説明

IgMを使用する治療方法および予防方法

本発明は、免疫グロブリンM(IgM)が富化された免疫グロブリン調製物を投与することを含む、β-アミロイドポリペプチドに関連する疾患の治療または予防方法、ならびにかかる調製物を含む医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgMを使用する治療方法および予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドβ (Aβ) 1-42ペプチドは、アルツハイマー病の発症と進行における鍵となる要素の一つであると考えられている。アルツハイマー病におけるアミロイドβペプチドの正確な病原性の役割は未だに明確に確定されていないものの、蓄積されつつある証拠からは、脳におけるアミロイドβペプチドの産生と沈着がアルツハイマー病の原因となるイベントであるという仮説が支持されている。したがって、脳内でのアミロイドβペプチドの産生、蓄積およびクリアランスという問題が、アルツハイマー病治療の可能性のある合理的な方法の1つとして浮上してきた。
【0003】
静脈内IgG調製物がAβ 1-42アミロイドペプチドに特異的な抗体を含有することが最近見出された。また、2つの小規模なヒト臨床試験において、静脈内IgGがアルツハイマー病の進行を減速させることが見出された(非特許文献1および非特許文献2)。この効能におけるIgGの作用機序は未だに解明されていないが、本発明者らは、攻撃性のAβ 1-42ペプチドの単純な全身性の除去が静脈内IgGの効力の理由であり得ると推測した。
【0004】
免疫グロブリンM (IgM)は、ほとんどの動物の血清において3番目に高濃度で存在する免疫グロブリンである(総免疫グロブリンプールの約6〜10%)。ヒトにおけるIgMの正常血漿濃度は、男性については約0.6〜約2.5 mg/mLであり、女性については約0.7〜約2.8 mg/mLである。
【0005】
IgMは分子量950 kDaの19S分子であり、5個の同一の180 kDaサブユニットから構成されている。これらのサブユニットはそれぞれ、IgGの単量体と構造が類似しているが、ただしCHドメインを3個ではなく4個有する。IgM単量体同士はジスルフィド結合により環状になって連結して星形を形成し、J鎖(20 kDa)と呼ばれる小さなシステインに富んだポリペプチドがこの単位を2つ連結する(図1を参照)。IgM分子は原型を保って形質細胞により分泌され、したがってJ鎖はこの分子の不可欠な部分であると考えられる。IgMの血漿半減期は約5.1日である。
【0006】
IgMは、一次免疫応答において産生される免疫グロブリンの主要なアイソタイプである。IgMは二次免疫応答においても産生されるが、これはIgGの優位性によりマスキングされる傾向がある。IgMは相対的に少量で産生されるにせよ、その五量体構造ゆえにIgGと比較して補体活性化、オプソニン化、ウイルスの中和、および凝集について(モル濃度基準で)かなり効率が高い。血液型のA抗原およびB抗原を認識するヒト血清中の同種凝集素の大部分はIgMクラスのものである。したがって、精製時に何種かの特別な手法を利用して同種凝集素を除去し、調製物をA型およびB型の血液型に対してより適合性とすることができる。
【0007】
IgM含有免疫グロブリン調製物を用いる受動免疫法は、アミロイドペプチドに関連する障害または疾患の治療および/または予防において利点をもたらしうる。
【非特許文献1】Dodel, R.ら, “Intravenous immunoglobulin containing antibodies against b-amyloid for the treatment of Alzheimer's disease,” J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 75:1472-1474 (2004);
【非特許文献2】Dodel, R.ら, “Human antibodies against amyloid beta peptide: A potential treatment for Alzheimer's disease,” Ann. Neurol, 52:253-256 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の概要
本発明は、アミロイド関連疾患の治療または予防法(これらには、あらゆる臨床上有意な該疾患の症状の低減または該疾患の進行の遅延がそれぞれ含まれる)に関する。本発明はまた、かかる方法に有用な免疫グロブリン調製物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、ある態様では本発明は、β-アミロイドポリペプチドに関連する疾患の治療または予防方法であって、出発材料としてのプールされたヒト血漿サンプルから製造された免疫グロブリン調製物を投与することを含み、このとき免疫グロブリン調製物は免疫グロブリンM (IgM)が富化されている、前記方法に関する。免疫グロブリン調製物は、少なくとも約80%のIgMまたは少なくとも約90%のIgMを含みうる。免疫グロブリン調製物はAβ 1-42に特異的に結合するIgM抗体を含む。いくつかの実施形態では、β-アミロイドポリペプチドに関連する疾患は、慢性炎症性疾患、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、家族性アミロイドポリニューロパシー(ポルトガル)および心筋症(デンマーク)、全身性老人性アミロイド症、家族性アミロイドポリネフロパシー(アイオワ)、家族性アミロイド症(フィンランド)、ゲルストマン-ストラウスラー-シェインカー症候群、じんま疹と難聴を伴う家族性アミロイド腎症(マックル-ウェルズ症候群)、甲状腺の髄様癌、孤立性心房性アミロイド、および血液透析関連アミロイド症(HAA)、散発性大脳性アミロイド血管障害、遺伝性大脳性アミロイド血管障害、ダウン症、グアムのパーキンソン認知症、加齢性無症状性アミロイド血管障害、アミロイドーシスを伴う遺伝性大脳出血、またはアルツハイマー病である。β-アミロイドポリペプチドに関連する疾患は、アミロイド関連神経変性疾患であり得る。疾患はアルツハイマー病であり得る。
【0010】
一部の実施形態では、免疫グロブリン調製物は、約0.1μg/kg体重〜約1000 mg/kg体重の免疫グロブリンの用量にて投与されうる。免疫グロブリン調製物はまた、約0.5μg/kg体重〜約500 mg/kg体重、約0.5μg/kg体重〜約100 mg/kg体重、または約5μg/kg体重〜約50 mg/kg体重の用量にて投与されうる。
【0011】
別の態様では、本発明は、IgMを含む医薬組成物であって、該IgMの少なくとも一部はAβ 1-42に特異的に結合し、ここで該IgMが免疫グロブリンおよび他の物質を含む出発材料から以下の工程により調製することができる前記組成物に関する:出発材料のpHを調整して溶解した免疫グロブリンを含む中間溶液を形成する工程;工程a)の中間溶液を、免疫グロブリンを含む第1の上清および第1の沈殿物が形成されるようなpH、温度、およびカプリル酸濃度の条件に調整する工程;第1上清を第1沈殿物から分離する工程;免疫グロブリンを含む第2の上清および第2の沈殿物が形成されるような、時間、pH、温度およびカプリル酸濃度の条件下で前記第1上清をインキュベートする工程;第2の上清を第2の沈殿物から分離する工程;免疫グロブリンGもしくは免疫グロブリンMが第1のアニオン交換樹脂に実質的に全く結合しないが、免疫グロブリンAおよび他の物質が第1アニオン交換樹脂に結合するようなpHおよびイオン強度の条件下で、第2の上清を第1アニオン交換樹脂と接触させる工程;先の工程の結果物からの免疫グロブリンGおよび免疫グロブリンMを実質的に全て含む画分を分離する工程;免疫グロブリンGが第2のアニオン交換樹脂に実質的に全く結合しないが、免疫グロブリンMおよび他の物質が該第2樹脂に結合するようなpHおよびイオン強度の条件下で、免疫グロブリンGおよび免疫グロブリンMを第2アニオン交換樹脂と接触させる工程;少なくとも100 mMの塩化ナトリウム水溶液が有する範囲の伝導度を有するバッファー溶液を用いて、IgMを第2アニオン交換樹脂カラムから溶出させる工程;IgMをゲル濾過樹脂に適用し、IgMを回収する工程;IgMを、固定化された抗原AおよびBを含むアフィニティー樹脂に適用する工程、ならびにIgMを回収する工程。出発材料はプールされたヒト血液産物から誘導することができる。プールされたヒト血液産物は、その抗Aβ 免疫グロブリン力価を決定するためにスクリーニングされていないドナーから収集することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の実施形態の詳細な説明
本発明は、プールされたヒト血漿由来のIgM-含有免疫グロブリン調製物が、βアミロイドペプチドに特異的に結合するIgMを含むという知見に関する。特定の態様において、本発明は、アルツハイマー病を含む、アミロイド症に関連する疾患および障害の治療および/または予防に有用な免疫グロブリン調製物および方法を提供する。
【0013】
1以上の列挙された要素を「含む」組成物または方法は、具体的に挙げられていない他の要素も含みうる。例えば、IgMを含む組成物は他の種類の免疫グロブリンを含むことができ、かつその他のタンパク質性および非タンパク質性の物質を含むことができる。
【0014】
本明細書において用いる、「約」または「おおよそ」という用語は、ある値が、その種の値について科学的に許容される範囲に収まることができることを意味し、これはまた、利用可能な測定機具を前提として、どの程度定量的にその値を測定することができるかによる。
【0015】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、特にそうと断らない限り、本明細書において相互交換可能に使用される。
【0016】
アミロイド症に関連する疾患および障害
神経変性疾患または障害は、該疾患に冒された組織にまたはその近傍にアミロイド沈着またはアミロイドプラークが見られるか、または該疾患が不溶性であるまたは不溶性となりうるタンパク質(特にアミロイドタンパク質)の過剰産生を特徴とするとき、アミロイド症に関連するとされる。アミロイドプラークは、既知のまたは未知の機構により直接または間接的に病理学的影響を引き起こしうる。アミロイド疾患の例としては、限定するものではないが、全身性疾患、例えば慢性炎症性疾患、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、家族性アミロイドポリニューロパシー(ポルトガル)および心筋症(デンマーク)、全身性老人性アミロイド症、家族性アミロイドポリネフロパシー(アイオワ)、家族性アミロイド症(フィンランド)、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群、じんま疹および難聴を伴う家族性アミロイド腎症(マックル-ウェルズ症候群)、甲状腺の髄様癌、孤立性心房性アミロイド、および血液透析関連アミロイド症(HAA)、ならびにアミロイド関連神経変性疾患などが挙げられる。
【0017】
上記のように、全身性アミロイド症の他に、本発明は特にアミロイド症を伴う神経変性疾患に関する。「神経変性疾患」という用語は、特に脳に関わり、脳または神経機能障害に特徴的な症状(例えば、短期もしくは長期の記憶喪失もしくは障害、認知症、認知障害、バランスおよび協調問題、および感情および行動障害)を発症する、神経系の疾患または障害に関する。そのような疾患は、かかる症状を示す被験者からの脳組織の組織病理学的(生検)サンプルがアミロイドプラーク形成を示すときに「アミロイド症に関連」している。脳、特にヒトの脳からの生検サンプルは生きた被験体からは非常に取得しにくいかまたは全く入手することができないことから、神経変性疾患の1つの症状または複数の症状のアミロイド症との関連付けは多くの場合、生検サンプル中のアミロイド沈着の存在以外の基準に基づいて行われる。したがって、伝統的な診断は、特にアルツハイマー病(AD)については、症候学および適当であれば家族歴による。臨床診療では、臨床医は老人性認知症(これには認知機能不全、逆行性健忘症(最近の出来事の記憶の喪失)、遠い記憶の進行性の機能障害、および場合によりうつ病または他の神経症症候群が含まれる)の症状に基づいてADを診断する。個体は人格および知性の緩やかな崩壊を示す。造影からは、大脳皮質および他の脳領域からの大幅な細胞喪失が明らかになることがある。しかしながらADは発症の年齢が老人性認知症と異なる。すなわち、ADは50または60歳代に生じる傾向があり、これに対して老人性認知症は80歳代またはそれ以降に生じる。
【0018】
本発明の特定の実施形態によると、アミロイド症に関連する神経変性疾患はADであり、この症状には散発性AD、ApoE4-関連AD、ADの他の突然変異APP形態(例えば、APP717における突然変異、これはもっとも頻繁に見られるAPP突然変異である)、家族性AD(FAD)の突然変異PS1形態(WO 96/34099を参照)、FADの突然変異PS2形態(WO 97/27296を参照)、およびα-2-マクログロブリン-多型-関連ADが含まれる。他の実施形態では、疾患は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)におけるAPPのβAP部分のアミノ末端付近のKMからNLへの二重突然変異(Levy ら, Science 248:1124-26 (1990))を特徴とする希なスウェーデン疾患でありうる。別のそのような疾患はアミロイド症を伴う遺伝性の脳出血(HCHAまたはHCHWA)-オランダ型(Rozemuller ら, Am. J. Pathol. 142:1449-57 (1993); Roos ら, Ann. N.Y. Acad. Sci. 640:155-60 (1991); Timmers ら, Neurosci. Lett. 118:223-6 (1990); Haan ら, Arch. Neurol. 47:965-7 (1990))である。当技術分野で知られかつ本発明の範囲内にある他のそのような疾患としては、限定するものではないが、散発性の脳アミロイド血管障害、遺伝性の脳アミロイド血管障害、ダウン症、グアムのパーキンソン認知症および加齢性無症状性アミロイド血管障害(例えば、Haan and Roos、Clin. Neurol. Neurosurg. 92:305-310 (1990); Glenner and Murphy, N. Neurol. Sci. 94:1-28 (1989); Frangione, Ann. Med. 21:69-72 (1989); Haanら, Clin. Neuro. Neurosurg. 94:317-8 (1992); Fraserら, Biochem. 31:10716-23 (1992); Coriaら, Lab. Invest. 58:454-8 (1988)を参照されたい)が挙げられる。こうした各々の疾患に関連するβAP (β-アミロイドペプチド)の実際のアミノ酸組成および大きさは、当技術分野で知られているように、変化しうる(上記文献およびWisniewskiら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 179:1247-54 (1991)およびBiochem. Biophys. Res. Commun. 180:1528 (1991) [出版誤字]; Prelli ら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 170:301-307 (1990); Levy, ら, Science 248:1124-26 (1990)を参照されたい)。
【0019】
アミロイド
「アミロイド」、「アミロイドプラーク」および「アミロイド原線維」という用語は、一般的には、タンパク質またはその物質中に存在する他の分子の組成に独立な特定の物理的特性を有する不溶性タンパク質性物質をいう。アミロイドはそのアモルファス構造、好酸球染色、チオフラビン蛍光変化、および均一な概観から特定することができる。アミロイドのタンパク質またはペプチド成分を本明細書では「アミロイドポリペプチド」と呼び、これには限定するものではないが、Aβ最初の28、40、または42アミノ酸に対応する合成βAP(すなわち、それぞれAβ 1-28、Aβ 1-40、Aβ 1-42)、ならびにAβのアミノ酸25-35に対応する合成βAP(すなわち、Aβ 25-35)を含む、β-アミロイドペプチド(Aβ)などが挙げられる。他のアミロイドペプチドとしては、スクレーピータンパク質前駆体またはプリオンタンパク質(クロイツフェルト-ヤコブ病に関連する)、シヌクレイン(パーキンソン病に関連する)、ハンチントンのタンパク質(ハンチントン舞踏病と関連する)、骨髄腫により産生される免疫グロブリン(κもしくはλ軽鎖もしくは重鎖、またはその断片を含む)、血清アミロイドA、β2-ミクログロブリン、ApoA1; ゲルソリン、シスタチンC、(プロ)カルシトニン、心房性ナトリウム利尿因子、膵島アミロイドポリペプチド(別名アミリン)(Westermarkら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3881-85, 1987; Westermarkら, Am. J. Physiol. 127:414-417, 1987; Cooperら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:8628-32、1987; Cooperら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:7763-66, 1988; Amiel, Lancet 341:1249-50, 1993を参照されたい)などが挙げられる。特定の態様では、「アミロイド」という用語は、本明細書においてAβを含む物質に言及するときに用いる。「アミロイド症」は、アミロイドプラークまたは原線維を形成するタンパク質の生体内沈着または凝集をいう。
【0020】
42アミノ酸(4.2 kDa)β-アミロイドペプチド (Aβ 1-42またはβAP)は、より大きなアミロイドペプチド前駆体(APP)タンパク質のファミリーに由来する(Glenner and Wong, Biochem. Biophys. Res. Commun. 120:885-890 (1984); Glenner and Wong, Biochem. Biophys. Res. Commun. 122:1131-35 (1984); Goldgaberら, Science 235:8778-8780 (1987); Kangら, Nature 325:733-736 (1987); Robakisら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:4190-4194 (1987); Tanziら, Science 235:880-884 (1987))。APP 25は、多くのアイソフォームとして存在する膜貫通タンパク質であり、これらは一般に本明細書では全長APP (flAPP)という。さらに、α-セクレターゼの作用により形成されるAPPの可溶形態(sAPPα)もある。
【0021】
生物学的サンプル中の「Aβのレベル」は当技術分野で公知のどのような方法で検出してもよく、これには限定するものではないが、免疫アッセイ、生化学分析(例えば精製、ゲル電気泳動、定量アミノ酸配列分析または組成分析、コンゴレッドまたはチオフラビンT染色など)、またはAβを検出するその他の既知の方法が含まれる。特に、チオフラビンTを利用する蛍光法を用いて、凝集ペプチドを検出する。「生物学的サンプル」としては、体液(血液、血液細胞、血漿、血清、脳脊髄液、尿)、組織(例えば、脊髄、神経など)、または臓器(好ましくは脳だが、これに限らず肝臓、腎臓、膵臓なども含む)が挙げられるがこれに限らない。
【0022】
抗βアミロイド抗体についてのアッセイは当技術分野で既知の方法で行うことができ、これには例えば、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素連結免疫吸着アッセイ)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫放射定量アッセイ、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、in situイムノアッセイ(例えばコロイド状金、酵素または放射性同位体標識を使用)、ウェスタンブロット、沈降反応、凝集アッセイ(例えば、ゲル凝集アッセイ、赤血球凝集アッセイ)、補体結合アッセイ、免疫蛍光アッセイ、プロテインAアッセイ、および免疫電気泳動アッセイなどがある。ある実施形態では、抗体結合は一次抗体上の標識を検出することにより検出する。別の実施形態では、一次抗体への二次抗体または試薬の結合を検出することにより、該一次抗体を検出する。別の実施形態では、二次抗体が標識されている。免疫アッセイにおいて結合を検出する多くの手段が当技術分野で知られており、これらは本発明の範囲内にある。例えば、アミロイドペプチドのある特定のエピトープを認識する抗体を選択するためには、かかるエピトープを含むアミロイドペプチドフラグメントに結合する生成物について、作製されたハイブリドーマをアッセイすることができる。
【0023】
免疫グロブリン調製物
本発明は、提供され、プールされたヒト供給源から精製されたIgMがAβ 1-42ペプチドに対する特異性を示すという知見に関する。ある態様では、IgM含有免疫グロブリン調製物は、Lebingらの米国特許第6,307,028号に従い調製することができ、その全内容を参照により本明細書に組み入れる。
【0024】
Lebingらはアニオン交換クロマトグラフィー工程を含むIVIGの調製方法を開示しており、このときこの樹脂が出発材料の大部分のIgMを保持する。本発明においては、IgMをこのアニオン交換樹脂から溶出させ、ゲル濾過に供し、続いて、固定化された合成抗原AおよびBを含む樹脂に該調製物を通すことにより同種凝集素を除去する。
【0025】
IgMのオリゴマー化は、低濃度、比較的低いpHで処理すること、およびIgMの高塩濃度への曝露を最小化することにより低減される。最終調製物は、さらなるオリゴマー化を避けるために、0.2 Mグリシン(pH 4.2)にて調製する。本発明におけるIgMの調製に関するさらなる詳細は以下の実施例1に記載されている。しかしながら、本明細書における具体的な実施例は本発明を例示するに過ぎず、特許請求の範囲の発明の範囲を限定することを意図するものではないと理解されたい。
【0026】
Aβペプチド結合
IgMのAβペプチドへの結合を決定するために、IgMプール中の抗Aβ 1-42を定量するためのELISAアッセイを開発した。このアッセイにおいて、マイクロタイタープレートに、合成ペプチドAβ 1-42、その短縮版Aβ 22-35、ならびに無関係なタンパク質α1-プロテアーゼ阻害剤をコーティングし、次いで種々の濃度のプールされた血漿由来IgMをプレートに加えた。結合したIgMは、セイヨウワサビペルオキシダーゼにコンジュゲート化されたヤギ抗ヒトIgMを用いて検出した。IgMは、全長アミロイドペプチドに対して強くそして飽和した結合を示した(図2)が、トランケート化ペプチドまたはα1-プロテアーゼ阻害剤については、結合はごく僅かに検出されたかまたは全く検出されなかった。
【0027】
観察された結合が特異的であるか否かを試験するために対照実験を行った。この実験では、IgM調製物を、Aβ 1-42ペプチドで共有結合的にコーティングされたSEPHAROSEビーズと共に一晩インキュベートした。陰性対照として、IgM調製物を、未コーティングSEPHAROSEビーズと共に同じ条件下でインキュベートした。免疫枯渇材料をAβ 1-42への結合について試験した。未コーティングのSEPHAROSEビーズと共にインキュベートしたIgM調製物は、Aβ 1-42でコーティングされたウェル上では良好な結合を示し、α1PIでコーティングされたウェル上では結合を全く示さなかった。一方で、Aβ 1-42コーティングビーズと共にインキュベートしたIgMは、Aβ 1-42でコーティングされたウェル上ではごく僅かな結合を示し(図3)、これはIgMのアミロイドペプチドAβ 1-42への結合が特異的であることを示す。
【0028】
IgMのAβ 1-42ペプチドへの結合が特異的であることをさらに確認するために、種々のペプチド競合実験を行い、ELISAシグナルの阻害を調べた。種々の濃度の遊離Aβ 1-42およびその小型誘導体(Aβ 22-35、1-40、1-28、25-35)および無関係のタンパク質であるα1PIを、0.1 mg/mL IgMと共に1時間にわたりプレインキュベートし、次いでAβ 1-42コーテッドプレートに加えた。全長AβペプチドはIgMのプレートへの結合を遮断することにできる唯一の競合ペプチドであった(図4Aおよび4B)。この効果は濃度依存的であり、0.1 mg/mLの遊離Aβ 1-42ペプチドがIgMのELISAプレートへの結合を完全に阻害することができた。
【0029】
Aβ 1-42ペプチド誘導体(例えばAβ 1-28、Aβ 25-35、あるいはAβ 1-40ペプチドでさえも)はいずれも、IgM結合と競合することができなかった。何ら特定の理論に拘束されることを望まないが、こうした結果は、1) Aβ 1-42に対するIgMは、該ペプチドが特定のコンホメーションとなることを必要とするか、または2) エピトープ認識部位が該ペプチドのC末端部分にあることのいずれかを示している可能性がある。
【0030】
ヒトIgMプールの特異性および結合をさらに評価するために、ヒトIgGプール(GAMUNEX、Talecris Biotherapeutics、Research Triangle Part、NC)とIgMプールとの間で競合実験を用意した。GAMUNEXの種々の希釈物を調製し、0.1mg/mL IgMと混合した。次に、こうした混合物をAβ 1-42 コーテッドプレートに加えた。4mg/mL GAMUNEXはIgM結合を完全に消失させた(図5)。この実験は、IgMプールが血漿中に存在するAβ 1-42に対するIgGと一部の共通エピトープを共有する可能性を示唆する。一連の阻害実験は、免疫枯渇データと合わせて、IgMのβ-アミロイドペプチドAβ 1-42への結合、および該結合が特異的であることを確認するものである。
【0031】
さらに、2-メルカプトエチルアミン(MEA−下の図6および実施例6を参照されたい)を用いて作製したIgMのフラグメントを、Aβ 1-42ペプチドへの結合について試験した。新しく生成させたIgMフラグメントを希釈し、それぞれがAβ 1-42またはα1PIでコーティングされたウェルに加えて、結合および特異性を試験した。IgG型フラグメントは、五量体型IgMと同じように、その結合特性および特異性特性を保持した(図8を参照されたい)。
【0032】
プールされたIgMがβ-アミロイドペプチドAβ 1-42に対する抗体を含むという知見は、この免疫グロブリンがアルツハイマー病の管理に有用でありうることを示唆している。静脈内送達されたIgMは、アルツハイマー病に易罹患性である個体について予防的に、またはアルツハイマー病と診断された患者の治療のために使用することができる。さらに、単量体IgM(5つのサブユニット全てをJ鎖で連結するジスルフィドの穏やかな還元の結果として生じる)、またはIgMの低分子量誘導体(例えばIgMのタンパク質分解性フラグメント)もまた、アルツハイマー病の管理に使用することができる。実際に、より小さなIgMフラグメントはより効率的に血液脳関門を通過することが可能であり、したがって、全長IgMよりも強力でありうる。かかるIgM誘導体は、Aβ 1-42およびAβ関連ペプチドに対する結合および選択性の保持について、本明細書に開示された方法および手法にしたがい試験することができる。
【0033】
「患者」という用語には、予防的または治療的処置のいずれかを受けるヒトおよび他の哺乳動物被験体が含まれる。
【0034】
医薬組成物および投与
正常なレベルの抗アミロイド抗体を有する個体は神経変性疾患から保護されるようである。しかしながら、Aβ 1-42ペプチドワクチンの臨床試験は、多くの患者において脳の炎症をもたらした。したがって、神経変性疾患(例えばAD)のリスクのあるまたはそれを患っている被験体への天然の抗アミロイド抗体の送達、すなわち受動免疫法は、安全性および効力についてより大きな可能性を秘めている。本発明の抗Aβ IgMを含む免疫グロブリン調製物は、アミロイド関連疾患を患っているまたはその発症のリスクのある者の受動免疫法に用いたときに、より安全な代替手段たりうる。
【0035】
本発明の抗アミロイドペプチド免疫グロブリン調製物は、製薬上許容される担体と共に医薬組成物として製剤化することができる。「製薬上許容される」という用語はヒトに投与したときに、生理学的に許容可能であり、アレルギー反応または類似の有害な反応(例えば胃の不調、めまいなど)を一般的に引き起こさない分子実体(molecular entity)および組成物をいう。本明細書において用いる「製薬上許容される」という用語は、動物、より具体的にはヒトにおける使用について、連邦または州政府の監督機関に認可されたまたは米国薬局方または一般に認知された薬局方に登録されたことを意味しうる。「担体」という用語は、化合物と共に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルをいう。かかる製薬上の担体は、滅菌性の液体、例えば水や油類であってもよく、これには石油、動物油、植物油もしくは合成起源の油、例えば落花生油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油などのものが含まれる。好ましくは、水または水溶液、食塩水およびデキストロース水溶液およびグリセロール水溶液が担体として利用され、とくに注射可能溶液として利用される。適当な製薬上の担体はE. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0036】
本発明の抗アミロイド免疫グロブリン調製物を含む医薬組成物は、非経口、経粘膜、例えば、経口(口から)、鼻から、または直腸から、あるいは経皮的に導入することができる。非経口経路としては、静脈内、細動脈内、筋内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、および頭蓋内の投与などが挙げられる。投与は、例えば脊椎穿刺により、脳脊髄液へ直接行うことができる。
【0037】
他の実施形態では、本発明の調製物はベシクル、特にリポソームとして送達することができる(Langer, Science 249:1527-1533 (1990); Treatら, Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez-Berestein and Fidler (編), Liss: New York、pp. 353-365 (1989); Lopez-Berestein, 前掲, pp. 317-327を参照のこと、一般的には前掲を参照されたい)。
【0038】
さらに別の実施形態においては、本発明の調製物は制御放出系で送達することができる。例えばポリペプチドは、持続性ポンプを用いて静脈内注入により、ポリ-乳酸/グルタミン酸(PLGA)のようなポリマーマトリックスにより、皮下にインプラントされたコレステロールと抗アミロイドペプチド抗体化合物の混合物を含むペレット(SILASTICR, Dow Corning, Midland, Mich.;米国特許第5,554,601号を参照)により、インプラント可能な浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、または他の投与様式を用いて投与することができる。ある実施形態では、ポンプを使用することができる(Langer (1990); Sefton, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201 (1987); Buchwaldら, Surgery 88:507 (1980); Saudekら, N. Engl. J. Med. 321:574 (1989)を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー性材料を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release、Langer and Wise (編)、CRC Press: Boca Raton、Fla. (1974); Controlled Drug Bioavailability、Drug Product Design and Performance、Smolen and Ball (編)、Wiley: N.Y. (1984); Ranger and Peppas, J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61 (1983)を参照、またLevyら, Science 228:190 (1985); Duringら, Ann. Neurol. 25:351 (1989); Howardら, J. Neurosurg. 71:105 (1989)を参照されたい)。さらに別の実施形態では、治療標的、すなわち脳の近傍に制御放出システムを配置することができ、このことにより全身用量の画分のみが必要となる(例えば、Goodson, Medical Applications of Controlled Release、第2巻、pp.115-138 (1984)を参照されたい)。制御放出デバイスは患者のアミロイド症の部位の近傍に導入することができる。制御放出システムはLangerによる総説 (Science 249:1527-1533 (1990))において議論されている。
【0039】
本発明の免疫グロブリン調製物および方法は、抗アミロイド抗体の不全に関連する神経学的な疾患または障害の治療に有用である。したがって、本発明の治療または予防に供する疾患または障害は、アミロイド沈着を伴う神経障害であってもよく、特定のまたは一般的な免疫不全と関連しうる。こうした疾患としては、AD、クル、クロイツェフェルト-ヤコブ病、ならびに他の海綿状脳症、パーキンソン病、およびハンチントン舞踏病などがあげられるがこれに限らない。
【0040】
用量およびレジメン
本発明の免疫グロブリン調製物由来の抗アミロイドペプチド抗体の一定した生体内供給は、治療上有効な用量(すなわち、被験体内で代謝変化を引き起こす効果のある用量)を、必要な間隔、例えば、毎日、12時間毎などにて、提供することにより保証することができる。こうしたパラメーターは、治療されている病状の重症度、他の活動、例えば実施されているダイエット変更、被験体の体重、年齢、および性別、ならびに他の基準によるものであり、これらは標準的で有効な医療行為にしたがい当業者が容易に決定することができる。抗アミロイドペプチド免疫グロブリン調製物は、少なくとも10日、少なくとも100日、または受容者の生涯にわたり投与される。
【0041】
「予防する」という用語は、疾患または障害をもたらす病理学的機構に予防的に干渉し、結果的に疾患による変質の速度または損傷の最終的な範囲を少なくともいくらか臨床上認識できる程度に低減することを意味する。本発明の文脈においては、かかる病理学的機構はAPPのアミロイド生成性の形態のプロセシングの増大、Aβクリアランスの調節異常、またはこの2つの何らかの組み合わせでありうる。
【0042】
「治療する」という用語は、疾患または障害に関連する症状の改善をもたらすことを意味する。本発明の文脈において、治療には、Aβのレベルの低減、Aβの形成の調節、Aβの凝集もしくはアミロイドプラークの形成の低減、またはアミロイド症に関連する疾患もしくは障害(例えば、ADもしくはADの動物モデル)を患っている被験体における認知障害の改善が含まれる。本発明の「治療上有効な量」の免疫グロブリン調製物は、宿主の、活性、機能、および応答についての臨床上有意な欠陥を治療または予防することができる。あるいはまた、治療上有効な量は、宿主における病状の臨床上有意な改善を引き起こすのに十分な量でありうる。
【0043】
アミロイド症に関連する神経学的疾患もしくは障害を「発症するリスクの高い」被験者は、アミロイド症を発症する遺伝的傾向がある可能性がある(例えば家族性のAD (FAD)を有する構成員のいる家族からの個人など)。あるいはまた、70歳代または80歳代の個人は加齢性ADのリスクが高い。
【0044】
アミロイド症に関連する神経学的疾患もしくは障害の「症状を示す」被験体は、かかる疾患もしくは障害を有するまたは以前に有していた被験体にみられる症状または訴えを示す。例えば、ADでは、こうした症状としては、上記のような50歳代および60歳代における認知症、記憶障害などの発症などを挙げることができる。
【0045】
「Aβ レベル低減用量」とは、例えば処置される被験者の脳または脊髄液におけるAβのレベルの低減をもたらす、抗アミロイドペプチド抗体の量である。用量は、約0.1μg 抗アミロイドペプチド抗体/kg体重(μg/kg)〜約100 mg/kg、0.5μg 抗アミロイドペプチド抗体/kg体重(μg/kg)〜約50 mg/kg、または約5μg/kg〜約10 mg/kgでありうる。Aβのレベルを低減させるために用いる抗アミロイドペプチド抗体の量は、正常な被験者からの生物学的サンプル、特に血液(血漿および血清が含まれる)および脳脊髄液 (CSF)、中の抗アミロイドペプチド抗体のレベルに対応する量でありうる。
【0046】
「アミロイド-β(Aβ) ペプチドのレベルを低減させる」とは、生体内でのAβ 1-42の量の低減させることを指しうる。Aβは血液、脳脊髄液または臓器に蓄積されうる。Aβのレベルを低減させる主な対象の臓器は脳であるが、本発明を実施することにより体液、組織、および/または他の臓器におけるAβレベルを低減させることもできる。
【0047】
上記症状の治療のための本発明の組成物の有効な用量は、種々の要因に応じて変化するが、こうした要因としては、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるか動物であるか、施される他の処方、および治療が予防法であるかまたは治療法であるか、などが挙げられる。治療用量を滴定して、安全性と効力を最適化することができる。
【0048】
抗体または免疫グロブリン調製物を用いた受動免疫法については、用量は約0.0001〜2000 mg/kg宿主体重、200〜1000 mg/kg宿主体重、およびより一般的には0.01〜100 mg/kg宿主体重の範囲にわたる。例えば、用量は100 mg/kg体重もしくは1000 mg/kg体重であってもよく、または100〜1000 mg/kgの範囲であってもよい。例示的な治療レジメンは2週間ごとに1回または月1回または3〜6カ月に1回の投与を要する。抗体は通常、複数回にわたり投与される。単回投与の間隔は、週、月または年単位でありうる。間隔はまた、患者におけるAβに対する抗体の血液レベルを測定することにより処方することで、不規則であってもよい。一部の方法では、用量は1〜50 mg/mL、および一部の方法では1〜20 mg/mLの血漿抗体濃度を達成するように調整する。あるいはまた、抗体は持続放出製剤として投与することができ、その場合にはより低頻度の投与が必要となる。用量と頻度は患者における抗体の半減期に応じて変化する。
【0049】
投与の用量と頻度は、処置が予防的または治療的であるかに応じて変化しうる。予防用途では、長い期間に渡り比較的低い頻度の間隔で、比較的低用量が投与される。一部の患者はその全生涯にわたり処置を受け続ける。治療用途では、疾患の進行が低減または終結するまで、そして好ましくは患者が疾患の症状の部分的なまたは完全な改善を示すまで、比較的高用量が比較的短時間で必要とされることがある。その後、患者に予防的レジメンを施すことができる。
【0050】
本発明の薬剤は場合により、アミロイド生成性の疾患の治療に少なくとも部分的に効果のある他の薬剤と併用して投与することができる。ADおよびダウン症の場合には、アミロイド沈着が脳に生じるが、本発明の薬剤は、血液脳関門を通過して本発明の薬剤の透過を増加させる他の薬剤と合わせて投与することもできる。
【0051】
受動免疫法
一般的に、受動免疫法をモニタリングするための手法は、能動免疫法をモニタリングするために使用することのできる手法と類似している。しかし、受動免疫後の抗体プロフィールは典型的には抗体濃度の即時のピークとそれに続く指数関数的な減衰を示す。追加の投与がないと、減衰は投与された抗体の半減期に応じて数日から数ヶ月の期間内に処置前のレベルに達する。例えば一部のヒト抗体の半減期は20日間程度である。
【0052】
一部の方法では、投与の前に患者内でのAβに対する抗体のベースライン測定を行い、第2の測定をそのすぐ後に行ってピーク抗体レベルを決定し、そして1以上のさらなる測定を間隔をおいて行って抗体レベルの減衰をモニタリングすることができる。抗体のレベルがベースラインまたはピーク未満のベースラインの予め決定されたパーセンテージ(例えば、50%、25%もしくは10%)まで低下したときに、追加用量の抗体を投与する。一部の方法では、ピークまたはその後測定されたバックグラウンド未満のレベルを、他の患者における有益な予防的または治療的療法レジメンを構成する予め決定された対照レベルと比較することができる。測定された抗体レベルが対照レベルよりも著しく低い(例えば治療の恩恵を受けている患者集団における参照値のある標準偏差を平均から引いた値よりも低い)ときには、追加用量の抗体を投与することができる。
【実施例】
【0053】
以下の実施例は本発明の方法および組成物を例示するものであり、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0054】
実施例1−IgMおよびIgMフラグメントの調製
簡単に言うと、IgMは、IGIV調製法(Lebingらの米国特許第6,307,028号(Lebingら)に開示された方法の第2アニオン交換工程、その特許の全内容を参照により本明細書に組み入れる)からのANXカラム溶出液から精製し、その後SUPEROSE 6でゲル濾過し、これにより90%より高い純度のIgMを生じた。主な不純物はIgA (約6〜8%)およびIgG (<2%)である。同種凝集素を除去するために、IgMを固定化合成抗原AおよびBを含むカラムに通した。詳細は下に記載する。
【0055】
高度に精製された、同種凝集素の少ない、低オリゴマーヒトIgMの調製は、IGIVアニオン-交換溶出液(ANX溶出液)のサイズ排除クロマトグラフィー、およびそれに続くアフィニティークロマトグラフィーを用いた同種凝集素除去により行った。IgM調製物のための標的プロフィールは、IgAが5%未満、オリゴマー型IgMが5%未満、および内毒素が0.3 EU/mL未満、という制限が含まれるように画定した。同種凝集素活性についてのヨーロッパ薬局方(EP)制限(50 mg/mLにおいて1:64未満)をIgMに適用した。
【0056】
全てのバッファーは使用前にオートクレーブにかけ、0.22μmフィルターに通して濾過して、発熱物質フリーの袋に入れた。出発材料であるANX溶出液は、pH 5.1、0.5M酢酸、0.2%タンパク質溶液であり、これは最大で50%程度のIgMを含みうる。ANX溶出液中に存在する非IgMタンパク質物質は大部分がIgGおよびIgAである。1.3 Lの冷凍ANXカラム溶出液を解凍し、1.0 N NaOHを用いて、pHを7.95に調整した。材料を、無菌0.22μmフィルターに通して濾過した後に、100 K PELLICONミニおよび/またはPELLICON XLカセット(Millipore Corporation、Bedford、MA)を用いて15〜25 mg/mLへと濃縮した。65 mLの濃縮液(約1150 mgのタンパク質)を、TBSを用いて15.3 cm/hrの線流速にて平衡化した5.0cm X 70cm SUPEROSE 6 FF Prepグレードカラム (Pharmacia、Upsala、Sweden)に加えた。IgM画分の溶出中に、5.0cm X 5.1cm Atri/Btri PAA SEPHAROSE 6 FFカラム(GlycoTech Corporation、Rockville、MD)を連続して配管した。
【0057】
図9に示されるように、IgMピークの中央部分 (約200 ml)を滅菌容器に収集し、サンプリングし、滅菌透析チュービングを用いて0.2Mグリシン、pH 4.2に対して直ちに透析した。透析は、4℃にて18時間にわたる4回x2L交換からなるものであった。透析の後に、副ロットを滅菌濾過し、2.0 mg/mLへと希釈し、次いでバルキングするまで+4℃にて貯蔵した。それぞれの副ロットについての収量%は、IgMの27〜68%回収であった。IgM喪失の大部分は、IgMのオリゴマー化によるものであり、これはサイズ排除カラムの空隙容積にて溶出した。
【0058】
11の副ロットの材料をバルクにしてIgMの単一ロットを形成し、ついでこれを0.22μmフィルターに通して滅菌濾過し、次いで4つの280 mL滅菌バイアルおよび20個の1 mLバイアルに充填した。該材料を0.2 Mグリシンバッファー、pH 4.2に配合することにより生成物が得られ、これは+4℃にて12カ月に渡りオリゴマー化に対して安定であることが示された。該材料の生化学的特徴付けは表2.4.1に示す。
【表1】

【0059】
総タンパク質は、13.3という公開された特異的(ε1%280) 減衰係数を用いて計算した。このIgM調製物のアミノ酸分析 (Commonwealth Biotechnologies、Richmond、VA)からは、13.4という具体的な減衰係数が得られた。パーセントオリゴマーは10/30 SUPEROSE 6 PHARMACIA HRカラムを用いて決定したが、これは15.7分におけるパーセント面積をクロマトグラムの総面積で割ったものと定義される。同種凝集交差適合試験に供したサンプルは10xPBSを用いてpHを7.5に調整した後に50 mg/mLへと濃縮した。還元SDS-PAGEによる純度は2段階工程により決定する。まず、ゲル上の未確認のXバンドのみの含量を決定する。ここから該調製物中の免疫グロブリンの総パーセンテージが得られる。第2工程では、全3種の免疫グロブリンの重鎖バンドの強度を測定することによりIgAおよびIgGの含量を決定する。したがって、IgMの純度は100%−Xバンド%−IgA%−IgG%に等しい。
【0060】
IgMは、時間および濃度に依存するプロセスにより安定なオリゴマーを形成する傾向があることが見出された。したがって精製の戦略には、IgMオリゴマー化を最小化する工程、例えば低pHで処理すること、IgM調製物を低濃度に維持すること、およびIgMの高濃度塩への曝露を最小化することなどが含まれる。IgMの最終調製物は0.2 Mグリシン(pH 4.2)溶液中で配合してオリゴマー形成を回避した。この配合物中ではIgMは安定であり注射に適当である。
【0061】
IgMフラグメントに関する実験については、かかるフラグメントは、市販のIgM フラグメント化キット(Pierceカタログ番号44887)を用いて調製した。このキットは3種の手法によりIgMをフラグメント化することができる(図6参照)。2-メルカプトエチルアミンおよびヨードアセトアミドを用いたIgMのアルキル化と還元を用いて、所望のIgM誘導体を生成させた。誘導されたIgMは3〜8% Tris-Acetate PAGEで分析した (図7を参照されたい)。単量体IgM (約200KDa)および単量体IgMの半分 (約100KDa)の期待される分子量に対応する4つの主なIgM フラグメントがみられた。IgMの2-メルカプトエチルアミン(MEA)処理中に生じたフラグメントを、150ボルトにて90分泳動させた3〜8% Tris-Acetateゲル上の未処理IgMと比較した。ゲルをクーマシー染色し、QUANTITY ONEソフトウェアを用いてスキャニングした。図6は、MEA IgMフラグメント化工程の結果、ならびに他の手法を用いた結果を示す。図7は、IgMおよびMEA-処理済IgMのゲル電気泳動の結果を示す(図6に示した「IgG」型および「rIgG」フラグメントに対応するフラグメント種が示されている)。
【0062】
実施例2〜10−結合アッセイ
下の実施例2〜10では、示された実験に従い、プレートを洗浄バッファー(0.1%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートおよび0.01% アジ化ナトリウムを含むTris-緩衝化食塩水)で6回洗浄した。100μLのセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート型ヤギ抗ヒトIgM(Fc5μ領域に対する特異性を有する)を各ウェルに加え、プレートを穏やかに振とうしながら25℃にて1時間にわたりインキュベートした。次いでプレートを洗浄バッファーで3回洗浄し、100μLのTMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質(KPL カタログ番号50-76-00)を用いて室温で5分発色させた。次に100μLの1Mリン酸を用いて反応を停止させ、SOFTMAX PRO 4.0ソフトウェアを使用するコンピューターインタフェースを備えたSPECTRAMAX 190プレートリーダーを用いて450 nmにてプレートを読み取った。
【0063】
実施例2−IgMの、全長Aβ 1-42、Aβ 22-35、およびα1-タンパク質阻害剤への結合
96ウェルNunc MAXISORPマイクロタイタープレートを、100μLの2μg/mL Aβ 1-42、Aβ 22-35、および無関係のタンパク質(α-1 プロテアーゼ阻害剤、α1PI)を使用して1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら受動的にコーティングした。プレートの最後の2列を100μLのPIERCE SUPERBLOCKでコーティングして陰性(非特異的)対照とした。このコーティング工程に続き、プレートを300μLの洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートを100μLのSUPERBLOCKを用いて1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。SUPERBLOCK中で連続希釈した100μLのIgMをプレートに加え、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。結果を図2に示す。
【0064】
実施例3−Aβ 1-42によるIgMの免疫枯渇
100μLの2μg/mL Aβ 1-42およびα1PIを1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら使用して、96ウェル NUNC MAXISORPマイクロタイタープレートを受動的にコーティングした。コーティング工程に続き、プレートを洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートは、100μL SUPERBLOCKを1時間にわたり25℃にて用いて穏やかに振とうしながらブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。先に0.2ミリグラムのIgMを、未カップリングのおよびAβ 1-42カップリング化アフィニティー精製カラムと共に4℃にて一晩穏やかに揺らしながらインキュベートした。枯渇化されたIgM材料 (フロースルー)をSUPERBLOCK中で連続希釈し、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。結果を図3に示す。
【0065】
実施例4−Aβ-関連および無関係ペプチドによるIgMのAβへの結合の阻害
100μLの2μg/mL Aβ 1-42を1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら用いて、2つの96ウェル NUNC MAXISORPマイクロタイタープレートを受動的にコーティングした。コーティング工程に続き、プレートを洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートは、100μL SUPERBLOCKを1時間にわたり25℃にて用いて穏やかに振とうしながらブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。100μLのAβペプチド(Aβ 1-28、Aβ 22-35、Aβ 25-35、Aβ 1-40、およびAβ 1-42)ならびにα1PIは、0.1 mg/mL IgMを含むSUPERBLOCKで連続希釈し、プレートに加え、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。また、SUPERBLOCKに連続希釈した100μLのIgMを各プレートの最上2列に加えた。結果を図4Aおよび4Bに示す。
【0066】
実施例5−競合GAMUNEXによるIgMのAβ 1-42への結合の阻害
100μLの2μg/mL Aβ 1-42を1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら用いて96ウェル NUNC MAXISORPマイクロタイタープレートを受動的にコーティングした。コーティング工程に続き、プレートを洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートは、100μLのSUPERBLOCKを使用して1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。0.1mg/mL IgMを含むSUPERBLOCKにて連続希釈した100μLのGAMUNEXをプレートに添加し、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。また、SUPERBLOCKに連続希釈した100μLのIgMおよびGAMUNEXをプレートに加え、これを陽性および陰性対照とした。結果を図5に示す。
【0067】
実施例6−MEA-フラグメント化IgMによるAβ 1-42結合
100μLの2μg/mL Aβ 1-42およびα1PIを1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら用いて、96ウェル NUNC MAXISORPマイクロタイタープレートを受動的にコーティングした。コーティング工程に続き、プレートを洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートは、100μLのSUPERBLOCKを1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら使用してブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。SUPERBLOCK中で連続希釈した100μLのIgMおよび2-メルカプトエチルアミン処理済みIgMをプレートに加え、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。結果を図8に示す。
【0068】
実施例7−IgMのAβ 1-40、Aβ 1-42、Aβ 1-43およびα1PI コーテッドプレートへの結合
100μLの2 μg/mL Aβ 1-40、Aβ 1-42、Aβ 1-43およびα1PI (陰性対照)を用いて、1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら、96ウェル NUNC MAXISORPマイクロタイタープレートを受動的にコーティングした。コーティング工程に続き、プレートを洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートは、100μLのSUPERBLOCKを1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら使用してブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。SUPERBLOCK 中で連続希釈した100μLのIgMをプレートに加え、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。
【0069】
IgMプールでは、Aβ 1-42およびAβ 1-43についての特異的結合活性の非常によく似た力価が実証された。この力価は、Aβ 1-40に対する力価よりも約10倍高い。データは、IgMプール中の抗Aβ力価の大部分がAβの最もC末端に関連することを実証している。したがって、アミノ酸41および42がIgMへの結合に必要であるようである。図9を参照されたい。
【0070】
実施例8−IgMのAβ 1-40、Aβ 1-42、Aβ 1-43およびα1PI コーテッドプレートへの結合
100μLの2μg/mL Aβ 1-42を使用し1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら、96ウェル NUNC MAXISORPマイクロタイタープレートを受動的にコーティングした。コーティング工程に続き、プレートを洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートは、100μLのSUPERBLOCKを1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら使用してブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。Aβ 1-40、Aβ 1-42およびAβ 1-43の0.1 mg/mL溶液をそれぞれ7 mg/mL IgMでスパイクして最終濃度0.07 mg/mLのIgMを得た。次に、これらの溶液を0.07 mg/mL IgMで連続希釈し、100μLをプレートに加え、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。次いでプレートを洗浄バッファーで6回洗浄した。100μLのセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート型ヤギ抗ヒトIgMを各ウェルに加え、プレートを1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。
【0071】
データは、Aβ 1-42およびAβ 1-43がIgMのAβ 1-42 コーテッドプレートへの結合を完全に阻害することを実証した。Aβ 1-40は、Aβ 1-42およびAβ 1-43よりも10倍多い濃度でさえも、IgMのAβ 1-42 コーテッドプレートへの結合の約50%を阻害するに過ぎない。この実験もまた、IgMへの結合におけるアミロイドβの最もC末端(アミノ酸41および42)の重要性を示している。図10を参照のこと。
【0072】
実施例9−Aβ 1-42結合−競合Aβ 1-40、Aβ 1-42、Aβ 33-42、およびAβ 37-42
100μLの2μg/mL Aβ 1-42を使用し1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら96ウェル NUNC MAXISORPマイクロタイタープレートを受動的にコーティングした。コーティング工程に続き、プレートを洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートは、100μLのSUPERBLOCKを1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら使用してブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。Aβ 37-42 の0.5 mg/mL溶液およびAβ 1-40、Aβ 1-42およびAβ 33-42の0.1mg/mL溶液をそれぞれ、7 mg/mL IgMでスパイクして最終濃度0.07 mg/mLのIgMを得た。次に、これらの溶液を0.07 mg/mL IgMで連続希釈し、100μLをプレートに加え、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。
【0073】
Aβ 1-42はIgMのAβ 1-42コーテッドプレートへの結合を完全に阻害することができる。フラグメント化アミロイドβペプチドはAβ 1-40と同程度の阻害を示す。このデータは、IgMのAβ 1-42 コーテッドプレートへの結合を阻害するためには、アミノ酸41および42の他に、10個のアミノ酸よりも多いペプチド(場合により三次構造を有する)が必要らしいということを実証している。図11を参照されたい。
【0074】
実施例10−Aβ 1-42結合−競合Aβ 1-42およびスクランブル化Aβ 1-42
100μLの2μg/mL Aβ 1-42を使用し1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら、96ウェル NUNC MAXISORPマイクロタイタープレートを受動的にコーティングした。コーティング工程に続き、プレートを洗浄バッファーで2回洗浄した。プレートは、100μLのSUPERBLOCKを1時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながら使用してブロッキングし、洗浄バッファーで2回洗浄した。Aβ 1-42およびスクランブル化Aβ 1-42の0.1mg/mL溶液をそれぞれ7mg/mL IgMでスパイクして最終濃度0.07 mg/mLのIgMを得た。次に溶液を0.07mg/mL IgMで連続希釈し、100μLをプレートに加え、2時間にわたり25℃にて穏やかに振とうしながらインキュベートした。
【0075】
データはIgM力価の特異性がAβ 1-42に対するものであり、全42アミノ酸を含有する同じ大きさのペプチドに対するものではないことを実証している。図12を参照されたい。
【0076】
実施例11−IgM、単量体IgM、およびIgGのAβ 1-42への結合
OCTETシステム(ForteBio、Inc.、Menlo Park、CA)は、Bio-Layer Interferometry(BLI)を利用して、2つのタンパク質/ペプチド間の濃度、親和性、および速度論を測定する。BLIは、検出器の端から分子の数が増加または減少することによる干渉縞(反射光)の変化を検出する。
【0077】
最初にPBSを含むウェルにストレプトアビジンコーテッドバイオセンサーを配置して検出器を平衡化した。次に、該バイオセンサーを2μg/mL ビオチン化Aβ 1-42を含むウェルに配置し、次いでPBSを含むウェルに移すことによりバックグラウンド干渉プロフィールを作製した。次にこれらのバイオセンサーを、IgMプール、単量体IgMプール、またはIgGプール(GAMUNEX)のいずれかを含むウェルに移し、会合速度を決定した。最後に、該バイオセンサーを、PBSを含むウェルに移して解離速度を測定した。
【0078】
この実験に基づいて生成されたデータは、IgMプールおよび単量体IgMプールが、IgGプール(GAMUNEX)よりもビオチン化Aβ 1-42に対して少なくとも5倍高い親和性を有することを実証した。
【0079】
実施例12−トランスジェニックマウスADモデル
B6;SJL-Tg(APPSWE)2576Khaまたは「Tg2576」マウスは、ハムスタープリオンタンパク質遺伝子プロモーターにより駆動されるヒトAPP695遺伝子の突然変異型を発現する(米国特許第5,877,399号を参照されたい)。これらのマウスは3月齢では正常な空間参照記憶を有するが、9〜10月齢までには機能障害を示す(Hsiaoら, “Correlative memory deficits, Aβ elevation, and amyloid plaques in transgenic mice,” Science 274:99-102 (1996))。脳トランスジェニックAPP含量は内在性APPより5.6倍多い。この増大には、特定の行動欠陥の出現が伴う。多数のコンゴレッド陽性Aβプラークが、溶解性Aβのレベルの上昇と共に見られる。アミロイドプラークは細胞性炎症性応答を刺激するようである。異常肥大の星状細胞および活性化小膠細胞の両方がプラークを取り囲み(Irizarry、M.、“APPsw transgenic mice develop age-related Aβ deposits and neuropil abnormalities、but no neuronal loss in CA1,” J. Neuropathol. Exp. Neurol. 56:965-73 (1997); Frautschy, S.A.ら, “The microglial response to amyloid plaques in APPsw transgenic mice,” Am. J. Pathol. 152: 307-17 (1998))、そしてアミロイド血管障害が一部の血管で出現する(Klunk, W., ら, “Staining of AD and Tg2576 mouse brain with X-34、a highly fluorescent derivative of chrysamine G and a potential in vivo probe for b-sheet fibrils,” Soc. Neurosci. Abstr 23:1638 (1997))。さらに、酸化的ストレスの鍵となるマーカーはTg2576マウス脳において誘導され (Pappolla, M.A.ら, “Evidence of oxidative stress and in vivo neurotoxicity of β-amyloid in a transgenic mouse model of Alzheimer’s disease,” Am. J. Pathol. 152:871-7 (1998))、これは死体解剖時にAD患者の脳にみられるものと類似している。
【0080】
典型的には、14匹の妊娠した(10〜15日の妊娠期間)Tg2576および4匹の妊娠した野生型雌に受容させる(Taconic Farms, Inc., Germantown, NY)。マウス(仔)は、無作為に以下のような処置群に割り当てる(表2)。
【表2】

【0081】
生後24時間以内に、処理される仔マウスに、滅菌された、通常の生理食塩水(50μL)またはヒトIgM (hIgM) (50μLの20μg/μL)のいずれかの腹腔内注射を受容させる。その後、マウスに生理食塩水またはhIgMのいずれかを以下のスケジュールに従い注射する(表3 −Khole, V.ら, “Identification of epididymis specific antigen by neonatal tolerization,” Am. J. Repro. Immunol. 44:350-356 (2000)を参照されたい)。
【表3】

【0082】
ヒト多反応性IgM (hIgM)のマウス中での半減期は、8.0時間である(Sigounas, G.ら, “Half-life of polyreactive antibodies,” J. Clin. Immunol., 14:134-140 (1994))。したがって、こうした抗体は56時間(半減期7回分)後に循環系から消失する。6月齢から開始して、マウスに100μL (400 mg/kg)のhIgMをアジュバントなしで、皮下より、各週の火曜日と金曜日に受容させる(Dodel, R.C.ら, "Intravenous immunoglobulin containing antibodies against β-amyloid for the treatment of Alzheimer’s disease,” J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 75: 1472-4 (2004))。抗体処置は研究が終了するまで継続する。
【0083】
マウスを56日目に、hIgMに対する抗体についてサンプリングする。滅菌#15 手術用メス刃を用いて側部伏在静脈に表面的に刻み目を入れることにより50μL未満の全血を採血する。指圧を加えて止血してからマウスをケージに戻す。サンプルを室温で遠心分離して血液細胞を血漿から分離する。血漿を回収し、分析するまで直ちに−80℃にて凍結する。
【0084】
マウスは、12〜15月齢にて、または瀕死のようであればそれ以前に、CO2ガスを用いて人道的に犠牲にする。血液は安楽死の後に尾の大静脈を介して得る。脳を回収し、その半分を溶解性Aβペプチドの分析のために急速冷凍し、残り半分を免疫組織化学的染色および組織病理学的分析のために10%中性緩衝化ホルマリンに浸す。染色されたプラークをカウンティングし、脳および血漿中の溶解性Aβペプチドを定量する。データは、正規性および等分散性について調べる。t−検定を用いて処理マウスと未処理マウス間の違いを評価する。P値が<0.05のときにはグループは異なると判断する。
【0085】
上記記載から、本発明が多くの用途を提供することが明らかであろう。例えば、本発明は、本明細書に記載した任意のAβ-結合性免疫グロブリン調製物の、アミロイド生成性の疾患の治療または予防における使用、またはそのための医薬の製造における使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、個々のサブユニットの全体的な五量体構造および特徴を示す略図である。
【図2】図2は、Aβ 1-42、Aβ 22-35、α-1プロテアーゼ阻害剤 (α1PI)およびSUPERBLOCKでコーティングされたウェルに結合するIgMを示すグラフである。
【図3】図3は、Aβ 1-42およびα1PIでコーティングされたプレート上で試験したAβ 1-42カップルビーズによるIgMの免疫枯渇を示すグラフである。
【図4A】図4Aは、種々のAβ-関連および無関係のペプチドによる、AβコーテッドプレートへのIgMの結合の阻害を示すグラフである。
【図4B】図4Bは、種々のAβ-関連および無関係のペプチドによる、AβコーテッドプレートへのIgMの結合の阻害を示すグラフである。
【図5】図5は、競合GAMUNEXによるAβコーテッドプレートへのIgMの結合の阻害を示すグラフである。
【図6】図6は、IgMフラグメント化手法を示す略図である。
【図7】図7は、2-メルカプトエチルアミン(MEA)-フラグメント化IgMのゲル電気泳動の結果を示す写真である。
【図8】図8は、Aβ 1-42コーテッドウェルへのMEA-フラグメント化IgMの結合を示すグラフである。
【図9】図9は、Aβ 1-40、Aβ 1-42、Aβ 1-43、およびα1PIコーテッドプレートへのIgMの結合を示すグラフである。
【図10】図10は、競合Aβ 1-40、Aβ 1-42、およびAβ 1-43の存在下での、Aβ 1-42コーテッドプレートへのIgMの結合を示すグラフである。
【図11】図11は、競合Aβ 1-40、Aβ 1-42、Aβ 33-42、およびAβ 37-42の存在下での、Aβ 1-42コーテッドプレートへのIgMの結合を示すグラフである。
【図12】図12は、競合Aβ 1-42およびスクランブル化Aβ 1-42の存在下での、Aβ 1-42コーテッドプレートへのIgMの結合を示したグラフである。
【図13】図13は、本発明のIgM調製物のクロマトグラフィープロフィールを示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-アミロイドポリペプチドに関連する疾患の治療または予防方法であって、出発材料としてのプールされたヒト血漿サンプルから製造された免疫グロブリン調製物を投与することを含み、このとき、該免疫グロブリン調製物は免疫グロブリンM(IgM)が富化されている、前記方法。
【請求項2】
免疫グロブリン調製物が少なくとも約80%のIgMまたは少なくとも約90%のIgMを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
免疫グロブリン調製物がAβ 1-42に特異的に結合するIgM抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
β-アミロイドポリペプチドに関連する疾患が、慢性炎症性疾患、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症、家族性アミロイドポリニューロパシー(ポルトガル)および心筋症(デンマーク)、全身性老人性アミロイド症、家族性アミロイドポリネフロパシー(アイオワ)、家族性アミロイド症(フィンランド)、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群、じんま疹および難聴を伴う家族性アミロイド腎症(マックル-ウェルズ症候群)、甲状腺の髄様癌、孤立性心房性アミロイド、および血液透析関連アミロイド症(HAA)、散発性大脳性アミロイド血管障害、遺伝性大脳性アミロイド血管障害、ダウン症、グアムのパーキンソン認知症、加齢性無症状性アミロイド血管障害、アミロイド症を伴う遺伝性大脳出血、およびアルツハイマー病からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
β-アミロイドポリペプチドに関連する疾患がアミロイド関連神経変性疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
疾患がアルツハイマー病である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
免疫グロブリン調製物が約0.1μg/kg体重〜約1000mg/kg体重の免疫グロブリンという用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
免疫グロブリン調製物が、約0.5μg/kg体重〜約500mg/kg体重、約0.5μg/kg体重〜約100mg/kg体重、または約5μg/kg体重〜約50mg/kg体重という用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
IgMを含む医薬組成物であって、該IgMの少なくとも一部がAβ 1-42に特異的に結合し、ここで該IgMが免疫グロブリンおよび他の物質を含む出発材料から以下の工程により調製される前記組成物:
a) 出発材料のpHを調整して、溶解した免疫グロブリンを含む中間溶液を形成する工程、
b) 工程a)の中間溶液を、免疫グロブリンを含む第1の上清および第1の沈殿物が形成されるようなpH、温度、およびカプリル酸濃度の条件に調整する工程、
c) 第1上清を第1沈殿物から分離する工程、
d) 免疫グロブリンを含む第2の上清および第2の沈殿物が形成されるような、時間、pH、温度およびカプリル酸濃度の条件下で前記第1上清をインキュベートする工程、
e) 第2の上清を第2の沈殿物から分離する工程、
f) 免疫グロブリンGもしくは免疫グロブリンMが第1のアニオン交換樹脂に実質的に全く結合しないが、免疫グロブリンAおよび他の物質が該第1樹脂に結合するようなpHおよびイオン強度の条件下で、第2の上清を該第1樹脂と接触させる工程、
g) 先の工程の結果物からの免疫グロブリンGおよび免疫グロブリンMを実質的に全て含む画分を分離する工程、
h) 免疫グロブリンGが第2のアニオン交換樹脂に実質的に全く結合しないが、免疫グロブリンMおよび他の物質が該第2樹脂に結合するようなpHおよびイオン強度の条件下で、免疫グロブリンGおよび免疫グロブリンMを該第2樹脂と接触させる工程、
i) 少なくとも100 mMの塩化ナトリウム水溶液が有する範囲の伝導度を有するバッファー溶液を用いて、IgMを第2アニオン交換樹脂カラムから溶出させる工程、
j) IgMをゲル濾過樹脂に適用し、IgMを回収する工程、
k) IgMを、固定化抗原AおよびBを含むアフィニティー樹脂に適用する工程、ならびに
l) IgMを回収する工程。
【請求項10】
出発材料が、プールされたヒト血液産物由来である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
プールされたヒト血液産物が、その抗Aβ 免疫グロブリン力価を決定するためにスクリーニングされていないドナーから収集されたものである、請求項10に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−525286(P2009−525286A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552621(P2008−552621)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/061269
【国際公開番号】WO2007/106617
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(508227112)タレクリス バイオセラピューティクス,インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】