説明

Fc含有タンパク質を精製するためのクロマトグラフィー法

本発明は、新規な洗浄緩衝液を使用して、プロテインAクロマトグラフィーによって細胞培養上清から不純物、特にホスト細胞タンパク質(HCP)およびDNAを枯渇させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を精製するためのクロマトグラフィー法および当該方法のための薬剤に関する。
【0002】
タンパク質、ポリヌクレオチド、多糖などの生体分子は、医薬としての、診断薬としての、食品添加物、洗剤などとしての、研究用試薬としての、および多数の他の応用への商業的重要性をますます増している。例えばタンパク質の場合、一般にもはや天然起源から分子を単離することによってそのような生体分子の必要を満たすことはできず、バイオテクノロジー生産法を使用することが不可欠である。
【0003】
タンパク質のバイオテクノロジーによる調製は、典型的には所望のタンパク質をコードするDNAを単離すること、および適切な発現ベクターにそれをクローニングすることで始まる。適切な原核発現細胞または真核発現細胞に発現ベクターをトランスフェクションし、トランスフェクションされた細胞を続いて選択した後で、後者が発酵槽の中で培養され、所望のタンパク質が発現される。次に、細胞または培養上清が回収され、その中に含有されるタンパク質が処理および精製される。
【0004】
真核発現系の場合、すなわち例えばCHO細胞またはNS0細胞などの哺乳動物細胞培養物を使用する場合、発現工程で達成できる細胞培養物または細胞培養上清中の所望のタンパク質の濃度に過去15年間に100倍の増加があった。その後のタンパク質精製に使用されるクロマトグラフィー材料の結合能は、同じ期間に3倍に増加した。この理由から、工業的大規模で実施できる、生体分子、特にタンパク質のための改良および最適化された精製方法が緊急に必要である。
【0005】
例えば医薬、例えば治療用抗体として使用されるタンパク質などの生物薬剤の場合、生成物の収率に加えて不純物の分離も決定的に重要である。プロセス依存性不純物と生成物依存性不純物が区別されることがある。プロセス依存性不純物は、タンパク質(ホスト細胞タンパク質、HCP)および核酸などのホスト細胞構成成分を含有し、細胞培養物(培地成分など)または処理(例えば塩または溶解したクロマトグラフィーリガンドなど)に由来する。生成物依存性不純物は、異なる性質を有する生成物の分子変異体である。これらには、前駆物質および加水分解生成物などの簡略化された形態だけでなく、例えば脱アミノ、不完全なグリコシル化または誤連結したジスルフィド架橋によって生成された改変形態が含まれる。生成物依存性変異体には、ポリマーおよび凝集物も含まれる。他の不純物は、混入物である。これらによって、製造プロセスに直接属さない化学的、生化学的または微生物学的性質の全ての他の物質が意味される。混入物は、例えば細胞培養物中に望ましくなく出現するおそれのあるウイルスである。
【0006】
生物薬剤の場合、不純物は安全上の懸念につながる。生物薬剤の場合に非常に多く当てはまるように、治療用タンパク質が注射または点滴によって血流中に直接投与されるならば、これらの懸念はさらに強まる。このように、ホスト細胞構成成分は、アレルギー反応または免疫病理学的作用につながるおそれがある。加えて不純物は、投与されたタンパク質の望ましくない免疫原性につながるおそれもあり、すなわちそれらは、治療剤に対する患者による望ましくない免疫反応を、可能性があることには生命にかかわるアナフィラキシーショックまでトリガーするおそれがある。したがって、全ての望ましくない物質を取るに足りないレベルまで枯渇することができる適切な精製方法の必要がある。
【0007】
他方で、生物薬剤の場合、経済的な側面を無視することができない。したがって、使用される製造方法および精製方法は、そのように製造された生物製剤の経済的実現性を危うくしてはならない。加えて、樹立することのできる新しい精製方法内の時間尺度は、重要な役割を果たす。コストに対するその影響に加えて、方法開発は、薬物の前臨床開発および臨床開発と合わせなければならない。要するに、十分な純度の生物薬剤の十分な量が入手可能な場合に限り、例えば前臨床試験の一部および臨床試験の全てを開始することができる。
【0008】
四つの基本工程から成る以下の標準方法は、大規模に実施することのできる抗体精製方法を開発するための出発点として役立つことがある。第一の工程では、ターゲットタンパク質が、単離、濃縮および安定化される(「捕捉」)。第二工程では、ウイルスが除去され、第三工程では、精製が実施され、核酸、他のタンパク質およびエンドトキシンなどの大部分の不純物が枯渇される。最終工程では、任意の残留微量混入物が除去される(「ポリッシング」)。
【0009】
濾過工程および沈殿工程に加えて、(カラム)クロマトグラフィー法が最も重要である。したがって捕捉には、多くの場合にアフィニティークロマトグラフィーによる精製工程が含まれる。したがって、無数の既知のカラムクロマトグラフィー法およびそれらで使用することのできるクロマトグラフィー材料がある。
【0010】
本明細書の以下にアフィニティーマトリックスとも呼ばれるアフィニティークロマトグラフィーマトリックスは、様々な物質の工業精製において固定相として使用される。固定化リガンドによって、使用される特定のリガンドに対してある親和性を有する物質を特異的に濃厚化および精製することが可能である。抗体(免疫グロブリン)の工業的精製、特にモノクローナル抗体の精製のために、固定化プロテインAの使用が初回精製工程として有効であることが証明されている。プロテインAは、免疫グロブリンのFc領域のCH/CHドメインに高い親和性(10−8M〜10−12MのヒトIgG)で結合する、Staphylococcus aureusの約41kDAのタンパク質である。プロテインAクロマトグラフィーでは、移動相由来のプロテインA結合性Fc領域を有する免疫グロブリンまたは融合タンパク質は、担体(例えばセファロース)に共有結合しているプロテインAリガンドに特異的に結合する。Staphylococcus aureus由来プロテインA(野生型プロテインA)および遺伝的に改変されたリコンビナントプロテインA(rec.プロテインA)は、非共有相互作用によって抗体の定常領域(Fcフラグメント)と相互作用する。この特異的相互作用は、抗体から不純物を効率的に分離するために利用することができる。pHを改変することによって、抗体とプロテインAリガンドの間の相互作用を故意に止めることができ、固定相から抗体を遊離または溶離させることができる。
【0011】
チャージ後に固定相が洗浄される場合、アフィニティークロマトグラフィーの効果が増大することがある。この場合の洗浄は、固定相からターゲット生成物ではなく不純物を溶離させる移動相の適用を意味する。プロテインAマトリックスによる抗体のアフィニティークロマトグラフィーの場合、アルギニン、イソプロパノール、NaClまたは洗剤を含有する洗浄緩衝液が使用されている(国際公開公報第2008031020号、国際公開公報第2007109163号、国際公開公報第2007081906号、国際公開公報第2003066662号、Millipore Tech Brief TB1026EN00)が、単一の洗浄緩衝液中にこれらの構成成分の組み合わせは使用されていない。これらの構成成分の二つ、すなわち塩と、洗剤、すなわち例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびそれらから成るコポリマーなどのポリマーとの組み合わせは、米国特許第6,870,034(B2)号に記載された。
【0012】
発明の概要
驚くことに、プロテインAクロマトグラフィーにおいて単一の洗浄緩衝液中に構成成分を一定に組み合わせることで、精製されるべきターゲットタンパク質が、同じ構成成分を相次いで別々に使用するよりも高い純度になることが見出された。そのうえ、本発明による洗浄緩衝液は、標準ベースで抗体精製に使用することに適し、最適化工程を取り除くことで方法開発を短縮化できる。
【0013】
本発明は、プロテインAクロマトグラフィーによって、免疫グロブリンのFcドメインを含むタンパク質(ターゲットタンパク質)を含有する組成物から不純物を枯渇させる方法であって:
a. プロテインAを含有する固定相に、ターゲットタンパク質が固定相に結合する条件下で、ターゲットタンパク質を含有する移動相を適用すること;
b. 添加剤として
i. 濃度0.1〜1mol/lのアルギニン、
ii. 濃度0.2〜2mol/lの塩化ナトリウム、
iii. イソプロパノール、n−プロパノールおよびエタノールより選択される濃度5〜30%(w/v)のアルコール、ならびに
iv. 濃度0.05〜2%(w/v)のポリビニルピロリドンおよび/または洗剤
を含有するpH4から8の間の洗浄緩衝液を移動相として適用すること;
c. ターゲットタンパク質が固定相から溶離される条件下で、移動相として溶離緩衝液を使用すること
を含む方法に関する。
【0014】
別の局面では、洗浄緩衝液は4.5〜8のpHを有する。別の局面では、洗浄緩衝液は5〜8のpHを有する。別の局面では、洗浄緩衝液は6〜8のpHを有する。
【0015】
ポリビニルピロリドン(PVP)は、好ましくは濃度0.1〜2%(w/v)で、特に0.25%(w/v)で使用される。加えて、またはその代わりに、ポリオキシエチレン−ソルビタン−モノラウレート(ポリソルベート20、ポリソルベート80)を濃度0.05〜2%(w/v)で使用してもよい。
【0016】
別の局面では、本発明は、
i. 濃度0.1〜1mol/lのアルギニン、
ii. 濃度0.2〜2mol/lの塩化ナトリウム、
iii. イソプロパノール、n−プロパノール、およびエタノールより選択される濃度5〜30%(v/v)のアルコール、ならびに
iv. 濃度0.05〜2%(w/v)のポリビニルピロリドンまたは洗剤
を含有する、pH4〜pH8のpHを有する、アフィニティークロマトグラフィー用の洗浄緩衝液に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1a】抗体BI−MAb06aを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液における回収率(1a)、濁度(1b)、モノマー含量(1c)およびHCP量(1d)を示す図である。
【図1b】抗体BI−MAb06aを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液における回収率(1a)、濁度(1b)、モノマー含量(1c)およびHCP量(1d)を示す図である。
【図1c】抗体BI−MAb06aを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液における回収率(1a)、濁度(1b)、モノマー含量(1c)およびHCP量(1d)を示す図である。
【図1d】抗体BI−MAb06aを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液における回収率(1a)、濁度(1b)、モノマー含量(1c)およびHCP量(1d)を示す図である。
【図2a】抗体BI−MAb1003aを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液における回収率(2a)、濁度(2b)、モノマー含量(2c)およびHCP量(2d)を示す図である。
【図2b】抗体BI−MAb1003aを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液における回収率(2a)、濁度(2b)、モノマー含量(2c)およびHCP量(2d)を示す図である。
【図2c】抗体BI−MAb1003aを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液における回収率(2a)、濁度(2b)、モノマー含量(2c)およびHCP量(2d)を示す図である。
【図2d】抗体BI−MAb1003aを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液における回収率(2a)、濁度(2b)、モノマー含量(2c)およびHCP量(2d)を示す図である。
【図3】抗体BI−MAb07cを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液中のHCP量を比較する図である。
【図4】抗体BI−MAb1001bを一例として挙げた、異なる組み合わせおよび異なる組成の洗浄緩衝液で洗浄後のアフィニティークロマトグラフィーからの溶離液中のHCP量を比較する図である。抗体BI−MAb07cを一例として挙げた組成。x軸の数字は、実施例に詳述された洗浄緩衝液への添加剤に関するものである。
【0018】
発明の具体的な説明
本発明は、タンパク質がリコンビナント発現または内因性発現された細胞培養物から得られるようなタンパク質組成物から不純物を、特にホスト細胞タンパク質(HCP)およびDNAを枯渇させるための方法に関する。特に本発明は、リガンドによって固定相に可逆的に固定化することができることからアフィニティークロマトグラフィーに適する、タンパク質(ターゲットタンパク質)を精製または濃縮するための方法に関する。
【0019】
ターゲットタンパク質は、特に免疫グロブリン、または免疫グロブリンのFcドメインを有し、プロテインAと結合することのできるタンパク質であってよい。好ましい態様では、これらは、2本の免疫グロブリン重鎖および2本の免疫グロブリン軽鎖から成る免疫グロブリンである。抗体は、2本の同一の重鎖(H)および2本の同一の軽鎖(L)が共有ジスルフィド架橋によって一緒に結合してY型構造を形成したものから成る。軽鎖は、それぞれ1個の可変ドメインおよび1個の定常ドメインから成り、それらはVLおよびCLと呼ばれる。他方で重鎖は、それぞれ1個の可変ドメインおよび免疫グロブリンに依存して3〜4個の定常ドメインを有する。これらは、同様にVHおよびCH1、CH2、CH3と呼ばれる。軽鎖および重鎖の可変ドメインは、抗原結合部位を形成する。ドメインCH2は、補体系に対する結合部位を形成する糖鎖を有する。CH3ドメインは、Fcレセプター結合部位を有する。
【0020】
プロテインAは、重鎖との相互作用によって免疫グロブリンのFcに結合する。結合親和性は、ヒトIgG1、IgG2およびIgG2aに対して、ならびにマウスIgG2bに対して最高である。プロテインAは、ヒトIgM、IgA、IgE、ならびにマウスIgG3およびIgG1に中等度の親和性で結合する。しかしプロテインAは、ヒトIgG3およびIgDとも、以下のマウス免疫グロブリン:IgM、IgAおよびIgEのいずれとも反応しない。
【0021】
本発明による方法が適用されることがあるターゲットタンパク質は、免疫グロブリンなどの、Fcドメインを有する全てのタンパク質である。免疫グロブリンは、ハイブリドーマ細胞またはリコンビナントホスト細胞に発現されるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のことがある。そのような抗体は、トランスジェニック動物、例えばヒト免疫グロブリンを発現するマウスなどの、動物、特に哺乳動物を免疫処置することによって本来生成されていることがある。しかしながら、適切なターゲットタンパク質には、また、任意の所望のタンパク質と免疫グロブリンのFcドメインとが融合された融合タンパク質が含まれる。
【0022】
本発明のためのプロテインAマトリックスは、リガンドとして固定化タンパク質を有するアフィニティークロマトグラフィーマトリックスである。これらには、リガンドとして例えばStaphylococcus aureus由来の野生型プロテインAを有するアフィニティーマトリックスが含まれる。プロテインAの説明は、とりわけ、Lofdahl, Sら、1983(Lindmark, R., Thoren-Tolling, K., Sjoquist J (1983); Binding of immunoglobulins to protein A and immunoglobulin levels in mammalian sera: J Immunol Methods 1983 Aug 12;62(1):1-13.)およびLindmarkら、1983(Lindmark, R., Thoren-Tolling, K., Sjoquist J (1983); Binding of immunoglobulins to protein A and immunoglobulin levels in mammalian sera: J Immunol Methods 1983 Aug 12;62(1):1-13.)に見出すことができる。加えて本発明は、また、リコンビナント生成されたプロテインAをリガンドとして有するマトリックスに関する。リコンビナントプロテインAは、一例としてDuggleby C.J.およびJones, S.A.、1983(Duggleby, C.J. and Jones, S.A. (1983), Cloning and expression of Staphylococcus aureus protein A gene in Escherichia coli. Nucl.Acid.Res. 1983 May 25; 11(10):3065-76.)またはLi, R.ら、1998(Li, R. Dowd, V., Stewart, D.J., Burton, S.J. Lowe, C.R., Design, Synthesis and application of a protein A mimetic. Nat.Biotechnol. 1998 Feb; 16(2):190-5.)によって記載されており、当技術分野において公知である。
【0023】
プロテインAは、例えばアガロース、多糖、デキストラン、シリカゲルおよびガラスビーズなどの様々な担体材料にカップリングさせることができる。適切な担体材料の非限定的な列挙は、Harlow, E.およびLane, D.、1999に見出すことができる。多くの場合に使用される一担体材料は、例えばAmersham Pharmacia Biotech, Uppsala, Swedenによって製造された「セファロース」などの、当業者に公知のアガロースベースの材料によって形成される。プロテインAセファロースの特定例は、2001年の日付でこの会社によって主題「Affinity Chromatography」に関して作成されたマニュアルから見出すことができる。さらに、例えばMabSelect(Amersham Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)、STREAMLINE(商標)rProtein A(Amersham Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)、Poros A(Millipore, Durham, England)のような、他のプロテインAクロマトグラフィーマトリックスが技術者に公知である。本発明による方法には、対応するマトリックスの処理が含まれ、マトリックスの列挙は例として提供されるものであって、包括的であるべきとは主張しない。
【0024】
リガンドのカップリングは、一般に、臭化シアン活性化、NHS活性化または担体マトリックスへのチオールカップリングによるアミノ基、カルボキシル基または硫黄基によって実施される。この主題に関しては、例えばマニュアル「Affinity Chromatography」(Amersham Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden, 2001)を参照されたい。
【0025】
特に好ましい態様では、ポリビニルピロリドン(PVP、ポリビドンまたはポビドンとしても知られている、CAS:9003−39−8)が、本発明による洗浄緩衝液中に使用される。ポリビニルピロリドンは、N−ビニルピロリドンモノマーユニットから成る水溶性ポリマーである。しかしながら、それは、他の極性溶媒に溶解されていてもよい。PVPは、色が白〜淡黄色である吸湿性の非晶質粉末である。標準的な市販のポリマーは、約2500〜2,500,000ダルトンの範囲のモル質量を有する。
【0026】
本発明の洗浄緩衝液中の洗剤は、PVPに追加的にまたはPVPの代わりに使用することができる。洗剤は、ミセル、すなわち洗剤分子集合体を形成することができる界面活性両親媒性分子であって、親水性頭基が水性溶媒に向けて外側に向いている分子である。
【0027】
本発明のための洗剤は、非イオン性物質およびイオン性物質の両方である。しかしながら、例えばポリグリコールエーテル(NP-40型、Tergitol NP40、CAS:127087−87−0)、PEG−アルキルエーテルポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(CAS:9002−92−0)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタン−モノラウレート(ポリソルベート20、CAS:9005−64−5)またはポリオキシエチレン(20)ソルビタン−モノオレエート(ポリソルベート80、CAS:9005−65−6)などのPEG−ソルビタン脂肪酸エステル、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン−X−100、CAS:9002−93−1)などのアルキルフェニル−PEG−エーテル、またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(Pluronic F68、Lutrol F68、Poloxamer 188、CAS:9003−11−6またはPoloxamer 407、Pluronic F127、Lutrol F127、CAS:9003−11−6)などのPEO−PPOブロックコポリマー(ポロキサマー誘導体)などの非イオン性洗剤が好ましい。
【0028】
洗浄緩衝液および溶離緩衝液のpH値は、全体としてシステムに依存し、したがって一般に個別に決定され、各システム毎に最適化される。
【0029】
一局面では、洗浄緩衝液は4〜8のpHを有する。技術者は、タンパク質がカラムから溶離されるpHがいくつかの要因に依存するという事実を熟知している。これらには、とりわけ結合、洗浄および溶離の間に使用される緩衝系、不純物の存在、マトリックス粒子の幾何学的配置、クロマトグラフィーマトリックスへのアフィニティーリガンドのカップリングの性質が含まれることがあろう。特に、タンパク質の特異的性質が決定的な影響を有する。
【0030】
場合によっては、アフィニティーリガンドからのタンパク質の部分的または全体的溶離がpH4を超えてもなお起こることがある組み合わせがありうる。そのような場合、そしてタンパク質の損失が許容されない場合、洗浄緩衝液はより高いpHを有さなければならない。技術者は、そのような場合に洗浄緩衝液のpHをそれに応じて調整しなければならないことを認識している。しかしながら大部分の場合、タンパク質とプロテインAアフィニティーリガンドの間の結合は、pH4未満のときにだけ形成されない。
【0031】
別の局面では、洗浄緩衝液は、4.5〜8のpHを有する。別の局面では、洗浄緩衝液は、5〜8のpHを有する。別の局面では、洗浄緩衝液は、6〜8のpHを有する。
【0032】
典型的な態様では、本発明は、例えば以下のように実施されることがある。
【0033】
プロテインAクロマトグラフィーは、一般に第1の精製工程である。無細胞細胞培養上清は、カラムに直接加えることができるが、またはまず第一に限外濾過膜、いわゆるUF/DFシステムを通して濃縮物を製造してもよい。
【0034】
プロテインAカラムは、最初に、物理化学的性質がおおよそチャージングプール(charging pool)に対応するリン酸緩衝液(PBS)で平衡化される。チャージングプールは、細胞培養物からの上清から成り、その上清は、精製されるべき生成物と、さらに例えばCHO細胞またはNS0細胞などの問題となる哺乳動物細胞を成長させるために必要な追加的な培地成分とを含有する。細胞培養物のこの無細胞上清またはその濃縮物は、プロテインAカラム上にチャージされる。すると、ターゲットタンパク質は、カラム上のプロテインA結合部位に結合する。次に、未結合の培地構成成分および細胞生成物が溶離してしまうまで、カラムは平衡化緩衝液でフラッシュされる。記載された洗浄緩衝液は、平衡化緩衝液の後またはチャージの直後に加えることができる。洗浄緩衝液の量は、規模に依存し、したがって、クロマトグラフィーカラムのサイズに関係して与えられる。
【0035】
通常は、洗浄緩衝液の体積は、クロマトグラフィーカラムの体積のおよそ2〜5倍である(2〜5ベッド体積、BV)。洗浄緩衝液を加えた後に、洗浄緩衝液の構成成分が生成物と共に溶離しないように、カラムを再び平衡化緩衝液または別の緩衝液で処理することができる。ここで使用される緩衝液は、洗浄緩衝液よりも低いが溶離緩衝液よりも高いpHを有さなければならず、溶離緩衝液と緩衝塩および組成が類似している。pH4未満の緩衝液は、溶離のために使用され、その主成分として例えば酢酸塩またはクエン酸塩を含有することがある。溶離緩衝液は、10mMから200mMの間、好ましくは20mMから100mM、最も好ましくは50mMから100mMの間の濃度で酢酸塩を含有することがあるか、または10から200mMの間、好ましくは20から100mMの間の濃度でクエン酸塩を含有することがある。両方の緩衝液は、4未満、好ましくは3から4の間、特に好ましくは3.4から3.6の間の上記pH範囲にあるべきである。そのうえ、アルギニンまたはPVPなどの添加剤も存在することがある。さらに、濃度が10から200mMの間、好ましくは25から100mMの間で、pHが2から3.5の間のグリシン緩衝液、または抗体のFcドメインとプロテインAの間の結合を軽減するために適する他の緩衝液が使用されることがある。次に、溶離液は、以下のプロセス、例えばより低いpHでのインキュベーションまたは中和でさらに処理することができる。
【0036】
実施例
異なる培地中で発酵され、異なる細胞系(CHOおよびNS0)から得られ、Fc部が異なるIgGサブタイプ(IgG1、IgG2、IgG4)に属する様々なタンパク質を用いて実験を実施した。
【0037】
標準から開始し、洗浄緩衝液または緩衝液だけを変えた一連の試験を実施した。添加剤を有さない平衡化緩衝液を導入するか、1種の添加剤だけを有する洗浄緩衝液を使用するか、それぞれ1種の添加剤を有するいくつかの異なる緩衝液を順次加えるか、またはいくつかの添加剤の組み合わせを有する洗浄緩衝液を使用するかのいずれかとした。
【0038】
適用されるタンパク質溶液は、常にそれぞれのタンパク質について同一であった。
【0039】
各試験で、溶離液中の不純物の量を測定した。実験同士で比較して、後の溶離液が最小可能量の核不純物を有した洗浄緩衝液を同定した。いくつかの実験では、収率、濁度およびモノマー含量も測定した。
【0040】
クロマトグラフィー
クロマトグラフィー実験は、自動AEKTA-FPLCモデル900システム(GE Healthcare)で実施した。4種の異なる生成物を実験に使用した。生成物のうち無細胞培養上清または濃縮培養上清のいずれかを出発物質として使用し、調製物を50kD Omega膜(Pall)で10倍濃縮し、次にPBSで3回ダイアフィルトレーションした。
【0041】
使用されるカラムは、体積1ml〜8mlを有し、クロマトグラフィーゲルMabSelectまたはMabSelect Xtra(GE Healthcare)の一方を内部に含んでいた。
【0042】
緩衝液
全ての実験において、10mMリン酸塩、5mM塩化カリウムおよび140mM塩化ナトリウムを有するリン酸緩衝液(PBS)をpH7.4で平衡化緩衝液として使用した。
【0043】
全ての洗浄緩衝液は、
8mmol/Lリン酸一水素ナトリウム、
1.5mmol/Lリン酸水素カリウム、
2.7mM塩化カリウム、および
140mM塩化ナトリウム
を含有するPBS緩衝液(pH7.4)をベースとした。
【0044】
(図に詳述するように)添加剤として、以下のものを個別にまたは様々な組み合わせで使用した:
(1) 860mmol/L塩化ナトリウム(合計含量1mol/L塩化ナトリウム)、
(2) 0.25%(w/V)ポリビニルピロリドン(PVP)、
(3) 15%(V/V)イソプロパノール、
(4) 0.5mol/L L−アルギニン。
【0045】
生成物に応じて、溶離のために異なる緩衝液を異なる酢酸塩濃度およびpHで使用した。以下の濃度を用いた:
BI−Mab06a:100mM酢酸塩、pH3.4
BI−Mab1003a:50mM酢酸塩、pH3.4
BI−Mab1001b:50mM酢酸塩、pH3.4
BI−Mab07c:50mM酢酸塩、pH3.6
【0046】
分析
実験の溶離液をそれらの不純物含量について比較し、収率を決定した。
【0047】
細胞構成成分の量を決定するために、一般的サンドイッチELISAを用い、ホスト細胞タンパク質を経験的パラメーターとして決定した。アッセイのためにポリクローナル検出抗体を使用した。
【0048】
モノマー含量は、Agilent Series HPLC 1200(waters)システムと、タンパク質に依存してTSK 3000SWまたはTSK 3000SWXLカラム(To-soH)とを使用して決定した。均一濃度法を流速1ml/minのトリス緩衝液(H7.0)で行った。
【0049】
DNAは、しきい値法によって決定する(Kung, V.T. et al., Picogram Quantitation of Total DNA Using DNA-Binding Proteins in a Silicon Sensor-Based System, Anal. Biochem. 1990, 187, 220-227)。
【0050】
Phastシステム(GE Healthcare)を使用してSDS−PAGEを実施する。試料はPhast SDSゲル(4%〜15%、GE)を使用して分離する。染色は、Heukeshoven銀染色(Heukeshoven, Dernick 1988, Electrophoresis 9 (1), pages 28-32)を使用して行う。
【0051】
チャージおよび溶離液中の抗体量を決定するために、PA2-1001-00プロテインAカラム(Applied Biosystems)およびAgilent Series 1200 HPLCシステム(waters)を使用した。結合および溶離は、pH7.4〜pH2.8の勾配をかけてPBS緩衝系で実施し、問題となる抗体の外部検量線を使用して評価を行った。
【0052】
濁度測定は、製造業者の濁度標準を用いて較正後に2100AN濁度計(Hach)で実施した。
【0053】
結果
サブクラスIgG1の抗体であるBI−MAb06aを用いた実験
結果から、洗浄が収率、モノマー、濁度およびホスト細胞タンパク質(HCP)に及ぼす有意な作用が示される。
【0054】
4種の添加剤全てを含有する緩衝液で洗浄後に、溶離液は、収率、モノマー含量およびHCP枯渇という品質基準において最良の値を示す。そのうえ、添加剤の組み合わせは、三つの成分0.86mol/L塩化ナトリウム、0.25%(w/V)PVPおよび15%(V/V)イソプロパノールの組み合わせ、ならびに四つの添加剤全て、すなわち0.86mol/L塩化ナトリウム、0.25%(w/V)PVP、15%(V/V)イソプロパノールおよび0.5mol/Lアルギニンの組み合わせの両方で濁度の実質的な減少につながる。
【0055】
サブクラスIgG1の抗体であるBI−MAb1003aを用いた実験
HCPの最良の枯渇は、追加的な構成成分4種全てを含有する洗浄緩衝液で達成される。同様に良好な値は、塩化ナトリウム、PVPおよびイソプロパノールの組み合わせを有する洗浄緩衝液で得られる。4種の構成成分を個別に含有する緩衝液を用いた洗浄によって、溶離液中により多いHCPが得られる。
【0056】
濁度に関しても、緩衝液中に洗浄物質を組み合わせることでより良好な結果が得られる。
【0057】
サブクラスIgG4の抗体であるBI−MAb07cを用いた実験
個別の洗浄緩衝液を用いた試験からの溶離液は、組み合わされた洗浄緩衝液を用いた試験からの溶離液よりも高いレベルのHCPを有する。
【0058】
サブクラスIgG2の抗体であるBI−MAb1001bを用いた実験
個別の洗浄緩衝液を用いた試験からの溶離液は、組み合わされた洗浄緩衝液を用いた試験からの溶離液よりも高いレベルのHCPを有する。
【0059】
4回の実験は、単一の洗浄緩衝液中に4種の添加剤である塩化ナトリウム、PVP、イソプロパノールおよびアルギニンを組み合わせることが、溶離液中のホスト細胞タンパク質(HCP)の含量に関して、個別の添加剤を有する洗浄緩衝液を使用するよりも利点があることを示す。
【0060】
記載された洗浄緩衝液の使用は、また、溶離液中の濁度が有意に減少することも示す。モノマーの量および収率もまた改善されるか(BI−MAb06a)、または少なくとも同じままである(BI−MAb1003a)。
【0061】
したがって記載された洗浄緩衝液は、タンパク質の製造方法を著しく改善するために適している。洗浄緩衝液の組み合わせの導入は、その他の方法では追加的な精製工程によって除去しなければならない不純物を枯渇させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインAクロマトグラフィーによって、免疫グロブリンのFcドメインを含むタンパク質(ターゲットタンパク質)を含有する組成物から不純物を枯渇させる方法であって:
a. プロテインAを含有する固定相に、該ターゲットタンパク質が該固定相に結合する条件下で、該ターゲットタンパク質を含有する移動相を適用すること;
b.
i. 濃度0.1〜1mol/lのアルギニン、
ii. 濃度0.2〜2mol/lの塩化ナトリウム、
iii. イソプロパノール、n−プロパノールおよびエタノールより選択される濃度5〜30%(w/v)のアルコール、ならびに
iv. 濃度0.05〜2%(w/v)のポリビニルピロリドンまたは洗剤
を含有する、pH4から8の間の洗浄緩衝液を移動相として適用すること;
c. 該ターゲットタンパク質が該固定相から溶離される条件下で、移動相として溶離緩衝液を使用すること
を含む方法。
【請求項2】
洗浄緩衝液中のアルギニン濃度が、0.4〜0.6mol/lであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
洗浄緩衝液中の塩化ナトリウム濃度が、0.9〜1.1mol/lであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
洗浄緩衝液中のアルコールが、濃度10〜20%(w/v)のイソプロパノールであることを特徴とする、請求項1〜3の一つに記載の方法。
【請求項5】
ポリビニルピロリドン(PVP)が、濃度0.1〜2%(w/v)であることを特徴とする、請求項1〜4の一つに記載の方法。
【請求項6】
洗剤が、濃度0.05〜2%(w/v)のポリオキシエチレン−ソルビタン−モノラウレートであることを特徴とする、請求項1〜5の一つに記載の方法。
【請求項7】
洗浄緩衝液が、5〜8のpHを有することを特徴とする、請求項1〜6の一つに記載の方法。
【請求項8】
不純物が、ホスト細胞タンパク質(HCP)であることを特徴とする、請求項1〜7の一つに記載の方法。
【請求項9】
i. 濃度0.1〜1mol/lのアルギニン、
ii. 濃度0.2〜2mol/lの塩化ナトリウム、
iii. イソプロパノール、n−プロパノールおよびエタノールより選択される濃度5〜30%(w/v)のアルコール、ならびに
iv. 濃度0.05〜2%(w/v)のポリビニルピロリドンまたは洗剤
を含有する、pH4〜8のアフィニティークロマトグラフィー用の洗浄緩衝液。
【請求項10】
pH5〜8の、請求項9に記載の洗浄緩衝液。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−517318(P2013−517318A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549368(P2012−549368)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050817
【国際公開番号】WO2011/089212
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】