説明

DNA塩およびそれを成膜してなる機能性高分子膜

【課題】
容易に合成することができるかまたは市場で容易に入手可能な両親媒性カチオンをDNAリン酸アニオンとイオン結合させ、機能性DNA塩を提供する。
【解決手段】
式I:
【化3】


(式中、RはC〜C20アルキル、C〜C20アルキル置換基を有するベンジル、またはC〜C20アルキル置換基を有するフェノキシエトキシエチルから選ばれ、R’,R’’,R’’’の2つはC〜Cアルキルであり、残りの2つの両方がC〜Cアルキルか、一方がC〜Cアルキルで他方がベンジルか、または一方がベンジルで他方がフェニルであり、あるいはR’,R’’,R’’’はN原子と共にピリジン環を形成する炭化水素鎖を表す。)を有する4級アンモニウムカチオンが、DNAリン酸アニオンとイオン結合してなるDNA塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な機能性高分子、詳しくはDNAリン酸アニオンと、長鎖アルキルを有する4級アンモニウムカチオンとの塩、およびこの塩から成膜してなる機能性高分子膜に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAはリン酸アニオンを有する巨大分子である。このリン酸アニオンへカチオン性両親媒性分子をイオン結合し、両親媒性DNA塩を製造することが岡畑ら、J.CHEM.SOC.,CHEM.COMMUN.1992,1339−1341および特開平8−239398号公報に発表されている。発表されたDNA塩の両親媒性カチオンは一般に構造が複雑で、その合成に手間がかかる。そこでもっと容易に合成することができるか、又は市場において容易に入手し得る両親媒性分子を使用して製造することができる機能性DNA塩を提供することが望まれる。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、DNAリン酸アニオンが、
式I:
【化2】


を有するカチオンとイオン結合してなるDNA塩を提供する。式I中、RはC〜C20アルキル、C〜C20アルキル置換基を有するベンジル、またはC〜C20アルキル置換基を有するフェノキシエトキシエチルから選ばれ、R’,R’’およびR’’’の2つはC〜Cアルキルであり、残りの2つの両方がC〜Cアルキルか、一方がC〜Cアルキルで他方がベンジルか、または一方がベンジルで他方がフェニルであり、あるいはR’,R’’およびR’’’のそれらが結合するN原子と共にピリジン環を表す。
【0004】
本発明は、上記DNA塩を成膜して得られる機能性高分子膜を提供する。この膜は補強用高分子マトリックスを含むことができる。膜は、例えばOガスに対して高い選択的透過率を有し、医療用途において有用である。また膜を構成する2本鎖DNA間に多種類の分子をインターカレーションすることにより、多種類の用途において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
DNAは、天然および合成DNAのいずれでも良いが、両親媒性カチオンとの塩を生成させるため、水溶性のDNA塩、例えばナトリウム塩を使用する。
【0006】
式Iの4級アンモニウムおよびピリジニウムカチオンは、クロライドまたはブロマイドの形で市場において容易に入手することができる。これらは逆性石鹸として知られる殺菌剤である。もし市場において入手できないときは、例えばC〜C20アルキルアミンやC〜Cアルキルハライドを用いて4級化するか、またはピリジンをC〜C20アルキルハライドで4級化すること等によって容易に合成することができる。本発明において好適に使用し得る4級アンモニウム塩またはピリジニウム塩は、例えば
〜C20アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、
〜C20アルキルジメチルエチルアンモニウムクロライド、
メチルC〜C20アルキルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、
〜C20アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(ベンズアルコニウムクロライド)、
ジメチルフェニルベンジルアンモニウムクロライド、
〜C20アルキルジメチル−3,4−ジクロロベンジルアンモニウムクロライド
4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノキシエトキシエチルジメチルアンモニウムクロライド(ベンゼトニウムクロライド)
4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)クレゾキシエトキシエチル
ジメチルアンモニウムクロライド(メチルベンゼトニウムクロライド)、
〜C20アルキルビリジニウムクロライド
およびこれらの対応するブロマイドを含む。
【0007】
本発明のDNA塩は、水溶液中において、ナトリウム塩のような水溶性DNA塩と、該DNAに対し少なくとも当量の前記アンモニウム塩またはピリジニウム塩を反応させることによって得られる。この際アンモニウム塩またはピリジニウム塩水溶液中に、攪拌下DNA塩水溶液を徐々に滴下するのが好ましい。生成する本発明のDNA塩は水に不溶なため白色沈澱として析出する。これを吸引濾過して集め、精製水でよく洗った後減圧乾燥することにより目的物が得られる。この塩はDNA2本鎖構造を保持している。
【0008】
本発明のDNA塩はクロロホルム/エタノール混液のような有機溶媒に可溶である。そのためこの溶液をガラス板のような基板にキャストし、乾燥して成膜することができる。膜の用途によって機械的強度が要求される場合には補強材と複合化することができる。そのような補強材を含む補強膜を作製する第1の方法は、布、不織布、多孔質フィルムのような補強支持材に溶液を塗布し、乾燥して異方性膜を作製する方法である。塗布の代りに補強支持材をDNA塩溶液で含浸してもよい。第2の方法は、DNA塩と補強用高分子を両者の共通有機溶媒に溶かし、ガラス板の上に溶液をキャストし、乾燥後剥離する方法である。例えば補強用高分子がポリアミドイミドの場合、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を用いることができる。
【0009】
このようにして得られた本発明のDNA塩膜は、Oガスに対して選択的に高い透過率を有することがわかった。このため膜は気体分離膜として、または高いO透過性を要求する医療用途において有用である。また、成膜前のDNA塩に機能性分子をインターカレーションすることにより、インターカレーションした分子の性質を利用する機能性高分子膜として有用である。
【実施例】
【0010】
以下の実施例は本発明を例証する目的で与えられ限定を意図しない。なお、すべての実施例においてDNAとしてサケ精子DNAナトリウム塩(日本化学飼料社製)を用いた。
【0011】
実施例1 DNA/CTMAの合成
2Lビーカーに超純水1100mlを入れ、これにDNA−Na 4g(4.57×10−3mol)を加え、マグネチックスターラーで攪拌して溶解した。別の2Lビーカーに超純水1100mlを入れ、セチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTMACl)3.42g(1.07×10−2mol)を加えて溶解した。DNA−Na溶液を滴下ロートに移し、CTMACl溶液中に攪拌下ゆっくり滴下した。滴下するとすぐ白色の沈澱が生成した。滴下終了後3時間攪拌を継続し、反応液を冷蔵庫で12時間静置した。その後白色沈澱物を吸引濾過し、超純水で2〜3回洗浄し、シャーレに生成物を移し、40℃で1日減圧乾燥した。収率94%であった。
【0012】
実施例2 DNA/CTMA膜の製造
実施例1で得たDNA/CTMA0.3gをクロロホルム:エタノール(4:1)22gに溶解し、これをガラス板上にキャストし、40℃で30分減圧乾燥し、フィルムを得た。
【0013】
実施例3 DNA/DTMAの合成
CTMACl 3.42gに代えて、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド(DTMACl)2.8g(1.07×10−2mol)を用いること以外は実施例1と同様にしてDNA/DTMAを得た。収率は96%であった。
【0014】
実施例4 DNA/DTMA膜の製造
DNA/CTMAの代りに実施例3で得たDNA/DTMAを使用する以外は実施例2と同様にしてDNA/DTMA膜を製造した。
【0015】
実施例5 DNA/TDTMAの合成
CTMACl 3.42gに代えて、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド(TDTMACl)3.59g(1.07×10−2mol)を用いること以外は実施例1に同様にしてDNA/TDTMAを得た。収率は94.5%であった。
【0016】
実施例6 DNA/TDTMA膜の製造
DNA/CTMAの代りに実施例5で得たDNA/TDTMAを使用する以外は実施例2と同様にしてDNA/TDTMA膜を製造した。
【0017】
実施例7 DNA/STMAの合成
CTMACl 3.42gに代えて、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(STMACl)3.70g(1.07×10−2mol)を用いること以外は実施例1と同様にしてDNA/STMAを得た。収率93%であった。
【0018】
実施例8 DNA/STMA膜の製造
DNA/CTMAの代りに実施例7で得たDNA/STMAを使用する以外は実施例2と同様にしてDNA/STMA膜を製造した。
【0019】
実施例9 DNA/BDMTDAの合成
CTMACl 3.42gに代えて、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド(BDMTDACl)3.93g(1.07×10−2mol)を用いる以外は実施例1と同様にしてDNA/BDMTDAを得た。収率96%であった。
【0020】
実施例10 DNA/BDMTDA膜の製造
DNA/CTMAの代りに実施例9で得たDNA/BDMTDAを使用する以外は実施例2と同様にしてDNA/BDMTDA膜を製造した。
【0021】
実施例11 DNA/BCDMAの合成
CTMACl 3.4gに代えて、ベンジルセチルジメチルアンモニウムクロライド(BCDMACl)4.23g(1.07×10−2mol)を用いる以外は実施例1と同様にしてDNA/BCDMAを得た。収率94%であった。
【0022】
実施例12 DNA/BCDMA膜の製造
DNA/CTMAの代りに実施例11で得たDNA/BCDMAを使用する以外は実施例2と同様にしてDNA/BCDMA膜を製造した。
【0023】
実施例13 DNA/BDMSAの合成
CTMACl 3.4gに代えて、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド(BDMSACl)4.5g(1.07×10−2mol)を用いる以外は実施例1と同様にしてDNA/BDMSAを得た。収率96.5%であった。
【0024】
実施例14 DNA/BDMSAの製造
DNA/CTMAの代りに、実施例13で得たDNA/BDMSAを使用する以外は実施例2と同様にしてDNA/BDMSA膜を製造した。
【0025】
実施例15 DNA/CPの合成
CTMACl 3.4gに代えて、セチルピリジニウムクロライド(CPCl)3.6g(1.07×10−2mol)を用いる以外は実施例1と同様にしてDNA/CPを得た。収率は殆んど定量的であった。
【0026】
実施例16 DNA/CP膜の製造
DNA/CTMAの代りに、実施例15で得たDNA/CPを使用する以外は実施例2と同様にしてDNA/CP膜を製造した。
【0027】
実施例17 DNA/ベンゼトニウム塩の合成
CTMACl 3.4gに代えて、塩化ベンゼトニウム(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノキシエトキシエチルジメチルアンニウムクロライド)4.8g(1.07×10−2mol)を用いる以外は実施例1と同様にしてDNA/ベンゼトニウム塩を得た。収率は殆んど定量的であった。
【0028】
実施例18 多孔質PTFE補強DNA/CP膜
実施例16で合成したDNA/CP 0.3gをクロロホルム:エタノール(4:1)22gに溶解し、この溶液でポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムを含浸し、40℃で1日乾燥して補強DNA/CP膜を製造した。
【0029】
実施例19 ポリアミドイミドブレンドDNA/CTMA膜
実施例1で合成したDNA/CTMAと、ポリアミドイミド(Solvay Advanced Polymer社製TORLON)とを1対1の割合でDMFに溶解し、ガラス板上にキャストし、150℃で乾燥後剥離してポリアミドイミドブレンドDNA/CTMA膜を製造した。
【0030】
ガス透過性試験
実施例で製造した膜のいくつかについて、JIS K71261987に準じてOおよびNについて気体透過率を測定した。ツクバリカセイキ(株)製気体透過率測定装置を使用し、温度および供給(上流側)圧力条件は、それぞれ25℃および106kPaに設定した。またOおよびNの透過係数からP(O)/P(N)の比を求め、他のガスに対するOガス選択透過性の指標とした。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
水蒸気透過性試験
実施例で製造したいくつかについて水蒸気透過率を測定した。密閉可能なガラス製サンプルホルダーにDNA脂質膜を装着し、サンプルホルダー内に入れた水を55℃に加温し、一定時間内に透過した水蒸気量をサンプルホルダー内に残存した水重量から算出した。なお、水温55℃の飽和水蒸気圧は約157hPaである。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
上で実施した水蒸気透過試験方法を採用して汎用的なフィルムの水蒸気透過性試験を実施した。汎用的なフィルムと比較すると実施例で製造した膜は水蒸気透過率が極めて高い特徴を示した。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

(式中、RはC〜C20アルキル、C〜C20アルキル置換基を有するベンジル、またはC〜C20アルキル置換基を有するフェノキシエトキシエチルから選ばれ、R’,R’’,R’’’の2つはC〜Cアルキルであり、残りの2つの両方がC〜Cアルキルか、一方がC〜Cアルキルで他方がベンジルか、または一方がベンジルで他方がフェニルであり、あるいはR’,R’’,R’’’はN原子と共にピリジン環を形成する炭化水素鎖を表す。)を有する4級アンモニウムカチオンが、DNAリン酸アニオンとイオン結合してなるDNA塩。
【請求項2】
請求項1のDNA塩を成膜してなる機能性高分子膜。
【請求項3】
補強用高分子マトリックスを含んでいる請求項2の機能性高分子膜。


【公開番号】特開2007−51073(P2007−51073A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235592(P2005−235592)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【出願人】(597054253)トレキオン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】