説明

Eph受容体を調節することによる神経系内のグリオーシス、グリア瘢痕、炎症、または軸索成長阻害の処置

【課題】本発明は、神経系の障害、特に中枢神経系内のグリオーシス反応および/または炎症反応に関連する障害の治療法、ならびにそのために有用な治療薬を提供する。特に、本発明は、神経系への疾患または損傷の間および/または後に起こる、Eph受容体仲介性グリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症および/もしくはEph受容体仲介性の軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させる方法も提供する。
【解決手段】対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症および/もしくは軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させるための、Eph受容体仲介性シグナル伝達のレベルを低下させるために、Eph受容体のレベルおよび/もしくは機能、またはEph受容体機能に必要とされる分子を低減させる薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、神経系の障害、特に中枢神経系内のグリオーシス反応および/または炎症反応に関連する障害の治療法と、そのために有用な治療薬に関する。特に、本発明は、神経系への疾患または損傷の間および/または後に起こる、Eph受容体仲介性グリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症および/もしくはEph受容体仲介性の軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させる方法を含む。本発明は、Eph受容体仲介性シグナル伝達を調節する治療薬の同定も促進する。本発明の方法および治療薬は、特に、脳または脊髄への生理的、病理的または外傷による損傷によって誘導される麻痺を含む、一連の神経系の疾患、状態および損傷を治療するために有用である。
【背景技術】
【0002】
先行技術の説明
本明細書中のいかなる先行技術への参照も、この先行技術が任意の国の共通する一般的知識の一部をなすとの自認または示唆の任意の形であるわけではなく、またそのように理解されるべきではない。
【0003】
本文書中で提供される参照文献の詳細は、本明細書の末尾に列挙する。
【0004】
神経系、特に中枢神経系は、疾患または損傷後に再生する能力が限られている。多くの場合、中枢神経系への疾患または損傷によって引き起こされるダメージは、永続的な精神および/または身体障害をきたす。障害が人々にもたらす重大な個人的苦痛に加えて、中枢神経系の疾患および損傷により、社会は治療、リハビリテーションおよび持続的福祉において年間数十億ドルを費やしている。
【0005】
中枢神経系の修復欠如の原因となる主な因子の一つは、軸索がダメージ領域で再生できないことである。これに対して考えられる理由の一つは、軸索の再成長を阻害するタンパク質がダメージ領域内に存在することである。事実、Nogo(Bandtlow and Schwab, Glia 29:175-181, 2000;Chen et al, Nature 403:434-439, 2000)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG;McKerracher et al, Neuron 13:805-811, 1994;Mukhopadhyay et al, Neuron 13:757-767, 1994)および特定のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(Dou et al, J Neurosci 14:7616-7628, 1994;Stichel et al, Eur J Neurosci 7:401-411, 1995;Niederost et al, J Neurosci 19:8979-8989, 1999)などのタンパク質はすべて軸索成長阻害特性を有することが明らかにされている。しかし、最近の研究により、これらのタンパク質を阻止または欠失しても、軸索再生における改善はわずか、またはまったく見られないことが示された(Kim et al, Neuron 38:187-199, 2003;Simonen et al, Neuron 38:201-211, 2003;Zheng et al, Neuron 38:187-199, 2003)。
【0006】
疾患または損傷によりダメージを受けた中枢神経系の領域で軸索が再生できないことについて考えられるもう一つの理由は、グリア瘢痕である。グリア瘢痕は、神経ダメージ部位に形成される、再生中の軸索に対する高密度な機械的およびおそらくは生化学的障壁である(Stichel and Muller, Cell Tissue Res 294:1-9, 1998)。瘢痕は反応性星状細胞、ミクログリア、乏突起膠細胞前駆体、およびしばしば線維芽細胞で構成される。さらに、グリア瘢痕は前述のものなどの阻害因子の供給源としてもはたらく(McKeon et al., J Neurosci 11:3398-3411, 1991;Stichel et al., Eur J Neurosci 11:632-646, 1999)。いくつかの研究により、グリア瘢痕形成は炎症サイトカインによって調節されうることが示唆されている(Balasingam et al., J Neurosci 14:846-856, 1994)。軸索の成長を阻害することが知られている分子ファミリーは、受容体型チロシンキナーゼのエリスロポエチン産生肝細胞癌細胞株(Eph)ファミリーおよびそれらの関連するリガンド、Ephファミリー受容体相互作用タンパク質(エフリン)である。Ephおよびエフリンは、特に、いくつかの神経系における軸索連結の正しい発生に必要とされる、軸索誘導分子の主要な群をなす(Flanagan and Vanderhaeghen, Ann Rev Neurosci 21:309-345, 1998;Holder and Klein, Development 126:2033-2044, 1999;O'Leary and Wilkinson, Curr Opin Neurobiol 9:65-73, 1999;Nakamoto, Int J Biochem Cell Biol 32:7-12, 2000)。Eph/エフリンファミリーのメンバーは、発生中の中枢神経系内で動的で空間的に制限された発現パターンを示すことが多い(Mori et al., Brain Res Mol Brain Res 29:325-335, 1995;Kilpatrick et al., Mol Cell Neurosci 7:62-74, 1996;Martone et al., Brain Res 771:238-250, 1997;Connor et al., Dev Biol 193:21-35, 1998;Iwamasa et al., Dev Growth Diff 41:685-698, 1999;Imondi et al., Development 127:1397-1410, 2000;Kury et al., Mol Cell Neurosci 15:123-140, 2000)。現在のところ、少なくとも14個の公知のEph受容体と8個のエフリンリガンドがある(Eph Nomenclature Committee, Cell 90:403-404, 1997)。リガンドはすべて膜結合型で、構造および機能に基づきエフリン-Aおよびエフリン-Bの二群に分類される。エフリン-Aリガンドはグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを介して細胞膜に結合するが、エフリン-Bリガンドは膜貫通ドメインおよび細胞質領域を有する。
【0007】
Eph受容体も、配列相同性により、EphAおよびEphBの二群に分類されている。一般に、EphA受容体はエフリン-Aリガンドと結合し、EphB受容体はエフリン-Bリガンドと結合するが、EphA4は例外で、エフリン-Aリガンドだけでなく、エフリンB2およびエフリンB3とも結合する(Gale et al., Oncogene 13:1343-1352, 1996;Bergemann et al., Oncogene 16:471-480, 1998)。エフリンは、Eph受容体に結合しているエフリンによって開始される接触依存性反発メカニズムを介しての軸索神経支配の阻害領域を規定するとの仮説が立てられている(Flanagan and Vanderhaeghen, supra;Kalo and Pasquale, Cell Tissue Res 298:1-9, 1999;Mueller, Ann Rev Neurosci 22:351-388, 1999)。しかし、最近、いずれのエフリン群のメンバーも、それらの同族のEph受容体による活性化後にシグナルを伝達することにより、受容体として作用することが明らかにされている(Holland et al., Nature 383:722-725, 1996;Bruckner et al., Science 275:1640-1643, 1997;Davy et al., Genes Dev 13:3125-3135, 1999)。
【0008】
神経系疾患、状態および損傷の衰弱させる性質を考慮して、治療または予防薬として作用する可能性のある物質を同定することが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本明細書を通して、文脈からそうではないことが要求されない限り、「含む(comprise)」なる用語や、「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」などの変形は、述べられた整数もしくは段階、または整数もしくは段階群の包含を意味するが、任意の他の整数もしくは段階、または整数もしくは段階群の除外を意味するものではないことが理解されると思われる。
【0010】
本明細書において用いられる略語を表1に定義する。
【0011】
本発明は、疾患または損傷後の神経系、特に中枢神経系内のグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症はEph受容体によって仲介され、神経損傷または疾患部位のEph仲介性シグナル伝達のレベルを低減させることで、グリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止または低減しうるという判断に部分的に基づいている。グリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症の防止または低減は、中枢神経系内の軸索再生を促進する。加えて/または、軸索成長の阻害を物理的に防止するためにEph受容体に拮抗することが提唱されている。したがって、グリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症はEph受容体、特にEphA4によって調節されるとの判断により、特に、脳もしくは脊髄への生理的、病理的もしくは外傷による損傷または卒中によって誘導される麻痺を含む、様々な疾患、状態または損傷の間またはそれらから生じるものなどの神経系の障害を治療する方法の開発、およびそのために有用な治療薬の開発が促進される。したがって、Eph受容体およびそのリガンドは、Eph受容体仲介性グリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止または低減させる物質の適当な標的であることが提唱される。
【0012】
したがって、一つの態様において、本発明は、神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止する、またはその量を低減させる方法であって、Eph受容体仲介性シグナル伝達のレベルを低下させるために、Eph受容体のレベルおよび/もしくは機能、またはEph受容体機能に必要とされる分子を低減させる段階を含む方法を企図する。
【0013】
一般に、Eph受容体のレベルおよび/または機能の低減は、対象にEph受容体仲介性シグナル伝達および/または神経炎との相互作用を防止する物質を投与することによる。
【0014】
さらにもう一つの態様において、本発明は、神経損傷または疾患の部位でEph受容体仲介性シグナル伝達のレベルを低減させるのに有用な、Eph仲介性シグナル伝達のアンタゴニストの形の物質を提供する。この物質は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体などの任意のタンパク質性分子、または核酸分子および小型から中型の化学分子などの非タンパク質性分子であってもよい。
【0015】
好ましくは、Eph受容体はEphA4受容体である。
【0016】
本発明は、物質の同定法も提供する。これらの同定法は、天然物ライブラリ、化学分子ライブラリならびにコンビナトリアルライブラリ、ファージディスプレイライブラリおよびインビトロ翻訳ライブラリをスクリーニングする段階を含む。
【0017】
さらにもう一つの態様において、本発明は、対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症および/もしくは軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させる方法であって、対象にEphA4仲介性シグナル伝達のアンタゴニストの有効量をグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止または低減させるのに十分な期間および条件下で投与する段階を含む方法を提供する。
【0018】
EphA4受容体仲介性シグナル伝達のアンタゴニストは、単独で投与してもよく、あるいは神経形成および/もしくは軸索成長を促進する、ならびに/または炎症を阻害する物質などの他の物質との組み合わせで同時投与してもよい。単独またはEphA4アンタゴニストとの組み合わせで用いるために、本発明は一つまたは複数の炎症サイトカインに拮抗する広域または狭域特異的物質を特に企図する。
【0019】
本発明は、対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止する、またはその量を低減させるために有用な薬学的組成物も提供する。
【0020】
さらにもう一つの態様において、本発明は、対象の一連の神経系疾患、状態および損傷の治療法であって、対象にEphA4仲介性シグナル伝達のアンタゴニストの有効量を神経系疾患、状態および損傷を治療するのに十分な期間および条件下で投与する段階を含む方法を提供する。
【0021】
(表1)略語

【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症および/もしくは軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させるための、Eph受容体仲介性シグナル伝達のレベルを低下させるために、Eph受容体のレベルおよび/もしくは機能、またはEph受容体機能に必要とされる分子を低減させる薬剤である。
また、本発明は、物質の有効性を測定する方法であって、非ヒト実験対象の中枢神経系を傷害する段階と、試験する物質を前記傷害中枢神経系に前記物質の有効性を評価するのに適した期間および条件下で投与する段階と、次いで一定期間後に前記中枢神経系傷害の部位でグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症および/または軸索再生成長のレベルを評価する段階とを含む方法でもある。
本発明は、物質の有効性を測定する方法であって、細胞を試験する物質とインビトロで該物質の有効性を評価するのに適した期間および条件下で接触させる段階と、次いで一定期間後にグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症および/または軸索再生に関与する前記細胞の性向を評価する段階とを含む方法でもある。
本発明は、対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止する、またはその量を低減させるための、EphA4仲介性シグナル伝達のアンタゴニストでもある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、脊髄損傷(SCI)の6日後にEphA4-/-軸索が傷害部位に接近しているが、交差はしないことを示す写真である。半側切断6日後の傷害EphA4-/-脊髄の順行性トレーシングおよび共焦点分析(a)は、傷害に対して2.5mm近位に多数の標識軸索(図ia)、および傷害部位に接近する、成長円錐を有する少数の軸索(図aのiii;矢印)を示しており、傷害部位は点線(i)で示し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色断面(ii)においてより明瞭に示されている。(b)野生型脊髄も傷害部位に接近する非常に少数の軸索を示している。図( b ia)は傷害部位の2.5mm上流の標識を示す。図(b iii)は図(b i)の拡大で、傷害部位の上流に軸索がほとんどないことを示している。いずれの図においても、頭側が右で、尾側が左であり、傷害部位は点線で示す。拡大領域は囲み領域および矢印で示す。縮尺バーはi 250μm、ii 200μm、iii 50μmである。
【図2】図2は、損傷の6週間後のEphA4-/-マウスにおける大規模な軸索再生を示す写真である。半側切断6週間後の傷害EphA4-/-脊髄の順行性トレーシングおよび共焦点分析は、傷害部位を交差しなかった野生型(EphA4+/+)軸索(b、c)とは異なり、高い割合のEphA4-/-軸索が傷害部位を交差し(a、c)、尾側へ伸長することを示した(*p<0.001)。EphA4-/-脊髄の共焦点画像のモンタージュ(a i)は、再生中の軸索が傷害部位(点線および(a ii)におけるH&E染色断面で示す)を通過し、傷害直後に見られるいくらかの「波形」(図a iii、ivおよびv)を伴う直線で尾側へと伸長することを示した。いずれの図においても、頭側が右で、尾側が左であり、傷害部位は点線で示す。拡大領域は囲み領域および矢印で示す。いずれの場合も図(ii)は、傷害部位を示す隣接H&E染色断面を示している。縮尺バーは図(i)250μm;図(ii)200μm、図(iiiからv)50μmである。図(a i)のアステリスクは中線を示す。
【図3】図3は、EphA4(-/-)マウスで複数の路再生および機能改善が見られることを示す写真およびグラフである。再生ニューロン群の同定はFast Blueを用いた順行性トレーシングによって行い(a〜c)、それぞれのニューロンをMD3顕微鏡ディジタイザーおよびMD-プロットソフトウェアを用いてプロットした。傷害野生型(WT)マウス(b)とは異なり、傷害EphA4-/-(KO)マウスでは複数の軸索路が再生し(a、b)、そのパターンは非傷害対照群(c)と類似であった。再生ニューロンは皮質の第5層における皮質脊髄ニューロン(ai、b)、赤核(RN)中の赤核脊髄ニューロン(aii、b)、ならびに視床下部(Hyp)、前庭(VN)および網様核や中脳水道周囲灰白質(PAG)におけるニューロンを含んでいた。aの縮尺バーは200μmである。傷害マウスの機能分析により、EphA4-/-マウスは1ヶ月以内に実質的機能を回復することが示された。傷害の1日(1d)後、歩幅(d)、後足把握(e)および水平または角度をつけた(75°)格子上の歩行能力(f)は最小であった。歩幅はKOマウスで3週間以内に回復したが、野生型マウスは70%回復でプラトーに達した。把握および格子歩行は1ヶ月でWTに比べてKOで有意(*P<0.001、n=5WTおよび7KOマウス)に改善され、3ヶ月まで改善が続いた。
【図4】図4は星状細胞腫を示す写真で、グリア瘢痕は損傷後のEphA4-/-マウスで大幅に減少している。脊髄傷害から4日後の傷害部位のGFAP発現に対する免役染色により、野生型マウス(a)で鮮紅色の星状細胞腫が見られたが、これはEphA4-/-マウス(d)では実質的に見られなかった。より高い倍率では、野生型マウスの星状細胞の大多数は、EphA4-/-星状細胞(黒矢印)(e、g)とは異なり、肥大性である(白色矢印)(b、g)ことが明らかとなった(*p<0.0001)。星状細胞の総数は傷害後の時間と共に増加し、EphA4+/+脊髄でより多かった(h)。グリア瘢痕の成分であるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの、傷害から6週間後の免疫染色により、瘢痕はEphA4-/-マウス(f)では野生型マウス(c)に比べて減少していることが明らかとなった。図(a、d)の縮尺バーは200μmで;(b、e)では50μm;(c、f)では200μmである。
【図5】図5は、星状細胞上のEphA4の発現は神経突起増殖を阻害することを示す写真である。脊髄半側切断後、傷害部位の反応性星状細胞における免疫蛍光により評価して、EphA4(a)およびGFAP(b)は同時発現される(c;aおよびbの組み合わせ画像)。EphA4は一部の神経突起上でも発現された(a〜cの矢印)。ウェスタンブロット分析(d)により、非傷害対照マウスに比べて、傷害部位におけるEphA4のアップレギュレーションおよびリン酸化(p-EphA4)が明らかとなった;*はすべてのレーンに見られた非特異的バンドを示している。ローディング対照としてβ-アクチンを用い、EphA4発現対照としてEphA4-/-脊髄を用いた。22時間後のEphA4発現(EphA4+/+)星状細胞上のβIII-チューブリン陽性皮質ニューロン(e、g)はEphA4-/-星状細胞上のもの(f、g)に比べて有意(*p<0.0001)に短い神経突起を有していたため、星状細胞上のEphA4発現は皮質ニューロン神経突起増殖に対して阻害性であった。また、野生型ニューロンのものに比べると、EphA4-/-神経突起増殖はEphA4-/-およびEphA4+/+星状細胞上で増強された(g;**p<0.0001)。星状細胞上のEphA4による神経突起増殖の阻害は、単量体エフリンA5-Fcの添加によって用量依存的に阻止することができたが、これはラミニン上で増殖した神経突起には無効であった(h)。多量体化(multi)エフリンA5-Fcは星状細胞とラミニン両方における神経突起増殖を阻害した。(a〜cおよびe、f)の縮尺バーは50μmである。
【図6】図6は、(a)培養星状細胞におけるEphA4の発現は、未処置対照に比べて、IFNγおよびLIFにより72時間後にアップレギュレートされたが、TNFαまたはIl-1ではそのような効果はなかったことを示す写真およびグラフである。これらのサイトカインは、エフリンA5-Fc(A5)と同様、EphA4リン酸化(p-EphA4)も誘導した。(b)EphA4リン酸化は細胞骨格調節物質であるRhoの活性化(RhoGTP)を引き起こす。Rhoは野生型の傷害部位で活性化されたが、EphA4-/-傷害脊髄では活性化されなかった(L1、L2)。一方(c)、培養細胞において、星状細胞腫の誘導物質であるIFNγは野生型でRhoを活性化したが、EphA4-/-星状細胞では活性化しなかった。(d)インビトロ星状細胞増殖アッセイにより、基礎的条件下では、野生型(WT)およびEphA4-/-(KO)星状細胞はいずれも72時間で同様に増殖することが判明した。WT星状細胞はLIF(*P<0.001)およびIFNγ(*P<0.005;**P<0.05)に反応して増殖増大を示したが、EphA4-/-星状細胞のこれら因子に対する反応は著しく低下し、72時間の時点でのLIFに対する反応だけが有意であった(*P<0.005)。結果はn=3の別々の実験の代表例である。
【図7】図7は、SCIから4日後の傷害部位における星状細胞グリオーシスを示す写真およびグラフである。(A)PBS注射(AおよびC)に比べて、エフリンA5-Fcを注射した動物における星状細胞グリオーシスは有意に減少している(BおよびD)。(B)PBS注射に比べて、SCI部位の星状細胞総数/mm2はエフリンA5-Fcを注射した動物で有意に低下する。
【図8】図8は、PBS注射に比べて、2週間のエフリンA5-Fc注射はSCIから14日後の傷害部位でEphA4アップレギュレーションを阻害することを示す写真である。
【図9】図9は、2週間のエフリンA5-Fc注射はSCIから14日後の傷害部位で軸索再生を増大させることを示す写真である。
【図10】図10は、2週間のPBS注射はエフリンA5-Fcを注射した動物(図9)に比べて、SCIから14日後の傷害部位で軸索再生を増大させないことを示す写真である。
【図11】図11は、エフリンA5-Fcを注射した動物におけるSCIから4週間後の格子歩行およびよじ登りの改善を示すグラフである。
【図12】図12は、2週間のエフリンA5-Fc注射はSCIから6週間後の傷害部位で軸索再生を有意に増大させることを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、疾患または損傷後の中枢神経系内のグリア瘢痕形成はEph受容体、特にEph仲介性シグナル伝達によって仲介されという確認に部分的に基づいている。グリア瘢痕形成はEph受容体によって調節されるとの判断により、疾患もしくは損傷の間またはそれによって生じるものなどの神経系の障害を治療する方法の開発、およびそのために有用な治療薬の開発が促進される。
【0025】
本発明を詳細に説明する前に、特に記載がない限り、本発明は特定の治療成分、製造法、投与法などに限定されることはなく、したがって変動しうることが理解されるべきである。また、本明細書において用いられる用語は特定の態様を説明するためのものにすぎず、限定を意図するものではないことも理解されるべきである。
【0026】
本明細書において用いられる単数形(「a」、「an」および「the」)は、文脈からそうではないことが明らかに示されていない限り、複数の局面を含むことも留意されなければならない。したがって、例えば、「Eph受容体(an Eph receptor)」とは単一のEph受容体、ならびに二つまたはそれ以上のEph受容体を含み;「治療薬(a therapeutic agent)」とは単一の治療薬、ならびに二つまたはそれ以上の治療薬を含む等々。
【0027】
「グリオーシス」なる用語は、軸索成長阻害を含むグリオーシス反応をきたす任意の状態を含む。
【0028】
本明細書における「グリオーシス」とは、相当量のグリア細胞増殖ならびに/またはグリア肥大ならびに/またはGFAPおよび/もしくはCSPGなどの特定のマーカーの発現を意味する。本明細書における「グリア細胞」とは、星状細胞、乏突起膠細胞、シュワン細胞およびミクログリアなどであるが、それらに限定されるわけではない、グリア系列の任意の細胞への言及を意味する。これは、一つの態様において、神経系の一領域であるグリア瘢痕形成を引き起こすことがあり、軸索の成長を物理的に阻害することにより、または様々な生体メカニズムを通して軸索の成長を阻害する阻害因子を放出することにより、その後の軸索再生を阻害する。
【0029】
一つの態様において、本発明は、対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/または炎症軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させる方法であって、Eph受容体仲介性シグナル伝達のレベルを低下させるために、対象にEph受容体のレベルおよび/もしくは機能、またはEph受容体機能に必要とされる分子を低減させる物質を投与する段階を含む方法を提供する。
【0030】
本明細書における「Eph受容体」とは、EphA1、EphA2、EphA3、EphA4、EphA5、EphA6、EphA7、EphA8、EphB1、EphB2、EphB3、EphB4、EphB5およびEphB6などであるが、それらに限定されるわけではない、受容体型チロシンキナーゼのEphファミリーのメンバーである任意の受容体を意味する。好ましくは、本発明のEph受容体はEph受容体のEphA群のメンバーである。本発明の最も好ましいEph受容体はEphA4である。
【0031】
したがって、もう一つの態様において、本発明は、対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症および/もしくは軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させる方法であって、EphA4受容体仲介性シグナル伝達のレベルを低下させるために、対象にEphA4受容体の発現および/もしくは機能、または正常なEphA4受容体機能に必要とされる分子を低減させる物質を投与する段階を含む方法を提供する。
【0032】
本明細書における「EphA4」とは、EphA4ホモログ、パラログ、オルソログ、誘導体、断片および機能的等価物などのすべての形のEphA4への言及を含む。
【0033】
「対象」とは、ヒトならびに非ヒト霊長類、実験動物、コンパニオンアニマルまたは野生動物を含む。好ましくは、対象はヒトである。
【0034】
本発明は、EphA4受容体のリガンド、すなわちエフリン、または正常なエフリン機能に必要とされる分子のレベルを調節することによって実施することもできる。特に好ましいエフリンは、エフリンA2、エフリンA3、エフリンA4、エフリンA5、エフリンA6、エフリンB1、エフリンB2およびエフリンB3などであるが、それらに限定されるわけではない、EphA4と機能的に相互作用するエフリンである。本明細書における「機能的に相互作用する」とは、Eph受容体に結合することを意味し、ここで結合はEph受容体の活性化および生体反応の誘発をもたらす。本明細書における「エフリン」とは、エフリンホモログ、パラログ、オルソログ、誘導体、断片および機能的等価物などのすべての形のエフリンへの言及を含む。加えて/または、Eph受容体アンタゴニストは神経突起との相互作用を防止することもあり、したがって軸索成長阻害につながる。
【0035】
EphA4およびエフリンリガンドのレベルは、本発明に従い物質によって調節してもよい。加えて、下流シグナル伝達経路におけるキナーゼ活性もしくはレベルまたは他の成分も物質によって調節することができる。「物質」は治療薬、治療分子、予防分子、化合物、活性物、または活性成分と呼ぶこともある。本発明の物質はEphA4仲介性シグナル伝達の任意のアンタゴニストであることが企図される。
【0036】
本発明の文脈において、EphA4仲介性シグナル伝達アンタゴニストは、EphA4仲介性シグナル伝達の完全な抑制、またはそのレベルの実質的低下をもたらす任意の物質である。本明細書における「実質的低下」とは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、64、66、67、68、69、70、71、72、73、74,75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89または90%低下などのEphA4仲介性シグナル伝達の正常なレベルのゼロから約90%までの低下を意味する。
【0037】
好ましくは、本発明のEphA4仲介性シグナル伝達アンタゴニストは、可溶性EphA4受容体もしくはエフリンアンタゴニストまたはEphA4受容体もしくはエフリンアンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体あるいは構造的類似物質である。例示的アンタゴニストには、可溶性EphA4受容体もしくはリガンド結合分子またはその類似物質、改変リガンド分子、抗体分子、小から中型遮断分子および遺伝分子が含まれる。アンタゴニストには、EphA4レベルを阻害するための下流シグナル伝達経路のキナーゼ活性もしくはレベルまたは他の成分のアンタゴニストも含まれる。軸索成長のEphA4仲介性阻害に拮抗するために直接または間接的に作用する任意のアンタゴニストも、本発明によって企図される。そのような分子はすべて「物質」なる用語に含まれる。
【0038】
本明細書における「物質」とは、天然、組換えまたは合成起源からの任意のタンパク質性または非タンパク質性分子を意味すると理解されるべきである。有用な起源には、天然ライブラリ、化学分子ライブラリならびにコンビナトリアルライブラリ、ファージディスプレイおよびインビトロ翻訳ライブラリのスクリーニングが含まれる。
【0039】
一つの態様において、EphA4仲介性シグナル伝達の完全な抑制、またはそのレベルの実質的低下のために有用な本発明の物質は、化学またはタンパク質性分子でありうる。
【0040】
ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質を含むタンパク質性分子に関連して、区別なく、突然変異体、部分、誘導体、ホモログ、類縁体または類似物質なる用語は、EphA4仲介性シグナル伝達を完全に抑制する、またはそのレベルを実質的に低下させる、EphA4仲介性シグナル伝達アンタゴニストの別の形を含むことになる。突然変異体は、一つまたは複数のアミノ酸置換、欠失または付加を含むEphA4仲介性シグナル伝達アンタゴニストの、天然または人工的に生成された変異体でありうる。突然変異体は突然変異生成もしくは他の化学的方法によって誘導してもよく、または組換えもしくは合成により生成してもよい。アラニンスキャニングは重要なアミノ酸を同定するための有用な技術である(Wells, Methods Enzymol 202:2699-2705, 1991)。この技術において、アミノ酸残基をアラニンで置き換え、ペプチド活性に対するその影響を評価する。ペプチドの各アミノ酸残基をこの様式で分析して、ポリペプチドの重要な領域を決定する。突然変異体を、そのEphA4受容体またはその対応するエフリンに拮抗する能力、および寿命、結合親和性、解離速度、膜交差能力または神経系内のグリオーシスおよびグリア瘢痕形成を防止する、もしくはその量を低減させる能力などの他の特性について試験する。
【0041】
本発明の物質の区分は、全長EphA4仲介性シグナル伝達アンタゴニストのEphA4受容体結合部分またはエフリン結合部分を含む。区分は少なくとも10、好ましくは少なくとも20、より好ましくは少なくとも30の近接アミノ酸であり、これらは必要な活性を示す。この型のペプチドは標準の組換え核酸技術を適用することによって得ることもでき、または通常の液相もしくは固相合成技術を用いて合成してもよい。例えば、Blackwell Scientific Publicationsから出版されているNicholson編集の「Synthetic Vaccines」なる標題の出版物中に含まれる、AthertonおよびShephardによる「Peptide Synthesis」なる標題の第9章に記載されている溶液合成または固相合成を参照してもよい。または、本発明のアミノ酸配列をエンドLys-C、エンドArg-C、エンドGlu-Cおよびブドウ球菌V8-プロテアーゼなどのプロテイナーゼで消化することによりペプチドを産生することもできる。消化断片は、例えば、高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)技術によって精製することができる。任意のそのような断片は、その生成手段にかかわらず、本明細書において用いられる「誘導体」なる用語に含まれると理解されるべきである。
【0042】
したがって、複数の誘導体、または単独の誘導体は、部分、突然変異体、ホモログ、断片、類縁体ならびにハイブリッドまたは融合分子およびグリコシル化変異体を含む。誘導体は、最適アライメント後の比較ウィンドウを超えるアミノ酸配列同一性パーセントを有する分子も含む。好ましくは、特定の配列と基準配列との間の類似性パーセンテージは少なくとも約60%または少なくとも約70%または少なくとも約80%または少なくとも約90%または少なくとも約95%または少なくとも約96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上などの高い値である。好ましくは、本発明の物質の種、機能または構造ホモログ間の類似性パーセンテージは少なくとも約60%または少なくとも約70%または少なくとも約80%または少なくとも約90%または少なくとも約95%または少なくとも約96%、97%、98%、99%もしくはそれ以上などの高い値である。60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%などの60%から100%の間の類似性または同一性パーセンテージも企図される。
【0043】
本明細書において企図される類縁体には、側鎖への修飾、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質合成中の非天然アミノ酸および/またはそれらの誘導体の組込み、ならびに架橋およびタンパク質性分子またはそれらの類縁体に立体配座上の制約をかける他の方法の使用が含まれるが、それらに限定されるわけではない。この用語はポリペプチドの修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などを除外することもない。この定義に含まれるのは、例えば、一つまたは複数のアミノ酸類縁体(例えば、表3に示すものなどの非天然アミノ酸を含む)を含むポリペプチドまたは置換連結を有するポリペプチドである。そのようなポリペプチドは細胞に侵入できる必要があると考えられる。
【0044】
本発明によって企図される側鎖修飾の例には、アルデヒドとの反応と、その後のNaBH4での還元による還元的アルキル化;メチルアセトイミデートによるアミド化;無水酢酸によるアシル化;シアン酸エステルによるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;ならびにピリドキサール-5-リン酸によるリジンのピリドキシル化と、その後のNaBH4での還元が含まれる。
【0045】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサールなどの試薬による複素環縮合生成物の形成によって修飾することもできる。
【0046】
カルボキシル基は、O-アシルイソ尿素形成によるカルボジイミド活性化に続き、例えば、対応するアミドへの誘導体化によって修飾してもよい。
【0047】
スルフヒドリル基は、ヨード酢酸またはヨードアセタミドによるカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸または他の置換マレイミドとの反応;4-クロロマーキュリーベンゾエート、4-クロロマーキュリーフェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2-クロロマーキュリー-4-ニトロフェノールおよび他の水銀化合物を用いての水銀誘導体の形成;アルカリ性pHでのシアン酸エステルによるカルバモイル化などの方法によって修飾してもよい。
【0048】
トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシンイミドによる酸化または臭化2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルもしくはハロゲン化スルフェニルによるインドール環のアルキル化によって修飾することもできる。一方、チロシン残基は、テトラニトロメタンでのニトロ化により改変して3-ニトロチロシン誘導体を生成することができる。
【0049】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体でのアルキル化またはジエチルピロカルボネートでのN-カルボエトキシル化により達成してもよい。
【0050】
ペプチド合成中の非天然アミノ酸および誘導体の組込みの例には、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、ザルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニンおよび/またはアミノ酸のD-異性体の使用が含まれるが、それらに限定されるわけではない。本明細書において企図される非天然アミノ酸の一覧を表3に示す。
【0051】
(表3)非通常アミノ酸のコード





【0052】
例えば、3D配座を安定化するために、n=1からn=6の(CH2)nスペーサー基を有する二官能性イミドエステル、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドなどのホモ二官能性架橋剤、および通常はN-ヒドロキシスクシンイミドなどのアミノ反応性部分とマレイミドまたはジチオ部分(SH)またはカルボジイミド(COOH)などの別の基特異的反応性部分とを含むヘテロ二官能性試薬を用いて、架橋剤を利用することができる。加えて、ペプチドは、例えば、CαおよびNα-アミノ酸の組込み、アミノ酸のCαおよびCβ原子の間の二重結合の導入、ならびにNおよびC末端の間、二つの側鎖の間または側鎖とNもしくはC末端との間にアミド結合を形成するなどの共有結合導入による環式ペプチドまたは類縁体の形成によって、配座的に制約することもできる。
【0053】
類似物質はもう一つの有用な化合物群である。この用語は、それが模倣する、例えば、エフリンなどの分子といくらかの化学的類似性を有するが、例えば、EphA4受容体などの標的との相互作用に拮抗する、またはアゴニストとしてはたらく(模倣する)物質を意味することが意図される。ペプチド類似物質は、タンパク質二次構造の要素を模倣するペプチド含有分子であってもよい(Johnson et al., Peptide Turn Mimetics in Biotechnology and Pharmacy, Pezzuto et al., Eds., Chapman and Hall, New York, 1993)。ペプチド類似物質を使用する根本的原理は、タンパク質のペプチド骨格は主にアミノ酸側鎖を抗体と抗原、酵素と基質または足場タンパク質などの分子相互作用を促進するような様式で配向させるためにあるということである。ペプチド類似物質は天然分子に類似の分子相互作用を可能にするよう設計する。EphA4仲介性シグナル伝達アンタゴニストのペプチドまたは非ペプチド類似物質は、本発明においてEphA4仲介性シグナル伝達のレベルを低下させる物質として有用でありうる。
【0054】
薬学的活性化合物に対する類似物質の設計は、「リード」化合物に基づく薬剤の開発への公知のアプローチである。これは、活性化合物の合成が困難または高価である場合、または活性化合物が特定の投与法に適さない場合、例えば、ペプチドは消化管内でプロテアーゼにより速やかに分解される傾向があるため、経口組成物には不適当な活性物質である場合に、望ましいと考えられる。標的特性について多数の分子を無作為にスクリーニングすることを避けるために、類似物質の設計、合成および試験が一般に用いられる。
【0055】
所与の標的特性を有する化合物からの類似物質の設計において一般に取られるいくつかの段階がある。第一に、標的特性を決定する際に決定的かつ/または重要な化合物の特定の部分をもとめる。ペプチドの場合、これはペプチド中のアミノ酸残基を系統立てて変えることにより、例えば、各残基を順に置き換えることにより行うことができる。本明細書において前述したとおり、そのようなペプチドモチーフを改良するために、ペプチドのアラニンスキャンが一般に用いられる。化合物の活性領域を構成するこれらの部分または残基は、その「ファルマコフォア」として知られている。
【0056】
いったんファルマコフォアが見つかれば、一連の情報源、例えば、分光技術、X線回折データおよびNMRからのデータを用い、その構造をその物理的特性、例えば、立体化学、結合、サイズおよび/または電荷に従って設計する。このモデリング過程において、コンピューター解析、類似性マッピング(原子間の結合ではなく、ファルマコフォアの電荷および/または体積を模する)および他の技術を用いることができる。
【0057】
このアプローチの変形において、リガンドの三次元構造およびその結合相手を設計する。これは、リガンドおよび/または結合相手が結合後に配座を変える場合に特に有用で、モデルが類似物質の設計においてこれを考慮することを可能にする。モデリングを用いて、直鎖配列または三次元立体配置と相互作用する阻害剤を生成することができる。
【0058】
次いで、ファルマコフォアを模倣する化学基を結合することができる鋳型分子を選択する。鋳型分子およびその上に結合した化学基は、類似物質がリード化合物の生物活性を保持しつつ、容易に合成され、おそらくは薬理学的に許容され、かつインビボで分解しないように、都合よく選択することができる。または、類似物質がペプチド性である場合、ペプチドを環化して、その剛性を高めることにより、さらなる安定性を獲得することができる。次いで、このアプローチによって見いだされた一つまたは複数の類似物質を、これらが標的特性を有するか否か、またはどの程度までその特性を示すかを見るため、スクリーニングすることができる。次いで、さらなる最適化または改変を行って、インビボまたは臨床試験のための一つまたは複数の最終類似物質に到達することができる。
【0059】
合理的薬物設計のゴールは、例えば、ポリペプチドのより活性もしくは安定な形である、または、例えば、インビボでポリペプチドの機能を増強もしくは妨害する薬物を形成するために、目的の生物活性ポリペプチドまたはそれらが相互作用する小分子(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、阻害剤または増強剤)の構造類縁体を生成することである(例えば、Hodgson, Bio/Technology 9:19-21, 1991)。一つのアプローチにおいて、まず目的のタンパク質の三次元構造をX線結晶学、コンピューターモデリング、または最も典型的にはアプローチの組み合わせにより決定する。ポリペプチドの構造に関する有用な情報は、相同タンパク質の構造に基づくモデリングによっても得ることができる。合理的薬物設計の例はHIVプロテアーゼ阻害剤の開発である(Erickson et al., Science 249:527-533, 1990)。
【0060】
薬物スクリーニングの一つの方法は、好ましくは競合結合アッセイにおいて、ポリペプチドまたは断片を発現する組換えポリヌクレオチドで安定に形質転換される真核または原核宿主細胞を用いる。そのような細胞は、生存または固定いずれかの形で、標準の結合アッセイに用いることができる。例えば、標的もしくは断片と試験中の物質との間の複合体形成を調べてもよく、または標的もしくは断片と公知のリガンドとの間の複合体形成が試験中の物質によって促進もしくは妨害される程度を調べてもよい。
【0061】
スクリーニング法は、(i)薬物と標的との間の複合体の有無、または(ii)標的をコードする核酸分子の発現レベルの変化を分析することを含む。アッセイの一つの形は競合結合アッセイである。そのような競合結合アッセイにおいて、典型的には標的を標識する。遊離の標的を任意の推定複合体から分離し、遊離(すなわち、非複合体)標識の量が試験中の物質の標的分子との結合の尺度となる。遊離標的ではなく、結合標的の量を測定してもよい。標的ではなく化合物を標識し、試験中の薬物存在下で標的に結合する化合物の量を測定することも可能である。
【0062】
薬物スクリーニングのもう一つの技術は、標的に対する適当な結合親和性を有する化合物の高処理量スクリーニングを提供し、Geysen(国際公開公報第84/03564号)に詳細が記載されている。簡単に言うと、多数の異なる小ペプチド試験化合物を、プラスティックピンまたは他の表面などの固体基板上で合成する。ペプチド試験化合物を標的と反応させ、洗浄する。次いで、結合した標的分子を当技術分野において周知の方法により検出する。この方法を、非ペプチド化学的実体のスクリーニングに適用することもできる。したがって、この局面は標的アンタゴニストまたはアゴニストをスクリーニングするためのコンビナトリアルアプローチにおよぶ。
【0063】
精製した標的を、前述の薬物スクリーニング技術において用いるために、プレートに直接コーティングすることもできる。しかし、標的を固相上に固定するために、標的に対する非中和抗体を用いてもよい。または、標的を、結合および同定を助けるために都合よく選択されたタグを有する融合タンパク質として発現させてもよい。
【0064】
本発明は、神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕形成および/もしくは炎症を防止する、またはその量を低減させるための、抗体などの使用も企図する。これに関して本発明における適用性を有すると思われる適当な物質は、例えば、一つまたは複数の免疫グロブリンドメインを含む任意のタンパク質を含み、免疫グロブリン(Ig)A、IgM、IgG、IgDおよびIgEを含む血漿タンパク質の免疫グロブリンファミリー内の抗体におよぶ。「抗体」なる用語は、例えば、タンパク質分解消化により、または化学切断を含むが、それらに限定されるわけではない、他の手段により抗体から誘導される二重特異性抗体などの抗体の断片を含む。抗体は「ポリクローナル抗体」または「モノクローナル抗体」であってもよい。「モノクローナル抗体」は、抗体産生細胞の単一のクローンによって産生される抗体である。反対に、ポリクローナル抗体は特異性が異なる複数のクローン由来である。「抗体」なる用語は、ハイブリッド抗体、融合抗体および抗原結合部分、ならびにT-関連結合分子などの他の抗原結合タンパク質も含む。特に好ましい態様において、抗体はEphA4受容体のレベルおよび/もしくは機能、またはEphA4受容体機能に必要とされる分子を低減させる。
【0065】
本発明は、EphA4仲介性シグナル伝達を完全に抑制する、またはそのレベルを実質的に低下させるのに有用な遺伝物質にもおよぶ。抑制には、転写前および転写後遺伝子サイレンシング、翻訳後遺伝子サイレンシング、同時抑制RNAi-仲介性遺伝子サイレンシングならびにメチル化が含まれるが、それらに限定されるわけではない。「RNAi」とはDNA由来RNAiおよび合成RNAiを含む。
【0066】
遺伝分子に関連して、突然変異体、区分、誘導体、ホモログ、類縁体または類似物質なる用語は、タンパク質性分子に関連してこれらの形に割り当てられた意味と類似の意味を有する。すべての場合に、変異体をそれらが本明細書において提唱されたとおりに機能する能力について、本明細書において前述した技術、または当技術分野において現在周知の技術から選択される技術を用いて試験する。
【0067】
核酸形の場合、誘導体は親分子またはその部分に対して少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチドの配列を含む。核酸分子の「部分」は、少なくとも約10ヌクレオチド、または好ましくは約13ヌクレオチド、またはより好ましくは少なくとも約20ヌクレオチドの最小サイズを有すると定義され、少なくとも約35ヌクレオチドの最小サイズを有していてもよい。この定義は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34または35ヌクレオチドを含む10〜35ヌクレオチドの範囲、ならびに50、100、300、500、600ヌクレオチドを含む35ヌクレオチドよりも大きいすべてのサイズ、またはこれらの値の範囲内で任意の数のヌクレオチドを有する核酸分子を含む。少なくとも約60%の同一性を有するとは、最適アライメントを有し、核酸分子が基準EphA4仲介性シグナル伝達アンタゴニストをコードする分子と少なくとも60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%の同一性を含むことを意味する。
【0068】
本明細書において用いられる「類似性」または「同一性」なる用語は、比較した配列間のヌクレオチドまたはアミノ酸レベルでの厳密な同一性を含む。ヌクレオチドレベルで同一性がない場合、「類似性」は配列間の相違を含み、その結果異なるアミノ酸を生じるが、それにもかかわらず、これらは構造、機能、生化学および/または立体配座レベルで互いに関連している。アミノ酸レベルで同一性がない場合、「類似性」は、それにもかかわらず構造、機能、生化学および/または立体配座レベルで互いに関連しているアミノ酸を含む。特に好ましい態様において、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列の比較は類似性よりもむしろ同一性のレベルで行う。
【0069】
複数のポリヌクレオチドまたはポリペプチド間の配列の関係を記載するために用いる用語には、「基準配列」、「比較ウィンドウ」、「配列類似性」、「配列同一性」、「配列類似性のパーセンテージ」、「配列同一性のパーセンテージ」、「実質的に類似」および「実質的に同一」が含まれる。「基準配列」は、少なくとも12であるが、多くは15から18、しばしば30などの少なくとも25以上の単量体単位(ヌクレオチドおよびアミノ酸残基を含む)の長さである。二つのポリヌクレオチドはそれぞれ(1)二つのポリヌクレオチド間で類似の配列(すなわち、完全なポリヌクレオチド配列の部分)、および(2)二つのポリヌクレオチド間で異なる配列を含みうるため、二つ(またはそれ以上)のポリヌクレオチド間の配列比較は典型的には「比較ウィンドウ」上で二つのポリヌクレオチドの配列を比較することにより行って、配列類似性の局部を同定および比較する。「比較ウィンドウ」とは、基準配列と比較する、典型的には12の近接残基の概念的区域を意味する。比較ウィンドウは、二つの配列の最適アライメントのために、基準配列(付加または欠失を含まない)と比較して約20%以下の付加または欠失(すなわちギャップ)を含んでいてもよい。比較ウィンドウをアラインするための配列の最適アライメントは、アルゴリズムのコンピューターでの実行(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 575 Science Drive Madison, WI, USAのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)により、または選択した様々な方法のいずれかによる精査と最良のアライメント(すなわち、比較ウィンドウ上で最も高い相同性パーセンテージが得られる)により行うことができる。例えば、Altschul et al.(Nucl Acids Res 25:3389-3402, 1997)によって開示されたプログラムのBLASTファミリーを参照してもよい。配列解析の詳細な議論は、Unit 19.3 of Ausubel et al. (「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley & Sons Inc, 1994-1998, Chapter 15)に見いだすことができる。
【0070】
本明細書において用いられる「配列類似性」および「配列同一性」なる用語は、比較ウィンドウ上で配列がヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸で同一または機能的もしくは構造的に類似である程度を意味する。したがって、例えば、「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウ上で二つの最適アラインされた配列を比較し、両方の配列で同じ核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)または同じアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)が現れる位置の数を求めてマッチする位置の数を出し、マッチする位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、結果に100をかけて配列同一性のパーセンテージを出して計算する。本発明の目的のために、「配列同一性」は、DNASISコンピュータープログラム(windows用Version 2.5;Hitachi Software engineering Co., Ltd., South San Francisco, California, USAから入手可能)により、ソフトウェアに付属の参照マニュアルで用いられている標準のデフォルトを用いて計算した「マッチパーセンテージ」を意味すると理解されると思われる。同様のコメントが配列類似性に関しても適用される。
【0071】
本発明の遺伝分子は、本明細書に記載の遺伝物質、またはそれらの補体にハイブリダイズすることもできる。本明細書における「ハイブリダイズする」とは、それによって核酸鎖が塩基対形成により相補鎖と連結する過程を意味する。ハイブリダイゼーション反応は高感度かつ選択的で、特定の目的配列が低濃度で含まれる試料中でもそれを同定することができる。ストリンジェント条件は、例えば、プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーション溶液中の塩もしくはホルムアミドの濃度、またはハイブリダイゼーション温度によって規定することができ、当技術分野においては周知である。例えば、ストリンジェンシーは、以下に詳細を記載するとおり、塩の濃度を下げる、ホルムアミドの濃度を上げる、またはハイブリダイゼーション温度を上げる、ハイブリダイゼーションの時間を変えることにより高めることができる。別の局面において、本発明の核酸は様々なストリンジェンシー条件下(例えば、高、中、および低)でハイブリダイズする能力によって規定される。
【0072】
本明細書における「低ストリンジェンシー」とは、ハイブリダイゼーションのために少なくとも約0から少なくとも約15%v/vのホルムアミドおよび少なくとも約1Mから少なくとも約2Mの塩、ならびに洗浄条件のために少なくとも約1Mから少なくとも約2Mの塩を含む。一般に、低ストリンジェンシーは約25〜30℃から約42℃である。温度は変えることもでき、ホルムアミドを置き換えるため、および/または別のストリンジェンシー条件とするためにはより高い温度を用いてもよい。必要があれば、「中ストリンジェンシー」(これはハイブリダイゼーションのために少なくとも約16%v/vから少なくとも約30%v/vのホルムアミドおよび少なくとも約0.5Mから少なくとも約0.9Mの塩、ならびに洗浄条件のために少なくとも約0.5Mから少なくとも約0.9Mの塩を含む)、または「高ストリンジェンシー」(これはハイブリダイゼーションのために少なくとも約31%v/vから少なくとも約50%v/vのホルムアミドおよび少なくとも約0.01Mから少なくとも約0.15Mの塩、ならびに洗浄条件のために少なくとも約0.01Mから少なくとも約0.15Mの塩を含む)などの別のストリンジェンシー条件を適用してもよい。一般に、洗浄はTm=69.3+0.41(G+C)%で行う(Marmur and Doty, J Mol Biol 5:109-118, 1962)。しかし、二重鎖核酸分子のTmはミスマッチ塩基対数が1%増えるごとに1℃低下する(Bonner and Laskey, Eur J Biochem 46:83-88, 1974)。これらのハイブリダイゼーション条件においてホルムアミドは任意である。したがって、ストリンジェンシーの特に好ましいレベルは以下のとおりに規定される:低ストリンジェンシーは6×SSC緩衝液、0.1%w/v SDS、25〜42℃であり;中ストリンジェンシーは2×SSC緩衝液、0.1%w/v SDS、20℃から65℃の範囲の温度であり;高ストリンジェンシーは0.1×SSC緩衝液、0.1%w/v SDS、少なくとも65℃の温度である。
【0073】
EphA4および対応するエフリンをコードするDNAなどであるが、それらに限定されるわけではない、DNAの発現を調節する「核酸分子」とは、DNA(ゲノムDNA、cDNA)、RNA(センスRNA、アンチセンスRNA、mRNA、tRNA、rRNA、低分子干渉RNA(SiRNA)、ミクロRNA(miRNA)、低分子核小体RNA(SnoRNA)、低分子核(SnRNA))リボザイム、アプタマー、DNAザイムまたは他のリボヌクレアーゼ型複合体などの遺伝物質を含む。他の核酸分子はプロモーターもしくはエンハンサーまたは転写を調節する他の調節領域を含むことになる。
【0074】
「核酸」、「ヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」なる用語は、当業者には容易に理解されると思われるとおり、センスおよびアンチセンス鎖両方で、化学的もしくは生化学的に改変されていてもよく、または非天然もしくは誘導体化ヌクレオチド塩基を含んでいてもよい、RNA、cDNA、ゲノムDNA、合成型および混合ポリマーを含む。そのような改変には、例えば、標識、メチル化、一つまたは複数の天然ヌクレオチドの類縁体による置換(モルホリン環など)、非荷電連結(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバミン酸エステルなど)、荷電連結(例えば、ホスホロチオエート)、ホスホロジチオエートなど)などのヌクレオチド間改変、側鎖部分(例えば、ポリペプチド)、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラーレンなど)、キレーター、アルキレーターおよび改変連結(例えば、α-アノマー核酸など)が含まれる。同様に含まれるのは、水素結合および他の化学的相互作用によって指定の配列に結合する能力においてポリヌクレオチドを模倣する合成分子である。そのような分子は当技術分野において公知で、例えば、分子の骨格においてリン酸エステル結合の代わりにペプチド結合を有するものが含まれる。
【0075】
例えば、アンチセンスポリヌクレオチド配列は、EphA4および対応するエフリンをコードする遺伝子などであるが、それらに限定されるわけではない、標的遺伝子の転写産物をサイレンシングする際に有用である。細胞内のそのようなアンチセンスコンストラクトの発現は標的遺伝子の転写および/または翻訳を妨害する。さらに、同時抑制およびRNAiまたはsiRNAを誘導するメカニズムも用いることができる。または、アンチセンスまたはセンス分子を直接投与してもよい。この後者の態様において、アンチセンスまたはセンス分子を組成物に製剤し、次いで細胞を標的指向させる任意の数の手段により投与してもよい。
【0076】
一つの態様において、本発明は、標的をコードするものなどの核酸分子の機能または効果を調節する際に用いるための、オリゴヌクレオチドおよび類似種などの化合物を用い、すなわちオリゴヌクレオチドは転写前または転写後遺伝子サイレンシングを誘導する。これは、標的遺伝子転写をコードする一つまたは複数の核酸分子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを提供することによって達成される。オリゴヌクレオチドは細胞に直接提供してもよく、または細胞内で生成させてもよい。本明細書において用いられる「標的核酸」および「標的遺伝子転写産物をコードする核酸分子」なる用語は、標的をコードするDNA、そのようなDNAから転写されたRNA(mRNA前駆体およびmRNAならびにその部分)、およびそのようなRNA由来のcDNAを含むよう、便宜的に用いられている。本発明の化合物とその標的核酸とのハイブリダイゼーションは一般に「アンチセンス」と呼ばれる。したがって、本発明のいくつかの好ましい態様の実施に含まれると考えられる好ましいメカニズムは、本明細書において「アンチセンス阻害」と呼ぶ。そのようなアンチセンス阻害は典型的に、少なくとも一つの鎖または区分が切断、分解、またはそれ以外で操作不能にされるような、オリゴヌクレオチド鎖または区分の水素結合によるハイブリダイゼーションに基づいている。これに関して、そのようなアンチセンス阻害のために、特定の核酸分子およびそれらの機能を標的とすることが、現在のところ好ましい。
【0077】
妨害するDNAの機能には、複製および転写が含まれうる。例えば、複製および転写は内因性細胞鋳型、ベクター、プラスミドコンストラクトまたはその他からでありうる。妨害するRNAの機能には、RNAのタンパク質翻訳部位への転座、RNAのRNA合成部位から遠い細胞内部位への転座、RNAからのタンパク質の翻訳、一つまたは複数のRNA種を得るためのRNAのスプライシング、およびRNAに関与している、またはRNAによって促進されうるRNAに関わる触媒活性または複合体形成が含まれうる。一つの例において、標的転写物機能によるそのような妨害の結果は標的のレベル低下である。本発明の文脈において、「調節」および「発現の調節」は、遺伝子をコードする核酸分子、例えば、DNAまたはRNAの量またはレベルの増大(刺激)または低減(阻害)のいずれかを意味する。阻害が発現の調節の好ましい形であることが多く、mRNAが好ましい標的核酸であることが多い。
【0078】
アンチセンス化合物は、化合物の標的核酸への結合が標的核酸の正常な機能を妨害して、活性の低下を引き起こし、かつ特異的結合が望ましい条件下、すなわちインビボアッセイまたは治療の場合は生理的条件下、およびインビトロアッセイの場合はアッセイを行う条件下で、アンチセンス化合物の非標的核酸配列への非特異的結合を避けるのに十分な相補性がある場合に、特異的にハイブリダイゼーション可能である。
【0079】
本発明によれば、化合物にはアンチセンスオリゴマー化合物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、外部ガイド配列(EGS)オリゴヌクレオチド、選択的スプライサー、プライマー、プローブ、および標的核酸の少なくとも一部にハイブリダイズする他のオリゴマー化合物が含まれる。したがって、これらの化合物は一本鎖、二本鎖、環状またはヘアピンオリゴマー化合物の形で導入してもよく、内部または末端の膨らみまたはループなどの構造的要素を含んでいてもよい。いったん系に導入されれば、本発明の化合物は一つまたは複数の酵素または構造タンパク質の作用を誘発して、標的核酸の調節を行いうる。そのような酵素の一つの非限定例は、RNA:DNA二本鎖のRNA鎖を切断する細胞エンドヌクレアーゼのRNアーゼHである。「DNA様」である一本鎖アンチセンス化合物がRNアーゼHを誘発することは当技術分野において公知である。したがって、RNアーゼHの活性化はRNA標的の切断を引き起こし、それにより遺伝子発現のオリゴヌクレオチド仲介性阻害の効率を大幅に増強する。RNアーゼIIIおよびリボヌクレアーゼL酵素ファミリーのメンバーなどの他のリボヌクレアーゼについても、同様の役割が推定されている。
【0080】
アンチセンス化合物の好ましい形は一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドであるが、多くの種で、二本鎖RNA(dsRNA)分子などの二本鎖構造の導入により、遺伝子の機能またはその関連する遺伝子産物の強力かつ特異的なアンチセンス仲介性低下が誘導されることが明らかにされている。この現象は植物と動物の両方で起こる。
【0081】
本発明の文脈において、「オリゴマー化合物」なる用語は、複数の単量体単位を含むポリマーまたはオリゴマーを意味する。本発明の文脈において、「オリゴヌクレオチド」なる用語は、核酸オリゴマーもしくはポリマーまたはその類似物質、キメラ型、類縁体およびホモログを意味する。この用語は、天然の核酸塩基、糖およびヌクレオシド間(骨格)共有結合からなるオリゴヌクレオチドならびに同様に機能する非天然の部分を有するオリゴヌクレオチドを含む。そのような改変または置換オリゴヌクレオチドは、例えば、細胞取り込み増強、標的核酸への親和性増強およびヌクレアーゼ存在下での安定性増大などの望ましい性質のため、天然型よりも好ましいことが多い。
【0082】
オリゴヌクレオチドは本発明の化合物の好ましい形であるが、本発明は本明細書において記載するものなどのオリゴヌクレオチド類縁体および類似物質を含むが、それらに限定されるわけではない、他の化合物ファミリーも含む。
【0083】
当技術分野において翻訳開始コドンと翻訳終止コドンとの間の領域を指すことが知られている開いた読み枠(ORF)または「コーディング領域」は、有効に標的指向しうる領域である。本発明の文脈において、一つの領域は遺伝子のORFの翻訳開始または終止コドンを含む遺伝子内領域である。
【0084】
他の標的領域には、当技術分野において翻訳開始コドンから5'方向のmRNAの部分を指すことが知られており、したがってmRNAの5'キャップ部位と翻訳開始コドンとの間のヌクレオチド(または遺伝子上の対応するヌクレオチド)を含む、5'非翻訳領域(5'UTR)、および当技術分野において翻訳終止コドンから3'方向のmRNAの部分を指すことが知られており、したがってmRNAの翻訳終止コドンと3'末端との間のヌクレオチド(または遺伝子上の対応するヌクレオチド)を含む、3'非翻訳領域(3'UTR)が含まれる。mRNAの5'キャップ部位は、mRNAの5'-最多残基に5'-5'三リン酸結合を介して連結されているN7-メチル化グアノシン残基を含む。mRNAの5'キャップ領域は、5'キャップ構造自体ならびにキャップ部位に隣接する最初の50ヌクレオチドを含むと考えられる。5'キャップ領域を標的とすることも好ましい。
【0085】
真核生物mRNA転写産物で直接翻訳されものもあるが、多くは「イントロン」として知られる一つまたは複数の領域を含み、これらは転写産物が翻訳される前にそれから切断される。残りの(したがって、翻訳された)領域は「エキソン」として知られ、一緒にスプライシングされて連続するmRNA配列を形成する。標的スプライス部位、すなわち、イントロン-エキソン接合部またはエキソン-イントロン接合部も、異常なスプライシングが疾患に関係している場合、または特定のスプライス産物の過剰産生が疾患に関係している場合に、特に有用となる可能性がある。再配列または欠失による異常な融合接合部も好ましい標的部位である。異なる遺伝子供給源からの二つ(またはそれ以上)のmRNAのスプライシング過程から産生されるmRNA転写産物は「融合転写産物」として知られている。イントロンは、例えば、DNAまたはmRNA前駆体を標的とするアンチセンス化合物を用いて有効に標的指向させうることも知られている。
【0086】
当技術分野において公知のとおり、ヌクレオシドは塩基-糖の組み合わせである。ヌクレオシドの塩基部分は通常は複素環塩基である。そのような複素環塩基の最も一般的な二つのクラスはプリンとピリミジンである。ヌクレオチドは、ヌクレオシドの糖部分に共有結合したリン酸エステル基をさらに含むヌクレオシドである。ペントフラノシル糖を含むヌクレオシドでは、リン酸エステル基は糖の2'、3'または5'ヒドロキシ部分のいずれかに結合することができる。オリゴヌクレオチドを形成する際に、リン酸エステル基は隣接するヌクレオシドを互いに共有結合して、直鎖ポリマー化合物を形成する。次いで、この直鎖ポリマー化合物のそれぞれの末端をさらに連結して環式化合物を形成することができるが、直鎖化合物が一般に好ましい。加えて、直鎖化合物は内部核酸塩基相補性を有することがあり、したがって、完全または部分二本鎖化合物を生成する様式で折りたたまれることもある。オリゴヌクレオチド内で、リン酸エステル基は一般にオリゴヌクレオチドのヌクレオシド間骨格を形成すると言われる。RNAおよびDNAの通常の結合または骨格は3'から5'へのホスホジエステル結合である。
【0087】
本発明において有用な好ましいアンチセンス化合物の特定の例は、改変骨格または非天然ヌクレオシド間結合を含むオリゴヌクレオチドを含む。本明細書において定義するとおり、改変骨格を有するオリゴヌクレオチドは骨格中にリン原子を保持するもの、および骨格中にリン原子を持たないものを含む。本明細書の目的のために、また時には当技術分野において言及されるとおり、ヌクレオシド間骨格中にリン原子を持たない改変オリゴヌクレオチドもオリゴヌクレオシドであると考えられる。
【0088】
その中にリン原子を含む好ましい改変オリゴヌクレオチド骨格には、例えば、通常の3'-5'結合を有するホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3'-アルキレンホスホネート、5'-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートを含むメチルおよび他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3'-アミノホスホロアミデートおよびアミノアルキルホスホロアミデートを含むホスホロアミデート、チオノホスホロアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、セレノホスフェートとボラノホスフェート、これらの2'-5'結合類縁体、ならびに一つまたは複数のヌクレオチド間結合が3'-3'、5'-5'または2'-2'結合である逆の方向性を有するものが含まれる。逆の方向性を有する好ましいオリゴヌクレオチドは、3'-最多ヌクレオチド間結合で一つの3'-3'結合、すなわち塩基損傷(核酸塩基がないか、またはその代わりにヒドロキシ基を有する)していてもよい一つの逆方向ヌクレオシドを含む。様々な塩、混合塩および遊離酸の形も含まれる。
【0089】
本発明によって企図される物質の有効性は、例えば、実験対象の中枢神経系を傷害し、試験する物質を傷害中枢神経系にその物質の有効性を評価するのに適した期間および条件下で投与し、次いで一定期間後に中枢神経系傷害の部位でグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症および/または軸索再生のレベルを評価することにより、容易に測定することができる。
【0090】
本明細書における「傷害すること」とは、例えば、メスの刃などの刃を用いる、または鈍力の適用により、切断する、傷つける、またはそれ以外で損傷を誘導することを意味する。
【0091】
本明細書における「実験対象」は、本明細書中の以下に定義する対象ならびに疾患、状態または事故損傷、例えば、自動車事故などの実験手段以外の手段により誘導された中枢神経系への傷害を有するヒトを含む。
【0092】
本明細書における「評価すること」とは、定性的または定量的評価への言及を意味する。
【0093】
したがって、本発明のもう一つの局面は物質の有効性を測定する方法であって、実験対象の中枢神経系を傷害する段階と、試験する物質を傷害中枢神経系にその物質の有効性を評価するのに適した期間および条件下で投与する段階と、次いで一定期間後に中枢神経系傷害の部位でグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症および/または軸索再生のレベルを評価する段階とを含む方法である。
【0094】
好ましくは、傷害する中枢神経系組織は脊髄である。
【0095】
したがって、本発明のもう一つの局面は物質の有効性を測定する方法であって、実験対象の脊髄を傷害する段階と、試験する物質を傷害脊髄にその物質の有効性を評価するのに適した期間および条件下で投与する段階と、次いで一定期間後に脊髄傷害の部位でグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症および/または軸索再生のレベルを評価する段階とを含む方法である。
【0096】
一例として、本発明によって企図される物質の有効性は、実験マウスの脊髄を傷害し、EphA4アンタゴニスト(例えば、エフリンA5-Fc)またはアンチセンスEphA4オリゴヌクレオチドの形の物質を傷害脊髄にその物質の有効性を評価するのに適した期間および条件下で投与し、次いで一定期間後に脊髄傷害の部位でグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症および/または軸索再生のレベルを、グリア細胞および軸索のマーカーを用いて評価することにより、測定することができた。本発明に従って同定した物質は、グリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症などのグリオーシス反応によって特徴づけられる神経系疾患および損傷の治療において有用である。
【0097】
本明細書における「治療」とは、既存の状態の重症度における低下を意味すると考えられる。「治療」なる用語は、状態の開始を防止するための「予防的処置」を含むとも理解される。「治療」なる用語は、対象が完全に回復するまで治療することを必ずしも意味しない。同様に、「予防的治療」は、対象が最終的に状態にかからないことを必ずしも意味しない。
【0098】
したがって、本発明のもう一つの局面は、対象の神経系におけるグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止する、またはその量を低減させる方法であって、対象にEphA4仲介性シグナル伝達のアンタゴニストの有効量をグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症を防止または低減させるのに十分な期間および条件下で投与する段階を含む方法を提供する。
【0099】
遺伝的またはそれ以外のいずれでも、EphA4仲介性シグナル伝達を調節することができる物質の同定により、神経系におけるグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症の治療において用いるための薬学的組成物が得られる。
【0100】
本発明によって企図される神経系および損傷には、麻痺を引き起こす脳および脊髄への外傷性損傷および炎症性損傷が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0101】
本発明の物質は、一つまたは複数の薬学的に許容されるおよび/または希釈剤と組み合わせて、薬理学的組成物を形成することができる。薬学的に許容される担体は、例えば、本発明の薬学的組成物を安定化する、またはその吸収もしくはクリアランス速度を増大もしくは低減させる作用をする、生理的に許容される化合物を含むことができる。生理的に許容される化合物は、例えば、ブドウ糖、ショ糖、もしくはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸もしくはグルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質、ペプチドもしくはポリペプチドのクリアランスもしくは加水分解を低減させる組成物、あるいは賦形剤または他の安定化剤および/もしくは緩衝剤を含むことができる。薬学的組成物を安定化する、またはその吸収を増大もしくは低減させるために、リポソーム担体を含む界面活性剤も用いることができる。ペプチドおよびポリペプチドのための薬学的に許容される担体および製剤は当業者には公知で、科学および特許文献に詳細に記載されており、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, Mack Publishing Company, Easton, PA, 1990(「Remington's」)を参照されたい。
【0102】
他の生理的に許容される化合物には、湿潤剤、乳化剤、分散剤、または微生物の増殖もしくは症を防止するために特に有用である保存剤が含まれる。様々な保存剤が周知で、例えば、フェノールおよびアスコルビン酸が含まれる。当業者であれば、生理的に許容される化合物を含む薬学的に許容される担体の選択は、例えば、本発明の調節物質の投与経路およびその特定の物理化学的特徴に依存する。
【0103】
薬学的組成物の形での物質の投与は、当業者には公知の任意の好都合な手段で実施することができる。投与経路には、呼吸器、気管内、鼻咽頭、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、皮内、筋肉内、眼内、くも膜下腔内、脳内、鼻内、注入、経口、直腸内、パッチおよび植え込みが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0104】
経口投与のために、化合物をカプセル剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ、散剤、懸濁剤または乳剤などの固体または液体製剤に製剤することができる。経口剤形での組成物の調製において、経口液体製剤(例えば、懸濁剤、エリキシル剤および液剤など)の場合、例えば、水、グリコール、油、アルコール、着香剤、保存剤、着色剤、懸濁化剤などの任意の通常の薬学的媒質;または経口固体製剤(例えば、散剤、カプセル剤および錠剤など)の場合、デンプン、糖、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などの担体を用いてもよい。投与が容易であるため、錠剤およびカプセル剤は最も好都合な経口用量単位剤形であり、この場合、固体の薬学的担体が明らかに用いられる。望ましい場合には、錠剤を標準的技術により糖コーティングまたは腸溶コーティングしてもよい。活性物質をカプセル化して、胃腸管を通過するのに安定であるが、同時に血液脳関門の通過を可能にすることもでき、例えば、国際公開公報第96/11698号を参照されたい。
【0105】
本発明の物質は、経口投与した場合に、消化から保護することもできる。これは、核酸、ペプチドもしくはポリペプチドを組成物と複合して、酸性および酵素加水分解に対して抵抗性とすることにより、または核酸、ペプチドもしくはポリペプチドをリポソームなどの適当に抵抗性の担体中に包装することにより達成することができる。化合物を消化から保護する手段は当技術分野において周知で、例えば、Fix, Pharm Res 13:1760-1764, 1996;Samanen et al., J Pharm Pharmacol 48:119-135, 1996;治療薬の経口送達のための脂質組成物を記載している米国特許第5,391,377号を参照されたい(リポソーム送達は下記にさらに詳細に議論する)。
【0106】
注射用に適した薬学的剤形には、滅菌水性液剤(水溶性の場合)もしくは分散剤および滅菌注射液剤もしくは分散剤の即時調製用滅菌散剤が含まれ、またはクリームもしくは局所適用に適した他の剤形でもよい。これは製造および保存の条件下で安定でなくてはならず、細菌および真菌などの微生物の汚染に対して保存しなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、その適当な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒でありうる。適当な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散剤の場合には必要とされる粒径の維持により、およびスーパーファクタント(superfactant)の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって行うことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の持続吸収は、組成物中の吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用により達成することができる。
【0107】
滅菌注射用液剤は、必要とされる量の物質を適当な溶媒中に、必要に応じて前述の様々な他の成分と共に組込み、続いてろ過滅菌することにより調製する。一般に、分散剤は、様々な滅菌活性成分を、基本の分散媒と、前述のものから必要とされる他の成分とを含む滅菌媒体中に組み込むことにより調製する。滅菌注射液剤調製用の滅菌散剤の場合、好ましい調製法は減圧乾燥および凍結乾燥技術で、これは活性成分と任意の追加の望ましい成分の粉末をそのあらかじめ滅菌ろ過した溶液から得る。
【0108】
非経口投与のために、物質を薬学的担体に溶解し、液剤または懸濁剤のいずれかで投与してもよい。適当な担体の例は、水、食塩水、デキストロース溶液、フルクトース溶液、エタノール、または動物、植物もしくは合成起源の油である。担体は他の成分、例えば、保存剤、懸濁化剤、可溶化剤、緩衝剤なども含むことができる。物質をくも膜下腔内投与する場合、物質は脳脊髄液に溶解してもよい。経粘膜または経皮投与のために、透過する障壁に対して適当な浸透剤を物質を送達するために用いることができる。そのような浸透剤は一般に当技術分野において公知で、例えば、経粘膜投与のためには胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体である。加えて、透過を促進するために界面活性剤を用いることもできる。経粘膜投与は鼻スプレーまたは坐剤を用いて行うことができ、例えば、Sayani and Chien, Crit Rev Ther Drug Carrier Syst 13:85-184, 1996。局所、経皮投与のために、物質は軟膏、クリーム、膏薬、散剤およびゲルに製剤する。経皮送達システムはパッチも含みうる。
【0109】
吸入のために、本発明の物質は、乾燥粉末エアロゾル、液体送達システム、エアージェットネブライザー、噴射システムなど、例えば、Patton, Nat Biotech 16:141-143, 1998を参照されたい;例えば、Dura Pharmaceuticals (San Diego, CA)、Aradigm (Hayward, CA)、Aerogen (Santa Clara, CA)、Inhale Therapeutic Systems (San Carlos, CA)などによるポリペプチド高分子のための製品および吸入送達システムを含む、当技術分野において公知の任意のシステムを用いて送達することができる。例えば、薬学的製剤はエアロゾルまたはミストの形で投与することができる。エアロゾル投与のために、製剤は細かく分割された形で、界面活性剤および噴射剤と共に供給することができる。もう一つの局面において、製剤を呼吸器組織に送達するための装置は、製剤を気化する吸入器である。他の液体送達システムには、例えば、エアージェットネブライザーが含まれる。
【0110】
本発明の物質は持続送達または徐放メカニズムで投与することもでき、これは製剤を内部に送達することができる。例えば、生物分解性ミクロスフェアもしくはカプセルまたはペプチドの持続放出が可能な他の生物分解性ポリマー構造を、本発明の製剤中に含むことができる(例えば、Putney and Burke, Nat Biotech 16:153-157, 1998)。
【0111】
本発明の医用薬剤を調製する際に、様々な製剤変法を用い、薬物動態および生態分布を変えるために操作することができる。薬物動態および生態分布を変えるためのいくつかの方法が当業者には公知である。そのような方法の例には、タンパク質、脂質(例えば、リポソーム、下記参照)、炭水化物、または合成ポリマー(前述)などの物質からなる小胞中の本発明の組成物の保護が含まれる。薬物動態の一般的議論については、例えば、Remington'sを参照されたい。
【0112】
一つの局面において、本発明の物質を含む薬学的製剤を脂質単層またはリポソームなどの二重層中に組み込む、例えば、米国特許第6,110,490号;第6,096,716号;第5,283,185号および第5,279,833号参照。本発明は、本発明の水溶性調節物質が単層または二重層の表面に結合されている製剤も提供する。例えば、ペプチドをヒドラジド-PEG-(ジステアロイルホスファチジル)エタノールアミン含有リポソームに結合することができる(例えば、Zalipsky et al., Bioconjug Chem 6:705-708, 1995)。リポソームまたは平面脂質膜もしくは完全な細胞、例えば、赤血球の細胞膜などの任意の形の脂質膜を用いることができる。リポソーム製剤は、静脈内、経皮(Vutla et al., J Pharm Sci 85:5-8, 1996)、経粘膜または経口投与を含む、任意の手段によって投与することができる。本発明は、本発明の核酸、ペプチドおよび/またはポリペプチドをミセルおよび/またはリポソーム内に組み込む薬学的製剤も提供する(Suntres and Shek, J Pharm Pharmacol 46:23-28, 1994;Woodle et al., Pharm Res 9:260-265, 1992)。リポソームおよびリポソーム製剤は標準法に従って調製することができ、当技術分野においても公知である、例えば、Remington's;Akimaru et al., Cytokines Mol Ther 1:197-210, 1995;Alving et al., Immunol Rev 145:5-31, 1995;Szoka and Papahadjopoulos, Ann Rev Biophys Bioeng 9:467-508, 1980、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号および第4,837,028号参照。
【0113】
本発明の薬学的組成物は、投与法に応じて様々な単位用量剤形で投与することができる。典型的な薬学的組成物のための用量は当業者には周知である。そのような用量は典型的には本来助言的なものであり、特定の治療状況、患者の耐容性などに応じて調節する。これを達成するのに十分な物質の量を「有効量」と定義する。この使用のための投与スケジュールおよび有効量、すなわち「投与処方」は、疾患または状態の病期、疾患または状態の重症度、患者の全身健康状態、患者の身体状態、年齢、薬学的製剤および活性物質の濃度などの様々な因子に依存することになる。患者のための投与処方を計算する際に、投与様式も考慮に入れる。投与処方は薬物動態、すなわち薬学的組成物の吸収速度、バイオアベイラビリティ、代謝、クリアランスなども考慮しなければならない。例えば、Remington's;Egleton and Davis, Peptides 18:1431-1439, 1997;Langer, Science 249:1527-1533, 1990を参照されたい。
【0114】
これらの方法に従い、本発明によって定義する物質および/または薬学的組成物は、一つまたは複数の他の物質との組み合わせで同時投与してもよい。本明細書における「同時投与」とは、同じ製剤もしくは二つの異なる製剤中、同じもしくは異なる経路での同時投与、または同じもしくは異なる経路による逐次投与を意味する。本明細書における「逐次」投与とは、二つの型の物質および/または薬学的組成物の投与間の、秒、分、時間または日の時間差を意味する。物質および/または薬学的組成物の同時投与は任意の順序で行うことができる。これに関して特に好ましい物質は、サイトカインおよび成長因子(例えば、LIF、成長ホルモンなど)ならびにINFγアンタゴニストなどの炎症サイトカインの阻害剤などであるが、それらに限定されるわけではない、神経形成および/もしくは軸索成長を促進し、かつ/または炎症を阻害する物質である。
【0115】
または、活性物質を特定の型の細胞に、より特異的に送達するために、抗体または細胞特異的リガンドもしくは特異的核酸分子を用いての標的指向療法を用いることができる。標的指向は様々な理由により、例えば、物質が許容しがたく毒性である、またはそうではなく高すぎる用量を必要とする、またはそうではなく標的細胞に侵入できない場合、望ましいと考えられる。
【0116】
物質を直接投与する代わりに、それらを標的細胞内、例えば、前述のものなどのウイルスベクター内または米国特許第5,550,050号ならびに国際公開公報第92/19195号、第94/25503号、第95/01203号、第95/05452号、第96/02286号、第96/02646号、第96/40871号、第96/40959号および第97/12635号に記載のものなどの細胞による送達システムにおいて産生することもできる。ベクターは標的細胞に標的指向させることができる。細胞による送達システムは患者の体内の所望の標的部位に植え込むよう設計され、標的物質のためのコード配列を含む。または、物質は、治療する細胞中で産生される、またはそれらの細胞を標的とする活性化物質によって活性型に変換するための、前駆体の形で投与することもできる。例えば、欧州特許出願第0 425 731Aおよび国際公開公報第90/07936号を参照されたい。
【0117】
さらにもう一つの局面において、本発明は組成物、例えば、本発明の物質を含むキットを提供する。キットは、本明細書に記載のとおり、本発明の方法論および用法を教示する説明材料も含むことができる。
【0118】
当業者であれば、本明細書に記載の発明は特に記載するもの以外の変形および改変が可能であることを理解すると思われる。本発明はそのような変形および改変をすべて含むことが理解されるべきである。本発明は、本明細書において言及または表示するすべての段階、特徴、組成物および化合物も、個々に、または一括して含み、これらの段階または特徴の任意の二つ以上の任意およびすべての組み合わせも含む。特に記載がない限り、本発明は特定の製剤成分、製造法、投与処方などに限定左列ことはなく、したがって変動しうることも理解されるべきである。
【0119】
併用療法は本発明のもう一つの局面である。併用療法は、EphA4アンタゴニストおよび炎症サイトカインのアンタゴニストまたはEphA4-神経突起相互作用の遮断薬などの別の物質の、任意の順序での同時または逐次投与を含む。物質の例には抗体(天然、一本鎖、キメラ型、もしくは組換え体またはその断片)ならびにLIFまたは成長ホルモン受容体アゴニストなどの一連の小分子治療薬およびサイトカインが含まれる。
【0120】
本発明の例示的実施態様を以下に列挙する。
(1) 対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症および/もしくは軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させる方法であって、Eph受容体仲介性シグナル伝達のレベルを低下させるために、対象にEph受容体のレベルおよび/もしくは機能、またはEph受容体機能に必要とされる分子を低減させる物質を投与する段階を含む方法。
(2) Eph受容体がEphA4受容体またはそのホモログ、パラログ、オルソログ、誘導体、もしくは機能的等価物である、(1)記載の方法。
(3) Eph受容体がEphA4受容体である、(2)記載の方法。
(4) 物質がタンパク質性または非タンパク質性分子である、(1)または(2)または(3)記載の方法。
(5) 物質がEphA4受容体アンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体、または構造類似物質である、(4)記載の方法。
(6) 物質がエフリンアンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体、または構造類似物質である、(4)記載の方法。
(7) 物質が核酸分子である、(4)記載の方法。
(8) 核酸分子がEphA4受容体mRNA転写物に対するアンチセンス、センス、DNA由来RNAiまたは合成RNAiである、(7)記載の方法。
(9) 物質が抗体またはその誘導体、組換え体、キメラ型、もしくは脱免疫化型(deimmunized form)である、(4)記載の方法。
(10) 神経系が中枢神経系(CNS)である、(1)記載の方法。
(11) 対象がヒトである、(1)記載の方法。
(12) 物質の有効性を測定する方法であって、実験対象の中枢神経系を傷害する段階と、試験する物質を傷害中枢神経系にその物質の有効性を評価するのに適した期間および条件下で投与する段階と、次いで一定期間後に中枢神経系傷害の部位でグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症および/または軸索再生成長のレベルを評価する段階とを含む方法。
(13) 傷害される中枢神経系が脊髄である、(12)記載の方法。
(14) 物質がEph受容体またはEph受容体仲介性シグナル伝達を阻害する、(12)または(13)記載の方法。
(15) Eph受容体がEphA4またはそのホモログ、パラログ、オルソログ、誘導体、もしくは機能的等価物である、(14)記載の方法。
(16) Eph受容体がEphA4受容体である、(15)記載の方法。
(17) 物質がタンパク質性または非タンパク質性分子である、(12)または(13)または(14)または(15)記載の方法。
(18) 物質がEphA4アンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体、または構造類似物質である、(17)記載の方法。
(19) 物質がエフリンアンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体、または構造類似物質である、(17)記載の方法。
(20) 物質が核酸分子である、(17)記載の方法。
(21) 核酸分子がEphA4受容体mRNA転写物に対するアンチセンス、センス、DNA由来RNAiまたは合成RNAiである、(20)記載の方法。
(22) 物質が抗体またはその誘導体、組換え体、キメラ型、もしくは脱免疫化型である、(17)記載の方法。
(23) 神経系が中枢神経系(CNS)である、(12)記載の方法。
(24) 対象がヒトである、(12)記載の方法。
(25) 物質の有効性を測定する方法であって、細胞を試験する物質とインビトロで該物質の有効性を評価するのに適した期間および条件下で接触させる段階と、次いで一定期間後にグリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症および/または軸索再生に関与する細胞の性向を評価する段階とを含む方法。
(26) 物質がEph受容体またはEph受容体仲介性シグナル伝達を阻害する、(25)記載の方法。
(27) Eph受容体がEphA4またはそのホモログ、パラログ、オルソログ、誘導体、もしくは機能的等価物である、(25)記載の方法。
(28) Eph受容体がEphA4受容体である、(27)記載の方法。
(29) 物質がタンパク質性または非タンパク質性分子である、(25)〜(28)のいずれか一に記載の方法。
(30) 物質がEphA4アンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体、または構造類似物質である、(29)記載の方法。
(31) 物質がエフリンアンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体、または構造類似物質である、(29)記載の方法。
(32) 物質が核酸分子である、(29)記載の方法。
(33) 核酸分子がEphA4受容体mRNA転写物に対するアンチセンス、センス、DNA由来RNAiまたは合成RNAiである、(32)記載の方法。
(34) 物質が抗体またはその誘導体、組換え体、キメラ型、もしくは脱免疫化型である、(29)記載の方法。
(35) 対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止する、またはその量を低減させる方法であって、該対象にEphA4仲介性シグナル伝達のアンタゴニストの有効量をグリオーシスおよび/もしくはグリア瘢痕および/もしくは炎症を防止または低減させるのに十分な期間および条件下で投与する段階を含む方法。
(36) Eph受容体がEphA4受容体である、(35)記載の方法。
(37) 物質がタンパク質性または非タンパク質性分子である、(36)記載の方法。
(38) 物質がEphA4アンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体、または構造類似物質である、(35)記載の方法。
(39) 物質がエフリンアンタゴニスト、ホモログ、類縁体、誘導体、または構造類似物質である、(35)記載の方法。
(40) 物質が核酸分子である、(35)記載の方法。
(41) 核酸分子がEphA4受容体mRNA転写物に対するアンチセンス、センス、DNA由来RNAiまたは合成RNAiである、(39)記載の方法。
(42) 物質が抗体またはその誘導体、組換え体、キメラ型、もしくは脱免疫化型である、(35)記載の方法。
(43) 神経系が中枢神経系(CNS)である、(35)記載の方法。
(44) 対象がヒトである、(35)記載の方法。
(45) グリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症を低減させる際に用いるためのEphA4仲介性シグナル伝達のアンタゴニストである単離物質。
(46) (44)記載の物質と一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤および/または賦形剤とを含む薬学的組成物。
(47) グリオーシスおよび/またはグリア瘢痕および/または炎症の防止のための医用薬剤製造におけるEph受容体の使用。
【0121】
本発明を下記の非限定的実施例によりさらに説明する。
【実施例1】
【0122】
材料および方法
下記の材料および方法を以下の実施例において用いる。
【0123】
マウス
月齢3〜12ヶ月で以前に記載されたとおり(Coonan et al., J Comp Neurol 436:248-262, 2001)に維持した成獣EphA4-/-およびC57BL/6マウスを本試験で用いた。
【0124】
脊髄損傷
マウスをケタミンおよびキシラジンの混合物(それぞれ100mg/kgおよび16mg/kg)で麻酔した。脊髄を椎弓切除術により曝露し、腰膨大のレベルに対応するT12〜L1レベルで2〜3の椎弓を切除した。T12で脊髄左半側切断を細い角膜刃を用いて行い(同じ場所を二回切り、完全切断を確認した)、重なる筋肉および皮膚を縫合した。半側切断を野生型44匹およびEphA4-/-マウス37匹で行った。これらのうち、野生型28匹およびEphA4-/-マウス19匹を用いて免疫組織化学検査を行った。残りのマウスは行動を評価し、続いて軸索トレーシングにより再生の程度を調べた。
【0125】
順行性トレーシング
脊髄損傷の5週間後、テトラメチルローダミンデキストラン(「Fluoro-Ruby」、分子量10,000kD)を脊髄に損傷と同側の頸膨大のレベルで、ハミルトンシリンジに連結したガラスピペットから注入した。さらに7日間の生存期間の後、マウスに4%パラホルムアルデヒドを灌流した。凍結ミクロトーム上で脊髄の縦の連続切片を50μmで切断し、切片をゼラチン化スライドに固定し、蛍光および共焦点顕微鏡を用いて検査した。
【0126】
この技術は注入部位と同側のすべての下行軸索経路を標識したが、注射部位の反対側は標識しなかった。
【0127】
すべての無傷の連続切片(8〜10/脊髄)の白質において頭側から尾側に走る標識軸索の数を、格子を用い、傷害部位の2.5mmおよび50〜100μm近位と、半側切断の50〜100μm、1mmおよび5mm遠位で切片を上下に焦点を合わせることにより、×400で計数した。傷害の腰部位は、線維の終末および馬尾の開始により、5mmよりも長い再成長の分析は不可能であった。結果の有意性はスチューデントt検定を用いて解析した。
【0128】
逆行性トレーシング
傷害下の腰髄を腰椎下部椎弓切除術により曝露した。注射により損傷された軸索のニューロン細胞体を標識するFast Blue(2%w/v、注入一回あたり0.3μl;EMS-POLYLOY GmBH,Grobβ-Umstadt, Germany)を、傷害部位の同側の脊髄に、ハミルトンシリンジに連結したガラスマイクロピペットで注入した。5日間の生存期間の後、マウスにPBS中の4%パラホルムアルデヒドを灌流した。脳および脊髄を摘出し、固定液中20%スクロース中で24時間後固定した後、凍結ミクロトーム上、冠/横断面で50μmで連続切断した。処置した脊髄縦切片において一側性の注入部位を確認したことから、注入は成功したと考えられた。コンピューター接続デジタル化システム(MD3顕微鏡ディジタイザーおよびMD-プロットソフトウェア;Minnesota Datametrics Corporation, MN, USA)を用い、一連の切片4枚毎に標識細胞の位置をマッピングすることにより、標識ニューロンの定性的および定量的比較を行った。
【0129】
行動分析
歩幅:半側切断の前後に、マウスの後ろ足に非毒性インクを塗布し、ブロッティング紙上のトンネル内に置くことにより足形を取った(野生型n=7、EphA4-/- n=9)。歩幅を、複数の連続する足跡の測定によりもとめ、結果を各マウスの基準時歩幅のパーセンテージとして表した。
【0130】
格子歩行:野生型(n=5)およびEphA4-/-(n=7)マウスの歩行運動を評価するために、マウスの水平または角度をつけた(水平から75°)ワイヤー格子(格子間隔1.2×1.2cm、全面積35×45cm)上を歩く能力を調べた(Ma et al., Exp Neurol 169:239-254, 2001)。マウスの脊髄半側切断から1、2および3ヶ月後に試験し、各群からの非傷害マウスと比較した。水平格子上では、各マウスに格子上を5分間自由に歩かせ、その間最低2分間の歩行時間を必要とした。角度をつけた格子上では、各マウスの10回のよじ登りを測定した。左の後ろ足のすべての足指および踵がワイヤー表面から下に伸びて、格子から完全に突きだした場合、これを踏みはずしと数えた。左後肢の歩数の総数も数えた。結果を正確な歩数のパーセンテージで表し、有意性をスチューデントt検定を用いて解析した。
【0131】
感覚および運動能力-把握試験:半側切断および非傷害野生型(n=5)およびEphA4-/-(n=7)マウスの直径7mmの棒を握る能力を、左後肢で試験した。マウスの前肢をテーブルに接触させたまま、後肢を卓上から2cm上げた。棒で左足蹠を軽く触り、反応を0〜4の尺度に基づいて評価することにより、把握能力を試験した:0=足および足指の動きなし;1=足の部分的動き、足指の動きなし;2=部分的把握、足および足指のわずかな動き;3=弱い完全把握、棒の緩和な動きでは維持されない;4=強い把握、棒の緩和な動きで維持。マウスを前述の格子試験と並行して少なくとも3回採点した。結果を各群の点数の平均±SEMで表し、有意性をスチューデントt検定を用いて解析した。
【0132】
免疫組織化学および星状細胞数
ウサギ抗-GFAP(1:500、Dako)、マウス抗-CSPG(1:200、Sigma)およびウサギ抗-EphA4を用いた標準免疫組織化学法を行った。ウサギ抗-EphA4抗体(発明者らから入手可能)を、標準法(Cooper and Paterson, Current protocols in molecular biology, eds Ausubel et al. 11.12.11-11.12.19, John Wiley & Sons, New York, 2000)を用いてEphA4の細胞内SAMドメイン(Genbankアクセッション番号NM007936)のアミノ酸938〜953に対応するペプチドに対して調製した。肥大性星状細胞の数、ならびにGFAP-発現星状細胞の総数を、連続する縦8μm切片3つ毎に、傷害部位およびその2.5mm近位の0.25mm2格子内で計数した。肥大性星状細胞は大きい細胞体と複数の厚く長い突起を有する、強く染色されたGFAP-陽性細胞と定義された。非肥大性星状細胞はGFAPに対して染色強度が低く、小さい細胞体と薄く、複雑でない突起を有していた。肥大性星状細胞は非肥大性星状細胞のサイズの二倍よりも大きかった。
【0133】
星状細胞およびニューロン培養物ならびに神経突起の長さ測定
精製した星状細胞およびニューロン培養物を、以前に記載されたとおり(Turnley et al., Nat Neurosci 5:1155-1162, 2002)に調製した。神経突起の長さを分析するために、E16皮質ニューロンを、野生型もしくはEphA4-/-星状細胞単層を含む、またはポリーDL-オルニチン/ラミニンコーティングされたチャンバースライド(Falcon、USA)中5,000/ウェルで播種した。いくつかの実験において、星状細胞を単量体エフリンA5-Fc(0.15、1.5、10μg/ml)または複合エフリンA5-Fc(1.5μg/ml、添加前に0.15μg/ml抗ヒトIgG(Vector)と室温で30分間複合)で1時間前処理した。22時間後、細胞を固定し、神経突起マーカーβIII-チューブリン(1:2000、Promega)について免疫染色した。神経突起の長さを、以前(Turnley et al., Neuroreport 9:1987-1990, 1998)と同様に画像分析を用いて測定した。神経突起の長さの平均における差の有意性をスチューデントt検定を用いて解析した。
【0134】
星状細胞の生化学分析のために、示した因子を10cmプレート(Falcon、USA)中の80%コンフルエントな単層に指定の時間加えた。エフリンA5-Fc(発明者らから入手可能)を前述のとおりあらかじめ複合した。
【0135】
免疫沈降およびウェスタン分析
細胞を溶解し、試料を全タンパク質レベルの分析のために取っておいた。溶解産物の残りはEphA4またはRho活性化分析における免疫沈降のために用いた。EphA4活性化は、抗ホスホチロシン(Cell Signaling)を用いたリン酸化タンパク質の免疫沈降と、続くウェスタン転写およびウサギ抗EphA4抗体(Dr. D. Wilkinson, National Institute for Medical Research, Londonの厚意により提供を受けた)を用いた活性化または全EphA4の検出により評価した。Rho活性化アッセイは、Rhotekin RBDアッセイを製造者(Upstate、USA)の指示に従い用いて行った。全EphA4およびβ-アクチン発現レベルを、非傷害および傷害から7日後の脊髄で、前述のウサギ抗EphA4抗体およびマウス抗β-アクチン抗体(Sigma)を用いたウェスタン分析により評価した。濃度測定をNIH Imageソフトウェアを用いたオートラジオグラフで実施し、EphA4バンドの相対レベルをもとめ、β-アクチンレベルに標準化した。
【0136】
細胞増殖アッセイ
臭化[3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニル]テトラゾリウム(MTT)アッセイは、生存細胞中のミトコンドリア活性を測定するもので、増殖アッセイとしてよく用いられる(Mosmann, J Immunol Methods 65:55-63, 1983)。生存細胞はテトラゾリウム環を暗青色のホルマザン結晶に変換し、これは光学密度(O.D.)を読み取ることにより定量することができる;O.D.の増大は経時的な細胞数の増加に相関している。野生型およびEphA4-/-星状細胞を、96穴プレート(Falcon)で、10%FCSを補足したDMEM中、LIF(1000U/ml)またはIFN-γ(100U/ml)いずれかの存在下、または非存在下、3×103細胞/ウェルで播種した。MTTアッセイを播種の2、24、48および72時間後に実施した。MTT(0.25mg/ml)を各時点の細胞と共に37℃で2時間インキュベートし、次いで細胞を等量の酸性イソプロパノール(無水イソプロパノール中0.04M HCL)で溶解し、ホルマザン生成物のO.D.を550〜650nmで測定した。
【0137】
エフリンA5-Fc注射
PBS/エフリンA5-Fc(0.687mg/注射)またはPBS単独の注射を、手術後2時間で開始し、次いで24時間毎に2週間までI.P.で行った。
【実施例2】
【0138】
傷害軸索のトレーシングは6週間までに大規模な再生を示す
EphA4-/-マウスはいくらかの発生皮質脊髄路異常を有し、一部の軸索は早期停止するか、または中線を異常に交差するため(Dottori et al., Proc Natl Acad Sci USA 95:13248-13253, 1998;Coonan et al., J Comp Neurol 436:248-262, 2001)、標準の皮質脊髄路トレーシング技術の使用は不可能である。加えて、発明者らは他の軸索路におけるEphA4欠失の影響に関する仮説を立てようと考えなかった。したがって、発明者らは順行性トレーシング技術の利用を選択し、それによりトレーサーを腰の傷害部位よりもずっと上部の頸髄に注入した。これにより、個々の軸索の全般的再生を評価することが可能となった。非傷害野生型およびEphA4-/-マウスでこの技術を用いることにより、注入部位と同側の下行軸索経路の同等の標識が見られたが、注入部位と反対側では標識は見られなかった。
【0139】
傷害から6日後、野生型およびEphA4-/-マウスの両方で、順行性標識により傷害部位に標識線維は見られなかったが、EphA4-/-マウスの傷害部位付近で成長円錐を有する軸索が認められた(図1a、b)。しかし、野生型の傷害(図2b)とは異なり、脊髄半側切断の6週間後までに、多くの順行性に標識された軸索がEphA4-/-傷害部位を交差した(図2a;補足図2a〜d)。脊髄の全長が無傷であった切片だけを結果に含め、軟膜表面に近い軸索は計数から除外した。傷害部位に達した順行性に標識された軸索(EphA4-/-マウスでは70.8±14.7であったのに比べて野生型では37.25±9.6)のうち、EphA4-/-軸索の70%が傷害部位を交差し(100μm遠位で測定)、そのうち、75%は傷害の1mm遠位に、15%は5mm遠位に維持された(図2a、c)。これとは対照的に、野生型マウスでは線維の約4%が傷害部位を交差し、これらは実質的に1mmまたは5mm遠位では検出されなかった。EphA4-/-マウスではかなり多くの軸索が傷害部位に到達したため、差の程度はさらに大きく、傷害の上流で野生型軸索再成長のかなりの阻害があることを示している。6週間の時点で傷害部位を交差した再生軸索は、再生中には典型的である「波形」を呈した(図2av)が、大多数は障害のない頭側から尾側線を走ると追跡することができた(図2a)。一部の線維は、特に傷害部位の後に分枝または偏りを示した(図2aiii、aiv)が、全傷害領域にわたり、中線を交差する共焦点顕微鏡写真のモンタージュ(図2a)から、非傷害側から交差し、傷害を通って、またはその遠位を走る標識線維束に寄与する線維はないことが明らかとなった。したがって、EphA4-/-マウスで傷害部位を通過し、これを超えた多数の標識軸索は、切断された軸索の本当の再生にのみ寄与することができる。
【0140】
本試験で用いる順行性トレーシングはすべての下行脊髄経路を標識したため、どの特定の軸索路が再生したかを同定するために逆行性トレーシングを用いた。これにより、EphA4-/-マウスでは複数の軸索路が再生を示すことが明らかとなったが、野生型マウスでは再生は見られなかった。標識ニューロンは運動皮質(皮質脊髄路)および赤核(赤核脊髄路)、ならびに視床下部、前庭および網様核や水道周囲灰白質に存在し(図3a、b)、これらは非傷害対照EphA4-/-および野生型マウスで標識された同じ領域(図3c)であった。野生型マウスでは、ほんの少数の両側性に突出した毛様体脊髄ニューロンが傷害後に標識された。
【実施例3】
【0141】
EphA4-/-マウスの機能回復
EphA4-/-マウスで観察された軸索再生は機能的相関も有していた。マウスを、まず脊髄半側切断の前および24時間から4週間後に歩幅を測定することにより(Bregman et al., Nature 378:498-501, 1995)、行動評価した。24時間の時点で、EphA4-/-および野生型マウスはいずれも最小の機能を示した。EphA4-/-マウスは3週間以内にその基準時の歩幅の100%を回復したが、野生型マウスは70%の回復しか示さず(図3d)、その後も改善しなかった。加えて、半側切断の1ヶ月後、同側の後足握力(図3e)および格子上を歩く能力(図3f)はEphA4-/-マウスでは野生型に比べて劇的に改善した。これらの機能は傷害後3ヶ月まで改善し続けた。非傷害EphA4-/-マウスおよび野生型マウスはいずれもこれらの試験で最高の点数を達成した。
【実施例4】
【0142】
EphA4-/-マウスにおける星状細胞グリオーシスの欠損
半側切断EphA4-/-脊髄の著しい特徴は、GFAP発現により評価して、野生型に比べ星状細胞グリオーシスが実質的にないことであった(図4a、b、d、e)。第7日の時点で、野生型傷害部位のGFAP-陽性星状細胞の大多数(90.4%)は肥大性で、GFAPについて非常に強く染色されたが、EphA4-/-星状細胞では7.4%だけが肥大性であった(図4g)。全体に見て、GFAP陽性細胞の総数は傷害後の最初の7日間を通してEphA4-/-半側切断で少なく、これは傷害部位の近位で著しい(図4h)。非傷害例において、EphA4-/-および野生型マウス間で星状細胞数に差はなかった(EphA4-/-の825.6±98.1/mm2に比べて野生型836.8±108.3/mm2)。グリア反応がないことで、グリア瘢痕の成分であるCSPGの免疫染色により評価して、EphA4-/-マウスでは傷害の6週間後にグリア瘢痕のサイズの著しい低下が見られた(図4c、f)。
【0143】
EphA4発現は傷害後の再生のレベルおよびグリオーシスの両方を調節すると考えられるため、発明者らは次にEphA4発現が脊髄半側切断後にアップレギュレートされるかどうかを調べた。免疫染色およびウェスタン分析(図5a、d)により、EphA4発現は非常に低いレベルで起こり、非傷害動物ではいくつかの運動ニューロンを除き免疫染色によって検出不可能であった(補足図3b〜d)。しかし、発現およびリン酸化は脊髄傷害後にアップレギュレートされ(図5d)、ほとんどもっぱら傷害部位のGFAP発現星状細胞上であった(図5a〜c)。低レベルのEphA4が、傷害部位の近位の逆行性に標識した軸索で認められた(補足図3e〜g)。EphA4のリガンドであるエフリンB3も再生中の軸索、ならびに一部の星状細胞上で発現された。
【実施例5】
【0144】
星状細胞上のEphA4発現は神経突起増殖を阻害する
星状細胞上のEphA4発現を、これがインビトロで皮質ニューロンの神経突起増殖を阻害するかどうかについて調べた。E16皮質ニューロンを野生型またはEphA4-/-星状細胞いずれかの単層上に播種し、22時間後に最も長い神経突起の長さを測定した。これにより、野生型星状細胞に比べてEphA4-/-星状細胞上で増殖の2〜3倍の増大が明らかとなった(図5e〜g)。ニューロンをEphA4を形質移入された293T細胞上で増殖させた場合にも同様の結果が得られた(非形質移入293T細胞上の神経突起の長さは80.4±3.3μmであったのに比べて、EphA4を形質移入した細胞上では30.2±1.9μm)ため、この効果は星状細胞上のEphA4の発現に直接起因すると考えられた。野生型およびEphA4-/-星状細胞の両方における、野生型ニューロンに比べてEphA4-/-ニューロンの神経突起増殖増大(図5g)は、以前に示唆されているとおり(Wahl et al., J Cell Biol 149:263-270、2000;Kullander et al., Genes Dev 15:877-888, 2001)ニューロン上で発現されたEphA4も神経突起増殖を阻害し、EphA4-/-マウスで観察される再生に寄与していることを示唆している。星状細胞上での神経突起増殖の阻害は、星状細胞単層においてEphA4に強く結合する、単量体エフリンA5-Fcの添加により用量依存的様式で強力に阻止されたが、ラミニンコーティングしたガラススライド上で増殖したニューロンには何の影響も無かった(図5h)。反対に、以前に記載されたとおり(Wahl et al., J Cell Biol 149:263-270, 2000;Kullander et al., Genes Dev 15:877-888, 2001)、複合エフリンA5-Fcの添加はガラススライド上で神経突起増殖を阻害し、星状細胞上で増殖をさらに阻害した(図5h)。これは、星状細胞上のEphA4の阻止は神経突起増殖を増強するが、ニューロン上ではそのような効果は見られず、一方でニューロンおよび星状細胞両方におけるEphA4の活性化は神経突起増殖を阻害することを示している。これらの結果はいずれも、リガンドによるEphA4の活性化が神経突起阻害のメカニズムであることを直接示すものである。インビボで、星状細胞上のEphA4発現に対する神経突起反応の活性化物質の可能性があるものはエフリンB3で、これはシグナルを変換することが示されており(Palmer et al., Mol Cell 9:725-737, 2002)、脊髄における再生中の軸索によって発現された。
【実施例6】
【0145】
Rho活性化および増殖はEphA4-/-星状細胞において低減させる
以前の試験が、グリオーシスはインターフェロン-γ(IFNγ)および白血病阻害因子(LIF)を含む炎症サイトカインによって仲介されると示している(Yong et al., Proc Natl Acad Sci USA 88:7016-7020, 1991;Balasingam et al., J Neurosci 14:846-856, 1994;Sugiura et al., Eur J Neurosci 12:457-466, 2000)ことを考慮して、発明者らはこれらのサイトカインが星状細胞上のEphA4のアップレギュレーションにおいて役割を果たしているかどうかを調べた。IFNγおよびLIFはEphA4発現をそれぞれ56%および69%アップレギュレートしたが、インターロイキン-1(Il-1)および腫瘍壊死因子-α(TNFα)は効果がなかった(図6a)。EphA4発現が星状細胞反応につながりうる下流活性化を伴うかどうかの疑問に直接取り組むため、発明者らはEphA4がリン酸化されるかどうかを調べた。IFNγおよびLIFはいずれも、可溶性多量体EphA4リガンドであるエフリンA5-Fcの添加と同様の様式で、EphA4リン酸化を2倍アップレギュレートした(図6a)。加えて、これは、Eph受容体シグナル伝達の下流の細胞骨格変化の主な調節物質である、低分子GTPアーゼ、Rho(Hall, Science 279:509-514, 1998)の活性化における著しい増加を引き起こした(Wahl et al., J Cell Biol 149:263-270, 2000;Shamah et al., Cell 105:233-244, 2001)。Rho活性化増大は傷害部位から摘出した野生型脊髄組織(図6b)および培養星状細胞(図6c)の両方で起こったが、傷害EphA4-/-動物から摘出した細胞または組織を用いて、そのような反応は観察されなかった。星状細胞、ならびにニューロンおよび乏突起膠細胞におけるRhoの活性化も、損傷後の脊髄において最近報告されている(Dubreuil et al., J Cell Biol 162:233-243, 2003)。
【実施例7】
【0146】
エフリンA5-Fcの注射は軸索再生を増大させる
単量体エフリンA5-FcはインビトロでEphA4の活性化を阻止する。エフリンA5-Fc注射後、脊髄傷害を受けたマウスの星状細胞グリオーシスは、PBS単独を注射したものに比べて、有意に低減する(図7Aおよび7B)。同様に、2週間のエフリンA5-Fc注射も損傷脊髄におけるEphA4アップレギュレーションを阻害する(図8)。傷害から2週間後のマウスの脊髄で軸索再生を調べる場合、PBS単独(図10)に比べてエフリンA5-Fc注射後(図9)に、傷害部位付近の有意な側枝出芽および再生が起こる。この再生はSCIおよびエフリンA5-Fc注射を受けたマウスの格子歩行およびよじ登りにおける有意な改善に反映される(図11)。SCIの6週間後、傷害部位をまたがる有意な軸索再生がエフリンA5-Fcを注射されたマウスで観察される(図12)。
【0147】
当業者であれば、本明細書に記載の発明は特に記載するもの以外の変形および改変が可能であることを理解すると思われる。本発明はそのような変形および改変をすべて含むことが理解されるべきである。本発明は、本明細書において言及または表示するすべての段階、特徴、組成物および化合物も、個々に、または一括して含み、これらの段階または特徴の任意の二つ以上の任意およびすべての組み合わせも含む。
【0148】
参照文献












【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の神経系内のグリオーシスおよび/もしくは軸索成長阻害を防止する、またはその量を低減させるための、エフリンA5を含む薬剤。
【請求項2】
エフリンA5-Fcを含む、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
対象がヒトである、請求項1または2記載の薬剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の薬剤と一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤および/または賦形剤とを含む薬学的組成物。

【図3】
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【図6】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−136529(P2012−136529A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−30227(P2012−30227)
【出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【分割の表示】特願2007−530543(P2007−530543)の分割
【原出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(505167565)ザ ユニバーシティー オブ クイーンズランド (20)
【出願人】(509060039)ザ ユニヴァーシティー オブ メルボルン (6)
【Fターム(参考)】