコンデンサを設置したセパラブルフラスコ中に試料を配置し、クロロホルム50mlとトリエチルアミン1gを添加し、フラスコ中の雰囲気をアルゴンガスで置換した。次いで、セパラブルフラスコを氷冷しながら、クロロホルム50mlに塩化スクシニル10gを溶解させた溶液を徐々に添加した。その後4時間還流した後試料を取り出し、10重量%の炭酸カリウム水溶液で洗浄し、さらにアセトンで洗浄した後乾燥し、マロン酸がエステル結合を介して結合した、末端にカルボキシル基を有する基体を得た。
また、SIMSにより、酸素プラズマ処理の前後、塩素化後、ヒドロキシル化後、および塩化スクシニル処理後の水素、水酸基のピーク強度を測定したところ、水素のピーク強度を1とした場合の水酸基のピーク強度比は、下記表5に示す値となった。
【0023】
表5
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
水酸基のピーク強度比
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
酸素プラズマ処理前 0.11
酸素プラズマ処理後 0.66
塩素化後 0.19
ヒドロキシル化後 0.65
塩化スクシニル処理後 0.46

上記に示すように、水酸基のピーク強度比は、酸素プラズマ処理、それに続く塩素化、さらにそれに続くヒドロキル化、さらにそれに続く塩化スクシニル処理により増加していること、またFTIR法を用いて試料表面の炭素−水素の伸縮振動に由来する吸収強度、および炭素−酸素の伸縮振動に由来する吸収強度を測定したところ、いずれの吸収強度も増大していた(試料の表面ブランクに対する吸収強度の増大率は約25%であった)。このことから、基体表面がマロン酸の炭化水素基の末端にカルボキシル基が結合した基により化学修飾されていることが確認された。
【0024】
(実施例6)
グラファイト粉末に樹脂粉末を混合し溶剤を加えてスラリー状にし、溶剤を気化させて、直径が64mm、厚さが0.1mmの表面粗さがRaで0.3mmのグラファイト円板を気相合成した。この円板を、10mm×10mmの面積において、ラマン分光分析法により分析した結果、全部が非ダイヤモンド炭素(非晶質ダイヤモンド)であった。この円板をレーザーにより10mm角の試料を切り出した。この試料をマイクロ波により励起した水素プラズマで表面を水素化した後試料表面を塩素化した。試料が配置されたセパラブルフラスコ中の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、アンモニアガスを1SCCMの流量で流入させながらHg−Xeランプを用い、主波長が3600オングストロームの紫外線を60分間照射して試料表面をアミノ化した。雰囲気をアルゴンガスで置換した後、セパラブルフラスコ上部に塩化カルシウム乾燥管をそなえたコンデンサを設置し、クロロホルム50mlを添加し、再び雰囲気をアルゴンガスで置換した。
【0025】
次いで、セパラブルフラスコを氷冷しながら、クロロホルム50mlに塩化スクシニル10gを溶解させた溶液を徐々に添加した。その後4時間還流した後試料を取り出し、10重量%の炭酸カリウム水溶液で洗浄し、さらにアセトンで洗浄した後乾燥し、マロン酸がペプチド結合を介して結合した、末端にカルボキシル基を有する基体を得た。
また、SIMSにより、塩素化の前後、アミノ化後、および塩化スクシニル処理後の水素、水酸基、塩素基のピーク強度を測定したところ、水素のピーク強度を1とした場合の水酸基、塩素基のピーク強度比は、下記表6に示す値となった。
【0026】
表6
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ピーク強度比
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
水酸基 塩素基
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
塩素化前 0.11 −
塩素化後 0.19 0.45
アミノ化後 0.16 0.10
塩化スクシニル処理後 0.55 0.10

上記に示すように、水酸基のピーク強度比は、水素プラズマ処理、それに続く塩素化、さらにそれに続くヒドロキル化、さらにそれに続く塩化スクシニル処理により増加していること、またFTIR法を用いて試料表面の炭素−水素の伸縮振動に由来する吸収強度、および炭素−酸素の伸縮振動に由来する吸収強度を測定したところ、いずれの吸収強度も増大していた(試料の表面ブランクに対する吸収強度の増大率は約25%であった)。
このことから、基体表面がマロン酸の炭化水素基の末端にカルボキシル基が結合した基により化学修飾されていることが確認された。
実施例1〜6のようにして得られた末端にカルボキシル基を有する化学修飾された基体を用いてDNAの増幅反応を実施したところ、約1時間で目的とする量のDNAを得ることができた。
【0027】
さらに本発明の化学修飾された基体を用い、末端水酸基または末端カルボキシル基に、水素結合でオリゴ核酸の末端塩基を固定化し、さらに、このオリゴ核酸と相補的塩基配列を有するDNAを固定して、DNAライブラリチップとして用いることもできる。また、DNAのかわりに、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNAフラグメント等を、ダイヤモンド表面に固定化して、ライブラリーとすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の基体は、炭素素材を用いたことにより、基体上にDNAを固定化しやすく、たとえばDNA増幅反応操作の作業をきわめて容易にできる。
また、本発明の基体は、表面を水酸基やカルボキシル基等で化学修飾してあるので、DNAの固定化の安定化を図れ、DNA増幅反応によりDNAを複製するためのチップなどに最適である。
また、本発明の基体は、表面が汚染された場合に、加水分解させて化学修飾を再生させることができ、高価なDNAチップを節約できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質炭素、無定形炭素、グラファイトからなる構成要素のうち、1つ又は複数からなるDNAを固定化するための基体。
【請求項2】
末端に極性基、水酸基又はカルボキシル基を有する化学修飾された請求項1記載の基体。
【請求項3】
前記カルボキシル基が、エステル結合を介して基体表面に結合している請求項2記載の基体。
【請求項4】
前記カルボキシル基が、ペプチド結合を介して基体表面に結合している請求項2記載の基体。

【公開番号】特開2007−130019(P2007−130019A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324417(P2006−324417)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【分割の表示】特願2000−575999(P2000−575999)の分割
【原出願日】平成11年10月15日(1999.10.15)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】