説明

Geイオン溶出Ag合金

【課題】 水中においてGeイオンを溶出し,耐食性も良く十分な塑性加工性を有する,Geイオン溶出Ag合金を提供する.
【解決手段】 97mass%以下のAgと,2〜6mass%のGeを含み,残部がAu,Pd,Cu,Inの1種類もしくは2種類以上からなることを特徴とするGeイオン溶出Ag合金.これにより,耐食性および塑性加工性の良い,Geイオン溶出Ag合金を提供することが出来る.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,水中においてGeイオンを溶出するAg合金に関するものである.
【背景技術】
【0002】
近年,Geを利用した様々な製品が創出されており,Geの作用による健康増進商品として市場に多く流通している.
【0003】
これらの中において,Geを含有した貴金属合金としてはAu合金およびAg合金にGeを添加した合金が作製されており,ネックレス,ブレスレットおよびリングなどの装身具として流通している.
【0004】
このようなGeを含む貴金属合金は,たとえば「装身具用銀合金および装身具」(特許文献1)および「装身具用金合金」(特許文献2)などが知られている.
【0005】
ここで「装身具用銀合金および装身具」においては装身具に用いるAg合金を開示しており,Agを主成分としてGeおよびInを含有している.
【0006】
また,「装身具用金合金」においては装身具に用いるAu合金を開示しており,Auを主成分としてGe,AgおよびCuを含有している.
【0007】
一方,Ge利用した健康増進器具として,手足温浴器が知られている.温浴器に用いる温水は,水に有機ゲルマニウム粉末を溶解したものであり,その発汗作用による健康増進を目的としたものである.
【0008】
しかしながらこれらの従来技術において,「Geイオンの溶出」,つまりGe含有合金を水中に浸漬することによって生じるGeイオンの溶出性について言及された例はなく,溶出Geイオンの作用による健康増進を目指した製品はこれまで提供されていない.
【特許文献1】特開2000−144283号公報
【特許文献2】特開2002−105558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の点に着目したものであり,水中に浸漬することによってGeイオンを溶出し,合わせて耐食性および塑性加工性の良いAg合金の作製を目指したものである.
【問題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題,つまり,1)水中におけるGeイオンの溶出,2)耐食性の向上,3)十分な塑性加工性の確保,を解決するため,本発明によるGeイオン溶出Ag合金は,97mass%以下のAgおよび2〜6mass%のGeを含有し,残部がAu,Pd,Cu,Inの1種類もしくは2種類以上からなることを特徴とするものである.
【0011】
ここでゲルマニウム含有率を2〜6mass%としたのは,Geイオンの溶出性,耐食性,加工性を満足する範囲である.また,構成成分であるPdおよびCuはGeの固溶域が比較的広いため,加工性を向上させる,AuおよびPdの添加は耐食性を改善し,Inの添加は加工性を向上させる.
【0012】
本発明によるGeイオン溶出Ag合金は,2.5mass%以上のゲルマニウムを含むことも特徴とする.Geの添加量が増すにつれてGeイオン溶出量が多くなり,また良好な耐食性を得ることが可能となる.
【0013】
本発明によるGeイオン溶出Ag合金は,3.5mass%以下のゲルマニウムを含むことも特徴とする.Geの添加量を少なくすることにより,加工性を向上させることが可能となる.
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば,水中においてGeイオンを溶出し,耐食性も良く十分な塑性加工性を有する,Geイオン溶出Ag合金を得ることができる.
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は,97mass%以下のAgおよび2〜6mass%のGeを含み,残部がAu,Pd,Cu,Inの1種類もしくは2種類以上からなることを特徴とし,水中においてGeイオンを溶出すると共に,耐食性および加工性を兼ね備えたGeイオン溶出Ag合金を作製したものである.
【実施例1】
【0016】
まず,Ag−3.8Ge−0.2Cu合金の水中におけるGeイオンの溶出挙動を調査した.試料は,鋳造材を圧延して直径50mmの板材に加工した材料を用いた.試料を100mlの水道水に浸漬し,1,6および24時間後の水中のGe濃度を,ICP発光分光分析装置を用いて測定した.また比較として,直径約5mmのGe粒3個およびAg−3.8Ge−0.2Cu板材に4個のGe粒を装着した試料を100mlの水道水中に浸漬して同様の試験を行った.その結果を表1に示す.
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示したように,本発明による合金は十分なGeイオンを溶出し,Ge粒と比較してもその溶出量は優っており,24時間後においては約3倍の値を示している.また,合金にGe粒を装着した試料においては,両金属間に発生した電位によってGeイオンの溶出量が増し,24時間後においては,合金のみの試料と比較して約2倍の値であることが見出された.
【0019】
一方,AgおよびAg合金を水中に浸漬することによってAgイオンが溶出することは周知の事実であり,Agイオンに抗菌作用があることも良く知られている.そのため本発明による合金は,Geイオンによる健康増進とAgイオンによる抗菌効果を兼ね備えたGeイオン溶出Ag合金であるといえる.
【実施例2】
【0020】
次に,Ge含有率を変化させた,Ag−1.0Ge−6.5CuおよびAg−2.0Ge−5.5Cu合金の水中におけるGeイオンの溶出挙動を調査した.試料は,鋳造材を圧延し,直径50mmの板材に加工した材料を用いた.試料を100mlの水道水に浸漬し,1,6および24時間後の水中のGe濃度を,ICP発光分光分析装置を用いて測定した.その結果を表2に示す.
【0021】
【表2】

【0022】
表2に示したように,Ge含有率2%の合金はGe含有率1%の合金と比較して,Geイオン溶出量は約5倍の値を示している.ここで表1および表2における,24時間後のGeイオン溶出量を表3に示す.
【0023】
【表3】

【0024】
表3に示したように,本発明による合金においては,Ge含有率が高いほど水中におけるGeイオン溶出量が大きいことが明らかとなった.
【実施例3】
【0025】
さらに,本発明における合金を手足温浴器の原材料として使用した.組成Ag−3.8Ge−0.2Cu,サイズw50×t15×lmm鋳造材を圧延して,w80×t1.0×l450mmの板材を作製した.この板材を手および足の形状に加工して手足温浴器の温水中に浸漬し,有機ゲルマニウムに変わる新規なGeイオン供給材とした.
【実施例4】
【0026】
また,本発明における合金を用いて,装身具の一つであるネックレスを作製した.まず,組成Ag−24Pd−7Au−3.8Geの合金を溶製して直径10mmの棒材とした.この棒材をミゾロールおよび伸線加工により直径0.9mmの丸線に加工し,編み機を用いてWキヘイ6DCチェーンを作製した.その結果,本合金はこれらの加工に適した,延性および曲げ加工性を有していることが明らかとなった.これらのことより,本発明による合金を用いて作製した装身具においては,Geイオンの溶出のみならず,Geを含有した健康志向タイプの装身具として提供することができる.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
97mass%以下のAgおよび2〜6mass%のGeを含み,残部がAu,Pd,Cu,Inの1種類もしくは2種類以上からなることを特徴とするGeイオン溶出Ag合金.
【請求項2】
2.5mass%以上のゲルマニウムを含むことを特徴とする,請求項1記載のGeイオン溶出Ag合金.
【請求項3】
3.5mass%以下のゲルマニウムを含むことを特徴とする,請求項1または2記載のGeイオン溶出Ag合金.

【公開番号】特開2007−23375(P2007−23375A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231313(P2005−231313)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(503315908)株式会社ピーシーウェーブ (3)