説明

LCOS素子の駆動回路

【課題】LCOS素子を高速で駆動する駆動回路において、クロック信号と各画素に与える画素信号のタイミングとを同期させるようにすること。
【解決手段】LCOS素子の画素群単位で各画素に与える画像データをD/A変換する複数のD/A変換21〜24と、夫々のD/A変換のタイミングとなるクロック信号を遅延させる遅延器26〜29を設ける。各D/A変換器に与えるクロックの夫々遅延器を介して遅延させ、夫々異なる遅延時間とすることでD/A変換器21〜24の出力の画素信号を同期させてLCOS素子に印加する。これによってLCOS素子を高速で駆動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信分野などに用いられるLCOS(Liquid Crystal On Silicon)の液晶素子の駆動回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光可変フィルタは光通信分野、分光分析分野に代表されるように、現在広く利用されている。特に光通信分野では近年の伝送容量需要に応えるべく、高伝送レート化、新規変調フォーマットが盛んに研究開発されており、光ネットワークも複雑化している。このような光ネットワークにおいては、光信号のうち所望の波長の光を変化させることができる光可変フィルタが用いられる。例えば特許文献1には波長選択素子として2次元の反射型LCOS(Liquid Crystal On Silicon)の液晶素子(以下、LCOS素子という)を用いた光可変フィルタ装置が示されている。
【0003】
LCOS素子は特許文献2,3などで示されるように画像表示用として開発されたものである。そのためLCOS素子には、画像表示用途のために専用のドライバ用ICが市販されており、このような専用のドライバを用いると容易に画像を表示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US2006/0067611A1
【特許文献2】特許公開2007−072403号公報
【特許文献3】特許公開2008−65209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光通信分野では近年の伝送容量需要に応えるべく、伝送レートの高速化、新規変調フォーマットが盛んに研究開発されており、光ネットワークも複雑化している。光可変フィルタ装置においては、光周波数レベルでのフィルタの中心周波数の制御、及び各光信号の伝送レートや変調フォーマットに対し最適なパスバンドとなるように変化させる機能が求められている。しかしLCOS素子をフィルタとして光通信用途に用いてフィルタ特性を高速で変化させる場合には、高速でLCOS素子の複数の画素の光反射状態又は光透過状態を同時に変化させる必要がある。画像表示の場合よりも高速にLCOS素子を駆動する駆動方法では、専用のドライバICをそのまま使用することが難しいという欠点があった。
【0006】
特に各画素に加える電圧を高分解能のD/A変換器を用いてアナログ信号に変換して印加する場合に、D/A変換器の分解能が例えば12ビット以上と大きくなれば、既存の専用ドライバICを用いることはできなくなる。このため新たにD/A変換器を含んだ駆動回路を構成する必要がある。この場合にはD/A変換器などの素子や信号ラインの長さのばらつきが大きいので、各画素に加える画素信号のタイミングが変化してしまう。そのためフィルタリングの変化速度が制限されてしまうという欠点があった。このように速度及び分解能のいずれの観点からも、市販の専用のドライバICをそのまま使用することが難しいという欠点があった。
【0007】
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、LCOS素子を高速でドライブすることができ、光通信用に適したLCOS素子の駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明のLCOS素子の駆動回路は、2次元に格子状に配列された画素を有するLCOS素子に対し、複数の画素から成る画素群を単位とする各画素に電圧を印加して駆動するLCOS素子の駆動回路であって、前記画素群の単位で複数の画素データを夫々D/A変換する複数のD/A変換器と、前記LCOS素子に加えるクロック信号を遅延させる第1の遅延器と、前記D/A変換器に加えるクロック信号を夫々遅延させる第2の複数の遅延器と、を有し、前記LCOS素子に加えるクロック信号と前記D/A変換器のD/A変換出力とを同期させるように、前記第1,第2の遅延器の夫々の遅延時間を設定するようにしたものである。
【0009】
ここで前記第1,第2の遅延器は、FPGAに内蔵されているクロック位相調整器としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
このような特徴を有する本発明によれば、駆動回路を個別素子で個別のD/A変換器を用いて構成し高速のクロックを用いてLCOS素子を駆動する場合にも、クロック信号と画素信号とを同期させることができる。従って光通信用途などLCOS素子を高速高分解能で駆動することができる。これによりLCOS素子を用いて高速でパスバンド幅を変化させたり、パスバンドの中心周波数を変化させることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の実施の形態によるLCOS素子とその駆動回路を示す回路図である。
【図2】図2はLCOS素子の内部構成を示す図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態による駆動回路の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は駆動回路の比較例を示す回路図である。
【図5】図5は比較例の駆動回路のタイミングを示す図である。
【図6】図6は本実施の形態による駆動回路の動作とタイミング例を示す図である。
【図7】図7は本実施の形態による駆動回路を用いたLCOS素子の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態によるLCOS素子とその駆動回路を示す図、図2はLCOS素子の内部構成を示す図である。このLCOS素子10は光通信のための光フィルタとして用いられているものとする。図1に示すようにLCOS素子10は複数、ここでは4つの画素PAij,PBij,PCij,PDij(i=1〜m、j=1〜n)から成る画素群を単位として、PA11からPDmmまで格子状に配列されている。ここで例えばmは1080、nは480である。そして4画素から成る画素群は夫々画素毎に所望のフィルタ特性に合わせた電圧が印加されるが、4画素から成る画素群の各画素に同時に駆動する必要がある。このLCOS素子10にはクロック信号と水平同期信号Hsync,垂直同期信号Vsyncが入力される。LCOS素子10には各画素群の単位でゲート信号G1〜Gnを与えるゲートドライバ11が設けられる。ゲートドライバ11にはシフトパルスとしてクロック信号が入力され、リセットパルスとして水平同期信号Hsyncが入力される。更に垂直方向にはソースドライバ12が設けられている。ソースドライバ12にはシフトパルスとして水平同期信号Hsyncが入力され、リセット信号として垂直同期信号Vsyncが入力される。ソースドライバ12はソース信号Ai,Bi,Ci,Diを1組としてA1〜D1からAm〜Dmまでを順次出力するものである。ドライブユニット20は各画素群の4画素に加える電圧レベルを示すデータA〜データDが入力される。ドライブユニットは各データをD/A変換してLCOS素子10に出力する駆動回路である。
【0013】
次にLCOS素子10の内部構成について図2を用いて説明する。LCOS素子10のゲートドライバ11はnビットシフトレジスタを有しており、クロック信号に基づいてゲート信号G1,G2・・・Gnを順次出力し、これを繰り返すものである。ゲート信号G1はPA11〜PD11からPAm1〜PDm1の画素群に、次いでゲート信号G2はPA21〜PD21からPAm2〜PDm2の画素群に、というようにnの画素群に順次出力される。ゲート信号G1が出力されるタイミングでソースドライバ12より画素PA11〜PD11に対して画素信号A1,B1,C1,D1が出力される。そして次のゲート信号G2が出力されるタイミングでソースドライバ12より画素PA12〜PD12に対してA1,B1,C1,D1が同時に出力される。以降も同様に画素PA1n〜PD1nまで出力される。次のラインの走査では同様のゲート信号G1,G2・・・が出力され、夫々のタイミングで画素信号A2〜D2が出力される。各画素上でゲート信号ラインとソース信号ラインとの交点の丸印はスイッチング素子を示している。この交点の信号が一致するタイミングでスイッチング素子がオンとなり、その画素がオン状態となる。オン状態となったときに画素信号が画素の図示しない電極に印加される。印加された画素信号の電圧に応じてその画素の反射率又は透過率が決定される。
【0014】
次にドライブユニット20の構成について図3を用いて説明する。ドライブユニット20はD/A変換器21〜24と遅延器25〜29を有しており、4つのデジタル信号であるデータA,B,C,Dが夫々D/A変換器21〜24に加わる。又ドライブユニット20の入力端子31にはマスタークロックとなるクロック信号が加えられている。マスタークロックは第1の遅延器25を介してクロック信号として出力端子32よりLCOS素子10に出力される。又マスタークロックは第2の遅延器26,27,28,29を介して夫々D/A変換器21〜24にクロック信号として加えられる。D/A変換器21〜24はこれらのクロック信号が与えられたタイミングでデジタルデータA,B,C,Dを夫々D/A変換し、出力端子33〜36よりアナログの画素信号A,B,C,DとしてLCOS素子10のソースドライバ12に出力するものである。
【0015】
遅延器25〜29は専用の遅延素子によって構成してもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いてもよい。これらの遅延器25〜29はいずれも外部から遅延時間を夫々設定できるように構成されている。
【0016】
図4はドライブユニットの比較例を示すブロック図である。このドライブユニット40では4つのD/A変換器41〜44を有している。入力端子45にはマスタークロックが加えられ、出力端子46よりそのまま出力される。D/A変換器41〜44は夫々マスタークロック信号に基づいて4つのデジタルデータA,B,C,DをD/A変換し、アナログ信号の画素信号A,B,C,Dとして夫々出力端子47〜50より出力するものである。
【0017】
まず比較例の動作について、図5のタイムチャートに基づいて説明する。図5(a)は入力端子45に加えられるマスタークロック信号、図5(b)〜(e)は出力端子47〜50から出力されるアナログの画素信号A〜Dを示している。図示のようにクロック信号の1周期に対応してD/A変換されたアナログ信号が出力される。ここでクロック信号と出力端子47〜50からのアナログ画素信号とが完全に同期している場合には、クロック周波数が高くなっても問題とはならない。しかしながら実際の回路では配線長やインピーダンスの不整合、IC出力のばらつき等によってクロック信号とアナログ信号とのタイミングにずれが生じる。例えば図4に示すようにクロック信号の入力端子45から各D/A変換器41〜44のクロック入力端までのライン長は回路基板上で互いに相違している。従ってクロック周波数が高くなればこのサンプリングクロックが入力されるタイミングもラインの長さに対応してわずかに相違することとなる。従って図5に示すように徐々に画素信号を出力するタイミングは加えられたクロックに対してわずかにずれて出力されることとなる。
【0018】
LCOS素子10ではクロック信号の立上りのサンプリング期間Tで4つのアナログ画素信号A〜DをサンプリングしてLCOS素子の各画素に加えている。従って図5(e)に示すように、この立上りのサンプリング期間Tの間画素信号のレベルが安定していなければ、予期していないレベルの信号が各画素に加えられることとなって誤動作の原因となる。
【0019】
そこで本実施の形態の駆動回路では図3に示すように遅延器25,26〜29を用いてクロック信号とアナログ出力とのタイミングを一致させるようにしている。このタイミングの調整は各遅延器26〜29に設定される遅延時間を出力クロックと画素信号A〜Dのタイミングが一致するように設定する。例えば専用の遅延素子を用いる場合は夫々遅延時間を調整する。又FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いる場合は内蔵されているクロック位相調整器にデータを書き込むことによって遅延時間を調整する。
【0020】
このとき各遅延器の遅延時間を位相で示すものとすると、遅延器25〜29はマスタークロックに対して360°の範囲で位相が調整できるものを用いる。そして各遅延器25〜29はいずれも一旦180°の位相シフトに設定する。こうすれば図6(a)に示す入力されるマスタークロックに対して、図6(b)に示す出力端子32より出力されるクロック信号は位相が反転したものとなる。そしてこのクロック信号の立上りのサンプリング期間Tのタイミングで夫々のD/A変換器21〜24より出力される画素信号が安定したレベルとなるように、例えば図6(d)〜(f)の破線の状態から実線の状態となるように遅延時間を調整して位相調整を行う。このようにしてあらかじめクロック信号と各アナログ出力との同期をとっておくことによって、タイミングを合わせてLCOS素子の4画素から成る画素群に同時にクロック信号と同期した安定した所望の画素信号A〜Dを加えることができる。尚遅延器25は他の遅延器26〜29を調整した後にクロック信号の遅延時間を変化させるなど、全体を調整するために用いることができる。
【0021】
図7はこのようにしてタイミングを調整した後のLCOS素子に加えられるクロックとゲートパルス及び画素信号を示すタイムチャートである。図7(a)〜(c)に示すクロック信号をシフトパルスとしてゲートドライバ11よりゲート信号G1,G2・・・が出力される。このとき同時にソースドライバ12より画素信号A1〜D1が出力される。ゲート信号G1がHレベルのタイミングでは画素信号A1は画素PA11に、画素信号B1は画素PB11に、画素信号C1は画素PC11に、画素信号D1は画素PD11に加えるべき信号であり、これらの信号は時刻t1に同時にサンプリングされて各画素に加えられる。ゲート信号G2がHレベルのタイミングでは画素信号A1は画素PA12に、画素信号B1は画素PB12に、画素信号C1は画素PC12に、画素信号D1は画素PD12に加えるべき信号であり、これらの信号は時刻t2に同時にサンプリングされて各画素に加えられる。同様にゲート信号Gnで画素信号が加えられ第1のアレイの終端部まで走査すると、次のアレイの出力がソースドライバ12より画素信号A2,B2,C2,D2として同様に加えられる。このようにして全画素の走査が行われるが、図7に示すようにクロックと画素信号とのタイミングが一致しているため、クロック速度を上昇させても電圧のばらつきを解消することができ、高分解能によってLCOS素子をフィルタとして用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上詳細に説明したように本発明によれば、高速のクロックを用いてLCOS素子を駆動する駆動回路を個別のD/A変換器を用いて構成する場合にも、出力側のアナログ信号のタイミングを一致させることができる。従ってこの駆動回路を用いることによってLCOS素子を光通信用途の高速用途に使用することができる。また本発明は光通信だけでなく、分光分析の分野に用いることができる。
【符号の説明】
【0023】
10 LCOS素子
11 ゲートドライバ
12 ソースドライバ
20 ドライブユニット
21,22,23,24,41,42,43,44 D/A変換器
25,26,27,28,29 遅延器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元に格子状に配列された画素を有するLCOS素子に対し、複数の画素から成る画素群を単位とする各画素に電圧を印加して駆動するLCOS素子の駆動回路であって、
前記画素群の単位で複数の画素データを夫々D/A変換する複数のD/A変換器と、
前記LCOS素子に加えるクロック信号を遅延させる第1の遅延器と、
前記D/A変換器に加えるクロック信号を夫々遅延させる第2の複数の遅延器と、を有し、
前記LCOS素子に加えるクロック信号と前記D/A変換器のD/A変換出力とを同期させるように、前記第1,第2の遅延器の夫々の遅延時間を設定するようにしたLCOS素子の駆動回路。
【請求項2】
前記第1,第2の遅延器は、FPGAに内蔵されているクロック位相調整器である請求項1記載のLCOS素子の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−133070(P2012−133070A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284169(P2010−284169)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(591102693)サンテック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】