説明

IL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療若しくは予防剤

【課題】IL−17産生量の減少させる化合物を探索し、当該化合物を含有するIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の予防又は治療剤を提供すること。
【解決手段】不溶性ポリカチオンポリマーを含有する、有用なIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の予防又は治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーを含有することを特徴とする、IL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療若しくは予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患は、炎症を伴う腸疾患の総称であり、その主要な疾患としては潰瘍性大腸炎、クローン病などが挙げられる。潰瘍性大腸炎は、主として大腸粘膜或いは粘膜下層を侵し、しばしば、びらんや潰瘍を形成するびまん性非特異性炎症疾患である。臨床症状は、粘血便、腹痛、血便、水様便、発熱、食欲不振、悪心、嘔吐などである。潰瘍性大腸炎の治療用薬剤として、サラゾスルファピリジン、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、5−アミノサリチル酸(5−ASA)などが使用されているが、これらの薬剤では、潰瘍性大腸炎の治療が十分とは言えない。
【0003】
クローン病は、原因不明の特発性の慢性腸炎であり、小腸から大腸にかけて非特異的な炎症症状が現れる。繊維化や潰瘍を伴う肉芽腫性病変からなり、口腔から肛門まで全消化管に病変が現れうる。クローン病の臨床症状としては、腹痛、全身倦怠、下痢、下血・鮮血陽性、発熱、体重減少、貧血、イレウス症状、腹部腫瘤、悪心、嘔吐、腹膜炎症状などが挙げられる。クローン病は、栄養障害の他、種々の消化器および腸管外症状、例えば、腸管狭窄、腸穿孔、腹部膿瘍、大出血などの重篤な症状を同時に引き起こし、腸手術などの処置を要することが多い。日本国内では栄養状態改善を目的に高カロリー輸液或いは経腸栄養療法が行われる。高カロリー輸液は、Bacterial translocationの危険性が高まる為、特に長期には経腸栄養療法が行われる。更に、薬剤による治療が試みられている。薬物療法は、主に、サラゾスルファピリジン、メトロニダゾール、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、5−アミノサリチル酸(5−ASA)などが投与される。最近では抗TNF抗体の投与も臨床で使用され始めている。しかしながら、これらの薬剤の投与によっても、クローン病の治療はまだ不十分といえる。
【0004】
一方、T細胞のサブタイプであるTh17細胞は、炎症性腸疾患の病態に重要な役割を果たしていると考えられている。また、主としてTh17細胞から分泌されるIL−17は、炎症促進性サイトカインとして知られ、炎症性腸疾患の炎症局所部位での発現亢進が観察される。従って、IL−17産生量を選択性を持って減少させる化合物は、炎症性腸疾患の治療又は薬剤として有用なものとなりうる。
【0005】
【特許文献1】WO2005/032563公報
【特許文献2】WO2008/103368公報
【特許文献3】WO2008/076242公報
【特許文献4】WO2008/109095公報
【特許文献5】WO2007/130463公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、IL−17産生量の減少させる化合物を探索し、当該化合物を含有するIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の予防又は治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、IL−17産生量を減少させる活性を有する化合物を探索した結果、驚くべきことに、リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーが優れたIL−17産生量減少活性を有することを見出した。さらに、見出されたIL−17産生量減少活性を有するリン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーが、有用なIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の予防又は治療剤となりうることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーを含有することを特徴とする、IL−17産生阻害剤を提供する。
また、本発明は、リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーを含有することを特徴とする、炎症性腸疾患の治療又は予防剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤に含有されるリン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーは、IL−17産生を選択性をもって阻害し、IFN−γ産生を有意に阻害しない。従って、本発明のIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤は、IL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤として高い選択性を有し、IFN−γ産生阻害作用を有する化合物に伴うような副作用の懸念を伴わない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いられるリン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーは、リン酸イオンに吸着する作用を有し、かつ不溶性、すなわち消化管内で非吸収性であるポリカチオンポリマーであれば特に限定されない。
また、本発明で用いられるリン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーは、架橋剤で架橋されていてもいなくてもよいが、好ましくは架橋されており、より好ましくは、エピクロロヒドリンで架橋された構造を有する。
また、本発明で用いられるリン酸吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーは、リン酸イオンに吸着する作用を有し、かつ不溶性、すなわち消化管内で非吸収性であれば、特にその分子量に制限はない。典型的には、少なくとも分子量が1000程度であればよく、例えば、1000〜5,000,000、1000〜3,000,000、1000〜、2,000,000又は1000〜1,000,000程度の分子量が挙げられる。
本発明で用いられるリン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーは、好ましくは、ポリアリルアミン誘導体またはデンドリマー型ポリマー誘導体である。
【0011】
本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体としては、例えば、特許文献1:WO2005/032563公報に記載されたものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明で用いられるデンドリマー型ポリマー誘導体としては、例えば、特許文献2:WO2008/103368公報、特許文献3:WO2008/076242公報、特許文献4:WO2008/109095公報及び特許文献5:WO2007/130463公報に記載されたものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。尚、特許文献1〜5のいずれにも、リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーがIL−17産生阻害作用を有すること及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤に用いることができることは記載されていない。
【0012】
本発明におけるポリアリルアミン誘導体は、重合したアリルアミンモノマーの繰返し単位を含有するポリマーであり、ポリアリルアミン構造を有するものであれば特に限定されない。アリルモノマーのアミノ基は、非置換又は、例えば1若しくは2のC1-10の直鎖又は分岐アルキル基で置換されたものであってもよい。該アルキル基は、1又は1以上のヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲノ基、フェニル基、アミド基又はニトリル基等で置換されていてもよい。
【0013】
また、本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体は、2つ以上の異なる重合化アリルモノマーの繰返し単位を含有するコポリマー、又は1つ以上の重合化アリルモノマーの繰返し単位と1つ以上の重合化非アリルモノマーの繰返し単位を含有するコポリマーであってもよい。しかしながら、本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体は、好ましくは、重合化アリルアミンモノマーの繰返し単位のみを含有する。より好ましくは、本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体は、ホモポリマーである。本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体は架橋されていなくてもよいが、好ましくは架橋されている。好ましい架橋剤としては、エピクロロヒドリン、1,4-ブタンジオルジグリシジルエーテル、1,2-エタンジオールジグリシジルエーテル、1,3-ジクロロプロパン、1,2-ジクロロエタン、1,3-ジブロモプロパン、1,2-ジブロモエタン、スクシニルジクロリド、ジメチルスクシナート、トルエンジイソシアナート、アクリロイルクロリド、ピロメリト酸二無水物等が挙げられるが、これらに限定されない。より好ましくは、該架橋剤は、エピクロロヒドリンである。
【0014】
本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体は、より好ましくは、下記構造式(I)又は(II):
【化1】

【0015】
(式中、yは1以上の整数値(例えば、1〜10、1〜6、1〜4又は1〜3である。)であり;R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、H又は置換若しくは非置換アルキル基(例えば、1〜25個又は1〜5個の炭素原子を有する。)、アルキルアミノ(例えば、1〜5個の炭素原子を有し、エチルアミノ若しくはポリ(エチルアミノ)等である。)又は置換若しくは非置換アリール基(例えば、フェニルである。)であり;X-は、負に帯電したカウンターイオンである。)
から選択される繰返し単位を含有する。
【0016】
概して、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、H又は置換若しくは非置換アルキル基である。
本発明で用いられる好ましいポリアリルアミン誘導体において、R1、R2及びR3の少なくとも1つの基はHである。
本発明で用いられるより好ましいポリアリルアミン誘導体において、R1、R2及びR3はHである。
アルキル基、アルキルアミノ基又はアリール基として、R1、R2又はR3は、それぞれ1つ以上の置換基を有していてもよい。好ましい置換基としては、カチオン基、例えば、第4級アンモニウム基又はアミン基(例えば、第1級、第2級若しくは第3級のアルキルアミン又はアリールアミン)が挙げられる。その他の好ましい置換基の例としては、ヒドロキシ基、アルコキ式、カルボキサミド基、スルホンアミド基、ハロゲノ基、アルキル基、アリール基、ヒドラジン基、グアナジン基、尿素基、ポリ(アルキレンイミン)基、例えば、ポリ(エチレンイミン)基、及びカルボン酸エステル基が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体は、上記のように1種類以上のカウンターイオンを有することができる。適切なカウンターイオンとしては、有機イオン、無機イオン又はこれらの組合せが挙げられるが、特に、塩素イオン、炭酸イオン又は重炭酸イオンから選択されるものが好ましい。
また、本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体が架橋剤部分を有する場合、該ポリアリルアミン誘導体中の架橋剤部分は、ポリアリルアミン誘導体の全重量基準で、5〜20重量%、5〜15重量%、又は8〜12重量%で存在することが好ましい。
本発明で用いられるポリアリルアミン誘導体は、最も好ましくは、塩酸セベラマー又は炭酸セベラマーである。
塩酸セベラマーは、下記の構造で表される。
【化2】

【0018】
(式中、a、bは、一級アミンの数を表し、
cは、架橋構造の数を示し、
nは、塩酸塩の数を示し、
mは、最小構成単位の繰り返しの数を示す。
【0019】
本発明におけるデンドリマー型ポリマー誘導体は、星状構造をした多分岐高分子であり、樹木状(デンドロン)に核から枝が伸びた構造をした構造を有するポリマーである。本発明で用いられる、デンドリマー型ポリマー誘導体は、リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーである限り特に限定されないが、例えば、特許文献2:WO2008/103368公報、特許文献3:WO2008/076242公報、特許文献4:WO2008/109095公報及び特許文献5:WO2007/130463公報に記載されたものを用いることができる。
【0020】
本発明におけるデンドリマー型ポリマー誘導体は、好ましくは下記式(III):
【化3】

【0021】
(式中、R4は、それぞれ独立して、H、−R若しくは−R−N(H)2-m−(R−N(H)2-n−(R−NH2)n)mを表すか、又はR4と別のR4が結合して複素環、例えば、1〜4個のヘテロ原子(例えば、1、2、3又は4個のヘテロ原子、例えば、1〜4個の窒素原子)を含有する複素環を形成し、該複素環は、また、1〜10個の炭素原子(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の炭素原子)を含有し、;n及びmは、それぞれ独立して、0〜2の整数値(例えば、0、1又は2、好ましくは、n又はmのどちらかは1である。)を表し;Rは、それぞれ独立して、O、−CONR56、分岐若しくは非分岐の置換若しくは非置換アルキル基(例えば、C1-20のアルキル基:例えば、C1アルキル基、C2アルキル基、C3アルキル基、C4アルキル基、C5アルキル基又はC6アルキル基)、分岐若しくは非分岐の置換若しくは非置換アルケニル基(例えば、C2〜C20のアルケニル基:例えば、C2アルケニル基、C3アルケニル基、C4アルケニル基、C5アルケニル基、C6アルケニル基又はC7アルケニル基)、S、又はSO2基を表し;R5及びR6は、それぞれ独立して、H又は分岐若しくは非分岐の置換若しくは非置換アルキル基(例えば、C1-20のアルキル基:例えば、C1アルキル基、C2アルキル基、C3アルキル基、C4アルキル基、C5アルキル基又はC6アルキル基)を表し、但し、少なくとも一つのR4は、Hではない。)
から選択される化合物をモノマーとして含有するポリマーである。
【0022】
本発明のある実施態様において、デンドリマー型ポリマー誘導体は、以下の各構造:
【化4】

【0023】
及びこれらの組合せからなる群より選択される化合物をモノマーとして含有するポリマーである(式中、Rはそれぞれ独立して、分岐若しくは非分岐の置換又は非置換アルキル基、例えば、C1-20アルキル基(例えば、C1アルキル基、C2アルキル基、C3アルキル基、C4アルキル基、C5アルキル基又はC6アルキル基)を表す。
さらに、上記化合物の具体的な例としては、例えば:
【化5】

【化6】

【化7】

【0024】
及びこれらの組合せが挙げられる。
本発明におけるデンドリマー型ポリマー誘導体は、架橋剤で架橋されていてもいなくてもよいが、好ましくは架橋剤で架橋された構造を有する。該架橋剤は特に限定されないがエピハロヒドリン、好ましくは、エピクロロヒドリンである。
本発明における不溶性ポリカチオンポリマーは、リン酸イオン吸着作用を有する限り、一種類のモノマー単位が重合したホモポリマーであってもよいが、2種あるいは3種以上の異なるモノマー単位が重合したコポリマーであってもよい。例えば、コポリマーを形成する場合のモノマー単位としては、上記式IIIで表されるモノマー単位のうち構造の異なる化合物であってもよい。例えば、ポリマー化反応に適する限りにおいて、末端に吸電子性の基を有するハライド、エポキサイド、アクリル酸、アリルスルフォン酸、アルキルスルフォン酸などを例示することができる。具体的には、下記式IV-1〜IV-3で表されるモノマー単位:
【化8】

【0025】
(式中、R7は、それぞれ独立して、H、求電子基(E)又は−REを表すが、ここで、Eは、いずれの求電子基であってもよく、例えば、ハロ(−Cl、−Br、−I)又は−OSO2R又は−C(O)Rであってもよく、Rは、それぞれ独立して、置換若しくは非置換アルキル基、例えば、C1-20アルキル基(例えば、C1アルキル基、C2アルキル基、C3アルキル基、C4アルキル基、C5アルキル基又はC6アルキル基)、置換若しくは非置換アリール基又は置換若しくはヘテロアリール基を表すが、但し、少なくとも1つのR7は、Hではない。)
若しくは、
【化9】

【0026】
(式中、R8はそれぞれ独立して、H又は分岐若しくは非分岐の置換若しくは非置換アルキル基、例えば、C1-20アルキル基(例えば、C1アルキル、C2アルキル、C3アルキル、C4アルキル、C5アルキル又はC6アルキル)を表す。)
若しくは、
【化10】

【0027】
から選択されるモノマー単位が任意の組み合せで共重合されたコポリマーであってもよい。
本発明で用いられる不溶性ポリカチオンポリマーの製法としては、例えば、ポリアリルアミン誘導体の場合は、例えば、US4605701公報、US4528347公報、US6180754公報に記載の方法に従って製造することができる。また、不溶性ポリカチオンポリマーが、デンドリマー型ポリマー誘導体である場合は、例えば、前述の特許文献2:WO2008/103368公報、特許文献3:WO2008/076242公報、特許文献4:WO2008/109095公報及び特許文献5:WO2007/130463公報に記載の方法により製造することができる。
本発明で用いられるリン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーは、入手可能な場合は市販品を用いてもよく、また、当業界で通常知られる適宜の重合方法等により容易に化学的に製造することもできる。例えば、本発明において、リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーとして使用することのできる塩酸セベラマーは、中外製薬株式会社(日本、東京都中央区日本橋室町2−1−1)から購入することもできる。
【0028】
本発明において、炎症性腸疾患には、潰瘍性大腸炎及びクローン病が含まれ、好ましくは、潰瘍性大腸炎及び/又はクローン病である。
本発明のIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤には、上記のいずれのリン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーをも含有させることができるが、さらに、これらを単独でのみならず、任意の2種又は3種以上を組み合わせて含有してもよく、さらに、医薬的、生理学的、実験的に許容しうるあらゆる固体又は液体の担体、添加物等を含有させることもできる。
【0029】
上記担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ゼラチン、アルブミン、アミノ酸、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、本発明のIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤に、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0030】
上記添加物としては、目的に応じて当該目的に対して通常用いられるものであれば特に制限されないが、具体的には、例えば、香料、糖類、甘味料、食物繊維類、ビタミン類、グルタミン酸ナトリウム(MSG)などのアミノ酸類、イノシン一リン酸(IMP)などの核酸類、塩化ナトリウムなどの無機塩類、水などが挙げられる。
本発明のIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤は、乾燥粉末、ペースト、溶液などの物性に制限なしにあらゆる形態で用いることができる。また、本発明のIL−17産生阻害剤は、医薬、医薬部外品、食品、試薬等に用いることができる。
【0031】
本発明のIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤の使用量は、それぞれの目的に応じて適宜調節されるが、例えば、経口投与で対象に投与される場合には、リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーの合計量として、1回の投与において体重1kgあたり、0.001mg〜10gが好ましく、体重1kgあたり、0.01mg〜1gがより好ましい。投与回数は特に制限されず、1日あたり1回〜数回投与することができる。
また、本発明のIL−17産生阻害剤を、食品又は試薬に用いる場合には、1処方あたり0.000001mg〜10gが好ましく、1処方あたり0.001mg〜1gがより好ましい。
【0032】
本発明のIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤中のリン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーの含有量は、上記使用量に適したものであれば特に制限されず、好ましくは、乾燥重量あたり0.000001質量%〜99.9999質量%、より好ましくは、0.00001質量%〜99.999質量%、特に好ましくは、0.0001質量%〜99.99質量%である。
【0033】
本発明のIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤は、さらに、所望の活性を有する既知の物質を1種又は2種以上含むものであってもよい。
本発明のIL−17産生阻害剤の医薬としての使用及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤の適用方法としては、特に制限されず、経口投与等のあらゆる侵襲的又は非侵襲的投与が利用可能であり、坐薬投与を採用してもよい。有効成分を経口などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用担体と共に、慣用の医薬製剤の形態で投与することが出来る。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤の形態、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤の形態、凍結乾燥剤等の形態が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0035】
実施例1:炎症性腸疾患治療効果
IL-10遺伝子を欠損しているBalb/c系マウスを、IL-10遺伝子を欠損しているC57BL/6系マウスより、7代バッククロスすることにより、樹立した。IL-10遺伝子を欠損しているBalb/c系マウスは、週齢を重ねることにより自然に大腸炎を発症し、下痢などの症状を示す。下痢症状などの観察により、大腸炎を発症したIL-10遺伝子を欠損しているBalb/c系マウス(雄)より、脾臓、腸間膜リンパ節、仙骨リンパ節を採取した。採取した組織から単離精製したCD4+細胞を、およそ1×106個/マウスの割合で免疫不全マウスであるScidマウスにIP投与した(以下、実施例において、IP投与したScidマウスを「実験マウス」と呼ぶ)。その後、餌を実験食にした。実験食としては、普通食、あるいは下記表に示す普通食に実施例1で調製した塩酸セベラマーを混合したものを用いた。細胞移入後、3週間の時点で剖検し、大腸を採取し、内容物を洗い流した後、2cmの長さで切り出し、液体窒素により急速凍結した。凍結した腸管を破砕機で破砕した後、溶解緩衝液(タンパク質分解酵素阻害剤入りリン酸緩衝生理食塩水)を加え、組織溶解液を調製した。組織溶解液のタンパク質濃度をLowry法にて測定した。また組織溶解液のIL-17とIFN-γの濃度をELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法にて測定し、タンパク質1mgあたりのIL-17とIFN-γ量をそれぞれ算出した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1及び表2の結果から明らかなように、塩酸セベラマーは、IL−17量を濃度依存的に減少させ、塩酸セベラマー濃度5%で有意差をもってIL−17量を減少させた一方、IFN−γ量を有意に減少させなかった。従って、塩酸セベラマーは、IL−17産生の阻害に対して高い選択性を有し、IFN−γ産生阻害作用を有する化合物に伴うような副作用の懸念を伴わない優れたIL−17産生阻害剤及び炎症性腸疾患の治療又は予防剤となりうることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーを含有することを特徴とする、IL−17産生阻害剤。
【請求項2】
不溶性ポリカチオンポリマーが、ポリアリルアミン誘導体またはデンドリマー型ポリマー誘導体から選択される、請求項1記載のIL−17産生阻害剤。
【請求項3】
ポリアリルアミン誘導体が下記構造式(I)又は(II):
【化1】

(式中、yは1以上の整数値であり;R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、H又は置換若しくは非置換アルキル基であり;X-は、負に帯電したカウンターイオンである。)
から選択される繰返し単位を含有するポリマーである、請求項2記載のIL−17産生阻害剤。
【請求項4】
カウンターイオンが、塩素イオン, 炭酸イオン又は重炭酸イオンから選択される、請求項3記載のIL−17産生阻害剤。
【請求項5】
ポリアリルアミン誘導体中の架橋剤部分が、ポリアリルアミン誘導体の全重量基準で5〜20重量%で存在する、請求項2〜4のいずれかに記載のIL−17産生阻害剤。
【請求項6】
ポリアリルアミン誘導体が、塩酸セベラマー又は炭酸セベラマーである、請求項2〜5のいずれか1項記載のIL−17産生阻害剤。
【請求項7】
デンドリマー型ポリマー誘導体が、下記式(III):
【化2】

(式中、R4は、それぞれ独立して、H、−R若しくは−R−N(H)2-m−(R−N(H)2-n−(R−NH2)n)mを表すか、又はR4と別のR4が結合して複素環を形成し;n及びmは、それぞれ独立して、0〜2の整数値を表し;Rは、それぞれ独立して、O、−CONR56、分岐若しくは非分岐の置換若しくは非置換アルキル基、分岐若しくは非分岐の置換若しくは非置換アルケニル基、S、又はSO2基を表し;R5及びR6は、それぞれ独立して、H又は分岐若しくは非分岐の置換若しくは非置換アルキル基を表し、但し、少なくとも一つのR4は、Hではない。)
から選択される化合物をモノマーとして含有するポリマーである、請求項2記載のIL−17産生阻害剤。
【請求項8】
不溶性ポリカチオンポリマーが、エピクロロヒドリンで架橋された構造を有する、請求項1〜7のいずれかに記載のIL−17産生阻害剤。
【請求項9】
リン酸イオン吸着作用を有する不溶性ポリカチオンポリマーを含有することを特徴とする、炎症性腸疾患の治療又は予防剤。
【請求項10】
不溶性ポリカチオンポリマーが、請求項3〜6、8のいずれか1項記載のポリアリルアミン誘導体である、請求項9記載の炎症性腸疾患の治療又は予防剤。
【請求項11】
不溶性ポリカチオンポリマーが、請求項7〜8のいずれか1項記載のデンドリマー型ポリマー誘導体である、請求項9記載の炎症性腸疾患の治療又は予防剤。
【請求項12】
前記炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、請求項9〜11のいずれか1項記載の炎症性腸疾患の治療又は予防剤。
【請求項13】
前記炎症性腸疾患がクローン病である、請求項9〜11のいずれか1項記載の炎症性腸疾患の治療又は予防剤。

【公開番号】特開2010−155801(P2010−155801A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334691(P2008−334691)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】