DNAチップ処理装置
【課題】高温長時間の使用においても、簡単な構成でノズルのつまりを発生しないDNAチップ処理装置を提供する。
【解決手段】DNAチップのハイブリダイゼーション処理と洗浄処理を行うDNAチップ処理装置において、DNAチップを保持する区画3を少なくとも1つ有するウェルプレート2と、区画3に液体を注入するための注入ノズル6と、注入ノズル6から区画3に注入された前記液体を吸引するための吸引ノズル7と、注入ノズル6と吸引ノズル7の両方を一度に区画3へ挿入するように注入ノズル6と吸引ノズル7を固定した遮断部5aを有したカバー部5とを備え、遮断部5aは区画3を密閉する形状であり、前記ハイブリダイゼーションを行う際には遮断部5aで区画3を塞ぐ。
【解決手段】DNAチップのハイブリダイゼーション処理と洗浄処理を行うDNAチップ処理装置において、DNAチップを保持する区画3を少なくとも1つ有するウェルプレート2と、区画3に液体を注入するための注入ノズル6と、注入ノズル6から区画3に注入された前記液体を吸引するための吸引ノズル7と、注入ノズル6と吸引ノズル7の両方を一度に区画3へ挿入するように注入ノズル6と吸引ノズル7を固定した遮断部5aを有したカバー部5とを備え、遮断部5aは区画3を密閉する形状であり、前記ハイブリダイゼーションを行う際には遮断部5aで区画3を塞ぐ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップをハイブリダイゼーション処理及び洗浄処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリダイゼーション技術を利用したマイクロアレイは例えば、表裏を貫通する複数の孔部の各々に、検査対象となる物質の探査針として機能するプローブが固定化された高分子ゲルを保持する構造を有するものが知られている。その一例として特許文献1に記載されているような、孔部が中空繊維により形成されている図11に示すようなDNAチップ111(繊維型DNAマイクロアレイ)があり、そのハイブリダイゼーション処理及び洗浄処理を行うDNAチップ処理装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来のDNAチップ処理装置は、DNAチップ111をウェルプレートのウェル(以下、区画と称す。)に格納し長時間高温に保持することでハイブリダイゼーション処理を行い、その後、注入ノズルからDNAチップ111が保持されている区画内に洗浄液を注入し、対となる吸引ノズルを用いて吸引することでDNAチップ111の洗浄を行っている。
【0004】
また洗浄処理では複数の洗浄液を用いることも多い。そのため異なる液体を注入するためには注入ノズル管路内にたまった液体を置換する必要があるが、洗浄液の廃棄量を減らすため置換容量を減らすことが重要である。または管路径を細くすることで洗浄性能を向上させる必要がある。このため注入ノズル管路径を細くすることが求められる。洗浄液には揮発性の塩基の水溶液や揮発性の塩の水溶液が多く、これによりノズルに塩が析出するため、注入ノズルの詰まりを防ぐ目的でノズルに蒸気を当てることによってノズルの乾燥を防止したり(例えば、特許文献2参照)、乾燥防止用の液体にノズルを浸すことでノズルの乾燥を防止する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2006−3349号公報
【特許文献2】特開昭58−22958号公報
【特許文献3】特開2005−259477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の技術ではノズルの詰まり防止のために、別途ノズルを加湿するための装置や洗浄瓶等を設けなければならないという問題点があった。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、簡単な構成でノズルの詰まりを防止することの出来るDNAチップ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明のDNAチップ処理装置は、DNAチップのハイブリダイゼーション処理と洗浄処理を行うDNAチップ処理装置において、DNAチップを保持する区画を少なくとも1つ有するウェルプレートと、前記区画に液体を注入するための注入ノズルと、前記注入ノズルから前記区画に注入された前記液体を吸引するための吸引ノズルと、前記注入ノズルと前記吸引ノズルの両方を一度に前記区画へ挿入するように前記注入ノズルと前記吸引ノズルを固定した遮断部を有したカバー部とを備え、前記遮断部は前記区画を密閉する形状であり、前記ハイブリダイゼーションを行う際には前記遮断部で前記区画を塞ぐことを特徴とするものである。
【0008】
さらにDNAチップ処理装置において、前記区画は、前記注入ノズルが挿入される第一のノズル格納部と前記吸引ノズルが挿入される第二のノズル格納部とで構成され、前記第一のノズル格納部と前記第二のノズル格納部の開口部は前記区画の開口部よりも前記遮断部の高さ分だけ低く設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハイブリダイゼーション処理中にノズルを純水に浸し、蒸発しないような構成したので、ノズルの詰まりを防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明のDNAチップ処理装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるDNAチップ処理装置の概略図である。ウェルプレート2は、同一面上に開口部を持ちDNAチップ111を保持する区画を円周上に複数配置している。ここでDNAチップ111は従来の技術である図11に示すものを用いる。
【0012】
ウェルプレート2の下部には、加温と冷却を行うためのペルチェ素子で構成される温度調整部15が設けられており、ウェルプレート2を任意の温度に調節できる。なお、冷却を行う必要がない場合には、ペルチェ素子の代わりにセラミックヒータやラバーヒータなどヒーティグ機能のみを有する部品でもよく、さらにウェルプレート2の底面だけでなく側面も覆うような構造とすることで精度の高い温度調整が可能である。
【0013】
カバー部5は、ウェルプレート2と密着して覆うような形状をしており、ウェルプレート2側の面に一組の注入ノズル6と吸引ノズル7を備えている。同時に2つ以上のDNAチップ111を処理する場合には二組以上の注入ノズル6と吸引ノズル7を設ける。
【0014】
また、カバー部5を上下運動させるための直動アクチュエータ8と、回転運動をさせるための回転アクチュエータ9とカバー部5の位置を制御する位置制御部16によってカバー部5の位置制御を行う。さらにカバー部5は、カバー部5とウェルプレート2が十分に離れている待機位置と、注入ノズル6および吸引ノズル7の先端がウェルプレート2よりも高い位置であってカバー部5が回転可能な回転位置と、注入ノズル6および吸引ノズル7が区画に挿入されている挿入位置と、カバー部5とウェルプレート2が密着している密着位置の4つの位置に位置決めするように制御される。図2は密着位置の状態を示している。
【0015】
第一の電磁弁12aと第二の電磁弁12bは、三方弁であり、第一の電磁弁12aは注入ノズル6とシリンジポンプ11と第二の電磁弁12bにつながり、さらに第二の電磁弁12bは第一の洗浄液ボトル13aと第二の洗浄液ボトル13bにつながり、どちらかを選択して切り替えることができる。
【0016】
第一の洗浄液ボトル13aと第二の洗浄液ボトル13bは、DNAチップ111の洗浄を行うための異なった組成の洗浄液が入っており、第二の電磁弁13bを切り替えることによって選択することができる。なお、洗浄液の種類を3種類以上用いる場合には4方弁以上の多方弁を用いることで対応可能であり、洗浄液の種類はクエン酸ナトリウムと界面活性剤を主成分とした混合液であれば他に制限はない。
【0017】
シリンジポンプ11は、ステッピングモータによってシリンジを動作させ微量の液体を吸引吐出するものである。ここで、シリンジポンプ11は第一の電磁弁12aの切り替えによって洗浄液ボトル13からの洗浄液の吸引動作と、注入ノズル6への送液する動作を選択して行う。
【0018】
また、ダイアフラムポンプ10は、吸引ノズル7から液体を吸引し廃液ボトル14へ廃棄する機能を持つ。
【0019】
次にウェルプレート2とカバー部5の詳細な説明を行う。図3は本発明の実施の形態1におけるウェルプレート2の斜視図を示している。ウェルプレート2は、DNAチップ111を保持可能な第一の区画3を一つと第二の区画4を8つ有しており、ポリプロピレンで成型されている。なお、ポリプロピレンのほかにも抗原抗体反応などの検出を阻害する物質を含むものでなければ特に限定はなく、プラスチックでは、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネイトでもよく、金属他でもよい。
【0020】
第一の区画3と第二の区画4は、図3に示すように同一円周上に並んでおり、それぞれの区画の開口部は同一平面上に配置されている。第一の区画3と第二の区画4にはそれぞれDNAチップ111を1枚ずつ挿入することができるが、本実施の形態では第一の区画3にはDNAチップ111を挿入しない状態での説明を行う。なお第一の区画3は、一度に処理を行うDNAチップ111の数に応じて注入ノズル6と吸引ノズル7の数が増加した場合に2つ以上設ける必要がある。
【0021】
図4は第一の区画3の上面図(a)および断面図(b)を示している。第一の区画3は、第一の区画3の開口部よりも低い位置に開口部を持つ第一のノズル格納部3aと第二のノズル格納部3bを有している。第一のノズル格納部3aと第二のノズル格納部3bの開口部高さは同じである。さらに第一のノズル格納部3aの底面にはDNAチップ111を保持するためのDNAチップホルダ3cを有している。またDNAチップホルダ3cの底面から第一のノズル格納部3aの上面までの長さh1はDNAチップ111の挿入方向の長さよりも長くなるように設定している。
【0022】
図5は第二の区画4の上面図および断面図を示している。第二の区画4は単一の区画で構成されており、ノズル格納部4aとその底面にDNAチップ111を保持するためのDNAチップホルダ3cを有している。ノズル格納部4aの両側面には注入ノズル6と吸引ノズル7用のノズル孔4bが設けられている。対面するノズル孔4b間の距離は、図4(a)に示す第一の区画3の第一のノズル格納部3aの端から第二のノズル格納部3bの端まで間の距離と等しい。またDNAチップホルダ3cの底面からノズル格納部4aの上面までの長さはDNAチップ111の挿入方向の長さよりも長くなるように設定している。
【0023】
図6はカバー部5の斜視図を示している。カバー部5は、図6に示すように円筒形の遮断部5aを有しており、さらに遮断部5aには注入ノズル6と吸引ノズル7が配置されている。この遮断部5aの断面図を図7に示す。遮断部5aの高さh3は図4(b)に示す第一の区画3の開口部からの距離h2と等しく、図7に示す遮断部5aは、図4(b)に示す第一の格納部3aと第二の格納部3bを塞ぐように設定されている。そして、注入ノズル5と吸引ノズル6が図4に示す第一の格納部3aと第二の格納部3bにそれぞれ格納される。
【0024】
上記の構成において、図1で示す待機位置にいたカバー部5を、直動アクチュエータ8によって回転位置に移動し、回転アクチュエータ9によって遮断部5aを第一の区画3に位置決めし、図2に示すようなウェルプレート2とカバー部5を密着させた状態となる時の第一の区画3と遮断部5aの断面図を図8に示す。図8に示すように第一のノズル格納部3aと第二のノズル格納部3bの開口部は遮断部5aによって塞がれるとともに、注入ノズル6と吸引ノズル7はそれぞれ第一のノズル格納部5aと第二のノズル格納部5bに別々に格納される。
【0025】
このとき、従来例においては第二の区画4のように注入ノズルと吸引ノズルが同一区画内に格納されるため、吸引ノズル側に接続されたダイアフラムポンプ10を通して区画内の液体が蒸発する問題が発生するのに対し、本発明では注入ノズル6と吸引ノズル7が別々に格納され、注入ノズル6はシリンジポンプ11と接続されているので第一のノズル格納部3a内は密閉状態となり液体は蒸発せず、塩の析出などの問題が発生しない。また吸引ノズル7が挿入される第二のノズル格納部3bの液体は蒸発するが、吸引ノズル7は塩などに対し十分に径を大きくすることでノズル詰まりを防止する。またこのとき第二の区画4についても、カバー部5によって開口部をふさがれる状態となる。
【0026】
図9はカバー部5を前述の挿入位置まで移動させた場合の第一の区画3と遮断部5aの断面図である。このとき、吸引ノズル7で吸引を行いながら、第一ノズル格納部3aに洗浄液17を注入ノズル6から注入することによって、第一ノズル格納部3aに注入された洗浄液17は第一ノズル格納部3aから流出し、その後第二のノズル格納部3bに流入し、吸引ノズル7によって吸引される。これにより第一の区画から洗浄液17は流出することなく置換処理が可能となる。
【0027】
次に本発明の第1の実施の形態における、DNAチップ処理装置の動作フローを図10を用いて説明する。
【0028】
まず、注入ノズル6の乾燥防止のために第一のノズル格納部3aに純水を注入し、DNAチップ111を第二の区画4に一枚ずつ挿入し、使用者はすべての第二の区画4に検体を注入したウェルプレート2をセットする。
【0029】
次にハイブリダイゼーション処理を実行する。
ステップS101では、回転アクチュエータ9によって遮断部5aを第一の区画3に位置決めし、直動アクチュエータ8によって図2に示すようなウェルプレート2とカバー部5を密着状態にする。さらに、シリンジポンプ11と注入ノズル6が接続されるように第一の電磁弁12aを選択する。このとき吸引ノズルが大気開放状態であってもシリンジポンプ11から第一のノズル格納部3aまでの空間は密閉状態となるため、第一のノズル格納部3aに注入された純水の蒸発を防止することができる。これによって長時間の使用に対しても注入ノズル6の乾燥は防止できる。
【0030】
ステップS102において、温度調節部15によってウェルプレート2を高温に加熱し長時間保持する。
【0031】
次にDNAチップ111の洗浄処理を実行する。
洗浄処理では第二の区画4に注入ノズル6および吸引ノズル7を挿入し、第二の区画4内に注入ノズル6で洗浄液17を注入しながら吸引ノズル7で吸引し、DNAチップ111の洗浄を行う。
【0032】
ステップS103において、回転アクチュエータによって注入ノズル6および吸引ノズル7を第二の区画4に位置決めし、直動アクチュエータで第二の区画4に注入ノズル6および吸引ノズル7を挿入し、洗浄処理を行う。
【0033】
ステップS104において、すべての第二の区画4の洗浄処理が終了していないなら、ステップS103と同じように注入ノズルおよび吸引ノズルを回転させ、次の第二の区画4に位置決めする(ステップS105)。
【0034】
ステップS106において、第二の洗浄液ボトル13bでの洗浄処理が終了しているか否かを判定し、終了していなければ注入ノズル6内の洗浄液17を第二の洗浄液13bに置換する処理を行う(ステップS107)。これは注入ノズル6内の洗浄液17を第二の洗浄液ボトル13bの洗浄液17に置き換える処理である。
【0035】
ここで、置換処理について説明する。回転アクチュエータ9によって注入ノズル6と吸引ノズル7を第一の区画3に位置決めし、直動アクチュエータ8によって図9に示す挿入位置にする。この状態において、第二の電磁弁12bを切り替えて第二の洗浄液ボトル13bを選択し、シリンジポンプ11で第二の洗浄液を吸引し、注入ノズル6から吐出する。このとき吸引ノズル10で第二の洗浄液を吸引することによって第一の区画3から第二の洗浄液がもれでることなく置換処理を行うことができる。置換処理が終了したのち、再びステップS106を実行する。
【0036】
以上のように本実施の形態1においてはハイブリダイゼーション処理時にノズルを挿入する区画を設け、その区画を純水で満たし、区画の形状をカバー部と密着できる形状にし、ノズルの他端をシリンジポンプに接続し、高温化でも純水が蒸発しないような構成にしたため、ノズルに洗浄液の塩が析出することなく、ノイズの詰まりを防ぐことが出来、同一区画内にて置換処理も可能となるため簡単な構成でノズル詰まりを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかるDNAチップ処理装置は、簡単な構造で洗浄液の注入ノズルのノズル詰まりを防止することにより、高い信頼性を必要とする遺伝子解析装置などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるDNAチップ処理装置の概略構成図
【図2】ハイブリダイゼーション処理中におけるDNAチップ処理装置の概略構成図
【図3】ウェルプレートの斜視図
【図4】第一の区画を示す図
【図5】第二の区画を示す図
【図6】カバー部の斜視図
【図7】遮断部の断面図
【図8】遮断部を第一の区画に挿入している状態を示す図
【図9】第一の区画に洗浄液を注入し、吸引ノズルによって洗浄液を注入している状態を示す図
【図10】DNAチップ処理装置の動作フローチャート
【図11】従来のDNAチップを示す図
【符号の説明】
【0039】
2 ウェルプレート
3 第一の区画
3a 第一のノズル格納部
3b 第二のノズル格納部
3c DNAチップホルダ
4 第二の区画
4a ノズル格納部
4b ノズル孔
5 カバー部
5a 遮断部
6 注入ノズル
7 吸引ノズル
8 直動アクチュエータ
9 回転アクチュエータ
10 ダイアフラムポンプ
11 シリンジポンプ
12a 第一の電磁弁
12b 第二の電磁弁
13a 第一の洗浄液ボトル
13b 第二の洗浄液ボトル
14 廃液ボトル
15 温度調節部
16 位置制御部
17 洗浄液
111 DNAチップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップをハイブリダイゼーション処理及び洗浄処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリダイゼーション技術を利用したマイクロアレイは例えば、表裏を貫通する複数の孔部の各々に、検査対象となる物質の探査針として機能するプローブが固定化された高分子ゲルを保持する構造を有するものが知られている。その一例として特許文献1に記載されているような、孔部が中空繊維により形成されている図11に示すようなDNAチップ111(繊維型DNAマイクロアレイ)があり、そのハイブリダイゼーション処理及び洗浄処理を行うDNAチップ処理装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来のDNAチップ処理装置は、DNAチップ111をウェルプレートのウェル(以下、区画と称す。)に格納し長時間高温に保持することでハイブリダイゼーション処理を行い、その後、注入ノズルからDNAチップ111が保持されている区画内に洗浄液を注入し、対となる吸引ノズルを用いて吸引することでDNAチップ111の洗浄を行っている。
【0004】
また洗浄処理では複数の洗浄液を用いることも多い。そのため異なる液体を注入するためには注入ノズル管路内にたまった液体を置換する必要があるが、洗浄液の廃棄量を減らすため置換容量を減らすことが重要である。または管路径を細くすることで洗浄性能を向上させる必要がある。このため注入ノズル管路径を細くすることが求められる。洗浄液には揮発性の塩基の水溶液や揮発性の塩の水溶液が多く、これによりノズルに塩が析出するため、注入ノズルの詰まりを防ぐ目的でノズルに蒸気を当てることによってノズルの乾燥を防止したり(例えば、特許文献2参照)、乾燥防止用の液体にノズルを浸すことでノズルの乾燥を防止する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2006−3349号公報
【特許文献2】特開昭58−22958号公報
【特許文献3】特開2005−259477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の技術ではノズルの詰まり防止のために、別途ノズルを加湿するための装置や洗浄瓶等を設けなければならないという問題点があった。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、簡単な構成でノズルの詰まりを防止することの出来るDNAチップ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明のDNAチップ処理装置は、DNAチップのハイブリダイゼーション処理と洗浄処理を行うDNAチップ処理装置において、DNAチップを保持する区画を少なくとも1つ有するウェルプレートと、前記区画に液体を注入するための注入ノズルと、前記注入ノズルから前記区画に注入された前記液体を吸引するための吸引ノズルと、前記注入ノズルと前記吸引ノズルの両方を一度に前記区画へ挿入するように前記注入ノズルと前記吸引ノズルを固定した遮断部を有したカバー部とを備え、前記遮断部は前記区画を密閉する形状であり、前記ハイブリダイゼーションを行う際には前記遮断部で前記区画を塞ぐことを特徴とするものである。
【0008】
さらにDNAチップ処理装置において、前記区画は、前記注入ノズルが挿入される第一のノズル格納部と前記吸引ノズルが挿入される第二のノズル格納部とで構成され、前記第一のノズル格納部と前記第二のノズル格納部の開口部は前記区画の開口部よりも前記遮断部の高さ分だけ低く設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハイブリダイゼーション処理中にノズルを純水に浸し、蒸発しないような構成したので、ノズルの詰まりを防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明のDNAチップ処理装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるDNAチップ処理装置の概略図である。ウェルプレート2は、同一面上に開口部を持ちDNAチップ111を保持する区画を円周上に複数配置している。ここでDNAチップ111は従来の技術である図11に示すものを用いる。
【0012】
ウェルプレート2の下部には、加温と冷却を行うためのペルチェ素子で構成される温度調整部15が設けられており、ウェルプレート2を任意の温度に調節できる。なお、冷却を行う必要がない場合には、ペルチェ素子の代わりにセラミックヒータやラバーヒータなどヒーティグ機能のみを有する部品でもよく、さらにウェルプレート2の底面だけでなく側面も覆うような構造とすることで精度の高い温度調整が可能である。
【0013】
カバー部5は、ウェルプレート2と密着して覆うような形状をしており、ウェルプレート2側の面に一組の注入ノズル6と吸引ノズル7を備えている。同時に2つ以上のDNAチップ111を処理する場合には二組以上の注入ノズル6と吸引ノズル7を設ける。
【0014】
また、カバー部5を上下運動させるための直動アクチュエータ8と、回転運動をさせるための回転アクチュエータ9とカバー部5の位置を制御する位置制御部16によってカバー部5の位置制御を行う。さらにカバー部5は、カバー部5とウェルプレート2が十分に離れている待機位置と、注入ノズル6および吸引ノズル7の先端がウェルプレート2よりも高い位置であってカバー部5が回転可能な回転位置と、注入ノズル6および吸引ノズル7が区画に挿入されている挿入位置と、カバー部5とウェルプレート2が密着している密着位置の4つの位置に位置決めするように制御される。図2は密着位置の状態を示している。
【0015】
第一の電磁弁12aと第二の電磁弁12bは、三方弁であり、第一の電磁弁12aは注入ノズル6とシリンジポンプ11と第二の電磁弁12bにつながり、さらに第二の電磁弁12bは第一の洗浄液ボトル13aと第二の洗浄液ボトル13bにつながり、どちらかを選択して切り替えることができる。
【0016】
第一の洗浄液ボトル13aと第二の洗浄液ボトル13bは、DNAチップ111の洗浄を行うための異なった組成の洗浄液が入っており、第二の電磁弁13bを切り替えることによって選択することができる。なお、洗浄液の種類を3種類以上用いる場合には4方弁以上の多方弁を用いることで対応可能であり、洗浄液の種類はクエン酸ナトリウムと界面活性剤を主成分とした混合液であれば他に制限はない。
【0017】
シリンジポンプ11は、ステッピングモータによってシリンジを動作させ微量の液体を吸引吐出するものである。ここで、シリンジポンプ11は第一の電磁弁12aの切り替えによって洗浄液ボトル13からの洗浄液の吸引動作と、注入ノズル6への送液する動作を選択して行う。
【0018】
また、ダイアフラムポンプ10は、吸引ノズル7から液体を吸引し廃液ボトル14へ廃棄する機能を持つ。
【0019】
次にウェルプレート2とカバー部5の詳細な説明を行う。図3は本発明の実施の形態1におけるウェルプレート2の斜視図を示している。ウェルプレート2は、DNAチップ111を保持可能な第一の区画3を一つと第二の区画4を8つ有しており、ポリプロピレンで成型されている。なお、ポリプロピレンのほかにも抗原抗体反応などの検出を阻害する物質を含むものでなければ特に限定はなく、プラスチックでは、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネイトでもよく、金属他でもよい。
【0020】
第一の区画3と第二の区画4は、図3に示すように同一円周上に並んでおり、それぞれの区画の開口部は同一平面上に配置されている。第一の区画3と第二の区画4にはそれぞれDNAチップ111を1枚ずつ挿入することができるが、本実施の形態では第一の区画3にはDNAチップ111を挿入しない状態での説明を行う。なお第一の区画3は、一度に処理を行うDNAチップ111の数に応じて注入ノズル6と吸引ノズル7の数が増加した場合に2つ以上設ける必要がある。
【0021】
図4は第一の区画3の上面図(a)および断面図(b)を示している。第一の区画3は、第一の区画3の開口部よりも低い位置に開口部を持つ第一のノズル格納部3aと第二のノズル格納部3bを有している。第一のノズル格納部3aと第二のノズル格納部3bの開口部高さは同じである。さらに第一のノズル格納部3aの底面にはDNAチップ111を保持するためのDNAチップホルダ3cを有している。またDNAチップホルダ3cの底面から第一のノズル格納部3aの上面までの長さh1はDNAチップ111の挿入方向の長さよりも長くなるように設定している。
【0022】
図5は第二の区画4の上面図および断面図を示している。第二の区画4は単一の区画で構成されており、ノズル格納部4aとその底面にDNAチップ111を保持するためのDNAチップホルダ3cを有している。ノズル格納部4aの両側面には注入ノズル6と吸引ノズル7用のノズル孔4bが設けられている。対面するノズル孔4b間の距離は、図4(a)に示す第一の区画3の第一のノズル格納部3aの端から第二のノズル格納部3bの端まで間の距離と等しい。またDNAチップホルダ3cの底面からノズル格納部4aの上面までの長さはDNAチップ111の挿入方向の長さよりも長くなるように設定している。
【0023】
図6はカバー部5の斜視図を示している。カバー部5は、図6に示すように円筒形の遮断部5aを有しており、さらに遮断部5aには注入ノズル6と吸引ノズル7が配置されている。この遮断部5aの断面図を図7に示す。遮断部5aの高さh3は図4(b)に示す第一の区画3の開口部からの距離h2と等しく、図7に示す遮断部5aは、図4(b)に示す第一の格納部3aと第二の格納部3bを塞ぐように設定されている。そして、注入ノズル5と吸引ノズル6が図4に示す第一の格納部3aと第二の格納部3bにそれぞれ格納される。
【0024】
上記の構成において、図1で示す待機位置にいたカバー部5を、直動アクチュエータ8によって回転位置に移動し、回転アクチュエータ9によって遮断部5aを第一の区画3に位置決めし、図2に示すようなウェルプレート2とカバー部5を密着させた状態となる時の第一の区画3と遮断部5aの断面図を図8に示す。図8に示すように第一のノズル格納部3aと第二のノズル格納部3bの開口部は遮断部5aによって塞がれるとともに、注入ノズル6と吸引ノズル7はそれぞれ第一のノズル格納部5aと第二のノズル格納部5bに別々に格納される。
【0025】
このとき、従来例においては第二の区画4のように注入ノズルと吸引ノズルが同一区画内に格納されるため、吸引ノズル側に接続されたダイアフラムポンプ10を通して区画内の液体が蒸発する問題が発生するのに対し、本発明では注入ノズル6と吸引ノズル7が別々に格納され、注入ノズル6はシリンジポンプ11と接続されているので第一のノズル格納部3a内は密閉状態となり液体は蒸発せず、塩の析出などの問題が発生しない。また吸引ノズル7が挿入される第二のノズル格納部3bの液体は蒸発するが、吸引ノズル7は塩などに対し十分に径を大きくすることでノズル詰まりを防止する。またこのとき第二の区画4についても、カバー部5によって開口部をふさがれる状態となる。
【0026】
図9はカバー部5を前述の挿入位置まで移動させた場合の第一の区画3と遮断部5aの断面図である。このとき、吸引ノズル7で吸引を行いながら、第一ノズル格納部3aに洗浄液17を注入ノズル6から注入することによって、第一ノズル格納部3aに注入された洗浄液17は第一ノズル格納部3aから流出し、その後第二のノズル格納部3bに流入し、吸引ノズル7によって吸引される。これにより第一の区画から洗浄液17は流出することなく置換処理が可能となる。
【0027】
次に本発明の第1の実施の形態における、DNAチップ処理装置の動作フローを図10を用いて説明する。
【0028】
まず、注入ノズル6の乾燥防止のために第一のノズル格納部3aに純水を注入し、DNAチップ111を第二の区画4に一枚ずつ挿入し、使用者はすべての第二の区画4に検体を注入したウェルプレート2をセットする。
【0029】
次にハイブリダイゼーション処理を実行する。
ステップS101では、回転アクチュエータ9によって遮断部5aを第一の区画3に位置決めし、直動アクチュエータ8によって図2に示すようなウェルプレート2とカバー部5を密着状態にする。さらに、シリンジポンプ11と注入ノズル6が接続されるように第一の電磁弁12aを選択する。このとき吸引ノズルが大気開放状態であってもシリンジポンプ11から第一のノズル格納部3aまでの空間は密閉状態となるため、第一のノズル格納部3aに注入された純水の蒸発を防止することができる。これによって長時間の使用に対しても注入ノズル6の乾燥は防止できる。
【0030】
ステップS102において、温度調節部15によってウェルプレート2を高温に加熱し長時間保持する。
【0031】
次にDNAチップ111の洗浄処理を実行する。
洗浄処理では第二の区画4に注入ノズル6および吸引ノズル7を挿入し、第二の区画4内に注入ノズル6で洗浄液17を注入しながら吸引ノズル7で吸引し、DNAチップ111の洗浄を行う。
【0032】
ステップS103において、回転アクチュエータによって注入ノズル6および吸引ノズル7を第二の区画4に位置決めし、直動アクチュエータで第二の区画4に注入ノズル6および吸引ノズル7を挿入し、洗浄処理を行う。
【0033】
ステップS104において、すべての第二の区画4の洗浄処理が終了していないなら、ステップS103と同じように注入ノズルおよび吸引ノズルを回転させ、次の第二の区画4に位置決めする(ステップS105)。
【0034】
ステップS106において、第二の洗浄液ボトル13bでの洗浄処理が終了しているか否かを判定し、終了していなければ注入ノズル6内の洗浄液17を第二の洗浄液13bに置換する処理を行う(ステップS107)。これは注入ノズル6内の洗浄液17を第二の洗浄液ボトル13bの洗浄液17に置き換える処理である。
【0035】
ここで、置換処理について説明する。回転アクチュエータ9によって注入ノズル6と吸引ノズル7を第一の区画3に位置決めし、直動アクチュエータ8によって図9に示す挿入位置にする。この状態において、第二の電磁弁12bを切り替えて第二の洗浄液ボトル13bを選択し、シリンジポンプ11で第二の洗浄液を吸引し、注入ノズル6から吐出する。このとき吸引ノズル10で第二の洗浄液を吸引することによって第一の区画3から第二の洗浄液がもれでることなく置換処理を行うことができる。置換処理が終了したのち、再びステップS106を実行する。
【0036】
以上のように本実施の形態1においてはハイブリダイゼーション処理時にノズルを挿入する区画を設け、その区画を純水で満たし、区画の形状をカバー部と密着できる形状にし、ノズルの他端をシリンジポンプに接続し、高温化でも純水が蒸発しないような構成にしたため、ノズルに洗浄液の塩が析出することなく、ノイズの詰まりを防ぐことが出来、同一区画内にて置換処理も可能となるため簡単な構成でノズル詰まりを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかるDNAチップ処理装置は、簡単な構造で洗浄液の注入ノズルのノズル詰まりを防止することにより、高い信頼性を必要とする遺伝子解析装置などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるDNAチップ処理装置の概略構成図
【図2】ハイブリダイゼーション処理中におけるDNAチップ処理装置の概略構成図
【図3】ウェルプレートの斜視図
【図4】第一の区画を示す図
【図5】第二の区画を示す図
【図6】カバー部の斜視図
【図7】遮断部の断面図
【図8】遮断部を第一の区画に挿入している状態を示す図
【図9】第一の区画に洗浄液を注入し、吸引ノズルによって洗浄液を注入している状態を示す図
【図10】DNAチップ処理装置の動作フローチャート
【図11】従来のDNAチップを示す図
【符号の説明】
【0039】
2 ウェルプレート
3 第一の区画
3a 第一のノズル格納部
3b 第二のノズル格納部
3c DNAチップホルダ
4 第二の区画
4a ノズル格納部
4b ノズル孔
5 カバー部
5a 遮断部
6 注入ノズル
7 吸引ノズル
8 直動アクチュエータ
9 回転アクチュエータ
10 ダイアフラムポンプ
11 シリンジポンプ
12a 第一の電磁弁
12b 第二の電磁弁
13a 第一の洗浄液ボトル
13b 第二の洗浄液ボトル
14 廃液ボトル
15 温度調節部
16 位置制御部
17 洗浄液
111 DNAチップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAチップのハイブリダイゼーション処理と洗浄処理を行うDNAチップ処理装置において、
DNAチップを保持する区画を少なくとも1つ有するウェルプレートと、
前記区画に液体を注入するための注入ノズルと、
前記注入ノズルから前記区画に注入された前記液体を吸引するための吸引ノズルと、
前記注入ノズルと前記吸引ノズルの両方を一度に前記区画へ挿入するように前記注入ノズルと前記吸引ノズルを固定した遮断部を有したカバー部とを備え、
前記遮断部は前記区画を密閉する形状であり、
前記ハイブリダイゼーションを行う際には前記遮断部で前記区画を塞ぐ、
DNAチップ処理装置。
【請求項2】
前記区画は、前記注入ノズルが挿入される第一のノズル格納部と前記吸引ノズルが挿入される第二のノズル格納部とで構成され、
前記第一のノズル格納部と前記第二のノズル格納部の開口部は前記区画の開口部よりも前記遮断部の高さ分だけ低く設けられている、
請求項1に記載のDNAチップ処理装置。
【請求項1】
DNAチップのハイブリダイゼーション処理と洗浄処理を行うDNAチップ処理装置において、
DNAチップを保持する区画を少なくとも1つ有するウェルプレートと、
前記区画に液体を注入するための注入ノズルと、
前記注入ノズルから前記区画に注入された前記液体を吸引するための吸引ノズルと、
前記注入ノズルと前記吸引ノズルの両方を一度に前記区画へ挿入するように前記注入ノズルと前記吸引ノズルを固定した遮断部を有したカバー部とを備え、
前記遮断部は前記区画を密閉する形状であり、
前記ハイブリダイゼーションを行う際には前記遮断部で前記区画を塞ぐ、
DNAチップ処理装置。
【請求項2】
前記区画は、前記注入ノズルが挿入される第一のノズル格納部と前記吸引ノズルが挿入される第二のノズル格納部とで構成され、
前記第一のノズル格納部と前記第二のノズル格納部の開口部は前記区画の開口部よりも前記遮断部の高さ分だけ低く設けられている、
請求項1に記載のDNAチップ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−309669(P2008−309669A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158266(P2007−158266)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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