説明

IL13Ra2に対する抗体およびこれを含む診断・治療薬

【課題】種々の癌の特異性の高い診断や標的化治療を実現するための好適な標的を見出すとともに、その標的に対する抗体およびこれを利用した治療のための医薬組成物を提供する。
【解決手段】IL13Ra2に結合する物質を含む、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される癌の診断および処置のための組成物、ならびに、IL13Ra2に高い親和性で結合する新規なモノクローナル抗体、およびこれを含む癌の診断および処置のための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL13Ra2に結合する物質を含む、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される癌の診断および処置のための組成物に関する。本発明はまた、IL13Ra2に高い親和性で結合する新規なモノクローナル抗体、ならびにこれを含む癌の診断および処置のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、癌の治療としては、外科療法、放射線療法および化学療法の三大療法が臨床の場で最も一般的に実施されている。これらの治療法は、早期癌に対しては比較的有効で、完治させることが可能な場合もあるものの、転移癌や中期以降の癌に対しては、完治に導くことは極めて困難であり、治療効果に限界があることから、近年では、より優れた治療効果の実現を目指して遺伝子治療の研究が盛んに行われている。
癌に対して高い特異性を発揮することが可能な遺伝子治療としては、現在までに(1)癌組織特異的なプロモーターを使用した自殺遺伝子等の導入、(2)癌細胞に特異的なアポトーシスメカニズムの活性化、(3)癌細胞に特異的な抗原を標的とする免疫療法、(4)癌細胞特異的に増殖するウイルスベクターの導入、(5)癌細胞の表面に存在する特異的な標的を利用した癌細胞特異的な遺伝子導入等のストラテジーが主に提案されてきた。
【0003】
これらのストラテジーのなかでも本発明者らは、特に上記(5)に着目し、胃癌等の消化器癌などを標的として高い選択性を有しかつ高効率で遺伝子を導入・発現することができるような癌標的化ウイルスベクターによる遺伝子導入系の開発を進めてきた(非特許文献1参照)。そして、これまでに、抗体(IgG)のFcドメインに結合するProtein AのZ33モチーフをノブのHIループ部位に含むZ33ファイバー変異型アデノウイルスベクターを使用して、lacZ、EGFP等のレポーター遺伝子、あるいは5-フルオロウラシルを5-フルオリジンモノホスフェートに変換するUPRT(ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ)等を発現するアデノウイルスを作製し、CEA(ヒト癌胎児性抗原)やPAP2a(ホスファチジン酸脱リン酸化酵素2a)等を抗原とする抗体と組み合わせてこれらの変異型アデノウイルスを使用することによって、癌細胞特異的な遺伝子導入が高い効率で実現できることを見出すとともに、さらにまた、FZ33ファイバー変異型のUPRTを発現するアデノウイルスと抗CEA抗体とともに、5-フルオロウラシルを播種性胃癌のモデル動物に投与したところ、癌組織重量および転移癌数の顕著な減少が観察されることを示してきた(非特許文献1および2参照)。しかしながら、これらの癌標的化治療に用いることができる特異性の高い標的としては、胃癌に対するCEAや膵臓癌等に対するPAP2aなどのわずか数種の癌に対する標的が発見されているに過ぎず、他の多くの癌に対する標的については未だ解明されていないのが現状である。
【0004】
一方、IL13Ra2(インターロイキン13受容体α2)は、1996年にヒト腎臓癌細胞株Caki-1からクローニングされた380アミノ酸からなる1回膜貫通I型膜タンパク質であり、IL13との高い結合能を有することが知られている(非特許文献3参照)。さらに、IL13Ra2は、IL13のインターナリゼーション能を有することが報告されている(非特許文献4参照)一方で、デコイレセプターとして作用すると推測されている(非特許文献5参照)。また、IL13Ra2の発現は、グリオーマ(非特許文献6参照)、腎臓癌、頭頸部癌(非特許文献7参照)、卵巣癌(非特許文献8参照)、カポジ肉腫(非特許文献9参照)で確認されている。しかしながら、前記以外の癌については、IL13Ra2の発現に関する報告はなされていない。特に、メラノーマに関しては、メラノーマ細胞系をIL13Ra2遺伝子導入実験系の宿主細胞として利用するなど(非特許文献10参照)、IL13Ra2を発現しない細胞種であることが当該技術分野において広く認識されていた。
【0005】
【非特許文献1】中村公則ら、最新医学、2006年、61:1130-7
【非特許文献2】Tanaka T. et al.、Clin Cancer Res、2006、12: 3803-13
【非特許文献3】Caput D. et al.、J Biol Chem、1996、271: 16921-6
【非特許文献4】Puri R.K. et al.、Blood、1996、87: 4333-9
【非特許文献5】Rahaman S.O. et al.、Cancer Res、2002、62: 1103-9
【非特許文献6】Debinski W. et al.、Clin Cancer Res、1995、1: 1253-8
【非特許文献7】Kawakami M. et al.、Cancer Res、2003、9: 6381-8
【非特許文献8】Murata T. et al.、Biochem Biophys Res Commun、2002 238: 90-4
【非特許文献9】Husain S.R. et al.、Clin Cancer Res、1997、3: 151-6
【非特許文献10】Kawakami K. et al.、Cancer Res、2006、66: 4434-42
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、種々の癌の特異性の高い診断や標的化治療を実現するための好適な標的を見出すとともに、その標的に対する抗体およびこれを利用した治療のための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行う中で、ヒトメラノーマ細胞株であるA375細胞で免疫したマウスより作製したハイブリドーマから得られた抗体が、Z33ファイバー改変型アデノウイルスと併用した場合に癌細胞への極めて高い遺伝子導入効率を示すこと、および、イムノトキシンと併用した場合に癌細胞の生存率を顕著に減少させることを見出すとともに、この抗体の抗原がIL13Ra2の細胞外ドメインであることを同定した。さらに、かかる知見をもとに検討を進める中で、IL13Ra2が従来知られていた以外の種類の癌においても発現されていること、IL13Ra2がこれらの癌細胞の標的分子として利用できること、さらには、抗IL13Ra2抗体を担癌動物に投与することで癌の増殖を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、IL13Ra2に結合する物質を含む、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される癌の診断のための組成物に関する。
本発明はまた、IL13Ra2に結合する物質を含む、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される癌の治療のための組成物に関する。。
本発明はさらに、IL13Ra2に結合する物質が、抗IL13Ra2抗体およびIL13からなる群から選択される上記組成物に関する。
本発明はさらにまた、抗IL13Ra2抗体が、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにNITE AP-368として2007年5月18日付で、および受領番号NITE AP-374として2007年5月31日付でそれぞれ寄託されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体、またはこれらの抗体と同等の結合特性を有する抗体である上記組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来IL13Ra2の発現が認められなかった癌(特に、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌)に対して、同タンパク質を標的とした診断や治療を行うことが可能となり、これらの癌に対する診断・治療における効率の向上や選択肢の拡大が期待できる。また、本発明の組成物においては、IL13Ra2に結合する物質と、任意の抗癌剤とを組み合わせ、後者の治療効果を高めることができるため、その応用範囲は広く、利便性は極めて高い。
また、本発明の抗IL13Ra2モノクローナル抗体は、優れた結合特性を有しており、IL13Ra2陽性の癌(特に、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、肺癌、グリオーマ、頭頸部癌、腎癌、カポジ肉腫および卵巣癌)の診断および治療において極めて有用なものである。
【0010】
すなわち、本発明のモノクローナル抗体は、生きている癌細胞の細胞膜表面に存在するIL13Ra2を特異的に認識して結合し、高い効率で細胞内に取り込まれる。したがって、本発明の抗体を使用すれば、抗体と結合することができるZ33ファイバー変異型アデノウイルスを使用した遺伝子導入、抗体と結合することができる薬剤(例えば、種々の細胞毒素やイムノトキシン等)を使用した薬剤の導入を、癌細胞特異的に極めて高い効率で行うことができるため、本発明の抗体を含んでなる癌の治療薬は、従来の遺伝子治療や化学療法を大きく上回る治療成果を上げることができるとともに、副作用を低減することが可能である。また、このような本発明の抗体を使用した遺伝子導入や薬剤の導入は、原発性の癌のみならず、従来の治療法では根治が困難であった転移癌に対しても同様に良好な効率で行うことができるため、これらの癌に対しても優れた治療効果を得ることができる。本発明の癌の診断薬についても同様に、本発明の抗体のIL13Ra2に対する特異性の高さにより、非常に精度の高い診断が可能となる。
さらに、本発明の抗体は、病理組織検査において広く用いられ、取り扱いが容易なホルマリン固定、パラフィン包埋試料中の変性したIL13Ra2をも認識することができるため、ルーチンで行われる病理組織検査ばかりでなく、採取から時間が経過した過去の試料を利用した病理組織検査にも利用することができるという格別の利便性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、IL13Ra2に結合する物質を含む、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される癌の診断または治療のための組成物に関する。
本明細書中、「IL13Ra2(インターロイキン13レセプターα2)」、「IL13Ra2タンパク質」、または「IL13Ra2抗原」とは、NCBIタンパク質配列データベースにアクセッション番号NM_002188で登録されているアミノ酸配列(配列番号8)で特定される112アミノ酸残基のタンパク質、ならびに上記タンパク質の断片、またはこれらの誘導体を意味する。ここで、「誘導体」とは、IL13Ra2タンパク質またはその断片のアミノ酸配列において1または複数個(例えば、数個(例、2〜6個))のアミノ酸残基の変異、置換、欠失および/または付加を含み、実質的にIL13Ra2タンパク質と同じ抗原性を有するペプチドまたはポリペプチドを意味するものとする。ここで、「実質的に」とは、IL13Ra2の発現によって特徴付けられる疾患の診断および/または治療に使用され得る程度に、抗IL13Ra2抗体によって特異的に認識されるような特異性の程度を意味する。誘導体の典型的な例には、IL13Ra2多型、スプライシングなどによる配列変化がある。ここで、「断片」の長さとしては、抗IL13Ra2抗体に特異的な抗原として認識され得る長さであれば制限はないが、好ましくは6アミノ酸以上、より好ましくは8アミノ酸以上、さらに好ましくは10アミノ酸以上である。また、これらの断片は、IL13Ra2タンパク質の任意の部分であり得るが、IL13Ra2タンパク質のエピトープに対応するか、エピトープに対応する部分を含んでいることがより好ましい。
【0012】
本明細書中、「IL13Ra2に結合する物質」は、IL13Ra2に結合する任意の物質、特に、IL13Ra2に特異的に結合する物質を包含する。かかる物質の例としては、限定することなく例えば、IL13Ra2の天然のリガンドであるIL13や、抗IL13Ra2抗体などを挙げることができる。
IL13としては、NCBIタンパク質配列データベースにアクセッション番号AAH96140、AAH96138、AAH96141、AAH96139、AAK53823(ヒト)、ABG75889(カニクイザル)、ABG75890、NP_001076063、ABB02299(ヒツジ)、NP_001003384(イヌ)、NP_001007086、CAF33260(ニワトリ)、NP_001028101、AAO89232(アカゲザル)、NP_032381、CAI24689(マウス)、AAR32991、NP_001008992(チンパンジー)、NP_446280(ラット)、CAB46636(ウシ)で登録されているものが挙げられ、なかでもヒトIL13(hIL13)が好ましい。IL13は、生体試料、例えば末梢血から精製することもできるが、典型的には、IL13をコードする核酸を用いて遺伝子工学的に作製することができる。具体的には、例えば、IL13をコードする核酸を、IL13発現細胞(例えば、CD4T細胞、CD8T細胞、NK−T細胞、好塩基球、肥満細胞など)の遺伝子からクローニングし、これを適切な宿主細胞(例えば、大腸菌など)で発現させ、回収、精製することにより得ることができる。かかる作製方法の一例は、実施例5に記載されている。また、R&D Systems社やPeproTech社などから市販されている組換えIL13を利用することもできる。
【0013】
「抗IL13Ra2抗体」または「IL13Ra2に対する抗体」は、IL13Ra2に特異的に結合する抗体をいい、元の抗体と実質的に同じ抗原特異性を示す当該抗体の断片(本明細書中、「機能的断片」と呼ぶ)または誘導体をも含むものとする。抗体の機能的断片または誘導体には、Fab、Fab'、F(ab')2、単鎖抗体(scFv)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)、もしくはCDRを含むペプチドなどの抗体の機能的断片、またはヒト化抗体(例えば、CDR移植完全ヒト型抗体)のような誘導体などが含まれる。本発明における抗体は、以下に詳述するように、動物を免疫し、血清(ポリクローナル)または脾臓細胞を回収すること(適切な細胞との融合によるハイブリドーマの作製のため)を含む、従来の方法により作製することができる。
【0014】
本明細書中、物質(例えば抗体)があるタンパク質またはその断片に「特異的に結合する」とは、その物質が他のアミノ酸配列に対するその親和性よりも、これらのタンパク質またはその断片の特定のアミノ酸配列に対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで、「実質的に高い親和性」とは、所望の測定装置によって、その特定のアミノ酸配列を他のアミノ酸配列から区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味し、典型的には、結合定数(Ka)が少なくとも107M-1、好ましくは、少なくとも108M-1、より好ましくは、109M-1、さらにより好ましくは、1010M-1、1011M-1、1012M-1またはそれより高い、例えば、最高で1013M-1またはそれより高いものであるような結合親和性を意味する。
【0015】
本発明における抗IL13Ra2抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得るが、特異性、力価、染色性等の観点からモノクローナル抗体であることが好ましい。IL13Ra2に対するモノクローナル抗体の好適な例としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)に受領番号NITE AP-368として2007年5月18日付で、および受領番号NITE AP-374として2007年5月31日付でそれぞれ寄託されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が挙げられる。また、これらの抗体と同等の結合特性を有する他の抗体も本発明の抗IL13Ra2抗体として好ましい。また、市販の抗IL13Ra2抗体、例えば、B-D13(Diaclone社)、83807(R&D Systems社)、83834(R&D Systems社)などを利用することもできる。
【0016】
本発明の抗体の1つの好ましい態様は、従来の抗体よりも細胞内取り込み率が高く、例えば、実施例4に記載したようなイムノトキシン法において、従来抗体(例えば、上記B-D13、83807、83834など)よりも5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、さらに好ましくは20倍以上の細胞殺傷活性を示す抗IL13Ra2モノクローナル抗体である。
【0017】
本発明の抗体の別の好ましい態様は、ホルマリン固定、パラフィン包埋試料におけるIL13Ra2を認識する特性を有する抗IL13Ra2モノクローナル抗体である。
ここで、ホルマリン固定およびパラフィン包埋は、当該技術分野で通常行われるものを意味する。したがって、ホルマリン固定は、典型的には、10~20%のホルマリン、中性ホルマリン、中性緩衝ホルマリンなどのホルマリン系固定液で、24~72時間固定することを意味し、パラフィン包埋は、ホルマリン固定試料を、アルコールで脱水し、キシレンやクロロホルムで脱アルコールした後、パラフィンを浸透させることを意味するが、これに限定されない。
上記特性を有する抗体は、既知の任意の方法、例えば、cell-ELISA法などによってスクリーニングすることができる。cell-ELISA法は、例えば、IL13Ra2発現細胞をホルマリン固定し、これに被験抗体を作用させ、結合抗体を酵素標識2次抗体による発色で検出することにより行うことができる。
【0018】
本発明はまた、IL13Ra2に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、特に、受領番号NITE AP-368およびNITE AP-374として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2007年5月18日および2007年5月31日付でそれぞれ寄託されたハイブリドーマに関する。
【0019】
以下、本発明の抗IL13Ra2抗体の作製において利用し得る、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片等の一般的な作製方法について説明する。
【0020】
(モノクロナール抗体の作製方法)
モノクローナル抗体産生細胞の作製
IL13Ra2に対するモノクローナル抗体は、例えば、以下のようにして作製することができる。抗原を、哺乳動物に対して、抗体産生が可能な部位に単独で、あるいは担体、希釈剤とともに投与する。抗原としては、変性または非変性(ネイティブ)条件で精製したIL13Ra2またはその断片のほか、例えば、IL13Ra2発現細胞等を用いることができる。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行う。用いる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギが挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
【0021】
モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては、抗原で免疫した温血動物、例えば、マウスから、抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、後記の標識化タンパク質と抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。融合操作は既知の方法、例えば、コーラーとミルスタインの方法(Kohler and Milstein(1975)Nature 256: 495)に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウイルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。骨髄腫細胞としては、例えば、NS-1、P3U1、SP2/0などが挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくは、PEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、約20〜40℃、好ましくは約30〜37℃で約1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0022】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用し得るが、例えば、抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例えば、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に、放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体を用いる)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識したタンパク質を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などが挙げられる。モノクローナル抗体の選別は、公知あるいはそれに準じる方法に従って行うことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行うことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%の牛胎児血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%の牛胎児血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))またはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM-101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行うことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0023】
モノクロナール抗体の精製
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様に免疫グロブリンの分離精製法(例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相またはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法)に従って行うことができる。
【0024】
(ポリクローナル抗体の作製方法)
IL13Ra2に対するポリクローナル抗体は、公知あるいはそれに準じる方法にしたがって製造することができる。例えば、免疫抗原(タンパク質の抗原)と担体タンパク質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行い、該免疫動物から本発明のタンパク質に対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行うことにより製造できる。哺乳動物を免疫するために用いられる免疫抗原と担体タンパク質との複合体に関して、担体タンパク質の種類および担体とハプテンとの混合比は、担体に架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、任意のものを任意の比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプリングさせる方法が用いられる。また、ハプテンと担体のカプリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタールアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。縮合生成物は、温血動物に対して、抗体産生が可能な部位に単独で、あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行うことができる。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。
【0025】
(抗体断片または誘導体の製造方法)
Fabは、IgGをタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(ヒトIgG1の場合は、H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で結合した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のFabは、IL13Ra2に特異的に結合する抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
F(ab')2は、IgGをタンパク質ペプシンで処理して得られる断片のうち(ヒトIgG1の場合は、H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のFab'は、IL13Ra2に特異的に結合する抗体をタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。
Fab'は、上記F(ab')2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のFab'は、IL13Ra2に特異的に結合する抗体を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
【0026】
上記Fab、F(ab')2、またはFab'はまた、全長抗IL13Ra2抗体のFab、F(ab')2、またはFab'断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターもしくは真核生物用発現ベクターに挿入し、このベクターを原核生物もしくは真核生物に導入して発現することによっても製造することができる(例えば、Co M.S.et al.、J.Immunol.(1994)152,2968-2976; Better M.& Horwitz A.H. Methods in Enzymology(1989)178,476-496; Plueckthun,A.& Skerra A. Methods in Enzymology(1989)178,497-515; Lamoyi E.、Methods in Enzymology(1986)121,652-663; Rousseaux J.et al.、Methods in Enzymology(1986)121,663-669; Bird R.E.et al.,TIBTECH(1991)9,132-137等を参照)。
一本鎖抗体(以下、scFvと略すこともある)は、一本の重鎖可変領域(heavy chain variable region:以下、VHと略す)と一本の軽鎖可変領域(light chain variable region:以下、VLと略す)とを適当なペプチドリンカー(以下、Pと略す)を用いて連結した、VH-P-VLまたはVL-P-VHポリペプチドを示す(例えば、Huston,J.S.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85、5879-5883を参照)。本発明の一本鎖抗体は、IL13Ra2に特異的に結合する抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、一本鎖抗体をコードするDNAを構築し、これを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを原核生物または真核生物に導入して発現させることにより、製造することができる。
【0027】
ジスルフィド安定化V領域断片(以下、dsFvとも略すこともある)は、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドをシステイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法(Protein Engineering、7,697(1994))に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。本発明で使用されるジスルフィド安定化V領域断片に含まれるVHおよびVLは、IL13Ra2に特異的に結合する抗体、例えば、ヒト化抗体、ヒト抗体のいずれをも用いることができる。
本発明のジスルフィド安定化V領域断片は、IL13Ra2に特異的に結合する抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ジスルフィド安定化V領域断片をコードするDNAを構築し、これを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入して発現させることにより製造することができる。相補性決定領域(Complementary Determining Region:以下、CDRと略す)を含むペプチドは、H鎖またはL鎖CDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0028】
本発明のCDRを含むペプチドは、IL13Ra2に特異的に結合する抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得した後、CDRをコードするDNAを構築し、このDNAを原核生物用発現ベクターもしくは真核生物用発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物もしくは真核生物へ導入して発現させることにより、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によって製造することもできる。(ヒト化抗体)
【0029】
ヒト以外の動物の抗体を、遺伝子組換え技術を利用してヒト型キメラ抗体あるいはヒト型CDR移植抗体などとしたヒト化抗体もまた、本発明において有利に使用することができる。ヒト型キメラ抗体とは、抗体の可変領域(以下、V領域と表記する)がヒト以外の動物の抗体で、定常領域(以下、C領域と表記する)がヒト抗体である抗体であり(Morrison S.L. et al.、Proc Natl Acad Sci USA.81(21),6851-6855,1984)、ヒト型CDR移植抗体とは、ヒト以外の動物の抗体のV領域中のCDRのアミノ酸配列をヒト抗体の適切な位置に移植した抗体である(Jones P.T. et al.、Nature,321(6069),522-525,1986)。ヒト化抗体は、ヒトに投与した場合、ヒト以外の動物の抗体に比べ、副作用が少なく、その治療効果が長期間持続する。また、ヒト化抗体は、遺伝子組換え技術を利用して様々な形態の分子として作製することができる。例えば、ヒト抗体の重鎖(以下、H鎖)C領域としてγ1サブクラスを使用すれば、血中で安定で、かつ抗体依存性細胞障害活性などのエフェクター活性の高いヒト化抗体を作製することができる(Co M.S. et al.、Cancer Research,56(5),1118-1125,1996)。エフェクター活性の高いヒト化抗体は、癌などの標的の破壊が望まれる場合に有用である。
【0030】
一方、単に標的を中和する作用のみが必要とされる場合や、エフェクター活性による標的の破壊による副作用が懸念される場合には、ヒト抗体のH鎖C領域としてγ4サブクラスを使用すれば、γ4サブクラスは一般的にエフェクター活性が低いため(Bruggemann M et al.、Journal of Experimental Medicine,166(5),1351-1361,1987; Bindon C.I. et al.、Journal of Experimental Medicine,168(1),127-142,1988)、副作用を回避でき、しかもマウス抗体に比べ血中半減期の延長が期待される(Stephens S. et al.、Immunology、85(4),668-674,1995)。さらに、蛋白質工学、遺伝子工学的手法を用いてヒト化抗体を含めた抗体から作製したFab、Fab'、F(ab')2、scFv(Bird R.E. et al.、Science、242(4877),423-426,1988)、dsFv(Webber K.O. et al.、Molecular Immunology,32(4),249-258,1995)、CDRを含むペプチド(Monfardini C et al.、Journal of Biological Chemistry,271(6),2966-2971,1996)などのより分子量の小さい抗体断片を使用することもできる。これらの抗体断片は、完全な抗体分子に比べ分子量が小さいために、標的組織への移行性に優れており、有利である(Cancer Research,52,3402-3408,1992)。
【0031】
本発明のIL13Ra2に特異的に結合する抗体(例えば、ヒト化抗体、ヒト抗体およびそれらの抗体断片)に、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤などを化学的あるいは遺伝子工学的に結合させた抗体は、IL13Ra2に特異的に反応する抗体および抗体断片のH鎖或いはL鎖のN末端側或いはC末端側、該抗体および抗体断片中の適当な置換基あるいは側鎖、さらには該抗体および抗体断片中の糖鎖に放射性同位元素、治療タンパク質あるいは低分子の薬剤などを化学的あるいは遺伝子工学的に結合させることにより製造することができる(例えば、抗体工学入門、金光修著、地人書館、1994を参照)。
【0032】
2.診断薬および治療薬
本発明は、別の態様において、抗IL13Ra2抗体を含有する癌の診断薬を提供する。本発明はまた、抗IL13Ra2抗体を含有する癌の治療薬を提供する。さらにまた、本発明は、IL13Ra2に結合する物質を含む、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される癌の診断薬または治療薬にも関する。なお、本願明細書中、用語「癌」と「腫瘍」とは同じ意味を有する用語として使用される。
本明細書の実施例において具体的に記載するように、本発明の抗IL13Ra2抗体を含有する治療薬または診断薬は、IL13Ra2を高発現することによって特徴づけられる任意の疾患(特に、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、肺癌(悪性中皮腫を含む)、グリオーマ、頭頸部癌、腎癌、カポジ肉腫、卵巣癌などを含む癌)の診断または治療に適している。
また、今回新たにIL13Ra2の発現が確認された癌、すなわちメラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌の診断薬および治療薬に関しては、本発明の前記抗IL13Ra2抗体のみならず、公知の種々の抗IL13Ra2抗体、例えば83834抗体、83807抗体(R&D社)、B-D13抗体(Diaclone社)、さらには、IL13タンパク質などのIL13Ra2に結合する任意の物質を含むことができる。
【0033】
癌の診断または治療に使用するための本発明の抗IL13Ra2抗体は、本発明の診断薬または治療薬において、必要に応じて、モニタリング等のための標識物質(例えば、放射性同位元素、蛍光物質など)で標識されていてもよい。
また、本発明の抗IL13Ra2抗体は、本発明の診断薬または治療薬において、それ自体が、抗原の活性を減弱させるような中和活性を有する薬剤(agent)であり得るが、必要に応じて、治療効果を奏するための他の薬剤(例えば、放射性同位元素、治療タンパク質、または低分子の薬剤など、あるいは標的への遺伝子導入のためのウイルスベクターもしくは非ウイルスベクター)と化学的または遺伝子工学的に結合され得る。ここで、「化学的な結合」には、イオン結合、水素結合、共有結合、分子間力による結合、疎水性相互作用による結合などが含まれるものとし、「遺伝子工学的な結合」には、例えば、抗体と治療タンパク質とからなる融合タンパク質を遺伝子組換えなどの技術を用いて作製した場合の、抗体と治療タンパク質との間の結合様式などが含まれるものとする。
【0034】
in vivoでの診断に使用するための抗体調製物の調製および使用方法は当該分野でよく知られている。例えば、インジウム-111で標識した抗体とキレート剤との結合体(抗体−キレート剤)が、癌胎児性抗原を発現している腫瘍のラジオイムノシンチグラフィーによるイメージングでの使用に関して記述されている(Sumerdon et al. Nucl. Med. Biol. 1990 17:247-254)。特にこれらの抗体−キレート剤は、再発性の結腸直腸癌を有する疑いのある患者において腫瘍を検出するのに用いられている(Griffin et al. J. Clin. Onc. 1991 9:631-640)。磁気共鳴イメージングで用いる標識としての常磁性イオンを有する抗体もまた記載されている(Lauffer、R.B. Magnetic Resonance in Medicine 1991 22:339-342)。
【0035】
IL13Ra2に対する抗体も同様に用いることができる。すなわち、IL13Ra2に特異的に結合する標識された抗体を、例えば、癌を有する疑いのある患者に、その患者の疾患の状態の診断または病期診断等の目的で注射することができる。用いる標識は、用いるイメージングの様式に応じて選択し得る。例えば、インジウム-111(111In)、テクネチウム-99m(99mTc)またはヨウ素-131(131I)などの放射性標識は、平面スキャンまたはシングルフォトン断層撮影に用いることができる。フッ素-18(18F)などのポジトロン放出標識をポジトロン断層撮影に用いることができる。ガドリニウム(III)またはマンガン(II)などの常磁性イオンを磁気共鳴イメージングに用いることができる。標識の局在性を検査することにより、癌の播種の判定をすることができる。また、器官または組織内の標識の量により、その器官または組織における癌の存在または欠如を決定することができる。
したがって、好ましくは、本発明の診断薬または治療薬中の抗IL13Ra2抗体は、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、または治療遺伝子を担持したウイルスベクター等と化学的にまたは遺伝子工学的に結合されている。
【0036】
「放射性同位元素」の例としては、フッ素-18、ヨウ素-125(125I)、およびヨウ素-131などの放射性ハロゲン元素が挙げられる。これらの放射性ハロゲン元素も上述の放射性金属元素と同様に抗体やペプチドに標識して、放射性診断薬あるいは放射性治療薬として広く利用し得る。例えば、125Iまたは131Iでのヨード化は、クロラミンT法等の公知の方法により、抗体または抗体断片に結合させることができる。
さらに、診断用としてはテクネチウム-99m、インジウム-111およびガリウム-67(67Ga)など、また治療用としてはイットリウム-90(90Y)、レニウム-186(186Re)またはレニウム-188(188Re)などを用いることができる。放射性同位元素を用いて抗体に標識する場合には、通常、金属キレート剤が用いられる。金属キレート剤としては、EDTA、DTPA、ジアミノジチオ化合物、サイクラム、およびDOTAなどが知られている。これらのキレート剤は抗体に予め結合しておき、その後放射性金属で標識することも、放射性金属キレートを形成後、抗体に結合して標識することもできる。
【0037】
「治療タンパク質」の例としては、免疫を担う細胞を活性化するサイトカインが好適であり、例えば、ヒトインターロイキン2(hIL2)、ヒト顆粒球−マクロファージ−コロニー刺激因子(hGM-CSF)、ヒトマクロファージコロニー刺激因子(hM-CSF)、ヒトインターロイキン12(hIL12)等が挙げられる。また、癌細胞を直接殺傷するため、リシンやジフテリア毒素、緑膿菌外毒素(PE)などの毒素を用いることができる。例えば、治療タンパク質との融合抗体については、抗体または抗体断片をコードするcDNAに治療タンパク質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、このDNAを原核生物または真核生物用の発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、融合抗体を製造することができる。
【0038】
「低分子の薬剤」は、本明細書中で「放射性同位元素」や「治療タンパク質」等以外の診断または治療用化合物を意味するものとして用いられる。「低分子の薬剤」の例としては、ナイトロジェン・マスタード、シクロホスファミドなどのアルキル化剤、5-フルオロウラシル、メソトレキセートなどの代謝拮抗剤、ダウノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンのような植物アルカロイド、タモキシフェン、デキサメタソンなどのホルモン剤等の抗癌剤、またはハイドロコーチゾン、プレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート、ペニシラミンなどの免疫調節剤、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、マレイン酸クロルフェニラミン、クレマスチンのような抗ヒスタミン剤等の抗炎症剤などが挙げられる。例えば、ダウノマイシンと抗体を結合させる方法としては、グルタールアルデヒドを介してダウノマイシンと抗体のアミノ基間を結合させる方法、水溶性カルボジイミドを介してダウノマイシンのアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法等が挙げられる。
【0039】
「ウイルスベクター」の例としては、本発明の抗IL13Ra2抗体に結合し得るように改変されたウイルスベクター(例えば、FZ33ファイバー変異型アデノウイルス)が挙げられる。このようなウイルスベクターには、細胞増殖関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子、免疫制御遺伝子等の、標的部位(例えば、癌)において、例えば、癌細胞のアポトーシスを誘導するなどの治療効果を奏する遺伝子(治療遺伝子)が組み込まれる。抗IL13Ra2抗体に結合するウイルスベクターは、抗IL13Ra2抗体と共に遺伝子治療を必要とする患者に投与された場合、抗IL13Ra2抗体が認識する抗原(すなわち、IL13Ra2)が存在する部位に送達され得る。
【0040】
3.組換えアデノウイルスの作製方法
本発明において典型的に使用される組換えアデノウイルスベクターは、当該分野で周知の分子生物学的手法によって作製することができる。例えば、一般的な分子生物学的手法については、Sambrook, J. et al.:Molecular Cloning.A laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989; Ausbel. F et al.:Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates and Wiley-Interscience,1987;田村隆明編、改訂第2版 遺伝子工学実験ノート 上・下 羊土社 2001などを参照することができる。また、組換えアデノウイルスの作製のためには、ウイルスゲノムの両端に共有結合した末端タンパク質を保持したままのゲノム−末端タンパク質複合体(以下DNA-TPCと略す)を用いる方法、例えば、Yoshidaらの方法(Yoshidaet al. Hum. Gene Ther. 9:2503-1515(1998))を利用することができる。これらの手法はいずれも当業者に良く知られたものである。典型的な作製方法においては、まず、pAxCw、pAxCAwt等のコスミドカセットに目的とする遺伝子を組み込んだコスミドを作製する。一方、ウイルスからDNA-TPCを調製し、適当な制限酵素で切断しておく。次に、前述のコスミドおよび制限酵素処理したDNA-TPCを適切な宿主細胞、例えば293細胞にコトランスフェクションする。その後適切な条件で一定期間培養し、培養液中にウイルス粒子として放出された組換えアデノウイルス粒子を回収する。
【0041】
本発明において典型的に使用される組換えアデノウイルス粒子は、前述のように組換えアデノウイルス発現用核酸分子を適切な培養細胞にトランスフェクションし、その細胞を更に培養し、培養上清を回収することによって多量に調製することができる。必要であれば、回収したアデノウイルスを更に適切な宿主細胞で必要な回数だけ継代することによって更に大量のアデノウイルベクター粒子を調製することができる。アデノウイルスの増殖および回収のために適した細胞、トランスフェクションの条件、トランスフェクトした細胞の培養条件および培地等は当業者に良く知られたものである。例えば、通常よく使用されるE1A、E1B領域に欠損のあるアデノウイルスを増殖させる場合には、恒常的にE1A、E1Bを発現している293細胞等を使用することができる。更に、必要に応じて、塩化セシウムの濃度勾配遠心法を用いて濃縮精製することもできる。濃縮することにより、109〜1011粒子/ml程度の高力価のウイルス液を得ることができる。
【0042】
本発明において典型的に使用される組換えアデノウイルス発現用核酸分子には、外来遺伝子を組み込むことができ、組み込まれた外来遺伝子を効率的に標的細胞に導入することができる。本発明において使用される組換えアデノウイルス発現用核酸分子に組み込む外来遺伝子としては、直接または間接的に標的細胞に対して細胞毒性を示すような分子をコードする遺伝子、細胞増殖因子、細胞増殖抑制因子、アポトーシス制御遺伝子、癌抑制遺伝子、細胞周期調節遺伝子、免疫調節遺伝子等が挙げられる。更に、非毒性のプロドラッグと組み合わせて使用するための自殺遺伝子を組み込むことも可能である。そのような組み合わせとしては、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ(HSVtk)とガンシクロビルとの組み合わせ(HSVtk/GCV)、シトシンデアミナーゼと5-フルオロシトシンとの組み合わせ(CD/5FC)、ウラシルフォスフォリボシルトランスフェラーゼ(UP)と5-フルオロウラシル(5FU)との組み合わせ(UP/5FU)、HSVtkとUPを組み合わせた系(UPTK/5FU+GCV)が挙げられる。このような外来遺伝子は、一般にはアデノウイルスゲノムのE1領域および/またはE3領域と置換されるか、またはこの領域に挿入される。
ファイバー変異型組み換えアデノウイルスの作製方法については、報告されている例を参照することができる(Yoshida et al.、Hum. Gene Ther. 1998; Nakamura et al.、Hum. Gene Ther. 2002; Nakamura et al.、J. Virol. 2003など)。
【0043】
本発明において好適に用いられるベクターの非限定的な例としては、抗体のFcドメインに結合するように改変されたFZ33ファイバー変異型アデノウイルス、アデノウイルスに抗体を任意の方法(共有結合、ビオチン−アビジンによる架橋、抗体を化学結合させたポリエチレングリコールでウイルスを包むなど)で結合させた修飾型のアデノウイルスなどが挙げられる。FZ33ファイバー変異型アデノウイルスは、抗体のFcドメインに結合するプロテインAのZ33モチーフをノブ(Knob)のHIループ部位に含むFZ33ファイバー変異型Ad5ウイルスをベースとして、lacZ、EGFPなどのレポーター遺伝子が組み込まれたアデノウイルスである(非特許文献1参照)。なお、これは非限定的な例示であり、他のウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、シンドビスウイル、麻疹ウイルス、センダイウイルス、レオウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、アデノ随伴ウイルス、など各種ウイルスの外被(エンベロープ)やキャプシドに修飾を施した各種変異型ウイルス、または前記各種ウイルスに抗体を任意の方法で結合(例えば、共有結合、ビオチン−アビジンによる架橋、抗体を化学結合させたポリエチレングリコールでウイルスを包むなど)させた修飾型のウイルスもまた、本発明の抗IL13Ra2抗体とともに使用できることを、当業者は理解し得る。あるいは、ウイルスベクターに限らず、リポソームベクター、センダイウイルスエンベロープベクター、プラスミドDNAネイキッド(naked)ベクターなどの非ウイルスベクターもまた、抗体を任意の方法(FZ33などの抗体結合分子を結合させる方法、化学的共有結合、ビオチン−アビジンによる架橋、抗体を化学結合させたポリエチレングリコールでベクターを包む方法など)で結合させた修飾型の非ウイルスベクターとすることによって、本発明の抗IL13Ra2抗体とともに使用できることを、当業者は理解し得る。
【0044】
本発明の抗IL13Ra2抗体に結合し得るように改変されたウイルスベクターを使用する利点として、以下のような点が挙げられる。通常、ウイルスベクターを使用する場合、そのウイルスが本来認識する細胞表面のレセプター(例えば、アデノウイルスの場合のCAR、またはシンドビスウイルスの場合の高親和性ラミニンレセプター(high-affinity laminin receptor:LAMR)、ポリオウイルスの場合のCD155、コクサッキーウイルスA21の場合のICAM/DAF、麻疹ウイルスの場合のSLAM/CD46など)を細胞表面に発現している細胞に対して標的化される。したがって、使用するウイルスに特異的な細胞表面レセプターを発現していないか、発現の程度が低い細胞に対しては、通常、ウイルスベクターを用いた遺伝子の効果的な標的化導入は困難である。しかしながら、本発明の抗IL13Ra2抗体と結合し得るかまたは結合するように改変されたウイルスベクターを用いれば、そのウイルスの本来の細胞表面レセプターを発現していない細胞であっても、その細胞がIL13Ra2を発現する細胞であれば、その細胞に対してウイルスベクターを用いた治療遺伝子の標的化導入および発現が容易に可能となる。
【0045】
なお、本発明において使用される組換えアデノウイルスの作製については、さらにYoshida Y. et al.、Human Gene Therapy、9(17): 2503-2515、1998、Nakamura T. et al.、Hum. Gene Ther.、13(5): 613-626、2002、Nakamura T. et al.、J. Virol.、77(4): 2512-2521、2003、Uchida H et al.、Mol Ther. 10(1):162-71、2004、Volpers C et al.、J. Virol. 77: 2093-2104、2003、Braisted AC et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:5688-5692、1996などを参照することができる。
【0046】
4.薬剤の標的化
上記2.の説明からも明らかなように、本発明の抗IL13Ra2抗体を用いて、疾患の診断および/または治療に有用な薬剤を標的となる疾患の部位へ送達することができる。したがって、本発明はまた、抗IL13Ra2抗体を用いて、疾患の診断および/または治療に有用な薬剤を標的となる疾患の部位へ送達する方法を提供する。
「薬剤(agent)」の例としては、既に説明した放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、治療遺伝子などが挙げられる。
典型的な例として、本発明の抗IL13Ra2抗体は、抗IL13Ra2抗体が結合し得る、治療遺伝子を組み込んだファイバー変異型アデノウイルスベクターに結合される。これにより、アデノウイルス本来の受容体である(CAR)に依存する感染のみの場合と比較して、標的細胞への感染効率を高めることができ、ファイバー変異型アデノウイルスを用いた標的部位への治療遺伝子の導入を効果的に行うことができる。
【0047】
本発明において、「標的部位」は、IL13Ra2を正常細胞に比べて高発現している細胞、組織、臓器等であり、特に、IL13Ra2を正常細胞に比べて高発現している腫瘍細胞である。そのような細胞の非限定的な例として、メラノーマ細胞、骨肉腫細胞、白血病細胞、リンパ腫細胞、前立腺癌細胞、肺癌細胞(悪性中皮腫細胞を含む)、グリオーマ細胞、頭頸部癌細胞、腎癌細胞、カポジ肉腫細胞、卵巣癌細胞等を本発明に好適なものとして挙げることができる。
【0048】
5.本発明の抗IL13Ra2抗体を用いたエフェクター細胞を介する疾患の治療およびオプソニン化
本発明はまた、1つの態様において、本発明の治療薬に有効成分として含まれる抗IL13Ra2抗体が、対象に投与された場合に、免疫エフェクター細胞を介して、IL13Ra2発現細胞を溶解またはその成長を阻害するように作用する、IL13Ra2の高発現によって特徴付けられる疾患(例えば、癌)の治療薬およびそのような治療薬を対象に投与することによる該疾患の治療方法を提供する。
【0049】
用語「免疫エフェクター細胞」は、当該分野で通常用いられる意味で本明細書中でも用いられるが、特に、免疫応答の認識及び活性化段階ではなく、免疫応答のエフェクター段階に関与する免疫細胞を言うものとする。免疫エフェクター細胞の非限定的な例には、T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞(CTL)、ヘルパーT細胞(Th))、NK細胞、NK様T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、クッパー細胞、ランゲルハンス細胞、多核白血球(例えば、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞)などが含まれる。例えば、本発明の抗IL13Ra2抗体は、免疫エフェクター細胞表面上のFc受容体に結合することができる。エフェクター細胞は、特異的なFc受容体を発現して、抗体の結合によって特異的な免疫機能を奏することができ、例えば、好中球は、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)を誘導することができる。このように、本発明の抗体は、免疫エフェクター細胞を介して、IL13Ra2発現細胞を貪食または溶解させることができる。
【0050】
本発明はまた、さらに別の態様において、本発明の治療薬に有効成分として含まれる抗IL13Ra2抗体が、対象に投与された場合に、IL13Ra2発現細胞をオプソニン化するように作用する、IL13Ra2の高発現によって特徴付けられる疾患(例えば、癌)の治療薬、およびそのような治療薬を対象に投与することによる該疾患の治療方法を提供する。
例えば、本発明の抗IL13Ra2抗体は、IL13Ra2に対する少なくとも1つの第1の結合特異性と、第2の標的エピトープに対する第2の結合特異性とを含む二重特異的または多重特異的分子であり得る。例えば、上記第2の標的エピトープは、例えば、ヒトFcγRI又はヒトFcα受容体などのFc受容体であり得る。従って、本発明には、FcγR、FcαR又はFcεRを発現しているエフェクター細胞(例えば単球、マクロファージ又は多核白血球など)と、IL13Ra2を発現している標的細胞との両方に結合し得る二重特異的または多重特異的分子が含まれる。また上記第2の標的エピトープは抗IL13Ra2抗体の補体結合部でもあり得る。抗IL13Ra2抗体は補体を介して補体受容体を発現しているエフェクター細胞(例えば単球、マクロファージ又は多核白血球など)と、IL13Ra2を発現している標的細胞との両方に結合し得る二重特異的または多重特異的分子が含まれる。これらの二重特異的または多重特異的分子は、IL13Ra2発現細胞をエフェクター細胞に狙わせ、ADCC、サイトカイン放出、IL13Ra2発現細胞のファゴサイトーシス、またはスーパーオキシドアニオン産生などのFc受容体媒介エフェクター細胞活性を惹起することができる。
【0051】
6.IL13Ra2を検出および/または定量する方法
本発明は、1つの態様において、対象由来の生体試料中のIL13Ra2タンパク質もしくはその断片、またはこれらをコードする核酸を診断マーカーとして検出および/または定量する工程を包含する、癌の診断方法を提供する。
本明細書中、「対象」とは、IL13Ra2を高発現することによって特徴づけられる疾患、代表的には、癌を罹患しているか、そのような疾患を罹患していると疑われるか、またはそのような疾患を罹患する危険性のある、ヒトの対象を意味するものとする。本発明の目的に従う代表的な「癌」の例としては、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、肺癌(悪性中皮腫を含む)、グリオーマ、頭頸部癌、腎癌、カポジ肉腫、卵巣癌等が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書中、「生体試料」とは、検査のために採取された対象由来の細胞、組織、臓器、体液などを意味する。体液には、血液、リンパ液、精液、唾液、汗等が含まれ、血液には、全血の他、血清、血漿などの血液製剤も含まれるものとする。より具体的には、生体試料は、癌細胞(または癌組織)であり得、好ましくは、メラノーマ細胞、骨肉腫細胞、白血病細胞、リンパ腫細胞、前立腺癌細胞、肺癌細胞(悪性中皮腫細胞を含む)、グリオーマ細胞、頭頸部癌細胞、腎癌細胞、カポジ肉腫細胞および卵巣癌細胞であり、最も好ましくはメラノーマ細胞、骨肉腫細胞、白血病細胞、リンパ腫細胞、前立腺癌細胞および肺癌細胞(悪性中皮腫細胞を含む)である。
【0052】
本発明はまた、1つの態様において、対象由来の生体試料中のIL13Ra2を、抗IL13Ra2抗体を用いて免疫学的に検出および/または定量する方法を提供する。
好ましい態様に係る本発明の方法は、(1)生体試料と抗IL13Ra2抗体とを接触させる工程、および(2)該生体試料中のIL13Ra2と該抗IL13Ra2抗体との結合を検出および/または定量する工程を包含する。
このような方法は、IL13Ra2を正常細胞と比較して高発現することを特徴とする疾患、代表的には、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、肺癌(悪性中皮腫を含む)、グリオーマ、頭頸部癌、腎癌、カポジ肉腫、卵巣癌等を含む癌の診断のために使用することができる。通常、IL13Ra2と抗IL13Ra2抗体との結合体のレベル(または量)に基づいて、生体試料中のIL13Ra2のレベル(または量)が評価される。生体試料中のIL13Ra2のレベルと正常な個体のコントロールで測定したレベルとを比較し、その変化(または差違)に基づいて、癌の存在が診断される。通常、正常コントロールと比較して高いIL13Ra2レベルは、癌の存在を示す。この場合、通常少なくとも2倍、好ましくは、5倍程度高いIL13Ra2レベルが、対象が癌を有することを示す陽性結果である。あるいは、生体試料中のIL13Ra2の存在そのものが、対象における癌の存在を示し得る。
【0053】
生体試料において、IL13Ra2のようなタンパク質の発現レベルを決定するのに用いることができるアッセイ技術は、当業者によく知られている。このようなアッセイ方法は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウエスタンブロット法、ラジオイムノアッセイ、結合タンパク質競合アッセイ、逆転写酵素PCR(RT-PCR)アッセイ、免疫組織化学アッセイ、in situハイブリダイゼーションアッセイ、およびプロテオミクスアプローチを含む。これらの中で、ELISAが、生物学的液体における遺伝子の発現タンパク質の検出に特に好ましく用いられる。
もし商業的に容易に入手できない場合、ELISA分析は、最初に、IL13Ra2に特異的に結合する抗体、好ましくはモノクローナル抗体の調製を含む。さらに、一般的に、IL13Ra2に特異的に結合するレポーター抗体が調製される。レポーター抗体には、放射性試薬、蛍光試薬または例えば西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼなどの酵素試薬などの検出可能な試薬が付着している。
【0054】
ELISAを行う場合、IL13Ra2に特異的に結合する抗体は、例えば、ポリスチレンディッシュなどの、抗体を結合する固体支持体上でインキュベートされる。次に、ディッシュ上の任意の遊離タンパク質結合部位(free protein binding sites)は、ウシ血清アルブミンなどの非特異的タンパク質とインキュベートすることにより被覆(ブロッキング)される。次に、分析される試料は、IL13Ra2がポリスチレンディッシュに付着した特異抗体に結合する時間中、ディッシュ内でインキュベートされる。非結合試料はバッファーで洗い流される。IL13Ra2に対して特異的で、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの検出可能な試薬を連結したレポーター抗体がディッシュ内に設置され、該レポーター抗体がIL13Ra2に結合した任意のモノクローナル抗体に結合する。次に非結合レポーター抗体が洗い流される。比色基質を含むペルオキシダーゼ活性のための試薬が、次にディッシュに加えられる。抗IL13Ra2抗体に連結した、固定化したペルオキシダーゼが着色反応産物を産生する。所定の時間内に発生した色素の量は、試料中のIL13Ra2タンパク質の量に比例している。量的な結果は、通常標準曲線を参照して得られる。
【0055】
競合アッセイもまた用いることができ、そこでは、IL13Ra2に特異的に結合する抗体が固体支持体に付着しており、標識したIL13Ra2および対象またはコントロールに由来する試料が固体支持体上を通過する。固体支持体に付着した検出標識量を試料中のIL13Ra2の量に相関させることができる。
上記に例示した個々の測定法以外にも、例えば、サンドイッチ免疫測定法、蛍光免疫測定法(FIA)、時間分解蛍光免疫測定法(TRFIA)、酵素免疫測定法(EIA)、発光免疫測定法(LIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、ラテックス凝集法、免疫沈降アッセイ、沈降素反応法、ゲル拡散沈降素反応法、免疫拡散検定法、凝集素検定法、補体結合検定法、免疫放射分析検定法、蛍光免疫検定法、またはプロテインA免疫検定法などのいずれかの免疫学的な測定方法を本発明において用いることができる。
【0056】
IL13Ra2を診断マーカーとして使用する場合において、IL13Ra2の核酸配列の全てまたは一部をハイブリダイゼーションプローブとして用いた核酸法(nucleic acid method)を、メラノーマなどの癌のマーカーとしてのIL13Ra2のmRNAを検出するのに用いることができる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、およびリガーゼ連鎖反応(LCR)および核酸配列をもとにした増幅(nucleic acid sequence based amplification:NASABA)などのその他の核酸法を、様々な悪性腫瘍を診断およびモニタリングするための悪性細胞の検出に用いることができる。例えば、逆転写酵素PCR(RT-PCR)は、特定のmRNA集団の存在を、何千ものその他のmRNA種の複雑な混合物の中で検出するために用いることができる強力な技術である。RT-PCRにおいては、1種類のmRNAが、酵素である逆転写酵素を用いて最初に相補DNA(cDNA)に逆転写され、次にそのcDNAが標準的なPCR反応と同様に増幅される。このように、RT-PCRは、増幅により、単一種のmRNAの存在を明らかにすることができる。したがって、このmRNAがそれを産生する細胞に高度に特異的である場合、RT-PCRは、特定の種類の細胞の存在を同定するのに用いることができる。また、リアルタイムPCR法も、IL13Ra2をコードする核酸(例えば、mRNA)を定量し、対象と健常個体との比較において、IL13Ra2をマーカーとして対象の癌の診断を行うために使用することができる。
【0057】
また、IL13Ra2をマーカーとして、対象の癌の進展の経過あるいは治療経過をモニタリングすることもできる。そのような癌としては、IL13Ra2陽性の癌であれば特に種類を問わず、IL13Ra2陽性のメラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、肺癌(悪性中皮腫を含む)、グリオーマ、頭頸部癌、腎癌、カポジ肉腫、卵巣癌などの診断に好適に使用することができる。例えば、抗体とマグネチックビーズとを用いた細胞の分別と濃縮(エンリッチメント)、ならびにRT-PCR法による高感度のmRNAの検出法を組み合わせることによって、例えば、5mlの対象の血液中に存在する数個の腫瘍細胞を検出することが可能である。血液中に存在する腫瘍細胞を検出すること、そのIL13Ra2の発現量またはmRNAの量を検出または測定することによって、感度および特異性の高い腫瘍の診断が可能である。このような方法については、さらにZieglschmid V et al.、Crit Rev Clin Lab Sci. 2005;42(2):155-96、Waguri N et al.、Clin Cancer Res. 2003 Aug 1;9(8):3004-11、Zhang YL et al.、World J Gastroenterol. 2005 Feb 21;11(7):1023-7、Demel U et al.、J Exp Clin Cancer Res. 2004 Sep;23(3):465-8などを参照することができる。
【0058】
固体支持体上に配列(すなわち、グリッド化(gridding))されたクローンまたはオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションもまた、その遺伝子の発現の検出および発現レベルの定量の両方に用いることができる。この手法では、IL13Ra2遺伝子をコードするcDNAが基材に固定される。基材は、ガラス、ニトロセルロース、ナイロンまたはプラスチックを含むがこれらに限定されない任意の好適な種類であってもよい。IL13Ra2遺伝子をコードするDNAの少なくとも一部を基材に付着させ、次に、当該組織から単離したRNAまたはRNAのコピーである相補DNA(cDNA)であってもよい検体とインキュベートする。基材に結合したDNAと検体とのハイブリダイゼーションは、検体またはハイブリッド検出用の二次分子を放射性標識または蛍光標識することを含むがこれらに限定されないいくつかの手段で検出し定量することができる。本発明において使用し得る標識の非限定的な例としては、放射性同位元素、蛍光基、発光基、フリーラジカル基、粒子、バクテリオファージ、細胞、金属、酵素、または補酵素等が挙げられる。遺伝子の発現レベルの定量は、検体からの信号の強度を、既知の標準から決定したレベルと比較することによってなされる。標準は、標的遺伝子のin vitroでの転写、収量の定量化、およびこの材料を用いて標準曲線を作成することにより得ることができる。
【0059】
プロテオミクスアプローチでは、2次元電気泳動が当業者によく知られた技術である。すなわち、血清などの試料からの個別のタンパク質は、通常ポリアクリルアミドゲル上で、タンパク質の異なる特性による分離を連続的に行うことによって単離することができる。最初に、タンパク質は電流を用いて大きさにより分離される。電流は全てのタンパク質に均等に作用し、それにより、小さいタンパク質は大きいタンパク質よりもゲル上で早く移動する。第2次元では、第1次元に対して直角に電流をかけ、タンパク質を大きさに基づいてではなく、各タンパク質が有する特定の電荷に基づいて分離する。異なる配列の2つのタンパク質で大きさおよび電荷の両方に関して同一なものは存在しないため、2次元分離の結果は、各タンパク質が固有のスポットを占有する正方形のゲルとなる。該スポットの化学的プローブまたは抗体プローブによる分析、またはそれに引き続くタンパク質のマイクロシーケンスにより、所定のタンパク質の相対的な存在度を明らかにし、試料中のタンパク質の同定をすることができる。
【0060】
以上詳述した検出および/または定量方法は、組織生検材料および検死解剖材料を含む対象から得られた様々な細胞、体液および/または組織抽出物(ホモジネートまたは可溶化した組織)に由来する試料について行うことができる。本発明に有用な体液は、血液、尿、唾液または任意のその他の体分泌物またはそれらの派生物を含む。血液は、全血、血漿、血清、または任意の血液の派生物を含む。
【0061】
7.抗IL13Ra2自己抗体を検出および/または定量する方法
本発明はまた、別の態様において、対象由来の生体試料中のIL13Ra2に対する自己抗体(抗IL13Ra2自己抗体)を検出および/または定量する方法を提供する。
対象からの生体試料中の抗IL13Ra2自己抗体の検出は、任意の多くの方法で行うことができるが、代表的な方法には、免疫アッセイがあり、例えば、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、サンドイッチ免疫測定法、蛍光免疫測定法(FIA)、時間分解蛍光免疫測定法(TRFIA)、酵素免疫測定法(EIA)、発光免疫測定法(LIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、ラテックス凝集法、免疫沈降アッセイ、沈降素反応法、ゲル拡散沈降素反応法、免疫拡散検定法、凝集素検定法、補体結合検定法、免疫放射分析検定法、プロテインA免疫検定法等が挙げられる。
【0062】
このような免疫アッセイは、様々な方法で実施することができる。例えば、このようなアッセイを実施するための1つの方法は、IL13Ra2タンパク質の固相支持体上への繋留、およびそれに対して特異的な抗IL13Ra2抗体の検出を包含する。本発明のアッセイに用いられるIL13Ra2タンパク質は、当該分野において周知の組換えDNA技術によって調製し得る。例えば、IL13Ra2タンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクター中に遺伝子組換え技術により導入して、IL13Ra2タンパク質を大規模に発現することができる。好ましくは、IL13Ra2の標識、固定化または検出を容易にすることができる融合タンパク質が遺伝子操作される(例えば、Sambrookら、1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.に記載された技術を参照)。別法として、IL13Ra2タンパク質は天然の供給源から精製することができる。たとえば、当該分野において周知のタンパク質分離技術を用いてメラノーマ細胞等から精製する。このような精製技術には、分子ふるいクロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィーが包含されるが、これらに限定されない。実際にはIL13Ra2タンパク質の固体支持体としては、マイクロタイタープレートが好都に使用される。
【0063】
8.薬剤の標的化療法における標的となる分子候補を系統的に探索する方法
本明細書の実施例に、NS-66を産生するハイブリドーマの作製ならびにそれに引き続く抗原の同定のために具体的に例示した方法は、一般的に、薬剤の標的化療法における標的となる分子候補を系統的に探索する方法として有用である。本発明の抗体スクリーニング方法によって、診断マーカーとして高感受性および高特異性の標的療法に極めて最適化された抗体および対応する抗原分子を直接かつ迅速にスクリーニングすることができる。
したがって、本発明は、薬剤の標的化療法における標的となる分子候補を系統的に探索する方法を提供する。より具体的には、本発明は、腫瘍特異的抗原に対するモノクローナル抗体を同定する方法、および腫瘍特異的抗原を同定する方法を提供する。
【0064】
本発明は、1つの態様において、腫瘍特異的抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作製方法を提供し、この方法は、
(1)腫瘍特異的抗原または当該抗原を発現する腫瘍細胞で哺乳動物を免疫し、免疫した該哺乳動物からのリンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマのライブラリーを作製する工程、
(2)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物(例えば、抗体など)の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと上記腫瘍細胞とを接触させることによって、上記ファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する感染効率を評価する工程、および
(3)上記感染効率が上記ハイブリドーマ由来産物(抗体など)を上記腫瘍細胞と接触させない場合と比較して増大したハイブリドーマを選択し、クローニングする工程を包含する。
【0065】
本発明はまた、腫瘍特異的抗原に対するモノクローナル抗体をスクリーニングする方法を提供する。このスクリーニング方法は、
(1)腫瘍特異的抗原または当該抗原を発現する腫瘍細胞で哺乳動物を免疫し、免疫した該哺乳動物からのリンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマのライブラリーを作製する工程、および
(2)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物(例えば、抗体など)の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと上記腫瘍細胞とを接触させることによって、上記ファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する感染効率を評価する工程、を包含する。
【0066】
ここで、好ましくは、上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物の存在下での、上記ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞への感染は、
(A)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物を、上記腫瘍細胞と接触させた後、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に接触させるか、
(B)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物と、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスとをあらかじめ反応させてから、上記腫瘍細胞に接触させるか、または
(C)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物と、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスとを、同時に投与することによって、上記腫瘍細胞に接触させること、
によって行われる。
【0067】
上記スクリーニング方法では、感染効率を評価した結果、通常、感染効率がハイブリドーマ由来産物(抗体など)を腫瘍細胞と接触させない場合と比較して増大したハイブリドーマを選択し、クローニングすることによって、目的のモノクローナル抗体を得ることができる。好ましくは、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程は、レポーター遺伝子発現測定アッセイによって上記ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する上記感染効率を評価することを含む。ここで、上記ファイバー変異型アデノウイルスは、上記感染の際に上記感染効率を評価するためのレポーター遺伝子を発現することができるように作製されている。また、上記レポーター遺伝子発現測定アッセイは、例えば、分光光度計あるいはフローサイトメトリーを利用してレポーター遺伝子(例えば、EGFPなど)の発現測定を行うことができる。また、レポーター遺伝子発現測定アッセイの代替的な実施方法としては、例えば、レポーター遺伝子としてlacZを使用する場合には、lacZ遺伝子産物の発現は、市販の化学発光β-Galレポーター測定キット(例えば、Galacto Light Plus Reporter Gene Assay System(Roche社製:コード番号T1011)など)を使用する方法が挙げられる。また、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を使用する場合には、市販のルシフェラーゼ定量システムとして、Luciferase assay system(Promega、Cat No.E1500)などを使用して測定することができる。
【0068】
上記方法において、抗体に結合するように改変されたファイバー変異型アデノウイルスとしては、例えば、抗体のFcドメインに結合するプロテインAのZ33モチーフをノブのHIループ部位に含むFZ33ファイバー変異型アデノウイルスが挙げられる。上記方法においては、FZ33ファイバー変異型アデノウイルスに限らず、抗体とある程度以上のアフィニティー(例えば、結合定数(Ka)が少なくとも107M-1、好ましくは、少なくとも108M-1、より好ましくは、109M-1以上であるような結合親和性)をもって結合できる性質を付与したベクターであれば、その種類を問わない。例えば、アデノウイルスにZ33などの抗体結合分子もしくはペプチドを任意の方法(Z33などを共有結合する方法、Z33などをビオチン−アビジンによって架橋する方法、Z33などを化学結合させたポリエチレングリコールでウイルスを包む方法など)で結合させたFZ33などの修飾型のアデノウイルス、などが挙げられる。
【0069】
また、アデノウイルスのファイバーのCAR受容体との結合部位を欠いたファイバー変異型アデノウイルス、すなわち、Kirby I et al. J.Virol.73: 9508-9514、1999.; Mizuguchi et al. Gene Therapy 9: 769-776、2002.; RoelvinkPW et al. Science、286: 1568-1571、1999.などの参考文献に基づいて作られるファイバー変異型アデノウイルスをもとに、抗体とある程度以上のアフィニティーをもって結合できる性質を付与したベクターも同様に本発明の目的のために使用することができる。
また、アデノウイルスのインテグリン分子群との反応性を欠いた、ペントンベースタンパク変異型アデノウイルスをもとに、抗体とある程度以上のアフィニティーをもって結合できる性質を付与したベクターも本発明の目的のために使用することができる。また、アデノウイルスの肝臓への取り込みを欠いたファイバー変異型アデノウイルス、すなわち、Smith TA et al(Smith TA、Idamakanti N、Rollence ML、Marshall-Neff J、Kim J、Mulgrew K、Nemerow GR、Kaleko M、Stevenson SC. Adenovirus serotype 5 fiber shaft influences in vivo gene transfer in mice. Hum Gene Ther. 2003 May 20;14(8):777-87.)などの参考文献に基づいて作られるファイバー変異型アデノウイルスをもとに、抗体とある程度以上のアフィニティーをもって結合できる性質を付与したベクターも同様に本発明の目的のために使用することができる。
【0070】
なお、これらは非限定的な例示であり、他のウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、シンドビスウイル、麻疹ウイルス、センダイウイルス、レオウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、アデノ随伴ウイルスなど)の外被(エンベロープ)やキャプシドに修飾を施した変異型ウイルス、または上記各種ウイルスにZ33などの抗体結合分子ないしペプチドを任意の方法(Z33などを共有結合させる方法、Z33などをビオチンーアビジンによって架橋する方法、Z33などを化学結合させたポリエチレングリコールでウイルスを包む方法など)で結合させた修飾型のウイルスもまた、本発明の方法に使用することができる。あるいは、ウイルスベクターに限らず、リポソームベクター、センダイウイルスエンベロープベクター、プラスミドDNAネイキッド(naked)ベクターなどの非ウイルスベクターに、抗体結合分子ないしペプチドを任意の方法(抗体結合分子を化学的に共有結合させる方法、ビオチン−アビジンによって架橋させる方法、抗体結合分子を化学結合させたポリエチレングリコールでベクターを包む方法など)で結合させた修飾型の非ウイルスベクターも、本発明において有利に使用することができる。
【0071】
レポーター遺伝子としては、例えば、lacZ、EGFPなどの蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。これらのレポーター遺伝子は、当業者に周知のレポーター遺伝子アッセイ系を用いて検出することができる。例えば、lacZを発現するように調製されたFZ33ファイバー変異型アデノウイルスの感染効率は、市販の化学発光β-Galレポーターキット(例えば、Galacto Light Plus Reporter Gene Assay System(Roche社製:コード番号T1011)など)を使用して測定することができる。ルシフェラーゼ定量システムとしては、Luciferase assay system(Promega,Cat No E1500)などを使用して測定することができる。EGFPなどの蛍光タンパクは、分光光度計あるいはフローサイトメトリーによって発現量を測定することができる。
なお、上記した薬剤の標的化療法に使用するためのモノクローナル抗体の作製および精製については、さらに、Hamada H. and Tsuruo T.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、83: 7785-7789、1986、Hamada H. and Tsuruo T.、Anal. Biochem.、160: 483-488、1987、Hamada H. et al.、Cancer Res.、47: 2860-2865、1987、Hamada H. and Tsuruo T.、J. Biol. Chem.、263: 1454-1458、1988、Mishell BB、Shiigi SM eds. “Selected Methods in Cellular Immunology” WH Freeman and Co.、San Francisco、1980.(邦訳 細胞免疫実験操作法、今井ら訳、理工学社、1982)、Birch JR and Lennox ES eds. “Monoclonal antibodies: Principles and Applications.” Wiley-Liss、New York、1995、Goding JW “Monoclonal antibodies: Principles and practice.” Academic Press、London、1983、Goding JW “Monoclonal antibodies: Principles and practice.” Third ed. Academic Press、London、1996などを参照することができる。
【0072】
本発明は、さらなる態様において、腫瘍特異的抗原を同定する方法を提供する。本発明の腫瘍特異的抗原を同定する方法は、上記ハイブリドーマ由来産物から精製されたモノクローナル抗体に特異的に結合する抗原タンパク質を同定し、そのアミノ酸配列を決定する工程、および上記決定されたアミノ酸配列に対して、配列データベース上で相同性検索を行うことにより、上記抗原タンパク質を同定する工程を包含する。
上記抗原タンパク質を同定する工程は、抗原と上記モノクローナル抗体との免疫沈降、ウエスタンブロット分析等を含む。そのアミノ酸配列を決定する工程は、任意の公知のアミノ酸配列決定法(例えば、気相シークエンサー(例えば、Procise 490cLC ABI社、HP241 HP社など)を用いるアミノ酸配列の決定方法、酵素や化学分解により切断して得られたペプチドのHPLCによる分離、ゲル電気泳動によるペプチドマップ法、質量分析装置によるHPLCで分離されたペプチドのアミノ酸配列分析等)による配列決定により行われ得るが、好ましくは、質量分析によりアミノ酸配列が決定される。
【0073】
上記方法において、配列データベース上での相同性検索は、当業者に周知のプログラム(例えば、FASTA、BLAST、MASCOTなど)および配列データベース(例えば、PIR、SWISS-PROT、NCBIなど)を利用して行うことができる。
上記の腫瘍特異的抗原に対するモノクローナル抗体を同定する方法、および腫瘍特異的抗原を同定する方法により、癌細胞の標的化治療に実用化可能な標的と抗体との組み合わせを系統的に探索するための方法論が提供される。
【0074】
9.標的化療法における標的分子および抗体の配列決定およびクローニング
本発明の上記方法により、同定された抗体および標的分子のアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列は、当業者に周知の配列決定法により決定することができる。
アミノ酸配列決定法としては、気相シークエンサー(例えば、Procise 490cLC ABI社、HP241 HP社など)を用いるアミノ酸配列の決定方法、酵素や化学分解により切断して得られたペプチドのHPLCによる分離、ゲル電気泳動によるペプチドマップ法、質量分析装置によるHPLCで分離されたペプチドのアミノ酸配列分析等が使用され得る。核酸配列の決定方法としては、PCRを用いたサイクルシークエンス法などのような当業者に周知の核酸配列の決定法が使用され得る。
得られた標的分子またはそれに対する抗体のDNAの塩基配列が決定されれば、それに基づいて遺伝子工学的手法により、本発明の抗体を作製したり、他の分子との融合体を作製したりすることができる。目的とするDNAは、プラスミドベクターによるクローニング法等の当業者に周知の分子生物学的手法を用いて大量に得ることができる(例えば、Sambrook、J. et al.:Molecular Cloning.A laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989等を参照)。
【0075】
10.製剤化および製剤の投与方法
本発明の抗体を含有する治療薬、本発明の抗体が、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、および治療遺伝子を担持したウイルスベクターのうちのいずれか、またはこれらの任意の組み合わせと化学的または遺伝子工学的に結合されている治療薬は、公知の手法に基づいて製剤化することができる。
本発明の治療薬の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて薬学的に許容される担体を添加することができる。例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0076】
本発明の治療薬の剤型の種類としては、例えば、経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。有効成分としてのIL13Ra2タンパク質の機能(または発現)阻害物質は、製剤中0.1から99.9重量%含有することができる。
本発明の薬剤の有効成分の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、患者(60kgとして)に対して一日につき約0.1mg〜1,000mg、好ましくは約1.0〜100mg、より好ましくは約1.0〜50mgである。非経口的に投与する場合は、その一回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、患者(60kgに対して)、一日につき約0.01から30mg程度、好ましくは約0.1から20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。しかしながら、最終的には、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
【0077】
このようにして得られる製剤は、例えば、ヒトやその他の哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。ヒト以外の動物の場合も、上記の60kg当たりに換算した量を投与することができる。
本発明の治療剤は、対象となる細胞、組織、臓器、または癌の種類は特定のものに限定されないが、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌、肺癌(悪性中皮腫を含む)、グリオーマ、頭頸部癌、腎癌、カポジ肉腫、卵巣癌の治療に用いることが好ましい。
【0078】
また、本発明において典型的に使用されるウイルスベクター粒子は、医薬組成物の成分の一つとして、抗IL13Ra2抗体と組み合わせて、治療、特に腫瘍の治療のために使用することができる。組換えアデノウイルス粒子と抗IL13Ra2抗体との組み合わせを治療のために使用する場合は、これら単独で使用してもよいが、一般には製薬的に許容できる担体と共に使用される。そのような担体としては、既に上記したような担体、ならびに水、生理食塩水、グルコース、ヒトアルブミン等の水性等張溶液が好ましい。更に、製薬的に通常使用される添加剤、保存剤、防腐剤、香料等を添加することもできる。そのように調製した医薬組成物は、治療すべき疾病に依存して適切な投与形態、投与経路によって投与することができる。投与形態としては、例えば、乳剤、シロップ剤、カプセル、錠剤、顆粒剤、注射剤、軟膏等が挙げられる。本発明の抗IL13Ra2抗体−ウイルスベクター粒子またはこれを含む医薬組成物を治療のために投与する場合は、通常成人一人当たり1回に103〜1015個のウイルス粒子を投与するのが好ましいが、疾病の状態や標的細胞・組織の性質によって変更してよい。投与回数は、1日1回〜数回でよく、投与期間は1日〜数ヶ月以上にわたってもよく、1〜数回の投入を1セットとして、長期にわたって断続的に多数セットを投与してもよい。また、本発明において使用されるウイルスベクター粒子またはウイルスベクター核酸分子は、特定の細胞および/または組織の検出、または疾病状態の診断に使用することができる。例えば、ウイルスベクターの核酸分子に検出可能なマーカー遺伝子を組込み、これを適切な宿主細胞にトランスフェクションして得られたウイルスベクター粒子は、抗IL13Ra2抗体と組み合わせて腫瘍細胞を検出診断するために使用することができる。あるいは、抗IL13Ra2抗体に検出可能な標識を結合させて腫瘍細胞を検出診断するために使用することができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例によって本発明をより具体的に記載するが、本発明の範囲は、以下の実施例によって限定されない。
実施例1.IL13Ra2に対する標的化抗体の作製
<1>ハイブリドーマの作製
(i)マウスの免疫は以下の手順で行った。
1)5×106個のA375細胞(ヒトメラノーマ(悪性黒色腫)細胞株、ATCC CRL-1619)をDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)培地10mlで培養した。
2)CD40L発現アデノウイルス(Ax3CAhCD40L-F/RGD)およびBAFF発現アデノウイルス(Ax3CAhBAFF-F/RGD)を同時に300vp/細胞の条件で培養ディッシュに加えた。CD40Lを発現するアデノウイルスは、Tomihara K et al.、Int J Cancer 120(7): 1491-1498、2007に記載のものを用いた。また、BAFF(the B cell-activating factor of tumor necrosis factor family)を発現するアデノウイルスは、GenBankからの塩基配列情報(LOCUS NM_006573 tumor necrosis factor(ligand)superfamily、member 13b(TNFSF13B)など)に基づいてヒトBAFFのcDNAコーディング領域に対応するcDNA領域をPCRで作成し、これを用いて上記Tomihara K et al.に記載のCD40L発現アデノウイルスと同様な方法で作製した。
3)ウイルスをA375細胞に37℃で48時間感染させた。
4)ウイルス感染細胞を回収し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で2回洗浄した後、PBS500μl中に再懸濁した。
5)BALB/cマウス(6週齢)に対し、ウイルス感染細胞を2週間おきに7回、腹腔内へ免疫した。
6)8回目を最終免疫とし、ウイルス非感染A375細胞を1×106細胞/200μl PBSで静脈へ免疫した。
7)最終免疫から3日後、細胞融合によりハイブリドーマを作製した。
【0080】
(ii)免疫したマウスの脾臓細胞とミエローマ細胞との細胞融合は以下の手順で行った。
(ii)−1.脾臓細胞の準備
1)免疫済みマウスの脾臓を摘出し、すりつぶしてRPMI 1640 10%FBS(ウシ胎仔血清)(+)培地に懸濁した。
2)細胞懸濁液をセルストレイナーに通した後、1500rpmで5分間、室温にて遠心した。
3)上清を廃棄し、Tris-NH4Cl溶液(20mM Tris-HCl pH7.5、0.83% NH4Cl)を加え、室温で5分間処理した。
4)細胞懸濁液にRPMI 1640 FBS(+)培地10mlを加え、セルストレイナーに通した後、1500rpmで5分間、室温にて遠心した。
5)上清を廃棄し、脾臓細胞をRPMI 1640 FBS(-)培地10mlで再懸濁した。
【0081】
(ii)−2.ミエローマ細胞の準備
6)P3U1細胞(マウスミエローマ細胞株)を回収し、1500rpmで5分間、室温にて遠心した。
7)P3U1細胞にEDTA(0.02%)溶液を10ml加え、37℃で5分間処理した。
8)P3U1細胞懸濁液を1500rpmで5分間、室温にて遠心した。
9)上清を廃棄し、RPMI 1640 FBS(-)培地10mlで再懸濁した。
(ii)−3.細胞融合
10)脾臓細胞とミエローマ細胞を5:1の割合で混合した。
11)混合細胞液を1500rpmで5分間、室温にて遠心した。
12)RPMI 1640 FBS(-)培地20mlで細胞を2回洗浄した。
13)ペレットを37℃に保温した状態で、PEG(ポリエチレングリコール)1mlを加え攪拌した。
14)細胞とPEGの混合溶液に、RPMI 1640 FBS(+)培地(10%FBSおよびHAT media supplement 50x(Sigma)を含む)10mlを加えた。
15)融合細胞を1500rpmで5分間、室温にて遠心した。
16)上清を廃棄し、融合細胞をHAT培地200mlで再懸濁した。
17)融合細胞を96ウェルプレート10枚に200μl/ウェルで播種した。
18)37℃で7〜10日間培養した。
【0082】
(iii)ハイブリドーマのスクリーニングは以下の通りに行った。
(iii)−1.ウイルス感染
1)A375細胞を、96ウェルプレートに3×103細胞/ウェルで播種し、37℃で48時間培養した。
2)細胞を150μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。
3)各ウェルに対して、各ハイブリドーマ培養上清50μlを加え、4℃で1時間反応させた。
4)150μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。
5)アデノウイルスAx3CAZ3-FZ33(抗体に結合するようにZ33ファイバーが改変されたβ−ガラクトシダーゼ発現アデノウイルス、非特許文献 参照)を3×106vp/100μl(1×103vp/細胞)の濃度になるようにDMEM FBS(-)培地で希釈し、この希釈溶液を100μl/ウェルで加えた。
6)アデノウイルスを4℃で1時間反応させた。
7)150μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。
8)DMEM FBS(+)培地を100μl/ウェルで加え、37℃で24時間培養した。
【0083】
(iii)−2.Galacto-Light Plus Reporter Gene Assay System(Applied Biosystems)を使用したβ−Galレポーター遺伝子アッセイ
9)上記の通りウイルス感染処理したA375細胞を200μl/ウェルのPBSで洗浄した。
10)Lysis Solutionを50μl/ウェルで加え、室温で10分間静置した。
11)Galacton-PlusをGalacto Reaction Buffer Diluent で100倍に希釈し、この希釈したGalacton-Plus溶液を35μl/ウェルでWhite microwell SH 96 well plate(Nunc)へ入れた。
12)11)でGalacton-Plus溶液を加えた各ウェルに対し、10)で得られた細胞溶解液10μlを加え、室温で1時間反応させた。
13)Accelerator IIを150μl/ウェルで加え、マルチラベルカウンタWallac 1420 ARVOsx(Perkin Elmer)を用いて化学発光を5秒間測定し、1秒あたりの平均値をRLU(発光量)として表した。
【0084】
上記の通りに行ったハイブリドーマ群のスクリーニングにおいて、測定値(RLU)が群全体(最小値179RLU、中央値904LU、最大値45381RLU)の中で、5000RLU以上のクローンを選抜した。まず、1次スクリーニングとして、一回の細胞融合で得られた960ウェルのハイブリドーマウェルのうち134ウェルの陽性ウェルを選抜した。さらに、2次スクリーニングとして、1次スクリーニングと同様の手法により、デュプリケート(duplicate)でアッセイを行って、両方の測定値が5000RLU以上のウェルを陽性とし、1次スクリーニングで得られた134ウェルから64ウェルの陽性ウェルを選抜した。選抜したクローンは2回サブクローニングを行い、モノクローナルなハイブリドーマ株9株を樹立した。
以下の実施例では、上記で得られたハイブリドーマ9株のうちの1株から得られるモノクローナルNS-66抗体(以下、NS-66抗体またはNS-66抗体と記す)を中心に記載する。NS-66抗体のサブクラスは、マウスIgG2bであった。よって、以下の実験では、抗体の同一サブクラスコントロールとして、eBioscience社から市販されているマウスIgG2bコントロール抗体eBMG2bを用いた。
【0085】
<2>NS-66抗体の抗原分子の決定
(i)ビオチンラベルした細胞表面タンパク質のNS-66抗体を用いた免疫沈降は、以下の手順で行った。
1)5×106個のA375細胞を回収し、PBSで3回洗浄した。
2)EZ-Link Sulfo-NHS-Biotin(PIERCE)を0.1mg/mlの濃度でPBSに懸濁した。
3)A375細胞をBiotin/PBS溶液中、室温で30分間ローテートした。
4)A375細胞を100mMグリシン/PBS溶液25mlで2回洗浄した。
5)A375細胞をPBS 25mlで3回洗浄した。
6)A375細胞を溶解バッファー(150mM NaCl、50mM Tris-HCl pH7.6、1% NP-40 + Protease inhibitor、Complete EDTA free(Roche)1粒/50ml)2ml中に再懸濁し、4℃で30分間処理した。
7)Protein G Sepharose(Protein G Sepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare))のバッファーを溶解バッファーに置換した。
8)Protein G Sepharose/溶解バッファー(50%スラリー)300μlを、6)で得られた細胞溶解液に加え、4℃で1時間ローテートした。
9)4℃で5分間遠心し、上清を回収した。
10)上清にNS-66抗体及びコントロール抗体をそれぞれ3μgずつ加え、4℃で1時間ローテートした。
11)Protein G Sepharose/溶解バッファー(50%スラリー)60μlを加え、4℃で2時間ローテートした。
12)溶解バッファー1mlでProtein G Sepharoseを6回洗浄した。
13)1×SDSサンプルバッファー/5% 2-ME(2−メルカプトエタノール)buffer(62.5mM Tris-HCl(25℃でpH6.8)、2%(w/v)SDS、10% glycerolおよび0.01%(w/v)phenol red.)でProtein G Sepharoseを再懸濁した。
14)100℃で5分間サンプルを処理した後、溶液を回収し、SDS−PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)のためのサンプルとした。
【0086】
(ii)次いで、SDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングを以下の手順で行った。
1)上記(i)で調製したSDS−PAGEサンプルをReady Gels J 5-20%(BioRad)を用いて20mAで泳動した後、ゲルよりメンブレンへ0.1mA/cm2でブロッティングした。
2)メンブレンをPBS-T(PBS(-)-0.05% Tween 20)で5分間洗浄した後、1時間ブロッキングを行った。
3)メンブレンをPBSTで5分間3回洗浄した後、メンブレンをStreptavidin-horseradish peroxidase conjugate(Amersham)(PBSTで2000倍に希釈して使用)と1時間反応させた。
4)メンブレンをPBSTで10分間4回洗浄した後、ECL western blotting detection reagents(Amersham)およびHyperfilm ECL(Amersham)を用いて目的のバンドを検出した。
結果を図1に示す。同図パネルAおよびBは、上記の手順によりビオチンラベルしたA375細胞をNS-66抗体で免疫沈降して得られた免疫沈降物を、それぞれ2-ME非添加(パネルA)あるいは2-ME添加(パネルB)でSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングにより解析した結果である。2-ME非添加(パネルA)では、分子量56kDaのバンドが、2-MEを添加したサンプル(パネルB)では分子量59kDaのバンドが検出された。
【0087】
(iii)上記(ii)で同定された56〜59kDaのバンドとして現れるNS-66抗体の抗原タンパク質について、質量分析を行うため、以下の手順で大量精製を行った。
(iii)−1.抗体結合ビーズ(抗体カラム)の作製
Seize X protein G Immunoprecipitation kit(PIERCE)を用いて以下の通りに行った。
1)Protein G Sepharose(50%スラリー)400μlをHandee Spin Cup Columnへ加えた。
2)Protein G SepharoseをBinding/Wash Buffer1 400μlで2回洗浄した。
3)NS-66抗体及びコントロール抗体50μgを350μlのBinding/Wash buffer1に加えた。
4)3)で得られた抗体懸濁液を、2)で洗浄したProtein G Sepharoseへ加え、1時間ローテートした。
5)Protein G SepharoseをBinding/Wash Buffer1 500μlで3回洗浄した。
6)Protein G SepharoseをBinding/Wash Buffer1 400μlで再懸濁した。
7)DSS溶液(DSS 25μl/DMSO 80μl)を、6)で得られたProtein G Sepharose溶液へ加え、得られた混合溶液を1時間ローテートした。
8)Protein G Sepharoseを500μlのQuenching/Wash Buffer 2で2回洗浄した。
9)ImmunoPure Elution Buffer 500μlでProtein G Sepharoseを洗浄した。
10)Protein G Sepharoseを500μlのQuenching/Wash Buffer 2で洗浄した。
【0088】
(iii)−2.免疫沈降
11)2×109個のA375細胞を回収し、PBSで6回洗浄し、40mlのbuffer A(150mM NaCl、50mM Tris-HCl pH7.6)で再懸濁した。
12)buffer B(2% Triton x-114/buffer A)を1ml加え、4℃で1時間ローテートした。
13)細胞懸濁液を14000rpmで、40分間、4℃にて遠心した。
14)上清を回収し、30℃で10分間処理した後、室温で10分間静置した。
15)350gで5分間、室温にて遠心した。
16)下層を回収して、Buffer Aへ再懸濁し、30℃で10分間処理した後、室温で10分間静置した。
17)懸濁液を350gで5分間、室温にて遠心した。
18)下層を回収し、buffer IP(1% NP40/buffer A)で40mlに調整した。
19)上記(iii)−1で得られた抗体/ビーズ溶液1mlを、18)で得られた溶液40mlに加え、4℃で12時間ローテートした。
20)Buffer IP 10mlでビーズを6回洗浄した。
21)回収したビーズからImmunoPure Elution Buffer(PIERCE)100μlでサンプルを溶出した。
【0089】
(iii)−3.サンプルの濃縮
SDS-PAGE clean-UP kit(Amersham)を用いて以下の通りに行った。
22)上記(iii)−2で得られた溶出サンプルに、precipitant 300μlを加え、4℃で15分間処理した。
23)サンプルにco-precipitant 300μlを加えた。
24)サンプルを15000rpmで5分間遠心した。
25)沈殿を回収し、DDW 25μlで再懸濁した。
26)サンプルにWash buffer 1mlを加え、さらにAdditive 5μlを加えた。
27)サンプル懸濁液を-20℃で30分間処理し、15000rpmで5分間遠心した。
28)上清を捨てて5分間風乾し、沈殿をBuffer I 5μlで再懸濁し、4℃で5分間静置した。
29)サンプルにBuffer II 1μlを加え、4℃で5分間静置した。
30)サンプルにSDS-PAGEサンプルバッファー6μlと2-ME 0.3μlとを加え、室温で5分間静置した後、100℃で5分間処理し、銀染色用のSDS-PAGEサンプルとした。
【0090】
(iii)−4.銀染色
銀染色MSキット(wako)を用いて以下の通りに行った。
31)上記(iii)−3で得られたサンプルについてSDS−PAGEを行い、泳動後のゲルを固定液1 100mlで20分間振とうした。
32)ゲルを固定液2 100mlで10分間振とう後、DDW 100mlで10分間振とうした。
33)ゲルを増感液100mlで1分間振とう後、DDW 100mlで1分間、2回振とうした。
34)ゲルを染色液100mlで20分間振とうした後、DDW 100mlで1分間振とうした。
35)ゲルを現像液100mlで現像し、停止液10mlで反応を停止した。
36)ゲルをDDW 100mlで1分間、3回洗浄した後、ゲルから目的バンドを切り出し、質量分析に用いた。
結果を図1のパネルCに示す。上記の手順により、NS-66抗体の認識する56〜59kDaの抗原を同定するため、A375細胞を大量に培養し、NS-66抗体で免疫沈降し、銀染色を行ったところ、58kDaの位置にバンドが確認された(66のレーン)。一方、コントロールのIgG(P3(eBioscience))のレーンでは、これに対応する特異的なバンドはみられなかったことから、この58kDaのバンドを切り出し、質量(MS)分析を行った。
なお、図1のパネルA、BおよびCにおけるバンドサイズの差は誤差の範囲と考えられる。
【0091】
(iii)−5.質量分析
質量分析は株式会社日立サイエンスへ依頼解析した。条件は以下のとおりである。
使用機種 MALDI-Qq-TOF MS/MS QSTAR Pulsar I(Applied Biosystems)
データーベース検索ソフト MASCOT(Matrix Science)
データーベース NCBIInr(Taxonomy: human)
SDS-PAGE分離ゲルをトリプシン消化し脱塩後、TOF測定し、データーベース検索を行った。
質量分析の結果を図2に示す。同図に示す通り、ケラチンや、トリプシンと異なる特異的なピークが2本得られた(ピーク1:921.5016、およびピーク2:1206.7056)。データベース検索した結果、ピーク1の質量に対応するアミノ酸配列はQLCFVVR(配列番号24)、ピーク2の質量に対応するアミノ酸配列はWSIPLGPIPAR(配列番号25)であった。ピーク1はヒトIL13Ra2の303番目から309番目のアミノ酸配列と一致し、また、ピーク2はヒトIL13Ra2の258番目から268番目のアミノ酸配列と一致した。したがって、図1のパネルCのゲルから切り出された58kDaのバンドは、ヒトIL13Ra2タンパク質を含むことが示された。
【0092】
<3>IL13Ra2を過剰発現させた細胞株におけるNS-66抗体の反応性の確認
NS-66抗体の抗原はIL13Ra2であることを証明するため、RT−PCR法により得たヒトIL13Ra2のcDNAをpTARGET発現ベクターに組み込んで、プラスミドpTARGET-IL13Ra2を作製し、このプラスミドDNAを293T細胞またはCHO細胞に遺伝子導入することにより過剰発現させ、ヒトIL13Ra2を過剰発現する細胞で特異的にNS-66抗体の反応性が高まることをFACS解析により確認した。
実験手順は以下の通りである。
(i)RT−PCR法によるヒトIL13Ra2のcDNA合成
(i)−1.全RNAの抽出を、RNeasy Mini kit(QIAGEN)およびQIAshredder(QIAGEN)を用いて以下の通りに行った。
1)6.4×106個のA375細胞を回収しPBSで2回洗浄した。
2)細胞をRLT溶液350μlで再懸濁し、3.5μlの2-MEを加えた。
3)細胞懸濁液をQIAshredderにアプライし、15000rpmで2分間遠心した。
4)細胞懸濁液に70%エタノールを350μl加え、キット添付のカラムにアプライした。
5)10000rpm室温で15秒間遠心した。
6)カラムにRW1を700μl加え、10000rpm室温で15秒間遠心した。
7)カラムをRPE溶液500μlで2回洗浄した。
8)DEPC DW(ジエチルピロカルボネート処理水)50μlで全RNAを溶出した。
【0093】
(i)−2.逆転写は、Super script RT(RNase H-)(Invitrogen)を用いて以下の手順で行った。
9)全RNA 200ng、Oligo(dt)12-18 200ng/24μl DEPC DWを65℃で10分間加熱した。
10)全RNA溶液を4℃で2分間静置した。
11)全RNA溶液24μlに5×RTB 8μl、10mM dNTPs 2μl、100mM DTT 4μl、Super script RT(RNase H-)2μlを加えた。
12)42℃で30分間処理後、94℃で3分間処理した。
【0094】
(i)−3.ヒトIL13Ra2のcDNAおよび発現ベクターの作製
ヒトインターロイキン13受容体α2(interleukin 13 receptor、alpha 2)のcDNAを作製するためのプライマーは、GenBank accession number BC033705に記載のHomo sapiens interleukin 13 receptor、alpha 2、mRNA、complete cdsを参照し、
センスプライマー#2275 hIL13Ra2(F):
5'-ATCTCGGAGAAATGGCTTTCGTTTGC-3'(配列番号1)
アンチセンスプライマー#2276 hIL13Ra2(R):
5'-CCATGTCTCTTGATATGGAAAGTCTTC-3'(配列番号2)
を使用した。
13)A375 cDNA 1μl、10×buffer 5μl、primer(50pmol/μl)各1μl、dNTPs 5μl、Blend Taq-Plus-(TOYOBO)1.25μl、DW 35.75μlを混合した(計50μl)。
14)混合液を94℃、2分を1サイクル、94℃、30秒間および68℃、90秒間を35サイクル、68℃、5分間を1サイクルで反応させた。
15)得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分離し、IL13Ra2 cDNAに該当するバンドを切り出し、精製した。
16)IL13Ra2 cDNA(50ng/μl)5μl、pTARGET vector(TOYOBO)1μl、10×Ligase buffer 1μl、T4 DNA Ligase(New England Biolabs)1μl、DW 2μlを混合し、16℃で5時間反応させた。
17)DH5α(TOYOBO)に16)で得られたライゲーション産物を導入し、形質転換した。
18)形質転換されたDH5αから得られたプラスミドDNA(pTARGET-IL13Ra2)を制限酵素消化による制限酵素切断部位マップ作成により確認した。また、pTARGET-IL13Ra2に組み込まれたcDNAの配列を決定した。
pTARGET-IL13Ra2に組み込まれたヒトIL13Ra2をコードするcDNAの塩基配列(1179bp)は、配列番号3の通りであった。また、このcDNA配列によりコードされるヒトIL13Ra2のアミノ酸配列(380アミノ酸)は配列番号4の通りである。
【0095】
(ii)リポフェクション法による培養細胞への遺伝子導入発現は以下の手順で行った。
1)293T細胞(ヒト胎児腎臓由来、SV40T抗原トランスフェクタント)及びCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)を6ウェルプレートに5×104細胞/ウェルの密度で播種した。
2)各細胞をDMEM FBS(+) ペニシリン/ストレプトマイシン(+)培地中、37℃で24時間培養した。
3)プラスミド(コントロールプラスミドpcDNA3.1(+)(Invitrogen)および上記(i)で得られたpTARGET-IL13Ra2)を4μgずつOPTI-MEM 250μlに懸濁し、室温で5分間静置した。
4)Lipofectamin 2000(Gibco)10μlをOPTI-MEM(Gibco)250μlに懸濁した。
5)3)で得られたDNA/OPTI-MEM懸濁液と、4)で得られたLipofectamin 2000/OPTI-MEM懸濁液とを混合し、室温で30分間静置した。
6)各細胞の培地をDMEM FBS(+)ペニシリン/ストレプトマイシン(-)培地2mlと交換した。
7)プラスミドDNA/Lipofectamin 2000/OPTI-MEM混合液の全量を各細胞へ滴下し、37℃で48時間培養の後、FACS解析に使用した。
【0096】
(iii)FACS解析は以下の手順で行った。
1)回収した細胞を2% FBS/PBS buffer 1mlで2回洗浄した。
2)NS-66抗体及びコントロール抗体を2% FBS/PBS bufferで100倍に希釈した。
3)希釈抗体液100μlで細胞を再懸濁し、4℃で30分間反応させた。
4)細胞を2% FBS/PBS buffer 1mlで2回洗浄した。
5)2次抗体Polyclonal Goat Anti-Mouse Immunoglobulins/RPE Goat F(ab')2(Dako)を2% FBS/PBS bufferで100倍に希釈した。
6)細胞を2次抗体希釈液100μlで再懸濁し、4℃で30分間、遮光下において反応させた。
7)細胞を2% FBS/PBS buffer 1mlで2回洗浄し、2% FBS/PBS buffer 400μlで再懸濁した。
8)細胞懸濁液にヨウ化プロピジウム(0.1mg/ml)1μlを加えた。
9)フローサイトメーターとしてFACSCalibur(Becton、Dickinson)を用いて、ヨウ化プロピジウムによる蛍光を除外し、RPEの蛍光を測定した。
【0097】
結果を図3AおよびBに示す。図3Aにおいて、パネル上段は、IgGと各トランスフェクタントとの反応性、パネル下段は、NS-66抗体と各トランスフェクタントとの反応性を示す。また、controlは、遺伝子導入していない293T細胞、pcDNA3.1は、コントロールプラスミドpcDNA3.1を導入した293T細胞、pTARGET-IL13Ra2は、ヒトIL13Ra2を発現するプラスミドpTARGET-IL13Ra2を導入した293T細胞のFACS解析結果それぞれを示す。
パネル左上(IgG/control):遺伝子非導入細胞ではコントロール抗体は反応しない。
パネル左下(66/control):遺伝子非導入細胞ではNS-66抗体は反応しない。
パネル中上(IgG/pcDNA3.1):コントロールDNAを導入した細胞ではコントロール抗体は反応しない。
パネル中下(66/pcDNA3.1):コントロールDNAを導入した細胞ではNS-66抗体は反応しない。
パネル右上(IgG/pTARGET-IL13Ra2):ヒトIL13Ra2発現293T細胞ではコントロール抗体は反応しない。
パネル右下(66/pTARGET-IL13Ra2):ヒトIL13Ra2発現293T細胞ではNS-66抗体は強陽性(44.8%)反応を示した。
したがって、293TトランスフェクタントにおけるFACS解析結果より、NS-66抗体の抗原はIL13Ra2であることが示された。
【0098】
図3Bにおいても同様に、パネル上段は、IgGと各トランスフェクタントとの反応性、パネル下段は、NS-66抗体と各トランスフェクタントとの反応性を示す。また、controlは、遺伝子導入していないCHO細胞、pcDNA3.1は、コントロールプラスミドpcDNA3.1を導入したCHO細胞、pTARGET-IL13Ra2は、ヒトIL13Ra2を発現するプラスミドpTARGET-IL13Ra2を導入したCHO細胞のFACS解析結果をそれぞれ示す。図3Bの結果から理解される通り、遺伝子導入する細胞としてCHO細胞を用いた場合も、図3Aと同様、ヒトIL13Ra2を過剰発現するCHO細胞でNS-66抗体を反応させた場合(パネル右下(66/pTARGET-IL13Ra2))のみ陽性(5.26%)反応が観察され、CHOトランスフェクタントにおいてもNS-66抗体の抗原がIL13Ra2であることが示された。
以上の結果より、NS-66抗体の抗原はIL13Ra2(IL13Ra2の細胞外ドメイン)であることが確定した。なお、293T細胞及びCHO細胞の各トランスフェクタントにおける反応性の差は、293Tは極めてトランスフェクション効率が高く、ほぼ100%の細胞に遺伝子導入が達成できるのに対し、CHO細胞では、20〜30%のトランスフェクション効率であることから、遺伝子導入効率の差に起因するものと考えられる。
【0099】
実施例2.NS-66抗体を用いた各種培養細胞株でのIL13Ra2の発現解析
NS-66抗体を使用したFACS解析により、以下の各種培養細胞(株)におけるIL13Ra2の発現を調べた。
・ヒトメラノーマ細胞株:A375(ATCC CRL-1619)、RPMI7951(ATCC HTB-66)、MMAc(RIKEN RCB0808)
・ヒト白血病細胞株:ARH77(J Biol Chem,259,14783-7,1984)
・ヒト肺癌細胞株:LCAM1(Riken RCB1425)、H345・ヒト悪性中皮腫細胞株:MSTO-211H(ATCC CRL-2081)
・ヒト骨肉腫細胞株:OS2000
・ヒト前立腺癌細胞株:PC3
・ヒト悪性神経膠腫(Glioma)細胞株:A172、U251
・ヒト正常細胞(Normal cell):hMSC(human Mesenchymal stem cells(ヒト間葉系幹細胞)、Cambrex社)、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞、Cambrex社)、PBMC(ヒト末梢血単核細胞、ボランティアより採取)、Platelet(ヒト血小板、ボランティアより採取)
【0100】
実験の手順は以下の通りに行った。
1)回収した細胞を2% FBS/PBS buffer 1mlで2回洗浄した。
2)NS-66抗体及びコントロール抗体を2% FBS/PBS bufferで100倍に希釈した。
3)希釈抗体液100μlで細胞を再懸濁し、4℃で30分間反応させた。
4)細胞を2% FBS/PBS buffer 1mlで2回洗浄した。
5)2次抗体(Polyclonal Goat Anti-Mouse Immunoglobulins/RPE Goat F(ab')2(Dako))を2% FBS/PBS bufferで100倍に希釈した。
6)細胞を2次抗体希釈液100μlで再懸濁し、4℃で30分間、遮光下において反応させた。
7)細胞を2% FBS/PBS buffer 1mlで2回洗浄し、細胞を2%FBS/PBS buffer 400μlで再懸濁した。
8)細胞懸濁液にヨウ化プロピジウム(0.1mg/ml)1μlを加えた。
9)フローサイトメーターとしてFACS Calibur(Becton、Dickinson)を使用して、ヨウ化プロピジウムによる蛍光を除外し、RPEの蛍光を測定した。
【0101】
結果を図4に示す。調査したいずれの腫瘍細胞株もIL13Ra2陽性であった。一方、正常細胞はいずれも陰性であった。以上の結果から、メラノーマ細胞、肺癌細胞(悪性中皮腫細胞を含む)、骨肉腫細胞の他、白血病細胞がIL13Ra2を発現していることが新たに見出された。また、従来からIL13Ra2の発現が知られているグリオーマおよび前立腺癌においてもIL13Ra2の発現が確認された。これは、本発明の標的化抗体を用いた診断・治療が、グリオーマおよび前立腺癌のみならず、今回新たにIL13Ra2の発現が見出された癌に対しても有効であることを示すものである。
【0102】
実施例3.NS-66抗体を用いたメラノーマ細胞への遺伝子導入
IL13Ra2を発現するメラノーマ細胞(A375)に対し、Z33ファイバーを改変したLacZ発現アデノウイルス(Ax3CAZ3-FZ33)とNS-66抗体を使用した場合の遺伝子導入効率について、β−Galレポーター遺伝子アッセイにより検討した。コントロールIgG抗体としてeBMG2bを使用し、市販の抗IL13Ra2モノクローナル抗体である83824(R&D)、83807(R&D)、B-D13(Diaclone)についてもその遺伝子導入効率を調べた。
実験手順は以下の通りに行った。
【0103】
<1>ウイルス感染
1)A375細胞を、96ウェルプレートに3×103細胞/ウェルの密度で播種し、37℃で48時間培養した。
2)細胞を150μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。
3)各ウェルに対して、各抗体の希釈液100μl(最終濃度がそれぞれ3、10、30、100、300、1000ng/ウェルとなるように希釈)をそれぞれ加え、4℃で1時間反応させた。
4)150μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。
5)アデノウイルスAx3CAZ3-FZ33を 3x106vp/100μl(300vp/細胞)の濃度になるようにDMEM FBS(-)培地で希釈し、この希釈溶液を100μl/ウェルで加えた。
6)アデノウイルスを4℃で1時間反応させた。
7)150μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。
8)DMEM FBS(+)培地を100μl/ウェルで加え、37℃で24時間培養した。
【0104】
<2> Galacto-Light Plus Reporter Gene Assay System(Applied Biosystems)を使用したβ−Galレポーター遺伝子アッセイ
9)上記の通りウイルス感染処理したA375細胞を150μl/ウェルのPBSで洗浄した。
10)Lysis Solutionを50μl/ウェルで加え、室温で10分間静置した。
11)Galacton-PlusをGalacto Reaction Buffer Diluent で100倍に希釈し、この希釈したGalacton-Plus溶液を35μl/ウェルでWhite microwell SH 96 well plate(Nunc)へ入れた。
12)11)でGalacton-Plus溶液を加えた各ウェルに対し、10)で得られた細胞溶解液15μlを加え、室温で1時間反応させた。
13)Accelerator IIを150μl/ウェルで加え、マルチラベルカウンタWallac 1420 ARVOsx(Perkin Elmer)を用いて化学発光を5秒間測定し、1秒あたりの平均値をRLU(発光量)として示した。
【0105】
結果を図5に示す。各抗体による遺伝子導入効率の測定結果を、縦軸に遺伝子発現の相対量をGene Expression(RLU対数)とし、横軸を抗体量として表した。コントロール抗体及び83834抗体では抗体濃度依存的な遺伝子導入効率の上昇は観察されなかった。一方、NS-66抗体、83807、及びB-D13抗体では抗体濃度依存的な遺伝子導入効率の上昇が観察された。NS-66抗体は最も低濃度で遺伝子導入活性が現れ、100ng/ウェルでプラトーに達した。ED50値は、NS-66抗体では16.5ng/ウェル、B-D13では71.0ng/ウェル、83807では310ng/ウェルであった。ED50値を互いに比較したところ、NS-66抗体はB-D13に対して4.30倍、83807に対して18.8倍高い遺伝子導入効率を示すことが明らかになった。
以上の結果から、本願発明によるNS-66抗体は、市販の他の抗IL13Ra2抗体と比べて、メラノーマ等の癌の標的化治療・診断に格段に適した特異性の高い抗体であることが理解される。
【0106】
実施例4.NS-66抗体を用いたIL13Ra2選択的なイムノトキシン導入による、メラノーマ細胞に対する標的化治療
IL13Ra2を発現するメラノーマ細胞(A375)に対してNS-66抗体を使用した場合のイムノトキシン(サポリン結合IgG)導入効率について、細胞生存率の測定により検討した。コントロールIgG抗体としてeBMG2bを使用し、市販の抗IL13Ra2モノクローナル抗体である83824(R&D)、83807(R&D)、B-D13(Diaclone)についてもその導入効率を調べた。
実験は以下の通りに行った。
1)対数増殖期にあるA375細胞を培養シャーレからトリプシン−EDTA溶液を使用して回収した。
2)遠心して上清を廃棄し、細胞をDMEM培地(10% FBS含有)に懸濁した。
3)DMEM培地中の細胞濃度を測定し、DMEM培地(10% FBS含有)を使用して3×104細胞/mlとなるように調整した。
4)細胞を96ウェルプレート(Nunc)に100μl/ウェル(3×103細胞/ウェル)で播種した。
5)各濃度に希釈した抗体(コントロールIgG抗体であるeBMG2b、NS-66抗体、市販の抗IL13Ra2モノクローナル抗体である83834(R&D)、83807(R&D)、B-D13(Diaclone))を100μl/ウェルで各ウェルに添加した。
6)Saporin結合2次抗体(Saporin-conjugated anti-mouse IgG(Mab-ZAP))(5μg/ml)を50μl/ウェルで添加した(最終濃度1μg/ml)。
7)37℃で72時間培養した。
8)培地をアスピレーターで除去し、WST-1(TAKARA)溶液を100μl/ウェルで各ウェルに添加した。
9)プレートリーダーで415nmにおける吸光度を測定した。
【0107】
結果を図6に示す。各抗体による細胞内へのイムノトキシン導入効率の測定結果を、縦軸に細胞生存率(%)、横軸に抗体濃度として表した。
コントロール抗体及び83834抗体では抗体濃度依存的なイムノトキシン導入による細胞生存率の低下は観察されなかった。一方、NS-66抗体、83807、及びB-D13抗体では抗体濃度依存的なイムノトキシン導入により細胞生存率の低下が観察された。NS-66抗体を用いた場合には、極めて低濃度で細胞障害作用が現れ、3ng/mlで70%の細胞が傷害されることが示された。プラトーに達した。ED75値を互いに比較したところ、NS-66抗体はB-D13に対して約20倍、83807に対しては、約25倍高い細胞内への導入効率を示すことが明らかになった。
以上の結果から、本願発明によるNS-66抗体は、市販の他の抗IL13Ra2抗体と比べて、メラノーマ等の癌細胞において極めて高い効率で細胞内へ取り込まれる特異性の高い抗体であり、イムノトキシン等の薬剤を使用した標的化治療に対して非常に有効なものであることが理解される。
【0108】
実施例5.rhIL13-PE40の殺細胞効果
IL13Ra2が、メラノーマなどにおける標的分子として利用できるか否かを評価するために、緑膿菌外毒素(PE)に組換えヒトIL13(rhIL13)を標的化分子として付加した融合タンパク質rhIL13-PE40を作製し、IL13Ra2発現または非発現細胞への殺細胞効果を検討した。
<1>hIL13のクローニング
6ウェルプレートを抗CD3抗体(OKT3)20μg/mlで16時間コーティング処理し、これにヒト末梢血単核球を3×106/ウェルの密度で播種し、37℃で24時間インキュベート後、細胞を回収した。回収した細胞からRNeasy Mini Kit(QIAGEN社)でtotal RNAを調製した。得られたtotal RNAよりSuperscript II Reverse Transcriptase(Invitrogen社)を用いてcDNAの合成を行った。このcDNAを鋳型にして、#2293、#2294の各プライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。反応条件は以下のとおりである。
反応液組成
【表1】

【0109】
PCR条件
【表2】

プライマー
#2293: cgggatccGGCCCTGTGCCTCCCTCTACAG(センス:配列番号5)
#2294: CCaagcttGTTGAACTGTCCCTCGCGAAAAAGTT(アンチセンス:配列番号6)
PCRにより増幅した352bpのDNAを制限酵素BamHIとHindIIIで消化後、2%アガロースにて電気泳動・分離し、UVトランスイルミネーター上にて該当する部分のDNAをアガロースより切り出した。切り出したゲル内のDNAをMiniElute Gel Extraction Kit(QIAGEN: Cat. No. 28604)にて精製後クローニングベクターpGEM(登録商標)-T Easyにライゲーションし、これを大腸菌DH5αに形質転換しpGEM(登録商標)-T Easy-rhIL13を作製した(図7参照)。塩基配列をABI PRISM(登録商標)3100 Genetic Analyzerにて解析したところ、ヒトIL13の成熟型タンパク質(mature IL-13)をコードするcDNAの塩基配列(配列番号7、GenBankアクセッション番号NM_002188)を確認した。なお、対応するアミノ酸配列(112aa)は配列番号8で表される。
【0110】
<2>PE:Pseudomonas aeruginosa exotoxin(緑膿菌外毒素)のクローニング
PA103(E型)のゲノムDNA(札幌医科大学医学部微生物学教室藤井暢弘教授より供与)を鋳型にして、PE40(Pseudomonas exotoxin A のドメイン2および3の部分)をコードするDNAフラグメントを、最初にプライマー#2291/#2292でPCR(1st)したのち、内側にアニールするプライマー#2295/#2296で再度PCR(2nd)を行うことにより得た(nested PCR)。反応条件を以下に示す。
反応液組成
【表3】

PCR条件
【表4】

【0111】
プライマー
#2291: atcaaacccacggtcatcagtcatcg(センス、配列番号9)
#2292: catcaggaaaacctgatgtatggcca(アンチセンス、配列番号10)
#2295: ccaagcttGGCGGCAGCCTGGCCGCGCT(センス、配列番号11)
#2296: ggggtaccTTACTTCAGGTCCTCGCGCGGCG(アンチセンス、配列番号12)
PCRにより増幅した1400bpのDNAを精製後クローニングベクターpGEM(登録商標)-T Easyにライゲーション、これを大腸菌DH5αに形質転換しpGEM(登録商標)-T Easy-PE40を作製した。塩基配列をABI PRISM(登録商標)3100 Genetic Analyzerにて解析したところ、PE40をコードするcDNA断片(1086bp)の塩基配列(配列番号13、GenBankのアクセッション番号K01397)確認した。なお、対応するアミノ酸配列(361aa)は配列番号14で表される。
【0112】
<3>pQE30-hIL13-PEの作製
プラスミドpQE30(QIAGEN社)を制限酵素BamHI/KpnIにて消化して得たフラグメント1、pGEM(登録商標)-T Easy-hIL13を制限酵素BamHII/HindIIIにて消化して得たフラグメント2、およびpGEM(登録商標)-T Easy-PE40を制限酵素HindIII/KpnIにて消化して得たフラグメント3を3パートライゲーションでクローニングし、pQE30hIL13PE40を得た。融合タンパク質をコードする部分BamHIからKpnIサイトまでの塩基配列(1440bp)を配列番号15、これによってコードされる融合タンパクのアミノ酸配列(477aa)を配列番号16として示す。同配列中、第1〜2アミノ酸(GS)および第115〜116アミノ酸(KL)はそれぞれBamHI、HindIIIに対応する人工的なアミノ酸配列である。なお、pQE30に連結しているため、N末端には6×Hisタグが付加される。得られたpQE30hIL13PE40を大腸菌M15(pREP4)に形質転換しpQE-hIL13-PEを作製した(図8参照)。
【0113】
<4>rIL13-PEの発現確認
大腸菌M15(pREP4)-QE30-rIL13-PE40にIPTGを添加し、rIL13-PEを発現誘導した。IPTG誘導ありまたはなしのサンプルをSDS-PAGEにて泳動した。誘導したサンプルの52kDaにrIL13-PEの発現が確認できた(図9参照)。
<5>ネイティブ条件下でのNi-NTAによるrhIL13-PE40の精製
大腸菌M15(pREP4)-QE30-rIL13-PE40をLB培地500mlにて液体培養し、これにIPTGを添加してrIL13-PEを発現誘導後、遠心機にて集菌した。集菌した大腸菌を可溶化バッファー(50mM NaH2PO4・2H2O、300mM NaCl、10mMイミダゾール)にて懸濁し、ソニケーション処理で菌を粉砕後、遠心上清をNi-NTAにて精製を行い、250mMおよび500mMの各イミダゾール濃度にて回収した。その後、各分画を透析膜にてPBS(-)と置換した。各分画のタンパク濃度を測定するために、BSAを標準としてSDS-PAGE後CBB染色を行った(図10参照)。この結果、250mMイミダゾールで回収した場合、300μg/ml(1ml)のrIL13-PEが得られた。
【0114】
<6>rhIL13-PE40による293T-Target-IL13Ra2への殺細胞効果の検討
293T細胞を10cmディッシュに1.5x106細胞の密度で播種し、DMEM FBS(+)ペニシリン/ストレプトマイシン(+)培地中、37℃で24時間培養した。一方で、プラスミド(コントロールプラスミド pcDNA3.1(+)(Invitrogen)または実施例2<3>(i)で得られたpTARGET-IL13Ra2)を、4μgずつOPTI-MEM 250μlに懸濁し、室温で5分間静置したものと、Lipofectamin 2000(Gibco)10μlをOPTI-MEM(Gibco)250μlに懸濁したものとを混合し、室温で30分間静置した。細胞の培地をDMEM FBS(+)ペニシリン/ストレプトマイシン(-)培地2mlと交換してから、プラスミドDNA/Lipofectamin 2000/OPTI-MEM混合液の全量を各細胞へ滴加し、37℃で48時間培養し、293T-cDNA3.1および293T-TARGET-IL13Ra2を得た。実施例2<3>(iii)と同様に293T-TARGET-IL13Ra2細胞におけるIL13Ra2の発現を測定したところ、導入効率は23.2%であった。上記細胞を96ウェルプレートに5x103細胞/ウェルの密度で播種し、37℃で16時間培養後、系列希釈したrhIL13-PE40を対応するウェルに加え(n=4)、37℃で72時間インキュベート後、WST-1を用いて生細胞数をプレートリーダーで測定した(OD450〜OD640)。図11に示すとおり、100ng/mlのrhIL13-PE40の添加により、IL13Ra2発現細胞において、IL13Ra2を遺伝子導入していない細胞と比べ約25%の殺細胞効果が見られた。
【0115】
<7>rhIL13-PE40の他の細胞株への殺細胞効果
rhIL13-PE40のA375(メラノーマ細胞系)細胞およびHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)への殺細胞効果を、上記<6>と同様の手法で評価した。すなわち、A375細胞またはHUVECを96ウェルプレートに5x103細胞/ウェルの密度で播種し、37℃で16時間培養後、系列希釈したrhIL13-PE40を対応するウェルに加え(n=4)、37℃で72時間インキュベート後、WST-1を用いて生細胞数をプレートリーダーで測定した(OD450〜OD640)。図12に示すとおり、A375細胞のみに顕著な殺細胞効果が見られた(1080ng/ml=IC50)。なお、各細胞でのIL13Ra2の発現をFACSにて確認したところ、A375のみ陽性で、HUVECでは発現が見られなかった。
【0116】
実施例6.抗hIL13Ra2抗体の作製
以下の手順で、より特殊な目的に対して有効な診断・治療上の特性を有する抗体、例えばホルマリン固定、パラフィン包埋のサンプルで免疫染色による診断が可能なモノークローナル抗hIL13Ra2抗体を作製した。
<1>hIL13Ra2細胞外ドメインのクローニング
実施例1<3>(i)でクローニングしたA375細胞のcDNAを鋳型にして#2277、#2278の各プライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。反応条件は以下のとおりである。
反応液組成
【表5】

【0117】
PCR条件
【表6】

プライマー
#2277: ggaagatcttcatcttcagacaccgagataaaag(センス:配列番号17、下線はBglIIサイト)
#2278: ccggtcgactttcttcgataggtcttcaccttccc(アンチセンス:配列番号18、下線はSalIサイト)
PCRにより増幅した980bpのDNAを、実施例5<1>と同様に、精製後クローニングベクターpGEM(登録商標)-T Easyにライゲーション、これを大腸菌DH5αに形質転換してpGEM(登録商標)-T Easy-rhIL13Ra2を作製した。塩基配列はABI PRISM(登録商標)3100 Genetic Analyzerにて確認した。なお、ヒトIL13Ra2の細胞外ドメインは、配列番号20で表される316aaからなり、これをコードする塩基配列は配列番号19で表される948bpからなる。
【0118】
<2>pQE30-hIL13Ra2の作製
pQE30(QIAGEN)を制限酵素BamHI/SalIで消化したフラグメント1と、上記<1>で得たpGEM(登録商標)-T Easy-hIL13Ra2を制限酵素BglII/SalIで消化したフラグメント2とを大腸菌M15(pREP4)に形質転換し、発現ベクターpQE30-hIL13Ra2を作製した。目的のプラスミドの存否は、制限酵素(EcoRI、Ncol、SalI/BamHI、BamHI/XhoI)にて確認した。得られた発現ベクターは、配列番号21で表されるアミノ酸配列(337aa)を有する融合タンパク質を発現する。なお、上記アミノ酸配列の1〜12アミノ酸(MRGSHHHHHHGS)は、pQE30由来のHis×6タグ配列であり、C末端のVDLQPSLIS配列は、pQE30由来のマルチ制限酵素サイト由来の配列である。
pQE30-hIL13Ra2が組み込まれた大腸菌(M15(pREP4)-QE30-hIL13Ra2)にIPTGを添加し発現を誘導した。IPTG誘導ありまたはなしの各菌を回収し、ソニケーションにて破砕した後に遠心して、可溶性画分(上清)と不溶清画分(ペレット)とに分離した。各サンプルをSDS-PAGEにて泳動しCBB染色を行ったところ、誘導サンプルの不溶性画分に37kDaのrIL13Ra2の発現が確認できた。
【0119】
<3>変性条件下におけるrhIL13Ra2のNi-NTA精製
上記<2>で得た大腸菌:M15(pREP4)-QE30-hIL13Ra2をLB培地20ml中、37℃で一晩振盪培養した後、同培養液20mlをLB培地1lに植菌し、OD600が0.6に達するまで37℃で振盪培養した。次いで、IPTG(最終濃度1mM)を添加して発現誘導し、さらに5時間37℃で振盪培養した。培養液を4000gで20分遠心して、細胞をペレットとして回収し、その半量を20mlの可溶化バッファー(8M尿素)で懸濁した。得られた懸濁液を10,000gで20分遠心して上清を回収し、これに2mlの50%Ni-NTAを添加して60分、室温でローテートした。得られた混合液をカラム(Poly-Prep Chromatography Columns: BioRad社、Cat. no. 731-1550)に負荷し、これに4mlの洗浄バッファー(100mM NaH2PO4・2H2O、10mM Tris Base、8M尿素、pH6.3)を2回通した後、6mlの溶出バッファー(8M尿素、pH2.5)にて溶出し、1lのPBS(-)に対し2回透析した。得られた精製rhIL13Ra2タンパク質をSDS-PAGEおよびProtein Assayにて定量した。SDS-PAGEにて、rhIL13Ra2のタンパク質量を、タンパク質量が既知であるBSAのバンドの濃さとrhIL13Ra2のバンドの濃さとを比較して算出したところ、約150ng/μlであった。また、BCA protein Assay Kit(PIERCE社)を用いてrhIL13Ra2のタンパク質量を定量したところ160ng/μlであった。
【0120】
<4>DNAワクチンの作製
(i)pDisplay-hIL13Ra2の作製
より強力な抗体を得るために、ヒトIL13Ra2遺伝子を含むDNAワクチンを作製した。すなわち、pDisplay(Invitrogen社から購入)のBglII/SalIサイトに、上記<1>で得たヒトIL13Ra2の細胞外ドメインをコードするcDNAのBglII/SalI切断断片をライゲーションし、pDisplay-hIL13Ra2を得た。BglIIとSalIサイトのつなぎ目は、それぞれ、pDisplay発現ベクターのコードするペプチド配列と翻訳の読み枠(フレーム)が合致するように設計した。同ベクターがコードする膜表面発現タンパク質は、配列番号22で表されるアミノ酸配列(415aa)を有する。このうち、第1〜21アミノ酸(METDTLLLWVLLLWVPGSTGD)は、免疫グロブリンκ鎖のリーダー配列、第22〜30アミノ酸(YPYDVPDYA)は、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニン凝血素)タグ配列、第31〜37アミノ酸(GAQPARS)は、pDisplayのマルチ制限酵素サイト由来の配列、第38〜353アミノ酸は、ヒトIL13Ra2の細胞外ドメイン配列、第354〜355アミノ酸(VD)は、制限酵素SalIサイト由来の配列、第356〜365アミノ酸(EQKLISEEDL)は、mycタグ配列、残りの第366〜415アミノ酸は、PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)由来の膜貫通ペプチド配列である。pDisplay-hIL13Ra2の発現タンパクをコードする部分は、配列番号23で表される塩基配列(1248bp)を有する。このうち、第106〜1065塩基がPCRで作製したBglII/SalI断片である。
【0121】
(ii)アジュバントの作製
また、アジュバントとしてpCAcchCD40Lm3およびpCAcchBax-aの各プラスミドを作製した。
(ii)-1. pCAcchCD40Lm3の作製
1)野生型hCD40Lのクローニング
6ウェルプレートを抗CD3抗体(OKT3)20μg/mlで16時間コーティング処理し、これにヒト末梢血単核球を3×106/ウェルの密度で播種し、37℃で48時間インキュベート後、細胞を回収した。回収した細胞からRNeasy Mini Kit (QIAGEN社)でtotal RNAを調製した。得られたtotal RNAよりSuperscript II Reverse Transcriptase(Invitrogen社)を用いてcDNAの合成を行った。このcDNAを鋳型にして、#1795、#1796の各プライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
プライマー:
#1795: 5'-CGGAATTCAGCATGATCGAAACATACAACCAAAC-3'(センス:配列番号26)
#1796: 5'-CGGGATCCTCAGAGTTTGAGTAAGCCAAAGGACG-3'(アンチセンス:配列番号27)
【0122】
2)変異型hCD40Lm3のクローニング
PCRにより増幅した野生型hCD40Lを鋳型として#1795、#1998の各プライマー(フラグメント1:5末端にEcoRI、3末端にAvrllサイトをもつ)、#1796、#1997の各プライマーを(フラグメント2:5末端にAvrll、3末端にBamHl,サイトをもつ)用いてPCRを行い、PCR産物フラグメント1、フラグメント2をそれぞれ得た。
プライマー:
#1795: 5'-CGGAATTCAGCATGATCGAAACATACAACCAAAC-3'(センス:配列番号26)
#1998: 5'-TGCCCTAGGCATTTCAAAGCTGTTTTCTTT-3'(アンチセンス:配列番号28)
#1997: 5'-TGCCCTAGGGGTGAGGAGGATTCTCAAATTGCGGCA-3'(センス:配列番号29)
#1796: 5'-CGGGATCCTCAGAGTTTGAGTAAGCCAAAGGACG-3'(アンチセンス:配列番号27)
3)pCAccベクターへのライゲーション
pCAccのEcoRIサイトとBamHIサイトにフラグメント1、フラグメント2の2つのDNAをライゲーションし、pCAcchCD40Lm3を得た。
【0123】
(ii)-2. pCAcchBax-aの作製
pCAcchBax-aは、Shinoura N et al.、Oncogene. 1999;18:5703-13に記載の方法で作製した。すなわち、ヒトBaxのcDNAを、Daudi細胞(ATCC CCL-213)からのcrude RNAをテンプレートとしたRT-PCRで、以下のプライマーを用いて作製した。
プライマー:
5'-CGGAATTCCACCATGGACGGGTCCGGGGAGCAGCCC-3'(配列番号30)
5'-CGGAATTCTCAGCCCATCTTCTTCCAGATGGTGAG-3'(配列番号31)
得られたcDNAのEcoRI/EcoRI断片をpCAccのEcoRIサイトにライゲーションし、pCAcchBax-aを得た。
【0124】
<5>マウスの免疫
上記<3>で作製した変性rhIL13Ra2タンパク質でマウスを免疫した。具体的には、同タンパク質を30μg/匹の量で、初回免疫はフロイント完全アジュバントとともに、そして2および3回目の免疫はフロイント不完全アジュバントともにBALB/cマウス(n=3)の腹腔内に投与した。免疫は2週間ごとに行った。また、これと平行して、上記<4>で得たpDisplay-hIL13Ra2、ならびにpCAcchCD40Lm3およびpCAcchBax-aを、rhIL13Ra2タンパク質による初回免疫より1週後および3週後の2回、遺伝子銃によりマウスに導入した。遺伝子銃によるDNAワクチンの導入は、以下のように行った。
(i)遺伝子銃による導入
(i)-1. カートリッジの作製
金粒子(1ミクロン)30mgにスペルミジン(0.05M)を100μl添加し、vortexおよび超音波処理により十分に懸濁させた。プラスミドDNA mix(標的物質としてpTarget-IL13Ra2IL-13(100μg)、アジュバンドとしてpCAcchBAXα(50μg)およびpCAcchCD40Lm3(50μg))を添加し、5秒間vortexした後、金粒子-DNA懸濁液を穏やかにvortexしながら、CaCl2(1M)を100μl添加した。室温で10分間インキュベートした後、エタノールで3回洗浄し、金粒子-DNAのエタノール懸濁液をゴールドコート用チューブ(BIO-RAD)に封入した。窒素ガスで乾燥させた後、約0.5インチに切断し、室温にて保存した。
(i)-2. 免疫
BALB/cマウスの腹部を剃毛した後、上述のカートリッジをHELIOSTM GENE GUNに装着し、ヘリウムガス(300psi)で腹部真皮への遺伝子導入を行った。
【0125】
(ii)抗体価の測定
最後の免疫から3日後にマウスから採血し、血清中の抗体価をELISAで、以下の手順により測定した。
1)5μg/mlの抗原(上記<3>で得たrhIL13Ra2精製タンパク)を、100μl/ウェルで96穴プレートに撒き、4℃で一晩インキュベートした。
2)200μl/ウェルのブロッキングバッファーに置換し、室温で20分インキュベートした。
3)200μl/ウェルの洗浄バッファーで2回洗浄した。
4)各マウスの血清試料をそれぞれ×100、×300、×1000、×3000、×10000、×30000に系列希釈し、100μl/ウェルにてduplicateで撒き、室温で1時間インキュベートした。
5)200μl/ウェルの洗浄バッファーで5回洗浄した。
6)2次抗体(ヒツジ抗マウスIgG-HRP、GE Healthcare社)を2000倍希釈したものを100μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。
7)200μl/ウェルの洗浄バッファーで5回洗浄した。
8)1×TMB Substrate Solution(KPL社)を100μl/wellで添加し、室温で10分インキュベートした。
9)反応停止液(2N H2SO4)を50μl/ウェルで添加した。
10)プレートリーダーで吸光度を測定した(OD450-570)。
最も抗体価の高いマウスにブーストとして上記タンパク質を30μg/匹の量で腹腔内投与した。また、残りの2匹のマウスには、pTARGET-IL13Ra2を1週間隔で2回遺伝子銃により導入した。
【0126】
<6>ハイブリドーマの作製
最終免疫の3日後に、最も抗体価の高いマウスから、実施例1<1>(ii)に記載の手順に従って脾臓細胞を調製し、これをP3U1細胞と細胞融合させた。得られたハイブリドーマを、rhIL13Ra2細胞外ドメインを発現するCOS1-Target-IL13Ra2細胞によるCell ELISAにて2回スクリーニングした。COS1-Target-IL13Ra2細胞は、導入細胞として293TまたはCHOの代わりにCOS1を用いた以外は、実施例1<3>(ii)に記載の手順に従って作製した。また、Cell ELISAは、以下のようにして行った。
1)COS1-Target-IL13Ra2細胞を、96ウェルプレートに1×104細胞/ウェルの密度で播種し、37℃で24時間培養した。
2)細胞を200μl/ウェルのPBS(-)で2回洗浄した。
3)細胞を100μl/ウェルの10%中性緩衝ホルマリン液で室温、20分で固定した。
4)200μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。
5)200μl/ウェルの1%BSAで室温で1時間ブロッキングを行った。
6)50μl/ウェルのハイブリドーマの上清を室温、1時間で反応させた。
7)200μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。
8)2次抗体(ヒツジ抗マウスIgG-HRP、GE Healthcare社)を2000倍希釈したものを100μl/ウェルで添加し、室温で1時間インキュベートした。
9)200μl/ウェルの洗浄バッファーで2回洗浄した。
8)1×TMB Substrate Solution(KPL社)を100μl/ウェルで添加し、室温で10分インキュベートした。
9)反応停止液(2N H2SO4)を50μl/ウェルで添加した。
10)プレートリーダーで吸光度を測定した(OD450-570)。
こうして、最も反応性の高い抗体を産生するハイブリドーマKH6g11およびKH7B9を選択した。
【0127】
<7>ハイブリドーマ抗原の確認
上記<6>で選択したハイブリドーマKH6g11およびKH7B9を用いて、抗原確認のためのウェスタンブロットを行った。すなわち、実施例5<6>で得た293T-cDNA3.1細胞、293T-TARGET-IL13Ra2細胞またはA375細胞を、1×SDSサンプルバッファー(62.5mM Tris-HCl(25℃でpH6.8)、2%(w/v)SDS、10%グリセロールおよび0.01%(w/v)フェノールレッド)で再懸濁し、100℃で5分間処理した。溶液を回収し、Ready Gels J 5〜20%(BioRad)を用いて20mAで泳動した後、ゲルよりPVDFメンブレンへ0.1mA/cm2でブロッティングした。メンブレンを5%スキムミルクにて室温で2時間ブロッキング後、KH6g11、KH7B9(10μg/ml)を室温で1時間反応させ、次いで2次抗体、ヒツジ抗マウスIgG-HRP(GE Healthcare社)を2000倍希釈にて室温で1時間反応させた。その後、ECL western blotting detection reagents(GE Healthcare社)およびHyperfilm ECL GE Healthcare社)を用いて目的のバンドを検出した。結果を図13に示す。図中、a)レーン1はIL13Ra2を発現していない細胞抽出サンプル(ネガティブコントロール)、2レーンは遺伝子導入によりIL13Ra2を発現している細胞抽出サンプルである。2レーンのみに、IL13Ra2に相当する50kDaの位置に明確なバンドが見られた。b)IL13Ra2を高発現しているA375細胞においてもKH6g11抗体、KH7B9抗体ともに50kDaの位置に明確なバンドを示した。したがって、KH6g11抗体、KH7B9抗体はIL13Ra2を特異的に認識する抗体であることが確認できた。
【0128】
<8>KH6g11およびKH7B9抗体による免疫染色
マウスにA375細胞5×106個を皮下移植し、2週間後に腫瘍部分を定法によりホルマリン固定、パラフィン包埋した。これを薄切後、スライドグラスに貼り付けサンプルとした。サンプルを脱パラフィン後、抗原賦活化を行った(抗原賦活液pH9(ニチレイ社)、105℃ 20分)。免疫染色はDakoCytomation EnVision+ Kit/HRP(DAB社)(Dako: Cat. No K4006)にて行った。1次抗体としてKH6g11またはKH7B9抗体(いずれも10μg/mlを100μl)で4℃で16時間反応させた。免疫染色終了後、ヘマトキシリンで対比染色し脱水、透徹、封入を行った。。図14に示す染色像から明らかなとおり、各像の右側に存在する、IL13Ra2を高発現しているA375細胞塊の膜表面は限局して強く染まっているが、マウスの皮膚組織、間質細胞、炎症細胞等は染まっていない。このことから、KH6g11およびKH7B9抗体が、ホルマリン固定、パラフィン包埋試料の免疫染色が可能な抗体であることが確認できた。既知の抗IL13Ra2抗体にかかる特性を有するものは未だ存在しないことから、本発明の抗体の効果は驚くべきものといえる。
【0129】
<9> KH7B9抗体による、メラノーマ臨床手術摘出サンプルの免疫染色
手術摘出より得たa)メラノーマ付属リンパ節転移部位およびb)メラノーマ胸膜転移部位のパラフィン包埋試料をKH7B9にて免疫染色を行った。サンプルを脱パラフィン後、抗原賦活化を行った(抗原賦活液pH9(ニチレイ社)、105℃ 20分)。免疫染色はDakoCytomation EnVision+ Kit/HRP(DAB社)(Dako: Cat. No K4006)にて行った。1次抗体としてKH7B9抗体(10μg/ml)を用い、4℃で16時間反応させた。免疫染色終了後、ヘマトキシリンで対比染色し、定法により脱水、透徹、封入を行った。図15Aに示す染色像よりa)においては、メラノーマ細胞は特異的に強く染まっているが、リンパ節正常細胞は染まっていないこと、および、b)においてもメラノーマ細胞は特異的に強く染まっているが、炎症細胞、間質細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肺胞・細気管支細胞を含むヒト正常細胞は染まっていないことが分かる。さらに、図15Bに示す別のメラノーマ手術摘出試料4症例a)、 b)、c)およびd)においても同様の結果を得た。このことからメラノーマ手術摘出試料においてIL13Ra2がメラノーマ細胞特異的に発現していることが確認できた。
【0130】
実施例7.メラノーマ皮下移植モデルにおけるNS-66抗体の抗腫瘍効果
IL13Ra2を発現するメラノーマ細胞(A375)を免疫不全マウスKSN/Slcに皮下移植し、生体内増殖に対するNS-66抗体とイムノトキシン(サポリン結合IgG)の治療効果を、腫瘍体積の増加を指標として検討した。
実験手順は以下の通りである。
1)対数増殖期にあるA375細胞を培養シャーレからトリプシン−EDTA溶液を使用して回収した。
2)回収液を遠心して上清を廃棄し、細胞をPBSに懸濁し1×107細胞/mlとなるように調製した。
3)細胞調製液を100μl/マウス(1×106細胞/マウス)となるように、26G針装着のシリンジで皮下接種した。マウスは日本チャールズリバー社より購入した免疫不全マウスKSN Slcを札幌医科大学動物実験施設無菌動物室内で2週間飼育したものを用い、計18匹に投与した。
4)メラノーマ細胞A375皮下接種3日後に腫瘍生着を確認後、ランダムにマウスを3群に分類した(6匹/群)。
5)対照群にはPBSを、陰性コントロール抗体投与群にはSaporin結合2次抗体(コントロールIgG2b抗体(eBioscience社より購入)1.0μg/匹+Saporin-conjugated anti-mouse IgG 1.5μg/匹)を、治療抗体投与群には抗IL-13Ra2NS-66抗体1.0μg/匹+Saporin-conjugated anti-mouse IgG 1.5μg/匹を各20μlになるように腫瘍内投与した。
6)5)の処置の3日後に(腫瘍接種後6日後)もう一度同様の処置を施した。
7)腫瘍接種日から週2回の頻度で、腫瘍径を電子ノギス(MITSUTOYO社製)を使用して測定し、腫瘍体積を以下の計算式で計算した。腫瘍体積(mm3)=0.4×腫瘍長径×腫瘍短径×腫瘍短径。
【0131】
腫瘍接種から2週間腫瘍体積を測定した結果を図16に示す。
対照群(図左)では全てのマウス(6匹)において腫瘍体積の急速な増大が観察され約2週間後の平均腫瘍体積は530mm3であった。これに対してコントロール抗体とイムノトキシン抗体投与の第二群(図中央)ではイムノトキシンによる非特異的細胞増殖抑制により腫瘍の増大が若干押さえられたが全て増殖し二週間後の平均腫瘍体積は235mm3であった。一方、抗IL13Ra2NS-66抗体とイムノトキシン投与群(図右)では対照群に比べて明らかな腫瘍体積の増加抑制効果が観察され、特に6匹中1匹では2週間後の腫瘍径が72mm3と対照群平均に比して84%の阻害効果が観察された。また平均腫瘍径も205mm3と他群に比べて最も低かった。
以上の結果から、本願発明によるNS-66抗体は、イムノトキシン等の薬剤を使用したメラノーマ等のがんの標的化治療に対して非常に有効なものであることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】A375細胞をNS-66抗体で免疫沈降して得られた結果を示した図である。パネルAおよびBは、A375細胞表面をビオチンラベル後に免疫沈降し、それぞれ2-ME非添加および2-ME添加条件でのSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングの結果を、パネルCは、2-ME添加条件でのSDS-PAGEおよび銀染色による結果を示す。
【図2】NS-66抗体で免疫沈降されたA375細胞抗原の質量分析結果を示した図である。
【図3A】IL13Ra2を過剰発現させた293T細胞へのNS-66抗体の結合をFACSで解析した図である。図中、controlは未処理の293T細胞、pcDNA3.1は、対照プラスミドを導入した293T細胞、pTARGET-IL13Ra2は、pTARGET-IL13Ra2によりIL13Ra2を過剰発現させた293T細胞を示す。
【図3B】IL13Ra2を過剰発現させたCHO細胞へのNS-66抗体の結合をFACSで解析した図である。図中、controlは未処理のCHO細胞、pcDNA3.1は、対照プラスミドを導入したCHO細胞、pTARGET-IL13Ra2は、pTARGET-IL13Ra2によりIL13Ra2を過剰発現させたCHO細胞を示す。
【図4】NS-66抗体により、種々の細胞におけるIL13Ra2の発現をFACSで解析した図である。
【0133】
【図5】種々の抗IL13Ra2抗体によるA375細胞への遺伝子発現効率の測定結果を示した図である。縦軸は遺伝子発現の相対量(RLU対数)を、横軸は抗体量をそれぞれ表す。
【図6】種々の抗IL13Ra2抗体によるA357細胞内へのイムノトキシン導入による効率の測定結果を示した図である。縦軸は細胞生存率(%)を、横軸は抗体濃度をそれぞれ表す。
【図7】ヒトIL13をコードする核酸を含むpGEM(登録商標)-T Easy-rhIL13の構造を示した説明図である。
【図8】ヒトIL13とPE40との融合タンパク質をコードする核酸を含むpQE-hIL13-PEの構造を示した説明図である。
【図9】大腸菌M15(pREP4)-QE30-rIL13-PE40が発現したrIL13-PE融合タンパク質をSDS-PAGEにて泳動した結果を示した図である。
【図10】大腸菌M15(pREP4)-QE30-rIL13-PE40が発現したrIL13-PE融合タンパク質を精製し、既知量のBSAと共にSDS-PAGEにて泳動した結果を示した図である。
【0134】
【図11】rhIL13-PE40の、IL13Ra2発現または非発現293T細胞に対する殺細胞効果を、細胞生存率により評価した図である。
【図12】rhIL13-PE40の、IL13Ra2発現細胞(A375細胞)または非発現細胞(HUVEC)に対する殺細胞効果を、細胞生存率により評価した図である。
【図13】KH6g11抗体またはKH7B9抗体が認識するタンパク質を、ウェスタンブロット法にて解析した結果を示した図である。図中、a)は293T-IL13Ra2を、b)はA375を泳動サンプルとしたものである。
【図14】A375細胞塊を含むマウス組織を、KH6g11抗体(左)またはKH7B9抗体(右)で免疫染色した光学顕微鏡像を示す写真図である。倍率はいずれも×200である。
【図15A】手術摘出メラノーマ標本をKH7B9抗体で免疫染色した光学顕微鏡像を示す写真図である(対物20倍)。図中、a)はメラノーマリンパ節転移部位、b)はメラノーマ胸膜転移部位である。
【図15B】手術摘出メラノーマ標本をKH7B9抗体で免疫染色した光学顕微鏡像を示す写真図である。
【図16】マウスに接種したメラノーマ細胞(A375細胞)に対する、NS-66抗体とイムノトキシンの併用治療による増殖抑制効果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL13Ra2に結合する物質を含む、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される癌の診断のための組成物。
【請求項2】
IL13Ra2に結合する物質を含む、メラノーマ、骨肉腫、白血病、リンパ腫、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される癌の治療のための組成物。
【請求項3】
IL13Ra2に結合する物質が、抗IL13Ra2抗体およびIL13からなる群から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
抗IL13Ra2抗体が、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP-368として2007年5月18日付で、および受領番号NITE AP-374として2007年5月31日付でそれぞれ寄託されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体、またはこれらの抗体と同等の結合特性を有する抗体である、請求項3に記載の組成物。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【公開番号】特開2010−190572(P2010−190572A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147478(P2007−147478)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年5月25日 基盤的癌免疫研究会発行の「第11回基盤的癌免疫研究会総会抄録集」に発表
【出願人】(307014555)北海道公立大学法人 札幌医科大学 (31)
【Fターム(参考)】