説明

KTiOPO4 単結晶の製造方法

【目的】 分極のシングルドメイン化が可能で、非線形光学材料としてSHGの効率が高く高品質なKTP単結晶の作製が可能な製造方法を提供する。
【構成】 先ず、TSSG法によりKTPのキュリー点以上の温度でKTP単結晶を析出,育成する。次いで、キュリー点以上の温度を保ったまま育成したKTP単結晶が融液と接触した状態で、種結晶と融液間に構成される電気回路よりKTP単結晶に直流電圧を印加し、キュリー点以下の温度まで冷却する。この際、印加電流をIp、c軸育成する際のa軸,b軸の結晶の大きさをa,bとした時に、D=Ip/(a×b)なる式で規定される電流密度Dの値が0.01≦D≦1.0(mA/cm2 )となるように直流電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、非線形光学材料として用いられるKTiOPO4 単結晶の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、強力な出力を有しコヒーレンスの良好なレーザーの出現により、非線形光学材料を用いて第2高調波(SHG:Second harmonic generation)として基本波長の半分の波長の光が得られるようになってきている。そして、この非線形光学材料としては、非線形光学結晶であるKTiOPO4 単結晶(以下、単にKTPと称する。)等が代表的なものである。
【0003】ところで、上記KTPの作製方法としては、水熱合成法やTSSG法(Top Seeded Solution growth)等が知られているが、いずれの場合にも育成によって得られるKTP単結晶には、分極が多分域(マルチドメイン)として存在する。このようなマルチドメインの存在は、例えば文献(Appl. Phys. Lett., 51,(1987), 1322)等にも記載されるように、出力の低下を招き、非線形光学材料のSHGとしての効率が悪化する。
【0004】そこで、従来、前述のマルチドメインのある結晶インゴットをバルクあるいは基板に切り出した後、熱処理を施したり、あるいは熱処理中に電場を印加する等して、マルチドメインをシングルドメイン化する試みがなされている。例えば、先の文献には、育成されたマルチドメイン単結晶から、C軸(分極軸)に垂直に板状に切り出し(C板)、このC板の表裏両面にそれぞれ電極を形成し、500℃程度に加熱した状態で電圧を印加してシングルドメイン化する方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これら従来の方法は、マルチドメインの配列(例えばジグザグの分域壁を有する配列)によっては単分域化は難しいこと、電極形成等を含め分極(ポーリング)処理のプロセスが煩雑であること、分域の境界に生じた欠陥がポーリング後も残存し易いこと等の欠点があり、実際、本発明者等が熱処理を施したり熱処理中に電場を印加してマルチドメインのシングルドメイン化を試みたが、場所によっては分極反転がされず、十分なシングルドメイン化を達成することは難しかった。
【0006】本発明は、かかる従来の実情に鑑みて提案されたものであって、育成されたKTP単結晶を十分にシングルドメイン化することができ、非線形光学材料としてのSHGの効率が高く高品質な結晶の育成が可能なKTiOPO4 単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上述の目的を達成するために、融剤を含む融液に種結晶を接触せしめ、KTiOPO4 のキュリー点より高い温度でKTiOPO4 単結晶を析出、育成した後、キュリー点以上の温度を保ったまま育成したKTiOPO4 単結晶が融液と接触した状態で、上記種結晶と融液の間に直流電圧を印加しながら前記KTiOPO4 単結晶をキュリー点以下の温度に冷却することを特徴とするものである。
【0008】また、KTiOPO4 単結晶の育成後、種結晶と融液の間に直流電圧を印加しながら冷却する際の電流密度Dが、印加電流をIp、c軸育成のa軸,b軸の結晶の大きさをa,bとした時、D=Ip/(a×b)と規定され、該電流密度Dの値が0.01≦D≦1.0(mA/cm2 )であることを特徴とするものである。
【0009】すなわち、本発明においては、先ず、TSSG法と言われる方法を用い、KTP単結晶を育成する。TSSG法は、原料をフラックス(融剤)に溶解させ、過飽和状態を作って種結晶だけに結晶成長させるもので、フラックス法の一種である。このTSSG法は、結晶の大型化が期待でき、種結晶の方位を選ぶことで育成結晶の成長方位を制御することができるという特徴を有する。
【0010】KTP単結晶の育成は、通常のTSSG法の手法にしたがって過飽和状態の融液中で徐冷しながら行えばよいが、本発明においては、KTP単結晶の育成の最終温度をKTiOPO4 のキュリー点(約940℃)より高い温度とする。原料やフラックスは、通常のものがいずれも使用可能であり、例えばフラックスとしては3K2 WO4 ・P2 5 やK6 4 13、WO3 +K6 4 13等が使用される。
【0011】また、このときの種結晶としては、数mm角の角棒状、例えば一辺が2mm、長さが10〜15mm程度の角棒状の種結晶が用いられ、その長手方向にC軸が一致するようなC軸結晶が用いられる。
【0012】次いで、育成されたKTP単結晶を融液中で保持する。このとき、育成された単結晶の温度がKTiOPO4 のキュリー点以下に下がらないように注意する。
【0013】本発明においては、この状態で種結晶と融液(坩堝)を介して電気回路から直流電圧を加え、KTP単結晶をキュリー点以下の温度まで徐冷する。前記電気回路はKTP単結晶に流れる直流電流が定電流となるように設定し、その範囲は0.1〜5mAとし、印加電流をIp、c軸育成のa軸,b軸の結晶の大きさをa,bとした時、D=Ip/(a×b)と規定される電流密度Dの値が0.01≦D≦1.0(mA/cm2 )となるようにする。電流密度Dが0.01mA/cm2 未満であると、効果が不足しシングルドメイン化が難しく、逆に1.0mA/cm2 を越えるとKTP単結晶を破損する虞れがある。
【0014】印加する直流電圧の極性の向きは問わないが、種結晶側を負とするとKTP単結晶が着色し易くなるので、種結晶側を正とするのが好ましい。ただし、KTP単結晶が着色しても、熱を加えれば速やかに消失することから、さほど大きな影響はない。
【0015】
【作用】キュリー点以上の温度で育成されたKTP単結晶は、常誘電相であり、当然分域は存在しない。本発明においては、この状態から種結晶及び融液を介してKTP単結晶にC軸方向に電界を印加し、KTP単結晶をキュリー点以下の温度まで冷却するので、育成されたKTP単結晶(常誘電相)は多分域状態を経ずに単分域の強誘電相状態に移行することになる。
【0016】また、KTP単結晶を冷却しながら種結晶と融液間に直流電圧を印加する際の電流密度Dを0.01≦D≦1.0としているため、分極の単分域化が良好に行われたKTP単結晶を得ることができる。
【0017】
【実施例】以下、本発明を適用した具体的な実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施例において使用した単結晶育成装置の概略構成は、図1に示す通りであり、この装置は、融剤を含む原料融液1を収容する白金坩堝2と、種結晶3を上下する引き上げ機構4とから構成されてなる。
【0018】使用する種結晶3は、断面方形状(2mm×2mm)で長さ10〜15mmのKTP単結晶であり、そのC軸方向は長さ方向(図中Z方向)である。また、引き上げ機構4は、直径5mmのサファイア棒5を上下動するもので、このサファイア棒5の先端に3mm角の白金棒6を介して種結晶3が取付けられている。
【0019】なお、前記種結晶3と白金棒6、白金棒6とサファイア棒5は、連続する1本の白金線7を巻回することによって固定されており、この白金線7が前記種結晶3に直流電圧を印加するための引き出しリード線としての役割を果たすことになる。
【0020】前記白金線7は、直流電源8のプラス側端子に接続され、またこの直流電源8のマイナス側端子に接続される白金線9は、前記白金坩堝2の外壁面に接続されている。したがって、これら直流電源8から供給される直流電圧は、白金坩堝2を介して種結晶3と融液1間に印加されることになる。
【0021】実施例 1そこで、上述の単結晶育成装置を用い、下記の条件によりKTP単結晶を作製した。先ず、用いた融剤(フラックス)は、K6 4 13であり、また原料の組成比は次の通りである。
<原料組成>KH2 PO4 0.5 (モル比)
2 HPO4 0.231(モル比)
TiO2 0.269(モル比)
これら融剤と原料組成物を、原料:融剤=0.7:0.3(モル比)となるように混合し、白金坩堝2内で加熱溶融した。この混合物の反応温度は約600℃であった。
【0022】次に、前記混合物を融解した融液1中に引き上げ機構4の先端に取付けた種結晶3を入れ、KTP単結晶10を析出、育成した。なお、単結晶10の析出、育成は、融液1を0.5℃/時間の割合で徐冷することにより行い、開始時の融液温度1018℃(坩堝温度1033℃)、育成終了時の融液温度963℃(坩堝温度978℃)とした。したがって、育成終了時の融液温度はKTPのキュリー点(約940℃)よりも高い。なお、育成に際しての他の条件を以下に記す。
<育成条件>種結晶回転速度 200rpm種結晶引き上げ速度 0mm/時間種結晶方位 〈001〉
【0023】育成されたKTP単結晶10は、育成終了時には図1中破線で示すように融液1中にある。そこで、次に引き上げ機構4によって種結晶3を引き上げ、この種結晶3の周囲に成長したKTP単結晶10を30mm程度引き上げて、前記KTP単結晶10の先端が1mm程度融液1中につけた状態にした。
【0024】このとき、炉内温度を保ち、育成最終温度状態、すなわちKTP単結晶10がキュリー点以上の温度を保持するようにした。
【0025】そして、この状態から種結晶3と融液1を介してKTP単結晶10に直流電圧を印加し、25℃/時間の割合で徐冷した。ここで、直流電圧は種結晶3が正極、融液1が負極となるように設定し、KTP単結晶10に流れる直流電流が定電流(1mA)となるように温度に応じて電圧を変化させた。すなわち、初期(963℃)には7.5V、800℃まで冷却した時点では500Vとした。
【0026】800℃以下の温度では前記直流電圧の印加を止め、室温まで冷却した後、温水でフラックスを溶解して洗浄し(KTP単結晶は水には溶解しない。)、図2に示すようなKTP単結晶10を得た。
【0027】得られたKTP単結晶10の結晶軸の方位は図2に示す通りであり、現れた自然面は(100)、(011)、(201)、(110)であった。また、得られたKTP単結晶10は、先端部が尖った形状をしており、基端部の大きさはL1 ×L2 =35mm×20mmであった。
【0028】以上のような手法によって作製されたKTP単結晶を切り出し、エッチング法によってドメイン観察をしたところ、ストライプ状のマルチドメインはほとんど観察されず、鬆のあるところのみドメインが観察されただけであった。これに対して、従来の育成法により、すなわち直流電圧を印加しないで作製したKTP単結晶は、主にb軸に平行な50μm〜0.5mm程度のストライプ幅を持ったドメインがC板上に顕著に生じていた。
【0029】実施例2本実施例は、KTP単結晶育成後に直流電圧を印加しながら冷却する際の印加電流等の条件を変化させてKTP単結晶の作製を行った例である。本実施例においても、前述の単結晶育成装置を用いて実施例1と同様の条件下でKTP単結晶の育成を行った。ただし、種結晶回転速度を200rpmとし、その回転方向を10分間隔で反転させた。
【0030】本実施例において育成されたKTP単結晶10は、育成終了時には図1中破線で示すように融液1中にある。そこで、次に引き上げ機構4によって種結晶3を引き上げ、この種結晶3の周囲に成長したKTP単結晶10を3mm引き上げて、前記KTP単結晶10の大部分を融液1中につけた状態にした。
【0031】このとき、炉内温度を保ち、育成最終温度状態、すなわちKTP単結晶10がキュリー点以上の温度を保持するようにした。
【0032】そして、この状態から種結晶3と融液1を介してKTP単結晶10に直流電圧を印加し、20℃/時間の割合で徐冷した。ここで、直流電圧は種結晶3が正極、融液1が負極となるように設定し、KTP単結晶10に流れる直流電流が定電流(0.5mA)となるように温度に応じて電圧を変化させた。すなわち、初期(963℃)には2V、860℃まで冷却した時点では10Vとした。
【0033】860℃以下の温度では前記直流電圧の印加を止め、結晶全体を融液中から取り出し、結晶後端が液面より10mmの位置に位置するよう保持して、室温まで冷却した後、温水でフラックスを溶解して洗浄し(KTP単結晶は水には溶解しない。)、図2に示すようなKTP単結晶10を得た。
【0034】以上のような手法によって作製されたKTP単結晶を切り出し、エッチング法によってドメイン観察をしたところ、ストライプ状のマルチドメインはほとんど観察されず、鬆のあるところのみドメインが観察されただけであった。
【0035】実施例3本実施例は、KTP単結晶育成後に直流電圧を印加しながら冷却する際の印加電流等の条件を変化させてKTP単結晶の作製を行った例である。本実施例においても、前述の単結晶育成装置を用いて実施例1と同様の条件下でKTP単結晶の育成を行った。ただし、種結晶回転速度を200rpmとし、その回転方向を10分間隔で反転させた。
【0036】本実施例において育成されたKTP単結晶10は、育成終了時には図1中破線で示すように融液1中にある。そこで、次に引き上げ機構4によって種結晶3を引き上げ、この種結晶3の周囲に成長したKTP単結晶10を1mm引き上げて、前記KTP単結晶10の大部分を融液1中につけた状態にした。
【0037】このとき、炉内温度を保ち、育成最終温度状態、すなわちKTP単結晶10がキュリー点以上の温度を保持するようにした。
【0038】そして、この状態から種結晶3と融液1を介してKTP単結晶10に直流電圧を印加し、20℃/時間の割合で徐冷した。ここで、直流電圧は種結晶3が正極、融液1が負極となるように設定し、KTP単結晶10に流れる直流電流が定電流(0.5mA)となるように温度に応じて電圧を変化させた。すなわち、初期(963℃)には2V、860℃まで冷却した時点では5Vとした。
【0039】860℃以下の温度では前記直流電圧の印加を止め、結晶全体を融液中から取り出し、結晶後端が液面より10mmの位置に位置するよう保持して、室温まで冷却した後、温水でフラックスを溶解して洗浄し(KTP単結晶は水には溶解しない。)、図2に示すようなKTP単結晶10を得た。
【0040】得られたKTP単結晶10の結晶軸の方位は図2に示す通りであり、現れた自然面は(100)、(011)、(201)、(110)であった。また、得られたKTP単結晶10は、先端部が尖った形状をしており、基端部の大きさはL1 ×L2 =35mm×20mmであった。
【0041】以上のような手法によって作製されたKTP単結晶を切り出し、エッチング法によってドメイン観察をしたところ、ストライプ状のマルチドメインはほとんど観察されず、鬆のあるところのみドメインが観察されただけであった。
【0042】実施例4本実施例は、KTP単結晶育成後に直流電圧を印加しながら冷却する際の印加電流等の条件を変化させてKTP単結晶の作製を行った例である。本実施例においても、前述の単結晶育成装置を用いて実施例1と同様の条件下でKTP単結晶の育成を行った。ただし、種結晶回転速度を200rpmとし、その回転方向を10分間隔で反転させた。
【0043】本実施例において育成されたKTP単結晶10は、育成終了時には図1中破線で示すように融液1中にある。そこで、次に引き上げ機構4によって種結晶3だけを引き上げ、この種結晶3の周囲に成長したKTP単結晶10を全く引き上げないで、前記KTP単結晶10の全部を融液1中につけた状態にした。
【0044】このとき、炉内温度を保ち、育成最終温度状態、すなわちKTP単結晶10がキュリー点以上の温度を保持するようにした。
【0045】そして、この状態から種結晶3と融液1を介してKTP単結晶10に直流電圧を印加し、20℃/時間の割合で徐冷した。ここで、直流電圧は種結晶3が正極、融液1が負極となるように設定し、KTP単結晶10に流れる直流電流が定電流(0.5mA)となるように温度に応じて電圧を変化させた。すなわち、初期(963℃)には1.5V、860℃まで冷却した時点では9.3Vとした。
【0046】860℃以下の温度では前記直流電圧の印加を止め、結晶全体を融液中から取り出し、結晶後端が液面より10mmの位置に位置するよう保持して、室温まで冷却した後、温水でフラックスを溶解して洗浄し(KTP単結晶は水には溶解しない。)、図2に示すようなKTP単結晶10を得た。
【0047】以上のような手法によって作製されたKTP単結晶を切り出し、エッチング法によってドメイン観察をしたところ、中央部にはストライプ状のマルチドメインはほとんど観察されず、鬆のあるところのみドメインが観察された。すなわち、結晶の端から約1mmの位置に幅100μm程度のストライプ状ドメインが、a軸及びb軸に沿って観察された。ただし、この部分は実際に素子として使用する際には、不要な部分であるので実用上問題ない。
【0048】実施例 5さらに、本実施例においては、KTP単結晶育成後に直流電圧を印加しながら冷却する際の最適な印加電流,電流密度の範囲を調査するために、単結晶育成後、印加電流を変化させて、KTP単結晶の作製を行った。
【0049】本実施例においても、前述の単結晶育成装置を用い、育成したKTP単結晶10の先端を1mm程度融液1につけた状態にして種結晶3が正極、融液1が負極となるように直流電圧を印加し、種々の定電流の直流電流を流した。この時、徐冷しながら定電流を流すとKTPの材料特性として低温になるほど抵抗が大きくなり、印加される電圧が高くなる為、電源の仕様とKTPの絶縁破壊保護上、印加される電圧の最大値が1000Vを越えないようにした。
【0050】本実施例のKTP単結晶の育成を以下の条件により行った。先ず、用いた融剤(フラックス)は、K6 4 13であり、また原料の組成比は、次の通りである。
〈原料組成〉KH2 PO4 0.5 (モル比)
KH2 PO4 0.242(モル比)
TiO2 0.285(モル比)
これら融剤と原料組成物を原料:融剤=0.0680:0.258モル比となるように混合し、白金坩堝2内で加熱溶融した。この混合物の反応温度は約600℃であった。
【0051】次に、前記混合物を融解した融液1中に引き上げ機構4の先端に取り付けた種結晶3を入れ、KTP単結晶を析出、育成した。単結晶10の析出及び育成は、融液1を0.24℃/時間の割合で徐冷することによって行った。なお、育成に際しての他の条件を以下に示す。
〈育成条件〉種結晶回転速度 200rpm種結晶引き上げ速度 0mm/時間種結晶方位 〈001〉
【0052】以上の手法によって育成されたKTP単結晶の大きさは、結晶がc軸成長する際のa軸、b軸、c軸の大きさをa、b、cとすれば、最大のものでa×b×c=20×35×20(mm)であった。
【0053】次に、これらの育成されたKTP単結晶を上述のように種結晶3の周囲に成長したKTP単結晶10を30mm程度引き上げて、前記KTP単結晶10の先端が1mm程度融液1中につけた状態にした。このとき、炉内温度を保ち、育成最終温度状態、すなわちKTP単結晶10がキュリー点以上の温度を保持するようにした。
【0054】そして、この状態から種結晶3と融液1を介してKTP単結晶10に種々の直流電圧を印加し、20℃/時間の割合で860℃まで徐冷して、KTP単結晶サンプル1〜7を作製した。ここで、直流電圧は種結晶3が正極、融液1が負極となるように設定し、KTP単結晶10に流れる直流電流が各サンプル所定の定電流となるように温度に応じて電圧を変化させた。
【0055】この時の各サンプル作製時の直流の定電流である印加電流Ip(mA)、電流密度D、育成開始時の坩堝の温度Ts、育成終了時の坩堝の温度Te、育成終了温度から定電流を流した時の種結晶、白金坩堝間の電圧Vsの値を表1に示す。上記電流密度Dは、印加電流をIp、c軸育成のa軸,b軸の結晶の大きさをa,bとした時、D=Ip/(a×b)と規定されるものである。
【0056】
【表1】


【0057】以上のような手法によって作製されたKTP単結晶のうちIpが5mAより大であるサンプル1(Ip=20.0mA)では結晶に印加電界によるクラックが発生して結晶が割れてしまった。また印加電流Ipが大きい程、種結晶が白色化するという傾向が見られた。次に作製されたKTP単結晶サンプル2〜7を切出し、エッチング法によってドメインを観察したところ、Ip=0.05mAであるサンプル7では単分極化が不完全であったが、他のサンプルでは、ストライプ状のマルチドメインはほとんど観測されず、鬆のあるところのみドメインが観察されただけであり、電流密度Dの大きさが0.01から1.0(mA/cm2 )の条件下で作製されたサンプルにおいて、単分域化が良好に行われたことがわかった。従って、KTP単結晶を作製する際、単結晶育成後、結晶の単分域化を行うために、直流電圧を印加しながら冷却する際の最適な印加電流密度Dの範囲が、0.01≦D≦1.0であることが確認された。
【0058】また、上述の実施例1,2,3,4,5において、直流電圧を印加して作製されたKTP単結晶のSHG特性を調べたところ、光強度のピークが1つで完全にシングルドメイン化されていることがわかった。図3R>3に直流電圧を印加して作製された実施例1のKTP単結晶と直流電圧を印加しないで作製したKTP単結晶のSHG特性を示す。図3に示すように、直流電圧を印加して作製された実施例1のKTP単結晶では、図中実線で示すように光強度のピークが1つで完全にシングルドメイン化されていることが示されたが、直流電圧を印加しないで作製したKTP単結晶では、図中破線で示すように光強度のピークが2つあり、マルチドメイン化していることが示唆された。
【0059】なお、SHG特性の測定は、試料の厚さ約2.5mm、YAG入力100mW、YAG入力波長1064nm、SHG出力532nmとして行い、SHG出力(μWオーダー)をフォトマルで測定した。
【0060】以上、本発明を適用した具体的な実施例について実験結果をもとに説明してきたが、本発明がこの実施例に限定されるものではなく、原料組成や融剤の種類、育成条件等は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0061】
【発明の効果】以上の説明からも明らかなように、本発明においては、KTP単結晶をキュリー温度以上で行い、直流電圧を印加しながら冷却するようにしているので、分極のシングルドメイン化が可能となり、得られるKTP単結晶のSHG効率を高めることができる。
【0062】また、KTP単結晶育成後、種結晶と融液間に直流電圧を印加しながら冷却する際の電流密度Dを0.01≦D≦1.0としているため、分極のシングルドメイン化が良好に行われたKTP単結晶を得ることができる。
【0063】したがって、本発明によれば、品質の高い非線形光学材料を提供することが可能であり、その効果は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施する際に用いられる単結晶育成装置の一構成例を示す模式図である。
【図2】実施例において作製されたKTP単結晶の概略斜視図である。
【図3】直流電圧の印加の有無によるSHG特性の相違を示す特性図である。
【符号の説明】
1・・・融液
2・・・白金坩堝
3・・・種結晶
8・・・直流電源
10・・・KTP単結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】 融剤を含む融液に種結晶を接触せしめ、KTiOPO4 のキュリー点より高い温度でKTiOPO4 単結晶を析出、育成した後、キュリー点以上の温度を保ったまま育成したKTiOPO4 単結晶が融液と接触した状態で、上記種結晶と融液の間に直流電圧を印加しながら前記KTiOPO4 単結晶をキュリー点以下の温度に冷却することを特徴とするKTiOPO4 単結晶の製造方法。
【請求項2】 印加電流をIp、c軸育成する際のa軸,b軸の結晶の大きさをa,bとした時、D=Ip/(a×b)
となる式で規定される電流密度Dの値が0.01≦D≦1.0(mA/cm2 )となるように直流電圧を印加することを特徴とする請求項1記載のKTiOPO4 単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate