DNAチップ解析方法および解析装置
【課題】 DNAチップの解析において、スキャナーの走査機構の精度が悪い場合でも、影響を受けずに解析する方法および装置を提供する。
【解決手段】 スポットが二方向に規則的に配列されたDNAチップを用いる測定で得られた画像データを処理して所望の数値データを取得するにあたり、得られた画像データの回転を補正するステップ(a)と、得られた画像データの剪断変形歪みを補正するステップ(b)とを実施し、ステップ(a)および(b)を経た補正後の画像データから該画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量ならびにスポット位置を検出し、スポットにおける所望の数値データを取得する。
【解決手段】 スポットが二方向に規則的に配列されたDNAチップを用いる測定で得られた画像データを処理して所望の数値データを取得するにあたり、得られた画像データの回転を補正するステップ(a)と、得られた画像データの剪断変形歪みを補正するステップ(b)とを実施し、ステップ(a)および(b)を経た補正後の画像データから該画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量ならびにスポット位置を検出し、スポットにおける所望の数値データを取得する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップを用いる解析方法およびその解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAチップを用いた遺伝子解析が実現されている。DNAチップとは、ガラスや樹脂等からなる基板の上にDNAをスポットしたものをいう。DNAチップ上には、標識されるDNAサンプルと特異的に反応可能なプローブとして、DNAがスポットされている。一方、解析すべき未知のDNAサンプルは光学的に検出可能な発光又は蛍光物質で標識する。こうすると、解析すべき未知のDNAサンプルを前記DNAチップを用いてハイブリダイゼーション反応させることで、該DNAサンプルは、これと相補的な塩基配列を有するスポット上のプローブDNAと結合する。プローブDNAと結合しなかったDNAサンプルはすべて洗い流し、DNAチップ上に結合した解析したいDNAサンプルを発光させ、これを読取り装置(スキャナー)により読みとると、結合したDNAの状況を画像として観察することができる。すなわち、DNAチップ上で発光するスポットの分布を解析することで、求める遺伝子の存在や、ある遺伝子が発現しているか否か、またはどの程度発現しているかを解析することができる。このように、DNAチップ上に塩基配列が既知のプローブDNAセットを構成し、このプローブDNAのセットを換えることで、目的に応じた遺伝子の変異や遺伝子の発現量などを検出することができる。
【0003】
以下、図1に、一般的なDNAチップ解析の一連の処理工程の詳細を示す。
【0004】
図1に示すように、前処理工程においては、検体から抽出したDNAサンプル中に含まれる未知の解析したいDNAを増幅し、これらのDNAを蛍光物質(例えば、Cy3,Cy5など)で標識する。
【0005】
次にハイブリダイゼーション工程において、プローブDNAが搭載されたスポットを含むDNAチップの基板に、蛍光標識されたDNAサンプルを添加する。ここで、DNAサンプルがスポット上のプローブDNAと相補的な塩基配列を有すると、これと結合する。
【0006】
次に、洗浄工程において、所定の洗浄液により、ハイブリダイゼーション反応後のDNAチップを洗浄する。これにより、基板上のプローブDNAと結合しなかったDNAサンプルがすべて洗い流される。
【0007】
続いて、洗浄後のDNAチップをスキャニングする。スキャニング工程においては、読取り装置内にて、蛍光物質(例えば、Cy3,Cy5など)を励起するのに適した所定の波長のレーザー光をDNAチップ基板に照射し走査する。これにより、スポットされた各プローブDNAに結合した標識されたDNAサンプルの発光量が測定され、それに基づいて解析処理を行う画像データを取得する。
【0008】
解析工程においては、得られた画像データに対してテンプレートを利用して各スポットの蛍光強度を算出し、各種の解析を実行する。
【0009】
ここで、図2に、DNAチップ解析に用いられるDNAチップ1の一例を示す。図2に示すDNAチップ1は、基板2の上に、解析目的となるDNAサンプルの相補的塩基配列を有するプローブDNAが行方向および列方向に所定数、マトリクス状に配列されたブロックを有している(以下、DNAチップ基板上の当該ブロックに配置されているプローブDNAが固定化された領域を「スポット」と称する)。なお、基板2上に配置されるスポットの基板2上におけるその配置位置、および各スポットに固定化されているプローブDNAの塩基配列は、予め定められている。
【0010】
また、図3に、DNAチップの画像ファイルに対して適用されるテンプレートの一例を示す。図3に示すように、テンプレートは、例えば1〜32などの複数のブロックに分割されており、各ブロック内においてはm行n列(図3では40×40)のマトリクス状に配置された検出エリア(DNAチップの個々のスポットに対応する)が設けられている。
【0011】
上記の解析工程においては、読みとったDNAチップのスキャン画像中の個々のスポットに、解析ツールが提供するテンプレートの検出エリアを当てはめ(アラインメント)、当該検出エリアにおいて各スポットの蛍光強度を算出する。このとき、正確な解析を実行するためには画像上の個々のスポットに対してテンプレートの個々の検出エリアが正しく設定されるよう、アラインメント処理が正確に実行される必要がある(このアラインメント処理において、位置ずれが検出された場合には、画像あるいは検出スポットの位置が、対応するテンプレートの検出エリアに正しく設定されるよう、補正されなければならない)。
【0012】
そのため、例えば特許文献1には、DNAチップのスキャン画像への検出エリアの位置決めに用いる基準パターンをDNAチップの基板上に設け、この基準パターンを利用してアラインメント処理を行う方法が開始されている。
【0013】
しかしながら、スキャナーによっては、走査機構の精度が悪い場合があり、スポット配列の行方向と列方向とが垂直に直交するDNAチップをスキャニングしたにも関わらず、図4に示すとおり画像に歪みが生じて垂直にならない場合がある。そして、このような画像データは、特許文献1に開示の、画像の回転、x方向ずれ、y方向ずれを補正する技術では正確に位置合わせすることが出来ない。
【0014】
特に、本来、スキャナーの走査機構には高い精度が要求されるが、長期間使用したものは、組上げ当初は精度が良い場合でも、読取り時や装置移設時の際の振動、あるいは温度変化による部材の膨張収縮等が引き金となり、組上げ調整時に残留した応力によって走査機構の部材の固定にずれが生じ、画像に歪みが生じる場合が多い。読取り装置のメーカーでオーバーホールすることにより改善することは可能であるが、費用がかかるうえ、修繕している期間、解析作業ができない等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−172840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、DNAチップの解析において、スキャナーの走査機構の精度が悪い場合でも、この影響を受けずに解析する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成する本発明は、以下のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1) スポットが二方向に規則的に配列されたDNAチップを用いる測定で得られた画像データを処理して所望の数値データを取得するにあたり、得られた画像データの回転を補正するステップ(a)と、得られた画像データの剪断変形歪みを補正するステップ(b)とを実施し、ステップ(a)および(b)を経た補正後の画像データから該画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量ならびにスポット位置を検出し、スポットにおける所望の数値データを取得するDNAチップの解析方法。
(2) 前記ステップ(b)においては、得られた画像データにおいて、二方向に規則的に配列されているスポットの配列角度をそれぞれ求め、これらの角度から剪断変形歪みを補正する、前記(1)に記載のDNAチップの解析方法。
(3) 前記ステップ(b)においては、得られた画像のx軸方向およびy軸方向に各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度をスポットの配列角度θx、θyとして得、該スポットの配列角度θx、θyおよび下記式から画像データの剪断変更歪みを補正する、前記(2)に記載のDNAチップの解析方法。
【0018】
【数1】
【0019】
【数2】
【0020】
(4) ステップ(a)においては、得られた画像のx軸方向およびy軸方向のいずれか一方向に各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度を補正角度として画像データを回転補正する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の請求項1に記載のDNAチップの解析方法。
(5) DNAチップの読取り手段と、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により画像データから所望の数値データを取得するデータ取得手段とを有するDNAチップの解析装置。
(6) 前記読取り手段が、異なる方向に走査する2つの走査機構を備えるとともに、それら走査機構の基準軸の直交度を記録する記録手段を備えている、前記(5)に記載のDNAチップの解析装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、DNAチップの解析において、走査機構の精度が悪い読取り装置によって得られた画像に対しても、DNAチップの基板上に配置された検出エリアの位置決め処理を高精度に実行可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】DNAチップ解析の一連の工程を示す概略図である。
【図2】DNAチップ解析に用いられるDNAチップの一例を示す概略図である。
【図3】DNAチップ解析において、DNAチップの画像ファイルに対して適用されるテンプレートの一例を示す模式図である。
【図4】スポット配列の行方向と列方向とが垂直に直交するDNAチップをスキャニングしたにも関わらず歪みが生じて該スポット配列が垂直にならない画像データの一例を示す模式図である。
【図5】本発明のDNAチップの解析装置の一実施形態を示す概略模式図である。
【図6】本発明のDNAチップの解析方法の一実施形態を示すブロック図である。
【図7】y軸に対するスポットの配列角度の検出方法を示す図である。
【図8】y軸に対するスポットの配列角度の検出方法を示す図である。
【図9】図6におけるStep3、Step4の処理を示す図である。
【図10】図6におけるStep5の処理を示す図である。
【図11】本発明で解析に供した画像データの一例である。
【図12】本発明で好適に解析されスポット位置が検出されたDNAチップの画像データの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るDNAチップの解析装置および解析方法を説明する。
【0024】
本発明のDNAチップの解析装置は、スポットが二方向に規則的に配列されたDNAチップ1の、そのスポットの規則性を利用して、読み取り手段によって得られた画像の補正を行うものであり、たとえば例えば図5に示すように、スキャナー4(読み取り手段)と、スキャナー制御用PC5と、画像サーバー6と、解析用PC7(データ取得手段)とを具備する。
【0025】
スキャナー4は、例えば、DNAチップ1を二方向に走査するための走査機構(本実施形態においては、チップの長手方向をy軸、それに直交する方向をx軸としている)と、DNAチップ1を複数載置するオートローダー機構とを備え、発光性の物質により標識されたDNAサンプルを添加してハイブリダイゼーション反応させたDNAチップを、レーザー光により励起し、画像データを取得する。当該二方向に走査する機構の基準軸は、歪みの無い画像を得るために、直交していることが好ましく、後述するように複数のDNAチップを処理する場合には、当該基準軸の直交度を記録する手段を有していることが好ましい。なお、走査機構は、一般的に2軸ともスライダーが用いられることが多いが、例えばラインセンサカメラとスライダーを組合わせても良い。
【0026】
画像データを取得する際には、スキャナー制御用PC5により、スキャナー4におけるDNAチップ1の走査や画像取得の制御を行う。当該スキャナー制御用PC5としては、汎用パーソナルコンピュータなどを用いる。
【0027】
また、得られた画像データは、DNAチップ画像ファイル8として画像サーバー6に保存する。DNAチップ1は、例えば蛍光色素Cy3,Cy5に対応する励起波長でスキャンされ、1つのDNAチップ1に対応してそれぞれの励起波長に対応した画像データが得られるが、この画像データは、例えば、16ビットグレイスケールTiffフォーマット、BMPフォーマット、JPEGフォーマットなどのファイル形式で保存される。
【0028】
解析用PC7は、画像サーバー6に保存されたDNAチップ画像ファイル8を読み込む。さらに解析実行用のパラメータ等を定義する解析定義ファイル9を読み込んで、DNAチップ画像の解析を実行し、数値化された解析結果データを数値化データファイル10として出力する。この解析用PC7には、本発明の解析方法を実行するための解析ツールとなるプログラムが導入される。
【0029】
以下に解析用PC7で行われるDNAチップの解析について説明する。
【0030】
まず、例えばスキャナーが2つのスライダーを備えたものである場合等、これらスライダーは必ずしも直交しているとは限らない。装置組み立て時、もしくは時間の経過等に伴って、ずれてしまうことある。そのため、スキャナーで読み取ったDNAチップの画像も、例えば図7(a)に示すように傾いている可能性がある。
【0031】
このように、x軸とy軸が直交しない場合は得られた画像が歪んでしまい、テンプレートの検出エリアを得られた画像に正しく位置合わせすることが出来ない。このため、画像から直交度のズレを検出して補正する必要がある。
【0032】
そのため、解析用PC7は、画像サーバー6に保存されているDNAチップの画像ファイル8を読みこみ、画像データの回転を補正するステップ(a)と、画像データの剪断変形歪みを補正するステップ(b)とを実施し、その後、ステップ(a)および(b)を経た補正後の画像データから、該画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量ならびにスポット位置を検出し、スポットにおける所望の数値データを取得する。
【0033】
図6に該解析の手順例を示すブロック図を示す。
【0034】
まず、Step1では、x軸に対して各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度を検出する。すなわち、この工程では、スポットのy軸に対する配列角度θyを検出する。
【0035】
より具体的には、画像データをx軸に対してy軸方向に投影し、X位置毎の積算強度(各画素値の積算値)を算出する。この処理を、画像データを予め設定した角度づつ回転させて繰り返す。投影方向とスポットのy軸方向の配列方向がずれている場合の積算強度グラフは、図7(a)に示すように振幅のないグラフになる。一方、投影方向とスポットのy軸方向の配列方向が一致した場合の積算強度グラフは、図7(b)に示すとおり、信号の振幅が最大となる。投影データのこのような特徴を利用し、図8に示すように、横軸に画像の回転角度θ、縦軸に積算強度の標準偏差をとり、最大値をとる角度を求めることで、スポットのy軸に対する配列角度θyを検出することができる。なお、以上のようにして検出される角度θyは、後述の工程で画像データを回転補正する際に用いるとともに、画像データの剪断変形歪みを補正する際に用いられる。
【0036】
続いて、Step2では、Step1の処理の方向をxy置き換えて行い、スポットのx軸に対する配列角度(隣接するスポットを直線的に結んだ線のx軸に対する傾斜角度)θxを検出する。ここで検出される角度θxは、後述の工程で画像データの剪断変形歪み補正する際に用いられる。
【0037】
次に、Step3においては、図9(a)、(b)に示すとおり、スポットのy軸に対する配列角度θy分を補正角度として用い、画像データを回転させて、スポットをy軸に対して平行にする。
【0038】
その後、Step4においては、回転後の画像に対して、上述のように検出した二方向に規則的に配列されているスポットの配列角度θx、θyおよび下記式に基づいて変換(せん断変形)を実施し、画像の剪断変形歪みを補正する。下記式の(x、y)は変換前の座標、(X、Y)は変換後の座標である。なお、スキャナーの走査機構のずれ(走査機構の基準軸の直交度)に相当するθxyは、数4に示すように、スポットのx軸に対する配列角度θxからy軸に対する配列角度θyを減じて求める。この変換後の画像を図9(c)に示す。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
上記Sterp1からStep4までが、画像データの回転を補正するステップと画像データの剪断変形歪みを補正するステップに該当する。なお、画像データの回転を補正するステップと画像データの剪断変形歪みを補正するステップとは、上述のstep4の後に上述のstep3を行うようにし、先に剪断変形歪みを補正し、その後回転を補正してもよい。また、step2とstep3の順番を入れ替えて、剪断変形歪みの補正に用いる二方向目のスポットの配列角度(上記態様ではスポットのx軸に対する配列角度θx)を求めるまえに、画像を回転してしまってもよい。
【0042】
続いて、step5、6において、画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量(テンプレートの基準位置からのずれ量)を算出する。
【0043】
Step5においてx軸方向のずれ量を算出するにあたっては、図10(a)に示すように、せん断変形して得られた画像データについて、x軸に対してy軸方向に各画素数値を投影し、X位置毎の各画素値の積算データ(図10(b))を取得する。そして、これと、DNAチップの設計情報から予め作成した基準データ(図12(c))とから、下記の相互相関関数に基づいてx軸方向のずれ量を算出する。
【0044】
【数5】
【0045】
図12(b)のx軸に対してy方向に投影したデータと、図12(c)の基準データとの相互相関関数を図12(d)に示す。投影データをf(x)、基準データをg(x)、基準データの移動量をm画素とすると、上記数5が相互相関関数f*gであり、投影データと基準データが重なる移動量mの時、最大値を取るので、その時の移動量mがx軸方向のずれ量となる。
【0046】
なお、x軸方向およびy軸方向のずれ量の検出は、DNAチップ単位で実施しても良いが、DNAチップ1自体の歪みを考慮し、ブロック単位で実施するのが好ましい。図12(c)においては、グラフの原点がブロックの始点を示し、スポットの配置位置に対応するY座標に1を、他を0に割当てている。
【0047】
続いて、Step6においては、Step5の処理をxy置き換えて行い、y軸方向のずれ量を検出する。
【0048】
そして、解析定義ファイルに保存しているテンプレートにおける各スポットの位置情報と、Step5、Step6で求めたx軸方向、y軸方向のずれ量から、回転、歪みを補正した後の画像での各スポット中心座標を算出し、スポットの位置を検出する(Step7)。なお、スキャナーで得られた画像を図11(a)に、上述の処理を行って検出・確定したスポット位置が示された画像を図11(b)に示す。図(b)の点線で描画した円の内部が、テンプレートで規定された検出エリアである。
【0049】
その後Step8においては、Step7で求めた各スポットの中心座標から、スポット半径内の画素の信号強度について、平均値、メディアン値、標準偏差等の統計量を算出し、スポットの属するブロック番号、スポットの行列番号、配置されているDNA名と合わせて、各種数値データをファイルとして出力する。
【0050】
本発明においては、このようにして遺伝子の発現に基づいて得られた画像データを処理して所望の数値データを取得するが、得られる各種の数値データは、検体内で、求める遺伝子の存在や、ある遺伝子が発現しているか否か、またはどの程度発現しているかを解析するため等に用いられる。
【0051】
以上のような本発明においては、DNAチップの解析において、スポットの規則性を利用して画像データ自体から当該画像の補正を行うため、走査機構の精度が悪い読取り装置によって得られた画像に対しても、DNAチップの基板上に配置された検出エリアの位置決め処理を高精度に実行可能となる。
なお、本実施形態においては、1枚の画像データを解析する場合について説明したが、複数のDNAチップを単一のスキャナーで読み込み、解析を行う場合には、計算時間の短縮化を図るために、次のようにすることが好ましい。すなわち、先の画像データの解析で得られた、スキャナーの走査機構のずれ(走査機構の基準軸の直交度)に相当するθxyの情報をスキャナーに保存しておき、後続のDNAチップをスキャナーで読み込みんで画像データを取得しファイルとして保存すると同時に当該ファイルのヘッダ部分にスキャナーで保存していたθxyの情報を書き込み、解析用PCで当該ファイルから画像データを読み込むと同時にθxyの情報も読み込み、該θxyの情報に基づいて画像の補正を行うことが好ましい。
【0052】
また本発明で解析されるDNAチップとしては、図12に示すように、基板上のプローブDNAが固定化された表面(スポットの表面)が、基板上の他の表面より高い凹凸構造のものが望ましい。樹脂を射出成形する等してこのような構造とすることで、上記Step1〜4において積算強度のグラフを求める際により凹凸のはっきりしたグラフを得ることができる。また、針等でスポットされたDNAの広がりを押さえ、位置精度よくスポットを配置することが可能となる。
【0053】
さらに上記実施形態においては、DNAチップにDNAがスポットされた実施形態を説明したが、RNAをスポットしたチップに対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 DNAチップ
2 基板
3 スポット
4 スキャナー
5 スキャナー制御PC
6 画像サーバー
7 解析用PC
8 DNA画像ファイル
9 解析定義ファイル
10 数値化データファイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップを用いる解析方法およびその解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAチップを用いた遺伝子解析が実現されている。DNAチップとは、ガラスや樹脂等からなる基板の上にDNAをスポットしたものをいう。DNAチップ上には、標識されるDNAサンプルと特異的に反応可能なプローブとして、DNAがスポットされている。一方、解析すべき未知のDNAサンプルは光学的に検出可能な発光又は蛍光物質で標識する。こうすると、解析すべき未知のDNAサンプルを前記DNAチップを用いてハイブリダイゼーション反応させることで、該DNAサンプルは、これと相補的な塩基配列を有するスポット上のプローブDNAと結合する。プローブDNAと結合しなかったDNAサンプルはすべて洗い流し、DNAチップ上に結合した解析したいDNAサンプルを発光させ、これを読取り装置(スキャナー)により読みとると、結合したDNAの状況を画像として観察することができる。すなわち、DNAチップ上で発光するスポットの分布を解析することで、求める遺伝子の存在や、ある遺伝子が発現しているか否か、またはどの程度発現しているかを解析することができる。このように、DNAチップ上に塩基配列が既知のプローブDNAセットを構成し、このプローブDNAのセットを換えることで、目的に応じた遺伝子の変異や遺伝子の発現量などを検出することができる。
【0003】
以下、図1に、一般的なDNAチップ解析の一連の処理工程の詳細を示す。
【0004】
図1に示すように、前処理工程においては、検体から抽出したDNAサンプル中に含まれる未知の解析したいDNAを増幅し、これらのDNAを蛍光物質(例えば、Cy3,Cy5など)で標識する。
【0005】
次にハイブリダイゼーション工程において、プローブDNAが搭載されたスポットを含むDNAチップの基板に、蛍光標識されたDNAサンプルを添加する。ここで、DNAサンプルがスポット上のプローブDNAと相補的な塩基配列を有すると、これと結合する。
【0006】
次に、洗浄工程において、所定の洗浄液により、ハイブリダイゼーション反応後のDNAチップを洗浄する。これにより、基板上のプローブDNAと結合しなかったDNAサンプルがすべて洗い流される。
【0007】
続いて、洗浄後のDNAチップをスキャニングする。スキャニング工程においては、読取り装置内にて、蛍光物質(例えば、Cy3,Cy5など)を励起するのに適した所定の波長のレーザー光をDNAチップ基板に照射し走査する。これにより、スポットされた各プローブDNAに結合した標識されたDNAサンプルの発光量が測定され、それに基づいて解析処理を行う画像データを取得する。
【0008】
解析工程においては、得られた画像データに対してテンプレートを利用して各スポットの蛍光強度を算出し、各種の解析を実行する。
【0009】
ここで、図2に、DNAチップ解析に用いられるDNAチップ1の一例を示す。図2に示すDNAチップ1は、基板2の上に、解析目的となるDNAサンプルの相補的塩基配列を有するプローブDNAが行方向および列方向に所定数、マトリクス状に配列されたブロックを有している(以下、DNAチップ基板上の当該ブロックに配置されているプローブDNAが固定化された領域を「スポット」と称する)。なお、基板2上に配置されるスポットの基板2上におけるその配置位置、および各スポットに固定化されているプローブDNAの塩基配列は、予め定められている。
【0010】
また、図3に、DNAチップの画像ファイルに対して適用されるテンプレートの一例を示す。図3に示すように、テンプレートは、例えば1〜32などの複数のブロックに分割されており、各ブロック内においてはm行n列(図3では40×40)のマトリクス状に配置された検出エリア(DNAチップの個々のスポットに対応する)が設けられている。
【0011】
上記の解析工程においては、読みとったDNAチップのスキャン画像中の個々のスポットに、解析ツールが提供するテンプレートの検出エリアを当てはめ(アラインメント)、当該検出エリアにおいて各スポットの蛍光強度を算出する。このとき、正確な解析を実行するためには画像上の個々のスポットに対してテンプレートの個々の検出エリアが正しく設定されるよう、アラインメント処理が正確に実行される必要がある(このアラインメント処理において、位置ずれが検出された場合には、画像あるいは検出スポットの位置が、対応するテンプレートの検出エリアに正しく設定されるよう、補正されなければならない)。
【0012】
そのため、例えば特許文献1には、DNAチップのスキャン画像への検出エリアの位置決めに用いる基準パターンをDNAチップの基板上に設け、この基準パターンを利用してアラインメント処理を行う方法が開始されている。
【0013】
しかしながら、スキャナーによっては、走査機構の精度が悪い場合があり、スポット配列の行方向と列方向とが垂直に直交するDNAチップをスキャニングしたにも関わらず、図4に示すとおり画像に歪みが生じて垂直にならない場合がある。そして、このような画像データは、特許文献1に開示の、画像の回転、x方向ずれ、y方向ずれを補正する技術では正確に位置合わせすることが出来ない。
【0014】
特に、本来、スキャナーの走査機構には高い精度が要求されるが、長期間使用したものは、組上げ当初は精度が良い場合でも、読取り時や装置移設時の際の振動、あるいは温度変化による部材の膨張収縮等が引き金となり、組上げ調整時に残留した応力によって走査機構の部材の固定にずれが生じ、画像に歪みが生じる場合が多い。読取り装置のメーカーでオーバーホールすることにより改善することは可能であるが、費用がかかるうえ、修繕している期間、解析作業ができない等の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−172840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、DNAチップの解析において、スキャナーの走査機構の精度が悪い場合でも、この影響を受けずに解析する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成する本発明は、以下のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1) スポットが二方向に規則的に配列されたDNAチップを用いる測定で得られた画像データを処理して所望の数値データを取得するにあたり、得られた画像データの回転を補正するステップ(a)と、得られた画像データの剪断変形歪みを補正するステップ(b)とを実施し、ステップ(a)および(b)を経た補正後の画像データから該画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量ならびにスポット位置を検出し、スポットにおける所望の数値データを取得するDNAチップの解析方法。
(2) 前記ステップ(b)においては、得られた画像データにおいて、二方向に規則的に配列されているスポットの配列角度をそれぞれ求め、これらの角度から剪断変形歪みを補正する、前記(1)に記載のDNAチップの解析方法。
(3) 前記ステップ(b)においては、得られた画像のx軸方向およびy軸方向に各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度をスポットの配列角度θx、θyとして得、該スポットの配列角度θx、θyおよび下記式から画像データの剪断変更歪みを補正する、前記(2)に記載のDNAチップの解析方法。
【0018】
【数1】
【0019】
【数2】
【0020】
(4) ステップ(a)においては、得られた画像のx軸方向およびy軸方向のいずれか一方向に各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度を補正角度として画像データを回転補正する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の請求項1に記載のDNAチップの解析方法。
(5) DNAチップの読取り手段と、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により画像データから所望の数値データを取得するデータ取得手段とを有するDNAチップの解析装置。
(6) 前記読取り手段が、異なる方向に走査する2つの走査機構を備えるとともに、それら走査機構の基準軸の直交度を記録する記録手段を備えている、前記(5)に記載のDNAチップの解析装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、DNAチップの解析において、走査機構の精度が悪い読取り装置によって得られた画像に対しても、DNAチップの基板上に配置された検出エリアの位置決め処理を高精度に実行可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】DNAチップ解析の一連の工程を示す概略図である。
【図2】DNAチップ解析に用いられるDNAチップの一例を示す概略図である。
【図3】DNAチップ解析において、DNAチップの画像ファイルに対して適用されるテンプレートの一例を示す模式図である。
【図4】スポット配列の行方向と列方向とが垂直に直交するDNAチップをスキャニングしたにも関わらず歪みが生じて該スポット配列が垂直にならない画像データの一例を示す模式図である。
【図5】本発明のDNAチップの解析装置の一実施形態を示す概略模式図である。
【図6】本発明のDNAチップの解析方法の一実施形態を示すブロック図である。
【図7】y軸に対するスポットの配列角度の検出方法を示す図である。
【図8】y軸に対するスポットの配列角度の検出方法を示す図である。
【図9】図6におけるStep3、Step4の処理を示す図である。
【図10】図6におけるStep5の処理を示す図である。
【図11】本発明で解析に供した画像データの一例である。
【図12】本発明で好適に解析されスポット位置が検出されたDNAチップの画像データの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るDNAチップの解析装置および解析方法を説明する。
【0024】
本発明のDNAチップの解析装置は、スポットが二方向に規則的に配列されたDNAチップ1の、そのスポットの規則性を利用して、読み取り手段によって得られた画像の補正を行うものであり、たとえば例えば図5に示すように、スキャナー4(読み取り手段)と、スキャナー制御用PC5と、画像サーバー6と、解析用PC7(データ取得手段)とを具備する。
【0025】
スキャナー4は、例えば、DNAチップ1を二方向に走査するための走査機構(本実施形態においては、チップの長手方向をy軸、それに直交する方向をx軸としている)と、DNAチップ1を複数載置するオートローダー機構とを備え、発光性の物質により標識されたDNAサンプルを添加してハイブリダイゼーション反応させたDNAチップを、レーザー光により励起し、画像データを取得する。当該二方向に走査する機構の基準軸は、歪みの無い画像を得るために、直交していることが好ましく、後述するように複数のDNAチップを処理する場合には、当該基準軸の直交度を記録する手段を有していることが好ましい。なお、走査機構は、一般的に2軸ともスライダーが用いられることが多いが、例えばラインセンサカメラとスライダーを組合わせても良い。
【0026】
画像データを取得する際には、スキャナー制御用PC5により、スキャナー4におけるDNAチップ1の走査や画像取得の制御を行う。当該スキャナー制御用PC5としては、汎用パーソナルコンピュータなどを用いる。
【0027】
また、得られた画像データは、DNAチップ画像ファイル8として画像サーバー6に保存する。DNAチップ1は、例えば蛍光色素Cy3,Cy5に対応する励起波長でスキャンされ、1つのDNAチップ1に対応してそれぞれの励起波長に対応した画像データが得られるが、この画像データは、例えば、16ビットグレイスケールTiffフォーマット、BMPフォーマット、JPEGフォーマットなどのファイル形式で保存される。
【0028】
解析用PC7は、画像サーバー6に保存されたDNAチップ画像ファイル8を読み込む。さらに解析実行用のパラメータ等を定義する解析定義ファイル9を読み込んで、DNAチップ画像の解析を実行し、数値化された解析結果データを数値化データファイル10として出力する。この解析用PC7には、本発明の解析方法を実行するための解析ツールとなるプログラムが導入される。
【0029】
以下に解析用PC7で行われるDNAチップの解析について説明する。
【0030】
まず、例えばスキャナーが2つのスライダーを備えたものである場合等、これらスライダーは必ずしも直交しているとは限らない。装置組み立て時、もしくは時間の経過等に伴って、ずれてしまうことある。そのため、スキャナーで読み取ったDNAチップの画像も、例えば図7(a)に示すように傾いている可能性がある。
【0031】
このように、x軸とy軸が直交しない場合は得られた画像が歪んでしまい、テンプレートの検出エリアを得られた画像に正しく位置合わせすることが出来ない。このため、画像から直交度のズレを検出して補正する必要がある。
【0032】
そのため、解析用PC7は、画像サーバー6に保存されているDNAチップの画像ファイル8を読みこみ、画像データの回転を補正するステップ(a)と、画像データの剪断変形歪みを補正するステップ(b)とを実施し、その後、ステップ(a)および(b)を経た補正後の画像データから、該画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量ならびにスポット位置を検出し、スポットにおける所望の数値データを取得する。
【0033】
図6に該解析の手順例を示すブロック図を示す。
【0034】
まず、Step1では、x軸に対して各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度を検出する。すなわち、この工程では、スポットのy軸に対する配列角度θyを検出する。
【0035】
より具体的には、画像データをx軸に対してy軸方向に投影し、X位置毎の積算強度(各画素値の積算値)を算出する。この処理を、画像データを予め設定した角度づつ回転させて繰り返す。投影方向とスポットのy軸方向の配列方向がずれている場合の積算強度グラフは、図7(a)に示すように振幅のないグラフになる。一方、投影方向とスポットのy軸方向の配列方向が一致した場合の積算強度グラフは、図7(b)に示すとおり、信号の振幅が最大となる。投影データのこのような特徴を利用し、図8に示すように、横軸に画像の回転角度θ、縦軸に積算強度の標準偏差をとり、最大値をとる角度を求めることで、スポットのy軸に対する配列角度θyを検出することができる。なお、以上のようにして検出される角度θyは、後述の工程で画像データを回転補正する際に用いるとともに、画像データの剪断変形歪みを補正する際に用いられる。
【0036】
続いて、Step2では、Step1の処理の方向をxy置き換えて行い、スポットのx軸に対する配列角度(隣接するスポットを直線的に結んだ線のx軸に対する傾斜角度)θxを検出する。ここで検出される角度θxは、後述の工程で画像データの剪断変形歪み補正する際に用いられる。
【0037】
次に、Step3においては、図9(a)、(b)に示すとおり、スポットのy軸に対する配列角度θy分を補正角度として用い、画像データを回転させて、スポットをy軸に対して平行にする。
【0038】
その後、Step4においては、回転後の画像に対して、上述のように検出した二方向に規則的に配列されているスポットの配列角度θx、θyおよび下記式に基づいて変換(せん断変形)を実施し、画像の剪断変形歪みを補正する。下記式の(x、y)は変換前の座標、(X、Y)は変換後の座標である。なお、スキャナーの走査機構のずれ(走査機構の基準軸の直交度)に相当するθxyは、数4に示すように、スポットのx軸に対する配列角度θxからy軸に対する配列角度θyを減じて求める。この変換後の画像を図9(c)に示す。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
上記Sterp1からStep4までが、画像データの回転を補正するステップと画像データの剪断変形歪みを補正するステップに該当する。なお、画像データの回転を補正するステップと画像データの剪断変形歪みを補正するステップとは、上述のstep4の後に上述のstep3を行うようにし、先に剪断変形歪みを補正し、その後回転を補正してもよい。また、step2とstep3の順番を入れ替えて、剪断変形歪みの補正に用いる二方向目のスポットの配列角度(上記態様ではスポットのx軸に対する配列角度θx)を求めるまえに、画像を回転してしまってもよい。
【0042】
続いて、step5、6において、画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量(テンプレートの基準位置からのずれ量)を算出する。
【0043】
Step5においてx軸方向のずれ量を算出するにあたっては、図10(a)に示すように、せん断変形して得られた画像データについて、x軸に対してy軸方向に各画素数値を投影し、X位置毎の各画素値の積算データ(図10(b))を取得する。そして、これと、DNAチップの設計情報から予め作成した基準データ(図12(c))とから、下記の相互相関関数に基づいてx軸方向のずれ量を算出する。
【0044】
【数5】
【0045】
図12(b)のx軸に対してy方向に投影したデータと、図12(c)の基準データとの相互相関関数を図12(d)に示す。投影データをf(x)、基準データをg(x)、基準データの移動量をm画素とすると、上記数5が相互相関関数f*gであり、投影データと基準データが重なる移動量mの時、最大値を取るので、その時の移動量mがx軸方向のずれ量となる。
【0046】
なお、x軸方向およびy軸方向のずれ量の検出は、DNAチップ単位で実施しても良いが、DNAチップ1自体の歪みを考慮し、ブロック単位で実施するのが好ましい。図12(c)においては、グラフの原点がブロックの始点を示し、スポットの配置位置に対応するY座標に1を、他を0に割当てている。
【0047】
続いて、Step6においては、Step5の処理をxy置き換えて行い、y軸方向のずれ量を検出する。
【0048】
そして、解析定義ファイルに保存しているテンプレートにおける各スポットの位置情報と、Step5、Step6で求めたx軸方向、y軸方向のずれ量から、回転、歪みを補正した後の画像での各スポット中心座標を算出し、スポットの位置を検出する(Step7)。なお、スキャナーで得られた画像を図11(a)に、上述の処理を行って検出・確定したスポット位置が示された画像を図11(b)に示す。図(b)の点線で描画した円の内部が、テンプレートで規定された検出エリアである。
【0049】
その後Step8においては、Step7で求めた各スポットの中心座標から、スポット半径内の画素の信号強度について、平均値、メディアン値、標準偏差等の統計量を算出し、スポットの属するブロック番号、スポットの行列番号、配置されているDNA名と合わせて、各種数値データをファイルとして出力する。
【0050】
本発明においては、このようにして遺伝子の発現に基づいて得られた画像データを処理して所望の数値データを取得するが、得られる各種の数値データは、検体内で、求める遺伝子の存在や、ある遺伝子が発現しているか否か、またはどの程度発現しているかを解析するため等に用いられる。
【0051】
以上のような本発明においては、DNAチップの解析において、スポットの規則性を利用して画像データ自体から当該画像の補正を行うため、走査機構の精度が悪い読取り装置によって得られた画像に対しても、DNAチップの基板上に配置された検出エリアの位置決め処理を高精度に実行可能となる。
なお、本実施形態においては、1枚の画像データを解析する場合について説明したが、複数のDNAチップを単一のスキャナーで読み込み、解析を行う場合には、計算時間の短縮化を図るために、次のようにすることが好ましい。すなわち、先の画像データの解析で得られた、スキャナーの走査機構のずれ(走査機構の基準軸の直交度)に相当するθxyの情報をスキャナーに保存しておき、後続のDNAチップをスキャナーで読み込みんで画像データを取得しファイルとして保存すると同時に当該ファイルのヘッダ部分にスキャナーで保存していたθxyの情報を書き込み、解析用PCで当該ファイルから画像データを読み込むと同時にθxyの情報も読み込み、該θxyの情報に基づいて画像の補正を行うことが好ましい。
【0052】
また本発明で解析されるDNAチップとしては、図12に示すように、基板上のプローブDNAが固定化された表面(スポットの表面)が、基板上の他の表面より高い凹凸構造のものが望ましい。樹脂を射出成形する等してこのような構造とすることで、上記Step1〜4において積算強度のグラフを求める際により凹凸のはっきりしたグラフを得ることができる。また、針等でスポットされたDNAの広がりを押さえ、位置精度よくスポットを配置することが可能となる。
【0053】
さらに上記実施形態においては、DNAチップにDNAがスポットされた実施形態を説明したが、RNAをスポットしたチップに対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 DNAチップ
2 基板
3 スポット
4 スキャナー
5 スキャナー制御PC
6 画像サーバー
7 解析用PC
8 DNA画像ファイル
9 解析定義ファイル
10 数値化データファイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポットが二方向に規則的に配列されたDNAチップを用いる測定で得られた画像データを処理して所望の数値データを取得するにあたり、得られた画像データの回転を補正するステップ(a)と、得られた画像データの剪断変形歪みを補正するステップ(b)とを実施し、ステップ(a)および(b)を経た補正後の画像データから該画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量ならびにスポット位置を検出し、スポットにおける所望の数値データを取得するDNAチップの解析方法。
【請求項2】
前記ステップ(b)においては、得られた画像データにおいて、二方向に規則的に配列されているスポットの配列角度をそれぞれ求め、これらの角度から剪断変形歪みを補正する、請求項1に記載のDNAチップの解析方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)においては、得られた画像のx軸方向およびy軸方向に各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度をスポットの配列角度θx、θyとして得、該スポットの配列角度θx、θyおよび下記式から画像データの剪断変更歪みを補正する、請求項2に記載のDNAチップの解析方法。
【数1】
【数2】
【請求項4】
ステップ(a)においては、得られた画像のx軸方向およびy軸方向のいずれか一方向に各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度を補正角度として画像データを回転補正する、請求項1〜3のいずれかに記載の請求項1に記載のDNAチップの解析方法。
【請求項5】
DNAチップの読取り手段と、請求項1〜4のいずれかに記載の方法により画像データから所望の数値データを取得するデータ取得手段とを有するDNAチップの解析装置。
【請求項6】
前記読取り手段が、異なる方向に走査する2つの走査機構を備えるとともに、それら走査機構の基準軸の直交度を記録する記録手段を備えている、請求項5に記載のDNAチップの解析装置。
【請求項1】
スポットが二方向に規則的に配列されたDNAチップを用いる測定で得られた画像データを処理して所望の数値データを取得するにあたり、得られた画像データの回転を補正するステップ(a)と、得られた画像データの剪断変形歪みを補正するステップ(b)とを実施し、ステップ(a)および(b)を経た補正後の画像データから該画像データのx軸方向およびy軸方向のずれ量ならびにスポット位置を検出し、スポットにおける所望の数値データを取得するDNAチップの解析方法。
【請求項2】
前記ステップ(b)においては、得られた画像データにおいて、二方向に規則的に配列されているスポットの配列角度をそれぞれ求め、これらの角度から剪断変形歪みを補正する、請求項1に記載のDNAチップの解析方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)においては、得られた画像のx軸方向およびy軸方向に各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度をスポットの配列角度θx、θyとして得、該スポットの配列角度θx、θyおよび下記式から画像データの剪断変更歪みを補正する、請求項2に記載のDNAチップの解析方法。
【数1】
【数2】
【請求項4】
ステップ(a)においては、得られた画像のx軸方向およびy軸方向のいずれか一方向に各画素値を投影積算するステップを、該画像を所定角度ずつ回転させて繰り返し、投影積算によって得られる信号の振幅が最大となる回転角度を補正角度として画像データを回転補正する、請求項1〜3のいずれかに記載の請求項1に記載のDNAチップの解析方法。
【請求項5】
DNAチップの読取り手段と、請求項1〜4のいずれかに記載の方法により画像データから所望の数値データを取得するデータ取得手段とを有するDNAチップの解析装置。
【請求項6】
前記読取り手段が、異なる方向に走査する2つの走査機構を備えるとともに、それら走査機構の基準軸の直交度を記録する記録手段を備えている、請求項5に記載のDNAチップの解析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−182705(P2011−182705A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51273(P2010−51273)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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