説明

HGFの中和可能エピトープ及びこれに結合する中和抗体

本発明の目的は、HGFとその受容体幹の結合を抑制するHGFの新規中和可能エピトープ及び前記エピトープに結合して単一の薬剤としてHGFを中和させることができる中和抗体を提供すること。本発明のHGFの中和可能エピトープに結合するHGFに対する中和抗体は単剤としてHGFを中和させることができるので、HGFとその受容体であるMetの結合によって引き起こされる難治病疾患及び癌を予防、治療するのに効果的に用いられることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HGFがその受容体に結合することを抑制するHGF(hepatocyte growth factor)の中和可能エピトープ、及び前記HGFの中和可能エピトープに結合し単一の薬剤としてHGFを中和させることができるHGFに対する中和抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
HGF(肝細胞増殖因子hepatocyte growth factor)は間葉細胞(mesenchymal cell)により生産される多機能性ヘテロ二量体(heterodimer)ポリペプチドである。HGFは、N末端ドメインとセリンプロテアーゼ類似ベータ−鎖C末端ドメインに共有結合で連結された4個のクリングルドメイン(NK4)を含むアルファ−鎖からなっている(図1参照)。ヒトHGFは、成熟タンパク質には存在しない29個のアミノ酸シグナルペプチドを有する728個のアミノ酸で構成された生物学的に不活性の単鎖前駆体として合成される。生物活性HGFは、特異的な細胞外の血清セリンプロテアーゼによるR494残基での切断を通じて得られる。この活性HGFは、ジサルファイド結合で連結された69kDaのアルファ−チェーンと34kDaのベータ−チェーンで構成された完全活性ヘテロ二量体である。しかし、HGFの全体3次元構造は未だに明かされておらず、これらのドメインのいずれがHGFの特徴的な機能を担当するかについても明確に知られていない(Maulik et al., Cytokine & Growth Factor Reviews 13(1): 41-59, 2002)。
その受容体であるMetに対するHGFの結合は、多様な細胞類型の成長及び分散を誘導し、上皮間葉転移及び細管(tubule)と内腔(lumen)の形成を媒介し、また、血管形成を促進する。MetとHGFが共にノックアウット(knock−out)されたマウスは胚芽段階で死亡率が高く、胎盤、胎児の肝及び手足/筋肉形成において分化欠陥を示す(Cao et al., PNAS 98(13): 7443-7448, 2001; Gmyrek et al., American Journal of Pathology 159(2): 579-90, 2001)。
【0003】
元々Metは、トランスフォーミング活性を有する構成的に活性(constitutively active)な変形されたタンパク質キナーゼをコードする、ヒト癌遺伝子trp−metの産物として最初に分離された。また、Met活性化は、血管形成、細胞運動性及び細胞表面プロテアーゼの調節のような過程に刺激的な影響を及ぼすことから始めて癌の転移を著しく増加させると知られている(Wielenga et al., American Journal of Pathology 157(5):1563-73, 2000)。Metは、肝、前立腺、大腸、乳房、脳及び皮膚を含む多様なヒト癌で過発現すると報告されているため(Maulik et al, supra)、癌の予防及び治療のための重要な標的因子と見なされている。また、マラリヤ感染が分泌したHGFによるHGF受容体の活性化に依存的だと報告されたことがあり、従って、HGF及びその受容体はマラリヤ予防に対する新たな治療法の潜在的な標的として知られている(Carroloo M, et al., Nat. Med. 9(11): 1363-1369, 2003)。また、HGFがアルツハイマー病から引き起こされる病理学的変化に関与し得る可能性が報告されている(Fenton H, et al., Brain Res.779(1-2):262-270, 1998)。さらに、HGFが再上皮細胞化、新生血管形成及び果粒化組織形成を含む皮膚傷の治癒過程の向上に明らかに関与することが発見されている(Yoshida S.et al., J.Invest.Dermatol.120(2):335-343, 2003)。
【0004】
一方、癌の発病及び転移に重要な役目をする腫瘍−関連成長因子またはサイトカインとその受容体の選択的中和は抗癌剤開発のための魅力的な戦略として認識されてきた。最近、これらを標的にするハーセプチン(herceptin)のような多数の治療用モノクローナル抗体(mAbs)及び抗アンジオポエチン(anti-angiopoietin)ヒトmAbsが組合せ抗体ライブラリ(combinatorial antibody library)のファージ(phage)ディスプレイのような組換え抗体技術を利用して開発されている。
【0005】
HGFに対する多クローン抗体が多くのHGFの生物学的機能を抑制するということがよく知られている。また、最近はHGFに対する中和mAbsの混合物が動物モデルで抗−腫瘍活性を示すと報告されたことがある(Cao et al., PNAS 98(13):7443-7448, 2001)。具体的に、カオらは、in vitro及びin vivoでHGF活性を抑制するために3個以上のエピトープ、例えばMet受容体に対して2個、ヘパリンに対して1個のエピトープが必要であり、in vitro実験で少なくとも3個のmAbsの混合物がHGFを中和させることができることを開示している。
しかし、今まで単剤としてHGFを中和してin vitroで細胞分散活性(cell scattering activity)を制御できるモノクローナル抗体は報告されたことがない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、その受容体に対するHGFの結合を抑制するHGFの中和可能エピトープを提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は次のものを提供することである。
前記中和可能エピトープをコードするポリヌクレオチド;
前記中和可能エピトープに結合し、単剤としてHGFを中和させることができるHGFに対する中和抗体;
難治病及び癌を予防・治療するための前記中和抗体の用途;
難治病及び癌を予防・治療するための前記中和抗体及び薬剤学的に許容可能な担体を含む薬学組成物;及び
患者に前記中和抗体を投与することを含む、難治病及び癌を予防・治療する方法。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を果たすために、本発明は、配列番号32または33のアミノ酸配列を有するHGFの中和可能エピトープを提供する。
【0009】
また、本発明は、配列番号27または29のアミノ酸配列を含むV領域と配列番号28または30のアミノ酸配列を有するV領域を含む前記中和可能エピトープに結合するHGFに対する中和抗体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるHGFの中和可能エピトープに結合する中和抗体は単一の薬剤としてHGFを中和することができるので、効果的にHGFとその受容体であるMetとの結合により引き起こされる様々な疾患、特に、癌の予防及び治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書で用いる用語「中和可能エピトープ」は、HGFがその受容体であるc−Metに結合することを抑制することができる任意のタンパク質決定部を含む。エピトープ決定部は、一般的にアミノ酸または糖側鎖のような分子の化学的に活性化されたものが群を構成し、通常的に特異的な電荷特徴だけではなく、特異的な3次元構造的な特性を有する。好ましくは、本発明の中和可能エピトープは:32または33のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0012】
用語「中和抗体」は、HGFの中和可能エピトープに特異的に結合し、HGFの生活性を抑制・除去できる抗体を意味する。概して中和抗体はこのようなHGFの生活性を少なくとも50%、好ましくは80%以上抑制する。本発明の中和抗体は難治病および癌を予防・治療するための治療学的適用に特に有用である。
【0013】
本発明は、HGFの中和可能エピトープとして作用することができる:32または33のアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供する。
【0014】
本発明によるHGFの中和可能エピトープを製造する目的の下で、HGFで免疫化された動物の抗血清が組換えヒトHGFに結合するか否かを決定するために、ELISA分析を行い、該抗血清がHGFに特異的に結合することを確認してから、HGFで免疫化された動物から総RNAを抽出しcDNAを合成する。
【0015】
ラビット軽鎖(V)(Vκ、Vλ)及び重鎖(V)を含む抗体可変領域(Variable region)とヒトCκ及びCH1を含む抗体不変領域(Constant region)を増幅するために、前記合成されたcDNAを鋳型として:1〜20のプライマーを組合せてPCR反応を行い、これから得たPCR産物を鋳型としてラビット/ヒトキメラ抗体の軽鎖及び重鎖を増幅する。増幅されたラビットV及び V配列を、増幅されたヒトCκ及びCH1配列と連結した後、抗体切片(Fab)をコードする最終PCR産物を発現ベクターにクローニングした後、前記ベクターを宿主細胞、例えば大腸菌に形質変換させてキメララビット/ヒトFabライブラリを製造する。本発明で使用可能な前記ベクターと宿主細胞は当業界で通常的に用いられるものであれば制限なく用いることができるが、発現ベクターとしてファージミドベクターpComb3X(Scripps Research Institute, CA, USA)を、宿主細胞としてE.Coli ER2537(NEB)を用いることが好ましい。
【0016】
HGFにコーティングされたELISAプレート及び抗ヒトゴートFab多クローン抗体を用いたEIAを用いて抗HGF Fabを含むファージクローンを選別する。 前記選別されたファージクローンを各々H61(クローン61)及びH68(クローン68)と命名した。
【0017】
H61及びH68クローンに対して塩基配列分析を行い、分析された塩基配列からこれらのアミノ酸配列を決定した。本発明の好ましい実施の形態においては、塩基配列分析を染料−標示プライマーシーケンス方法(dye labeled primer sequencing method)(Chung et al., J Cancer Res Clin Oncol 128:641-649, 2002)を用いて行った。その結果、H61クローンはそれぞれ配列番号23及び24の塩基配列を有するV及びV領域で構成され、H68クローンはそれぞれ配列番号25及び26の塩基配列を有するV及びV領域で構成されることを確認した。
【0018】
分析された塩基配列からH61及びH68クローンのV及びV領域それぞれに対するアミノ酸配列を類推した結果、H61クローンは:27のアミノ酸配列を有するV領域と配列番号28のアミノ酸配列を有するV領域で構成され、H68クローンは配列番号29のアミノ酸配列を有するV領域と:30のアミノ酸配列を有するV領域で構成されることを確認した。
【0019】
H61及びH68クローンのアミノ酸配列中の骨格構造領域(framework region;FR)と抗原結合部(complementarity determining region;CDR)とを分析した結果、H61及びH68クローンのV及びV領域は、それぞれ4個のFRと3個のCDRを有することが明らかになった(表2参照)。
【0020】
HGFの中和可能エピトープを同定するために、H61及びH68クローンを複合ペプチドライブラリのファージディスプレイを用いたパニング(panning)を通じて増殖させた後、前記ファージ群を抗HGF H61あるいは抗HGF H68 Fabと抗HGF H61 Fab−あるいは抗HGF H68 Fab−コーティングされたELISAプレートを用いるEIAで分析した。これから抗HGF H61あるいは抗HGF H68 Fabに結合するファージクローンを選別した。本発明の好ましい実施の形態においては、前記ペプチドライブラリとしてPHDペプチドライブラリ(PHD peptide libraryTM;New England Biolob)を用いる。
【0021】
選別したファージクローンに対して塩基配列分析を行い、分析された塩基配列から類推したアミノ酸配列は配列番号32及び33のアミノ酸配列を有し、これらはc−METに結合することが確認できる(図6参照)。このような結果は、抗HGF抗体H61またはH68の抗原結合部はc−METのHGF結合部を模倣(mimicking)し、抗HGF H61またはH68に結合する:32及び33のペプチドは HGFのc−MET結合部を模倣するということを示す。従って、本発明の配列番号32及び33のペプチドはHGFの中和可能エピトープとして作用することが判明した。
【0022】
また、本発明は、前記中和可能エピトープをコードするポリヌクレオチドを提供する。具体的に、前記中和可能エピトープは、配列番号34または35の塩基配列を有する。
【0023】
さらに、本発明は、HGFの中和可能エピトープとして配列番号32または33のペプチドに結合してHGFを中和させることができるHGFに対する中和抗体を提供する。
本発明の中和抗体はキメラ抗体、モノクロナール抗体またはヒト化抗体である。
【0024】
キメラ抗体は、ヒト及び非ヒト由来部を含む免疫グロブリン分子である。具体的に、キメラ抗体の抗原結合領域(antigen combining region)(可変領域)は非ヒト起源(例えば、マウス、ラビット、家禽類)から由来し、免疫グロブリンに生物学的効果基機能を付与するキメラ抗体の不変領域はヒト起源から由来する。前記キメラ抗体は、非ヒト抗体分子の抗原結合特異性とヒト抗体分子によって付与された効果基機能を有する。
一般的に、キメラ抗体の生産に用いられる過程は次の段階を含む。
(a)抗体分子の抗原結合部をコードする正確な遺伝子切片を定めてクローニングする段階であって、前記遺伝子切片(VDJとして知られている重鎖についての可変的、多様性及び連結領域、Vとして知られている軽鎖についての可変的、連結領域、または単にVとして知られている可変領域)はcDNAまたはゲノムの形態であり得、
(b)不変領域またはその目的する部位をコードする遺伝子切片をクローニングする段階、
(c)前記可変領域を前記不変領域と連結し、これが転写・翻訳できる形態に構造して完全なキメラ抗体としてコードされる段階;
(d)前記構造物を選別可能マーカー及びプローモーター、エンハンサー及びポリ(A)付加信号を含むベクター内に導入する段階、
(e)前記ベクターを増幅して真核細胞(通常は哺乳動物リンパ球内)に導入(形質感染)させる段階、
(f)前記選別可能マーカーを発現する細胞を選別する段階、
(g)目的するキメラ抗体を発現する細胞をスクリーニングする段階、及び
(h)前記抗体をその適切な抗原特異性及びエフェクター機能(effector factor)に対して前記抗体を調査する段階。
モノクローナル抗体は、任意の真核、原核、またはファージクローンを含む単一クローンから誘導された抗体を称する。前記モノクローナル抗体は、二つのタンパク質、すなわち重鎖及び軽鎖を含む。前記モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術を含む当分野に公知の多様な技術中の一つまたはこれらの組合せを用いて製造できる。
【0025】
ヒト化抗体は、そのCDRs(相補性決定領域)が非ヒト免疫グロブリンから由来し、前記抗体分子の他の部分が主にヒト免疫グロブリンから由来する分子を意味する。本明細書で用いる、前記用語「抗体」は、抗体及び抗体に由来する分子の両方を幅広く意味する。このような抗体由来分子は、少なくとも一つの可変領域(可変領域の重鎖または軽鎖)を含み、Fab断片、Fab’ 断片、F(ab’).Sub.2断片、Fd断片、Fab’ 断片、Fd断片、Fabc断片、Sc抗体(単鎖抗体)、二重特異性抗体(diabodies)、個別的抗体軽鎖、個別的抗体重鎖、前記抗体鎖間のキメラ融合および他の分子のような分子構造を含む。
【0026】
特に、本発明は、HGFに対する中和抗体としてラビット/ヒトキメラ抗体を提供する。本発明の中和抗体は、配列番号27のV領域と配列番号28のV領域とを含むか、または:29のV領域と:30のV領域とを含む。
【0027】
ある中和抗体が中和活性を示すか否かは、MDCK2分散(scattering)分析によって確認することができる(Cao et al., PNAS 98(13):7443-7448, 2001)。MDCK2細胞に2ng/ml(29pM)のHGFを処理した場合に、本発明の中和抗体はHGFに対する抗HGF Fabのモル比(molar ratio)が50:1であり、HGFに対する抗ヒトFab抗体のモル比が50:1〜100:1である時、最高の分散抑制活性を示す(図9参照)。このような結果は、HGFを中和してMDCK2細胞の分散を抑制するために、少なくとも3個のエプトープを中和する必要があるというカオら(Cao et al.、上記)の報告とは異なり、少なくともin vitroで1個のエピトープのみでHGFを中和可能であることを最初に示すものである。また、本発明では、中和可能エピトープに結合する抗体が二価(bivalent)以上である場合のみに中和抗体が中和活性を発揮するということが証明されたが、このような結果は、同じエピトープがHGFの二つ以上の部分に存在できることを示す。
【0028】
本発明の他の実施の形態では、BIAcore分析方法を用いてHGFに対する抗HGF Fabの結合親和力、c−Metに対するHGFの結合のためのクローン68の抑制活性及びc−Metに対するHGFの結合のための水溶性c−Metの抑制活性をEIAによって調べることができる。クローン68抗体の注入量の増加に応じてセンサーチップ上に固定されたHGFに結合するクローン68抗体の量は増加し(図10参照)、クローン68抗体の濃度の増加に応じてc−METに結合するHGFの量は減少する(図11参照)。また、センサーチップ上に固定されたc−Metに結合するHGFの量は、水溶性c−Metの濃度の増加に応じて減少する(図12参照)。
【0029】
前記結果は、本発明による中和抗体がHGFを中和させることができる単一の薬剤として作用することを立証する。
【0030】
従って、本発明は、HGFがその受容体に結合して引き起こされる難治病及び癌を予防・治療するための本発明の中和抗体及び薬剤学的に許容可能な担体を含む薬学組成物を提供する。また、本発明は、本発明の中和抗体を用い難治病及び癌を予防・治療する方法を提供する。前記癌の好ましい例としては、これに限定されるものではないが、肝、前立腺、大腸、乳房、脳及び皮膚を含む多様なヒト癌を含み、難治病は、HGFがその受容体c−Metに結合して引き起こされる疾患であるが、これに限定されるものではなく、マラリヤ、アルツハイマー病及びその他を含む。
【0031】
本発明の薬学的組成物は、通常的な方法のいずれか一つにより製剤化できる。剤形の製造において、有効成分は担体と混合または希釈されることが望ましい。適当な担体、賦形剤または希釈剤の例としては、ラクトース、デックストロス、スクロス、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスファート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微細結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油を含む。前記剤形は、追加的に充填剤、抗凝固制、光沢剤、湿潤剤、芳香剤、乳化剤、防腐剤及びその他等々を含み得る。本発明の組成物は、患者に投与された後に活性成分の迅速で持続的な、又は遅延された放出を提供するために当分野に公知の方法のいずれか一つを用いて剤形化されることができる。
【0032】
本発明の薬学剤形は、注射(例えば、筋肉内、静脈内、腹膜内、皮下)または有効形態で血流内への伝達を保障する他の方法により投与できる。また、前記薬学剤形は、全身的だけでなく局所的な治療効果を発揮するために腫瘍内、腫瘍周囲、病変内、または病変周経路に投与され得るが、この場合、局所的または静脈内の注射が望ましい。
ヒト患者を治療するために、有効成分として本発明の中和抗体の通常的な投与量は、0.1〜100mg/kg体重であり、好ましくは1〜10mg/kg体重の範囲であり、1日1回または数回に分けて投与することができる。しかし、活性成分の実際投与量は、治療条件、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、及び癌の種類及び症状の重症度などの多様な関連因子に照らして決定するべきであるので、前記投与量はどの方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を、実施例を通じてより詳しく説明する。
但し、下記の実施例は、本発明を例示することだけであって、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
HGF免疫化及び抗体ライブラリ製造
4〜5ヶ月にわたって、ニュージーランドホワイト種のラビット2匹にMPL(Monophosphoryl Lipid A, highly-refined non-toxic Lipid A isolated from remutants of S.minnesota)+TDM(synthetic Trehalose Dicorynomycolate, an analogue of trehalose dimycolate from the cord factor of the tubercle bacillus)+CWS(Cell Wall Skeleton, from deproteinized and delipidated cell walls of mycobacteria)補助剤(Sigma社)のエマルジョンに分散させたHGF(R&D systems、USA)を3週の間隔で5回皮下注射して免疫させた。西洋ワサビペルオキシダーゼが結合された抗ラビットFcゴート多クローン抗体(Pierce社)を用いたELISAを通じて前記免疫ラビットの抗血清と組換えヒトHGF(R&D systems or Research Diagnostics, Inc.)との結合有無を分析した。その結果、 HGF免疫前に得た血清はHGFにほとんど結合しない一方、5回皮下注射後に得た血清はHGFに特異的に結合することが判明した。
【0035】
最後の注射から7日後に、免疫動物から脾臓及び骨髄を採取し、TRI試薬(Molecular Research Center社)及び塩化リチウム沈殿を用いて総RNAを分離した。オリゴ(dT)をプライマーとし、スーパースクリプト前増幅システム(SUPERSCRIPT Preamlification System; Life Technologies社)を用いて第1ストランドcDNAを合成した。上記において、ラビット/ヒト異種抗体ライブラリは、レーダーなど(Rader C.et al., J.Biol.Chem.275:13668-13676, 2000)の方法により製作した。
【0036】
実施例2
ラビット−由来Ab可変領域及びヒト−由来Ab不変領域の増幅
(2−1)
ラビット−由来Ab可変領域の増幅
ラビットV(Vκ、Vλ)及びVの可変領域を増幅するために、下記表1のプライマー組合せを用いてPCR反応を行った。
【表1】

【0037】
PCR反応溶液を実施例1で合成した1μlの鋳型cDNA(約0.5μg)、60pmolのプライマー、10μlの10×PCR緩衝溶液、8μlの2.5mM dNTP混合物及び0.5μlのTaqポリメラーゼを混合し、蒸留水で最終体積を100μlにした。PCR条件は、94℃で10分間初期変性(denaturation)させ、94℃で15秒、56℃で30秒及び72℃で90秒の反応を30回繰り返した後、72℃で10分間最終延長させた。このように増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動させた後、クィアエクスゲル抽出キット(Qiaex gel extraction kit、Qiagen社)を用いてゲルから精製した。
【0038】
(2−2)
ヒト−由来Ab不変領域の増幅
ヒト−由来Ab不変領域のCκ領域を、PCRを利用して次のように増幅した。PCR反応溶液を20ngのpComb3XTTベクター(Barbas et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA 15:88(18), 7978-82, 1991)、配列番号14及び15のプライマーをそれぞれ60pmol、10μlの10×PCR緩衝溶液、8μlの2.5mM dNTP混合物及び0.5μlのTaqポリメラーゼを混合し、蒸留水で最終体積を100μlにした。PCR条件は、94℃で10分間初期変性させ、94℃で15秒、56℃で30秒及び72℃で90秒の反応を20回繰り返した後、72℃で10分間最終延長させた。
【0039】
一方、ヒト−由来Ab CH1領域を増幅するために次のようにPCRを行った。PCR反応溶液を20ngのpComb3XTT(Barbas et al., 上記)、配列番号16及び17のプライマーをそれぞれ60pmol、10μlの10×PCR緩衝溶液、8μlの2.5mM dNTP混合物及び0.5μlのTaqポリメラーゼを混合し、蒸留水で最終体積を100μlにした。PCR条件は、94℃で10分間初期変性させ、94℃で15秒、56℃で30秒及び72℃で90秒の反応を20回繰り返した後、72℃で10分間最終延長させた。このように増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動させた後、クィアエクスゲル抽出キット(Qiagen社)を用いてゲルから精製した。
【0040】
実施例3
キメラ抗体の軽鎖及び重鎖の増幅
(3−1) 軽鎖の増幅
軽鎖を増幅するためのPCRを次のように行った。PCR反応溶液をそれぞれ100ngの前記実施例(2−1)で精製されたV(Vκ、Vλ)PCR産物と前記実施例(2−2)で精製されたCκPCR産物、配列番号18及び15のプライマーをそれぞれ60pmol、10μlの10×PCR緩衝溶液、8μlの2.5mM dNTP混合物及び0.5μlのTaqポリメラーゼを混合し、蒸留水で最終体積を100μlにした。PCR条件は、94℃で10分間初期変性させ、94℃で15秒、56℃で30秒及び72℃で120秒の反応を20回繰り返した後、72℃で10分間最終延長させた。
増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動させた後、クィアエクスゲル抽出キット(Qiagen社)を用いてゲルから精製した。
【0041】
(3−2) 重鎖の増幅
重鎖のFd領域(V及びCH1)を増幅するためのオーバーラップ延長PCR(overlap extension PCR)を次のように行った。PCR反応溶液をそれぞれ100ngの前記実施例(2−1)で精製されたV PCR産物と前記実施例(2−2)で精製されたCH1 PCR産物、配列番号19及び17のプライマーをそれぞれ60pmol、10μlの10×PCR緩衝溶液、8μlの2.5mM dNTP混合物及び0.5μlのTaqポリメラーゼを混合し、蒸留水で最終体積を100μlにした。PCR条件は、94℃で10分間初期変性させ、94℃で15秒、56℃で30秒及び72℃で120秒の反応を20回繰り返した後、72℃で10分間最終延長させた。増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動させた後、クィアエクスゲル抽出キット(Qiagen社)を用いてゲルから精製した。
【0042】
実施例4
キメラFabライブラリの製造
キメララビット/ヒトFab遺伝子を増幅するためにPCRを次のように行った。PCR反応溶液をそれぞれ100ngの前記実施例(3−1)で精製されたキメラ軽鎖産物と前記実施例(3−2)で精製されたキメラ重鎖産物、配列番号18及び20のプライマーをそれぞれ60pmol、10μlの10×PCR緩衝溶液、8μlの2.5mM dNTP混合物及び0.75μlのTaqポリメラーゼを混合し、蒸留水で最終体積を100μlにした。PCR条件は、94℃で10分間初期変性させ、94℃で15秒、56℃で30秒及び72℃で180秒の反応を20回繰り返した後、72℃から10分間最終延長させた。
【0043】
増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動させた後、クィアエクスゲル抽出キット(Qiagen社)を用いてゲルから精製した。
【0044】
ラビットV及びV配列をコードするPCR産物をヒトCκ及びCH1配列をコードするPCR産物と連結させた後、抗体切片のライブラリをコードする最終PCR切片を限定酵素SfiIで切断し、ファージミドベクターpComb3X(the Scripps Research Institute, CA, USA)に挿入した(図2)。製造されたファージミドDNAでE.coli ER2537(NEB)を電気穿孔(eletroporation)法により形質転換させた。このように導入されたファージは、ファージコートタンパク質(phage coat protein)であるpIII上に融合された融合タンパク質としてFabを表面発現(display)し、このDNAは、ファージDNA内のファージ粒子(一単位としての遺伝子及びポリペプチド)を形成する。
【0045】
実施例5
抗HGF Fabを含むファージクローンの選別
96−ウェルプレート(costar No.3690)を25μlのTBS溶液に溶解されたHGFで各ウェル当り10μl/mlの濃度でコーティングした後、実施例 4で製造したFabを表面発現するファージを前記ウェルプレートに添加して室温で 2時間放置した後、前記ウェルプレートに固定されたHGF抗原に対してパニング(panning)を実施した。前記ウェルプレートをPBSの0.5%(v/v)ツイン20溶液で洗浄した後、0.1M HCl−グリシン(pH2.2)で湧出した。洗浄段階は、一番目のパニングでは5回、二番目のパニングでは10回、三番目のパニングでは15回と増加させ、全体として7回のパニングを行った。パニングが進行されるによりHGFに特異的に結合するFabを表面発現するファージ群が増加したが、この現像はHRP−結合された抗M13ファージ抗体(HRP−conjugated anti−M13 phage antibody、Pharmacia)及びHGF−コーティングされたELISAプレートを用いたEIAでFabに結合するHGFを示す吸光度における増加をもたらす(図3)。最後回のパニング後に、HGF−コーティングされたELISAプレート及び抗ヒトゴートFab多クローン抗体(Pierce)を用いたEIAを用いて抗HGF Fabを含むファージクローンを選別し、これらのクローンをH61(クローン61)及びH68(クローン68)で命名した。基準値以上の強い信号を示す(図7)H61及びH68クローンの塩基配列分析を次のように行った。
【0046】
実施例6
選別されたファージの塩基配列を分析
塩基配列を分析は、配列番号21及び22の2種シーケンシングプライマーを用いた染料−標識プライマーシーケンシング方法(dye labeled primer sequencing method)(Chung et al., J.Cancer Res.Clin.Oncol.128:641-649, 2002)を用いて行った。その結果、H61クローンは、配列番号23の塩基配列を有するV領域及び配列番号24の塩基配列を有するV領域で構成される抗HGF Fabをコードし、H68クローンは、配列番号25の塩基配列を有するV領域及び配列番号26の塩基配列を有するV領域で構成される抗HGF Fabをコードすることを確認した。
【0047】
前記で分析された塩基配列からH61及びH68クローンのアミノ酸配列をそれぞれ類推した結果、H61クローンのV及びV領域はそれぞれ配列番号27及び28のアミノ酸配列を有し、H68クローンのV及びV領域はそれぞれ:29及び30のアミノ酸配列を有することを確認した。
【0048】
H61及びH68クローンのアミノ酸配列でフレーム枠構造領域(framework region; FR)と抗原結合部(complementarity determining region; CDR)をヘリスにより記述された方法(Harris et al., Protein Science 4(2):306-10, 1995)を用いて分析した結果、H61及びH68クローンは下記表2のような領域構成を有することが分かった。
【表2】

【0049】
実施例7
抗HGF Fab発現及びin vitro分析のための精製
実施例5で選別されたファージミドDNAのクローンを非抑制性大腸菌HB2151に形質転換させた。600nmでの吸光度が0.5〜1になるまでクローンを培養し、IPTG(1mM)を添加して20〜24時間、抗HGF Fabの発現を誘導した。培養上澄液をラブスケールTFFシステム(Labscale TFF system、Millipore)で濃縮した。抗HA標示マウスモノクローナル抗体を用いた親和クロマトグラフィを行って濃縮された抗HGF Fabを精製した。このFab切片をクマシ染色及びウエスタンブロットティング分析した。
【0050】
まず、精製されたH68抗体Fab(約1〜3μg)をNuPAGE Novex4−12%ビス−トリスゲル(Bis-Tris Gel, Invitrogen)にローディングして電気泳動を行った。ローディングされたゲルをクマシゲル(coomassie gel)染色溶液(Invitrogen)中で30分間撹拌した後、クマシゲル脱染色溶液に移してタンパク質バンドが観察されるまで撹拌した。クマシ染色結果を図4に示す。図4に示したように、非還元されたH68抗体の場合(レーン2)、大部分のFab抗体は分子量50,000Daにあたる位置で検出され、還元されたH68抗体は(レーン3)、Fab抗体が軽鎖及び重鎖のFd領域にそれぞれ分離され、バンドが分子量25,000Daにあたる位置で検出され、抗体バンドを除いた他のバンドは検出されなかった。H68抗体Fabの軽鎖及び重鎖の大きさがそれぞれ約25,000Daであり、二硫化結合による軽鎖と重鎖との間に共有結合されて形成されたFabが約50,000Daの大きさを有するという事実に照らして、H68抗体Fabは、満たすべき純度(purity)を有する形態で分離された。レーン2から25,000Da付近で検出された弱いバンドは互いに結合できなかったFab軽鎖及び重鎖の遊離Fd領域の存在に起因する。
【0051】
一方、ウエスタンブロットティングのために、精製された抗HGF Fab(約1〜3μg)をNuPAGE Novex4−12%ビス−トリスゲル(Bis-Tris Gel, Invitrogen)にローディングして電気泳動を行い、分子量に従って分離したFabをバイオトラスニトロセルロース膜(BioTrace Nitrocellulose membrane, PALL)に固定させた。前記膜を5%乾燥スキムミルク/TBS(non-fat dry milk/TBS)で30分間処理して遮断した。西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗ヒトゴートFab多クローン抗体(Pierce)を1000:1の比率で3%乾燥スキムミルク/TBSで希釈した後、前記膜と1時間撹拌しながら反応させた。前記膜をTBSで30分間洗浄しSupersignal West Pico stable peroxide solution(Pierce)とSupersignal West Pico Luminol/Enhancer solution(Pierce)との同量混合液で均等に濡らした後、暗室でX−ray フィルム(Kodak)に感光させた。
【0052】
図5は、このように精製されたFab切片の発現を分析したウエスタンブロットティング結果を示すことであって、左側レーンは大きさのマーカーであり、他のレーンは精製されたFabをローディングしたレーンである。図5で見るように、50、000Daにあたる位置で多量のFabが検出され、25、000Daにあたる位置で軽鎖と重鎖との遊離Fd領域が検出された。
【0053】
実施例8
HGFの中和可能エピトープの塩基配列を及び特性分析
(8−1) 塩基配列の分析
96−ウェルプレート(costar No.3690)に25μlのTBS溶液に溶解された抗HGF H61Fabまたは抗HGF H68Fabを各ウェル当り10μg/mlの濃度でコーティングした。PHDペプチドライブラリTM(phage display of combinatorial peptide library)(New England Biolob)を前記ウェルプレートに加えた後、室温で2時間放置した。前記ウェルプレートをPBS内に0.5%(v/v)ツイン20で洗浄した後、0.1M HCl−グリシン(pH2.2)で湧出した。洗浄段階は、一番目のパニング(panning)で5回、二番目のパニングで10回、三番目のパニングで15回増加させ、全体として7回のパニングを行った。最終回のパニング後に、抗HGF H61Fabあるいは抗HGF H61FabでコーティングされたELISAプレート及び西洋ワサビペルオキシダーゼで結合された抗M13ファージゴートモノクローナル抗体(Roche)を用いたEIAを通じて、抗HGF H61FabあるいはH68 Fabを含むファージクローンを選別した。このように選別されたクローンの塩基配列を分析してそのアミノ酸配列を決めた。
【0054】
前記塩基配列分析は配列番号31のシクォンシングプライマーを用いた染料−標示プライマーシーケンシング方法(Chung et al.、supra)を用いて行った。その結果、分析された塩基配列から類推した抗HGF H61及びH68Fabsをコードするペプチドはそれぞれ配列番号32及び33のアミノ酸配列を有することが判明した。
【0055】
ついで、96−ウェルプレート(costar No.3690)に25μlのTBS溶液を加えて溶解させたc−METで各ウェル当り10μg/mlの濃度でコーティングし、配列番号32及び33のペプチドを含むクローンを添加した。前記ウェルプレートをPBS内の0.5%(v/v)ツイン20で洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼが結合された抗M13ファージゴートモノクローナル抗体(Roche)を加えた。
【0056】
図6に示されたように、配列番号32及び33のペプチドそれぞれを含むファージ(1及び2)はc−METに結合する一方、前記ペプチドを含まない2個の対照群ファージ(3及び4)はc−METに結合しなかった。このような結果は、抗HGF抗体H68の抗原結合部はc−METのHGF結合部を模倣し、クローン68に結合する配列番号32及び33のペプチドはHGFのc−MET結合部を模倣するので、配列番号32及び33のペプチドがHGFの中和可能エピトープとして作用することができることを示す。
【0057】
(8−2) 特性の分析
抗HGF抗体の抗原結合部の特性を把握するために、次のようにウエスタンブロットティングを行った。1〜3μgのHGFをNuPAGE Novex4−12%ビス−トリスゲル(Invitrogen)にローディングして電気泳動を行った。この時、一部は還元剤を処理した後ゲルにローディングし、一部は還元剤を処理しないでゲルにローディングした。分子量によって分離したタンパク質をニトロセルローズ膜(BioTrace Nitrocellulose membrane, PALL)に固定化させた。前記膜を遮断するために5%乾燥スキムミルク/TBSで30分間処理した。前記膜に抗HGF H61FabとH68Fabとを添加して1時間撹拌した。西洋ワサビペルオキシダーゼが結合された抗ヒトゴートFab多クローン抗体(Pierce)を3%乾燥スキムミルク/TBSで1:1000の比率で希釈し、前記膜に添加した後、1時間膜を撹拌した。前記膜をTBSで30分間洗浄し、スーパーシグナルウェストピコ安定化ペルオキシダーゼ溶液(Supersignal West Pico stable peroxide solution, Pierce)と、スーパーシグナルウェストピコルミノール/エンハンサー溶液(Supersignal West Pico Luminol/Enhancer solution, Pierce)との同量混合液で前記膜を均等に濡らした。前記膜を暗室でX−rayフィルム(Kodak)に感光させた。
【0058】
図8は、H61及びH68によって決った中和可能エピトープの形態依存性を示したのであって、矢印は大きさのマーカーを、Aはクローン61を、Bはクローン68を、レーン1は非還元HGFを、レーン2は還元HGFである。その結果、クローン61と68は全て非還元HGFに結合するが、還元HGFには結合しないことを発見した。このような結果はクローン61及び68の結合部で提供される抗原結晶部、すなわちエピトープの3次元的な構造が抗原−抗体反応に決定的であり、本発明の中和可能エピトープが非線形(non−linear)構造を有することを示唆する。
【0059】
実施例9
MDCK分散(scattering)の分析
MDCK細胞(Madine Darby canine kidney cell; ATCC CCL 34)を5%FCSが添加されたDMEM培地において37℃、95% 湿度及び5%COの存在下で培養した。この細胞を96−ウェルプレートにウェル当り2×10個の細胞の濃度で分株し、新鮮な培地内で2ng/ml(29pM)のHGFの濃度で一晩露出させてから、抗HGF Fabと抗ヒトFab抗体を前記ウェルプレートにそれぞれ異なる濃度で添加した。それによって発生する効果は光学顕微鏡で観察し、その結果を図9に示した。図9aは等級1〜6の範囲を有する細胞の分散程度を示す基準を示したものであって、等級6はHGFによる分散効果の100%抑制を、等級5はHGFによる分散効果の100〜90%抑制、等級4はHGFによる分散効果の90〜60%抑制、等級3はHGFによる分散効果の60〜30%抑制、等級2はHGFによる分散効果の30〜10%の抑制、等級1はHGFによる分散効果の10%以下抑制をそれぞれ意味する。図9bは、抗HGF Fabと抗ヒトFab抗体の分散程度が添加されたHGF濃度により変化し得ることを示す。
その結果、HGFに対する抗HGF Fabのモル比(molar ratio)が50:1であり、HGFに対する抗ヒトFab抗体のモル比が50:1〜100:1の範囲である時、最も効果的な分散抑制効果を期待できた。
【0060】
実施例10
BIAcore分析
(10−1) HGFに対する抗HGF Fabの親和力の分析
HGFに対する抗HGF Fabの親和力は、BIAcore 3000(BIAcore AB、Uppsala、Sweden)を用いるSPR(surface plasmon resonance)によって決定した。
【0061】
HGFの約1069共鳴単位(Resonance units; RU)はアミン結合方法(amine coupling method)を用いてCM5センサーチップ(BIAcore AB)に結合され、この結合相互作用は、25℃で30μl/minの流速で0.005%界面活性剤P20を含有するPBS緩衝溶液中で進行するようにし、その表面は、1M NaCl/50mM NaOHで再生させた。このような実験から運動速度定数(kon 及び koff)と平衡解離定数(K)とが決めることができた。図10は、HGFに対する抗HGF H68 Fabの結合親和力を示し、センサーチップ上に固定されているHGFに結合する抗HGF H68 Fabの量は抗HGF H68 Fabの濃度に従って増加することを確認した。
【0062】
(10−2) HGFに対するクローン68抗体のHGF結合抑制活性の分析
抗HGF H68 Fabがc−Metに対するHGFの結合を抑制することを実時間で確認するために、c−Metをアミン結合方法を通じてCM5センサーチップに結合させた。その後、HGFを50nMの濃度でそのまま注入し、それを5個の異なる濃度を有する(50nM、250nM、500nM、1μM及び1.5μM)抗HGF H68 Fabと5個の異なる濃度を有する(50nM、100nM、200nM、400nM及び600nM)水溶性c−Metとそれぞれ予め混合した。これらの結合相互作用は、25℃で30μl/分の流速で0.005%界面活性剤P20を含有するPBS緩衝溶液内で行われ、その結果生じる表面は、1M NaCl/50mM NaOHで再生した。
【0063】
図11は、抗HGF H68 Fabがc−Metに対するHGFの結合を抑制することを示す。その結果、50nM HGFを注入した場合には、HGFが455.5RUかつc−Metに結合する一方(I)、50nM HGFに50nM(II)、250nM(III)、500nM(IV)、1μM(V)及び1.5μM(VI)の5個の異なる濃度で抗HGF H68 Fabを混合して注入した場合にはそれぞれ406.5、328、260、111.1及び71のRU値でc−Metに結合することを確認できた。これらの結果からc−Metに対するHGFの結合の強さは抗HGF H68 Fabの濃度が増加するに従って減少することを示す。抗HGF H68 Fabが単独注入された場合には、HGFの結合が発見されなかった。
【0064】
(10−3) 水溶性c−MetによるHGFのc−Met結合抑制活性の分析
c−Metに対するHGFの結合が水溶性c−Metにより抑制されるか否かを次のように調べた。2979RUのc−Metを、アミン結合方法を通じてCM5センサーチップに固定し、それらの結合相互作用を25℃で30μl/分の流速で0.005%界面活性剤P20を含有するPBS緩衝溶液内で誘導し、その結果生じる表面を1M NaCl/50mM NaOHで再生した。
【0065】
図12は、水溶性c−Metがc−Metに対するHGFの結合を抑制することを示す。図12で見るように、50nMのHGFが注入された場合に、HGFは、455.5RUでc−Metに結合する一方(I)、50nM HGFに水溶性c−Metをそれぞれ50nM(II)、100nM(III)、200nM(IV)、400nM(V)及び600nM(VI)で注入した場合には、HGFがそれぞれ310.3、225.7、167.4、93.7及び70.9のRU値で結合することを確認できた。これからセンサーチップに固定されたc−Metに対するHGFの量は、水溶性c−Metの濃度が増加するとともに漸次に減少することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のHGFの構造を示す図である。
【図2】本発明の抗体ライブラリ製造に用いられたファージミドベクターpComb3Xの遺伝子地図を示す図である。A:ファージミド表面にFabを表面発現(display)する場合、及びB:ファージミド表面にscFvまたは二重特異性抗体(diabody)を表面発現する場合
【図3】本発明のHGF−結合クローンの培養の時、パニングを通じてHGFに特異的に結合するFabを表面発現するファージ群(pool)の増菌を示す図である。
【図4】本発明の精製されたFab切片をクマシブルーで染色した結果を示す図である。1:マーカー、2:非還元のクローン68抗体(50、000Da)、及び3:還元のクローン68抗体(25、000Da)
【図5】本発明の精製されたFab切片の発現有無を決定するためのウエスタンブロット分析結果を示す図である。
【図6】本発明のc−METに対する本発明の中和可能エピトープを含むファージの結合程度を示す図である。1:配列番号32のペプチドを含むファージ、2:配列番号33のペプチドを含むファージ、及び3及び4:配列番号32及び33のペプチドを含まない対照群ファージ、
【図7】本発明のクローン61及び68FabのHGFに対する特異的結合を示す図である。
【図8】本発明のクローン61及び68により明らかにされた本発明の中和可能エピトープの形態依存性(conformation dependency)を示す図である。A:クローン61、B:クローン68レーン1:非還元HGF、レーン2:還元HGF
【図9a】本発明の等級1〜6の範囲の細胞の分散程度を示す基準を示す図である。
【図9b】本発明の添加されたHGFの濃度に応じて抗HGF Fabと抗ヒトFab抗体の分散程度が変わることを示す分散分析結果を示す図である。
【図10】本発明のCM5センサーチップ上に固定されたHGFに結合するクローン68抗体の量はクローン68抗体の注入量に応じて増加することを示す図である。I:非特異的Fab注入、II:50nMクローン68抗体注入、III:100nMクローン68抗体注入、IV:200nMクローン68抗体注入、V:400nMクローン68抗体注入、VI:600nMクローン68抗体注入
【図11】本発明のクローン68抗体は、c−Metに対するHGFの結合を抑制することを示す図である。I:50nM HGF注入、II:50nM HGFに50nMクローン68抗体を混合・注入、III:50nM HGFに250nMクローン68抗体を混合・注入、IV:50nM HGFに500nMクローン68抗体を混合・注入、V:50nM HGFに1μMクローン68抗体を混合して注入、及びVI:50nM HGFに1.5μMクローン68抗体を混合・注入、
【図12】水溶性c−Metは、c−Metに対するHGFの結合を抑制することを示す図である。I:50nM HGF注入、II:50nM HGFに50nM水溶性c−Metを混合・注入、III:50nM HGFに100nM水溶性c−Metを混合・注入、IV:50nM HGFに200nM水溶性c−Metを混合・注入、V:50nM HGFに400nM水溶性c−Metを混合・注入、VI:50nM HGFに600nM水溶性c−Metを混合・注入

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HGF(肝細胞増殖因子hepatocyte growth factor)がその受容体に結合することを抑制する、配列番号32または33のアミノ酸配列を有するHGFの中和可能エピトープ。
【請求項2】
請求項1に記載の中和可能エピトープをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号34の塩基配列を有することを特徴とする請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号35の塩基配列を有することを特徴とする請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1に記載の中和可能エピトープに特異的に結合する中和抗体。
【請求項6】
前記中和抗体がキメラ抗体、モノクローナル抗体及びヒト化抗体で構成された群から選ばれることを特徴とする請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記中和抗体が配列番号27のアミノ酸配列を有するV領域と配列番号28のアミノ酸配列を有するV領域を含むことを特徴とする請求項5に記載の抗体。
【請求項8】
前記中和抗体が配列番号29のアミノ酸配列を有するV領域と配列番号30のアミノ酸配列を有するV領域を含むことを特徴とする請求項4に記載の抗体。
【請求項9】
請求項5に記載の中和抗体を哺乳動物に投与することを含むHGF受容体に対するHGFの結合により引き起こされる疾患を予防または治療する方法。
【請求項10】
前記疾患が肝癌、前立線癌、大腸癌、乳房癌、脳癌、皮膚癌、マラリヤ及びアルツハイマー病であることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−532097(P2007−532097A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539378(P2006−539378)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【国際出願番号】PCT/KR2004/002888
【国際公開番号】WO2005/044848
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(506159219)ナショナル・キャンサー・センター (3)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL CANCER CENTER
【Fターム(参考)】