説明

GPS定点制御可能な着脱式旋回スラスタ装置及びこれを備えた作業台船

【課題】定点保持機能を有しない作業台船に対して定点保持機能を後から付加するための着脱可能(移設可能)な旋回スラスタ装置、またこれを備えた作業台船を提供する。
【解決手段】作業台船の定点保持のために必要な数の旋回スラスタ装置1をパッケージ化して、これを海上曳航輸送し目的地にもって行き、そこで現地にある作業台船に装備するとともに、必要に応じて定点保持制御するためのDGPS装置もポータブル化して、当該作業台船上に装備するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願に係る発明(以下「本発明」という)は、海底ケーブル等の布設をし
ようとする、定点保持機能を備えていない作業台船に対して定点保持機能を付加
するためのGPS定点制御可能な着脱式旋回スラスタ装置及びこれを備えた作業台船
に関する。
【0002】
本件明細書等において、「GPS定点制御」とはGPS等の人工衛星利用測位シ
ステム(かかる装置を「GPS装置」と称する)を利用した定点保持制御をいい、
「定点保持機能を備えた作業台船」とは、GPS装置とこのGPS装置によって
制御可能な複数の旋回スラスタ装置とを装備して定点保持機能をもつ作業台船の
ことをいう。
【背景技術】
【0003】
海底ケーブル等の布設をしようとする作業台船(バージ)では、ケーブル等を
目標の布設ラインに沿って布設するために、作業台船を定位置に保持することが
求められるが、従前はアンカーを海中に打設することによって作業台船の位置保
持を行っていた。しかし、この方法では係留のたびにアンカーを打ち直す必要が
あり、作業効率がきわめて悪いため、近年では、GPS等の人工衛星利用測位シ
ステムを利用することにより、作業台船の定点保持を行って精度よいケーブル等
の布設を実施できる技術が提唱されている(特許文献1、2参照)。そして、定点
保持システムに係る制御の具体的構成についても特許文献3,4等に開示され周
知となっている。
【0004】
特許文献1,2では、作業台船に定点保持機能を持たせるために当該作業台船
に4ないし6基の旋回スラスタ装置を備える。例えば旋回スラスタ装置を4基備
える場合には、作業台船の前後部の左右舷にそれぞれ旋回式のスラスタ装置を配
備すると共に、GPS装置を利用したコンピュータ制御装置を作業台船に配備し
ている。そして、旋回スラスタの駆動用原動機の出力制御を介して4基のスラス
タの推力の大きさと方向及び推力配分を前記GPS装置によってコンピュータ制
御し、風や潮流などの外乱が存在しても作業台船の定点保持を精度よく行うこと
ができるようになっている(特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−54994
【特許文献2】特開2004−161184
【特許文献3】特開平10−181691
【特許文献4】特開平9−267798
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、旋回スラスタが作業台船の船底部に固定装備され、
かつ定点保持制御するためのGPS装置も固定装備されている。そのため折角、
高度の定点保持機能を有していても、その機能は当該作業台船に限られるもので
あって、当該機能がそのまま他の作業台船に利用できるものではない。特許文献
2でも、曳航時の船体抵抗低減のために曳航時には旋回スラスタ装置を作業台船
上に引き上げることができるようになっているが、旋回スラスタ装置が作業台船
に固定的に装備されていることには変わりなく、定点保持機能は当該作業台船限
りのものである。
【0007】
その一方、上記のようなGPS定点保持機能を固定装備した作業台船の数は、
日本でも2,3隻程度あるにすぎず、世界的にみてもその数は僅少というのが現
状である。したがって、例えば海外において海底ケーブル等の布設ニーズがあっ
ても、GPS定点保持機能を装備した作業台船そのものを、遠方の海外に曳航し
ていくのは、その日数や経費を考えるとおいそれとはできない。なお、海底ケー
ブル等は貨物船等に積載して目的地に配送できるので問題はない。
【0008】
そこで、本発明は、定点保持機能を有しない作業台船に対して定点保持機能を
後から付加するための着脱可能(移設可能)な旋回スラスタ装置、またこれを備
えた作業台船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための具体的な解決手段として、まず、GPS定点制御可
能な旋回スラスタとこの駆動用原動機とを旋回スラスタ装置として一つにまとめ
てパッケージ化し、それを作業台船の舷側に着脱可能になるよう構成したGPS
定点制御可能な着脱式旋回スラスタ装置である。この構成によれば、定点保持機能を
固定装備した作業台船自体を目的地へ曳航せずとも、現地の定点保持機能を有し
ない作業台船に定点保持制御可能な機能を付加することができる。
【0010】
また、複数の前記旋回スラスタ装置を浮体となるべき筺体にパッケージ化して
まとめ、この複数のパッケージ化された旋回スラスタ装置を相互に連結してユニ
ット化し、このユニット化した旋回スラスタ装置そのものを海上曳航輸送できる
ようにしたGPS定点制御可能な着脱式旋回スラス
タ装置である。この構成によれば、ユニット化した旋回スラスタ装置を目的地ま
で曳航して行き。そこで現地の作業台船にユニットをばらして、旋回スラスタ装
置を所定の作業台船に取り付けることができる。
【0011】
上記構成において、少なくとも4基の前記旋回スラスタ装置を連結して曳航し
て行き、現地で作業台船の所定位置に取り付ければ、定点保持機能を容易に発揮
させることができる。
【0012】
また、複数の上記旋回スラスタ装置を作業台船の舷側に取り付けると共に、定
点保持制御するためのGPS装置をポータブル化して前記作業台船に備え付ける
とともに、当該GPS装置を各旋回スラスタ装置とを接続して当該作業台船を定
点保持機能を有するものに仕立てるようにしたGPS定点制御可能な着脱式旋回スラ
スタ装置を備えた作業台船である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、定点保持機能を有しない作業台船でも、簡易に定点保持機能
を付加でき、当該作業台船で海底ケーブル等の布設を精度良くできる。したがっ
て、定点保持機能を固定装備した作業台船をその都度目的地まで曳航していく必
要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るパッケージ化された旋回スラスタ装置の概略斜視図である。
【図2】図1に示す旋回スラスタ装置4基を海上曳航輸送のために連結した状態を示す斜視図である。
【図3】図1に示す旋回スラスタ装置を作業台船の前後部の左右舷にそれぞれ配備したときの平面図である。
【図4】同じく側面図である。
【図5】同じく正面図である。
【図6】作業台船を定点保持するときに図3で示す4基の旋回スラスタ装置からそれぞれ発生する水流(推力)方向を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、旋回スラスタ装置1は、旋回機構(図示せず)を有する旋
回スラスタ2と、これを駆動する原動機3と、台船への取り付けや浮体としても
機能する筺体4とから主に構成されている。平面視で台形状をなす筺体(浮体ケ
ーシング)4の下部に旋回スラスタ2が配置されている。この旋回スラスタ2は、
円筒状のダクト5とこのダクト5内に設けられたプロペラ(推力発生器)6を有
しており、ダクト5を含む旋回スラスタ2が旋回機構(図示せず)によって36
0°旋回できるようになっている。このプロペラ6は筺体4の上部に設けられた
原動機3によって動力伝達機構(図示せず)を介して回転駆動されて推力を発生
するものであり、旋回スラスタ2の旋回により360°の方向に推力が発生でき
るようになっている。図示しない動力伝達機構は、筺体4内やポッド7内に内装
されている。原動機3としては、電動ないし油圧モータ、ディーゼルエンジンな
どが採用される。この原動機3の出力は、後述する定点保持制御するためのDG
PS装置によって制御され、これによって旋回スラスタ2の推力の大きさや方向
が制御できるようになっている。
【0016】
上記筺体4は、旋回スラスタ装置1をパッケージ化するために役立つものであ
るが、旋回スラスタ装置1を海上曳航輸送する際には浮体としても働き、浮体と
して海面上に浮かして目的地まで曳航できるようになっている。筺体4を台形状
に形成したのは傾斜面4eがユニット連結体として曳航する時(図2参照)およ
び作業台船を曳航する時(図3参照)に極力抵抗を小さく抑えるためである。
【0017】
この台形状の筺体4の長辺4aと側辺4b側にはフランジ4cが突設されて
おり、後述するように海底ケーブル等布設用の作業台船の舷側にボルト・ナット
などの締結手段を用いて筺体4が装着でき(図3〜5参照)、これによって上記旋
回スラスタ装置2は作業台船10に対して着脱自在になり、定点保持制御を必要
とする作業台船10に移設することができるようになっている。
【0018】
図3に示すように、定点保持制御を可能にするために、通常は作業台船10に
は少なくとも4基の旋回スラスタ装置1が配備される。そこで、海上曳航輸送す
るために上述したパッケージ化された4基の旋回スラスタ装置1が図2に示すよ
うに連結してされる。すなわち、平面視で台形状筺体4の長辺4a側同士を背中
合わせに連結(フランジ4c同士をボルトナットで連結)してユニット化し、こ
の連結ユニット化したものを前後に連結部材8で筺体4の短辺面4dと面一にな
るよう連結一体化してある。これにより、曳航時の抵抗をできるだけ少なくでき、
また、連結部材8を三角形状の箱体とすれば、浮力を補うこともできる。海上に
浮かして曳航する場合、4基のユニット連結体の先端中央部にワイヤを連結して
タッグボートなどで曳航すればよい。なお、図2中、WLは海面を示す。
【0019】
このように連結して目的地に曳航した後、連結を解除して、4基の旋回スラス
タ装置1をそれぞれ海面に浮かして移動し、図3〜5に示すように作業台船10
の前部の左右舷と後部の左右舷に筺体4のフランジ4cを利用して図示しない締
結手段(例えば船体にボルトを植設しておき、フランジ4cのボルト孔を挿通し
てこれにナットを螺合して締結すること)によって各作業台船に対して取り外し
可能に装着する。図4ないし図5に示すように、筺体4の下面が作業台船10の
船底面11と面一になるように旋回スラスタ装置1を装着する。そうするとプロ
ペラ6を収容した円筒状のダクト5の上面が作業台船10の船底面11の位置に
来るように設置される。これによって、旋回スラスタ2が旋回スラスタ装置1の
船体に干渉することなく360°旋回することができ、プロペラ6からの水流が
船体に邪魔されずに、4基の旋回スラスタ装置1はいずれも360°の方向に推
力が発生できるようになる。
【0020】
このようにして作業台船10は、DPSによる定点保持制御が可能な旋回スラ
スタ装置1が装備されたこととなる。なお、上記の例では、複数の旋回スラスタ
装置1をユニット化したものを海上曳航して輸送する場合について述べたが、必
ずしも海上曳航する必要もなく、後述するポータブル化されたGPS装置一式と
ともに貨物船などに積載して目的地まで輸送することも可能である。
【0021】
図3〜5に示すように、通常の作業台船10では、その前部甲板12上に居住
区画と制御室13を備えた上部構造物14が設けられている。後部甲板12上に
は布設(又は回収)されるケーブル等をハンドリングするためのクレーン15が
配備され、後部の右舷側にはケーブルの繰り出し(又は、回収時の繰り込み)の
ためのシーブが配置されている。これらの配置は、作業台船によって多少異なる
ことがある。
【0022】
制御室13には定点保持制御するための従来周知のGPS装置17が備えら
れる。つまり、定点保持制御するためのGPS装置17は本発明が対象としてい
る通常の作業台船では固定装備されていないので、ポータブル化したものを制御
室13に設置するようになっている。このGPS装置17からは必要な制御ライ
ン18等が4基の旋回スラスタ装置1各々に連結されることによって、作業台船
にGPS定点保持機能を付加することができる。このため、作業台船毎に高価な
GPS装置17および旋回スラスタ装置1を備えておく必要がなくなる。
【0023】
かくして、海底ケーブル等の布設ニーズがある所にパッケージ化された旋回ス
ラスタ装置1とポータブル化されたGPS装置17とを目的地へ輸送することに
よって現地に有る作業台船10にこれらを配備して、当該作業台船10に定点保
持機能を備えた作業台船10に仕立て上げることが可能となる。
【0024】
上記の構成によれば、定点保持機能(旋回スラスタ装置を含む)を固定装備し
た作業台船自体を目的地へ曳航していくのではなく、その定点保持のために必要
な旋回スラスタ装置をパッケージ化して、そして、例えば4基の旋回スラスタ装
置を一つのユニット化して、これを海上輸送し目的地にもって行き、そこで、現
地にある作業台船に装備する一方、また必要に応じて定点保持制御するためのD
GPS装置もポータブル化して目的地まで輸送して、現地の作業台船上に装備す
るようにしたものである。
【0025】
かかる構成では、需要があるたびに、船底に孔を開けて旋回スラスタを取り付
け、布設工事が完了するとまた旋回スラスタを取り外して、船底の開口を閉じる
といった大がかりな作業をせずともよくなる。
【0026】
また、自船を数隻所有していた場合にも、このうち1隻のみに上述したような
(移設可能に構成された)定点保持制御可能な旋回スラスタ装置1とポータブル
化された定点保持制御のためのGPS装置17を所有するだけで済むのである。
【0027】
図6は、作業台船10にGPS定点保持機能を発揮させている状態の模式図で
ある。例えば海底ケーブルなどの布設作業においては、その海域の潮流やその時
の風力などの外乱により、作業台船10は位置を変化させるが、船体にかかる外
乱の大きさや方向を考慮してその位置を保持すべく、4基の旋回スラスタ装置1
にGPS装置の制御部から指令信号を制御ライン18を通じて送って各旋回スラ
スタ装置1に所要の推力の方向や大きさを発生させるようにする。通常、推力の
方向は各旋回スラスタ装置とも0°〜90°の範囲内で制御すれば精度十分に定
点保持できると言われている。各旋回スラスタ装置1から発生する推力は同一と
は限らず、定点保持のために適切な推力配分が行われるよう制御される。潮流や
風の方向などによって作業台船10は横移動や回頭などの変位をするが、ケーブ
ルの繰り出し点P(図3参照)を定点としてこれを保持することによって精度良
いケーブル布設が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、定点保持機能を備えていない作業台船に、必要に応じて定点保持機
能を付加することができ、定点保持機能が必要な台船や船舶に広汎に適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1…(定点保持制御可能な)旋回スラスタ装置
2…旋回スラスタ
3…原動機
4…筺体(浮体ケーシング)
4c…フランジ
5…ダクト
6…プロペラ
7…ポッド
8…連結部材
10…作業台船
15…クレーン
16…シーブ
17…(定点保持制御用)DPS装置
18…制御ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS定点制御可能な旋回スラスタとこの駆動用原動機とを旋回スラスタ装
置として一つにまとめてパッケージ化し、それを作業台船の舷側に着脱可能にな
るよう構成したことを特徴とするGPS定点制御可能な着脱式旋回スラスタ装置。
【請求項2】
複数の前記旋回スラスタ装置を浮体となるべき筺体にパッケージ化してまとめ、
この複数のパッケージ化された旋回スラスタ装置を相互に連結してユニット化し、
このユニット化した旋回スラスタ装置そのものを海上曳航輸送できるようにした
ことを特徴とする請求項1記載のGPS定点制御可能な着脱式旋回スラスタ装置。
【請求項3】
少なくとも4基の前記旋回スラスタ装置を連結したことを特徴とする請求項
2記載のGPS定点制御可能な着脱式旋回スラスタ装置。
【請求項4】
複数の上記旋回スラスタ装置を作業台船の舷側に取り付けると共に、定点保持
制御用のGPS装置をポータブル化して前記作業台船に備え付けるとともに、当
該GPS装置を各旋回スラスタ装置とを接続して当該作業台船を定点保持機能を
有するものに仕立てたことを特徴とする請求項1記載のGPS定点制御可能な着
脱式旋回スラスタ装置を備えた作業台船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−20527(P2011−20527A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166059(P2009−166059)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(592190028)株式会社関海事工業所 (1)