説明

MEMSデバイス

【課題】ホットスイッチング特性が向上するMEMSデバイスを提案する。
【解決手段】本発明の例に関わるMEMSデバイスは、第1及び第2の下部電極11,12と、静電容量Cを有する固定容量素子を下部電極11との間に形成する第1の駆動電極31と、静電容量Cを有する固定容量素子を下部電極12との間に形成する第2の駆動電極32と、基板上に設けられたアンカー部によって、駆動電極31,32上方に中空に支持され、駆動電極31,32に向かって動き、駆動電極31との間に可変な静電容量Cを有し、駆動電極32との間に可変な静電容量Cを有する上部電極2と、を具備し、下部電極11,12の間の容量値は、静電容量C,C,C,Cが直列接続された合成容量の値で決定され、直列接続された合成容量の値が、可変容量値として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)を可変容量素子に適用したデバイス(以下、MEMS可変容量デバイスとよぶ)は、低い損失、高いアイソレーション、高い線形性を実現できることから、次世代携帯端末のマルチバンド・マルチモード化を実現するキーデバイスとして期待されている。
【0003】
MEMS可変容量デバイスが、例えば、GSM(Global System for Mobile communications)規格の無線システムに適用される場合、そのMEMS可変容量デバイスは、35dBm程度のRFパワーが印加されている状態で、スイッチングすることが要求される。つまり、35dBmのRFパワーが印加されている状態で、MEMS可変容量デバイスを構成する可動な上部容量電極が、下部容量電極側に下がった状態(down-state)から、上部容量電極を下部容量電極側から上方へ引き上げた状態(up-state)に戻さなければならない。このようなRFパワーが印加されている状態におけるスイッチング動作は、ホットスイッチングとよばれる。
【0004】
ホットスイッチングを実現するための一手法として、上部容量電極に接続されているばね構造(又は支持部材)のばね定数を大きくする手法がある。しかし、ばね構造のばね定数が大きくなると、上部容量電極を下部容量電極側から引き上げる動作は容易になるのに対して、上部容量電極を下部容量電極側へ下げる動作は、大きな駆動力(例えば、静電引力)が必要となる。
【0005】
大きな駆動力を得るためには、MEMS可変容量デバイスを駆動させるための駆動電圧を大きくしたり、駆動電極の面積を大きくしたりしなければならない。
【0006】
駆動電圧を大きくして、大きな駆動力を得る場合には、外部からの供給電位を駆動電圧まで昇圧する昇圧回路の面積が増える、消費電力が増加する、或いは、スイッチング時間が長くなるなどの問題が生じる。
また、駆動電極の面積を大きくして、大きな駆動力を得る場合には、チップ面積が増加し、製造コストが増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,391,675号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ホットスイッチング特性が向上するMEMSデバイスを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に関わるMEMSデバイスは、第1及び第2の下部電極と、第1の静電容量を有する固定容量素子を、前記第1の下部電極との間に形成する第1の駆動電極と、第2の静電容量を有する固定容量素子を、前記第2の下部電極との間に形成する第2の駆動電極と、基板上に設けられたアンカー部によって、前記第1及び第2の駆動電極上方に中空に支持され、前記第1及び第2の駆動電極に向かって動き、前記第1の駆動電極との間に可変可能な第3の静電容量を有し、前記第2の駆動電極との間に可変可能な第4の静電容量を有する上部電極と、を具備し、前記第1及び第2の下部電極の間の容量値は、前記第1、第2、第3及び第4の静電容量が直列接続された合成容量の値で決定され、前記直列接続された合成容量の値が、可変容量値として用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホットスイッチング特性が向上するMEMSデバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す平面図。
【図2A】第1の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す断面図。
【図2B】第1の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す断面図。
【図3】MEMSデバイスを駆動させるための構成例を示す図。
【図4】第1の実施形態のMEMSデバイスの動作を説明するための図。
【図5】MEMSデバイスの動作を説明するための図。
【図6】検証結果を説明するための図。
【図7】検証結果を説明するための図。
【図8】MEMSデバイスの製造方法を示す図。
【図9】第2の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す平面図。
【図10A】第2の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す断面図。
【図10B】第2の実施形態に係るMEMSデバイスの動作を説明するための図。
【図11】第3の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す平面図。
【図12A】第3の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す断面図。
【図12B】第3の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す断面図。
【図12C】第3の実施形態に係るMEMSデバイスの動作を説明するための図。
【図13】第4の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す平面図。
【図14A】第4の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す断面図。
【図14B】第4の実施形態に係るMEMSデバイスの構造を示す断面図。
【図15】本発明の実施形態の応用例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の例を実施するための形態について詳細に説明する。以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複する説明は必要に応じて行う。
【0013】
[実施形態]
(1) 第1の実施形態
図1乃至図8を参照して、本発明の第1の実施形態に係るMEMSデバイスについて、説明する。
【0014】
(a) 構造
図1、図2A及び図2Bを用いて、本発明の第1の実施形態に係るMEMSデバイスの構造について、説明する。図1は、本実施形態に係るMEMSデバイスの平面構造を示している。また、図2A及び図2Bは、本実施形態に係るMEMSデバイスの断面構造を示している。図2Aは、図1のA−A’線に沿う断面構造を示し、図2Bは、図1のB−B’線に沿う断面構造を示している。
【0015】
本実施形態に係るMEMSデバイスは、例えば、MEMS可変容量デバイスである。
【0016】
図1、図2A及び図2Bに示すように、本実施形態に係るMEMS可変容量デバイス100Aは、基板1上に設けられる。基板1は、例えば、ガラスなどの絶縁性基板や、シリコン基板上に設けられた層間絶縁膜である。
【0017】
シリコン基板上の層間絶縁膜が基板1に用いられた場合、シリコン基板の表面領域(半導体領域)に、電界効果トランジスタなどの素子が設けられてもよい。それらの素子は、ロジック回路や記憶回路を構成している。層間絶縁膜は、それらの回路を覆うように、シリコン基板上に設けられている。それゆえ、MEMS可変容量デバイスは、シリコン基板上の回路の上方に設けられる。尚、例えば、オシレータのようなノイズの発生源になる回路は、MEMS可変容量デバイス100Aの下方に、配置しないことが好ましい。尚、層間絶縁膜内にシールドメタルを設けて、下層の回路からのノイズが、MEMS可変容量デバイス100Aに伝播するのを抑制してもよい。
また、シリコン基板上の層間絶縁膜は、その寄生容量を小さくするため、誘電率の低い材料が用いられることが望ましい。例えば、層間絶縁膜には、TEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)が、用いられる。また、寄生容量を小さくするためには、層間絶縁膜の膜厚は厚いほうが望ましく、基板1としての層間絶縁膜の膜厚は、例えば、10μm以上であることが好ましい。
【0018】
MEMS可変容量デバイス100Aは、例えば、下部容量電極(下部電極)1と上部容量電極(上部電極)2とを含んでいる。下部容量電極1と上部容量電極2とは、1つの可変容量素子を形成している。
【0019】
本実施形態において、下部容量電極1は、シグナル電極(第1の下部電極)11とグランド電極(第2の下部電極)12とから構成されている。シグナル電極11及びグランド電極12は1つの対をなし、2つの電極11,12間の電位差が、MEMS可変容量デバイス100Aの出力(RFパワー/RF電圧)として扱われる。シグナル電極11の電位は、可変であり、グランド電極12の電位は、一定の電位(例えばグランド電位)に設定される。
【0020】
シグナル電極11及びグランド電極12は、例えば、基板9内の溝Z内に埋め込まれ、基板9内に固定されている。シグナル電極11及びグランド電極12は、例えば、y方向に延在している。
シグナル電極11及びグランド電極12は、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)や金(Au)などの金属、又は、これらのいずれか1つを含む合金が用いられる。
【0021】
シグナル電極11及びグランド電極12の上面上には、絶縁膜15が設けられている。
【0022】
上部容量電極2は、シグナル電極11及びグランド電極12上方に設けられている。上部容量電極2は、例えば、複数のばね構造41,45を介して、アンカー51,52によって、中空に支持されている。上部容量電極2は可動であり、基板1表面に対して上下方向(垂直方向)に動く。上部容量電極2は、例えば、四角形状の平面形状を有し、x方向に延在している。尚、上部容量電極2は、その上面からその底面に向かって貫通する開口部(貫通孔)を有してもよい。
【0023】
上部容量電極2は、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、金(Au)又は白金(Pt)などの金属が用いられる。
【0024】
上部容量電極2には、第1のばね構造41の一端が接続されている。第1のばね構造41は、例えば、上部容量電極2と一体に形成され、上部容量電極2と第1のばね構造41とは、1つに繋がった単層構造になっている。第1のばね構造41は、例えば、メアンダ状の平面形状を有している。
【0025】
第1のばね構造41の他端には、アンカー部51が接続される。アンカー部51は、例えば、配線91上に設けられている。配線91は、基板9表面を覆う絶縁膜15上に設けられている。配線91表面は、絶縁膜92によって、覆われている。絶縁膜92には、開口部が設けられている。この開口部を経由して、アンカー部51は、配線91に直接接触する。
【0026】
第1のばね構造41は、例えば、導電体から構成され、上部容量電極2と同じ材料が用いられる。この場合、第1のばね構造41には、Al、Al合金、Cu、Au又はPtなどの金属が用いられる。アンカー部51は、例えば、導電体から構成され、ばね構造41と同じ材料から構成される。ただし、アンカー部51は、上部容量電極2及びばね構造41と異なる材料が用いられてもよい。
【0027】
上部容量電極2は、第1のばね構造41、アンカー部52及び配線91を介して、電位(電圧)が供給される。
【0028】
また、四角形状の上部容量電極2の四隅に、第2のばね構造45が1つずつ接続されている。第2のばね構造45の一端は、上部容量電極2上に設けられている。第2のばね構造45と上部容量電極2との接合部は、積層構造になっている。第2のばね構造41の他端は、アンカー部52に接続される。アンカー部52は、ダミー層93,94上に設けられている。ダミー層93,94は、基板9表面を覆う絶縁膜15上に設けられている。
【0029】
第2のばね構造45は、例えば、第1のばね構造41とは異なる材料から構成される。第2のばね構造45に用いられる材料は、例えば、脆性材料が用いられる。脆性材料とは、その材料からなる部材に応力を与えて破壊する場合に、その部材が塑性変化(形状の変化)をほとんど生じないで破壊される材料のことである。
第2のばね構造45に用いられる材料は、酸化シリコン、窒化シリコンのような絶縁性を有する材料を使用してもよいし、ポリシリコン(poly−Si)、シリコン(Si)及びシリコンゲルマニウム(SiGe)のような半導体材料、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、アルミニウム−チタニウム(AlTi)合金のような導電性を有する材料を使用してもよい。但し、本実施形態において、第2のばね構造45は、脆性材料以外の材料が用いられてもよいし、第1のばね構造と同じ材料(導電体)が用いられてもよい。
【0030】
尚、第1のばね構造41に用いられる材料は、例えば、延性材料である。延性材料とは、その材料からなる部材に応力を与えて破壊する場合に、その部材が大きな塑性変化(延び)を生じてから破壊される材料のことである。一般に、脆性材料を用いた部材を破壊するのに要するエネルギー(応力)は、延性材料を用いた部材を破壊するのに要するエネルギーより小さい。つまり、脆性材料を用いた部材は、延性材料を用いた部材より、破壊されやすい。
【0031】
脆性材料を用いたばね構造45のばね定数k2は、例えば、ばね構造45の線幅、ばね構造45の膜厚、及びばね構造45の湾曲部(フレクチャー(Flexure))を適宜設定することによって、延性材料を用いたばね構造41のばね定数k1よりも大きくされる。
【0032】
本実施形態のように、延性及び脆性材料のばね構造41,45が上部電極2に接続されている場合、上部容量電極2が上方に引き上げられた状態(up-stateとよぶ)における容量電極間の間隔は、脆性材料を用いたばね構造45のばね定数k2によって、実質的に決定される。
【0033】
上記のように、脆性材料を用いたばね構造45は、クリープ現象が起こりにくい。そのため、MEMS可変容量デバイス100Aの駆動を複数回繰り返しても、up-state時における容量電極間の間隔の変動は、少ない。尚、材料のクリープ現象とは、ある部材に応力が与えられたときに、部材の歪み(形状の変化)が増大する現象のことである。
延性材料を用いたばね構造41は、複数回の駆動によって、クリープ現象が生じる。しかし、ばね構造41のばね定数k1は、脆性材料を用いたばね構造45のばね係数k2に比較して小さく設定されている。よって、up-state時における容量電極間の間隔に、延性材料を用いたばね構造41の形状の変化(たわみ)が、大きな影響を与えることはない。
このように、延性材料を用いたばね構造と脆性材料を用いたばね構造をMEMSデバイスに適用することによって、損失が低いという利点を保持しつつ、クリープ現象による特性劣化の小さいMEMSデバイス(MEMS可変容量デバイス)を提供できる。
【0034】
アンカー部52に用いられる材料は、例えば、第2のばね構造45と同じ材料(例えば、脆性材料)が用いられもよいし、アンカー部51と同じ材料(例えば、延性材料)でもよい。
【0035】
下部容量電極11,12と上部容量電極2との間に、第1及び第2の下部駆動電極(駆動電極)31,32が設けられている。上部容量電極2と下部駆動電極31,32との間には、空隙(キャビティ)が設けられている。
【0036】
下部駆動電極31,32は、絶縁膜15を介して、下部容量電極11,12上に積層されている。より具体的には、第1の下部駆動電極31は、絶縁膜15を介して、シグナル電極11上に設けられている。第2の下部駆動電極32は、絶縁膜15を介して、グランド電極12上に設けられている。尚、下部駆動電極31,32は、基板9上面に設けられたシグナル電極11及びグランド電極12上に、絶縁膜を介して、積層されてもよい。
【0037】
下部駆動電極31,32は四角形状の平面形状を有し、例えば、y方向に延在する。下部駆動電極31,32の表面は、例えば、絶縁膜35,36によって覆われている。下部駆動電極31,32は、絶縁膜15上に固定されている。
【0038】
尚、本実施形態において、下部駆動電極31,32のx方向及びy方向の寸法は、下部信号電極11,12と同じ寸法を有して図示されているが、これに限定されない。例えば、下部駆動電極31,32のx方向の寸法は、下部信号電極11,12のx方向の寸法より大きくてもよいし、下部駆動電極31,32のy方向の寸法は、下部信号電極11,12のy方向の寸法より小さくてもよい。
【0039】
下部駆動電極31,32には、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)などの、金属が用いられる。また、絶縁膜35,36には、例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、高誘電体(High-k)膜などの絶縁体が用いられる。
尚、配線91及びダミー層93は、例えば、下部駆動電極31,32と同じ材料が用いられ、配線91及びダミー層93の膜厚は、下部駆動電極31,32の膜厚と同じになっている。また、配線91及びダミー層93をそれぞれ覆う絶縁膜92,94は、下部駆動電極31,32を覆う絶縁膜35,36と同じ材料が用いられ、絶縁膜92,94の膜厚は、絶縁膜35,36の膜厚と同じになっている。
【0040】
上述のように、上部電極2は、下部容量電極11,12と可変容量素子を形成する。さらに、本実施形態においては、上部電極2は、2つの下部駆動電極31,32と対を成す駆動電極としても機能する。つまり、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aにおいて、上部電極2と2つの下部駆動電極31,32によって、アクチュエータが構成されている。以下では、MEMS可変容量デバイスを構成する可動な上部電極2のことを、上部容量/駆動電極2とよぶ。また、本実施形態のように、下部駆動電極31,32が、絶縁膜15を介して、下部容量電極11,12上に積層された構造のことを、積層電極構造とよぶ。
【0041】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aにおいて、下部容量電極11,12と下部駆動電極31,32とは、固定容量素子を形成している。固定容量素子は、積層された電極間の対向面積、積層された電極の間隔(絶縁膜15の膜厚)、絶縁膜の誘電率に応じて、所定の静電容量を有する。具体的には、シグナル電極11と下部駆動電極31との間に、静電容量(第1の静電容量)Cを有する。グランド電極12と下部駆動電極32との間に静電容量(第2の静電容量)Cを有する。静電容量Cと静電容量Cとの値は、同じ大きさを有する場合もあるし、異なる大きさを有する場合もある。
【0042】
また、下部駆動電極31,32と上部容量/駆動電極2との間には、容量結合が存在している。例えば、下部駆動電極31と上部容量/駆動電極2との間に、可変な静電容量(第3の静電容量)Cを有し、下部駆動電極32と上部容量/駆動電極2との間に、可変な静電容量(第4の静電容量)Cを有する。上記のように、上部容量/駆動電極2は、下部駆動電極31,32の上面に対して、上下方向に動くので、容量結合の値は変動する。静電容量Cと静電容量Cの上限値/下限値のそれぞれは、同じ大きさを有する場合もあるし、異なる大きさを有する場合もある。
【0043】
シグナル電極11とグランド電極12との間の静電容量は、シグナル電極11とグランド電極12との間に直列接続された静電容量C,C,C,Cから構成されている。尚、シグナル電極11とグランド電極12との間に直列接続された静電容量C,C,C,Cに加えて、シグナル電極11とグランド電極12との間の静電容量は、シグナル電極11とグランド電極12との間に寄生容量をさらに含む場合があるのはもちろんである。
【0044】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aは、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間に電位差を与えることによって、静電引力が生じる。上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間に生じた静電引力によって、上部容量/駆動電極2が基板表面(下部駆動電極)に対して垂直方向(上下方向)に動き、上部容量/駆動電極2と下部容量電極1との間隔が変動する。容量素子を形成する電極間の距離が変動することによって、MEMS可変容量デバイス100Aの可変容量値(静電容量)CMEMSが変化する。これにともなって、容量電極(ここでは、シグナル電極11)の電位が変位し、高周波(RF:Radio frequency)の信号が、容量電極(シグナル/グランド電極)から出力される。
【0045】
本実施形態のMEMSデバイスにおいて、シグナル電極11とグランド電極12との間に、一定の静電容量C,Cと可変な静電容量(容量結合)C,Cとが直列接続されている。この直列接続された静電容量(合成容量)C,C,C,Cが、MEMSデバイス100Aの可変容量となり、出力(RF電圧VRF)を生成するための可変容量として用いられる。
【0046】
本実施形態のように、可動な上部電極が容量電極及び駆動電極として機能するMEMS可変容量デバイス100Aは、上部容量電極と上部駆動電極とが互いに独立した構造のMEMS可変容量デバイスと比較して、製造方法がシンプルであり、且つ、構造的に頑強である。
【0047】
(b) 動作
図2A乃至図5を用いて、本発明の第1の実施形態に係るMEMSデバイスの動作について、説明する。
まず、図3を用いて、MEMS可変容量デバイス100を駆動させるための構成の概略について、説明する。
図3の(a)は、MEMS可変容量デバイス100を駆動させるための全体構成を模式的に示している。
【0048】
図3の(a)に示されるように、MEMS可変容量デバイス100において、容量電極1,2及び駆動電極31,32は、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)7を介して、電位供給回路8に接続される。
【0049】
電位供給回路8は、例えば、昇圧回路を含んでいる。電位供給回路8は、外部から入力された電圧を、昇圧回路によって昇圧し、供給電位Vinを出力する。供給電位Vinは、ローパスフィルタ7に入力される。供給電位Vinは、バイアス電位Vb又はグランド電位Vgndである。
【0050】
図3の(b)は、ローパスフィルタ7の一例を示す等価回路図である。図3の(b)に示す例において、ローパスフィルタ7は、2つの抵抗素子71,72と1つの固定容量素子73とから構成される。2つの抵抗素子71,72は、直列に接続されている。直列接続された2つの抵抗素子71,72の接続点ndに、固定容量素子73の一端が接続される。固定容量素子73の他端は、例えば、グランド端子gdに接続される。
【0051】
ローパスフィルタ7は、そのカットオフ周波数fcoに基づいて、入力信号(供給電位Vin)が含むカットオフ周波数fcoより大きい周波数成分を遮断し、入力信号が含むカットオフ周波数fco以下の周波数成分を通過させる。ローパスフィルタ7を通過した信号(出力電位)Voutが、MEMS可変容量デバイス100のバイアス電位Vb又はグランド電位Vgndとして、容量電極1,2及び駆動電極31,32に供給される。
【0052】
ローパスフィルタ7のカットオフ周波数fcoは、ローパスフィルタ7を構成する抵抗素子の抵抗値及び固定容量素子の容量値によって、設定される。図3の(b)に示されるローパスフィルタ7において、そのカットオフ周波数fcoは、抵抗素子71,72の抵抗値Rと容量素子73の容量値Cとから求められる時定数の逆数によって、得られる。例えば、ローパスフィルタのカットオフ周波数fcoが0.7MHzに設定される場合、2つの抵抗素子71,72及び固定容量素子73において、その抵抗値Rと容量値Cとから求められる時定数が0.7MHzの逆数になるように、抵抗値R及び容量値Cが設定される。
【0053】
ローパスフィルタ7によって、供給電位Vinの周波数成分(周波数帯域)に比較して、ローパスフィルタ7の出力電位Voutは、低い周波数成分の電位、換言すると、供給電位Vinに対して相対的に直流成分の電位にされる。このように、ローパスフィルタ7が電位供給回路8と各電極1,2,31,32との間に挿入されることによって、電位供給回路8から発生するノイズ(高い周波数成分)が、MEMS可変容量デバイス100、特に、RF出力部(容量電極1,2)に伝播するのを、防止する。
【0054】
例えば、ローパスフィルタ7のカットオフ周波数が0.7MHzに設定された場合、ノイズは、ローパスフィルタ7によって、−20dB/decadeの割合で減少する。よって、例えば、700MHz以上の周波数帯域で使用されるMEMS可変容量デバイス100において、MEMS可変容量デバイスに対するノイズの伝播は、−60dBに抑制できる。
【0055】
また、電極を保持している状態(ホールド状態(up-state))におけるMEMS可変容量デバイスの発振周波数(オシレータ周波数)が0.7MHzに設定された場合、ノイズは、−20dB/decadeの割合で減少する。このため、例えば、700MHz以上の周波数帯域で使用されるMEMS可変容量デバイスにおいて、MEMS可変容量デバイス100に対するノイズの伝播は、−60dBに抑制できる。
【0056】
このように、ローパスフィルタのカットオフ周波数fcoが0.7MHzに設定され、ホールド状態時におけるMEMS可変容量デバイス100の発振周波数が0.7MHzに設定された場合、電位供給回路8からのMEMS可変容量デバイス100に対するノイズの伝播は、ローパスフィルタ7の挿入によって、−120dBに抑制できる。この値(−120dB)は、多くの無線システムにおいて、ノイズの伝播を抑制するのに、十分な値である。
【0057】
尚、ノイズの伝播を抑制するために、ローパスフィルタ7の挿入に加え、シールドメタルを、MEMS可変容量デバイスが設けられた領域(配線レベル)より下層に、設けてもよい。また、電位供給回路(電源線)8を、MEMS可変容量デバイス(RF出力部)とシリコン基板表面に設けられた駆動/ロジック回路とで、それぞれ別途に用いて、ノイズの伝播を抑制してもよい。
【0058】
以上のように、RF出力部に対する電位供給回路8のノイズは、ローパスフィルタ7によって低減される。ノイズが低減された電位Voutが、バイアス電位Vb(又はグランド電位Vgnd)として、MEMS可変容量デバイス100に供給される。そして、MEMS可変容量デバイス100は、上部駆動電極と下部駆動電極とに供給された電位によって、駆動する。
【0059】
図3の(a)に示されるように、本発明の実施形態に係るMEMS可変容量デバイスは、容量電極1,2と駆動電極31,32との間に、静電容量C,C,C,Cをそれぞれ有する。この静電容量C,C,C,Cによって、MEMS可変容量デバイス100は、ホットスイッチング特性が向上する。
【0060】
図2A、図4及び図5を用いて、第1の実施形態に係るMEMS可変容量デバイス100Aの動作について、より具体的に説明する。本実施形態に係るMEMS可変容量デバイス100Aは、例えば、静電駆動型のMEMSデバイスである。図4は、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aにおける、各電極2,31,32、ローパスフィルタ7a,7b,7c、及び電位供給回路8a,8b,8cとの接続関係を示している。また、図2A及び図4は、MEMS可変容量デバイス100Aの駆動時のそれぞれ異なる状態を示している。
【0061】
図4に示されるように、上部容量/駆動電極2は、ローパスフィルタ7aを経由して、電位供給回路8aに接続される。第1の下部駆動電極31には、ローパスフィルタ7bを経由して、電位供給回路8bに接続される。第2の下部駆動電極32には、ローパスフィルタ7cを経由して、電位供給回路8cに接続される。図4に示される例では、2つの下部駆動電極31,32は、それぞれ異なる電位供給回路8b,8cに接続されている。但し、本実施形態において、2つの下部駆動電極31,32は、それぞれ異なるローパスフィルタ7b,7cに接続されていれば、1つの電位供給回路を共有してもよい。
【0062】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aが駆動される場合、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間に、電位差が与えられる。
【0063】
例えば、上部容量/駆動電極2にグランド電位Vgnd(例えば、0V)が供給され、下部駆動電極31,32にバイアス電位Vbが供給されることによって、MEMS可変容量デバイス100Aは駆動する。上部容量/駆動電極2が下側へ向かって駆動する場合において、バイアス電位Vbは、例えば、30V程度である。
これとは反対に、上部容量/駆動電極2にバイアス電位Vbが供給され、下部駆動電極31,32にグランド電位Vgndが供給されることによって、MEMS可変容量デバイス1を駆動してもよい。また、上部容量/駆動電極2及び下部駆動電極31,32にそれぞれ供給する電位を、バイアス電位Vbとグランド電位Vgndとで交互に入れ替えて駆動させてもよい。尚、2つの下部駆動電極31,32の両方に、同じ大きさ・極性の電位が供給されることに限定されない。
【0064】
与えられた電位差に起因して、電極2,31,32間に静電引力が発生する。
上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間の電位差が小さい、又は、電位差が無い場合、図2Aに示すように、MEMS可変容量デバイス100Aは、上部容量/駆動電極2は、上へ上がった状態になっている。
【0065】
上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間の電位差がある値以上になると、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間に生じる静電引力によって、可動な上部容量/駆動電極2は動き始め、下部駆動電極31,32側へ引き寄せられる。その結果として、上部容量/駆動電極2は、下部駆動電極31,32側へ下がる。可動な上部容量/駆動電極2が動き始める電位差は、プルイン電圧とよばれる。
【0066】
本実施形態において、上部駆動電極2と下部駆動電極31,32との間の電位差がある値(プルイン電圧)以上になって、例えば、図4に示されるように、上部容量/駆動電極2が下部駆動電極31,32側へ下がった状態のことを、down-stateとよぶ。これに対して、上部駆動電極2と下部駆動電極31,32との間の電位差がプルイン電圧より小さくて、例えば、図2Aに示されるように、上部容量/駆動電極2が上へ上がった状態のことをup-stateとよぶ。
【0067】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aは、下部容量電極(シグナル/グランド電極)11,12上に、下部駆動電極31,32が積層された構造を有している。それゆえ、上部容量/駆動電極2が下部駆動電極31,32側へ下がる動作は、上部容量/駆動電極2が下部容量電極11,12側へ下がる動作と、同じである。
よって、MEMS可変容量デバイス100Aのup-state時とMEMS可変容量デバイス100Bのdown-state時とで、可変容量素子を形成する上部容量/駆動電極2と下部容量電極1との間の電極間距離が、変化する。
【0068】
本実施形態のMEMS可変容量デバイスにおいて、下部容量電極1を構成する2つの電極11,12のうち、一方の電極(シグナル電極)11の電位は可変にされ、他方の電極(グランド電極)12の電位は固定されている。
上部容量電極2と下部容量電極11,12との間の電極間距離が変動することによって、対を成す2つの下部容量電極のうち、シグナル電極11の電位は、down-stateとup-stateとで、変化する。一方、MEMS可変容量デバイス100Aの動作時、2つの下部容量電極1のうちグランド電極12は、一定の電位(例えば、グランド電位)に固定されている。このため、グランド電極12の電位は、上部容量/駆動電極2が上下に動いても、変化しない。
このシグナル電極11とグランド電極12との電位差が、出力信号(RFパワー又はRF電圧)VRFとして、up-stateとdown-stateとが繰り返されるMEMS可変容量デバイス100Aの動作サイクルに応じて、外部へ出力される。この出力の周波数は、MEMS可変容量デバイス100Aの動作サイクルに応じた値になる。
【0069】
また、上部容量/駆動電極2を、down-stateからup-stateに戻す場合には、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間に、ある値以上の電位差(以下、プルアウト電圧とよぶ)が与えられる。
【0070】
以上のように、図4に示すように、上部容量/駆動電極2と電位供給回路8aとの間に、ローパスフィルタ7aが挿入されている。これによって、上部信号/容量電極2は、高周波(RF)的には、フロート(浮遊状態)になる。このため、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aにおいて、上部電極2は、下部容量電極1と対を成す上部容量電極として機能すると共に、下部駆動電極31,32と対を成す上部駆動電極としても機能する。
【0071】
上記の構成によって、本実施形態に係るMEMS可変容量デバイス100Aは、高いホットスイッチング特性を示す。ホットスイッチングとは、RF電圧を出力している状態、換言すると、RFパワーが印加されている状態で、可動な上部電極2をスイッチング(駆動)することである。
【0072】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aが、高いホットスイッチング特性を示す理由について、図5を用いて、説明する。
【0073】
一般的なMEMS可変容量デバイスにおいて、RFパワーが印加されている状態で、素子をオフさせる、すなわち、上部容量電極をup-stateに戻すのは、RFパワー(RF電圧)に起因する上部容量電極と下部容量電極との間の静電引力によって、困難である。
これに対して、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aは、図5の(a)に示されるように、各電極2,11,12,31,32間に、静電容量C,C,C,Cを有する。
【0074】
下部容量電極(シグナル電極)11及び下部駆動電極31は、絶縁膜15を挟んで、容量Cを有する固定容量素子を形成している。これと同様に、下部容量電極(グランド電極)12及び下部駆動電極32は、静電容量Cを有する固定容量素子を形成している。これらの固定容量素子は、MIM(Metal-Insulator-Metal)構造を有している。以下、では、MIM構造を有する固定容量素子のことをMIM容量素子とよぶ。静電容量Cと静電容量Cとの値は、同じ大きさを有する場合もあるし、異なる大きさを有する場合もある。
【0075】
上部容量/駆動電極2及び下部駆動電極31は、絶縁膜35を挟んで、静電容量Cの容量結合を有する。また、上部容量/駆動電極2及び下部駆動電極32は、絶縁膜36を挟んで、静電容量Cの容量結合を有する。この静電容量Cの大きさは、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極32との対向面積に応じた範囲内で、上部容量/駆動電極2が上下に駆動するのに伴って、変化する。静電容量Cと静電容量Cの上限値/下限値のそれぞれは、同じ大きさを有する場合もあるし、異なる大きさを有する場合もある。
【0076】
MEMS可変容量デバイス100Aの容量/駆動電極2,11,12,31,32において、図5の(b)に示されるように、2個の固定容量C,Cと、2個の可変容量C,Cがシグナル線sig−グランド線gnd間に直列接続された構成に等価的になっている。シグナル電極11とグランド電極12との間の静電容量は、シグナル電極11とグランド電極12との間に直列接続された静電容量C,C,C,Cによって決定される。
【0077】
シグナル電極11とグランド電極12との間に直列接続された静電容量(合成容量)C,C,C,Cが、MEMSデバイス100の可変容量CMEMS、つまり、出力(RF電圧VRF)を生成するための可変容量CMEMSとして用いられる。
【0078】
尚、直列接続された静電容量C,C,C,Cに加えて、シグナル電極11とグランド電極12との間に生じる寄生容量が、シグナル電極11とグランド電極12との間の静電容量にさらに含まれる場合があるのはもちろんである。
【0079】
本実施形態において、一定な固定容量C,Cと可変な容量結合C,Cとの静電容量(合成容量)が、MEMS可変容量デバイス100Aの動作及び出力に、寄与する。尚、シグナル電極11の電位の変動は、上部容量/駆動電極2とシグナル電極との電極間距離の変動によると述べた。但し、上部容量/駆動電極2の動作(up/down-state)に伴う容量結合Cの値の変動によって、固定容量Cの電位が変動し、その容量Cの電位の変動が、シグナル電極11の電位に反映されている、とも換言できる。
【0080】
ここで、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31との間に印加される電位差ΔVは、静電容量C,C及び、印加されたRFパワーによるRF電圧VRFを用いて、次の(式1A)で示される。尚、ここでは、説明の簡単化のため、静電容量C,CがC=Cの関係を有し、静電容量C,CがC=Cの関係を有する場合について、説明する。
【0081】
ΔV=VRF×C/(2(C+C)) ・・・(式1A)
(式1A)に示されるように、電位差ΔVは、C/(2(C+C))に相関して、RF電圧VRFより小さくなる。
【0082】
これと同様に、静電容量C,C,C,Cが、C=C、及び、C=Cの関係を有する場合、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極32との間に印加される電位差ΔVは、ΔV=ΔVの関係を有する。また、この場合、電位差ΔVは(式1B)で示すこともできる。
【0083】
ΔV=VRF×C/(2(C+C)) ・・・(式1B)
(式1B)に示されるように、電位差ΔVは、C/(2(C+C))に相関して、RF電圧VRFより小さくなる。
【0084】
また、直列接続された1つの静電容量Cと1つの静電容量Cとの合成容量C13は、次の(式2A)で示される。
13=C×C/(C+C)=C/(1+C/C) ・・・(式2A)
これと同様に、直列接続された静電容量Cと静電容量Cとの合成容量C24は、次の(式2B)で示される。
【0085】
24=C/(1+C/C) ・・・(式2B)
尚、(式1A)、(式1B)、(式2A)及び(式2B)における静電容量C,Cは、可動な上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31との容量結合の値なので、例えば、MEMS可変容量デバイス100Aがdown-stateである場合と、up-stateである場合で異なる。静電容量C,Cは、可動な上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31との間隔に反比例するので、静電容量C,Cの容量値は、down-stateである場合にup-stateである場合より大きくなる。
【0086】
シグナル電極−グランド電極間に印加されているRFパワーが35dBm(3.2W程度)である場合、RF電圧VRFは、例えば、13V程度になる。
【0087】
上記のように、RF電圧VRFはシグナル電極11とグランド電極12との間の電位差であるため、上部容量/駆動電極2と下部容量電極11,12との間に、RF電圧VRFに起因した静電引力が発生することになる。
【0088】
通常のMEMS可変容量デバイスでは、RF電圧VRFが出力されている場合、RF電圧VRFに起因した静電引力によって、可動な上部容量電極は、下部容量電極に引き寄せられる。そのため、上部容量電極を上方へ引き上げる(プルアウトする)には、RF電圧VRFに起因する静電引力より大きい駆動力が必要である。それゆえ、通常のMEMS可変容量デバイスは、ホットスイッチングを容易に実現できなかった。
【0089】
これに対して、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aにおいて、シグナル線(シグナル電極)sigとグランド線(グランド電極)gndとの間に、複数(本例では、4個)の静電容量C,C,C,Cが、挿入されている。それらの静電容量C,C,C,Cは、上部容量/駆動電極2と下部容量電極11,12との間で、下部駆動電極31,32を経由して、直列に接続されている。それらの静電容量C,C,C,Cは、シグナル線sig−グランド線gnd間に、上部容量/駆動電極2を経由して、直列に接続されている。
それゆえ、(式1)に示されるように、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間の電位差ΔV,ΔVは、C/(2×(C+C))又はC/(2(C+C))の値に応じて、RF電圧VRFより小さくなる。上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間の静電引力は、静電容量C,Cと電位差ΔV,ΔVとの積でそれぞれ示される。そのため、上部容量/駆動電極2に与えられる静電引力は、RF電圧VRFが上部容量/駆動電極2と下部容量電極11,12との間に直接印加されている場合に比較して、小さくなる。
【0090】
例えば、MEMS可変容量デバイス100Aのdown-state時において、静電容量C,Cが静電容量C,Cと同じ大きさであれば、式(1)に基づくと、電位差ΔVはRF電圧VRFの1/4になる。この場合、印加されているRF電圧VRFが13V程度とすると、電位差ΔVは、3V程度になる。上部容量/駆動電極2をup-stateに戻すためのプルアウト電圧は、例えば、5V程度である。よって、上記のように、電位差ΔVを3V程度にすることができれば、RFパワーの印加時であっても、可動な上部容量/駆動電極2をdown-stateからup-stateに戻すことは容易である。したがって、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aによれば、ホットスイッチングが容易になり、ホットスイッチング特性は向上する。
【0091】
また、本実施形態のように、下部駆動電極31,32が下部容量電極11,12上に積層された構造(以下、積層電極構造とよぶ)を有するMEMS可変容量デバイス100Aは、その容量値のばらつきを抑えることもできる。
【0092】
MEMS可変容量デバイスに用いられる一般的な静電型アクチュエータは、上部駆動電極と下部駆動電極とのうち、一方が可動であり、他方が、基板上に固定されている。一般的な静電型アクチュエータのdown-state時において、上部駆動電極と下部駆動電極との間の静電容量の値は、駆動電極表面のラフネス(表面粗さ)の影響を受ける。そのため、MIM容量素子の容量値よりもばらつきが大きい。
【0093】
本実施形態のように、積層電極構造を有するMEMS可変容量デバイス1において、その動作及び出力に寄与する静電容量CMEMSの一部は、静電容量C,Cを有するMIM容量素子によって担われている。MIM容量素子は、電極と絶縁膜との界面のラフネスの影響は小さいので、その容量値のばらつきは小さい。そのため、一般的な静電型アクチュエータを用いたMEMS可変容量デバイスに比較して、本実施形態のように、MIM容量素子が動作及び出力に直接寄与するMEMS可変容量デバイス100Aは、その駆動力を生成する静電容量のばらつきを、低減できる。
【0094】
より具体的には、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Aでは、容量比C/C(=C/C)を小さくすることによって、デバイスの動作及び出力に寄与する静電容量のばらつきを低減できる。例えば、MIM容量素子の静電容量C,Cのばらつきが、無視できるほど小さいと仮定する。そして、down-state時における静電容量C,Cが静電容量C,Cと同じ大きさである場合、静電容量のばらつきは、半分になる。したがって、MEMS可変容量デバイスの動作を安定化できる。
【0095】
以上のように、第1の実施形態に係るMEMSデバイス(MEMS可変容量デバイス)によれば、そのホットスイッチング特性を向上できる。
【0096】
(c) 検証
図6及び図7を用いて、本発明の第1の実施形態に係るMEMSデバイスの検証結果について、説明する。
まず、MEMSデバイスのプルイン電圧Vpi及びプルアウト電圧Vpoの温度特性について、述べる。ここでは、第1の実施形態のMEMS可変容量デバイスと類似した構造を有する静電駆動型アクチュエータ200のプルイン/プルアウト電圧Vpi,Vpoが、測定される。図6は、その静電駆動型アクチュエータ200の構造を示している。図6の(a)は、静電型アクチュエータ200の平面構造を示し、図6の(b)は、図6の(a)のA−A’線に沿う断面構造を示している。
【0097】
図6の(a)及び図6の(b)に示すように、2つの下部駆動電極31,35が基板9上に設けられている。下部駆動電極31,35の上方に、可動な上部電極2Xが中空に支持されている。検証に用いられたアクチュエータ200は、下部容量電極を有さない。そのため、上部電極2Xは、駆動電極としてのみ機能する。ここでは、上部電極2Xのことを、上部駆動電極2Xとよぶ。上部駆動電極2Xには、その上面から底面に向かって貫通する開口部21が設けられている。
【0098】
上部駆動電極2Xには、ばね構造46の一端が接続されている。ばね構造46には、絶縁性の材料(SiN)が用いられている。また、ばね構造46の他端は、ダミー層93,94上のアンカー部51に接続されている。
【0099】
下部駆動電極31,32には、配線99を経由して、電位が供給される。上部駆動電極2には、電位が供給されず、上部駆動電極2はフローティング状態になっている。
【0100】
図7は、図6に示されるアクチュエータ200のプルイン/プルアウト電圧Vpi,Vpoの温度依存性を示している。その測定に用いられた温度範囲は、−40℃から85℃までの範囲である。
【0101】
図7に示されるように、上記の温度範囲において、プルアウト電圧Vpoは、7Vから8V程度の範囲内で変化している。また、プルイン電圧Vpiは、21Vから27V程度の範囲内で変化している。
【0102】
尚、プルイン電圧Vpi及びプルアウト電圧Vpoは、ばね構造のばね定数kや、上部駆動電極と下部駆動電極との対向面積Aによって、変化する。しかし、プルイン電圧Vpi及びプルアウト電圧Vpoの大きさは、√(k/A)に比例する。そのため、この検証結果は、比率k/Aが一定であれば、電極のサイズが異なるアクチュエータでも、同様の結果が得られるのは、もちろんである。
【0103】
図7に示されるアクチュエータのプルアウト電圧Vpoの測定結果に基づいて、ホットスイッチングのための静電容量C,C,C,Cの条件を求める。ここでは、直列接続された1つの固定の静電容量Cと1つの可変な静電容量Cとの静電容量比C/Cについて、検証する。また、MEMS可変容量デバイスのRFパワーは、35dBm(約3.2W)とし、シグナル線sig−グランド線gnd間のインピーダンスは、50Ωとする。
【0104】
35dBmのRFパワーが印加されている時、上記のインピーダンス(50Ω)に対応して、約13Vの電位差(RF電圧VRF)がシグナル線sig−グランド線gnd間に印加されている。この状態で、可動な上部電極2がdown-stateからup-stateになるためには、プルアウト電圧Vpoが(式1)のΔVよりも大きい、すなわち、Vpo>ΔVの関係が成り立てばよい。
【0105】
ここで、図7に示される測定結果より、プルアウト電圧Vpoは、基準値として5Vとする。また、RF電圧VRFは13Vとする。これらの値Vpo,VRFを用いて、Vpo>ΔVの関係が成立するように、(式1A)を演算すると、次の(式3)が得られる。尚、ここでは、説明の簡単化のため、静電容量C,CがC=Cの関係を有し、静電容量C,Cが、C=Cの関係を有する場合について、述べる。
【0106】
(C/C)>0.5 ・・・(式3)
この結果より、積層電極構造を有するMEMS可変容量デバイス100Aが、35dBmのRFパワーが印加されている状態でホットスイッチングするためには、(式3)の条件を満たすことが好ましい。また、直列接続された固定の静電容量Cと可変な静電容量Cと静電容量比C/Cも、(C/C)>0.5を満たすことが好ましい。尚、静電容量比(C/C)及び静電容量比C/Cのうち、少なくとも一方が、0.5より大きくともよい。
【0107】
以上のように、MEMSデバイス(MEMS可変容量デバイス)が、図1乃至図4の構成を有し、下部電極1と駆動電極2との静電容量C,C、上部電極と駆動電極との静電容量C,Cが、(式1)の関係を有し、更には、(式3)の関係を有することによって、ホットスイッチング特性が向上する。
【0108】
したがって、本発明の第1の実施形態によれば、ホットスイッチング特性が向上したMEMSデバイスを実現できる。
【0109】
(d) 製造方法
以下、図8を用いて、第1の実施形態に係るMEMSデバイス(MEMS可変容量デバイス)の製造方法について、説明する。ここでは、MEMS可変容量デバイスの下部容量電極及び下部駆動電極が形成される領域を抽出して、MEMS可変容量デバイスの製造工程について、説明する。図8は、MEMS可変容量デバイスの製造工程の各工程において、図1のy方向に沿う断面構造をそれぞれ示している。
【0110】
まず、図8の(a)に示すように、基板(例えば、層間絶縁膜)1内に、例えば、フォトリソグラフィー技術及びRIE(Reactive Ion Etching)法を用いて、溝Zが形成される。
【0111】
この後、基板1上及び溝Z内に、導電体が、例えば、CVD(Chemical Vapor deposition)法又はスパッタ法を用いて、堆積される。導電体には、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)及び金(Au)等の金属やこれらのいずれかを含む合金が用いられる。
【0112】
そして、基板1の上面をストッパとして、導電体に対して、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法による平坦化処理が実行される。
これによって、基板1の溝Z内に、MEMS可変容量デバイスの下部容量電極11,12が、自己整合的に埋め込まれる。本実施形態のMEMS可変容量デバイスにおいて、下部容量電極11,12は、2つの電極(配線)が対をなして形成されている。具体的には、シグナル電極11とグランド電極12とから一対の下部容量電極が構成されている。シグナル線11とグランド線12との電位差が、MEMS可変容量デバイスの出力(RFパワー、RF電圧)となる。
【0113】
このように、下部容量電極11,12は、ダマシーンプロセスによって、形成される。尚、溝Zの平面形状は、下部容量電極11,12のレイアウトに応じて、所定の形状になるように、形成される。
【0114】
次に、図8の(b)に示されるように、絶縁膜15が、例えば、CVD法や熱酸化法などを用いて、基板1表面上及び下部RF電極11,12上に、堆積される。絶縁膜15は、例えば、酸化シリコンが用いられる。但し、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどのように、酸化シリコンより比誘電率の高い材料を用いてもよい。
【0115】
続いて、導電体が、例えば、CVD法やスパッタ法を用いて、絶縁膜15上に堆積される。堆積された導電体は、フォトリソグラフィー技術及びRIE法を用いて、所定の形状に加工される。これによって、シグナル電極11及びグランド電極12と上下に重なる位置に、MEMS可変容量デバイスの下部駆動電極31,32がそれぞれ形成される。
【0116】
このように、シグナル電極11上及びグランド電極12上に、下部駆動電極31,32が積層される。この結果として、シグナル電極11、下部駆動電極31、及びこれら2つの電極11,31に挟まれた絶縁膜15によって、1つのMIM容量素子が形成される。これと同様に、グランド電極12、下部駆動電極32、及びこれら2つの電極12,32に挟まれた絶縁膜15によって、MIM容量素子が形成される。これらのMIM容量素子は、積層された電極間の対向面積、絶縁膜の膜厚及び絶縁膜の誘電率に応じて、静電容量C,Cを有する。
【0117】
ここで、図8の(a)に示したように、シグナル/グランド電極11,12はダマシーンプロセスを用いて形成される。これによって、シグナル/グランド電極11,12の上面、及び、これらの電極11,12上に堆積される絶縁膜15の上面は、平坦になる。そのため、平坦な絶縁膜15上に形成される下部駆動電極31,32の上面及び底面も、平坦になる。したがって、MIM容量素子の静電容量C,Cのばらつきは、小さくなる。
【0118】
尚、下部駆動電極31,32が形成されるのと同時に、絶縁膜15(基板1)上に、MEMSデバイスの配線やダミー層が、下部駆動電極31,32と同じ材料を用いて、形成されてもよい。
【0119】
下部駆動電極31,32上に、絶縁膜35,36が、例えば、CVD法や熱酸化法など用いて、形成される。絶縁膜35,36には、例えば、酸化シリコンが用いられる。但し、絶縁膜35,36には、酸化シリコンより比誘電率の高い絶縁体が用いられてもよい。尚、絶縁膜35,36がCVD法を用いて堆積された場合、下部駆動電極31,32表面だけでなく、絶縁膜15上にも堆積されるが、ここでの図示は省略する。
【0120】
続いて、図8の(c)に示されるように、犠牲層98が、例えば、CVD法や塗布法などを用いて、絶縁膜15,35上に形成される。犠牲層98は、犠牲層98より下層に形成された材料及び犠牲層98より上層に形成される後述の材料に対して、所定のエッチング選択比を確保できれば、絶縁体、導電体(金属)、半導体、或いは、有機物(例えば、レジスト)など、いずれを用いてもよい。
【0121】
そして、アンカー部を形成する領域(以下、アンカー形成領域とよぶ)において、犠牲層98内に、アンカー部を埋め込む開口部(図示せず)が、フォトリソグラフィー技術及びRIE法を用いて、形成される。
【0122】
それから、導電体2が、例えば、CVD法やスパッタ法を用いて、犠牲層98上に堆積される。
犠牲層98上の導電体2は、例えば、フォトリソグラフィー技術及びRIE法を用いて、所定の形状に加工される。これによって、MEMS可変容量デバイスの上部容量電極2が形成される。尚、第1の実施形態に係るMEMS可変容量デバイスにおいて、上部電極2は、可変容量素子の容量電極として機能すると共に、アクチュエータの駆動電極としても機能する。
【0123】
上部容量/駆動電極2と同じ材料(導電体)を用いて、第1のばね構造(図示せず)が形成される。このばね構造は、上部容量/駆動電極2と一体に繋がっている。この場合、ばね構造は、例えば、延性材料から構成される。
【0124】
尚、犠牲層98上に導電体2が堆積されるのと同時に、アンカー形成領域の開口部内に、導電体2が開口部内に埋め込まれる。これによって、アンカー部(図示せず)が基板上の所定の位置に形成される。但し、アンカー部は、上部電極及びばね構造と異なる工程で形成してもよい。
【0125】
また、図1乃至図2Bに示されるように、MEMS可変容量デバイスがそれぞれ異なる材料のばね構造41,45を有する場合、上部容量/駆動電極2及び第1のばね構造41が形成された後、第2のばね構造(図示せず)が、上部容量/駆動電極2上の所定の位置に接続されるように、犠牲層98上に形成される。例えば、以下の工程で、第2のばね構造が形成される。
【0126】
上部容量/駆動電極2及び第1のばね構造が形成された後、第2のばね構造が接続されるアンカー部の形成領域において、犠牲層98内に開口部が形成される。そして、第2のばね構造を構成する材料(例えば、脆性材料)が、例えば、CVD法などを用いて、上部容量/駆動電極2上、犠牲層98上、アンカー形成領域の開口部内に、堆積される。その堆積された部材が、例えば、フォトリソグラフィー技術及びRIE法によって、所定の形状に加工され、第2のばね構造が形成される。また、アンカー形成領域の開口部内に堆積された材料は、アンカー部(図示せず)となる。尚、第2のばね構造に接続されるアンカー部は、第1のばね構造に接続されるアンカー部と同じ工程及び材料(例えば、延性材料)で、形成されてもよい。
【0127】
この後、犠牲層98が、例えば、ウェットエッチングを用いて、選択的に除去される。これによって、図2Aに示されるように、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間に、キャビティ(空隙)が形成される。上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間には、容量結合C,Cが形成される。
【0128】
以上の工程によって、例えば、図1乃至図2Bに示されるように、積層電極構造のMEMS可変容量デバイスが完成する。
【0129】
尚、上部容量/駆動電極及び下部駆動電極に接続されるローパスフィルタは、MEMS可変容量デバイスと同じ配線レベルに形成されてもよいし、MEMS可変容量デバイスよりも下層の配線レベル(例えば、シリコン基板上)に形成されてもよい。
【0130】
上述したように、第1の実施形態に係るMEMS可変容量デバイスの動作及び出力に寄与する静電容量の一部は、基板上のMIM容量素子(固定容量素子)によって担われる。そのため、動作及び出力に寄与する容量値のばらつきを小さくするためには、MIM容量素子のばらつきを抑制することが望ましい。
【0131】
上記のように、そのMIM容量素子は、下部容量電極11,12と下部駆動電極31,32とから構成される。それゆえ、図8を用いて説明した製造方法のように、下部容量電極11,12がダマシーンプロセスを用いて形成されることによって、下部容量電極11,12及びその電極11,12上の絶縁膜15は、その上面の平坦性が、向上する。その絶縁膜15上に積層される下部駆動電極において、その底面の平坦性が向上するのはもちろんである。これによって、MEMSデバイスに含まれるMIM容量素子の静電容量のばらつきは、小さくなる。
このように、動作及び出力に寄与するMIM容量素子の静電容量C,Cのばらつきが、低減されるので、MEMS可変容量デバイスの動作を安定化できる。
【0132】
また、本実施形態では、下部容量電極11,12−下部駆動電極31,32間の一定の静電容量C,C及び下部駆動電極31,32−上部容量/駆動電極2間の可変な静電容量C,Cによって、MEMS可変容量デバイスのホットスイッチング特性を向上できる。
【0133】
したがって、本発明の第1の実施形態に係るMEMSデバイスの製造方法によれば、容易なホットスイッチングを実現するMEMSデバイスを提供できる。
【0134】
(2) 第2の実施形態
図9、図10A及び図10Bを用いて、本発明の第2の実施形態に係るMEMSデバイスの構造について、説明する。図9は、本実施形態におけるMEMSデバイス(例えば、MEMS可変容量デバイス)の平面構造を示す平面図である。図10Aは、図9のA−A’線に沿う断面構造を示す断面図である。図9のB−B’線に沿う断面構造は、図2Bに示される構造と実質的に同じである。図10Bは、本実施形態のMEMS可変容量デバイスの駆動時の状態を示している。
ここでは、第2の実施形態に係るMEMSデバイスと第1の実施形態に係るMEMSデバイスとの相違点について、主に説明する。
【0135】
第2の実施形態に係るMEMS可変容量デバイス100Bにおいて、上部容量/駆動電極2は、電位が供給されない。
例えば、図9及び図10に示されるように、上部容量/駆動電極2は、ばね構造45及びアンカー52部によって、中空に支持されている。このばね構造45は、外部から電気的に分離されている。または、ばね構造45に用いられている材料が、絶縁体である。そのため、ばね構造45を経由して、上部容量/駆動電極2に外部から電位が供給されない。そして、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Bにおいて、導電体が用いられ、且つ、外部と電気的に接続されたばね構造は、設けられていない。そのため、そのばね構造を経由して、上部容量/駆動電極2に電位が供給されることも無い。
【0136】
このように、第2の実施形態に係るMEMS可変容量デバイス100Bは、上部容量/駆動電極2に外部から電位が供給されず、上部容量/駆動電極2は電気的にフローティング状態になっている。
【0137】
図9及び図10に示されるMEMS可変容量デバイス100Bは、上部容量/駆動電極2に、電位が直接供給されない。しかし、第1の下部駆動電極31と第2の下部駆動電極32との間に電位差が設けられることによって、上部容量/駆動電極2は、下部駆動電極31,32に対して上下方向(垂直方向)に動く。例えば、図10Bに示されるように、上部容量/駆動電極2が下部駆動電極31,32側へ引き下げられる場合、第1の下部駆動電極31に、バイアス電位Vbが供給され、第2の下部駆動電極32に、グランド電位Vgndが供給される。
【0138】
電位が供給されない上部容量/駆動電極2が、下部駆動電極31,32に向かって動くのは、次の理由による。
【0139】
フローティング状態の上部容量/駆動電極2の内部電位は、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間の静電容量(容量結合)に、依存する。
2つ下部駆動電極31,32間に電位差が設けられると、一方の静電容量Cが保持する電荷量(電位)と他方の静電容量Cの電荷量に、差が生じる。その結果として、上部容量/駆動電極2の内部電位が変動する。この内部電位の変動によって、上部容量/駆動電極2と2つの下部駆動電極31,32との間に電位差が与えられ、静電引力が発生する。
【0140】
これによって、図10Bに示されるように、可動な上部容量/駆動電極2が、下部駆動電極31,32に対して上下に動く。尚、上部容量/駆動電極2が上方へ引き上げられる場合、例えば、2つの下部駆動電極31,32の電位が、同じ電位にされる。
【0141】
以上のように、上部容量/駆動電極2に電位が供給されなくても、下部駆動電極31,32とフローティング状態の上部容量/駆動電極2との容量結合C,Cを利用して、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Bが駆動される。
【0142】
また、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Bは、第1の実施形態と同様に、一定の静電容量C,Cと可変な静電容量C,Cは、上部容量/駆動電極2と下部容量電極11,12との間で、下部駆動電極31,32を経由して、直列に接続されている。更には、それらの静電容量C,C,C,Cは、シグナル線sig−グランド線gnd間に、直列に接続されている。直列に接続された静電容量C,C,C,Cが、MEMSデバイスの出力を生成する可変容量となる。
【0143】
それゆえ、第1の実施形態と同様に、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Bは、ホットスイッチング特性を向上できる。
【0144】
したがって、本発明の第2の実施形態によれば、ホットスイッチング特性が向上したMEMSデバイスを実現できる。
【0145】
(3) 第3の実施形態
図11、図12A、図12B及び図12Cを用いて、本発明の第3の実施形態に係るMEMSデバイス(例えば、MEMS可変容量デバイス)100Cの構造について、説明する。図11は、本実施形態におけるMEMS可変容量デバイスの平面構造を示す平面図である。図12Aは、図11のC−C’線に沿う断面構造を示す断面図である。図12Bは、図11のD−D’線に沿う断面構造を示す断面図である。また、図12Cは、本実施形態のMEMS可変容量デバイスの駆動時の状態を示している。
ここでは、第3の実施形態に係るMEMSデバイスと第1及び第2の実施形態に係るMEMSデバイスとの相違点について、主に説明する。
【0146】
図11、図12A及び図12Bに示されるように、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cにおいて、第1及び第2の実施形態とは異なって、下部駆動電極31,32は、下部容量電極11A,12A上に積層されていない。しかし、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cは、下部容量電極上に下部駆動電極が積層された構造(積層電極構造)を有するMEMS可変容量デバイスと、回路的に等価な構造が実現されている。
【0147】
図11乃至図12Bに示されるように、下部容量電極11A,12Aは、基板9上に設けられている。本実施形態においても、下部容量電極11A,12Aは、対をなすシグナル電極11Aとグランド電極12Aとから構成されている。シグナル電極11A及びグランド電極12Aは、y方向に延在している。シグナル電極11Aは、シグナル線sigとして機能し、グランド電極12Aは、グランド線gndとして機能する。シグナル電極11Aの電位は、可変であり、上部容量/駆動電極2の動作に伴って、変動する。グランド電極12Aには、例えば、グランド電位が供給される。シグナル電極11Aとグランド電極12Aとの電位差(RF電圧)が、MEMS可変容量デバイス100Cの出力(RFパワー)となる。
【0148】
2つの下部駆動電極31,32は、x方向に互いに隣接している。第1の下部駆動電極31は、基板表面に対して平行方向(x方向)において、シグナル電極11Aに隣接している。第2の下部駆動電極32は、基板表面に対して平行方向(x方向)において、グランド電極12Aに隣接している。例えば、2つの下部駆動電極31,32は、シグナル電極11Aとグランド電極12Aとの間の基板9上に設けられている。
【0149】
下部駆動電極31,32は、基板9表面に対して垂直方向において、上部容量/駆動電極2の下方に設けられ、2つの下部駆動電極31,32の一部分が、上部容量/駆動電極2と上下に重なる位置に配置されている。
また、シグナル電極11A及びグランド電極12Aは、例えば、基板9表面に対して垂直方向において、上部容量/駆動電極2と上下に重ならない位置に配置されている。
【0150】
尚、シグナル/グランド電極11A,12Aは、例えば、下部駆動電極31,32と同じ材料を用いて、同時に形成される。この場合、シグナル/グランド電極11A,12Aの膜厚は、下部駆動電極31,32の膜厚と実質的に同じである。
【0151】
下部駆動電極31,32の表面は、絶縁膜35,36によって、それぞれ覆われている。この絶縁膜35,36には、開口部Q1,Q2がそれぞれ設けられている。開口部Q1,Q2は、例えば、基板9表面に対して垂直方向において、上部容量/駆動電極2と上下に重ならない位置に設けられている。シグナル電極11A及びグランド電極12Aの表面は、絶縁膜37,38によって、それぞれ覆われている。絶縁膜37,38は、例えば、絶縁膜35,36と同じ材料を用いて、同時に形成される。この場合、絶縁膜37,38の膜厚は、絶縁膜35,36の膜厚と同じである。
【0152】
このように、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cにおいて、シグナル電極11A及びグランド電極12Aは、下部駆動電極31,32と同じ配線レベルに設けられている。尚、配線レベルとは、基板9表面又は基板9下層のシリコン基板表面を基準とした高さ(位置)である。
【0153】
第1及び第2の導電層33,34は、絶縁膜35,36,37,38上に設けられる。
第1の導電層33は、絶縁膜37を介して、シグナル電極11A上に積層されている。第1の導電層33は、開口部Q1を経由して、下部駆動電極31に直接接触する。
第2の導電層34は、絶縁膜38を介して、グランド電極12A上に積層されている。第2の導電層34は、開口部Q2を経由して、下部駆動電極32に直接接触する。尚、導電層33,34は、例えば、基板表面に対して垂直方向において、上部容量/駆動電極2と上下に重ならない位置に配置される。
【0154】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cにおいて、MIM容量素子は、シグナル電極11A、第1の導電層33、及び、シグナル電極11Aと導電層33との間に挟まれた絶縁膜37を用いて、構成されている。そのMIM容量素子は、電極11Aと導電層33との対向面積、絶縁膜37の膜厚及び絶縁膜37の誘電率に応じて、一定の静電容量C,Cを有している。これと同様に、グランド電極12A、第1の導電層34及び絶縁膜38は、MIM容量素子を構成し、その素子は一定の静電容量C,Cを有している。このように、導電層33,34は、MIM容量素子の電極として機能する。
【0155】
第1の実施形態と同様に、上部容量/駆動電極2は、ばね構造41,45を経由して、アンカー部51,52に接続されている。上部容量/駆動電極2は、アンカー部51,52によって、下部駆動電極31,32上方に、中空に支えられている。上部容量/駆動電極2は、導電体(延性材料)が用いられたばね構造41及びアンカー51を経由して、電位が供給される。本実施形態においては、上部容量/駆動電極2のy方向の端部に、ばね構造41,45及びアンカー部51,52が設けられている。尚、第2の実施形態のMEMSデバイスと同様に、上部容量/駆動電極2は電位が供給されず、上部容量/駆動電極2は、フローティング状態であってもよい。
【0156】
MEMS可変容量デバイス100Cは、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31との間に、容量結合を有している。また、MEMS可変容量デバイス100Cは、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極32との間に、容量結合を有している。それらの容量結合の大きさは、静電容量C,Cである。静電容量C,Cの大きさは、上部容量/駆動電極2が上下に動くのに伴って、変化する。
【0157】
上記のように、下部駆動電極31,32は、開口部Q1,Q2を経由して、導電層33,34にそれぞれ電気的に接続されている。よって、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cは、静電容量(容量結合)C,Cが、開口部Q1,Q2及び導電層33,34によって、静電容量C,Cに直列に接続された構成を有する。
【0158】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cは、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31,32との間に、プルイン電圧以上の電位差が与えられると、図12Cに示されるように、上部容量/駆動電極2は下部駆動電極31,32に向かって下がる。このように、MEMS可変容量デバイス100Cは、up-stateからdown-stateになる。
【0159】
上部容量/駆動電極2が、下部駆動電極31,32に対して上下に動くことによって、シグナル電極11Aと上部容量/駆動電極2との間の可変な静電容量C,Cの大きさが変動する。これに伴って、シグナル電極11Aの電位が変動し、シグナル電極11Aとグランド電極12Aとの電位差が、RF電圧VRFとして出力される。
【0160】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cでは、単に、可動な上部容量電極2と下部容量電極11Aとの電極間距離を変えて、下部容量電極(シグナル電極)11Aの電位を変動させるだけではなく、上部容量電極2と下部容量電極11A,12Aとの間に、1つのMIM容量素子(静電容量C,C)と1つの容量結合(静電容量C,C)がそれぞれ直列接続されているのを利用している。
可動な上部電極2が、up-stateからdown-stateになったときに、容量結合の静電容量C,Cの大きさが変化する。その静電容量C,Cの変化に伴って、一定の静電容量C,Cを有するMIM容量素子の電位は変動する。その結果として、MIM容量素子の一方の電極であるシグナル電極11Aの電位が変動する。尚、グランド電極12Aの電位は、グランド電位に固定されているので、上部電極2が上下に動いても、変動しない。
このように、下部容量電極11Aが、上部容量電極2と上下に重ならない位置に配置されていても、下部容量電極11Aの電位が変動する。
【0161】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cにおいても、各電極間の一定の静電容量C,Cと可変な静電容量C,Cは、上部容量/駆動電極2と下部容量電極11A,12Bとの間で、下部駆動電極31,32を経由して、直列に接続されている。また、それらの静電容量C,C,C,Cは、シグナル電極11A−グランド電極12A間に、直列に接続されている。直列接続された静電容量C,C,C,Cは、デバイスの可変容量となり、直列接続された静電容量(合成容量)C,C,C,Cによって、出力が生成される。
それゆえ、第3の実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cのように、下部駆動電極31,32が、シグナル電極11及びグランド電極12上に積層されていなくとも、第1及び第2の実施形態で述べたMEMS可変容量デバイスと等価な構成を、形成できる。よって、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cは、ホットスイッチング特性を向上できる。
【0162】
本実施形態に係るMEMS可変容量デバイスの製造方法において、シグナル電極11A及びグランド電極12Aは、下部駆動電極31,32と同じ工程で同時に形成される。すなわち、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cは、ダマシーンプロセスを用いずに、簡便な工程によって、形成できる。
【0163】
また、本実施形態において、シグナル/グランド電極11A,12Aが、下部駆動電極31,32と同じ配線レベル(配線層)に形成されるため、導電層37,38が新たに設けられたとしても、MEMS可変容量デバイス100Cを形成するための実質的な配線レベルの数は、2層になる。
【0164】
よって、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cは、積層電極構造のMEMS可変容量デバイスに比較して、配線レベルの数を削減できる。そのため、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Cによれば、製造コストを低減できる。
【0165】
したがって、本発明の第3の実施形態によれば、ホットスイッチング特性が向上したMEMS可変容量デバイスを実現できる。さらに、本実施形態によれば、MEMS可変容量デバイスの製造方法の簡略化及びその製造コストの低減に、貢献できる。
【0166】
(4) 第4の実施形態
図13、図14A及び図14Bを用いて、本発明の第4の実施形態に係るMEMSデバイス(MEMS可変容量デバイス)の構造について、説明する。図13は、本実施形態に係るMEMS可変容量デバイス100Dの平面構造を示す平面図である。図14Aは、図13のE−E’線に沿う断面構造を示す断面図である。図14Bは、本実施形態のMEMS可変容量デバイスの駆動時の状態を示している。
ここでは、第4の実施形態に係るMEMS可変容量デバイスと第1乃至第3の実施形態に係るMEMS可変容量デバイスとの相違点について、主に説明する。
【0167】
本実施形態のMEMS可変容量デバイスは、可動な上部電極2Aがグランド線gnd(グランド電極12B)に接続されていることが、他の実施形態のMEMS可変容量デバイスと相違している。
【0168】
図13及び図14Aに示されるように、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Dは、シグナル電極11Bとグランド電極12Bとを有している。シグナル電極11B及びグランド電極12Bは、下部容量電極として、対をなしている。
【0169】
シグナル電極11Bは、例えば、ダマシーンプロセスを用いて、基板9内の溝Z内に埋め込まれ、y方向に延在している。シグナル電極11Bは、シグナル線sigとして機能する。シグナル電極11Bの電位は、上部容量/駆動電極2Aの動作に伴って、変動する。
【0170】
本実施形態において、2つのグランド電極12Bが、x方向に隣接して、基板9上に設けられている。2つのグランド電極12Bは、y方向にそれぞれ延在している。尚、2つのグランド電極12Bは、電気的に接続されていてもよい。2つのグランド電極12Bは、グランド線gndとして機能し、グランド電位が供給される。
【0171】
シグナル電極11Bとグランド電極12Bとの電位差が、MEMS可変容量デバイス100Dの出力(RFパワー/RF電圧)となる。
【0172】
グランド電極12B表面は、絶縁膜92によって覆われている。絶縁膜92内には、開口部Uが設けられている。2つのグランド電極12B上には、アンカー部53がそれぞれ設けられている。アンカー部53は、開口部Uを経由して、グランド電極12Bの上面に直接接触する。アンカー部53には、例えば、導電体が用いられる。
【0173】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Dは、1つの下部駆動電極31を有する。下部駆動電極31は、2つのグランド電極12B間の基板9(絶縁膜15)上に、配置されている。下部駆動電極31は、絶縁膜15を介して、シグナル電極11B上に積層されている。下部駆動電極31の寸法(幅・長さ)は、シグナル電極11Bの寸法と異なってもよいし、同じであってもよい。
下部駆動電極31の表面は、絶縁膜35によって覆われている。
【0174】
下部駆動電極31は、例えば、グランド電極12Bと同じ材料を用いて、同時に形成される。この場合、下部駆動電極31の膜厚は、グランド電極12Bの膜厚と同じである。また、絶縁膜35は、例えば、絶縁膜92と同じ材料を用いて、同時に形成される。この場合、絶縁膜35の膜厚は、絶縁膜92の膜厚と同じである。
【0175】
上部容量/駆動電極2Aは、下部駆動電極31上方に設けられている。上部容量/駆動電極2Aは、例えば、四角形状の平面形状を有し、y方向に延在している。上部容量/駆動電極2Aのy方向の両端には、アンカー部53が接続されている。上部容量/駆動電極2Aは、アンカー部53によって中空に支持され、上部容量/駆動電極2Aと下部駆動電極31との間には、空隙(キャビティ)が設けられている。本実施形態においては、ばね構造は用いられずに、上部容量/駆動電極2Aは、アンカー部53に直接接続されている。
上部容量/駆動電極2Aは、下部容量電極(シグナル電極2A)と1対の容量電極を形成すると共に、下部駆動電極31と1対の駆動電極を形成する。
【0176】
本実施形態のMEMS可変容量MEMSデバイス100Dにおいても、シグナル電極11Bと下部駆動電極31は、MIM容量素子を形成している。このMIM容量素子は、静電容量Cを有する。また、上部容量/駆動電極2Aと下部駆動電極31は、容量結合を形成している。この容量結合は、静電容量Cを有する。そして、静電容量C,Cが、シグナル電極11Bとグランド電極12Bとの間に、直列に接続されている。
【0177】
また、本実施形態において、上部容量/駆動電極2Aは、アンカー部53によって、グランド電極12Bに電気的に接続されている。これによって、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Dにおいて、上部容量/駆動電極2Aにグランド電位が供給され、上部容量/駆動電極2Aの電位は、グランド電極12Bの電位と同じになる。尚、上部容量/駆動電極2Aが、グランド電極12Bに電気的に接続されていれば、アンカー部53をグランド電極12B上に設けずともよい。
【0178】
図14Bは、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Dのdown-stateを、示している。
本実施形態において、上部容量/駆動電極2Aは、グランド電極12Bに接続されているので、上部容量/駆動電極2Aの電位は、グランド電位に設定されている。
図14Bに示すように、上部容量/駆動電極2Aを下方(下部駆動電極31側)に動かす場合、グランド電極12Bと下部駆動電極31との間の電位差がプルイン電圧以上になるように、バイアス電位が、下部駆動電極31に供給される。
この電位差によって、上部容量/駆動電極2と下部駆動電極31との間に、静電引力が発生する。発生した静電引力によって、上部容量/駆動電極2が下方にたわむ。このため、上部容量/駆動電極2とシグナル電極11Bとの間隔が小さくなる。また、静電容量Cの値が変わる。これによって、シグナル電極11Bの電位が変動する。シグナル電極11Bとグランド電極12Bとの電位差が、RF電圧(RFパワー)として、外部に出力される。
【0179】
上部容量/駆動電極2Aを元の状態(up-state)にする場合、グランド電極12Bと下部駆動電極31との間に、プルアウト電圧が与えられる。
【0180】
可動な上部電極2Aに対してクリープ現象が生じても問題ない場合、もしくは、MEMS可変容量デバイスが、駆動回数の少ない用途に使用する場合、図13乃至図14Bに示されるMEMS可変容量デバイス100Dの構造を採用できる。
【0181】
本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Dは、複雑な形状のばね構造を有さないので、高い難度の加工が不要であり、且つ、製造工程も削減できる。よって、本実施形態では、MEMS可変容量デバイスの製造コストを削減できる。
【0182】
また、本実施形態のMEMS可変容量デバイス100Dにおいて、静電容量C,Cが、上部容量/駆動電極2と下部容量電極11Bとの間で、下部駆動電極31を経由して、直列に接続されている。また、それらの静電容量C,Cは、シグナル電極11Bとグランド電極12Bとの間に、一定の静電容量Cと可変な静電容量Cとが、直列に接続されている。それゆえ、MEMS可変容量デバイス100Dのホットスイッチング特性は、向上する。
【0183】
以上のように、本発明の第3の実施形態によれば、ホットスイッチング特性が向上したMEMSデバイスを実現できる。さらに、本実施形態によれば、MEMS可変容量デバイスの製造方法の簡略化及びその製造コストの低減に、貢献できる。
【0184】
(5) 応用例
図15を用いて、本発明の実施形態に係るMEMSデバイスの応用例について、説明する。図15は、本応用例におけるMEMSデバイスの平面構造を示す平面図である。
【0185】
図15に示されるように、複数のMEMS可変容量デバイス100,100を用いて、容量バンクを構成してもよい。
【0186】
図15に示されるように、容量バンク500は、複数のMEMS可変容量デバイス100,100によって、構成されている。図15に示される容量バンク500は、第1の実施形態で述べたMEMS可変容量デバイスが複数個用いられている。ここでは、図示の簡略化のため、2個のMEMS可変容量デバイス100,100が図示されているが、3個以上のMEMS可変容量デバイスを用いて、容量バンク500を構成してもよいのは、もちろんである。また、容量バンク500は、第2乃至第4の実施形態で述べたMEMS可変容量デバイスによって、構成されてもよいのはもちろんである。
【0187】
複数のMEMS可変容量デバイス100,100は、1つの基板9上に設けられている。複数のMEMS可変容量デバイス100,100は、y方向に沿って配列されている。
【0188】
シグナル/グランド電極11,12及び下部駆動電極31,32は、y方向に延在し、それらの電極11,12,31,32は、y方向に配列された複数のMEMS可変容量デバイス100,100によって、共通に用いられる。第1の実施形態において、図2Aを用いて説明したように、下部駆動電極31,32は、絶縁膜を介して、シグナル/グランド電極11,12上に積層されている。
【0189】
上部容量/駆動電極2,2は、MEMS可変容量デバイス100,100毎に、それぞれ設けられる。そして、各MEMS可変容量デバイスの上部容量/駆動電極2,2は、第1のばね構造41,41を経由して、アンカー部51,51に接続されている。このアンカー部51,51によって、各上部容量/駆動電極2,2は、中空に支持されている。
【0190】
図15において、図示は省略されているが、図4に示されるのと同様に、2つの下部駆動電極31,32のそれぞれに、ローパスフィルタが接続される。そして、ローパスフィルタを経由して、下部駆動電極31,32のそれぞれに、電位供給回路から電位が供給される。
【0191】
また、上部容量/駆動電極2,2のそれぞれに、ローパスフィルタが接続される。これと同様に、電位供給回路も、上部容量/駆動電極2,2のそれぞれに、ローパスフィルタを経由して、1つずつ接続されている。このように、MEMS可変容量デバイス100,100の上部容量/駆動電極2,2のそれぞれに、電位が個別に供給される。
【0192】
これによって、各MEMS可変容量デバイス100,100は、それぞれ独立してup-state及びdown-stateの2つの状態になるように、制御される。
【0193】
第1乃至第4の実施形態で述べたように、1つのMEMS可変容量デバイス100はup-stateとdown-stateとの2つの状態の範囲内で、RF電圧(RFパワー)を出力する。それゆえ、1つのMEMS可変容量デバイス100が出力するRF電圧の周波数は、up-state/down-stateの可動範囲及び動作サイクルから得られる値に限られてしまう。
【0194】
本応用例のように、複数のMEMS可変容量デバイス100,100を用いて容量バンク500が構成された場合、各MEMS可変容量デバイス100,100のup-state/down-stateをそれぞれ制御することによって、1つのMEMS可変容量デバイスが出力するRF電圧よりも高い周波数のRF電圧を、容量バンク500は出力できる。つまり、各MEMS可変容量デバイス100,100のup-stateまたはdown-stateとなるタイミングを調整することで、より高い周波数のRF電圧が、容量バンク500によって、得られる。また、複数のMEMS可変容量デバイス100,100を同時にdown-stateにすることで、RF電圧を大きくできる。
【0195】
したがって、複数のMEMS可変容量デバイス100を用いて容量バンク500を構成することによって、より広い周波数帯域の出力(RF電圧/RFパワー)を、得ることができる。
【0196】
また、上述したように、第1乃至第4の実施形態で述べたMEMS可変容量デバイスは、高いスイッチング特性を有する。
それゆえ、そのMEMS可変容量デバイスを用いた容量バンク500も、ホットスイッチング特性が向上するのは、もちろんである。
【0197】
[その他]
本発明の例は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、各構成要素を変形して具体化できる。また、上述の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を構成できる。例えば、上述の実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0198】
1:下部容量電極(下部電極)、11,11A,11B:シグナル電極、12,12A,12B:グランド電極、2:上部容量/駆動電極(上部電極)、31,32:下部駆動電極、15,35,36,37,38:絶縁膜、9:基板、41:第1のばね構造、45:第2のばね構造、51,52,53:アンカー部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の下部電極と、
第1の静電容量を有する固定容量素子を、前記第1の下部電極との間に形成する第1の駆動電極と、
第2の静電容量を有する固定容量素子を、前記第2の下部電極との間に形成する第2の駆動電極と、
基板上に設けられたアンカー部によって、前記第1及び第2の駆動電極上方に中空に支持され、前記第1及び第2の駆動電極に向かって動き、前記第1の駆動電極との間に可変可能な第3の静電容量を有し、前記第2の駆動電極との間に可変可能な第4の静電容量を有する上部電極と、を具備し、
前記第1及び第2の下部電極の間の容量値は、前記第1、第2、第3及び第4の静電容量が直列接続された合成容量の値で決定され、
前記直列接続された合成容量の値が、可変容量値として用いられる、
ことを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項2】
前記第1及び第2の駆動電極は、絶縁膜を介して、前記第1及び第2の下部電極上にそれぞれ積層されている、ことを特徴とする請求項1に記載のMEMSデバイス。
【請求項3】
前記第1及び第2の駆動電極は、前記第1及び第2の下部電極に前記基板表面に対して平行方向に隣接してそれぞれ配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のMEMSデバイス。
【請求項4】
前記第1乃至第4の静電容量が、C、C、C及びCでそれぞれ示される場合、前記第1の静電容量と前記第3の静電容量との容量比C/C及び前記第2の静電容量と前記第4の静電容量比との容量比C/Cの少なくとも一方が、0.5以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項5】
前記上部電極及び前記第1及び第2の駆動電極のそれぞれに、ローパスフィルタが接続され、前記ローパスフィルタを経由して、前記上部電極及び前記駆動電極のそれぞれに、電位が供給される、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−66156(P2011−66156A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214849(P2009−214849)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)