説明

HER2のドメインIIに結合する抗体及びその酸性の変異体を含む組成物

HER2のドメインIIに結合する主要種HER2抗体及びその酸性の変異体を含む組成物を記載する。また、該組成物を含む製薬製剤及び該組成物の治療的な使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年1月30日出願の米国特許仮出願第61/024825号の優先権を主張するものであり、該出願の内容は、その全体が本明細書中に組み込まれる。
【0002】
本発明は、HER2のドメインIIに結合する主要種HER2抗体及びその酸性の変異体を含む組成物に関する。また、本発明は、該組成物を含む医薬製剤、及び該組成物の治療的使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
HER2抗体
レセプターチロシンキナーゼのHERファミリーは、細胞成長、分化及び生存の重要な介在物質である。該レセプターファミリーは、上皮細胞成長因子(EGFR又はErbB1又はHER1)、HER2(ErbB2又はp185neu)、HER3(ErbB3)、及びHER4(ErbB4又はtyro2)を含む4つの明らかなメンバーを含む。
erbB1遺伝子にコードされるEGFRは、ヒト悪性腫瘍の原因と示唆されている。特にEGRFの発現の増加は、乳房、膀胱、肺、頭部、首部及び胃癌、並びに膠芽細胞腫で観察されている。増大したEGFR発現は、自己分泌刺激経路によるレセプターの活性化となる、同じ腫瘍細胞によるEGFRリガンド、トランスフォーミング成長因子−アルファ(TGF-α)の生成の増加にしばしば関連していると報告されている。Baselga及びMendelson Pharmac Ther., 64:127-154 (1994))。EGFR、又はそのリガンドTGF-α及びEGFに対するモノクローナル抗体は、そのような悪性腫瘍の治療における治療剤として評価されている。例えば、Baselga及びMendelson 上掲;Masui等, Cancer Research, 44:1002-1007(1984);及びWu等, J. Clin. Invest., 95:1897-1905 (1995)参照。
【0004】
HERファミリーの第2のメンバーであるp185neuは、元々は、化学的に処理されたラットの神経芽細胞種由来のトランスフォーミング遺伝子の産物として同定された。neuプロト癌遺伝子の活性化型は、コードされたタンパク質の膜貫通領域の点突然変異(バリンからグルタミン酸へ)から生じる。neuのヒト相同体の増幅は、乳房及び卵巣癌で観察され、乏しい予後と相関している(Slamon等, Science, 235:177-182 (1987);Slamon等, Science, 244:707-712 (1989);及び米国特許第4,968,603号)。今日まで、neuプロト癌遺伝子におけるものに類似した点突然変異はヒトの腫瘍に対しては報告されていない。HER2の過剰発現(増幅のためしばしば見られるが均一にではない)が、胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、大腸、甲状腺、膵臓及び膀胱の癌腫を含む他の癌腫においても観察されている。特に、King等, Science, 229:974 (1985);Yokota等, Lancet, 1:765-767 (1986);Fukushige等, Mol Cell Biol., 6:955-958 (1986);Guerin等, Oncogene Res., 3:21-31 (1988);Cohen等, Oncogene., 4:81-88 (1989);Yonemura等, Cancer Res., 51:1034 (1991);Borst等, Gynecol.Oncol., 38:364 (1990);Weiner等, Cancer Res., 50:421-425 (1990);Kern等, Cancer Res., 50:5184 (1990);Park等, Cancer Res., 49:6605 (1989);Zhau等, Mol. Carcinog., 3:354-357 (1990);Aasland等, Br. J. Cancer 57:358-363 (1988);Williams等, Pathobiology, 59:46-52 (1991);及びMcCann等, Cancer, 65:88-92 (1990)参照。HER2は前立腺癌で過剰発現されうる(Gu等 Cancer Lett. 99:185-9(1996);Ross等 Hum. Pathol. 28:827-33(1997);Ross等 Cancer 79:2162-70(1997);及びSadasivan等 J. Urol. 150:126-31(1993))。
【0005】
ラットp185neu及びヒトHER2タンパク質産物に対する抗体が記述されている。Drebinとその仲間は、ラットneu遺伝子産物であるp185neuに対する抗体を言及している。例えば、Drebin等, Cell 41:695-706(1985);Myers等, Meth. Enzym. 198:277-290(1991);及び国際公開公報94/22478参照。Derbin等, Oncogene 2:273-277(1988)は、p185neuの2つの異なる領域と反応性のある抗体混合物が、ヌードマウス中に移植されたneu形質転換NIH-3T3細胞に相乗的な抗腫瘍効果を生じることを報告している。また1998年10月20日公開の米国特許第5,824,311号参照。
Hudziak等, Mol. Cell. Biol. 9(3):1165-1172(1989)には、ヒトの乳房腫瘍株化細胞SK-BR-3を使用して特徴付けられたHER2抗体パネルの作成が記載されている。抗体への暴露に続いてSK-RB-3細胞の相対的細胞増殖が、72時間後の単層のクリスタルバイオレット染色により測定された。このアッセイを使用して、4D5と呼ばれる抗体により最大の阻害度が得られ、これは細胞増殖を56%阻害した。パネルの他の抗体は、このアッセイにおいてより少ない度合いで細胞増殖を低減した。さらに、抗体4D5は、TNF-αの細胞障害効果に対し、HER2過剰発現乳房腫瘍株化細胞を感作させることが見出されている。また、1997年10月14日に公開された米国特許第5,677,171号参照。Hudziak等 により検討されたHER2抗体は、Fendly等 Cancer Research 50:1550-1558(1990);Kotts等 In Vitro 26(3):59A(1990);Sarup等 Growth Regulation 1:72-82(1991);Shepard等 J. Clin. Immunol. 11(3):117-127(1991);Kumar等 Mol. Cell. Biol. 11(2):979-986(1991);Lewis等 Cancer Immunol. Immunother. 37:255-263(1993);Pietras等 Oncogene 9:1829-1838(1994);Vitetta等 Cancer Research 54:5301-5309(1994);Sliwkowski等 J. Biol. Chem. 269(20):14661-14665(1994);Scott等 J. Biol. Chem. 266:14300-5(1991);D'souza等 Proc. Natl. Acad. Sci. 91:7202-7206(1994);Lewis等 Cancer Research 56:1457-1465(1996);及びSchaefer等 Oncogene 15:1385-1394(1997)においてもさらに特徴付けられている。
【0006】
マウスHER2抗体4D5の組換えヒト化体(huMAb4D5-8、rhuMAb HER2、トラスツズマブ又はハーセプチン(登録商標);米国特許第5,821,337号)は、広範な抗癌治療を前に受けたHER2過剰発現転移性乳癌を持つ患者において臨床的に活性であった(Baselga等, J. Clin. Oncol. 14:737-744(1996))。トラスツズマブは、腫瘍がHER2タンパク質を発現する転移性乳癌を有する患者の治療のために、1998年9月25日、食品医薬品局から販売許可を受けた。
様々な特性を有する他のHER2抗体は、Tagliabue等 Int. J. Cancer 47:933-937(1991);McKenzie等 Oncogene 4:543-548(1989);Maier等 Cancer Res. 51:5361-5369(1991);Bacus等 Molecular Carcinogenesis 3:350-362(1990);Stancovski等 PNAS(USA)88:8691-8695(1991);Bacus等 Cancer Research 52:2580-2589(1992);Xu等 Int. J. Cancer 53:401-408(1993);WO94/00136;Kasprzyk等 Cancer Research 52:2771-2776(1992);Hancock等 Cancer Res. 51:4575-4580(1991);Shawver等 Cancer Res. 54:1367-1373(1994);Arteaga等 Cancer Res. 54:3758-3765(1994);Harwerth等 J. Biol. Chem. 267:15160-15167(1992);米国特許第5,783,186号;及びKlapper等 Oncogene 14:2099-2109(1997)に記載されている。
【0007】
相同性スクリーニングは、結果的に他の2つのHERレセプターファミリーメンバーを同定した;HER3(米国特許第5,183,884号及び第5,480,968号、並びにKraus等 PNAS(USA) 86: 9193-9197(1989))、及びHER4(欧州特許出願第599,274号、Plowman等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 1746-1750(1993)、及びPlowman等, Nature 366: 473-475(1993))。これらのレセプターはどちらも、少なくともいくつかの乳癌株での増加した発現を示す。
HERレセプターが一般に、細胞内で様々な組み合わせで発見され、ヘテロ二量化は様々なHERリガンドに対する細胞応答の多様性を増加すると考えられる(Earp等 Breast Cancer Research and Treatment 35:115-132(1995))。EGFRは6つの異なるリガンド;上皮成長因子(EGF);トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF-α)、アンフィレグリン、ヘパリン結合上皮細胞成長因子(HB-EGF)、ベータセルリン及びエピレグリンにより結合される(Groenenら Growth Factors 11:235-257(1994))。単一の遺伝子の選択的スプライシングから生じるヘレグリンタンパク質のファミリーはHER3及びHER4のリガンドである。ヘレグリンファミリーは、α、β及びγヘレグリン(Holmes等, Science, 256:1205-1210(1992);米国特許第5,641,869号;及びSchaeferら Oncogene 15:1385-1394(1997));neu分化因子(NDF)、グリア成長因子(CGF);アセチルコリンレセプター促進活性(ARIA);及び感覚、運動神経由来因子(SMDF)を含む。概説については、Groenenら Growth Factors 11:235-257(1994);Lemke, G. Molec. & Cell. Neurosci. 7:247-262(1996)及びLeeら Pharm. Rev. 47:51-85(1995)参照。最近になって更に3つのHERリガンドが同定された;HER3又はHER4のどちらかに結合すると報告されたニューレグリン-2(NRG-2)(Chang等 Nature 387 509-512(1997);及びCarraway等 Nature 387:512-516(1997));HER4に結合するニューレグリン-3(Zhang等 PNAS(USA)94(18):9562-7(1997));及びHER4に結合するニューレグリン-4(Harariら Oncogene 18:2681-89(1999))HB-EGF、ベータセルリン及びエピレグリンもまたHER4に結合する。
【0008】
EGF及びTGFαはHER2に結合しないが、EGFはヘテロ二量体を形成するようにEGFR及びHER2を促進し、EGFRを活性化し、その結果ヘテロ二量体でHER2のトランスリン酸化を生じる。ヘテロ二量体及び/又はトランスリン酸化はHER2チロシンキナーゼを活性化するように見える。上掲のEarp等, 参照。同様に、HER3がHER2と共に発現しているとき、活性シグナル伝達複合体が形成され、HER2に対する抗体はこの複合体を分裂させる能力がある(Sliwkowski等, J. Biol. Chem., 269(20):14661-14665(1994))。更に、ヘレグリン(HRG)に対するHER3の親和性はHER2と共に発現するときの高い親和性にまで増加される。また、HER2-HER3タンパク質複合体に関しては、Levi等, Journal of Neuroscience 15:1329-1340(1995);Morrissey等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1431-1435(1995);及びLewis等, Cancer Res., 56:1457-1564(1996)参照。HER3と同様にHER4はHER2と活性シグナル伝達複合体を形成する(Carraway and Cantley, Cell 78:5-8(1994))。
【0009】
HERシグナル伝達経路を標的とするために、HER2と他のHERレセプターとの二量体化を阻害し、それによりリガンド依存性リン酸化及び活性化、及びRAS及びAKT経路の下流活性化を阻害するヒト化抗体として、rhuMAb2C4(パーツズマブ)が開発された。充実性腫瘍を治療するための単剤としてのパーツズマブの第I相試験において、進行した卵巣癌を有する3人の患者は、パーツズマブで治療された。1人は永続的な部分寛容を有しており、更なる患者は15週間の安定型疾患があった。Agus et al. Proc Am Soc Clin Oncol 22: 192, Abstract 771 (2003).
【0010】
抗体変異体組成物
米国特許番号第6339142号は、抗HER2抗体と1又は複数のその酸性の変異体との混合物を含んで成り、酸性の変異体の量が約25%未満である、HER2抗体組成物を記載する。トラスツズマブは、例証されたHER2抗体である。
Reid et al. は、Well Characterized Biotech Pharmaceuticals conference (2003年1月)でポスター「ヒト化抗体の特徴を変える細胞培養方法の効果」を発表し、その重鎖上のVHSシグナルペプチド、N末端グルタミン及びピログルタミン酸の組合せの、N末端不均一性を有する無名の、ヒト化IgG1抗体組成物を記載した。
Harris et al.「理想的なクロマトグラフィーによる抗体の特徴づけ方法」はIBC抗体産生会議(2002年2月で口頭発表し、E25(ヒト化抗−IgE抗体)の重鎖上のVHS伸長を報告した。
Rouse et al. は、WCBPで「高分解能質量分析によるトップダウンの糖タンパク質特徴づけ及び生物薬剤開発への応用」(2004年1月6〜9日)をポスター発表し、その軽鎖に、−3AHS又は−2HSシグナルペプチド残基から生じたN末端不均一性を有するモノクローナル抗体組成物を記載した。
IBC会議(2000年9月)の発表において(Strategic Use of Comparability Studies and Assays for Well Characterized Biologicals)、Jill Porterは、その重鎖上の3つの余分なアミノ酸残基によって遅く溶出される形態のZENAPAXTMについて述べた。
US2006/0018899は、主要種のパーツズマブ抗体及びアミノ末端リーダー伸長変異体、同様に他の変異体形態のパーツズマブ抗体を含んで成る組成物を記載する。
【0011】
(発明の開示)
第1の態様によれば、本発明は、HER2のドメインIIと結合する主要種HER2抗体及びその酸性の変異体を含む組成物であって、酸性の変異体は糖化変異体、ジスルフィド還元化変異体または非還元性変異体を含む組成物に関する。好ましくは、酸性の変異体は、糖化変異体、脱アミド化変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体と非還元性変異体を含む。望ましくは、酸性の変異体の量は、約25%未満である。
別の態様において、本発明は、それぞれ、配列番号3及び4の可変軽鎖及び可変重鎖配列を含む主要種HER2抗体及び主要種抗体の酸性の変異体を含む組成物であって、酸性の変異体は、脱アミド化変異体、糖化された変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体及び非還元性変異体を含む。
更に、本発明は、薬学的に許容可能な担体の組成物を含む製薬製剤に関する。
加えて、本発明は、癌を治療するための有効量の製薬製剤を患者に投与すること含む、患者のHER2陽性の癌を治療する方法に関する。上記の方法に関して、本願明細書の実施例において示されるように、好ましくは、主要種抗体と酸性の変異体は基本的に同じ薬物動態を有する。
別の態様において、本発明は、医薬品組成物を作る方法であって:(1)HER2のドメインIIと結合する主要種HER2抗体、及び糖化変異体、ジスルフィド変異体又は非還元性変異体を含むその酸性の変異体を含んでなる組成物を調製すること、及び(2)組成物中の酸性の変異体を評価し、その量が約25%未満であることを確認することを含む方法に関する。一実施態様において、酸性の変異体は、組成物がシアリダーゼで処理されるイオン交換クロマトグラフィー、ドデシル硫酸ナトリウムによる還元キャピラリー電気泳動(CE−SDS)、非還元CE−SDS、ボロン酸クロマトグラフィー、及びペプチドマッピングから成る群から選択される方法によって評価される。
【0012】
好ましい実施態様の詳細な記載
I. 定義
本明細書において、「主要種の抗体」なる用語は、組成物内に量的に主に存在する抗体分子である組成物の抗体構造を指す。好ましくは主要種の抗体はHER2抗体であり、それはHER2のドメインIIと結合する抗体であり、トラスツズマブより効果的にHER二量体化を阻害する抗体及び/又はHER2のヘテロ二量体結合部位と結合する抗体である。主な種類の抗体の本明細書において、好適な実施態様は、配列番号3及び4の可変軽鎖及び可変重鎖のアミノ酸配列を含有してなるもの、最も好ましくは配列番号15及び16の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列を含有してなるもの(パーツズマブ)である。
本明細書において、「アミノ酸配列変異形」抗体は、主要種の抗体と異なるアミノ酸配列を有する抗体である。通常、アミノ酸配列変異体は、主要種の抗体と少なくともおよそ70%の相同性を有し、好ましくは、それらは主要種の抗体と少なくともおよそ80%、好ましくは少なくともおよそ90%の相同性である。アミノ酸配列変異体は、主要種の抗体のアミノ酸配列内の、又は主な種類の抗体のアミノ酸配列に隣接した、特定の位置で置換、欠失及び/又は付加を有する。本明細書中のアミノ酸配列変異体の例には、酸性の変異体(例えば脱アミド化された抗体変異体)、基本的な変異体、抗体の1又は2つの軽鎖上にアミノ末端リーダー伸展(例えばVHS−)を有する抗体、抗体の1又は2つの重鎖上にC末端リジン残基を有する抗体などが含まれ、重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列に対する変異体の組合せが含まれる。
【0013】
「酸性の変異体」は主要種の抗体の変異体であって、主要種の抗体よりも、より酸性である。酸性の変異体は、主要種の抗体に比較して、負の荷電を得ているか、又は正の荷電を失っている。当該酸性の変異体は、荷電に従ってタンパク質を分離する、イオン交換クロマトグラフィーの様な分離方法を使用して分解される。主要種の抗体の酸性の変異体は、カチオン交換クロマトグラフィーによる分離では、主要ピークよりも早く溶出する。
「ジスルフィド還元化変異体」は、遊離チオール形態に化学的に還元されたもう一つのジスルフィド結合されたシステインを有する。例えば実施例1に記載のように、この変異体は、疎水性相互作用クロマトグラフィーによって又はドデシル硫酸ナトリウムとのキャピラリー電気泳動(CE−SDS)のようなサイジング方法によって監視することができる。本願明細書において、「非還元性変異体」は、ジチオスレイトールのような還元剤によって処理することによって、重鎖及び掲載に化学的に還元することが出来ない主要種の抗体の変異体である。当該変異体は、還元剤によって組成物を処理することによって評価され、結果として生じた組成物は、ドデシル硫酸ナトリウムによるキャピラリー泳動(CE−SDS)のようなタンパク質サイズを評価する方法を使用して(例えば、下記の実施例1に記載の技術を使用して)評価される。
本明細書中の「グリコシル化変異形」抗体は、主要種の抗体に付着した一又は複数の炭水化物部分と異なる一又は複数の接着した炭水化物部分を有する抗体である。本明細書において、グリコシル化変異体の例には、抗体のFc領域に付着した、G0オリゴ糖構造の代わりに、G1又はG2オリゴ糖構造を有する抗体、抗体の1又は2つの軽鎖に接着した1又は2の炭水化物部分を有する抗体、抗体の1又は2つの重鎖に接着する炭水化物のない抗体、シアル化された(syalidated)抗体など、及びグリコシル化変更の組合せを有する抗体が含まれる。
抗体がFc領域を有する場合、本明細書中の図14に示すオリゴ糖構造は、例えば残基299で、抗体の1又は2つの重鎖に接着してもよい。パーツズマブでは、G0は主要なオリゴ糖構造であり、例えばG0-F、G-1、Man5、Man6、G1-1、G1(1-6)、G1(1-3)及びG2のような他のオリゴ糖構造はパーツズマブ組成物中に少量見られる。
特に明記しない限り、本明細書中の「G1オリゴ糖構造」にはG1(1-6)及びG1(1-3)の構造が含まれる。
【0014】
本願明細書の目的のために、「シアル化変異体」は、その1又は2の重鎖に取り付けられた1又は複数のシアル化炭化水素部分を含む主要種抗体の変異体である。シアル酸付加変異体は、例えば実施例に説明するように、シアリダーゼ処理の有無にかかわらず組成物を、(例えばイオン交換クロマトグラフィーによって)評価することによって同定することができる。
「糖化変異体」は、グルコースのような糖に共有結合で取り付けられた抗体である。この付加は、タンパク質のリジン残基とグルコースの反応によって、(例えば、細胞培養培地において)生じうる。糖化変異体は、重鎖又は軽鎖の質量の増加を評価する、還元化抗体の質量分析解析によって同定することができる。また、糖化変異体は、実施例1で述べたように、ボロン酸クロマトグラフィーで定量化することができる。糖化変異体は、グリコシル化変異体とは異なる。
「脱アミド化」抗体は、1又は複数のそのアスパラギン残基が、例えばアスパラギン酸、スクシンイミドまたはイソ−アスパラギン酸に誘導体化されたものである。脱アミド化抗体の例は、パーツズマブの1又は2の重鎖上のAsn386および/またはAsn391が脱アミド化されたパーツズマブ変異体である。
本願明細書において「アミノ末端リーダー伸長変異体」は、主要種抗体の1又は複数の重鎖又は軽鎖の何れかのアミノ末端に、アミノ末端リーダー配列の1又は複数のアミノ酸残基を有する主要な種抗体を指す。典型的なアミノ末端リーダー伸長は3つのアミノ酸残基、VHS、を含むか又はそれから成り、抗体変異体の一方または両方の軽鎖に存在する。
【0015】
「相同性」は、最大パーセント相同性を得るために、配列を整列し、必要ならギャップを導入した後に同一となったアミノ酸配列変異体の残基のパーセンテージとして定義される。アライメントの方法とコンピュータプログラムは、公知技術である。ジェネンテック社によって書かれた、上記のコンピュータプログラム「Align2」は、1991年12月10日に、米国著作権局(ワシントン、DC20559)のユーザー文書とともに提出されている。
本願明細書の目的で、「カチオン交換分析」は、2以上の化合物を含む組成物をカチオン交換体を使用して荷電の違いに基づいて分離する任意の方法を指す。カチオン交換体は、一般に、共有結合の、負に荷電した基を備えている。好ましくは、本願明細書でカチオン交換体は、Dionexによって販売されているPROPAC WCX−10TMカチオン交換カラムのような、弱いカチオン交換体であって、および/またはカルボン酸エステル官能基を含む。
【0016】
「HERレセプター」は、HERレセプターファミリーに属するレセプタープロテインキナーゼであり、EGRF、HER2、HER3及びHER4レセプターを含む。HERレセプターは一般に、HERリガンドと結合する、及び/又は他のHERレセプター分子と二量体化する細胞外ドメイン;親油性膜貫通ドメイン;保存された細胞内チロシンキナーゼドメイン;及びリン酸化されうるいくつかのチロシンキナーゼ残基を抱合するカルボキシル末端シグナル伝達ドメインを含んでなりうる。好ましくは、HERレセプターは天然配列ヒトHERレセプターである。
HER2の細胞外ドメインは、4つのドメイン:「ドメインI」(およそ1−195のアミノ酸残基、配列番号:19)、「ドメインII」(およそ196−319のアミノ酸残基、配列番号:20)、「ドメインIII」(およそ320−488のアミノ酸残基:配列番号:21)及び「ドメインIV」(およそ489−630のアミノ酸残基、配列番号:22)(シグナルペプチドを含まない残基番号付け)を含む。Garrett 等 Mol. Cell.. 11: 495-505 (2003)、Cho 等 Nature 421: 756-760 (2003)、Franklin 等 Cancer Cell 5:317-328 (2004)、及びPlowman 等 Proc. Natl. Acad. Sci. 90: 1746-1750 (1993)並びに本明細書中の図1を参照のこと。
【0017】
「ErbB1」、「HER1」「上皮成長因子レセプター」、及び「EGFR」という用語は、ここで、互換的に使用され、Carpenter等, Ann. Rev. Biochem. 56:881-914(1987)に開示されているようなEGFRに相当し、その自然発生突然変異体(例えば、Humphrey等, PNAS(USA) 87:4207-4211(1990)に記載されているような欠失変異体EGFR)を含む。erbB1は、EGFRタンパク質産物をコードする遺伝子に相当する。
「ErbB2」及び「HER2」なる表記は、ここで互換的に使用され、例えばSemba等, PNAS(USA)82:6497-6501(1985)及びYamamoto等, Nature 319:230-234(1986)(Genebank受託番号 X03363)に記載されているヒトHER2タンパク質に相当する。「erbB2」という用語は、ヒトErbB2をコードする遺伝子に相当し、「neu」はラットp185neuをコードする遺伝子に相当する。好ましくは、HER2は天然配列ヒトHER2である。
「ErbB3」及び「HER3」は、例えば、米国特許第5,183,884号及び第5,480,968号、並びにKraus等, PNAS(USA) 86: 9193-9197(1989)に開示されたレセプターポリペプチドに相当する。
ここでの用語「ErbB4」及び「HER4」は、例えば、欧州特許出願第599,274号;Plowman等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 1746-1750(1993);及びPlowman等, Nature 366: 473-475(1993)に開示されたレセプターポリペプチドに相当し、例えば1999年4月22日公開の国際公報99/19488に開示されているような、そのアイソフォームを含む。
【0018】
「HERリガンド」とは、HERレセプターに結合する及び/又は活性化するポリペプチドを意味する。ここで特に対象とするHERリガンドは、例えば上皮細胞成長因子(EGF)(Savage等, J. Biol. Chem. 247: 7612-76721(1972));トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)(Marquardt等, Science 223: 1079-1082 (1984));シュワン細胞腫由来成長因子又はケラチノサイト自己分泌成長因子としても知られているアンフィレグリン(Shoyab等, Science 243:1074-1076(1989);Kimura等, Nature 348:257-260(1990);及びCook等, Mol. Cell. Biol. 11:2547-2557(1991));ベーターセルリン(Shing等, Science 259:1604-1607(1993);及びSasada等, Biochem. Biophys. Res. Commun. 190:1173(1993));ヘパリン結合上皮細胞成長因子(HB-EGF)(Higashiyama等, Science 251:936-939(1991));エピレグリン(Toyoda等, J. Biol. Chem. 270: 7495-7500(1995);及びKomurasaki等, Oncogene 15:2841-2848(1997));ヘレグリン(以下参照);ニューレグリン-2(NRG-2)(Carraway等, Nature 387: 512-516(1997));ニューレグリン-3(NRG-3)(Zhang等, Proc. Natl. Acad. Sci. 94: 9562-9567(1997));及びニューレグリン-4(NRG-4)(Harariら Oncogene 18:2681-89(1999))又はクリプト(CR-1)(Kannan等 J. Biol. Chem. 272(6):3330-3335(1997))のような天然配列ヒトHERリガンドである。EGFRに結合するHERリガンドは、EGF、TGF-α、アンフィレグリン、ベータセルリン、HB-EGF及びエピレグリンを含む。HER3に結合するHERリガンドは、ヘレグリンを含む。HER4に結合する能力のあるHERリガンドはベータセルリン、エピレグリン、HB-EGF、NRG-2、NRG-3、NRG-4及びヘレグリンを含む。
【0019】
ここで使用される「ヘレグリン」(HRG)は、米国特許第5,641,869号又はMarchionniら, Nature, 362:312-318(1993)に開示されているようなヘレグリン遺伝子産物にコードされるポリペプチドに相当する。ヘレグリンの例は、ヘレグリン-α、ヘレグリン-β1、ヘレグリン-β2、及びヘレグリン-β3(Holmes等, Science, 256:1205-1210(1992);米国特許第5,641,869号);neu分化因子(NDF)(Peles等, Cell 69:205-216(1992));アセチルコリンレセプター誘発活性(ARIA)(Falls等, Cell, 72:801-815(1993));グリア成長因子(GGF)(Marchionni等, Nature, 362:312-318(1993));感覚及び運動神経由来因子(SMDF)(Ho等, J. Biol. Chem. 270:14523-14532(1995));γ-ヘレグリン(Schaefer等, Oncogene 15:1385-1394(1997))含む。該用語は、生物学的に活性な断片及び/又は天然配列HRGポリペプチドのアミノ酸配列変異体、例えばそのEGF様ドメイン断片(例えば、HRGβ1177−244)を含む。
【0020】
本明細書中の「HER二量体」は、少なくとも2つのHERレセプターを含んでなる非共有結合的に結合する二量体である。このような複合体は、2以上のHERレセプターを発現する細胞がHERリガンドに曝される場合に形成され、免疫沈降によって、単離することができ、例えば、Sliwkowski 等, J. Biol. Chem., 269(20): 14661-14665 (1994)に記載のように、SDS-PAGEにより分析されうる。このようなHER二量体の例には、EGFR-HER2、HER2-HER3及びHER3-HER4ヘテロ二量体などがある。さらに、HER二量体は、異なるHERレセプター、例えばHER3、HER4又はEGFRと結合した2以上のHER2レセプターを含みうる。サイトカインレセプターサブユニット(例えばgp130)などの他のタンパク質は、前記の二量体と結合しうる。
HER2上の「ヘテロ二量体結合部位」は、二量体の形成の際にEGFR、HER3又はHER4の細胞外ドメインの領域と接触する又は作用するHER2の細胞外ドメインの領域を指す。領域は、HER2のドメインIIにみられる。Franklin 等 Cancer Cell 5:317-328 (2004)。
「HER活性化」又は「HER2活性化」は、何れか一又は複数のHERレセプター、又はHER2レセプターの活性化又はリン酸化を指す。通常、HER活性化により、シグナル伝達が生じる(例えば、HERレセプター又は基質ポリペプチドのチロシン残基をリン酸化するHERレセプターの細胞内キナーゼドメインによって、生じる)。HER活性化は、対象のHERレセプターを含んでなるHER二量体に、HERリガンドが結合することにより媒介されうる。HER二量体へのHERリガンドの結合により、二量体のHERレセプターの一又は複数のキナーゼドメインが活性化され、このことにより一又は複数のHERレセプターのチロシン残基のリン酸化、及び/又は更なる基質ポリペプチド(一又は複数)、例えばAkt又はMAPK細胞内キナーゼのチロシン残基のリン酸化が生じる。
【0021】
ここでの「抗体」という用語は最も広義に使用され、特に完全なモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの完全な抗体から形成された多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片も含む。
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、一般的に微量に存在する変異体など、モノクローナル抗体の産生の際に生じうる突然変異体を除いて同一である、及び/又は同じエピトープに結合する抗体を指す。 異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含むポリクローナル調製物と比べて、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、他の免疫グロブリンと典型的には混入していない点で有利である。「モノクローナル」との修飾詞は、実質的に均一な抗体集団から得られているという抗体の特徴を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明において使用されるモノクローナル抗体は、様々な技術、例えば、Kohler 等, Nature, 256:495 (1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法、又は組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号参照)によって作製されうる。更に「モノクローナル抗体」は、例えばClackson et al., Nature, 352:624-628 (1991) 及びMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)によって記載されている技術を使用してファージ抗体ライブラリーから単離されうる。
ここで、モノクローナル抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種由来の抗体あるいは特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか相同であり、鎖の残りの部分が他の種由来の抗体あるいは他の抗体クラスあるいはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか相同である「キメラ」抗体、並びにそれが所望の生物的活性を有する限りそれら抗体の断片を特に含む(米国特許第4,816,567号;Morrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855(1984))。ここで対象とするキメラ抗体は、非ヒト(例えばオナガザル、サルなど)及びヒト定常領域配列から誘導される可変ドメイン抗原結合配列を含んでなる「霊長類化」抗体を含む。
「抗体断片」は、完全な抗体の一部、好ましくはその抗原結合又は可変領域が含んでなる。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')及びFv断片;ダイアボディー(diabodies);直鎖状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0022】
「完全な抗体」は、抗原結合可変領域、並びに軽鎖定常ドメイン(C)及び重鎖定常ドメイン、C1、C2及びC3を含んでなるものである。定常ドメインは天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体でありうる。好ましくは、完全な抗体は一又は複数のエフェクター機能を有し、1又は2のその重鎖に付加されたオリゴ糖行動を含む。
抗体「エフェクター機能」は抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に帰因するこれらの生物学的活性に関する。抗体エフェクター機能の例は、Clq結合;補体依存性細胞障害活性;Fcレセプター結合;抗体依存性細胞媒介細胞障害活性(ADCC);食作用;細胞表面レセプターのダウンレギュレーション(B細胞レセプター;BCR)、等を含む。
「Fc領域」なる用語は、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化するかも知れないが、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226の位置又はPro230からの位置のアミノ酸残基からそのカルボキシル末端まで伸長すると定義される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによれば残基447)は、例えば、抗体の産生又は精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組み換え遺伝子操作することによって取り除かれてもよい。したがって、インタクト抗体の組成物は、すべてのK447残基が除去された抗体群、K447残基が除去されていない抗体群、及びK447残基を有する抗体と有さない抗体の混合を含む抗体群を含みうる。
本明細書で特に明記しない限りは、免疫グロブリン重鎖の定常ドメイン中の残基の番号付けは、ここに出典を明示して取り込まれるKabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)のEUインデックスのものである。「KabatのEUインデックス」とはヒトIgG1EU抗体の残基番号付けを意味する。
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、抗体は異なるクラスに分類される。インタクト抗体には5つの主なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、更にそれらは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2等のサブクラス(アイソタイプ)に分かれうる。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配位はよく知られている。
「抗体依存性細胞媒介細胞障害活性」及び「ADCC」は、Fcレセプター(FcR)(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)を発現する非特異性細胞障害性細胞が標的細胞上の結合した抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす、細胞媒介反応に関する。ADCCを媒介する第1の細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するのに対し、単球はFcγI、FcγII及びFcγIIIを発現する。造血細胞上のFcR発現はRavetch及びKinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92(1991)の464ページの表3に要約されている。対象とする分子のADCC活性を評価するために、例えば米国特許第5,500,362号又は5,821,337号に記載されているようなインビトロADCCアッセイが実施されうる。このアッセイで使用できるエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。他に、又はさらに対象とする分子のADCC活性は、例えばClynes等PNAS(USA)95:652-656(1998)に記載されている様な哺乳動物のモデルでインビボの評価がされうる。
【0023】
「ヒトエフェクター細胞」は、一つ以上のFcRを発現する白血球であり、エフェクター機能を果たす。好ましくは、細胞は、少なくともFCγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を果たす。ADCCを媒介するヒト白血球の例は、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞及び好中球を含む;PBMC類及びNK細胞が好まれる。エフェクター細胞は、その天然ソースより単離されてもよい;例えばここにおいて記載の血液又はPBMC類である。
「Fcレセプター」又は「FcR」という用語は、抗体のFc領域に結合するレセプターを記述するために使用される。好適なFcRは、天然配列ヒトFcRである。さらに好適なFcRは、IgG抗体(γレセプター)に結合し、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスのレセプターを含むものであり、これらのレセプターの対立遺伝子変異体及び選択的スプライシング型を含む。FcγRIIレセプターは、FcγRIIA(「活性化レセプター」)及びFcγRIIB(「阻害レセプター」)を含み、それらは、主としてその細胞質ドメインにおいて異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化FcγRIIAは、その細胞質ドメインに、免疫レセプターチロシン−ベース活性化モチーフ(ITAM)を有する。阻害レセプターFcγRIIBは、その細胞質ドメインに、免疫レセプターチロシン−ベース活性化モチーフ(ITIM)を有する(Daeron, Annu. Rev. Immunol., 15:203-234(1997)に概説されている)。FcRはRavetch及びKinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel等, Immunomethods 4:25-34 (1994);及びde Has等, J. Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995)において概説されている。将来同定されるものも含む他のFcRが、ここにおける「FcR」なる用語によって包含される。また、この用語は胎児への母性IgGsの移動の原因であり(Guyer等, J. Immumol. 117:587 (1976)及びKim等, J. Immunol. 24:249 (1994))、また免疫グロブリンのホメオスタシスを調節する新生児レセプターであるFcRnも含む。
【0024】
「補体依存性細胞障害活性」又は「CDC」は、補体の存在下で目的物を溶解させる分子の能力に関する。補体活性化経路は、同系の抗原と複合体形成する分子(例えば、抗体)への補体系の第1の成分(Clq)の結合により開始される。補体活性化を評価するために、例えばGazzano-Santoro等, J.Immunol. Methods 202:163(1996)に記載されているようなCDCアッセイが実施されうる。
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の中で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド結合を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(V)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を、他端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。
【0025】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖及び重鎖の可変ドメインの両方の高頻度可変領域と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を結合し、ある場合にはその一部を形成するループ結合を形成する、3つの高頻度可変領域により連結されたβシート配置を主にとる4つのFRをそれぞれ含んでいる。各鎖の高頻度可変領域は、FRによって近接して結合され、他の鎖の高頻度可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat等, Sequence of Proteins ofImmunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, BEthesda, MD. (1991))。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、種々のエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞障害活性(ADCC)への抗体の関与を示す。
【0026】
ここで使用される場合、「高頻度可変領域」なる用語は、抗原結合性を生じる抗体のアミノ酸残基を意味する。高頻度可変領域は「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基24−34(L1)、50−56(L2)及び89−97(L3)及び重鎖可変ドメインの31−35(H1)、50−65(H2)及び95−102(H3);Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest,5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991))又は「高頻度可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの残基26−32(L1)、50−52(L2)及び91−96(L3)及び重鎖可変ドメインの残基26−32(H1)、53−55(H2)及び96−101(H3);Chothia及びLesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))を含んでなる。「フレームワーク」又は「FR」残基はここに定義した高頻度可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、その各々は単一の抗原結合部位を持ち、残りは容易に結晶化する能力を反映して「Fc」断片と命名される。ペプシン処理はF(ab')断片を生じ、それは2つの抗原結合部位を持ち、抗原を交差結合することができる。
【0027】
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含む最小抗体断片である。この領域は、堅固な非共有結合をなした一つの重鎖及び一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。この配置において、各可変ドメインの3つの高頻度可変領域は相互に作用してV-V二量体表面に抗原結合部位を形成する。集合的に、6つの高頻度可変領域が抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に対して特異的な3つの高頻度可変領域のみを含むFvの半分)でさえ、全結合部位よりも親和性が低くなるが、抗原を認識して結合する能力を有している。
またFab断片は、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一定常領域(CH1)を有する。Fab'断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端に数個の残基が付加している点でFab断片とは異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を担持しているFab'に対するここでの命名である。F(ab')抗体断片は、間にヒンジシステインを有するFab'断片の対として生産された。抗体断片の他の化学結合も知られている。
【0028】
任意の脊椎動物種からの抗体の「軽鎖」には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確に区別される型の一つが割り当てられる。
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のV及びVドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、FvポリペプチドはV及びVドメイン間にポリペプチドリンカーを更に含み、それはscFvが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にする。scFvの概説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)のPluckthunを参照のこと。HER2抗体scFv断片は国際公報93/16185;米国特許第5,571,894号;及び米国特許第5,587,458号に記載されている。
「ダイアボディ」なる用語は、二つの抗原結合部位を持つ小さい抗体断片を指し、その断片は同一のポリペプチド鎖(V−V)内で軽鎖可変ドメイン(V)に重鎖可変ドメイン(V)が結合してなる。非常に短いために同一鎖上で二つのドメインの対形成を可能にするリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、二つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディーは、例えば、欧州特許第404,097号;国際公開公報93/11161;及びHollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA 90:6444-6448 (1993)に更に詳細に記載されている。
【0029】
非ヒト(例えば齧歯動物)抗体の「ヒト化」形とは、非非と免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。大部分においてヒト化抗体はレシピエントの高頻度可変領域の残基が、マウス、ラット又はウサギのような所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域残基(FR)は、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体に、又はドナー抗体に見出されない残基を含んでもよい。これらの修飾は抗体の特性を更に洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいはほとんど全ての高頻度可変領域が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいはほとんど全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体はまた、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒトの免疫グロブリンのものを含んでなる。さらなる詳細は、Jones等, Nature 321, 522-525(1986);Reichman等, Nature 332, 323-329(1988)及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol., 2: 593-596(1992)を参照。
【0030】
ヒト化HER2抗体は、出展明示によりここに取り込まれる米国特許第5,821,337号の表3に記載されているようなhuMAb4D5-1、huMAb4D5-2、huMAb4D5-3、huMAb4D5-4、huMAb4D5-5、huMAb4D5-6、huMAb4D5-7及びhuMAb4D5-8又はトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標));ヒト化520C9(国際公報93/21319);及び本明細書中に記載されるようなヒト化2C4抗体を含む。
本明細書において、「トラスツズマブ」、「ハーセプチン(登録商標)」及び「huMAb4D5-8」は、それぞれ配列番号13及び14の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列を含んでなる抗体を指す。
本明細書において、「パーツズマブ」及び「rhuMAb 2C4」は、それぞれ配列番号3及び4の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列を含んでなる抗体を指す。ここでパーツズマブは完全な抗体であり、好ましくはそれぞれ配列番号15及び16の軽鎖及び重鎖アミノ酸配列を含む。
「裸の抗体」は、(ここでの定義では)異種性の分子、例えば細胞障害性成分又は放射標識にコンジュゲートされない抗体である。
「単離された」抗体とは、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものを意味する。その自然環境の汚染成分とは、抗体の診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及びタンパク質様又は他の非タンパク質様溶質が含まれる。好ましい実施態様において、抗体は、(1) ローリー(Lowry)法によって決定した場合95重量%以上の、最も好ましくは99重量%の抗体まで、(2)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端あるいは内部アミノ酸配列の残基を得るのに充分な程度まで、あるいは(3)クーマシーブルーあるいは好ましくは銀染色を用いた還元又は非還元条件下でのSDS-PAGEによる均一性まで精製される。単離された抗体には、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれるが、これは抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないからである。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製工程により調製される。
【0031】
「トラスツズマブより効果的にHER二量体化を阻害する」HER2抗体は、トラスツズマブより効果的に(例えば少なくともおよそ2倍効果的に) HER二量体を減弱又は除去する抗体である。好ましくは、このような抗体は、少なくともおよそ、完全なマウスモノクローナル抗体2C4、マウスモノクローナル抗体2C4のFab断片、パーツズマブ及びパーツズマブのFab断片からなる群から選択される抗体と同じくらい効果的にHER2二量体化を阻害する。HER二量体を直接調べることによって、又はHER二量体化の結果生じる下流のシグナル伝達、又はHER活性化を評価することによって、及び/又は、抗体-HER2結合部位を評価するなどによって、HER二量体化阻害を評価できる。トラスツズマブより効果的にHER二量体化を阻害する能力を有する抗体についてのスクリーニングのアッセイは、Agus 等 Cancer Cell 2: 127-137 (2002)及び国際公開公報01/00245(Adams 等)に記述される。例えば、HER二量体形成の阻害(例としてAgus 等 Cancer Cell 2: 127-137 (2002)の図1A-B、及び、国際公開公報01/00245を参照)、HER二量体を発現する細胞のHERリガンド活性の減少(例えば、国際公開公報01/00245及びAgus 等 Cancer Cell 2: 127-137 (2002)の図2A-B)、HER二量体を発現する細胞へのHERリガンド結合のブロッキング(例えば、国際公開公報01/00245、及びAgus 等 Cancer Cell 2: 127-137 (2002)の図2E)、HERリガンドの存在(又は不在)下でのHER二量体を発現する癌細胞(例えばMCF7、MDA-MD-134、ZR-75-1、MD-MB-175、T-47D細胞)の細胞成長阻害(例えば、国際公開公報01/00245及びAgus 等 Cancer Cell 2: 127-137 (2002)の図3A-D)、下流のシグナル伝達の阻害(例えば、HRG依存性AKTリン酸化の阻害又はHRG-又はTGFα-依存性MAPKリン酸化の阻害)(例えば、国際公開公報01/00245、及びAgus 等 Cancer Cell 2: 127-137 (2002)の図2C-D)を評価することによって、HER二量体化の阻害についてアッセイしうる。また、抗体-HER2結合部位を調べる、例えばHER2に結合した抗体の構造又はモデル、例えば結晶構造を評価することによって、抗体がHER二量体化を阻害するかどうかを評価してもよい (例えば、Franklin 等 Cancer Cell 5:317-328 (2004)を参照)。
HER2抗体は、トラスツズマブより効果的に(例えば少なくとも2倍効果的に)「HRG-依存性AKTリン酸化を抑制」及び/又は「HRG-又はTGFα-依存性MAPKリン酸化」を抑制しうる(例えば、Agus 等 Cancer Cell 2: 127-137 (2002)及び国際公開公報01/00245を参照)。
【0032】
HER2抗体は、HER2外部ドメイン切断を阻害しないものでありうる(Molina 等 Cancer Res. 61: 4744-4749(2001))。
HER2の「ヘテロ二量体結合部位に結合する」HER2抗体はドメインIIの残基に結合し(そして、場合によって、また、HER2細胞外ドメインの他のドメイン、例えばドメインI及びIIIの残基とも結合する)、HER2-EGFR、HER2-HER3又はHER2-HER4ヘテロ二量体の形成を、少なくともある程度は、立体的に妨げることができる。Franklin 等 Cancer Cell 5:317-328 (2004)はHER2-パーツズマブ結晶構造の特徴を表しており、RCSBタンパク質データバンク(IDコード IS78)に寄託され、HER2のヘテロ二量体結合部位と結合する例示的な抗体を例示する。
HER2の「ドメインIIに結合する」抗体は、HER2のドメインIIの残基及び場合によってはHER2の他のドメイン、例えばドメインI及びIIIの残基に結合する。
【0033】
ここで使用される場合の「成長阻害剤」とは、インビトロ又はインビボのいずれかにおいて、細胞、特にHER発現癌細胞の成長を阻害する化合物又は組成物を指すものである。よって、成長阻害剤とは、S期におけるHER発現細胞のパーセンテージを有意に低減させるものである。成長阻害剤の例には、細胞周期の進行を阻害する薬剤(S期以外のところで)、例えばG1停止及びM期停止を誘発する薬剤が含まれる。伝統的なM期ブロッカーには、ビンカ(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン、及びトポIIインヒビター、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンが含まれる。またG1を停止させるこれらの薬剤、例えばDNAアルキル化剤、例えばタモキシフェン、プレドニソン、ダカーバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、及びara-CがS期停止に溢流する。更なる情報は、Murakamiらにより「細胞分裂周期の調節、癌遺伝子、及び抗新生物薬(Cell cycle regulation, oncogene, and antineoplastic drugs)」と題された、癌の分子的基礎(The Molecular Basis of Cancer)、Mendelsohn及びIsrael編、第1章(WB Saunders;Philadelphia, 1995)、特に13頁に見出すことができる。
「成長阻害」抗体の例は、HER2に結合して、HER2を過剰発現する癌細胞の成長を抑制するものである。好ましい成長阻害HER2抗体は、成長阻害がSK-BR-3細胞の抗体への暴露から6日後に決定される場合に、抗体濃度約0.5から30μg/mlで20%よりも大きく、好ましくは50%よりも大きく(例えば約50%から100%)細胞培養物のSK-BR-3乳癌細胞の成長を阻害する(1997年10月14日公開の米国特許第5,677,171号参照)。SK-BR-3細胞成長阻害アッセイは、該特許及び以下に更に詳しく記載される。好ましい成長阻害抗体は、マウスモノクローナル抗体4D5のヒト化変異体、例えばトラスツズマブである。
「アポトーシスを誘発」する抗体は、アネキシンVの結合、DNAの断片化、細胞収縮、小胞体の拡張、細胞断片化、及び/又は膜小胞の形成(アポトーシス体と呼ばれる)により決定されるようなプログラム細胞死を誘発するものである。細胞は、通常HER2レセプターを過剰発現するものである。好ましくは細胞は、腫瘍細胞、例えば乳房、卵巣、胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、大腸、甲状腺、膵臓又は膀胱細胞である。インビトロでは、細胞はSK-BR-3、BT474、Calu3細胞、MDA-MB-453、MDA-MB-361又はSKOV3細胞でありうる。アポトーシスに伴う細胞のイベントを評価するために種々の方法が利用できる。例えば、ホスファチジルセリン(PS)転位置をアネキシン結合により測定することができ;DNA断片化はDNAラダーリングにより評価することができ;DNA断片化に伴う細胞核/染色質凝結は低二倍体細胞の何らかの増加により評価することができる。好ましくは、BT474細胞を使用するアネキシン結合アッセイにおいて、アポトーシスを誘発する抗体は、未処理細胞の約2〜50倍、好ましくは約5〜50倍、最も好ましくは約10〜50倍のアネキシン結合を誘発するという結果を生じるものである(下記参照)。アポトーシスを誘導するHER2抗体の例は7C2及び7F3である。
【0034】
「エピトープ2C4」は抗体2C4が結合するHER2の細胞外ドメイン中の領域である。2C4エピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、例えばAntibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow及びDavid Lane編(1988)に記載の通常の交差ブロッキングアッセイを行うことができる。あるいは、抗体がHER2の2C4エピトープに結合するか否かを評価するために、公知の方法を使用してエピトープマッピングを行うこと及び/又は抗体HER2構造の研究(Franklin et al. Cancer Cell 5:317-328 (2004)) を研究することができる。エピトープ2C4はHER2の細胞外ドメインのドメインII由来の残基を有する。2C4及びパーツズマブはドメインI、II及びIIIの結合部のHER2の細胞外ドメインに結合する。Franklin 等 Cancer Cell 5:317-328 (2004)。
「エピトープ4D5」は、抗体4D5(ATCC CRL 10463)及びトラスツズマブが結合するHER2の細胞外ドメイン中の領域である。このエピトープはHER2の膜貫通領域に近接しているか、及びHER2のドメインIV内にある。4D5エピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、例えばAntibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow及びDavid Lane編(1988)に記載の通常の交差ブロッキングアッセイを行うことができる。あるいは、抗体がHER2の4D5エピトープに結合するか否かを評価するために、エピトープマッピングを行うこともできる(例えば、図1を含む、約残基529から約残基625までを含む領域における任意の一又は複数の残基)。
「エピトープ7C2/7F3」は7C2及び/又は7F3抗体(各々以下のATCCで寄託)が結合するHER2の細胞外ドメインのドメインI内のN末端領域である。7C2/7F3エピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、例えばAntibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow及びDavid Lane編(1988)に記載の通常の交差ブロッキングアッセイを行うことができる。あるいは、抗体がHER2の7C2/7F3エピトープに結合するか否かを確認するために、エピトープマッピングを行うこともできる(例えば、シグナルペプチドを含めて残基番号付けした、図1のHER2の約残基22から約残基53までの領域における任意の一又は複数の残基)。
【0035】
「治療」とは、治療的処置及び予防又は防止手段の両方を意味する。治療の必要があるものには、既に羅患しているもの、並びに疾患が予防されるべきものが含まれる。したがって、ここでの治療されるべき哺乳動物は、疾患を有すると診断されてもよく、又は疾患に罹りやすい又は敏感であると診断されていてもよい。
「癌」及び「癌性の」なる用語は、一般的に制御不能な細胞成長に特徴がある哺乳動物の生理学的状態を指すか又は記述する。癌の例には、限定するものではないが、上皮癌、リンパ腫、芽細胞腫(髄芽細胞腫及び網膜芽細胞腫を含む)、肉腫(脂肪肉腫及び滑液細胞肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ及び膵島細胞癌を含む)、中皮腫、シュワン細胞腫(聴神経腫を含む)、髄膜腫、腺癌、メラノーマ及び白血病ないしリンパ系の悪性腫瘍が含まれる。このような癌のより具体的な例には、扁平細胞癌(例えば上皮扁平細胞癌)、肺癌、例えば小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌、腹膜の癌、肝細胞性の癌、胃癌、例えば胃腸癌、膵癌、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝腫瘍、乳癌、大腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜ないし子宮上皮癌、唾液腺上皮癌、腎臓癌ないし腎癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝癌、肛門の上皮癌、陰茎上皮癌、精巣癌、食道癌、胆道の腫瘍、並びに頭頸部癌が含まれる。
【0036】
「有効量」なる用語は、患者の癌を治療するために効果的な薬剤の量を意味する。有効量の薬剤により、癌細胞の数が減少する;腫瘍の大きさが小さくなる;周辺臓器への癌細胞の浸潤が抑制される(つまり、ある程度ゆっくりになるか止まるのが好ましい);腫瘍の転移が抑制される(つまり、ある程度ゆっくりになるか止まるのが好ましい);ある程度腫瘍の成長が抑制される;及び/又は癌関連の症状の一又は複数がある程度軽減される。薬剤が存在する癌細胞の成長を阻害するか及び/又は癌細胞を殺すという意味において、細胞増殖抑制性及び/又は細胞障害性であるといえる。有効量により、進行のない生存期間が延長し、奏効し(一部寛解(PR)又は完全寛解(CR))、全体の生存期間が増加し、及び/又は癌の一又は複数の症状が改善しうる。
「HER2陽性癌」は細胞表面上に提示されたHER2タンパク質を有する細胞を含むものである。
【0037】
HERレセプターを「過剰発現する」癌は、同じ組織種類の非癌細胞と比較して、HER2のようなHERレセプターのレベルが有意に高いものである。このような過剰発現は、遺伝子増幅によって、又は、増大した転写ないし翻訳によって、生じうる。HERレセプター過剰発現は、(例えば免疫組織化学アッセイ、IHCによって)細胞の表面に存在するHERタンパク質のレベルの増加を評価することによって、診断アッセイ又は予後予測アッセイにおいて、決定されうる。あるいは又は加えて、例えば蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH、1998年10月に公開の国際公開公報98/45479を参照)、サザンブロッティング、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、例えば定量的リアルタイムPCR(RT-PCR)によって、細胞内のHERコード化核酸のレベルを測定してもよい。また、体液、例えば血清の脱落抗原(例えばHER細胞外ドメイン)を測定することによって、HERレセプター過剰発現ないし増幅を調べてもよい(例えば、1990年6月12日発行の米国特許第4,933,294号、1991年4月18日公開の国際公開公報91/05264、1995年3月28日発行の米国特許第5,401,638号、及びSias 等 J. Immunol. Methods 132: 73-80 (1990))。上記のアッセイを除き、技術者にとって様々なインビボアッセイが利用できる。例えば、場合によって、検出可能な標識、例えば放射性同位体にて標識した抗体に患者の体内の細胞を曝し、例えば放射能の外的スキャンによって、又は、前もって抗体に曝される患者から採取した生検を分析することによって、患者の細胞に対する抗体の結合を評価してもよい。
それに対して、「HER2レセプターを過剰発現しない」癌は、同じ組織種類の非癌性細胞と比較してHER2レセプターの正常レベルよりも高い発現をしないものである。
【0038】
HERリガンドを「過剰発現する」癌は、同じ組織種類の非癌細胞と比較して、そのリガンドのレベルが有意に高いものである。このような過剰発現は、遺伝子増幅によって、又は、増大した転写ないし翻訳によって、生じうる。HERリガンドの過剰発現は、例えば腫瘍の生検で又はIHC、FISH、サザンブロッテイング、PCR又は上記のインビボアッセイのような様々な診断アッセイにより、患者の該リガンドのレベルを評価することによって、診断により決定されうる。
【0039】
ここで使用される「細胞障害剤」なる用語は、細胞の機能を阻害又は阻止し、及び/又は細胞破壊をもたらす物質を意味する。この用語は、放射性同位体(例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32 及びLuの放射性同位体)、化学療法剤、及び小分子毒素又は細菌、真菌、植物、又は動物起源の酵素活性毒素などの毒素で、それらの断片及び/又は変異体を含むものを含むことを意図する。
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化学的化合物である。化学療法剤の例には、チオテパ及びシクロスホスファミド(CYTOXAN(登録商標))のようなアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンのようなスルホン酸アルキル類;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa)のようなアジリジン類;アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethylenethiophosphaoramide)及びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類及びメチラメラミン類;アセトゲニン(acetogenins)(特にブラタシン(bullatacin)及びブラタシノン(bullatacinone));δ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));β-ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトセシン(合成類似体トポテカン(topotecan)を含む);ブリオスタチン;カリスタチン(callystatin);CC-1065(そのアドゼレシン(adozelesin)、カルゼレシン(carzelesin)及びバイゼレシン(bizelesin)合成類似体を含む);クリプトフィシン(cryptophycin)(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン(dolastatin);デュオカルマイシン(duocarmycin )(合成類似体、KW-2189及びCBI-TM1を含む);エレトロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコディクチン(sarcodictyin);スポンジスタチン(spongistatin);クロランブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、チョロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード等のナイトロジェンマスタード;ニトロスレアス(nitrosureas)、例えばカルムスチン(carmustine)、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン(lomustine)、ニムスチン、及びラニムスチン;エネジイン(enediyne) 抗生物質等の抗生物質(例えば、カリケアマイシン(calicheamicin)、特にカリケアマイシンガンマ1I及びカリケアマイシンオメガI1(例えば、Agnew Chem Intl. Ed. Engl., 33:183-186(1994)を参照のこと)及び、ダイネミシンA(dynemicinA)を含むダイネミシン(dynemicin)、エスペラマイシン(esperamicin)、同様にネオカルチノスタチン発光団及び関連色素蛋白エネジイン(enediyne) 抗生物質発光団、アクラシノマイシン(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン(bleomycins)、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ADRIAMYCIN(登録商標)を含むドキソルビシン (モルフォリノ-ドキソルビシン、シアノモルフォリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、ドキソルビシン HCl リポソーム注射 (DOXIL(登録商標))、リポソームドキソルビシンTLC D-99 (MYOCET(登録商標))、ペグ化リポソームドキソルビシン(登録商標)、及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンCなどのマイトマイシン(mitomycins)、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);メトトレキサート、ゲンシタビン(GEMZAR(登録商標))、テガフール(UPTORAL(登録商標))、カペシタビン(XELODA(登録商標))、エポチロン、及び5−フルオリウラシル(FU);デノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン(pteropterin)、及びトリメトレキセート(trimetrexate)のような葉酸類似体;フルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、及びチオグアニンのようなプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、及びフロキシウリジン(floxuridine)のようなピリミジン類似体;アミノグルテチミド、ミトタン、及びトリロスタンのような抗副腎剤;フロリン酸(frolinic acid)のような葉酸リプレニッシャー(replenisher);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エポチロン(epothilone);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン(lonidamine);メイタンシン(maytansine)及びアンサマイトシン(ansamitocin)のようなメイタンシノイド(maytansinoid);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダモール(mopidamol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ラソキサントロン(losoxantrone);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン(razoxane);リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テニュアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(trichothecenes)(特に、T-2トキシン、ベラキュリンA(verracurin A)、ロリデンA(roridin A)及びアングイデン(anguidine));ウレタン;ダカルバジン;マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド及びタキサン、例えばタキソール(登録商標)パクリタキセル、アルブミン設計のナノ粒子形状のパクリタキセル(ABRAXANETM )及びタキソテア(登録商標)ドキセタキセル;クロランブシル;GEMZAR(登録商標)ゲンシタビン(gemcitabine);6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチンのようなプラチナ剤;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標))、ビンクリスチン(オンコビン(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標)、及びビノレルビネ(ナベルビン(登録商標)を含む微小管形成からチューブリン重合を防ぐビンカ(vincas);エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;レウコボビン(leucovovin); ノバントロン(novantrone);エダトレキサート(edatrexate);ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート(ibandronate);トポイソメラーゼ・インヒビターRFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチン酸のようなレチノイド、ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標));クロドロネートのようなビスホスホネート(例えば、BONEFOS(登録商標)またはOSTAC(登録商標)、エチドロン酸(DIDROCAL(登録商標))、NE-58095、ゾレドロン酸/ゾレドロネート(OMETA(登録商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロン酸(AREDIA(登録商標))、チルドロネート(tiludronate)(SKELID(登録商標))、又はリセドロネート(risedronate)(ACTONEL(登録商標)));トロキサシタビン(troxacitabine)(1,3-ジオキソラン・ヌクレオシド・シトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に異常な細胞増殖(例えばPKC-alpha、Raf、H-Ras)及び上皮成長因子受容体(EGF-R)に関係するシグナル伝達経路の遺伝子の発現を阻害するもの; THERATOPEのようなワクチン(ワクチン及び遺伝子治療ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチン;トポイソメラーゼ1インヒビター(例えば、LURTOTECAN(登録商標)); rmRH(例えば、ABARELIX(登録商標)); BAY439006(sorafenib;バイエル); SU-11248(ファイザー);ペリフォシン(perifosine)、COX-2インヒビター(例えばセレコキシブまたはエトリコキシブ)、プロテオゾーム・インヒビター(例えばPS341); bortezomib(VELCADE(登録商標)); CCI-779; tipifarnib(R11577); orafenib(ABT510);オブリメルセン・ナトリウムのようなBCL-2インヒビター(GENASENSE(登録商標); pixantrone; EGFRインヒビター(下記の定義を参照);チロシンキナーゼ・インヒビター(下記の定義を参照);上述したものの製薬的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体;並びに、上記のうちの2以上の組合せ、例えば、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン及びプレドニソロンの併用治療の略記号であるCHOP、及び5-FUとロイコボリン(leucovorin)と組み合わされるオキサリプラチン(ELOXATINTM)による治療投薬計画の略記号であるFOLFOXが含まれる。
【0040】
また、この定義には、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害するように働く抗ホルモン剤、混合アゴニスト/アンタゴニスト・プロファイルを有する抗エストロゲンなど、例えばタモキシフェン(NOLVADEX(登録商標))、4-ヒドロキシタモキシフェン、トレミフェン (FARESTON(登録商標))、イドキシフェン、ドロロキシフェン、ラロキシフェン(EVISTA(登録商標)、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、及びSERM3のような選択的エストロゲンレセプターモジュレーター(SERM)、アゴニスト特性を有しない純粋な抗エストロゲン、例えばスルベストラント(FASLODEX(登録商標))、及びEM800(エストロゲン受容体(ER)二量体化を遮断すること、DNA結合を阻害すること、ERターンオーバーを増大すること、及び/又はERレベルを抑制することが出来る薬剤);アロマターゼ酵素を阻害する非ステロイド系アロマターゼ阻害物質、例えばアナストラゾール(ARIMIDEX(登録商標))、レトロゾール(FEMARA(登録商標))及びアミノグルテチミド、及びベロゾール(RIVISOR(登録商標))、酢酸メゲストロール(MEGASE(登録商標))、ファドロゾール、イミダゾールを含む他のアロマターゼ阻害剤、ロイプロリド(LUPRON(登録商標))及びELIGARD(登録商標))、ゴセレリン、ブセレリンを含む黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニスト;酢酸メゲストロール及び酢酸メドロキシプロゲステロンのようなプロゲスチン類、ジエチルスチルベストロール及びプレマリンのようなエストロゲン、フルオキシメステロンのようなアンドロゲン類/レチノイド類、全トランスレチノイン酸及びフェンレチニド含む性ステロイド類;オナプリストーン(onapristone);抗プロゲストロン類;エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(ERD);フルタミド、ニルタミド及びビカルタドのような抗アンドロゲン類;テストラクトーン;及び上記のものの製薬的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体、同様に上記の2以上の組合せが含まれる。
【0041】
ここで使用されるように、「EGFR標的薬」という用語は、EGFRに結合し、場合によってはEGFR活性化を抑制する治療薬に相当する。このような薬剤の例は、EGFRに結合する抗体及び小分子を含む。EGFRに結合する抗体の例は、MAb579(ATCC CRL HB8506)、MAb455(ATCC CRL HB8507)、Mab225(ATCC CRL 8509)、MAb528(ATCC CRL HB8509)(米国特許第4,943,533号、Mendelsohnら参照)及びその変異体、例えばキメラ225(C225またはセツキシマブ(Cetuximab);ERBUTIX(登録商標))及び再構成ヒト225(H225)(国際公報96/40210、Imclone Systems社参照);IMC-11F8, 完全ヒトEGFR標的化抗体 (Imclone);タイプIIマウスEGFRに結合する抗体(米国特許第5,212,290号);米国特許第5,891,996号に記載のEGFRに結合するヒト化及びキメラ抗体;及びABX-EGF又はパニツムマブのようなEGFRに結合するヒト抗体(国際公報98/50433、Abgenix/Amgen参照);EMD 55900 (Stragliotto 等. Eur. J. Cancer 32A:636-640 (1996));及びmAb 806又はヒト化mAb 806 (Johns 等, J. Biol. Chem. 279(29):30375-30384 (2004));EMD7200 (マツズマブ) EGFRに対して標的化されたヒト化EGFR抗体であって、EGFR結合性についてEGF及びTGFαの両方と競合するもの(EMD/メルク);ヒトEGFR抗体、HuMax-EGFR(GenMab);US6235883に記載されているE1.1, E2.4, E2.5, E6.2, E6.4, E2.11, E6. 3及びE7.6. 3として知られる完全ヒト抗体;MDX-447 (Medarex Inc);及びmAb 806 又はヒト化mAb 806 (Johns et al., J. Biol. Chem. 279(29):30375-30384 (2004))を含む。
抗EGFR抗体は、細胞障害剤とコンジュゲートされ、よって免疫コンジュゲートを作る(例えば、欧州特許第659,439号A2、Merck Patent GmbH)。EGFRに結合する小分子は、例えば米国特許第5616582号、5457105号、5475001号、5654307号、5679683号、6084095号、6265410号、6455534号、6521620号、6596726号、6713484号、5770599号、6140332号、5866572号、6399602号、6344459号、6602863号、6391874号、6344455号、5760041号、6002008号及び5747498号、同様に以下のPCT公開公報:WO98/14451、WO98/50038、 WO99/09016、及びWO99/24037.に記載の化合物である。特定の小分子EGFRアンタゴニストは、OSI-774(CP-358774,エルロチニブ、TARCEVA(登録商標)Genentech/OSI Pharmaceuticals);PD183805(CI1033、2-プロペンアミド、N-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[3-(4-モルホリニル)プロポキシ]-6-キナゾリニル]-, ジヒドロクロリド、ファイザー社.);ZD1839、ゲフィチニブ(IRESSA(登録商標) 4-(3’−クロロ-4’-フルオロアニリノ)-7-メトキシ-6-(3-モルフォリノプロポキシ)キナゾリン、アストラゼメカ);ZM105180((6-アミノ-4-(3-メトキシフェニル-アミノ)-キナゾリン、ゼネカ); BIBX-1382(N8-(3-クロロ-4-フルオロ-フェニル)-N2-(1-メチル-ピペリジン-4-イル)-ピリミド[5,4-d]ピリミジン-2,8-ジアミン、Boehringer Ingelheim);PKI-166((R)-4-[4-[(1-フェニルエチル)アミノ]-1H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6-イル]-フェノール);(R)-6-(4-ヒドロキシフェニル)-4-[(1-フェニルエチル)アミノ]-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン);CL-387785 (N-[4-[(3-ブロモフェニル)アミノ]-6-キナゾリニル]-2-ブチンアミド);EKB-569(N-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-3-シアノ-7-エトキシ-6-キノリニル]-4-(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド) (Wyeth);AG1478(Sugen);AG1571(SU5271;Sugen);ラパチニブのようなデュアルEGFR/HER2チロシンキナーゼ阻害剤(GW572016又はN-[3-クロロ-4-[(3 フルオロフェニル)メトキシ]フェニル]6[5[[[2メチルスルフォニル)エチル]アミノ]メチル]-2-フラニル]-4-キナゾリンアミン;Glaxo-SmithKline)又はシアノグアニジンキナゾリン及びシアノアミジンキナゾルアミン誘導体を含む。
【0042】
「チロシンキナーゼ阻害剤」は、HERレセプターなどのチロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性を阻害する分子である。そのような阻害剤の例として、小分子HER2チロシンキナーゼインヒビター、例えばTakedaから入手可能なTAK165、 CP-724、714、ErbB2受容体チロシンキナーゼの経口選択的阻害剤(ファイザー及びOSI); EGFRに優先的に結合するが、HER2及びEGFR-過剰発現細胞の両方を阻害するEKB-569(Wyethから入手可能)などの二重HERインヒビター、経口HER2及びEGFRチロシンキナーゼインヒビターであるラパチニブ (GW572016;Glaxo-SmithKlineから入手可能);PKI-166(Novartisから入手可能)、カネルチニブ(canertinib)などのpan-HERインヒビター(CI-1033;Pharmacia)、Raf-1インヒビター、例えばRaf-1シグナル伝達を阻害するISIS Pharmaceuticalsから入手可能なアンチセンス薬剤ISIS-5132、非HER標的TKインヒビター、例えばGlaxoから入手可能なメシル酸イマチニブ(GleevacTM)、MAPK細胞外調節キナーゼIインヒビターであるCI-1040(Pharmaciaから入手可能);PD 153035、4-(3-クロロアニリン)キナゾリンなどのキナゾリン;ピリドピリミジン;ピリミドピリミジン;CGP 59326、CGP 60261、およびCGP 62706などのピルロロピリミジン(pyrrolopyrimidines);ピラゾロピリミジン(pyrazolopyrimidines)、4-(フェニルアミノ)-7H-ピルロロ[2,3-d]ピリミジン;カルシウム(ディフェルロイルメタン、4,5-ビス(4-フルオロアニリノ)フタルイミド);ニトロチオフェン成分を含むトリホスチン(tyrphostines);PD-0183805 (Warner-Lamber);アンチセンス分子(例えば、HERコード化核酸に結合するもの);キノキサリン(quinoxalines) (米国特許第5,804,396号);トリホスチン(米国特許第5,804,396号);ZD6474 (Astra Zeneca);PTK-787 (Novartis/Schering AG);CI-1033 (Pfizer)などのpan-HERインヒビター;Affmitac (ISIS 3521; Isis/Lilly);メシル酸イマチニブ (Gleevac; Novartis);PKI 166 (Novartis);GW2016 (Glaxo SmithKline);CI-1033 (Pfizer);EKB-569 (Wyeth);セマキシニブ(Semaxanib) (Sugen);ZD6474 (AstraZeneca);PTK-787 (Novartis/Schering AG);INC-1C11 (Imclone);シアノグアニジンキナゾリン及びしあの;WO98/43960 (American Cyanamid); WO97/38983 (Warner Lambert); WO99/06378 (Warner Lambert); WO99/06396 (Warner Lambert); WO96/30347 (Pfizer, Inc); WO96/33978 (Zeneca); WO96/3397 (Zeneca); WO96/33980 (Zeneca); and US2005/0101617.又は以下に挙げるいずれかの特許文献に記載されているもの:米国特許第5,804,396号;国際公報99/09016 (American Cyanimid);国際公報98/43960 (American Cyanamid);国際公報97/38983 (Warner Lambert);国際公報99/06378 (Warner Lambert);国際公報99/06396 (Warner Lambert);国際公報96/30347 (Pfizer, Inc);国際公報96/33978 (Zeneca);国際公報96/3397 (Zeneca);国際公報96/33980 (Zeneca);US2005/0101617を含む。
【0043】
「抗血管形成剤」は、血管の発達を阻害する、又はある程度妨げる化合物に相当する。抗-血管形成因子は、例えば、血管形成の促進に関与する成長因子又は成長因子レセプターに結合する小分子又は抗体でありうる。ここでの好ましい抗-血管形成因子は、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))などの、血管内皮増殖因子(VEGF)に結合する抗体である。
「サイトカイン」という用語は、一つの細胞集団から放出されるタンパク質であって、他の細胞に対して細胞間メディエータとして作用するものの包括的な用語である。このようなサイトカインの例としては、リンフォカイン、モノカイン、及び伝統的なポリペプチドホルモンを挙げることができる。サイトカインには、成長ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン、及びウシ成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラクシン;プロリラクシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)のような糖タンパク質ホルモン、副甲状腺刺激ホルモン(TSH)、及び黄体形成ホルモン(LH);肝臓成長因子;繊維芽細胞成長因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;腫瘍壊死因子-α及び-β;ミュラー阻害物質;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF-β等の神経成長因子;血小板成長因子;TGF-αあるいはTGF-βのようなトランスフォーミング成長因子(TGF);インスリン様成長因子I及びII;エリスロポイエチン(EPO);オステオインダクティブ因子;インターフェロンα、β、γのようなインターフェロン;マクロファージCSF(M-CSF)のようなコロニー刺激因子(CSF);顆粒球マクロファージCSF(GM-CSF)及び顆粒球CSF(G-CSF);IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、 IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、 IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12等のインターロイキン(IL);腫瘍壊死因子、例えばTNF-α又はTNF-β;及びLIF及びキットリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子が含まれる。ここで使用される場合、サイトカインなる用語は天然源由来あるいは組換え細胞培養由来のタンパク質及び天然配列サイトカインの生物的に活性な等価物を含む。
【0044】
II.HER2抗体変異体組成物
本発明は、少なくとも部分的には、特定のHER2抗体組成物に関する。好ましくは、HER2抗体(主要な種HER2抗体及びその抗体変異体の何れか又は両方)は、HER2のドメインIIと結合して、トラスツズマブより効果的にHERの二量体化を阻害して、および/またはHER2のヘテロダイマー結合部位と結合するものである。
本願明細書の主要種抗体の好ましい実施態様は、配列番号3及び4の可変軽鎖及び可変重鎖アミノ酸配列を含むものであり、最も好ましくは配列番号15及び16の軽鎖及び重鎖アミノ酸配列を含むものである。
本願明細書において組成物は、HER2のドメインIIと結合する主要種HER2抗体、及びその酸性の変異体を含み、糖化変異体、ジスルフィド還元化変異体及び非還元性変異体のうちの1、2、又は3つを含む酸性の変異体を含む。
組成物の酸性の変異体は、糖化変異体、脱アミド化変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体及び非還元性変異体のうちの1、2、3、4、又は5を含む。
好ましくは、組成物の全ての酸性の変異体の総量は約25%未満である。ある実施態様において、糖化変異体、脱アミド化変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体、及び非還元性変異体は、組成物中の酸性の変異体の少なくとも75〜80%を構成する。
本発明は、更に、それぞれ、配列番号3及び4の可変軽鎖及び可変重鎖配列を含む主要な種HER2抗体、及び主要種の酸性の抗体を含む組成物であって、ここで酸性の変異体は糖化変異体、脱アミド化変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体及び非還元性変異体のうちの1、2、3、4、又は5を含む。
【0045】
本発明は、医薬組成物を作成する方法であって、
(1)HER2のドメインIIと結合する主要種HER2抗体及びその酸性の変異体を含む組成物であって、その酸性の変異体が糖化変異体、ジスルフィド変異体又は非還元性変異体を含む組成物を調製すること、及び(2)組成物中の酸性の変異体を評価し、その量が約25%未満であることを確認することを含む方法に関する。該方法は、薬学的に許容可能な担体を、組成物と、工程(2)の前に、その間に、又はその後に組合わせること意図する。ある実施態様において、工程(2)で評価される組成物は、薬学的に許容可能な担体中にある。
ある実施態様において、(組成物の約25%未満を構成する)酸性の変異体の約75〜80%が、糖化変異体、脱アミド化変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体及び非還元性変異体から選択される。
酸性の変異体は、種々の方法によって評価されることができるが、好ましくは、該方法は、組成物がIECの前に、後で及び/又はその間にシアリダーゼで処理されるイオン交換クロマトグラフィー(IEC)(例えば、シアル化変異体を評価するため)、還元CE−SDS(例えば、ジスルフィド還元変異体を評価するため)、非還元CE−SDS(例えば、非還元性変異体を評価するため)、ボロン酸クロマトグラフィー(例えば、糖化変異体を評価するため)、及びペプチドマッピング(例えば、脱アミド化変異体を評価するため)のうちの1、2、3、4、又は5を含む。
ある実施態様において、全体的に酸性の変異体は、例えば、弱いカチオン交換体および/または、カルボン酸官能基を有するカチオン交換剤(例えば、DIONEX PROPACTM(WCX−10クロマトグラフィー・カラム)を使用するイオン交換クロマトグラフィーによって評価される。
上記のクロマトグラフィーのある実施態様において、クロマトグラフィーの条件は、20mMのビストリス(pH6.0)のバッファーA;20mMのビストリスのバッファーB、200mMのNaCl(pH6.0);及び1.0mL/分の0.5%のバッファーBの勾配である。
【0046】
組成物は、場合によりアミノ末端リーダー伸長変異体を含む。好ましくは、アミノ末端リーダー伸長は、抗体変異体の軽鎖に(例えば、抗体変異体の1又は2の軽鎖に)ある。主要種HER2抗体または抗体変異体は、完全な抗体または抗体断片であってもよい(例えば、F(ab’)断片のFab)が、好ましくは両方とも完全な抗体である。本願明細書において抗体変異体は、その重鎖又は軽鎖の任意の1又は複数に、アミノ末端リーダー伸長を含んでもよい。好ましくは、アミノ末端リーダー伸長は、抗体の1又は2の軽鎖である。アミノ末端リーダー伸長は、好ましくは、VHS−を含むか又はそれから成る。組成物中のアミノ末端リーダー伸長の存在は、N末端基配列分析、荷電不均一性のためのアッセイ(たとえば、陽イオン交換クロマトグラフィーまたはキャピラリー・ゾーン電気泳動)、質量分析などを含むが、これに限らずさまざまな解析手法によって検出されることができる。組成物の抗体変異体の量は、一般に、変異体を検出するために使用する任意のアッセイ(好ましくはカチオン交換解析)の検出下限を構成する量から主要種抗体の量より少ない量まで変動する。一般に、組成物の抗体分子の約20%又はそれ未満(例えば、約1%から約15%、例えば約5%から約15%、及び約8%から約12%)は、アミノ末端リーダー伸長を含む。上記のパーセンテージ量は、望ましくはカチオン交換解析を使用して決定される。
【0047】
主要種の抗体および/または変異体の更なるアミノ酸配列変更は、その一方または両方の重鎖上のC末端のリジン残基を含んで成る抗体(上記の抗体変異体は、約1%から約20%の量で存在してもよい)、1又はそれ以上の酸化メチオニン残基を有する抗体等(例えば酸化met−254を含むパーツズマブ)を含むがこれに限定されるものではないく
さらに、上記のシアル化変異体を除いて、主要種抗体又は変異体は、追加的なグリコシル化変異を含んでもよく、その非限定的な例は、そのFc領域に取り付けられたG1またはG2オリゴ糖構造を含んで成る抗体、その軽鎖に取り付けられる炭化水素部分を含む抗体(例えば、抗体の1又は2の軽鎖に取り付けられた1又は2の炭化水素部分(例えばグルコースまたはガラクトース)、例えば1又は2のリジン残基に取り付けられる)、1又は2の非グリコシル化重鎖等を含む抗体を含む。
場合により、1又は2の軽鎖を含む抗体であって、軽鎖の何れか又は両方は配列番号23のアミノ酸配列を含む(本願明細書に開示されるもののようなその変異体を含む)。抗体は、1又は2の重鎖を更に含み、重鎖の何れか又は両方は配列番号16又は配列番号25のアミノ酸配列を含む(本願明細書に開示されるもののようなその変異体を含む)。
組成物は、遺伝的に改変された細胞株、例えばHER2抗体を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株から回収されてもよいし、ペプチド合成によって調製されてもよい。
【0048】
III.HER2抗体の製造
本発明で使用されるHER抗体を製造するための例示的な技術を以下に説明する。抗体の製造に使用されるHER2抗原は、例えば所望のエピトープを含むHER2の細胞外ドメイン又はそれらの一部の可溶形態のものであってよい。あるいは、抗体を産生するために、その細胞表面にHER2を発現する細胞(例えばHER2を過剰発現するように形質転換されたNIH-3T3細胞;又は癌腫株化細胞、例えばSK-BR-3細胞、Stancovski等, PNAS(USA)88:8691-8695(1991)を参照)を使用することもできる。抗体の産生に有用な他の形態のHER2は当業者には明らかであろう。
(i) モノクローナル抗体
「モノクローナル抗体」は、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、一般的に微量に存在する変異体など、モノクローナル抗体の産生の際に生じうる突然変異体を除いて同一である、及び/又は同じエピトープに結合する抗体を指す。従って「モノクローナル」なる修飾語は、分離した抗体の混合物ではない抗体の特性をさす。
例えば、モノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製でき、又は組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって作製することができる。
ハイブリドーマ法においては、マウス又はその他の適当な宿主動物、例えばハムスターを上記したようにして免疫し、免疫化に用いられるタンパク質と特異的に結合する抗体を生産するか又は生産することのできるリンパ球を導き出す。別法として、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融剤を用いて骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103頁(Academic Press, 1986))。
【0049】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親の骨髄腫細胞の増殖または生存を阻害する一又は複数の物質を好ましくは含む適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニジンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失するならば、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有するであろう(HAT培地)。
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性である細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫株化細胞は、マウス骨髄腫系、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、サンディエゴ、カリフォルニア、USAから入手し得るMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及びアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、ロックヴィル、メリーランド、USAから入手し得るSP-2又はX63-Ag8-653細胞から誘導されたものである。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫株化細胞もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために開示されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0050】
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合検定、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によって測定する。
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばMunsonほか, Anal. Biochem., 107:220 (1980)のスキャッチャード分析法によって測定することができる。
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が確定された後、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁(Academic Press, 1986))。この目的に対して好適な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が包含される。加えて、該ハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーのような常套的な免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、又は血清から好適に分離される。
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、常法を用いて(例えば、マウスの重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)即座に単離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび単離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、そうしないと免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞のような宿主細胞中にトランスフェクトし、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体をコードするDNAの細菌中での組換え発現に関する概説論文には、Skerra等, Curr. Opinion in Immunol., 5:256-262(1993)及びPlueckthum, Immunol. Revs., 130:151-188(1992)がある。
更なる実施態様では、モノクローナル抗体又は抗体断片は、McCafferty等, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して産生される抗体ファージライブラリから単離することができる。Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marks等, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリを使用したマウス及びヒト抗体の単離を記述している。続く刊行物は、鎖混合による高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え (Waterhouse等, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な別法である。
DNAはまた、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を、相同的マウス配列に代えて置換することにより(米国特許第4,816,567 号;及びMorrison等, Proc.Nat.Acad.Sci.,USA,81:6851(1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を共有結合させることで修飾できる。
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換され、又は抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインに置換されて、抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と異なる抗原に対する特異性を有するもう一つの抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を作り出す。
【0051】
(ii) ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化する方法は従来からよく知られている。好ましくは、ヒト化抗体には非ヒト由来の一又は複数のアミノ酸残基が導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的にはヒト抗体の該当する高頻度可変領域配列を置換することによりウィンターと共同研究者の方法(Jonesほか, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmannほか, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyenほか, Science, 239:1534-1536(1988))を使用して実施することができる。よって、このような「ヒト化」抗体は、完全なヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の該当する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的にはいくらかの高頻度可変領域残基及び場合によってはいくらかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を生成する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。「ベストフィット法」では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリ全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものと最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れる(Simsほか, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia等, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、軽又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carterほか, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Prestaほか, J. Immunol., 151:2623(1993))。
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムは購入可能である。これら表示を見ることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基のありそうな役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、高頻度可変領域残基は、直接かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
【0052】
米国特許番号第6949245号には、HER2に結合し、HERレセプターのリガンド活性化を阻害する例示的なヒト化HER2抗体の作成が記載される。ここで特に対象とするヒト化抗体は、完全マウスモノクローナル抗体2C4(又はそのFab断片)と実質的に同じくらいの効果でEGF、TGF-α及び/又はHRG媒介活性化を阻害し、及び/又は完全マウスモノクローナル抗体2C4(又はそのFab断片)と実質的に同じくらいの効果でHER2に結合する。ここでのヒト化抗体は、例えば、ヒト可変重鎖ドメインに取り込まれた非ヒト高頻度可変領域を含んでいても良く、Kabat等, Sequences of Protains of Immunol Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)に示す可変ドメインの番号付けに従って、69H、71H及び73Hからなる群から選択される位置で置換されたフレームワーク領域(FR) をさらに含んでいてもよい。ある実施態様では、ヒト化抗体は位置69H、71H及び73Hの内の2つ又は全てでFR置換を含む。
【0053】
ここで対象とする例示的なヒト化抗体は、可変重鎖相補性決定残基GFTFTDYTMX、ここでXは好ましくはD又はS(配列番号:7);DVNPNSGGSIYNQRFKG(配列番号:8);及び/又はNLGPSFYFDY(配列番号:9)を含んでなり、場合によっては、これらのCDR残基のアミノ酸修飾を含んでなり、例えば、実質的に修飾は抗体の親和性を維持又は向上させる。例えば、対象とする抗体変異体は、前記の可変重鎖CDR配列で約1から約7又は約5のアミノ酸置換を有していてもよい。このような抗体変異体は、例えば以下に記載されるような親和性成熟により調製されうる。もっとも好ましいヒト化抗体は、配列番号:4の可変重鎖アミノ酸配列を含む。
ヒト化抗体は、可変軽鎖ドメイン相補性決定残基KASQDVSIGVA(配列番号:10);SASYX、ここでXは好ましくはR又はL、Xは好ましくはY又はE、及びXは好ましくはT又はS(配列番号:11);及び/又はQQYYIYPYT(配列番号:12)、例えば更に前段落の可変重鎖CDR残基を含んでなりうる。このようなヒト化抗体は、場合によっては、例えば、抗体の親和性を実質的に維持又は向上させるような前記CDR残基のアミノ酸修飾を含む。例えば、対象とする抗体変異体は、前記可変軽鎖CDR配列で約1から約7又は約5のアミノ酸置換を有していてもよい。このような抗体変異体は、例えば以下に記載されるような親和性成熟により調製されうる。もっとも好ましいヒト化抗体は、配列番号:3の可変軽鎖アミノ酸配列を含む。
本出願ではまた、HER2に結合し、HERレセプターのリガンド活性化を阻害する親和性成熟抗体が考えられる。親抗体はヒト抗体又はヒト化抗体、例えば、それぞれ配列番号3及び4の可変軽鎖及び/又は可変重鎖配列を含むもの(つまり、変異体574)であってもよい。親和性成熟抗体は、好ましくはHER2レセプターにマウス2C4又は変異体574のものより優れた親和性(例えば、HER2細胞外ドメイン(ECD)ELISAを用いて検討して、例えば約2又は約4倍から100倍又は約1000倍の向上した親和性)で結合する。置換ための例示的な可変重鎖CDR残基は、H28、H30、H34、H35、H64、H96、H99又は2以上(例えば、これらの残基の2、3、4、5、6、又は7)の組み合わせを含む。変化のための可変軽鎖CDR残基の例は、L28、L50、L53、L56、L91、L92、L93、L94、L96、L97、又は2以上(例えば、これらの残基の2から3、4、5又は約10まで)の組み合わせを含む。
ヒト化抗体又は親和性成熟抗体の様々な形態が、考えられる。例えば、ヒト化抗体又は親和性成熟抗体は、抗体断片、例えばFab、場合によっては免疫コンジュゲートを作成するために1又は複数の細胞障害剤でコンジュゲートされたものであってもよい。あるいは、ヒト化抗体又は、親和性成熟抗体は、完全な抗体、例えば完全なIgG1抗体であってもよい。
【0054】
(iii) ヒト抗体
ヒト化のための別法により、ヒト抗体を生産することができる。例えば、内因性の免疫グロブリン産生がなくともヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが今は可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子の同型接合除去が内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子列の転移は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。Jakobovits等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362:255-258 (1993);Bruggerman等, Year in Immuno., 7:33 (1993);米国特許第5,591,669号、同第5,589,369号及び同第5,545,807号を参照されたい。
あるいは、ファージディスプレイ技術(McCafferty等, Nature 348:552-553(1990))を、非免疫化ドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、インビトロでヒト抗体及び抗体断片を産出させるために使用することができる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、繊維状バクテリオファージ、例えばM13の大きい又は小さいコートタンパク質遺伝子のいずれかにおいてイン-フレームをクローンする。繊維状粒子がファージゲノムの一本鎖のDNAコピーを含むので、抗体の機能特性に基づいた選択により、これらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択がなされる。よって、ファージはB細胞の特性のいくつかを模倣している。ファージディスプレイは多様な形式で行うことができる;例えばJohnson, Kevin S. 及びChiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564-571(1993)を参照のこと。V-遺伝子セグメントのいくつかの供給源がファージディスプレイのために使用可能である。Clackson 等, Nature, 352:624-628(1991)は、免疫化されたマウス脾臓から得られたV遺伝子の小ランダム組合せライブラリーからの抗オキサゾロン抗体の異なった配列を単離した。非免疫化ヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構成可能で、抗原(自己抗原を含む)とは異なる配列の抗体を、Marks等, J. Mol. Biol. 222:581-597(1991)、又はGriffith等, EMBO J. 12:725-734(1993)に記載の技術に本質的に従って単離することができる。また、米国特許第5,565,332号及び同5,573,905号を参照のこと。
またヒト抗体は、活性化B細胞によりインビトロで生産してもよい(例えば米国特許第5,567,610号及び同第5,229,275号を参照)。
ヒトHER2抗体は1998年6月30日発行の米国特許第5,772,997号;1997年1月3日公開の国際公報97/00271に記載されている。
【0055】
(iv) 抗体断片
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、完全な抗体のタンパク分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上述において検討した抗体ファージライブラリーから分離することができる。別法として、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合してF(ab')2断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fv断片(scFV)である。国際公開93/16185;米国特許第5,571,894号;及び米国特許第5,587,458号を参照のこと。また、抗体断片は、例えば米国特許第5,641,870号に記載されているような「直鎖状抗体」であってもよい。このような直鎖状抗体断片は単一特異性又は二重特異性であってよい。
(v) 二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、HER2タンパク質の2つの異なるエピトープに結合しうる。他のこのような抗体ではEGFR、HER3及び/又はHER4に対する結合部位と、HER2結合部位とが結合しうる。あるいは、HER2アームは、HER2発現細胞に細胞防御メカニズムを集中させるために、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)及びFcγRIII(CD16)等のIgG(FcγR)に対するFcレセプター、又はT細胞レセプター分子(例えばCD2又はCD3)等の白血球上のトリガー分子に結合するアームと結合しうる。また、二重特異性抗体はHER2を発現する細胞に細胞障害剤を局在化するためにも使用されうる。これらの抗体はHER2結合アーム及び細胞障害剤(例えば、サポリン(saporin)、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセート又は放射性同位体ハプテン)と結合するアームを有する。二重特異性抗体は全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。
国際公報96/16673には、HER2/FcγRIII抗体が記載され、米国特許第5,837,234号には、二重特異性HER2/FcγRI抗体IDM1(Osidem)が開示されている。二重特異性HER2/Fcα抗体は国際公報98/02463、二重特異性HER2/CD3抗体を教示する米国特許第5,821,337号に示されている。MDX-210は二重特異性HER2-FcγRIII Abである。
【0056】
二重特異性抗体を作成する方法は当該分野において既知である。全長二重特異性抗体の伝統的な産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの鎖は異なる特異性を持っている(Milstein等, Nature, 305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が国際公報93/8829及びTrauneckerら、EMBO J. 10:3655-3659(1991)に開示されている。
異なったアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原−抗体結合部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は好ましくは、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させることが望ましい。免疫グロブリン重鎖の融合、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時トランスフェクトする。これにより、組立に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が特に重要性を持たないときは、2または3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0057】
このアプローチ法の好適な実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公報94/04690に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
米国特許第5,731,168号に記載された他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーのパーセントを最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
【0058】
二特異性抗体とは架橋抗体や「ヘテロ抱合抗体」を含む。例えば、ヘテロ抱合体の一方の抗体がアビジンと結合し、他方はビオチンと結合していても良い。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせること(米国特許第4,676,980号)及びHIV感染の治療(国際公報 91/00360、国際公報92/200373及び欧州特許第03089号)等の用途が提案されてる。ヘテロ抱合抗体は適当な架橋方法によって生成できる。当技術分野においては、適切な架橋剤は周知であり、それらは複数の架橋法と共に米国特許第4,676,980号に記されている。
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan等, Science, 229:81 (1985) は完全な抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')2断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルヒド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再転換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0059】
最近の進歩により、大腸菌からFab'-SH断片の直接の回収が容易になり、これは科学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。 Shalaby等,J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の製造を記述している。各Fab'断片は大腸菌から別個に分泌され、インビトロで定方向化学共役させて二重特異性抗体を形成する。従って、形成された二重特異性抗体は、ヒト乳腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘発すると同時に、HER2レセプターを過剰発現する細胞及び正常ヒトT細胞へ結合することが可能であった。
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し分離する様々な方法もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生産された。Kostelny等, J.Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させられた。抗体ホモダイマーはヒンジ領域で還元されてモノマーを形成し、ついで再酸化させて抗体ヘテロダイマーを形成する。この方法はまた抗体ホモダイマーの生産に対して使用することができる。Hollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするのに十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)を結合してなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインは他の断片の相補的VL及びVHドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーを使用する他の二重特異性抗体断片製造方策もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol., 152:5368 (1994)を参照されたい。
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tuttら J.Immunol. 147:60(1991)。
【0060】
(vi) 他のアミノ酸配列の修飾
ここで記載のHER2抗体のアミノ酸配列の修飾を考察する。例えば、HER2抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性が改善されることが望ましい。HER2抗体のアミノ酸配列変異体は、適当なヌクレオチド変化を抗体核酸に導入することにより、又はペプチド合成により調製される。そのような修飾は、例えば、HER2抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失、及び/又は挿入及び/又は置換を含む。欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせは、最終構造物に達するまでなされるが、その最終構造物は所望の特徴を有する。また、アミノ酸変化は、グリコシル化部位の数の変化などのHER2抗体の翻訳後過程を変更しうる。
突然変異のための好ましい位置にあるHER2抗体の特定の残基又は領域の同定のために有用な方法は、Cunningham及びWells , Science 244: 1081-1085 (1989)に記載されているように「アラニンスキャンニング突然変異誘発」と呼ばれる。ここで、標的残基の残基又は基が同定され(例えば、arg, asp, his, lys,及びglu等の荷電残基)、中性又は負荷電アミノ酸(最も好ましくはアラニン又はポリペプチドアニリン)に置換され、アミノ酸と抗原との相互作用に影響を及ぼす。次いで置換に対する機能的感受性を示すこれらのアミノ酸の位置は、置換部位において又はそれに対して更に又は他の置換を導入することにより精密にされる。即ち、アミノ酸配列変異を導入する部位は予め決定されるが、変異自体の性質は予め決める必要はない。例えば、与えられた部位における変異の性能を分析するために、alaスキャンニング又はランダム突然変異誘発を標的コドン又は領域で実施し、発現された抗体変異体を所望の活性についてスクリーニングする。
【0061】
アミノ酸配列挿入は、1残基から100以上の残基を含むポリペプチドの長さの範囲のアミノ-及び/又はカルボキシル末端融合物、並びに一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入物を含む。末端挿入物の例は、N-末端メチオニル残基を持つ抗体又は細胞障害ポリペプチドに融合したHER2抗体を含む。HER2抗体分子の他の挿入変異体は、抗体の血清半減期を向上させる酵素(ADEPT)又はポリペプチドのHER2抗体のN-又はC-末端への融合物を含む。
他の型の変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、異なる残基によって置換された抗体分子に少なくとも一つのアミノ酸残基を有する。置換突然変異について最も対象となる部位は高度可変領域を含むが、FR変化も考慮される。保存的置換は、「好ましい置換」と題して表1に示す。これらの置換により生物学的活性に変化が生じる場合、表1に「例示的置換」と称した又はアミノ酸の分類を参照して以下に更に記載するような、より実質的な変化を導入し、生成物をスクリーニングしてよい。
【0062】
表1

【0063】
抗体の生物学的特性における実質的な修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又はへリックス構造、(b)標的部位の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩の維持に対する効果に有意に異なる置換基を選択することにより達成される。アミノ酸はその側鎖の性質の類似性に応じて分類される( Biochemistry, 第2版., pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975)中のA. L. Lehninger):
(1) 非極性:Ala (A), Val (V), Leu (L), Ile (I), Pro (P), Phe (F), Trp (W), Met (M)
(2) 荷電のない極性:Gly (G), Ser (S), Thr (T), Cys (C), Tyr (Y), Asn (N), Gln (Q)
(3) 酸性:Asp (D), Glu (E)
(4) 塩基性:Lys (K), Arg (R), His(H)
あるいは、天然に生じる残基は共通の側鎖性質に基づくグループに分けられる:
(1) 疎水性:ノルロイシン, Met, Ala, Val, Leu, Ile;
(2) 中性親水性:Cys, Ser, Thr, Asn, Gln;
(3) 酸性:Asp, Glu;
(4) 塩基性:His, Lys, Arg;
(5) 鎖配向に影響する残基:Gly, Pro;
(6) 芳香族:Trp, Tyr, Phe。
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類のものに交換することが必要であろう。
HER2抗体の適切な配置の維持に含まれない任意のシステイン残基は、一般的にセリンで置換し、分子の酸化的安定性を向上させて異常な架橋を防止する。逆に、抗体にシステイン結合を付加して、その安定性を向上させてもよい(特に、抗体がFv断片などの抗体断片である場合)。
【0064】
特に好ましい型の置換変異体は、親抗体の一又は複数の高度可変領域残基の置換を含む(例えばヒト化又はヒト抗体)。一般的に、さらなる発展のために選択されて得られた変異体は、それらが生成された親抗体に比較して向上した生物学的特性を有している。そのような置換変異体を生成する簡便な方法はファージディスプレイを使用する親和性突然変異である。簡単に述べれば、高度可変領域部位(例えば、6−7部位)を突然変異させて各部位における全ての可能なアミノ酸置換を生成させる。このように生成された抗体変異体は、繊維状ファージ粒子から、各粒子内に充填されたM13の遺伝子III産物への融合物として一価形式で表示される。ファージディスプレイ変異体は、次いで、ここに開示されるようなそれらの生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。修飾の候補となる高度可変領域部位を同定するために、アラニンスキャンニング突然変異誘発を実施し、抗原結合に有意に寄与する高度可変領域残基を同定することができる。あるいは、又はそれに加えて、抗原-抗体複合体の結晶構造を分析して抗体とヒトHER2との接点を同定するのが有利である。このような接触残基及び隣接残基は、ここに述べた技術に従う置換の候補である。そのような変異体が生成されたら、変異体のパネルにここに記載するようなスクリーニングを施し、一又は複数の関連アッセイにおいて優れた特性を持つ抗体を更なる開発のために選択する。
抗体のアミノ酸変異の他の型は、抗体の元のグリコシル化パターンを変更する。変更とは、抗体に見られる一又は複数の炭水化物部分の欠失、及び/又は抗体に存在しない一又は複数のグリコシル化部位の付加を意味する。
【0065】
抗体のグリコシル化は、典型的には、N-結合又はO-結合の何れかである。N-結合とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を意味する。アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(ここでXはプロリンを除く任意のアミノ酸)というトリペプチド配列は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列の何れかが存在すると、潜在的なグリコシル化部位が作出される。O-結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニンに、糖類N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの一つが結合することを意味するが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンもまた用いられる。
抗体へのグリコシル化部位の付加は、アミノ酸配列を、それが一又は複数の上述したトリペプチド配列(N-結合グリコシル化部位のもの)を含むように変化させることによって簡便に達成される。この変化は、元の抗体配列への一又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加、又はこれによる置換によってもなされる (O-結合グリコシル化部位の場合)。
【0066】
抗体がFc領域を含有する場合、そのFc領域に接着する任意のオリゴ糖が変更されてもよい。例えば、抗体のFc領域に接着するフコースを欠いている成熟したオリゴ糖構造を有する抗体は、米国特許公開2003/0157108A1、Presta, L.に記述されるまた、米国特許公開2004/0093621A1(Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd)も参照のこと。抗体のFc領域に接着するオリゴ糖を二分するN‐アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体は、国際公開公報 03/011878、Jean-Mairet 等及び米国特許第6,602,684号、Umana 等に参照される。抗体のFc領域に接着するオリゴ糖に少なくとも一のガラクトース残基を有する抗体は、国際公開公報97/30087、Patel 等に報告される。また、抗体のFc領域に接着する変更した炭水化物を有する抗体に関する、国際公開公報98/58964 (Raju, S.)及び国際公開公報99/22764 (Raju, S.)を参照のこと。Fc領域の1又は2の重鎖に付着した当該炭水化物構造を有する主要種の抗体を含んで成る抗体組成物は、本願明細書において意図される。
HER2抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当分野において、公知の様々な方法により調製される。これらの方法は、天然源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列変異体の場合)、又は早期に調製した変異形ないしは非変異形の抗体のカセット突然変異誘発、PCR突然変異誘発及びオリゴヌクレオチド媒介性 (又は、部位特異的な)突然変異誘発による調製を含むが、これに限定されるものではない。
【0067】
(vii) 所望の特性を有する抗体のスクリーニング
抗体を生産するための技術は上述した。所望する、任意の生物学的特徴を有する抗体がさらに選択される。
HERレセプターのリガンド活性化を阻害する抗体を同定するために、HERレセプターを発現する細胞に結合するHERリガンドを阻害する抗体の能力(例えば、対象とするHERレセプターがHERヘテロ-オリゴマーを形成する他のHERレセプターとのコンジュゲーションで)が決定されうる。例えば、HERヘテロ-オリゴマーのHERレセプターを自然に発現する、又は発現するように形質移入された細胞を、抗体とインキュベートし、ついで標識したHERリガンドに暴露してもよい。次いで、HER2抗体の、HERヘテロ-オリゴマーのHERレセプターに結合するリガンドを阻害する能力が評価されうる。
【0068】
例えば、HER2抗体によりMCF7乳癌細胞株へのHRG結合の阻害は、国際公開公報01/00245に記載のような24ウェルプレートフォーマットでの氷上単層MCF7培地を用いて実施されてもよい。HER2モノクローナル抗体をそれぞれのウェルに加え、30分間インキュベートししてもよい。125I標識化rHRGβ1177-224(25pm)を、次に加え、インキュベーションを4から16時間続けてもよい。用量反応曲線が作成され、対象とする抗体のためにIC50値を算出する。一実施態様では、HERレセプターのリガンド活性化を阻害する抗体は、このアッセイで約50nM以下の、より好ましくは約10nM以下のMCF7細胞へのHRG結合抑制のIC50を有しうる。抗体が、Fab断片のような抗体断片である場合、このアッセイにおけるMCF7細胞へのHRG結合抑制のIC50は、例えば約100nM以下、より好ましくは50nM以下である。
あるいは、又は更に加えて、HERヘテロ-オリゴマーに存在するHERレセプターのHERリガンド刺激性チロシンリン酸化を阻害するHER2抗体の能力が評価されうる。例えば、HERレセプターを内性的に発現する又はそれらを発現するように形質移入された細胞は、抗体と共にインキュベートされ、次いでHERリガンド依存性チロシンリン酸化活性を抗-ホスホチロシンモノクローナル(場合によっては、検出可能なラベルとコンジュゲートされたもの)を用いてアッセイされる。米国特許第5,766,863号に記載されるキナーゼレセプター活性アッセイもまた、HERレセプター活性化及び抗体による該活性の阻害を測定するのに利用できる。
【0069】
一実施態様では、基本的に国際公開公報01/00245に記載されるようなMCF7細胞のp180チロシンリン酸化のHRG促進を阻害する抗体をスクリーニングしてもよい。例えば、MCF7細胞を24ウェルプレートに蒔き、HER2に対するモノクローナル抗体をそれぞれのウェルに加え、室温で30分間インキュベートし;次いで最終濃度が0.2nMになるようにrHRGβ1177-224をそれぞれの穴に加え、インキュベーションを8分間続けてもよい。培地をそれぞれの穴から吸引し、100μlのSDSサンプル緩衝液(5%SDS、25mMDTT、及び25mMトリス-HCl、pH6.8)を加えることで、反応を終了させる。それぞれのサンプル(25μl)を、4−12%勾配ゲル(Novex)で電気泳動し、二フッ化ビニリデン膜に電気泳動的に形質移入してもよい。抗リン酸化チロシン(1μg/ml)免疫ブロットが進み、Mr〜180,000の顕著な活性バンドの強度が反射率濃度測定により定量されうる。選択された抗体は、好ましくはこのアッセイのコントロールの約0−35%まで、p180チロシンリン酸化のHRG刺激を有意に抑制する。反射率濃度測定により決定されたp180チロシンリン酸化のHRG刺激抑制の用量反応曲線が作成され、対象とする抗体のためにIC50値を算出してもよい。一実施態様では、HERレセプターのリガンド活性化を阻害する抗体は、このアッセイで約50nM以下の、より好ましくは約10nM以下のp180チロシンリン酸化のHRG刺激抑制のIC50を有しうる。抗体が、Fab断片のような抗体断片である場合、このアッセイにおけるp180チロシンリン酸化のHRG刺激抑制のIC50は、例えば約100nM以下、より好ましくは50nM以下である。
例えば、基本的にSchaefer等, Oncogene 15:1385-1394(1997)に記載されているように、MDA-MB-175細胞での抗体の成長抑制効果を調べてもよい。このアッセイによると、MDA-MB-175細胞はHER2モノクローナル抗体(10μg/mL)で4日間処理され、クリスタルバイオレットで染色した。HER2抗体とのインキュベーションにより、この細胞株での成長抑制効果はモノクローナル抗体2C4により示されたものと同じように示されうる。更なる実施態様においては、外因性HRGはこの抑制を有意に反転させない。好ましくは、抗体は、外因性HRGのある又は無い両方の状態で、モノクローナル抗体4D5よりも広範囲に(及び場合によってはモノクローナル抗体7F3よりも広範囲に)MDA-MB-175細胞の細胞増殖を抑制することができるであろう。
【0070】
一実施態様において、対象とするHER2抗体は、実質的にモノクローナル抗体4D5よりも効果的な、更に好ましくは実質的にモノクローナル抗体7F3よりも効果的な国際公開公報01/00245に記載されたような共免疫沈降実験で決定されているような、MCF7とSK-BR-3細胞両方のHER3を用いたHER2のヘレグリン依存性結合を阻害してもよい。
成長抑制性HER2抗体を同定するために、HER2を過剰発現する癌細胞の成長を抑制する抗体をスクリーニングしてもよい。一実施態様において、選別した成長抑制性抗体は、約0.5から30μg/mlの抗体濃度で約20−100%、好ましくは約50−100%まで細胞培養物中のSK-BR-3細胞の成長を阻害することができる。このような抗体を同定するために、米国特許第5,677,171号に記載のSK-BR-3アッセイを実施することができる。このアッセイに従って、SK-BR-3細胞を10%のウシ胎児血清、グルタミン及びペニシリンストレプトマイシンを補ったDMEM及びF12培地の1:1混合物で生育させる。SK-BR-3細胞を35mmの細胞培養皿で20,000細胞を蒔く(2ml/35mm皿)。1皿当り0.5から30μg/mlのHER2抗体を追加する。6日後、未処理細胞と比べた細胞数を電子COULTERTM細胞カウンタを使用してカウントする。SK- BR-3細胞の成長を約20−100%、又は約50−100%阻害する抗体が、成長阻害抗体として選択されうる。4D5及び3E8などの成長阻害性抗体のスクリーニングのためのアッセイについては米国特許第5,677,171号を参照のこと。
【0071】
アポトーシスを誘発する抗体を選択するためには、BT474細胞を使用するアネキシン結合アッセイが利用できる。BT474細胞を培養し、先の段落において記載したように皿に播種する。ついで培地を回収し、新鮮培地のみ、又は10μg/mlのモノクローナル抗体を含む培地と取り替える。3日間インキュベートした後、単層をPBSで洗浄し、トリプシン処理により分離する。ついで細胞を遠心分離し、Ca2+結合氷冷バッファーに再懸濁させ、細胞死アッセイのために上述したようにチューブに等分する。ついでチューブに標識化アネキシン(例えばアネキシンV-FTIC)(1μg/ml)を入れる。サンプルをFACSCANTMフローサイトメータとFACSCONVERTTMセルクエスト(CellQuest)ソフトウエア(Becton Dickinson)を使用して分析する。対照に対して、統計的に有意なレベルのアネキシン結合を誘発する抗体がアポトーシス誘発抗体として選択される。アネキシン結合アッセイに加えて、BT474細胞を使用するDNA染色アッセイが利用できる。このアッセイを行うために、先の2段落に記載したように関心のある抗体で処理されたBT474細胞を、37℃で2時間、9μg/mlのHOECHST33342TMと共にインキュベートし、ついでMODFITLTTMソフトウエア(Verity Software House)を使用し、EPICS ELITETMフローサイトメータ(Coulter Corporation)で分析する。このアッセイを使用し、未処理細胞(最大100%のアポトーシス細胞)よりも2倍又はそれ以上(好ましくは3倍以上)のアポトーシス細胞のパーセンテージの変化を誘発する抗体が、プロアポトーシス抗体として選択される。7C2及び7F3などのアポトーシスを誘導する抗体のスクリーニングのためのアッセイについては国際公開公報98/17797を参照のこと。
対象とする抗体により結合したHER2上のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするため、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Harlow及びDavid Lane編(1988)に記載されているような通常の交差ブロッキングアッセイを、抗体がHER2への2C4又はパーツズマブなどの抗体の結合を交差ブロッキングするかどうかを評価するために実施することができる。別法として、従来から公知の方法により、エピトープマッピングを実施すること、及び/又は、HER2のどのドメインが抗体に結合するかを見るために、抗体-HER2構造を調べることもできる(Franklin 等 Cancer Cell 5:317-328 (2004))。
【0072】
(viii) 免疫コンジュゲート
また本発明は、細胞障害剤、例えば化学療法剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物又は動物由来の酵素活性毒又は小分子毒素、それらの断片及び/又は変異形を含む)、又は放射性アイソトープ(すなわち、放射性コンジュゲート)にコンジュゲートした抗体を含有する免疫コンジュゲートに関する。
このような免疫コンジュゲートの生成に有用な化学療法剤は上述している。抗体のコンジュゲート及び一つ以上の小分子毒素、例えばカリケアミシン(calicheamicin)、マイタンシン(maytansine)(米国特許第5,208,020号)、トリコテン(trichothene)及びCC1065もここにおいて考慮される。
本発明のひとつの好ましい実施態様では、抗体は、一つ以上のマイタンシン(maytansine)分子(例えば、抗体分子当たり約1から約10のマイタンシン分子)と共役している。マイタンシンは、例えばMay-SH3へ還元されるMay-SS-Meへ変換され、修飾抗体(Chariら,Cancer Research 52:127-131(1992))と反応してマイタンシノイド(maytansinoids)−抗体免疫コンジュゲートを生じる。
その他の対象免疫コンジュゲートは、一つ以上のカリケアマイシン(calicheamicin)分子にコンジュゲートされたHER2抗体を包含する。抗体のカリケアマイシンファミリーは、サブピコモル濃度で、二重鎖DNAの割れ目を作ることができる。使用されるであろうカリケアマイシンの構造類似体は、限定されるものではないが、γ、α、α、N−アセチルγ、PSAG及びθ(Hinman等, Cancer Research 53:3336-3342(1993)及びLodeら,Cancer Research 58:2925-2928(1998))を含む。また、米国特許第5,714,586号;5,712,374号;5,264,586号;及び5,773,001号参照、文献明示によりここに取り込む。
【0073】
使用可能な酵素活性毒及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa))、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン(sarcin)、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)プロテイン、ジアンシン(dianthin)プロテイン、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)プロテイン(PAPI、PAPII及びPAP-S)、モモルディカ・キャランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア(sapaonaria)オフィシナリスインヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコセセンス(tricothecenes)が含まれる。例えば、1993年10月28日に公開の国際公開第93/21232を参照のこと。
本発明は、更に、抗体と核酸分解性活性(例えば、リボムクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼ、例えばデオキシリボヌクレアーゼ;DNA分解酵素)をともなう化合物との間に形成される免疫コンジュゲートについて考慮する。
種々の放射性核種が放射性コンジュゲートHER2抗体の生成に利用できる。具体例にはAt211、I131、I125、Y90、Re186、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射線各種が含まれる。
【0074】
抗体と細胞障害剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、スクシインミジル1-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン-2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製される。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta等, Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン-トリアミン五酢酸(MX-DTPA)が抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲートするためのキレート剤の例である。国際公開公報94/11026を参照されたい。リンカーは、細胞内で細胞毒性薬剤を放出を容易にする「切断可能なリンカー」でもよい。例えば、酸に弱いリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chariら,Cancer Research 52:127-131[1992])を使用してもよい。
あるいは、HER2抗体及び細胞毒性剤を含んでなる融合タンパク質を、例えば組み換え技術又はペプチド合成で製造してもよい。
さらに別の実施形態では、抗体は、腫瘍の前標的に使用するために「受容体」(例えばストレプトアビジン)にコンジュゲートされてもよく、抗体-受容体コンジュゲートは患者に投与され、続いて洗浄剤を使用して循環物から非結合コンジュゲートを除去し、次に細胞障害剤(例えば放射性ヌクレオチド)にコンジュゲートされた「リガンド」(例えば、アビジン)を投与する。
【0075】
(ix) 他の抗体修飾
抗体の他の修飾がここで検討される。例えば、抗体は、様々な非タンパク質性(nonproteinaceous)のポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン類、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのコポリマーの1つに結合されてもよい。また抗体は、例えばコアセルベーション法又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションに捕捉することができる。このような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol編(1980)に開示されている。
【0076】
本発明の抗体をエフェクター機能について改変し、例えば抗体の抗原依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)及び/又は補体依存性細胞障害(CDC)を増強することが望ましい。このことは、抗体のFc領域に一又は複数のアミノ酸置換基を導入することにより達成される。別に、又は付加的にシステイン残基(類)をFc領域に導入して、この領域における鎖間ジスルイド結合を形成させる。このようにして産生されたホモダイマー抗体は改善された内部移行能力及び/又は増加した補体媒介細胞死滅及び抗体依存性細胞障害(ADCC)を有しうる。Caron等, J. Exp. Med. 176:1191-1195 (1992)及びShopes, B. J. Immunol. 148:2918-2922 (1992)を参照されたい。抗腫瘍活性が高められたホモダイマー抗体は、Wolff等, Cancer Research 53:2560-2565(1993)に記載されているようなヘテロ二官能性架橋剤を使用して調製することもできる。あるいは二重Fc領域を有し、よって増強された補体溶解及びADCC能を有しうる抗体を設計することができる。Stevenson等, Anti-cancer Drug Design 3:219-230 (1989)を参照。
国際公開公報00/42072 (Presta, L.)はヒトエフェクター細胞の存在下にてADCC機能が向上した抗体を記述する。このとき、抗体はそのFc領域にアミノ酸置換を含有する。好ましくは、ADCCが向上した抗体は、Fc領域の位置298、333及び/又は334に置換を含有する。好ましくは、変更したFc領域は、これらの位置のうちの1、2又は3に置換を含有する又はからなるヒトIgG1 Fc領域である。
【0077】
C1q結合及び/又は補体依存性細胞障害性(CDC)が変更している抗体は、国際公開公報99/51642、米国特許第6194551号B1、米国特許第6242195号B1、米国特許第6528624号B1及び米国特許第6538124号(Idusogie 等)に記述される。抗体は、そのFc領域のアミノ酸位置270、322、326、327、329、313、333及び/又は334の一又は複数に、アミノ酸置換を含有する。
抗体の血清半減期を増加させるために、例えば米国特許第5739277号に記載されているようにして、抗体(特に抗体断片)にサルベージレセプター結合エピトープを導入してもよい。ここで用いられる場合、「サルベージレセプター結合エピトープ」なる用語は、IgG分子のインビボ血清半減期を向上させる原因となるIgG分子(例えば、IgG、IgG、IgG、又はIgG)のFc領域のエピトープを意味する。また、Fc領域に置換を有し、半減期が増加している抗体は、国際公開公報00/42072 (Presta, L.)に記述される。
また、3以上(好ましくは4)の機能的な抗原結合部位を有する遺伝子操作した抗体も包含される(米国特許公開2002/0004587A1、Miller 等)。
ここで開示されているHER2抗体は、免疫リポソームとして処方することもできる。抗体を含有するリポソームは、例えばEpsteinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688(1985);Hwangら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030(1980);及び米国特許第4,485,045号及び同4,544,545号に記載されているように、当該分野において既知の方法により調製される。循環時間が増したリポソームは米国特許第5,013,556号に開示されている。
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG-誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含有する脂質組成物を用いた逆相蒸発法により作製することができる。リポソームは孔径が定められたフィルターを通して押し出され、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab'断片は、ジスルフィド交換反応を介して、Martinら,J. Biol. Chem. 257:286-288(1982)に記載されているようにしてリポソームにコンジュゲートすることができる。場合によっては、化学療法剤はリポソーム内に包含される。Gabizonら, J. National Cancer Inst. 81(19)1484(1989)を参照されたい。
【0078】
IV.医薬製剤
本発明に用いられる抗体の治療用製剤は、凍結乾燥された製剤又は水性溶液の形態で、好適な製薬上受容可能な担体、賦形剤又は安定剤と、所望の精製度を有する抗体とを混合することにより、保存用に調整される(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol, Ed., (1980))。受容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、用いる投与量及び濃度ではレシピエントに対して無毒性であり、リン酸、クエン酸及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンズアルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン類、例えばメチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(残基数10個未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性重合体;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、ヒスチジン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリン等の単糖類、二糖類又は他の炭水化物、EDTA等のキレート剤、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖類、ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。凍結乾燥抗体の製剤は、国際公報97/04801に記載され、文献明示によりここに取り込む。
【0079】
ここで、製剤は、治療される特定の効能に必要な一以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有し得る。例えば、ある処方では、EGFR、HER2(例えばHER2上の異なるエピトープに結合する抗体)、HER3、HER4、又は血管内皮因子(VEGF)に結合する抗体を更に提供することが望ましい。あるいは、又は付加的には、組成物は更に化学療法剤、細胞障害剤、サイトカイン、増殖阻害剤、抗ホルモン剤、EGFR標的化剤、血管新生阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、及び/又は心臓保護剤を含んでもよい。このような分子は、意図する目的に有効な量で組み合わせて好適に存在する。
また活性成分は、例えばコアセルベーション法又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションに捕捉することができる。このような技術は上掲のRemington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。
徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の適切な例には、抗体を含む固体疎水性重合体の半透性マトリックスが含まれ、このマトリックスはフィルム又はマイクロカプセル等の成形品の形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタマートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性の乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商品名)(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注入可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。
インビボ投与に使用される製剤は、無菌にしなければならない。これは無菌濾過膜を通して濾過することにより容易に成される。
【0080】
V.HER2抗体組成物による治療
本発明では、HER2抗体が癌を治療するために使用できることが意図される。癌は一般にHER2陽性である。本願明細書のHER2抗体は癌細胞と結合することが可能である。ある実施態様では、癌は、低いHER3(例えば卵巣癌)を発現するか、あるいはHER2:HER3比率(例えば卵巣癌)を上昇させた。HER抗体の一定用量で治療されうる様々な癌の例は、先の定義の項目に記載する。
本願明細書において治療される好適な癌は、HER2陽性の乳癌を含む乳癌(場合によりトラスツズマブとドセタキセルのようなタキソイドとの併用による、乳癌の腫瘍免疫賦活薬治療を含む);卵巣癌(プラチナ抵抗性及びプラチナ感受性卵巣癌を含む)(例えば、US2006/0013819を参照);肺癌(非小細胞肺癌(NSCLC)を含む)、場合によりEGFRインヒビター(例えばUS2007/0020261を参照)と併用による;結腸直腸癌等からなる。
【0081】
また、HER2抗体を用いて、様々な非悪性の疾患又は障害を治療されうることが意図される。このような非悪性疾患ないし障害には、自己免疫疾患(例えば、乾癬)、子宮内膜症、強皮症、再狭窄、大腸ポリープ、鼻ポリープ、または消化管ポリープ等のポリープ、線維腺腫、呼吸器疾患(前述の定義を参照)、胆嚢炎、神経線維腫症、多発性嚢胞腎疾患、炎症性疾患、乾癬および皮膚炎を含む皮膚疾患、血管系疾患(前述の定義を参照)、血管上皮細胞の異常増殖が関与する症状、炎症性腸疾患、メネトリエ病、分泌性腺腫、またはタンパク質減少症、副腎性疾患、血管形成性疾患、老年性黄斑変性症、予測される眼性ヒストプラズマ症症候群(presumed ocular histoplasmosis syndrome)、増殖性糖尿病網膜症由来の網膜血管新生、網膜血管新生、糖尿病網膜症、または老年性黄斑変性症等の眼疾患、変形性関節症、くる病および骨粗鬆症等の骨関連病変、脳虚血後障害、肝硬変、肺線維症、サルコイドーシス、甲状腺炎、全身性高粘性症候群(hyperviscosity syndrome systemic)、オースラー-ウェーバー-ランデュ病、慢性閉塞性肺疾患、または火傷、外傷、放射線、脳卒中、低酸素症、または虚血などの線維性または浮腫疾患、皮膚の過敏症反応、糖尿病性網膜症および糖尿病性腎症、ギラン-バレー症候群、移植片対宿主病または移植片拒絶反応、パジェット病、骨または関節炎、フォトエイジング(例えば、ヒトの皮膚のUV照射)、良性前立腺肥大、アデノウイルス、ハンタウイルス、ライム病菌、エルシニア菌、および百日咳菌から選択した微生物性病原体を含む微生物感染症、血小板凝集による血栓、子宮内膜症、卵巣過剰刺激症候群、子癇前症、機能不全子宮出血、または機能性子宮出血等の生殖性症状、滑膜炎、急性および慢性腎症(増殖性糸球体腎炎および糖尿病誘発性腎性疾患を含む)、湿疹、肥大性瘢痕形成、内毒性ショック(endotoxic shockおよび真菌感染:家族性大腸ポリープ症、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー氏病、AIDS関連認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、網膜色素変性症、脊髄性筋萎縮症、および小脳変性症)、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、虚血性損傷、肺、腎臓、または肝臓の線維症、T細胞媒介性過敏症疾患、乳児肥大性幽門狭窄(infantile hypertrophic pyloric stenosis)、泌尿器系閉塞性症候群、乾癬性関節炎、および橋本甲状腺炎が含まれる。ここでの治療に好ましい非悪性の症状には、乾癬、子宮内膜症、強皮症、血管系疾患(例えば、再狭窄、アテローム動脈硬化、冠動脈疾患、または高血圧)、大腸ポリープ、線維腺腫、または呼吸器疾患(例えば、喘息、気管支炎(bronchitis、bronchieactasis)、嚢胞性線維症)が含まれる。
【0082】
HER2抗体による治療は、疾患の徴候又は症状の改善に結果としてなる。例えば、治療されている疾患が癌であるところ、上記の治療は生存の上昇(全体的に生存および/または進行のない生存)に結果としてなりうるか、および/または客観的な臨床効果(部分的又は完全)に結果としてなりうる。
投与される組成物中のHER2抗体は裸の抗体であることが望ましい。しかしながら、投与されるHER2抗体は、細胞障害性剤とコンジュゲートされてもよい。好ましくは、免疫コンジュゲート及び/又は結合するHER2タンパク質は細胞に内部移行され、その結果、結合する癌細胞を殺す際の免疫コンジュゲートの治療的有効性が増加する。好適な実施態様では、細胞障害性剤は癌細胞の核酸を標的とするか又は癌細胞の核酸を妨げる。このような細胞障害性剤の例には、メイタンシノイド、カリケアマイシン、RNA分解酵素及びDNAエンドヌクレアーゼが含まれる。
HER2抗体は、公知な方法、例えば静脈内投与、例えばボーラス又は一定期間中の継続注入、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、クモ膜下腔内、経口、局所、又は吸入によりヒト患者に投与される。抗体組成物の静脈内投与が好ましい。
【0083】
疾患の予防又は治療のために、上記のように、HER2抗体の適切な投与量は、治療される疾患の種類、疾患の重症度とコース、HER2抗体が予防的又は治療的な目的、前の治療、患者の病歴及びHER2抗体への反応のために投与されるかどうか、及び主治医の裁量によって決まる。HER2抗体は、1回で又は一連の治療を通じて患者に適切に投与される。疾患の種類及び重症度に従い、HER2抗体の約1μg/kgから50mg/kg(例えば、0.1〜20mg/kg)が患者に投与される最初の候補投与量であり、例えば、1回の又は複数回に分かれた投与によって、または連続注入による。ある実施態様において、HER2抗体の初期の注入時間は、続く注入時間よりも長くてもよい(たとえば初期の注入が約90分で、次の注入が約30分である(初期の注入が十分に耐えた場合))。HER2抗体の好適な投与量は、約0.05mg/kgから約10mg/kgの範囲である。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kgまたは10mg/kg(またはその任意の組合せ)の1又は複数の投与量は、患者に投与されることができる。上記の量は、断続的に、例えば毎週又は3週ごとに投与されてもよい(例えば、患者は約2から約20を受ける、例えば、HER2抗体の約6投与)。初期のより高い負荷投与量に続く、1又は複数のより低い投与量が投与されてもよい。ある実施態様において、HER2抗体は、約840mgの投与量として投与され、続いて約420mgが約3週ごとに投与される。ある実施態様において、HER2抗体は、約1050mgの投与量として投与され、続いて約525mgが約3週ごとに投与される。
他の治療薬は、HER2抗体と組合わせることが出来る。上記併用投与には、異なる製剤又は単一の薬物製剤を用いて同時投与ないしは同時的な投与、及び何れかの順序での連続投与が含まれ、このとき、両方(又はすべて)の活性薬剤が同時にそれらの生物活性を示す期間であることが好ましい。ゆえに、抗代謝性化学療法剤は、HER2抗体の投与の前か後に投与されてもよい。この実施態様では、抗代謝性化学療法剤の少なくとも一の投与とHER2抗体の少なくとも一回の投与間の経過時間は、好ましくはおよそ1か月以下及び最も好ましくはおよそ2週間以下である。あるいは他の療法剤とHER抗体は、単一の製剤又は異なる製剤で同時に患者に投与される。
【0084】
HER2抗体と組み合わされうる他の治療薬の例は、抗代謝剤のような化学療法剤、例えばゲムシタビン;第二の、異なるHER2抗体(例えばトラスツズマブなどの成長阻害性HER2抗体、又はHER2を過剰発現する細胞のアポトーシスを誘導するHER2抗体、例として7C2、7F3又はそのヒト化変異体)、異なる腫瘍関連抗原、例としてEGFR、HER3、HER4に対する抗体、抗ホルモン化合物、例えば抗エストロゲン化合物、例としてタモキシフェン又はアロマターゼ阻害薬、心臓保護剤(治療に関連する任意の心筋機能不全を予防するか又は軽減する)、サイトカイン、EGFR標的薬剤(例えばゲフィチニブ、エルロチニブ又はセツキシマブ(Cetuximab))、抗血管新生剤(特に、商標AVASTINTMとしてGenentechにより市販されるベバシズマブ(Bevacizumab))、チロシンキナーゼインヒビター、COXインヒビター(例えばCOX-1又はCOX-2インヒビター)、非ステロイド性抗炎症剤、セレコキシブ(CELEBREX(登録商標))、ファルネシルトランスフェラーゼインヒビター(例えば、Johnson and Johnsonから入手可能なチピファーニブ(Tipifarnib)/ZARNESTRA(登録商標) R115777又はSchering-Ploughから入手可能なロナファーニブ(Lonafarnib) SCH66336)、癌胎児性タンパク質CA125を結合する抗体、例えばオレゴボマブ(MoAb B43.13)、HER2ワクチン(例えば、PharmexiaのHER2 AutoVacワクチン又はDendreonのAPC8024タンパク質ワクチン又はGSK/CorixaのHER2ペプチドワクチン)、他のHER標的治療(例えばトラスツズマブ、セツキシマブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、CI1033、GW2016など)、Raf及び/又はrasインヒビター(例えば、国際公開公報2003/86467参照)、ドキソルビシン;トポテカン;GW572016;TLK286;EMD-7200、嘔気を治療する医薬、例としてセロトニンアンタゴニスト、ステロイド又はベンゾジアゼピン、皮膚発疹を予防するか又は治療する医薬又は標準的なざ瘡治療、局所用又は経口の抗生物質を含む、体温-低減医薬、例としてアセトアミノフェン、ジフェンヒドラミン又はメペリジン、造血成長因子などの何れかの一又は複数を含む。
上記の何れかの同時投与薬剤の好適な投薬は、現在用いられているものであり、薬剤とHER2抗体の併用作用(相乗効果)のために低減してもよい。
HER2抗体組成物と他の治療薬との組合せによる治療は、相乗的であるか又は付加よりも優れており、患者への治療的な利点に結果としてなる。化学療法剤が投与される場合、通常、それについて知られている投与量で投与されるか、または場合により、薬の複合作用または化学療法剤の投与に起因している負の副作用のために下げられる。上記の化学療法剤のための調製と投薬計画は、製造業者の指示書に従って使用できるか、又は熟練した実務家によって経験的に決定される。また、上記の化学療法のための調製と投薬計画は、Chemotherapy Service Ed., M.C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, MD (1992)に記載されている。
上記の療法に加えて、患者は、癌細胞の外科的除去及び/又は放射線療法を受けてもよい。
【0085】
VII.材料の寄託
以下のハイブリドーマ株化細胞を、アメリカ合衆国、バージニア20110−2209、マナッサス、ブールバード大学 10801、アメリカン・タイプ・カルチュア・コレクション(ATCC)に寄託した。
抗体名 ATCC 番号 寄託日
7C2 ATCC HB-12215 1996年10月17日
7F3 ATCC HB-12216 1996年10月17日
4D5 ATCC CRL 10463 1990年5月24日
2C4 ATCC HB-12697 1999年4月8日
本発明のさらなる詳細を、以下の非限定的な実施例により例証する。本明細書中で開示された全ての引用例は、出典明示によりここに特に取り入れている。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】HER2タンパク質構造の概略図、及びその細胞外ドメインのドメイン I〜IV(それぞれ配列番号19−22)のアミノ酸配列を提供する。
【図2】図2A及び2Bは、マウスのモノクローナル抗体2C4の可変軽鎖(V)(図2A)及び可変重鎖(V)(図2B)ドメイン(それぞれ配列番号1及び2);ヒト化2C4バージョン574(それぞれ配列番号3及び4)のVL及びVHドメイン、並びにヒトVL及びVHコンセンサス・フレームワーク (humκ1、軽鎖カッパ・サブグループI;humIII、重鎖サブグループIII)(それぞれ配列番号5及び6)のアミノ酸配列のアラインメントを示す。星印は、ヒト化2C4バージョン574とマウスモノクローナル抗体2C4との間の、又はヒト化2C4バージョン574とヒトフレームワークとの間の違いを特定する。相補性決定領域(CDR)はかっこ内である。
【図3】図3A及び3Bは、パーツズマブ軽鎖(配列番号15)及び重鎖(配列番号16)のアミノ酸配列を示す。CDRは太字で示す。炭化水素部分は、重鎖のAsn299に取り付けられる。
【図4】図4A及び4Bは、パーツズマブ軽鎖(配列番号17)及び重鎖(配列番号18)のアミノ酸配列を示す。各々が完全なアミノ末端シグナルペプチド配列を含む。
【図5】概略的に、HER2のヘテロ二量体結合部位における2C4の結合性を表す。それによって、活性化されたEGFRまたはHER3によるヘテロ二量体化を妨げる。
【図6】MAPK及びAkt経路へのHER2/HER3の結合を表す。
【図7】トラスツズマブ及びパーツズマブの活性を比較する。
【図8】図8A及び8Bは、トラスツズマブ軽鎖(配列番号13)と重鎖(配列番号14)のアミノ酸配列を示す。
【図9】図9A及び9Bは、変異体パーツズマブ軽鎖配列(配列番号23)及び変異体パーツズマブ重鎖配列(配列番号24)を表す。
【図10】MP(メインピーク)及びAV(酸性の変異体)のカチオン交換分離、細胞培養、回収及びPK(薬物動態)評価のための実験計画、及び分析試験を示す。新鮮な培地=標準培地;使用済み培地=細胞培養12日後の培地、細胞は遠心によって取り除かれた。溶存酸素、pH及び他のパラメータは、制御されなかった。
【図11】実施例1の典型的DIONEX PROPACTMカチオン交換(CEX)クロマトグラムを示す。
【図12】パーツズマブ出発物質及びCEX分画の解析を示す。AV=酸性の変異体;MP=メインピーク;及びBV=塩基性の変異体。
【図13】細胞培養培地に加えて12日間インキュベートされたメインピーク(MP)のCEXを示す。
【図14】メインピーク・インキュベーション条件を記載する。
【図15】酸性の変異体の特徴づけのための方法をまとめる。
【図16】実施例1のPK研究の、時間に対するパーツズマブ濃度を示す。
【図17】実施例1のPK研究の、曲線下面積(AUC)及び幾何平均比率を示す。
【実施例1】
【0087】
この実施例は、HER2(パーツズマブ)のドメインIIと結合する主要種HER2抗体及びその酸性の変異体を含んでなる組成物の特徴づけを記載する。
パーツズマブは、ヒトIgG1(κ)フレームワークに基づいて作成された組換えヒト化モノクローナル抗体である。それは、2つの重鎖(448残基)及び2つの軽鎖(214残基)を含む。2つの重鎖は2つの鎖間ジスルフィドによって連結されており、各軽鎖は1つの鎖間ジスルフィドを介して重鎖に取り付けられる。2つの重鎖のAsn299にパーツズマブのFc領域のN結合型グリコシル化部位がある。パーツズマブはハーセプチン(登録商標)トラスツズマブとは、軽鎖(12アミノ酸の違い)と重鎖(30アミノ酸の違い)のエピトープを結合している領域において異なる。これらの違いの結果として、パーツズマブはHER2受容体上の完全に異なるエピトープと結合する。ヒト上皮細胞上のHER2受容体に対するパーツズマブの結合は、それがHER受容体ファミリーの他のメンバーと複合体を形成することを妨げる(Agus et al., Cancer Cell 2:127-137 (2002))。複合体形成を遮断することによって、パーツズマブは複合体(例えば、EGF及びヘレグリン)のためのリガンドの増殖促進効果を妨げる。インビトロ実験は、パーツズマブ及びパーツズマブ−Fabの両方が、MCF7細胞にヘレグリン(HRG)が結合することを阻害すること、及びHER2−HER3複合体のHRG刺激性リン酸化が、パーツズマブ及びパーツズマブ−Fabの両方によって阻害されうることを証明した(Agus et al., Cancer Cell 2:127-137 (2002))。さらにまた、パーツズマブ及びパーツズマブのポリエチレングリコール誘導体化されたFabによる腫瘍増殖のインビボ阻害は、マウスの前立腺癌異種間移植モデルにおいて同等であることが見いだされた。 これらのデータは、抗体のFc領域が腫瘍増殖の阻害のために必要でないこと、さらには二価性及びFc介在性エフェクター機能はインビボ又はインビトロ生物学的活性について必要でないことを示唆した。
【0088】
この実施例では、パーツズマブのメインピークは、カチオン交換カラムから回収されて、細胞培養培地でインキュベートされたか、又は標準の抗体精製操作を使用して処理された。酸性の変異体は、メインピークの細胞培養培地成分とのインキュベーションで形成した。モノクローナル抗体の酸性の変異体は、カチオン交換クロマトグラフィーによる分離のメインピークより早く溶出する所望の生成物の改変された形態である。酸性の変異体の量及び/又は分布の微妙な違いは、しばしば処理前及び処理後の変化であり、生成物比較を示すことに難題を引き起す。精製方法は、酸性の変異体の形成に、ほとんど影響を及ぼさなかった。酸性の変異体分画で同定される変異体は、糖化変異体、脱アミド変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体及び非還元性変異体を含んでいた。集合的に、酸性の変異体は十分に強力だった。
何より、この研究の目的は、パーツズマブ酸性の変異体形成における細胞培養及び回収処理の影響をよりよく理解すること、パーツズマブの優勢な酸性の変異体を特徴づけること、及び酸性の変異体の薬物動態(PK)への影響を評価することである。
ラット薬物動態の結果は、酸性の変異体分画及びメインピーク分画の曲線下面積がパーツズマブ出発物質と同等であることを示す(それぞれ、幾何平均比率0.96及び0.95)。これらの結果は、酸性の変異体がメインピークから化学的に異なるにもかかわらず、それらが同等の薬物動態を有することを示す。
【0089】
方法及び結果
MP(メインピーク)及びAV(酸性の変異体)のカチオン交換分離、細胞培養、回収及びPK(薬物動態学)評価のための実験計画、及び分析試験を示す。新鮮な培地=標準培地;使用済み培地=細胞培養12日後の培地、細胞は遠心によって取り除かれた。溶存酸素、pH及び他のパラメータは、制御されなかった。
【0090】
A.メインピーク及び酸性の変異体の分離
パーツズマブの荷電変異体は、以下の条件を使用して、4.0×250mmのDIONEX ROPAC WCX−10TM(カチオン交換(CEX)カラムで分離した:
バッファーA:20mMのビストリス(pH6.0)
バッファーB:20mMのビストリス、200mMのNaCl、pH6.0
勾配:1.0ml/分で供給される0.5%B/分
カラム温度:35℃
検出:280nm
典型的クロマトグラムは、図11に示す。AV(酸性の変異体)及びMP(メインピーク)分画は回収された。効力及びモノマー含有量は、パーツズマブ出発物質、メインピーク及び酸性の変異体(図12)の間で同程度だった。メインピーク及び酸性の変異体CEX分画の純度は、CEX(図12)による、90%の純度のクライテリアに基づいて、薬物動態研究のために許容可能だった。
【0091】
B.メインピーク添加実験
図10で概説するように、CEXによって分離されるパーツズマブ・メインピークは、新鮮な又は使用済み細胞培養培地に加えられ、37℃で12日間インキュベートされた。さまざまな時点の試料は、CEXによって直接に、又はプロテインAによる分離後、分析された。また、メインピークは、グルコース及びペプトンのような培地成分を有するか又は有しない培地に付加された。更に、メインピークは、プロテインAクロマトグラフィー(ProA)、低pH処理及びSPセファロース・ファスト・フロー(SPFF)のようなの様な標準的回収操作で複数回処理されて、CEXによって分析された。
新鮮な又は使用済み培地で12日間インキュベートされたメインピークのCEXプロフィールは、類似していた(図13及び14)。メインピークは、使用済み培地におけるものよりも、新鮮な培地のインキュベーション後に、より多く減少した。さまざまな培地成分の除去は、メインピークの減少に影響を及ぼした。インキュベートされた試料のパーセント・メインピークは、プロテインA分離によるものと、そうでないものとで同じであった。培地バッファー単独のインキュベーションによって、メインピークの減失が生じた。
培地からのメインピークのプロテインA分離はCEXプロフィールに影響を及ぼさなかったことは、インキュベーションの間の修飾がプロテインA結合性または溶出に影響を及ぼさないことを示している。回収操作は、パーセントCEXメインピークにほとんど影響を及ぼさなかった。
【0092】
C.酸性の変異体の特徴付け
パーツズマブ酸性の変異体は、パーツズマブ出発物質からCEXによって分離されるか、またはメインピークは細胞培養培地中でインキュベートされた。単離された酸性の変異体は、図15に挙げた方法によって分析された。酸性の変異体は、全ピーク面積の21%からなり、従って酸性の変異体の約80%(21%の17%)は同定された。脱アミド化形態は定量化できなかった。
培地でインキュベートされたメインピークによって作成された酸性の変異体で同定された形態は、パーツズマブ出発物質で同定されるものと同様だった。以下の形態が検出された:シアル化変異体、ジスルフィド還元化変異体、糖化変異体、非還元変異体及び脱アミド化変異体。高次糖化形態は、還元及びPNGase処理後に、エレクトロスプレー・イオン化質量分析(ESI−MS)によって同定された。
D.薬物動態(PK)研究
10mg/kgの単回の静脈内(IV)投与量、アームにつき12ラット、3アーム
(酸性の変異体、メインピーク、パーツズマブ出発物質)。広範囲のPK試料採取は、35日間行われた。酸性の、メインピーク、及びパーツズマブ出発物質の間のAUC(0−14日)の幾何平均比率。幾何平均比率=GM試料/GM IgG1出発物質。パーツズマブ濃度の対時間曲線は、パーツズマブか出発物質、酸性の変異体及びメインピーク(図16及び17)について類似していた。暴露では、酸性の変異体、メインピーク及びパーツズマブ出発物質の間で有意差は観察されなかった。GMRは、90%CI、0.08−1.26間で、〜1.0だった。
【0093】
結論
複数の細胞培養因子は、酸性の変異体形成に寄与するが、回収が、酸性の変異体形成に影響することは示されなかった。ジスルフィド還元、非還元、シアル化、糖化、及び脱アミド化変異体は、酸性画分において同定された。パーツズマブ出発物質から分離された酸性画分及びCEXメインピークのインキュベーションによって生み出されるそれらは、同じ形態を含んでいた。酸性の変異体、メインピーク及びパーツズマブ出発物質は、同じ薬物動態を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2のドメインIIと結合する主要種HER2抗体及びその酸性の変異体を含む組成物であって、酸性の変異体が糖化変異体、ジスルフィド還元化変異体又は非還元性変異体を含む、組成物。
【請求項2】
組成物が糖化変異体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物がジスルフィド還元化変異体を含む、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物が非還元性変異体を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の組成物。
【請求項5】
酸性の変異体が糖化変異体、脱アミド化変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体及び非還元性変異体を含む、請求項1から4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
酸性の変異体の量が約25%未満である、請求項1から5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
主要種HER2抗体及び酸性の変異体が全て完全な抗体である、請求項1から6の何れか一項に記載の組成物。
【請求項8】
主要種HER2抗体が、それぞれ配列番号3及び4に記載の可変軽鎖及び可変重鎖アミノ酸配列を含む、請求項1から7の何れか一項に記載の組成物。
【請求項9】
主要種HER2抗体が、それぞれ配列番号15及び16に記載の軽鎖及び重鎖アミノ酸配列を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
主要種抗体のアミノ末端リーダー伸長変異体を含む、請求項1から9の何れか一項に記載の組成物。
【請求項11】
アミノ末端リーダー伸長がVHS−を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
アミノ末端リーダー伸長がVHS−から成る、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
主要種HER2抗体のアミノ酸配列変異体が、1又は両方の重鎖にC末端リジン残基を含む抗体、及び1又は複数の酸化メチオニン残基を有する抗体から成る群から選択される、請求項1から12の何れか一項に記載の組成物。
【請求項14】
薬学的に許容可能な担体中に請求項1から13の何れか一項の組成物を含む、製薬製剤。
【請求項15】
無菌である、請求項14に記載の製薬製剤。
【請求項16】
それぞれ配列番号3及び4に記載の可変軽鎖及び可変重鎖配列を含む主要種HER2抗体及び主要種抗体の酸性の変異体を含む組成物であって、酸性の変異体が糖化変異体、脱アミド化変異体、ジスルフィド還元化変異体、シアル化変異体及び非還元性変異体含む、組成物。
【請求項17】
薬学的に許容可能な担体中に請求項16の組成物を含む、製薬製剤。
【請求項18】
患者のHER2陽性癌を治療する方法であって、癌を治療するための有効量の請求項17に記載の製薬製剤を患者に投与することを含む、方法。
【請求項19】
癌が乳癌、卵巣癌、肺癌及び結腸直腸癌からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
主要種抗体及び酸性の変異体が本質的に同じ薬物動態を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
医薬組成物を作成する方法であって、
(1)HER2のドメインIIと結合する主要種HER2抗体及びその酸性の変異体を含む組成物であって、その酸性の変異体が糖化変異体、ジスルフィド変異体又は非還元性変異体を含む組成物を調製すること、及び
(2)組成物中の酸性の変異体を評価し、その量が約25%未満であることを確認することを含む、方法。
【請求項22】
工程(2)に、組成物がシアリダーゼで処理されるイオン交換クロマトグラフィー、ドデシル硫酸ナトリウムによる還元キャピラリー電気泳動(CE−SDS)、非還元CE−SDS、ボロン酸クロマトグラフィー、及びペプチドマッピングからなる群から選択される方法によって、酸性の変異体を評価することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
工程(2)に、イオン交換クロマトグラフィーによって酸性の変異体を評価することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
カルボン酸官能基を有するカチオン交換剤を使用するカチオン交換クロマトグラフィーを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
クロマトグラフィーの条件が、20mMのビストリス(pH6.0)のバッファーA;20mMのビストリスと200mMのNaCl(pH6.0)のバッファーB;及び1.0mL/分の0.5%のバッファーBの勾配を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
薬学的に許容可能な担体と工程(2)後の組成物を組合わせることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
工程(2)において評価される組成物が薬学的に許容可能な担体中にある、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2011−511780(P2011−511780A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545103(P2010−545103)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/032220
【国際公開番号】WO2009/099829
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】