説明

EL素子の駆動方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、EL(エレクトロルミネセンス)素子と称されている、蛍光体に電場を加えることで発光させる素子の駆動方法に関するものであり、詳細には、駆動を行うときの電圧波形の改良に係るものである。
【0002】
【従来の技術】図5に示すものはEL素子10の基本的な構成であり、例えばZnS:Cu,Al などの組成を有する蛍光体により形成した発光層11の一方の面にITOなど透明で且つ導電性を有する部材で形成された透明電極12を設け、他方の面にアルミニウムの蒸着などにより形成されたアルミ電極13を設け、両電極12、13で発光層11を挟む構成としたものである。
【0003】上記EL素子10を駆動するときには、透明電極12とアルミ電極13との間に、図6に示すように正弦波(サインウエーブ)の波形を有する交番電圧Sを印加し、発光層11を構成する蛍光体を励起して発光を得るものである。このときに、交番電圧SはEL素子10に高い発光効率が得られる周波数とされるが、通常には200〜1KHzの範囲に最適値がある。また、電圧は80〜150Vの範囲である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記した従来の駆動方法では、交番電圧Sの波形に正弦波が要求されるので、交番電圧Sの発生にはコイル(L)とコンデンサ(C)とによるLC共振回路を使用せざるを得ないものとなり、しかも、このときの周波数が比較的に低いのでコイルやコンデンサが大型のものとなり、インバータなど駆動装置が大型化する問題点を生じている。また、上記したインバータなどの駆動装置は出力波形を正弦波とした場合、例えば矩形波のものと比較すると効率が低下し、駆動装置は一層に大型化して上記の問題点を一層に顕著なものとする。
【0005】ここで、前記EL素子10の駆動に正弦波の交番電圧Sが要求される理由は、図5からも明らかなように透明電極12とアルミ電極13とが対峙するコンデンサと同様な構成であるので、矩形波のように一方の電位から他方の電位に急激に変化する波形を印加すると、その変化時に過大な充電電流が流れるものとなり、その時の過大電流により発光層11が破損するものと成るからである。従って、例えばIC化などにより小型化が可能であると矩形波の駆動装置は採用できないとされている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は前記した従来の課題を解決するための具体的な手段として、発光層を透明電極とアルミ電極で挟み、両電極間に交番電圧を印加して成るEL素子の駆動方法において、前記交番電圧は、正極側の半サイクルと負極側の半サイクルとのそれぞれが少なくとも各三段の昇圧部および降圧部を有する階段状波形とされていることを特徴とするEL素子の駆動方法を提供することで課題を解決するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明を図に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。図1に符号Eで示すものは本発明に係るEL素子の駆動方法で採用する交番電圧の第一の実施形態であり、この交番電圧EをEL素子10(図5参照)の透明電極12とアルミ電極13との間に印加することで点灯を行わせるものである。
【0008】このときに、前記交番電圧Eの波形は、電位が上昇する部分(以下、昇圧部EUと称する)においても、電位が下降する部分(以下、降圧部ED)においても階段状となるものとされている。そして、この第一の実施形態では交番電圧Eは正極性側の半サイクルと、負極性側の半サイクルとが対称形状とされている。
【0009】ここで、前記交番電圧Eの波形について更に詳細に説明を行う。尚、上記にも説明したように、この第一の実施形態では正極性側の半サイクルと、負極性側の半サイクルとが対称形状であるので、説明は正極性側の半サイクルで代表させて行うものとする。
【0010】前記交番電圧Eは、まず、昇圧部EUではグランド電位0Vから、EL素子10の特性に合わせて設定された最高電位まで上昇するものとされるが、この第一の実施形態では、グランド電位0Vから電位EU01、電位EU02、電位EU03、電位EU04を経由し、最高電位である電位EU05までの5段階のステップで電位を上昇するものとされている。
【0011】そして、降圧部EDでは逆に電位ED05から電位ED04、電位ED03、電位ED02、電位ED01、と経由して5段階のステップで電位を降下させ、グランド電位0Vに達するものとされている。このときに、この実施形態では、電位EU01と電位ED01、電位EU02と電位ED02、電位EU03と電位ED03、電位EU04と電位ED04および電位EU05と電位ED05はそれぞれ同電位とされている。
【0012】また、前記電位EU01〜電位EU05およびED01〜電位ED05のそれぞれは、所定の時限はそれぞれが設定された電位を保つものとされているので、昇圧部EUにおいても降圧部EDにおいても電位の変化は階段状となり、且つ、昇圧部EUと降圧部EDは対称の形状を有するものとなる。
【0013】図2に示すものは、上記に説明した交番電圧EをEL素子10に印加したときの電流波形Aであり、例えばグランド電位0Vと電位EU01との間など、各電位間では急激な電圧変化を生じるので、ピーク状の充電電流を生じるものとはなるが、本発明によりグランド電位0Vから最高電位EU05の間が階段状に分割されたことで、それぞれの電位間に生じる充電電流のピーク値は、一度にグランド電位0Vから最高電位EU05まで上昇させる場合に比べて少ないものとなる。
【0014】図3は、同一電圧、同一周波数(100V,400Hz)でEL素子10を上記の本発明の交番電圧Eで駆動したときの輝度維持率B1と、従来例の正弦波の交番電圧Sで駆動したときの輝度維持率B0とを示すものであり、上記のようにピーク値が低減されたことで、本発明の交番電圧Eで駆動した場合にも、従来例の正弦波で駆動するのと同等以上の輝度維持率、即ち、寿命をEL素子10に対し与えることが可能となる。
【0015】ここで、交番電圧Eを階段状に分割する段数に関して述べれば、これは駆動するべきEL素子10の特性、あるいは、必要とされる駆動電圧などの条件により適宜に設定されるものであり、例えば、駆動電圧が低く且つ発光層11も耐久性が高いものであれば、段数は少なくても良いものとなる。要はEL素子10に充分な寿命が保証されれば良く、本発明を成すための試作、検討の結果では、少なくとも3段とすることで、その目的は達成されるものである。
【0016】次いで、本発明の駆動方法である交番電圧Eの発生手段について考察を行ってみると、この交番電圧Eは階段状に変化するものであるので、例えば梯子型抵抗回路など簡便なデジタル回路手段による波形生成手段により、コイル、コンデンサなどを使用することなく発生させることが可能となり、極めて小型に駆動装置が形成できるものとなる。
【0017】図4は、本発明の第二の実施形態の交番電圧E1を示すものであり、実際にEL素子10を駆動してみると、例えば電極特性の相違などにより、透明電極12側から流れる電流とアルミ電極13側から流れる電流とに、即ち、正負の半サイクルの間に電流値に差を生じる場合を往々に生じる。
【0018】このときに、通常には、EL素子10に対する寿命の確保などの面から、電流が多く流れる側を基準として電圧が設定されるので、電流が少ない側の半サイクルの駆動においてはEL素子10の発光量は不十分なものとなり、結果としてEL素子10に期待する光量が得られないものとなっている。
【0019】この第二の実施形態は、上記の状態に対応して成されたものであり、本発明の駆動方法では、正極性側の半サイクル用と負極性側の半サイクル用とのそれぞれに専用の梯子型抵抗回路など波形生成手段を設けることで、それぞれの半サイクルの電圧調整が可能となる。
【0020】そして、この第二の実施形態では、前記交番電圧E1において、例えば透明電極12に印加する昇圧部EUの電位EU01〜EU05、および、降圧部EDの電位ED01〜ED05に対して、アルミ電極13に印加する昇圧部EUの電位EU11〜EU15、および、降圧部EDの電位ED11〜ED15のそれぞれを電圧を高く設定し、透明電極12と同じ電流が流れるものと調整するものである。
【0021】
【発明の効果】以上に説明したように本発明により、交番電圧は、正負極性電圧の双方が少なくとも各3段の昇圧部および降圧部を有する階段状波形とされているEL素子の駆動方法としたことで、EL素子に過電流による寿命の短縮を生じることなく、コンデンサ、コイルなどを使用することなく発生することができる波形の交番電圧での駆動を可能とし駆動回路を小型化し、この種の装置の全体構成の小型化に極めて優れた効果を奏するものである。
【0022】また、上記の構成としたことで、正極側の半サイクルと負極側の半サイクルとの電位を個別に設定することを可能とし、例えば電極の特性の相違などにより一方の電極の側の電圧に対する駆動効率が低く、これによりEL素子の全体としての発光光量が低下する問題に対しても、電流が高効率側と同一となるように低効率側の電圧を調整できるものとし、寿命に影響を及ぼすことなく光量の増加を可能とする優れた効果も奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るEL素子の駆動方法の第一の実施形態の電圧波形を示すグラフである。
【図2】 同じ第一の実施形態の電流波形を示すグラフである。
【図3】 同じ第一の実施形態による寿命特性を従来例との比較で示すグラフである。
【図4】 同じく本発明に係るEL素子の駆動方法の第二の実施形態の電圧波形を示すグラフである。
【図5】 EL素子の構成の例を示す説明図である。
【図6】 従来例の駆動方法における電圧波形を示すグラフである。
【符号の説明】
10……EL素子
11……発光層
12……透明電極
13……アルミ電極
E、E1……交番電圧
EU……昇圧部
EU01〜EU05、EU11〜EU15……電位
ED……降圧部
ED01〜ED05、ED11〜ED15……電位
A……電流波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】 発光層を透明電極とアルミ電極で挟み、両電極間に交番電圧を印加して成るEL素子の駆動方法において、前記交番電圧は、正極側の半サイクルと負極側の半サイクルとのそれぞれが少なくとも各三段の昇圧部および降圧部を有する階段状波形とされていることを特徴とするEL素子の駆動方法。
【請求項2】 前記交番電圧は、正極性側の半サイクルと負極側の半サイクルとの電位のグランド電位に対する絶対値を非対称として設定していることを特徴とする請求項1記載のEL素子の駆動方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【特許番号】特許第3229819号(P3229819)
【登録日】平成13年9月7日(2001.9.7)
【発行日】平成13年11月19日(2001.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−197683
【出願日】平成8年7月26日(1996.7.26)
【公開番号】特開平10−41068
【公開日】平成10年2月13日(1998.2.13)
【審査請求日】平成10年12月24日(1998.12.24)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【参考文献】
【文献】特開 昭53−105189(JP,A)
【文献】特開 平1−115090(JP,A)
【文献】特開 昭63−146394(JP,A)
【文献】特開 昭57−104985(JP,A)