説明

III族窒化物半導体発光素子の製造方法

【課題】発光効率の高いIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】基板上にIII族窒化物半導体からなる、n型層、発光層およびp型層が、発光層をn型層とp型層が挟むように配置されたIII族窒化物半導体発光素子であり、発光層と基板との間にある層のa軸格子定数a1と発光層のa軸格子定数a2との差の割合Δa(=100(a1−a2)/a1)の範囲が、−0.05≦Δa≦0.05(単位:%)であるIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法であって、III族窒化物半導体をMOCVD法で成長させる際のV族原料とIII族原料のモル比(V/III比)が、発光層と基板との間にある層を成長させる際には300〜1600であり、井戸層を成長させる際には70000〜190000であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIII族窒化物半導体発光素子の製造方法に関し、特に発光効率が改良されたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、III族窒化物半導体は、短波長の可視光を放射する発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等のpn接合型構造のIII族窒化物半導体発光素子を構成するための機能材料として利用されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、近紫外帯、青色帯、或いは緑色帯の発光を呈するLEDを構成する際に、n型またはp型の窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGaYN:0≦X,Y≦1、X+Y=1)は、クラッド層を構成するために利用されている(例えば、特許文献2参照)。また、窒化ガリウム・インジウム(GaYInZN:0≦Y,Z≦1、Y+Z=1)は、発光層を構成するために利用されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
従来のIII族窒化物半導体発光素子において、発光層には、n型またはp型のIII族窒化物半導体層が接合されて設けられるのが一般的である。高い強度の発光を得るために、ヘテロ接合構造の発光部を構成するためである。例えば、ダブルヘテロ(DH)接合構造の発光部を構成するために、発光層は、従来からGaYInZN(0≦Y,Z≦1、Y+Z=1)等からなり、n型またはp型III族窒化物半導体層がクラッド層等として接合されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、発光効率向上のために量子井戸構造を用いた発光層も提案されている。現在市販されている青色LEDや青紫色レーザダイオード等の発光素子は格子定数の異なる複数種の半導体層が積層された格子不整系材料が用いられている。通常、III族窒化物半導体発光素子では基板にサファイアが用いられ、n型層にはGaN層が、発光層にはGaInN系の量子井戸構造が一般的に用いられている。
【0005】
これらの発光素子では、発光層のa軸の格子定数はその下方にあるn型層のa軸の格子定数とほぼ一致する(コヒーレント成長する)と言われている。一般に発光層の膜厚が量子井戸構造のように臨界膜厚より薄い場合はコヒーレント成長し、臨界膜厚より厚い場合は、緩和成長になる。
【0006】
また、サファイア基板上にn型層、発光層およびp型層を有する積層構造中に含まれるGaN層の平均的なa軸格子定数の歪み量の範囲を規定することにより、歪みに起因する特性劣化を防止する従来技術が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−332364号公報
【特許文献2】特開2003−229645号公報
【特許文献3】特公昭55−3834号公報
【特許文献4】特開2002−124702号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】赤崎 勇著、「III−V族化合物半導体」、1995年5月20日発行、(株)培風館、第13章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、発光効率の高いIII族窒化物半導体発光素子発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、格子定数の異なる複数種の半導体層が積層されている格子不整系材料が用いられた発光素子をX線回折法の逆格子空間マッピングにより詳細に解析を行った結果、発光層および基板間にある層と発光層とのそれぞれのa軸格子定数が積層構造や成長条件により異なり、それぞれのa軸格子定数に微小な差(ズレ)が生じることを見出した。本発明者はさらにこのa軸格子定数の差(ズレ)が発光効率に大きく影響することを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は下記の発明を提供する。
(1)基板上にIII族窒化物半導体からなる、n型層、発光層およびp型層が、発光層をn型層とp型層が挟むように配置されたIII族窒化物半導体発光素子であり、下式(I)で表わされる、発光層と基板との間にある層のa軸格子定数(発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループの格子定数)a1と発光層のa軸格子定数(発光層が多重量子井戸構造の場合は井戸層と障壁層との平均組成を示す0次ピークから求めた格子定数)a2との差の割合Δaの範囲が、−0.05≦Δa≦0.05(単位:%)であり、発光層と基板の間にある層の厚さ(発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループの合計厚さ)が10〜20μmであり、前記発光層が多重量子井戸構造であり、多重量子井戸構造の障壁層がAlXGaYInZN(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1、X+Y+Z=1)からなり、井戸層がGaYInZN(0<Y<1、0<Z<1、Y+Z=1)からなるIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法であって、III族窒化物半導体をMOCVD法で成長させる際のV族原料とIII族原料のモル比(V/III比)が、発光層と基板との間にある層を成長させる際には300〜1600であり、井戸層を成長させる際には70000〜190000であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
Δa=100(a1−a2)/a1 ・・・・・・(I)
(2)障壁層の厚さが10〜25nmである上記(1)に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(3)障壁層のドーパント量が1×1017〜1×1018/cm3である上記(1)または(2)に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(4)III族窒化物半導体が一般式AlXGaYInZ1-AA(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされる上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(5)基板がサファイアである上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(6)発光層と基板の間にある層(発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループ)がn型GaN層である上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(7)基板がサファイアであり、発光層と基板の間にある層(発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループ)がn型GaN層であり、格子定数a1およびa2が3.181Åより大きい上記(1)に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
発光層および基板間にある層と発光層とのa軸格子定数の差の割合を特定の範囲にコントロールすることを骨子とする本発明により、発光効率の高い発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のIII族窒化物半導体発光素子の一例を概略的に示す図である。
【図2】実施例1で作製したIII族窒化物半導体発光素子の断面構造を模式的に示した図である。
【図3】実施例1で作製したIII族窒化物半導体発光素子の非対称面における逆格子空間マッピングである。
【図4】実施例1〜3および比較例1で得られた発光素子の下地層3aおよびnコンタクト層3bを形成する際のV/III比とΔaをプロットした図である。
【図5】実施例1〜3および比較例1で得られた発光素子のΔaと発光強度をプロットした図である。
【図6】実施例1および4ならびに比較例2で得られた発光素子の井戸層4bを形成する際のV/III比とΔaをプロットした図である。
【図7】実施例1および4ならびに比較例2で得られた発光素子のΔaと発光強度をプロットした図である。
【図8】実施例1および5〜8ならびに比較例3で得られた発光素子の下地層3aおよびnコンタクト層3bの合計膜厚とΔaをプロットした図である。
【図9】実施例1および5〜8ならびに比較例3で得られた発光素子のΔaと発光強度をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明のIII族窒化物半導体発光素子の一例を概略的に示す図である。図1において、1は基板であり、2はバッファ層である。3はn型層であり、下地層(3a)、nコンタクト層(3b)およびnクラッド層(3c)から構成されている。4は発光層である。5はp型層であり、pクラッド層(5c)およびpコンタクト層(5b)から構成されている。10はnオーミック電極、11はpオーミック電極である。バッファ層は基板種によっては省略できる。また、nコンタクト層は下地層および/またはnクラッド層を兼ねることができる。pコンタクト層もpクラッド層を兼ねることができる。
【0015】
上記に例示した発光素子において、本発明で言う発光層と基板との間にある層は、バッファ層(2)とn型層(3)である。これらを構成するIII族窒化物半導体の組成が同一であれば、そのa軸格子定数が本発明で言うa1である。これらを構成するIII族窒化物半導体の組成が全て異なる場合は、これらの層の内一番厚い層のa軸格子定数が本発明で言うa1である。通常、バッファ層(2)およびn型クラッド層(3c)は薄く、下地層(3a)およびn型コンタクト層(3b)は厚いので、下地層またはn型コンタクト層のどちらか厚い方のa軸格子定数が本発明で言うa1である。また、どれか2つの層を構成するIII族窒化物半導体の組成が同一の場合は、それらの層の厚さを合計して他の層の厚さと比較して一番厚い層のa軸格子定数が本発明で言うa1である。要するに、発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループのa軸格子定数が本発明で言うa1である。
【0016】
発光層は、例えば単一のGaYInZN(0≦Y,Z≦1、Y+Z=1)層から構成してもよいし、量子井戸構造と称する超格子構造から構成してもよい。量子井戸構造は障壁層と井戸層が交互に積層されており、井戸層で発光する。量子井戸構造は、井戸層が1層しかない単一量子井戸構造でもよいし、複数の井戸層を有する多重量子井戸構造でもよい。例えば単一量子井戸構造のように発光する層が1層しかない場合は、その発光する層のa軸格子定数が本発明で言うa2である。多重量子井戸構造の場合は、複数の井戸層と障壁層の平均組成を示す0次ピークから求めたa軸格子定数を本発明で言うa2とする。
【0017】
本発明において、各層のa軸格子定数はX線回折法の非対称面における逆格子空間マッピングから求める。その求め方を後述の実施例1で作製した発光素子(断面構造が図2に示されている)を例にして以下に説明する。
【0018】
図3は後述する実施例1で作製した発光素子(断面構造が図2に示されている)の逆格子空間マッピングである。図3に示した測定で用いたX線回折装置の測定条件について下記に示す。
【0019】
用いたX線回折装置はパナリティカル(PANalytical)社のX’Pert−PRO MRDであり、解析ソフトウェアはX’Pert Epitaxy 4.1である。
1.入射部光学系
・X線発生装置: 最大出力1.8kW、セラミックス絶縁型X線回折Cu管球
・モノクロメータ: Geハイブリッド2回回折モノクロメータ
(ハイブリッドモノクロメータによりX線管球からの発散ビームが単色平行ビームに変換)
【0020】
2.受光部光学系
・トリプルアクシスモジュール: 分解能12秒
・X線検出器: プロポーショナルカウンタ
【0021】
3.その他
・ゴニオメータ: 高精度ダイレクトエンコーダ連結型ゴニオメータ
角度再現性 0.0001度
・試料ステージ: 面内回転、アオリ角、X,Y,Z軸が全てモータ駆動
【0022】
4.逆格子マッピング測定条件
X線源: 電圧45kV、電流40mA
入射スリット: 1/8’’(X線ビーム径 縦10mm×横0.365mm)
試料形状: 2インチウェーハ
回折面: (20−24)面
【0023】
図3において、横軸Qxと縦軸Qyはすべて逆格子単位で示されており、横軸Qxは成長面に平行な方向の格子定数aの逆数、縦軸Qyは成長面に垂直な格子定数cの逆数に対応する。例えば、Qx、Qyが大きくなることは格子定数では小さくなり、Qx、Qyが小さくなることは格子定数では大きくなることを意味する(GaNより格子定数の小さなAlGaNのQx、QyはGaNに比べて大きくなる。一方、GaNより格子定数の大きいGaInNのQx、QyはGaNに比べて小さくなる)。
【0024】
実施例1で作製した発光素子では、図2から明らかな如く、発光層(4)と基板(1)との間にある層は、バッファ層(2)とn型層(3)である。その内、下地層(3a)とnコンタクト層(3b)はGaNから構成されており、組成が同一である。それらを合計した厚さは10μmであり、その他の層と比較して桁違いに厚い。従って、その回折ピークは図3における中央部の強度が最も強いピークSであり、そのa軸格子定数が本発明におけるa1となる。なお、III族窒化物半導体発光素子においては、通常、発光層およびp型層は薄く、n型層が厚い。そのn型層の内、一番厚い層に基づく回折ピークは強度が最も強くなる。
【0025】
また、多重量子構造の発光層(4)中の井戸層(4b)を構成するのはGaInNであり、GaInNは下地層(3a)およびnコンタクト層(3b)を構成するGaNより格子定数が大きいから、発光層を構成する多重量子井戸構造の平均組成を示す0次ピークは図3中でSの下方にあるピークLであり、そのa軸格子定数が本発明におけるa2となる。なお、図3中でSの上方にあるピークAは、GaNより格子定数が小さい、pクラッド層を構成するAlGaNの回折ピークである。
【0026】
上述したように、得られた逆格子空間マッピング中の各ピークの位置ならびに強度と、発光素子を構成する各層の組成と厚さを考慮することにより、a1およびa2を求めることができる。実施例1では、基板にサファイアを用いているので、発光層および基板間にある層はn型層であるが、基板に例えばSiC等を用いた場合には、発光層および基板間にp型層を設けることもできる。このような場合にも同様の手順でa1およびa2を求めることができる。
【0027】
なお、図3の測定における回折面には非対称面の(20−24)面を適用し逆格子空間マッピングを測定することによりn型層および発光層のa軸の格子定数を求めたが、回折面に関しては(20−24)面の他に(10−15)面等を用いることができる。特に紫外発光素子では発光層のIn組成が低くなり、下地層のGaNに構造上近づくため、下地層と発光層のピーク分離が明瞭でなくなるため逆格子空間マッピングの原点から離れる回折面を用いることが望ましい。紫外発光素子では(10−15)面が有効である。また正確に格子定数を算出するためには試料の温度(室温で測定する場合は室温)を毎回一定にすることが望ましい。
【0028】
本発明においては、上記に定義したa1とa2との差の割合Δa(%)=100(a1−a2)/a1が、−0.05≦Δa≦0.05(単位:%)になるように制御する。そうすることにより発光素子の効率が向上する。さらに好ましくはΔaが、−0.03≦Δa≦0.03(単位:%)になるように制御する。
【0029】
Δaの制御は、III族窒化物半導体層の積層構造や成長条件を制御することによって行なうことができる。例えば、III族窒化物半導体を成長させる際のV族原料とIII族原料のモル比(V/III比)によって、Δaは大きく変化する。V/III比が大きくなると、Δaは小さくなる傾向である。発光層および基板間の層を成長させる際のV/III比は、他の条件によっても異なるが、一般に、300〜1600が好ましい。300以下ではΔaが大きくなり、0.05を超える場合が多い。また、1600以上になるとIII族窒化物半導体の結晶性が悪化し、Δaは−0.05を超える場合が多い。好ましくは、400〜800である。
【0030】
発光層(量子井戸構造の場合は井戸層)を成長させる際のV/III比は、他の条件によっても異なるが、一般に、70000〜190000が好ましい。70000以下ではΔaが大きくなり、0.05を超える場合が多い。また、190000以上になると−0.05を超える場合が多い。好ましくは、80000〜150000である。
【0031】
また、Δaは発光層および基板間の層の膜厚にも影響される。通常、この膜厚が大きければ大きいほど、Δaは0に近づく。III族窒化物半導体の成長条件によっても異なるが、一般に、この膜厚は、6〜16μmが好ましい。5μm以下では、Δaが−0.05≦Δa≦0.05(単位:%)の範囲に収まらない場合が多い。16μm以上にしても、Δa減少の効果は小さく、コストが増大するのみである。さらに好ましくは8〜12μmである。
【0032】
さらに、Δaは発光層および基板間の層の転位密度にも影響される。転位密度が小さいほど、Δaは0に近づく。このことは、発光層および基板間の層の転位密度によって発光層の成長モードが変化し、転位密度が多い場合にはコヒーレント成長からずれた成長になることを意味する。一般に、転位密度は1×109/cm2以下が好ましい。
【0033】
また、発光層が量子井戸構造の場合、障壁層の膜厚およびドーパント量によってもΔaを制御できる。障壁層の膜厚を厚くすると、Δaは大きくなる傾向である。10nm〜25nmが好ましい。10nm以下ではΔaが−0.05%より小さくなる場合が多いので好ましくなく、25nm以上ではΔaが0.05%より大きくなる場合が多いので好ましくない。
【0034】
障壁層のドーパント量を少なくすると、Δaは−0.05%より小さくなる傾向である。他の条件によっても異なるが、障壁層のドーパント量は1×1017〜1×1018/cm3が好ましい。1×1018/cm3を超えて過剰にドープされると、障壁層の結晶性の悪化で電気特性の悪化を招く。また、アンドープまたは1×1016/cm3以下では、Δaは−0.05%より小さくなる場合が多い。障壁層に添加するドーパントとしては、SiおよびGe等が挙げられる。
【0035】
本発明において、III族窒化物半導体としては、例えば一般式AlXGaYInZ1-AA(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされるIII族窒化物半導体が多数知られており、本発明においても、それら周知のIII族窒化物半導体を含めて一般式AlXGaYInZ1-AA(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされるIII族窒化物半導体を何ら制限なく用いることができる。
【0036】
III族窒化物半導体は、Al、GaおよびIn以外に他のIII族元素を含有することができ、必要に応じてGe、Si、Mg、Ca、Zn、Be、P、AsおよびBなどの元素を含有することもできる。さらに、意識的に添加した元素に限らず、成膜条件等に依存して必然的に含まれる不純物、並びに原料、反応管材質に含まれる微量不純物を含む場合もある。
【0037】
III族窒化物半導体の成長方法は特に限定されず、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)、などIII族窒化物半導体を成長させることが知られている全ての方法を適用できる。好ましい成長方法としては、膜厚制御性、量産性の観点からMOCVD法である。MOCVD法では、キャリアガスとして水素(H2)または窒素(N2)、III族原料であるGa源としてトリメチルガリウム(TMGa)またはトリエチルガリウム(TEGa)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMAl)またはトリエチルアルミニウム(TEAl)、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)またはトリエチルインジウム(TEIn)、V族原料であるN源としてアンモニア(NH3)、ヒドラジン(N24)などが用いられる。また、ドーパントとしては、n型にはSi原料としてモノシラン(SiH4)またはジシラン(Si26)を、Ge原料としてゲルマンガス(GeH4)や、テトラメチルゲルマニウム((CH34Ge)やテトラエチルゲルマニウム((C254Ge)等の有機ゲルマニウム化合物を利用できる。MBE法では、元素状のゲルマニウムもドーピング源として利用できる。p型にはMg原料としては例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)またはビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム(EtCp2Mg)を用いる。
【0038】
基板(1)には、サファイア単結晶(Al23;A面、C面、M面、R面)、スピネル単結晶(MgAl24)、ZnO単結晶、LiAlO2単結晶、LiGaO2単結晶、MgO単結晶などの酸化物単結晶、Si単結晶、SiC単結晶、GaAs単結晶、AlN単結晶、GaN単結晶およびZrB2などのホウ化物単結晶などの基板材料を何ら制限なく用いることができる。なお、基板の面方位は特に限定されない。また、ジャスト基板でも良いしオフ角を付与した基板であっても良い。
【0039】
GaN基板を除いて、原理的には窒化ガリウム系化合物とは格子整合しない上記の基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層するために、特許第3026087号公報や特開平4−297023号公報に開示されている低温バッファ法や特開2003−243302号公報などに開示されているSeeding Process(SP)法と呼ばれる格子不整合結晶エピタキシャル成長技術を用いて、バッファ層(2)を設けることができる。特に、GaN系結晶を作製することが可能な程度の高温でAlN結晶膜を作製するSP法は、生産性の向上などの観点で優れた格子不整合結晶エピタキシャル成長技術である。
【0040】
バッファ層(2)はAlXGa1―XN層(0≦x≦1)からなり、バッファ層の膜厚は0.001〜1μmが好ましく、さらに好ましくは0.005〜0.5μmであり、特に好ましくは0.01〜0.2μmである。膜厚が上記範囲内であれば、その上に成長させるn型層(3)以降のIII族窒化物半導体の結晶モフォロジーが良好となり結晶性が改善される。
【0041】
バッファ層はMOCVD法により製造することができる。成長温度は400〜1200℃が好ましく、さらに好ましくは900〜1200℃の範囲である。成長温度が上記範囲であるとAlNは単結晶となり、その上に成長させる窒化物半導体の結晶性が良好となり好ましい。
【0042】
n型層(3)は、通常、下地層(3a)、nコンタクト層(3b)およびnクラッド層(3c)から構成される。下地層はAlXGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。その膜厚は0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。この膜厚以上にした方が結晶性の良好なAlXGa1―XN層が得られやすい。下地層の膜厚の上限は、本発明を得る上では特に限定されない。
【0043】
下地層にはn型不純物を1×1017〜1×1019/cm3の範囲内であればドープしても良いが、アンドープ(<1×1017/cm3)の方が良好な結晶性の維持という点で好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeである。
【0044】
下地層を成長させる際の成長温度は、800〜1200℃が好ましく、さらに好ましくは1000〜1200℃の範囲に調整する。この成長温度範囲内で成長させれば結晶性の良いものが得られる。また、MOCVD成長炉内の圧力は15〜40kPaに調整する。
【0045】
nコンタクト層(3b)としては、下地層と同様にAlXGa1―XN層(0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.5、さらに好ましくは0≦x≦0.1)から構成されることが好ましい。n型不純物がドープされていることが好ましく、n型不純物を1×1017〜1×1019/cm3、好ましくは1×1018〜1×1019/cm3の濃度で含有すると、nオーミック電極との良好なオーミック接触の維持、クラック発生の抑制、良好な結晶性の維持の点で好ましい。n型不純物としては、特に限定されないが、例えば、Si、GeおよびSn等が挙げられ、好ましくはSiおよびGeである。
【0046】
下地層とnコンタクト層を構成するIII族窒化物半導体は同一組成であることが好ましく、その合計の膜厚を2〜20μm、好ましくは4〜20μm、さらに好ましくは8〜20μmの範囲に設定することが好ましい。膜厚がこの範囲であると、下地層およびnコンタクト層と発光層との間のa軸格子定数のズレ(Δa)を小さくすることができ、発光効率の高い素子が得られる。また、良好な結晶性の維持という点からも、この範囲が好ましい。
【0047】
nコンタクト層(3b)と発光層(4)との間に、nクラッド層(3c)を設けることが好ましい。nコンタクト層の最表面に生じた平坦性の悪化を埋めることできるからである。nクラッド層はAlGaN、GaN、GaInNなどで形成することが可能である。これらの構造のヘテロ接合や複数回積層した超格子構造としてもよい。GaInNとする場合には、発光層のGaInNのバンドギャップよりも大きくすることが望ましいことは言うまでもない。
【0048】
紫外発光素子の場合、キャリアの閉じ込めの観点からnクラッド層にはAlGaN層を用いた方が好ましい。発光層へのキャリアの閉じ込めが可能であれば特に限定されないが、好ましい組成としては、AlbGa1-bN(0<b<0.4、好ましくは0.05<b<0.2)のものが挙げられる。nクラッド層が上記条件であると発光層へのキャリアの閉じ込めの点で好ましい。また青色発光素子ではAlGaNクラッド層は用いなくてもよい。
【0049】
nクラッド層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.005〜0.5μmであり、より好ましくは0.005〜0.1μmである。nクラッド層のn型ドープ濃度は1×1017〜1×1020/cm3が好ましく、より好ましくは1×1018〜1×1019/cm3である。ドープ濃度がこの範囲であると、良好な結晶性の維持および素子の動作電圧低減の点で好ましい。
【0050】
発光層(4)としては、III族窒化物半導体、好ましくはGa1-sInsN(0<s<0.4)のIII族窒化物半導体が挙げられる。発光層の膜厚としては、特に限定されないが、量子効果の得られる程度の膜厚、即ち臨界膜厚が挙げられ、例えば好ましくは1〜10nmであり、より好ましくは2〜6nmである。膜厚が上記範囲であると発光出力の点で好ましい。臨界膜厚より厚い場合はn型層および発光層間の格子定数のズレ(Δa)が大きくなり発光特性が悪化する。また、発光層は、上記のような単一量子井戸(SQW)構造の他に、上記Ga1-sInsNを井戸層として、この井戸層よりバンドギャップエネルギーが大きいAlcGa1-cN(0≦c<0.3かつb>c)障壁層とからなる多重量子井戸(MQW)構造としてもよい。また、井戸層および障壁層には、不純物をドープしてもよい。
【0051】
AlcGa1-cN障璧層の成長温度は700℃以上の温度が好ましく、さらに好ましくは800〜1100℃で成長させると結晶性が良好になるため好ましい。GaInN井戸層は600〜900℃、好ましくは700〜900℃で成長させる。すなわちMQWの結晶性を良好にするためには層間で成長温度を変化させることが好ましい。
【0052】
p型層(5)は、通常、pクラッド層(5c)およびpコンタクト層(5b)から構成される。pクラッド層(5c)としては、発光層のバンドギャップエネルギーより大きくなる組成であり、発光層へのキャリアの閉じ込めができるものであれば特に限定されないが、好ましくは、AldGa1-dN(0<d≦0.4、好ましくは0.1≦d≦0.3)のものが挙げられる。pクラッド層が、このようなAlGaNからなると、発光層へのキャリアの閉じ込めの点で好ましい。pクラッド層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.01〜0.4μmであり、より好ましくは0.02〜0.1μmである。pクラッド層のp型ドープ濃度は、1×1018〜1×1021/cm3が好ましく、より好ましくは1×1019〜1×1020/cm3である。p型ドープ濃度が上記範囲であると、結晶性を低下させることなく良好なp型結晶が得られる。
【0053】
pコンタクト層(5b)としては、少なくともAleGa1-eN(0≦e<0.3、好ましくは0≦e≦0.2、より好ましくは0≦e≦0.1)を含んでなるIII族窒化物半導体層である。Al組成が上記範囲であると、良好な結晶性の維持およびpオーミック電極との良好なオーミック接触の点で好ましい。p型ドーパントを1×1018〜1×1021/cm3の濃度で、好ましくは1×1019〜5×1020/cm3の濃度で含有していると、良好なオーミック接触の維持、クラック発生の防止、良好な結晶性の維持の点で好ましい。p型不純物としては、特に限定されないが、例えば好ましくはMgが挙げられる。膜厚は、特に限定されないが、0.01〜0.5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜0.25μmである。膜厚がこの範囲であると、発光出力の点で好ましい。
【0054】
nコンタクト層(3b)およびpコンタクト層(5b)にはそれぞれnオーミック電極(10)およびpオーミック電極(11)をこの技術分野でよく知られた慣用の手段で設ける。それぞれの構造も従来公知の構造を含めて如何なる構造のものも何ら制限なく用いることができる。
【0055】
本発明のIII族窒化物半導体発光素子は優れた発光効率を有するので、この発光素子から高輝度のLEDランプを作製することができる。従って、この技術によって作製したチップを組み込んだ携帯電話、ディスプレイおよびパネル類などの電子機器や、その電子機器を組み込んだ自動車、コンピュータおよびゲーム機などの機械装置類は低電力での駆動が可能となり、高い特性を実現することが可能である。特に、携帯電話、ゲーム機、玩具および自動車部品などのバッテリー駆動させる機器類において省電力の効果を発揮する。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
図2は本実施例で作製したIII族窒化物半導体発光素子の断面構造を模式的に示す図である。1は(0001)−サファイアからなる基板、2は厚さ数nmのAlNからなるバッファ層である。3はn型層であり、厚さ8μmのGaNからなる下地層3a、Siがドープされた厚さ2μmのGaNからなるnコンタクト層3b、Siがドープされた厚さ10nmのAl0.07Ga0.93Nからなる第1nクラッド層3c1およびSiがドープされた厚さ20nmのGa0.95In0.05Nからなる第2nクラッド層3c2から構成されている。4は発光層であり、Siがドープされた厚さ16nmのGaNからなる障壁層4aおよび厚さ3nmのGa0.90In0.10Nからなる井戸層4bを交互に積層させた5周期構造の多重量子井戸構造である。5はp型層であり、Mgがドープされた厚さ35nmのAl0.15Ga0.85Nからなるpクラッド層5cおよびMgがドープされた厚さ100nmのGaNからなるpコンタクト層5bから構成されている。10はnオーミック電極であり、11はpオーミック電極である。従って、この発光素子の本発明におけるa1は、下地層3aおよびnコンタクト層3bを構成するGaNのa軸格子定数である。また、a2は多重量子井戸構造である発光層4の0次ピークから求めたa軸格子定数である。
【0058】
エピタキシャル積層構造体は、一般的な減圧MOCVD手段を利用して以下の手順で形成した。先ず、(0001)−サファイア基板1を、高周波(RF)誘導加熱式ヒータで成膜温度に加熱される半導体用高純度グラファイト製のサセプタ上に載置した。載置後、ステンレス鋼製の気相成長反応炉内に窒素ガスを流通し、炉内をパージした。
【0059】
気相成長反応炉内に、窒素ガスを8分間に亘って流通させた後、誘導加熱式ヒータを作動させ、基板1の温度を、10分間で室温から600℃に昇温した。基板1の温度を600℃に保ったまま、水素ガスと窒素ガスを流通させて、気相成長反応炉内の圧力を15kPaとした。この温度及び圧力下で2分間、放置して、基板1の表面をサーマルクリーニングした。サーマルクリーニングの終了後、気相成長反応炉内への窒素ガスの供給を停止した。水素ガスの供給は継続させた。
【0060】
その後、SP法によりAlNからなるバッファ層2を形成した。具体的には、次の方法で成膜した。水素雰囲気中で、基板1の温度を1120℃に昇温させた。1120℃で温度が安定したのを確認した後、トリメチルアルミニウム(TMAl)の蒸気を随伴する水素ガスを7分30秒間、気相成長反応炉内へ供給した。これにより、気相成長反応炉の内壁に以前より付着していた窒素(N)を含む堆積沈着物の分解により生じる窒素(N)原子と反応させて、サファイア基板1上に、数nmの厚さの窒化アルミニウム(AlN)からなるバッファ層2を付着させた。TMAlの蒸気を随伴する水素ガスの気相成長反応炉内への供給を停止し、バッファ層2の成長を終了させた後、4分間待機し、気相成長炉内に残ったTMAlを完全に排出した。
【0061】
続いて、アンモニア(NH3)ガスを気相成長反応炉内に供給し始め、それから4分が経過した後、アンモニアガスの流通を続けながら、基板1の温度を1040℃に降温した。基板1の温度が1040℃になったのを確認した後、暫時、温度が安定するのを待ち、トリメチルガリウム(TMGa)の気相成長反応炉内への供給を開始し、アンドープのGaNからなる下地層3aを所定の膜厚まで成長させた。下地層3aの層厚は8μmとした。
【0062】
次に、基板1の温度を1060℃に上昇し、温度が安定したところで、ドーパントガスとしてモノシラン(SiH4)ガスを用いて、厚さ2μmのSiをドープしたGaNからなるnコンタクト層3bを形成した。Siのドープ量は7×1018/cm3とした。また、下地層およびnコンタクト層形成中のV/III比(TMGaとNH3のモル流量比)は800とした。
【0063】
nコンタクト層3bを形成した後、基板1の温度は1060℃のままで、トリメチルガリウム(TMGa)をガリウム源とし、トリメチルアルミニウム(TMAl)をアルミニウム源とし、ドーパントガスとしてモノシラン(SiH4)ガスを用いて、Siをドープしたn型Al0.07Ga0.93Nからなる第1nクラッド層3c1を形成した。この第1nクラッド層3c1の膜厚は10nmとした。Siのドープ量は3×1018/cm3とした。
【0064】
次に、基板1の温度を720℃とし、温度が安定したところで、トリエチルガリウム(TEGa)をガリウム源とし、トリメチルインジウム(TMIn)をインジウム源とし、ドーパントガスであるモノシラン(SiH4)ガスを用いて、Siをドープしたn型Ga0.95In0.05Nからなる第2nクラッド層3c2を形成した。この第2nクラッド層3c2の膜厚は20nmとした。Siのドープ量は3×1017/cm3とした。
【0065】
GaNからなる障壁層4aと、Ga0.90In0.10Nからなる井戸層4bとを含む5周期構造の多重量子井戸構造からなる発光層4を第2nクラッド層3c2上に設けた。多重量子井戸構造の発光層4を形成するにあたって、先ず、GaNからなる障壁層4aを第2nクラッド層3c2に接合させて設けた。障壁層4aは、トリエチルガリウム(TEGa)をガリウム源として成長させた。膜厚は16nmとし、Siドープとした。
【0066】
次に、Ga0.90In0.10Nからなる井戸層4bを、トリエチルガリウム(TEGa)をガリウム源とし、トリメチルインジウム(TMIn)をインジウム源として成長させた。膜厚は3nmとし、アンドープとした。井戸層4bを形成する際のV/III比(TEGaおよびTMInとNH3とのモル流量比)は140000とした。
【0067】
この操作を5回繰り返した後、最後に障壁層4aを形成して5周期構造の多重量子井戸構造の発光層4を形成した。
【0068】
多重量子井戸構造からなる発光層4上には、マグネシウム(Mg)をドーピングしたp型Al0.15Ga0.85Nからなるpクラッド層5cを形成した。膜厚は35nmとした。pクラッド層5c上には、更に、Mgをドーピングしたp型GaNからなるpコンタクト層5bを形成した。Mgのドーピング源には、ビスーシクロペンタジエニルMg(bis−Cp2Mg)を用いた。Mgは、pコンタクト層5bの正孔濃度が8×1017/cm3となる様に添加した。pコンタクト層5bの膜厚は100nmとした。
【0069】
pコンタクト層5bの成長を終了した後、誘導加熱式ヒータへの通電を停止して、基板1の温度を、室温迄、約20分間で降温した。降温中は、気相成長反応炉内の雰囲気を窒素のみから構成し、NH3の流量を減量した。その後、更にNH3の供給を停止した。基板1の温度が室温まで降温したのを確認して、ウェーハを気相成長反応炉より外部へ取り出した。この時点で、上記のpコンタクト層5bは、p型キャリア(Mg)を電気的に活性化するためのアニール処理を行なわなくても、既に、p型の伝導性を示した。
【0070】
得られたウェーハの非対称面における逆格子空間マッピングをX線回折法によって求めた。得られた逆格子空間マッピングを図3に示す。この逆格子空間マッピングからa1およびa2を以下の手順で求めた。
【0071】
前述した如く、図3中のピークSが下地層3aおよびnコンタクト層3bからの回折ピークであり、そのa軸格子定数がa1である。また、a軸格子定数(a)と逆格子空間マッピングの横軸(Qx)には下式の関係がある。
a=(2×λ/Qx)/31/2
ここで、λは測定に用いたX線の波長(単位はÅ)であり、本測定では1.54056Åである。
図3より、ピークSにおけるQxを求めると、Qx=0.558973になるから、a1=(2×λ/Qx)/31/2=3.18242Åとなる。
【0072】
また、前述した如く図3中のピークLが発光層4の0次ピークであり、そのQxはQx=0.558913であるから、同様にしてa2を求めると、a2=3.18276Åとなる。
従って、Δaは、Δa=100(a1−a2)/a1=−0.0107% であった。
【0073】
次いで、当業界周知のフォトリソグラフィー技術及びドライエッチング技術を利用して、nオーミック電極10を形成する予定の領域に限り、nコンタクト層3bの表面を露出させた。露出させたnコンタクト層3bの表面には、半導体側をクロム(Cr)としてクロム(Cr)および金(Au)を積層したnオーミック電極10を形成した。残置したpコンタクト層5bの表面の全域には、当業界周知のスパッタ手段及びフォトリソグラフィー手段等を利用して、半導体側から順に、白金(Pt)、銀(Ag)及び金(Au)を積層させた反射型pオーミック電極11を形成した。
【0074】
然る後、350μm角の平面視で正方形のLEDチップに切断し、サブマウントと呼ぶ結線補助部材に接着し、これをリードフレーム上に載置して、リードフレームに結線した金導線をリードフレームからLEDチップへ配線し、素子駆動電流を通電できるようにした。
【0075】
リードフレームを介してnオーミック電極10及びpオーミック電極11間に順方向に素子駆動電流を流した。順方向電流を20mAとした際の順方向電圧は3.1Vであった。また、出射される紫色帯発光の中心波長は412nmであった。また、一般的な積分球を使用して測定される発光の強度は、ベアチップで14mWに達し、高い強度の発光をもたらすIII族窒化物半導体発光素子が得られた。
【0076】
(実施例2および3ならびに比較例1)
下地層3aおよびnコンタクト層3bを形成する際のV/III比を、実施例2では400、実施例3では1600および比較例1では200にしたこと以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0077】
得られた発光素子を実施例1と同様に評価した。図4は、実施例1〜3および比較例1で得られた発光素子の下地層3aおよびnコンタクト層3bを形成する際のV/III比とΔaをプロットした図である。また、図5は、Δaと発光強度をプロットした図である。なお、発光強度は実施例1で得られた発光素子の値を1として相対値で示した。
【0078】
図4より下地層3aおよびnコンタクト層3bのV/III比によりΔaを制御できることがわかる。下地層およびnコンタクト層のV/III比が200の場合、Δaは0.07で本発明の範囲外となり、発光強度が低下する。下地層およびnコンタクト層のV/IIIが400〜1600では、Δaが本発明の範囲内となり、発光特性が良好である。
【0079】
(実施例4および比較例2)
井戸層4bを形成する際のV/III比を、実施例4では83000および比較例2では46000にしたこと以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0080】
得られた発光素子を実施例1と同様に評価した。図6は、実施例1および4ならびに比較例2で得られた発光素子の井戸層4bを形成する際のV/III比とΔaをプロットした図である。また、図7は、Δaと発光強度をプロットした図である。なお、発光強度は実施例1で得られた発光素子の値を1として相対値で示した。
【0081】
図6より井戸層4bのV/IIIによりΔaを制御できることがわかる。井戸層のV/III比が46000では、Δaが本発明の範囲外となり、発光強度が低下する。井戸層のV/IIIが83000〜140000では、Δaが本発明の範囲内となり、発光特性が良好である。
【0082】
(実施例5〜8および比較例3)
下地層3aの厚さを、実施例5では10μm、実施例6では14μm、実施例7では6μm、実施例8では4μmおよび比較例3では2μmにしたこと以外は、実施例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0083】
得られた発光素子を実施例1と同様に評価した。図8は、実施例1および5〜8ならびに比較例3で得られた発光素子の下地層3aおよびnコンタクト層3bの合計膜厚とΔaをプロットした図である。また、図9は、Δaと発光強度をプロットした図である。なお、発光強度は実施例1で得られた発光素子の値を1として相対値で示した。
【0084】
図8から、下地層3aおよびnコンタクト層3bの合計膜厚を厚くすることによりΔaは大きくなり、0に近づくことがわかる。即ち、下地層3aおよびnコンタクト層3bの合計膜厚によりΔaを制御できることがわかる。合計膜厚が4μmの場合、Δaは0.065で本発明の範囲外となり、発光強度は約7mWと低下する。合計膜厚が6μm以上ではΔaが本発明の範囲内となり、良好な発光特性の発光素子が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の製造方法によって得られるIII族窒化物半導体発光素子は極めて優れた発光効率を有するので、ランプおよびレーザダイオード等として、その産業上の利用価値は極めて大きい。
【符号の説明】
【0086】
1 基板
2 バッファ層
3 n型層
4 発光層
5 p型層
10 nオーミック電極
11 pオーミック電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にIII族窒化物半導体からなる、n型層、発光層およびp型層が、発光層をn型層とp型層が挟むように配置されたIII族窒化物半導体発光素子であり、下式(I)で表わされる、発光層と基板との間にある層のa軸格子定数(発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループの格子定数)a1と発光層のa軸格子定数(発光層が多重量子井戸構造の場合は井戸層と障壁層との平均組成を示す0次ピークから求めた格子定数)a2との差の割合Δaの範囲が、−0.05≦Δa≦0.05(単位:%)であり、発光層と基板の間にある層の厚さ(発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループの合計厚さ)が10〜20μmであり、前記発光層が多重量子井戸構造であり、多重量子井戸構造の障壁層がAlXGaYInZN(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1、X+Y+Z=1)からなり、井戸層がGaYInZN(0<Y<1、0<Z<1、Y+Z=1)からなるIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法であって、III族窒化物半導体をMOCVD法で成長させる際のV族原料とIII族原料のモル比(V/III比)が、発光層と基板との間にある層を成長させる際には300〜1600であり、井戸層を成長させる際には70000〜190000であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
Δa=100(a1−a2)/a1 ・・・・・・(I)
【請求項2】
障壁層の厚さが10〜25nmである請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
障壁層のドーパント量が1×1017〜1×1018/cm3である請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
III族窒化物半導体が一般式AlXGaYInZ1-AA(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦Z≦1で且つ、X+Y+Z=1。記号Mは窒素(N)とは別の第V族元素を表し、0≦A<1である。)で表わされる請求項1〜3のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
基板がサファイアである請求項1〜4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
発光層と基板の間にある層(発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループ)がn型GaN層である請求項1〜5のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
基板がサファイアであり、発光層と基板の間にある層(発光層と基板との間に組成の異なる複数の層がある場合は、各層を組成毎にグルーピングし、各グループに属する層の厚さの合計が最大であるグループ)がn型GaN層であり、格子定数a1およびa2が3.181Åより大きい請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−21376(P2013−21376A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−240471(P2012−240471)
【出願日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【分割の表示】特願2005−329201(P2005−329201)の分割
【原出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】