説明

Herpetosiphon属細菌由来セルラーゼ

【課題】新規セルラーゼ及び当該セルラーゼの生産方法を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列又は当該配列のいずれかと70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つセルラーゼ活性を有するタンパク質。当該タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを含有する形質転換体を用いることを特徴とするセルラーゼの生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規セルラーゼの提供に関する。
【背景技術】
【0002】
セルラーゼは、セルロースのβ−1,4グルコシド結合を加水分解する酵素の総称であり、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼと共に加水分解酵素の代表的存在である。これまでに、真菌類や嫌気性細菌由来の中酸性に最適反応pHを有するセルラーゼが主に見出されているが、一方、好アルカリ性バチルス属細菌由来のアルカリ性に最適反応pHを有するアルカリセルラーゼもまた見出されている。
【0003】
セルラーゼの基質となるセルロースは、植物細胞壁の主成分として年間1000億トン以上も生産されるバイオマスであり、衣料、紙、建築材料等に有効利用されている。またセルロースは、グルコースが直鎖状に結合した巨大分子であるため、分解によって燃料物質やより高付加価値の代謝物質に変換が可能である。そのため、セルロースの効率的分解や、その分解産物の有効利用に関する研究が広く行われている。セルロースを高付加価値物質に変換する場合、通常、セルロース原料を前処理によって高反応性セルロースに変換した後、グルコースなどの低分子糖に分解する。得られた低分子糖は微生物による発酵等の化学反応を経て、高付加価値物質へと変換される。近年この一連のプロセスのセルロース分解工程においては、より経済的な方法として、セルラーゼよる酵素分解が一般に利用されている。
【0004】
しかし現状では、セルラーゼによるセルロース分解の速度は充分ではなく、必要な分解速度を達成するためには多量の酵素を使用するか、あるいは多種類の酵素を混合して使用しなければならない。またこのことは必然的に、酵素に多額のコストがかかる結果となる。
より効率的且つ経済的にセルロース分解産物を生産するために、セルラーゼライブラリの拡充及びより高活性のセルラーゼの開発が求められている。
【0005】
Herpetosiphon属細菌は、特徴的な代謝産物を生産する菌として知られている(非特許文献1)。Herpetosiphon属細菌は、好気性のグラム陰性細菌であり、糸状体に生育し、カロテノイドを産生するが、セルロース分解能を有さないことが知られている(非特許文献2)。実際、当該菌に由来するセルラーゼが取得されたという報告はない。
【0006】
CAZy(carbohydrate-active enzymes)データベース(非特許文献3)は、糖質に作用する酵素及びモジュールを、アミノ酸配列や立体構造の類似性を基にファミリーに分類したデータベースであり、セルラーゼなどの糖質加水分解酵素(GH)には、現在115のファミリーが存在する。さらに、主にNCBI(GenBank)に登録されている完全ゲノムシーケンスの中から、CAZy登録タンパク質と類似性のある翻訳アミノ酸(遺伝子)配列情報が分類、登録されている。上記Herpetosiphon属細菌由来の遺伝子もこのCAZyデータベースに登録されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nett et al, Angew Chem Int Ed, 45: 3863-3867, 2006
【非特許文献2】Holt And Lewin, J Bacteriol, 95(6), 2407-2408, 1968
【非特許文献3】The CAZy database (URL: http://www.cazy.org/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規セルラーゼ、及び当該セルラーゼの生産方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、より効率的且つ経済的なセルロース分解に貢献し得る新規セルラーゼの探索を行ったところ、全く意外にも、従来セルラーゼ分解能が知られていなかったHerpetosiphon属細菌からセルラーゼが取得できること、また当該セルラーゼが高いセルロース分解活性を有することを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、以下を提供するものである。
(1)配列番号1〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列又は当該配列のいずれかと70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つセルラーゼ活性を有するタンパク質。
(2)(1)記載のタンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを含有する形質転換体を用いることを特徴とするセルラーゼの生産方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により提供されるHerpetosiphon属細菌由来セルラーゼは、これまでその存在が報告されていなかった新規セルラーゼであり、且つ高いセルロース分解活性を有する有用な酵素である。また本発明のセルラーゼの生産方法によれば、当該Herpetosiphon属細菌由来の新規セルラーゼを効率よく生産することができる。本発明によれば、より効率的且つ経済的なセルロース分解産物の生産を可能にするセルラーゼを効率よく安価に提供することが可能となり、ひいてはセルロースを原料とする燃料物質や高付加価値物質をより効率的且つ安価に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のセルラーゼをコードするベクターの作製手順。
【図2】本発明のセルラーゼの最適pH。
【図3】本発明のセルラーゼのpH安定性。
【図4】本発明のセルラーゼの最適温度。
【図5】本発明のセルラーゼの温度安定性。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタンパク質としては、配列番号1〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるHerpetosiphon属細菌由来セルラーゼが挙げられる。当該アミノ酸配列のいずれかと70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、なお好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又は当該アミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つセルラーゼ活性を有するタンパク質もまた、本発明のタンパク質に含まれる。
【0014】
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,227,1435,1985)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
また、本明細書において、「1〜数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列」としては、1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、なお好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列が挙げられる。
【0015】
本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを微生物に導入して得られた形質転換体を用いることで生産することができる。すなわち、当該形質転換体を適切な培地で培養すれば、形質転換体が含有するベクター上にコードされた遺伝子が発現して、本発明のタンパク質が合成される。合成されたセルラーゼタンパク質を該培養物から単離又は精製することにより、本発明のタンパク質を取得することができる。
【0016】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号6〜10のいずれかで示される塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。配列番号6〜10で示される塩基配列は、Herpetosiphon属細菌の推定セルラーゼ遺伝子配列として下記表1のとおりCAZyデータベース(URL: http://www.cazy.org/)に登録されている配列であり、また各々、配列番号1〜5で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。
【0017】
【表1】

【0018】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子は、Herpetosiphon属細菌、例えばHerpetosiphon aurantiacus(ATCC23779)等から、当該分野で用いられる任意の方法を用いて単離することができる。例えば、当該遺伝子は、Herpetosiphon属細菌の全ゲノムDNAを抽出した後、配列番号6〜10の塩基配列を元に設計したプライマーを用いたPCRにより標的遺伝子を選択的に増幅し、増幅した遺伝子を精製することで得ることができる。あるいは、当該遺伝子は、本発明のタンパク質のアミノ酸配列に基づいて、遺伝子工学的又は化学的に合成することができる。
【0019】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子は、従来知られたセルラーゼタンパク質の遺伝子と顕著に異なる配列を有する。例えば、ホモロジー検索の結果、配列番号6で示される配列と最も配列同一性の高い遺伝子配列を有する既知のセルラーゼは、Thermobifida fusca由来のendoglucanase-like proteinであるが、これらの配列同一性は66%である。同様に配列番号7の場合、Clostridium josui由来のendoglucanase 2の34%である。同様に配列番号8の場合、Planctomyces maris DSM8797由来のendoglucanase Yの48%である。同様に配列番号9の場合、Reinekea sp. MED297由来の推定cellulaseの61%である。同様に配列番号10の場合、Sorangium cellulosum strain So ce56由来のcellulaseの50%である。
【0020】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子が導入されたベクターの種類としては、特に限定されず、タンパク質産生に通常用いられるベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、YAC、BAC等が挙げられる。プラスミドベクターが好ましく、例えば、市販のタンパク質発現用プラスミドベクター、例えばシャトルベクターpHY300PLK(TaKaRa製)、pUC19(TaKaRa製)、pUC119(TaKaRa製)、pBR322(TaKaRa製)等を好適に用いることができる。
【0021】
上記ベクターは、DNAの複製開始領域を含むDNA断片、複製起点を含むDNA領域を含む。また本発明のベクターにおいては、上記セルラーゼ遺伝子の上流に、転写を開始させるプロモーター領域及び分泌シグナル領域等の制御配列が作動可能に連結されていてもよい。あるいは、本発明のプラスミドが適切に導入された微生物を選択するための薬剤耐性遺伝子(アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコール等)がさらに組み込まれていてもよい。上記制御配列等の例としては、S237eglプロモーター及びシグナル配列(Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(11):2281-9, 2000)が挙げられる。セルラーゼ遺伝子と上記制御配列、薬剤耐性遺伝子との連結は、SOE(splicing by overlap extension)−PCR法(Gene,77,61,1989)等の方法によって行うことができる。プラスミドベクターへの遺伝子の導入手順は当該分野で周知である。
【0022】
次いで、構築された上記ベクターを微生物に導入し、形質転換体を得る。導入のための微生物としては、Staphylococcus属、Enterococcus属、Listeria属、Bacillus属に属する細菌等が挙げられるが、このうち、Bacillus属細菌、例えば枯草菌又はその変異株(例えば、特開2006-174707記載のプロテアーゼ9重欠損株KA8AX等)が好ましい。導入の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション等の当該分野で通常使用される方法を用いることができる。導入が適切に行われた株を薬剤耐性等を指標に選択することで、目的の形質転換体を得ることができる。
【0023】
斯くして得られた形質転換体を適切な培地で培養すれば、形質転換体が含有するベクター上にコードされた遺伝子が発現して、本発明のタンパク質が合成される。培養に使用する培地は、形質転換体の種類にあわせて当業者が適宜選択することができる。生成された目的のセルラーゼタンパク質を該培養物から通常の方法により単離又は精製することにより、本発明のタンパク質を取得することができる。このとき、当該ベクター上でセルラーゼ遺伝子と分泌シグナル配列が作動可能に連結されている場合、生成されたセルラーゼは菌体外に分泌されるため回収がより容易になる。
【0024】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
実施例1 Herpetosiphon由来セルラーゼ遺伝子のクローニング
(1−1 ゲノムDNAの抽出)
Herpetosiphon aurantiacus ATCC23779株を0.8%(w/v)スキムミルク(Difco製)培地5mLに植菌し、30℃、230rpmで2日間培養した。培養して得られた菌体から、UltraClean(商標)Microbial DNA Isolation Kit(Mo Bio Laboratories, Inc.製)を用いてゲノムDNAを取得した。
【0026】
(1−2 遺伝子断片の取得)
1−1で得られたゲノムDNAを鋳型として、各セルラーゼ遺伝子全長塩基配列(配列番号6〜10)を元に設計した各プライマーを用いてPCRを行った。フォワードプライマー1〜5(配列番号11〜15)にはセンス鎖の5’末端側にS237eglシグナル配列を付加し、リバースプライマー6〜10(配列番号16〜20)にはアンチセンス鎖の5’末端側にXbaIリンカーを付加した。鋳型DNA 0.5μL、50μMフォワードプライマー(1〜5)0.5μL、50μMリバースプライマー(6〜10)0.5μL、Pyrobest DNA Polymerase(TaKaRa製)0.125μL、10×Pyrobest Buffer II 2.5μL、dNTP Mixture 2μL、滅菌脱イオン水18.875μLを混合した後、DNA Engine(商標)PTC-200(MJ Japan製)でPCRを行った。PCRの条件は、95℃で3分間鋳型DNAを変性させた後、95℃で30秒間、64℃で1分間、72℃で4分間を1サイクルとして30サイクル反応させた。増幅した遺伝子断片をHigh Pure PCR Product Purification kit(Roche製)にて精製した。
【0027】
(1−3 S237eglプロモーター及びシグナル配列とのSOE−PCR)
pHY-S237egl(Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(11):2281-9, 2000)(配列番号23)を鋳型として、S237eglプロモーター及びシグナル部分の塩基配列を元に設計したフォワードプライマー11(配列番号21)及びリバースプライマー12(配列番号22)を用いてPCRを行った。プライマー15にはセンス鎖の5’末端側にSalIリンカーを付加した。鋳型DNA 0.5μL、50μMフォワードプライマー(11)0.5μL、50μMリバースプライマー(12)0.5μL、Pyrobest DNA Polymerase 0.125μL、10×Pyrobest Buffer II 2.5μL、dNTP Mixture 2μL、滅菌脱イオン水18.875μLを混合した後、DNA Engine(商標)PTC-200でPCRを行った。PCRの条件は、95℃で3分間鋳型DNAを変性させた後、95℃で30秒間、55℃で1分間、72℃で3分間を1サイクルとして30サイクル反応させた。増幅したプロモーター及びシグナル配列断片をHigh Pure PCR Product Purification kit(Roche製)にて精製した。精製したプロモーター及びシグナル配列断片と1−2で得られた各遺伝子断片を鋳型として、フォワードプライマー11及びリバースプライマー6〜10を用いてSOE−PCR(Gene,77,61, 1989)を行った。プロモーター及びシグナル配列断片0.5μL、各遺伝子断片0.5μL、50μMプライマー(11)0.5μL、50μMプライマー(6〜10)0.5μL、Pyrobest DNA Polymerase 0.125μL、10×Pyrobest Buffer II 2.5μL、dNTP Mixture 2μL、滅菌脱イオン水18.875μLを混合した後、DNA Engine(商標)PTC-200でPCRを行った。PCRの条件は、95℃で3分間鋳型DNAを変性させた後、95℃で30秒間、64℃で1分間、72℃で4分間を1サイクルとして30サイクル反応させた。増幅した遺伝子断片をHigh Pure PCR Product Purification kit(Roche製)にて精製した(図1)。
【0028】
(1−4 ベクターへの連結)
1−3で得られた精製PCR産物16μLに、SalI(Roche製)1μL、XbaI(Roche製)1μL、10×制限酵素バッファー2μLを加え、37℃で3時間酵素処理した。制限酵素処理液を75℃で15分間熱処理した後、High Pure PCR Product Purification kitで精製し、予めSalI及びXbaIで処理したシャトルベクターpHY300PLK(TaKaRa製)にLigation High(TOYOBO製)を用いて連結した(16℃、24時間)(図1)。
【0029】
(1−5 E. coliによるプラスミド調製)
1−4で得られたライゲーション混液2μLを用いて、コンピテントセルE.coli HB101(TaKaRa製)20μLを形質転換した。形質転換体の再生培地には、アンピシリン含有寒天培地[カルボキシメチルセルロース(CMC;関東化学株式会社製)1.0%(w/v)、塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)1.0%(w/v)、バクトトリプトン(Difco製)1.0%(w/v)、酵母エキス(Difco製)0.5%(w/v)、トリパンブルー(ACROS ORGANICS製)0.005%(w/v)、アンピシリンナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.02%(w/v)、寒天(和光純薬工業株式会社製)1.5%(w/v)]を用いた。アンピシリン耐性株として得られた形質転換体の中から、コロニーPCRにより目的の遺伝子が挿入されたプラスミドを保持する菌株を選別した。選別した形質転換体をアンピシリン含有LB培地0.4mL[バクトトリプトン1.0%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)、塩化ナトリウム1.0%(w/v)、アンピシリンナトリウム0.005%(w/v)]を用いて培養後(37℃、1,000rpm、4時間)、得られた菌体からプラスミドをHigh Pure Plasmid Isolation kit(Roche製)を用いて回収、精製した。
【0030】
(1−6 Bacillus subtilisの形質転換)
精製したプラスミドを用いて、プロトプラスト法(Mol. Gen. Genet. 168, 111-115 ,1979)により宿主菌Bacillus subtilis 168株及びプロテアーゼ9重欠損株(KA8AX)(特開2006-174707)の形質転換を行った。形質転換体の再生培地には、テトラサイクリン含有DM3再生寒天培地[CMC 1.0%(w/v)、バクトカザミノ酸(Difco製)0.5%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)、DL−メチオニン(和光純薬工業株式会社製)0.01%(w/v)、L−リシン一塩酸塩(和光純薬工業株式会社製)0.01%(w/v)、L−トリプトファン(和光純薬工業株式会社製)0.01%(w/v)、コハク酸二ナトリウム六水和物(和光純薬工業株式会社製)8.1%(w/v)、リン酸一水素二カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.35%(w/v)、リン酸二水素一カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.15%(w/v)、グルコース(和光純薬工業株式会社製)0.5%(w/v)、塩化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)20mM、牛血清アルブミン(Sigma製)0.01%(w/v)、トリパンブルー0.01%(w/v)、テトラサイクリン塩酸塩(和光純薬工業株式会社製)0.005%(w/v)、寒天1.0%(w/v)]を用いた。テトラサイクリン耐性株として得られた形質転換体の中から、コロニーPCRにより目的の遺伝子が挿入されたプラスミドを保持する菌株を選別した。なお、遺伝子が挿入されていない空のベクターを保持する菌株をベクターコントロールとした。
【0031】
実施例2 セルラーゼの生産
DM3再生寒天培地上に生育した形質転換体をテトラサイクリン含有LB培地5mL[バクトトリプトン1.0%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)、塩化ナトリウム1.0%(w/v)、テトラサイクリン塩酸塩0.0015%(w/v)]を用いてシード培養後(30℃、250rpm、24時間)、シード培養液0.4mLをテトラサイクリン含有2×L培地20mL[バクトトリプトン2%(w/v)、酵母エキス1.0%(w/v)、塩化ナトリウム1.0%(w/v)、硫酸マンガン五水和物(和光純薬工業株式会社製)0.00075%(w/v)、マルトース一水和物(和光純薬工業株式会社製)7.5%(w/v)、テトラサイクリン塩酸塩0.0015%(w/v)]に添加し、メイン培養を行った(30℃、230rpm、3日間)。培養後、遠心分離(11,000rpm、15分間、4℃)により培養上清(セルラーゼ粗酵素溶液)を得た。
【0032】
実施例3 セルラーゼの活性発現
終濃度1.0%(w/v)のCMC(日本製紙株式会社製、製品名A01MC)及び50mMリン酸緩衝液(pH7)を含む基質溶液0.9mLに適当な濃度に希釈した粗酵素溶液0.1mLを添加し、40℃で20分間反応した。DNS(0.5% 3,5−ジニトロサリチル酸、30%酒石酸ナトリウムカリウム四水和物、1.6%水酸化ナトリウム)溶液1.0mLを添加し反応を停止させた後、沸騰浴中で5分間煮沸した。氷水中で冷却後、イオン交換水4.0mLを加えてよく攪拌し、535nmの吸光度をスペクトロフォトメーター(U-2800A;日立製作所株式会社製)で測定した。尚、基質溶液0.9mLにDNS溶液を1.0mL添加後、酵素溶液0.1mLを加え、同様の操作を行ったものをブランクとした。上記条件下で、1unit(U)は1分間に1μmolのD−グルコース相当の還元糖を遊離する酵素量とした。結果を表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
実施例4 セルラーゼの基質特異性
(4−1 CMC分解活性)
実施例3と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
(4−2 Cellulose Powder分解活性)
終濃度0.25%(w/v)のCellulose Powder(Fluka製、製品番号22183)及び50mMリン酸緩衝液(pH7)を含む基質溶液0.9mLに適当な濃度に希釈した粗酵素溶液0.1mLを添加し、40℃で20分間反応した。ジニトロサリチル酸(DNS)溶液1.0mLを添加し反応を停止させた後、遠心分離(3,000rpm、5分間、20℃)により得られた上清1mLを沸騰浴中で5分間煮沸した。氷水中で冷却後、イオン交換水4.0mLを加えてよく攪拌し、535nmの吸光度をスペクトロフォトメーター(U-2800A;日立製作所株式会社製)で測定した。尚、基質溶液0.9mLにDNS溶液を1.0mL添加後、酵素溶液0.1mLを加え、同様の操作を行ったものをブランクとした。上記条件下で、1unit(U)は1分間に1μmolのD−グルコース相当の還元糖を遊離する酵素量とした。結果を表3に示す。
【0037】
(4−3 Avicel分解活性)
基質に終濃度0.25%(w/v)のAvicel(Fluka製、製品番号11365)を使用する以外は、実施例4−2と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0038】
(4−4 Xylan分解活性)
基質に終濃度0.25%(w/v)のXylan(Fluka製、製品番号95590)を使用する以外は、実施例4−2と同様の方法で行った。また、1unit(U)は1分間に1μmolのD−キシロース相当の還元糖を遊離する酵素量とした。結果を表3に示す。
【0039】
(4−5 Xyloglucan分解活性)
基質に終濃度0.25%(w/v)のXyloglucan(Megazyme製、製品名P-XYGLN)を使用する以外は、実施例3と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0040】
(4−6 Barley β-glucan分解活性)
基質に終濃度0.25%(w/v)のBarley β-glucan(Megazyme製、製品名P-BGBL)を使用する以外は、実施例3と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0041】
(4−7 Colloidal chitin分解活性)
基質に終濃度0.25%(w/v)のColloidal chitinを使用する以外は、実施例4−2と同様の方法で行った。Colloidal chitinは、Chitin(Sigma製、製品番号C9213)1gに対して濃塩酸20mLを混合し4℃で48時間攪拌した後、エタノール125mLを添加し、4℃で1時間攪拌、沈殿させることにより調製した。また、1unit(U)は1分間に1μmolのN−アセチルグルコサミン相当の還元糖を遊離する酵素量とした。結果を表3に示す。
【0042】
(4−8 Ethylene glycol chitin分解活性)
基質に終濃度0.25%(w/v)のEthylene glycol chitin(生化学工業株式会社製、製品番号400681)を使用する以外は、実施例4−2と同様の方法で行った。また、1unit(U)は1分間に1μmolのN−アセチルグルコサミン相当の還元糖を遊離する酵素量とした。結果を表3に示す。
【0043】
(4−9 p-Nitrophenyl glucoside分解活性)
終濃度0.5mMのp-Nitrophenyl (pNP-) glucoside(生化学工業株式会社製、製品番号130522)及び50mMリン酸緩衝液(pH7)を含む基質溶液0.9mLに適当な濃度に希釈した酵素溶液0.1mLを添加し、40℃で20分間反応した。1.0M炭酸ナトリウム溶液2.0mLを添加し反応を停止させた後、反応液0.2mLの420nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Molecular Devices製)で測定した。尚、基質の代わりにイオン交換水を用いて同様の操作を行ったものをブランクとした。上記条件下で、1unit(U)は1分間に1μmolのpNPを遊離する酵素量とした。結果を表3に示す。
【0044】
(4−10 pNP-cellobioside分解活性)
基質にpNP-cellobioside(生化学工業株式会社製、製品番号130542)を使用する以外は、実施例4−9と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0045】
(4−11 pNP-Lactoside分解活性)
基質にpNP-Lactoside(生化学工業株式会社製、製品番号130587)を使用する以外は、実施例4−9と同様の方法で行った。結果を表3に示す。
【0046】
実施例5 セルラーゼの最適反応pH
50mMの各緩衝液[グリシン−塩酸緩衝液(pH2.0及びpH3.0)、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0及びpH5.0)、リン酸緩衝液(pH6.0、pH7.0及びpH8.0)、ならびにグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9.0及びpH10.0)]を使用する以外は実施例3と同様の方法で行った。最大活性を示したpHでの活性値を100としたときの相対活性(%)で示した。結果を図2に示す。
【0047】
実施例6 セルラーゼのpH安定性
50mMの各緩衝液[グリシン−塩酸緩衝液(pH2.0及びpH3.0)、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0及びpH5.0)、リン酸緩衝液(pH6.0、pH7.0及びpH8.0)、ならびにグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9.0及びpH10.0)]中、4℃で24時間処理した後は、実施例3と同様の方法で行った。最大活性を示したpHでの活性値を100としたときの相対活性(%)で示した。結果を図3に示す。
【0048】
実施例7 セルラーゼの最適反応温度
反応温度を20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、及び80℃で反応させる以外は実施例3と同様の方法で行った。最高活性を示した温度での活性値を100とした相対活性(%)で示した。結果を図4に示す。
【0049】
実施例8 セルラーゼの温度安定性
50mMのリン酸緩衝液(pH7)中、20℃、40℃、50℃、60℃、70℃、及び80℃で20分間処理した後は、実施例3と同様の方法で行った。熱に対して未処理の活性値を100としたときの残存活性(%)で示した。結果を図5に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜5のいずれかで示されるアミノ酸配列又は当該配列のいずれかと70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つセルラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1記載のタンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを含有する形質転換体を用いることを特徴とするセルラーゼの生産方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−19435(P2011−19435A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166306(P2009−166306)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】