説明

HEDTAのナトリウム塩の水性溶液

本発明は、式I


のキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)の水性溶液に関する。本発明はさらに、少なくとも0.5kgの当該水性溶液を含んでいる容器、および少なくとも45重量%の式Iのキレート化化合物のxNayHナトリウム塩を含む水性溶液を、Na−HEDTAから調製する方法において、該方法が42重量%未満のNa−HEDTAを含有する水性溶液を両極膜を使用して電気透析し、それによって3ナトリウム塩溶液を、式Iのナトリウム塩(x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)の溶液へ転化する段階を含む上記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート化化合物HEDTA、[N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−3酢酸]のナトリウム塩の水性溶液、当該水性溶液を含んでいる容器、および当該水性溶液を鉄−キレート錯体をつくるために使用する方法に関する。本発明はさらに、HEDTAの当該ナトリウム塩のこのような水性溶液を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キレート化化合物HEDTAのいくつかのナトリウム塩は、従来技術で知られている。たとえば、米国特許第5,491,259号には、HEDTAをその3ナトリウム塩(すなわち、Na−HEDTA)から調製する方法が開示されている。この方法はpH1.0〜3.0の酸性媒体を利用していて、完全にプロトン化されたHEDTAを含有する原料水性溶液を、無機ナトリウム塩とともに生成する。その後、この水性溶液は透析ろ過膜を通されて、有機および無機成分が分離される。HEDTAの2ナトリウム塩(すなわち、Na−HEDTA)も知られている。たとえば、欧州特許出願公開第0054277号および欧州特許出願公開第0058430号には、HEDTAの当該2ナトリウム塩を用いた染料分散物を含有するマイクロカプセルが開示された。K.Nakamotoらは、HEDTAとその単、2および3ナトリウム塩との赤外スペクトルをJ.Am.Chem.Soc.誌、第85巻、311〜312ページ(1963年)に発表した。
【0003】
通常、HEDTAをキレート化イオンとして使用するときは、HEDTAの3ナトリウム塩(Na−HEDTA)が使用される。したがって、米国特許第5,110,965号に従って、(磁鉄鉱のような)鉄の酸化物をNa−HEDTAと反応させ、そして媒体を低pH値まで酸性化することによって、商業的に入手できるHEDTAの3ナトリウム塩の41.3重量%水性溶液から鉄キレート化合物がつくられることができる。
【0004】
しかし、HEDTAの3ナトリウム塩の使用は、工業的規模で使われたときにいくつかの大きな欠点を持つ。重要な難題は、高濃度溶液のHEDTAの3ナトリウム塩の高粘度であり、これはこのような溶液を取り扱うことを困難にする。したがって、この高粘度は、実用的な濃度を45重量%未満の値に制限する。さらに、ある濃度より高いと、HEDTAの3ナトリウム塩は、より低い温度に曝されているときに水性溶液から沈殿する傾向があり、これは溶液が流し出されることができるようになる前に容器を加熱することを必要とする。さらに、Na−HEDTA水性溶液はアルミニウムに対して腐食性であり、したがって耐食性設備へのその適用が制限されることが見出された。これらの難題は、HEDTA塩を大規模生産に使用するときに、たとえばとりわけ0.5kg以上の内容物を持つ容器が使用されるときに、特に問題となる。実際には、容器は25〜1,000kg、さらにそれ以上の水性HEDTA塩を収容することができる。
【特許文献1】米国特許第5,491,259号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第0054277号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第0058430号公報
【特許文献4】米国特許第5,110,965号公報
【非特許文献1】K.Nakamotoら、J.Am.Chem.Soc.誌、第85巻、311〜312ページ(1963年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より低い粘度を持ち、低温度で沈殿せず、より高い濃度で容器中で取り扱われることができ、かつより少ない腐食特性を持つ、HEDTAの3ナトリウム塩の水性溶液の代替物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の条件を満たすHEDTAのナトリウム塩の水性溶液を提供する。この目的のために、驚くべきことに式I

のキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)の独立の水性溶液では、上記の問題が起きないことが見出された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
さらに、本発明は、HEDTAの当該ナトリウム塩の水性溶液の少なくとも0.5kgを含んでいる容器を提供する。というのは、少なくとも0.5kgの当該溶液を含んでいる容器中で、上記の問題が起きないことが見出されたからである。この明細書を通して使用される「容器」の語は、本発明に従うHEDTAのナトリウム塩が貯蔵され、および/または輸送されることができる貯蔵器だけでなく、当該ナトリウム塩を収容することができ、また製造プロセスで使用されるタンク、樽、ドラム缶、槽、パイプまたは洗浄ラインを包含することを意味する。本発明の容器は、少なくとも0.5kg、好ましくは少なくとも1kg、またもっとも好ましくは25kg以上の上記溶液を収容している。好ましくは、当該容器は2,000kg超、より好ましくは1,500kgの上記溶液を収容していない。好ましくは、少なくとも0.5kgの本発明に従う水性溶液を含んでいる容器は、PVC、ポリエチレン、ステンレス鋼、または瀝青処理された鋼から造られる。
【0008】
できるだけ少ない中和用の酸を使用するために、3ナトリウム塩の不利な点を持つことなく、3ナトリウム塩にできるだけ近い水性溶液をつくることが好まれる。中和用酸の使用、粘度、沈殿および腐食特性に関する最適点は、約2.4、たとえば2.3〜2.5の範囲内であるxについて得られることが見出された。
【0009】
さらに本発明の塩は、上記の有利な点を損なうことなく、45重量%以上の濃度まで水中に溶解されることができることが見出された。この条件を満たすために、水性溶液は7〜11のpHを持つ。
【0010】
本発明に従う他の目的では、式Iのキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)を含む水性溶液を、鉄−キレート錯体を調製するために使用する方法が提供される。この種類の錯体それ自体の調製は、たとえば上で米国特許第5,110,965号に示されているように従来技術で知られている。さらに、本発明の水性HEDTA塩を利用するときに、当該錯体のつくり方は当業者には明らかである。鉄以外の金属、たとえば他の第VIII族金属、遷移金属、希土類金属なども錯体化されることができる。鉄錯体がつくられるならば、HEDTA塩水性溶液は、好ましくは5〜7重量%の鉄錯体を含有する。
【0011】
上記のHEDTA塩水性溶液をつくる方法を提供することも、本発明の目的である。この目的のために、本発明は、式Iのキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)を少なくとも45重量%含む水性溶液を、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−3酢酸の3ナトリウム塩(Na−HEDTA)から調製する方法において、両極膜およびカチオン膜を使用して、20℃で42重量%未満のNa−HEDTAを含有する水性溶液を電気透析し、または異なった温度で、最大で上記濃度で電気透析し、それによって粘度が20℃における42重量%Na−HEDTA溶液の粘度以下となり、もってNa−HEDTA溶液を式IのxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)の溶液へ転化する段階を含む上記方法に関する。
【0012】
両極膜を用いる電気透析プロセス(EDBM)は、従来技術で知られている。当該プロセスの概説は、M.Bailly著、Desalination誌、第144巻、157〜162ページ(2002年)に見られることができる。本発明に従うHEDTAのナトリウム塩をつくるために当該プロセスを使用するときに、好ましくは苛性電解質、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、炭酸(水素)ナトリウムなどが使用される。好適な両極膜は、たとえばトクヤマ社(日本国)からのNeosepta(商標)BP1E、FumaTech社(ドイツ国)からのFT−BP(商標)またはSolvay社(ベルギー国)からのMorgane(商標)BPMである。カチオン交換膜は、酸室を塩基室から隔てるために、かつナトリウムイオンを酸室から塩基室へ移送するためにも使用される。この用途のためのカチオン交換膜は、酸および塩基に安定でなければならない。好適なカチオン交換膜は、たとえばNeosepta(商標)CMB(トクヤマ社)、FT−FKL(商標)およびFT−FKB(商標)(どちらもFumaTech社)であるが、酸および塩基に安定であり、かつ電気透析プロセスの条件下にHEDTA溶液中で安定である限り、任意の他のカチオン交換膜も使用されることができる。
【0013】
電気透析の間の温度が高ければ高いほど、Na−HEDTA溶液の粘度はより低くなる。したがって、より高い温度が選ばれると、42重量%より高い濃度のNa−HEDTAが使用されることができる。しかし、溶液の粘度が20℃における42重量%の粘度よりも高く、すなわち約25センチポアズよりも高くなると、電気透析隔セルの狭い通路を通してのこのような溶液の移送は一般に、大きく妨げられるので効率的なプロセスを得ることができない。したがって、粘度が約25センチポアズよりも高くないことを確実にするのに十分なほど高いが、膜が依然として適切に作働することができることを確実にするのに十分なほど低い温度で作業することが好まれる。熱の影響を受けやすい膜のタイプが使用されるときは、電気透析プロセスは好ましくは、室温までのより低い温度で実施される。
【0014】
両極膜の電気透析プロセスは90℃まで運転されることができ、該温度はほとんどのカチオン交換膜が耐えることができる最大の温度である。好ましくは温度は、FumaTech社のFT−BP(商標)またはSolvay社からのMorgane(商標)BPMの両極膜を適用するときは約60℃未満、またはトクヤマ社のNeosepta(商標)BP1E両極膜を適用するときは約45℃未満でなければならない。実用的な見地からは、該プロセスはもっとも好ましくは20〜45℃の温度で実施される。
【0015】
電気浸透の故に、水がナトリウムイオンとともにHEDTA室からカチオン交換膜を通して苛性アルカリ室内に移行することが注記される。したがって、HEDTA濃度は酸性化プロセスの間に増加する。
【0016】
さらに、より低度に好まれるけれども、式Iのキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)を少なくとも45重量%含む水性溶液は、たとえばP.Boyaval、J.Seta、およびC.GavachによってEnzyme Microb.Technol.誌、1993年、第15巻、8月号、683〜686ページに記載されたように電気化学的酸性化段階を含む電気分解プロセスによって、Na−HEDTAから調製されることもできることが注記される。
【0017】
本発明は、以下の実施例を用いてさらに例証される。
【実施例1】
【0018】
pH11.05で、かつFe−TSV値(鉄全封鎖量値)として表された41重量%のNa−HEDTA濃度を持つNa−HEDTA溶液が、慣用のポンプを使用して該溶液を両極膜(トクヤマ社からのNeosepta(商標)BP1)の電気透析スタックを通して循環することによって、式Iのキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)に転化された。酸性化プロセスの間に生成された熱の故に、HEDTAナトリウム塩溶液の温度は、実験開始時の30℃から実験終了時の45℃まで増加した。実験の間、HEDTA室内のpH値は、合体されたガラス電極付きの慣用の較正済みpH計を使用して測定された。当該両極膜の電気透析スタックを使用する酸性化の間に、HEDTAナトリウム塩溶液のpH値は減少した。pHが35℃の温度で9.6の値に到達したときに、慣用の流量計を使用して測定されたHEDTAナトリウム塩溶液の流体流れは、ポンプの設定値および/または他の条件を変えることなく、40リットル/時から200リットル/時超へ急激に増加し始めることが見出された。これは、当該条件におけるHEDTAナトリウム塩溶液の粘度が急激に減少することを示す。得られた最終のHEDTAナトリウム塩溶液は9.1のpHを持っていて、これはHEDTAのxNayHナトリウム塩でx=2.7およびy=0.3のものに対応する。Brookfield粘度計を用いて測定された当該最終溶液の粘度は、20℃で16.2センチポアズおよび50℃で7.7センチポアズであった。
【実施例2】
【0019】
いろいろなxおよびyの値を持つ、式Iのキレート化化合物のxNayHナトリウム塩が、実施例1に記載された両極膜の電気透析スタックを使用して、所望のpH値が得られるまで酸性化によって調製された。このようにして得られたHEDTA溶液の粘度は、Brookfield粘度計を使用して、広い範囲の濃度にわたって2の異なる温度(20℃および50℃)で測定された。
【0020】
下記の表は、式IのxNayH塩(ここで、それぞれx=3(比較例)、x=2.4、およびx=2.1、並びにy=0、y=0.6、およびy=0.9)について、粘度(センチポアズ)対HEDTA濃度(Na−HEDTA塩として表された鉄全封鎖量値、Fe−TSVとしての値)を示す。
【表1】

【0021】
低濃度(10重量%)では、Na−HEDTA(従来技術)とNa2.4−HEDTAおよびNa2.1−HEDTA(本発明)との間に粘度の測定された有意差はなかった。より高い濃度では、粘度差は大きくなった。50重量%では、Na−HEDTAは凝固するので最早使用されることができなかったが、一方Na2.4−HEDTAおよびNa2.1−HEDTAは両方とも依然として容易に取り扱われることができた。
【表2】

【0022】
より高い温度(50℃)では、Na−HEDTA(従来技術)とNa2.4−HEDTAおよびNa2.1−HEDTAとの間の粘度差は、20℃におけるよりも小さいけれども、依然として存在していた。
【0023】
低粘度の有利な点は、ドラム缶/容器を空にすること、配管を洗い流すこと、製品をポンプ輸送する/取扱う間に流れを維持することなどが、より容易であることである。
【実施例3】
【0024】
HEDTA水性溶液の輸送分類は、腐食潜在性にも関連している。アルミニウム合金7075 T6上で苛性アルカリを含まない40重量%のNa−HEDTA溶液を使用して、NACE規格 TM−01−69に従って実施された腐食試験は、アルミニウムへの腐食速度が許容された限界(6.2mm/年の最大平均腐食速度)を超えていることを示した。40重量%のNa2.30.7−HEDTA水性溶液を用いたこの試験は、アルミニウム合金7075 T6について1mm/年よりも小さい平均腐食速度を与えた。これは、該製品がアルミニウム容器および製造装置中で取り扱われることを許す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I

のキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)を含んでいる水性溶液。
【請求項2】
式Iのキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)を少なくとも45重量%含んでいる、請求項1に従う水性溶液。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか1項に従う水性溶液の少なくとも0.5kgを含んでいる容器。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれか1項に従う水性溶液を鉄−キレート錯体をつくるために使用する方法。
【請求項5】
式Iのキレート化化合物のxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)を少なくとも45重量%含む水性溶液を、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−3酢酸の3ナトリウム塩(Na−HEDTA)から調製する方法において、両極膜およびカチオン膜を使用して、20℃で42重量%未満のNa−HEDTAを含有する水性溶液を電気透析し、または異なった温度で、最大で上記濃度で電気透析し、それによって粘度が20℃における42重量%Na−HEDTA溶液の粘度以下となり、もってNa−HEDTA溶液を式IのxNayHナトリウム塩(ここで、x=2.1〜2.7、y=0.9〜0.3、およびx+y=3)の溶液へ転化する段階を含む上記方法。
【請求項6】
苛性電解質が使用される、請求項5に従う方法。

【公表番号】特表2006−528145(P2006−528145A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520741(P2006−520741)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007841
【国際公開番号】WO2005/014527
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】