IMP−3オリゴペプチドおよびそれを含むワクチン
細胞傷害性T細胞誘導能を有し、かつ、がん免疫療法、より具体的にはがんワクチンとの関連において用いるのに適しているオリゴペプチドが本明細書に記載される。特筆すべき例には、SEQ ID NO:1、3、5または6のアミノ酸配列を有するオリゴペプチドが含まれ、それらが元のオリゴペプチドの細胞傷害性T細胞誘導能を保持する限り、1個、2個または数個のアミノ酸が任意で、置換、欠失、挿入または付加されている。がんまたは腫瘍、さらにはその術後再発の治療または予防に適している、そのようなオリゴペプチドに関連した薬学的製剤または「薬物」も記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物科学の分野、より具体的にはがん治療の分野に関する。特に、本発明は、がんワクチンとして極めて有効な新規オリゴペプチド、ならびに腫瘍を治療および予防するための薬物に関する。
優先権
本出願は、2009年12月1日に出願された米国仮特許出願第61/265,657号および2010年8月6日に出願された米国仮特許出願第61/371,434号の恩典を主張し、それらの内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子上に見いだされる腫瘍関連抗原(TAA)由来のエピトープペプチドを認識し、続いて腫瘍細胞を死滅させることが実証されている。TAAの最初の例としてのメラノーマ抗原(MAGE)ファミリーの発見以来、他の多くのTAAが、主に免疫学的アプローチによって発見されている(非特許文献1:Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80;非特許文献2:Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9)。これらのTAAのうちのいくつかは、現在、免疫療法の標的として臨床開発の過程にある。
【0003】
強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導し得る新たなTAAの同定により、さまざまな種類のがんに対するペプチドワクチン戦略のさらなる発展および臨床研究の前進が保証される(非特許文献3:Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55;非特許文献4:Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42;非特許文献5:Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9;非特許文献6:van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14;非特許文献7:Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8;非特許文献8:Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72;非特許文献9:Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66;非特許文献10:Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94)。現在までに、これらの腫瘍関連抗原由来ペプチドを用いた臨床試験がいくつか報告されている。残念ながら、これまでのところ、これらのがんワクチン治験では低い客観的奏効率しか観察されていない(非特許文献11:Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80;非特許文献12:Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42;非特許文献13:Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15)。このため、免疫療法の標的として有用な新規TAAの同定の必要性は依然として存在する。
【0004】
その目的に向けて、23,040個の遺伝子を含むゲノムワイドcDNAマイクロアレイを用いる遺伝子発現プロファイル解析を通じて、IMP−3(インスリン様成長因子II mRNA結合タンパク質3)が、肺がんおよび食道がんにおいて上方制御される遺伝子として同定された(非特許文献14:T. Kikuchi et al., Oncogene. 2003 Apr 10; 22(14): 2192-205、特許文献1:WO2004/031413号、特許文献2:WO2007/013665号、特許文献3:WO2007/013671号)。IMP−3の発現は、がん患者の90%超において腫瘍細胞で特異的に上方制御されることが観察されているが、精巣および胎盤を除く他の正常な重要器官では発現されない。さらに、RNA干渉法によるIMP−3発現の下方制御により、IMP−3を発現するがん細胞株における細胞増殖が抑制されることが示されている。先の出願であるWO2006/090810号(特許文献4)は、KOC1(IMP−3)およびHLA−A24を外因性に発現する腫瘍細胞に対する特異的CTL誘導活性を有する、IMP−3(KOC1とも記載される)由来のペプチドを記載している。これらのペプチドはHLA−A24型の患者に適している可能性があるが、他のHLA型の患者に対するCTL誘導ペプチドの必要性は依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2004/031413号
【特許文献2】WO2007/013665号
【特許文献3】WO2007/013671号
【特許文献4】WO2006/090810号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80
【非特許文献2】Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9
【非特許文献3】Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55
【非特許文献4】Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42
【非特許文献5】Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9
【非特許文献6】van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14
【非特許文献7】Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8
【非特許文献8】Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72
【非特許文献9】Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66
【非特許文献10】Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94
【非特許文献11】Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80
【非特許文献12】Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42
【非特許文献13】Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15
【非特許文献14】T. Kikuchi et al., Oncogene. 2003 Apr 10; 22(14): 2192-205
【発明の概要】
【0007】
本発明は、免疫療法の標的として役立つ可能性のある新規ペプチドの発見に一部基づいている。TAAは通常、免疫系によって「自己」として認知され、そのため生得的な免疫原性を有しないことが多いため、適切な標的の発見は極めて重要である。IMP−3が肺がんおよび食道がんなどのがんにおいて上方制御されるものとして同定されていることの認識に立ち、本発明は、GenBankアクセッション番号NM_006547.2の遺伝子(SEQ ID NO:21)によってコードされるIMP−3タンパク質(SEQ ID NO:22)をさらなる解析のための対象とする。特に、対応する分子に対して特異的な驚くほど強力なCTL応答を誘発するエピトープペプチドを含むIMP−3遺伝子産物を、検討のために選択した。本発明の状況においては、健常ドナーから得た末梢血単核細胞(PBMC)を、本発明のペプチドを用いて刺激した。各々のペプチドでパルス刺激したHLA−A2(A*0201)陽性標的細胞を特異的に認識するCTLを樹立し、腫瘍細胞の表面上に発現されたIMP−3に対する強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A2(A*0201)拘束性エピトープペプチドを同定した。以上を総合すると、これらの結果は、IMP−3は免疫原性が強く、そのエピトープは腫瘍免疫療法の有効な標的であることを実証している。
【0008】
したがって、CTL誘導能を有し、さらにSEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドを提供することは、本発明の1つの目的である。加えて、置換、欠失、挿入および付加からなる群より選択される変異の少なくとも1つによって1個、2個または数個のアミノ酸が変異または変化したSEQ ID NO:1、3、5または6のアミノ酸配列を有する改変ペプチドも、その結果得られる改変オリゴペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、本発明で想定されている。
【0009】
対象に投与されると、本オリゴペプチドは、各々のペプチドを標的とするCTLを誘導するように、抗原発現細胞の表面上に提示される。したがって、本ペプチドのいずれかを提示する抗原提示細胞およびエキソソーム、ならびにそれに関連した、抗原提示細胞を誘導するための方法を提供することは、本発明の1つの目的である。
【0010】
抗腫瘍免疫応答は、本IMP−3オリゴペプチドまたはそれらのオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびにそのようなIMP−3オリゴペプチドを提示するエキソソームおよび抗原提示細胞の投与によって誘導される。したがって、それらのオリゴペプチドまたはそれらをコードするポリヌクレオチド、または関連したエキソソームおよび抗原提示細胞をそれらの有効成分として含む薬剤または薬学的組成物を提供することは、本発明のさらに別の目的である。本発明の薬剤または薬学的組成物は、特にワクチンとして使用される。
【0011】
がん(腫瘍)の治療、予防(prophylaxis)(すなわち、予防(prevention))およびその術後再発の予防からなる群より選択される少なくとも1つを目的とする方法、ならびにCTLを誘導するための方法、抗腫瘍免疫を誘導するための方法であって、IMP−3オリゴペプチド、IMP−3オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチド、IMP−3ポリペプチドを提示するエキソソームもしくは抗原提示細胞、または本発明の薬学的な剤もしくは組成物を、それを必要とする対象に投与する段階を含むそのような方法を提供することは、本発明の1つのさらなる目的である。加えて、本発明のCTLは、がんに対するワクチンとしても使用される。標的のがんの例には、肺がんおよび食道がんが非限定的に含まれる。
【0012】
より具体的には、本発明は以下を提供する:
[1]SEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド、
[2]1個、2個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチドであって、さらに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有するオリゴペプチド、
[3]以下の特徴の一方または両方を有する、[2]記載のオリゴペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、
[4][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド、
[5][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって、CTL誘導能を有する抗原提示細胞を誘導するための方法、
[6]以下からなる群より選択される段階を含む、[5]記載の方法:
(a)抗原提示細胞を[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドと接触させる段階、および
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを抗原提示細胞に導入する段階、
[7]抗原提示細胞が少なくとも1つのHLA−A2抗原をその表面上に発現する、[5]または[6]記載の方法、
[8][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって、CTLを誘導するための方法、
[9]以下からなる群より選択される段階を含む、[8]記載の方法:
(a)CD8陽性T細胞を、[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
(b)抗原提示細胞表面上の[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合するT細胞受容体(TCR)サブユニットを形成することができるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階、
[10]HLA抗原がHLA−A2である、[9]記載の方法、
[11][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを標的とする、単離されたCTL、
[12]細胞表面上の[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、[11]記載のCTL、
[13]HLA抗原がHLA−A2である、[12]記載のCTL、
[14][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって誘導される、単離されたCTL、
[15][8]〜[10]のいずれか一項記載の方法によって誘導される、[14]記載のCTL、
[16]その表面上に、HLA抗原と[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとの複合体を提示する、単離された抗原提示細胞、
[17]HLA抗原がHLA−A2である、[16]記載の抗原提示細胞、
[18][5]〜[7]のいずれか一項記載の方法によって誘導される、[16]または[17]記載の抗原提示細胞、
[19]対象におけるがんに対する免疫応答を誘導する方法であって、以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む方法:
(a)[1]〜[3]のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種もしくは複数種のポリヌクレオチド;
(c)[11]〜[15]のいずれか一項記載の1種または複数種の単離されたCTL;および
(d)[16]〜[18]のいずれか一項記載の1種または複数種の単離された抗原提示細胞、
[20]前記対象がHLA−A2陽性である、[19]記載の方法、
[21]がんの治療および/もしくは予防のためならびに/またはその術後再発の予防のための薬剤であって、薬学的に許容される担体と以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分とを含む薬剤:
(a)[1]〜[3]のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体を提示する1種または複数種の抗原提示細胞;および
(d)細胞表面上の[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、1種または複数種のCTL、
[22]CTLを誘導するための薬剤であって、薬学的に許容される担体と以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分とを含む薬剤:
(a)[1]〜[3]のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体を提示する1種または複数種の抗原提示細胞、
[23]HLA−A2陽性である対象への投与のために製剤化される、[21]または[22]記載の薬剤、
[24]ワクチンである、[21]〜[23]のいずれか一項記載の薬剤、
[25]がんを治療するための薬学的な組成物または剤の製造における、以下からなる群より選択される有効成分の使用:
(a)[1]〜[3]のいずれか一項記載の1種または複数種のオリゴペプチド;
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを発現可能な形態でコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する1種または複数種の抗原提示細胞;および
(d)細胞表面上の[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、1種または複数種のCTL、
[26]薬学的な組成物または剤が、HLA−A2陽性である対象への投与のために製剤化される、[25]記載の使用、
[27]HLA−A2陽性である対象におけるがんの治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後再発の予防に用いるための、SEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド、
[28]HLA−A2陽性である対象におけるがんの治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後再発の予防に用いるための、1個、2個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチドであって、さらに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有するオリゴペプチド、ならびに
[29]以下の特徴の一方または両方を有する、[28]記載のオリゴペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである。
【0013】
上記に加え、本発明のその他の目的および特徴は、添付の図面および実施例と併せて以下の詳細な説明を読むことによって、より十分に明らかになるであろう。しかしながら、前述の発明の概要および以下の詳細な説明はいずれも例示的な態様であり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。特に、本発明をいくつかの特定の態様を参照して本明細書において説明するが、その説明は本発明を例証するものであり、本発明を限定するものとして構成されていないことが理解されよう。添付の特許請求の範囲によって記載される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者は様々な変更および適用に想到することができる。同様に、本発明のその他の目的、特徴、利益、および利点は、本概要および以下に記載する特定の態様から明らかになり、当業者には容易に明白になるであろう。そのような目的、特徴、利益、および利点は、添付の実施例、データ、図面、およびそれらから引き出されるあらゆる妥当な推論と併せて上記から、単独で、または本明細書に組み入れられる参考文献を考慮して、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の様々な局面および適用は、図面の簡単な説明ならびに本発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することで、当業者に明白となるであろう。
【0015】
【図1】図1は、HLA−A2トランスジェニックマウスにおいて誘導されたCTLに対するIFN−γ ELISPOTアッセイの結果を図示している。ペプチド(SEQ ID NO:3、5および6)で刺激したCTLは、対照と比較して強いIFN−γ産生応答を示した(上のパネル)。エラーバーは標準偏差(SD)を表している。統計学的な有意差は星印によって示す(* P<0.05)。3連のウェルのELISPOTカウントの例示的な写真も示されている(下のパネル)。CTLは、SEQ ID NO:6のペプチドでパルス刺激したBM−DCに対する応答として203〜226個のスポット/ウェルを示し(左側のパネル)、一方、それらはペプチド負荷を受けていないBM−DCの存在下では74〜105個のスポット/ウェルを示した(右側のパネル)。
【図2】図2は、健常ドナー1のヒトCTLに対するIFN−γ ELISPOTアッセイの結果を図示した一連の棒グラフで構成される。SEQ ID NO:1、3、5、および6のペプチドで刺激したヒトCTLは、無関係なHIVペプチドでパルス刺激したものと比較して、コグネイトペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する強いIFN−γ産生応答を示した(P<0.05)。エラーバーはSDを表している。
【図3】図3は、HLA−A2陽性肺がん患者および健常ドナーのCD8+ T細胞からのIMP−3特異的ヒトCTLの誘導を図示した一連の分布グラフ(A)および折れ線グラフ(B)で構成される。パート(A)は、SEQ ID NO:1、3または6のペプチドによる刺激後の健常ドナー1または肺がん患者1のヒトCTLの細胞表面上でのCD107aの発現を検出するためのFACS(蛍光活性化細胞選別装置)分析の結果を提示している。これらのペプチドで刺激したCTLを、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)結合抗CD107a抗体(上のパネル)または対照としてのFITC結合抗マウスIgG1(中央のパネル)で染色した。刺激の陰性対照として、CTLをHIVペプチドで刺激して、FITC結合抗CD107a抗体で染色した(下のパネル)。CTL上でのCD107aの発現は、対照と比較して、それらをペプチドSEQ ID NO:1、3または6で刺激した場合に検出された。パート(B)は、IMP−3由来コグネイトペプチドでパルス刺激したT2細胞に対するIMP−3特異的CTLの細胞傷害性を図示している。51Cr放出アッセイにおける、SEQ ID NO:1のペプチド(△;左および中央のパネル)またはSEQ ID NO:6のペプチド(△;右のパネル)でパルス刺激したT2細胞、および無関係なHIV−A2ペプチド(▲)でパルス刺激したT2細胞に対するCTLの細胞傷害性。各値は、3連のアッセイの平均値に基づいて算出した特異的溶解率を表している。
【図4】図4は、3人の肺がん患者のPBMCからのIMP−3特異的CTLの誘導を図示した一連の棒グラフ(A)および折れ線グラフ(B)で構成される。パート(A)は、SEQ ID NO:5のペプチドによる刺激によって患者14のPBMCから誘導されたCTL、およびSEQ ID NO:6のペプチドによって患者103のPBMCから誘導されたCTLが、無関係なHIVペプチドでパルス刺激したものと比較して、コグネイトペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する有意なIFN−γ産生を示したことを図示している。統計学的な有意差は星印によって示す(* P<0.05)。エラーバーはSDを表している。パート(B)は、SEQ ID NO:3のペプチドによって肺がん患者4のPBMCから誘導されたCTL、およびSEQ ID NO:5のペプチドによって患者3のPBMCから誘導されたCTLが、無関係なHIVペプチドでパルス刺激したものと比較して、コグネイトペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性を示したことを図示している。
【図5A】図5は、CTLおよびIMP−3を内因的に発現する腫瘍細胞株を用いた51Cr放出アッセイの結果を図示した一連の折れ線グラフで構成される。パート(A)は、SEQ ID NO:1、3、5、および6のペプチドによる刺激によって健常ドナー2のPBMCから誘導されたCTLの細胞傷害活性を提示している。これらのCTLは、PANC−1(IMP−3+、HLA−A2+)に対する細胞傷害活性を示したが、MCF7(IMP−3−、HLA−A2+)およびA549(IMP−3+、HLA−A2−)に対する細胞傷害活性は示さなかった。
【図5B】パート(B)は、SEQ ID NO:3および5のペプチドによる刺激によって肺がん患者14のPBMCから誘導されたCTL、ならびにSEQ ID NO:6のペプチドによって患者4のPBMCから誘導されたCTLの細胞傷害活性が、51Cr放出アッセイによって検出されたことを提示している。これらのCTLは、PANC−1(IMP−3+、HLA−A2+)に対する細胞傷害活性を示したが、MCF7(IMP−3−、HLA−A2+)およびA549(IMP−3+、HLA−A2−)に対する細胞傷害活性は示さなかった。
【図5C】パート(C)は、51Cr放出アッセイによって分析した、MCF7/IMP3(○;IMP−3遺伝子をトランスフェクトしたMCF7細胞)またはMCF7(●)に対するIMP−3特異的CTLの細胞傷害活性を提示している。
【図5D】パート(D)は、51Cr放出アッセイによって分析した、SW620(△)、SKHep1(◇)、MCF7(●)またはA549(◆)に対するIMP−3特異的CTLの細胞傷害活性を提示している。SEQ ID NO:1のペプチドまたはSEQ ID NO:6のペプチドのいずれかによる刺激によって健常ドナーから生じたCTL株は、SW620細胞、SKHep1細胞に対する細胞傷害活性を呈したが、A549細胞(HLA−A2−、IMP−3+)またはMCF7細胞(HLA−A2+、IMP−3−)に対する細胞傷害活性は呈さなかった。
【図6A】図6は、抗HLAクラスI mAb(W6/32、IgG2a)または抗HLA−A2 mAbによるCTL応答の阻害を図示した一連の棒グラフ(A、B、D)および折れ線グラフ(C)で構成される。ペプチドSEQ ID NO:1、3、5、および6による刺激によって肺がん患者14のPBMCから誘導されたCTL活性が、IFN−γ ELISPOTアッセイによって検出された(A)。CTLによって媒介されるIFN−γ産生はW6/32によって著しく阻害され、一方、抗HLA−DR mAb(H−DR−1、IgG2a)での処理によるIFN−γ産生の阻害は全く検出されなかった。エラーバーはSDを表している。統計学的な有意差は星印によって示す(* P<0.05)。
【図6B】CTLによって媒介されるIFN−γ産生(B)および細胞傷害性(CおよびD)を示す。○、PANC1;●、PANC1+W6/32;□、PANC1+対照mAb。バーは、生じたCTL株をPANC1(白抜きバー)、PANC1+対照mAb(白抜きバー)またはPANC1+ブロッキングmAb(黒のバー)と共培養した場合のIFN−γ産生(B)または細胞傷害性(D)を指し示している。同様の結果が得られた2回の独立した実験による代表的なデータを示している。(B)における統計学的な有意差は星印によって示す。
【図6C】図6C〜Dは、図6A〜Bの続きである。
【図6D】図6C〜Dは、図6A〜Bの続きである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
態様の説明
本発明の態様を実施または試験するにあたって、本明細書に記載の方法および材料と類似のまたは同等の任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をここに記載する。しかしながら、本発明の材料および方法について記載する前に、本明細書に記載の特定の大きさ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣例的な実験法および最適化に応じて変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載に使用する専門用語は特定の型または態様のみを説明する目的のためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、また理解されるべきである。
【0017】
本明細書において言及される出版物、特許、または特許出願それぞれの開示は、全体として参照により本明細書に明確に組み入れられる。しかしながら、本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明によりそのような開示に先行する権利を与えられないと承認するものとしては解釈されるべきではない。
特記しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている用語と同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含め、本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および例は、説明のためのみであって、限定することを意図していない。
【0018】
I.定義
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、他に特記されない限り「少なくとも1つ」を意味する。
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、1個または複数個のアミノ酸残基が修飾された残基であるか、または対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの非天然残基であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0019】
本明細書において時折用いる「オリゴペプチド」という用語は、長さが20残基またはそれ未満、典型的には15残基またはそれ未満であり、典型的には約8〜約11残基、多くの場合は9または10残基で構成されるペプチドのことを指して用いられる。本明細書の全体を通じて、「ペプチド」という用語は、別に具体的に指示する場合を除き、「オリゴペプチド」という用語と同じ意味で用いられる。
【0020】
本明細書で用いる「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様の機能を有するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、および細胞内で翻訳後に修飾されたアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素)を有するが、修飾されたR基または修飾された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、同様の機能を有する化合物を指す。
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)の推奨する、一般に公知の3文字表記または1文字表記により参照されてもよい。
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、他に特記しない限り本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸と同様に、一般に受け入れられている1文字コードにより参照される。
【0021】
「剤」および「組成物」という用語は、本明細書において、特定量の特定成分を含む生成物、ならびに特定量の特定成分の組み合わせから直接的または間接的に生じる任意の生成物を指して互換的に用いられる。修飾語「薬学的」と連係したそのような用語は、有効成分と担体を構成する任意の不活性成分とを含む生成物、ならびに、任意の2つもしくはそれ以上の成分の組み合わせ、複合体形成もしくは凝集から、または1つもしくは複数の成分の解離から、または1つもしくは複数の成分の他の種類の反応もしくは相互作用から、直接的もしくは間接的に生じる任意の生成物を包含することを意図する。したがって、本発明の文脈において、「薬剤」および「薬学的組成物」という用語は、本発明の生成物と薬学的または生理的に許容される担体とを混合することによって作製される任意の剤、物質または組成物のことを指して互換的に用いられる。「薬学的に許容される担体」または「生理的に許容される担体」という語句は、本明細書で用いる場合、対象となるスカフォールドに支えられたポリファーマコフォアを、身体の1つの器官または部分から身体の別の器官または部分に運搬または輸送することに関与する、液体または固体の増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、または封入材料を含むがこれらに限定されない、薬学的または生理的に許容される材料、組成物、物質、または媒体のことを意味する。
本発明の薬学的な剤または組成物は、特にワクチンとして使用される。本発明の文脈において、「ワクチン」(「免疫原性組成物」とも称される)という語句は、動物に接種した際に、抗腫瘍免疫を誘導するように働く物質のことを指す。
【0022】
「有効成分」という用語は、本明細書において、生物学的または生理的な活性のある、剤または組成物の中の物質のことを指す。特に、薬学的な剤または組成物において、「有効成分」とは、客観的な薬理学的効果を示す物質のことを指す。例えば、がんの治療または予防に用いるための薬学的な剤または組成物の場合、剤または組成物の中の有効成分は、がん細胞および/または組織に対して、少なくとも1つの生物学的または生理的な作用を直接的または間接的に導き得る。好ましくは、そのような作用には、がん細胞の増殖の低下または阻害、がん細胞および/または組織の損傷または死滅などが含まれ得る。典型的には、有効成分の間接的効果は、がん細胞を認識するかまたは死滅させるCTLの誘導である。製剤化される前には、「有効成分」は、「バルク」、「原薬」、または「原体」とも称される。
【0023】
別に定める場合を除き、「がん」という用語はIMP−3遺伝子を過剰発現するがんのことを指し、その例には肺がんおよび食道がんが含まれるが、これらに限定されない。
別に定める場合を除き、「細胞傷害性Tリンパ球」、「細胞傷害性T細胞」、および「CTL」という用語は本明細書において互換的に用いられ、別に具体的に指示する場合を除き、非自己細胞(例えば、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞)を認識してそのような細胞の死滅を誘導することのできるTリンパ球のサブグループのことを指す。
別に定める場合を除き、「キット」という用語は、本明細書で用いる場合、試薬と他の材料との組み合わせを指して用いられる。本明細書では、キットはマイクロアレイ、チップ、マーカーなどを含む場合があることを想定している。「キット」という用語は、試薬および/または材料の特定の組み合わせに限定することを意図していない。
本明細書で用いる場合、対象または患者の文脈における「HLA−A2陽性」という語句は、その対象または患者がHLA−A2抗原遺伝子をホモ接合性またはヘテロ接合性に保有し、HLA−A2抗原が対象または患者の細胞においてHLA抗原として発現されることを指す。
【0024】
本発明の方法および組成物ががんの「治療」との関連において有用である限り、治療が、IMP−3遺伝子の発現の低下、または対象におけるがんの大きさ、広がり、もしくは転移能の減少などの臨床的利点をもたらす場合に、治療は「有効である」と見なされる。治療を予防的に適用する場合、「有効な」とは、治療によって、がんの形成が遅延されるもしくは妨げられるか、またはがんの臨床症状が妨げられるもしくは緩和されることを意味する。有効性は、特定の腫瘍の種類を診断または治療するための任意の公知の方法と関連して決定される。
【0025】
本発明の方法および組成物ががんの「予防(preventionおよびprophylaxis)」との関連において有用である限り、そのような用語は本明細書において互換的に用いられて、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の働きを指す。予防(preventionおよびprophylaxis)は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベル」で行われ得る。第一次の予防(preventionおよびprophylaxis)は疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の進行および症状の出現を予防することに加え、機能を回復させ、かつ疾患関連の合併症を減少させることによって、既存の疾患の悪影響を低下させることを目的とした働きを包含する。あるいは、予防(preventionおよびprophylaxis)は、特定の障害の重症度を緩和すること、例えば腫瘍の増殖および転移を減少させることを目的とした広範囲の予防的治療を含み得る。
【0026】
本発明との関連において、がんの治療および/もしくは予防、ならびに/またはその術後再発の予防は、以下の段階、がん細胞の外科的切除、がん性細胞の増殖の阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導およびがんの発生の抑制、腫瘍退縮、ならびに転移の低減または阻害などの段階のいずれかを含む。がんの効果的な治療および/または予防は、死亡率を減少させ、がんを有する個体の予後を改善し、血中の腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつがんに伴う検出可能な症状を緩和する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療および/または予防を構成し、10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減もしくは安定した疾患状態の達成を含む。
【0027】
本発明との関連において、「抗体」という用語は、指定のタンパク質またはそのペプチドと特異的に反応する免疫グロブリンおよびその断片を指す。抗体には、ヒト抗体、霊長類化抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、他のタンパク質または放射標識と融合させた抗体、および抗体断片が含まれ得る。さらに、本明細書において「抗体」は広義で使用され、具体的には完全なモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの完全な抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を包含し、また所望の生物活性を示す限り、抗体断片を包含する。「抗体」は、すべてのクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM)を示す。
【0028】
II.ペプチド
IMP−3由来のペプチドが細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって認識される抗原として機能することを実証するために、IMP−3(SEQ ID NO:22)由来のペプチドを分析して、それらが、通常見られるHLAアリルであるHLA−A2(例えばA*0201およびA*0206)によって拘束される抗原エピトープであるかどうかを判定した(Date Y et al., Tissue Antigens 47: 93-101, 1996;Kondo A et al., J Immunol 155: 4307-12, 1995;Kubo RT et al., J Immunol 152: 3913-24, 1994)。
IMP−3由来のHLA−A2結合ペプチドの候補を、HLA−A2に対するそれらの結合親和性に基づいて同定した。これらのペプチドを負荷した樹状細胞(DC)によるT細胞のインビトロでの刺激後、特にSEQ ID NO:1、3、5、および6のペプチドの各々を用いてCTLの樹立に成功した。
【0029】
これらの樹立されたCTLは、各々のペプチドでパルス刺激した標的細胞に加え、HLA−A*0201およびIMP−3を発現する細胞に対しても強い特異的CTL活性を示す。本明細書におけるこれらの結果は、IMP−3がCTLによって認識される抗原であること、およびそれらのペプチドがHLA−A2(例えば、A*0201およびA*0206)によって拘束されるIMP−3のエピトープペプチドであり得ることを実証している。
IMP−3遺伝子は肺がんおよび食道がんなどのほとんどのがん組織で過剰発現されるため、これは免疫療法の優れた標的である。したがって、本発明は、CTLによって認識されるIMP−3のエピトープに対応するノナペプチド(9個のアミノ酸残基で構成されるペプチド)およびデカペプチド(10個のアミノ酸残基で構成されるペプチド)などのオリゴペプチドを提供する。本発明のオリゴペプチドの特に好ましい例には、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドが含まれる。
【0030】
一般に、インターネット上で現在利用可能なソフトウェアプログラム、例えばParker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75に記載されたものなどを用いて、さまざまなペプチドとHLA抗原との間の結合親和性をインシリコで計算することができる。HLA抗原との結合親和性は例えば、参考文献、Parker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75およびKuzushima K et al., Blood 2001, 98(6): 1872-81に記載されたように測定することができる。結合親和性を決定するための方法は、例えば、Journal of Immunological Methods, 1995, 185: 181-190およびProtein Science, 2000, 9: 1838-1846に記載されている。したがって、本発明は、そのような公知のプログラムを用いて同定された、HLA抗原と結合するIMP−3のペプチドを包含する。
【0031】
本発明のオリゴペプチドには、結果として生じるペプチドがそのCTL誘導能を保持する限り、付加的なアミノ酸残基を隣接させることができる。CTL誘導能を有するそのようなペプチドは、典型的には約40アミノ酸未満であり、多くの場合は約20アミノ酸未満であり、通常は約15アミノ酸未満である。本発明のオリゴペプチド(例えば、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列で構成されるオリゴペプチド)に隣接する具体的なアミノ酸配列は限定されるものではなく、それが元のペプチドのCTL誘導能を損なわない限り、任意の種類のアミノ酸で構成することができる。したがって、本発明はまた、CTL誘導能と、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列とを有するペプチドも提供する。
【0032】
一般に、あるタンパク質の中の1個、2個または数個のアミノ酸の改変は、そのタンパク質の機能に影響を及ぼさないと考えられ、場合によっては元のタンパク質の所望の機能を強化することさえあると考えられる。事実、改変ペプチド(すなわち、元の参照配列と比較して、1個、2個または数個のアミノ酸残基が改変された(すなわち、置換、欠失、付加および/または挿入された)アミノ酸配列で構成されるペプチド)は、元のペプチドの生物活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 1984, 81: 5662-6;Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 1982, 10: 6487-500;Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 1982, 79: 6409-13)。したがって、1つの態様において、本発明のペプチドは、CTL誘導能と、1個、2個または数個のアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換されたSEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列との両方を有し得る。
【0033】
当業者は、単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加または置換が、元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらす傾向があることを認識する。したがって、それらは慣用的に「保存的置換」または「保存的改変」と称され、この場合、タンパク質の変化により元のタンパク質と類似の性質および機能を有する改変タンパク質が生じる。機能的に類似しているアミノ酸を提示する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。保存することが望ましいアミノ酸側鎖の特性の例には、例えば、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、相互に保存的置換であるとして当技術分野で認められているアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton,Proteins 1984を参照されたい)。
【0034】
このような保存的改変ペプチドもまた、本発明のペプチドと見なされる。しかしながら、本発明のペプチドはこれらに限定されず、改変ペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、非保存的な改変を含むことができる。さらに、改変ペプチドは、IMP−3の多型変異体、種間相同体、および対立遺伝子のCTL誘導可能なペプチドを排除しない。
【0035】
必要なCTL誘導能を保持するために、少数の(例えば、1個、2個、または数個の)またはわずかな割合のアミノ酸を改変する(挿入、欠失、付加、および/または置換する)ことができる。本明細書において、「数個」という用語は、5個またはそれ未満のアミノ酸、例えば4個もしくは3個またはそれ未満を意味する。改変されるアミノ酸の割合は、好ましくは20%もしくはそれ未満、より好ましくは15%もしくはそれ未満、さらにより好ましくは10%もしくはそれ未満、または1〜5%である。
【0036】
免疫療法との関連で用いられた場合、本発明のペプチドは、好ましくはHLA抗原との複合体として、細胞またはエキソソームの表面上に提示されるべきである。したがって、CTLを誘導するばかりでなく、HLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドを選択することが好ましい。そのために、アミノ酸残基の置換、挿入、欠失、および/または付加によってペプチドを改変して、結合親和性が改善された改変ペプチドを得ることができる。天然に提示されるペプチドに加えて、HLA抗原への結合によって提示されるペプチドの配列の規則性は既知であることから(J Immunol 1994, 152: 3913;Immunogenetics 1995, 41: 178;J Immunol 1994, 155: 4307)、そのような規則性に基づいた改変を本発明の免疫原性ペプチドに導入することができる。
【0037】
例えば、HLA−A24結合親和性を高めるためには、N末端から2番目のアミノ酸をロイシンもしくはメチオニンで置換すること、および/またはC末端のアミノ酸をバリンもしくはロイシンで置換することが望ましい可能性がある。したがって、SEQ ID NO:1、3、5、および6のアミノ酸配列を有するペプチドであって、SEQ ID NOのN末端から2番目のアミノ酸がロイシンもしくはメチオニンで置換されている、および/またはSEQ ID NOのアミノ酸のC末端がバリンもしくはロイシンで置換されているペプチドは、本発明の範囲に含まれる。
【0038】
置換を、末端アミノ酸の箇所だけでなく、ペプチドのTCR認識の可能性のある位置に導入することもできる。いくつかの研究により、ペプチドのアミノ酸置換物は元のものと同等であるかまたはより優れていることが実証されており、これには例えばCAP1、p53(264−272)、Her−2/neu(369−377)、またはgp100(209−217)がある(Zaremba et al. Cancer Res. 57, 4570-4577, 1997、T. K. Hoffmann et al. J Immunol. (2002) Feb 1;168(3):1338-47.、S. O. Dionne et al. Cancer Immunol immunother. (2003) 52: 199-206、およびS. O. Dionne et al. Cancer Immunology, Immunotherapy (2004) 53, 307-314)。
本発明はまた、本明細書に開示された配列へのアミノ酸の付加も想定している。例えば、1個、2個または数個のアミノ酸を、記載されたペプチドのN末端および/またはC末端に付加することもできる。高いHLA抗原結合親和性を有しかつCTL誘導能を保持しているそのような改変ペプチドも、本発明に含まれる。
【0039】
しかしながら、ペプチド配列が、異なる機能を有する内在性または外来のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一である場合、自己免疫障害および/または特定の物質に対するアレルギー症状などの副作用が誘発される可能性がある。したがって、ペプチドの配列が別のタンパク質のアミノ酸配列と一致する状況を回避するために、利用可能なデータベースを用いて最初に相同性検索を行うことが好ましい。相同性検索から、対象ペプチドと比較してわずか1個または2個のアミノ酸が異なるペプチドが存在しないことが明らかになった場合には、そのような副作用の危険を全く伴うことなしに、HLA抗原とのその結合親和性を増大させるため、および/またはそのCTL誘導能を増大させるために、該対象ペプチドを改変することができる。
【0040】
上記のようにHLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドは、非常に効果的であると予測されるが、高い結合親和性の存在を指標として選択された候補ペプチドを、CTL誘導能の有無についてさらに調べる。本明細書において「CTL誘導能」という語句は、抗原提示細胞上に提示された場合に、細胞傷害性リンパ球(CTL)を誘導するペプチドの能力を示す。さらに、「CTL誘導能」は、CTL活性化を誘導する、CTL増殖を誘導する、CTLによる標的細胞の溶解を促進する、およびCTLのIFN−γ産生を増加させる、ペプチドの能力を含む。
【0041】
CTL誘導能の確認は、ヒトMHC抗原を保有する抗原提示細胞(例えば、Bリンパ球、マクロファージ、および樹状細胞(DC))、またはより具体的にはヒト末梢血単核白血球由来のDCを誘導し、ペプチドで刺激した後、CD8陽性細胞と混合し、その後、標的細胞に対してCTLによって産生および放出されたIFN−γを測定することにより達成される。反応系として、ヒトHLA抗原を発現するように作製されたトランスジェニック動物(例えば、BenMohamed L, Krishnan R, Longmate J, Auge C, Low L, Primus J, Diamond DJ, Hum Immunol 2000 Aug, 61(8): 764-79, Related Articles, Books, Linkout Induction of CTL response by a minimal epitope vaccine in HLA A*0201/DR1 transgenic mice: dependence on HLA class II restricted T(H) responseに記載されているもの)を用いることができる。例えば、標的細胞を51Cr等で放射標識することが可能であり、標的細胞から放出された放射能から細胞傷害活性を算出することができる。あるいは、固定化したペプチドを保有する抗原提示細胞(APC)の存在下で、CTLによって産生および放出されたIFN−γを測定し、抗IFN−γモノクローナル抗体を用いて培地上の阻止帯を可視化することによって、CTL誘導能を評価することができる。
【0042】
上記のようにペプチドのCTL誘導能を検討した結果、HLA抗原に対する高い結合親和性を有するそれらのペプチドが、高いCTL誘導能を必ずしも有するわけではないことが発見された。しかしながら、同定および評価したそのようなペプチドのうち、SEQ ID NO:1、3、5、および6によって示すアミノ酸配列を有するペプチドから選択されたオリゴペプチドは、HLA抗原に対する高い結合親和性に加えて、特に高いCTL誘導能を示すことが見いだされた。したがって、これらのペプチドは、本発明の好ましい態様として例示される。
【0043】
上記の改変に加えて、結果として生じる連結ペプチドが元のペプチドの必要なCTL誘導能を保持する限り、本発明のペプチドを他の物質と連結させることもできる。適した物質の例には以下のものが非限定的に含まれる:ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマーなど。ペプチドは、改変によって元のペプチドの生物活性を損なわないことを条件として、グリコシル化、側鎖酸化またはリン酸化などの改変を含むことができる。これらの種類の改変は、付加的な機能(例えば、標的化機能および送達機能)を付与するため、またはポリペプチドを安定化するために行うことができる。
【0044】
例えば、ポリペプチドのインビボ安定性を高めるために、D−アミノ酸、アミノ酸模倣体または非天然アミノ酸を導入することが当技術分野において公知であり、この概念を本発明のポリペプチドに適合させることもできる。ポリペプチドの安定性は、いくつかのやり方でアッセイすることができる。例えば、ペプチダーゼ、ならびにヒトの血漿および血清などのさまざまな生体媒質を用いて、安定性を試験することができる(例えば、Verhoef et al., Eur J Drug Metab Pharmacokin 1986, 11: 291-302を参照)。
【0045】
さらに、本発明のペプチドを、スペーサーまたはリンカーを介して他のペプチドと連結させてもよい。他のペプチドの例には、他のTAAに由来するCTL誘導性ペプチドが非限定的に含まれる。あるいは、本発明の2つまたはそれ以上のペプチドをスペーサーまたはリンカーを介して連結させてもよい。スペーサーまたはリンカーを介して連結させるペプチドは、同じであっても互いに異なってもよい。スペーサーおよびリンカーの種類は特に限定されず、ペプチドで構成されるもの、より好ましくはペプチダーゼ、プロテアーゼおよびプロテアソームなどの酵素によって切断され得る1つまたは複数の切断部位を有するペプチドで構成されるものが含まれる。リンカーまたはスペーサーの例には、以下のものが非限定的に含まれる:AAY(P. M. Daftarian et al., J Trans Med 2007, 5:26)、AAA、NKRK(R. P. M. Sutmuller et al., J Immunol. 2000, 165: 7308-7315)、または1個〜数個のリジン残基(S. Ota et al., Can Res. 62, 1471-1476、K. S. Kawamura et al., J Immunol. 2002, 168: 5709-5715)。本発明は、スペーサーまたはリンカーを介して他のペプチドと連結されたペプチドを想定している。
【0046】
本発明のペプチドがシステイン残基を含む場合、それらのペプチドはシステイン残基のSH基間のジスルフィド結合を介して二量体を形成する傾向がある。したがって、本発明のペプチドの二量体も、本発明のペプチドに含まれる。
本明細書において、本発明のペプチドを「IMP−3ペプチド」、「IMP−3ポリペプチド」または「IMP−3オリゴペプチド」として記載することもできる。
【0047】
III.IMP−3ペプチドの調製
周知の技法を用いて、本発明のペプチドを調製することができる。例えば、組換えDNA技術または化学合成を用いて、ペプチドを合成的に調製することができる。本発明のペプチドは、個々に、または2つもしくはそれ以上のペプチドで構成されるより長いポリペプチドとして、合成することができる。その後ペプチドを単離する、すなわち、他の天然の宿主細胞タンパク質およびそれらの断片、または他のいかなる化学物質も実質的に含まないように精製または単離することができる。
【0048】
本発明のペプチドはまた、修飾によって元のペプチドの生物活性が損なわれない限り、糖鎖付加、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。他の例示的な修飾には、例えば当該ペプチドの血清半減期を延長させるために用いることができる、D−アミノ酸または他のアミノ酸模倣体の取り込みが含まれる。
【0049】
選択されたアミノ酸配列に基づいた化学合成によって、本発明のペプチドを得ることができる。該合成に適合させることのできる従来のペプチド合成法の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)「ペプチド合成」(日本語)、丸善、1975;
(iv)「ペプチド合成の基礎と実験」(日本語)、丸善、1985;
(v)「続医薬品の開発」(日本語)、第14巻(ペプチド合成)、広川書店、1991;
(vi)WO99/67288;および
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, Solid Phase Peptide Synthesis, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0050】
あるいは、ペプチドを産生するための任意の公知の遺伝子工学的方法を適合させて、本発明のペプチドを得ることもできる(例えば、Morrison J, J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (Wu et al.編) 1983, 101: 347-62)。例えば、最初に、目的のペプチドを発現可能な形態で(例えば、プロモーター配列に相当する調節配列の下流に)コードするポリヌクレオチドを有する適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞に形質転換する。次いで、該宿主細胞を培養して、関心対象のペプチドを産生させる。インビトロ翻訳系を適合してペプチドをインビトロで作製することもできる。
【0051】
IV.ポリヌクレオチド
本発明はまた、前述の本発明のペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを提供する。これらには、天然IMP−3遺伝子(GenBankアクセッション番号NM_006547.2(SEQ ID NO:21))由来のポリヌクレオチド、およびその保存的に改変されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドが含まれる。本明細書において「保存的に改変されたヌクレオチド配列」という語句は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする配列を指す。遺伝暗号の縮重のため、数多くの機能的に同一の核酸が任意の特定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸のアラニンをコードする。したがって、あるコドンによってアラニンが指定される任意の位置において、コードされるポリペプチドを変化させることなく、該コドンを、記載された対応するコドンのいずれかに変更することができる。そのような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。ペプチドをコードする本明細書中のあらゆる核酸配列は、該核酸のあらゆる可能なサイレント変異をも表す。核酸中の各コドン(通常メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一の分子を得ることができることを、当業者は認識するであろう。したがって、ペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、開示した各配列において黙示的に記載されている。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNA、およびそれらの誘導体から構成することができる。当該技術分野においては周知のように、DNAは天然塩基A、T、C、およびGなどの塩基から適宜構成され、RNAではTはUに置き換えられる。当業者は、非天然塩基もまたポリヌクレオチドに含まれることを認識する。
本発明のポリヌクレオチドは、介在するアミノ酸配列を間に伴ってまたは伴わずに、本発明の複数のペプチドをコードすることができる。例えば、介在するアミノ酸配列は、ポリヌクレオチドまたは翻訳されたペプチドの切断部位(例えば、酵素認識配列)を提供することができる。さらに、ポリヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードするコード配列に対する任意の付加的配列を含むことができる。例えば、ポリヌクレオチドは、ペプチドの発現に必要な調節配列を含む組換えポリヌクレオチドであり得、またはマーカー遺伝子等を有する発現ベクター(プラスミド)であり得る。一般に、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる従来の組換え技法によりポリヌクレオチドを操作することによって、そのような組換えポリヌクレオチドを調製することができる。
【0053】
組換え技法および化学合成技法のいずれを用いても、本発明のポリヌクレオチドを作製することができる。例えば、適切なベクターに挿入することによってポリヌクレオチドを作製することができ、これはコンピテント細胞にトランスフェクトした場合に発現され得る。あるいは、PCR技法または適切な宿主内での発現を用いて、ポリヌクレオチドを増幅することもできる(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1989を参照されたい)。あるいは、Beaucage SL & Iyer RP, Tetrahedron 1992, 48: 2223-311;Matthes et al., EMBO J 1984, 3: 801-5に記載されている固相技法を用いて、ポリヌクレオチドを合成することもできる。
本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、およびそれらのベクターを有する宿主細胞もまた、本発明に含まれる。
【0054】
V.エキソソーム
本発明はさらに、本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体を自身の表面上に提示する、エキソソームと称される細胞内小胞を提供する。エキソソームは、例えば、公表特許公報 特表平11−510507号およびWO99/03499号に詳述された方法を用いて調製することができ、治療および/または予防の対象となる患者から得られたAPCを用いて調製することができる。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様の様式で、ワクチンとして接種することができる。
【0055】
これらの複合体中に含まれるHLA抗原の型は、治療および/または予防を必要とする対象のものと一致しなければならない。日本人および白人において高度に発現されるHLA−A2型を用いることが有効な結果を得るために好都合であり、HLA−A2(A*0201およびA*0206)などのサブタイプも使用される。典型的には、臨床施設で、治療を必要とする患者のHLA抗原の型を前もって調べることにより、特定の抗原に対して高レベルの結合親和性を有するかまたは抗原提示によるCTL誘導能を有するペプチドの適切な選択が可能となる。さらに、高い結合親和性およびCTL誘導能の両方を有するペプチドを得るために、天然のIMP−3の部分ペプチドのアミノ酸配列に基づいて、1個、2個または数個のアミノ酸の置換、挿入、欠失および/または付加を行うこともできる。
本発明のエキソソームに対してHLA−A2(A*0201)抗原を用いる場合には、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択される配列を有するペプチドが特に使用される。
【0056】
VI.抗原提示細胞(APC)
本発明はまた、HLA抗原と本発明のペプチドとの間に形成された複合体を自身の表面上に提示する、単離された抗原提示細胞(APC)も提供する。本発明のペプチドを接触させることによって、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現可能な形態で導入することによって得られるAPCは、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、かつ単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくは細胞傷害性T細胞を含む他の薬物と組み合わせて、ワクチンとして投与することができる。
【0057】
これらのAPCは特定の種類の細胞に限定されず、これには、リンパ球によって認識されるように自身の細胞表面上にタンパク質性抗原を提示することが知られている、樹状細胞(DC)、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、および活性化T細胞が含まれる。DCはAPCの中で最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCであるため、DCは本発明のAPCとして使用される。
【0058】
例えば、末梢血単球からDCを誘導し、続いてそれらをインビトロ、エクスビボ、またはインビボで本発明のペプチドと接触させる(刺激する)ことによってAPCを得ることができる。本発明のペプチドを対象に投与すると、本発明のペプチドを提示するAPCがその対象の体内で誘導される。「APCを誘導する」という語句は、細胞を本発明のペプチドまたはそのようなペプチドをコードするヌクレオチドと接触させて(刺激して)、HLA抗原と本発明のペプチドとの間に形成される複合体を細胞表面上に提示させることを含む。したがって、本発明のAPCは、本発明のペプチドを対象に投与した後にその対象からAPCを収集することによって得てもよい。あるいは、対象から収集したAPCを本発明のペプチドと接触させることによって、本発明のAPCを得てもよい。
【0059】
本発明のAPCは、例えばワクチンとして、対象におけるがんに対する免疫応答を誘導するために、その対象に単独で投与してもよい。また、本発明のAPCを、本発明のペプチド、エキソソーム、またはCTLを含む他の薬物と組み合わせて投与してもよい。エクスビボ投与は、以下の段階を含み得る:
a:第1の対象からAPCを収集する段階;
b:段階aのAPCをペプチドと接触させる段階;および
c:ペプチド負荷を受けたAPCを第2の対象に投与する段階。
【0060】
第1の対象および第2の対象は同一の個体であってよく、または異なる個体であってもよい。あるいは、本発明によれば、抗原提示細胞を誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための本発明のペプチドの使用も提供される。加えて、本発明は、抗原提示細胞を誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための方法または工程を提供し、ここで本方法は、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体とともに混合または製剤化する段階を含む。その上、本発明は、肺がんおよび食道がんを含むがんを治療するための薬学的な剤または組成物を製造するための方法または工程を提供し、ここで本方法は、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体とともに混合または製剤化する段階を含む。さらに、本発明はまた、抗原提示細胞を誘導するための本発明のペプチドも提供する。段階bによって得たAPCを、ワクチンとして対象に投与することができる。本発明はさらに、肺がんおよび食道がんを含むがんを治療するためのペプチドを提供する。
【0061】
本発明の1つの局面によれば、本発明のAPCは高レベルのCTL誘導能を有する。「高レベルのCTL誘導能」という用語において、高レベルとは、ペプチドと接触させていないかまたはCTLを誘導することができないペプチドと接触させたAPCによるCTL誘導能のレベルに対するものである。高レベルのCTL誘導能を有するそのようなAPCは、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子をインビトロでAPCに移入する段階を含む方法によって調製することができる。導入する遺伝子は、DNAまたはRNAの形態であってよい。導入のための方法の例には、特に限定されることなく、リポフェクション、エレクトロポレーション、およびリン酸カルシウム法といった、当分野において従来行われているさまざまな方法が含まれる。より具体的には、Cancer Res 1996, 56: 5672-7;J Immunol 1998, 161: 5607-13;J Exp Med 1996, 184: 465-72;公表特許公報第2000−509281号に記載されたように、それを行うことができる。遺伝子をAPCに移入することにより、その遺伝子が細胞内で転写、翻訳などを受け、続いて、得られたタンパク質がMHCクラスIまたはクラスIIによるプロセシングを受けて、提示経路を経てペプチドが提示される。
【0062】
好ましい態様において、本発明のAPCはその表面上に、HLA抗原と、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドとの複合体を提示する。好ましくは、本発明のAPCは、HLA−A2抗原をその表面上に保有する。言い換えれば、本発明のAPCは好ましくは、HLA−A2抗原をその表面上に発現する。あるいは、HLA抗原との複合体を形成するオリゴペプチドは、1個、2個または数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドであってもよい;例えば、N末端から2番目のアミノ酸をロイシンもしくはメチオニンで置換してもよく、および/またはC末端のアミノ酸をバリンもしくはロイシンで置換してもよい。
【0063】
VII.細胞傷害性T細胞(細胞傷害性Tリンパ球;CTL)
本発明のペプチドのいずれかに対して誘導された細胞傷害性T細胞は、インビボで腫瘍関連内皮を標的とする免疫応答を増強させ、それ故にペプチド自体と同様の様式でワクチンとして用いることができる。したがって、本発明はまた、本ペプチドのいずれかよって特異的に誘導または活性化された、単離された細胞傷害性T細胞も提供する。
そのような細胞傷害性T細胞は、(1)本発明のペプチドを対象に投与し、続いてその対象から細胞傷害性T細胞を収集することによって、または(2)対象由来のAPC、およびCD8陽性細胞、もしくは末梢血単核白血球をインビトロで本発明のペプチドと接触させ(刺激して)、続いて細胞傷害性T細胞を単離することによって、得ることができる。
【0064】
本発明のペプチドを提示するAPCによる刺激によって誘導された細胞傷害性T細胞は、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、単独で投与するか、または効果を調節する目的で本発明のペプチドもしくはエキソソームを含む他の薬物と組み合わせて投与することができる。得られた細胞傷害性T細胞は、本発明のペプチド、または例えば誘導のために用いた同じペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。言い換えれば、得られた細胞傷害性T細胞は、標的細胞の表面上でHLA抗原と本発明のペプチドとの間で形成された複合体をT細胞受容体を介して認識し(すなわち、それと結合し)、続いて標的細胞を攻撃してその標的細胞の死滅を誘導することができる。標的細胞は、IMP−3を内因的に発現する細胞、またはIMP−3遺伝子をトランスフェクトした細胞であってよい;本発明のペプチドによる刺激に起因してそのペプチドを細胞表面上に提示する細胞も、活性化されたCTLの攻撃の標的となり得る。好ましい態様において、標的細胞はHLA−A2抗原をその表面上に保有し、HLA−A2と本発明のペプチドとの間で形成された複合体をその表面上に提示する。
【0065】
VIII.T細胞受容体(TCR)
本発明はまた、T細胞受容体(TCR)のサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードする核酸配列を含む組成物、およびそれを用いる方法を提供する。TCRサブユニットαおよびβは、IMP−3を提示する腫瘍細胞に対する特異性をT細胞に付与するTCRを形成する能力を有する。当技術分野における公知の方法を用いることによって、本発明の1つまたはそれ以上のペプチドで誘導されたCTLにおいて発現されるTCR α鎖およびβ鎖の核酸配列を単離して、初代ヒトリンパ球への効率の高い遺伝子移入を媒介し得る適したベクターを構築するために用いることができる(WO2007/032255号、およびMorgan et al., J Immunol, 171, 3288 (2003))。例えば、TCRを分析するためにはPCR法が好ましい。分析のためのPCRプライマーは、例えば、5'側プライマーとしての5'−Rプライマー(5'−gtctaccaggcattcgcttcat−3')(SEQ ID NO:23)、および3'側プライマーとしての、TCR α鎖C領域に対して特異的な3−TRa−Cプライマー(5'−tcagctggaccacagccgcagcgt−3')(SEQ ID NO:24)、TCR β鎖C1領域に対して特異的な3−TRb−C1プライマー(5'−tcagaaatcctttctcttgac−3')(SEQ ID NO:25)またはTCR β鎖C2領域に対して3−TRβ−C2プライマー(5'−ctagcctctggaatcctttctctt−3')(SEQ ID NO:26)であってよいが、これらには限定されない。例示的なベクターには、レトロウイルスベクターが非限定的に含まれる。有利には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の哺乳動物のもの)の迅速な改変により、優れたがん細胞死滅特性を有する改変T細胞を迅速かつ容易に作製することを可能にする汎用的な組成物を提供する。派生TCRは、IMP−3ペプチドを表示する標的細胞と高い結合力で結合し、任意で、IMP−3ペプチドを提示する標的細胞の効率的な死滅をインビボおよびインビトロで媒介する。
【0066】
TCRサブユニットをコードする核酸を、適したベクター、例えばレトロウイルスベクターに組み入れることができる。これらのベクターは当技術分野において周知である。核酸またはそれらを有効な形で含むベクターを、T細胞、例えば、患者由来のT細胞に移入することができる。有利には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の哺乳動物のもの)の迅速な改変により、優れたがん細胞死滅特性を有する改変T細胞を迅速かつ容易に作製することを可能にする汎用的な組成物を提供する。
【0067】
特異的TCRとは、そのTCRがT細胞の表面上に存在する場合に、本発明のペプチドとHLA分子との複合体を特異的に認識して、標的細胞に対する特異的活性をT細胞に付与することのできる受容体のことである。上記の複合体の特異的認識は任意の公知の方法によって確認することができ、好ましい方法には、例えば、HLA分子および本発明のペプチドを用いるテトラマー分析、ならびにELISPOTアッセイ法が含まれる。ELISPOTアッセイを行うことにより、細胞表面上にTCRを発現するT細胞がそのTCRによって細胞を認識すること、およびそのシグナルが細胞内で伝達されることを確認することができる。上述した複合体が、その複合体がT細胞表面上に存在する場合にT細胞に細胞傷害活性を与えることができることは、公知の方法によって確認することもできる。好ましい方法には、例えば、HLA陽性標的細胞に対する細胞傷害活性の判定、例えばクロム放出アッセイなどが含まれる。
【0068】
また、本発明は、HLA−A2との関連においてIMP−3ペプチド、例えばSEQ ID NO:1、3、5、および6と結合するTCRサブユニットポリペプチドをコードする核酸による形質導入によって調製されるCTLも提供する。形質導入されたCTLは、インビボでがん細胞にホーミングすることができ、かつ周知の培養法によってインビトロで増幅させることができる(例えば、Kawakami et al., J Immunol., 142, 3452-3461 (1989))。本発明のT細胞は、治療または保護を必要としている患者におけるがんの治療および/または予防に有用な免疫原性組成物を形成するために用いることができる(WO2006/031221号)。
【0069】
IX.薬学的な剤または組成物
IMP−3の発現は、正常組織と比較していくつかのがんで上方制御されているため、本発明のペプチドまたはそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドを、がんまたは腫瘍の治療および/もしくは予防のため、ならびに/またはその術後再発の予防のために用いることができる。したがって、本発明は、本発明のペプチドまたはそれらのペプチドをコードするポリヌクレオチドの1種または複数種を有効成分として含む、がんまたは腫瘍の治療および/もしくは予防のため、ならびに/またはその術後再発の予防のための薬学的な剤または組成物を提供する。あるいは、薬学的な剤または組成物として用いるために、本ペプチドを前記のエキソソーム、またはAPCなどの細胞のいずれかの表面上に発現させることもできる。加えて、本発明のペプチドのいずれかを標的とする前記の細胞傷害性T細胞を、本薬学的な剤または組成物の有効成分として用いることもできる。本発明の文脈において、細胞傷害性T細胞の活性に関する「ペプチドを標的とする」という語句は、その細胞傷害性T細胞が、標的細胞の表面上でHLA抗原とペプチドとの間で形成された複合体をそのT細胞受容体を介して認識して(すなわち、それと結合して)、続いて標的細胞を攻撃して標的細胞の死滅を誘導することができることを示している。
【0070】
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療するための薬学的な組成物または剤の製造における、以下の中から選択される有効成分の使用も提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0071】
あるいは、本発明は、がんまたは腫瘍の治療に用いるための、以下の中から選択される有効成分をさらに提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0072】
あるいは、本発明は、がんまたは腫瘍を治療するための薬学的な組成物または剤を製造するための方法または工程をさらに提供し、本方法または工程は、薬学的または生理的に許容される担体を、有効成分としての以下の中から選択される有効成分とともに製剤化する段階を含む:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0073】
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療するための薬学的な組成物または剤を製造するための方法または工程を提供し、本方法または工程は、有効成分を薬学的または生理的に許容される担体と混合する段階を含み、有効成分は以下の中から選択される:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0074】
あるいは、本発明の薬学的な組成物または剤を、がんまたは腫瘍の予防およびその術後再発の予防のいずれかまたは両方のために用いてもよい。
【0075】
本発明の薬学的な剤または組成物を用いて、ヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル、ヒヒ、およびチンパンジー、特に商業的に重要な動物または家畜を含むがそれらに限定されない任意の他の哺乳動物を含む対象または患者において、がんまたは腫瘍を治療および/もしくは予防する、ならびに/またはその術後再発を予防することができる。
【0076】
本発明によれば、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドは、強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A2拘束性エピトープペプチドであることが見いだされた。このため、SEQ ID NO:1、3、5または6のアミノ酸配列を有するこれらのオリゴペプチドのいずれかを含む本発明の薬学的な剤または組成物は、HLA抗原がHLA−A2である対象への投与のために特に適している。本明細書で用いる場合、「HLA抗原がHLA−A2である対象」とは、HLA−A2遺伝子をホモ接合性またはヘテロ接合性に保有し、かつHLA−A2がその対象の細胞においてHLA抗原として発現される対象のことを意味する。言い換えれば、対象はHLA−A2陽性である。これらのオリゴペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物に対しても同じことが成り立つ。
【0077】
本発明の薬学的な剤または組成物によって治療されるがんまたは腫瘍は限定されるものではなく、例えば肺がんおよび食道がんを含めてIMP−3が関与するあらゆる種類のがんまたは腫瘍が含まれる。特に、本発明の薬学的な剤または組成物は、好ましくは膵がんに対して適用される。
【0078】
本発明の薬学的な剤または組成物は、前記の有効成分に加えて、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチド、このその他のペプチドをコードする他のポリヌクレオチド、このその他のペプチドを提示する他の細胞なども含有し得る。本明細書において、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有する他のペプチドはがん特異的抗原(例えば、同定されたTAA)によって例示されるが、それらには限定されない。
【0079】
必要であれば、本発明の薬学的な剤または組成物は、他の治療物質が、例えば本発明のペプチドのいずれかなどの有効成分の抗腫瘍効果を阻害しない限り、有効成分としてその治療物質を任意で含んでもよい。例えば、製剤は、抗炎症薬、鎮痛薬、化学療法薬などを含んでもよい。医薬自体に他の治療物質を含めることに加えて、本発明の医薬を、1種または複数種の他の薬理学的な剤または組成物と逐次的にまたは同時に投与することもできる。医薬品および薬理学的な剤または組成物の量は、例えば、用いる薬理学的な剤または組成物の種類、治療する疾患、ならびに投与のスケジュールおよび経路に依存する。
【0080】
本明細書において具体的に言及された成分に加えて、本発明の薬学的な剤または組成物は、当該製剤の種類を考慮して、当技術分野において慣例的な他の剤または組成物も含み得ることが理解されるべきである。
本発明の1つの態様において、本発明の薬学的な剤または組成物を、治療しようとする疾患、例えばがんなどの病状を治療するために有用な材料を含む製品およびキットに含めることができる。製品は、ラベルが付された本薬学的な剤または組成物のいずれかの容器を含むことができる。適した容器には、瓶、バイアルおよび試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成することができる。容器上のラベルは、その剤または組成物が、疾患の1つまたは複数の状態の治療または予防のために用いられることを表示すべきである。ラベルはまた、投与のための指示なども表示すべきである。
【0081】
本発明の薬学的な剤または組成物を含むキットは、上記の容器に加えて、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収容している第2の容器をさらに含み得る。それは、他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用上の説明を含む添付文書を含む、商業上の観点および使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含んでもよい。
【0082】
必要に応じて、薬学的な剤または組成物を、有効成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサー装置の形で提供することができる。パックは例えば、ブリスターパックのように金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる。パックまたはディスペンサー装置には、投与のための説明書を添えることができる。
本発明の別の態様において、本発明のペプチドを、薬学的に許容される塩の形態で投与してもよい。塩の好ましい例には、アルカリ金属との塩、金属との塩、有機塩基との塩、有機酸との塩、および無機酸との塩が含まれる。
【0083】
(1)有効成分としてペプチドを含む薬学的な剤または組成物
本発明のペプチドは、薬学的な剤または組成物として直接投与することができ、または必要であれば、従来の製剤化法によって製剤化してもよい。後者の場合には、本発明のペプチドに加えて、薬物に通常用いられる担体、添加剤などを、特に限定されずに適宜含めることができる。そのような担体の例は、滅菌水、生理的食塩水、リン酸緩衝液、培養液などである。さらに、薬学的な剤または組成物は、必要に応じて、安定剤、懸濁液、保存料、界面活性剤などを含むことができる。本発明の薬学的な剤または組成物は、抗がん目的に用いることができる。
【0084】
インビボでCTLを誘導するために、本発明のペプチドの2つまたはそれ以上から構成される組み合わせとして、本発明のペプチドを調製することができる。ペプチドの組み合わせはカクテルの形態をとることもでき、または標準的な手法を用いて互いにコンジュゲートさせることもできる。例えば、ペプチドを化学的に連結すること、または単一の融合ポリペプチド配列として発現させることができる。組み合わせにおけるペプチドは、同一であってもよく、または異なってもよい。本発明のペプチドを投与することにより、ペプチドがHLA抗原によってAPC上に高密度で提示され、続いて、表示されたペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導される。あるいは、対象由来のAPC(例えば、DC)を本発明のペプチドで刺激することによって得られる、本発明のペプチドのいずれかを細胞表面上に提示するAPCを対象に投与してもよく、その結果として、その対象においてCTLを誘導して、肺がん細胞および食道がん細胞などのがん細胞に対する攻撃性を高めることができる。
【0085】
本発明のペプチドを有効成分として含む、がんまたは腫瘍の治療および/または予防のための薬学的な剤または組成物は、細胞性免疫を効果的に成立させることが知られているアジュバントも含み得る。あるいは、薬学的な剤もしくは組成物を他の有効成分とともに投与するか、または顆粒へと製剤化することによって投与することができる。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質とともに(または連続して)投与された場合に、そのタンパク質に対する免疫応答を強化する化合物のことを指す。本明細書において想定しているアジュバントには、文献(Clin Microbiol Rev 1994, 7: 277-89)に記載されたものが含まれる。適したアジュバントの例には、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、コレラ毒素、サルモネラ毒素などが非限定的に含まれるが、それらには限定されない。
さらに、リポソーム製剤、直径数マイクロメートルのビーズにペプチドが結合している顆粒製剤、およびペプチドに脂質が結合している製剤を好都合に用いてもよい。
【0086】
本発明の別の態様において、本発明のペプチドはまた、薬学的に許容される塩の形態で投与してもよい。塩の好ましい例には、アルカリ金属との塩、金属との塩、有機塩基との塩、有機酸との塩、および無機酸との塩が含まれる。本明細書で使用する「薬学的に許容される塩」とは、その化合物の生物学的有効性および特性を保持し、かつ塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの無機酸または無機塩基との反応によって得られる塩を指す。塩の好ましい例には、アルカリ金属との塩、金属との塩、有機塩基との塩、有機酸との塩、および無機酸との塩が含まれる。
【0087】
いくつかの態様において、本発明の薬学的な剤または組成物は、CTLを刺激する(prime)成分をさらに含み得る。脂質は、ウイルス抗原に対してインビボでCTLを刺激し得る物質または組成物として同定されている。例えば、パルミチン酸残基をリジン残基のεアミノ基およびαアミノ基に付着させ、次に本発明のペプチドに連結させることができる。次いで、脂質付加したペプチドを、ミセルもしくは粒子の状態で直接投与するか、リポソーム中に取り込ませて投与するか、またはアジュバント中に乳化させて投与することができる。CTL応答の脂質による刺激の別の例として、適切なペプチドに共有結合している場合、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイニルセリル−セリン(P3CSS)などの大腸菌(E.coli)リポタンパク質を用いてCTLを刺激することができる(例えば、Deres et al., Nature 1989, 342: 561-4を参照されたい)。
【0088】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等、および全身投与または標的部位の近傍への局所投与であってよい。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によってブーストすることもできる。本発明のペプチドの用量は、治療される疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に応じて適宜調整することができ、これは通常0.001mg〜1000mg、例えば0.001mg〜1000mg、例えば0.1mg〜10mgであり、数日〜数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適宜選択することができる。
【0089】
(2)有効成分としてポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物
本発明の薬学的な剤または組成物はまた、本明細書に開示するペプチドを発現可能な形態でコードする核酸を含み得る。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、ポリヌクレオチドが、細胞に導入された場合に、抗腫瘍免疫を誘導するポリペプチドとしてインビボで発現されることを意味する。例示的な態様において、関心対象のポリヌクレオチドの核酸配列は、該ポリヌクレオチドの発現に必要な調節エレメントを含む。ポリヌクレオチドには、標的細胞のゲノムへの安定した挿入が達成されるように、必要なものを備えさせることができる(相同組換えカセットベクターの説明に関しては、例えばThomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8;米国特許第5,580,859号;第5,589,466号;第5,804,566号;第5,739,118号;第5,736,524号;第5,679,647号;およびWO 98/04720を参照されたい。DNAに基づく送達技術の例には、「裸のDNA」、促進された(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介性)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性の送達が含まれる(例えば、米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0090】
ウイルスベクターまたは細菌ベクターによって、本発明のペプチドを発現させることもできる。発現ベクターの例には、ワクシニアウイルスまたは鶏痘ウイルスなどの弱毒化ウイルス宿主が含まれる。このアプローチは、例えば、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとして、ワクシニアウイルスの使用を伴う。宿主に導入すると、組換えワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それによって免疫応答を誘発する。免疫化プロトコールに有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば米国特許第4,722,848号に記載されている。別の例としてはBCG(カルメット・ゲラン桿菌)である。BCGベクターは、Stover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載されている。治療的な投与または免疫化に有用である多種多様な他のベクター、例えばアデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクター等が明らかである。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71;Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806;Hipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0091】
ポリヌクレオチドの対象内への送達は、直接的であってもよく、この場合にはポリヌクレオチドを保有するベクターに対象を直接曝露し、または間接的であってもよく、この場合にはまずインビトロで細胞を関心対象のポリヌクレオチドで形質転換し、次いで該細胞を対象内に移植する。これら2つのアプローチはそれぞれ、インビボおよびエクスビボの遺伝子治療として公知である。
遺伝子治療の方法の一般的な総説に関しては、Goldspiel et al., Clinical Pharmacy 1993, 12: 488-505;Wu and Wu, Biotherapy 1991, 3: 87-95;Tolstoshev, Ann Rev Pharmacol Toxicol 1993, 33: 573-96;Mulligan, Science 1993, 260: 926-32;Morgan & Anderson, Ann Rev Biochem 1993, 62: 191-217;Trends in Biotechnology 1993, 11(5): 155-215を参照されたい。本発明にも用いることのできる、組換えDNA技術の分野において一般に公知の方法は、Ausubel et al.編, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY, 1993;およびKrieger, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY, 1990に記載されている。
【0092】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等であってよく、全身投与または標的部位の近傍への局所投与が使用される。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によってブーストすることもできる。適切な担体中のポリヌクレオチドの用量、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換された細胞中のポリヌクレオチドの用量は、治療される疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に応じて適宜調整することができ、これは通常0.001mg〜1000mg、例えば0.001mg〜1000mg、例えば0.1mg〜10mgであり、数日に1度〜数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適宜選択することができる。
【0093】
X.ペプチド、エキソソーム、APCおよびCTLを用いる方法
本発明のペプチドおよびそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドは、APCおよびCTLを誘導するため、さらにはがんまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導するために用いることができる。また、本発明のエキソソームおよびAPCを、CTLを誘導するため、さらにはがんまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導するために用いることもできる。ペプチド、ポリヌクレオチド、エキソソームおよびAPCは、任意の他の化合物がそれらのCTL誘導能を阻害しない限り、その化合物と組み合わせて用いることができる。したがって、前記の本発明の薬学的な剤または組成物のいずれかをCTLを誘導するために用い、さらにそれに加えて、これらのペプチドおよびポリヌクレオチドを含むものを、以下に考察するように、APCを誘導するために用いることもできる。さらに、本発明のCTLを、がんまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導するために用いることもできる。
【0094】
(1)抗原提示細胞(APC)を誘導する方法
本発明は、本発明のペプチドまたはそれらのペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いてAPCを誘導する方法を提供する。APCの誘導は、「VI.抗原提示細胞」の項に上述したようにして行うことができる。本発明はまた、高レベルのCTL誘導能を有するAPCを誘導するための方法も提供し、その誘導もまた、前記の「VI.抗原提示細胞」の項目で言及されている。
好ましくは、APCを誘導するための方法は、以下の中から選択される少なくとも1つの段階を含む:
a:APCを、本発明のペプチドと接触させる段階、および
b:本発明のポリペプチドを発現可能な形態でコードするポリヌクレオチドをAPCに導入する段階。
APCを誘導するためのそのような方法は、好ましくはインビトロまたはエクスビボで行われる。これらの方法をインビトロまたはエクスビボで行うためには、治療しようとする対象、またはHLA抗原が治療しようとする対象と同じである他のものからAPCを得るとよい。1つの好ましい態様において、本方法によって誘導されるAPCは、HLA−A2抗原をその表面上に保有する。
【0095】
(2)CTLを誘導する方法
本発明はまた、本発明のペプチド、それらのペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはそれらのペプチドを提示するエキソソームもしくはAPCを用いてCTLを誘導するための方法も提供する。
本発明はまた、本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識する(すなわち、それと結合する)T細胞受容体(TCR)サブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いてCTLを誘導するための方法も提供する。好ましくは、CTLを誘導するための方法は、以下の中から選択される少なくとも1つの段階を含む:
a:CD8陽性T細胞を、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体を自身の表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
b:本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識するTCRサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階。
【0096】
本発明のペプチドを対象に投与すると、対象の体内でCTLが誘導され、腫瘍関連内皮を標的とする免疫応答の強度が強化される。あるいは、それらのペプチドおよびそれらのペプチドをコードするポリヌクレオチドを、対象由来のAPC、およびCD8陽性細胞、または末梢血単核白血球を本発明のペプチドとインビトロで接触させて(それによって刺激して)、CTLを誘導した後に、活性化されたCTL細胞を対象に戻すエクスビボ治療法に用いることもできる。例えば、本方法は以下の段階を含み得る:
a:対象からAPCを収集する段階;
b:ペプチドと段階aのAPCを接触させる段階;
c:段階bのAPCをCD8+ T細胞と混合し、CTLを誘導するために共培養する段階;および
d:段階cの共培養物からCD8+ T細胞を収集する段階。
【0097】
あるいは、本発明によれば、CTLを誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための本発明のペプチドの使用も提供される。加えて、本発明は、CTLを誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための方法または工程を提供し、本方法は、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体とともに混合または製剤化する段階を含む。さらに、本発明はまた、CTLを誘導するための本発明のペプチドも提供する。
【0098】
段階dによって得られた細胞傷害活性を有するCD8+ T細胞を、ワクチンとして対象に投与することができる。上記の段階cにおいてCD8+ T細胞と混合するAPCは、上記の「VI.抗原提示細胞」の項で詳述されているように、本ペプチドをコードする遺伝子をAPCに移入することによって調製することもできるが、それらには限定されない。したがって、本ペプチドをT細胞に対して効果的に提示する任意のAPCまたはエキソソームを、本方法に用いることができる。
【0099】
(3)免疫応答を誘導する方法
本発明はさらに、対象において、肺がんおよび食道がんなどのがんに対する免疫応答を誘導するための方法を提供する。本方法は、以下のものを含む、本発明のワクチン1の投与を含む:
(a)本発明の1種もしくは複数種のオリゴペプチドもしくはその免疫学的活性断片;
(b)(a)のオリゴペプチドもしくは免疫学的活性断片をコードする1種もしくは複数種のポリヌクレオチド;
(c)本発明の1種もしくは複数種の単離されたCTL;
(d)本発明の1種もしくは複数種の単離された抗原提示細胞;または
(e)単離され、TCRをコードする遺伝子によって形質転換された、1種もしくは複数種のT細胞。
【0100】
本発明との関連において、IMP−3を過剰発現するがんを、これらの有効成分によって治療することができる。そのようながんの例には、肺がんおよび食道がんが非限定的に含まれる。したがって、有効成分を含むワクチンまたは薬学的組成物の投与の前に、治療しようとするがん細胞または組織におけるIMP−3の発現レベルが同じ器官の正常細胞と比較して増大しているか否かを確かめることが好ましい。したがって、1つの態様において、本発明は、IMP−3を(過剰)発現するがんを治療するための方法でを提供し、本方法は、以下の段階を含んでもよい:
i)治療しようとするがんを有する対象から得られたがん細胞または組織におけるIMP−3の発現レベルを決定する段階;
ii)IMP−3の発現レベルを正常対照と比較する段階;および
iii)上記の(a)〜(d)から選択される少なくとも1つの構成成分を、正常対照と比較してIMP−3を過剰発現するがんを有する対象に投与する段階。
あるいは、本発明は、IMP−3を過剰発現するがんを有する対象への投与に用いるための、上記の(a)〜(d)から選択される少なくとも1つの構成成分を含むワクチンまたは薬学的組成物も提供し得る。言い換えれば、本発明はさらに、本発明のIMP−3ポリペプチドによって治療されるべき対象を同定する方法を提供し、本方法は、対象由来のがん細胞または組織におけるIMP−3の発現レベルを決定する段階を含み、そのレベルがこの遺伝子の正常対照レベルと比較して上昇していることにより、その対象が本発明のIMP−3によって治療され得るがんを有することが示される。本発明のがんを治療する方法を、以下により詳細に説明する。
【0101】
目的とするIMP−3の転写産物または翻訳産物を含む限り、対象由来の任意の細胞または組織をIMP−3発現の測定に使用することができる。適切な試料の例には、身体組織、ならびに血液、痰、および尿などの体液が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、対象由来の細胞または組織試料は、上皮細胞、より好ましくはがん性上皮細胞、またはがんの疑いがある組織に由来する上皮細胞を含む細胞集団を含む。さらに、必要に応じて、採取された身体組織および体液から細胞を精製し、その後これを対象由来試料として用いてもよい。
本発明の方法によって治療すべき対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0102】
本発明によれば、対象から採取されたがん細胞または組織中のIMP−3の発現レベルが測定される。発現レベルは、当技術分野で公知の方法を用いて、転写産物レベルで測定することができる。例えば、IMP−3のmRNAを、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)によってプローブを用いて定量することができる。検出は、チップまたはアレイにおいて行うことができる。IMP−3の発現レベルを検出するには、アレイの使用が好ましい。当業者は、IMP−3の配列情報を利用して、そのようなプローブを調製することができる。例えば、IMP−3のcDNAをプローブとして用いることができる。必要に応じて、プローブを、色素、蛍光物質、および同位体などの適切な標識で標識してもよく、該遺伝子の発現レベルを、ハイブリダイズした標識の強度として検出してもよい。
【0103】
さらに、増幅に基づく検出法(例えば、RT−PCR)によりプライマーを用いて、IMP−3の転写産物(例えば、SEQ ID NO:21)を定量してもよい。そのようなプライマーは、該遺伝子の入手可能な配列情報に基づいて調製することができる。
具体的には、本発明の方法に用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件下、中程度にストリンジェントな条件下、または低ストリンジェントな条件下で、IMP−3のmRNAとハイブリダイズする。本明細書で使用する「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列とはハイブリダイズするが、その他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列に依存し、異なる状況下では異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高い温度で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、所定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように選択する。Tmとは、平衡状態で、標的配列に相補的なプローブの50%が標的配列とハイブリダイズする(所定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である。標的配列は一般に過剰に存在するため、Tmでは、平衡状態でプローブの50%が占有される。典型的には、ストリンジェントな条件とは、pH7.0〜8.3において塩濃度がナトリウムイオン約1.0M未満、典型的にはナトリウムイオン(または他の塩)約0.01〜1.0Mであり、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)に関しては少なくとも約30℃、およびより長いプローブまたはプライマーに関しては少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって達成してもよい。
【0104】
プローブまたはプライマーは特定のサイズのものであってよい。サイズは少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも12ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチドからの範囲であってよく、プローブおよびプライマーのサイズは5〜10ヌクレオチド、10〜15ヌクレオチド、15〜20ヌクレオチド、20〜25ヌクレオチドおよび25〜30ヌクレオチドの範囲にわたってよい。
あるいは、本発明の診断のために翻訳産物を検出することもできる。例えば、IMP−3タンパク質(SEQ ID NO:22)の量を決定することができる。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定するための方法には、そのタンパク質を特異的に認識する抗体を用いるイムノアッセイ法が含まれる。抗体はモノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってもよい。さらに、断片または改変抗体がIMP−3タンパク質に対する結合能を保持する限り、抗体の任意の断片または改変物(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fvなど)を検出に用いることもできる。タンパク質の検出のためにこれらの種類の抗体を調製するための方法は当技術分野において周知であり、本発明では任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。
【0105】
IMP−3遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出する別の方法として、IMP−3タンパク質に対する抗体を用いる免疫組織化学的解析により、染色の強度を測定してもよい。すなわちこの測定では、強力な染色により、該タンパク質の存在/レベルの増加が示され、それと同時にIMP−3遺伝子の高発現レベルが示される。
がん細胞中の標的遺伝子、例えばIMP−3遺伝子の発現レベルは、そのレベルが、該標的遺伝子の対照レベル(例えば、正常細胞中のレベル)から例えば10%、25%、もしくは50%上昇するか;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上まで上昇する場合に、上昇していると判定され得る。
【0106】
対照レベルは、疾患状態(がん性または非がん性)が判明している1または複数の対象から予め採取し保存しておいた試料を用いることにより、がん細胞と同時に測定することができる。加えて、治療すべきがんを有する器官の非がん性領域から採取された正常細胞を、正常対照として用いてもよい。あるいは、対照レベルは、疾患状態が判明している対象に由来する試料中のIMP−3遺伝子の予め測定された発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて、統計的方法により決定してもよい。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞に由来する発現パターンのデータベースに由来し得る。さらに、本発明の一局面によれば、生体試料中のIMP−3遺伝子の発現レベルを、複数の参照試料から測定される複数の対照レベルと比較することもできる。対象由来の生体試料の組織型と類似の組織型に由来する参照試料から測定された対照レベルを用いることが好ましい。さらに、疾患状態が判明している集団におけるIMP−3遺伝子の発現レベルの基準値を用いることが好ましい。基準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均値 +/− 2 S.D.または平均値 +/− 3 S.D.の範囲を、基準値として用いることができる。
【0107】
本発明との関連において、がん性でないと判明している生体試料から測定された対照レベルは「正常対照レベル」と称される。一方、対照レベルががん性生体試料から測定される場合には、これは「がん性対照レベル」と称される。試料の発現レベルと対照レベルとの差を、その発現レベルが細胞のがん性状態または非がん性状態に応じて異ならないことが判明している対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して正規化することができる。例示的な対照遺伝子には、β−アクチン、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
IMP−3遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇しているか、またはがん性対照レベルと類似している/同等である場合、該対象は治療すべきがんを有すると診断され得る。
【0108】
より具体的に本発明は、(i)対象が治療すべきがんを有するかどうかを診断する方法、および/または(ii)がん治療のための対象を選択する方法を提供し、当該方法は以下の段階を含む:
a)治療すべきがんを有する疑いのある対象から採取されたがん細胞または組織中のIMP−3の発現レベルを測定する段階;
b)前記IMP−3の発現レベルを正常対照レベルと比較する段階;
c)前記IMP−3の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇している場合に、該対象を治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d)段階c)において対象が治療すべきがんを有すると診断される場合に、がん治療のために該対象を選択する段階。
【0109】
あるいは、そのような方法は以下の段階を含む:
a)治療すべきがんを有する疑いのある対象から採取されたがん細胞または組織中のIMP−3の発現レベルを測定する段階;
b)前記IMP−3の発現レベルをがん性対照レベルと比較する段階;
c)前記IMP−3の発現レベルががん性対照レベルと類似しているかまたは同等である場合に、該対象を治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d)段階c)において対象が治療すべきがんを有すると診断される場合に、がん治療のために該対象を選択する段階。
【0110】
本発明はまた、本発明のIMP−3ポリペプチドによって治療し得るがんに罹患している対象を判定するためのキットも提供し、それは特定のがん治療、より詳細にはがん免疫療法の有効性の評価および/またはモニタリングにおいても有用である可能性がある。適したがんの実例には、肺がんおよび食道がんが非限定的に含まれる。より詳細には、本キットは好ましくは、対象由来のがん細胞におけるIMP−3遺伝子の発現を検出するための、以下の群から選択される試薬の少なくとも1つを含む:
(a)IMP−3遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)IMP−3タンパク質を検出するための試薬;および
(c)IMP−3タンパク質の生物活性を検出するための試薬。
【0111】
IMP−3遺伝子のmRNAを検出するのに適した試薬の例には、IMP−3 mRNAの一部に対する相補的配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、IMP−3 mRNAに特異的に結合するかまたはIMP−3 mRNAを同定する核酸が含まれる。このような種類のオリゴヌクレオチドは、IMP−3 mRNAに特異的なプライマーおよびプローブによって例証される。このような種類のオリゴヌクレオチドは、当技術分野において周知の方法に基づいて調製することができる。必要に応じて、IMP−3 mRNAを検出するための試薬を固体基質上に固定化することができる。さらに、IMP−3 mRNAを検出するための2つ以上の試薬をキット中に含めることもできる。
【0112】
一方、IMP−3タンパク質を検出するのに適した試薬の例には、IMP−3タンパク質に対する抗体が含まれる。抗体は、モノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってよい。さらに、断片または改変抗体がIMP−3タンパクへの結合能を保持する限り、抗体の任意の断片または改変物(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)を試薬として用いることもできる。タンパク質を検出するためのこのような種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明において任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。さらに、直接連結技法または間接標識技法により、抗体をシグナル発生分子で標識することができる。標識、および抗体を標識して標的に対する抗体の結合を検出するための方法は、当技術分野において周知であり、任意の標識および方法を本発明に使用することができる。さらに、IMP−3タンパク質を検出するための2つ以上の試薬をキット中に含めることもできる。
【0113】
キットは、前述の試薬のうちの2つ以上を含み得る。例えば、がんを有さない対象またはがんに罹患している対象から採取された組織試料は、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットは、緩衝液、希釈液、フィルター、針、シリンジ、および使用説明書を備えた包装封入物(例えば、文書、テープ、CD−ROM等)を含む、商業上の観点および使用者の観点から望ましいその他の材料をさらに含み得る。これらの試薬等は、ラベルを貼った容器中に保持され得る。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成され得る。
【0114】
本発明の一態様として、試薬がIMP−3 mRNAに対するプローブである場合には、該試薬を多孔性ストリップなどの固体基質上に固定化して、少なくとも1つの検出部位を形成させることができる。多孔性ストリップの測定または検出領域は、それぞれが核酸(プローブ)を含む複数の部位を含み得る。検査ストリップはまた、陰性および/または陽性対照用の部位を含み得る。あるいは、対照部位は、検査ストリップとは別のストリップ上に位置し得る。任意で、異なる検出部位は異なる量の固定化核酸を含み得る、すなわち、第1検出部位ではより多い量の固定化核酸を、および以降の部位ではより少ない量の固定化核酸を含み得る。試験試料を添加すると、検出可能なシグナルを呈する部位の数により、試料中に存在するIMP−3 mRNAの量の定量的指標が提供される。検出部位は、適切に検出可能な任意の形状で構成することができ、典型的には、検査ストリップの幅全体にわたるバーまたはドットの形状である。
【0115】
本発明のキットは、陽性対照試料またはIMP−3標準試料をさらに含んでもよい。本発明の陽性対照試料は、IMP−3陽性試料を収集し、続いてそれらのIMP−3レベルをアッセイすることによって調製してもよい。あるいは、精製IMP−3タンパク質またはポリヌクレオチドをIMP−3を発現しない細胞に添加して、陽性試料またはIMP−3標準試料を形成させてもよい。本発明において、精製IMP−3は組換えタンパク質であってよい。陽性対照試料のIMP−3レベルは、例えば、カットオフ値を上回る。
以下の実施例は、本発明を説明するため、ならびに本発明の作製および使用において当業者を支援するために提示される。これらの実施例は、本発明の範囲を別に限定することを決して意図するものではない。
【実施例】
【0116】
材料および方法
マウス
ヒト白血球抗原(HLA)−A2トランスジェニック(Tg)マウス;ヒトβ2m−HLA−A2.1(HLA−A*0201、α1、α2)−H−2Db(α3膜貫通性・細胞質性)単鎖コンストラクト遺伝子が導入されたH−2Dbおよびβ2m二重ノックアウトマウスは、Department SIDA−Retrovirus、Unite d' Immunite Cellulaire Antivirale、Institute Pasteur、Franceにおいて作製され、Dr. F.A. Lemonnierによって寄贈された。これらのマウスは熊本大学の動物資源開発研究部門(Center for Animal Resources and Development)において維持管理され、それらは熊本大学の動物管理指針に従って取り扱われた。
【0117】
細胞株
PANC1、A549、Lu99、MCF7、SW620、SKHep1、およびT2細胞株、TAP欠損細胞株、ならびにHLA−A2(A*0201)陽性細胞株は、Riken Cell Bank、Tsukuba、Japanから購入した。IMP−3の発現は、逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応分析によって判定した。
【0118】
血液試料
HLA−A2陽性ドナーから単離した末梢血単核細胞(PBMC)を用いることによって行われたこれらの研究は、熊本大学(Kumamoto、Japan)の施設内審査委員会によって承認された。患者1、患者3および患者4、患者14および患者103と指定された肺がんを有する4人の患者の血液試料を、熊本大学病院において、患者から書面によるインフォームドコンセントを得た後に定型的な診断手順の際に得た。ドナー1、ドナー2およびドナー3と指定されたHLA−A2(A*0201)陽性健常ドナーからも、書面によるインフォームドコンセントを受け取った後に血液試料を得た。試料は全て匿名扱いとし、無作為に番号を付けて、使用時まで−80℃で保存した。
【0119】
IMP−3由来のペプチドの候補選択
HLA−A2(A*0201)分子と結合する可能性のあるIMP−3由来のペプチドを、結合予測ソフトウエア「BIMAS」(http://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind)(Parker et al., J Immunol 1994, 152(1): 163-75, Kuzushima et al., Blood 2001, 98(6): 1872-81)を用いて予測した。これらのペプチドおよびHLA−A2(A*0201)拘束性HIVペプチド(SLYNTYATL)は、American Peptide Company、Sunnyvale、CA、USAによって、95%を上回る純度で合成された。
【0120】
IMP−3反応性マウスCTLの誘導
HLA−A2 Tgマウスに対して、候補ペプチドでパルス刺激した5×105個の同系骨髄由来樹状細胞(BM−DC)による免疫処置を7日目および14日目にインビボで行った。21日目に、免疫処置マウスから単離されたCD4−脾細胞を、各ペプチドでパルス刺激したBM−DCによって6日間刺激した。IFN−γ産生を酵素結合イムノスポット(ELISPOT)アッセイによって検出した。
【0121】
IMP−3反応性ヒトCTLの誘導
HLA−A2(A*0201)陽性ドナーのヘパリン添加血液からFicoll−Conray密度勾配遠心によってPBMCを単離し、末梢血単球由来DCを生成させた。20μg/mLの候補ペプチドによるDCのパルス刺激を、4μg/mLのβ2−ミクログロブリン(Sigma−Aldrich、St. Louis、MO、USA)の存在下で、2%熱不活化自己血漿を含むAIM−V(Invitrogen Japan、Tokyo、Japan)中にて37℃で2時間行った。続いて細胞に放射線照射(40Gy)を行い、CD8+ T細胞とともにインキュベートした。各ウェルが、2%自己血漿を含む2mL AIM−V中にペプチドパルス刺激した1×105個のDCと、2×106個のCD8+ T細胞と、5ng/mLのヒト組換えIL−7(Wako、Osaka、Japan)とを含むように、これらの培養物を24ウェルプレート中に設置した。2日後に、これらの培養物にヒト組換えIL−2(PeproTech、Rocky Hill、NJ、USA)を加えて、最終濃度を20 IU/mLとした。同じ手順を用いる、ペプチド負荷を受けた自己DCによる週1回の刺激をさらに2回、7日目および14日目に行った。最終刺激から6日後に、誘導されたCTLの抗原特異的応答をIFN−γ ELISPOTアッセイおよび51Cr放出アッセイによって調べた。IFN−γ ELISPOTアッセイに関しては、CTL(1×105個/ウェル)を、コグネイトペプチドまたは無関係なHIVペプチドでパルス刺激したT2(1×104個/ウェル)で刺激した。51Cr放出アッセイに関しては、CTLを、ペプチドパルス刺激したT2細胞または標的細胞としてのがん細胞(5×103個/ウェル)とともに指定のエフェクター/標的比で共培養し、標準的な51Cr放出アッセイを以前に記載された通りに行った(Komori H et al., Clin Cancer Res. 2006 May 1;12(9):2689-97)。
【0122】
CTLの細胞表面上のCD107a(LAMP−1;リソソーム関連膜タンパク質−1)表出の分析
抗原刺激後のCTLの細胞表面上のCD107aの表出を、抗CD107a抗体によって検出した。IMP−3ペプチド特異的CTLを、FITC結合抗CD107a mAbまたは対照としてのマウスIgG1の存在下で、コグネイトペプチドまたは無関係なHIVペプチドで刺激した。これらのCTLを37℃で5時間培養し、その後にPE結合抗ヒトCD8 mAbで染色した。ペプチドはすべて1マイクログラム/mlの最終濃度で用いた。示されているイベントはCD8+ T細胞に関してゲート処理されている。
【0123】
抗HLA−クラスIモノクローナル抗体によるCTL応答の阻害
HLA−クラスIの阻害は以前に記載された通りに行った(Komori H et al., Clin Cancer Res. 2006 May 1; 12(9):2689-97)。具体的には、Lu99標的細胞を抗HLAクラスI mAb(W6/32、IgG2a)または抗HLA−DR mAb(HLA−クラスII mAb)(H−DR−1、IgG2a)のそれぞれとともに1時間インキュベートした後に、Lu99細胞をコグネイトペプチドによる刺激によって肺がん患者から導き出されたCTLと共培養した。
【0124】
統計分析
両側Student t検定を用いて、IFN−γ ELISPOTアッセイによって得られたデータにおける差の統計学的有意性を評価した。0.05未満のP値を有意であるとみなした。統計分析は市販の統計用ソフトウエアパッケージ(SPSS for Windows、version 11.0、Chicago、IL、USA)を用いて行った。
【0125】
結果
IMP−3由来のHLA−A2結合ペプチドの予測
表1は、IMP−3のHLA−A2(A*0201)結合ペプチドを結合親和性の高い順に示している(表1)。HLA−A2(A*0201)結合能を有する可能性のある合計20種のペプチドを選択した。
【0126】
(表1)IMP−3由来のHLA−A2(A*0201)結合ペプチド
【0127】
HLA−A2トランスジェニックマウスを用いたIMP−3反応性およびHLA−A2拘束性のCTLの誘導
どのペプチドがペプチド反応性の細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導し得るかを検討するために、9merペプチドによる免疫処置を2回行ったHLA−A2(A*0201)トランスジェニック(Tg)マウス由来のCD4−脾細胞を、材料および方法の項に記載した通りにインビトロで刺激した。IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドで刺激したCD4−脾細胞は、コグネイトペプチドでパルス刺激した同系BM−DCに対して応答してIFN−γを産生することが発見された。BM−DCのみに対するIFN−γ産生と比較して、これらのCD4−脾細胞は抗原提示細胞を認識し、IFN−γを産生した(P<0.05)(図1)。これらの結果により、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドが、HLA−A2 Tgマウスにおいて強力なIFN−γ産生活性を有するCTLを誘導し得ることが示された。
【0128】
IMP−3反応性およびHLA−A2拘束性のヒトCTLの誘導
IMP−3反応性CTLを、HLA−A2(A*0201)陽性健常ドナー1のPBMCから、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドによるPBMCの刺激によって生成させた。ペプチドパルス刺激したT2細胞に対するIFN−γの産生を、IFN−γ ELISPOTアッセイによって調べた。これらのCTLは、コグネイトIMP−3ペプチドでパルス刺激したT2細胞に対して、無関係なHIVペプチドパルスで刺激したT2細胞と比較して有意差を伴う(P<0.05)、強いIFN−γ産生を示した(図2)。これらの結果は、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドが、これらのペプチドに対して特異的なヒトCTLを誘導することができたことを示している。さらに、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチド特異的なCTLの細胞表面上のCD107aの表出を、細胞溶解活性を調べるために分析した。CTLをIMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチドで刺激して、抗CD107a mAbまたは対照としてのマウスIgGで染色した(図3A)。無関係なHIVペプチドで刺激したCTLも、抗CD107a mAbで染色した(右のパネル)。CD8+/CD107a+細胞は、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチドによる刺激によって、全CD8+細胞のうち5.7%で検出された(左のパネル)。非特異的シグナルとして、マウスIgGによる染色が細胞の0.7%で検出され、CD8+/CD107a+細胞は陰性対照としてHIVペプチドで刺激した細胞の1.5%で検出された(中央および右のパネル)。CD107aは通常はCTLの細胞表面上に提示されず、活発な脱顆粒時にのみ表出されるため(Betts M et al., J Immunol Methods. 2003 Oct 1; 281(1-2):65-78)、この結果は、CTLがIMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチドおよびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)に対して応答して細胞傷害活性を示すことを示している。ペプチドパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性を51Cr放出アッセイによって調べた(図3B)。健常ドナーのPBMCから誘導されたCTLは、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)またはIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性を示したが、無関係なHIV−A2ペプチドでパルス刺激したT2細胞に対しては示さなかった。これらの結果は、これらのCTLがペプチド特異的な細胞傷害性を有することを示している。
【0129】
肺がん患者のPBMCからのIMP−3反応性およびHLA−A2拘束性のCTLの誘導
IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドによる刺激によって、HLA−A2(A*0201)陽性肺がん患者のPBMCからIMP−3特異的CTLを誘導した。図4Aにおいて、患者14および患者103と指定された肺がん患者由来のCTLは、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド(左のパネル)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチド(右のパネル)でパルス刺激したT2細胞に対するIFN−γ産生をそれぞれ示した。無関係なHIVペプチドでパルス刺激したT2細胞と比較して、それらはこれらのペプチドに対して特異的な強力なIFN−γ産生活性を有意に示した(*P<0.05)。患者4および患者3と指定された他の2人の肺がん患者のPBMCからのCTLは、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチド(左のパネル)およびIMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド(右のパネル)でパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性を示したが、無関係なHIVペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性は示さなかったことが、51Cr放出アッセイにより判明した(図4B)。これらの結果は、健常ドナーのPBMCを用いた場合だけでなく、肺がん患者のPBMCを用いた場合にも、これらのペプチドがペプチドに対して特異的なCTLを誘導することを示している。
【0130】
IMP−3およびHLA−A2陽性のがん細胞株に対するCTLの細胞傷害活性
IMP−3およびHLA−A2(A*0201)の両方を発現するヒトがん細胞株を死滅させる能力を、51Cr放出アッセイによって調べた。図5Aに示されているように、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチド、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド、IMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドおよびIMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)による刺激によって健常ドナー2のPBMCから誘導されたCTLは、IMP−3およびHLA−A2(A*0201)の両方を発現するPANC−1に対する細胞傷害活性を示した。一方、それらは、HLA−A2(A*0201)を発現するがIMP−3は発現しないMCF7、またはIMP−3を発現するがHLA−A2(A*0201)は発現しないA549に対しては細胞傷害活性を示さなかった。さらに、患者14および患者4と指定された肺がん患者のPBMCから、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチド、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド、IMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドを有するペプチドによる刺激によって誘導されたCTLも、PANC−1(IMP−3+、HLA−A2+)に対する細胞傷害活性を示したが、MCF7(IMP−3−、HLA−A2+)およびA549(IMP−3+、HLA−A2−)に対する細胞傷害性は示さなかった(図5B)。IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)またはIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドによる刺激によって健常ドナーから生じたCTL株は、MCF7/IMP−3(IMP−3遺伝子をトランスフェクトしたMCF7細胞;HLA−A2+、IMP−3+)に対して細胞傷害性を示したが、MCF7細胞(HLA−A2+、IMP−3−)に対しては示さなかった(図5C)。IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)またはIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)のいずれかによる刺激によって健常ドナーから生じたCTL株は、SW620、SKHep1に対する細胞傷害活性を示したが、A549(HLA−A2−、IMP−3+)またはMCF7細胞(HLA−A2+、IMP−3−)に対しては示さなかった(図5D)。
【0131】
抗HLA−クラスIモノクローナル抗体によるCTL応答の阻害
誘導されたCTLが標的細胞をHLA−クラスI拘束的な様式で認識することを確かめるために、HLA−クラスI(W6/32、IgG2a)、HLA−DR(H−DR−1、IgG2a)に対するモノクローナル抗体、抗HLA−A2 mAb(BB7.2)をCTLの抗原特異的応答をブロックする目的で用いる阻害アッセイを行った。図6Aでは、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチド(左のパネル)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド(中央のパネル)またはIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチド(右のパネル)による刺激によって肺がん患者14から生成させたCTLによるIFN−γ産生の阻害を、IFN−γ ELISPOTアッセイによって調べた。Lu99細胞に対するIFN−γ産生は、W6/32による処理によって有意に阻害されたが、H−DR−1による処理によっては阻害されなかった(*P<0.05)。これらの結果は、これらのCTLがIMP−3を発現する標的細胞をHLA−クラスI拘束的な様式で認識したことを明らかに示している。さらに、IFN−γ産生および細胞傷害性は、HLA−クラスIおよびHLA−A2に対するブロッキングmAbによって有意に阻害されたが、対照抗HLA−クラスII mAbによっては阻害されなかった(図6B〜D)。これらの結果は、これらのペプチドががん細胞においてIMP−3タンパク質から天然のプロセシングを受け、ペプチドで誘導されたCTLによって認識されるようにHLA−A2との関連において提示されたことを明らかに示している。
【0132】
IMP3抗原性ペプチドと他のタンパク質との間の相同性解析
IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドで刺激したCTLは、有意かつ特異的なCTL活性を示した。この結果は、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドの配列が、ヒト免疫系を感作させることが知られている他の分子に由来するペプチドと相同的であるという事実に起因する可能性がある。この可能性を否定するために、BLASTアルゴリズム(http://www.ncbi.nlm.nih.gov /blast/blast.cgi)に対するクエリーとして用いて、これらのペプチド配列に関する相同性解析を行ったところ、それらのペプチド配列に対する有意な相同性を有する配列は認められなかった。相同性解析の結果は、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドの配列は固有のものであること、およびそれ故に、本発明者らの知る限りでは、これらの分子が何らかの非関連分子に対して予期しない免疫学的応答を引き起こす可能性はほとんどないことを示している。
【0133】
結論として、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドが、IMP−3に由来する新規なHLA−A2(A*0201)拘束性エピトープペプチドとして同定され、IMP−3を発現する腫瘍を有するHLA−A2(A*0201)陽性患者に対するがんワクチンとして適用可能であることが実証された。
【0134】
産業上の利用可能性
本発明は、新たなTAA、特に強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導するTAAを特定している。そのようなTAAは、がんにおけるペプチドワクチン接種戦略の臨床適用のさらなる開発を保証するものである。
本明細書において引用された特許、特許出願および刊行物はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
本発明を、その具体的な態様を参照しながら詳細に説明してきたが、前述の説明は例示的かつ説明的な性質のものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。定型的な実験を通じて、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および改変をそこに加えることができることを容易に認識するであろう。したがって、本発明は上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの同等物によって規定されるものとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物科学の分野、より具体的にはがん治療の分野に関する。特に、本発明は、がんワクチンとして極めて有効な新規オリゴペプチド、ならびに腫瘍を治療および予防するための薬物に関する。
優先権
本出願は、2009年12月1日に出願された米国仮特許出願第61/265,657号および2010年8月6日に出願された米国仮特許出願第61/371,434号の恩典を主張し、それらの内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子上に見いだされる腫瘍関連抗原(TAA)由来のエピトープペプチドを認識し、続いて腫瘍細胞を死滅させることが実証されている。TAAの最初の例としてのメラノーマ抗原(MAGE)ファミリーの発見以来、他の多くのTAAが、主に免疫学的アプローチによって発見されている(非特許文献1:Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80;非特許文献2:Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9)。これらのTAAのうちのいくつかは、現在、免疫療法の標的として臨床開発の過程にある。
【0003】
強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導し得る新たなTAAの同定により、さまざまな種類のがんに対するペプチドワクチン戦略のさらなる発展および臨床研究の前進が保証される(非特許文献3:Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55;非特許文献4:Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42;非特許文献5:Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9;非特許文献6:van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14;非特許文献7:Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8;非特許文献8:Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72;非特許文献9:Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66;非特許文献10:Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94)。現在までに、これらの腫瘍関連抗原由来ペプチドを用いた臨床試験がいくつか報告されている。残念ながら、これまでのところ、これらのがんワクチン治験では低い客観的奏効率しか観察されていない(非特許文献11:Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80;非特許文献12:Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42;非特許文献13:Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15)。このため、免疫療法の標的として有用な新規TAAの同定の必要性は依然として存在する。
【0004】
その目的に向けて、23,040個の遺伝子を含むゲノムワイドcDNAマイクロアレイを用いる遺伝子発現プロファイル解析を通じて、IMP−3(インスリン様成長因子II mRNA結合タンパク質3)が、肺がんおよび食道がんにおいて上方制御される遺伝子として同定された(非特許文献14:T. Kikuchi et al., Oncogene. 2003 Apr 10; 22(14): 2192-205、特許文献1:WO2004/031413号、特許文献2:WO2007/013665号、特許文献3:WO2007/013671号)。IMP−3の発現は、がん患者の90%超において腫瘍細胞で特異的に上方制御されることが観察されているが、精巣および胎盤を除く他の正常な重要器官では発現されない。さらに、RNA干渉法によるIMP−3発現の下方制御により、IMP−3を発現するがん細胞株における細胞増殖が抑制されることが示されている。先の出願であるWO2006/090810号(特許文献4)は、KOC1(IMP−3)およびHLA−A24を外因性に発現する腫瘍細胞に対する特異的CTL誘導活性を有する、IMP−3(KOC1とも記載される)由来のペプチドを記載している。これらのペプチドはHLA−A24型の患者に適している可能性があるが、他のHLA型の患者に対するCTL誘導ペプチドの必要性は依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2004/031413号
【特許文献2】WO2007/013665号
【特許文献3】WO2007/013671号
【特許文献4】WO2006/090810号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80
【非特許文献2】Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9
【非特許文献3】Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55
【非特許文献4】Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42
【非特許文献5】Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9
【非特許文献6】van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14
【非特許文献7】Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8
【非特許文献8】Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72
【非特許文献9】Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66
【非特許文献10】Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94
【非特許文献11】Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80
【非特許文献12】Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42
【非特許文献13】Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15
【非特許文献14】T. Kikuchi et al., Oncogene. 2003 Apr 10; 22(14): 2192-205
【発明の概要】
【0007】
本発明は、免疫療法の標的として役立つ可能性のある新規ペプチドの発見に一部基づいている。TAAは通常、免疫系によって「自己」として認知され、そのため生得的な免疫原性を有しないことが多いため、適切な標的の発見は極めて重要である。IMP−3が肺がんおよび食道がんなどのがんにおいて上方制御されるものとして同定されていることの認識に立ち、本発明は、GenBankアクセッション番号NM_006547.2の遺伝子(SEQ ID NO:21)によってコードされるIMP−3タンパク質(SEQ ID NO:22)をさらなる解析のための対象とする。特に、対応する分子に対して特異的な驚くほど強力なCTL応答を誘発するエピトープペプチドを含むIMP−3遺伝子産物を、検討のために選択した。本発明の状況においては、健常ドナーから得た末梢血単核細胞(PBMC)を、本発明のペプチドを用いて刺激した。各々のペプチドでパルス刺激したHLA−A2(A*0201)陽性標的細胞を特異的に認識するCTLを樹立し、腫瘍細胞の表面上に発現されたIMP−3に対する強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A2(A*0201)拘束性エピトープペプチドを同定した。以上を総合すると、これらの結果は、IMP−3は免疫原性が強く、そのエピトープは腫瘍免疫療法の有効な標的であることを実証している。
【0008】
したがって、CTL誘導能を有し、さらにSEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドを提供することは、本発明の1つの目的である。加えて、置換、欠失、挿入および付加からなる群より選択される変異の少なくとも1つによって1個、2個または数個のアミノ酸が変異または変化したSEQ ID NO:1、3、5または6のアミノ酸配列を有する改変ペプチドも、その結果得られる改変オリゴペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、本発明で想定されている。
【0009】
対象に投与されると、本オリゴペプチドは、各々のペプチドを標的とするCTLを誘導するように、抗原発現細胞の表面上に提示される。したがって、本ペプチドのいずれかを提示する抗原提示細胞およびエキソソーム、ならびにそれに関連した、抗原提示細胞を誘導するための方法を提供することは、本発明の1つの目的である。
【0010】
抗腫瘍免疫応答は、本IMP−3オリゴペプチドまたはそれらのオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびにそのようなIMP−3オリゴペプチドを提示するエキソソームおよび抗原提示細胞の投与によって誘導される。したがって、それらのオリゴペプチドまたはそれらをコードするポリヌクレオチド、または関連したエキソソームおよび抗原提示細胞をそれらの有効成分として含む薬剤または薬学的組成物を提供することは、本発明のさらに別の目的である。本発明の薬剤または薬学的組成物は、特にワクチンとして使用される。
【0011】
がん(腫瘍)の治療、予防(prophylaxis)(すなわち、予防(prevention))およびその術後再発の予防からなる群より選択される少なくとも1つを目的とする方法、ならびにCTLを誘導するための方法、抗腫瘍免疫を誘導するための方法であって、IMP−3オリゴペプチド、IMP−3オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチド、IMP−3ポリペプチドを提示するエキソソームもしくは抗原提示細胞、または本発明の薬学的な剤もしくは組成物を、それを必要とする対象に投与する段階を含むそのような方法を提供することは、本発明の1つのさらなる目的である。加えて、本発明のCTLは、がんに対するワクチンとしても使用される。標的のがんの例には、肺がんおよび食道がんが非限定的に含まれる。
【0012】
より具体的には、本発明は以下を提供する:
[1]SEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド、
[2]1個、2個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチドであって、さらに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有するオリゴペプチド、
[3]以下の特徴の一方または両方を有する、[2]記載のオリゴペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、
[4][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド、
[5][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって、CTL誘導能を有する抗原提示細胞を誘導するための方法、
[6]以下からなる群より選択される段階を含む、[5]記載の方法:
(a)抗原提示細胞を[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドと接触させる段階、および
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを抗原提示細胞に導入する段階、
[7]抗原提示細胞が少なくとも1つのHLA−A2抗原をその表面上に発現する、[5]または[6]記載の方法、
[8][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって、CTLを誘導するための方法、
[9]以下からなる群より選択される段階を含む、[8]記載の方法:
(a)CD8陽性T細胞を、[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
(b)抗原提示細胞表面上の[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合するT細胞受容体(TCR)サブユニットを形成することができるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階、
[10]HLA抗原がHLA−A2である、[9]記載の方法、
[11][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを標的とする、単離されたCTL、
[12]細胞表面上の[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、[11]記載のCTL、
[13]HLA抗原がHLA−A2である、[12]記載のCTL、
[14][1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって誘導される、単離されたCTL、
[15][8]〜[10]のいずれか一項記載の方法によって誘導される、[14]記載のCTL、
[16]その表面上に、HLA抗原と[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとの複合体を提示する、単離された抗原提示細胞、
[17]HLA抗原がHLA−A2である、[16]記載の抗原提示細胞、
[18][5]〜[7]のいずれか一項記載の方法によって誘導される、[16]または[17]記載の抗原提示細胞、
[19]対象におけるがんに対する免疫応答を誘導する方法であって、以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む方法:
(a)[1]〜[3]のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種もしくは複数種のポリヌクレオチド;
(c)[11]〜[15]のいずれか一項記載の1種または複数種の単離されたCTL;および
(d)[16]〜[18]のいずれか一項記載の1種または複数種の単離された抗原提示細胞、
[20]前記対象がHLA−A2陽性である、[19]記載の方法、
[21]がんの治療および/もしくは予防のためならびに/またはその術後再発の予防のための薬剤であって、薬学的に許容される担体と以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分とを含む薬剤:
(a)[1]〜[3]のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体を提示する1種または複数種の抗原提示細胞;および
(d)細胞表面上の[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、1種または複数種のCTL、
[22]CTLを誘導するための薬剤であって、薬学的に許容される担体と以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分とを含む薬剤:
(a)[1]〜[3]のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体を提示する1種または複数種の抗原提示細胞、
[23]HLA−A2陽性である対象への投与のために製剤化される、[21]または[22]記載の薬剤、
[24]ワクチンである、[21]〜[23]のいずれか一項記載の薬剤、
[25]がんを治療するための薬学的な組成物または剤の製造における、以下からなる群より選択される有効成分の使用:
(a)[1]〜[3]のいずれか一項記載の1種または複数種のオリゴペプチド;
(b)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドを発現可能な形態でコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する1種または複数種の抗原提示細胞;および
(d)細胞表面上の[1]〜[3]のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、1種または複数種のCTL、
[26]薬学的な組成物または剤が、HLA−A2陽性である対象への投与のために製剤化される、[25]記載の使用、
[27]HLA−A2陽性である対象におけるがんの治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後再発の予防に用いるための、SEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド、
[28]HLA−A2陽性である対象におけるがんの治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後再発の予防に用いるための、1個、2個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチドであって、さらに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有するオリゴペプチド、ならびに
[29]以下の特徴の一方または両方を有する、[28]記載のオリゴペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである。
【0013】
上記に加え、本発明のその他の目的および特徴は、添付の図面および実施例と併せて以下の詳細な説明を読むことによって、より十分に明らかになるであろう。しかしながら、前述の発明の概要および以下の詳細な説明はいずれも例示的な態様であり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。特に、本発明をいくつかの特定の態様を参照して本明細書において説明するが、その説明は本発明を例証するものであり、本発明を限定するものとして構成されていないことが理解されよう。添付の特許請求の範囲によって記載される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者は様々な変更および適用に想到することができる。同様に、本発明のその他の目的、特徴、利益、および利点は、本概要および以下に記載する特定の態様から明らかになり、当業者には容易に明白になるであろう。そのような目的、特徴、利益、および利点は、添付の実施例、データ、図面、およびそれらから引き出されるあらゆる妥当な推論と併せて上記から、単独で、または本明細書に組み入れられる参考文献を考慮して、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の様々な局面および適用は、図面の簡単な説明ならびに本発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することで、当業者に明白となるであろう。
【0015】
【図1】図1は、HLA−A2トランスジェニックマウスにおいて誘導されたCTLに対するIFN−γ ELISPOTアッセイの結果を図示している。ペプチド(SEQ ID NO:3、5および6)で刺激したCTLは、対照と比較して強いIFN−γ産生応答を示した(上のパネル)。エラーバーは標準偏差(SD)を表している。統計学的な有意差は星印によって示す(* P<0.05)。3連のウェルのELISPOTカウントの例示的な写真も示されている(下のパネル)。CTLは、SEQ ID NO:6のペプチドでパルス刺激したBM−DCに対する応答として203〜226個のスポット/ウェルを示し(左側のパネル)、一方、それらはペプチド負荷を受けていないBM−DCの存在下では74〜105個のスポット/ウェルを示した(右側のパネル)。
【図2】図2は、健常ドナー1のヒトCTLに対するIFN−γ ELISPOTアッセイの結果を図示した一連の棒グラフで構成される。SEQ ID NO:1、3、5、および6のペプチドで刺激したヒトCTLは、無関係なHIVペプチドでパルス刺激したものと比較して、コグネイトペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する強いIFN−γ産生応答を示した(P<0.05)。エラーバーはSDを表している。
【図3】図3は、HLA−A2陽性肺がん患者および健常ドナーのCD8+ T細胞からのIMP−3特異的ヒトCTLの誘導を図示した一連の分布グラフ(A)および折れ線グラフ(B)で構成される。パート(A)は、SEQ ID NO:1、3または6のペプチドによる刺激後の健常ドナー1または肺がん患者1のヒトCTLの細胞表面上でのCD107aの発現を検出するためのFACS(蛍光活性化細胞選別装置)分析の結果を提示している。これらのペプチドで刺激したCTLを、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)結合抗CD107a抗体(上のパネル)または対照としてのFITC結合抗マウスIgG1(中央のパネル)で染色した。刺激の陰性対照として、CTLをHIVペプチドで刺激して、FITC結合抗CD107a抗体で染色した(下のパネル)。CTL上でのCD107aの発現は、対照と比較して、それらをペプチドSEQ ID NO:1、3または6で刺激した場合に検出された。パート(B)は、IMP−3由来コグネイトペプチドでパルス刺激したT2細胞に対するIMP−3特異的CTLの細胞傷害性を図示している。51Cr放出アッセイにおける、SEQ ID NO:1のペプチド(△;左および中央のパネル)またはSEQ ID NO:6のペプチド(△;右のパネル)でパルス刺激したT2細胞、および無関係なHIV−A2ペプチド(▲)でパルス刺激したT2細胞に対するCTLの細胞傷害性。各値は、3連のアッセイの平均値に基づいて算出した特異的溶解率を表している。
【図4】図4は、3人の肺がん患者のPBMCからのIMP−3特異的CTLの誘導を図示した一連の棒グラフ(A)および折れ線グラフ(B)で構成される。パート(A)は、SEQ ID NO:5のペプチドによる刺激によって患者14のPBMCから誘導されたCTL、およびSEQ ID NO:6のペプチドによって患者103のPBMCから誘導されたCTLが、無関係なHIVペプチドでパルス刺激したものと比較して、コグネイトペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する有意なIFN−γ産生を示したことを図示している。統計学的な有意差は星印によって示す(* P<0.05)。エラーバーはSDを表している。パート(B)は、SEQ ID NO:3のペプチドによって肺がん患者4のPBMCから誘導されたCTL、およびSEQ ID NO:5のペプチドによって患者3のPBMCから誘導されたCTLが、無関係なHIVペプチドでパルス刺激したものと比較して、コグネイトペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性を示したことを図示している。
【図5A】図5は、CTLおよびIMP−3を内因的に発現する腫瘍細胞株を用いた51Cr放出アッセイの結果を図示した一連の折れ線グラフで構成される。パート(A)は、SEQ ID NO:1、3、5、および6のペプチドによる刺激によって健常ドナー2のPBMCから誘導されたCTLの細胞傷害活性を提示している。これらのCTLは、PANC−1(IMP−3+、HLA−A2+)に対する細胞傷害活性を示したが、MCF7(IMP−3−、HLA−A2+)およびA549(IMP−3+、HLA−A2−)に対する細胞傷害活性は示さなかった。
【図5B】パート(B)は、SEQ ID NO:3および5のペプチドによる刺激によって肺がん患者14のPBMCから誘導されたCTL、ならびにSEQ ID NO:6のペプチドによって患者4のPBMCから誘導されたCTLの細胞傷害活性が、51Cr放出アッセイによって検出されたことを提示している。これらのCTLは、PANC−1(IMP−3+、HLA−A2+)に対する細胞傷害活性を示したが、MCF7(IMP−3−、HLA−A2+)およびA549(IMP−3+、HLA−A2−)に対する細胞傷害活性は示さなかった。
【図5C】パート(C)は、51Cr放出アッセイによって分析した、MCF7/IMP3(○;IMP−3遺伝子をトランスフェクトしたMCF7細胞)またはMCF7(●)に対するIMP−3特異的CTLの細胞傷害活性を提示している。
【図5D】パート(D)は、51Cr放出アッセイによって分析した、SW620(△)、SKHep1(◇)、MCF7(●)またはA549(◆)に対するIMP−3特異的CTLの細胞傷害活性を提示している。SEQ ID NO:1のペプチドまたはSEQ ID NO:6のペプチドのいずれかによる刺激によって健常ドナーから生じたCTL株は、SW620細胞、SKHep1細胞に対する細胞傷害活性を呈したが、A549細胞(HLA−A2−、IMP−3+)またはMCF7細胞(HLA−A2+、IMP−3−)に対する細胞傷害活性は呈さなかった。
【図6A】図6は、抗HLAクラスI mAb(W6/32、IgG2a)または抗HLA−A2 mAbによるCTL応答の阻害を図示した一連の棒グラフ(A、B、D)および折れ線グラフ(C)で構成される。ペプチドSEQ ID NO:1、3、5、および6による刺激によって肺がん患者14のPBMCから誘導されたCTL活性が、IFN−γ ELISPOTアッセイによって検出された(A)。CTLによって媒介されるIFN−γ産生はW6/32によって著しく阻害され、一方、抗HLA−DR mAb(H−DR−1、IgG2a)での処理によるIFN−γ産生の阻害は全く検出されなかった。エラーバーはSDを表している。統計学的な有意差は星印によって示す(* P<0.05)。
【図6B】CTLによって媒介されるIFN−γ産生(B)および細胞傷害性(CおよびD)を示す。○、PANC1;●、PANC1+W6/32;□、PANC1+対照mAb。バーは、生じたCTL株をPANC1(白抜きバー)、PANC1+対照mAb(白抜きバー)またはPANC1+ブロッキングmAb(黒のバー)と共培養した場合のIFN−γ産生(B)または細胞傷害性(D)を指し示している。同様の結果が得られた2回の独立した実験による代表的なデータを示している。(B)における統計学的な有意差は星印によって示す。
【図6C】図6C〜Dは、図6A〜Bの続きである。
【図6D】図6C〜Dは、図6A〜Bの続きである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
態様の説明
本発明の態様を実施または試験するにあたって、本明細書に記載の方法および材料と類似のまたは同等の任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をここに記載する。しかしながら、本発明の材料および方法について記載する前に、本明細書に記載の特定の大きさ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣例的な実験法および最適化に応じて変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載に使用する専門用語は特定の型または態様のみを説明する目的のためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、また理解されるべきである。
【0017】
本明細書において言及される出版物、特許、または特許出願それぞれの開示は、全体として参照により本明細書に明確に組み入れられる。しかしながら、本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明によりそのような開示に先行する権利を与えられないと承認するものとしては解釈されるべきではない。
特記しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている用語と同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含め、本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および例は、説明のためのみであって、限定することを意図していない。
【0018】
I.定義
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、他に特記されない限り「少なくとも1つ」を意味する。
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、1個または複数個のアミノ酸残基が修飾された残基であるか、または対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの非天然残基であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0019】
本明細書において時折用いる「オリゴペプチド」という用語は、長さが20残基またはそれ未満、典型的には15残基またはそれ未満であり、典型的には約8〜約11残基、多くの場合は9または10残基で構成されるペプチドのことを指して用いられる。本明細書の全体を通じて、「ペプチド」という用語は、別に具体的に指示する場合を除き、「オリゴペプチド」という用語と同じ意味で用いられる。
【0020】
本明細書で用いる「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様の機能を有するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、および細胞内で翻訳後に修飾されたアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素)を有するが、修飾されたR基または修飾された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、同様の機能を有する化合物を指す。
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)の推奨する、一般に公知の3文字表記または1文字表記により参照されてもよい。
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、他に特記しない限り本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸と同様に、一般に受け入れられている1文字コードにより参照される。
【0021】
「剤」および「組成物」という用語は、本明細書において、特定量の特定成分を含む生成物、ならびに特定量の特定成分の組み合わせから直接的または間接的に生じる任意の生成物を指して互換的に用いられる。修飾語「薬学的」と連係したそのような用語は、有効成分と担体を構成する任意の不活性成分とを含む生成物、ならびに、任意の2つもしくはそれ以上の成分の組み合わせ、複合体形成もしくは凝集から、または1つもしくは複数の成分の解離から、または1つもしくは複数の成分の他の種類の反応もしくは相互作用から、直接的もしくは間接的に生じる任意の生成物を包含することを意図する。したがって、本発明の文脈において、「薬剤」および「薬学的組成物」という用語は、本発明の生成物と薬学的または生理的に許容される担体とを混合することによって作製される任意の剤、物質または組成物のことを指して互換的に用いられる。「薬学的に許容される担体」または「生理的に許容される担体」という語句は、本明細書で用いる場合、対象となるスカフォールドに支えられたポリファーマコフォアを、身体の1つの器官または部分から身体の別の器官または部分に運搬または輸送することに関与する、液体または固体の増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、または封入材料を含むがこれらに限定されない、薬学的または生理的に許容される材料、組成物、物質、または媒体のことを意味する。
本発明の薬学的な剤または組成物は、特にワクチンとして使用される。本発明の文脈において、「ワクチン」(「免疫原性組成物」とも称される)という語句は、動物に接種した際に、抗腫瘍免疫を誘導するように働く物質のことを指す。
【0022】
「有効成分」という用語は、本明細書において、生物学的または生理的な活性のある、剤または組成物の中の物質のことを指す。特に、薬学的な剤または組成物において、「有効成分」とは、客観的な薬理学的効果を示す物質のことを指す。例えば、がんの治療または予防に用いるための薬学的な剤または組成物の場合、剤または組成物の中の有効成分は、がん細胞および/または組織に対して、少なくとも1つの生物学的または生理的な作用を直接的または間接的に導き得る。好ましくは、そのような作用には、がん細胞の増殖の低下または阻害、がん細胞および/または組織の損傷または死滅などが含まれ得る。典型的には、有効成分の間接的効果は、がん細胞を認識するかまたは死滅させるCTLの誘導である。製剤化される前には、「有効成分」は、「バルク」、「原薬」、または「原体」とも称される。
【0023】
別に定める場合を除き、「がん」という用語はIMP−3遺伝子を過剰発現するがんのことを指し、その例には肺がんおよび食道がんが含まれるが、これらに限定されない。
別に定める場合を除き、「細胞傷害性Tリンパ球」、「細胞傷害性T細胞」、および「CTL」という用語は本明細書において互換的に用いられ、別に具体的に指示する場合を除き、非自己細胞(例えば、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞)を認識してそのような細胞の死滅を誘導することのできるTリンパ球のサブグループのことを指す。
別に定める場合を除き、「キット」という用語は、本明細書で用いる場合、試薬と他の材料との組み合わせを指して用いられる。本明細書では、キットはマイクロアレイ、チップ、マーカーなどを含む場合があることを想定している。「キット」という用語は、試薬および/または材料の特定の組み合わせに限定することを意図していない。
本明細書で用いる場合、対象または患者の文脈における「HLA−A2陽性」という語句は、その対象または患者がHLA−A2抗原遺伝子をホモ接合性またはヘテロ接合性に保有し、HLA−A2抗原が対象または患者の細胞においてHLA抗原として発現されることを指す。
【0024】
本発明の方法および組成物ががんの「治療」との関連において有用である限り、治療が、IMP−3遺伝子の発現の低下、または対象におけるがんの大きさ、広がり、もしくは転移能の減少などの臨床的利点をもたらす場合に、治療は「有効である」と見なされる。治療を予防的に適用する場合、「有効な」とは、治療によって、がんの形成が遅延されるもしくは妨げられるか、またはがんの臨床症状が妨げられるもしくは緩和されることを意味する。有効性は、特定の腫瘍の種類を診断または治療するための任意の公知の方法と関連して決定される。
【0025】
本発明の方法および組成物ががんの「予防(preventionおよびprophylaxis)」との関連において有用である限り、そのような用語は本明細書において互換的に用いられて、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の働きを指す。予防(preventionおよびprophylaxis)は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベル」で行われ得る。第一次の予防(preventionおよびprophylaxis)は疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の進行および症状の出現を予防することに加え、機能を回復させ、かつ疾患関連の合併症を減少させることによって、既存の疾患の悪影響を低下させることを目的とした働きを包含する。あるいは、予防(preventionおよびprophylaxis)は、特定の障害の重症度を緩和すること、例えば腫瘍の増殖および転移を減少させることを目的とした広範囲の予防的治療を含み得る。
【0026】
本発明との関連において、がんの治療および/もしくは予防、ならびに/またはその術後再発の予防は、以下の段階、がん細胞の外科的切除、がん性細胞の増殖の阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導およびがんの発生の抑制、腫瘍退縮、ならびに転移の低減または阻害などの段階のいずれかを含む。がんの効果的な治療および/または予防は、死亡率を減少させ、がんを有する個体の予後を改善し、血中の腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつがんに伴う検出可能な症状を緩和する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療および/または予防を構成し、10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減もしくは安定した疾患状態の達成を含む。
【0027】
本発明との関連において、「抗体」という用語は、指定のタンパク質またはそのペプチドと特異的に反応する免疫グロブリンおよびその断片を指す。抗体には、ヒト抗体、霊長類化抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、他のタンパク質または放射標識と融合させた抗体、および抗体断片が含まれ得る。さらに、本明細書において「抗体」は広義で使用され、具体的には完全なモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの完全な抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を包含し、また所望の生物活性を示す限り、抗体断片を包含する。「抗体」は、すべてのクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM)を示す。
【0028】
II.ペプチド
IMP−3由来のペプチドが細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって認識される抗原として機能することを実証するために、IMP−3(SEQ ID NO:22)由来のペプチドを分析して、それらが、通常見られるHLAアリルであるHLA−A2(例えばA*0201およびA*0206)によって拘束される抗原エピトープであるかどうかを判定した(Date Y et al., Tissue Antigens 47: 93-101, 1996;Kondo A et al., J Immunol 155: 4307-12, 1995;Kubo RT et al., J Immunol 152: 3913-24, 1994)。
IMP−3由来のHLA−A2結合ペプチドの候補を、HLA−A2に対するそれらの結合親和性に基づいて同定した。これらのペプチドを負荷した樹状細胞(DC)によるT細胞のインビトロでの刺激後、特にSEQ ID NO:1、3、5、および6のペプチドの各々を用いてCTLの樹立に成功した。
【0029】
これらの樹立されたCTLは、各々のペプチドでパルス刺激した標的細胞に加え、HLA−A*0201およびIMP−3を発現する細胞に対しても強い特異的CTL活性を示す。本明細書におけるこれらの結果は、IMP−3がCTLによって認識される抗原であること、およびそれらのペプチドがHLA−A2(例えば、A*0201およびA*0206)によって拘束されるIMP−3のエピトープペプチドであり得ることを実証している。
IMP−3遺伝子は肺がんおよび食道がんなどのほとんどのがん組織で過剰発現されるため、これは免疫療法の優れた標的である。したがって、本発明は、CTLによって認識されるIMP−3のエピトープに対応するノナペプチド(9個のアミノ酸残基で構成されるペプチド)およびデカペプチド(10個のアミノ酸残基で構成されるペプチド)などのオリゴペプチドを提供する。本発明のオリゴペプチドの特に好ましい例には、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドが含まれる。
【0030】
一般に、インターネット上で現在利用可能なソフトウェアプログラム、例えばParker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75に記載されたものなどを用いて、さまざまなペプチドとHLA抗原との間の結合親和性をインシリコで計算することができる。HLA抗原との結合親和性は例えば、参考文献、Parker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75およびKuzushima K et al., Blood 2001, 98(6): 1872-81に記載されたように測定することができる。結合親和性を決定するための方法は、例えば、Journal of Immunological Methods, 1995, 185: 181-190およびProtein Science, 2000, 9: 1838-1846に記載されている。したがって、本発明は、そのような公知のプログラムを用いて同定された、HLA抗原と結合するIMP−3のペプチドを包含する。
【0031】
本発明のオリゴペプチドには、結果として生じるペプチドがそのCTL誘導能を保持する限り、付加的なアミノ酸残基を隣接させることができる。CTL誘導能を有するそのようなペプチドは、典型的には約40アミノ酸未満であり、多くの場合は約20アミノ酸未満であり、通常は約15アミノ酸未満である。本発明のオリゴペプチド(例えば、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列で構成されるオリゴペプチド)に隣接する具体的なアミノ酸配列は限定されるものではなく、それが元のペプチドのCTL誘導能を損なわない限り、任意の種類のアミノ酸で構成することができる。したがって、本発明はまた、CTL誘導能と、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列とを有するペプチドも提供する。
【0032】
一般に、あるタンパク質の中の1個、2個または数個のアミノ酸の改変は、そのタンパク質の機能に影響を及ぼさないと考えられ、場合によっては元のタンパク質の所望の機能を強化することさえあると考えられる。事実、改変ペプチド(すなわち、元の参照配列と比較して、1個、2個または数個のアミノ酸残基が改変された(すなわち、置換、欠失、付加および/または挿入された)アミノ酸配列で構成されるペプチド)は、元のペプチドの生物活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 1984, 81: 5662-6;Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 1982, 10: 6487-500;Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 1982, 79: 6409-13)。したがって、1つの態様において、本発明のペプチドは、CTL誘導能と、1個、2個または数個のアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換されたSEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列との両方を有し得る。
【0033】
当業者は、単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加または置換が、元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらす傾向があることを認識する。したがって、それらは慣用的に「保存的置換」または「保存的改変」と称され、この場合、タンパク質の変化により元のタンパク質と類似の性質および機能を有する改変タンパク質が生じる。機能的に類似しているアミノ酸を提示する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。保存することが望ましいアミノ酸側鎖の特性の例には、例えば、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、相互に保存的置換であるとして当技術分野で認められているアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton,Proteins 1984を参照されたい)。
【0034】
このような保存的改変ペプチドもまた、本発明のペプチドと見なされる。しかしながら、本発明のペプチドはこれらに限定されず、改変ペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、非保存的な改変を含むことができる。さらに、改変ペプチドは、IMP−3の多型変異体、種間相同体、および対立遺伝子のCTL誘導可能なペプチドを排除しない。
【0035】
必要なCTL誘導能を保持するために、少数の(例えば、1個、2個、または数個の)またはわずかな割合のアミノ酸を改変する(挿入、欠失、付加、および/または置換する)ことができる。本明細書において、「数個」という用語は、5個またはそれ未満のアミノ酸、例えば4個もしくは3個またはそれ未満を意味する。改変されるアミノ酸の割合は、好ましくは20%もしくはそれ未満、より好ましくは15%もしくはそれ未満、さらにより好ましくは10%もしくはそれ未満、または1〜5%である。
【0036】
免疫療法との関連で用いられた場合、本発明のペプチドは、好ましくはHLA抗原との複合体として、細胞またはエキソソームの表面上に提示されるべきである。したがって、CTLを誘導するばかりでなく、HLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドを選択することが好ましい。そのために、アミノ酸残基の置換、挿入、欠失、および/または付加によってペプチドを改変して、結合親和性が改善された改変ペプチドを得ることができる。天然に提示されるペプチドに加えて、HLA抗原への結合によって提示されるペプチドの配列の規則性は既知であることから(J Immunol 1994, 152: 3913;Immunogenetics 1995, 41: 178;J Immunol 1994, 155: 4307)、そのような規則性に基づいた改変を本発明の免疫原性ペプチドに導入することができる。
【0037】
例えば、HLA−A24結合親和性を高めるためには、N末端から2番目のアミノ酸をロイシンもしくはメチオニンで置換すること、および/またはC末端のアミノ酸をバリンもしくはロイシンで置換することが望ましい可能性がある。したがって、SEQ ID NO:1、3、5、および6のアミノ酸配列を有するペプチドであって、SEQ ID NOのN末端から2番目のアミノ酸がロイシンもしくはメチオニンで置換されている、および/またはSEQ ID NOのアミノ酸のC末端がバリンもしくはロイシンで置換されているペプチドは、本発明の範囲に含まれる。
【0038】
置換を、末端アミノ酸の箇所だけでなく、ペプチドのTCR認識の可能性のある位置に導入することもできる。いくつかの研究により、ペプチドのアミノ酸置換物は元のものと同等であるかまたはより優れていることが実証されており、これには例えばCAP1、p53(264−272)、Her−2/neu(369−377)、またはgp100(209−217)がある(Zaremba et al. Cancer Res. 57, 4570-4577, 1997、T. K. Hoffmann et al. J Immunol. (2002) Feb 1;168(3):1338-47.、S. O. Dionne et al. Cancer Immunol immunother. (2003) 52: 199-206、およびS. O. Dionne et al. Cancer Immunology, Immunotherapy (2004) 53, 307-314)。
本発明はまた、本明細書に開示された配列へのアミノ酸の付加も想定している。例えば、1個、2個または数個のアミノ酸を、記載されたペプチドのN末端および/またはC末端に付加することもできる。高いHLA抗原結合親和性を有しかつCTL誘導能を保持しているそのような改変ペプチドも、本発明に含まれる。
【0039】
しかしながら、ペプチド配列が、異なる機能を有する内在性または外来のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一である場合、自己免疫障害および/または特定の物質に対するアレルギー症状などの副作用が誘発される可能性がある。したがって、ペプチドの配列が別のタンパク質のアミノ酸配列と一致する状況を回避するために、利用可能なデータベースを用いて最初に相同性検索を行うことが好ましい。相同性検索から、対象ペプチドと比較してわずか1個または2個のアミノ酸が異なるペプチドが存在しないことが明らかになった場合には、そのような副作用の危険を全く伴うことなしに、HLA抗原とのその結合親和性を増大させるため、および/またはそのCTL誘導能を増大させるために、該対象ペプチドを改変することができる。
【0040】
上記のようにHLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドは、非常に効果的であると予測されるが、高い結合親和性の存在を指標として選択された候補ペプチドを、CTL誘導能の有無についてさらに調べる。本明細書において「CTL誘導能」という語句は、抗原提示細胞上に提示された場合に、細胞傷害性リンパ球(CTL)を誘導するペプチドの能力を示す。さらに、「CTL誘導能」は、CTL活性化を誘導する、CTL増殖を誘導する、CTLによる標的細胞の溶解を促進する、およびCTLのIFN−γ産生を増加させる、ペプチドの能力を含む。
【0041】
CTL誘導能の確認は、ヒトMHC抗原を保有する抗原提示細胞(例えば、Bリンパ球、マクロファージ、および樹状細胞(DC))、またはより具体的にはヒト末梢血単核白血球由来のDCを誘導し、ペプチドで刺激した後、CD8陽性細胞と混合し、その後、標的細胞に対してCTLによって産生および放出されたIFN−γを測定することにより達成される。反応系として、ヒトHLA抗原を発現するように作製されたトランスジェニック動物(例えば、BenMohamed L, Krishnan R, Longmate J, Auge C, Low L, Primus J, Diamond DJ, Hum Immunol 2000 Aug, 61(8): 764-79, Related Articles, Books, Linkout Induction of CTL response by a minimal epitope vaccine in HLA A*0201/DR1 transgenic mice: dependence on HLA class II restricted T(H) responseに記載されているもの)を用いることができる。例えば、標的細胞を51Cr等で放射標識することが可能であり、標的細胞から放出された放射能から細胞傷害活性を算出することができる。あるいは、固定化したペプチドを保有する抗原提示細胞(APC)の存在下で、CTLによって産生および放出されたIFN−γを測定し、抗IFN−γモノクローナル抗体を用いて培地上の阻止帯を可視化することによって、CTL誘導能を評価することができる。
【0042】
上記のようにペプチドのCTL誘導能を検討した結果、HLA抗原に対する高い結合親和性を有するそれらのペプチドが、高いCTL誘導能を必ずしも有するわけではないことが発見された。しかしながら、同定および評価したそのようなペプチドのうち、SEQ ID NO:1、3、5、および6によって示すアミノ酸配列を有するペプチドから選択されたオリゴペプチドは、HLA抗原に対する高い結合親和性に加えて、特に高いCTL誘導能を示すことが見いだされた。したがって、これらのペプチドは、本発明の好ましい態様として例示される。
【0043】
上記の改変に加えて、結果として生じる連結ペプチドが元のペプチドの必要なCTL誘導能を保持する限り、本発明のペプチドを他の物質と連結させることもできる。適した物質の例には以下のものが非限定的に含まれる:ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマーなど。ペプチドは、改変によって元のペプチドの生物活性を損なわないことを条件として、グリコシル化、側鎖酸化またはリン酸化などの改変を含むことができる。これらの種類の改変は、付加的な機能(例えば、標的化機能および送達機能)を付与するため、またはポリペプチドを安定化するために行うことができる。
【0044】
例えば、ポリペプチドのインビボ安定性を高めるために、D−アミノ酸、アミノ酸模倣体または非天然アミノ酸を導入することが当技術分野において公知であり、この概念を本発明のポリペプチドに適合させることもできる。ポリペプチドの安定性は、いくつかのやり方でアッセイすることができる。例えば、ペプチダーゼ、ならびにヒトの血漿および血清などのさまざまな生体媒質を用いて、安定性を試験することができる(例えば、Verhoef et al., Eur J Drug Metab Pharmacokin 1986, 11: 291-302を参照)。
【0045】
さらに、本発明のペプチドを、スペーサーまたはリンカーを介して他のペプチドと連結させてもよい。他のペプチドの例には、他のTAAに由来するCTL誘導性ペプチドが非限定的に含まれる。あるいは、本発明の2つまたはそれ以上のペプチドをスペーサーまたはリンカーを介して連結させてもよい。スペーサーまたはリンカーを介して連結させるペプチドは、同じであっても互いに異なってもよい。スペーサーおよびリンカーの種類は特に限定されず、ペプチドで構成されるもの、より好ましくはペプチダーゼ、プロテアーゼおよびプロテアソームなどの酵素によって切断され得る1つまたは複数の切断部位を有するペプチドで構成されるものが含まれる。リンカーまたはスペーサーの例には、以下のものが非限定的に含まれる:AAY(P. M. Daftarian et al., J Trans Med 2007, 5:26)、AAA、NKRK(R. P. M. Sutmuller et al., J Immunol. 2000, 165: 7308-7315)、または1個〜数個のリジン残基(S. Ota et al., Can Res. 62, 1471-1476、K. S. Kawamura et al., J Immunol. 2002, 168: 5709-5715)。本発明は、スペーサーまたはリンカーを介して他のペプチドと連結されたペプチドを想定している。
【0046】
本発明のペプチドがシステイン残基を含む場合、それらのペプチドはシステイン残基のSH基間のジスルフィド結合を介して二量体を形成する傾向がある。したがって、本発明のペプチドの二量体も、本発明のペプチドに含まれる。
本明細書において、本発明のペプチドを「IMP−3ペプチド」、「IMP−3ポリペプチド」または「IMP−3オリゴペプチド」として記載することもできる。
【0047】
III.IMP−3ペプチドの調製
周知の技法を用いて、本発明のペプチドを調製することができる。例えば、組換えDNA技術または化学合成を用いて、ペプチドを合成的に調製することができる。本発明のペプチドは、個々に、または2つもしくはそれ以上のペプチドで構成されるより長いポリペプチドとして、合成することができる。その後ペプチドを単離する、すなわち、他の天然の宿主細胞タンパク質およびそれらの断片、または他のいかなる化学物質も実質的に含まないように精製または単離することができる。
【0048】
本発明のペプチドはまた、修飾によって元のペプチドの生物活性が損なわれない限り、糖鎖付加、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。他の例示的な修飾には、例えば当該ペプチドの血清半減期を延長させるために用いることができる、D−アミノ酸または他のアミノ酸模倣体の取り込みが含まれる。
【0049】
選択されたアミノ酸配列に基づいた化学合成によって、本発明のペプチドを得ることができる。該合成に適合させることのできる従来のペプチド合成法の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)「ペプチド合成」(日本語)、丸善、1975;
(iv)「ペプチド合成の基礎と実験」(日本語)、丸善、1985;
(v)「続医薬品の開発」(日本語)、第14巻(ペプチド合成)、広川書店、1991;
(vi)WO99/67288;および
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, Solid Phase Peptide Synthesis, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0050】
あるいは、ペプチドを産生するための任意の公知の遺伝子工学的方法を適合させて、本発明のペプチドを得ることもできる(例えば、Morrison J, J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (Wu et al.編) 1983, 101: 347-62)。例えば、最初に、目的のペプチドを発現可能な形態で(例えば、プロモーター配列に相当する調節配列の下流に)コードするポリヌクレオチドを有する適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞に形質転換する。次いで、該宿主細胞を培養して、関心対象のペプチドを産生させる。インビトロ翻訳系を適合してペプチドをインビトロで作製することもできる。
【0051】
IV.ポリヌクレオチド
本発明はまた、前述の本発明のペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを提供する。これらには、天然IMP−3遺伝子(GenBankアクセッション番号NM_006547.2(SEQ ID NO:21))由来のポリヌクレオチド、およびその保存的に改変されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドが含まれる。本明細書において「保存的に改変されたヌクレオチド配列」という語句は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする配列を指す。遺伝暗号の縮重のため、数多くの機能的に同一の核酸が任意の特定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸のアラニンをコードする。したがって、あるコドンによってアラニンが指定される任意の位置において、コードされるポリペプチドを変化させることなく、該コドンを、記載された対応するコドンのいずれかに変更することができる。そのような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。ペプチドをコードする本明細書中のあらゆる核酸配列は、該核酸のあらゆる可能なサイレント変異をも表す。核酸中の各コドン(通常メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一の分子を得ることができることを、当業者は認識するであろう。したがって、ペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、開示した各配列において黙示的に記載されている。
【0052】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNA、およびそれらの誘導体から構成することができる。当該技術分野においては周知のように、DNAは天然塩基A、T、C、およびGなどの塩基から適宜構成され、RNAではTはUに置き換えられる。当業者は、非天然塩基もまたポリヌクレオチドに含まれることを認識する。
本発明のポリヌクレオチドは、介在するアミノ酸配列を間に伴ってまたは伴わずに、本発明の複数のペプチドをコードすることができる。例えば、介在するアミノ酸配列は、ポリヌクレオチドまたは翻訳されたペプチドの切断部位(例えば、酵素認識配列)を提供することができる。さらに、ポリヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードするコード配列に対する任意の付加的配列を含むことができる。例えば、ポリヌクレオチドは、ペプチドの発現に必要な調節配列を含む組換えポリヌクレオチドであり得、またはマーカー遺伝子等を有する発現ベクター(プラスミド)であり得る。一般に、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる従来の組換え技法によりポリヌクレオチドを操作することによって、そのような組換えポリヌクレオチドを調製することができる。
【0053】
組換え技法および化学合成技法のいずれを用いても、本発明のポリヌクレオチドを作製することができる。例えば、適切なベクターに挿入することによってポリヌクレオチドを作製することができ、これはコンピテント細胞にトランスフェクトした場合に発現され得る。あるいは、PCR技法または適切な宿主内での発現を用いて、ポリヌクレオチドを増幅することもできる(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1989を参照されたい)。あるいは、Beaucage SL & Iyer RP, Tetrahedron 1992, 48: 2223-311;Matthes et al., EMBO J 1984, 3: 801-5に記載されている固相技法を用いて、ポリヌクレオチドを合成することもできる。
本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、およびそれらのベクターを有する宿主細胞もまた、本発明に含まれる。
【0054】
V.エキソソーム
本発明はさらに、本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体を自身の表面上に提示する、エキソソームと称される細胞内小胞を提供する。エキソソームは、例えば、公表特許公報 特表平11−510507号およびWO99/03499号に詳述された方法を用いて調製することができ、治療および/または予防の対象となる患者から得られたAPCを用いて調製することができる。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様の様式で、ワクチンとして接種することができる。
【0055】
これらの複合体中に含まれるHLA抗原の型は、治療および/または予防を必要とする対象のものと一致しなければならない。日本人および白人において高度に発現されるHLA−A2型を用いることが有効な結果を得るために好都合であり、HLA−A2(A*0201およびA*0206)などのサブタイプも使用される。典型的には、臨床施設で、治療を必要とする患者のHLA抗原の型を前もって調べることにより、特定の抗原に対して高レベルの結合親和性を有するかまたは抗原提示によるCTL誘導能を有するペプチドの適切な選択が可能となる。さらに、高い結合親和性およびCTL誘導能の両方を有するペプチドを得るために、天然のIMP−3の部分ペプチドのアミノ酸配列に基づいて、1個、2個または数個のアミノ酸の置換、挿入、欠失および/または付加を行うこともできる。
本発明のエキソソームに対してHLA−A2(A*0201)抗原を用いる場合には、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択される配列を有するペプチドが特に使用される。
【0056】
VI.抗原提示細胞(APC)
本発明はまた、HLA抗原と本発明のペプチドとの間に形成された複合体を自身の表面上に提示する、単離された抗原提示細胞(APC)も提供する。本発明のペプチドを接触させることによって、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現可能な形態で導入することによって得られるAPCは、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、かつ単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくは細胞傷害性T細胞を含む他の薬物と組み合わせて、ワクチンとして投与することができる。
【0057】
これらのAPCは特定の種類の細胞に限定されず、これには、リンパ球によって認識されるように自身の細胞表面上にタンパク質性抗原を提示することが知られている、樹状細胞(DC)、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、および活性化T細胞が含まれる。DCはAPCの中で最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCであるため、DCは本発明のAPCとして使用される。
【0058】
例えば、末梢血単球からDCを誘導し、続いてそれらをインビトロ、エクスビボ、またはインビボで本発明のペプチドと接触させる(刺激する)ことによってAPCを得ることができる。本発明のペプチドを対象に投与すると、本発明のペプチドを提示するAPCがその対象の体内で誘導される。「APCを誘導する」という語句は、細胞を本発明のペプチドまたはそのようなペプチドをコードするヌクレオチドと接触させて(刺激して)、HLA抗原と本発明のペプチドとの間に形成される複合体を細胞表面上に提示させることを含む。したがって、本発明のAPCは、本発明のペプチドを対象に投与した後にその対象からAPCを収集することによって得てもよい。あるいは、対象から収集したAPCを本発明のペプチドと接触させることによって、本発明のAPCを得てもよい。
【0059】
本発明のAPCは、例えばワクチンとして、対象におけるがんに対する免疫応答を誘導するために、その対象に単独で投与してもよい。また、本発明のAPCを、本発明のペプチド、エキソソーム、またはCTLを含む他の薬物と組み合わせて投与してもよい。エクスビボ投与は、以下の段階を含み得る:
a:第1の対象からAPCを収集する段階;
b:段階aのAPCをペプチドと接触させる段階;および
c:ペプチド負荷を受けたAPCを第2の対象に投与する段階。
【0060】
第1の対象および第2の対象は同一の個体であってよく、または異なる個体であってもよい。あるいは、本発明によれば、抗原提示細胞を誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための本発明のペプチドの使用も提供される。加えて、本発明は、抗原提示細胞を誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための方法または工程を提供し、ここで本方法は、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体とともに混合または製剤化する段階を含む。その上、本発明は、肺がんおよび食道がんを含むがんを治療するための薬学的な剤または組成物を製造するための方法または工程を提供し、ここで本方法は、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体とともに混合または製剤化する段階を含む。さらに、本発明はまた、抗原提示細胞を誘導するための本発明のペプチドも提供する。段階bによって得たAPCを、ワクチンとして対象に投与することができる。本発明はさらに、肺がんおよび食道がんを含むがんを治療するためのペプチドを提供する。
【0061】
本発明の1つの局面によれば、本発明のAPCは高レベルのCTL誘導能を有する。「高レベルのCTL誘導能」という用語において、高レベルとは、ペプチドと接触させていないかまたはCTLを誘導することができないペプチドと接触させたAPCによるCTL誘導能のレベルに対するものである。高レベルのCTL誘導能を有するそのようなAPCは、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子をインビトロでAPCに移入する段階を含む方法によって調製することができる。導入する遺伝子は、DNAまたはRNAの形態であってよい。導入のための方法の例には、特に限定されることなく、リポフェクション、エレクトロポレーション、およびリン酸カルシウム法といった、当分野において従来行われているさまざまな方法が含まれる。より具体的には、Cancer Res 1996, 56: 5672-7;J Immunol 1998, 161: 5607-13;J Exp Med 1996, 184: 465-72;公表特許公報第2000−509281号に記載されたように、それを行うことができる。遺伝子をAPCに移入することにより、その遺伝子が細胞内で転写、翻訳などを受け、続いて、得られたタンパク質がMHCクラスIまたはクラスIIによるプロセシングを受けて、提示経路を経てペプチドが提示される。
【0062】
好ましい態様において、本発明のAPCはその表面上に、HLA抗原と、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドとの複合体を提示する。好ましくは、本発明のAPCは、HLA−A2抗原をその表面上に保有する。言い換えれば、本発明のAPCは好ましくは、HLA−A2抗原をその表面上に発現する。あるいは、HLA抗原との複合体を形成するオリゴペプチドは、1個、2個または数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドであってもよい;例えば、N末端から2番目のアミノ酸をロイシンもしくはメチオニンで置換してもよく、および/またはC末端のアミノ酸をバリンもしくはロイシンで置換してもよい。
【0063】
VII.細胞傷害性T細胞(細胞傷害性Tリンパ球;CTL)
本発明のペプチドのいずれかに対して誘導された細胞傷害性T細胞は、インビボで腫瘍関連内皮を標的とする免疫応答を増強させ、それ故にペプチド自体と同様の様式でワクチンとして用いることができる。したがって、本発明はまた、本ペプチドのいずれかよって特異的に誘導または活性化された、単離された細胞傷害性T細胞も提供する。
そのような細胞傷害性T細胞は、(1)本発明のペプチドを対象に投与し、続いてその対象から細胞傷害性T細胞を収集することによって、または(2)対象由来のAPC、およびCD8陽性細胞、もしくは末梢血単核白血球をインビトロで本発明のペプチドと接触させ(刺激して)、続いて細胞傷害性T細胞を単離することによって、得ることができる。
【0064】
本発明のペプチドを提示するAPCによる刺激によって誘導された細胞傷害性T細胞は、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、単独で投与するか、または効果を調節する目的で本発明のペプチドもしくはエキソソームを含む他の薬物と組み合わせて投与することができる。得られた細胞傷害性T細胞は、本発明のペプチド、または例えば誘導のために用いた同じペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。言い換えれば、得られた細胞傷害性T細胞は、標的細胞の表面上でHLA抗原と本発明のペプチドとの間で形成された複合体をT細胞受容体を介して認識し(すなわち、それと結合し)、続いて標的細胞を攻撃してその標的細胞の死滅を誘導することができる。標的細胞は、IMP−3を内因的に発現する細胞、またはIMP−3遺伝子をトランスフェクトした細胞であってよい;本発明のペプチドによる刺激に起因してそのペプチドを細胞表面上に提示する細胞も、活性化されたCTLの攻撃の標的となり得る。好ましい態様において、標的細胞はHLA−A2抗原をその表面上に保有し、HLA−A2と本発明のペプチドとの間で形成された複合体をその表面上に提示する。
【0065】
VIII.T細胞受容体(TCR)
本発明はまた、T細胞受容体(TCR)のサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードする核酸配列を含む組成物、およびそれを用いる方法を提供する。TCRサブユニットαおよびβは、IMP−3を提示する腫瘍細胞に対する特異性をT細胞に付与するTCRを形成する能力を有する。当技術分野における公知の方法を用いることによって、本発明の1つまたはそれ以上のペプチドで誘導されたCTLにおいて発現されるTCR α鎖およびβ鎖の核酸配列を単離して、初代ヒトリンパ球への効率の高い遺伝子移入を媒介し得る適したベクターを構築するために用いることができる(WO2007/032255号、およびMorgan et al., J Immunol, 171, 3288 (2003))。例えば、TCRを分析するためにはPCR法が好ましい。分析のためのPCRプライマーは、例えば、5'側プライマーとしての5'−Rプライマー(5'−gtctaccaggcattcgcttcat−3')(SEQ ID NO:23)、および3'側プライマーとしての、TCR α鎖C領域に対して特異的な3−TRa−Cプライマー(5'−tcagctggaccacagccgcagcgt−3')(SEQ ID NO:24)、TCR β鎖C1領域に対して特異的な3−TRb−C1プライマー(5'−tcagaaatcctttctcttgac−3')(SEQ ID NO:25)またはTCR β鎖C2領域に対して3−TRβ−C2プライマー(5'−ctagcctctggaatcctttctctt−3')(SEQ ID NO:26)であってよいが、これらには限定されない。例示的なベクターには、レトロウイルスベクターが非限定的に含まれる。有利には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の哺乳動物のもの)の迅速な改変により、優れたがん細胞死滅特性を有する改変T細胞を迅速かつ容易に作製することを可能にする汎用的な組成物を提供する。派生TCRは、IMP−3ペプチドを表示する標的細胞と高い結合力で結合し、任意で、IMP−3ペプチドを提示する標的細胞の効率的な死滅をインビボおよびインビトロで媒介する。
【0066】
TCRサブユニットをコードする核酸を、適したベクター、例えばレトロウイルスベクターに組み入れることができる。これらのベクターは当技術分野において周知である。核酸またはそれらを有効な形で含むベクターを、T細胞、例えば、患者由来のT細胞に移入することができる。有利には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の哺乳動物のもの)の迅速な改変により、優れたがん細胞死滅特性を有する改変T細胞を迅速かつ容易に作製することを可能にする汎用的な組成物を提供する。
【0067】
特異的TCRとは、そのTCRがT細胞の表面上に存在する場合に、本発明のペプチドとHLA分子との複合体を特異的に認識して、標的細胞に対する特異的活性をT細胞に付与することのできる受容体のことである。上記の複合体の特異的認識は任意の公知の方法によって確認することができ、好ましい方法には、例えば、HLA分子および本発明のペプチドを用いるテトラマー分析、ならびにELISPOTアッセイ法が含まれる。ELISPOTアッセイを行うことにより、細胞表面上にTCRを発現するT細胞がそのTCRによって細胞を認識すること、およびそのシグナルが細胞内で伝達されることを確認することができる。上述した複合体が、その複合体がT細胞表面上に存在する場合にT細胞に細胞傷害活性を与えることができることは、公知の方法によって確認することもできる。好ましい方法には、例えば、HLA陽性標的細胞に対する細胞傷害活性の判定、例えばクロム放出アッセイなどが含まれる。
【0068】
また、本発明は、HLA−A2との関連においてIMP−3ペプチド、例えばSEQ ID NO:1、3、5、および6と結合するTCRサブユニットポリペプチドをコードする核酸による形質導入によって調製されるCTLも提供する。形質導入されたCTLは、インビボでがん細胞にホーミングすることができ、かつ周知の培養法によってインビトロで増幅させることができる(例えば、Kawakami et al., J Immunol., 142, 3452-3461 (1989))。本発明のT細胞は、治療または保護を必要としている患者におけるがんの治療および/または予防に有用な免疫原性組成物を形成するために用いることができる(WO2006/031221号)。
【0069】
IX.薬学的な剤または組成物
IMP−3の発現は、正常組織と比較していくつかのがんで上方制御されているため、本発明のペプチドまたはそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドを、がんまたは腫瘍の治療および/もしくは予防のため、ならびに/またはその術後再発の予防のために用いることができる。したがって、本発明は、本発明のペプチドまたはそれらのペプチドをコードするポリヌクレオチドの1種または複数種を有効成分として含む、がんまたは腫瘍の治療および/もしくは予防のため、ならびに/またはその術後再発の予防のための薬学的な剤または組成物を提供する。あるいは、薬学的な剤または組成物として用いるために、本ペプチドを前記のエキソソーム、またはAPCなどの細胞のいずれかの表面上に発現させることもできる。加えて、本発明のペプチドのいずれかを標的とする前記の細胞傷害性T細胞を、本薬学的な剤または組成物の有効成分として用いることもできる。本発明の文脈において、細胞傷害性T細胞の活性に関する「ペプチドを標的とする」という語句は、その細胞傷害性T細胞が、標的細胞の表面上でHLA抗原とペプチドとの間で形成された複合体をそのT細胞受容体を介して認識して(すなわち、それと結合して)、続いて標的細胞を攻撃して標的細胞の死滅を誘導することができることを示している。
【0070】
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療するための薬学的な組成物または剤の製造における、以下の中から選択される有効成分の使用も提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0071】
あるいは、本発明は、がんまたは腫瘍の治療に用いるための、以下の中から選択される有効成分をさらに提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0072】
あるいは、本発明は、がんまたは腫瘍を治療するための薬学的な組成物または剤を製造するための方法または工程をさらに提供し、本方法または工程は、薬学的または生理的に許容される担体を、有効成分としての以下の中から選択される有効成分とともに製剤化する段階を含む:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0073】
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療するための薬学的な組成物または剤を製造するための方法または工程を提供し、本方法または工程は、有効成分を薬学的または生理的に許容される担体と混合する段階を含み、有効成分は以下の中から選択される:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示するようなペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0074】
あるいは、本発明の薬学的な組成物または剤を、がんまたは腫瘍の予防およびその術後再発の予防のいずれかまたは両方のために用いてもよい。
【0075】
本発明の薬学的な剤または組成物を用いて、ヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル、ヒヒ、およびチンパンジー、特に商業的に重要な動物または家畜を含むがそれらに限定されない任意の他の哺乳動物を含む対象または患者において、がんまたは腫瘍を治療および/もしくは予防する、ならびに/またはその術後再発を予防することができる。
【0076】
本発明によれば、SEQ ID NO:1、3、5、および6の中から選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドは、強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A2拘束性エピトープペプチドであることが見いだされた。このため、SEQ ID NO:1、3、5または6のアミノ酸配列を有するこれらのオリゴペプチドのいずれかを含む本発明の薬学的な剤または組成物は、HLA抗原がHLA−A2である対象への投与のために特に適している。本明細書で用いる場合、「HLA抗原がHLA−A2である対象」とは、HLA−A2遺伝子をホモ接合性またはヘテロ接合性に保有し、かつHLA−A2がその対象の細胞においてHLA抗原として発現される対象のことを意味する。言い換えれば、対象はHLA−A2陽性である。これらのオリゴペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物に対しても同じことが成り立つ。
【0077】
本発明の薬学的な剤または組成物によって治療されるがんまたは腫瘍は限定されるものではなく、例えば肺がんおよび食道がんを含めてIMP−3が関与するあらゆる種類のがんまたは腫瘍が含まれる。特に、本発明の薬学的な剤または組成物は、好ましくは膵がんに対して適用される。
【0078】
本発明の薬学的な剤または組成物は、前記の有効成分に加えて、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチド、このその他のペプチドをコードする他のポリヌクレオチド、このその他のペプチドを提示する他の細胞なども含有し得る。本明細書において、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有する他のペプチドはがん特異的抗原(例えば、同定されたTAA)によって例示されるが、それらには限定されない。
【0079】
必要であれば、本発明の薬学的な剤または組成物は、他の治療物質が、例えば本発明のペプチドのいずれかなどの有効成分の抗腫瘍効果を阻害しない限り、有効成分としてその治療物質を任意で含んでもよい。例えば、製剤は、抗炎症薬、鎮痛薬、化学療法薬などを含んでもよい。医薬自体に他の治療物質を含めることに加えて、本発明の医薬を、1種または複数種の他の薬理学的な剤または組成物と逐次的にまたは同時に投与することもできる。医薬品および薬理学的な剤または組成物の量は、例えば、用いる薬理学的な剤または組成物の種類、治療する疾患、ならびに投与のスケジュールおよび経路に依存する。
【0080】
本明細書において具体的に言及された成分に加えて、本発明の薬学的な剤または組成物は、当該製剤の種類を考慮して、当技術分野において慣例的な他の剤または組成物も含み得ることが理解されるべきである。
本発明の1つの態様において、本発明の薬学的な剤または組成物を、治療しようとする疾患、例えばがんなどの病状を治療するために有用な材料を含む製品およびキットに含めることができる。製品は、ラベルが付された本薬学的な剤または組成物のいずれかの容器を含むことができる。適した容器には、瓶、バイアルおよび試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成することができる。容器上のラベルは、その剤または組成物が、疾患の1つまたは複数の状態の治療または予防のために用いられることを表示すべきである。ラベルはまた、投与のための指示なども表示すべきである。
【0081】
本発明の薬学的な剤または組成物を含むキットは、上記の容器に加えて、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収容している第2の容器をさらに含み得る。それは、他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用上の説明を含む添付文書を含む、商業上の観点および使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含んでもよい。
【0082】
必要に応じて、薬学的な剤または組成物を、有効成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサー装置の形で提供することができる。パックは例えば、ブリスターパックのように金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる。パックまたはディスペンサー装置には、投与のための説明書を添えることができる。
本発明の別の態様において、本発明のペプチドを、薬学的に許容される塩の形態で投与してもよい。塩の好ましい例には、アルカリ金属との塩、金属との塩、有機塩基との塩、有機酸との塩、および無機酸との塩が含まれる。
【0083】
(1)有効成分としてペプチドを含む薬学的な剤または組成物
本発明のペプチドは、薬学的な剤または組成物として直接投与することができ、または必要であれば、従来の製剤化法によって製剤化してもよい。後者の場合には、本発明のペプチドに加えて、薬物に通常用いられる担体、添加剤などを、特に限定されずに適宜含めることができる。そのような担体の例は、滅菌水、生理的食塩水、リン酸緩衝液、培養液などである。さらに、薬学的な剤または組成物は、必要に応じて、安定剤、懸濁液、保存料、界面活性剤などを含むことができる。本発明の薬学的な剤または組成物は、抗がん目的に用いることができる。
【0084】
インビボでCTLを誘導するために、本発明のペプチドの2つまたはそれ以上から構成される組み合わせとして、本発明のペプチドを調製することができる。ペプチドの組み合わせはカクテルの形態をとることもでき、または標準的な手法を用いて互いにコンジュゲートさせることもできる。例えば、ペプチドを化学的に連結すること、または単一の融合ポリペプチド配列として発現させることができる。組み合わせにおけるペプチドは、同一であってもよく、または異なってもよい。本発明のペプチドを投与することにより、ペプチドがHLA抗原によってAPC上に高密度で提示され、続いて、表示されたペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導される。あるいは、対象由来のAPC(例えば、DC)を本発明のペプチドで刺激することによって得られる、本発明のペプチドのいずれかを細胞表面上に提示するAPCを対象に投与してもよく、その結果として、その対象においてCTLを誘導して、肺がん細胞および食道がん細胞などのがん細胞に対する攻撃性を高めることができる。
【0085】
本発明のペプチドを有効成分として含む、がんまたは腫瘍の治療および/または予防のための薬学的な剤または組成物は、細胞性免疫を効果的に成立させることが知られているアジュバントも含み得る。あるいは、薬学的な剤もしくは組成物を他の有効成分とともに投与するか、または顆粒へと製剤化することによって投与することができる。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質とともに(または連続して)投与された場合に、そのタンパク質に対する免疫応答を強化する化合物のことを指す。本明細書において想定しているアジュバントには、文献(Clin Microbiol Rev 1994, 7: 277-89)に記載されたものが含まれる。適したアジュバントの例には、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、コレラ毒素、サルモネラ毒素などが非限定的に含まれるが、それらには限定されない。
さらに、リポソーム製剤、直径数マイクロメートルのビーズにペプチドが結合している顆粒製剤、およびペプチドに脂質が結合している製剤を好都合に用いてもよい。
【0086】
本発明の別の態様において、本発明のペプチドはまた、薬学的に許容される塩の形態で投与してもよい。塩の好ましい例には、アルカリ金属との塩、金属との塩、有機塩基との塩、有機酸との塩、および無機酸との塩が含まれる。本明細書で使用する「薬学的に許容される塩」とは、その化合物の生物学的有効性および特性を保持し、かつ塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの無機酸または無機塩基との反応によって得られる塩を指す。塩の好ましい例には、アルカリ金属との塩、金属との塩、有機塩基との塩、有機酸との塩、および無機酸との塩が含まれる。
【0087】
いくつかの態様において、本発明の薬学的な剤または組成物は、CTLを刺激する(prime)成分をさらに含み得る。脂質は、ウイルス抗原に対してインビボでCTLを刺激し得る物質または組成物として同定されている。例えば、パルミチン酸残基をリジン残基のεアミノ基およびαアミノ基に付着させ、次に本発明のペプチドに連結させることができる。次いで、脂質付加したペプチドを、ミセルもしくは粒子の状態で直接投与するか、リポソーム中に取り込ませて投与するか、またはアジュバント中に乳化させて投与することができる。CTL応答の脂質による刺激の別の例として、適切なペプチドに共有結合している場合、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイニルセリル−セリン(P3CSS)などの大腸菌(E.coli)リポタンパク質を用いてCTLを刺激することができる(例えば、Deres et al., Nature 1989, 342: 561-4を参照されたい)。
【0088】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等、および全身投与または標的部位の近傍への局所投与であってよい。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によってブーストすることもできる。本発明のペプチドの用量は、治療される疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に応じて適宜調整することができ、これは通常0.001mg〜1000mg、例えば0.001mg〜1000mg、例えば0.1mg〜10mgであり、数日〜数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適宜選択することができる。
【0089】
(2)有効成分としてポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物
本発明の薬学的な剤または組成物はまた、本明細書に開示するペプチドを発現可能な形態でコードする核酸を含み得る。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、ポリヌクレオチドが、細胞に導入された場合に、抗腫瘍免疫を誘導するポリペプチドとしてインビボで発現されることを意味する。例示的な態様において、関心対象のポリヌクレオチドの核酸配列は、該ポリヌクレオチドの発現に必要な調節エレメントを含む。ポリヌクレオチドには、標的細胞のゲノムへの安定した挿入が達成されるように、必要なものを備えさせることができる(相同組換えカセットベクターの説明に関しては、例えばThomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8;米国特許第5,580,859号;第5,589,466号;第5,804,566号;第5,739,118号;第5,736,524号;第5,679,647号;およびWO 98/04720を参照されたい。DNAに基づく送達技術の例には、「裸のDNA」、促進された(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介性)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性の送達が含まれる(例えば、米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0090】
ウイルスベクターまたは細菌ベクターによって、本発明のペプチドを発現させることもできる。発現ベクターの例には、ワクシニアウイルスまたは鶏痘ウイルスなどの弱毒化ウイルス宿主が含まれる。このアプローチは、例えば、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとして、ワクシニアウイルスの使用を伴う。宿主に導入すると、組換えワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それによって免疫応答を誘発する。免疫化プロトコールに有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば米国特許第4,722,848号に記載されている。別の例としてはBCG(カルメット・ゲラン桿菌)である。BCGベクターは、Stover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載されている。治療的な投与または免疫化に有用である多種多様な他のベクター、例えばアデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクター等が明らかである。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71;Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806;Hipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0091】
ポリヌクレオチドの対象内への送達は、直接的であってもよく、この場合にはポリヌクレオチドを保有するベクターに対象を直接曝露し、または間接的であってもよく、この場合にはまずインビトロで細胞を関心対象のポリヌクレオチドで形質転換し、次いで該細胞を対象内に移植する。これら2つのアプローチはそれぞれ、インビボおよびエクスビボの遺伝子治療として公知である。
遺伝子治療の方法の一般的な総説に関しては、Goldspiel et al., Clinical Pharmacy 1993, 12: 488-505;Wu and Wu, Biotherapy 1991, 3: 87-95;Tolstoshev, Ann Rev Pharmacol Toxicol 1993, 33: 573-96;Mulligan, Science 1993, 260: 926-32;Morgan & Anderson, Ann Rev Biochem 1993, 62: 191-217;Trends in Biotechnology 1993, 11(5): 155-215を参照されたい。本発明にも用いることのできる、組換えDNA技術の分野において一般に公知の方法は、Ausubel et al.編, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY, 1993;およびKrieger, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY, 1990に記載されている。
【0092】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等であってよく、全身投与または標的部位の近傍への局所投与が使用される。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によってブーストすることもできる。適切な担体中のポリヌクレオチドの用量、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換された細胞中のポリヌクレオチドの用量は、治療される疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に応じて適宜調整することができ、これは通常0.001mg〜1000mg、例えば0.001mg〜1000mg、例えば0.1mg〜10mgであり、数日に1度〜数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適宜選択することができる。
【0093】
X.ペプチド、エキソソーム、APCおよびCTLを用いる方法
本発明のペプチドおよびそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドは、APCおよびCTLを誘導するため、さらにはがんまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導するために用いることができる。また、本発明のエキソソームおよびAPCを、CTLを誘導するため、さらにはがんまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導するために用いることもできる。ペプチド、ポリヌクレオチド、エキソソームおよびAPCは、任意の他の化合物がそれらのCTL誘導能を阻害しない限り、その化合物と組み合わせて用いることができる。したがって、前記の本発明の薬学的な剤または組成物のいずれかをCTLを誘導するために用い、さらにそれに加えて、これらのペプチドおよびポリヌクレオチドを含むものを、以下に考察するように、APCを誘導するために用いることもできる。さらに、本発明のCTLを、がんまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導するために用いることもできる。
【0094】
(1)抗原提示細胞(APC)を誘導する方法
本発明は、本発明のペプチドまたはそれらのペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いてAPCを誘導する方法を提供する。APCの誘導は、「VI.抗原提示細胞」の項に上述したようにして行うことができる。本発明はまた、高レベルのCTL誘導能を有するAPCを誘導するための方法も提供し、その誘導もまた、前記の「VI.抗原提示細胞」の項目で言及されている。
好ましくは、APCを誘導するための方法は、以下の中から選択される少なくとも1つの段階を含む:
a:APCを、本発明のペプチドと接触させる段階、および
b:本発明のポリペプチドを発現可能な形態でコードするポリヌクレオチドをAPCに導入する段階。
APCを誘導するためのそのような方法は、好ましくはインビトロまたはエクスビボで行われる。これらの方法をインビトロまたはエクスビボで行うためには、治療しようとする対象、またはHLA抗原が治療しようとする対象と同じである他のものからAPCを得るとよい。1つの好ましい態様において、本方法によって誘導されるAPCは、HLA−A2抗原をその表面上に保有する。
【0095】
(2)CTLを誘導する方法
本発明はまた、本発明のペプチド、それらのペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはそれらのペプチドを提示するエキソソームもしくはAPCを用いてCTLを誘導するための方法も提供する。
本発明はまた、本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識する(すなわち、それと結合する)T細胞受容体(TCR)サブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いてCTLを誘導するための方法も提供する。好ましくは、CTLを誘導するための方法は、以下の中から選択される少なくとも1つの段階を含む:
a:CD8陽性T細胞を、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体を自身の表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
b:本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識するTCRサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階。
【0096】
本発明のペプチドを対象に投与すると、対象の体内でCTLが誘導され、腫瘍関連内皮を標的とする免疫応答の強度が強化される。あるいは、それらのペプチドおよびそれらのペプチドをコードするポリヌクレオチドを、対象由来のAPC、およびCD8陽性細胞、または末梢血単核白血球を本発明のペプチドとインビトロで接触させて(それによって刺激して)、CTLを誘導した後に、活性化されたCTL細胞を対象に戻すエクスビボ治療法に用いることもできる。例えば、本方法は以下の段階を含み得る:
a:対象からAPCを収集する段階;
b:ペプチドと段階aのAPCを接触させる段階;
c:段階bのAPCをCD8+ T細胞と混合し、CTLを誘導するために共培養する段階;および
d:段階cの共培養物からCD8+ T細胞を収集する段階。
【0097】
あるいは、本発明によれば、CTLを誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための本発明のペプチドの使用も提供される。加えて、本発明は、CTLを誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための方法または工程を提供し、本方法は、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体とともに混合または製剤化する段階を含む。さらに、本発明はまた、CTLを誘導するための本発明のペプチドも提供する。
【0098】
段階dによって得られた細胞傷害活性を有するCD8+ T細胞を、ワクチンとして対象に投与することができる。上記の段階cにおいてCD8+ T細胞と混合するAPCは、上記の「VI.抗原提示細胞」の項で詳述されているように、本ペプチドをコードする遺伝子をAPCに移入することによって調製することもできるが、それらには限定されない。したがって、本ペプチドをT細胞に対して効果的に提示する任意のAPCまたはエキソソームを、本方法に用いることができる。
【0099】
(3)免疫応答を誘導する方法
本発明はさらに、対象において、肺がんおよび食道がんなどのがんに対する免疫応答を誘導するための方法を提供する。本方法は、以下のものを含む、本発明のワクチン1の投与を含む:
(a)本発明の1種もしくは複数種のオリゴペプチドもしくはその免疫学的活性断片;
(b)(a)のオリゴペプチドもしくは免疫学的活性断片をコードする1種もしくは複数種のポリヌクレオチド;
(c)本発明の1種もしくは複数種の単離されたCTL;
(d)本発明の1種もしくは複数種の単離された抗原提示細胞;または
(e)単離され、TCRをコードする遺伝子によって形質転換された、1種もしくは複数種のT細胞。
【0100】
本発明との関連において、IMP−3を過剰発現するがんを、これらの有効成分によって治療することができる。そのようながんの例には、肺がんおよび食道がんが非限定的に含まれる。したがって、有効成分を含むワクチンまたは薬学的組成物の投与の前に、治療しようとするがん細胞または組織におけるIMP−3の発現レベルが同じ器官の正常細胞と比較して増大しているか否かを確かめることが好ましい。したがって、1つの態様において、本発明は、IMP−3を(過剰)発現するがんを治療するための方法でを提供し、本方法は、以下の段階を含んでもよい:
i)治療しようとするがんを有する対象から得られたがん細胞または組織におけるIMP−3の発現レベルを決定する段階;
ii)IMP−3の発現レベルを正常対照と比較する段階;および
iii)上記の(a)〜(d)から選択される少なくとも1つの構成成分を、正常対照と比較してIMP−3を過剰発現するがんを有する対象に投与する段階。
あるいは、本発明は、IMP−3を過剰発現するがんを有する対象への投与に用いるための、上記の(a)〜(d)から選択される少なくとも1つの構成成分を含むワクチンまたは薬学的組成物も提供し得る。言い換えれば、本発明はさらに、本発明のIMP−3ポリペプチドによって治療されるべき対象を同定する方法を提供し、本方法は、対象由来のがん細胞または組織におけるIMP−3の発現レベルを決定する段階を含み、そのレベルがこの遺伝子の正常対照レベルと比較して上昇していることにより、その対象が本発明のIMP−3によって治療され得るがんを有することが示される。本発明のがんを治療する方法を、以下により詳細に説明する。
【0101】
目的とするIMP−3の転写産物または翻訳産物を含む限り、対象由来の任意の細胞または組織をIMP−3発現の測定に使用することができる。適切な試料の例には、身体組織、ならびに血液、痰、および尿などの体液が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、対象由来の細胞または組織試料は、上皮細胞、より好ましくはがん性上皮細胞、またはがんの疑いがある組織に由来する上皮細胞を含む細胞集団を含む。さらに、必要に応じて、採取された身体組織および体液から細胞を精製し、その後これを対象由来試料として用いてもよい。
本発明の方法によって治療すべき対象は、好ましくは哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0102】
本発明によれば、対象から採取されたがん細胞または組織中のIMP−3の発現レベルが測定される。発現レベルは、当技術分野で公知の方法を用いて、転写産物レベルで測定することができる。例えば、IMP−3のmRNAを、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)によってプローブを用いて定量することができる。検出は、チップまたはアレイにおいて行うことができる。IMP−3の発現レベルを検出するには、アレイの使用が好ましい。当業者は、IMP−3の配列情報を利用して、そのようなプローブを調製することができる。例えば、IMP−3のcDNAをプローブとして用いることができる。必要に応じて、プローブを、色素、蛍光物質、および同位体などの適切な標識で標識してもよく、該遺伝子の発現レベルを、ハイブリダイズした標識の強度として検出してもよい。
【0103】
さらに、増幅に基づく検出法(例えば、RT−PCR)によりプライマーを用いて、IMP−3の転写産物(例えば、SEQ ID NO:21)を定量してもよい。そのようなプライマーは、該遺伝子の入手可能な配列情報に基づいて調製することができる。
具体的には、本発明の方法に用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件下、中程度にストリンジェントな条件下、または低ストリンジェントな条件下で、IMP−3のmRNAとハイブリダイズする。本明細書で使用する「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列とはハイブリダイズするが、その他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列に依存し、異なる状況下では異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高い温度で観察される。一般に、ストリンジェントな条件の温度は、所定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように選択する。Tmとは、平衡状態で、標的配列に相補的なプローブの50%が標的配列とハイブリダイズする(所定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である。標的配列は一般に過剰に存在するため、Tmでは、平衡状態でプローブの50%が占有される。典型的には、ストリンジェントな条件とは、pH7.0〜8.3において塩濃度がナトリウムイオン約1.0M未満、典型的にはナトリウムイオン(または他の塩)約0.01〜1.0Mであり、かつ温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)に関しては少なくとも約30℃、およびより長いプローブまたはプライマーに関しては少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって達成してもよい。
【0104】
プローブまたはプライマーは特定のサイズのものであってよい。サイズは少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも12ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチドからの範囲であってよく、プローブおよびプライマーのサイズは5〜10ヌクレオチド、10〜15ヌクレオチド、15〜20ヌクレオチド、20〜25ヌクレオチドおよび25〜30ヌクレオチドの範囲にわたってよい。
あるいは、本発明の診断のために翻訳産物を検出することもできる。例えば、IMP−3タンパク質(SEQ ID NO:22)の量を決定することができる。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定するための方法には、そのタンパク質を特異的に認識する抗体を用いるイムノアッセイ法が含まれる。抗体はモノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってもよい。さらに、断片または改変抗体がIMP−3タンパク質に対する結合能を保持する限り、抗体の任意の断片または改変物(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fvなど)を検出に用いることもできる。タンパク質の検出のためにこれらの種類の抗体を調製するための方法は当技術分野において周知であり、本発明では任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。
【0105】
IMP−3遺伝子の発現レベルをその翻訳産物に基づいて検出する別の方法として、IMP−3タンパク質に対する抗体を用いる免疫組織化学的解析により、染色の強度を測定してもよい。すなわちこの測定では、強力な染色により、該タンパク質の存在/レベルの増加が示され、それと同時にIMP−3遺伝子の高発現レベルが示される。
がん細胞中の標的遺伝子、例えばIMP−3遺伝子の発現レベルは、そのレベルが、該標的遺伝子の対照レベル(例えば、正常細胞中のレベル)から例えば10%、25%、もしくは50%上昇するか;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上まで上昇する場合に、上昇していると判定され得る。
【0106】
対照レベルは、疾患状態(がん性または非がん性)が判明している1または複数の対象から予め採取し保存しておいた試料を用いることにより、がん細胞と同時に測定することができる。加えて、治療すべきがんを有する器官の非がん性領域から採取された正常細胞を、正常対照として用いてもよい。あるいは、対照レベルは、疾患状態が判明している対象に由来する試料中のIMP−3遺伝子の予め測定された発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて、統計的方法により決定してもよい。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞に由来する発現パターンのデータベースに由来し得る。さらに、本発明の一局面によれば、生体試料中のIMP−3遺伝子の発現レベルを、複数の参照試料から測定される複数の対照レベルと比較することもできる。対象由来の生体試料の組織型と類似の組織型に由来する参照試料から測定された対照レベルを用いることが好ましい。さらに、疾患状態が判明している集団におけるIMP−3遺伝子の発現レベルの基準値を用いることが好ましい。基準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得ることができる。例えば、平均値 +/− 2 S.D.または平均値 +/− 3 S.D.の範囲を、基準値として用いることができる。
【0107】
本発明との関連において、がん性でないと判明している生体試料から測定された対照レベルは「正常対照レベル」と称される。一方、対照レベルががん性生体試料から測定される場合には、これは「がん性対照レベル」と称される。試料の発現レベルと対照レベルとの差を、その発現レベルが細胞のがん性状態または非がん性状態に応じて異ならないことが判明している対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して正規化することができる。例示的な対照遺伝子には、β−アクチン、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
IMP−3遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇しているか、またはがん性対照レベルと類似している/同等である場合、該対象は治療すべきがんを有すると診断され得る。
【0108】
より具体的に本発明は、(i)対象が治療すべきがんを有するかどうかを診断する方法、および/または(ii)がん治療のための対象を選択する方法を提供し、当該方法は以下の段階を含む:
a)治療すべきがんを有する疑いのある対象から採取されたがん細胞または組織中のIMP−3の発現レベルを測定する段階;
b)前記IMP−3の発現レベルを正常対照レベルと比較する段階;
c)前記IMP−3の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇している場合に、該対象を治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d)段階c)において対象が治療すべきがんを有すると診断される場合に、がん治療のために該対象を選択する段階。
【0109】
あるいは、そのような方法は以下の段階を含む:
a)治療すべきがんを有する疑いのある対象から採取されたがん細胞または組織中のIMP−3の発現レベルを測定する段階;
b)前記IMP−3の発現レベルをがん性対照レベルと比較する段階;
c)前記IMP−3の発現レベルががん性対照レベルと類似しているかまたは同等である場合に、該対象を治療すべきがんを有すると診断する段階;および
d)段階c)において対象が治療すべきがんを有すると診断される場合に、がん治療のために該対象を選択する段階。
【0110】
本発明はまた、本発明のIMP−3ポリペプチドによって治療し得るがんに罹患している対象を判定するためのキットも提供し、それは特定のがん治療、より詳細にはがん免疫療法の有効性の評価および/またはモニタリングにおいても有用である可能性がある。適したがんの実例には、肺がんおよび食道がんが非限定的に含まれる。より詳細には、本キットは好ましくは、対象由来のがん細胞におけるIMP−3遺伝子の発現を検出するための、以下の群から選択される試薬の少なくとも1つを含む:
(a)IMP−3遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)IMP−3タンパク質を検出するための試薬;および
(c)IMP−3タンパク質の生物活性を検出するための試薬。
【0111】
IMP−3遺伝子のmRNAを検出するのに適した試薬の例には、IMP−3 mRNAの一部に対する相補的配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、IMP−3 mRNAに特異的に結合するかまたはIMP−3 mRNAを同定する核酸が含まれる。このような種類のオリゴヌクレオチドは、IMP−3 mRNAに特異的なプライマーおよびプローブによって例証される。このような種類のオリゴヌクレオチドは、当技術分野において周知の方法に基づいて調製することができる。必要に応じて、IMP−3 mRNAを検出するための試薬を固体基質上に固定化することができる。さらに、IMP−3 mRNAを検出するための2つ以上の試薬をキット中に含めることもできる。
【0112】
一方、IMP−3タンパク質を検出するのに適した試薬の例には、IMP−3タンパク質に対する抗体が含まれる。抗体は、モノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってよい。さらに、断片または改変抗体がIMP−3タンパクへの結合能を保持する限り、抗体の任意の断片または改変物(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等)を試薬として用いることもできる。タンパク質を検出するためのこのような種類の抗体を調製する方法は、当技術分野において周知であり、本発明において任意の方法を使用して、そのような抗体およびそれらの等価物を調製することができる。さらに、直接連結技法または間接標識技法により、抗体をシグナル発生分子で標識することができる。標識、および抗体を標識して標的に対する抗体の結合を検出するための方法は、当技術分野において周知であり、任意の標識および方法を本発明に使用することができる。さらに、IMP−3タンパク質を検出するための2つ以上の試薬をキット中に含めることもできる。
【0113】
キットは、前述の試薬のうちの2つ以上を含み得る。例えば、がんを有さない対象またはがんに罹患している対象から採取された組織試料は、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットは、緩衝液、希釈液、フィルター、針、シリンジ、および使用説明書を備えた包装封入物(例えば、文書、テープ、CD−ROM等)を含む、商業上の観点および使用者の観点から望ましいその他の材料をさらに含み得る。これらの試薬等は、ラベルを貼った容器中に保持され得る。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料から形成され得る。
【0114】
本発明の一態様として、試薬がIMP−3 mRNAに対するプローブである場合には、該試薬を多孔性ストリップなどの固体基質上に固定化して、少なくとも1つの検出部位を形成させることができる。多孔性ストリップの測定または検出領域は、それぞれが核酸(プローブ)を含む複数の部位を含み得る。検査ストリップはまた、陰性および/または陽性対照用の部位を含み得る。あるいは、対照部位は、検査ストリップとは別のストリップ上に位置し得る。任意で、異なる検出部位は異なる量の固定化核酸を含み得る、すなわち、第1検出部位ではより多い量の固定化核酸を、および以降の部位ではより少ない量の固定化核酸を含み得る。試験試料を添加すると、検出可能なシグナルを呈する部位の数により、試料中に存在するIMP−3 mRNAの量の定量的指標が提供される。検出部位は、適切に検出可能な任意の形状で構成することができ、典型的には、検査ストリップの幅全体にわたるバーまたはドットの形状である。
【0115】
本発明のキットは、陽性対照試料またはIMP−3標準試料をさらに含んでもよい。本発明の陽性対照試料は、IMP−3陽性試料を収集し、続いてそれらのIMP−3レベルをアッセイすることによって調製してもよい。あるいは、精製IMP−3タンパク質またはポリヌクレオチドをIMP−3を発現しない細胞に添加して、陽性試料またはIMP−3標準試料を形成させてもよい。本発明において、精製IMP−3は組換えタンパク質であってよい。陽性対照試料のIMP−3レベルは、例えば、カットオフ値を上回る。
以下の実施例は、本発明を説明するため、ならびに本発明の作製および使用において当業者を支援するために提示される。これらの実施例は、本発明の範囲を別に限定することを決して意図するものではない。
【実施例】
【0116】
材料および方法
マウス
ヒト白血球抗原(HLA)−A2トランスジェニック(Tg)マウス;ヒトβ2m−HLA−A2.1(HLA−A*0201、α1、α2)−H−2Db(α3膜貫通性・細胞質性)単鎖コンストラクト遺伝子が導入されたH−2Dbおよびβ2m二重ノックアウトマウスは、Department SIDA−Retrovirus、Unite d' Immunite Cellulaire Antivirale、Institute Pasteur、Franceにおいて作製され、Dr. F.A. Lemonnierによって寄贈された。これらのマウスは熊本大学の動物資源開発研究部門(Center for Animal Resources and Development)において維持管理され、それらは熊本大学の動物管理指針に従って取り扱われた。
【0117】
細胞株
PANC1、A549、Lu99、MCF7、SW620、SKHep1、およびT2細胞株、TAP欠損細胞株、ならびにHLA−A2(A*0201)陽性細胞株は、Riken Cell Bank、Tsukuba、Japanから購入した。IMP−3の発現は、逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応分析によって判定した。
【0118】
血液試料
HLA−A2陽性ドナーから単離した末梢血単核細胞(PBMC)を用いることによって行われたこれらの研究は、熊本大学(Kumamoto、Japan)の施設内審査委員会によって承認された。患者1、患者3および患者4、患者14および患者103と指定された肺がんを有する4人の患者の血液試料を、熊本大学病院において、患者から書面によるインフォームドコンセントを得た後に定型的な診断手順の際に得た。ドナー1、ドナー2およびドナー3と指定されたHLA−A2(A*0201)陽性健常ドナーからも、書面によるインフォームドコンセントを受け取った後に血液試料を得た。試料は全て匿名扱いとし、無作為に番号を付けて、使用時まで−80℃で保存した。
【0119】
IMP−3由来のペプチドの候補選択
HLA−A2(A*0201)分子と結合する可能性のあるIMP−3由来のペプチドを、結合予測ソフトウエア「BIMAS」(http://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind)(Parker et al., J Immunol 1994, 152(1): 163-75, Kuzushima et al., Blood 2001, 98(6): 1872-81)を用いて予測した。これらのペプチドおよびHLA−A2(A*0201)拘束性HIVペプチド(SLYNTYATL)は、American Peptide Company、Sunnyvale、CA、USAによって、95%を上回る純度で合成された。
【0120】
IMP−3反応性マウスCTLの誘導
HLA−A2 Tgマウスに対して、候補ペプチドでパルス刺激した5×105個の同系骨髄由来樹状細胞(BM−DC)による免疫処置を7日目および14日目にインビボで行った。21日目に、免疫処置マウスから単離されたCD4−脾細胞を、各ペプチドでパルス刺激したBM−DCによって6日間刺激した。IFN−γ産生を酵素結合イムノスポット(ELISPOT)アッセイによって検出した。
【0121】
IMP−3反応性ヒトCTLの誘導
HLA−A2(A*0201)陽性ドナーのヘパリン添加血液からFicoll−Conray密度勾配遠心によってPBMCを単離し、末梢血単球由来DCを生成させた。20μg/mLの候補ペプチドによるDCのパルス刺激を、4μg/mLのβ2−ミクログロブリン(Sigma−Aldrich、St. Louis、MO、USA)の存在下で、2%熱不活化自己血漿を含むAIM−V(Invitrogen Japan、Tokyo、Japan)中にて37℃で2時間行った。続いて細胞に放射線照射(40Gy)を行い、CD8+ T細胞とともにインキュベートした。各ウェルが、2%自己血漿を含む2mL AIM−V中にペプチドパルス刺激した1×105個のDCと、2×106個のCD8+ T細胞と、5ng/mLのヒト組換えIL−7(Wako、Osaka、Japan)とを含むように、これらの培養物を24ウェルプレート中に設置した。2日後に、これらの培養物にヒト組換えIL−2(PeproTech、Rocky Hill、NJ、USA)を加えて、最終濃度を20 IU/mLとした。同じ手順を用いる、ペプチド負荷を受けた自己DCによる週1回の刺激をさらに2回、7日目および14日目に行った。最終刺激から6日後に、誘導されたCTLの抗原特異的応答をIFN−γ ELISPOTアッセイおよび51Cr放出アッセイによって調べた。IFN−γ ELISPOTアッセイに関しては、CTL(1×105個/ウェル)を、コグネイトペプチドまたは無関係なHIVペプチドでパルス刺激したT2(1×104個/ウェル)で刺激した。51Cr放出アッセイに関しては、CTLを、ペプチドパルス刺激したT2細胞または標的細胞としてのがん細胞(5×103個/ウェル)とともに指定のエフェクター/標的比で共培養し、標準的な51Cr放出アッセイを以前に記載された通りに行った(Komori H et al., Clin Cancer Res. 2006 May 1;12(9):2689-97)。
【0122】
CTLの細胞表面上のCD107a(LAMP−1;リソソーム関連膜タンパク質−1)表出の分析
抗原刺激後のCTLの細胞表面上のCD107aの表出を、抗CD107a抗体によって検出した。IMP−3ペプチド特異的CTLを、FITC結合抗CD107a mAbまたは対照としてのマウスIgG1の存在下で、コグネイトペプチドまたは無関係なHIVペプチドで刺激した。これらのCTLを37℃で5時間培養し、その後にPE結合抗ヒトCD8 mAbで染色した。ペプチドはすべて1マイクログラム/mlの最終濃度で用いた。示されているイベントはCD8+ T細胞に関してゲート処理されている。
【0123】
抗HLA−クラスIモノクローナル抗体によるCTL応答の阻害
HLA−クラスIの阻害は以前に記載された通りに行った(Komori H et al., Clin Cancer Res. 2006 May 1; 12(9):2689-97)。具体的には、Lu99標的細胞を抗HLAクラスI mAb(W6/32、IgG2a)または抗HLA−DR mAb(HLA−クラスII mAb)(H−DR−1、IgG2a)のそれぞれとともに1時間インキュベートした後に、Lu99細胞をコグネイトペプチドによる刺激によって肺がん患者から導き出されたCTLと共培養した。
【0124】
統計分析
両側Student t検定を用いて、IFN−γ ELISPOTアッセイによって得られたデータにおける差の統計学的有意性を評価した。0.05未満のP値を有意であるとみなした。統計分析は市販の統計用ソフトウエアパッケージ(SPSS for Windows、version 11.0、Chicago、IL、USA)を用いて行った。
【0125】
結果
IMP−3由来のHLA−A2結合ペプチドの予測
表1は、IMP−3のHLA−A2(A*0201)結合ペプチドを結合親和性の高い順に示している(表1)。HLA−A2(A*0201)結合能を有する可能性のある合計20種のペプチドを選択した。
【0126】
(表1)IMP−3由来のHLA−A2(A*0201)結合ペプチド
【0127】
HLA−A2トランスジェニックマウスを用いたIMP−3反応性およびHLA−A2拘束性のCTLの誘導
どのペプチドがペプチド反応性の細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導し得るかを検討するために、9merペプチドによる免疫処置を2回行ったHLA−A2(A*0201)トランスジェニック(Tg)マウス由来のCD4−脾細胞を、材料および方法の項に記載した通りにインビトロで刺激した。IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドで刺激したCD4−脾細胞は、コグネイトペプチドでパルス刺激した同系BM−DCに対して応答してIFN−γを産生することが発見された。BM−DCのみに対するIFN−γ産生と比較して、これらのCD4−脾細胞は抗原提示細胞を認識し、IFN−γを産生した(P<0.05)(図1)。これらの結果により、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドが、HLA−A2 Tgマウスにおいて強力なIFN−γ産生活性を有するCTLを誘導し得ることが示された。
【0128】
IMP−3反応性およびHLA−A2拘束性のヒトCTLの誘導
IMP−3反応性CTLを、HLA−A2(A*0201)陽性健常ドナー1のPBMCから、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドによるPBMCの刺激によって生成させた。ペプチドパルス刺激したT2細胞に対するIFN−γの産生を、IFN−γ ELISPOTアッセイによって調べた。これらのCTLは、コグネイトIMP−3ペプチドでパルス刺激したT2細胞に対して、無関係なHIVペプチドパルスで刺激したT2細胞と比較して有意差を伴う(P<0.05)、強いIFN−γ産生を示した(図2)。これらの結果は、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドが、これらのペプチドに対して特異的なヒトCTLを誘導することができたことを示している。さらに、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチド特異的なCTLの細胞表面上のCD107aの表出を、細胞溶解活性を調べるために分析した。CTLをIMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチドで刺激して、抗CD107a mAbまたは対照としてのマウスIgGで染色した(図3A)。無関係なHIVペプチドで刺激したCTLも、抗CD107a mAbで染色した(右のパネル)。CD8+/CD107a+細胞は、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチドによる刺激によって、全CD8+細胞のうち5.7%で検出された(左のパネル)。非特異的シグナルとして、マウスIgGによる染色が細胞の0.7%で検出され、CD8+/CD107a+細胞は陰性対照としてHIVペプチドで刺激した細胞の1.5%で検出された(中央および右のパネル)。CD107aは通常はCTLの細胞表面上に提示されず、活発な脱顆粒時にのみ表出されるため(Betts M et al., J Immunol Methods. 2003 Oct 1; 281(1-2):65-78)、この結果は、CTLがIMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチドおよびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)に対して応答して細胞傷害活性を示すことを示している。ペプチドパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性を51Cr放出アッセイによって調べた(図3B)。健常ドナーのPBMCから誘導されたCTLは、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)またはIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性を示したが、無関係なHIV−A2ペプチドでパルス刺激したT2細胞に対しては示さなかった。これらの結果は、これらのCTLがペプチド特異的な細胞傷害性を有することを示している。
【0129】
肺がん患者のPBMCからのIMP−3反応性およびHLA−A2拘束性のCTLの誘導
IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドによる刺激によって、HLA−A2(A*0201)陽性肺がん患者のPBMCからIMP−3特異的CTLを誘導した。図4Aにおいて、患者14および患者103と指定された肺がん患者由来のCTLは、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド(左のパネル)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチド(右のパネル)でパルス刺激したT2細胞に対するIFN−γ産生をそれぞれ示した。無関係なHIVペプチドでパルス刺激したT2細胞と比較して、それらはこれらのペプチドに対して特異的な強力なIFN−γ産生活性を有意に示した(*P<0.05)。患者4および患者3と指定された他の2人の肺がん患者のPBMCからのCTLは、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチド(左のパネル)およびIMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド(右のパネル)でパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性を示したが、無関係なHIVペプチドでパルス刺激したT2細胞に対する細胞傷害活性は示さなかったことが、51Cr放出アッセイにより判明した(図4B)。これらの結果は、健常ドナーのPBMCを用いた場合だけでなく、肺がん患者のPBMCを用いた場合にも、これらのペプチドがペプチドに対して特異的なCTLを誘導することを示している。
【0130】
IMP−3およびHLA−A2陽性のがん細胞株に対するCTLの細胞傷害活性
IMP−3およびHLA−A2(A*0201)の両方を発現するヒトがん細胞株を死滅させる能力を、51Cr放出アッセイによって調べた。図5Aに示されているように、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチド、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド、IMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドおよびIMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)による刺激によって健常ドナー2のPBMCから誘導されたCTLは、IMP−3およびHLA−A2(A*0201)の両方を発現するPANC−1に対する細胞傷害活性を示した。一方、それらは、HLA−A2(A*0201)を発現するがIMP−3は発現しないMCF7、またはIMP−3を発現するがHLA−A2(A*0201)は発現しないA549に対しては細胞傷害活性を示さなかった。さらに、患者14および患者4と指定された肺がん患者のPBMCから、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチド、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド、IMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドを有するペプチドによる刺激によって誘導されたCTLも、PANC−1(IMP−3+、HLA−A2+)に対する細胞傷害活性を示したが、MCF7(IMP−3−、HLA−A2+)およびA549(IMP−3+、HLA−A2−)に対する細胞傷害性は示さなかった(図5B)。IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)またはIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドによる刺激によって健常ドナーから生じたCTL株は、MCF7/IMP−3(IMP−3遺伝子をトランスフェクトしたMCF7細胞;HLA−A2+、IMP−3+)に対して細胞傷害性を示したが、MCF7細胞(HLA−A2+、IMP−3−)に対しては示さなかった(図5C)。IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)またはIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)のいずれかによる刺激によって健常ドナーから生じたCTL株は、SW620、SKHep1に対する細胞傷害活性を示したが、A549(HLA−A2−、IMP−3+)またはMCF7細胞(HLA−A2+、IMP−3−)に対しては示さなかった(図5D)。
【0131】
抗HLA−クラスIモノクローナル抗体によるCTL応答の阻害
誘導されたCTLが標的細胞をHLA−クラスI拘束的な様式で認識することを確かめるために、HLA−クラスI(W6/32、IgG2a)、HLA−DR(H−DR−1、IgG2a)に対するモノクローナル抗体、抗HLA−A2 mAb(BB7.2)をCTLの抗原特異的応答をブロックする目的で用いる阻害アッセイを行った。図6Aでは、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)ペプチド(左のパネル)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)ペプチド(中央のパネル)またはIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチド(右のパネル)による刺激によって肺がん患者14から生成させたCTLによるIFN−γ産生の阻害を、IFN−γ ELISPOTアッセイによって調べた。Lu99細胞に対するIFN−γ産生は、W6/32による処理によって有意に阻害されたが、H−DR−1による処理によっては阻害されなかった(*P<0.05)。これらの結果は、これらのCTLがIMP−3を発現する標的細胞をHLA−クラスI拘束的な様式で認識したことを明らかに示している。さらに、IFN−γ産生および細胞傷害性は、HLA−クラスIおよびHLA−A2に対するブロッキングmAbによって有意に阻害されたが、対照抗HLA−クラスII mAbによっては阻害されなかった(図6B〜D)。これらの結果は、これらのペプチドががん細胞においてIMP−3タンパク質から天然のプロセシングを受け、ペプチドで誘導されたCTLによって認識されるようにHLA−A2との関連において提示されたことを明らかに示している。
【0132】
IMP3抗原性ペプチドと他のタンパク質との間の相同性解析
IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドで刺激したCTLは、有意かつ特異的なCTL活性を示した。この結果は、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドの配列が、ヒト免疫系を感作させることが知られている他の分子に由来するペプチドと相同的であるという事実に起因する可能性がある。この可能性を否定するために、BLASTアルゴリズム(http://www.ncbi.nlm.nih.gov /blast/blast.cgi)に対するクエリーとして用いて、これらのペプチド配列に関する相同性解析を行ったところ、それらのペプチド配列に対する有意な相同性を有する配列は認められなかった。相同性解析の結果は、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドの配列は固有のものであること、およびそれ故に、本発明者らの知る限りでは、これらの分子が何らかの非関連分子に対して予期しない免疫学的応答を引き起こす可能性はほとんどないことを示している。
【0133】
結論として、IMP−3−199−207(SEQ ID NO:1)、IMP−3−552−560(SEQ ID NO:3)、IMP−3−26−34(SEQ ID NO:5)およびIMP−3−515−523(SEQ ID NO:6)ペプチドが、IMP−3に由来する新規なHLA−A2(A*0201)拘束性エピトープペプチドとして同定され、IMP−3を発現する腫瘍を有するHLA−A2(A*0201)陽性患者に対するがんワクチンとして適用可能であることが実証された。
【0134】
産業上の利用可能性
本発明は、新たなTAA、特に強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導するTAAを特定している。そのようなTAAは、がんにおけるペプチドワクチン接種戦略の臨床適用のさらなる開発を保証するものである。
本明細書において引用された特許、特許出願および刊行物はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
本発明を、その具体的な態様を参照しながら詳細に説明してきたが、前述の説明は例示的かつ説明的な性質のものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。定型的な実験を通じて、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および改変をそこに加えることができることを容易に認識するであろう。したがって、本発明は上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの同等物によって規定されるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド。
【請求項2】
1個、2個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチドであって、さらに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有するオリゴペプチド。
【請求項3】
以下の特徴の一方または両方を有する、請求項2記載のオリゴペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって、CTL誘導能を有する抗原提示細胞を誘導するための方法。
【請求項6】
以下からなる群より選択される段階を含む、請求項5記載の方法:
(a)抗原提示細胞を請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドと接触させる段階、および
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを抗原提示細胞に導入する段階。
【請求項7】
抗原提示細胞が少なくとも1種のHLA−A2抗原をその表面上に発現する、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって、CTLを誘導するための方法。
【請求項9】
以下からなる群より選択される段階を含む、 請求項8記載の方法:
(a)CD8陽性T細胞を、請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
(b)細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合するT細胞受容体(TCR)サブユニットを形成することができるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階。
【請求項10】
HLA抗原がHLA−A2である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを標的とする、単離されたCTL。
【請求項12】
細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、請求項11記載のCTL。
【請求項13】
HLA抗原がHLA−A2である、請求項12記載のCTL。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって誘導される、単離されたCTL。
【請求項15】
請求項8〜10のいずれか一項記載の方法によって誘導される、請求項14記載のCTL。
【請求項16】
その表面上に、HLA抗原と請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとの複合体を提示する、単離された抗原提示細胞。
【請求項17】
HLA抗原がHLA−A2である、請求項16記載の抗原提示細胞。
【請求項18】
請求項5〜7のいずれか一項記載の方法によって誘導される、請求項16または17記載の抗原提示細胞。
【請求項19】
対象におけるがんに対する免疫応答を誘導する方法であって、以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む方法:
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種もしくは複数種のポリヌクレオチド;
(c)請求項11〜15のいずれか一項記載の1種または複数種の単離されたCTL;および
(d)請求項16または18記載の1種または複数種の単離された抗原提示細胞。
【請求項20】
前記対象がHLA−A2陽性である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
がんの治療および/もしくは予防のためならびに/またはその術後再発の予防のための薬剤であって、薬学的に許容される担体と以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分とを含む薬剤:
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載の少なくとも1種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する1種または複数種の抗原提示細胞;および
(d)細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、1種または複数種のCTL。
【請求項22】
CTLを誘導するための薬剤であって、薬学的に許容される担体と以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分とを含む薬剤:
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載の少なくとも1種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する1種または複数種の抗原提示細胞。
【請求項23】
HLA−A2陽性である対象への投与のために製剤化される、請求項21または22記載の薬剤。
【請求項24】
ワクチンである、請求項21〜23のいずれか一項記載の薬剤。
【請求項25】
がんを治療するための薬学的な組成物または剤の製造における、以下からなる群より選択される有効成分の使用:
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1種または複数種のオリゴペプチド;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを発現可能な形態でコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する1種または複数種の抗原提示細胞;および
(d)細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、1種または複数種のCTL。
【請求項26】
薬学的な組成物または剤が、HLA−A2陽性である対象への投与のために製剤化される、請求項25記載の使用。
【請求項27】
HLA−A2陽性である対象におけるがんの治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後再発の予防に用いるための、SEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド。
【請求項28】
HLA−A2陽性である対象におけるがんの治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後再発の予防に用いるための、1個、2個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチドであって、さらに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有するオリゴペプチド。
【請求項29】
以下の特徴の一方または両方を有する、請求項28記載のオリゴペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである。
【請求項1】
SEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド。
【請求項2】
1個、2個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチドであって、さらに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有するオリゴペプチド。
【請求項3】
以下の特徴の一方または両方を有する、請求項2記載のオリゴペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載のペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって、CTL誘導能を有する抗原提示細胞を誘導するための方法。
【請求項6】
以下からなる群より選択される段階を含む、請求項5記載の方法:
(a)抗原提示細胞を請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドと接触させる段階、および
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを抗原提示細胞に導入する段階。
【請求項7】
抗原提示細胞が少なくとも1種のHLA−A2抗原をその表面上に発現する、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって、CTLを誘導するための方法。
【請求項9】
以下からなる群より選択される段階を含む、 請求項8記載の方法:
(a)CD8陽性T細胞を、請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
(b)細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合するT細胞受容体(TCR)サブユニットを形成することができるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階。
【請求項10】
HLA抗原がHLA−A2である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを標的とする、単離されたCTL。
【請求項12】
細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、請求項11記載のCTL。
【請求項13】
HLA抗原がHLA−A2である、請求項12記載のCTL。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって誘導される、単離されたCTL。
【請求項15】
請求項8〜10のいずれか一項記載の方法によって誘導される、請求項14記載のCTL。
【請求項16】
その表面上に、HLA抗原と請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとの複合体を提示する、単離された抗原提示細胞。
【請求項17】
HLA抗原がHLA−A2である、請求項16記載の抗原提示細胞。
【請求項18】
請求項5〜7のいずれか一項記載の方法によって誘導される、請求項16または17記載の抗原提示細胞。
【請求項19】
対象におけるがんに対する免疫応答を誘導する方法であって、以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む方法:
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種もしくは複数種のポリヌクレオチド;
(c)請求項11〜15のいずれか一項記載の1種または複数種の単離されたCTL;および
(d)請求項16または18記載の1種または複数種の単離された抗原提示細胞。
【請求項20】
前記対象がHLA−A2陽性である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
がんの治療および/もしくは予防のためならびに/またはその術後再発の予防のための薬剤であって、薬学的に許容される担体と以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分とを含む薬剤:
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載の少なくとも1種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する1種または複数種の抗原提示細胞;および
(d)細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、1種または複数種のCTL。
【請求項22】
CTLを誘導するための薬剤であって、薬学的に許容される担体と以下からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分とを含む薬剤:
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1種もしくは複数種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載の少なくとも1種のオリゴペプチドまたはその免疫学的活性断片をコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する1種または複数種の抗原提示細胞。
【請求項23】
HLA−A2陽性である対象への投与のために製剤化される、請求項21または22記載の薬剤。
【請求項24】
ワクチンである、請求項21〜23のいずれか一項記載の薬剤。
【請求項25】
がんを治療するための薬学的な組成物または剤の製造における、以下からなる群より選択される有効成分の使用:
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1種または複数種のオリゴペプチド;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを発現可能な形態でコードする1種または複数種のポリヌクレオチド;
(c)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体をその表面上に提示する1種または複数種の抗原提示細胞;および
(d)細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体と結合することができる、1種または複数種のCTL。
【請求項26】
薬学的な組成物または剤が、HLA−A2陽性である対象への投与のために製剤化される、請求項25記載の使用。
【請求項27】
HLA−A2陽性である対象におけるがんの治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後再発の予防に用いるための、SEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド。
【請求項28】
HLA−A2陽性である対象におけるがんの治療および/もしくは予防ならびに/またはその術後再発の予防に用いるための、1個、2個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたSEQ ID NO:1、3、5、および6からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチドであって、さらに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有するオリゴペプチド。
【請求項29】
以下の特徴の一方または両方を有する、請求項28記載のオリゴペプチド:
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【公表番号】特表2013−511958(P2013−511958A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524961(P2012−524961)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【国際出願番号】PCT/JP2010/006966
【国際公開番号】WO2011/067920
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【国際出願番号】PCT/JP2010/006966
【国際公開番号】WO2011/067920
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]