説明

Fcレセプターの製造方法

【課題】遺伝子工学手法を用いて天然に近いヒトFcレセプターFcγRIが発現可能なプラスミドを形質転換することで得られる微生物、および前記微生物を用いたヒトFcγRIの製造方法を提供すること。
【解決手段】可溶性ヒトFcレセプターFcγRIをコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドを導入することで麹菌を形質転換して得られる、可溶性ヒトFcレセプターFcγRIを発現可能な麹菌、および前記麹菌を用いて可溶性ヒトFcレセプターFcγRIを製造することで、天然に近いヒトFcγRIを、安価に、かつ可溶化した状態で大量に製造することを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子工学的手法により得られた、Fcレセプターを発現する麹菌、および前記麹菌を用いたFcレセプターの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
Fcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。Fcレセプターはその結合する免疫グロブリンの種類によって分類されており、IgGのFc領域に結合するFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある(非特許文献1)。また、各レセプターは、その構造の違いによりさらに細かく分類され、Fcγレセプターの場合、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIの存在が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
Fcγレセプターの一つであるFcγRIは単球とマクロファージ中で発現しており、好中球ではγインターフェロンにより誘導的に発現される(非特許文献1)。また、FcγRIはIgGに対する結合親和性が高く、その平衡解離定数(K)は10−8M以下である(非特許文献2)。FcγRIは、細胞外領域、細胞膜貫通領域、細胞質内領域に区分され、IgGとの結合は、IgGのFc領域とFcγRIの細胞外領域で起こり、その後細胞質へとシグナルが伝達される。FcγRIはIgGとの結合に直接関わる分子量約42000のα鎖と、γ鎖の2種類のサブユニットによって構成されており、γ鎖は細胞膜と細胞外領域との境界で共有結合することでホモダイマーを形成している(非特許文献3)。FcγRIはIgG1からIgG4まであるサブクラスのうち、特にIgG1およびIgG3と強く結合し、IgG2およびIgG4との結合は弱いことが知られている。
【0004】
ヒトFcγRIのアミノ酸配列、および遺伝子配列(配列番号1)はExPASy(Primary accession number:P12314)などの公的データベースに公表されている。また、FcγRIの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されており、図1にヒト型FcγRIの構造略図を示す。なお、図1中のアミノ酸番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から15番目のグリシン(Gly)までがシグナル配列、16番目のグルタミン(Gln)から289番目のバリン(Val)までが細胞外領域、290番目のトリプトファン(Trp)から374番目のスレオニン(Thr)までが細胞膜貫通領域および細胞内領域とされている。
【0005】
近年になり、Fcレセプターの予想外の免疫抑制的な生物学的特性は、特に自己免疫疾患または自己免疫症候群、移植物の拒絶および悪性リンパ増殖の領域において医薬として注目を浴びつつある(非特許文献2)。また、FcγRIの機能である抗体の吸着能は各種抗体精製用クロマトグラフィーゲルの捕捉機能を担うタンパク質としても利用することができる。
【0006】
FcγRIα鎖のアミノ酸配列および遺伝子塩基配列(非特許文献4)はJanet等により明らかにされ、その後、遺伝子工学的手法により、大腸菌(特許文献1)または動物細胞を利用した発現が報告されている。しかしながら、大腸菌を利用した発現系においてはFcγRIの細胞外領域タンパク質の発現量は極めて低く、また、発現されたタンパク質は菌体内に発現するため、多くの場合発現したタンパク質は不溶性の封入体となる。封入体タンパク質は可溶化などの操作をすることにより、活性型タンパク質として調製することは可能であるが、煩雑な操作を必要とする。また、動物細胞を用いた系では、大腸菌以上の発現量が報告(非特許文献3)されているが培養に多大な時間を要し、かつ、生産性も高くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−530419号公報
【特許文献2】特開2009−278948号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.V.Ravetch等,Annu.Rev.Immunol.,9,457,1991
【非特許文献2】Toshiyuki Takai,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318,2005
【非特許文献3】A.Paetz等,Biochem.Biophys.Res.Commun.,338,1811,2005
【非特許文献4】J.M.Allen等,Science,243,378,1989
【非特許文献5】David M.Hoover等,Nucleic Acid Res.,30,e43,2002
【非特許文献6】Gang Wu等,Protein Expr Purif.,47.,441,2006
【非特許文献7】Masaya Nagao等,Biosci.Biotech.Biochem.、61,670,1997
【非特許文献8】Osamu Yamada等,Biosci.Biotech.Biochem.、61,1367,1997
【非特許文献9】Setsuzo Tada等,Agric.Biol.Chem.,53,593,1989
【非特許文献10】Osamu Yamada等,J.Biosci.Bioeng.,95,82,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、遺伝子工学手法を用いて天然に近いヒトFcレセプターFcγRIが発現可能なプラスミドを形質転換することで得られる微生物、および前記微生物を用いたヒトFcγRIの製造方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題に関し鋭意検討した結果、可溶性ヒトFcレセプターFcγRIをコードするポリヌクレオチドを発現プラスミドに挿入し、当該挿入された発現プラスミドにより形質転換された麹菌を用いて発現させることで、活性を有し、かつ可溶化などの操作が不要なヒトFcγRIを製造できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する:
(1)可溶性ヒトFcレセプターFcγRIをコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドを導入することで麹菌を形質転換して得られる、可溶性ヒトFcレセプターFcγRIを発現可能な麹菌。
(2)可溶性ヒトFcレセプターFcγRIをコードするポリヌクレオチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸をコードするポリヌクレオチドである、(1)に記載の麹菌。
(3)麹菌がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)である、(1)または(2)に記載の麹菌。
(4)(1)から(3)のいずれかに記載の麹菌を用いた、ヒトFcレセプターFcγRIの製造方法。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の麹菌を取得する際に用いる、可溶性ヒトFcレセプターFcγRIをコードするポリヌクレオチドは、報告されているヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドに適当な修飾を加えることで、本来なら膜タンパク質であるFcγRIを細胞外に分泌させることが可能なポリヌクレオチドである。前記適当な修飾法としては、終止コドンを細胞外領域あるいは膜貫通領域に挿入する方法、膜貫通領域を除去する方法が例示できるが、膜貫通領域を除去する方法が好ましい。前述したように配列番号1にはヒトFcγRIの全アミノ酸配列およびそれをコードするポリヌクレオチド配列が示されており、前記アミノ酸中、細胞外領域は16番目のグルタミン(Gln)から289番目のバリン(Val)までのアミノ酸に相当し、膜貫通領域は290番目のトリプトファン(Trp)から314番目のアルギニン(Arg)までのアミノ酸に相当する。前記細胞外領域または膜貫通領域に終止コドンを挿入することは、遺伝子工学的に可能である。また、適当な合成オリゴヌクレオチドを作製しPCR法により連結することで、ヒトFcγRIの細胞外領域もしくは膜貫通領域に終止コドンを挿入したもの、または前記膜貫通領域を除去したポリヌクレオチドを調製してもよい。この際、可溶性ヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドにおけるコドン使用頻度(codon usage)に関しては必ずしもヒトに合わせなくてもよく、例えば、麹菌におけるレアコドン(rare codon、当該宿主におけるコドンの使用頻度が少ないもの)の全部または一部を、コードするアミノ酸を同一のまま、麹菌の翻訳機構において利用頻度が高いコドン(codon)に変換したポリヌクレオチドであってもよい。なお、コドンの使用頻度の情報は例えば公的データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/)から得ることができる。
【0013】
また、可溶性ヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドは、ヒトFcγRIの全塩基配列のうち膜貫通領域を除去した配列中の少なくとも1塩基が他のヌクレオチドに置換、および/または欠失、および/または付加されているポリヌクレオチドであっても、宿主である麹菌から分泌され、かつ、ヒトFcγRIの活性を保持するものは前記ポリヌクレオチドとみなすことができる。さらに、可溶性ヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドは、ヒトFcγRIの全塩基配列のうち膜貫通領域を除去した配列と90%以上の配列同一性を有し、しかも宿主である麹菌から分泌され、かつ、ヒトFcγRIの活性を保持するものも前記ポリヌクレオチドとみなすことができる。なお、前記ポリヌクレオチドはヒトFcγRIのcDNAなどを出発材料として作製してもよいし、人工的に合成してもよい。ヌクレオチドの置換としては、Site−directed mutagenesis法などの公知の変異導入法のほかに、合成オリゴヌクレオチドとPCRを組合わせたDNAWorks法(非特許文献5)、Synthetic Gene Designer法(非特許文献6)などを用いることができる。前記方法では、ポリペプチドをコードするアミノ酸配列を基にして、数十塩基からなるオリゴヌクレオチド群を合成し、PCRにより合成オリゴヌクレオチドをアッセンブリーさせることによって完全長の遺伝子を作製することができる。
【0014】
さらに、可溶性ヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドは、その5’末端側に、転写を開始するためのメチオニンとシグナルペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを付加してもよい。ここで述べる、シグナルペプチドとは、細胞質内で発現したタンパク質が細胞膜を通過し、細胞膜外において分泌するためのポリペプチドであり、通常、当該タンパク質のN末端側(ポリヌクレオチドの5’末端側)に位置しており、細胞膜通過後、特定のプロテアーゼ酵素によって切断される。シグナルペプチドの一例として、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から15番目のグリシン(Gly)までのアミノ酸からなるペプチドをあげることができるが、好ましくは麹菌において分泌発現されるタンパク質であるα−アミラーゼ、リパーゼやプロテアーゼなどのシグナルペプチドを付加するのが好ましい。
【0015】
さらに、発現したヒトFcγRIを簡便に検出・精製することを目的として、可溶性ヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドに、タグ(tag)となるペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを付加させてもよい。タグペプチドとしてはポリヒスチジンタグ(His−tag)、C−ミックタグ(C−myc tag)などを例示することができる。付加させる位置は、ヒトFcγRIとしての生物活性を損なわない限りにおいて、5’末端側(N末端側)、3’末端側(C末端側)どちらでもよい。なお、可溶性ヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドへのタグペプチドをコードするオリゴヌクレオチドの付加は、当業者に周知の方法にて遺伝子工学的に作製することが可能である。
【0016】
本発明の麹菌を取得する際に用いる、ヒトFcγRIを発現させるためのプラスミドは、前述した可溶性ヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドを、公知の発現プラスミドの適切な位置に遺伝子工学的に挿入することにより、得ることができる。公知の発現プラスミドとしては、例えば、麹菌の形質転換に利用されるpUNA、pUSA(非特許文献10)などをあげることができる。また、ここで述べる適切な位置とは発現プラスミドの複製機能、所望の栄養要求マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置のことをいう。前記ヒトFcγRIを発現させるためのプラスミドを導入することで麹菌を形質転換して得られる、形質転換体を培養することにより、ヒトFcγRIを麹菌菌体外へ発現させることができる。
【0017】
本発明で形質転換に用いる麹菌に特に制限はないが、不完全菌類に属する麹菌が好ましく、醗酵生産において歴史的に利用されてきたアスペルギルス(Aspergillus)属に属する麹菌がさらに好ましく、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、特に硝酸塩非資化性、硫酸塩非資化性の特徴を有するアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)NS4株(非特許文献8)が最も好ましい。また、前記麹菌をさらに遺伝子組換えや変異処理することにより得られる麹菌変異株を利用することもできる。変異処理はニトロソグアニジン、メタンスルホン酸エチル、紫外線、放射線などの当業者に周知の変異処理剤を利用して行なえばよい。
【0018】
本発明の麹菌を取得する際に用いる、麹菌への発現プラスミドの導入、発現のための手順・方法は、実施例に記載した方法のほかにも、遺伝子工学の分野により慣用されているものを含み、具体的にはエレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法などがあげられる。
【0019】
本発明の麹菌は、選択した麹菌の培養に好ましい、公知の培地で増殖させることができる。本発明に用いる培地としては麹菌が増殖し、ヒトFcγRIを生産し得るものであれば特に制限はなく、炭素源には廃糖蜜、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、デンプン、乳糖、グリセロール、酢酸などが、窒素源にはコーンスティープリカー、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粕などの天然成分や、酢酸アンモニウム、アスパラギン酸、グリシンなどのアミノ酸類が、無機塩にはリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウムなどのリン酸塩や塩化ナトリウムなどが、金属イオンには塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、塩化カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸マンガン、塩化マンガンなどが、ビタミン類としては酵母エキス、ビオチン、ニコチン酸、チアミン、リボフラビン、イノシトール、ピリドキシンなどが使用できる。また、蒸煮して湿潤させた小麦フスマや米などを用いた固体培養を行なうこともできる。
【0020】
本発明の麹菌を培養する際の温度は、麹菌が増殖し、かつ、ヒトFcγRIを生産し得るものであれば特に制限はないが、通常は約10℃から50℃、好ましくは25℃から35℃であり、より好ましくは30℃前後である。また、培地のpHは、通常は約4から9、好ましくは8前後である。
【0021】
本発明の麹菌を培養する際は、通常、通気および/または撹拌することにより酸素の供給を行なえばよいが、酸素供給量は培養装置の形態に依存するため、発現したヒトFcγRIの発現量や活性などを測定して決定するのが好ましい。一例として、振とうフラスコで培養する際は、通常80rpmから120rpm、好ましくは100rpm前後で振とうすればよい。なお、小麦フスマを用いた固体培養で本発明の麹菌を培養する際は、1日に2回程度の撹拌により小麦フスマを分散させることで酸素供給を行なえばよい。
【0022】
本発明の麹菌を培養する際の培養時間にも特に制限はないが、最適な培養時間は培地成分、培養温度、および通気量といった条件により変化するため、発現したヒトFcγRIの発現量や活性などを測定して決定するのが好ましい。一例として、5×DPY(10%デキストリン、5%ペプトン、2.5% Yeast EXTRACT、2.5% KHPO、0.25% MgSO・7HO、pH未調整)培地、30℃で培養する場合は、3日から4日程度培養するのが好ましい。
【0023】
培養液から、ヒトFcγRIを取得するには、培養物の可溶性(水溶性)画分からヒトFcγRIを回収すればよい。例えば液体培養の場合は、遠心分離やろ過によって菌体を分離して得られる培養上清を回収すればよい。また固体培養の場合には、培養物に水または緩衝液を添加することでヒトFcγRIを水溶性画分に抽出後、遠心分離やろ過により固形分を分離することでヒトFcγRIを回収することができる。なお、前記方法で得られたヒトFcγRIは、その使用目的により、回収した水溶液画分の中から塩析法や液体クロマトグラフィーなどの公知の方法を用いて精製して利用することができる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどをあげることができる。これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことにより高純度なヒトFcγRIを調製することができる。
【0024】
本発明により得られたヒトFcγRIは医薬として利用することができ、また、ヒト血清を検体にすることにより特異性の高いイムノアッセイが可能であり各種診断材料としても利用することができる。さらには担体にヒトFcγRIを固定化することにより抗体を液相から吸着・分離することができるため、試料中に含まれる抗体を分離除去する目的に使用することができる。担体としてはセルロース、アガロースなどの多糖類、ガラス、セラミックス、またはポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレンなどのプラスチック素材が例示できる。また、担体に固定したヒトFcγRIをカラムに充填することにより抗体を精製するためのクロマトグラフィーに利用することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明で提供される、可溶性ヒトFcレセプターFcγRIをコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドを用いて形質転換して得られた、ヒトFcγRIを発現可能な麹菌を用いて、ヒトFcγRIの生産を行ない、当該タンパク質を分離・精製することにより、天然に近いヒトFcγRIを、安価に、かつ可溶化した状態で大量に製造することが可能である。
【0026】
また、本発明の麹菌を用いて製造したヒト型FcγRIは、個体発生および免疫機構の研究、さらにはそれらの成果に基づく治療診断薬などの開発に大きな意義を持つ。また、抗FcγRI抗体を作製するための免疫源、さらにはFcγRIの免疫化学測定方法の標準物質として用いることもできる。その他、FcγRIを担体に固定化することで検体からの抗体除去や抗体精製に利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ヒトFcレセプターFcγRIの構造略図。
【図2】発現プラスミドpUSAS−Fcの構造を示す図。
【図3】形質転換体培養上清のELISAによるヒトFcγRI測定結果を示す図。
【図4】ヒトFcγRI標準品を用いて作成したヒトFcγRIの検量線を示す図。
【図5】形質転換体培養上清より得られたヒトFcγRIのIgGサブクラス特異性を示す図。
【実施例】
【0028】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1 C末端側にHis−tagを付加したヒトFcγRIをコードするポリヌクレオチドの調製
(1)配列番号1に記載のヌクレオチド配列からなるヒトFcレセプターFcγRI遺伝子を鋳型とし、配列番号2および3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行なった。PCRはタカラバイオ社製DNAポリメラーゼ(商品名:PrimeSTAR HS DNA Polymerase)を用い、94℃で5分加熱し、94℃で30秒加熱−57℃で30秒アニーリング−72℃で45秒伸張のサイクルを25回繰り返した後、72℃で7分加温することにより行なった。
【0030】
(2)PCR後の液をキアゲン社製PCR精製キットで精製することで、配列番号4に示す配列からなるポリヌクレオチド溶液50μLを得た。配列番号4に記載の配列からなるポリヌクレオチドは5’末端側から、6塩基の付加配列(GGTACC)、配列番号1に記載のヒトFcγRI遺伝子のうち1番目から867番目の領域(すなわち、1番目のメチオニン(Met)から289番目のバリン(Val)までのアミノ酸をコードするポリヌクレオチド)、スレオニン(Thr)−セリン(Ser)からなる2残基のスペーサーおよび6残基のヒスチジン(His)をコードするオリゴヌクレオチド、停止コドン(TGA)、ならびに6塩基の付加配列(GGTACC)より構成される。
【0031】
(3)(2)で得られたポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号5および6に記載のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、(1)から(2)と同様にPCRおよび精製操作を行なうことで、配列番号7に記載の配列からなるポリヌクレオチド溶液を得た。配列番号7に記載の配列からなるポリヌクレオチドは5’末端側から、α−アミラーゼシグナル配列の一部である5残基のアミノ酸配列(Ala−Pro−Ala−Leu−Ala)をコードするオリゴヌクレオチド、配列番号1に記載のヒトFcγRI遺伝子のうち46番目から867番目の領域(すなわち、16番目のグルタミン(Gln)から289番目のバリン(Val)までのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド)、Thr−Serよりなる2残基のスペーサーおよび6残基のHisをコードするオリゴヌクレオチド、停止コドン(TGA)、ならびに15塩基(CCGGGGATCTGTAGT)の付加配列より構成される。
【0032】
実施例2 発現プラスミドpUSAS−Fcの調製
(1)5’末端側より、617塩基からなる麹菌α−アミラーゼプロモーター(amyB)、62塩基からなるα−アミラーゼシグナル、10塩基(GGTACCCGGG)の付加配列、および182塩基からなるα−アミラーゼターミネータ(非特許文献9)からなる配列番号8に記載のポリヌクレオチドを含む、pUC118由来プラスミドpUPSTamyBに、発現プラスミドpUSA(非特許文献10)よりXbaI−SphIで消化で得られたsC遺伝子(選択マーカー遺伝子)断片を挿入することで発現プラスミドpUSASを作製した。
(2)pUSASを制限酵素KpnIで消化後、東洋紡社製Blunting Highにより平滑化し、配列番号7に記載の配列からなるポリヌクレオチド溶液と混合後、タカラバイオ社製InFusion PCRクローニングキットにより37℃で15分、ついで50℃で15分加温することにより発現プラスミドpUSAS−Fcを調製した。pUSAS−Fcの概略図を図2に示す。
【0033】
実施例3 形質転換体の調製と培養
(1)実施例2で調製した発現プラスミドpUSAS−Fc(図2)を制限酵素AatIIで直鎖化後、麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)NS4株(非特許文献8)へ、プロトプラスト−PEG(ポリエチレングリコール)法により導入し、硫酸塩資化性をマーカーとして、形質転換体TF1からTF24を取得した。
(2)得られた形質転換体を20mLの5×DPY培地に1白金耳植菌し、100mL容バッフル付三角フラスコにて、30℃で3日から4日程度培養することで培養上清を得た。なお培養液には、終濃度10mMとなるようにEDTAを、終濃度1%となるようにProtease Inhibitor Mix Soln. for Fungal and Yeast(和光純薬社製)をそれぞれ添加した。
【0034】
実施例4 形質転換体の抗体結合活性評価
実施例3の(2)で得られた形質転換体培養上清をELISAにより抗体結合活性を評価した。
(1)96穴のELISAプレート(Nunc社製)に50μg/mLから段階的に希釈したガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)を各ウェルに100μLずつ添加し、4℃で18時間静置することにより固定した。
(2)TBS緩衝液(0.2%(w/v)Tween 20、150mM NaClを含むTris−HCl緩衝液(pH8.0))で洗浄後、Starting Block Blocking Buffers(PIERCE社製)によりブロッキング操作を施した。
(3)同様に、TBS緩衝液で洗浄後、実施例3の(2)で得られた形質転換体培養上清を100μL添加し、固定化した抗体であるヒトガンマグロブリンと反応させた(30℃、2時間)。反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、His−probe(H−15)HRP抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)を添加した。
(4)反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加し450nmの吸光度を測定した。
(5)ヒトFcγRIを発現する動物細胞培養上清(特許文献2)より公知の方法で精製した濃度既知のヒトFcγRIを標準物質として用い、(1)から(4)の測定を行なうことで検量線(図4)を作成した。前記検量線を基に、形質転換体培養上清中のヒトFcγRI量を定量した。
【0035】
結果を図3に示す。実施例2で調製した発現プラスミドpUSAS−Fc(図2)でアスペルギルス・オリゼ NS4株を形質転換することにより得られた形質転換体を培養することで、培養上清にヒトFcγRIを発現させることができた。なお、最も高い生産性を示した形質転換体(TF1株)について、図4の検量線から発現量を定量したところ、1.7mg/Lと計算された。
【0036】
実施例5 抗体サブクラス依存性の確認
実施例4の(1)において固定化するガンマグロブリンを、各サブクラス(IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)に変更したほかは、実施例4と同様な方法でELISAを行ない、形質転換体培養上清に発現したヒトFcγRIのサブクラス依存性を確認した。結果を図5に示す。形質転換体の培養上清に発現したヒトFcγRIはIgG1およびIgG3に高い結合性を示した。前記サブクラス依存性は天然ヒトFcγRIと同様であることから、形質転換体培養上清に発現したヒトFcγRIは目的とするヒトFcγRIであることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性ヒトFcレセプターFcγRIをコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドを導入することで麹菌を形質転換して得られる、可溶性ヒトFcレセプターFcγRIを発現可能な麹菌。
【請求項2】
可溶性ヒトFcレセプターFcγRIをコードするポリヌクレオチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸をコードするポリヌクレオチドである、請求項1に記載の麹菌。
【請求項3】
麹菌がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)である、請求項1または2に記載の麹菌。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の麹菌を用いた、ヒトFcレセプターFcγRIの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−200203(P2011−200203A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73236(P2010−73236)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(301025634)独立行政法人酒類総合研究所 (55)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】