説明

LED用光学素子

【課題】複数のLEDから発せられた光の前方光量の低下を最小限に抑えながら、照射面での色むら、照度むらを抑制することである。さらに、出射面でのグレアを低減させることである。
【解決手段】離散的に配置された複数のLEDからなる光源と、当該光源の照射方向前方に配置されるLED用光学素子である。このLED用光学素子は体積的に一様な散乱能が与えられた光散乱導光体により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED用光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDを光源とする照明装置において、青色LEDチップと黄色蛍光体の組合せで白色光を得る方法(例えば特許文献1参照)、若しくはRGBのLEDチップを用いて光の3原色を合わせることで白色光を得る方法が一般的である。しかし、青色LEDチップと黄色蛍光体とを組み合わせた場合、青色LEDチップが直下にある中心付近の光と、その周辺の光で色温度分布があり、この結果、照射面で中央付近の光に比べて周辺光が黄色味がかる。これは所謂イエローリングと呼ばれている。一方、赤色LEDチップ、緑色LEDチップ、青色LEDチップの合成色により白色光を得る方法の場合、それぞれのLEDチップの内、1つのチップを光軸に合わせた場合、残りの2つのチップは光軸からずれて配置されてしまう。または3つのチップの重心位置に光軸を設置したとしても、やはりそれぞれのチップはレンズの光軸上からずれて配置されてしまう。この結果、照射面で赤色、緑色、青色の照射エリアがずれて不均一に混色されてしまう。また、より高輝度にするため複数個のLEDチップを並べて使うLEDチップでは、同様に光源が光軸上からずれて配置されることを原因とする照射面での照度むらが生ずる場合もあった。
さらに、一般的な電極のワイヤーボンディングにおいて、そのワイヤーが影となり照射する光に影響が出る場合がある。これらの対策として、光学パターンを配置した拡散機能を持った拡散シートなどを、LEDチップの照射方向前方に配置することで、色むらや明暗等を防止する技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−16341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、拡散シートの表面散乱は基本的に単一散乱であるため、比較的大きな輝度むらや色むらがある場合には、拡散角が小さい拡散シートでは十分にむらを補正できるほど拡散させることができない。逆に拡散角が大きい拡散シートではむら補正はできても、後方散乱成分が大きくなり、前方光量が低下してしまう。
さらに、別の課題としてLED光源のグレア(まぶしさ)の問題がある。LEDは発光面のサイズが小さいうえに、照明用途としては高輝度化を要求するために、光源のまぶしさ(グレア)の問題が発生する。グレアはただまぶしいだけでなく、波長と強さによっては目の角膜にダメージを与える場合もあり、照明設計において、グレアの低減は重要であり、快適な照明環境を作るためには、十分な配慮が必要である。
【0005】
本発明の課題は、複数のLEDを配置した光源からの光をレンズ及びリフレクターの少なくとも1つを通して照射したとき、光の前方光量の低下を最小限に抑えながら、照射面での色むら、照度むらを抑制することである。さらに、出射面でのグレアを低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
離散的に配置された複数のLEDからなる光源と、当該光源の照射方向前方に配置されるLED用光学素子であって、体積的に一様な散乱能が与えられた光散乱導光体により形成されていることを特徴とするLED用光学素子。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のLED用光学素子において、
前記光源から所定の距離だけ離れた地点の、前記光源の光軸に対して、前記複数のLEDのそれぞれの照射エリア中心のズレが補正されるように、前記光散乱導光体のサイズパラメータ及び濁度の少なくとも一方が設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光散乱導光体から形成されたLED用光学素子が、複数のLEDからなる光源の照射方向前方に配置されているので、各LEDから発せられた光はLED用光学素子により散乱して照射面に均一に照射されることになる。さらに、LEDの小さい発光面からの入射光が光学素子内で拡散され、光学素子の大きい出射面から均一に出射されることで、グレアを低減することが可能となる。
また、光散乱導光体内部の球形粒子による散乱は、前方により指向性が高く光が散乱されるようにサイズパラメータが制御される。つまり、後方散乱成分が抑えられることになり、前方光量の低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施の形態に係るLED用光学素子としてのレンズを示す側面図である。
【図2】図1のレンズが透明PMMAレンズで形成されている場合の当該レンズの光軸と各照射エリアとのズレを示す側面図である。
【図3】図2のレンズの光軸と各照射エリアとのズレを示す正面図である。
【図4】単一真球粒子による散乱光強度の角度分布I(α、θ)を示すグラフである。
【図5】第2の実施の形態に係るLED用光学素子としてのレンズを示す側面図である。
【図6】図5のレンズをなす光散乱導光体に含まれる球形粒子が2μmのときの相対強度と角度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係るLED用光学素子としてのレンズを示す説明図である。図1に示すレンズ1は、両凸レンズであり、平面上に離散的に配置された複数のLED(第一LED11、第二LED12、第三LED13)からなる光源10の照射方向前方に配置されている。レンズ1と光源10との位置関係は、レンズ1の焦点距離に光源10が配置される位置関係となっている。
また、第一LED11、第二LED12及び第三LED13は、レンズ1の光軸2に対して、直交する方向に沿って等間隔に配列されている。そして、中央の第二LED12は、光軸2上に配置されている。
【0011】
ここで、レンズ1が透明PMMAレンズから形成されている場合であると、図2,3に示すように光源10から所定距離だけ離れた照射面では、第二LED12の照射エリアB1の中心位置b1は光軸2と略同一であるものの、第一LED11の照射エリアA1の中心位置a1は光軸2からAだけずれるとともに、第三LED13の照射エリアC1の中心位置c1も光軸2からCだけずれることになる。
【0012】
一方、レンズ1が本願発明に係る光散乱導光体としてのHSOT(Highly Scattering OpticalTransmission)ポリマーから形成されている場合であると、図1に示すようにレンズ1に入射した光は当該レンズ1内部で多重散乱され、出射面から一定の広がり角を持って出射される。その広がり角は、光散乱導光体のサイズパラメータと濁度との少なくとも一方により、光源10から所定距離だけ離れた照射面で、第一LED11の照射エリアA1の中心位置a1、第二LED12の照射エリアB1の中心位置b1及び第三LED13の照射エリアC1の中心位置c1が光軸2とほぼ一致するように調整される。
【0013】
以下、光散乱導光体について説明すると、この光散乱導光体は、体積的に一様な散乱能が与えられた導光体であり、散乱微粒子としての球形粒子を多数含んでいる。レンズ1内部に光が入射すると、その光は散乱微粒子によって散乱することになる。
【0014】
ここで、本発明の理論的な基礎を与えるMie散乱理論について説明する。Mie拡散理論は、一様な屈折率を有する媒体(マトリックス)中に該媒体と異なる屈折率を有する球形粒子(散乱微粒子)が存在するケースについてマックスウェルの電磁方程式の解を求めたものである。散乱微粒子によって散乱した散乱光の角度に依存した強度分布I(α、θ)は下記(1)式で表わされ、散乱効率K(α)は下記(2)式で表わされる。αは下記(3)式で表わされ、散乱子の光学的大きさを示すサイズパラメータであり、マトリックス中での光の波長λで規格化された球形粒子(散乱子)の半径rに相当する量である。角度θは散乱角で、入射光の進行方向と同一方向をθ=180度にとる。
【0015】
また、(1)式中のi1、i2は(4)式で表わされる。そして、(2)〜(4)式中の下添字ν付のa及びbは(5)式で表わされる。上添字1及び下添字νを付したP(cosθ)は、Legendreの多項式、下添字ν付のa、bは1次、2次のRecatti−Bessel関数Ψ、ζ(ただし、「」は下添字νを意味する。)とその導関数とからなる。mはマトリックスを基準にした散乱微粒子の相対屈折率で、m=nscatter/nmatrixである。
【0016】
【数1】

【0017】
図4は、上記(1)〜(5)式に基づいて、単一真球粒子による強度分布I(α、θ)を示すグラフである。この図4では、原点の位置に散乱微粒子としての真球粒子があり、下方から励起光が入射した場合の散乱光強度の角度分布I(α、θ)を示している。そして、原点から各曲線S1〜S3までの距離が、それぞれの散乱角方向の散乱光強度である。曲線S1はαが1.7であるときの散乱光強度、曲線S2はαが11.5であるときの散乱光強度、曲線S3はαが69.2であるときの散乱光強度を示している。なお、図4においては散乱光強度を対数目盛で示している。このため、図4では僅かな強度差として見えているが、実際には非常に大きな差となる。
この図4に示すように、サイズパラメータαが大きくなるほど(ある波長λで考えた場合は真球粒子の粒径が大きくなるほど)、上方(照射方向の前方)に対して指向性高く光が散乱されていることがわかる。また、実際のところ、散乱光強度の角度分布I(α、θ)は、入射光波長λを固定すれば、散乱子の半径rと、媒体及び散乱子の相対屈折率mとをパラメータとして制御することができる。
【0018】
このような、単一真球粒子がN個含まれる光散乱導光体に光を入射させると、光は真球粒子により散乱される。散乱光は光散乱導光体中を進み、他の真球粒子により再度散乱される。ある程度以上の体積濃度で粒子を添加した場合には、このような散乱が逐次的に複数回行われた後、光が光散乱導光体から出射する。このような散乱光がさらに散乱されるような現象を多重散乱現象と呼ぶ。このような多重散乱においては、透明ポリマーでの光線追跡法による解析は容易ではない。しかし、モンテカルロ法により光の挙動を追跡し、その特性を解析することはできる。それによると、入射光が無偏光の場合、散乱角の累積分布関数F(θ)は下記の(6)式で表される。
【0019】
【数2】

【0020】
ここで(6)式中のI(θ)は、(1)式で表されるサイズパラメータαの真球粒子の散乱強度である。強度Iの光が光散乱導光体に入射し、距離yを透過した後、光の強度が散乱によりIに減衰したとすると、これらの関係は下記の(7)式で表される。
【0021】
【数3】

【0022】
この(7)式中のτは濁度と呼ばれ、媒体の散乱係数に相当するものであり、下記の(8)式のように粒子数Nに比例する。なお、(8)式中、σは散乱断面積である。
【0023】
【数4】

【0024】
(7)式から長さLの光散乱導光体を散乱せずに透過する確率P(L)は下記の(9)式で表される。
【0025】
【数5】

【0026】
反対に光路長Lまでに散乱される確率P(L)は、下記の(10)式で表される。
【0027】
【数6】

【0028】
これらの式からわかるように、濁度τを変えることにより、光散乱導光体内での多重散乱の度合いを制御することができる。
【0029】
以上の関係式により、散乱微粒子のサイズパラメータαと濁度τとの少なくとも1つをパラメータとして、光散乱導光体内での多重散乱を制御可能であり、出射面における出射光強度と散乱角も適正に設定可能である。つまり、図1における光源10から所定の距離だけ離れた地点の、光源10の光軸2と、複数のLED(第一LED11、第二LED12及び第三LED13)のそれぞれの照射エリアA1,B1,C1とのズレが補正されるように、散乱微粒子のサイズパラメータαと濁度τとが設定されていれば、色ズレを打ち消し均一にすることが可能になる。
【0030】
本実施形態によれば、光散乱導光体では、光の吸収を伴わないミクロな不均一構造(粒子)の相対屈折率の大きさを制御でき、その多重散乱効果によって、光を減衰させることなく均一に、かつ特定方向に拡散出射することができる。さらに、レンズ1の出射面全体で光を平均化させて出射するため、グレアを低減することが可能となる。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、本実施形態では、本発明に係るLED用光学素子としてレンズ1を例示して説明したが、これ以外にもLED用光学素子としてはリフレクターが挙げられる。
また、上記したように光源10からの光を1つの光学素子だけ透過させなくとも、複数の光学素子を透過させるようにしてもよい。
【0032】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、LED用光学素子が両凸レンズ(レンズ1)である場合を例示して説明したが、この第2の実施の形態ではLED用光学素子が片凸レンズである場合を例示して説明する。
【0033】
図5は、第2の実施の形態に係るLED用光学素子としてのレンズを示す側面図である。図5に示すように、レンズ20は、片凸レンズであり、平面上に離散的に配置された複数のLED(第一LED31、第二LED32)からなる光源30の照射方向前方に配置されている。レンズ20の凸面には、第一LED31及び第二LED32が収容される切欠21が形成されている。第一LED31及び第二LED32は、レンズ20の光軸22に対して、直交する方向に沿って光軸22を挟んで等間隔に配列されている。
【0034】
レンズ20をなす光散乱導光体は、例えばポリチルメタクリレート樹脂により形成されている。このポリチルメタクリレート樹脂には、散乱微粒子として粒子径が1〜10μmの球状かつ透光性のシリコーン粒子が多数含有されている。
【0035】
ここで、第一LED31と第二LED32との光軸間隔Hを1.5mmとし、レンズ20における切欠21から当該レンズ20の出射面23までの厚みTを12mmと仮定する。また、レンズ2の散乱微粒子の直径を2μmとした場合、当該散乱微粒子の単一散乱半値角θは、図6のグラフにおける相対強度が0.5のときの角度(6.1°)となる。
また、1つの散乱から次の散乱までの平均距離(自由行程)は、濁度τの逆数(1/τ)で表される。そして、厚さTのレンズ内部での散乱回数Nは、N=τ・Tで表される。この散乱回数Nは、0.1以上50以下であることが好ましい。例えばN=2とすると、レンズ全体での散乱半値角θは、下記の式(11)に示すように8.6°となる。
【0036】
【数7】

【0037】
レンズ20における出射面23での光線の広がり距離H1は、H1=2T・tanθで表されるので、上記により求められた値を代入するとH1=3.63mmとなる。つまり、出射面23での光線広がり距離H1が、第一LED31と第二LED32との光軸間隔Hのおよそ2.5倍程度となるために、第一LED31からの光線と、第二LED32からの光線とが重なり合うことになり、出射面23から均一に出射され、ムラが補正されることになる。
【符号の説明】
【0038】
1 レンズ(LED用光学素子)
2 光軸
10 光源
11 第一LED
12 第二LED
13 第三LED
20 レンズ(LED用光学素子)
22 光軸
30 光源
31 第一LED
32 第二LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離散的に配置された複数のLEDからなる光源と、当該光源の照射方向前方に配置されるLED用光学素子であって、体積的に一様な散乱能が与えられた光散乱導光体により形成されていることを特徴とするLED用光学素子。
【請求項2】
請求項1記載のLED用光学素子において、
前記光源から所定の距離だけ離れた地点の、前記光源の光軸に対して、前記複数のLEDのそれぞれの照射エリア中心のズレが補正されるように、前記光散乱導光体のサイズパラメータ及び濁度の少なくとも一方が設定されていることを特徴とするLED用光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−294652(P2009−294652A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113134(P2009−113134)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成20年4月17日〜20日 社団法人日本金型工業会、テレビ大阪株式会社主催の「INTERMOLD2008(第19回金型加工技術展)/金型展2008」に出品
【出願人】(591061046)
【出願人】(000227364)日東光学株式会社 (151)
【Fターム(参考)】