I型アレルギーの検査方法
【課題】被験者由来の血清を用いて、脱顆粒測定法と比べて高感度に、被験物質が該被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法を提供する。
【解決手段】ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認することを含む、前記被験物質が前記被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法。
【解決手段】ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認することを含む、前記被験物質が前記被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、I型アレルギーの検査方法に関する。詳しくは、本発明は、被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法、被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法、被験者におけるIgE量を測定する方法ならびにI型アレルギーに影響を与える物質をスクリーニングする方法に関する。さらに、本発明は、これらの方法に使用するための細胞およびこの細胞を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧米や日本などの先進国では、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギーなどのいわゆるI型アレルギー性疾患が注目を浴びている。とりわけ、食物アレルギーは、患者が日々摂取しなくてはならない食物の中にアレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)が含まれるためにしばしば問題となる。そこで、被験者に対するアレルゲンを検出するI型アレルギーの試験方法は、I型アレルギー性疾患に罹患しているI型アレルギー患者またはI型アレルギー性疾患を発症する可能性のある者にとって、生活の質を向上または維持するために重要な試験法と位置付けられている。
【0003】
I型アレルギー性疾患をもたらすI型アレルギーは、マスト細胞や好塩基球等が発現する高親和性IgEレセプター(FcεRI)がIgEとアレルゲンとにより架橋されることでこれらの細胞が活性化し、ヒスタミン、ロイコトリエンなどのケミカルメディエーターを放出することによって引き起こされる一連の疾患である。
【0004】
IgEは血清中に微量に存在する抗体であり、FcεRIのα鎖に非常に強固に結合する(Kaは、約1010M-1)。FcεRIは、通常、α鎖1本とβ鎖1本、およびγ鎖のホモダイマーから成る。ただし、ヒト細胞においては、β鎖を伴わない発現様式も知られている(非特許文献1および2を参照)。
【0005】
B細胞によってアレルゲンに特異的なIgE抗体が産生されると、IgEは血流に乗り、次いで末梢中のマスト細胞や好塩基球等が発現するFcεRIに結合し、これらの細胞を感作する。IgEで感作された細胞が特異的アレルゲンに暴露されると、アレルゲンとIgEとが結合する。このときアレルゲン1分子中にIgEエピトープが複数存在すると、1分子のアレルゲンに対して複数のIgE抗体が結合し、結果として複数のFcεRIが「架橋」される(図1を参照)。
【0006】
FcεRIの架橋を引き金として、レセプターの細胞内ドメインに会合するチロシンキナーゼ等の酵素やアダプター分子などが活性化し、次いでカルシウムイオンの流入やヒスタミン等の化学伝達物質の脱顆粒、脂質性化学伝達物質の産生昂進、サイトカイン・ケモカイン等の遺伝子発現などの様々な細胞応答が誘導される。このような細胞応答の誘導によって、全身性のI型アレルギーが生じる。
【0007】
このように、マスト細胞や好塩基球等におけるFcεRIの架橋は、I型アレルギーの惹起に対して重要な役割を担っている。このことは、単量体のIgEがFcεRIに結合する(感作)のみでは全身性の症状を引き起こすほどの応答を誘導することができないことや、抗原に依存せずとも、抗IgE抗体または抗FcεRI抗体などによりFcεRIを間接的または直接的に架橋することによってI型アレルギーを惹起できることからもわかる。
【0008】
現在、臨床で一般的に用いられているI型アレルギーの試験方法は、in vivo(生体内)、ex vivo(生体外)、in vitro(試験管内)の3つに分類でき、それぞれに一長一短がある。
【0009】
in vivo試験法には、被験者にアレルゲンを摂食させる負荷試験法や被験者の皮膚などに少量のアレルゲンを注入するスキンプリックテスト法などがある。このようなin vivo試験法は、被験者自身にアレルゲンを投与する試験法であり、I型アレルギーを直接診ることができるために、試験結果の信頼性が高い。しかし、in vivo試験法は、被験者がアレルゲンに暴露されるというリスクがあり、専門医が直接被験者のアレルギー試験を行わなければならないことから実施可能な施設が限定され、かつ多くの被験者を同時に試験することができない、という問題がある。
【0010】
ex vivo試験法には、被験者の末梢血から好塩基球を採取してアレルゲンで刺激するヒスタミン放出試験法などがある。ヒスタミン放出試験法は、FcεRIの架橋に基づく好塩基球の活性化を指標とするために、試験結果の信頼性が高い(非特許文献3を参照)。しかし、試料である全血は保存に適しておらず、採血後直ちに試験しなければならないことから、再試験の必要がある場合には被験者に再度の来院を請わねばならず、また一度に大量の試料を試験することができないという問題がある。
【0011】
in vitro試験法には、アレルゲンを固定化した樹脂に被験者の血清を加え、次いでアレルゲンと結合することにより樹脂に結合した血清中のIgEを標識化抗IgE抗体で検出するCAP−RAST法がある。CAP−RAST法は、血清を用いて試験管内で実施することができることから、in vivo試験法やex vivo試験法を採用することにより生じる被験者に過度の負担を強いるとの問題、検体が長期保存できない問題、および一度に大量の試料を試験することができないとの問題を解決することができる。さらに、CAP−RAST法は、簡便かつ高感度であり、経済性にも優れていることから、I型アレルギーの試験方法として事実上の標準法として採用されている。
【0012】
しかし、CAP−RAST法では偽陽性が多く検出されるという問題がある。これは、CAP−RAST法では、IgEエピトープが1種類しかない抗原に対するIgEや抗原との親和性が低いIgEなどの、FcεRIの架橋を誘導できないIgEを検出することに起因すると報告されている(非特許文献4および5を参照)。
【0013】
そこで本発明者らは、ラット培養マスト細胞株として知られるRBL−2H3細胞にヒトFcεRIを安定的に発現させた培養細胞株をアレルギー患者血清で感作し、次いでアレルゲンを添加することによって誘発される脱顆粒を定量的に測定する脱顆粒測定法を報告した(非特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Blank U., Ra C., Miller L., White K., Metzger H., Kinet J.P. (1989) Nature 337, 187-189
【非特許文献2】Maurer, D., Fiebiger, S., Ebner, C., Reininger, B., Fischer, G.F., Wichlas, S., Jouvin, M.H., Schmitt-Egenolf, M., Kraft, D., Kinet, J.P., and Stingl, G. J.Immunol., 157:607-616 (1996)
【非特許文献3】Nishi, H., Nishimura, S., Higashiura, M., Ikeya, N., Ohta, H., Tsuji, T., Nishimura, M., Ohnishi, S., Higashi H. (2000). J Immunol Methods. 240, 39-46.
【非特許文献4】Roberts, G., Lack, G. J Allergy Clin Immunol. (2005). 110, 784-789.
【非特許文献5】Komata, T., Soderstrom. L, Borres, M.P., Tachimoto, H., Ebisawa, M. (2007). J Allergy Clin Immunol. 119, 1272-1274.
【非特許文献6】Takagi K., Nakamura R., Teshima R., Sawada J. (2003) Biol. Pharma. Bull., 26(2), 252-255
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記脱顆粒測定法は、FcεRIの架橋によって生じる脱顆粒量を測定することから、CAP−RAST法で見られる偽陽性は生じにくい。しかし、脱顆粒測定法は検出感度が低いという問題がある。たとえば、ピーナッツアレルゲンに対し36kUA/Lの抗原特異的IgEスコアを持つ被験者血清を用いた場合、検出可能な抗原濃度はμg/mlオーダーである。したがって、脱顆粒測定法は、試験すべき試料の量が増えるにつれて大量の抗原を必要とすることから、経済性が非常に悪い。このような理由によって、脱顆粒測定法は、これまでに実用化に至っていない。
【0016】
そこで本発明者らは、被験者由来の血清を用いて、脱顆粒測定法と比べて高感度に、被験物質が該被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法、被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法および被験者におけるIgE量を測定する方法を提供することを発明が解決しようとする第一の課題とした。また、本発明者らは、これらの方法を応用して、I型アレルギーの応答に影響を与える物質、特にI型アレルギーの抑制及び/又は予防するために使用される物質をスクリーニングする方法を提供することを発明が解決しようとする第二の課題とした。さらに本発明者らは、これらの方法に用いる細胞およびこの細胞を含むキットを提供することを、発明が解決しようとする第三の課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、FcεRIの架橋によるシグナル伝達によって転写因子NF−ATが活性化することに注目した。ラットマスト細胞であるRBL−2H3細胞の活性化に伴うサイトカインの産生が、カルシウム依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリン(CN)の抑制作用を持つ免疫抑制剤であるFK506(タクロリムス)やシクロスポリンAで抑制されること、ならびに、これはCNの基質であるNF−AT(nuclear factor of activated T cells)の脱リン酸化が起きずに核移行ができないことが原因と思われるという報告がある(Onose J., Teshima R., Sawada J. (1998) Immunol. Lett. 64, 17-22;Hutchinson and McCloskey, J.Biol.Chem., 270:16333-16338 (1995))。このような報告に基づいて、本発明者らは、NF−ATがFcεRIの架橋によるシグナル伝達に密接に関与している、と推測した。
【0018】
そこで、細胞内のNF−ATの活性化を指標として、被験物質の中から被験者に対してI型アレルギーを誘発する可能性があるアレルゲンを検出できるのではないかという仮説を立て、活性化したNF−ATが結合するエンハンサーと、このエンハンサーによって転写が促進されるようにプロモーターおよびレポーター遺伝子とを連結させた領域を含むベクターを用意し、次いでこのベクターを、ヒトFcεRIを安定的に細胞膜上に発現する培養マスト細胞株に導入して、上記領域を該培養マスト細胞株の染色体へ相同組換えさせたところ、ヒトFcεRIを細胞膜上に含有し、かつNF−ATの活性化に応じてレポーター遺伝子が発現し得る形質転換体を得ることに成功した。さらに、得られた形質転換体を、I型アレルギー患者の血清と接触させた後に被験物質と接触させることによって、被験者に対してアレルゲンとなる物質を被験物質の中からレポーター遺伝子の発現の増大を確認することによって検出できることを見出した。
【0019】
さらに驚くべきことに、上記形質転換体を用いる方法は、血清やアレルゲンを接触させていない形質転換体が本来的に転写因子遺伝子を発現することによって生じるレポーター遺伝子の発現量(バックグラウンド)が安定していることから、バックグラウンドが不安定な脱顆粒測定法と比べて、約1,000倍の感度で被験者に対するI型アレルギーを誘発するアレルゲンを検出することができた。本発明はこれらの知見に基づいて完成された発明である。
【0020】
したがって、本発明によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認すること
を含む、前記被験物質が前記被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法が提供される。
【0021】
本発明の別の側面によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定すること
を含む、前記被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法が提供される。
【0022】
本発明の別の側面によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
抗ヒトIgE抗体及び/又は前記被験者に対するアレルゲン、ならびに前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定すること
を含む、前記被験者におけるIgE量を測定する方法が提供される。
【0023】
本発明の別の側面によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、ヒトIgEを含む試料の存在下でインキュベートすること;
抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲン、候補物質、および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記候補物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質を選択すること
を含む、前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質をスクリーニングする方法が提供される。
【0024】
好ましくは、前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質が、I型アレルギーの抑制及び/又は予防するために使用される物質である。
好ましくは、前記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターが、ヒト由来のα鎖を有するFcεレセプターIである。
好ましくは、前記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターが、ヒトFcεレセプターIである。
好ましくは、前記転写因子が、NF−AT、NF−κB、AP−1、Elk−1、Egr−1、GATA−1またはGATA−2である。
好ましくは、前記レポーター遺伝子が、酵素をコードする遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子および宿主細胞が天然には有しない細胞表面抗原をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子である。
好ましくは、前記酵素をコードする遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、西洋ワサビペルオキシダーゼ遺伝子、およびクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子である。
好ましくは、前記細胞が、マスト細胞または好塩基球である。
【0025】
本発明の別の側面によれば、本発明の方法に使用するための、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞が提供される。
【0026】
本発明の別の側面によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を含む、本発明の方法に使用するためのキットが提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の検査方法は、被験物質と接触させた細胞におけるレポーター遺伝子の発現の増大を確認することによって、脱顆粒測定法と比べて、高感度かつ安定したバックグラウンドにより、被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査することができる。また、上記レポーター遺伝子の発現は定量できる。そこで、本発明によれば、段階的に濃度を希釈した被験者由来の血清及び/又は各種アレルゲンを用いたレポーター遺伝子の発現レベルを測定することによって、被験者におけるI型アレルギーが生じる可能性、特にI型アレルギー性疾患に罹患する可能性をI型アレルギーのリスクとして評価することができる。
【0028】
たとえば、被験者が卵白アレルギー患者であり、かつアレルゲンが卵白抽出物である場合、本発明によれば、従来の脱顆粒測定法と比べて約1,000倍の感度でレポーター遺伝子の発現を検出することができる。また、卵白アレルギー患者ではないもののCAP−RAST法により卵白結合性IgE陽性と評価されたIgE抗体陽性者由来の血清を用いた場合、本発明においては、実質的なレポーター遺伝子の発現を確認できなかった。このことから、本発明の検査方法は、従来のCAP−RAST法と比べて、高い信頼性によって被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査することができる優れたin vitroアレルギー試験法であるといえる。
【0029】
また、被験者のIgEと特異的アレルゲンとによりFcεRIを架橋する他に、抗ヒトIgE抗体によりFcεRIを架橋することにより、被験者の総IgE量を測定することができる。一般に、血清中総IgE量はI型アレルギー患者において高値を示すことから、感度よく総IgE量を測定する手段は、I型アレルギーの診断上、特にI型アレルギー性疾患の重篤度の評価などにおいて非常に有用である。
【0030】
本発明のスクリーニング方法を用いれば、候補物質の中からI型アレルギーを抑制及び/又は予防し得る物質をスクリーニングすることも可能である。その中から、I型アレルギー性疾患の治療薬として利用し得る物質を選び出すことも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】IgE親和性Fcレセプター発現細胞の活性化からI型アレルギーが起こるまでのメカニズムと本発明の一態様を概略化した図である。
【図2】アレルゲンが糖鎖修飾されており糖鎖部分がIgEのエピトープとなっている場合のCAP−RAST法が偽陽性を示すメカニズムの一例を概略化した図である。
【図3】例1に示したRS−ATL8細胞と、由来となったRBL−2H3細胞、RBL−SX38細胞との関係を示した模式図である。
【図4】RS−ATL8細胞に組み込んだNFAT−ルシフェラーゼ遺伝子(pHTS−NFAT)を制限酵素BglIで完全消化したときのベクターマップ図である。各記号は以下の通り:CoE1; ColE Replication Origin, HSVTK; HSV-TK Promoter, Hyg; Hygromycin Resistance Gene, TKqA; TK Polyadenylation Signal, 4×NFAT; 4×NFAT Enhancer Element, Luc; Luciferase Gene。
【図5】例2における健常者血清と抗IgE抗体による刺激の検出結果を示した図である。
【図6】例2におけるサンプルの血清感作時のLDH試験結果を示した図である。
【図7】例3における卵白アレルギー患者血清と抗原とによる刺激の結果を示した図である。左上図は抗ヒトIgE抗体(1μg/ml)で刺激した結果、右上図は卵白抽出物(5μg/ml)で刺激した結果、左下図はオブアルブミン(1μg/ml)で刺激した結果、および右下図はオボムコイド(1μg/ml)で刺激した結果をそれぞれ示す。
【図8】例4における総IgE量の異なる卵白アレルギー患者における脱顆粒測定法と本発明の一態様との比較結果を示した図である。
【図9】例4における本発明の一態様がCAP−RAST法偽陽性の患者血清では応答しないことを示した図である。
【図10】例5における非食物アレルゲンに対するアレルギー試験結果を示した図である。
【図11】例6におけるOVMの人工胃液消化とアレルゲン性を調べた結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法;
本発明の検査方法は、(1)ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;(2)被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、(3)前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認することを含む。
【0033】
I型アレルギーのメカニズムについて、これまでに知られている知見に基づいて概略化したものを図1とした。図1に示す通り、I型アレルギーは、(1)IgEに親和性のある部位をサブユニットタンパク質の細胞表面に有し、かつシグナル伝達を誘導する部位をそれ自身あるいは他のサブユニットタンパク質の細胞質内に有する膜貫通型のFcレセプター(IgE親和性Fcレセプター)とIgEとの結合(感作)、(2)IgEに対する抗原(アレルゲン)とIgE親和性Fcレセプターとの結合(結合)、(3)異なるエピトープにより同一のアレルゲンに結合した複数のIgE親和性Fcレセプター間の架橋(架橋)、(4)細胞からのヒスタミンやセロトニンなどの生理活性物質の放出(脱顆粒)、(5)生理活性物質による全身性の応答、により生じる。一方、図2に示す通り、1分子のIgEが1分子のアレルゲンに結合することにより、複数のIgE親和性Fcレセプター間で架橋が生じない場合は、上記(4)および(5)は生じない。したがって、アレルゲンと結合するIgEを検出することがそのままI型アレルギーを検出することにはならない。
【0034】
I型アレルギーは、アレルゲンが体内に入ると即時的に生じることから、即時型アレルギーや即時型過敏症ともよばれる。I型アレルギーによる全身性の応答としては、血管の拡張などを介した浮腫や掻痒などがある。このようにI型アレルギーによって生じる疾患をI型アレルギー性疾患といい、例えば、蕁麻疹、PIE症候群、食物アレルギー、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショックなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の検査方法は、いかなる特定の理論にもとらわれないが、以下の通りと推測できる。
ヒトIgEを含む可能性のある被験者由来の生体試料(たとえば、血清)の存在下で、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを発現する細胞をインキュベートする。ただし、この細胞は、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する。次いで被験物質およびインキュベート後の細胞を接触させる。これにより、細胞が有する複数の上記Fcレセプター間で架橋が生じ、種々のシグナル伝達を介して、特定の転写因子が活性化される。この活性化された転写因子がエンハンサーに結合することによって、このエンハンサーの制御下にあるレポーター遺伝子の発現が促進される。このレポーター遺伝子の発現の増大を確認することによって、被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査することができる。
【0036】
本発明の方法に用いる被験物質は特に制限されない。本発明の検査方法や後述する本発明の評価方法においては、被験物質は、被験者に対してI型アレルギーを引き起こし得る物質、すなわちアレルゲンとなる可能性のある物質であることが好ましい。たとえば、塵;埃;ふけなどの皮屑;スギ花粉、ヤシャブシ花粉、イネ科花粉、キク科花粉などの花粉;カビなどの真菌;ユスリカやゴキブリなどの昆虫;昆虫や魚介類などが有する刺激性または毒性の物質;大豆、卵、小麦、牛乳、ソバ、落花生、えび、かになどに含まれる物質;ペニシリンなどの薬剤に含まれる物質;排泄物などに含まれる動物の体に由来する物質;小麦粉や木材加工の際に生じる粉塵などの植物性物質;その他の天然または化学合成物質などがアレルゲンとなり得る。より具体的には、被験者が卵白をアレルゲンとするかどうかを検出したい場合には、たとえば、被験物質としてオブアルブミン、オボムコイド、リゾチームなどの卵白中に存在する物質の精製品や卵白抽出物を用いることができる。
【0037】
被験者は、I型アレルギー性疾患に罹患している者でも、先天的または後天的にI型アレルギー性疾患を発症する可能性のある者でも、健常者でもよく、特に制限はない。被験者由来の生体試料は、被験者から得られたIgEが存在する可能性のある試料であれば特に制限はない。生体試料は、何らかの処置を施したものでもよく、たとえば、キレート剤の添加などによるタンパク質安定化処理や希釈などの処置を施したものを挙げることができる。具体的には、被験者由来の生体試料は、被験者から採取した血液、臍帯血、血清、血漿、乳汁、鼻汁、涙液、唾液、尿などを挙げることができ、IgEの含有量が比較的多く、かつ、−20℃以下、たとえば−80℃程度の温度で長期間の保存が可能である血清または血漿がより好ましい。被験者由来の生体試料は、被験者のI型アレルギーの応答状況に応じて、段階的に希釈した血清がさらに好ましい。
【0038】
本発明の方法に用いる細胞は、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する。ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターとしては、たとえば、膜貫通状で細胞膜上に存在しており、ヒトIgEのFc領域に特異的に結合する部位(ドメイン)が細胞外にあるサブユニット、かつ、シグナル伝達を誘導する部位(ドメイン)が細胞内にあるサブユニットを含むFcレセプターを挙げることができる。また、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターは、GPIアンカー型のFcレセプターであってもよい。GPIアンカー型のFcレセプターとしては、たとえば、FcγRIIIBがある。FcγRIIIBは、サブユニット構造を持たず、他の受容体(補体受容体など)と共役して細胞内に情報を伝達する。よって、このFcγRIIIBの細胞外ドメインを当業者に知られた遺伝子工学的技術を用いて改変することで、ヒトIgEに親和性のあるGPIアンカー型のFcレセプターが作出できる。
【0039】
IgEに高い親和性のあるFcレセプターは、特にFcεレセプターI(FcεRI)として知られている。FcεRIは、一般的に、α鎖1個、β鎖1個、およびγ鎖2個(2量体)の4量体からなる。細胞膜に貫通している回数は、それぞれ、α鎖は1回、β鎖は4回、γ鎖は1回である。IgEとFcεRIとの結合は、IgEのFc領域とFcεRIのα鎖の細胞外ドメインとの間で生じる。したがって、FcεRIを構成する4量体のうち、α鎖がヒト由来のものであれば、FcεRIはヒトIgEと結合することができる。そこで、本発明の方法に用いられる細胞が含有するヒトIgEに親和性のあるFcレセプターは、ヒト由来のα鎖を有するFcεRIであることが好ましい。ヒト由来のα鎖を有するFcεRIは、β鎖およびγ鎖については特に制限はなく、ヒト由来のものでもよく、発現すべき細胞に由来するものでもよい。
【0040】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターとしては、たとえば、細胞外ドメインとしてヒトFcεRIのα鎖を有し、かつ細胞内ドメインとしてLynやSykなどのチロシンキナーゼのキナーゼドメインを有するキメラ受容体なども利用できる。ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターとしてより好ましいのは、α鎖、β鎖およびγ鎖のいずれもがヒト由来である、ヒトFcεRIである。
【0041】
なお、これまでに、ヒトFcεRIの細胞膜上への発現および架橋によるシグナル伝達は、β鎖が欠損したFcεRIを介しても生じるとの報告がある。したがって、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプター、特にヒト由来のα鎖を有するFcεRIは、β鎖が欠損したものであってもよい。
【0042】
本発明の方法に用いる細胞において、レポーター遺伝子の発現制御に関与する転写因子は、I型アレルギーにおける複数のヒトIgEに親和性のあるFcレセプター間の架橋によって生じるシグナル伝達等によって活性化されるものであれば特に制限はなく、細胞の種類に応じて適宜選択することができる。レポーター遺伝子は、活性化された転写因子がエンハンサーに結合することにより発現が促進される。
【0043】
転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下にあるレポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、βガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼなどの酵素をコードする遺伝子;緑蛍光タンパク質(GFP)、Sirius、EBFP、ECFP、EGFP、Venus、DsRedなどの蛍光タンパク質をコードする遺伝子;宿主細胞が天然には有しない細胞表面抗原をコードする遺伝子などを挙げることができる。レポーター遺伝子の数は特に制限されず、たとえば、同じまたは異なる種類のレポーター遺伝子について1個または複数個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個程度である。本発明の方法に用いる細胞において、他のレポーター遺伝子が組み込まれている場合、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下にあるレポーター遺伝子はこの他のレポーター遺伝子と相違していることが好ましい。
【0044】
本発明の方法に供される細胞は、IgEに親和性のあるFcレセプターの架橋によって転写因子を活性化させる経路を有する細胞であれば、細胞の種類および由来などに特に制限はない。このような細胞として、たとえば、FcεRIを内在的に発現するマスト(肥満)細胞、好塩基球、樹状細胞、好酸球、単球、マクロファージ、ランゲルハンス細胞などがあり、このうちマスト細胞および好塩基球が好ましく、マウス、ラットまたはヒト由来のマスト細胞および好塩基球がより好ましい。これらの細胞は、動物体内から単離されたものであってもよいが、株として樹立されているものが好ましい。たとえば、株化したマウスまたはラット由来のマスト細胞および好塩基球としては、ラットマスト細胞株であるRBL−2H3細胞やマウスマスト細胞株であるMC/9細胞(ATCCから購入可能)などがあり、その他にも理化学研究所細胞バンク、JCRB遺伝子バンクなどから入手が可能である。株化したヒト由来のマスト細胞および好塩基球としては、ヒトマスト細胞株であるLAD2(Dr.Kirshenbaum、NIAID NIH)やMcε27(川本恵子、野菜茶研)などがあり、その他にも三光純薬株式会社などから入手が可能である。
【0045】
本発明の方法に用いる細胞における、レポーター遺伝子の発現に関与するエンハンサーおよびプロモーターは、細胞や転写因子の種類に応じて適宜選択することができる。
【0046】
プロモーターは、本発明の方法において用いられる細胞のRNAポリメラーゼを含む複合体が結合する配列を有するものであれば特に制限されないが、たとえば、TATAボックスを有するものを挙げることができ、好ましくは配列TATATAAを有するものである。
【0047】
転写因子は、リン酸化や脱リン酸化などの化学修飾などによって活性化し、次いで核内に移行して、または常態的に核内にあって、DNA上にあるエンハンサーと結合し、次いで該エンハンサーの下流もしくは上流にある、または、該エンハンサーが組み込まれた特定の遺伝子の転写を促進するものであれば特に制限されない。転写因子は、たとえば、「細胞の分子生物学 第4版」(ニュートンプレス社発行)では「転写活性化タンパク質」とよばれ(同書 313頁を参照)、「分子細胞生物学辞典 第2版」(東京化学同人社 発行)では「エンハンサー結合タンパク質」として記載されている。このような転写因子としては、たとえば、細胞がマスト細胞である場合、複数のFcεRIの架橋後に活性化される、NF−AT、NF−κB、AP−1、Elk−1、Egr−1、GATA−1、GATA−2などがある。これらの転写因子が結合し得るエンハンサーは、下記表1を参照することができる。下記表1において、中央欄は転写因子を示し、右欄は対応する転写因子が結合し得るエンハンサーの塩基配列を示す。エンハンサーの塩基配列において、太字の配列が転写因子に結合する配列である。左欄は、各エンハンサーを含むプラスミドを表し、これらのプラスミドを利用して、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に含む領域を、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを含有する細胞に導入することができる。
【表1】

【0048】
エンハンサーは、プロモーターに作用して転写を増大させる通常約10bp〜300bpのシス作用性DNAエレメントである。エンハンサーは、たとえば、表1の右欄に示した配列を1セットとして複数セットを連結して導入してもよい。複数の転写因子を連結して使用することによって、転写因子による転写促進活性をより高めることができる。エンハンサーの上記セット数は、たとえば、2個、3個、4個、5個、6個〜20個程度である。このようなセット数は、転写因子によって異なり、上記表1を参照できる。エンハンサーとプロモーターおよびレポーター遺伝子との配置関係は、エンハンサーがレポーター遺伝子の発現を制御することができれば、特に制限されない。たとえば、エンハンサーは、プロモーターの上流、プロモーターとレポーター遺伝子との間、レポーター遺伝子の下流、レポーター遺伝子の間に配置していてもよい。
【0049】
転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に含む領域には、転写の調節に関与する他の領域を含むことが好ましい。たとえば、このような領域として、ポリアデニル化部位、転写停止配列、5'末端非転写配列などが挙げられる。
【0050】
転写因子について、マスト細胞における上記転写因子のうちNF−ATは、ラットマスト細胞株であるRBL−2H3細胞がFcεRIの架橋刺激に応答しサイトカインを産生する際に、NF−ATの上流のシグナル伝達阻害剤であるFK506やシクロスポリンAなどで同細胞を処理することにより顕著な産生抑制が観察されることから、マスト細胞の活性化において極めて重要な役割を果たしていることが知られていた転写因子の一つである。したがって、細胞がマスト細胞である場合、細胞内において、NF−ATが結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に配置させていることが好ましい。
【0051】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞の具体的な態様の一つとして、ヒトFcεRIを発現し、かつNF−ATが結合し得る配列表の配列番号1に記載のエンハンサーの制御下に、プロモーター(TATATAA)およびホタルルシフェラーゼ遺伝子をこの順に含有するマスト細胞を挙げることができる。このようなマスト細胞として、例えば、本発明者らによって樹立されたラット由来のRS−ATL8細胞を挙げることができる。以下に、RS−ATL8細胞の作製方法を例にとり、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞の作製方法について説明する。
【0052】
RS−ATL8細胞は、ラット由来のマスト細胞であるRBL−2H3細胞に安定的にヒトFcεRIのα鎖、β鎖およびγ鎖の全てのサブユニットを強制的に発現させた細胞株であるRBL−SX38細胞に基づいて作製されたものである。RBL−SX38は、Wiegandらの文献(Wiegand, T.W. et. al., J.Immunol., 157:221-230 (1996))に記載がある通り、RBL−2H3細胞に、哺乳動物発現ベクターであるpCDL−SrαにサブクローニングしたヒトFcεRIのα鎖およびβ鎖のcDNAと、同じく哺乳動物発現ベクターであるpBJlneoにサブクローニングしたγ鎖のcDNAのとを、エレクトロポレーションにより導入し、次いでネオマイシンによりセレクションをかけ、次いでFITC標識抗ヒトFcεRIα抗体とフローサイトメトリーにより、RBL−SX38細胞を樹立できる。
【0053】
RS−ATL8細胞は、RBL−SX38細胞から、以下の方法により樹立できる。HSV−TKプロモーターの制御下に、抗生物質ハイグロマイシン耐性遺伝子を含み、さらに活性化した転写因子NF−ATが結合するエンハンサー(配列表の配列番号1)の4回反復配列(4×NFAT)、プロモーター(TATATAA)、およびホタルルシフェラーゼ遺伝子を含む組換えベクターpHTS−NFAT(バイオミクス・テクノロジー社(Biomyx Technology))をリポフェクション法によってRBL−SX38細胞に導入し、次いでハイグロマイシン選択によって組換えベクター含有細胞を得て、次いで限界希釈法によりクローニングを行うことによって、RBL−SX38細胞の染色体上に、転写因子NF−ATが活性化した際に結合するエンハンサーの制御下にプロモーターおよびホタルルシフェラーゼ遺伝子をこの順に含有するRS−ATL8細胞を樹立できる。4×NFAT、プロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子を含む領域の塩基配列は、配列表の配列番号18に示す。
【0054】
上記組換えベクターの作製、組換えベクターのRBL−SX38細胞への導入、クローニングなどの操作は当業者に知られており、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989(以下、モレキュラークローニング第2版と呼ぶ)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと呼ぶ)などに記載の方法に準じて実施することができる。たとえば、組換えベクターを細胞へ導入する方法は、リポフェクション法に限らず、たとえば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、ウイルスベクター法などの様々な方法を使用できる。また、抗生物質耐性遺伝子についても、ハイグロマイシン耐性遺伝子に限らず、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子などの様々な公知の抗生物質耐性遺伝子を用いることができる。また、このとき用いるベクターとしては、細胞の種類に応じて当業者に知られているものを利用することができる。
【0055】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞は、細胞の由来に応じて適宜培養条件を選択して培養できる。たとえば、RS−ATL8細胞は、ラット由来のマスト細胞の培養条件、たとえば、10%の非働化ウシ胎児血清を添加したMEM培地を用いて、ペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質を単独または組み合わせて加え、通常用いられる細胞培養用フラスコなどによって、動物細胞を培養する通常の条件、たとえば、37℃、5%二酸化炭素存在下のインキュベーター中で培養することができる。また、RS−ATL8細胞は、ヒトFcεRIの安定発現のためにジェネティシン耐性を獲得しており、かつレポーター遺伝子の安定発現のためにハイグロマイシン耐性を獲得していることから、RS−ATL8細胞の培養には、ジェネティシンおよびハイグロマイシンを添加することが好ましい。
【0056】
本発明の検査方法では、まず、(1)ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートする。
【0057】
上記インキュベートは、方法や条件について特に制限されない。たとえば、上記インキュベートは、上記細胞と被験者由来の生体試料とを混合した状態でインキュベートすることもできる。また、上記インキュベートは、上記細胞をあらかじめ培養皿上で培養し、次いで培養皿から培養上清を除去し、次いで培養皿上に被験者由来の生体試料を加えた後にインキュベートしてもよい。
【0058】
インキュベートさせるべき細胞の数には特に制限はない。たとえば、96ウェルプレートを用いる場合、通常の細胞濃度、具体例として1.0〜10×104 cells/50μlの細胞濃度の溶液を播種し、あらかじめ数時間、好ましくは3〜6時間程度インキュベートしてウェルの底面に接着させたものを用いることができる。ただし、細胞の播種と同時に生体試料を加えてもよい。なお、播種すべき細胞数が多くなるとバックグラウンドが増加する傾向にあるが、応答変化も大きくなるので、感度(S/N比)にほとんど影響しないと推測される。
【0059】
被験者由来の生体試料は、上記の通り、希釈されていてもよい。たとえば、生体試料が血清である場合は、血清は、好ましくは、最終濃度として3〜3×108倍程度に希釈されていてもよいが、好ましくは10〜3,000倍、より好ましくは20〜1,000倍、さらに好ましくは50〜500倍、なおさらに好ましくは100倍程度に希釈されている。
【0060】
上記インキュベートの時間は、生体試料中にIgEが含まれる場合に、このヒトIgEとヒトIgEに親和性のあるFcレセプターとが結合し得る時間であれば特に制限はない。上記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターがFcεRIである場合、FcεRIがIgEと結合することによって、FcεRIの細胞膜上への発現量が増加することが知られている。そこで、この場合の上記インキュベートの時間は、十分量のFcεRIが細胞膜上に発現する時間であることが好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましく、4時間以上がなおさらに好ましく、6時間以上が特に好ましく、8時間以上が格別好ましい。インキュベート時の温度や二酸化炭素濃度などのその他の条件は、由来細胞の種類に応じて適宜設定することができる。
【0061】
本発明の検査方法では、次いで、(2)被験物質および上記インキュベート後の細胞を接触させる。
【0062】
上記工程(2)で用いる上記インキュベート後の細胞は、上記工程(1)におけるインキュベートの後に、生体試料を除去し、任意に培地や緩衝液などで洗浄したものを用いることが好ましい。ただし、生体試料を除去しない場合であっても、以降の工程におけるレポーター遺伝子の発現の増大を確認することは可能である。被験物質は通常、培地や緩衝液などに溶解して被験物質溶液として用いる。被験物質溶液における被験物質の濃度は種々のものを使用でき、たとえば、被験物質が食物に含まれる物質である場合、食物の摂取を通じて被験物質が生体内に取り込まれ得る量を指標として調製することができる。また、上記工程(2)では、感作および検査法の成立性を確認するために、陽性対照として、IgEと特異的に結合してFcεRIを架橋する物質、たとえば、抗IgE抗体などを用いて並行試験を実施することが好ましい。被験物質および上記インキュベート後の細胞の接触時間は、被験物質により転写因子が活性化してエンハンサーに結合し、レポーター遺伝子の転写が促進されその翻訳が完了するのに十分な時間であれば特に制限されないが、たとえば、1〜10時間が好ましく、2〜5時間がより好ましく、3〜4時間程度がさらに好ましい。被験物質および上記インキュベート後の細胞の接触のその他の条件は、上記工程(1)のインキュベート条件を参照できる。
【0063】
本発明の検査方法では、次いで、(3)前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認する。
【0064】
レポーター遺伝子の発現の確認は、レポーター遺伝子発現産物の種類に応じて、当業者によって知られている方法を制限なく利用することができる。たとえば、レポーター遺伝子がホタルルシフェラーゼ遺伝子である場合は、上記工程(2)の後に得られる細胞を、氷冷PBSなどを用いて洗浄するなどして転写因子の活性化を停止させ、次いでPassive Lysis Buffer(プロメガ社)などの細胞破砕液を用いるなどして細胞を破砕して、細胞破砕液を得る。得られた細胞破砕液にホタルルシフェラーゼの基質(ルシフェリン)を加えて反応させ、次いで反応により生じた発光を目視または発光検出機などの装置によって機械的に確認する。また、Bright−Glo、ONE−Glo、Steady−Glo(プロメガ社)などのような、細胞の破砕と発光を同時に行うホモジニアスアッセイ系の試薬を用いることもできる。
【0065】
本発明の検査方法では、上記した工程を実施することにより、被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査することができる。本発明の検査方法は、被験物質がアレルゲンである場合も、そうでない場合にも利用できる。さらに、本発明の検査方法では、上記した工程の前後や工程の間に種々の工程を含むことができる。
【0066】
本発明の検査方法は、自動化することもできる。たとえば、本発明の検査方法は、細胞または細胞を収容する容器を保持するための保持手段、被験者由来の生体試料や被験物質を該保持手段に供給するための供給手段、レポーター遺伝子の発現を検出するための検出手段を少なくとも備えた装置を用いれば、本発明の検査方法を簡便かつ迅速に実施できる。
【0067】
[2]被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法
本発明の評価方法は、(1)ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;(2)被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、(3)’前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定することを含む。これらのうち、上記工程(1)および(2)は、上記[1]の記載を参照できる。以下、上記工程(3)’について主に説明する。
【0068】
本発明の評価方法では、上記工程(2)の接触により被験物質と接触させた細胞におけるレポーター遺伝子の発現の増大を定量的に測定する。このレポーター遺伝子の発現の増大を定量的に測定することを、レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定するともいう。レポーター遺伝子の発現レベルの測定は、レポーター遺伝子の種類に応じて特に制限されない。たとえば、レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である場合は、基質と反応させた際に生じる発光の強度を上記した発光検出機によって定量的に測定できる。レポーター遺伝子がGFP遺伝子である場合は、細胞の蛍光強度を蛍光プレートリーダー、FACSなどの機器を利用して測定することにより定量化できる。また、タンパク質を定量する一般的な方法、たとえば、レポーター遺伝子の転写によって得られるmRNAや、このmRNAの翻訳によって得られるレポータータンパク質を、RT−PCRやウエスタンブロッティングなどの当業者により知られる方法によって定量的に測定することもできる。
【0069】
なお、上記工程(2)の被験物質および上記インキュベート後の細胞の接触に際しては、試料間の試験結果のバラツキを抑えるために、カルセインAMなどの生細胞数を定量し得る物質を加えて生細胞数を定量することや、上記インキュベート後の細胞のハウスキーピング遺伝子またはこのハウスキーピング遺伝子のプロモーター制御下に配置させたレポーター遺伝子(ただし、このレポーター遺伝子は、上記プロモーター制御下に転写因子が結合し得るエンハンサーの下流に配置させたレポーター遺伝子と異なる)の発現を測定することなどによって、生細胞数をノーマライズすることが好ましい。ただし、RS−ATL8細胞を用いる場合は、ほとんどの被験物質や十分に希釈した血清などは細胞の生存率に影響を及ぼさないため、生細胞数によるノーマライズを省略することもできる。
【0070】
たとえば、上記工程(2)において非蛍光性のカルセインAMを加えた場合は、上記工程(3)’において生細胞あるいは細胞破砕液中の生細胞に由来したカルセインの蛍光を測定することにより、生細胞数に応じた蛍光強度を得ることができる。これにより、ルシフェラーゼ反応によって検出した蛍光強度をカルセインの蛍光強度で除することにより、ルシフェラーゼの比活性を定量できる。
【0071】
本発明の評価方法では、上記工程(3)’により測定されたレポーター遺伝子の発現レベルを対照と比較することが好ましい。対照としては、たとえば、被験者由来の生体試料を含まない培地または緩衝液を用いて上記工程(1)、(2)および(3)’を経て得られたレポーター遺伝子の発現レベルとすることができる。または、被験者由来の生体試料により感作をするが、特異的アレルゲンを含まない溶液により刺激した場合のレポーター遺伝子の発現レベルを対照とすることもできる。被験者由来の生体試料の希釈率及び/又はアレルゲンの濃度は任意に変更することができ、その濃度依存性からI型アレルギーのリスクを定量的に評価することができる。
【0072】
また、生体試料および被験物質を接触させていない、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつプ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞におけるレポーター遺伝子の発現レベルを、バックグラウンドとすることができる。バックグラウンドより高い一定の値を閾値として任意に設定し、レポーター遺伝子の発現レベルがこの閾値を超えるか否かによって被験者がI型アレルギーに罹患する可能性があるか否かをI型アレルギーのリスクとして簡便に評価することもできる。
【0073】
上記閾値について、後述する実施例に示す通り、抗ヒトIgE抗体によるFcεRIの架橋を誘導しない条件では、血清希釈率が3倍から2187倍の間でバックグラウンドの2倍を超えることはなかった。それに対して、IgEを46pg/ml(0.02IU/ml)含む健常者血清を用いて、抗ヒトIgE抗体によりFcεRIの架橋を誘導した場合、ルシフェラーゼの比活性がバックグラウンドの2倍を超えた。これらの結果から、たとえば、上記閾値を、バックグラウンドの2倍とすることも可能である。
【0074】
本発明の評価方法は、自動化することもできる。たとえば、本発明の検査方法は、細胞または細胞を収容する容器を保持するための保持手段、被験者由来の生体試料や被験物質を該保持手段に供給するための供給手段、レポーター遺伝子の発現レベルを測定するための測定手段を少なくとも備えた装置を用いれば、本発明の検査方法を簡便かつ迅速に実施できる。
【0075】
[3]被験者におけるIgE量を測定する方法
本発明の測定方法は、(1)ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;(2)’抗ヒトIgE抗体または前記被験者に対するアレルゲン、および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、(3)’前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定することを含む。
【0076】
上記工程(2)’では、本発明の検査方法における工程(2)における被験物質の代わりに、既知濃度の抗ヒトIgE抗体または被験者に対するアレルゲンを用いる。抗ヒトIgE抗体は、たとえば、ヤギ、マウス、ラット、ウサギなどに由来するものがあり、Bethyl社から入手することもできる。アレルゲンは、被験者に投与するとI型アレルギーが生じるものであれば特に制限されない。たとえば、被験者が卵白をアレルゲンとする場合は、Egg White Extract(Greerlabs)などの非精製抗原を利用することもできるし、オブアルブミンやオボムコイドなどの精製抗原を利用することもできる。抗ヒトIgE抗体または被験者に対するアレルゲンの濃度と上記工程(3)’のレポーター遺伝子の発現レベルは関連することから、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定することによって、被験者におけるIgEの量を測定することができる。本発明の測定方法もまた、たとえば、本発明の評価方法の自動化のための装置を利用することによって、自動化することもできる。
【0077】
[4]スクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、(1)’ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、ヒトIgEを含む試料の存在下でインキュベートすること;(2)’’抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲン、候補物質、ならびに前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、(3)’’前記候補物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質を選択することを含む。
【0078】
本発明のスクリーニング方法において、上記(1)’の工程では、上記[1]の工程(1)の被験者由来の生体試料に代えて、ヒトIgEを含む試料を用いる。ヒトIgEを含む試料は、形態や含有するヒトIgEの濃度などについて特に制限されず、たとえば、スクリーニングによって得られる物質の種類に応じて適宜選択できる。ヒトIgEは、遺伝子組換え技術等によって作製されたヒト化IgEを用いることもできる。
【0079】
本発明のスクリーニング方法において、上記(2)’’の工程では、抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンおよび候補物質を、上記工程(1)’のインキュベート後の細胞に接触させる。この接触の態様は、(i)細胞と抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンを接触させた後、抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンの存在または非存在下で、細胞に候補物質を接触させること、(ii)細胞と候補物質を接触させた後に、候補物質の存在または非存在下で、細胞に抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンを接触させること、(iii)候補物質と抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンとを混合した溶液などを用いて候補物質ならびに抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンを同時に細胞に接触させること、などが想定されるが、これらのいずれでもあってもよい。本発明のスクリーニング方法における候補物質は特に制限はなく、天然物および化学合成物のいずれでもよい。
【0080】
本発明のスクリーニング方法において、上記工程(3)’’では、候補物質を加えない場合は、レポーター遺伝子の発現の増大を確認できる。そこで、候補物質を加えた際に、レポーター遺伝子の発現が微弱である場合、またはレポーター遺伝子の発現が候補物質を加えない場合と比べてさらに増大した場合は、このような候補物質をレポーター遺伝子の発現に影響を与える物質として選択する。特に、レポーター遺伝子の発現が確認されない場合、候補物質によってI型アレルギーが抑制されたと判定することができる。レポーター遺伝子の発現の増大を招く物質は、潜在的にアレルギーを悪化させる危険性がある物質と推測され、このような物質を把握することは公衆衛生上意義のあることである。
【0081】
本発明のスクリーニング方法は、好ましくはI型アレルギーの抑制及び/又は予防するために使用される物質をスクリーニングする。なお、レポーター遺伝子の発現は、定量的に測定してもよい。この場合は、レポーター遺伝子の発現レベルの強度によって、I型アレルギーへの影響の程度が異なる種々の物質を得ることが可能となる。
【0082】
本発明のスクリーニング方法によって、候補物質の中から選択したI型アレルギーを抑制することができる物質を、I型アレルギーの抑制剤、予防剤、またはその両方の薬剤として利用し得る。さらに、このようなI型アレルギーの抑制剤及び/又は予防剤の中から、I型アレルギーを治療するための医薬を開発することが期待できる。
【0083】
[5]細胞およびキット
本発明の細胞は、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する。本発明の細胞については、本発明の方法の記載を参照できる。また、本発明のキットは、本発明の方法を実施するに際して使用されるものであり、本発明の細胞を含む。本発明のキットとしては、本発明の細胞の他に、たとえば、被験物質やアレルゲンの希釈液、本発明の細胞に適した培地や緩衝液、レポーター遺伝子が酵素遺伝子の場合はその基質、標準ヒトIgEまたはヒトIgE含有血清、抗ヒトIgE抗体、各種アレルゲン、希釈液、ルシフェラーゼ基質、細胞洗浄液、細胞破砕液、陽性対照としてのフォルボールエステルおよびカルシウムイオノフォア、陰性対照としてのシクロスポリンAまたはタクロリムス(FK506)、96ウェルプレート(パーキンエルマー社(PerkinElmer)のViewPlateなど)などを特に制限なく含むことができる。
【0084】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0085】
[材料および方法]
(1)RS-ATL8細胞の樹立
ヒトFcεRIを遺伝子導入し、恒常的に発現させたラットのマスト細胞株であるRBL-SX38 細胞を用いた(Wiegand, T.W., Williams, P.B., Dreskin, S.C., Jouvin, M.H., Kinet, J.P., Tasset, D. (1996). J Immunol. 157, 221-30.を参照)。pHTS-NFAT(BIOMYX社)を制限酵素(BglI)で完全消化し、Plasmid midi kit (Viogene) で精製した。次にRBL-SX38細胞2.5×105個に対し、精製した線形化プラスミド4μgとLipofectamin2000 (Invitrogen)10μlを加え、トランスフェクションを行った。リポフェクション開始から37℃で4時間インキュベートした後、新しい培地に交換し2日間培養を続けた。その後、セレクションを行うために、細胞を90mmディッシュに植え継ぎ、600μg/mlのhygromycinを含む継代培地中で、3週間培養を続けた。ここで得られたhygromycin耐性細胞を播種密度1cell/wellで96wellディッシュに播種し、hygromycinを含む培地中で培養を開始した。約2週間後に各ウェル内に形成されたコロニー数をカウントし、1コロニーのみを含むウェルを選択することで、クローン化を行った。その後1コロニー/wellと判断された細胞を、24wellディッシュ、6wellディッシュと拡大培養を行い、最終的に16クローンを得た。得られた16クローン中4クローンにつき、クローンごとにルシフェラーゼアッセイを行って、10ng/mlのPMA(Sigma)と1μMのionomycin(Sigma)による3時間の刺激に対して、最も強いルシフェラーゼ反応を示したものをRS-ATL8細胞とした。
【0086】
(2)細胞培養
細胞培養は10%FCS、GlutaMax (invitrogen)、1%Penicillin/Streptomycin (Sigma)を含むMEM培地(invitrogen)を用いて、37℃5%CO2インキュベーターで行った。RBL-SX38細胞は、1.2mg/mlのgeneticin、RS-ATL8細胞は1.2mg/mlのgeneticin及び500μg/mlのhygromycinを培地に共存させ培養し、細胞は3−4日に一度の割合でセルスクレーパーにより採取し、継代した。
【0087】
(3)患者血清およびアレルゲン
アレルギー患者血清は、藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院の倫理規定に従って、当大学病院を来院した患者より、インフォームドコンセントをとった上で採取したものを使用した。検体は、2002年1月〜2004年2月までに採取され、CAP-RAST法等の臨床検査の後、使用直前まで-80℃で保存した。またヒト血清(pooled human serum)はコスモバイオ社から購入した。Egg White Extract(Greerlabs)はPBS bufferで5mg/mlの濃度に溶解させ、-30℃で保存した。使用時に培地で希釈した。ダニ抗アレルゲン及び、対照液は鳥居薬品株式会社より購入した。ダニアレルゲンは4℃、対照液は室温で保存し、使用時には培地で希釈した。
【0088】
(4)ELISA法による総IgEの定量
健常者血清中の総IgEの定量は、Bethyl社のhuman IgE ELISA quantititation kitを用い、メーカーのプロトコルに従って行った。
【0089】
(5)脱顆粒測定
RBL-SX38細胞をセルスクレーパーで回収し、2.5×104 cells/50μl/wellになるように96wellプレート(Corning)に播種し、3時間以上CO2インキュベーター内で培養した。その後、培地に希釈した10倍の濃度のヒト血清を各ウェル5μlずつ加え、CO2インキュベーター内で一晩感作を行った。翌日培地を除き、PIPES buffer ( 10mM PIPES (Dojindo), 139mM NaCl, 5mM KCl, 1mM CaCl2・2H2O, 0.6mM MgCl2・6H2O, 1mg/ml BSA, 1mg/ml glucose)で希釈した抗原を各ウェル50μlずつ加え、37℃の気相インキュベーター内で30分間刺激を行った。上清を別の96 well プレートに回収し、残った細胞に0.2%TritonX100を50μlずつ加え、室温で5分間インキュベートし細胞溶解液とした。この細胞溶解液と回収した上清を25μlずつ96well plateに移し、ネガティブコントロールとしては同量のPIPES bufferを空いているwellに加えた。ここに1.3mg/mlのp-nitrophenyl-2-deoxy-β-glucopyranoside (Nacalai Tesque) を100μlずつ加え、37℃の気相インキュベーターで60分間反応させた。最後に200μlのGlycine buffer(0.25M Glycin; NaOH,pH10.0)を加えて、反応を停止させた後、405nmの吸光度を測定した(EL340, Bio-Tek instrument)。脱顆粒の強さは、以下の式に従って算出した、:脱顆粒(%)=(上清の吸光度−Blank)/(上清の吸光度−Blank+細胞溶解液の吸光度−Blank)×100。
【0090】
(6)ルシフェラーゼアッセイ
サブコンフルエントのRS-ATL8細胞を新しい10%FCS-MEM培地中でセルスクレイパーを用いて回収し、2.5×104 cells/50μl/wellずつ底面が透明の白色96well plate(View Plate-96TC, PerkinElmer)に連続分注器(エッペンドルフ)を用いて播種した。細胞播種後、3時間以上CO2インキュベーター内で培養し、培地に希釈した10倍濃度のヒト血清を各ウェル5μlずつ加え、CO2インキュベーター内で一晩感作させた。翌日、培地を除き、培地で希釈したアレルゲンまたは抗ヒトIgE抗体を各ウェル50μlずつ加え、CO2インキュベーター内で3時間刺激を行った。このとき生細胞数の指標として1μMの3',6'-Di(O-acetyl)-4', 5'-bis[N,N-bis (carboxymethyl) aminomethyl] fluorescein, tetraacetoxymethyl ester (Calcein-AM;(株)同仁化学研究所)を添加した。培地を除き、氷冷したPBS bufferで2回洗浄した。Passive Lysis Buffer(Promega社Dual-Glo Luciferase Assay System)を各ウェル20μlずつ添加し、MicroAmp Clear Adhesive Film(Applied Biosystems)によりプレートを密閉し、VORTEX-GENIE2 (Scientific Industries社)により、最大速度で15分間プレートを攪拌し、細胞を完全に破壊した。プレートを遠心し、蛍光プレートリーダーで、485nmで励起時の538nmのcalcein蛍光強度を測定した。その後、Luciferase Assay System(Promega)を用いてメーカーのプロトコルに基づいてルシフェラーゼ測定を行った。検出にはPerkinElmer社のARVOマルチラベルリーダーを用いた。
【0091】
(7)LDH細胞傷害性試験
ヒト血清による細胞障害性は、LDH cytotoxicity test (Roche)によって評価した。20μlの上清を96wellプレート(Corning)に播種し、ジアホレース・NAD+溶液を50μlずつ加え、7〜12分室温でインキュベートした。その後、反応停止液(ITN・乳酸溶液)を50μlずつ加え、10秒間静かに振って混ぜ、490nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(EL340, Bio-Tek instrument)で測定した。
【0092】
(8)Ovomucoidの人工胃液消化
G-con溶液(2mg/l NaCl, pH1.2 (HCl))5mlに固相化ペプシン(Pierce社) 3.8mg(13,148units)を加え、人工胃液simulated gastric fluid (SGF) を調製した。1520μlのSGFに、80μlの5mg/mlのovomucoid(Sigma社)を加え、37℃の水浴中で揺すりながら0, 0.5, 2.5, 10, 20, 30および60分間インキュベートした(サンプル溶液)。70μlの200mM NaCO3溶液に200μlのサンプル溶液を加えて、1500rpmで3分間遠心して固相化ペプシンを沈殿させて分解反応を停止させ、上清を回収した。
【0093】
(9)SDS-PAGEとCBB染色
5×Laemmili buffer(BioRad社)950μlに、2-melcaptoethanol(和光純薬工業株式会社)50μlを加え、2×Sample bufferとした。2×Sample buffer 10μlと目的のタンパク質溶液10μlを混合し、95℃で3分間ボイルし氷上で冷却後、10-20%ポリアクリルアミドゲル(XV-Pantera gel; DRC社) 及びTG-SDS(DRC社)を用いてSDS-PAGEを行った。泳動後のゲルは、ミリQ水で軽く洗浄後、CBB固定液(10%酢酸-, 50%メタノール溶液)中で5分間、Quick CBB (和光純薬工業株式会社)中で揺らしながら室温で30分間インキュベートした。染色後、ミリQ水中で脱色し、泳動像をスキャナーにより取り込み、画像解析を行った。
【0094】
(10)アレルギー患者血清によるウエスタンブロット
アレルゲンサンプルを10-20%ポリアクリルアミドTris/Tricine 2Dゲル(Invitrogen)にアプライし、電気泳動により分離後、ニトロセルロース膜に転写した。その後0.5% Casein-PBS(pH7.0)中で4℃で一晩ブロッキングを行い、翌日4mm幅に切り分け、0.2%Casein-PBSで4〜5倍に希釈した患者血清中に入れ、室温で1時間インキュベート後、4℃で18時間インキュベートした。0.05%Tween 20-PBSで洗浄後、室温で1時間ウサギ抗ヒトIgE抗体(Nordic Immunological Laboratories)を反応させ、3回洗浄後、室温で1時間horseradish peroxidaseを結合させた抗ウサギ Ig抗体(Amersham Biosciences)を反応させた。最後に、Konica ImmunoStain HRP-1000(Konica社)のプロトコルにしたがって、化学発光イメージリーダーDIANA (raytest)によって化学発光を検出した。
【0095】
[例1]RS-ATL8細胞株の樹立
本研究では、Wiegandらがラットマスト細胞株RBL-2H3細胞にヒトFcεRIのα-,β-およびγ-サブユニットを組み込んで樹立したRBL-SX38細胞に、新たにNFATによってルシフェラーゼの転写が誘導される遺伝子を組み込んで、ヒト血清による感作およびアレルゲン添加により、FcεRIの架橋を介してレポーター分子を発現する培養細胞株を樹立した(図3を参照)。遺伝子導入後、hygromycinによるセレクションにより得られた16クローンのうち、4クローンについて、10nM PMAと1μM ionomycinで刺激したときのルシフェラーゼ応答を評価した。その結果、最も強くルシフェラーゼを発現した細胞をRS-ATL8細胞(RBL-SX38 stably transfected with NFAT-Luciferase , clone#8細胞)として樹立した。また、導入したNFAT-ルシフェラーゼのベクターマップを図4に示した。
【0096】
[例2]RS-ATL8細胞の活性化を指標とするヒトFcεRIの架橋の検出感度
RS-ATL8細胞のルシフェラーゼ発現を指標とする本試験法の感度を調べるために、様々な希釈倍率の健常者血清を添加し、同細胞が発現するヒトFcεRIに結合したヒトIgEを1μg/mlの抗ヒトIgE抗体により架橋する実験を行った。
【0097】
FcεRIの架橋によるマスト細胞の活性化は、ルシフェラーゼ発光量を生細胞数の指標であるcalceinの蛍光強度で除した値で示した。感作なしおよび刺激を行わない場合のRS-ATL8細胞がバックグラウンドとして恒常的に発現しているルシフェラーゼのレベルを基準とし、その2倍の発現量を閾値と設定した。
【0098】
さまざまな希釈倍率の健常者血清を感作させ、ルシフェラーゼ応答をみたところ、2187倍に希釈した血清による感作で、閾値を越える応答がみられた(図5を参照)。ルシフェラーゼ応答のピークは、100倍希釈付近で、100倍以上の血清希釈倍率では、血清濃度依存的に、ルシフェラーゼ応答が増加した一方、100倍以下の高濃度血清条件下では、血清濃度依存的に、ルシフェラーゼ応答が減少した。本健常者血清は、複数の健常者から採取した血清が混合されているものであるが、血清中のIgEの量をELISA法(Bethyl社)にて測定したところ、ちょうど100ng/mlのIgEを含有していた。2187倍希釈の本血清のIgE濃度を計算すると、本試験法は少なくとも46pg/ml(0.02 IU/ml)のヒトIgEの架橋を検出することが出来ることが示された。また、ヒト血清の高濃度側では、むしろルシフェラーゼが減少したが、RBL細胞はラットに由来するため、高濃度のヒト血清を感作すると、ヒトの補体成分により傷害を受ける可能性が考えられた。しかしIgEは熱に対し不安定であるため、熱処理による補体の非働化は行うことが出来ない。そこで、血清の希釈率を高めていき、細胞傷害性が認められなくなる希釈率を求めた。LDH細胞傷害性試験の結果、血清を3倍希釈で感作させた時に有意な細胞傷害性が認められたが、27倍以上に希釈すれば、ほとんど傷害性がみられないことが分かった(図6を参照)。また、重症のアレルギー患者血清においても100倍希釈であれば、LDHの細胞外放出が見られないことがわかった。これにより、血清を少なくとも100倍以上希釈することにより、本試験法の定量性を確保したまま、細胞への傷害性を回避できることが示された。
【0099】
[例3]アレルゲン特異的なFcεRIの架橋
次に、卵でアナフィラキシーを起こした経験のある患者の血清01を用いてアレルギー試験を行った(図7を参照)。この患者の場合、抗ヒトIgE抗体により総IgEを架橋すると、少なくとも24300倍希釈から閾値を上回るルシフェラーゼ応答が観察された(図7左上を参照)。また、5μg/ml卵白抽出物(Egg White Extract; EWE)、卵白の主要アレルゲンであるovalbumin(OVA)及び ovomucoid (OVM)、それぞれ1μg/mlで刺激を行った結果、それぞれ900倍、900倍および300倍において閾値を超えるルシフェラーゼ応答を示した(それぞれ図7右上、左下、右下を参照)。
【0100】
[例4]脱顆粒測定法とルシフェラーゼ測定法との比較
マスト細胞の活性化の最も一般的な指標に脱顆粒が挙げられる。よって次に、脱顆粒測定法とルシフェラーゼ測定法を比較するため、それぞれRBL-SX38細胞及び、RS-ATL8細胞を用い、100倍に希釈した総IgE濃度の高い卵白アレルギー患者血清01(12700 IU/ml)または、低い卵白アレルギー患者血清05(271 IU/ml)で感作して様々な濃度の抗原により刺激した場合の応答を測定した。刺激には、抗ヒトIgE抗体または卵白抽出物を用いた。
【0101】
総IgE濃度の高い卵白アレルギー患者血清01においては、脱顆粒測定では10pg/ml以上、ルシフェラーゼ測定では1pg/ml以上のEWEで刺激したとき、閾値を越える応答があった(図8左を参照)。血清非感作時の未刺激時の値、最小値、最大値をそれぞれ、C0、Cmin、Cmaxとし、血清感作時の未刺激時の値、最小値、最大値をそれぞれ、S0、Smin、Smaxとしたとき、脱顆粒測定法の場合、感作による非特異的な増加(S0/C0×100)が181%、抗原依存的に起こる応答の最大変化幅の割合((Smax−S0)/S0×100)が39%、および、コントロールの不安定性((Cmax−Cmin)/C0×100)が52%であった(図8左上を参照)。一方で、ルシフェラーゼ測定法の結果では、感作による非特異的な発現増加(S0/ C0×100)が155%、抗原依存的に起こる応答の変化幅の最大値((Smax−S0)/S0×100)が621%、および、コントロールの不安定性((Cmax−Cmin)/C0×100)が25%であった(図8左下を参照)。また、総IgE濃度の低い卵白アレルギー患者血清05においては、脱顆粒測定法では10ng/mlから、ルシフェラーゼ測定法では10pg/mlから閾値を超える応答が観察された。このことは、本発明技術が従来法に比較して約1000倍の検出感度を有していることを示している。
【0102】
マスト細胞の活性化を検出する本試験法が、IgEとアレルゲンとの特異的結合のみを指標とするCAP-RAST法による評価、および臨床的な食物負荷試験の結果とどのように相関するかについて、次にCAP-RAST法により卵白に対する特異的IgEが陽性と評価された2名の患者血清を用いて試験を行なった(図9を参照)。実際に卵白アレルギーであることが分かっている患者03の場合、本試験法においては、100倍希釈した血清を用いると、10pg/mlの卵白抽出物により閾値を超える応答が観察された(図9上を参照)。しかし、卵白結合性IgEが陽性ではあるが卵を食べることができるアトピー性皮膚炎患者04の場合、実験に用いた濃度範囲(1pg/ml〜1μg/ml)では、卵白抽出物による刺激は、閾値を超えるルシフェラーゼ発現上昇を誘導しなかった(図9下を参照)。このことは、本試験法によれば、IgE結合性のみを指標として評価するCAP-RAST法やウェスタンブロットなどの従来法と異なり、より実際の臨床症状を反映した試験結果を提供できる可能性があることを意味している。
【0103】
[例5]試験の特異性と非食物アレルゲンへの応用
本アレルギー試験は患者のアレルゲンを特異的に検出できているのか、また、非食物アレルゲンに対する応答も検出できるのかを確認するためにCAP-RAST法によって、ダニ特異的IgEを12.5 UA/ml(スコア3)保有するが、卵白特異的IgEを含まない(<0.34 UA/ml ;スコア0)事が分かっているアトピー性皮膚炎の患者血清02を用いてダニ抗原、及びEWEに対するアレルギー試験を行った。なお、この患者の総IgE量は129 IU/mlで、ほぼ健常人と同レベルである。その結果、100pg/ml以上のダニ抗原に対して、閾値を越えるルシフェラーゼ応答が確認されたが、EWEに対しては閾値を越える応答は見られなかった(図10を参照)。このことから、本アレルギー試験は食物アレルゲン以外の抗原に対しても有効で、アレルゲンに特異的に反応することが示された。
【0104】
[例6]人工胃液により消化されたOVMのアレルゲン性
食物アレルゲンタンパク質のアレルゲン性はペプシンによる消化に対する抵抗性と関連している(Urisu, A., Yamada, K., Tokuda, R., Ando, H., Wada, E., Kondo, Y., Morita, Y. (1999). Int Arch Allergy Immunol. 120, 192-8.を参照)。そこで、本新規アレルギー試験法を応用し、OVMの人工胃液消化断片のアレルゲン性を確認することを試みた。まず、OVMを、ペプシンを含む人工胃液(simulated gastric fluid; SGF)中で0分、5分、30分、60分消化させたときのペプチド断片をSDS-PAGEにより分離し、CBB染色を行った(図11Aを参照)。未消化のOVMは、34〜49kDa付近にバンドが検出されたが、そのバンドは5分の人工胃液消化で薄くなり、30分の消化でほぼ検出できなくなった。また23.5〜28.5kDa、7〜10kDa、4.5〜6kDa付近のペプチド断片がそれぞれ、5分、30分、60分をピークに産生された。次に、OVMの人工胃液消化断片と卵白アレルギー患者血清中のIgEとの結合を検出するためにウエスタンブロットを行ったところ、いずれの患者血清も、分解前のOVMには等しく結合するIgEを含むが、ウエスタンブロットで見る限り、04のIgEエピトープは分解後速やかに消失した(図11Bを参照)。これに対し、03のエピトープはペプシン耐性のOVM断片上に存在し、30分の人工胃液処理によっても消失しなかった(Takagi, K., Teshima, R., Okunuki, H., Itoh, S., Kawasaki, N., Kawanishi, T., Hayakawa, T., Kohno, Y., Urisu, A., Sawada, J. (2005)..Int Arch Allergy Immunol. 136, 23-32.を参照)。そこで本試験法を用いて、患者血清03及び04のOVMの人工胃液消化断片に対するアレルギー試験を行ったところ、患者血清03は、100pg/ml以上のOVM濃度で、人工胃液処理の有無に関係なく、抗原特異的なルシフェラーゼ反応が検出された(図11C上)。このことは、人工胃液処理によって生じたOVMのペプチド断片には、IgE結合性のみならず、FcεRIを架橋してマスト細胞を活性化する能力があることを意味している。本試験法では被験物質を溶液中に溶解または懸濁して培養細胞に接触させる方法を採っているため、酵素反応により生成したペプチド断片などをそのまま抗原として用いることができる。CAP-RASTにおいては抗原は前もって樹脂に固定しておく必要があるため、このように自由度の高い試験法の変更は望むのが難しい。一方、患者血清04を用いた場合は人工胃液処理後のOVMに対してだけでなく、ウエスタンブロットでIgEの結合性が確認された未消化のOVMに対しても、抗原特異的な応答が検出されなかった。(図11Cを参照)。この結果は、卵白の全抽出物に対しても応答を示さなかった例4の結果とよく対応している(図9下を参照)。
【0105】
[考察]
試験法を開発する際、閾値レベルの設定は、その試験法の感度および特異度を決める上で非常に重要な意味を持つ。我々が樹立したRS-ATL8細胞は、常に一定のルシフェラーゼ発現レベルを保っているため、このバックグラウンドの2倍にあたる発現レベルを閾値として採用したが、感作もしくは刺激を行わないcontrol群では、ここでは結果を示さなかった検体を含め、これまで1度もこの閾値を越える応答を示さなかった。さらに、非感作無刺激という条件は今後このシステムをどのような実験系に応用させる場合にも、controlとして必ず測定する点であることから、バックグラウンドのルシフェラーゼレベルの2倍の値を閾値として用いることは適切かつ合理的であると考えられる。
【0106】
RS-ATL8細胞を用いた本新規アレルギー試験法は少なくとも、ヒト血清中の0.02 IU/mlの総IgEに対する応答や、また患者によっては1pg/mlのEWEに対する抗原特異的な応答を検出することが出来た(図5、8を参照)。また、総IgE量が129 IU/mlと健常者レベルであるアトピー性皮膚炎の患者血清から、FcεRIの架橋を誘導するダニ抗原特異的IgEを検出することも可能であった(図10を参照)。さらに、初めて閾値を越える応答が検出されたときの血清濃度または抗原濃度について、脱顆粒測定法と比較すると、本試験法で採用しているルシフェラーゼ測定法の方が約1/1000の濃度で反応が認められた(図8右を参照)。このことから本試験法は、総IgEが低い患者血清からでも、総IgEやFcεRIの架橋を誘導する抗原特異的IgEを感度良く検出できる系であると言える。
【0107】
また、抗原濃度を変える実験を行う場合、すべてのウェルを統一した希釈倍率の患者血清で感作させる必要があるが、ヒト血清による影響を受けやすい脱顆粒測定法では、患者血清で感作させた際の非特異的な応答および抗原刺激による血清非依存的な応答が、それぞれ181%および52%と強く示された(図8を参照)。一方ルシフェラーゼ測定法では感作および抗原刺激による非特異的応答が、それぞれ155%および25%であった。このことから、コントロールの安定性の点において、ルシフェラーゼ測定法は脱顆粒測定法よりも優れていると言える。また、脱顆粒測定法およびルシフェラーゼ測定法の血清依存的な抗原刺激に対する応答の幅はそれぞれ39%および621%であった。ゆえにダイナミックレンジに関しては、ルシフェラーゼ測定法の方が圧倒的に優れていると考えられる。
【0108】
本システムは抗原抽出物だけでなく、OVAやOVMなどの純品タンパク質抗原に対するアレルギー試験にも適用できる事が示された(図7を参照)。また食物アレルゲンだけでなく、非食物アレルゲンに対する応答も同様に検出できた(図10を参照)。これらのことから、本試験法は、培地に溶解することが出来るあらゆるアレルゲンに対応できる可能性が示唆される。さらに、検出感度が優れているため、非常に少量の患者血清およびアレルゲンで試験が行える。最も応答が強かったのは100倍に希釈した患者血清と1ng/mlのアレルゲン(EWE、OVAの場合)とで試験を行う場合であるので、使用する患者血清およびの量は、1ウェル(50μl)あたりそれぞれわずか0.5μlおよび50pgで十分であり、貴重な患者血清やアレルゲンを使用したアレルギー試験にも本試験は適していると考えられる。
【0109】
また、本研究では、本システムを応用して人工胃液により消化されたOVMのアレルゲン性について実験をおこなった。ウエスタンブロットの結果、患者血清03は消化前、消化後どちらのOVMにもIgEが特異的に結合したが、この血清を本アレルギー試験に供したとき、消化の前後で同レベルの抗原特異的な反応が認められた(図8を参照)。このことは、ペプシン分解後のOVM断片には、少なくとも一部の患者に対してはマスト細胞を活性化できる能力を持つことを意味している。ペプシン分解に耐性のあるアレルゲン断片に対して結合するIgEをもつ患者は寛解しにくいということが知られており(Urisu, A., Yamada, K., Tokuda, R., Ando, H., Wada, E., Kondo, Y., Morita, Y. (1999). Int Arch Allergy Immunol. 120, 192-8.を参照)、上記の結果はこれとよく合致すると思われる。
【0110】
一方、CAP-RAST法と同じくIgEとアレルゲンとの結合性を調べるウエスタンブロッティングでみる限り、患者血清04中のIgEは分解前のOVMに対して結合性を持っていたが、このIgEとOVMではマスト細胞の活性化は誘導しなかった(図8を参照)。患者がTh2優位の疾患であるアトピー性皮膚炎であったこと、総IgEが22,490 IU/mlと高値であったことから、B細胞の異常な活性化に伴って、CAP-RASTでは検出されるがFcεRIの架橋を誘導するほど親和性の高くないIgEが産生されていた可能性は十分考えられ、そのことが両試験結果の相違につながったと推察される。
【0111】
また、本新規アレルギー試験法は、患者血清中の特異的IgEを、FcεRIの架橋を介して検出するという点で、CAP-RAST法よりも生理学的な活性を反映したin vitro試験法であると考えられるため、まずは安価に大量の検体の同時試験が可能なCAP-RAST法によりIgEとアレルゲンとの結合を調べた後、本アレルギー試験法によりマスト細胞の活性化を測定することで、アレルギー診断の感度と特異度を高めることが可能であると期待される。なお今回用いた患者血清は採取から-80℃で最長で約7年間保存されていた検体であるが、本試験法では、問題なくマストの活性化を誘導したことから、保存血清を用いた疫学的な後ろ向き研究や患者の経時的なアレルギー診断にも本試験法が適用できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の方法は、アレルギー試験の二次スクリーニング、マスト細胞活性化を指標とする抗アレルギー薬の開発、食物アレルギー誘発物質の混入試験、長期保存血清試料による流行アレルギーの経時的変化の解析などに活用できることが期待できることから、臨床分野、創薬分野、食品安全分野および疫学分野といった多方面での活用が見込める。
【技術分野】
【0001】
本発明は、I型アレルギーの検査方法に関する。詳しくは、本発明は、被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法、被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法、被験者におけるIgE量を測定する方法ならびにI型アレルギーに影響を与える物質をスクリーニングする方法に関する。さらに、本発明は、これらの方法に使用するための細胞およびこの細胞を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧米や日本などの先進国では、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギーなどのいわゆるI型アレルギー性疾患が注目を浴びている。とりわけ、食物アレルギーは、患者が日々摂取しなくてはならない食物の中にアレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)が含まれるためにしばしば問題となる。そこで、被験者に対するアレルゲンを検出するI型アレルギーの試験方法は、I型アレルギー性疾患に罹患しているI型アレルギー患者またはI型アレルギー性疾患を発症する可能性のある者にとって、生活の質を向上または維持するために重要な試験法と位置付けられている。
【0003】
I型アレルギー性疾患をもたらすI型アレルギーは、マスト細胞や好塩基球等が発現する高親和性IgEレセプター(FcεRI)がIgEとアレルゲンとにより架橋されることでこれらの細胞が活性化し、ヒスタミン、ロイコトリエンなどのケミカルメディエーターを放出することによって引き起こされる一連の疾患である。
【0004】
IgEは血清中に微量に存在する抗体であり、FcεRIのα鎖に非常に強固に結合する(Kaは、約1010M-1)。FcεRIは、通常、α鎖1本とβ鎖1本、およびγ鎖のホモダイマーから成る。ただし、ヒト細胞においては、β鎖を伴わない発現様式も知られている(非特許文献1および2を参照)。
【0005】
B細胞によってアレルゲンに特異的なIgE抗体が産生されると、IgEは血流に乗り、次いで末梢中のマスト細胞や好塩基球等が発現するFcεRIに結合し、これらの細胞を感作する。IgEで感作された細胞が特異的アレルゲンに暴露されると、アレルゲンとIgEとが結合する。このときアレルゲン1分子中にIgEエピトープが複数存在すると、1分子のアレルゲンに対して複数のIgE抗体が結合し、結果として複数のFcεRIが「架橋」される(図1を参照)。
【0006】
FcεRIの架橋を引き金として、レセプターの細胞内ドメインに会合するチロシンキナーゼ等の酵素やアダプター分子などが活性化し、次いでカルシウムイオンの流入やヒスタミン等の化学伝達物質の脱顆粒、脂質性化学伝達物質の産生昂進、サイトカイン・ケモカイン等の遺伝子発現などの様々な細胞応答が誘導される。このような細胞応答の誘導によって、全身性のI型アレルギーが生じる。
【0007】
このように、マスト細胞や好塩基球等におけるFcεRIの架橋は、I型アレルギーの惹起に対して重要な役割を担っている。このことは、単量体のIgEがFcεRIに結合する(感作)のみでは全身性の症状を引き起こすほどの応答を誘導することができないことや、抗原に依存せずとも、抗IgE抗体または抗FcεRI抗体などによりFcεRIを間接的または直接的に架橋することによってI型アレルギーを惹起できることからもわかる。
【0008】
現在、臨床で一般的に用いられているI型アレルギーの試験方法は、in vivo(生体内)、ex vivo(生体外)、in vitro(試験管内)の3つに分類でき、それぞれに一長一短がある。
【0009】
in vivo試験法には、被験者にアレルゲンを摂食させる負荷試験法や被験者の皮膚などに少量のアレルゲンを注入するスキンプリックテスト法などがある。このようなin vivo試験法は、被験者自身にアレルゲンを投与する試験法であり、I型アレルギーを直接診ることができるために、試験結果の信頼性が高い。しかし、in vivo試験法は、被験者がアレルゲンに暴露されるというリスクがあり、専門医が直接被験者のアレルギー試験を行わなければならないことから実施可能な施設が限定され、かつ多くの被験者を同時に試験することができない、という問題がある。
【0010】
ex vivo試験法には、被験者の末梢血から好塩基球を採取してアレルゲンで刺激するヒスタミン放出試験法などがある。ヒスタミン放出試験法は、FcεRIの架橋に基づく好塩基球の活性化を指標とするために、試験結果の信頼性が高い(非特許文献3を参照)。しかし、試料である全血は保存に適しておらず、採血後直ちに試験しなければならないことから、再試験の必要がある場合には被験者に再度の来院を請わねばならず、また一度に大量の試料を試験することができないという問題がある。
【0011】
in vitro試験法には、アレルゲンを固定化した樹脂に被験者の血清を加え、次いでアレルゲンと結合することにより樹脂に結合した血清中のIgEを標識化抗IgE抗体で検出するCAP−RAST法がある。CAP−RAST法は、血清を用いて試験管内で実施することができることから、in vivo試験法やex vivo試験法を採用することにより生じる被験者に過度の負担を強いるとの問題、検体が長期保存できない問題、および一度に大量の試料を試験することができないとの問題を解決することができる。さらに、CAP−RAST法は、簡便かつ高感度であり、経済性にも優れていることから、I型アレルギーの試験方法として事実上の標準法として採用されている。
【0012】
しかし、CAP−RAST法では偽陽性が多く検出されるという問題がある。これは、CAP−RAST法では、IgEエピトープが1種類しかない抗原に対するIgEや抗原との親和性が低いIgEなどの、FcεRIの架橋を誘導できないIgEを検出することに起因すると報告されている(非特許文献4および5を参照)。
【0013】
そこで本発明者らは、ラット培養マスト細胞株として知られるRBL−2H3細胞にヒトFcεRIを安定的に発現させた培養細胞株をアレルギー患者血清で感作し、次いでアレルゲンを添加することによって誘発される脱顆粒を定量的に測定する脱顆粒測定法を報告した(非特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Blank U., Ra C., Miller L., White K., Metzger H., Kinet J.P. (1989) Nature 337, 187-189
【非特許文献2】Maurer, D., Fiebiger, S., Ebner, C., Reininger, B., Fischer, G.F., Wichlas, S., Jouvin, M.H., Schmitt-Egenolf, M., Kraft, D., Kinet, J.P., and Stingl, G. J.Immunol., 157:607-616 (1996)
【非特許文献3】Nishi, H., Nishimura, S., Higashiura, M., Ikeya, N., Ohta, H., Tsuji, T., Nishimura, M., Ohnishi, S., Higashi H. (2000). J Immunol Methods. 240, 39-46.
【非特許文献4】Roberts, G., Lack, G. J Allergy Clin Immunol. (2005). 110, 784-789.
【非特許文献5】Komata, T., Soderstrom. L, Borres, M.P., Tachimoto, H., Ebisawa, M. (2007). J Allergy Clin Immunol. 119, 1272-1274.
【非特許文献6】Takagi K., Nakamura R., Teshima R., Sawada J. (2003) Biol. Pharma. Bull., 26(2), 252-255
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記脱顆粒測定法は、FcεRIの架橋によって生じる脱顆粒量を測定することから、CAP−RAST法で見られる偽陽性は生じにくい。しかし、脱顆粒測定法は検出感度が低いという問題がある。たとえば、ピーナッツアレルゲンに対し36kUA/Lの抗原特異的IgEスコアを持つ被験者血清を用いた場合、検出可能な抗原濃度はμg/mlオーダーである。したがって、脱顆粒測定法は、試験すべき試料の量が増えるにつれて大量の抗原を必要とすることから、経済性が非常に悪い。このような理由によって、脱顆粒測定法は、これまでに実用化に至っていない。
【0016】
そこで本発明者らは、被験者由来の血清を用いて、脱顆粒測定法と比べて高感度に、被験物質が該被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法、被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法および被験者におけるIgE量を測定する方法を提供することを発明が解決しようとする第一の課題とした。また、本発明者らは、これらの方法を応用して、I型アレルギーの応答に影響を与える物質、特にI型アレルギーの抑制及び/又は予防するために使用される物質をスクリーニングする方法を提供することを発明が解決しようとする第二の課題とした。さらに本発明者らは、これらの方法に用いる細胞およびこの細胞を含むキットを提供することを、発明が解決しようとする第三の課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、FcεRIの架橋によるシグナル伝達によって転写因子NF−ATが活性化することに注目した。ラットマスト細胞であるRBL−2H3細胞の活性化に伴うサイトカインの産生が、カルシウム依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリン(CN)の抑制作用を持つ免疫抑制剤であるFK506(タクロリムス)やシクロスポリンAで抑制されること、ならびに、これはCNの基質であるNF−AT(nuclear factor of activated T cells)の脱リン酸化が起きずに核移行ができないことが原因と思われるという報告がある(Onose J., Teshima R., Sawada J. (1998) Immunol. Lett. 64, 17-22;Hutchinson and McCloskey, J.Biol.Chem., 270:16333-16338 (1995))。このような報告に基づいて、本発明者らは、NF−ATがFcεRIの架橋によるシグナル伝達に密接に関与している、と推測した。
【0018】
そこで、細胞内のNF−ATの活性化を指標として、被験物質の中から被験者に対してI型アレルギーを誘発する可能性があるアレルゲンを検出できるのではないかという仮説を立て、活性化したNF−ATが結合するエンハンサーと、このエンハンサーによって転写が促進されるようにプロモーターおよびレポーター遺伝子とを連結させた領域を含むベクターを用意し、次いでこのベクターを、ヒトFcεRIを安定的に細胞膜上に発現する培養マスト細胞株に導入して、上記領域を該培養マスト細胞株の染色体へ相同組換えさせたところ、ヒトFcεRIを細胞膜上に含有し、かつNF−ATの活性化に応じてレポーター遺伝子が発現し得る形質転換体を得ることに成功した。さらに、得られた形質転換体を、I型アレルギー患者の血清と接触させた後に被験物質と接触させることによって、被験者に対してアレルゲンとなる物質を被験物質の中からレポーター遺伝子の発現の増大を確認することによって検出できることを見出した。
【0019】
さらに驚くべきことに、上記形質転換体を用いる方法は、血清やアレルゲンを接触させていない形質転換体が本来的に転写因子遺伝子を発現することによって生じるレポーター遺伝子の発現量(バックグラウンド)が安定していることから、バックグラウンドが不安定な脱顆粒測定法と比べて、約1,000倍の感度で被験者に対するI型アレルギーを誘発するアレルゲンを検出することができた。本発明はこれらの知見に基づいて完成された発明である。
【0020】
したがって、本発明によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認すること
を含む、前記被験物質が前記被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法が提供される。
【0021】
本発明の別の側面によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定すること
を含む、前記被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法が提供される。
【0022】
本発明の別の側面によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
抗ヒトIgE抗体及び/又は前記被験者に対するアレルゲン、ならびに前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定すること
を含む、前記被験者におけるIgE量を測定する方法が提供される。
【0023】
本発明の別の側面によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、ヒトIgEを含む試料の存在下でインキュベートすること;
抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲン、候補物質、および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記候補物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質を選択すること
を含む、前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質をスクリーニングする方法が提供される。
【0024】
好ましくは、前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質が、I型アレルギーの抑制及び/又は予防するために使用される物質である。
好ましくは、前記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターが、ヒト由来のα鎖を有するFcεレセプターIである。
好ましくは、前記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターが、ヒトFcεレセプターIである。
好ましくは、前記転写因子が、NF−AT、NF−κB、AP−1、Elk−1、Egr−1、GATA−1またはGATA−2である。
好ましくは、前記レポーター遺伝子が、酵素をコードする遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子および宿主細胞が天然には有しない細胞表面抗原をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子である。
好ましくは、前記酵素をコードする遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、西洋ワサビペルオキシダーゼ遺伝子、およびクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子である。
好ましくは、前記細胞が、マスト細胞または好塩基球である。
【0025】
本発明の別の側面によれば、本発明の方法に使用するための、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞が提供される。
【0026】
本発明の別の側面によれば、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を含む、本発明の方法に使用するためのキットが提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の検査方法は、被験物質と接触させた細胞におけるレポーター遺伝子の発現の増大を確認することによって、脱顆粒測定法と比べて、高感度かつ安定したバックグラウンドにより、被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査することができる。また、上記レポーター遺伝子の発現は定量できる。そこで、本発明によれば、段階的に濃度を希釈した被験者由来の血清及び/又は各種アレルゲンを用いたレポーター遺伝子の発現レベルを測定することによって、被験者におけるI型アレルギーが生じる可能性、特にI型アレルギー性疾患に罹患する可能性をI型アレルギーのリスクとして評価することができる。
【0028】
たとえば、被験者が卵白アレルギー患者であり、かつアレルゲンが卵白抽出物である場合、本発明によれば、従来の脱顆粒測定法と比べて約1,000倍の感度でレポーター遺伝子の発現を検出することができる。また、卵白アレルギー患者ではないもののCAP−RAST法により卵白結合性IgE陽性と評価されたIgE抗体陽性者由来の血清を用いた場合、本発明においては、実質的なレポーター遺伝子の発現を確認できなかった。このことから、本発明の検査方法は、従来のCAP−RAST法と比べて、高い信頼性によって被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査することができる優れたin vitroアレルギー試験法であるといえる。
【0029】
また、被験者のIgEと特異的アレルゲンとによりFcεRIを架橋する他に、抗ヒトIgE抗体によりFcεRIを架橋することにより、被験者の総IgE量を測定することができる。一般に、血清中総IgE量はI型アレルギー患者において高値を示すことから、感度よく総IgE量を測定する手段は、I型アレルギーの診断上、特にI型アレルギー性疾患の重篤度の評価などにおいて非常に有用である。
【0030】
本発明のスクリーニング方法を用いれば、候補物質の中からI型アレルギーを抑制及び/又は予防し得る物質をスクリーニングすることも可能である。その中から、I型アレルギー性疾患の治療薬として利用し得る物質を選び出すことも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】IgE親和性Fcレセプター発現細胞の活性化からI型アレルギーが起こるまでのメカニズムと本発明の一態様を概略化した図である。
【図2】アレルゲンが糖鎖修飾されており糖鎖部分がIgEのエピトープとなっている場合のCAP−RAST法が偽陽性を示すメカニズムの一例を概略化した図である。
【図3】例1に示したRS−ATL8細胞と、由来となったRBL−2H3細胞、RBL−SX38細胞との関係を示した模式図である。
【図4】RS−ATL8細胞に組み込んだNFAT−ルシフェラーゼ遺伝子(pHTS−NFAT)を制限酵素BglIで完全消化したときのベクターマップ図である。各記号は以下の通り:CoE1; ColE Replication Origin, HSVTK; HSV-TK Promoter, Hyg; Hygromycin Resistance Gene, TKqA; TK Polyadenylation Signal, 4×NFAT; 4×NFAT Enhancer Element, Luc; Luciferase Gene。
【図5】例2における健常者血清と抗IgE抗体による刺激の検出結果を示した図である。
【図6】例2におけるサンプルの血清感作時のLDH試験結果を示した図である。
【図7】例3における卵白アレルギー患者血清と抗原とによる刺激の結果を示した図である。左上図は抗ヒトIgE抗体(1μg/ml)で刺激した結果、右上図は卵白抽出物(5μg/ml)で刺激した結果、左下図はオブアルブミン(1μg/ml)で刺激した結果、および右下図はオボムコイド(1μg/ml)で刺激した結果をそれぞれ示す。
【図8】例4における総IgE量の異なる卵白アレルギー患者における脱顆粒測定法と本発明の一態様との比較結果を示した図である。
【図9】例4における本発明の一態様がCAP−RAST法偽陽性の患者血清では応答しないことを示した図である。
【図10】例5における非食物アレルゲンに対するアレルギー試験結果を示した図である。
【図11】例6におけるOVMの人工胃液消化とアレルゲン性を調べた結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法;
本発明の検査方法は、(1)ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;(2)被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、(3)前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認することを含む。
【0033】
I型アレルギーのメカニズムについて、これまでに知られている知見に基づいて概略化したものを図1とした。図1に示す通り、I型アレルギーは、(1)IgEに親和性のある部位をサブユニットタンパク質の細胞表面に有し、かつシグナル伝達を誘導する部位をそれ自身あるいは他のサブユニットタンパク質の細胞質内に有する膜貫通型のFcレセプター(IgE親和性Fcレセプター)とIgEとの結合(感作)、(2)IgEに対する抗原(アレルゲン)とIgE親和性Fcレセプターとの結合(結合)、(3)異なるエピトープにより同一のアレルゲンに結合した複数のIgE親和性Fcレセプター間の架橋(架橋)、(4)細胞からのヒスタミンやセロトニンなどの生理活性物質の放出(脱顆粒)、(5)生理活性物質による全身性の応答、により生じる。一方、図2に示す通り、1分子のIgEが1分子のアレルゲンに結合することにより、複数のIgE親和性Fcレセプター間で架橋が生じない場合は、上記(4)および(5)は生じない。したがって、アレルゲンと結合するIgEを検出することがそのままI型アレルギーを検出することにはならない。
【0034】
I型アレルギーは、アレルゲンが体内に入ると即時的に生じることから、即時型アレルギーや即時型過敏症ともよばれる。I型アレルギーによる全身性の応答としては、血管の拡張などを介した浮腫や掻痒などがある。このようにI型アレルギーによって生じる疾患をI型アレルギー性疾患といい、例えば、蕁麻疹、PIE症候群、食物アレルギー、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショックなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の検査方法は、いかなる特定の理論にもとらわれないが、以下の通りと推測できる。
ヒトIgEを含む可能性のある被験者由来の生体試料(たとえば、血清)の存在下で、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを発現する細胞をインキュベートする。ただし、この細胞は、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する。次いで被験物質およびインキュベート後の細胞を接触させる。これにより、細胞が有する複数の上記Fcレセプター間で架橋が生じ、種々のシグナル伝達を介して、特定の転写因子が活性化される。この活性化された転写因子がエンハンサーに結合することによって、このエンハンサーの制御下にあるレポーター遺伝子の発現が促進される。このレポーター遺伝子の発現の増大を確認することによって、被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査することができる。
【0036】
本発明の方法に用いる被験物質は特に制限されない。本発明の検査方法や後述する本発明の評価方法においては、被験物質は、被験者に対してI型アレルギーを引き起こし得る物質、すなわちアレルゲンとなる可能性のある物質であることが好ましい。たとえば、塵;埃;ふけなどの皮屑;スギ花粉、ヤシャブシ花粉、イネ科花粉、キク科花粉などの花粉;カビなどの真菌;ユスリカやゴキブリなどの昆虫;昆虫や魚介類などが有する刺激性または毒性の物質;大豆、卵、小麦、牛乳、ソバ、落花生、えび、かになどに含まれる物質;ペニシリンなどの薬剤に含まれる物質;排泄物などに含まれる動物の体に由来する物質;小麦粉や木材加工の際に生じる粉塵などの植物性物質;その他の天然または化学合成物質などがアレルゲンとなり得る。より具体的には、被験者が卵白をアレルゲンとするかどうかを検出したい場合には、たとえば、被験物質としてオブアルブミン、オボムコイド、リゾチームなどの卵白中に存在する物質の精製品や卵白抽出物を用いることができる。
【0037】
被験者は、I型アレルギー性疾患に罹患している者でも、先天的または後天的にI型アレルギー性疾患を発症する可能性のある者でも、健常者でもよく、特に制限はない。被験者由来の生体試料は、被験者から得られたIgEが存在する可能性のある試料であれば特に制限はない。生体試料は、何らかの処置を施したものでもよく、たとえば、キレート剤の添加などによるタンパク質安定化処理や希釈などの処置を施したものを挙げることができる。具体的には、被験者由来の生体試料は、被験者から採取した血液、臍帯血、血清、血漿、乳汁、鼻汁、涙液、唾液、尿などを挙げることができ、IgEの含有量が比較的多く、かつ、−20℃以下、たとえば−80℃程度の温度で長期間の保存が可能である血清または血漿がより好ましい。被験者由来の生体試料は、被験者のI型アレルギーの応答状況に応じて、段階的に希釈した血清がさらに好ましい。
【0038】
本発明の方法に用いる細胞は、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する。ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターとしては、たとえば、膜貫通状で細胞膜上に存在しており、ヒトIgEのFc領域に特異的に結合する部位(ドメイン)が細胞外にあるサブユニット、かつ、シグナル伝達を誘導する部位(ドメイン)が細胞内にあるサブユニットを含むFcレセプターを挙げることができる。また、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターは、GPIアンカー型のFcレセプターであってもよい。GPIアンカー型のFcレセプターとしては、たとえば、FcγRIIIBがある。FcγRIIIBは、サブユニット構造を持たず、他の受容体(補体受容体など)と共役して細胞内に情報を伝達する。よって、このFcγRIIIBの細胞外ドメインを当業者に知られた遺伝子工学的技術を用いて改変することで、ヒトIgEに親和性のあるGPIアンカー型のFcレセプターが作出できる。
【0039】
IgEに高い親和性のあるFcレセプターは、特にFcεレセプターI(FcεRI)として知られている。FcεRIは、一般的に、α鎖1個、β鎖1個、およびγ鎖2個(2量体)の4量体からなる。細胞膜に貫通している回数は、それぞれ、α鎖は1回、β鎖は4回、γ鎖は1回である。IgEとFcεRIとの結合は、IgEのFc領域とFcεRIのα鎖の細胞外ドメインとの間で生じる。したがって、FcεRIを構成する4量体のうち、α鎖がヒト由来のものであれば、FcεRIはヒトIgEと結合することができる。そこで、本発明の方法に用いられる細胞が含有するヒトIgEに親和性のあるFcレセプターは、ヒト由来のα鎖を有するFcεRIであることが好ましい。ヒト由来のα鎖を有するFcεRIは、β鎖およびγ鎖については特に制限はなく、ヒト由来のものでもよく、発現すべき細胞に由来するものでもよい。
【0040】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターとしては、たとえば、細胞外ドメインとしてヒトFcεRIのα鎖を有し、かつ細胞内ドメインとしてLynやSykなどのチロシンキナーゼのキナーゼドメインを有するキメラ受容体なども利用できる。ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターとしてより好ましいのは、α鎖、β鎖およびγ鎖のいずれもがヒト由来である、ヒトFcεRIである。
【0041】
なお、これまでに、ヒトFcεRIの細胞膜上への発現および架橋によるシグナル伝達は、β鎖が欠損したFcεRIを介しても生じるとの報告がある。したがって、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプター、特にヒト由来のα鎖を有するFcεRIは、β鎖が欠損したものであってもよい。
【0042】
本発明の方法に用いる細胞において、レポーター遺伝子の発現制御に関与する転写因子は、I型アレルギーにおける複数のヒトIgEに親和性のあるFcレセプター間の架橋によって生じるシグナル伝達等によって活性化されるものであれば特に制限はなく、細胞の種類に応じて適宜選択することができる。レポーター遺伝子は、活性化された転写因子がエンハンサーに結合することにより発現が促進される。
【0043】
転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下にあるレポーター遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、βガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼなどの酵素をコードする遺伝子;緑蛍光タンパク質(GFP)、Sirius、EBFP、ECFP、EGFP、Venus、DsRedなどの蛍光タンパク質をコードする遺伝子;宿主細胞が天然には有しない細胞表面抗原をコードする遺伝子などを挙げることができる。レポーター遺伝子の数は特に制限されず、たとえば、同じまたは異なる種類のレポーター遺伝子について1個または複数個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個程度である。本発明の方法に用いる細胞において、他のレポーター遺伝子が組み込まれている場合、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下にあるレポーター遺伝子はこの他のレポーター遺伝子と相違していることが好ましい。
【0044】
本発明の方法に供される細胞は、IgEに親和性のあるFcレセプターの架橋によって転写因子を活性化させる経路を有する細胞であれば、細胞の種類および由来などに特に制限はない。このような細胞として、たとえば、FcεRIを内在的に発現するマスト(肥満)細胞、好塩基球、樹状細胞、好酸球、単球、マクロファージ、ランゲルハンス細胞などがあり、このうちマスト細胞および好塩基球が好ましく、マウス、ラットまたはヒト由来のマスト細胞および好塩基球がより好ましい。これらの細胞は、動物体内から単離されたものであってもよいが、株として樹立されているものが好ましい。たとえば、株化したマウスまたはラット由来のマスト細胞および好塩基球としては、ラットマスト細胞株であるRBL−2H3細胞やマウスマスト細胞株であるMC/9細胞(ATCCから購入可能)などがあり、その他にも理化学研究所細胞バンク、JCRB遺伝子バンクなどから入手が可能である。株化したヒト由来のマスト細胞および好塩基球としては、ヒトマスト細胞株であるLAD2(Dr.Kirshenbaum、NIAID NIH)やMcε27(川本恵子、野菜茶研)などがあり、その他にも三光純薬株式会社などから入手が可能である。
【0045】
本発明の方法に用いる細胞における、レポーター遺伝子の発現に関与するエンハンサーおよびプロモーターは、細胞や転写因子の種類に応じて適宜選択することができる。
【0046】
プロモーターは、本発明の方法において用いられる細胞のRNAポリメラーゼを含む複合体が結合する配列を有するものであれば特に制限されないが、たとえば、TATAボックスを有するものを挙げることができ、好ましくは配列TATATAAを有するものである。
【0047】
転写因子は、リン酸化や脱リン酸化などの化学修飾などによって活性化し、次いで核内に移行して、または常態的に核内にあって、DNA上にあるエンハンサーと結合し、次いで該エンハンサーの下流もしくは上流にある、または、該エンハンサーが組み込まれた特定の遺伝子の転写を促進するものであれば特に制限されない。転写因子は、たとえば、「細胞の分子生物学 第4版」(ニュートンプレス社発行)では「転写活性化タンパク質」とよばれ(同書 313頁を参照)、「分子細胞生物学辞典 第2版」(東京化学同人社 発行)では「エンハンサー結合タンパク質」として記載されている。このような転写因子としては、たとえば、細胞がマスト細胞である場合、複数のFcεRIの架橋後に活性化される、NF−AT、NF−κB、AP−1、Elk−1、Egr−1、GATA−1、GATA−2などがある。これらの転写因子が結合し得るエンハンサーは、下記表1を参照することができる。下記表1において、中央欄は転写因子を示し、右欄は対応する転写因子が結合し得るエンハンサーの塩基配列を示す。エンハンサーの塩基配列において、太字の配列が転写因子に結合する配列である。左欄は、各エンハンサーを含むプラスミドを表し、これらのプラスミドを利用して、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に含む領域を、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを含有する細胞に導入することができる。
【表1】

【0048】
エンハンサーは、プロモーターに作用して転写を増大させる通常約10bp〜300bpのシス作用性DNAエレメントである。エンハンサーは、たとえば、表1の右欄に示した配列を1セットとして複数セットを連結して導入してもよい。複数の転写因子を連結して使用することによって、転写因子による転写促進活性をより高めることができる。エンハンサーの上記セット数は、たとえば、2個、3個、4個、5個、6個〜20個程度である。このようなセット数は、転写因子によって異なり、上記表1を参照できる。エンハンサーとプロモーターおよびレポーター遺伝子との配置関係は、エンハンサーがレポーター遺伝子の発現を制御することができれば、特に制限されない。たとえば、エンハンサーは、プロモーターの上流、プロモーターとレポーター遺伝子との間、レポーター遺伝子の下流、レポーター遺伝子の間に配置していてもよい。
【0049】
転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に含む領域には、転写の調節に関与する他の領域を含むことが好ましい。たとえば、このような領域として、ポリアデニル化部位、転写停止配列、5'末端非転写配列などが挙げられる。
【0050】
転写因子について、マスト細胞における上記転写因子のうちNF−ATは、ラットマスト細胞株であるRBL−2H3細胞がFcεRIの架橋刺激に応答しサイトカインを産生する際に、NF−ATの上流のシグナル伝達阻害剤であるFK506やシクロスポリンAなどで同細胞を処理することにより顕著な産生抑制が観察されることから、マスト細胞の活性化において極めて重要な役割を果たしていることが知られていた転写因子の一つである。したがって、細胞がマスト細胞である場合、細胞内において、NF−ATが結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に配置させていることが好ましい。
【0051】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞の具体的な態様の一つとして、ヒトFcεRIを発現し、かつNF−ATが結合し得る配列表の配列番号1に記載のエンハンサーの制御下に、プロモーター(TATATAA)およびホタルルシフェラーゼ遺伝子をこの順に含有するマスト細胞を挙げることができる。このようなマスト細胞として、例えば、本発明者らによって樹立されたラット由来のRS−ATL8細胞を挙げることができる。以下に、RS−ATL8細胞の作製方法を例にとり、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞の作製方法について説明する。
【0052】
RS−ATL8細胞は、ラット由来のマスト細胞であるRBL−2H3細胞に安定的にヒトFcεRIのα鎖、β鎖およびγ鎖の全てのサブユニットを強制的に発現させた細胞株であるRBL−SX38細胞に基づいて作製されたものである。RBL−SX38は、Wiegandらの文献(Wiegand, T.W. et. al., J.Immunol., 157:221-230 (1996))に記載がある通り、RBL−2H3細胞に、哺乳動物発現ベクターであるpCDL−SrαにサブクローニングしたヒトFcεRIのα鎖およびβ鎖のcDNAと、同じく哺乳動物発現ベクターであるpBJlneoにサブクローニングしたγ鎖のcDNAのとを、エレクトロポレーションにより導入し、次いでネオマイシンによりセレクションをかけ、次いでFITC標識抗ヒトFcεRIα抗体とフローサイトメトリーにより、RBL−SX38細胞を樹立できる。
【0053】
RS−ATL8細胞は、RBL−SX38細胞から、以下の方法により樹立できる。HSV−TKプロモーターの制御下に、抗生物質ハイグロマイシン耐性遺伝子を含み、さらに活性化した転写因子NF−ATが結合するエンハンサー(配列表の配列番号1)の4回反復配列(4×NFAT)、プロモーター(TATATAA)、およびホタルルシフェラーゼ遺伝子を含む組換えベクターpHTS−NFAT(バイオミクス・テクノロジー社(Biomyx Technology))をリポフェクション法によってRBL−SX38細胞に導入し、次いでハイグロマイシン選択によって組換えベクター含有細胞を得て、次いで限界希釈法によりクローニングを行うことによって、RBL−SX38細胞の染色体上に、転写因子NF−ATが活性化した際に結合するエンハンサーの制御下にプロモーターおよびホタルルシフェラーゼ遺伝子をこの順に含有するRS−ATL8細胞を樹立できる。4×NFAT、プロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子を含む領域の塩基配列は、配列表の配列番号18に示す。
【0054】
上記組換えベクターの作製、組換えベクターのRBL−SX38細胞への導入、クローニングなどの操作は当業者に知られており、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989(以下、モレキュラークローニング第2版と呼ぶ)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと呼ぶ)などに記載の方法に準じて実施することができる。たとえば、組換えベクターを細胞へ導入する方法は、リポフェクション法に限らず、たとえば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、ウイルスベクター法などの様々な方法を使用できる。また、抗生物質耐性遺伝子についても、ハイグロマイシン耐性遺伝子に限らず、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子などの様々な公知の抗生物質耐性遺伝子を用いることができる。また、このとき用いるベクターとしては、細胞の種類に応じて当業者に知られているものを利用することができる。
【0055】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞は、細胞の由来に応じて適宜培養条件を選択して培養できる。たとえば、RS−ATL8細胞は、ラット由来のマスト細胞の培養条件、たとえば、10%の非働化ウシ胎児血清を添加したMEM培地を用いて、ペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質を単独または組み合わせて加え、通常用いられる細胞培養用フラスコなどによって、動物細胞を培養する通常の条件、たとえば、37℃、5%二酸化炭素存在下のインキュベーター中で培養することができる。また、RS−ATL8細胞は、ヒトFcεRIの安定発現のためにジェネティシン耐性を獲得しており、かつレポーター遺伝子の安定発現のためにハイグロマイシン耐性を獲得していることから、RS−ATL8細胞の培養には、ジェネティシンおよびハイグロマイシンを添加することが好ましい。
【0056】
本発明の検査方法では、まず、(1)ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートする。
【0057】
上記インキュベートは、方法や条件について特に制限されない。たとえば、上記インキュベートは、上記細胞と被験者由来の生体試料とを混合した状態でインキュベートすることもできる。また、上記インキュベートは、上記細胞をあらかじめ培養皿上で培養し、次いで培養皿から培養上清を除去し、次いで培養皿上に被験者由来の生体試料を加えた後にインキュベートしてもよい。
【0058】
インキュベートさせるべき細胞の数には特に制限はない。たとえば、96ウェルプレートを用いる場合、通常の細胞濃度、具体例として1.0〜10×104 cells/50μlの細胞濃度の溶液を播種し、あらかじめ数時間、好ましくは3〜6時間程度インキュベートしてウェルの底面に接着させたものを用いることができる。ただし、細胞の播種と同時に生体試料を加えてもよい。なお、播種すべき細胞数が多くなるとバックグラウンドが増加する傾向にあるが、応答変化も大きくなるので、感度(S/N比)にほとんど影響しないと推測される。
【0059】
被験者由来の生体試料は、上記の通り、希釈されていてもよい。たとえば、生体試料が血清である場合は、血清は、好ましくは、最終濃度として3〜3×108倍程度に希釈されていてもよいが、好ましくは10〜3,000倍、より好ましくは20〜1,000倍、さらに好ましくは50〜500倍、なおさらに好ましくは100倍程度に希釈されている。
【0060】
上記インキュベートの時間は、生体試料中にIgEが含まれる場合に、このヒトIgEとヒトIgEに親和性のあるFcレセプターとが結合し得る時間であれば特に制限はない。上記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターがFcεRIである場合、FcεRIがIgEと結合することによって、FcεRIの細胞膜上への発現量が増加することが知られている。そこで、この場合の上記インキュベートの時間は、十分量のFcεRIが細胞膜上に発現する時間であることが好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましく、4時間以上がなおさらに好ましく、6時間以上が特に好ましく、8時間以上が格別好ましい。インキュベート時の温度や二酸化炭素濃度などのその他の条件は、由来細胞の種類に応じて適宜設定することができる。
【0061】
本発明の検査方法では、次いで、(2)被験物質および上記インキュベート後の細胞を接触させる。
【0062】
上記工程(2)で用いる上記インキュベート後の細胞は、上記工程(1)におけるインキュベートの後に、生体試料を除去し、任意に培地や緩衝液などで洗浄したものを用いることが好ましい。ただし、生体試料を除去しない場合であっても、以降の工程におけるレポーター遺伝子の発現の増大を確認することは可能である。被験物質は通常、培地や緩衝液などに溶解して被験物質溶液として用いる。被験物質溶液における被験物質の濃度は種々のものを使用でき、たとえば、被験物質が食物に含まれる物質である場合、食物の摂取を通じて被験物質が生体内に取り込まれ得る量を指標として調製することができる。また、上記工程(2)では、感作および検査法の成立性を確認するために、陽性対照として、IgEと特異的に結合してFcεRIを架橋する物質、たとえば、抗IgE抗体などを用いて並行試験を実施することが好ましい。被験物質および上記インキュベート後の細胞の接触時間は、被験物質により転写因子が活性化してエンハンサーに結合し、レポーター遺伝子の転写が促進されその翻訳が完了するのに十分な時間であれば特に制限されないが、たとえば、1〜10時間が好ましく、2〜5時間がより好ましく、3〜4時間程度がさらに好ましい。被験物質および上記インキュベート後の細胞の接触のその他の条件は、上記工程(1)のインキュベート条件を参照できる。
【0063】
本発明の検査方法では、次いで、(3)前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認する。
【0064】
レポーター遺伝子の発現の確認は、レポーター遺伝子発現産物の種類に応じて、当業者によって知られている方法を制限なく利用することができる。たとえば、レポーター遺伝子がホタルルシフェラーゼ遺伝子である場合は、上記工程(2)の後に得られる細胞を、氷冷PBSなどを用いて洗浄するなどして転写因子の活性化を停止させ、次いでPassive Lysis Buffer(プロメガ社)などの細胞破砕液を用いるなどして細胞を破砕して、細胞破砕液を得る。得られた細胞破砕液にホタルルシフェラーゼの基質(ルシフェリン)を加えて反応させ、次いで反応により生じた発光を目視または発光検出機などの装置によって機械的に確認する。また、Bright−Glo、ONE−Glo、Steady−Glo(プロメガ社)などのような、細胞の破砕と発光を同時に行うホモジニアスアッセイ系の試薬を用いることもできる。
【0065】
本発明の検査方法では、上記した工程を実施することにより、被験物質が被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査することができる。本発明の検査方法は、被験物質がアレルゲンである場合も、そうでない場合にも利用できる。さらに、本発明の検査方法では、上記した工程の前後や工程の間に種々の工程を含むことができる。
【0066】
本発明の検査方法は、自動化することもできる。たとえば、本発明の検査方法は、細胞または細胞を収容する容器を保持するための保持手段、被験者由来の生体試料や被験物質を該保持手段に供給するための供給手段、レポーター遺伝子の発現を検出するための検出手段を少なくとも備えた装置を用いれば、本発明の検査方法を簡便かつ迅速に実施できる。
【0067】
[2]被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法
本発明の評価方法は、(1)ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;(2)被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、(3)’前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定することを含む。これらのうち、上記工程(1)および(2)は、上記[1]の記載を参照できる。以下、上記工程(3)’について主に説明する。
【0068】
本発明の評価方法では、上記工程(2)の接触により被験物質と接触させた細胞におけるレポーター遺伝子の発現の増大を定量的に測定する。このレポーター遺伝子の発現の増大を定量的に測定することを、レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定するともいう。レポーター遺伝子の発現レベルの測定は、レポーター遺伝子の種類に応じて特に制限されない。たとえば、レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である場合は、基質と反応させた際に生じる発光の強度を上記した発光検出機によって定量的に測定できる。レポーター遺伝子がGFP遺伝子である場合は、細胞の蛍光強度を蛍光プレートリーダー、FACSなどの機器を利用して測定することにより定量化できる。また、タンパク質を定量する一般的な方法、たとえば、レポーター遺伝子の転写によって得られるmRNAや、このmRNAの翻訳によって得られるレポータータンパク質を、RT−PCRやウエスタンブロッティングなどの当業者により知られる方法によって定量的に測定することもできる。
【0069】
なお、上記工程(2)の被験物質および上記インキュベート後の細胞の接触に際しては、試料間の試験結果のバラツキを抑えるために、カルセインAMなどの生細胞数を定量し得る物質を加えて生細胞数を定量することや、上記インキュベート後の細胞のハウスキーピング遺伝子またはこのハウスキーピング遺伝子のプロモーター制御下に配置させたレポーター遺伝子(ただし、このレポーター遺伝子は、上記プロモーター制御下に転写因子が結合し得るエンハンサーの下流に配置させたレポーター遺伝子と異なる)の発現を測定することなどによって、生細胞数をノーマライズすることが好ましい。ただし、RS−ATL8細胞を用いる場合は、ほとんどの被験物質や十分に希釈した血清などは細胞の生存率に影響を及ぼさないため、生細胞数によるノーマライズを省略することもできる。
【0070】
たとえば、上記工程(2)において非蛍光性のカルセインAMを加えた場合は、上記工程(3)’において生細胞あるいは細胞破砕液中の生細胞に由来したカルセインの蛍光を測定することにより、生細胞数に応じた蛍光強度を得ることができる。これにより、ルシフェラーゼ反応によって検出した蛍光強度をカルセインの蛍光強度で除することにより、ルシフェラーゼの比活性を定量できる。
【0071】
本発明の評価方法では、上記工程(3)’により測定されたレポーター遺伝子の発現レベルを対照と比較することが好ましい。対照としては、たとえば、被験者由来の生体試料を含まない培地または緩衝液を用いて上記工程(1)、(2)および(3)’を経て得られたレポーター遺伝子の発現レベルとすることができる。または、被験者由来の生体試料により感作をするが、特異的アレルゲンを含まない溶液により刺激した場合のレポーター遺伝子の発現レベルを対照とすることもできる。被験者由来の生体試料の希釈率及び/又はアレルゲンの濃度は任意に変更することができ、その濃度依存性からI型アレルギーのリスクを定量的に評価することができる。
【0072】
また、生体試料および被験物質を接触させていない、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつプ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞におけるレポーター遺伝子の発現レベルを、バックグラウンドとすることができる。バックグラウンドより高い一定の値を閾値として任意に設定し、レポーター遺伝子の発現レベルがこの閾値を超えるか否かによって被験者がI型アレルギーに罹患する可能性があるか否かをI型アレルギーのリスクとして簡便に評価することもできる。
【0073】
上記閾値について、後述する実施例に示す通り、抗ヒトIgE抗体によるFcεRIの架橋を誘導しない条件では、血清希釈率が3倍から2187倍の間でバックグラウンドの2倍を超えることはなかった。それに対して、IgEを46pg/ml(0.02IU/ml)含む健常者血清を用いて、抗ヒトIgE抗体によりFcεRIの架橋を誘導した場合、ルシフェラーゼの比活性がバックグラウンドの2倍を超えた。これらの結果から、たとえば、上記閾値を、バックグラウンドの2倍とすることも可能である。
【0074】
本発明の評価方法は、自動化することもできる。たとえば、本発明の検査方法は、細胞または細胞を収容する容器を保持するための保持手段、被験者由来の生体試料や被験物質を該保持手段に供給するための供給手段、レポーター遺伝子の発現レベルを測定するための測定手段を少なくとも備えた装置を用いれば、本発明の検査方法を簡便かつ迅速に実施できる。
【0075】
[3]被験者におけるIgE量を測定する方法
本発明の測定方法は、(1)ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;(2)’抗ヒトIgE抗体または前記被験者に対するアレルゲン、および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、(3)’前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定することを含む。
【0076】
上記工程(2)’では、本発明の検査方法における工程(2)における被験物質の代わりに、既知濃度の抗ヒトIgE抗体または被験者に対するアレルゲンを用いる。抗ヒトIgE抗体は、たとえば、ヤギ、マウス、ラット、ウサギなどに由来するものがあり、Bethyl社から入手することもできる。アレルゲンは、被験者に投与するとI型アレルギーが生じるものであれば特に制限されない。たとえば、被験者が卵白をアレルゲンとする場合は、Egg White Extract(Greerlabs)などの非精製抗原を利用することもできるし、オブアルブミンやオボムコイドなどの精製抗原を利用することもできる。抗ヒトIgE抗体または被験者に対するアレルゲンの濃度と上記工程(3)’のレポーター遺伝子の発現レベルは関連することから、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定することによって、被験者におけるIgEの量を測定することができる。本発明の測定方法もまた、たとえば、本発明の評価方法の自動化のための装置を利用することによって、自動化することもできる。
【0077】
[4]スクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、(1)’ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、ヒトIgEを含む試料の存在下でインキュベートすること;(2)’’抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲン、候補物質、ならびに前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、(3)’’前記候補物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質を選択することを含む。
【0078】
本発明のスクリーニング方法において、上記(1)’の工程では、上記[1]の工程(1)の被験者由来の生体試料に代えて、ヒトIgEを含む試料を用いる。ヒトIgEを含む試料は、形態や含有するヒトIgEの濃度などについて特に制限されず、たとえば、スクリーニングによって得られる物質の種類に応じて適宜選択できる。ヒトIgEは、遺伝子組換え技術等によって作製されたヒト化IgEを用いることもできる。
【0079】
本発明のスクリーニング方法において、上記(2)’’の工程では、抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンおよび候補物質を、上記工程(1)’のインキュベート後の細胞に接触させる。この接触の態様は、(i)細胞と抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンを接触させた後、抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンの存在または非存在下で、細胞に候補物質を接触させること、(ii)細胞と候補物質を接触させた後に、候補物質の存在または非存在下で、細胞に抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンを接触させること、(iii)候補物質と抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンとを混合した溶液などを用いて候補物質ならびに抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲンを同時に細胞に接触させること、などが想定されるが、これらのいずれでもあってもよい。本発明のスクリーニング方法における候補物質は特に制限はなく、天然物および化学合成物のいずれでもよい。
【0080】
本発明のスクリーニング方法において、上記工程(3)’’では、候補物質を加えない場合は、レポーター遺伝子の発現の増大を確認できる。そこで、候補物質を加えた際に、レポーター遺伝子の発現が微弱である場合、またはレポーター遺伝子の発現が候補物質を加えない場合と比べてさらに増大した場合は、このような候補物質をレポーター遺伝子の発現に影響を与える物質として選択する。特に、レポーター遺伝子の発現が確認されない場合、候補物質によってI型アレルギーが抑制されたと判定することができる。レポーター遺伝子の発現の増大を招く物質は、潜在的にアレルギーを悪化させる危険性がある物質と推測され、このような物質を把握することは公衆衛生上意義のあることである。
【0081】
本発明のスクリーニング方法は、好ましくはI型アレルギーの抑制及び/又は予防するために使用される物質をスクリーニングする。なお、レポーター遺伝子の発現は、定量的に測定してもよい。この場合は、レポーター遺伝子の発現レベルの強度によって、I型アレルギーへの影響の程度が異なる種々の物質を得ることが可能となる。
【0082】
本発明のスクリーニング方法によって、候補物質の中から選択したI型アレルギーを抑制することができる物質を、I型アレルギーの抑制剤、予防剤、またはその両方の薬剤として利用し得る。さらに、このようなI型アレルギーの抑制剤及び/又は予防剤の中から、I型アレルギーを治療するための医薬を開発することが期待できる。
【0083】
[5]細胞およびキット
本発明の細胞は、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する。本発明の細胞については、本発明の方法の記載を参照できる。また、本発明のキットは、本発明の方法を実施するに際して使用されるものであり、本発明の細胞を含む。本発明のキットとしては、本発明の細胞の他に、たとえば、被験物質やアレルゲンの希釈液、本発明の細胞に適した培地や緩衝液、レポーター遺伝子が酵素遺伝子の場合はその基質、標準ヒトIgEまたはヒトIgE含有血清、抗ヒトIgE抗体、各種アレルゲン、希釈液、ルシフェラーゼ基質、細胞洗浄液、細胞破砕液、陽性対照としてのフォルボールエステルおよびカルシウムイオノフォア、陰性対照としてのシクロスポリンAまたはタクロリムス(FK506)、96ウェルプレート(パーキンエルマー社(PerkinElmer)のViewPlateなど)などを特に制限なく含むことができる。
【0084】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0085】
[材料および方法]
(1)RS-ATL8細胞の樹立
ヒトFcεRIを遺伝子導入し、恒常的に発現させたラットのマスト細胞株であるRBL-SX38 細胞を用いた(Wiegand, T.W., Williams, P.B., Dreskin, S.C., Jouvin, M.H., Kinet, J.P., Tasset, D. (1996). J Immunol. 157, 221-30.を参照)。pHTS-NFAT(BIOMYX社)を制限酵素(BglI)で完全消化し、Plasmid midi kit (Viogene) で精製した。次にRBL-SX38細胞2.5×105個に対し、精製した線形化プラスミド4μgとLipofectamin2000 (Invitrogen)10μlを加え、トランスフェクションを行った。リポフェクション開始から37℃で4時間インキュベートした後、新しい培地に交換し2日間培養を続けた。その後、セレクションを行うために、細胞を90mmディッシュに植え継ぎ、600μg/mlのhygromycinを含む継代培地中で、3週間培養を続けた。ここで得られたhygromycin耐性細胞を播種密度1cell/wellで96wellディッシュに播種し、hygromycinを含む培地中で培養を開始した。約2週間後に各ウェル内に形成されたコロニー数をカウントし、1コロニーのみを含むウェルを選択することで、クローン化を行った。その後1コロニー/wellと判断された細胞を、24wellディッシュ、6wellディッシュと拡大培養を行い、最終的に16クローンを得た。得られた16クローン中4クローンにつき、クローンごとにルシフェラーゼアッセイを行って、10ng/mlのPMA(Sigma)と1μMのionomycin(Sigma)による3時間の刺激に対して、最も強いルシフェラーゼ反応を示したものをRS-ATL8細胞とした。
【0086】
(2)細胞培養
細胞培養は10%FCS、GlutaMax (invitrogen)、1%Penicillin/Streptomycin (Sigma)を含むMEM培地(invitrogen)を用いて、37℃5%CO2インキュベーターで行った。RBL-SX38細胞は、1.2mg/mlのgeneticin、RS-ATL8細胞は1.2mg/mlのgeneticin及び500μg/mlのhygromycinを培地に共存させ培養し、細胞は3−4日に一度の割合でセルスクレーパーにより採取し、継代した。
【0087】
(3)患者血清およびアレルゲン
アレルギー患者血清は、藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院の倫理規定に従って、当大学病院を来院した患者より、インフォームドコンセントをとった上で採取したものを使用した。検体は、2002年1月〜2004年2月までに採取され、CAP-RAST法等の臨床検査の後、使用直前まで-80℃で保存した。またヒト血清(pooled human serum)はコスモバイオ社から購入した。Egg White Extract(Greerlabs)はPBS bufferで5mg/mlの濃度に溶解させ、-30℃で保存した。使用時に培地で希釈した。ダニ抗アレルゲン及び、対照液は鳥居薬品株式会社より購入した。ダニアレルゲンは4℃、対照液は室温で保存し、使用時には培地で希釈した。
【0088】
(4)ELISA法による総IgEの定量
健常者血清中の総IgEの定量は、Bethyl社のhuman IgE ELISA quantititation kitを用い、メーカーのプロトコルに従って行った。
【0089】
(5)脱顆粒測定
RBL-SX38細胞をセルスクレーパーで回収し、2.5×104 cells/50μl/wellになるように96wellプレート(Corning)に播種し、3時間以上CO2インキュベーター内で培養した。その後、培地に希釈した10倍の濃度のヒト血清を各ウェル5μlずつ加え、CO2インキュベーター内で一晩感作を行った。翌日培地を除き、PIPES buffer ( 10mM PIPES (Dojindo), 139mM NaCl, 5mM KCl, 1mM CaCl2・2H2O, 0.6mM MgCl2・6H2O, 1mg/ml BSA, 1mg/ml glucose)で希釈した抗原を各ウェル50μlずつ加え、37℃の気相インキュベーター内で30分間刺激を行った。上清を別の96 well プレートに回収し、残った細胞に0.2%TritonX100を50μlずつ加え、室温で5分間インキュベートし細胞溶解液とした。この細胞溶解液と回収した上清を25μlずつ96well plateに移し、ネガティブコントロールとしては同量のPIPES bufferを空いているwellに加えた。ここに1.3mg/mlのp-nitrophenyl-2-deoxy-β-glucopyranoside (Nacalai Tesque) を100μlずつ加え、37℃の気相インキュベーターで60分間反応させた。最後に200μlのGlycine buffer(0.25M Glycin; NaOH,pH10.0)を加えて、反応を停止させた後、405nmの吸光度を測定した(EL340, Bio-Tek instrument)。脱顆粒の強さは、以下の式に従って算出した、:脱顆粒(%)=(上清の吸光度−Blank)/(上清の吸光度−Blank+細胞溶解液の吸光度−Blank)×100。
【0090】
(6)ルシフェラーゼアッセイ
サブコンフルエントのRS-ATL8細胞を新しい10%FCS-MEM培地中でセルスクレイパーを用いて回収し、2.5×104 cells/50μl/wellずつ底面が透明の白色96well plate(View Plate-96TC, PerkinElmer)に連続分注器(エッペンドルフ)を用いて播種した。細胞播種後、3時間以上CO2インキュベーター内で培養し、培地に希釈した10倍濃度のヒト血清を各ウェル5μlずつ加え、CO2インキュベーター内で一晩感作させた。翌日、培地を除き、培地で希釈したアレルゲンまたは抗ヒトIgE抗体を各ウェル50μlずつ加え、CO2インキュベーター内で3時間刺激を行った。このとき生細胞数の指標として1μMの3',6'-Di(O-acetyl)-4', 5'-bis[N,N-bis (carboxymethyl) aminomethyl] fluorescein, tetraacetoxymethyl ester (Calcein-AM;(株)同仁化学研究所)を添加した。培地を除き、氷冷したPBS bufferで2回洗浄した。Passive Lysis Buffer(Promega社Dual-Glo Luciferase Assay System)を各ウェル20μlずつ添加し、MicroAmp Clear Adhesive Film(Applied Biosystems)によりプレートを密閉し、VORTEX-GENIE2 (Scientific Industries社)により、最大速度で15分間プレートを攪拌し、細胞を完全に破壊した。プレートを遠心し、蛍光プレートリーダーで、485nmで励起時の538nmのcalcein蛍光強度を測定した。その後、Luciferase Assay System(Promega)を用いてメーカーのプロトコルに基づいてルシフェラーゼ測定を行った。検出にはPerkinElmer社のARVOマルチラベルリーダーを用いた。
【0091】
(7)LDH細胞傷害性試験
ヒト血清による細胞障害性は、LDH cytotoxicity test (Roche)によって評価した。20μlの上清を96wellプレート(Corning)に播種し、ジアホレース・NAD+溶液を50μlずつ加え、7〜12分室温でインキュベートした。その後、反応停止液(ITN・乳酸溶液)を50μlずつ加え、10秒間静かに振って混ぜ、490nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(EL340, Bio-Tek instrument)で測定した。
【0092】
(8)Ovomucoidの人工胃液消化
G-con溶液(2mg/l NaCl, pH1.2 (HCl))5mlに固相化ペプシン(Pierce社) 3.8mg(13,148units)を加え、人工胃液simulated gastric fluid (SGF) を調製した。1520μlのSGFに、80μlの5mg/mlのovomucoid(Sigma社)を加え、37℃の水浴中で揺すりながら0, 0.5, 2.5, 10, 20, 30および60分間インキュベートした(サンプル溶液)。70μlの200mM NaCO3溶液に200μlのサンプル溶液を加えて、1500rpmで3分間遠心して固相化ペプシンを沈殿させて分解反応を停止させ、上清を回収した。
【0093】
(9)SDS-PAGEとCBB染色
5×Laemmili buffer(BioRad社)950μlに、2-melcaptoethanol(和光純薬工業株式会社)50μlを加え、2×Sample bufferとした。2×Sample buffer 10μlと目的のタンパク質溶液10μlを混合し、95℃で3分間ボイルし氷上で冷却後、10-20%ポリアクリルアミドゲル(XV-Pantera gel; DRC社) 及びTG-SDS(DRC社)を用いてSDS-PAGEを行った。泳動後のゲルは、ミリQ水で軽く洗浄後、CBB固定液(10%酢酸-, 50%メタノール溶液)中で5分間、Quick CBB (和光純薬工業株式会社)中で揺らしながら室温で30分間インキュベートした。染色後、ミリQ水中で脱色し、泳動像をスキャナーにより取り込み、画像解析を行った。
【0094】
(10)アレルギー患者血清によるウエスタンブロット
アレルゲンサンプルを10-20%ポリアクリルアミドTris/Tricine 2Dゲル(Invitrogen)にアプライし、電気泳動により分離後、ニトロセルロース膜に転写した。その後0.5% Casein-PBS(pH7.0)中で4℃で一晩ブロッキングを行い、翌日4mm幅に切り分け、0.2%Casein-PBSで4〜5倍に希釈した患者血清中に入れ、室温で1時間インキュベート後、4℃で18時間インキュベートした。0.05%Tween 20-PBSで洗浄後、室温で1時間ウサギ抗ヒトIgE抗体(Nordic Immunological Laboratories)を反応させ、3回洗浄後、室温で1時間horseradish peroxidaseを結合させた抗ウサギ Ig抗体(Amersham Biosciences)を反応させた。最後に、Konica ImmunoStain HRP-1000(Konica社)のプロトコルにしたがって、化学発光イメージリーダーDIANA (raytest)によって化学発光を検出した。
【0095】
[例1]RS-ATL8細胞株の樹立
本研究では、Wiegandらがラットマスト細胞株RBL-2H3細胞にヒトFcεRIのα-,β-およびγ-サブユニットを組み込んで樹立したRBL-SX38細胞に、新たにNFATによってルシフェラーゼの転写が誘導される遺伝子を組み込んで、ヒト血清による感作およびアレルゲン添加により、FcεRIの架橋を介してレポーター分子を発現する培養細胞株を樹立した(図3を参照)。遺伝子導入後、hygromycinによるセレクションにより得られた16クローンのうち、4クローンについて、10nM PMAと1μM ionomycinで刺激したときのルシフェラーゼ応答を評価した。その結果、最も強くルシフェラーゼを発現した細胞をRS-ATL8細胞(RBL-SX38 stably transfected with NFAT-Luciferase , clone#8細胞)として樹立した。また、導入したNFAT-ルシフェラーゼのベクターマップを図4に示した。
【0096】
[例2]RS-ATL8細胞の活性化を指標とするヒトFcεRIの架橋の検出感度
RS-ATL8細胞のルシフェラーゼ発現を指標とする本試験法の感度を調べるために、様々な希釈倍率の健常者血清を添加し、同細胞が発現するヒトFcεRIに結合したヒトIgEを1μg/mlの抗ヒトIgE抗体により架橋する実験を行った。
【0097】
FcεRIの架橋によるマスト細胞の活性化は、ルシフェラーゼ発光量を生細胞数の指標であるcalceinの蛍光強度で除した値で示した。感作なしおよび刺激を行わない場合のRS-ATL8細胞がバックグラウンドとして恒常的に発現しているルシフェラーゼのレベルを基準とし、その2倍の発現量を閾値と設定した。
【0098】
さまざまな希釈倍率の健常者血清を感作させ、ルシフェラーゼ応答をみたところ、2187倍に希釈した血清による感作で、閾値を越える応答がみられた(図5を参照)。ルシフェラーゼ応答のピークは、100倍希釈付近で、100倍以上の血清希釈倍率では、血清濃度依存的に、ルシフェラーゼ応答が増加した一方、100倍以下の高濃度血清条件下では、血清濃度依存的に、ルシフェラーゼ応答が減少した。本健常者血清は、複数の健常者から採取した血清が混合されているものであるが、血清中のIgEの量をELISA法(Bethyl社)にて測定したところ、ちょうど100ng/mlのIgEを含有していた。2187倍希釈の本血清のIgE濃度を計算すると、本試験法は少なくとも46pg/ml(0.02 IU/ml)のヒトIgEの架橋を検出することが出来ることが示された。また、ヒト血清の高濃度側では、むしろルシフェラーゼが減少したが、RBL細胞はラットに由来するため、高濃度のヒト血清を感作すると、ヒトの補体成分により傷害を受ける可能性が考えられた。しかしIgEは熱に対し不安定であるため、熱処理による補体の非働化は行うことが出来ない。そこで、血清の希釈率を高めていき、細胞傷害性が認められなくなる希釈率を求めた。LDH細胞傷害性試験の結果、血清を3倍希釈で感作させた時に有意な細胞傷害性が認められたが、27倍以上に希釈すれば、ほとんど傷害性がみられないことが分かった(図6を参照)。また、重症のアレルギー患者血清においても100倍希釈であれば、LDHの細胞外放出が見られないことがわかった。これにより、血清を少なくとも100倍以上希釈することにより、本試験法の定量性を確保したまま、細胞への傷害性を回避できることが示された。
【0099】
[例3]アレルゲン特異的なFcεRIの架橋
次に、卵でアナフィラキシーを起こした経験のある患者の血清01を用いてアレルギー試験を行った(図7を参照)。この患者の場合、抗ヒトIgE抗体により総IgEを架橋すると、少なくとも24300倍希釈から閾値を上回るルシフェラーゼ応答が観察された(図7左上を参照)。また、5μg/ml卵白抽出物(Egg White Extract; EWE)、卵白の主要アレルゲンであるovalbumin(OVA)及び ovomucoid (OVM)、それぞれ1μg/mlで刺激を行った結果、それぞれ900倍、900倍および300倍において閾値を超えるルシフェラーゼ応答を示した(それぞれ図7右上、左下、右下を参照)。
【0100】
[例4]脱顆粒測定法とルシフェラーゼ測定法との比較
マスト細胞の活性化の最も一般的な指標に脱顆粒が挙げられる。よって次に、脱顆粒測定法とルシフェラーゼ測定法を比較するため、それぞれRBL-SX38細胞及び、RS-ATL8細胞を用い、100倍に希釈した総IgE濃度の高い卵白アレルギー患者血清01(12700 IU/ml)または、低い卵白アレルギー患者血清05(271 IU/ml)で感作して様々な濃度の抗原により刺激した場合の応答を測定した。刺激には、抗ヒトIgE抗体または卵白抽出物を用いた。
【0101】
総IgE濃度の高い卵白アレルギー患者血清01においては、脱顆粒測定では10pg/ml以上、ルシフェラーゼ測定では1pg/ml以上のEWEで刺激したとき、閾値を越える応答があった(図8左を参照)。血清非感作時の未刺激時の値、最小値、最大値をそれぞれ、C0、Cmin、Cmaxとし、血清感作時の未刺激時の値、最小値、最大値をそれぞれ、S0、Smin、Smaxとしたとき、脱顆粒測定法の場合、感作による非特異的な増加(S0/C0×100)が181%、抗原依存的に起こる応答の最大変化幅の割合((Smax−S0)/S0×100)が39%、および、コントロールの不安定性((Cmax−Cmin)/C0×100)が52%であった(図8左上を参照)。一方で、ルシフェラーゼ測定法の結果では、感作による非特異的な発現増加(S0/ C0×100)が155%、抗原依存的に起こる応答の変化幅の最大値((Smax−S0)/S0×100)が621%、および、コントロールの不安定性((Cmax−Cmin)/C0×100)が25%であった(図8左下を参照)。また、総IgE濃度の低い卵白アレルギー患者血清05においては、脱顆粒測定法では10ng/mlから、ルシフェラーゼ測定法では10pg/mlから閾値を超える応答が観察された。このことは、本発明技術が従来法に比較して約1000倍の検出感度を有していることを示している。
【0102】
マスト細胞の活性化を検出する本試験法が、IgEとアレルゲンとの特異的結合のみを指標とするCAP-RAST法による評価、および臨床的な食物負荷試験の結果とどのように相関するかについて、次にCAP-RAST法により卵白に対する特異的IgEが陽性と評価された2名の患者血清を用いて試験を行なった(図9を参照)。実際に卵白アレルギーであることが分かっている患者03の場合、本試験法においては、100倍希釈した血清を用いると、10pg/mlの卵白抽出物により閾値を超える応答が観察された(図9上を参照)。しかし、卵白結合性IgEが陽性ではあるが卵を食べることができるアトピー性皮膚炎患者04の場合、実験に用いた濃度範囲(1pg/ml〜1μg/ml)では、卵白抽出物による刺激は、閾値を超えるルシフェラーゼ発現上昇を誘導しなかった(図9下を参照)。このことは、本試験法によれば、IgE結合性のみを指標として評価するCAP-RAST法やウェスタンブロットなどの従来法と異なり、より実際の臨床症状を反映した試験結果を提供できる可能性があることを意味している。
【0103】
[例5]試験の特異性と非食物アレルゲンへの応用
本アレルギー試験は患者のアレルゲンを特異的に検出できているのか、また、非食物アレルゲンに対する応答も検出できるのかを確認するためにCAP-RAST法によって、ダニ特異的IgEを12.5 UA/ml(スコア3)保有するが、卵白特異的IgEを含まない(<0.34 UA/ml ;スコア0)事が分かっているアトピー性皮膚炎の患者血清02を用いてダニ抗原、及びEWEに対するアレルギー試験を行った。なお、この患者の総IgE量は129 IU/mlで、ほぼ健常人と同レベルである。その結果、100pg/ml以上のダニ抗原に対して、閾値を越えるルシフェラーゼ応答が確認されたが、EWEに対しては閾値を越える応答は見られなかった(図10を参照)。このことから、本アレルギー試験は食物アレルゲン以外の抗原に対しても有効で、アレルゲンに特異的に反応することが示された。
【0104】
[例6]人工胃液により消化されたOVMのアレルゲン性
食物アレルゲンタンパク質のアレルゲン性はペプシンによる消化に対する抵抗性と関連している(Urisu, A., Yamada, K., Tokuda, R., Ando, H., Wada, E., Kondo, Y., Morita, Y. (1999). Int Arch Allergy Immunol. 120, 192-8.を参照)。そこで、本新規アレルギー試験法を応用し、OVMの人工胃液消化断片のアレルゲン性を確認することを試みた。まず、OVMを、ペプシンを含む人工胃液(simulated gastric fluid; SGF)中で0分、5分、30分、60分消化させたときのペプチド断片をSDS-PAGEにより分離し、CBB染色を行った(図11Aを参照)。未消化のOVMは、34〜49kDa付近にバンドが検出されたが、そのバンドは5分の人工胃液消化で薄くなり、30分の消化でほぼ検出できなくなった。また23.5〜28.5kDa、7〜10kDa、4.5〜6kDa付近のペプチド断片がそれぞれ、5分、30分、60分をピークに産生された。次に、OVMの人工胃液消化断片と卵白アレルギー患者血清中のIgEとの結合を検出するためにウエスタンブロットを行ったところ、いずれの患者血清も、分解前のOVMには等しく結合するIgEを含むが、ウエスタンブロットで見る限り、04のIgEエピトープは分解後速やかに消失した(図11Bを参照)。これに対し、03のエピトープはペプシン耐性のOVM断片上に存在し、30分の人工胃液処理によっても消失しなかった(Takagi, K., Teshima, R., Okunuki, H., Itoh, S., Kawasaki, N., Kawanishi, T., Hayakawa, T., Kohno, Y., Urisu, A., Sawada, J. (2005)..Int Arch Allergy Immunol. 136, 23-32.を参照)。そこで本試験法を用いて、患者血清03及び04のOVMの人工胃液消化断片に対するアレルギー試験を行ったところ、患者血清03は、100pg/ml以上のOVM濃度で、人工胃液処理の有無に関係なく、抗原特異的なルシフェラーゼ反応が検出された(図11C上)。このことは、人工胃液処理によって生じたOVMのペプチド断片には、IgE結合性のみならず、FcεRIを架橋してマスト細胞を活性化する能力があることを意味している。本試験法では被験物質を溶液中に溶解または懸濁して培養細胞に接触させる方法を採っているため、酵素反応により生成したペプチド断片などをそのまま抗原として用いることができる。CAP-RASTにおいては抗原は前もって樹脂に固定しておく必要があるため、このように自由度の高い試験法の変更は望むのが難しい。一方、患者血清04を用いた場合は人工胃液処理後のOVMに対してだけでなく、ウエスタンブロットでIgEの結合性が確認された未消化のOVMに対しても、抗原特異的な応答が検出されなかった。(図11Cを参照)。この結果は、卵白の全抽出物に対しても応答を示さなかった例4の結果とよく対応している(図9下を参照)。
【0105】
[考察]
試験法を開発する際、閾値レベルの設定は、その試験法の感度および特異度を決める上で非常に重要な意味を持つ。我々が樹立したRS-ATL8細胞は、常に一定のルシフェラーゼ発現レベルを保っているため、このバックグラウンドの2倍にあたる発現レベルを閾値として採用したが、感作もしくは刺激を行わないcontrol群では、ここでは結果を示さなかった検体を含め、これまで1度もこの閾値を越える応答を示さなかった。さらに、非感作無刺激という条件は今後このシステムをどのような実験系に応用させる場合にも、controlとして必ず測定する点であることから、バックグラウンドのルシフェラーゼレベルの2倍の値を閾値として用いることは適切かつ合理的であると考えられる。
【0106】
RS-ATL8細胞を用いた本新規アレルギー試験法は少なくとも、ヒト血清中の0.02 IU/mlの総IgEに対する応答や、また患者によっては1pg/mlのEWEに対する抗原特異的な応答を検出することが出来た(図5、8を参照)。また、総IgE量が129 IU/mlと健常者レベルであるアトピー性皮膚炎の患者血清から、FcεRIの架橋を誘導するダニ抗原特異的IgEを検出することも可能であった(図10を参照)。さらに、初めて閾値を越える応答が検出されたときの血清濃度または抗原濃度について、脱顆粒測定法と比較すると、本試験法で採用しているルシフェラーゼ測定法の方が約1/1000の濃度で反応が認められた(図8右を参照)。このことから本試験法は、総IgEが低い患者血清からでも、総IgEやFcεRIの架橋を誘導する抗原特異的IgEを感度良く検出できる系であると言える。
【0107】
また、抗原濃度を変える実験を行う場合、すべてのウェルを統一した希釈倍率の患者血清で感作させる必要があるが、ヒト血清による影響を受けやすい脱顆粒測定法では、患者血清で感作させた際の非特異的な応答および抗原刺激による血清非依存的な応答が、それぞれ181%および52%と強く示された(図8を参照)。一方ルシフェラーゼ測定法では感作および抗原刺激による非特異的応答が、それぞれ155%および25%であった。このことから、コントロールの安定性の点において、ルシフェラーゼ測定法は脱顆粒測定法よりも優れていると言える。また、脱顆粒測定法およびルシフェラーゼ測定法の血清依存的な抗原刺激に対する応答の幅はそれぞれ39%および621%であった。ゆえにダイナミックレンジに関しては、ルシフェラーゼ測定法の方が圧倒的に優れていると考えられる。
【0108】
本システムは抗原抽出物だけでなく、OVAやOVMなどの純品タンパク質抗原に対するアレルギー試験にも適用できる事が示された(図7を参照)。また食物アレルゲンだけでなく、非食物アレルゲンに対する応答も同様に検出できた(図10を参照)。これらのことから、本試験法は、培地に溶解することが出来るあらゆるアレルゲンに対応できる可能性が示唆される。さらに、検出感度が優れているため、非常に少量の患者血清およびアレルゲンで試験が行える。最も応答が強かったのは100倍に希釈した患者血清と1ng/mlのアレルゲン(EWE、OVAの場合)とで試験を行う場合であるので、使用する患者血清およびの量は、1ウェル(50μl)あたりそれぞれわずか0.5μlおよび50pgで十分であり、貴重な患者血清やアレルゲンを使用したアレルギー試験にも本試験は適していると考えられる。
【0109】
また、本研究では、本システムを応用して人工胃液により消化されたOVMのアレルゲン性について実験をおこなった。ウエスタンブロットの結果、患者血清03は消化前、消化後どちらのOVMにもIgEが特異的に結合したが、この血清を本アレルギー試験に供したとき、消化の前後で同レベルの抗原特異的な反応が認められた(図8を参照)。このことは、ペプシン分解後のOVM断片には、少なくとも一部の患者に対してはマスト細胞を活性化できる能力を持つことを意味している。ペプシン分解に耐性のあるアレルゲン断片に対して結合するIgEをもつ患者は寛解しにくいということが知られており(Urisu, A., Yamada, K., Tokuda, R., Ando, H., Wada, E., Kondo, Y., Morita, Y. (1999). Int Arch Allergy Immunol. 120, 192-8.を参照)、上記の結果はこれとよく合致すると思われる。
【0110】
一方、CAP-RAST法と同じくIgEとアレルゲンとの結合性を調べるウエスタンブロッティングでみる限り、患者血清04中のIgEは分解前のOVMに対して結合性を持っていたが、このIgEとOVMではマスト細胞の活性化は誘導しなかった(図8を参照)。患者がTh2優位の疾患であるアトピー性皮膚炎であったこと、総IgEが22,490 IU/mlと高値であったことから、B細胞の異常な活性化に伴って、CAP-RASTでは検出されるがFcεRIの架橋を誘導するほど親和性の高くないIgEが産生されていた可能性は十分考えられ、そのことが両試験結果の相違につながったと推察される。
【0111】
また、本新規アレルギー試験法は、患者血清中の特異的IgEを、FcεRIの架橋を介して検出するという点で、CAP-RAST法よりも生理学的な活性を反映したin vitro試験法であると考えられるため、まずは安価に大量の検体の同時試験が可能なCAP-RAST法によりIgEとアレルゲンとの結合を調べた後、本アレルギー試験法によりマスト細胞の活性化を測定することで、アレルギー診断の感度と特異度を高めることが可能であると期待される。なお今回用いた患者血清は採取から-80℃で最長で約7年間保存されていた検体であるが、本試験法では、問題なくマストの活性化を誘導したことから、保存血清を用いた疫学的な後ろ向き研究や患者の経時的なアレルギー診断にも本試験法が適用できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の方法は、アレルギー試験の二次スクリーニング、マスト細胞活性化を指標とする抗アレルギー薬の開発、食物アレルギー誘発物質の混入試験、長期保存血清試料による流行アレルギーの経時的変化の解析などに活用できることが期待できることから、臨床分野、創薬分野、食品安全分野および疫学分野といった多方面での活用が見込める。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認すること
を含む、前記被験物質が前記被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法。
【請求項2】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定すること
を含む、前記被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法。
【請求項3】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
抗ヒトIgE抗体及び/又は前記被験者に対するアレルゲン、ならびに前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定すること
を含む、前記被験者におけるIgE量を測定する方法。
【請求項4】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、ヒトIgEを含む試料の存在下でインキュベートすること;
抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲン、候補物質、および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記候補物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質を選択すること
を含む、前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質をスクリーニングする方法。
【請求項5】
前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質が、I型アレルギーの抑制及び/又は予防するために使用される物質である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターが、ヒト由来のα鎖を有するFcεレセプターIである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターが、ヒトFcεレセプターIである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記転写因子が、NF−AT、NF−κB、AP−1、Elk−1、Egr−1、GATA−1またはGATA−2である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記レポーター遺伝子が、酵素をコードする遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子および宿主細胞が天然には有しない細胞表面抗原をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記酵素をコードする遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、西洋ワサビペルオキシダーゼ遺伝子、およびクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、マスト細胞または好塩基球である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法に使用するための、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞。
【請求項13】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法に使用するためのキット。
【請求項1】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現の増大を確認すること
を含む、前記被験物質が前記被験者に対するアレルゲンであるか否かを検査する方法。
【請求項2】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
被験物質および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定すること
を含む、前記被験者におけるI型アレルギーのリスクを評価する方法。
【請求項3】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、被験者由来の生体試料の存在下でインキュベートすること;
抗ヒトIgE抗体及び/又は前記被験者に対するアレルゲン、ならびに前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記被験物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現レベルの増大を測定すること
を含む、前記被験者におけるIgE量を測定する方法。
【請求項4】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を、ヒトIgEを含む試料の存在下でインキュベートすること;
抗ヒトIgE抗体及び/又はアレルゲン、候補物質、および前記インキュベート後の細胞を接触させること;ならびに、
前記候補物質と接触させた細胞における前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質を選択すること
を含む、前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質をスクリーニングする方法。
【請求項5】
前記レポーター遺伝子の発現に影響を与える物質が、I型アレルギーの抑制及び/又は予防するために使用される物質である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターが、ヒト由来のα鎖を有するFcεレセプターIである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターが、ヒトFcεレセプターIである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記転写因子が、NF−AT、NF−κB、AP−1、Elk−1、Egr−1、GATA−1またはGATA−2である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記レポーター遺伝子が、酵素をコードする遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子および宿主細胞が天然には有しない細胞表面抗原をコードする遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記酵素をコードする遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、西洋ワサビペルオキシダーゼ遺伝子、およびクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、マスト細胞または好塩基球である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法に使用するための、ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞。
【請求項13】
ヒトIgEに親和性のあるFcレセプターを細胞膜上に有し、かつ、転写因子が結合し得るエンハンサーの制御下に、プロモーターおよびレポーター遺伝子をこの順に有する細胞を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法に使用するためのキット。
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】




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【図7】


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【図9】


【図10】


【図11】


【公開番号】特開2011−19467(P2011−19467A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168530(P2009−168530)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(597128004)国立医薬品食品衛生研究所長 (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(597128004)国立医薬品食品衛生研究所長 (22)
【Fターム(参考)】
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