説明

IPMモータ用ロータとIPMモータ

【課題】分割磁石の有する小さな磁束通過面積を保証することで渦損失を効果的に低減することのできるIPMモータ用ロータとこのロータを具備するIPMモータを提供する。
【解決手段】ロータ1において、2つの磁石用スロット1b、1bが略Vの字状に開設され、各磁石用スロット1bに磁石が配設されて一極を成し、これがロータ1の周方向に間隔をおいて形成されてなるIPMモータ用ロータであって、磁石用スロット1bは平面視でロータ中心1c側に凸の略湾曲状を呈し、該磁石用スロット1b内に複数の分割磁石2,…が配設され、隣接する分割磁石2,2同士が平面視でロータ側面1a側の一点1b’のみで接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPMモータ用ロータとこのロータを備えたIPMモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータをはじめとする各種のモータの中で、ロータコア内部に複数の永久磁石が埋め込まれてなる永久磁石埋込型のロータを具備するモータ(以下、IPMモータという)はよく知られるところであり、例えば、ハイブリット自動車や電気自動車用の駆動モータにはこのIPMモータが使用されている。
【0003】
ところで、ステータティースには巻線が集中巻き若しくは分布巻きされることによってコイルが形成されており、コイルに電流を印加することによって磁束を生じさせ、永久磁石による磁束との間でマグネットトルクおよびリラクタンストルクを発生させている。この分布巻きコイルの場合には、集中巻きコイルの場合に比して磁極数も多くなり、したがって、ロータ回転時にティース側からロータの永久磁石に入ってくる磁束(または磁束の変化)は相対的に連続性がある。そのため、ロータ回転時の磁束密度の変化は相対的に少ない。それに対し、集中巻きコイルの場合には、磁束密度の変化が相対的に大きくなることから永久磁石には渦電流が生じ易く、渦電流の発生によって永久磁石は発熱し、不可逆な熱減磁が招来されることで永久磁石自体の磁気特性が低下することとなる。
【0004】
近時のハイブリッド自動車や電気自動車で使用される駆動用モータに関して言えば、モータの出力性能アップが追求されている中でたとえばその回転数や極数の増加が図られており、この回転数の増加等によって磁石に作用する磁界の変動率が大きくなり、その結果として上記渦電流が発生し易く、発熱によって齎される磁石の熱減磁によってモータ性能が逆に低下し、モータの耐久性の低下に繋がるといった課題が生じている。
【0005】
上記する渦電流の発生およびそれに起因する熱減磁の招来を防止するために、IPMモータにおいては、該永久磁石を複数の分割ピースから形成しておき、この分割ピースを束ねて磁石用スロットに挿入設置する方策が講じられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記する分割ピースは、各分割ピースを別体で製造するか、永久磁石が挿入されるべき磁石用スロットの内空形状および内空寸法に成形された永久磁石を複数の分割片に機械加工(切断)する方法でおこなわれるものである。製造効率や製造コストの観点からすれば、後者の加工方法でおこなわれるのが一般的といえる。この機械加工では、たとえば超鋼円盤の外周側にダイヤモンドチップを付着させた高価な切断刃具が必要であるが、この切断刃具は消耗品であることから定期的な交換が必須であること、分割数の増大に伴って刃具交換頻度が増すこと、などにより、メンテナンス手間と製造コストの高騰が大きな問題となっている。また、切断刃具の厚み相当の磁石材料が切断時に刃具の押し込みで取り除かれるため、材料歩留まりが低下するといった課題も有している。
【0007】
さらに、上記機械加工によって永久磁石を切断する方法は次のような問題を抱えている。すなわち、永久磁石であるネオジム磁石等の希土類磁石やフェライト磁石は、磁化に寄与する主相と、保磁力に寄与する粒界相からなる金属組織を有している。この永久磁石を機械加工によって切断しながら分割すると、この切断時の切断ラインが金属組織の主相を往々にして切断することから、切断された主相は切断前に比して小サイズとなり、このことは切断前に比して残留磁束密度を低下させる原因となる。さらに、粒界相は、これが被覆する主相に対して保磁力を発現するものであるが、切断面に接する主相には粒界相の被覆が破られているために外部磁場に対して容易に磁化反転を起こし易くなり、この磁化反転相が起点となって磁石全体の保磁力を低下させることになる。
【0008】
そこで、機械加工ではなく、永久磁石を割断することで分割磁石(割断磁石)を製造する方法が特許文献2に開示されている。ここで開示される分割磁石は、永久磁石を割断し、これを復元して磁石用スロット内に挿入されるものである。
【0009】
ところで、上記する機械切断されてなる分割磁石であれ、割断されてなる分割磁石であれ、隣接する分割磁石の切断面同士もしくは割断面同士を密着させた姿勢でこれが磁石用スロット内に配設されることから、分割にて磁束通過面積を小さくしたはずの磁石面積が分割前と同程度となり易く、分割による渦損失低減効果が十分に得られていないことが本発明者等によって特定されている。
【0010】
そしてこの問題は、上記する割断磁石の場合に、割断された分割磁石同士の割断面が3次元的に嵌め合いされて密着することからより顕著であることもまた本発明者等によって特定されている。
【0011】
上記課題に対して、特許文献3に開示されるロータ構造を適用することで、分割磁石同士の分割面を当接させない構造とすることができる。この特許文献3に開示されるロータ構造は、一極あたり一つの平面視が凹字形のロータスロット内に3つの分割磁石を配設するものであり、ロータスロットが凹字形ゆえに、隣接する分割磁石同士が分割面で当接するのを解消することができる。ただし、この特許文献3に開示のロータはコギングトルクの低減をその課題として掲げるものであり、上記する永久磁石に生じる渦損失低減を課題に掲げ、この課題を解決する手段として発案されたものではない。
【0012】
さらに、上記特許文献1〜3に開示のロータはいずれも、一極当たり一つのロータスロット内に磁石が配設されるものである。したがって、2つの磁石用スロットが略Vの字状に開設され、各磁石用スロットに磁石が配設されて一極を成し、これがロータの周方向に間隔をおいて形成されてなるIPMモータ用のロータとはその構造を異にするものであり、これらの文献に開示の技術をこの形態のロータに適用できるか否かは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−4555号公報
【特許文献2】特開2009−33958号公報
【特許文献3】特開2002−223538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、2つの磁石用スロットが略Vの字状に開設され、各磁石用スロットに磁石が配設されて一極を成し、これがロータの周方向に間隔をおいて形成されてなるIPMモータ用のロータに関し、各スロット内に挿入される分割磁石同士の分割面もしくは割断面がその全面で密着するのを解消でき、もって分割磁石の有する小さな磁束通過面積を保証することで渦損失を効果的に低減することのできるIPMモータ用ロータとこのロータを具備するIPMモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成すべく、本発明によるIPMモータ用ロータは、ロータにおいて、2つの磁石用スロットが略Vの字状に開設され、各磁石用スロットに磁石が配設されて一極を成し、これがロータの周方向に間隔をおいて形成されてなるIPMモータ用ロータであって、前記磁石用スロットは平面視でロータ中心側に凸の略湾曲状を呈し、該磁石用スロット内に複数の分割磁石が配設され、隣接する分割磁石同士が平面視でロータ側面側の一点のみで接しているものである。
【0016】
本発明のIPMモータ用ロータは、略Vの字状に開設された2つの磁石用スロット内のそれぞれに分割磁石(割断磁石を含む)が配設されて一つの磁極を形成するロータを対象としており、各スロットが平面視でロータ中心側に凸の略湾曲状を呈していることで、隣接する分割磁石同士を平面視でロータ側面側の一点のみで接するものとし、分割面の全面で密着するのを解消することのできるロータである。一つの磁極が略Vの字状に開設された2つの磁石用スロットのそれぞれに配設された複数の分割磁石から構成されることで、ステータ側からロータに入る磁束のスムースな流れが保証され、一極当たり一つの磁石用スロット内に複数の分割磁石が配設されたロータ構造に比してトルク性能は向上する。
【0017】
上記磁石用スロットの一つの形状形態として、上記略湾曲状を、平面視で相互に傾斜する少なくとも2つの直線区間から形成し、平面視で各直線区間の直線長さを有する分割磁石(割断磁石を含む)が対応する直線区間のスロット内に配設されることにより、隣接する分割磁石同士が平面視でロータ側面側の一点のみで接するのを保証することができる。たとえば、相互に傾斜する2つの直線区間から一つのスロットが形成される場合は、2つの分割磁石が略Vの字を成す2つの磁石用スロットのそれぞれに配設され、相互に傾斜する3つの直線区間から一つのスロットが形成される場合は、3つの分割磁石がそれぞれのスロットに配設される。
【0018】
ここで、本発明のロータ内に配設される磁石(永久磁石)は、希土類磁石やフェライト磁石、アルニコ磁石等を包含するものである。また、ここでいう「永久磁石」とは、着磁後の前記希土類磁石等のほかに、着磁前の焼結体やただの圧粉体をも含む意味である。希土類磁石としては、ネオジムに鉄とボロンを加えた3成分系のネオジム磁石、サマリウムとコバルトとの2成分系の合金からなるサマリウムコバルト磁石、サマリウム鉄窒素磁石、プラセオジム磁石などを挙げることができる。中でも、希土類磁石はフェライト磁石やアルニコ磁石に比して最大エネルギー積(BH)maxが高いことから、高出力が要求されるハイブリッド自動車等の駆動用モータへの適用に好適である。
【0019】
上記する磁石用スロットが平面視でロータ中心側に凸の略湾曲状を呈していることから、このスロット内に分割磁石を配設した際には、隣接する分割磁石同士はロータ側面側で接するとともに、ここからロータ中心側に向かって相互の離間が大きくなり、全体として平面視で略三角形のギャップが形成される。このギャップは、エアギャップのままとしておいてもよいし、このギャップに絶縁樹脂を充填してもよい。特に後者の場合は、硬化した絶縁樹脂によってそれぞれの分割磁石の姿勢をより堅固に固定することが可能となる。
【0020】
また、分割磁石が割断磁石の場合には、この割断磁石は、たとえば一つの磁石の一側面に所定数のノッチを設けておいてこのノッチを割断起点として割断等することから、ノッチのない磁石の他方側にできる割断ラインは往々にして成り行きで形成されることになる。すなわち、割断されてできた一方の割断磁石は磁石の他方面側の幅が広く、割断されてできた他方の割断磁石は磁石の他方面側の幅が狭くなり易い。
【0021】
このようにノッチ等の割断起点のない磁石の他方面側の幅が広くなるように割断された割断磁石が製造された場合でも、この幅広側の側面を上記する略三角形のギャップ内に収めることができるため、特に割断磁石の場合に上記する本発明のロータを構成する磁石用スロット形状は有効である。さらに、割断磁石の場合には、隣接する割断磁石同士が密着してなる磁石の接触抵抗は機械切断による分割磁石同士が密着してなる磁石のそれに比して低くなり、したがって、割断磁石同士が密着することで渦損失が大きくなり易いことからも、分割磁石が割断磁石の場合に本発明のロータ構造は好適である。
【0022】
また、本発明によるIPMモータ用ロータの好ましい実施の形態は、隣接する分割磁石同士が接している前記一点を中心として、双方の分割磁石間の角度が9度以上に調整されているものである。
【0023】
本発明者等は、隣接する分割磁石間の角度、すなわち、上記する略三角形のギャップの中心角を種々変化させて解析モデルをコンピュータ内で作成し、磁場解析を実施して最適な分割磁石間の角度を検証した。その結果、従来構造の分割磁石がスロット内に配設されてなる比較例に対して、磁石間の絶縁を保証しながら渦損失低減効果が顕著に現れる分割磁石間の角度として9度以上であることを特定している。
【0024】
さらに、本発明によるIPMモータ用ロータの好ましい実施の形態は、前記分割磁石のロータ軸方向の高さが該分割磁石のロータ周方向の幅よりも長いものである。
【0025】
たとえば長方形の磁石の側面を磁束が通過することで生じる渦損失の大小は、この側面の短辺の大小によって決定される。そこで、上記する平面視がロータ中心側に凸の略湾曲状を呈している磁石用スロットに2以上の分割磁石を挿入するに当たっては、分割磁石のロータ軸方向の高さが該分割磁石のロータ周方向の幅よりも長くなるように設計しておくことで、より大きな渦損失低減効果を期待することができる。
【0026】
さらに、本発明は上記するロータと、該ロータの周囲に配設されるステータとからなるIPMモータにも及ぶものである。上記するロータを適用することで磁石に生じ得る渦損失が効果的に低減できることより、このロータを具備するIPMモータはそのトルク性能や回転性能が向上する。よって、このIPMモータは、近時その生産が拡大しており、搭載機器に高性能を要求するハイブリッド自動車や電気自動車のたとえば駆動用モータに好適である。
【発明の効果】
【0027】
以上の説明から理解できるように、本発明のIPMモータ用ロータとこれを具備するIPMモータによれば、2つの磁石用スロットが略Vの字状に開設され、各磁石用スロットに磁石が配設されて一極を成し、これがロータの周方向に間隔をおいて形成されてなるIPMモータ用ロータに関し、この磁石用スロットが平面視でロータ中心側に凸の略湾曲状を呈し、磁石用スロット内に複数の分割磁石が配設され、隣接する分割磁石同士が平面視でロータ側面側の一点のみで接していることにより、磁石に生じ得る渦損失を効果的に低減することができ、もって、トルク性能と回転性能に優れたIPMモータに供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のIPMモータ用ロータを部分的に示した平面図である。
【図2】(a)は磁石用スロットを拡大した平面図であり、(b)は分割磁石を示す斜視図である。
【図3】(a)は割断前の磁石を示す斜視図であり、(b)は割断磁石を示す斜視図である。
【図4】図3bで示す割断磁石が磁石用スロット内に配設された状態を示す平面図である。
【図5】磁場解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示するIPMモータ用ロータは、略Vの字状の2つの磁石用スロットとそれぞれの磁石用スロット内に配設された分割磁石からなる一つの磁極のみを取り出して示しているが、この磁極がロータの周方向に間隔をおいて所望する磁極数配設されていることは勿論のことである。
【0030】
図1は、本発明のIPMモータ用ロータを部分的に示した平面図であり、図2aは磁石用スロットを拡大した平面図であり、図2bは分割磁石を示す斜視図である。
【0031】
図1で示すIPMモータは、平面視が略環状のヨークと、該ヨークから径方向内側に突出するティースとからなり、電磁鋼板が積層されて形成されているステータ4と、ティース周りに巻装されたコイル5と、ステータ4の内側に回転自在に配設され、円盤状の電磁鋼板,…が積層されてなるロータ1とから大略構成されている。
【0032】
このロータ1には、そのロータ中心1cに駆動シャフトスロットが開設されており、その周縁部には、該ロータ中心1cに沿う方向に延びる磁石用スロット1bが所定の磁極数だけ開設されており、この磁石用スロット1bに複数の分割磁石2,…が挿入されている。
【0033】
この分割磁石は、希土類磁石やフェライト磁石、アルニコ磁石等の永久磁石からなり、この希土類磁石としては、ネオジムに鉄とボロンを加えた3成分系のネオジム磁石、サマリウムとコバルトとの2成分系の合金からなるサマリウムコバルト磁石、サマリウム鉄窒素磁石、プラセオジム磁石などのいずれか一種を適用できる。
【0034】
ここで、ロータ1に設けられる一つの磁極は、2つの磁石用スロット1b、1bが略Vの字状に開設され、各磁石用スロット1b、1bのそれぞれに図示例では3つの分割磁石2,…が配設されて構成されている。一つの磁極が略Vの字状に開設された2つの磁石用スロット1b、1bのそれぞれに配設された複数の分割磁石2,…から構成されることで、ステータ4側からロータ1に入る磁束のスムースな流れXが保証され、一極当たり一つの磁石用スロット内に複数の分割磁石が配設されたロータ構造に比してトルク性能を向上させることができる。
【0035】
そして、略Vの字状をなす2つの磁石用スロット1b、1bはいずれも、従来一般の平面視が直線状で矩形のものとは異なり、平面視でロータ中心1c側に凸の略湾曲状を呈していて、隣接する分割磁石2,2同士は、平面視でロータ側面1a側の一点1b’のみで接するものとなっており、分割磁石2,2同士が分割面の全面で密着する構造とはなっていない。
【0036】
図示例では、上記略湾曲状を平面視で相互に傾斜する3つの直線区間1b1,1b2,1b3から形成し、平面視で各直線区間の直線長さ(ともに長さt1)を有する分割磁石2が対応する直線区間のスロット内に配設されることにより、隣接する分割磁石2,2同士が平面視でロータ側面側の一点1b’のみで接するのを保証するようになっている。なお、この直線区間は相互に長さが異なるものであってもよいし、図示例のように相互に傾斜する3つの直線区間からなる磁石用スロット以外にも、相互に傾斜する2つの直線区間からなる磁石用スロットや、相互に傾斜する4以上の直線区間からなる磁石用スロット、さらには、湾曲状の磁石用スロットなど、その平面形状は多様に存在する。中でも、図示例のように相互に傾斜する複数の直線区間からなる磁石用スロットの場合には、各直線区間の長さおよび寸法に応じた分割磁石を挿入することで自動的に各分割磁石のスロット内固定が保証され、かつ上記するロータ側面側での一点接触を保証することができる。
【0037】
各磁石用スロット1b内に挿入される分割磁石2,2同士の分割面がその全面で密着することが解消され、もって分割磁石2の有する小さな磁束通過面積を保証することで渦損失を効果的に低減することができる。
【0038】
磁石用スロット1bの各直線区間1b1,1b2,1b3のそれぞれに分割磁石2,2,2を挿入すると、分割磁石2,2間には自ずと略三角形状のギャップ(図2aの斜線で示す絶縁領域R)が形成され、分割磁石2,2の接点1b’を中心として角度θで各直線区間1b1,1b2,1b3が相互に傾斜している。
【0039】
このギャップは、何も充填せずにエアギャップとしてもよいが、図示例のようにギャップ内に絶縁樹脂3を充填硬化することで、分割磁石2のスロット内固定がより堅固となり、ロータ回転時における分割磁石2のずれや分割磁石2,2同士がぶつかることによる騒音等の問題を解消することができる。
【0040】
なお、磁石用スロット1bの両端部の湾曲した張り出し領域は、ここに絶縁樹脂が充填硬化されることにより、分割磁石からの漏れ磁束を低減することと分割磁石を端部から固定するためのスロット領域である。
【0041】
また、磁石用スロット1bに挿入される分割磁石2は、図2bで示すように、そのロータ軸方向の高さt2が分割磁石2のロータ周方向の幅t1よりも長くなっており、磁束Jが通過する磁石側面Aにおいて、生じ得る渦損失の大小が該磁石面積Aの短辺長さt1で規定されることになる。
【0042】
次に、分割磁石が割断磁石からなる場合について説明する。
【0043】
既述するように、割断磁石を適用することにより、永久磁石片を機械切断して分割磁石を製造する場合のように、切断刃具の厚み相当の磁石材料が切断時に刃具の押し込みで取り除かれて材料歩留まりが低下するといった課題や、切断刃具がメンテナンスを要するといった課題も解消される。さらに、磁石の金属組織を構成する主相を切断するといった課題も生じ得ないことから、このことによって残留磁束密度が低下することもないし、主相を被覆して保磁力発現に寄与する粒界相が切断刃具にて破られることもないことから、外部磁場に対する磁化反転が起こり易くなることもなく、磁石全体の保磁力を低下させることもないといった多くのメリットを奏するものである。
【0044】
図3には、割断磁石の製造方法の一例を模擬している。割断磁石の製造方法も多岐に亘り、永久磁石片の一側面に対してレーザーを照射する方法や、図3aで示すように割断前の磁石片2’の一側面に所定数のノッチ2’aを設けておき、このノッチ2’aを割断起点として該磁石片2’に曲げを付与しながら割断する方法などがある。
【0045】
図示する2条のノッチ2’a、2’aは磁石片2’を3等分する位置に設けられているが、このノッチ2’aを割断起点として該磁石片2’を割断することにより、磁石片2’の内部には成り行きで割断ラインが形成され、ノッチのない側面2’bに臨む割断ラインは、図3bで示すように一般に3等分になることはなく、幅がs1、s2、s3で共に異なるように割断され、全体寸法や形状が異なる3つの割断磁石2a,2b,2cが製造される。
【0046】
図4は、この3つの割断磁石2a,2b,2cを磁石用スロット1b内に配設した状態を示したものである。
【0047】
同図からも明らかなように、平面視で略台形に形成された割断磁石2bは、ノッチのない側面の幅がs2と広幅となっているが、磁石用スロット1bの折れ点付近に略三角形の絶縁領域Rを有することから、これが幅s2を収容するバッファー領域となる。すなわち、往々にして成り行きでその形状や寸法が形成される割断磁石においても、図示形状の磁石用スロット1bを適用することでスムースに割断磁石の配設をおこなうことができる。
【0048】
[磁場解析とその結果]
本発明者等は、コンピュータ内で本発明のロータ構造(実施例1,2,3)と従来のロータ構造(比較例)をモデル化し、磁場解析をおこなって本発明のロータ構造を適用した際の分割磁石の損失(渦損失)低減効果を確認した。
【0049】
ここで、ロータモデルは、2つの磁石用スロットが略Vの字状に開設されて各磁石用スロットに3つの分割磁石が配設されて一極を成し、これが所定数設けられたロータモデルである。そして、解析条件として、ロータの回転数を10000rpm、833.33Hzで±106.07Aの電流を通電した。また、分割磁石の電気抵抗は1.35×10−6Ωm、分割磁石間の接触電気抵抗は1.91×10−5Ωm、絶縁樹脂の電気抵抗は5.34×10−2Ωmとし、分割磁石には周波数が2500Hz,磁束密度が±0.073Tの磁界を印加した。解析結果を図5に示している。
【0050】
図5において、比較例は角度θが0度のものであり、実施例1の角度θは9度、実施例2の角度θは18度、実施例3の角度θは27度である。比較例モデルでは、分割磁石同士が分割面の全面で相互に密着している。なお、分割磁石同士が完全に絶縁されている際の損失密度は350W/kgである。
【0051】
同グラフより、比較例の最大損失密度が1983W/kgであるのに対して、実施例1の最大損失密度は456W/kg、実施例2は407W/kg、実施例3は352W/kgとなり、実施例1の角度9度を変曲点として角度9度以上で極めて大きな損失低減効果が得られることが実証されている。ちなみに、実施例1の損失は比較例の23%程度にまで低減している。
【0052】
この解析結果より、図2で示す磁石用スロット内における分割磁石間の角度を9度以上に調整することで、分割磁石において極めて高い渦損失低減効果が奏されることとなり、このロータを具備するIPMモータとすることで、そのトルク性能と回転性能を大きく向上させることができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
1…ロータ、1a…ロータ側面、1b…磁石用スロット、1c…ロータ軸(ロータ中心)、2…分割磁石、2a,2b,2c…割断磁石、2’…割断前の磁石片、2’a…ノッチ、2’b…ノッチのない側面、3…絶縁樹脂、4…ステータ、5…コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータにおいて、2つの磁石用スロットが略Vの字状に開設され、各磁石用スロットに磁石が配設されて一極を成し、これがロータの周方向に間隔をおいて形成されてなるIPMモータ用ロータであって、
前記磁石用スロットは平面視でロータ中心側に凸の略湾曲状を呈し、該磁石用スロット内に複数の分割磁石が配設され、隣接する分割磁石同士が平面視でロータ側面側の一点のみで接しているIPMモータ用ロータ。
【請求項2】
複数の前記分割磁石が一つの磁石を割断してなる割断磁石からなる請求項1に記載のIPMモータ用ロータ。
【請求項3】
隣接する分割磁石同士が接している前記一点を中心として、双方の分割磁石間の角度が9度以上に調整されている請求項1または2に記載のIPMモータ用ロータ。
【請求項4】
前記分割磁石のロータ軸方向の高さが該分割磁石のロータ周方向の幅よりも長い請求項1〜3のいずれかに記載のIPMモータ用ロータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のロータと、該ロータの周囲に配設されるステータとからなるIPMモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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