説明

L鎖欠落免疫グロブリン

【課題】1箇所の完全抗原結合部位又は数箇所の抗原結合部位の形成に十分な2本のHポリペプチド鎖からなり、かつ、Lポリペプチド鎖が欠落していることを特徴とする分離された免疫グロブリンに関する。
【解決手段】天然に産する動物、ラクダの血清から精製され、天然4本鎖モデル免疫グロブリンと、もしくはその誘導体等の何れとも対応しない新規な免疫グロブリンを得ることが出来た。本免疫グロブリンは医学分野の診断、治療に使用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Lポリペプチド鎖が欠落している新規な分離免疫グロブリンに関する。これらの免疫グロブリンは、Hポリペプチド鎖及びLポリペプチド鎖の両者からなる免疫グロブリンの分解物中には含まれないが、反対に、本発明は、免疫グロブリンのファミリーの新しいメンバー、特に免疫認識に関与することのできる新しいタイプの分子を定義するものである。これらの免疫グロブリンは、各種目的、特に病原体に対する防御又はタンパク質の発現若しくは活性の調整をはじめとする診断若しくは治療の目的に使用することができる。
【0002】
現在提唱されている免疫グロブリンの構造は、ジスルフィド結合により結合してy−又はT−型の巨大分子を形成する2本の同一のLポリペプチド鎖(L鎖)及び2本の同一のHポリペプチド鎖(H鎖)の存在と関連した4本鎖モデルからなるものである。これらの鎖は、定常部と可変部とからなり、定常部は数種のドメインに細分される。2本のHポリペプチド鎖は通常は、定常部の第1ドメイン及び第2ドメインの間に位置するいわゆる「ヒンジ部」内でジスルフィド結合により結合している。
【0003】
免疫グロブリンのクラスを形成するタンパク質のうち、その多くは抗体であり、したがって1箇所又は数箇所の抗原結合部位を有する。
【0004】
4本鎖モデルによると、抗体の抗原結合部位は、H鎖及びL鎖それぞれの可変ドメインに位置し、H鎖及びL鎖可変ドメインの関連を必要とする。
【0005】
これら4本鎖モデル免疫グロブリンの定義には、Roitt. Iら(Immunology-second-Edition Gower Medical Publishing USA, 1989)が参照される。特に、4本鎖免疫グロブリンの定義、そのポリペプチド及び遺伝子構造、その可変及び定常部の定義、及び良く知られた技術による酵素分解によって得られる断片の獲得に関する箇所が、特に、参照される。
【0006】
本発明者らは驚くべきことに、免疫グロブリンの機能的特性を有する種々の分子が、これらを天然に産する動物から分離され、その機能が、ある場合には、例えばL鎖の欠落のために、4本鎖免疫グロブリンの機能に関与するのとは異なる構造要素と関連していることを確立した。
【0007】
本発明は、2本鎖モデル免疫グロブリンであって、天然の4本鎖モデル免疫グロブリンの分解、特に酵素による分解によって得られる断片にも、天然4本鎖モデル免疫グロブリンの定常若しくは可変部又はこれらの一部をコードするDNAの宿主細胞における発現とも、或いは、例えばマウス、ラット又はヒトのリンパ管において生産される抗体のいずれにも対応しない免疫グロブリンに関する。
【0008】
E.S. Ward ら(1)は、Hポリペプチド鎖(VH)又は/及びLポリペプチド鎖(Vk/Fv)の可変ドメインに関して実験を行い、これらの可変ドメインの特定抗原との結合能を試験したことについて記載している。この目的のために、これらの特定抗原によりあらかじめ免疫化されたマウスの脾臓のゲノムDNAからVH遺伝子のライブラリーを調製した。
【0009】
Wardらはその刊行物の中で、VHドメインは比較的粘着性であり、これは多分、正常にはVκ又はVλドメインによりキャップされている被曝疎水表面のためであろうと記載している。そこで彼らは、改良された特性を有するVHドメインをデザインすることは可能であるはずであると想像し、更に、結合活性を有するVHドメインは可変断片(Fv 断片)又は完全抗体を作るためのビルデイングブロックとして役に立つかもしれないと想像している。
【0010】
本発明は、4本鎖モデル免疫グロブリンの異なる断片(L及びH鎖)及びこれらの断片の異なるドメインを修飾することにより、新たな若しくは改良された抗原結合部位又は4本鎖モデル免疫グロブリンが定義されるとの考えから始まったものではない。
【0011】
本発明者らは、免疫グロブリンが公知の4本鎖モデルとは異なる構造を有し、このような異なる免疫グロブリンにより、研究又は産業目的の使用のための診断薬、治療薬又はその他の薬物の調製のための新しい手段が提供されると判断した。
【0012】
本発明はしたがって、4本鎖モデル免疫グロブリンの機能的特性を示すことのできる新規免疫グロブリンを提供するものであるが、その構造は、多くの状況では、その使用、その調製、そしてある場合ではその修飾に、より適切であると考えられる。更にこれらの分子は、他の免疫グロブリンの修飾のための先導的構造であると考えることができる。これらの免疫グロブリンにより提供される利点には、これらをより容易に調製できるとの可能性が含まれる。
【0013】
したがって本発明は、1箇所の完全抗原結合部位又は数箇所の抗原結合部位の形成に十分な2本のHポリペプチド鎖からなることを特徴とし、更にLポリペプチド鎖が欠落している免疫グロブリンに関する。本発明の詳細な実施態様においては、これらの免疫グロブリンは更に、これらの免疫グロブリンが、ラクダなどの反芻動物(Camelids)(以下単にラクダという)のリンパ球又はその他の細胞から得られるようなL鎖の欠落した免疫グロブリンの配列を有するDNA若しくはcDNAの、原核又は真核宿主細胞における発現の産物であるとの事実を特徴とする。
【0014】
本発明の免疫グロブリンは、例えば図7に記載する配列から得ることができる。
【0015】
L鎖の欠落した本発明の免疫グロブリンは、そのH鎖の可変ドメインが、4本鎖免疫グロブリンVHのそれとは異なる特性を有するようなものである。本発明のH鎖免疫グロブリンのこの可変ドメインは、このH鎖免疫グロブリンには存在しないCH1ドメイン又はVLとの正常な相互作用部位を有さない。したがってこれは、溶解性及び結合部位の位置などの特性の多くにおいて、新規な断片である。我々は、明らかな理由から、本文中においては、これを、4本鎖免疫グロブリンの古典的VHとは区別するためにVHHと記載する。
【0016】
本発明によると、「完全抗原結合部位」とは、単独で抗原の認識及び完全結合をもたらす部位を意味する。これは、結合親和性の試験に関するいかなる公知の方法によっても証明することができる。
【0017】
組換えDNAの技術により調製される、又は動物から分離できるこれらの免疫グロブリンは、時に、以下のページにおいて「H鎖免疫グロブリン」と呼ばれることもある。本発明の好ましい実施態様においては、これらの免疫グロブリンは、純粋な形である。
【0018】
最初の実施態様においては、本発明の免疫グロブリンは、原核細胞、特にE. coli の細胞において、以下の工程からなる方法により得ることができる:a)例えばラクダのリンパ球から得られるL鎖欠落免疫グロブリンのVHHドメインをコードするDNA又はcDNA配列をBluescriptベクター中でクローニングし、b)Xho部位を含む5′プライマー及び以下の配列:TC TTA ACT AGT GAG GAG ACG GTG ACC TG を有するSpe部位を含む3′プライマーを用いて増幅した後、クローン化した断片を回収し、c)ベクターをXho及びSpe制限酵素により消化した後、免疫PBSベクター中、ファージ中で、回収された断片をクローン化し、d)宿主細胞、特にE. coli を、ステップcの組換え免疫PBSベクターによるトランスフェクションにより形質転換し、e)例えば、ヒトコブラクダVHHドメインに対する抗体を用いて、VHHをコードする配列の発現物を回収する。
【0019】
別の実施態様においては、免疫グロブリンは以下の工程からなる方法によって得られる異種特異的免疫グロブリンである:−与えられた抗原に対する所定の特異性を有し、Xho及びSpe部位の間にあるVHHドメイン若しくはその一部をコードする第1のDNA又はcDNA配列を得、−第1のDNA又はcDNA配列の特異性とは異なる所定の特異性を有し、Spe及びEcoRI部位の間にあるVHHドメイン若しくはその一部をコードする第2のDNA又はcDNA配列を得、−EcoRI及びXhoI制限酵素により免疫PBSベクターを消化し、−得られた、VHHドメインをコードするDNA又はcDNA配列を、このDNA又はcDNA配列がベクター中で連続してクローン化されるように連結し、−宿主細胞、特にE. coli 細胞を、トランスフェクションにより形質転換し、得られる免疫グロブリンを回収する。
【0020】
別の実施態様においては、免疫グロブリンは以下の工程からなる方法によって得ることができる:−所定の特異的抗原結合部位を有するVHHドメイン若しくはその一 部をコードするDNA又はcDNA配列を得、−開始コドン及びHindIII部位を有する5′プライマー並びに終止コドンを含み、XhoI部位を有する3′プライマーを用いて、得られたDNA又はcDNAを増幅し、−増幅されたDNA又はcDNAを、プラスミドpMM984のHindIII(2650位)及びXhoI(4067位)部位中に組換え、−組換えプラスミドにより許容される細胞、特にNB−E細胞をトランスフェクションし、−得られる生成物を回収する。
【0021】
HHドメインの領域に対して向けられた抗体により、特にELISA法により、発現の成功が証明される。
【0022】
本発明の別の詳細な実施態様によると、免疫グロブリンはパルボウイルスにおいてクローン化される。
【0023】
別の実施例においては、これらの免疫グロブリンは、別の所定の抗原結合部位を有する第2のDNA又はcDNA配列をプラスミドpMM984中で更にクローニングすることからなる方法によって得られる。
【0024】
このような免疫グロブリンは更に、ベクターがYep52であり、形質転換される組換え細胞が酵母、特にS. cerevisiae である方法によって得られることを特徴とする。
【0025】
特定の免疫グロブリンは、それが触媒活性を有し、特にそれが、与えられた基質の活性状態を模倣する(ミミックする)抗原に対して向けられたものであることを特徴とする。これらの触媒抗体は、その触媒機能を増大又は変更するために、その結合部位の位置で、無作為又は指向突然変異誘発により修飾することができる。このような触媒性免疫グロブリンの調製のための一般的技術については、Lernerら(TIBS November 1987. 427-430)の刊行物を参考とすることができる。
【0026】
好ましい実施態様によると、本発明の免疫グロブリンは、その可変部が、45位に、ロイシン、プロリン又はグルタミン残基とは異なるアミノ酸を含むことを特徴とする。
【0027】
更に、このH鎖免疫グロブリンは、動物のリンパ球に特有の生成物でもなければ、リンパ管症を患うヒトの患者のリンパ球から得られる生成物でもない。リンパ管症において生成されるこのような免疫グロブリンは、本来モノクローナルであり、ゲノムレベルにおける病原性突然変異によるものである。これらは明らかに抗原結合部位を持たない。
【0028】
これらの免疫グロブリンの2本のHポリペプチド鎖は、Roitt らの定義によるヒンジ領域により結合される。
【0029】
本発明の具体的な実施態様においては、上記で定義した分子に対応する免疫グロブリンは、抗体として作用する能力を有する。
【0030】
本発明の免疫グロブリンの抗原結合部位は、H鎖の可変部に位置する。これらの免疫グロブリンの個々の群においては、Hポリペプチド鎖はそれぞれその可変部上に抗原結合部位を含有し、これらの部位は、それと同じアミノ酸配列と対応する。
【0031】
本発明の更なる実施態様においては、免疫グロブリンは、そのHポリペプチド鎖が、可変部(VHH)及びRoitt らの定義による定常部(CH)を含むが、その定常部の第1のドメインが欠落していることを特徴とする。定常部の第1のドメインはCH1と呼ばれる。
【0032】
H1ドメインを有さないこれらの免疫グロブリンは、それらの鎖の可変部が、可変部のC末端部においてヒンジ部と直接結合しているものである。
【0033】
上述したタイプの免疫グロブリンは、G型免疫グロブリン及び特に、クラス2の免疫グロブリン(IgG2)又はクラス3の免疫グロブリン(IgG3)と定義される免疫グロブリンを含むことができる。
【0034】
L鎖及び第1定常ドメインの欠落により、Roitt らによる酵素消化により得られる免疫グロブリン断片の名称が変化する。
【0035】
パパイン及びペプシン消化断片にそれぞれ対応する、一方ではFc及びpFcの語、他方ではFc′及びpFc′の語は維持される。
【0036】
Fab F(ab)2F(ab′)2Fabc、Fd及びFvの語は、その本来の意味ではもはや適用されない。これらの断片は、L鎖、L鎖の可変部、又はCH1ドメインのいずれかを有するからである。
【0037】
パパイン消化により得られ、VHHドメイン及びヒンジ部からなる断片は、それらがジスルフィド結合により結合されたままでいるかどうかにより、FVHHh又はF(VHHh)2と呼ばれるであろう。
【0038】
本発明の別の実施態様においては、上記の定義にあてはまる免疫グロブリンは、動物、特にラクダ科の動物に由来することができる。本発明者らは、ラクダに存在するH鎖免疫グロブリンは、4本鎖免疫グロブリンに関しては、異常抗体の生産を誘導する病理学的状態とは、関連していないことを発見した。旧世界のラクダ(Camelus bactrianus及びCamelus dromaderius )及び新世界のラクダ(例えば、Lama Paccos, Lama Glama 及びLama Vicugna)の比較研究に基づいて、本発明者らは、Lポリペプチド鎖の欠落した本発明の免疫グロブリンが、あらゆる種に認められることを示した。しかし、動物によりこれらの免疫グロブリンの分子量には、違いがあると考えられる。特に、これらの免疫グロブリンに含まれるH鎖の分子量は、約43kdから約47kdまでであり、特に45kdである。
【0039】
有利なことに、本発明のH鎖免疫グロブリンは、ラクダの血液中に分泌される。
【0040】
本発明の詳細な実施態様による免疫グロブリンは、ラクダの血清から精製により得ることができ、精製法は、実施例中に詳細に記載されている。免疫グロブリンをラクダから得る場合、本発明は、その自然の生物学的環境にはない免疫グロブリンに関する。
【0041】
本発明によると、ラクダの血清から精製により得られるような免疫グロブリンIgG2は、以下の点を特徴とする:−クロマトグラフィーによってプロテインGセファロースカラムには吸着されず、−クロマトグラフィーによってプロテインAセファロースカラムに吸着され、−pH4.5の緩衝液(0.15M NaCl、0.58%酢酸、NaOHによりpH4.5に調整)による溶離後、約100kdの分子量を有し、−還元後、分子量約46kd、好ましくは45のHγ2ポリペプチド鎖からなる。
【0042】
本発明の更なる実施態様によると、ラクダの血清から精製により得られるような、IgG3に対応する別の群の免疫グロブリンは、以下の点を特徴とする:
【0043】
本免疫グロブリンは、−クロマトグラフィーによりプロテインAセファロースカラムに吸着され、−pH3.5の緩衝液(0.15M NaCl、0.58%酢酸)による溶離後、約100kdの分子量を有し、−クロマトグラフィーによりプロテインGセファロースカラムに吸着され、pH3.5の緩衝液(0.15M NaCl、0.58%酢酸)により溶離され、−還元後、分子量約45Kd、特に43から47Kdの間の分子量のHγ3ポリペプチド鎖からなる。
【0044】
しかし、L鎖の欠落した本発明の免疫グロブリンはそのH鎖上に、定常部及び可変部を有する。定常部は種々のドメインからなる。
【0045】
本発明の免疫グロブリンの可変部は、枠組み構造(FW)及び相補性決定部位(CDR)、特に4個の枠組み構造及び3個の相補性部位からなる。これは、特に、この可変部自体が1箇所又は数箇所の抗原結合部位を有し、存在しないL鎖の可変部による寄与はないという事実のために、4本鎖免疫グロブリンとは区別される。枠組み構造1及び4のアミノ酸配列は、それらの中に以下から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含む:枠組み構造1のドメイン枠組み構造4のドメインCDR3ドメイン上述したように、本発明の免疫グロブリンは、そのCH1ドメインの全体を欠落しているのが好ましい。このような免疫グロブリンは、そのヒンジ部に関しては、C末端部においてCH2及びCH3ドメインからなる。本発明の詳細な実施態様によると、免疫グロブリンの定常部は、以下から選択されるアミノ酸配列を含むCH2及びCH3ドメインを含む:CH2ドメインCH3ドメイン
【0046】
興味深いことに、本発明者らは、本発明の免疫グロブリンのヒンジ部が、可変である長さを示すことを示した。これらの免疫グロブリンが抗体として作用する場合、ヒンジ部の長さは、抗原結合部位を分離する距離の決定に関与する。
【0047】
本発明による免疫グロブリンは好ましくは、そのヒンジ部が0から50個のアミノ酸からなることを特徴とする。
【0048】
特に、本発明の免疫グロブリンのヒンジ部の配列は、以下の通りである。
【0049】
短いヒンジ部はIgG3分子に対応し、長いヒンジ配列はIgG2分子に対応する。
【0050】
H鎖免疫グロブリン由来の分離されたVHH又はH鎖免疫グロブリンに対応するVHHライブラリは、H鎖免疫グロブリンを特徴づける配列特性に基づいて、4本鎖モデル免疫グロブリンのVHHクローニングからは区別することができる。
【0051】
ラクダのH鎖免疫グロブリンVHH部は、試験を行ったあらゆる種から得られた4本鎖免疫グロブリンから得られたVHH部とは、多数の相違点を示す。VHH/VL 相互作用に関連する残基の位置においては、4本鎖免疫グロブリンにおいてはほぼ常にロイシンであり(98%)、この位置における他のアミノ酸はプロリン(1%)及びグルタミン(1%)である45位(FW)の位置において、重大な相違が認められる。
【0052】
ラクダのH鎖免疫グロブリンにおいては、現在調査した配列では、45位にロイシンが1度だけ認められている。これは、4本鎖免疫グロブリンに由来するものであろう。他の場合、この位置はアルギニン、システイン又はグルタミン酸残基により置換されている。この位置に荷電アミノ酸が存在することにより、VHHがより可溶性になっているはずである。ラクダの45位におけるような特定の残基による置換は、4本鎖免疫グロブリンのVHHレパートリーから得られる、工学的に作り出されるVHH部の構築には興味深いと考えられる。
【0053】
ラクダのVHHドメインに特異的である第2の特徴は、CDR131位若しくは33位におけるシステインと関連するCDR3部又はFW2部45位においてシステインが高頻度に存在することである。CDR3部と残りの可変ドメインとの間にジスルフィド結合を確立する可能性が、結合部位の安定性及び位置決定に関与する。
【0054】
ひとつの病原性骨髄腫タンパク質(DAW)を除いて、このようなジスルフィド結合は、4本鎖免疫グロブリンから得られる免疫グロブリンV領域においてはこれまで遭遇されたことがない。
【0055】
本発明のH鎖免疫グロブリンは更に、粘着性ではないという特有の利点を有する。したがって、血清中に存在するこれらの免疫グロブリンは、分離された4本鎖免疫グロブリンのH鎖よりもはるかに凝集しにくい。本発明の免疫グロブリンは、0.5mg/ml以上、好ましくは1mg/ml以上、そしてより有利には2mg/ml以上の濃度で溶ける。
【0056】
これらの免疫グロブリンは更に、広範な抗原結合レパートリーを有し、in vivo(生体内)において親和性及び特異性成熟を受ける。したがって、これらにより、所定の抗原に関し、定義された特異性を有する抗体の分離及び調製が可能となる。
【0057】
本発明の免疫グロブリンの別の興味深い特性は、これらを修飾し、特にヒトにも適用され得るという点である。特に、これらの免疫グロブリンの定常部の全部又は一部を、ヒト抗体の定常部の全部又は一部と置換することが可能である。例えば、免疫グロブリンのCH2及び/又はCH3ドメインは、IgGγ3ヒト免疫グロブリンのCH2及び/又はCH3ドメインと置換することができる。
【0058】
このようにヒト対応抗体においては、可変配列の一部、つまり結合部位において介在しない1個又はそれ以上の枠組み構造残基の一部を、ヒト枠組み構造残基又はヒト抗体の一部と置換することも可能である。
【0059】
反対に、H鎖免疫グロブリンVHH部の主要部(特にペプチド断片)を、例えば免疫グロブリンのより高い溶解性を達成する目的で、4本鎖免疫グロブリン由来のVH又はVL部に導入することができる。
【0060】
本発明は更に、上述した免疫グロブリンの断片及び特に以下の群:−L鎖欠落免疫グロブリンの1本のHポリペプチド鎖に対応する断片、−本発明の免疫グロブリンの酵素消化により得られる断片、特にパパインによる部分消化によりFc断片(定常断片)及びFVHHh断片(H鎖の抗原結合部位を含有する)に至る断片若しくはその二量体F(VHHh)2、又はFc断片をパパインにより更に消化することによって得られる、Fc断片のC末端部に対応するpFc断片に至る断片、−その他のタンパク分解酵素により得られる相同断片、−免疫グロブリンの可変部の少なくとも10個、好ましくは20個のアミノ酸の断片、又は完全可変部、特に分離されたVHHドメイン又はヒンジジスルフィドに結合したVHH二量体に対応する断片、−免疫グロブリンのヒンジ部又はこのヒンジ部の少なくとも6個のアミノ酸に対応する断片、−Pro−Xの反復配列を含むヒンジ部の断片、−免疫グロブリンの定常部の少なくとも10個、好ましくは20個のアミノ酸又は完全定常部に対応する断片より選択される断片に関する。
【0061】
本発明はまた、少なくとも3回のPro−Xの反復を含む、Pro−Xの反復配列を含む断片に関し、ここでXは何れかのアミノ酸、そして好ましくはGln(グルタミン)、Lys(リジン)又はGlu(グルタミン酸)であり、特定の反復断片は、Pro−Xの配列の12回反復からなる。
【0062】
このような断片は、異なる型の分子の間の連鎖として使用することができる。
【0063】
Pro−X配列のアミノ酸は、あらゆる天然又は非天然アミノ酸から選択される。
【0064】
断片は、免疫グロブリンの酵素分解により得られる。これらはまた、免疫グロブリンをコードするヌクレオチド配列の細胞又は生物における発現により得ることができ、或いは化学的に合成することもできる。
【0065】
本発明はまた、H鎖免疫グロブリンクラスに属する抗イディオタイプ抗体に関する。このような抗イディオタイプは、ヒト又は動物のイディオタイプに対して生産することができる。これらの抗イディオタイプの特性は、特に、糖タンパク質又は糖脂質に対する免疫接種のためのイディオタイプワクチンとして、及び炭水化物がエピトープを決定する場合に、これらのイデイオタイプを使用することができるというものである。
【0066】
本発明はまた、H鎖免疫グロブリンのイディオタイプを認識することのできる抗イディオタイプに関する。
【0067】
このような抗イディオタイプ抗体は、同型抗体又は同種若しくは異種抗体のいずれかであることができる。
【0068】
本発明はまた、以下:より選択されるペプチド配列を含むアミノ酸配列のタンパク質の全部又は一部をコードするヌクレオチド配列に関する。
【0069】
このようなヌクレオチド配列は、遺伝子コードのデネネラシー(deneneracy)を考慮して、アミノ酸配列から推定することができる。これらは合成又は本発明の免疫グロブリンを産生する細胞から分離することができる。このようなDNA配列を得る方法は、実施例中に記載する。
【0070】
本発明はまた、RNA、特にこれらのDNA配列に対応するmRNA配列を、及び対応するcDNA配列もまた意図するものである。
【0071】
本発明のヌクレオチド配列は更にまた、本発明の免疫グロブリンをコードするヌクレオチド配列を分離するための、DNA又はcDNAライブラリーの細胞内における検出又はスクリーニングに適当であるプライマーの調製に用いることができる。
【0072】
このようなヌクレオチド配列は、組換えベクターの調製、及びベクターに含まれるこれらの配列の、宿主細胞、特に細菌などの原核細胞又は真核細胞、そして例えばCHO細胞、昆虫細胞、ベロ(Vero)細胞などのサル細胞、又は他のあらゆる哺乳類細胞による発現に使用することができる。特に、本発明の免疫グロブリンはL鎖を欠落しているという事実のため、これらを真核細胞中に分泌させることが可能である。4本鎖免疫グロブリンでは必要であるBIPタンパク質の形成からなる工程を用いる必要がないからである。
【0073】
組換えDNA技術によりモノクローナル抗体又は免疫グロブリンを生産するための公知の方法が不適当であるのは、非常に多くの場合において、4本鎖免疫グロブリンの特定結合部位に対応するVH及びVLドメインを同時にクローン化する必要があるからである。
【0074】
本発明によるH鎖免疫グロブリンを産生する動物及び特にラクダ、並びに他の脊椎動物種は、その結合部位がVHHドメインのみに位置するH鎖免疫グロブリンを産生することができる。鎖の切断又は直接クローニングにより他の種において産生されるいくつかのH鎖免疫グロブリンとは違って、ラクダのH鎖免疫グロブリンは、in vivoにおいて広範囲な成熟を受ける。更にまた、これらのV部は自然に、VLの存在しない状態で機能するよう進化してきた。したがってこれらは組換えDNA技術によるモノクローナル抗体の産生には理想的である。特定抗原に結合するクローンの獲得は、非常に多数の組換え細胞を必要とする確率論的過程に依存しないため、はるかに広い範囲のレパートリーの試験が可能である。
【0075】
これは、任意に選択した組織又は細胞の型から得られたDNAを用いた非転位VHHレパートリーのレベル、或いはBリンパ球から得られたDNAを用いた転位VHHレパートリーのレベルにおいて行うことができる。しかし、あらかじめ適当なベクター中で増幅させまたはさせないで、抗体産生細胞からmRNAを転写及びcNDAをクローン化することはより興味深い。このため、すでに親和成熟を受けた抗体が獲得される。
【0076】
大きいレパートリーの試験が、触媒活性を有する抗体の探索には特に有用であることが判明するはずである。
【0077】
したがって本発明は、ヒンジ配列部分を含む方法で生成されるライブラリーを提供するものであり、ヒンジがVHHドメインに直接結合しているので、その認識は容易である。
【0078】
これらのライブラリーは、あらかじめPCRでの増幅をしまたはしないで、リンパ球からcDNAをクローン化することによって得ることができる。PCRプライマーは、5′プライマーについてはVHHのプロモーター、リーダー又は枠組み構造配列中に、そして3′プライマーについてはヒンジ、CH2、CH3、3′未翻訳部又はpolyAテール中に位置する。増幅物質のサイズの選択により、H鎖免疫グロブリンに限定されるライブラリーの構築が可能となる。
【0079】
特定の実施例においては、KpnI部位が構築されており、313から319位アミノ酸(CGC CAT CAA GGT AAC AGT TGA)と対応する以下の3′プライマーを、Sestryらにより記載されており、Xho部位を含むマウスVHHプライマーと接続させて使用する。
【0080】
これらのプライマーは、VHH部(マウス又はヒトサブグループIIIと関連する)、ヒンジ及びCH2のセクションを含むラクダH鎖免疫グロブリンのライブラリーを産する。
【0081】
別の実施例では、cDNAはその5′末端でポリアデニル化され、マウスの特定のVHHプライマーは、ヌクレオチド12の位置に内蔵のXhoI部位と、ポリTプライマーによって置換される。CTCGAGT12KpnI部位を有する同じ3′プライマーを用いる。
【0082】
この方法により、免疫グロブリンの全てのサブグループを含むライブラリーが得られる。
【0083】
ヒンジ−CH2連鎖をとりまく領域をクローニングすることの興味は、γ2及びγ3の両方において、Sac部位がヒンジの直後に存在することにある。この部位は、VHH及びヒンジをコードする配列を、他の免疫グロブリンのFc領域、特にこの部位において同一のアミノ酸配列(Glu246Leu247)を有するヒトIgG1及びIgG3にグラフトすることを可能とする。
【0084】
その例としては、本発明は、以下の工程により得られるようなH鎖免疫グロブリンをコードするヌクレオチド配列からなるcDNAライブラリーを意図する:a)リンパ細胞を分離するために、特にラクダから選択される健康な動物から、リンパ細胞、特に末梢リンパ球、脾細胞、リンパ節又は別のリンパ様組織を含む試料を処理し、b)細胞の他の核酸及び成分からポリアデニル化RNAを分離し、c)対応するcDNAを得るために、得られたRNAを逆転写酵素と反応させ、d)マウスの4本鎖免疫グロブリンのVHドメインに対応する5′プライマーであって、所定の制限部位、例えばXhoI部位を含有するプライマー及びKpnI部位を含有するCH2ドメインのN末端部に対応する3′プライマーを、工程c)のcDNAと接触させ、e)DNAを増幅し、f)ベクター中、特にブルースクリプトベクターにおいて、増幅された配列をクローン化し、g)分離されたH鎖免疫グロブリンから得た定常ドメインをコードする配列に対応するプローブとハイブリッド形成するクローンを回収する。
【0085】
このクローニングにより、ヒンジをコードする配列を含むDNA配列を含有するクローンが生じる。したがって、免疫グロブリンのサブクラス及び、FVHHhのFc領域へのグラフトに有用なSacI部位の特徴付けが可能となる。
【0086】
H鎖免疫グロブリンをコードする配列は、CH1ドメインの欠如と適合する大きさを有するDNA配列を含むクローンを選択することによっても回収される。
【0087】
本発明の別の実施態様によると、上記の方法の工程c)及びd)の間に以下の:−DNAポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオチドトリホスフェートの存在下では、その配列が免疫グロブリンのヒンジ部及びN末端VHHドメインをコードする能力を有する、オリゴヌクレオチド変性プライマーであって、cDNAとのハイブリッド形成能及び、鋳型として使用するcDNAに相補的であるDNA配列のエクステンションの開始能を有するプライマーに該cDNAを接触させ、−増幅されたDNAを回収する工程を加えることが可能である。
【0088】
クローンは、数種類の発現ベクターで発現することができる。市販のベクター、イムノPBS(Immuno PBS)(Huse et al: Science (1989) 246, 1275)を用いた例として、上記の操作によりブルースクリプト(Bluescript)(登録商標)中で生産されるクローンを、同じXhoI含有5′プライマー及びSpe部位がTC TTAACT AGT GAG GAG ACG GTG ACC TG であるように構築されている免疫グロブリンの枠組み構造中の残基113−103に対応する新しい3′プライマーを用いて、PCRにより回収する。この操作により、イムノPBSベクターのXho/Spe部位におけるVHHのクローニングが可能となる。しかし、この遺伝子の3′末端は、ベクターの認識「タグ」及び終止コドンとは一致していない。これを一致させるには、構築物をSpeにより切断し、クレノーフラグメントを用いて、4個の塩基突出部を塞ぎ、その後ベクターを再連結する。更に精製するには、クローン化されたVHHの金属精製が行われるように、マーカー(「タグ」)をポリヒスチジンと置換する。これを行うには、6個のヒスチジン及び終止コドンをコードするSpe/EcoRI二重鎖オリゴヌクレオチドを、以下の両方の鎖の合成によりまず構築し、次に加熱とアニーリングを行う。
【0089】
挿入断片(insert)を含むベクターを次にSpeI及びEcoRIにより消化して、ポリHis/終止配列により置換することができる内在する「タグ」配列を除く。生成するVHHは、ヒトコブラクダのVHH部に対する抗体を用いて等しく検出することができる。実験的条件下では、VHH部は、イムノPBSベクター中に1リットル当たりmg程度の量で生成される。
【0090】
本発明はまた、転移免疫グロブリン遺伝子を有する細胞から得られるようなH鎖免疫グロブリンをコードするヌクレオチド配列からなるDNAライブラリーに関する。
【0091】
本発明の好ましい実施態様においては、本ライブラリーは、所定の抗原によりあらかじめ免疫化された動物から得た細胞から調製される。このため、免疫化のために使用する抗原に対してあらかじめ選択された特異性を有する抗体の選択が可能となる。
【0092】
本発明の別の実施態様においては、cDNAの増幅は、cDNAのクローニングの前には行わない。
【0093】
4本鎖免疫グロブリンのH鎖は、それがL鎖と結合するまではシャペローンタンパク質(BIP)により細胞内に捕獲されている。シャペローンタンパク質への結合部位は、CH1ドメインである。H鎖免疫グロブリンにこのドメインが存在しない場合、その分泌は、BIPタンパク質又はL鎖の存在とは独立している。本発明者らは更に、得られる免疫グロブリンが粘着性を有さず、従って異常に凝集しないことを認めている。
【0094】
本発明はまた、所定の抗原に向けられたモノクローナル抗体であって、その抗体の抗原結合部位はHポリペプチド鎖からなり、更にLポリペプチド鎖を欠落している抗体を製造する方法であって、−例えば、あらかじめ所定の抗原により免疫されたラクダの末梢血から得たリンパ球を、不朽細胞、そして好ましくは骨髄腫細胞により不朽化して、ハイブリドーマを形成し、−形成された不朽化細胞(ハイブリドーマ)を培養し、所望の特異性を有する抗体を産生する細胞を回収することからなる、抗体を製造する方法に関する。
【0095】
抗体の製造は、あらかじめラクダを免疫化せずに行うこともできる。
【0096】
抗体を製造する別の方法によると、ハイブリドーマ細胞の技術に頼る必要はない。
【0097】
このような方法によると、抗体は、in vitro(生体外)で製造され、−リンパ球、特にあらかじめ所定の抗原により免疫されたラクダのPBLから得られたDNA又はcDNAを、ベクター中、特にファージ、そしてより詳細にはフィラメント状バクテリオファージ中でクローン化し、−抗体産生を可能とする条件下で、上記のベクターにより原核細胞を形質転換し、−そのH鎖構造に関する抗体を選択し、それらを更に抗原親和性選択操作にかけ、−所望の特異性を有する抗体を回収する工程からなる方法によって得ることができる。
【0098】
本発明の別の実施態様によると、クローニングは、ベクター中、特に細菌膜タンパク質をコードするプラスミド中で行われる。次に原核細胞を、その膜中で抗体の発現を可能とする条件下で、上記のベクターにより形質転換する。
【0099】
陽性細胞を更に抗原親和性選択により選択する。
【0100】
H1ドメインを含まないH鎖抗体は、この点に関し、明確な利点を示す。CH1ドメインは事実、真核ベクター内に存在するBIP型シャペローンタンパク質と結合し、L鎖が存在しない限り、H鎖は、小胞体から外へ運搬されない。これは、真核細胞では、酵母細胞などの非哺乳類細胞の4本鎖免疫グロブリンの有効なクローニングは、内在するBIP型シャペローンの特性に依存し、従って、これを成功させることは非常に困難である。この点に関し、CH1ドメインの欠落した本発明のH鎖抗体は、特徴的な利点を示す。
【0101】
本発明の好ましい実施態様においては、酵母の抗体産生又は代謝の変更のいずれかのため、酵母においてクローニングを実施することができる。例としては、Yep52ベクターを使用することができる。このベクターは、選択マーカーLeu2と共に、酵母の2μの複製(ORI)起源を有する。
【0102】
クローン化された遺伝子は、gal1プロモーターの制御下にあり、したがってガラクトースにより誘導される。発現は更に、誘導前の非常に高濃度の細胞の獲得を可能とするグルコースにより抑制される。
【0103】
上述したようなPCRによる遺伝子産生の同じ方法を用いての、BamHI部位及びSalI部位の間のクローニングにより、E. coli におけるラクダ免疫グロブリン遺伝子のクローニングが可能となる。抗体によって得られ、酵母について提唱されているような代謝調節の例としては、サイクリン、つまり酵母の細胞周期の調節に関与するタンパク質に向けられた抗体のクローニングを挙げることができる(TIBS 16 430 J.D. McKinney, N. Heintz 1991)。別の例は、酵母のゲノム内で誘導される(例えば、gal1)抗体である、CD28に向けられた抗体の遺伝子工学による導入である。CD28は細胞分裂の開始のレベルに関与し、したがって、この分子に対する抗体の発現により、細胞の増殖と、バイオリアクター中又は不朽化細胞を用いての生産法の最適化の有効な制御が可能となる。
【0104】
本発明のまた、別の実施態様においては、クローニングベクターはプラスミド又は真核ウイルスベクターであり、形質転換される細胞は、真核細胞、特に酵母細胞、哺乳類細胞、例えばCHO細胞つまりVero細胞などのサル細胞、昆虫細胞、植物細胞又は原生動物細胞である。
【0105】
このような場合に適用される操作に関するより詳細については、Marks et al, J. Mol. Biol. 1991, 222:581-597を参考とする。
【0106】
更にまた、本発明の免疫グロブリン又はその断片から始めて、新しい免疫グロブリン又は誘導体を調製することができる。
【0107】
したがって、上記の定義に対応する免疫グロブリンは、所定の抗原に対して調製することができる。本発明は特に、Lポリペプチド鎖の欠落したモノクローナル若しくはポリクローナル抗体又は、このような抗体を含み、そして所定の抗原、例えば細菌、ウイルス若しくは寄生体などの病原性物質の抗原に向けられた抗血清を提供するものである。それに対して抗体を調製することのできる抗原又は抗原性決定物質の例として、HIVウイルスの外層エンベロープ糖タンパク質、B型肝炎ウイルスの表面抗原などのウイルスのエンベロープ糖タンパク質又はそのペプチドが挙げられる。
【0108】
本発明の免疫グロブリンはまた、タンパク質、ハプテン、炭水化物又は核酸に向けられる。
【0109】
本発明による特定の抗体は、ガラクトシルα−1−3−ガラクトースエピトープに向けられる。
【0110】
本発明の免疫グロブリンにより更に、H鎖免疫グロブリン又はその断片と、毒素、酵素、薬物、ホルモンとの結合物などの結合生成物の調製が可能となる。
【0111】
例としては、骨髄腫免疫グロブリンエピトープを認識する抗原結合部位を有するH鎖免疫グロブリンと、アブリン(abrin)又はヤドリギレクチン毒素との結合物を調製することができる。このような構成物は、患者の特定の治療法に有用であろう。
【0112】
この結合物の別の有利な点は、Bacillus thuringiensis又はBacillus sphaericus の異なる血清型の毒素など、昆虫に特有の毒素を有する、昆虫の腸の抗原を認識するH鎖免疫グロブリンを調製することができる点である。植物にクローン化されたこのような構造物は、既存の細菌性毒素の特異性又は宿主域を増大させるために用いることができる。
【0113】
本発明はまた、それぞれのHポリペプチド鎖に様々な特異性を有する抗体を提唱するものである。これらの多機能性、特に二機能性抗体は、本発明の免疫ブロブリンの2個のH鎖又は本発明の免疫グロブリンの1個のH鎖を、4本鎖モデル免疫グロブリン断片と結合させることによって調製される。
【0114】
本発明はまた、薬物又はホルモンなどの生物学的物質の標的に使用することができる異種特異的抗体を提供するものである。より詳細には、これらは、細胞の限られたカテゴリーにホルモン又はサイトカインを選択的に標的とするために使用することができる。例としては、インターロイキン2(IL2)に対するネズミ又はヒト抗体及びCD4細胞に対するH鎖抗体の結合物が挙げられる。これは、そのIL2受容体を喪失しているCD4細胞を再活性化するのに使用することができよう。
【0115】
本発明のH鎖免疫グロブリンは、異種特異的抗体の調製にも使用することができる。これらは上述した方法で、異なる鎖の間のブリッジを還元し、通常の方法により異なる特性を有する2種類の抗体を再酸化することにより達成されるが、2種類の抗体を、例えばイムノpBSベクター中で連続クローニングすることによっても達成される。
【0116】
このような場合、Xho部位及びSpe部位の間からなるVHHドメインに対応する第1の遺伝子を上述したように調製する。次に、5′末端として、Spe部位を含有するプライマーを用い、3′末端として終止コドンとEcoRI部位を含有するプライマーを用い、類似した方法により第2の遺伝子を調製する。次にベクターをEcoRI及びXhoI部位により消化し、更に両方のVHH遺伝子をそれぞれXho/Spe及びSpe/EcoRIにより消化させる。
【0117】
連結後、両方の免疫グロブリン遺伝子を連続クローン化する。両方の遺伝子の間のスペーシングは、5′SpeIプライマー内での付加コドンの導入により増大させる。
【0118】
本発明の特定の実施態様においては、本発明によるIgG2免疫グロブリンのヒンジ部は、半剛性であり、したがってタンパク質のカップリングには適当である。このような適用の場合、タンパク質又はペプチドは、各種基質、特にリガンドに、スペーサーとして用いられるヒンジ部を介して連結される。有利なことに、断片は少なくとも6個のアミノ酸からなる。
【0119】
本発明によると、Xがアミノ酸、そして好ましくはGln、Lys又はGluであるPro−Xの反復配列、特に少なくとも3回、そして好ましくは12回の反復からなる断片を、タンパク質のリガンドへのカップリング又は異なるタンパク質ドメインの組み立てに使用することが興味深い。
【0120】
ヒンジ部又はその断片もまた、タンパク質のリガンドへのカップリング又は様々なタンパク質ドメインの組み立てに使用することができる。
【0121】
カップリングのための通常の技術が適当であり、クローン化された配列の組み立てによるタンパク質工学の技術が特に参考とされる。
【0122】
本発明による抗体は、in vitroにおける診断のための試薬として、又は造影技術により使用することができる。本発明の免疫グロブリンは、放射性同位元素、化学的若しくは酵素マーカー、又は化学発光マーカーにより標識することができる。
【0123】
特に、造影技術による免疫グロブリンによる検出又は観察の場合における例としては、テクニチウム、特にテクニチウム99などによる標識が有利である。この標識は、免疫グロブリン又はその断片によるカップリング操作による直接標識、或いはテクニチウムとの複合体の調製段階後の間接的標識に使用することができる。
【0124】
この他の興味深い放射活性標識としては例えばインジウム、そして特にインジウム111、又はヨウ素、特にI131、I125及びI123が挙げられる。
【0125】
これらの技術の記載には、フランス特許出願番号2649488号を参考とする。
【0126】
これらの出願においては、小さいサイズのVHH断片が、組織への浸透のためには、明らかに有利である。
【0127】
本発明はまた、上述の抗体の抗イディオタイプと反応するモノクローナル抗体に関する。
【0128】
本発明はまた、H鎖免疫グロブリンがクローン化された細胞又は生物に関する。このような細胞又は生物は、所望のあらかじめ選択された特異性を有する、又は特定のレパートリーに対応するH鎖免疫グロブリンを生産する目的で使用することができる。これらはまた、これらを発現する細胞の代謝を変える目的で生産することもできる。H鎖免疫グロブリンをコードする配列により形質転換された細胞の代謝を変更する場合、このように生産されたH鎖免疫グロブリンは、アンチセンスDNAと同様に使用される。アンチセンスDNAは通常、例えばトリパノソーマ又はその他の病原物質の可変表面抗原などのある種の遺伝子の発現の阻害に関与する。同様に、ある種のタンパク質又は酵素の産生又は活性は、同一細胞内でこのタンパク質又は酵素に対する抗体を発現することによって阻害することができる。
【0129】
本発明はまた、修飾された4本鎖免疫グロブリン又はその断片であって、そのVH部が、H鎖免疫グロブリンの特定配列又はアミノ酸、特にVHHドメインの配列により部分的に置換されている4本鎖免疫グロブリン又はその断片に関する。4本鎖免疫グロブリンの特定の修飾されたVHドメインは、VH部の45位のロイシン、プロリン又はグルタミンが、他のアミノ酸、そして好ましくはアルギニン、グルタミン酸又はシステインにより置換されていることを特徴とする。
【0130】
4本鎖免疫グロブリンの更に修飾されたVH又はVLドメインは、対合システインの導入による、CDRループの相互連結若しくはFW部への連結を特徴とし、ここでCDR部はCDR1及びCDR3の間から選択され、FW部はFW2部であり、特にここで導入されるシステインの一方は、FR2の31、33位又はCDR2の45位にあり、そしてもう一方はCDR3にある。
【0131】
特に、対合するシステインの導入は、CDR3ループがFW2又はCDR1ドメインと連結し、更に特にVHのCDR3のシステインが、FW2の31位若しくは33位、又はCDR2の45位でシステインと連結するほどのものである。
【0132】
本発明の別の実施態様においては、植物細胞が新しい特性又は増大した特性を獲得するために、本発明によるH鎖免疫グロブリンにより改変することができる。
【0133】
本発明のH鎖免疫グロブリンは、ガンの遺伝子治療のために、例えば腫瘍細胞に存在するタンパク質に向けられた抗体を用いることによって、使用することができる。
【0134】
このような場合、1又は2種のVHH遺伝子の発現は、パルボ又はアデノウイルス由来のベクターを用いて得ることができる。パルボウイルスは、病原性を欠くか、あるいは正常なヒト細胞にとってはほとんど病原性を示さないという事実及び、ガン細胞において容易に増殖し得るという事実を特徴とする(Russel S.J.1990, Immunol. Today II. 196-200) 。
【0135】
H鎖免疫グロブリンは、例えばネズミMVMウイルスの感染性プラスミド(pMM984)のHindIII/XbaI部位内においてクローン化され(Merchlinsky et al. 1983, J. Virol. 47, 227-232)、そしてMVM38プロモーターの制御下におかれる。
【0136】
HHドメインの遺伝子は、開始コドン及びHindIII部位を含有する5′プライマー、終止コドン及びXbaI部位を含有する3′プライマーを用いて、PCRにより増幅される。
【0137】
この構築物を次に、プラスミド内の2650位(HindIII)及び4067位(XbaI)の間に挿入する。
【0138】
クローニングの有効性は、トランスフェクションによりチェックすることができる。抗体を含有するベクターを次に、トランスフェクションにより許容される細胞(NB−E)中に導入する。
【0139】
細胞を2日後に回収し、VHH部の存在を、VHH部と反応するウサギ抗血清を用いてELISA法により決定する。
【0140】
更に本発明により、異なる方法による触媒抗体の調製が可能となる。基質の活性状態をミミックする成分に向けられた抗体の産生(例えば、そのホスホエステラーゼ活性を得るために、ホスファートの活性状態をミミックする成分としてのバナデート、プロテアーゼを得るために、ペプチド結合をミミックする化合物としてのホスホナート)により、触媒能を有する抗体を得ることが可能となる。このような抗体を得るための別の方法は、抗体のクローン中で、例えばPCRにより無作為突然変異誘発を行い、クローンの増殖の間に異常塩基を導入することからなる。PCRにより得られるこれらの増幅断片を次に適当なクローニング用ベクター内に導入する。細菌表面におけるこれらの発現は、酵素活性を有するクローンの、基質による検出を可能とする。これらの2種類の方法はもちろん、組み合わせても良い。最後に、構造に関して得られるデータ、例えばX線結晶学又はNMRにより得られるデータに基づいて、修飾を指示することができる。これらの修飾は、遺伝子工学の通常の技術又は完全合成により行うことができる。本発明のH鎖免疫グロブリンのVHHの利点は、これらが充分な溶解性を有するという点である。
【0141】
本発明のH鎖免疫グロブリンは更に、植物細胞、特にトランスジェニック植物において産生することができる。例としては、H鎖免疫グロブリンは、古典的な4本鎖抗体について記載されている(Hiat et al. Nature 34276-78, 1989)ような重要な植物発現ベクターであるpMon530プラスミド(Rober et al. MethEnzym 1531566 1987) を用い、上述したような適当なPCRプライマーを用い、正しいフェーズでDNA断片を発生させて、植物中で生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1A】プロテインA及びプロテインGセファロース(ファルマシア(Pharmacia)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによるラクダIgGの特徴付け及び精製(A)は、Calemus dromedarius 血清の吸着及び非吸着分画の還元後のSDS−PAGEタンパク質の特性を示す。プロテインAに吸着され、NaCl 0.15M酢酸0.58%により溶離された分画は、還元(レーンc)により、それぞれ50、46及び43Kdの3本のH鎖成分及びL鎖を示す(レーンa中ウサギIgG)。アルブミン結合部を削除するよう処理されたプロテインGセファロース(Pharmacia)誘導体に吸着され、pH2.7の0.1M gly HClにより溶離された分画(レーンe)は、非吸着分画(レーンf)中で回収される46KdのH鎖を欠落している。これらの成分のいずれも、プロテインAに吸着されない分画には存在せず(レーンd)、レーンbは、分子量マーカーを含む。
【図1B】(B)及び(C)分画溶離により、50及び43KdのH鎖を含有する免疫グロブリンを分離することができる。C. dromadariusの血清5mlをプロテインGセファロースカラム5mlに吸着させ、カラムをpH7.0の20mMリン酸緩衝液により広範囲に洗浄する。pH3.5の緩衝液(0.15M NaCl、0.58%酢酸)による溶離によって、100Kdの成分が溶離され、これを還元することによって43KdのH鎖(レーン1)が得られる。カラムの溶離液の吸収が、バックグラウンドのレベルにまで低下した後、pH2.7の緩衝液(0.1MグリシンHC)により170Kdの第2の免疫グロブリン成分が溶離される。この分画を還元することによって、50KdのH鎖及び板状のL鎖バンド(レーン2)が得られる。プロテインGに吸着されない分画を次にプロテインAセファロースカラム5mlに供する。洗浄及びpH3.5の緩衝液(0.15M NaCl、0.58%酢酸)による溶離後、46KdのH鎖のみからなる、100Kdの第3の免疫グロブリンが得られる(レーン3)。
【図1C】(B)及び(C) 分画溶離により、50及び43KdのH鎖を含有する免疫グロブリンを分離することができる。C. dromadariusの血清5mlをプロテインGセファロースカラム5mlに吸着させ、カラムをpH7.0の20mMリン酸緩衝液により広範囲に洗浄する。pH3.5の緩衝液(0.15M NaCl、0.58%酢酸)による溶離によって、100Kdの成分が溶離され、これを還元することによって43KdのH鎖(レーン1)が得られる。カラムの溶離液の吸収が、バックグラウンドのレベルにまで低下した後、pH2.7の緩衝液(0.1MグリシンHC)により170Kdの第2の免疫グロブリン成分が溶離される。この分画を還元することによって、50KdのH鎖及び板状のL鎖バンド(レーン2)が得られる。プロテインGに吸着されない分画を次にプロテインAセファロースカラム5mlに供する。洗浄及びpH3.5の緩衝液(0.15M NaCl、0.58%酢酸)による溶離後、46KdのH鎖のみからなる、100Kdの第3の免疫グロブリンが得られる(レーン3)。
【図2A】還元前(A)及び還元後(B)にSDS−PAGE上で分析したプロテインA(Aレーン)及びプロテインG(Gレーン)へのCamelus bactrianus、Lama vicugna、Lama glama及びLama pacosの免疫グロブリン異なる種から得られた血清10μlを、pH8.3の免疫沈降緩衝液(NaCl0.2M、トリス(Tris)0.01M;EDTA 0.01M、トリトン(Triton)X100 1%、卵白アルブミン 0.1%)400μlに懸濁したプロテインA又はプロテインGセファロース10mgを含むエッペンドルフ(Eppendorf)(登録商標)管に加えた。管をゆっくりと4℃で2時間回転させた。遠心分離後、ペレットを緩衝液で3回、そしてトリトン及び卵白アルブミンを除いた緩衝液で1回洗浄した。次にペレットを、ペレット当たり70μlのSDS−PAGE試料溶液中に、還元剤としてジチオトレイトールと共に又は用いずに再懸濁した。100℃で3分間沸騰させた後、管を遠心分離し、上清を分析した。試験を行った全ての種において、非還元分画(A)は、約170Kdの分子の他に、約100Kdのより小さな主要成分を含んでいた。還元試料(B)においては、成分としてH及びL鎖が検出される。あらゆる種において、H鎖成分(アステリスク*により強調)は、プロテインAから溶離した物質中に存在するが、プロテインGから溶離した物質中には存在しない。
【図2B】還元前(A)及び還元後(B)にSDS−PAGE上で分析したプロテインA(Aレーン)及びプロテインG(Gレーン)へのCamelus bactrianus、Lama vicugna、Lama glama及びLama pacosの免疫グロブリン異なる種から得られた血清10μlを、pH8.3の免疫沈降緩衝液(NaCl0.2M、トリス(Tris)0.01M;EDTA 0.01M、トリトン(Triton)X100 1%、卵白アルブミン 0.1%)400μlに懸濁したプロテインA又はプロテインGセファロース10mgを含むエッペンドルフ(Eppendorf)(登録商標)管に加えた。管をゆっくりと4℃で2時間回転させた。遠心分離後、ペレットを緩衝液で3回、そしてトリトン及び卵白アルブミンを除いた緩衝液で1回洗浄した。次にペレットを、ペレット当たり70μlのSDS−PAGE試料溶液中に、還元剤としてジチオトレイトールと共に又は用いずに再懸濁した。100℃で3分間沸騰させた後、管を遠心分離し、上清を分析した。試験を行った全ての種において、非還元分画(A)は、約170Kdの分子の他に、約100Kdのより小さな主要成分を含んでいた。還元試料(B)においては、成分としてH及びL鎖が検出される。あらゆる種において、H鎖成分(アステリスク*により強調)は、プロテインAから溶離した物質中に存在するが、プロテインGから溶離した物質中には存在しない。
【図3A】健康な又はTrypanosama evansiに感染したCamelus dromedarius から得た血清より、IgG1、IgG2及びIgG3を調製し(CATT力価 1/160)(3)、放射免疫沈降又はウエスタンブロッティング法により抗トリパノソーマ活性について分析した。(A)35Sメチオニンにより標識したTripanosome evansi抗原溶解産物(500,000カウント)を、プロテイナーゼ阻害剤として0.1M TLCKを含むpH8.3の免疫沈降緩衝液200μl中に、血清10μl又はIgG1、IgG2若しくはIgG320μg を含有するエッペンドルフ管に加え、4℃で1時間、ゆっくりと回転させた。次に管に、pH8.3の同じ緩衝液200μlに懸濁したプロテインAセファロース10mgを加え、4℃で更に1時間インキュベートした。洗浄及び15,000rpmで12秒間遠心分離した後、各ペレットを、DTTを含有するSDS−PAGE試料溶液75μlに再懸濁し、100℃で3分間加熱した。エッペンドルフミニヒュージ(Eppendorf minifuge)中15,000rpmで30秒間遠心分離した後、上清5μlを放射活性測定に供し、残りをSDS−PAGE及びフルオログラフィーにより分析した。試料5μl当たりのカウントを、各ラインに記す。
【図3B】(B)健康及びトリパノソーマ感染動物より得たIgG1、IgG2及びIgG320μg を、前還元又は加熱せずにSDS−PAGEにより分離した。分離した試料を次に、ニトロセルロース膜に電気移動させ、膜の一部をポンソーレッド(Ponceau Red)により染色し、タンパク質物質を局在化させ、残りをTST緩衝液(トリス(Tris)10mM、NaCl 150mM、トウイーン(Tween)0.05%)中、1%卵白アルブミンと共にインキュベートして、タンパク質結合部位をブロックした。ブロック後、膜を広範囲にTST緩衝液により洗浄し、35Sにより標識したトリパノソーマ抗原により2時間インキュベートした。広範囲に洗浄した後、膜を乾燥し、オートラジオグラフィーにより分析した。バックグラウンド及び非特異的結合を避けるため、標識したトリパノソーマ溶解産物を45μミリポアフィルターによりろ過し、ニトロセルロース膜に吸着させた健康なラクダ免疫グロブリン及び卵白アルブミンと共にインキュベートした。
【図3C】(B)健康及びトリパノソーマ感染動物より得たIgG1、IgG2及びIgG320μg を、前還元又は加熱せずにSDS−PAGEにより分離した。分離した試料を次に、ニトロセルロース膜に電気移動させ、膜の一部をポンソーレッド(Ponceau Red)により染色し、タンパク質物質を局在化させ、残りをTST緩衝液(トリス(Tris)10mM、NaCl 150mM、トウイーン(Tween)0.05%)中、1%卵白アルブミンと共にインキュベートして、タンパク質結合部位をブロックした。ブロック後、膜を広範囲にTST緩衝液により洗浄し、35Sにより標識したトリパノソーマ抗原により2時間インキュベートした。広範囲に洗浄した後、膜を乾燥し、オートラジオグラフィーにより分析した。バックグラウンド及び非特異的結合を避けるため、標識したトリパノソーマ溶解産物を45μミリポアフィルターによりろ過し、ニトロセルロース膜に吸着させた健康なラクダ免疫グロブリン及び卵白アルブミンと共にインキュベートした。
【図4A】プロテインAセファロースによるアフィニティークロマトグラフィーにより精製したラクダIgG3をパパインにより部分消化し、プロテインAセファロースにより分離する。精製IgG314mgを、EDTA2mMを含有するpH7.0の0.1Mリン酸緩衝液中に溶解した。これらを、5.104Mシステインにより活性化されたマーキュリーパパイン(タンパク質に対する酵素比1%)と共に37℃で1時間消化させた。その消化物は、過剰のヨードアセトアミド(4.102M)を添加してブロックした(13)。エッペンドルフ(ependorf)遠心分離機中、1500rpmで5分間、消化物を遠心分離後、パパイン断片をプロテインAセファロースカラム上で結合(B)及び非結合(NB)分画に分離した。結合分画をpH1.7の0.1MグリシンHCl緩衝液によりカラムから溶離した。
【図4B】プロテインAセファロースによるアフィニティークロマトグラフィーにより精製したラクダIgG3をパパインにより部分消化し、プロテインAセファロースにより分離する。精製IgG314mgを、EDTA2mMを含有するpH7.0の0.1Mリン酸緩衝液中に溶解した。これらを、5.104Mシステインにより活性化されたマーキュリーパパイン(タンパク質に対する酵素比1%)と共に37℃で1時間消化させた。その消化物は、過剰のヨードアセトアミド(4.102M)を添加してブロックした(13)。エッペンドルフ(ependorf)遠心分離機中、1500rpmで5分間、消化物を遠心分離後、パパイン断片をプロテインAセファロースカラム上で結合(B)及び非結合(NB)分画に分離した。結合分画をpH1.7の0.1MグリシンHCl緩衝液によりカラムから溶離した。
【図5】L鎖を欠落したIgG3分子モデルの構造図
【図6】・Hポリペプチド鎖を有し、L鎖を欠落した免疫グロブリンの、通常の4本鎖モデル免疫グロブリンに関する構造図・ヒンジ部の表示
【図7A】ラクダH鎖免疫グロブリンの17のVHHDNA配列
【図7B】ラクダH鎖免疫グロブリンの17のVHHDNA配列
【図7C】ラクダH鎖免疫グロブリンの17のVHHDNA配列
【図7D】ラクダH鎖免疫グロブリンの17のVHHDNA配列
【図8】E. coli からのラクダVHH21タンパク質の発現及び精製I ラクダにおけるH鎖抗体
【0143】
本発明の他の利点及び特徴は、以下に続く実施例及び図において明らかになるであろう。
【0144】
Camelus dromedarius の血清を、プロテインGセファロースに吸着させると、かなりの量(25−35%)の免疫グロブリン(Ig)が、溶液中に残留し、これはアフィニティークロマトグラフィーによりプロテインAセファロースに回収することができる(図1A)。プロテインGに吸着された分画は、低下していない見かけの分子量(MW)が170Kdである分子からなる固く結合した分画(25%)と、見かけの分子量100Kdを有するより弱く結合した分画(30−45%)に、別に溶離することができる(図1B)。170Kdの成分は還元により50KdのH鎖と大きな30KdのL鎖を生じる。100Kdの分画は全体的にL鎖を欠落しており、還元後、43Kdの見かけの分子量を示すH鎖のみからなると考えられる(図1C)。プロテインGと結合しない分画は、アフィニティークロマトグラフィーにより精製し、プロテインAカラムから第2の100Kdの成分として溶離することができ、これは還元後、46KdのH鎖のみからなると考えられる。
【0145】
L鎖の欠落したH鎖免疫グロブリンは、プロテインAに結合する分子の75%までを占める。
【0146】
3種類の免疫グロブリンはすべてプロテインAと結合するため、これらをIgG、つまりプロテインGと結合するIgG1(L鎖及びH鎖γ1(50Kd))、プロテインGと結合しないIgG2(H鎖γ2(46Kd))及びプロテインGと結合するIgG3(H鎖γ3(43Kd))とする。これらの3種類のサブ(クラス)が更に細分化される可能性もある。
【0147】
旧世界のラクダ(Camelus bactrianus及びCamelus dromedarius)及び新世界のラクダ(lama pacos、lama glama、lama vicugna)を比較研究した結果、試験を行ったすべての種でH鎖免疫グロブリンが、見かけの分子量及び比率に多少の差はあるにもかかわらず、認められることが示された。新世界のラクダは旧世界のラクダとは、構成成分であるH鎖が、見かけの分子量47Kd(図2)を有する大きなIgG3分子(プロテインGと結合するH鎖免疫グロブリン)を有する点で異なる。
【0148】
ラクダの血清にはH鎖免疫グロブリンが豊富であることは、免疫応答においてその役割が何であるのか、及び特にこれらが抗原結合特異性を有しているのかどうか、そしてそうである場合、そのレパートリーがどの程度のものであるかとの疑問を生じさせる。この疑問は、Trypanosoma evansiに感染したラクダ(Camelusdromedarius)から得た免疫グロブリンを試験することによって解決することができる。
【0149】
この目的のために、IgG1、IgG2及びIgG3の対応する分画を、健康なラクダの血清及びカード凝集試験(3)により測定した高抗トリパノソーマ力価を有するラクダの血清から調製した。放射免疫沈降法においては、広範なレパートリーの異質性及び複合性を示す感染ラクダ由来のIgG1、IgG2及びIgG3(図3A)が、35Sメチオニンにより標識されたトリパノソーマ溶解産物に存在する多数の抗原と結合することが示された。
【0150】
ブロッティング実験では、35Sメチオニンにより標識されたトリパノソーマ溶解産物は、感染動物から得られたSDS PAGE分離のIgG1、IgG2及びIgG3と結合する(図3B)。
【0151】
このため我々は、ラクダのH鎖IgG2及びIgG3が、真の抗原結合抗体であるとの結論を得た。
【0152】
免疫学的パラダイムによれば、広範囲な抗体レパートリーは、L及びH鎖可変V部レパートリーの結合によって生まれることが記載されている(6)。ラクダのH鎖免疫グロブリンは、このパラダイムと矛盾するようである。
【0153】
免疫グロブリンは、これらの極端な異質性を反映する複雑なI.E.F.(等電点電気泳動)パターンにより特徴づけられる。IgG2及びIgG3を構成する2本のH鎖が同一のものであるのかどうかを調べるために、等電点電気泳動(I.E.F.)パターンを、還元及び、アルキル化剤としてヨードアセトアミドを用いたアルキル化による鎖の分離前後で観察した。
【0154】
このアルキル化剤は、分子内に付加電荷を導入しないため、H鎖ホモ二量体の還元及びアルキル化により生じるモノマーは、二量体と実質的に同じ等電点を示すが、これらがH鎖ヘテロ二量体由来のものである場合、モノマーは多くの場合、異なるI.E.F.パターンを示すのに十分に異なる等電点を示すであろう。
【0155】
還元及びヨードアセトアミドによるアルキル化により、観察されるパターンは、Camelus dromedarius のIgG2及びIgG3については変化せず、これらの分子がそれぞれ、その由来する非還元分子と同じ位置に移動する2本の同一なH鎖からなることを示している。
【0156】
反対に、IgG1のI.E.F.パターンは還元後に完全に変化した。これは、各分子の等電点はL鎖とH鎖の等電点の結合によって決定され、分離後は各々異なった位置へ移動するからである。
【0157】
これらの知見により、H鎖のみにより広範囲なレパートリーが生じることが示され、L鎖の、有用な抗体レパートリーへの寄与に関する疑問が示される。この必要性を否定するのであれば、他のどのような役割を、L鎖は果たしているのであろうか。
【0158】
正常では、哺乳類の免疫グロブリンから分離したH鎖は、かなり凝集する傾向にあるが、H鎖のCH1ドメインに結合するL鎖(8、9)によってのみ溶解される。
【0159】
ヒト及びマウスにおいては、多数の突発性又は誘導された骨髄腫により、H鎖のみからなる病理学的免疫グロブリンが産生される(H鎖病)。このような骨髄種タンパク質のH鎖では、CH1及びVHHドメインが欠失している(10)。十分な長さのH鎖が、このような病理学的免疫グロブリンにおいてH鎖の分泌を引き起こさない理由は、Igの合成には、シャペローンタンパク質、免疫グロブリンH鎖結合タンパク質、又は正常ではL鎖によって置換されている(12)BIP(11)が関与するとの事実に由来すると考えられる。4本鎖モデル免疫グロブリンのL鎖の根本的な役割は、献身的なH鎖シャペローンのそれであり、L鎖レパートリーの出現は、進化におけるおまけにすぎないという可能性もある。
【0160】
ラクダのγ2及びγ3鎖は、正常な哺乳類のγ鎖よりもかなり短い。これは、CH1ドメインに欠失が起きたことを示唆している。旧世界及び新世界のラクダのγ2及びγ3免疫グロブリンのサイズの違いは、いくつかの進化の段階において、特にCH1ドメインにおいて欠失が起きたことを示唆している。II ラクダのH鎖免疫グロブリンには、CH1ドメインが欠落している。
【0161】
H鎖免疫グロブリンの一次構造を研究する際に従った方針は、タンパク質とcDNAの配列決定の組み合わせである。タンパク質配列決定は、各免疫グロブリンに特徴的な配列の範囲を認識するのに必要である。H鎖可変部レパートリー由来の免疫グロブリンのN−末端は、VHHサブグループ(H鎖の可変部)に関する情報をもたらすだけであり、クラス又はサブクラス認識に使用することはできない。これは、配列データは、内部の酵素又は化学的切断部位から得なければならないことを意味している。
【0162】
パパインによる消化と、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの組み合わせにより、各種断片の分離が可能となり、IgG3の一般的構造に関する情報が得られた。
【0163】
アフィニティークロマトグラフィーによりプロテインAセファロースに精製されたラクダ(Camelus dromedarius)のIgG3は、パパインにより部分的に消化され、消化物はプロテインAセファロースにより結合分画及び非結合分画に分離された。これらの分画を、還元及び非還元条件下でSDS PAGEにより分析した(図4)。
【0164】
結合分画は2個の成分、つまり28Kdの成分と14.4Kdの成分を、未切断又は部分切断物質の他に含有していた。これらはゲル電気泳動により(分離用19%SDS−PAGEゲルから)非還元条件下で良好に分離され、更に電気溶離(50nM重炭酸アンモニウム中、バイオラッド(BioRad)電気溶離装置を用い、0.1(重量/容積)%SDS)により精製した。これらの電気溶離された分画を凍結乾燥後、90%エタノールを添加し、混合し、混合物を−20℃で一夜インキュベートすることによって、タンパク質を沈澱させることによって、残存するSDSを除去した(14)。沈降したタンパク質を遠心分離(15,000rpm、5分間)によりペレットに集め、タンパク質配列決定に用いた。N−末端配列は、アプライドバイオシステム(Applied Biosystem)477Aパルス液体タンパク質シクエンサーの自動エドマン(Edman)ケミストリーを用いて行った。アミノ酸は、アプライドバイオシステム120PTH分析装置を用いて、そのフェニルチオヒダントイン(PTH)誘導体として確認した。化学物質及び試薬は全てアプライドバイオシステムから購入した。クロマトグラフィーのデータの分析は、アプライドバイオシステムソフトウエアバージョン1.61を用いて行った。全ての場合、コンピューターによる配列分析は、PTH分析装置からのクロマトグラムの直接検分により確認した。タンパク質配列決定のための試料は、50(容量/容量)%トリフルオロ酢酸(TFA)(28Kd断片)又は100%TFA(14Kd断片)のいずれかに溶解した。2,000pmol(28Kd断片)又は500pmol(14Kd断片)に相当する溶解したタンパクの試料は、TFA処理のグラスファイバーディスクに適用された。グラスファイバーディスクは、バイオブレーン(BioBrene)(3mg)で被覆し、使用前に一回前循環させた。
【0165】
28Kd断片のN−末端配列決定により、γCH2ドメインのN−末端部と相同である配列、従って、Fc断片のN−末端と相同である配列が得られる。14.4Kd断片のN−末端配列は、γCH2の最後のリジン及びγCH3ドメインのN−末端部と対応する(表1)。パパイン断片の分子量(MW)及びそのN−末端配列の確認により、γ3H鎖のCH2及びCH3ドメインの大きさは正常であり、欠失がCH1又はVHHドメインのいずれかに発生し、短縮されたγ3鎖が生成したとの結論が導かれた。プロテインAセファロースと結合しない分画は、SDSPAGEにより拡散する34及び17Kdの2個のバンドを含み、これらがこの分子の可変N−末端部由来であることを示している(図4)。
【0166】
還元により、17Kdの単一の拡散バンドが認められ、34Kdは、17Kd成分がジスルフィド結合した二量体であることが示される。この34Kdの断片は明らかに、ヒンジとN−末端ドメインVHHを含有している。
【0167】
タンパク質配列に関するデータは、cDNA又はゲノムDNAのPCRによる増幅を可能とする変性オリゴヌクオチドプライマーを構築するのに使用することができる。
【0168】
ラクダ脾インプリント細胞より得た細胞は、ウサギの抗ラクダ免疫グロブリン血清と反応し、したがって脾は少なくとも1種の免疫グロブリンクラスの合成の部位であることが示されている。
【0169】
したがってcDNAは、ラクダ脾mRNAから合成された。RNAの分離条件は、以下のとおりである:総RNAは、グアニジウムイソチオシアナート法によりヒトコブラクダの脾から分離した(15)。mRNAは、オリゴT−常磁性ビーズにより精製した。
【0170】
cDNAの合成は、1μg のmRNA鋳型、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素(ベーリンガーマン(BOERHINGER MAN))を用いて得る。第二鎖のcDNAは、供給者より与えられた条件に従ってRNAse H及びE. coli DNAポリメラーゼIを用いて得る。
【0171】
関連配列は、PCRにより増幅した:cDNA5ngを、鉱物油(シグマ(Sigma))に重ねた反応混合物(pH8.3のトリス(Tris)−HClを10mM、KClを50mM、MgCl2を15mM、ゼラチンを0.01%(重量/容積)、各dNTPを200μM、及び各プライマーを25pmol)100μl中でPCRにより増幅した。
【0172】
EcoRI及びKpnI部位を含有し、更にpUC 18中にクローン化されたプライマーを変性する。変性とアニーリング(94℃で5分間、54℃で5分間)の一巡後、Tag DNAポリメラーゼ2単位を反応混合物に加えてから、94℃で1分間(変性)、54℃で1分間(アニーリング)及び72℃で2分間(伸長)の増幅の35周期を受けさせた。VHH及びCH2ドメインの間のDNA配列(#72クローン)を増幅させるには、アニーリング温度を60℃に上昇させた以外は、同じ条件でPCRを行った。
【0173】
試験を行った1個のクローン(#56/36)は、28Kd断片の配列に等しいCH2ドメインのN−末端部に対応する配列を有していた。この配列データを利用した結果、正確な3′プライマーの構築と、VHHのN−末端部及びCH2ドメインの間の領域のクローニングが可能となった。
【0174】
マウスのVHH(16)と対応し、XhoI制限部位を含む5′プライマーを、KpnI部位が挿入された3′プライマーと組み合わせて使用し、かつその増幅配列は、pブルースクリプト(pBluescript)(登録商標)中でクローン化した。2個の内在HaeIII部位を示したクローン(#56/36)は、この酵素により消化されて、PCR陽性クローンを認識するプローブを産生した。
【0175】
増幅後、PCR生成物を、1.2%(重量/容積)アガロースゲルによりチェックした。PCR生成物の洗浄は、フェノールクロロホルム抽出と、その後のHPLC(ゲンパックファックス(GEN-PAC FAX)カラム、ウオーターズ(Waters))及び最後に適当であればマーメイド(MERMAID)又はジェネクリーン(GENECLEAN)IIキット、BIO 101を用いた精製の過程を含んだ。これらの精製の工程後、増幅されたcDNAを、#56シリーズのクローンについてはEcoRI及びKpnI及び#72シリーズのクローンについてはXhoI及びKpnIにより消化させた。最後のフェノール−クロロホルムによる抽出を、pUC 18(#56シリーズのクローン)又はpブルースクリプト(pBluescript)(登録商標)(#72シリーズのクローン)への連結の前に行った。
【0176】
得られたクローンはすべて、これらが完全なVHH及びCH1部を有している場合に予想される860塩基対よりも小さかった。VHH部のN−末端に対応する部分的な配列データにより、20クローン中3クローンが同一であり、非依存性ではない可能性があることが明らかになった。得られた配列は、ヒトサブグループIII並びにネズミサブグループIIIa及びIIIbと相似している(表2)。
【0177】
異なる2セットのCH2タンパク質配列に対応するクローンが得られた。第一の配列セット(#72/41)は、γ3H鎖の28Kdパパイン断片のタンパク質配列により得られるそれと同一のN−末端CH2部、3個のシステインを含有する短いヒンジ部、及びヒンジに隣接する、J小遺伝子(minigenes)によりコード化される枠組み構造(FR4)残基と対応する可変部を有していた。CH1ドメインは完全に欠落している。このcDNAは、γ3鎖と対応する(表4)。
【0178】
1個の非常に相関した配列(#72/1)においては、259位のプロリンがトレオニンにより置換されている。
【0179】
H3及びCH2の残存部に対応する配列は、KpnI制限部位が5′末端に挿入されているポリTをKpnIプライマーとして用いた、cDNAのPCRにより得られた。γ3鎖の全体的な配列は、分子量(MW)と対応し、これはSDS
【0180】
PAGE電気泳動により得られたデータと良く一致している。
【0181】
このγ3鎖の配列は、CH1ドメインが欠落していること、ヒンジにVHHドメインが隣接していること以外は、他のγ鎖との相似性を示す。
【0182】
1個又は3個全部のシステインは、2本のγ3鎖を共に保持するのに関与しているのであろう。
【0183】
これらの結果により、配列及びパパイン切断に基づくIgG3分子のモデルを定義することが可能となった(図5)。
【0184】
パパインは、ヒンジのジスルフィドの各端及びCH2とCH3の間において分子を切断することができる。非還元状態下では、IgG3のVHHドメインは、ジスルフィド結合した二量体又はパパイン切断部位に依存したモノマーとして分離することができる。
【0185】
クローン#72/29の第二のセットは、CH2に関してはわずかに異なる配列を有し、可変ドメインが直前にある非常に長いヒンジを特徴としていた。このヒンジ部は、γ3ヒンジと相同である配列中のC−末端部において3個のシステインを有している。このようなクローンの第二のセットは、IgG2のサブクラスを示すことができる。γ3の定常部及び又、推測上のγ2については、ほとんどのクローンが、γ2又はγ3に特異的な配列を示し、同一である。しかし、#72/1などのいくらかのクローンは、わずかな相違を示す。例えばクローン#72/1の場合、2か所のヌクレオチドの相違が検出されている。
【0186】
いくつかのVHH部cDNAは現在では、プライマー由来のN−末端部における短いストレッチの他は、全体的又は部分的に配列決定されている。
【0187】
大部分は翻訳により、内部VHH部内のジスルフィド架橋残基である22位及び92位の、特徴的なH鎖Ser21Cys22及びTyr90Tyr91Cys92配列を示す。これらのクローンはすべて、仮定のヒンジ配列の直前にある可変部の枠組み構造4(FR4)残基に対応する配列を有する(表3)。この配列は、J小遺伝子により生成されるものであり、多くの場合ヒト及びネズミのJ小遺伝子によりコードされている配列と相似している。
【0188】
Cys92部及びVHH部のC−末端部の間の配列の長さは、可変であり、決定された配列においては、長さを変えるJ及びD小遺伝子の再配列から予想されるように、25個から37個のアミノ酸の範囲で可変である。
【0189】
非病理学的状態におけるこれらのH鎖免疫グロブリンの単独での存在によって、いくつかの重要な質問が提議されている。まず、これらは真の抗体であるのか?
【0190】
トリプトソーマに感染したラクダから得られたH鎖免疫グロブリンは、これらの実施例のパートIで示したように、多数の寄生体抗原と反応する。これは、ラクダの免疫系が、単一のVHHドメインからなる多数の結合部位を発生させていることを意味する。これは、PCRにより得られたH鎖免疫グロブリンのVHH部の多様性により確認される。
【0191】
第二の疑問は、「これらがどのように分泌されるか?」である。4本鎖モデル免疫グロブリンからなる免疫グロブリンH鎖の分泌は、正常状態では起きない。シャペローンタンパク質、H鎖結合タンパク質又はBIPタンパク質が、H鎖が分泌されるのを妨げる。分泌が起きるのは、L鎖が小胞体中でBIPタンパク質と置き換わる時だけである(13)。
【0192】
いわゆる「H鎖疾患」を有するヒト又はマウスの血清に認められるH鎖二量体は、BIP部位をかくまうと考えられているCH1ドメインを欠落している(14)。このドメインが存在しない場合、BIPタンパク質はもはや結合することができず、H鎖の移動は妨げられない。
【0193】
ラクダにおいてIgG分子全体の25%から50%を占めるH鎖及びL鎖からなるIgG1クラスが存在することによって、どのように成熟しどのようにクラスの切替が起きるのか、及びL鎖がどのような役割を果たすのかに関する問題が生じる。ラクダのH鎖はSDS PAGEにおいて調べたところ、異常に大きく、異質であると考えられる。
【0194】
分離されるドメインの最大の大きさは40Åであり、従来のCH1及びVHHをもつIgGの結合部位の間で得られる最大スパンは、160Å(2VHH+2CH1)のオーダーであろう(19)。2種類の型の、すでに配列決定されているL鎖の欠落したH鎖抗体におけるCH1ドメインの欠失は、結果として、この最大スパンの変更を有する(図6)。IgG3においては、VHH部の末端間の最も遠く離れた距離は、80Åのオーダーであろう(2vHH)。これは、凝集又は架橋結合を行うには、厳しい限度である。IgG2においては、12回反復するPro−X(ここでXは、Gln、Lys又はGluである)の配列からなり、ヒンジジスルフィド架橋をN−末端に位置させているヒンジの極端に長いストレッチにより補償される。反対に、ヒトIgG3においては、配列の重複の結果生じたことが明らかである非常に長いヒンジは、2個の結合部位間距離の増大には寄与していない。このヒンジはジスルフィドブリッジが点在しているからである。
【0195】
単一のVHHドメインにより又、Fcドメインに対する結合部位の回転自由度がかなり大きくなる。
【0196】
単一の抗体産生細胞又は発現クローニング(15)により産生されるH鎖抗体におけるCH1の欠失によって生じたであろう骨髄腫H鎖とは違って、ラクダH鎖抗体(L鎖の欠落した)は、正常な免疫学的環境において出現し、これらがB細胞成熟にともない、特異性及び親和性における選択的精製を受けたのであろうと予想される。E. coli より得たラクダVHH21(図7のDR21)タンパク質の発現及び精製
【0197】
クローンは、数種の発現ベクターにおいて発現することができる。市販のベクターであるイムノ(Immuno)PBS(Huse et al: Science (1989)246, 1275)を用いた例としては、上述の操作によりブルースクリプト(登録商標)において産生されたクローンが、同一のXhoIを含有する5′プライマー、及びSpe部位がTC TTA ACT AGT GAG GAG ACG GTG ACC TG であるように構成されている免疫グロブリンの枠組構造における残基113−103に対応する新規3′プライマーを用いて、PCRにより回収されている。この操作により、イムノPBSベクターのXho/Spe部位におけるVHHのクローニングが可能となった。しかし、遺伝子の3′末端は、ベクターの認識「タグ」及び終止コドンと一致しなかった。これを達成するには、構築物をSpeにより切断し、4塩基の突起物をクレノー断片を用いて詰め、その後ベクターを再連結した。
−発現ベクタープラスミドipBS(イムノPBS)(層細胞)は、プロモーターpLACによる制御下で、E. coli における免疫グロブリン鎖の発現に用いられるペル(pel)Bリーダー配列、リボゾーム結合部位及び終止コドンを含む。更に、C−末端デカペプチドタグの配列も含む。
−ipBS−VHH21プラスミドをもつE. coli JM101 を、アンピシリン100μg/ml及びグルコース0.1%を含むTB培地1l中32℃で発育させた。OD550 1.0でIPTG 1mM(最終濃度)の添加により、発現を誘発した。28℃で一晩誘発した後、4,000gで10分間(4℃)遠心分離することにより細胞を集め、TES緩衝液(pH8.0のトリス−HCl 0.2M、EDTA0.5mM、ショ糖0.5M)10ml中に再懸濁した。懸濁物を氷上に2時間保持した。周辺質タンパク質を、水により1:4容積/容積に希釈したTES緩衝液20mlの添加による浸透ショックにより除去し、1時間氷上に保持し、その後12,000g、4℃で30分間遠心分離した。上清の周辺質分画を、pH8.8のトリス−HCl、NaCl 50mMにより透析し、ファストQセファロースフロー(ファルマシア(Pharmacia))カラムに適用し、上述の緩衝液により洗浄し、緩衝液中で50mMから1M NaClのグラジエントにより溶離した。
【0198】
HHタンパク質を含有する分画を更に、PBS緩衝液(pH7.2の0.01Mホスフェート、0.15M NaCl)により平衡化したスーパーデックス(Superdex)75カラム(ファルマシア(Pharmacia))により精製した。精製されたVHHタンパク質の収量は、細胞培養物1l当たり2〜5mgとまちまちである。−分画を、SDS−PAGE(I)により分析した。ラクダVHH抗体断片の陽性確認は、精製ラクダIgGH3に対して得られたウサギ抗体及び抗ウサギIgG−アルカリホスファターゼ複合物(II)を用いたウエスタンブロット分析法により行った。
【0199】
タンパク質標準物質(ファルマシア)としては、IPTG−誘導JM101/ipBSVHH21 1mlより調製された周辺質タンパク質を用いた。図8においては、C及びDは、ファストSセファロースカラムクロマトグラフィーにより得られた分画(C:NaCl 650mMで溶離、D:NaCl 700mMにより溶離)、E及びFはスーパーデックス(Superdex)75カラムクロマトグラフィーにより得られた分画を示す。
【0200】
ここに示されたように、主な不純物はイオン交換クロマトグラフィーにより除去され、残存する不純物の大部分は、ゲルろ過により除去される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の抗原を認識することができそして結合することができる2つの重ポリペプチド鎖を含むこと、及びその可変領域のアミノ酸配列が45位において荷電アミノ酸の中から選択されるか又はシステイン残基であるアミノ酸を含み、この免疫グロブリンが軽ポリペプチド鎖を欠くことを特徴とする、免疫グロブリン。
【請求項2】
ラクダ科のリンパ球又は他の細胞から得ることができるような軽鎖を欠く免疫グロブリンの配列をコードするDNA又はcDNAの原核生物又は真核生物宿主細胞における発現の産生物であることを特徴とする、請求項1に記載の免疫グロブリン。
【請求項3】
各重鎖の各可変領域が少なくとも1の抗原結合性部位を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の免疫グロブリン。
【請求項4】
ラクダ科の免疫グロブリンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫グロブリン。
【請求項5】
その定常領域の全部又は一部がヒト抗体の定常領域の全部又は一部によって置換されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫グロブリン。
【請求項6】
2つの重ポリペプチド鎖を含み、ポリペプチド鎖のそれぞれが異なる抗原を認識することができ、そして結合することができ、上記免疫グロブリンが軽ポリペプチド鎖を欠いていることを特徴とする、免疫グロブリン。
【請求項7】
目的の抗原を結合し、そして正常軽鎖相互作用部位を欠く重ポリペプチド鎖の可変領域を含むことを特徴とする、免疫グロブリン。
【請求項8】
抗原を認識することができ、そして結合することができる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫グロブリンの重鎖のポリペプチドに対応するフラグメント。
【請求項9】
残基が荷電アミノ酸又はシステイン残基である上記重鎖の位置45に対応するアミノ酸残基を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の免疫グロブリンの重鎖の可変領域の少なくとも10アミノ酸残基のフラグメント。
【請求項10】
少なくとも20アミノ酸残基を含む、請求項9に記載のフラグメント。
【請求項11】
抗原を認識することができ、そして結合することができる、免疫グロブリンの重鎖の可変領域である、請求項9又は10に記載のフラグメント。
【請求項12】
免疫グロブリンのヒンジ領域又はこのヒンジ領域の少なくとも6アミノ酸に対応するフラグメントであるか、又はXがGluを除く任意のアミノ酸であるPro−Xの配列の反復配列を含むヒンジ領域フラグメントであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の免疫グロブリンのフラグメント。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の免疫グロブリンの重ポリペプチド鎖の可変領域のフラグメントであって、CDR3ドメインを含み、そして上記重ポリペプチド鎖の位置45に対応するアミノ酸残基を含み、上記アミノ酸残基が、荷電アミノ酸及びシステイン残基からなる群から選択され、ここで、上記フラグメントが抗原に特異的な結合性部位を含む、フラグメント。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の免疫グロブリンの可変領域(VHH)。
【請求項15】
触媒活性を有することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメント。
【請求項16】
所定の基質の活性化状態を擬似する抗原に対して向けられたことを特徴とする、請求項15に記載の免疫グロブリン又はフラグメント。
【請求項17】
細胞又は生命体において発現される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメント。
【請求項18】
酵母細胞、哺乳類細胞、昆虫細胞、原生動物細胞、植物細胞において得られる、請求項1〜15のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメント。
【請求項19】
細菌、ウイルス、寄生生物などの抗原に対して向けられたか又はタンパク質、ハプテン、炭水化物又は核酸に対して向けられたことを特徴とする、請求項1〜18のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメント。
【請求項20】
免疫グロブリンイディオタイプに対して向けられたことを特徴とする、請求項1〜18のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメント。
【請求項21】
細胞性レセプター又は膜タンパク質に対して向けられたことを特徴とする、請求項1〜18のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメント。
【請求項22】
毒素、酵素、薬物又はホルモンとコンジュゲーションしていることを特徴とする、請求項1〜18のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメント。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメントを用いる、インビトロ診断のための方法。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はそのフラグメントを投与する工程を含む、哺乳類におけるがんを処置するための方法であって、上記免疫グロブリン又はそのフラグメントが腫瘍特異的タンパク質に結合する、方法。
【請求項25】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はそのフラグメントを投与する工程を含み、上記免疫グロブリン又はそのフラグメントが病原性物質に結合する、哺乳類における病原性物質に対する防御を誘導するための方法。
【請求項26】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はフラグメントを投与する工程を含む、哺乳類におけるタンパク質の発現又は活性を調節するための方法。
【請求項27】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の免疫グロブリン又はそのフラグメントを投与する工程を含む、細胞の代謝を改変するための方法。
【請求項28】
下記工程:
− 請求項1〜9のいずれか1項に記載の免疫グロブリンを産生することができ、決定された抗原で予め免疫したラクダ科のリンパ球から得られたDNA又はcDNA配列を、ベクター、特にファージ、そしてより詳細にはフィラメント状バクテリオファージ中へクローンニングする工程、
− 上記抗体の産生を可能にする条件で、原核細胞を上記ベクターで形質転換する工程、
− 形質転換細胞を抗原親和性選択に付すことによって適切な抗体を選択する工程、
− 所望の特異性を有する抗体を回収する工程
を含む、決定された抗原に対して向けられた免疫グロブリン又はフラグメントの調製のための方法。
【請求項29】
クローニングベクターがプラスミド又は真核生物ウイルスであり、形質転換細胞が真核生物細胞、特に酵母細胞、哺乳類細胞、植物細胞又は原生動物細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
クローニングベクターが細菌膜において免疫グロブリンを発現することができるプラスミドである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
クローニングベクターが分泌タンパク質として免疫グロブリンを発現することができるプラスミドである、請求項28に記載の方法。

【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−280608(P2009−280608A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192382(P2009−192382)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【分割の表示】特願2005−10359(P2005−10359)の分割
【原出願日】平成5年8月18日(1993.8.18)
【出願人】(501180768)フリーイェ・ユニヴェルシテイト・ブリュッセル (4)
【氏名又は名称原語表記】VRIJE UNIVERSIEIT BRUSSEL
【Fターム(参考)】