説明

ESR装置およびそのチューニング方法

【課題】初心者でも、熟練者のようにチューニングを短時間で行なうことのできるESR装置のチューニング方法を提供する。
【解決手段】ESR装置のチューニング操作を開始する際には、予めESR装置の記憶手段に蓄積された過去のチューニング履歴を参照し、共振周波数、位相値、および共振器とマイクロ波線路との結合度を調整するカップリング・アジャスターの値を所定の情報をキーにして過去のチューニング履歴の中から検索することにより、現在の試料に最も適した3者の値を選び出し、それらの値をチューニングの初期値として、マイクロ波発振器、位相器、およびカップリング・アジャスターに設定した上で、チューニング操作を開始するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間でチューニングを行なえるESR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ESR装置は、磁場中に置かれた被測定試料にマイクロ波を照射しながら、照射したマイクロ波が被測定試料によって吸収される様子をスペクトルとして記録するようにした磁気共鳴装置の一種である。被測定試料中にフリーラジカルが存在すると、磁場の掃引に伴ってマイクロ波の吸収が起こり、フリーラジカルの分子構造を反映した吸収スペクトルが記録される。この吸収スペクトルを解析することにより、フリーラジカルの分子構造に関する情報を得ることができる。
【0003】
図1は、従来のESR装置のブロックダイアグラムである。図示しない被測定試料は、電磁石7により発生される静磁場内に設置された共振器3中に置かれる。発振器1より発生されたマイクロ波は、可変減衰器2で所定の電力に減衰された後、サーキュレータ3を介して共振器4に導入され、共振器4からの反射波がほとんどない状態にマイクロ波線路と共振器4との結合度を調整された後、電磁石7により静磁場の掃引が行なわれる。
【0004】
静磁場の掃引に伴ってESR現象が発生すると、共振器4内で被測定試料によるマイクロ波の吸収が起こり、共振器4のQ値が変化してマイクロ波の反射が起こり、サーキュレータ3を介して、反射マイクロ波が取り出される。この反射マイクロ波と、位相器5を介して送られてきた参照波で、位相検波器6による位相検波が行なわれ、ESR現象による吸収信号が検出される。
【0005】
尚、従来のESR装置では、発振器8で発生させた例えば100kHz程度の交流電流を、パワーアンプ9を介して変調コイル10に供給することにより、電磁石7が作る静磁場に変調磁場を重畳させて与え、100kHzで変調された吸収信号を観測している。この吸収信号を増幅器11で増幅し、発振器8と同期の取れた発振器12から供給される参照信号を用いて位相検波器13で位相検波することにより、DC成分としてのESRスペクトルを得ている。
【0006】
こうして得られたスペクトル信号に対して、必要に応じてDC可変器14の出力を調整して加算器15により加算し、オフセット成分を除去して、A/D変換器16で図示しないコンピュータに取り込む。
【0007】
【非特許文献1】山内淳著『磁気共鳴―ESR-電子スピンの分光学-』、2006年3月10日、サイエンス社刊、266〜271頁。
【0008】
【非特許文献2】大矢博昭、山内淳著『電子スピン共鳴―素材のミクロキャラクタリゼーション―』、1989年9月20日、講談社サイエンティフィク刊、25〜33頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、実際の測定では、共振器4からの反射マイクロ波がほとんどない状態に調整するチューニングの過程で、
(1)サーキュレータ3と共振器4を結ぶマイクロ波線路と共振器4との間に設けられたカップリング・アジャスター17の結合度調整。
(2)発振器1の周波数調整。
(3)位相器5の位相調整。
の3つの調整項目を同時に最適な条件に設定しなければならない。これらの調整手順を図2のフローチャートに示す。
【0010】
調整に際しては、まずマイクロ波周波数を変調して、所定の周波数範囲をオシロスコープに表示させ、Qディップの位置と形(対称性)を目視によって確認する。そして、Qディップの中心がオシロスコープの中央に来るように(2)を大まかに合わせる。
【0011】
次に、Qディップの深さが最適になるよう(1)を粗調整した後、Qディップの中心位置と形(対称性)とから(2)と(3)を調整し、調整された(2)と(3)に合うように(1)を再び微調整する。
【0012】
この微調整は、共振器4に入力されるマイクロ波電力を可変減衰器2で可変させたときに、共振器4からの反射波が常に一定値を示す結合度となるように行なう。ところが、この結合度を調整のため変更すると、せっかく調整していた(2)と(3)の最適値がずれてしまうという問題があった。
【0013】
そこで、(1)→(2)→(3)→(1)→(2)→(3)→……と一連の調整作業を何回も繰り返すことにより、徐々に調整項目全体を最適値に絞り込んでゆくのが、ESR装置においてチューニング方法の常道となっている。そのため、チューニングには時間と手間がかかり、初心者にとっては、熟練者のように手際よくチューニングを取ることがむつかしいという問題があった。
【0014】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、初心者でも、熟練者のようにチューニングを短時間で行なうことのできるESR装置のチューニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するため、本発明にかかるESR装置は、
発振周波数を可変できるマイクロ波発振器と、
内部に試料を設置できるマイクロ波共振器と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を前記マイクロ波共振器に導入すると共に、該マイクロ波共振器から反射される反射マイクロ波を後段の位相検波器に送る第1のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を、位相器を介して後段の前記位相検波器に前記反射マイクロ波の参照波として供給する第2のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、および前記マイクロ波共振器と前記第1のマイクロ波線路との結合度を調整するカップリング・アジャスターの値を任意の値に設定できる設定手段と、
過去の測定におけるESR装置のチューニング情報のうち、測定中のマイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、前記カップリング・アジャスターの値、またはこれら3者の値を調整したときの調整の向きに関する情報とともに、試料名、試料管の種類、測定の日時、および測定者の名前の内から少なくとも1つを併せた情報を記憶してデータベースを構築する記憶手段と、
過去のチューニング・データベースを参照し、前記3者の値を所定の情報をキーにして検索することにより、現在の試料に最も適した前記3者の値を選び出し、それらの値をチューニングの初期値として、前記マイクロ波発振器、前記位相器、および前記カップリング・アジャスターに設定する制御手段と
を備えたことを特徴としている。
【0016】
また、前記検索のキーとなる情報は、前記マイクロ波共振器内に試料を設置したときのマイクロ波共振器の共振周波数の値であり、該共振周波数の値を用いて前記測定中のマイクロ波発振器の発振周波数を検索することを特徴としている。
【0017】
また、前記検索のキーとなる情報は、試料名または試料管の種類であることを特徴としている。
【0018】
また、前記検索のキーとなる情報は、測定の日時または測定者の名前であることを特徴としている。
【0019】
また、本発明にかかるESR装置のチューニング方法は、
発振周波数を可変できるマイクロ波発振器と、
内部に試料を設置できるマイクロ波共振器と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を前記マイクロ波共振器に導入すると共に、該マイクロ波共振器から反射される反射マイクロ波を後段の位相検波器に送る第1のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を、位相器を介して後段の前記位相検波器に前記反射マイクロ波の参照波として供給する第2のマイクロ波線路と
を備えたESR装置のチューニング方法において、
前記マイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、および前記マイクロ波共振器と前記第1のマイクロ波線路との結合度を調整するカップリング・アジャスターの値の3者を任意の値に設定できるように構成されていて、
過去の測定におけるESR装置のチューニング情報のうち、測定中のマイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、前記カップリング・アジャスターの値、またはこれら3者の値を調整したときの調整の向きに関する情報とともに、試料名、試料管の種類、測定の日時、および測定者の名前の内から少なくとも1つを併せた情報を記憶してデータベースを構築する記憶手段を備え、
ESR装置のチューニング操作を開始する際には、予めESR装置の前記記憶手段に蓄積された過去のチューニング・データベースを参照し、前記3者の値を所定の情報をキーにして検索することにより、現在の試料に最も適した前記3者の値を選び出し、それらの値をチューニングの初期値として、前記マイクロ波発振器、前記位相器、および前記カップリング・アジャスターに設定するようにしたことを特徴としている。
【0020】
また、前記検索のキーとなる情報は、前記マイクロ波共振器内に試料を設置したときのマイクロ波共振器の共振周波数の値であり、該共振周波数の値を用いて前記測定中のマイクロ波発振器の発振周波数を検索することを特徴としている。
【0021】
また、前記検索のキーとなる情報は、試料名または試料管の種類であることを特徴としている。
【0022】
また、前記検索のキーとなる情報は、測定の日時または測定者の名前であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかるESR装置によれば、
発振周波数を可変できるマイクロ波発振器と、
内部に試料を設置できるマイクロ波共振器と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を前記マイクロ波共振器に導入すると共に、該マイクロ波共振器から反射される反射マイクロ波を後段の位相検波器に送る第1のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を、位相器を介して後段の前記位相検波器に前記反射マイクロ波の参照波として供給する第2のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、および前記マイクロ波共振器と前記第1のマイクロ波線路との結合度を調整するカップリング・アジャスターの値を任意の値に設定できる設定手段と、
過去の測定におけるESR装置のチューニング情報のうち、測定中のマイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、前記カップリング・アジャスターの値、またはこれら3者の値を調整したときの調整の向きに関する情報とともに、試料名、試料管の種類、測定の日時、および測定者の名前の内から少なくとも1つを併せた情報を記憶してデータベースを構築する記憶手段と、
過去のチューニング・データベースを参照し、前記3者の値を所定の情報をキーにして検索することにより、現在の試料に最も適した前記3者の値を選び出し、それらの値をチューニングの初期値として、前記マイクロ波発振器、前記位相器、および前記カップリング・アジャスターに設定する制御手段と
を備えたので、
初心者でも、熟練者のようにチューニングを短時間で行なうことのできるESR装置を提供することが可能になった。
【0024】
また、本発明にかかるESR装置のチューニング方法によれば、
発振周波数を可変できるマイクロ波発振器と、
内部に試料を設置できるマイクロ波共振器と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を前記マイクロ波共振器に導入すると共に、該マイクロ波共振器から反射される反射マイクロ波を後段の位相検波器に送る第1のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を、位相器を介して後段の前記位相検波器に前記反射マイクロ波の参照波として供給する第2のマイクロ波線路と
を備えたESR装置のチューニング方法において、
前記マイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、および前記マイクロ波共振器と前記第1のマイクロ波線路との結合度を調整するカップリング・アジャスターの値の3者を任意の値に設定できるように構成されていて、
過去の測定におけるESR装置のチューニング情報のうち、測定中のマイクロ波の共振周波数、前記位相器の位相値、前記カップリング・アジャスターの値、またはこれら3者の値を調整したときの調整の向きに関する情報とともに、試料名、試料管の種類、測定の日時、および測定者の名前の内から少なくとも1つを併せた情報を記憶してデータベースを構築する記憶手段を備え、
ESR装置のチューニング操作を開始する際には、予めESR装置の前記記憶手段に蓄積された過去のチューニング・データベースを参照し、前記3者の値を所定の情報をキーにして検索することにより、現在の試料に最も適した前記3者の値を選び出し、それらの値をチューニングの初期値として、前記マイクロ波発振器、前記位相器、および前記カップリング・アジャスターに設定するようにしたので、
初心者でも、熟練者のようにチューニングを短時間で行なうことのできるESR装置のチューニング方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0026】
図3は、本発明にかかるESR装置のブロックダイアグラムである。図示しない被測定試料は、電磁石7により発生される静磁場内に設置された共振器3中に置かれる。発振器1より発生されたマイクロ波は、可変減衰器2で所定の電力に減衰された後、サーキュレータ3を介して共振器4に導入され、共振器4からの反射波がほとんどない状態にマイクロ波線路と共振器4との結合度を調整された後、電磁石7により静磁場の掃引が行なわれる。
【0027】
静磁場の掃引に伴ってESR現象が発生すると、共振器4内で被測定試料によるマイクロ波の吸収が起こり、共振器4のQ値が変化してマイクロ波の反射が起こり、サーキュレータ3を介して、反射マイクロ波が取り出される。この反射マイクロ波と、位相器5を介して送られてきた参照波で、位相検波器6による位相検波が行なわれ、ESR現象による吸収信号が検出される。
【0028】
尚、従来のESR装置では、発振器8で発生させた例えば100kHz程度の交流電流を、パワーアンプ9を介して変調コイル10に供給することにより、電磁石7が作る静磁場に変調磁場を重畳させて与え、100kHzで変調された吸収信号を観測している。この吸収信号を増幅器11で増幅し、発振器8と同期の取れた発振器12から供給される参照信号を用いて位相検波器13で位相検波することにより、DC成分としてのESRスペクトルを得ている。
【0029】
こうして得られたスペクトル信号に対して、必要に応じてDC可変器14の出力を調整して加算器15により加算し、オフセット成分を除去して、A/D変換器16で図示しないコンピュータに取り込む。
【0030】
発振器1、可変減衰器2、位相器5、およびカップリング・アジャスター17には、ロータリー・エンコーダ付きの図示しないモータが組み込まれており、CPUなどの制御装置18により制御可能に構成されている。制御装置18には、ハードディスクなどの記憶装置19が附属しており、記憶装置19の内部には、ESR装置のチューニングに使用するさまざまなデータデースが保管されている。
【0031】
図4は、本発明にかかるESR装置のチューニング方法を示すフローチャートである。本実施例では、まず図3に示した発振器1、可変減衰器2、位相器5、ならびに共振器4へのマイクロ波入力部に設けられたカップリング・アジャスター17に、ロータリー・エンコーダ付きモータを組み込んで、これらの各部位がモータ駆動により自動調整可能な構成とする。
【0032】
次に、これら発振器1、可変減衰器2、位相器5、ならびに共振器4へのマイクロ波入力部に設けられたカップリング・アジャスター17のステータスを、モータに付いているロータリー・エンコーダの値から読み取れるようにする。
【0033】
すなわち、発振器1では、モータの回転によるネジ送り方式で、誘電体棒を発振器1の空洞部に出し入れすることにより、マイクロ波の発振周波数を可変させる。このとき、発振器1のステータスは、モータに付いているロータリー・エンコーダの値をマイクロ波の周波数に換算して読み取ることにより、知ることができる。尚、ネジの遊びにより、調整時におけるモータの回転の向きが異なると、同じ調整値でも、マイクロ波の発振周波数が異なる結果となる。そこで、再現性を高めるために、モータの回転の向きに関する情報も併せて記録しておく。
【0034】
次に、可変減衰器2では、モータの回転によるネジ送り方式で、内部の抵抗長を可変することにより、マイクロ波の通過電力を変化させる。このとき、可変減衰器2のステータスは、モータに付いているロータリー・エンコーダの値をマイクロ波の電力値に換算して読み取ることにより、知ることができる。尚、ネジの遊びにより、調整時におけるモータの回転の向きが異なると、同じ調整値でも、マイクロ波の電力値が異なる結果となる。そこで、再現性を高めるために、モータの回転の向きに関する情報も併せて記録しておく。
【0035】
次に、位相器5では、モータの回転によるネジ送り方式で、内部の線路長を可変することにより、マイクロ波の位相を変化させる。このとき、位相器5のステータスは、モータに付いているロータリー・エンコーダの値をそのまま読み取ることにより、知ることができる。尚、ネジの遊びにより、調整時におけるモータの回転の向きが異なると、同じ調整値でも、マイクロ波の位相値が異なる結果となる。そこで、再現性を高めるために、モータの回転の向きに関する情報も併せて記録しておく。
【0036】
次に、カップリング・アジャスター17では、モータの回転によるネジ送り方式で、内部の結合度調整部材の位置を変化させることにより、マイクロ波の結合度を変化させる。このとき、カップリング・アジャスター17のステータスは、モータに付いているロータリー・エンコーダの値をそのまま読み取ることにより、知ることができる。尚、ネジの遊びにより、調整時におけるモータの回転の向きが異なると、同じ調整値でも、マイクロ波の結合度が異なる結果となる。そこで、再現性を高めるために、モータの回転の向きに関する情報も併せて記録しておく。
【0037】
こうして得られるマイクロ波発振器1のステータス、位相器5のステータス、カップリング・アジャスター17のステータスを3者1組にして、最適にチューニングされた状態での値を、そのときのQディップの形とともに、ハードディスクなどの記憶手段19の中に登録して、記憶させておく。
【0038】
マイクロ波発振器1のステータス、位相器5のステータス、カップリング・アジャスター17のステータスは、その最適値が試料の種類、大きさ、形などにしたがって変化し、同じ種類、同じ大きさ、同じ形の試料では、ステータスの最適値に再現性がある。
【0039】
そこで、新しく未知試料を共振器4に挿入した場合には、まずマイクロ波発振器1のモータを駆動して、Qディップの位置を探し、ロータリー・エンコーダの値から共振器4の共振周波数を求める。
【0040】
次に、その共振周波数をキーにして、その共振周波数と一致するマイクロ波発振器1の発振周波数のステータスを持った過去のチューニング履歴を、記憶装置19内に記憶させたデータベースの中で検索し、最も近い値を持つ3者のステータスの値を読み出して、位相器5のステータスとカップリング・アジャスター17のステータスをその値に初期設定させる。
【0041】
これにより、まったくの未知試料であっても、チューニングの初期値を比較的最適値に近い状態にセットすることができる。最適値に近い状態からチューニング操作を出発させることができるので、あとは従来と同様の操作を若干繰り返すだけで、初心者であっても熟練者のようにチューニングを短時間で終えることができる。
【0042】
この実施例によれば、熟練者により様々な試料で予めチューニング情報を取得しておくか、または、オートチューニング機構で十分にチューニングされた結果は自動的にセーブされるので、その履歴をデータベースとして構築しておくかしさえすれば、そのデータベースをハードディスクなどの記憶手段に読み込ませるだけで、いつ、どこで、どの装置に対してでも、チューニングの初期値を比較的最適値に近い状態にセットすることができ、最適値に近い状態からチューニング操作を出発させることができる。
【実施例2】
【0043】
上記実施例では、発振器1のステータス(マイクロ波回路の共振周波数に同じ)をキーにしてチューニングの初期値を検索し、設定するようにしたが、ESR装置のチューニング情報を記憶装置に記憶させる際に、測定中のマイクロ波の共振周波数、前記位相器の位相値、前記カップリング・アジャスターの値とともに、試料名、試料管の種類、測定の日時、および測定者の名前の内から少なくとも1つを併せた情報を記憶させておき、発振器1の発振周波数の値の代わりに、試料名や試料管の種類、あるいは測定を行なった日時や測定者の名前などをキーにして、チューニングの初期値の登録および検索を行なっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
ESR測定に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】従来のESR装置の一例を示す図である。
【図2】従来のESR装置のチューニング方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明にかかるESR装置の一実施例を示す図である。
【図4】本発明にかかるESR装置のチューニング方法の一実施例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1:発振器、2:可変減衰器、3:サーキュレータ、4:共振器、5:位相器、6:位相検波器、7:電磁石、8:発振器、9:パワーアンプ、10:変調コイル、11:増幅器、12:発振器、13:位相検波器、14:DC可変器、15:加算器、16:A/D変換器、17:カップリング・アジャスター、18:制御装置、19:記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振周波数を可変できるマイクロ波発振器と、
内部に試料を設置できるマイクロ波共振器と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を前記マイクロ波共振器に導入すると共に、該マイクロ波共振器から反射される反射マイクロ波を後段の位相検波器に送る第1のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を、位相器を介して後段の前記位相検波器に前記反射マイクロ波の参照波として供給する第2のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、および前記マイクロ波共振器と前記第1のマイクロ波線路との結合度を調整するカップリング・アジャスターの値を任意の値に設定できる設定手段と、
過去の測定におけるESR装置のチューニング情報のうち、測定中のマイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、前記カップリング・アジャスターの値、またはこれら3者の値を調整したときの調整の向きに関する情報とともに、試料名、試料管の種類、測定の日時、および測定者の名前の内から少なくとも1つを併せた情報を記憶してデータベースを構築する記憶手段と、
過去のチューニング・データベースを参照し、前記3者の値を所定の情報をキーにして検索することにより、現在の試料に最も適した前記3者の値を選び出し、それらの値をチューニングの初期値として、前記マイクロ波発振器、前記位相器、および前記カップリング・アジャスターに設定する制御手段と
を備えたことを特徴とするESR装置。
【請求項2】
前記検索のキーとなる情報は、前記マイクロ波共振器内に試料を設置したときのマイクロ波共振器の共振周波数の値であり、該共振周波数の値を用いて前記測定中のマイクロ波発振器の発振周波数を検索することを特徴とする請求項1記載のESR装置。
【請求項3】
前記検索のキーとなる情報は、試料名または試料管の種類であることを特徴とする請求項1記載のESR装置。
【請求項4】
前記検索のキーとなる情報は、測定の日時または測定者の名前であることを特徴とする請求項1記載のESR装置。
【請求項5】
発振周波数を可変できるマイクロ波発振器と、
内部に試料を設置できるマイクロ波共振器と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を前記マイクロ波共振器に導入すると共に、該マイクロ波共振器から反射される反射マイクロ波を後段の位相検波器に送る第1のマイクロ波線路と、
前記マイクロ波発振器から供給されるマイクロ波の一部を、位相器を介して後段の前記位相検波器に前記反射マイクロ波の参照波として供給する第2のマイクロ波線路と
を備えたESR装置のチューニング方法において、
前記マイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、および前記マイクロ波共振器と前記第1のマイクロ波線路との結合度を調整するカップリング・アジャスターの値の3者を任意の値に設定できるように構成されていて、
過去の測定におけるESR装置のチューニング情報のうち、測定中のマイクロ波発振器の発振周波数、前記位相器の位相値、前記カップリング・アジャスターの値、またはこれら3者の値を調整したときの調整の向きに関する情報とともに、試料名、試料管の種類、測定の日時、および測定者の名前の内から少なくとも1つを併せた情報を記憶してデータベースを構築する記憶手段を備え、
ESR装置のチューニング操作を開始する際には、予めESR装置の前記記憶手段に蓄積された過去のチューニング・データベースを参照し、前記3者の値を所定の情報をキーにして検索することにより、現在の試料に最も適した前記3者の値を選び出し、それらの値をチューニングの初期値として、前記マイクロ波発振器、前記位相器、および前記カップリング・アジャスターに設定するようにしたことを特徴とするESR装置のチューニング方法。
【請求項6】
前記検索のキーとなる情報は、前記マイクロ波共振器内に試料を設置したときのマイクロ波共振器の共振周波数の値であり、該共振周波数の値を用いて前記測定中のマイクロ波発振器の発振周波数を検索することを特徴とする請求項5記載のESR装置のチューニング方法。
【請求項7】
前記検索のキーとなる情報は、試料名または試料管の種類であることを特徴とする請求項5記載のESR装置のチューニング方法。
【請求項8】
前記検索のキーとなる情報は、測定の日時または測定者の名前であることを特徴とする請求項5記載のESR装置のチューニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−115577(P2009−115577A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288165(P2007−288165)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)