MN遺伝子およびタンパク質
【課題】MNタンパク質の異常発現によって特徴付けられる前腫瘍性および/または腫瘍性疾患を治療するのに有用である有機または無機分子を同定する方法を提供する。
【解決手段】MNタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインの酵素活性中心内の部位であって特定のアミノ酸配列を含む部位に結合しかつ該部位に特異的に結合するため炭酸脱水酵素阻害剤によって溶出される分子を同定することを含む方法。
【解決手段】MNタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインの酵素活性中心内の部位であって特定のアミノ酸配列を含む部位に結合しかつ該部位に特異的に結合するため炭酸脱水酵素阻害剤によって溶出される分子を同定することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝医学の一般的分野および生化学工学、免疫化学および腫瘍学の分野にある。さらに詳細には、本発明は、MN遺伝子−現在MNタンパク質としても知られるオンコタンパク質、MN/CA IXイソエンザイムまたはMN/G250タンパク質をコードするオンコジーンであると考えられる細胞性遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(Zavada et al.,)(1993年9月16日に刊行された)および特許文献2(1996年2月7日に出願された)には、MaTuの生物学的および分子の性質の説明が記載されており、MN遺伝子およびタンパク質を発見する原因となった。MN遺伝子は、テストされたすべての脊椎動物の染色体DNA中に存在することが発見され、その発現は腫瘍形成と強く相関していることが分かった。
【0003】
MNタンパク質は最初、子宮頸のヒト癌に由来するHeLa細胞において同定された。MNタンパク質は多くのタイプのヒト癌において見られる(特に子宮頸、卵巣、子宮内膜、腎臓、膀胱、乳房、結腸直腸、肺、食道、および前立腺)。任意の有意の程度までMNタンパク質を発現することが知られる正常組織はほとんど無い。それらのMNを発現する正常組織には、ヒト胃粘膜および胆嚢上皮、および消化管のいくつかの他の正常組織が含まれる。逆説的に、MN遺伝子発現は、通常MNを発現するいくつかの組織、例えば胃粘膜における癌および他の新生物発生前の/腫瘍性の病気において失われるまたは減少することがわかっている。
【0004】
通常、オンコジーンは、MNタンパク質の異常な発現により示され得る。例えば、オンコジーンは、(1)通常は任意の有意の程度までMNタンパク質を発現しない組織中にMNタンパク質が存在する場合;(2)通常MNタンパク質を発現する組織にMNタンパク質が存在しない場合;(3)MN遺伝子発現が、通常組織中で発現されるよりも有意に増加したレベル、または有意に減少したレベルである場合;(4)MNタンパク質が、細胞内の異常な位置で発現される場合に示され得る。
【0005】
Zavadaらによる特許文献1およびZavadaらによる特許文献3(1995年12月21日に刊行された)には、MN遺伝子およびタンパク質の発見方法および癌および前癌状態についての診断/予後および治療方法が生じる原因となったMN遺伝子発現および腫瘍形成の強い関連が記載されている。そこには、脊椎動物中の異常なMN遺伝子発現を検出するまたは検出および定量することにより腫瘍性の病気の発症および存在を同定するための方法および組成物が提供されている。脊椎動物における様々の従来のアッセイにより、例えば、MN抗原を検出するまたは検出および定量するためのMN特異的抗体を使用するイムノアッセイにより、ハイブリダイゼーションアッセイによりまたはMN mRNAのようなMN核酸を検出するまたは検出および定量するためにMN cDNAのようなMN核酸を使用するRT-PCRのようなPCRアッセイにより、異常なMN遺伝子発現を検出するまたは検出および定量することができる。
【0006】
Zavadaらによる特許文献1および2には、MN特異的抗体の産生が記載されている。代表的なおよび好ましいMN特異的抗体である、モノクローナル抗体M75(Mab M75)は、ATCC番号HB 11128の下でアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection: ATCC) inManassus, VA(USA)に寄託されている。M75抗体を使用して、MNタンパク質を発見および同定し、例えば、新鮮な、冷凍した、またはホルマリン、アルコール、アセトンまたはその他で固定されたおよび/またはパラフィンで包埋されたおよび脱パラフィン化された組織サンプル中で、ウェスタンブロットにおいて、ラジオイムノアッセイにおいておよび免疫組織化学的にMN抗原を容易に同定できる。別の代表的なおよび好ましいMN特異的抗体であるMab MN12は、HB 11647の番号の下でATCCに寄託されたハイブリドーマMN 12.2.2により分泌される。Zavadaらによる特許文献3の実施例1には、MAb M75を使用する組織の免疫組織化学染色からの代表的な結果が提供されており、この結果はMN遺伝子をオンコジーンとして指定する補助となる。
【0007】
多くの研究により、MNの診断/予後利用が確認されてきた。非特許文献1−5には、前癌および癌の頸部損傷の診断/予後判定におけるMN特異的Mab M75の使用が記載されている。
【0008】
前癌性および癌性結腸直腸病変(Premalignant and Malignant Colorectal Lesions)
MNは、正常な胃、腸、および胆道粘膜中で検出されている(非特許文献6)。正常な大腸の免疫組織化学的分析により、近位結腸における適度な染色が示され、反応は遠位になるにつれて弱くなる。染色は、最大の増殖能力のある領域である、陰窩上皮細胞の基底外側表面に制限された。MNは粘膜の上側よりも増殖性陰窩上皮においてずっと豊富であるので、腸上皮細胞の増殖および分化のコントロールにおいてある役割を果たすかもしれない。細胞増殖は、結腸直腸上皮の前悪性および悪性損傷において異常に増加し、したがって、結腸直腸腫瘍の進行の指標であると考えられる(非特許文献7および8)。
【0009】
MNタンパク質は現在、これまで記載されている最初の腫瘍関連炭酸脱水酵素(CA)イソエンザイムであると考えられている。炭酸脱水酵素(CA)は、生理的に非常に重要な亜鉛金属酵素をコードする遺伝子の大きいファミリを形成する。二酸化炭素の可逆性水和の触媒として、これらの酵素は、呼吸、石灰化、酸−塩基平衡、骨吸収、房水の調製、髄液、唾液および胃酸を含む様々の生物学的過程に関係する(非特許文献9を参照)。CAは、異なる生体中に広く分布している。
【0010】
MN由来アミノ酸配列の分析により、保存された亜鉛結合部位並びに酵素の活性中心を有して、MNタンパク質の中心部分と炭酸脱水酵素との間に著しい相同性が示され、哺乳類中で、少なくとも7つのイソエンザイム(CA I-VII)および少数のCA関連タンパク質(CARP/CA VIII, RPTP-β,RPTP-γ)が同定された(非特許文献10)。その後MNタンパク質は、亜鉛に結合しCA活性を有することが分かった。このデータに基づき、MNタンパク質は現在、9つ目の炭酸脱水酵素イソエンザイム−MN/CA IXであると考えられている(非特許文献11)。[CA IXを命名法上の名称として示すHewett- Emmett, supraも参照]。
【0011】
CAおよびCA関連タンパク質は、組織分布および推定のまたは確定の生物学的機能において広い多様性を示す(非特許文献12)。CAのいくつかは、ほとんどすべての組織中で発現されるのに対し(CA II)、他の発現はより制限されるようである(唾液腺中のCA VIおよびCA VII)。細胞中で、それらは細胞質(CA I、CA II、CA III、およびCA VII)、ミトコンドリア(CA V)、分泌顆粒(CA VI)中に存在するか、または膜と結合する(CA IV)。時に、いくつかのイソエンザイムの核局在化について言及されてきた(非特許文献13−15)。
【0012】
CAおよびCA関連タンパク質はまた、速度論特性および阻害剤に対する感受性において異なる(非特許文献16)。消化管において、炭酸脱水酵素活性は、唾液分泌、胃酸の産生、膵液および胆液、腸水およびイオン輸送、脂肪酸吸収および肝臓における生物発生のような多くの重要な機能に関係する。少なくとも7つのCAイソエンザイムは、消化管の異なる領域中で示されている。しかしながら、生化学的、組織化学的および免疫組織化学的研究により、そのレベルおよび分布におけるかなりの不均一性が示される(非特許文献17および18)。CA IIが消化管全体に沿って見られるのに対し、CA IVはより低い胃腸管に結合し、CA I、IIIおよびVは少数の組織中にのみ存在し、CA VIおよびVIIの発現は唾液腺に制限される(非特許文献19−21)。
【0013】
MN/CA IXは多くの特性を有しており、これにより他の既知のCAイソエンザイムと区別され、腫瘍形成との関連性が示される。これらの特性には、細胞培養における密度依存性発現(例えばHeLa細胞)、HeLaと正常なヒト繊維芽細胞との間の体細胞雑種の腫瘍化表現型との相関、多くのヒト癌との密接な関連および対応する正常組織における不存在が含まれる(例えば、非特許文献22−30を参照)。さらに、MN/CA IX cDNAのインビトロにおける形質転換の可能性が、NIH 3T3繊維が細胞において示されている[Pastorek et al., id.]。
【0014】
MNタンパク質は、G250抗原としても同定されている。非特許文献31は、「配列分析およびデータベース探索により、G250抗原は、頸部腫瘍において同定されたヒト腫瘍関連抗原であるMNと同一であることが示された(Pastorek et al., 1994)」と述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第93/18152号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,387,676号明細書
【特許文献3】国際公開第95/34650号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Leff, D. N., 「HeLa細胞の半世紀:欧州の抗原は頸部癌Pap試験の信頼性を高める、臨床試験中」,BioWorld Today: The Daily Biotechnology Newspaper, 9(55)(1998年3月24日)
【非特許文献2】Stanbridge, E. J.,「頸部マーカーは不明瞭なPap塗抹標本の解析を補助することができる」, Diagnostics Intelligence, 10(5): 11(1998)
【非特許文献3】Liao and Stanbridge,「頸部パパニコロー塗抹標本中におけるMN抗原の発現は頸部形成異常の初期診断生物マーカーである」, Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention, 5: 549-557(1996)
【非特許文献4】Brewer et al.,「頸部癌における生物マーカーおよび新しい生物マーカーMNの臨床相関の研究」, Gynecologic Oncology, 63: 337-344(1996)
【非特許文献5】Liao et al.,「頸部上皮内扁平および腺新形成および頸部癌の診断生物マーカーとしてのMN抗原の同定」, American loumal of Pathology, 145(3): 598-609(1994)
【非特許文献6】Pastorekova et al., Gastroenterology, 112: 398-408(1997)
【非特許文献7】Risio, M., J. Cell Biochem, 16G: 79-87(1992)
【非特許文献8】Moss et al., Gastroenterology, 111: 1425-1432(1996)
【非特許文献9】Dodgson et al., The Carbonic Anhydrases, Plenum Press, New York-London, pp. 398(1991)
【非特許文献10】Hewett-Emmett and Tashian, Mol. Phyl. Evol., 5: 50-77(1996)
【非特許文献11】Opavsky et al., Genomics, 33: 480-487 (May 1996)
【非特許文献12】Tashian, R. E., Adv. In Genetics, 30: 321-356(1992)
【非特許文献13】Parkkila et al., Gut, 35: 646-650(1994)
【非特許文献14】Parkkila et al., Histochem. J., 27: 133-138(1995)
【非特許文献15】Mori et al., Gastroenterol., 105: 820-826(1993)
【非特許文献16】Sly and Hu, Annu. Rev. Biochem., 64: 375-401(1995)
【非特許文献17】Swensen, E. R.,「消化管における炭酸脱水酵素分布および機能」In: The Carbonic Anhydrases. Cellular Physiology and Molecular Genetics, (Dodgson et al. eds.) Plenum Press, New York, pages 265-287(1991)
【非特許文献18】Parkkila and Parkkila, Scan J. Gastroenterol., 31: 305-317(1996)
【非特許文献19】Pakkila et al., Gut, 35: 646-650(1994)
【非特許文献20】Fleming et al., J. Clin. Invest., 96: 2907-2913(1995)
【非特許文献21】Pakkila et al., Hepatology, 24: 104(1996)
【非特許文献22】Zavada et al., Int. J. Cancer, 54: 268-274(1993)
【非特許文献23】Pastorekova et al., Virology, 187: 620-626(1992)
【非特許文献24】Liao et al., Am. J. Pathol., 145: 598-609(1994)
【非特許文献25】Pastorek et al., Oncogene, 9: 2788-2888(1994)
【非特許文献26】Cote, Women’s Health Weekly: News Section, p.7(March 30, 1998)
【非特許文献27】Liao et al., Cancer Res., 57: 2827(1997)
【非特許文献28】Vermylen et al.,「肺癌および関連する前癌状態の生物マーカーとしてのMN抗原の発現」, Proceedings AACR, 39: 334(1998)
【非特許文献29】McKiernan et al., Cancer Res., 57: 2362(1997)
【非特許文献30】Turner et al., Hum. Pathol., 28(6): 740(1997)
【非特許文献31】Uemura et al.,「泌尿器癌における腫瘍関連抗原MN/G250の発現:潜在的な治療標的」, J. Urol., 154(4 Suppl.): 377(Abstract 1475; 1997)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
ここに同定されるのは、MNタンパク質結合部位の位置である。特に重要なのは、6アミノ酸の6倍縦列反復を有するaa 61-96(配列番号97)であるプロテオグリカン様ドメイン内であって、M75 Mab残基に対するエピトープが少なくとも2つのコピー中に存在し、MN結合部位が位置すると考えられるドメイン内の領域である。別のMN結合部位は、CAドメイン中に位置するかもしれない。
【0018】
細胞への結合について不朽化MNタンパク質と競合するMNタンパク質およびMNポリペプチドもまた同定される。そのようなMNタンパク質/ポリペプチドは、細胞間接着および細胞内接触の形成を妨げる。
【0019】
ここに開示されるのは、脊椎動物細胞、好ましくは哺乳類細胞、より好ましくはヒト細胞が結合するMNタンパク質上の結合部位を同定するために使用される細胞接着アッセイ方法である。次に前記部位に特異的に結合するMN特異的抗体、または無機または有機分子、好ましくは有機分子、より好ましくはタンパク質/ポリペプチドによりブロックできる治療標的として、そのようなMN結合部位を同定する。
【0020】
さらに、異常なMN発現と関連するまたはそれにより特徴付けられる新生物発生前の/腫瘍性の病気を有する患者を治療するための治療方法であって、前記結合部位に特異的に結合する無機または有機の分子であるが好ましくは有機分子、より好ましくはタンパク質/ポリペプチドにより前記MN結合部位をブロックすることに基づく方法が開示される。異常にMNタンパク質を発現させる脊椎動物の新生物発生前の/腫瘍性の細胞の成長は、そのような有機または無機分子、好ましくは有機分子、より好ましくは生理的に許容できる製剤中で治療に効果的な量のタンパク質/ポリペプチドを投与することにより抑制できる。そのような好ましい治療タンパク質/ポリペプチドはここで、配列番号107−109からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むと考えられる。そのようなヘプタペプチドは、MNタンパク質のパートナーに含まれると考えられる。MNタンパク質とその結合パートナーとの間の相互作用をブロックすることにより、腫瘍の成長が減少することが期待される。
【0021】
さらに、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトの、MNタンパク質を異常に発現させる新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞の成長を抑制する他の治療方法が提供される。前記方法には、MN特異的抗体の可変領域をコードする核酸に機能できるように結合する発現コントロール配列を含むベクターにより前記細胞をトランスフェクションする工程が含まれ、前記領域は柔軟なリンカーペプチド、好ましくは配列番号116により分離される。好ましい前記発現コントロール配列には、MN遺伝子プロモーターが含まれる。
【0022】
さらなる治療方法には、MN遺伝子プロモーターに機能できるように結合した、HSVtkのような細胞障害性タンパク質/ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターにより前記細胞をトランスフェクションする工程が含まれる。そのような治療ベクターには、IL-2またはIFNのようなサイトカインをコードする核酸が含まれてもよい。
【0023】
ここに開示される本発明の態様は、以下により詳細に記載される。有機または無機分子、好ましくは有機分子の治療上の使用が開示される。好ましいそのような分子は、細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞が接着するMNタンパク質上の部位に特異的に結合し、インビトロでテストする場合、該分子は細胞がMNタンパク質に接着するのを抑制する。さらに好ましくは、そのような分子は、MNタンパク質を異常に発現する脊椎動物の新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞と接触している場合、前記細胞の成長を抑制する。前記脊椎動物細胞は、好ましくは哺乳類細胞であり、寄り好ましくはヒト細胞である。
【0024】
好ましくはそのような分子は有機分子であり、より好ましくはそのような有機分子はタンパク質またはポリペプチドである。さらに好ましくは、前記タンパク質またはポリペプチドには、配列番号107、108、109、137および138からなる群より選択されるアミノ酸配列が含まれる。さらに好ましくは、前記ポリペプチドは、配列番号107、108、109、137および138からなる群より選択される。
【0025】
前記細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞が接着するMNタンパク質上の部位は好ましくは、プロテオグリカン様ドメイン[配列番号50]内またはMNタンパク質の炭酸脱水酵素ドメイン[配列番号51]内である。好ましくは該部位には、配列番号10および97−106からなる群より選択されるアミノ酸配列が含まれる。さらに好ましくは、前記部位は、配列番号10および97−106からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する。
【0026】
本発明の別の態様は、細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞の接着を媒介するMNタンパク質およびMNポリペプチドに関し、該MNタンパク質およびMNポリペプチドは脊椎動物細胞の細胞外液環境中に導入されると細胞内接触および前記脊椎動物細胞の互いの接着を妨げる。そのようなMNタンパク質およびMNポリペプチドがそのような脊椎動物細胞の細胞外液環境中に導入される場合、そのようなMNタンパク質およびMNポリペプチドは、MNタンパク質を異常に発現する脊椎動物の新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞の成長を抑制するのに有用であるかもしれない。前記脊椎動物細胞は好ましくは哺乳類細胞であり、より好ましくはヒト細胞である。
【0027】
細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞の接着を媒介する前記MNタンパク質またはMNポリペプチドは、好ましくは配列番号97から、配列番号50から、または配列番号51から、より好ましくは配列番号50からのアミノ酸配列を有する。さらに好ましくはそのようなMNタンパク質またはMNポリペプチドには、配列番号10および97−106からなる群より選択されるアミノ酸配列が含まれる。あるいは、前記MNポリペプチドは、配列番号10および97−106からなる群より選択される。
【0028】
細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞の接着を媒介する代表的なMNタンパク質またはMNポリペプチドは、ATCC番号HB 11128の下でアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU-M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により、またはATCC番号HB 11647の下でアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマMN 12.2.2から分泌されたN12モノクローナル抗体により、または両方の前記モノクローナル抗体により、特異的に結合される。
【0029】
本発明の別の態様は、脊椎動物細胞による細胞接着アッセイにおいて前記MNタンパク質からの連続オーバーラップポリペプチドをテストすることにより脊椎動物細胞が接着するMNタンパク質上の部位を同定し、細胞が前記連続からのポリペプチドに接着するか否か、前記ポリペプチドに脊椎動物細胞が接着する前記MNタンパク質上の部位が含まれるか否かを測定する方法である。
【0030】
本発明のさらに別の態様は、MN特異的抗体の可変領域をコードする核酸に機能できるように結合する発現コントロール配列を含むベクターであり、該ベクターは、異常にMNタンパク質を発現する脊椎動物の新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞中にトランスフェクションされた場合、該細胞の成長を抑制する。好ましくは前記発現コントロール配列には、前記核酸に機能できるように結合するMN遺伝子プロモーターが含まれる。さらに好ましくは、前記柔軟なリンカーポリペプチドは配列番号116のアミノ酸配列を有し、さらに好ましくは、前記MN遺伝子プロモーターは配列番号27のヌクレオチド配列を有する。
【0031】
本発明のさらに別の態様は、MN遺伝子プロモーターに機能できるように結合する細胞障害性タンパク質または細胞障害性ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターに関し、該ベクターは、異常にMNタンパク質を発現する脊椎動物の新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞中にトランスフェクションされた場合、該細胞の成長を抑制する。ある好ましい実施の形態において、前記細胞障害性タンパク質は、HSVチミジンキナーゼである。好ましくは、前記ベクターはさらに、前記MN遺伝子プロモーターに機能できるように結合するサイトカインをコードする核酸を含む。別のおよび好ましい実施の形態において、前記サイトカインはインターフェロンまたはインターロイキン−2である。
【0032】
MN遺伝子プロモーターをここに特徴付ける。MN転写のリプレッサーについての結合部位の同定が開示される。突然変異分析により、有効なリプレッサー結合には直列反復配列AGGGCacAGGGC[配列番号143]が必要であることが示された。
【0033】
リプレッサーに結合するタンパク質の同定およびその結合特性の変化は、癌治療に導くMN発現の調節のための別の経路である。陰性調節遺伝子の過発現による腫瘍細胞中のMN発現の抑制は、腫瘍の成長を減少させると期待される。少なくとも二つのサブユニットを含むリプレッサー複合体は、MN遺伝子プロモーターの配列番号115に結合することが分かった。UV架橋により配列番号115と直接接触することが分かったリプレッサー複合体は、それぞれ35および42キロダルトンの分子量を有する二つのタンパク質を含む。
【0034】
省略
以下の省略をここで用いる:
aa − アミノ酸
ATCC − アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション
Bp − 塩基対
BLV − ウシ白血病ウイルス
BSA − ウシ血清アルブミン
BRL − ベセスダ研究実験所
CA − 炭酸脱水酵素
CAM − 細胞接着分子
CARP − 炭酸脱水酵素関連タンパク質
CAT − クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ
Ci − キュリー
cm − センチメートル
CMV − サイトメガロウイルス
cpm − 毎分のカウント
C-末端 − カルボキシル末端
CTL − 細胞障害性Tリンパ球
℃ − 摂氏度
DEAE − ジエチルアミノエチル
DMEM − ダルベッコ調製イーグル培地
ds − 二本鎖
EDTA − エチレンジアミンテトラアセテート
EGF − 上皮増殖因子
EIA − エンザイムイムノアッセイ
ELISA − 酵素結合免疫吸着アッセイ
EMSA − 電気泳動移動度シフトアッセイ
F − 繊維芽細胞
FACS − 細胞蛍光光度法研究
FCS − ウシ胎児血清
FITC − フルオレセインイソチオシアネート
FTP − DNアーゼ1フットプリント法
GST-MN − 融合タンパク質MNグルタチオンS-トランスフェラーゼ
GVC − ガンシクロビル
H − HeLa細胞
H-E − ヘマトキシリン−エオシン
HEF − ヒト胚繊維芽細胞
HeLa K − HeLa細胞の標準型
HeLa S − スタンブリッジの突然変異体HeLa D98/AH.2
H/F-T − HeLa D98/AH.2に由来する、腫瘍形成性の雑種HeLa繊維芽細胞
H/F-N − HeLa D98/AH.2に由来する、非腫瘍形成性の雑種HeLa繊維芽細胞
HPV − ヒト乳頭腫ウイルス
HRP − ホースラディッシュペルオキシダーゼ
HSV − 単純疱疹ウイルス
IC − 細胞内
IFN − インターフェロン
IL-2 − インターロイキン−2
Inr − イニシエーター
IPTG − イソプロピル−β−D−チオガラクト−ピラノシド
kb − キロベース
kbp − キロベースペア
kdまたはkDa − キロダルトン
KS − ケラタン硫酸
LCMV − リンパ性脈絡髄膜炎ウイルス
LTR − 長い末端反復
M − モル濃度
mA − ミリアンペア
MAb − モノクローナル抗体
MCSF − マクロファージコロニー刺激因子
ME − メルカプトエタノール
MEM − 最少必須培地
min. − 分
mg − ミリグラム
ml − ミリリットル
mM − ミリモル濃度
MMC − マイトマイシンC
mmol − ミリモル
MLV − マウス白血病ウイルス
N − 正常な濃度
NEG − 陰性
ng − ナノグラム
nm − ナノメーター
nt − ヌクレオチド
N-末端 − アミノ末端
ODN − オリゴデオキシヌクレオチド
ORF − オープンリーディングフレーム
PA − タンパク質A
PBS − リン酸緩衝化生理食塩水
PCR − ポリメラーゼ連鎖反応
PEST − プロリン、グルタミン酸、セリン、トレオニンについての一文字省略の組合せ
PG − プロテオグリカン
pi − 等電点
PMA − ホルボール 12-ミリステート 13-アセテート
POS − 陽性
Py − ピリミジン
RACE − cDNA端の急速増幅
RCC − 腎細胞癌
RIA − ラジオイムノアッセイ
RIP − ラジオイムノプレシピテーション
RIPA − ラジオイムノプレシピテーションアッセイ
RNP − RNアーゼ保護アッセイ
RT-PCR − 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
SAC − スタフィロコッカス アウレウス細胞
S. areus − スタフィロコッカス アウレウス
sc − 皮下
SDRE − 血清用量反応エレメント
SDS − ドデシル硫酸ナトリウム
SDS-PAGE − ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動
SINE − 短い散在性の反復配列
SP − シグナルペプチド
SP-RIA − 固相ラジオイムノアッセイ
SSDS − 合成スプライス供与部位
SSH − 減法抑制PCR
SSPE − NaCl(0.18M)、リン酸ナトリウム(0.01M)、EDTA(0.001M)
TBE − トリス−ホウ酸/EDTA電気泳動緩衝液
TC − 組織培養
TCA − 三塩化酢酸
TC培地 − 組織培養培地
TC − 組織培養
tk − チミジンキナーゼ
TM − 膜貫通
TMB − テトラメチルベンジジン
Tris − トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
μCi − マイクロキュリー
μg − マイクログラム
μl − マイクロリットル
μM − マイクロモル濃度
VSV − 水疱性口内炎ウイルス
VV − ワクシニアウイルス
X-MLV − 異種栄養性マウス白血病ウイルス
細胞系
AGS − 初期腺胃癌に由来する細胞系[Barranco and Townsend, Cancer Res., 43: 1703(1983)およびInvest. New Drugs, 1: 117(1983)]; CRL-1739の下でATCCから入手可能;
BL-3 − ウシBリンパ球[ATCC; 白血病細胞懸濁; J. Natl. Cancer Inst. (Bethesda) 40: 737(1968)];
C33 − ヒト頸部癌生検に由来する細胞系[Auersperg, N., J. Nat’l. Cancer Inst. (Bethesda), 32: 135-148(1964)];HTB-31の下でATCCから入手可能;
C33A − ヒト頸部癌細胞[ATCC HTB-31; J. Natl. Cancer Inst. (Bethesda) 32: 135(1964)];
COS − シミアン細胞系[Gluzman, Y., Cell, 23: 175(1981)];
HeLa K − HeLa細胞の標準型;Professor B. Korych, [Institute of Medical Microbiology and Immunology, Charles University; Prague, Czech Republic]から得られるヒト頸部腺癌から単離された異数体の上皮様細胞系[Gey et al., Cancer Res., 12: 264(1952); Jones et al., Obstet. Gynecol., 38: 945-949(1971)];
HeLa D98/AH.2 (HeLa S)
− Eric J. Stanbridge [Department of Microbiology, College of Medicine, University of California, Irvine, CA(USA)]により提供され、Stanbridge et al., Science, 215: 252-259(15 Jan. 1982)に報告される、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ−欠失(HGPRT)である突然変異体HeLaクローン
KATO III − 胃癌の転移形態から調製される細胞系[Sekiguchi et al., Japan J. Exp. Med., 48: 61(1978)];HTB-103の下でATCCから入手できる;
NIH-3T3 − Aaronson, Science, 237: 178(1987)に報告されるマウス繊維芽細胞系;
QT35 − ウズラ繊維肉腫細胞[ECACC: 93120832; Cell, 11: 95(1977)];
Raj − ヒトバーキットリンパ腫細胞系[ATCC CCL-86; Lancet. 1: 238(1964)];
Rat2TK − 細胞系(ラット胚、チミジンキナーゼ突然変異体)は、フィッシャーラット繊維芽細胞3T3様細胞系Rat1の5’−ブロモ−デオキシウリジン耐性菌のサブクローンに由来した;該細胞は適切なレベルの核チミジンキナーゼを有していない[Ahrens, B., Virology, 113: 408(1981)];
SiHa − ヒト頸部扁平癌細胞系[ATCC HTB-35; Friedl et al., Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 135: 543(1990)];
XC − Jan Svoboda[Institute of Molecular Genetics, Czechoslovak Academy of Sciences; Prague, Czech Republic]により提供される、ラウス肉腫ウイルス誘発ラット肉腫により誘発されるラット横紋筋肉腫に由来する細胞[Svoboda, J., Natl. Cancer Center Institute Monograph No.17, IN:「鳥類腫瘍ウイルスについての国際会議」(J. W. Beard ed.), pp. 277-198(1964)];
CGL1 − H/F-N雑種細胞(HeLa D98/AH.2誘導体);
CGL2 − H/F-N雑種細胞(HeLa D98/AH.2誘導体);
CGL3 − H/F-T雑種細胞(HeLa D98/AH.2誘導体);
CGL4 − H/F-T雑種細胞(HeLa D98/AH.2誘導体)。
【0035】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列記号
ここでヌクレオチドを示すために、以下の記号を使用する:
塩基
記号 意味
A アデニン
C シトシン
G グアニン
T チミン
U ウラシル
I イノシン
M AまたはC
R AまたはG
W AまたはT/U
S CまたはG
Y CまたはT/U
K GまたはT/U
V AまたはCまたはG
H AまたはCまたはT/U
D AまたはGまたはT/U
B CまたはGまたはT/U
N/X AまたはCまたはGまたはT/U
20の主要なアミノ酸が存在し、そのそれぞれが3つの隣接ヌクレオチド(トリプレットコドンまたはコドン)の異なる配置により特徴付けられ、特定の順序で互いに結合して特有のタンパク質を形成する。ここで3文字または1文字の慣習を使用して、例えば以下の図1に示すように、前記アミノ酸を同定する:
3文字 1文字
アミノ酸名 省略 省略
アラニン Ala A
アルギニン Arg R
アスパラギン Asn N
アスパラギン酸 Asp D
システイン Cys C
グルタミン酸 Glu E
グルタミン Gln Q
グリシン Gly G
ヒスチジン His H
イソロイシン Ile I
ロイシン Leu L
リシン Lys K
メチオニン Met M
フェニルアラニン Phe F
プロリン Pro P
セリン Ser S
トレオニン Thr T
トリプトファン Trp W
チロシン Tyr Y
バリン Val V
未知またはその他 X
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】本明細書に記載されるように単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンについてのヌクレオチド配列、およびcDNAによりコードされる予測アミノ酸配列[配列番号2]を示す。
【図1B】図1Aの続き
【図1C】図1Bの続き
【図2A】MNの10,898bpの完全なゲノム配列を示す[配列番号5]。塩基の数は以下の通りである:2654 A; 2739 C; 2645 G; および2859 T。大文字で11のエキソンが概して示されているが、エキソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定すると位置3507で始まると考えられる。
【図2B】図2Aの続き
【図2C】図2Bの続き
【図2D】図2Cの続き
【図2E】図2Dの続き
【図2F】図2Eの続き
【図3】全長MN cDNAの制限酵素地図である。オープンリーディングフレームは、白抜きのボックスで示される。制限酵素地図の下の太い線は、二つのオーバーラップcDNAクローンのサイズおよび位置を示す。水平の矢印は、5’端RACEに使用されるプライマーR1[配列番号7]およびR2[配列番号8]の位置を示す。適切な制限部位は、BamHI(B)、EcoRV(V)、EcoRI(E)、PstI(Ps)、PvuII(Pv)である。
【図4】MNゲノムクローンの5’MNゲノム領域を示す概略図であり、番号はRACEにより判断される転写開始部位に対応する。
【図5】ヒトMN/CA IX遺伝子のエキソン−イントロン地図を示す。エキソン(番号のある、網状の陰影のついたボックス)、Alu反復エレメント(白抜きのボックス)およびLTR関連配列(最初の番号の無い点刻されたボックス)の位置およびサイズを、示される目盛りに調整する。それぞれのMN/CA IXタンパク質ドメインに対応するエキソンは、PG(プロテオグリカン様ドメイン)、CA(炭酸脱水酵素ドメイン)、TM(膜貫通アンカー)およびIC(細胞質内テール)と称される点線の枠に囲まれる。地図の下におけるアミノ酸配列の整合により、MN/CA IXタンパク質PGドメイン(aa 53-111)[配列番号50]とヒトアグリカン(aa 781-839)[配列番号54]との間の相同性の程度が示される。
【図6】ヒトMN遺伝子の計画されたプロモーターについてのヌクレオチド配列である[配列番号27]。RNアーゼ保護アッセイにしたがって、転写開始部位からヌクレオチドに番号を付ける。可能性のある調節エレメントには上線を引く。対応するヌクレオチド上の星印(RNアーゼ保護)および点(RACE)により転写開始部位を示す。第1のエキソンの配列は星印の下で始まる。MN4プロモーター断片のFTP分析により、コード鎖および非コード鎖の両方で保護される5つの領域(I-V)、およびコード鎖で保護されるが非コード鎖で保護されない2つの領域(VIおよびVII)が示された。
【図7】転写開始部位に関連する位置に従ってMNゲノムクローンの整合を概略する。Bd3以外のすべてのゲノム断片は、HeLa細胞に由来するラムダFIX IIゲノムライブラリから単離された。クローンBd3は、ヒト胎児脳ライブラリに由来した。
【図8】MNタンパク質構造の概略図である。省略は図5において使用されるのと同じである。目盛りはアミノ酸の数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
「MN/CA IX」および「MN/CA9」という用語はここで、MNについて同義語であると考えられる。また、G250抗原は、MNタンパク質/ポリペプチドを称すると考えられる。[Uemura et al., J. Urol., 154(4 Suppl.): 377(Abstract 1475; 1997).]
MN/CA IXは、ウェスタンブロットにより約58および54キロダルトン(kDA)の分子量を有すると判断される形質膜および核タンパク質として、子宮頸のヒト癌に由来するHeLa細胞において最初に同定された。これは単一の3kDaの炭水化物鎖によりN-グリコシル化されており、非還元状態においてS-S結合したオリゴマーを形成する[Pastorekova et al., Virology, 187: 620-626(1992); Pastorek et al., Oncogene, 9: 2788-2888(1994)]。MN/CA IXは細胞表面に位置する膜貫通タンパク質であるが、核において検出されることもある[Zabada et al., Int. j. cancer, 54: 268-274(1993); Pastorekova et al., supra]。
【0038】
MNは、一対のタンパク質、p54/58NによりHeLa細胞中で示される。p54/58Nと反応性のモノクローナル抗体 (MAb M75) を使用する免疫ブロットにより、54kdおよび58kdにおいて二つのバンドが示された。これらの二つのバンドは、おそらく翻訳後プロセシングにより分化されるタンパク質の一つのタイプに対応するかもしれない。ここに、「対のタンパク質」という用語は、p54/58Nを示す。
【0039】
Zavada et al.,国際公開第93/18152号および/または同第95/34650号には、ここで図1A-1Cに示されるMN cDNA配列(配列番号1)、ここに同じく図1A-1Cに示されるMNアミノ酸配列(配列番号2)、およびここに図2A-2Fに示されるMNゲノム配列(配列番号5)が開示される。MN遺伝子は、11のエキソンおよび10のイントロンの構造を有する。
【0040】
図1A-1Cに示されるMNタンパク質の最初の37のアミノ酸は、おそらくMNシグナルペプチドである[配列番号6]。MNタンパク質は、細胞外ドメイン[図1A-1Cのアミノ酸(aa)38-414(配列番号87)]、膜貫通ドメイン[aa 415-434(配列番号52)]および細胞内ドメイン[aa 435-459(配列番号53)]を有する。細胞外ドメインには、プロテオグロリカン様ドメイン[aa 53-111(配列番号50)]および炭酸脱水酵素(CA)ドメイン[aa 135-391(配列番号51)]が含まれる。
【0041】
MNタンパク質とレセプター分子との相互作用をブロックする抗癌剤および抗体
MNタンパク質は、以下を含む多くの理由により癌治療に非常に適切な標的であると考えられる。(1)細胞表面に局在しており、接近しやすくなっている。(2)ヒト癌の高い割合で発現されるが(例えば、特に子宮頸部、腎、結腸、乳、食道、肺、頭部および頸部癌)、そのような癌が生ずる正常組織中で任意の有意の程度までは通常発現されない。
【0042】
(3)通常、胃粘膜および消化管の一部の上皮(胆嚢および小腸の上皮)においてのみ発現される。したがって、MNを発現させる新生物発生前/腫瘍性のおよびMNを発現させる正常な組織の間に吻合性関門が存在する。したがって、抗体を含む薬は、投与されるとMNを発現させる正常組織と相互作用することなく腫瘍に到達できる。
【0043】
(4)MAb M75は、MNタンパク質に対して高い親和性および特異性を有する。(5)タンパク質コードおよび遺伝子調節配列を有するMN cDNAおよびMNゲノムクローンが単離された。(6)動物実験および腎癌患者のフェーズI臨床試験においてMN特異的キメラ抗体について示されるように、MN特異的抗体は、固体腫瘍中で抗腫瘍抗体による臨床実験において報告されたように最大の腫瘍取込みを有する一つであることが示された。[Steffens et al., J. Clin. Oncol.., 15: 1529(1997).]また、MN特異的抗体は、正常組織中では低い取込みを有する。
【0044】
例えばここに示されるデータは、正常組織および新生物発生前/腫瘍性組織におけるMNタンパク質の作用方法に関する以下の理論と矛盾しない。正常組織において(例えば胃粘膜において)、MNタンパク質は分化因子であると考えられる。これは正常レセプターS(胃について)と結合する。胃癌は、MNタンパク質を含まないことが示された。
【0045】
他の組織におけるMNタンパク質の異所的発現により、細胞の悪性転換が起こる。そのような異所的発現は、MNタンパク質と代替レセプターH(HeLa細胞について)との結合により起こると考えられ、悪性の原因となる情報伝達経路につながる。レセプターHに対するMNタンパク質の結合部位をブロックする薬または抗体は、新生物発生前/腫瘍性細胞を正常細胞に転換させるまたはそれらの死を誘発すると期待される。
【0046】
MNをブロックする薬または抗体の作製および開発
MNをブロックする薬、例えばMNタンパク質に対して高い親和性を有するペプチド、または抗体を作製および開発する方法は、いくつかの工程を有する。まず、以下に記載される細胞接着アッセイに基づき、レセプターに対するMNタンパク質の結合についてテストする。同じ方法を使用して、MNタンパク質結合部位をブロックする薬についてアッセイしてもよい。二者択一のレセプターSおよびH、胃上皮細胞または復帰突然変異体(選択的にSレセプターを含む)を考慮して、HeLa細胞(Hレセプターを含有しSレセプターを欠失している)を細胞接着アッセイにおいて使用する。
【0047】
MNタンパク質のレセプター結合部位を同定するために、異なるドメインを欠失しているMNタンパク質の欠失突然変異体を使用して、MNタンパク質とレセプターとの相互作用の原因であるドメインを同定することができる。実施例2には、MNタンパク質上の他の結合部位を検出する方法が同定され説明される。好ましいMN結合部位は、MNタンパク質のプロテオグリカン様ドメイン中の6アミノ酸の6倍縦列反復(aa 61-96配列番号97)内に少なくとも二つのコピーが位置するMAb M75についてのエピトープに密接に関連するまたは同一であると考えられる。より小さい欠失突然変異体を、関連するドメイン内で調製できる、例えばMNタンパク質の小さい部分のみを有する融合タンパク質を調製できる。また、特異的なプロテアーゼによるMNタンパク質のコントロールされた分解およびその後の産物の分離を行うことができる。
【0048】
さらに、予想される結合部位を有するペプチドを合成することができる。これらの産物はすべて、以下に示されるように細胞接着アッセイにおいてテストできる。[例えば、Pierschbacher and Ruoslahti, PNAS, 81:5985(1984); Ruoslahti and Pierschbacher, Science, 238:491参照。]
分子を構成して、MNレセプター結合部位をブロックすることができる。例えば、実施例2および3に記載されるようにファージ表示ペプチドライブラリキット[Ph.D-7 Peptide 7-Mer Library Kit from New England Biolabs; Beverly, MA(USA)のような]を使用して、標的分子に対して高い親和性を有するペプチドを発見することができる。同定されたペプチドの生物学的活性を、MNタンパク質への細胞接着の抑制、細胞形態における効果およびMN関連腫瘍細胞(HeLa)および対照細胞の成長特性により、インビトロでテストする。[Symington, J. Biol. Chem., 267: 25744(1992).]HeLa細胞を注入されたヌードマウスにおいて、インビボのスクリーニングを行う。
【0049】
MNタンパク質の結合部位を含有するペプチドを調製する[例えばMAP(複合抗原ペプチド); Tam, J.P.,PNAS(USA) 85: 5409(1988); Butz et al., Peptide Res., 7: 20(1994)]。MAPを使用して免疫化し、結合部位を認識しブロックする抗体(ポリクローナルおよび/またはモノクローナル)を得る。[例えば、Brooks et al., Cell, 79: 1157(1994)参照。]次に「ワクチン接種」を使用して、動物内の防御についてテストする。MN結合部位に対する抗体を使用して、MNタンパク質と他の分子との相互作用をブロックすることが潜在的にできる。
【0050】
コンピューターモデリングを使用して、MNタンパク質とそのレセプターとの間の立体化学的抑制を媒介するMNタンパク質に対して特異的な親和性を有する分子を作製することができる。レセプターに対するMN結合部位のコンピューターモデルには、空間の、静電性の、疎水性のおよびこの構成物の他の特性が含まれる。結合部位に最適に適合する、該構成物に相補的な有機分子を作製する。MN結合部位をブロックできる無機分子も同様にテストできる。
【0051】
新しい癌治療を開発するための標的として腫瘍タンパク質を使用することは、当業者により従来技術であると考えられる。[例えば、Mendelsohn and Lippman,「成長因子」, pp. 114-133, IN: DeVita et al.(eds.), Cancer: Principles and Practice of Oncology(4th Ed.; Lippincott; Philadelphia, 1993参照。]最も広い意味において、阻止薬の作製は、競合阻害実験を基礎とすることができる。そのような実験を使用して、スルホンアミド(葉酸の前駆体であるパラ−アミノ安息香酸の競合阻害剤)の発見以来、薬が発明されてきた。また、細胞増殖抑制剤は、競合阻害剤である(例えば、特にハロゲン化ピリミジン)。
【0052】
しかしながら、MNへのそのようなアプローチの適用は新しい。他の腫瘍関連分子(例えば成長因子およびそのレセプター)と比較して、MNは吻合性関門により分離される、新生物発生前/腫瘍性および正常な組織中で異なって発現されるという特有の特性を有する。
【0053】
MN遺伝子−クローニングおよび配列決定
図1A-Cは、以下に記載されるように単離された全長MN cDNAクローンについてのヌクレオチド配列を示す[配列番号1]。図2A-Fは、完全なMNゲノム配列を示す[配列番号5]。図6は、計画されたMNプロモーターについてのヌクレオチド配列を示す[配列番号27]。
【0054】
遺伝暗号の縮重のために、すなわち、一つ以上のコドンが一つのアミノ酸をコードするために(例えば、それぞれアミノ酸ロイシン(Leu)についての暗号であるTTA、TTG、CTT、CTC、CTAおよびCTG)、例えば一つのコドンが別のコドンに置換されている配列暗号1および5中のヌクレオチド配列の突然変異体は、本発明により実質的に等しいタンパク質またはポリペプチドを産生する。MN cDNAのヌクレオチド配列および相補的核酸配列中のそのような突然変異体はすべて、本発明の範囲内に含まれる。
【0055】
ここに記載され、図1,2および6に示されるヌクレオチド配列は、ここに単離され記載されるcDNA、ゲノムおよびプロモーターのヌクレオチド配列の正確な構造のみを示すこともさらに理解される。わずかに修飾されたヌクレオチド配列が発見されるかまたは当業者により修飾されて例えば同様のエピトープを有する実質的に類似するまたは相同のMNタンパク質およびポリペプチドをコードできることが予想され、そのようなヌクレオチド配列およびタンパク質/ポリペプチドは本発明のために同等であると考えられる。等しいコドンを有するDNAまたはRNAは本発明の範囲内であると考えられ、同様にMNタンパク質/ポリペプチドに相同であるまたは実質的に相同であるタンパク質/ポリペプチドをコードする合成核酸配列、並びにストリンジェントな条件下で前記相補的配列[配列番号1,5および27]にハイブリダイズする、または遺伝暗号の縮重についてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で前記cDNAヌクレオチド配列にハイブリダイズする核酸配列も本発明の範囲内である。ここに示されるようにヌクレオチド配列の修飾および突然変異により、例としてのMN配列およびその断片と実質的に同じ配列が生ずると考えられる。
【0056】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件はここで、当該技術においてストリンジェントであると考えられる標準的なハイブリダイゼーション条件に従う。例えば、ストリンジェントな条件には、例えば50℃から70℃までの温度で0.02Mから0.15MまでのNaClにより提供されるような相対的に低い塩および/または高い温度条件が含まれると一般的に理解される。例えば20℃から55℃までの範囲の温度において0.15Mから0.9Mまでの塩のようなよりストリンジェントでない条件は、温度の増加と同様にハイブリッド二重鎖を不安定化するホルムアミドの量を増加させながら加えることによってよりストリンジェントにすることができる。
【0057】
典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, pages 1.91 and 9.47-9.51(Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratoty Press: Cold Spring Harbor, NY; 1989); Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, pages 387-389(Cold Spring Harbor Laboratory; Cold Spring Harbor, NY; 1982); Tsuchiya et al., Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, 71(6): 721-725(1991年6月)に記載されている。
【0058】
Zavada et al.,国際公開第95/34650号には、部分的なMN cDNAクローン、全長MN cDNAクローンおよびMN遺伝子クローンが単離され配列決定された方法が記載されている。また、Zavada et al., Int. J. Cancer, 54: 268(1993)には、1397bpの長さの部分的なMN cDNAの単離および配列決定が記載されている。原cDNAライブラリから全長クローンを単離する試みは簡単に失敗した。したがって、本発明者は、原cDNAクローンの5’領域に由来するMN特異的プライマー、R1およびR2[配列番号7および8]を使用してcDNA端の急速増幅(RACE)を行った。RACE産物をpブルースクリプト中に挿入し、組換えプラスミドの全母集団を、MN特異的プライマーODN1[配列番号3]により配列決定した。このようにして、図1に示されるようにMN cDNAの5’端における信頼できる配列[配列番号1]が得られた。
【0059】
特に、RACEは以下のように5’RACEシステム[GIBCO BRL; Gaithersburg, MD(USA)]を使用して行った。第一鎖cDNAのためのテンプレートとして1μgのmRNA(上述と同じ)を使用し、MN特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドであるR1(5’-TGGGGTTCTTGAGGATCTCCAGGAG-3’)[配列番号7]をプライマーとした。第一鎖の産物を、酢酸アンモニウムの存在下で二度沈降させ、ホモポリマー性CテールをTdTにより3’端に付着させた。その後テールのついたcDNAを、nestedプライマーであるR2(5’-CTCTAACTTCAGGGAGCCCTCTTCTT-3’)[配列番号8]およびホモポリマー性テールにアニーリングするアンカープライマー(5’-CUACUACUACUAGGCCACGCGTCGACTAGTACGGGGGGGGGG-3’)[配列番号9]を使用するPCRにより増幅した。増幅された産物をBamHIおよびSalI制限酵素により分解し、pブルースクリプトII KSプラスミド中にクローニングした。形質転換の後、プラスミドDNAを形質転換された細胞の全個体群から精製し、MN特異的プライマーODN1[配列番号3;29-mer 5’ CGCCCAGTGGGTCATCTTCCCCAGAAGAG 3’]による配列決定のためのテンプレートとして使用した。
【0060】
MN調節を調べるために、MNゲノムクローンを単離した。プローブとしてMN cDNAおよびcDNA ODN1[上述の配列番号3]およびODN2[配列番号4;19-mer(5’ GGAATCCTCCTGCATCCGG 3’)]に由来するMN特異的プライマーを使用して胎児脳から調製されたヒトコスミドライブラリからあるゲノムクローン(Bd3)を単離した。配列分析により、ゲノムクローンはMN転写開始部位からの上流でありMN cDNA内に局在するBamHI制限部位で終了する領域に広がることが示された。他のMNゲノムクローンも同様に単離できる。
【0061】
図7は、転写開始部位に従うMNゲノムクローンの整合の概略図である。A4aクローンおよびXE1およびXE3サブクローンを含有するプラスミドを、それぞれ寄託番号第97199号、同第97200号、および同第97198号の下で1995年6月6日にアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託した。
【0062】
完全なMNゲノム領域のエキソン−イントロン構造
オーバーラップクローンの完全な配列は、10,898bpを含有する(配列番号5)。図5は、ヒトMN遺伝子の構成を示し、すべての11エキソンの位置並びに2つの上流および6つのイントロン性Alu反復エレメントが示される。すべてのエキソンは小さく、445bpである最初のエキソンを除き27bpから191bpまでの範囲である。イントロンのサイズは89bpから1400bpまでの範囲である。CAドメインはエキソン2−8によりコードされるのに対し、エキソン1、10および11はそれぞれ、プロテオグリカン様ドメイン、膜貫通アンカーおよびMN/CA IXタンパク質の細胞質テールに対応する。以下の表1には、AG-GTモチーフを含むコンセンサススプライス配列に従うスプライス供与および受容配列が記載される[Mount, Nucleic Acids Res. 10: 459-472(1982)]。
【表1】
【0063】
MN遺伝子転写開始および終了部位のマッピング
Zavada et al.,国際公開第95/34650号には、MN遺伝子転写開始および終了部位をマッピングする方法が記載されている。MN遺伝子の5’端の良好なマッピングのためにRNアーゼ保護アッセイが使用された。プローブは一律に標識された470ヌクレオチドコピーRNA(nt −205から+265まで)[配列番号55]であり、MNを発現させるHeLaおよびCGI.3細胞からのトータルRNAにハイブリダイズさせ、塩基配列決定ゲル上で分析した。この分析により、MN遺伝子転写は多くの部位で開始することが示され、最長のMN転写物の5’端は、以前RACEにより特徴付けられていたより30nt長い。
【0064】
5’フランキング領域の特徴付け
ヒト胎児脳コスミドライブラリから単離されたBd3ゲノムクローンは、MN遺伝子の転写開始部位から3.5kb上流の領域に広がることが分かった。重要なコード領域は含有しない。二つのAlu反復は、位置−2587から−2296まで[配列番号56]および−1138から−877まで[配列番号57]に位置する(RNPにより測定される転写開始に関して)。
【0065】
転写開始までのDNA 5’のヌクレオチド配列分析により(nt −507まで)、最初のエキソンの始まりから予想される距離内において認識可能なTATAボックスは示されなかった。しかしながら、転写因子に対する潜在的な結合部位の存在により、この領域にはMN遺伝子についてのプロモーターが含まれ得ることが示される。転写因子AP1およびAP2について並びに他の調節因子について、p53結合部位を含む多くのコンセンサス配列がある[Locker and Buzard, J., DNA Sequencing and Mapping, 1: 3-11(1990); Imagawa et al. Cell, 51: 251-260(1987); EI Deiry et all., Nat. Genet, 1: 44-49(1992)]。推定のプロモーター領域には59.3%のC+Gが含有されるが、ハウスキーピング遺伝子のTATAの少ないプロモーターに特有であるCpGに富む島という追加の属性を有しない[Bird, Nature, 321: 209-213(1986)]。TATAボックスを欠く遺伝子の別の種類は、プロモーターとしてイニシエーター(Inr)エレメントを使用する。これらの遺伝子の多くは構造的に活性ではないが、分化または成長中に調節される。Inrは、PyPyPyCAPyPyPyPyPy[配列番号23]のコンセンサス配列を有し、転写開始部位を含む[Smale and Baltimore, Cell, 57: 103-113(1989)]。二つのそのようなコンセンサス配列がMN推定プロモーター中に存在する;しかしながら、転写開始をオーバーラップしない(図6)。
【0066】
関心のある領域が、MN遺伝子の中央に発見された。この領域は約1.4kbの長さであり[ゲノム配列のnt 4,600−6,000;配列番号49]、第1のイントロンの3’部分から第5のエキソンの端までに及ぶ。この領域は、62.8%のC+G含量および82 CpGを有する典型的なCpGに富む島:131 GpCジヌクレオチドという特性を有する。さらに、この領域の中心に集中した、転写因子AP2およびSp1[Locker and Buzard, supra; Briggs et al., Science, 234: 47-52(1986)]に対する多くの推測結合部位が存在する。特に131bpの長さの第3のイントロンは、三つのSp1および三つのAP2コンセンサス配列を含有する。このデータにより、MN遺伝子発現の調節における該領域の可能な改良が示される。しかしながら、該領域、並びに計画された5’ MNプロモーター中で見られる他の調節エレメントの機能性は、まだ測定されていない。
【0067】
MNプロモーター
MNプロモーターの研究により、MNプロモーターはTATAが少なく、AP-1、AP-2、並びに二つのp53結合部位についての調節配列を含有することが示された。MN遺伝子の3.5kbフランキング領域上流の5’端の配列は、HERV-K内因性レトロウイルスのLTRに広い相同性を示す。CATおよび新レポーター遺伝子を使用する分析により示されるように、プロモーターの基底転写活性は非常に弱い。しかしながら、レポーター遺伝子の発現は、3.5kbフランキング領域からされる場合、数倍に増加され、これは推測のエンハンサーの改良を示す。
【0068】
欠失分析による3.5kbのMN 5’上流領域の機能の特徴付けにより、[−173、+31]断片[配列番号91](あるいは、より好ましくはないが、ほぼ同一の−173、+31断片[配列番号91])をMNプロモーターとして同定できる。インビトロにおけるDNアーゼフットプリンティングにより、MNプロモーター内に5つの保護された領域(PR)が存在することが示された。プロモーターの詳細な欠失分析により、PR1および2(転写開始から番号を付けた)を転写活性に最も重要であることが同定された。PR4[配列番号115]は、転写に負の影響を与えて欠失によりプロモーター活性を増加させ、プロモーター、位置および配向と独立したサイレンサーエレメントとして機能することが確かめられた。突然変異分析により、直列反復AGGGCacAGGGC[配列番号143]は有効なリプレッサー結合に必要であることが示された。リプレッサー複合体の二つの成分(35kDaおよび42kDa)は、UV架橋によりPR4と直接接触していることが分かった。MN発現を誘発することが知られている、細胞密度の増加は、HeLa細胞中のPR4結合のレベルに影響を与えない。大きく減少したリプレッサーレベルは、非腫瘍形成性CGL1 HeLa x正常繊維芽ハイブリッド細胞と比較して腫瘍形成性CGL3の場合にMNがアップレギュレーションされる原因であると考えられる。
【0069】
遺伝子治療のための腫瘍特異的プロモーターとしてのMNプロモーターの利用
MN遺伝子プロモーターは、自殺遺伝子[HSVのチミジンキナーゼ(tk)]を発現させ腫瘍細胞の直接およびバイスタンダー(bystander)殺傷を媒介する腫瘍特異的プロモーターとして使用できるか否かを調べる。腫瘍細胞に形質転換されたHSVtk遺伝子は、ヌクレオシド類似体ガンシクロビル(GCV)を毒性トリホスフェートに変換し、導入されたおよび近隣の腫瘍細胞の死を媒介する。MN遺伝子プロモーターによるHSVtkのコントロールにより、その発現はMNタンパク質の生物合成に寛容な腫瘍細胞中でのみ可能であり、そのような腫瘍細胞は選択的に殺されるが、MN発現が抑制される正常細胞は殺されない。
【0070】
HSVtkがMNプロモーター領域のBd3の下流にクローニングされ、MNの近位および遠位調節エレメントを含有するプラスミド構成物を調製した。それぞれリン酸カルシウム沈降およびリポフェクションを使用して、プラスミドpMN-HSVtkをRat2TK細胞およびC33ヒト頸部癌細胞にトランスフェクションした。トランスフェクタントを、HSVtkおよびGVC感受性の発現についてテストした。トランスフェクタントの分析により、低濃度においてもGVCの著しい細胞障害性のインビトロにおける効果が示された(細胞の95%までが殺された)。
【0071】
pGEX-3X中でGSTとの融合タンパク質を使用して、HSVtkに対するポリクローナルウサギ抗血清を調製し、トランスフェクションされた細胞中で合成されたHSVtkを免疫検出する。このモデルシステムを研究して、バイスタンダー効果、クローニング有効性の特性および形質導入されGVC処理された細胞のコラーゲン基質への侵入性を判断する。MNプロモーターによるHSVtkによる組換えレトロウイルスベクターを調製して、動物モデル(例えばSCIDマウス)を使用してインビボにおける有効性をテストする。
【0072】
MNプロモーター分析
MNプロモーターは弱いので、一過性トランスフェクションの相対的に低い有効性(10%まで)のために標準的な研究方法は制限されるであろう。したがって、CAT遺伝子に融合したMNプロモーターを含有する安定したクローン細胞系発現構成物を調製した。そのようなクローン系において、100%の細胞がMNプロモーターによるCAT遺伝子を発現し、したがってプロモーターの活性は、一過性の実験におけるよりも容易に検出できる。また、プロモーター活性は、異なる条件下で同じ細胞中で反復して分析できるまたは異なる因子および薬により処理できる。この方法は、転写開始のレベルにおいてMN調節の基礎をなす機構の研究を考慮に入れる。
【0073】
レポーターCAT遺伝子に結合したプロモーター構成物による多くのタイプのトランスフェクション(カルシウム沈降、DMSOショックおよび/またはクロロキンと組み合わせたDEAEデキストラン、並びにエレクトロポレーション)、CAT活性アッセイの異なる方法(シンチレーション方法、薄層クロマトグラフィー)およびMN発現のレベルおよびトランスフェクション有効性において異なる多くの受容細胞系(HeLa、SiHa、CGL3、KATO III、Rat2TKおよびC33細胞)。好ましくはCGL3細胞のエレクトロポレーションおよび薄層クロマトグラフィーによりMNプロモーターの活性を検出した。さらに好ましくは、MNプロモーター-CAT構成物およびpSV2neoにより共トランスフェクションされたC33細胞を使用した。
【0074】
1.MNプロモーターの基底活性を検出し、コアプロモーターの位置を判断するために、CGL3細胞へのトランスフェクション後構成物pMN1からpMN7までのCAT遺伝子の発現を分析した。進行性5’欠失を有するプラスミドをCGL3細胞中にトランスフェクションし、活性をCATアッセイにより分析した。[pBLV-LTR(2μg)を除くすべての場合において8μgのDNAをトランスフェクションに使用した。]
pMN1およびpMN2(それぞれ933bpおよび600bpのプロモーター配列を含有する)によりトランスフェクションされた細胞中で非常に弱いCAT活性のみが検出された。少し高い活性は、構成物pMN3、pMN4およびpMN6(それぞれプロモーターの446bp、243bpおよび58bpを含有する)により示された。活性のわずかなピークは、pMN5(転写開始に関して位置−172において開始する)により得た。したがって、MNコアプロモーターの機能は、MN転写開始部位から約500bpすぐ上流の領域に原因があり得る。
【0075】
興味深いことに、大きいBd3領域(転写開始の3.5kbp上流に広がる)は、コアプロモーターの活性よりも数倍高かった。しかしながら、そのレベルは、ポジティブコントロール、すなわちTaxによりトランス作用されたBLV-LTRにより示されるレベルよりもずっと低く、トランス作用の無いBLV-LTRの活性よりも低かった。コアプロモーターと比較してBd3の活性が高いということにより、ある調節エレメントの存在が考えられる。そのようなエレメントは、おそらくpMN1とBd3との間の配列中に位置する(すなわち−1kbpから−3.5kbpまで)[配列番号58]。示される領域に広がるBd3の多くの欠失バージョンのクローニングおよびトランスフェクションを使用して、推定調節エレメントの位置を測定することができる。
【0076】
同様の結果は、Bd3およびpMN4によりKATO III細胞をトランスフェクションすることから得られた。トランスフェクションされた細胞は、CGL3細胞より低いレベルのMNを発現した。したがって、MNプロモーターの活性は、CGL3細胞中よりも低いことが分かった。
【0077】
2.MNプロモーターを調べる平行方法において、neo遺伝子からの関心のあるクローニングされた上流のプロモーターを含有するプラスミドによりトランスフェクションされた細胞のG418選択に基づく分析を行った。この方法は、感度が標準的なCATアッセイよりもずっと高いため、弱いプロモーターの研究に適切である。この方法の基礎となる原理は、以下のようである:活性のあるプロモーターは、トランスフェクションされた細胞をG418の細胞障害性効果から保護するneo遺伝子を発現させるのに対し、不活性のプロモーターは、neo産物を生ぜず、これによりトランスフェクションされた細胞はG418の作用により死ぬ。したがって、プロモーターの活性は、G418による二週間の選択後に得られる細胞コロニーの数に従って判断できる。最初の実験において、pMN1neo、pMN4neoおよびpMN7neoの3つの構成物を使用した。pMN7neoは転写開始部位の30bp上流を含有しているだけなので、ネガティブコントロールであると考えられた。ポジティブコントロールとして、SV40に由来するプロモーターを有するpSVneoを使用した。カルシウム沈降法により高い効率でトランスフェクションすることができるので、Rat2TK細胞を受容細胞として選択した。
【0078】
トランスフェクションの後、細胞を二週間で選択した。次に培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、メチレンブルーで染色することによりコロニーを視覚化した。3つの独立した実験から得られた結果により、CATアッセイからのデータが確認された。プロモーター構成物pMN4neoは、pMN1neoより高い転写活性を示した。しかしながら、ポジティブコントロールとpMN4neoとの間の相違は、CATアッセイにおけるように著しくなかった。これは、Taxトランス作用されたpBLV-LTRと比較して低いpSV2neoのプロモーター活性およびトランスフェクション後の細胞の成長について異なる条件のせいかもしれない。この観点から、安定なトランスフェクションは、細胞が密接に接触するコロニー中で細胞が成長し実験が長く続くので、おそらくMN発現により都合がよく、これによりプロモーター活性を検出するよりよい機会が提供される。
【0079】
3.MNプロモーター-CATキメラ遺伝子を発現させる安定したトランスフェクタントを、適切なプラスミドとpSVneoとの共トランスフェクションにより調製した。受容細胞として、HeLa細胞を最初に使用した。しかしながら、プロモーター-CAT構成物を発現させるクローンは得られなかった。この否定的な結果はおそらく、対応する内因性配列によるMNのトランスフェクションされたゲノム領域(例えばプロモーター)の相同組換えにより起こった。この実験を基礎として、HPV-陰性頸部癌に由来するC33細胞を使用した。C33細胞は、腫瘍形成の工程中にMN遺伝子を含有する染色体領域9pを含む遺伝子物質を失うので、MNを発現しない。これらの実験において、MN遺伝子の不存在は、相同組換えが避けられる可能性としての利点が示されるかもしれない。
【0080】
MNプロモーター-CAT構成物によりトランスフェクションされたC33細胞
MNプロモーター領域Bd3(−3500/+31)[配列番号90]およびMN5(−172/+31)[配列番号91]の下でCAT遺伝子を発現するC33細胞を使用して、MNプロモーターの転写活性における細胞密度の影響を分析する最初の実験を行った。この結果により、細胞が接近した後産生されたシグナルが細胞培養の密度に比例してMNプロモーターからCATタンパク質の転写を活性化することが示された。興味深いことに、このデータにより、密度の影響がMN−陰性C33細胞中で明らかに示されているので、MNタンパク質は情報伝達のこの段階に必要ではないことが示された。むしろ、MNタンパク質は密集した細胞中で産生されるエフェクター分子として作用し、ある生物学的作用を行う(すなわち接触阻害を混乱させる)ようである。また興味深いことに、MNプロモーター活性は、非常に散在している細胞培養中でも検出可能であり、これはMNが非常に低いレベルで発現されることを示す。
【0081】
欠失突然変異体。次にBd3-CATプロモーター構成物の欠失突然変異体を調製した。この構成物をpSV2neoとともにC33頸部細胞中に共トランスフェクションした。G418による選択の後、安定してトランスフェクションされた細胞の全個体群をCAT ELIZA分析にかけた。欠失構成物の発現により、Bd3-CAT構成物により得られたのと同様のレベルのCATタンパク質が合成された。この呼びデータに基づいて、本発明者は、MNの転写を刺激する配列は転写開始の上流−3506と−3375との間[配列番号92]に位置すると考えた。これはHERV-K LTRに相同性を示す配列である。
【0082】
しかしながら、CGL3細胞中における一過性のトランスフェクションの研究により、LTR領域は基礎MNプロモーター活性の増強に必要でないことが繰り返し示された。さらに、CGL3細胞中で得られた結果により、活性化エレメントは転写開始部位に関して−933から−2179までの領域[配列番号110]に局在することが示される(この領域の位置はBd3欠失突然変異体中のオーバーラップ配列から導き出された)。
【0083】
核タンパク質とMNプロモーター配列との相互作用
MNプロモーターに結合しその活性を潜在的に調節する転写因子を同定するために、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)およびDNアーゼIフットプリント分析(FTP)を使用して一連の分析を行った。
【0084】
EMSA
EMSAにおいて、クレノウ酵素により3’端で標識された、精製された断片であるMN4(−243/+31)[配列番号93]、MN5(−172/+31)[配列番号91]、MN6(−58/+31)[配列番号94]およびpMN7(−30/+31)[配列番号95]を、CGL1およびCGL3細胞から調製された核抽出物中のタンパク質と相互作用させた。[40μgの核タンパク質を、2μgのポリ(dldC)の存在下で30,000cpmの末端標識されたDNA断片と共にインキュベートした。]DNA−タンパク質複合体をPAGE(非変性6%)により分析し、結合したタンパク質の成分に依存する移動度におけるシフトにより、該複合体は自由なDNA断片よりも遅く移動する特別のバンドを生じた。
【0085】
MN4およびMN5プロモーター断片のEMSAにより複数のDNA−タンパク質複合体が示された;しかしながら、それぞれCGL1およびCGL3核抽出物により得られた結合パターンは同一ではなかった。シグナルCGL-1特異的複合体が存在する。
【0086】
MN6プロモーター断片のEMSAにより、CGL1およびCGL3核抽出物との3つの同一の複合体が形成されるが、MN7プロモーター断片は核タンパク質とは結合しなかった。
【0087】
EMSAの結果により、CGL1核抽出物は、CGL1細胞中のMN発現の負の調節に関係し得る特定の因子を含有することが示された。特定のDNA−タンパク質複合体は、MN4(−243/+31)[配列番号93]およびMN5(−172/+31)[配列番号91]プロモーター断片を有するがMN6(−58/+31)[配列番号94]を有しないように形成されるので、該特定の複合体のタンパク質性分の結合部位は転写開始に関して−173bpと−58bpとの間[配列番号96]に位置する。
【0088】
次の段階は、FTP分析において保護された領域に従って作製された二本鎖(ds)オリゴヌクレオチドを使用する一連のEMSA分析であった。MNプロモーターの保護された領域PR2[−72から−56bpまでの配列[配列番号111]に広がる]に由来するdsオリゴヌクレオチドにより、AP-1についての結合部位を示す市販されているdsオリゴヌクレオチドを使用する競合EMSAにおけるAP-1転写因子の結合が確かめられた。
【0089】
PR1[−46から−24bpまで(配列番号112)]、PR2[−72から−56bpまで(配列番号111)]、PR3[−102から−85bpまで(配列番号113)]およびPR5[−163から−144まで(配列番号114)]の保護された領域に由来するdsオリゴヌクレオチドのEMSAによって、CGL1およびCGL3細胞から抽出された核タンパク質の結合パターンにおいて相違は示されず、これによりそれらの領域がCGL3中のMN遺伝子の活性化、またはCGL1中の負の調節をコントロールする重要な転写因子を結合しないことが示される。しかしながら、保護された領域PR4[−133から−108まで;配列番号115]からのdsオリゴヌクレオチドのEMSAにより、CGL1およびCGL3核タンパク質の結合において著しい量的相違が繰り返し示された。CGL1核タンパク質は、実質的に多くのDNA−タンパク質複合体を形成し、これはPR4領域に、CGL1細胞中におけるMN遺伝子転写の負の調節遺伝子を示すかもしれない特定の転写因子に対する結合部位が含まれることを示す。この事実は、プロモーター断片pMN4(−243/+31;配列番号93)およびpMN5(−172/+31;配列番号91)を有するがpMN6(−58/+31;配列番号94)を有しないCGL-1特異的DNA−タンパク質複合体を示す前記のEMSAデータと適合している。
【0090】
複合したタンパク質またはPR4領域中のMNプロモーターとの特定の複合体の形成を同定するために、磁気ビーズに共有結合した適切なdsオリゴヌクレオチドを使用して、対応する転写因子を精製する。あるいはONE Hybrid System[Clontech(Palo Alto, CA(USA)]を使用して、分析されたプロモーター領域の調節に関係する転写因子を探しクローニングする。HeLa細胞からのcDNAライブラリをこの研究に使用する。
【0091】
FTP
MN遺伝子の転写調節に関連するシス(cis)調節エレメントの正確な位置を測定するために、FTPを使用した。それぞれCGL1およびCGL3細胞から調製された核抽出物中のタンパク質を、一本の鎖の5’端で標識されたMNプロモーター(MN4,−243/+31)[配列番号93]の精製されたds DNA断片と相互作用させた。[MN4断片を、Xho1部位(−243/+31)またはXba1部位(−243/+31)のいずれかで標識した。]次に、DNA−タンパク質複合体にDNアーゼIを作用させ、これによりタンパク質と結合していない場合には特定の塩基でDNA鎖が破壊される。[対照には、DNアーゼの代わりにBSAを使用した。]ゲル電気泳動[8%変性ゲル]後の変性DNAのバンドパターンを調べることにより、標識された鎖上の塩基がタンパク質により保護されていることが示された。
【0092】
MN4プロモーター断片のFTP分析により、コード鎖および非コード鎖において保護された5つの領域(I-V)、並びにコード鎖において保護されるが非コード鎖においては保護されない2つの領域(VIおよびVII)が示された。図6は、保護されたMNプロモーター上の一般的領域を示す。
【0093】
同定された保護された領域(PR)の配列を、SIGNALSCANプログラムを使用してコンピューター分析し、転写因子についての既知のコンセンサス配列に一致するか否かを調べた。このコンピューター分析により得られたデータは、以下のようである:
PRI − コード鎖−AP-2、p53、GAL4非コード鎖−JVC反復
PRII − コード鎖−AP-1、CGN4非コード鎖−TCF-1、dFRA、CGN4
PRIII − コード鎖−AP1と一部のみオーバーラップする未知のコンセンサス配列非コード鎖−2 TCF-1部位
PRIV − コード鎖−TCF-1、ADR-1非コード鎖−CTCF、LF-A1、LBP-1
PRV − コード鎖−未知のコンセンサスモチーフ非コード鎖−JCV反復
PRVI − コード鎖−未知のコンセンサスモチーフ非コード鎖−SV40、GAL4のT抗原
PRVII − コード鎖−NF-uE4、U2snRNA.2非コード鎖−AP-2、IgHC.12、MyoD。
【0094】
EMSAと対照的に、FTP分析は、CGL1およびCGL3核抽出物の間で相違を示さなかった。しかしながら、EMSAによりCGL1核抽出物中で検出された特定のDNA−タンパク質相互作用の存在は、DNAタンパク質−タンパク質複合体を形成する追加のタンパク質の結合から生じた。この特定のタンパク質がDNA配列と直接接触しない場合、その存在はFTPにより検出できない。
【0095】
EMSAスーパーシフト分析
FTPの結果により、転写因子AP-1、AP-2並びに腫瘍抑制タンパク質p53は潜在的にMN発現の調節に関連することが示される。MNプロモーターへのこれらの特定のタンパク質の結合を確かめるために、これらのタンパク質に特異的な抗体を使用するスーパーシフト分析を行った。この分析のために、EMSAについて記載されるように調製されたDNA−タンパク質複合体を、潜在的に複合体に含まれるタンパク質に特異的なMAbまたはポリクローナル抗体と相互作用させた。対応するタンパク質への抗体の結合により、PAGEにより追加の、より遅く移動するバンドであると視覚化されるDNA−タンパク質−抗体複合体の移動度における追加のシフト(スーパーシフト)が生じる。
【0096】
この方法により、MNプロモーターへのAP-2の結合を確かめた。しかしながら、この方法はAP-1転写因子の結合の証拠とならなかった。MNタンパク質は、このアッセイにおいて使用される抗体により認識されるAP-1と抗原的に相違するAP-1関連タンパク質を結合することが可能である。
【0097】
また興味深いことに、p53腫瘍抑制タンパク質はMNプロモーターに結合し得る。wt p53は、成長制限遺伝子の発現を活性化し、直接または間接に進行中の細胞増殖に必要な遺伝子の発現を下方に調節する転写因子として作用することがよく知られている。wt p53 DNAおよびmut p53 cDNAと組み合わせてpMN4-CATプロモーター構成物を使用する一過性の共トランスフェクション実験によりそれぞれ、wt p53はMNの発現を負に調節するがmut p53はしないことが示された。さらに、MNプロモーター中の二つのp53結合部位の一つは、FTP分析において保護されており(図6)、これは対応するタンパク質に結合することを示す。したがって、二つのp53特異的抗体、例えばMab421およびDO-1[後者はDr. Vojtesek from Masaryk Memorial Cancer Institute in Brno, Czech Republicにより提供される]によりp53がMNプロモーターに結合することを証明するためのスーパーシフト分析は、例えば十分なレベルでwt p53を発現するMCF-7乳癌細胞からの適切な核抽出物で行われる。
【0098】
MN発現およびMNプロモーターの調節
MNは、細胞増殖のコントロールおよび細胞形質転換に直接関係する新しい調節タンパク質のようである。HeLa細胞において、MNの発現は細胞密度により正に調節される。そのレベルはLCMVによる持続感染により増加する。HeLaと正常繊維芽細胞との間のハイブリッド細胞において、MN発現は腫瘍形成と相関する。MNは腫瘍形成性のハイブリッド細胞(CGL1)中に存在しないが腫瘍形成分離欠失染色体11中で発現されるという事実により、MNは染色体11中の推定サプレッサーにより負に調節されることが示される。
【0099】
MNタンパク質の調節する役割を支持する証拠が、MNタンパク質を構造的に発現させるNIH 3T3細胞の安定したトランスフェクタントの産生において発見された。MN発現の結果として、NIH 3T3細胞は、形質転換された表現系と関係する特徴を獲得した:変化した形態、増加した飽和濃度、血清の減少した培地中における増殖の利点、増強されたDNA合成および足場非依存性成長をする能力。さらに、非同期型細胞個体群のフローサイトメトリ分析により、MNタンパク質の発現によってG1期を通る細胞の増殖が促進され、細胞のサイズが減少し、不適切な条件下で成長を停止する能力が失われることが示された。また、MNを発現する細胞は、DNAを損傷する薬であるマイトマイシンCに対する感受性が減少したことを示す。
【0100】
非腫瘍形成性のヒト細胞であるCGL1細胞もまた、全長MN cDNAとトランスフェクションした。NIH 3T3細胞をトランスフェクションするのに使用したのと同じようにpSV2neoプラスミドと組み合わせてpSG5C-MN構成物を使用した。15のMN陽性クローンのうち(SP-RIAおよびウェスタンブロットによりテストした)、3つをさらなる分析のために選択した。空のプラスミドによりトランスフェクションしたCGL1細胞から単離した2つのMN陰性クローンを対照として加えた。最初の分析により、MNトランスフェクションされたCGL1細胞の形態および成育習性は大きく変化しないが、成長速度およびコロニー形成率は増加することが示される。
【0101】
MNプロモーター−センス/アンチセンス構成物
上述のように単離されたMNゲノムクローンからのプロモーター領域がMN cDNAと結合しCGL1ハイブリッド細胞中にトランスフェクションされる場合、MNタンパク質の発現は選択後すぐに可能である。しかしながら、その後次第に減少し、このようにしてフィードバック調製の作用が示される。推定調節エレメントは、全長cDNAをトランスフェクションのために使用した場合に同様の効果が観察されないので、MNプロモーターにより活性となると考えられる。
【0102】
「アンチセンス」MN cDNA/MNプロモーター構成物を使用して、CGL3細胞をトランスフェクションした。その効果は、「センス」構成物によりトランスフェクションされたCGL1細胞の効果と逆であった。トランスフェクションされたCGL1細胞は対照のCGL1より数倍大きいコロニーを形成したのに対し、トランスフェクションされたCGL3細胞は対照のCGL3細胞よりずっと小さいコロニーを形成した。SiHaおよびHeLa細胞におけるアンチセンスMN cDNAトランスフェクションにより同じ結果が得られた。
【0103】
これらの実験について、BamHI部位によりMN cDNAに結合したプロモーター領域の一部は、MNゲノムクローン[Bd3]のNcoI-BamHI断片に由来し、転写開始部位から数100bp上流の領域を示す。ライゲーションの後、連結DNAをpBK-CMV発現ベクター[Stratagene]中に挿入した。挿入された配列の必要な配向を定方向クローニングにより確保し、続いて制限酵素分析により確かめた。トランスフェクション工程は、NIH 3T3細胞のトランスフェクションに使用したのと同じであったが、neo選択標識はpBK-CMVベクター中に容易に含まれるので、pSV2neoとの共トランスフェクションは必要ではなかった。
【0104】
G418を含有する培地中における二週間の選択の後、上述のように成長したクローンの数およびサイズの間の著しい相違が明らかとなった。選択およびクローニングの直後、MNトランスフェクションされたCGL1およびCGL3さいぼうを、それぞれMNの発現および抑制についてSP-RIAによりテストした。単離されたトランスフェクションされたCGL1クローンはMN陽性であったのに対し(レベルは全長cDNAで得られたよりも低かったが)、MNタンパク質はトランスフェクションされたCGL3クローンにほとんど存在しなかった。しかしながら、その後の経過において、トランスフェクションされたCGL1細胞中のMNの発現は終了し始め、その後ブロックされ、これはおそらくコントロールフィードバック機構の証拠となる。
【0105】
トランスフェクションされたCGL3細胞の非常に低い増殖の結果として、大部分のクローニングされた細胞を拡大するのは困難であり(最低レベルのMNを有するSP-RIAに従って)、継代中に失われた。しかしながら、クローンの一部はその問題を克服し、再びMNを発現した。一度これらの細胞が高品質に達すると、内因的に産生されるMN mRNAのレベルは異所的に発現されるアンチセンスmRNAの量を超えて増加することが可能である。
【0106】
MN発現のコントロールに関する特定の転写因子の同定
転写レベルにおけるMN発現のコントロールには、MNプロモーターの調節エレメントが含まれる。これらのエレメントは、腫瘍細胞中におけるMN活性化および/または正常細胞中における抑制の原因となる転写因子を結合する。これらの特定の転写因子の同定および単離およびそれらがMN発現を調節する方法の理解により、MN発現の調節において治療に利用できる。
【0107】
EMSA実験により、MN遺伝子リプレッサーの存在が示される。One Hybrid System[Clontech(Palo Alto, CA); 標的、シス作用調節エレメントまたは任意の他の短いDNA結合配列に結合するタンパク質をコードする遺伝子を単離するインビボにおける酵母遺伝子アッセイ; Fields and Song, Nature, 340: 245(1989); Wu et al., EMBO J. 13: 4823(1994)]および差引き抑制型PCR(SSH)を使用する。SSHにより、HeLa細胞の密度対散在性、および固定対粘着HeLa細胞のようなMN発現を上方または下方調節することが知られる条件下で示差発現する遺伝子のクローニングが可能になる。
【0108】
HPV不朽化頸部細胞(HCE 16/3)による実験において、MN発現の調節は完全に形質転換された癌細胞における調節と異なることが分かった。例えば、HPV転写を活性化するグルココルチコイドホルモンは、HCE中でMN発現を負に調節するが、HeLaおよびSiHa中でMNを刺激する。HPVオンコジーンの転写をダウンレギュレートする角質細胞増殖因子は、固定HCE中でMN発現を刺激するが、粘着細胞中では発現しない。
【0109】
EGFおよびインシュリンは、不朽化細胞および癌細胞の両方においてMN発現の活性化に関係する。すべての示された事実は、MN特異的転写因子の探索および治療のためのMN発現の調節に使用できる。
【0110】
推定アミノ酸配列
図1に示されるMN cDNAのORFは、49.7kdと計算される分子量を有する459アミノ酸タンパク質をコードする能力を有する。MN/CA IXタンパク質の全アミノ酸組成は、やや酸性であり、4.3の等電点を有すると考えられる。二次元電気泳動およびその後の免疫ブロットによるCGL3細胞からの天然MN/CA IXタンパク質の分析により、コンピューターの予測と一致して、MN/CA IXは、4.7から6.3までの範囲の等電点を有する等電形態で存在する酸性タンパク質である。
【0111】
アミノ酸配列分析により評価されるように、MNタンパク質の推定される一次構造は、4つの異なる領域に分けることができる。37アミノ酸(aa)の第1の領域はシグナルペプチドに対応する。主要なタンパク質は、377アミノ酸[aa 38-414(配列番号87)]のN末端または細胞外部分、20アミノ酸[aa 415-434(配列番号52)]の疎水性膜貫通断片および25アミノ酸[aa 435-459(配列番号53)]のC末端領域を有する。
【0112】
細胞外部分は、二つの異なるドメインからなる:(1)プロテオグリカン様ドメイン[aa 53-111(配列番号50)];および(2)形質膜の近くに位置するCAドメイン[aa 135-391(配列番号51)]。[アミノ酸の数は、図1の数に合わせる。]
MNタンパク質の一次構造へのより詳細な洞察により、多くのコンセンサス配列の存在が開示される。一つの潜在的なN-グリコシル化部位は、図1の位置346に見られる。この特徴は、予測された膜に広がる領域と共に、結果と矛盾しておらず、MNは形質膜中に局在するN-グリコシル化タンパク質であることが示される。cDNAから導き出されるMNタンパク質配列はまた、遺伝子調節タンパク質中でしばしば見られるモチーフとしてSuzuki, J. Mol. Biol., 207: 61-84(1989)により定められる7つのS/TPXX配列エレメント[配列番号25および26](それらの一つはシグナルペプチド中にある)を含有することが分かった。しかしながら、それらの二つのみが示されたコンセンサスアミノ酸から成る。
【0113】
亜鉛帯電キレートセファロースを使用するアフィニティクロマトグラフィーにより示されるように、実験によりMNタンパク質は亜鉛陽イオンを結合できることが示された。Mab M75によりHeLa細胞から免疫沈降されたMNタンパク質は、CAの弱い触媒活性を有することが分かった。MNのCA様ドメインは、小さい可溶性領域に対する結合部位として作用する構造傾向を有する。したがって、MNタンパク質はある種の情報伝達を媒介することができる。
【0114】
LCMV感染したHeLa細胞からのMNタンパク質は、DNAセルロースアフィニティクロマトグラフィーにより、固定化された二本鎖サケ精子DNAに結合することが示される。結合活性には、結合緩衝剤中に亜鉛陽イオンが存在することおよび還元剤が存在しないことが必要である。
【0115】
トランスフェクションされたNIH 3T3繊維芽細胞の増加した増殖がなければ足場非依存性に必要なCAドメイン
トランスフェクションされたNIH 3T3繊維芽細胞中で、MNタンパク質は形態的形質転換、増加した増殖および足場非依存性を誘発する。NIH 3T3細胞中における二つのMN切断された突然変異体の構成性発現の結果を研究した。プロテオグリカン様ドメインは、トランスフェクションされた細胞の形態的変化に十分であり、おそらく接触抑制の原因に関係する成長促進活性を示すことが分かった。
【0116】
CAドメインは、足場非依存性の誘発に不可欠であるのに対し、TMアンカーおよびICテールはその生物効果について重要ではない。MNタンパク質もまた、トランスフェクションされた細胞中で形質膜ラッフリング(ruffling)を起こすことができ、固体支持体への結合に関係するようである。このデータにより、細胞増殖、接着および細胞内情報伝達の調節におけるMNの関与が示される。
【0117】
配列類似性
MN cDNA配列のコンピューター分析を、DNASISおよびPROSIS(Pharmacia Software package)を使用して行った。GenBank, EMBL,タンパク質同定供給源およびSWISS-PROTデータベースを、すべての可能な配列類似性について検索した。さらに、MNと配列類似性を共有するタンパク質の検索を、FastA program[Pearson and Lipman, PNAS(USA), 85: 2444(1988)]を使用してMIPSで行った。
【0118】
シグナルペプチドとCAドメインとの間のプロテオグリカン様ドメイン[aa 53-111(配列番号50)]は、ヒトの大集合プロテオグリカンアグリカンのケラタン硫酸結合ドメイン[Doege et al., J. Biol. Chem., 266: 894-902(1991)]と大きい相同性を示す(38%同一および44%確実)。
【0119】
CAドメイン[aa 135-391(配列番号51)]は、265aaにわたって広がり、ヒトCA VIイソエンザイム[Aldred et al., Biochemistry, 30: 569-575(1991)]と38.9%のアミノ酸同一性を示す。MN/CA IXと他のイソエンザイムとの間の相同性は、以下のようである:261 aaオーバーラップ中CA IIと35.2%[Montgommery et al., Nucl. Acids. Res., 15: 4687(1987)]、261 aaオーバーラップ中CA Iと31.8%[Barlow et al., Nucl. Acids Res., 15: 2386(1987)]、266 aaオーバーラップ中CA IVと31.6%[Okuyama et al., PNAS(USA)89: 1315-1319(1992)]、および259 aaオーバーラップ中CA IIIと30.5%[Lloyd et al., Genes. Dev., 1: 594-602(1987)]。
【0120】
CAドメインに加えて、MN/CA IXは、他のCAイソエンザイムと関連せずにN末端およびC末端を伸長させる。膜貫通アンカーおよび細胞質内テールから成るC末端部のアミノ酸配列は、任意の既知のタンパク質配列に大きな相同性を示さない。
【0121】
MN遺伝子は、ヒトゲノムに由来する新しい配列であることがはっきりと分かった。cDNA MN配列と異なるCAイソエンザイムをコードするcDNA配列との間の全体の配列相同性は、48−50%の範囲の相同性であり、これは当業者によって低いと考えられる。したがって、MN cDNA配列は、任意のCA cDNA配列と密接に関連しない。
【0122】
少なくとも80−90%の相同性を有する非常に密接に関連するnt配列のみが、ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズする。図1に示されるMN cDNA配列とヒト炭酸脱水酵素II(CA II)の対応するcDNAとの配列比較により、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で25以上のヌクレオチドを有するCA II cDNA配列の断片をMN cDNAにハイブリダイズさせるまたはその逆をするのに十分長い同一性の範囲は二つの配列間に無いことが示された。
【0123】
EMBLデータライブラリにおけるMN遺伝子に関連するnt配列の検索によって、69.8%から91%までの範囲でAlu配列に相同性を有する6つの完全なおよび2つの部分的なAlu型反復を除き、特定の相同性は示されなかった[Jurka and Milosavljevic, J. Mol. Evol. 32: 105-121(1991)]。ゲノム領域の5’端に近い222bp配列もまた、HERV-K LTRの領域に非常に相同であることが示される。
【0124】
通常、好ましくは25塩基以上の、より好ましくは50塩基以上の、AluまたはLTR様領域中に存在しないヌクレオチド配列は、機械的にテストしスクリーニングでき、ストリンジェントな条件下でMNヌクレオチド配列にのみハイブリダイズすることが分かる。さらに、Alu様MNゲノム配列内のすべての相同性がAlu反復に近く、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイゼーションシグナルを与えるわけではない。MN Alu様領域と標準Alu-J配列との間の相同性のパーセントは、以下に示される:
【0125】
MNタンパク質および/またはポリペプチド
「MNタンパク質および/またはポリペプチド(MNタンパク質/ポリペプチド)」という用語は、ここで、MN遺伝子またはその断片によりコードされるタンパク質および/またはポリペプチドを意味すると定義される。本発明による典型的なおよび好ましいMNタンパク質は、図1に示される推定アミノ酸配列を有する。好ましいMNタンパク質/ポリペプチドは、図1に示されるMNタンパク質と実質的な相同性を有するタンパク質および/またはポリペプチドである。例えば、そのような実質的に相同なMNタンパク質/ポリペプチドは、本発明のMN特異的抗体、好ましくはMab M75、MN12、MN9およびMN7またはそれらの等価物と反応性のものである。
【0126】
「ポリペプチド」または「ペプチド」は、ペプチド結合により共有結合したアミノ酸鎖であり、ここで50以下のアミノ酸からなると考えられる。「タンパク質」は、ここで、50以上のアミノ酸からなるポリペプチドと定義される。ポリペプチドという用語には、ペプチドおよびオリゴペプチドという用語が含まれる。
【0127】
MNタンパク質は、多くの興味ある特徴を示す:細胞膜局在、HeLa細胞中における細胞密度依存性発現、HeLa×繊維芽細胞体細胞ハイブリッドの腫瘍性表現型との相関、および多くの組織中のヒト癌における発現。MNタンパク質は、腫瘍組織部分において直接見ることができるが、通常は対照の正常組織中で見られない(正常な胃粘膜および胆嚢組織について以下に例外が示される)。MNはまた、異形成および/または悪性を示す組織標本の形態的に正常に見える領域において時に発現される。まとめると、これらの特徴により、細胞の増殖、分化および/または形質転換の調節におけるMNの可能な改良が示される。
【0128】
インビボにおいて腫瘍性の細胞により産生されるタンパク質またはポリペプチドは、細胞培養中の腫瘍細胞によりまたは形質転換された細胞により産生されるものと配列において変化し得ることが認識される。したがって、無制限にアミノ酸置換、伸長、欠失、切断およびその組合せを含む変化するアミノ酸配列を有するMNタンパク質および/またはポリペプチドは、本発明の範囲内である。体液中に存在するタンパク質を、タンパク分解工程のような分解工程にかけることもまた認識できる;したがって、有意に切断されたMNタンパク質およびMNポリペプチドは、血清のような体液中で見られる。ここで用いた「MN抗原」という用語には、MNタンパク質および/またはポリペプチドが含まれる。
【0129】
MNタンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列は遺伝子技術により修飾できることがさらに認識されるであろう。一つ以上のアミノ酸を欠失または置換することができる。そのようなアミノ酸変化は、タンパク質またはポリペプチドの生物活性に測定可能な変化を起こさず、本発明の範囲内のタンパク質またはポリペプチド、並びにMN突然変異タンパク質を生ずる。
【0130】
本発明のMNタンパク質およびポリペプチドは、本発明による様々の方法、例えば組換え、合成またはそうでなければ生物学的に、すなわちより長いたんぱく質およびポリペプチドを酵素によりおよび/または化学的に開裂することにより調製できる。MNタンパク質を調製する好ましい方法は、組換え法による。MNタンパク質を産生する組換えの特に好ましい方法は、GST-MN、MN 20-19、MN-FcおよびMN-PAタンパク質について以下に記載される。
【0131】
MNタンパク質およびポリペプチドの組換え産生
図1に示されるMNタンパク質またはその断片を産生する代表的な方法は、MN cDNAの全長または適切な断片を以下に示される適切な発現ベクター中に挿入することである。上述のZavada et al.,国際公開第93/18152号には、ベクターpGEX-3X(Pharmacia)中で部分的なcDNAクローンを使用する(上述される)融合タンパク質GEX-3X-MN(ここでGST-MNと称する)の産生が記載される。XL-1Blue細胞からの非グリコシル化GST-MN(MN融合タンパク質MNグルタチオンS-トランスフェラーゼ)。
【0132】
Zavada et al.,国際公開第95/34650号には、発現プラスミドpEt-22b[Novagen Inc.; Madison, WI(USA)]昆虫細胞から発現されたグリコシル化MNタンパク質および大腸菌から発現された非グリコシル化MNタンパク質の組換え産生が記載される。組換えバキュロウイルス発現ベクターを使用して、昆虫細胞を感染させた。グリコシル化MN20−19タンパク質を、バキュロウイルス感染したsf9細胞中で組換えにより産生した[Clontech; Palo Alto, CA(USA)]。MN20−19タンパク質は、配列番号6の推定シグナルペプチド(aa 1-37)がなく(図1)、発現のためにN末端にメチオニン(Met)、および精製のためにC末端に付加されたLeu-Glu-His-His-His-His-His-His[配列番号22]を有する。
【0133】
GST-MN融合タンパク質についてのMNコード配列の一部を変わりの発現系に挿入するために、PCRのために一群のプライマーを作製した。コード配列のそれぞれの端に制限酵素部位、並びにフレーム中に開始および停止コドンを提供するように、プライマーを構成した。制限酵素開裂部位および発現標識を示すプライマーの配列は、以下に示される。
【0134】
プライマー#20:N末端
【0135】
配列番号17および18プライマーを使用して、標準的なPCR技術を使用してGEX-3X-MNベクター中に存在するMNコード配列を増幅した。生じたPCR産物(MN20−19と称される)を、0.5%アガロース/1X TBEゲル上で電気泳動した;1.3kbのバンドを切断した;使用説明書に従いGene Clean IIキット[Bio101; Lajolla, CA(USA)]を使用してDNAを回収した。
【0136】
MNタンパク質パートナーの同定
MNと相互作用するタンパク質の検索を、対応するcDNAおよびプローブとしてMN-Fc融合タンパク質の発現クローニングを使用して開始した。キメラのMN-Fc cDNAを、マウスIgGのFc断片をコードするcDNAによりMNタンパク質の膜貫通アンカーおよび細胞内テールをコードするMN cDNA配列を置換することによってpSG5Cベクター中で構成した。Fc断片cDNAを、IgG2a抗体を産生するマウスハイブリドーマからRT-PCRにより調製した。
【0137】
キメラのMN-Fc cDNAを、COS細胞中における一過性のトランスフェクションにより発現させた。レプトフェクション(leptofection)を使用してCOS細胞をトランスフェクションした。組換えMN-Fcタンパク質をトランスフェクションされた細胞(膜貫通ドメインが欠失していることによる)のTC培地に放出し、プロテインAセファロース上でアフィニティクロマトグラフィーにより精製し、さらなる実験に使用した。
【0138】
偽トランスフェクションされた細胞からのタンパク質抽出物およびpSG5C-MN-Fcによりトランスフェクションされた細胞を、M75 MAb、SwαM-PxおよびECL検出[ECL−リン酸化チロシン残基を検出するための強化化学発光システム; Amersham; Arlington, Hts., IL(USA)]を使用して免疫ブロットにより分析した。pSG5Cベクターから発現されたMN-Fcタンパク質のサイズは、コンピューターにより予想された分子量と一致した。
【0139】
35S標識されたMN-Fcタンパク質を、細胞表面結合アッセイにおいて使用した。多くの哺乳類細胞、例えばHeLa、Raji、COS、QT35、BL3に結合することが分かった。同様の結果は、細菌ペトリ皿上に滴下したMN-Fcタンパク質を使用して細胞接着アッセイにおいて得られた。これらのアッセイにより、KATO IIIヒト胃腺癌細胞型はMN-Fcタンパク質と相互作用する能力を欠失していることが示された。この発見により、MN結合タンパク質をコードするcDNAの発現クローニングおよびスクリーニングのためにKATO III細胞を使用することが可能になった。
【0140】
pBK-CMVベクター中のcDNA発現ライブラリを、密性HeLa細胞から調製し、KATO III細胞のトランスフェクションに使用した。第1ラウンドのスクリーニングのために、KATO III細胞をエレクトロポレーションによりトランスフェクションした。二日間のインキュベーション後、リガンド発現細胞をMN-Fcタンパク質に結合させ、その後ビオチンと化合したプロテインAに結合させ、最後にストレプタビジン被覆された磁気ビーズにより選択した。プラスミドDNAを選択された細胞から抽出し、大腸菌に形質転換した。個々の大腸菌コロニーを選択し、8−10クローンのプールを調製した。プールからのプラスミドDNAを単離し、第2ラウンドのスクリーニングに使用した。
【0141】
第2ラウンドのスクリーニングにおいて、KATO III細胞をDEAEデキストラン法によりトランスフェクションした。MN結合タンパク質についてcDNAを含有するプールを同定するために、トランスフェクションされた細胞へのMN-Fcの結合に基づくELISA法、およびペルオキシド標識されたプロテインAを使用する検出を使用した。MN-Fcを結合する能力によりプールを選択する。
【0142】
第3ラウンドのスクリーニングにおいて、選択されたプールの個々の細菌コロニーから単離されたプラスミドDNAをKATO III細胞にトランスフェクションする。トランスフェクションされた細胞を、MN-Fcと結合させ、前記のようにプロテインAにより検出する。そのような例としてのスクリーニングは、推定MNタンパク質パートナーをコードするcDNAを含有するクローンを同定すると予想される。その後前記クローンを配列決定し、細胞接着アッセイにより発現産物をMNタンパク質に結合すると確かめた。(ファー−ウェスタンブロット、共同沈降等。)次に発現産物へのMabを産生するハイブリドーマを調製し、これによりMNのタンパク質パートナーの生物学的特徴の分析が可能となる。
【0143】
MN特異的抗体の調製
「抗体」という用語は、抗体全体、並びに抗体の生物活性断片、好ましくは抗原結合領域を含有する断片を含むと定義される。さらに抗体の定義には、MNタンパク質および他の組織特異的抗原に特異的な二重特異性抗体が含まれる。
【0144】
Zavada et al.,国際公開第93/18152号および同第95/34650号には、MN特異的抗体を産生する方法、およびM75、MN7、MN9、およびMN12モノクローナル抗体として典型的なMN特異的抗体を調製する工程が詳細に記載されている。好ましいMN抗原エピトープには、以下のものが含まれる:aa 62-67(配列番号10);aa 61-66、aa 79-84、aa 85-90およびaa 91-96(配列番号98);aa 62-65、aa 80-83、aa 86-89およびaa 92-95(配列番号99);aa 62-65、aa 80-84、aa 86-90およびaa 92-96(配列番号100);aa 63-68(配列番号101);aa 62-68(配列番号102);aa 82-87およびaa 88-93(配列番号103);aa 55-60(配列番号11);aa 127-147(配列番号12);aa 36-51(配列番号13);aa 68-91(配列番号14);aa 279-291(配列番号15);およびaa 435-450(配列番号16)。実施例2は、好ましいMN抗原エピトープに関するさらなる記載を提供する。
【0145】
二重特異性抗体。二重特異性抗体を、所望の特性の二つの抗体を化学的に結合することにより産生できる。二重特異性MAbは、好ましくは2つのハイブリドーマの体細胞ハイブリダイゼーションにより作製することができる。標的MNタンパク質および他の抗原に対する二重特異性MAbは、MN特異的MAbを産生するハイブリドーマと他の抗原に特異的なMAbを産生するハイブリドーマとを融合することにより産生できる。例えば、MN特異的MAbを産生するハイブリドーマと抗細胞障害細胞抗体を産生するハイブリドーマとの融合により形成される細胞(クアッドローマ(quadroma))は、親抗体の特異性を有するハイブリッド抗体を産生するであろう。[例えば、Immunol. Rev.(1979); Cold Spring Harbor Symposium Quant. Biol., 41: 793(1997); van Dijk et al., Int. J. Cancer, 43: 344-349(1989)参照。]したがって、MN特異的MAbを産生するハイブリドーマを、例えば抗T3抗体を産生するハイブリドーマと融合して、細胞障害T細胞の標的をMN発現腫瘍細胞にすることができるMN/T3二重特異性抗体を産生する細胞系を生ずることができる。
【0146】
治療および/または想像上の使用について好ましくは、抗体は生物活性抗体断片、好ましくは遺伝子操作された断片、より好ましくはVHおよび/またはVL領域からの遺伝子操作された断片、およびさらに好ましくはその超可変部を含む断片である。しかしながら、ある治療上の使用について、MNタンパク質および細胞障害性細胞を標的とする二重特異性抗体が好ましい。
【0147】
エピトープ
エピトープを含有するペプチドに対するMAbの親和性は、状況、例えばペプチドが短い配列(4-6 aa)であるか、またはそのような短いペプチドの一端または両端により長いaa配列が位置するか、またはエピトープについてのテストにおいてペプチドが溶解状態であるかまたは表面で不朽化されているかに依存する。したがって、MN特異的MAbについてここに記載される代表的なエピトープはMAbを使用する状況で変化するということは当業者は分かるであろう。
【0148】
「MNタンパク質/ポリペプチドのエピトープに対応する」という用語は、例えば天然に発生するタンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列突然変異が抗原性であり、腫瘍性の病気および/または抗腫瘍形成性の効果に対して保護免疫を与えるという実用的な可能性を含むと理解されるであろう。可能性のある配列突然変異には、無制限にアミノ酸置換、伸長、欠失、切断、挿入およびその組合せが含まれる。そのような突然変異は、それを含有するタンパク質またはポリペプチドが免疫性であり、そのようなポリペプチドまたはタンパク質により誘導される抗体が天然発生MNタンパク質およびポリペプチドと十分な程度に交差反応しワクチンとして投与された場合に保護免疫および/または抗腫瘍形成活性を提供する場合、本発明の範囲内であると考えられる。
【0149】
M75 MAbについてのエピトープ
M75エピトープは、MNタンパク質のプロテオグリカンドメイン内の6アミノ酸[aa 61-96(配列番号97)]の6倍直列反復内の少なくとも二つのコピー中に存在すると考えられる。エピトープは状況に依存することを示す例としてのペプチドには、直列反復からの以下のペプチドが含まれてもよい:EEDLPS(配列番号10;aa 62-67);GEEDLP(配列番号98;aa 61-66;aa 79-84;aa 85-90;aa 91-96);EEDL(配列番号99;aa 62-65;aa 80-83;aa 86-89:aa 92-95);EEDLP(配列番号100;aa 62-66;aa 80-84;aa 86-90;aa 92-96)EDLPSE(配列番号101;aa 63-68);EEDLPSE(配列番号102;aa 62-68);およびDLPGEE(配列番号103;aa 82-87;aa 88-93)。
【0150】
図1に示されるMNタンパク質のECドメインについての推定aa配列からの3つの合成ペプチドを調製した。これらの合成ペプチドは、aa 51-72(配列番号104)、aa 61-85(配列番号105)およびaa 75-98(配列番号106)により示される。これらの合成ペプチドはそれぞれ、モチーフEEDLP(配列番号100)を含有し、M75 MAbと反応性であることが示された。
【0151】
他のエピトープ
Mab MN9。モノクローナル抗体MN9(Mab MN9)は、上述のようにMab M75と同じエピトープに反応する。Mab M75と同様に、Mab MN9は、GST-MN融合タンパク質および天然MNタンパク質の両方を同じように認識する。
【0152】
Mab MN9に対応するMabを、GST-MN融合タンパク質のようなMNタンパク質/ポリペプチドに対して、Mab M75およびMN9についてエピトープを示すペプチドに対して調製された一群のmabをスクリーニングすることにより再生可能に調製できる。あるいは、Novatopeシステム[Novagen]または寄託されたMab M75との競合を使用して、Mab M75およびMN9に比較可能なmabを選択できる。
【0153】
Mab MN12。モノクローナル抗体MN12(Mab MN12)を、ATCC HB 11647の下で寄託されたマウスリンパ球性ハイブリドーマMN 12.2.2により産生する。Mab MN12に対応する抗体もまた、Mab MN9についての上述される方法と同様に、MNタンパク質/ポリペプチドに対して、Mab MN12についてエピトープを示すペプチドに対して調製された一群の抗体をスクリーニングすることにより作製できる。該ペプチドは、図1のaa 55−aa 60である。[配列番号1]。Novatopeシステムはまた、前記エピトープに特異的な抗体を発見するために使用できる。
【0154】
Mab MN7。モノクローナル抗体MN7(Mab MN7)を、上述のように非グリコシル化GST-MNに対して調製されたmabから選択した。これは、図1のMNタンパク質のaa 127からaa 147までのアミノ酸配列[配列番号12]により示されるエピトープを認識する。Mab MN9およびMN12について上述される方法と同様に、Mab MN7に対応するmabは、配列番号12を有するペプチドと反応性のMNタンパク質/ポリペプチドに対して調製されたmabを選択することにより、または規定される代わりの方法により調製できる。
【0155】
MN特異的細胞内発現抗体−細胞表面へのMNタンパク質の輸送を遮断するためのMN特異的抗体の細胞内発現による標的腫瘍の殺傷
抗原をコードする遺伝子を操作して、抗原結合ドメインを細胞内で発現させることができる。小胞体の管腔を標的とするそのような「細胞内発現抗体」は、細胞表面への形質膜タンパク質の輸送を抑制するための簡単で効果的な機構を提供する。[Marasco, W.A., “Review-Intrabodies: turning the humoral immune system outside in or intracellular immunization,” Gene Therapy, 4: 11-15(1997); Chen et al., “Intracellular antibodies as a new class of therapy,” Hum. Gene Ther., 5(5): 595-601(1994); Mhashilkar et al., EMBO J., 14: 1542-1551(1995); Mhashilkar et al., J. Virol., 71: 6486-6494(1997); Marasco(Ed.), Intrabodies: Basic Research and Clinical Gene Therapy Applications, (Springer Life Sciences 1998; ISBN 3-540-64151-3](細胞内発現抗体を使用した世界中の実験室からの前臨床試験を概要する); Zanetti and Capra(Eds.), “Intrabodies: From Antibody Genes to Intracellular Communication,” The Antibodies: Volume 4, [Harwood Academic Publishers; ISBN 90-5702-559-0(Dec. 1997); Jones and Marasco, Advanced Drug Delivery Reviews, 31(1-2): 153-170(1998); Pumphrey and Marasco, Biodrugs, 9(3): 179-185(1988); Dachs et al., Oncology Res., 9(6-7); 313-325(1997); Rondon and Mar
asco, Ann. Rev. Microbiol., 51: 257-283(1997)]; Marasco, W.A., Immunotechnology, 1(1): 1-19(1995); and Richardson and Marasco, Trends in Biotechnology, 13(8): 306-310(1995).]
MN特異的抗体は、MNタンパク質の成熟および細胞表面への輸送を妨げ、したがってMNタンパク質が腫瘍形成過程において作用するのを妨げる。MNのEC、TMまたはICドメインに方向付けられた抗体は、この点で有用である。MNタンパク質は、ECドメインからICテールへシグナルを輸送し、細胞内の他の細胞内タンパク質と結合させることにより、情報伝達を媒介すると考えられる。MN特異的細胞内発現抗体は、該結合を破壊し、MNの作用を混乱させる。
【0156】
MNタンパク質の機能を不活性化することにより、腫瘍細胞を形質転換されていない表現型に転換することができる。[Marasco et al.(1997), supra.]ここに示されるように、頸部癌細胞中のMN cDNAのアンチセンス発現により、MNタンパク質が無くなることによりトランスフェクションされた細胞の成長が抑制されることが示された。同様に、細胞表面へのMNタンパク質輸送の抑制は同様の効果を有することが予想される。M75 MAbの様々の領域のクローニングおよび細胞内発現を研究して、この予想を確かめるべきである。
【0157】
好ましくは、細胞内で産生されるMN特異的抗体は、一本鎖抗体、特に一本鎖の可変領域断片またはsFvであり、重鎖および軽鎖可変領域は、単一のポリペプチドとして合成され、柔軟なリンカーペプチド、好ましくは(Gly4-Ser)3[配列番号116]により分離される。
【0158】
MN特異的な細胞内で産生される抗体を治療において使用して、MNタンパク質を異常に発現する新生物発生前/腫瘍性細胞を、発現コントロール配列に機能可能に結合したMN特異的抗体可変領域断片をコードする核酸を含むベクターでトランスフェクションすることにより、新生物発生前/腫瘍性の病気を治療することができる。好ましくは前記発現コントロール配列には、MN遺伝子プロモーターが含まれる。
【0159】
MN特異的抗体またはMN発現腫瘍細胞を標的にするペプチドを使用する抗体媒介遺伝子導入
DNAを充填しその負電荷を中和するポリケーション(polycation)である、ポリリシンに結合したMN特異的抗体またはペプチドは、生物学的に活性のあるDNAをMN発現腫瘍細胞中に有効に供給すると予想される。MNプロモーターのコントロール下で充填DNAにHSVtkが含まれる場合、このシステムはMN発現腫瘍細胞中のみにおける認識および発現について二重の特異性を有するであろう。充填DNAはまた、サイトカインをコードしてCTL活性を誘発できる、または他の生物学的活性分子をコードできる。M75 MAb(または、例えば一本鎖抗体として、またはその可変領域として)は、そのようなMN特異的抗体の例である。
【0160】
以下に記載する実施例は例示のためのものであり、如何なる意味においても本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0161】
実施例1−MNタンパク質による哺乳類細胞の一過性形質転換
本実施例1においては、(1)発現ベクター内に挿入されたMN - cDNA を用いてヒトまたはマウスの細胞にトランスフェクトすることによって生じる生物学的変化を特に腫瘍発生性におけるMN タンパク質の関与という点から調査し;(2)MN タンパク質が炭酸脱水酵素(炭酸デヒドラターゼ)活性を発揮するか否かを確認し、また、そのような活性は細胞の形態的形質転換と関係があるのか否かを確認し;さらに(3)MN タンパク質が細胞接着分子(CAM)であるか否かを試験した。
【0162】
概要
方法:MN - cDNA を3種類の発現ベクターに挿入し、これをヒトまたはマウスの細胞へのトランスフェクトに用いた。MNタンパク質は、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ(放射免疫検定法)またはイムノペルオキシダーゼ染色によって検出し、これら全ての試験においてMN 特異的モノクローナル抗体であるM75(MAb M75)を用いた。炭酸脱水酵素活性は、CO 2 雰囲気下、カルボネート(炭酸)緩衝液の酸性化速度によって測定した。
【0163】
結果:(1)MN - cDNA を用いてトランスフェクトした細胞(ヒトCGL - 1細胞およびマウス NIH3T3 細胞)は形態的形質転換を示したが、4〜5週間後には通常の表現型に戻っていた。(2)この復帰は、MN 挿入体の消失、沈黙(サイレント化)または突然変異によるものではなかった。(3)MN タンパク質は炭酸脱水酵素活性を有しており、これはアセタゾールアミドによって阻害することができるが、炭酸脱水酵素活性の阻害は形質転換に影響を与えなかった。(4)MNタンパク質は細胞と細胞との接触に関与する接着タンパク質である。
【0164】
背景
本実施例は、レトロウイルス由来の発現ベクターに挿入したMN - cDNA を用いた哺乳類細胞の形質転換に関する。そのようなベクターは、細胞性DNA への効率的かつ安定的な組み込み、ならびにMN タンパク質の持続的発現に適している。このような構築体を用いてトランスフェクトした細胞は形態的形質転換を示したが、一定期間が経過した後に通常の表現型に戻ってしまった。
【0165】
アセタゾールアミドを含むスルホンアミド類は、既知の炭酸脱水酵素に対する非常に強力な阻害剤である(マレン(Maren)およびエリソン(Ellison)、Mol. Pharmacol., 3: 503 - 508 (1967))。アセタゾールアミドに関して、MN - 炭酸脱水酵素も阻害するか否か、もし阻害するのであれば、酵素が阻害されることによって細胞の形質転換に影響を与えるか否かを調べた。
【0166】
MN タンパク質が細胞間の直接相互作用に関与していると考えられていることについてはいくつかの理由が挙げられる。A)これまでの知見から、MNタンパク質は、エンベロープを有するウイルスの表面糖タンパク質(これが細胞表面に存在するレセプターへのウイルスの接着を媒介する)と機能的に類似していることが示されており、MN タンパク質は、水疱性口内炎ウイルスの多様な表現型のビリオンの形成に関与していた。B)高密度充填単層の状態で増殖中のHeLa 細胞においてMN タンパク質の発現が誘導されることから、細胞間の直接相互作用に関与していることが示唆された。C)最後に、MN タンパク質とレセプターであるチロシンホスファターゼβとは構造的に類似しており、後者はさらにプロテオグリカンおよび炭酸脱水酵素ドメインを有し、これらのドメインは、発達中の神経系の細胞間の直接接触を媒介する(ペレス(Peles)ら、Cell , 82: 251 - 260 (1995))。故に、MN タンパク質が細胞表面のレセプターに結合するか否かについて調べたところ、結合が生じたことから、明らかに陽性であった。
【0167】
材料および方法
細胞系:本実施例において使用した細胞は次の通りである:CGL - 1およびCGL - 3 (それぞれ、非腫瘍発生性および腫瘍発生性のHeLa x 繊維芽細胞ハイブリッド)(スタンブリッジ(Stanbridge)ら、Somat. Cell Genet., 7: 699 - 712 (1981))、マウス細胞系NIH3T3 、HeLa 細胞ならびにサルのVero 細胞。NIH3T3細胞は非常に低密度で播種し、1個の細胞由来のコロニーを得た。最も正常な状態を呈していたコロニーであったサブクローン2を取り出し、本実施例に報告している実験に使用した。
【0168】
発現ベクター
MN - cDNA の全長はpBluescript のサブクローンから得た(パストレック(Pastorek)ら、Oncogene, 9: 2877 - 2888 (1994))。後で行う遺伝子の発現を減弱すると考えられた5’および3’の非コード配列を除去するため、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。5’プライマーであるTAGACAGATCTACGATGGCTCCCCTGTGCCCCAG(配列番号88)には翻訳開始部位およびBg1 II クローニング部位を含んでおり、3’プライマーである ATTCCTCTAGACAGTTACCGGCTCCCCCTCAGAT (配列番号89)には停止コドンおよびXba I クローニング部位を含んでいる。反応においては、MN - cDNA の全長を鋳型とし、Pfu DNA Polymerase (ストラタジーン(Stratagene)社、米国カリフォルニア州ラホーヤ)を用いた。
【0169】
PCR産物をシークエンスし、鋳型と一致することを確認した。突然変異は起こっていなかった。MN コード配列を1個有するPCR産物を3種類のベクターに挿入した。1.pMAMneo (クロンテック(Clontech)社、米国カリフォルニア州パロアルト)−このプラスミドはMMTV長末端反復配列(LTR)プロモーターによって駆動されるデキサメタゾン誘導性の発現を行い、抗生物質であるジェネティシン(G418)含有培地中における形質転換体の選択に用いるネオマイシン耐性遺伝子を含む。2.レトロウイルス由来の発現ベクターpGD(ダレー(Daley)ら、Science, 247: 824 - 829 (1990);ニューヨーク・ケンブリッジのデイヴィッド・バルティモア(David Baltimore)博士から供与)−このベクターは、MLV−LTRプロモーターおよび抗生物質G418による選択用のネオマイシン耐性遺伝子を含む。3.ワクシニアウイルス由来の発現ベクターpSC11(チャクラバルティ(Chakrabarti)ら、Mol. Cell Biol., 5: 3403 - 3409 (1985))。サンブルック(Sambrook)ら(編)「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning : A Laboratory Manual)」第2版(コールドスプリングハーバーラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)社、(1989年))の記載に従い、リン酸カルシウム沈澱法によってトランスフェクトを行った。
【0170】
ワクシニアウイルス株Praha クローン13を親ウイルスとして用いた(クティノヴァ(Kutinova)ら、Vaccine, 13: 487 - 493 (1995))。ワクシニアウイルス組換え体は一般的な方法(パークス(Perkus)ら、Virology, 152 : 285 - 297 (1986))に従って調製した。組換えウイルスを選択し、5’−ブロモデオキシウリジン(100μg/ml)の存在下、チミジンキナーゼを含まないラットのRAT2 細胞中でプラーク精製を2回行った(トップ(Topp)ら、Virology, 113: 408 - 411(1981))。5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X - Gal)(200μg/ml)を含む寒天を重ねることにより、青色のプラークを確認した。
【0171】
CA アッセイ
炭酸脱水酵素活性はマイクロ法(ブリオン(Brion)ら、Anal. Biochem., 175: 289 - 297(1988))によって測定した。その原理は、カルボネート(炭酸)緩衝液の酸性化に要する時間を測定することによってCO 2 +H 2 O →H 2 CO 3 の反応速度を求めるものであり、このときpH指示薬としてフェノールレッドを用いる。この反応は酵素不在下においても進行し、t 0 =対照時間とする(60秒に設定した)。炭酸脱水酵素は酸性化に要する時間(t)を短縮し、1ユニットの酵素活性とは、反応時間が対照時間の1/2になる(t/t 0 =1/2)活性をさす。
【0172】
本実験においては、ワクチニア−MN 構築体を感染させたVero 細胞が細胞変性効果(CPE)を発現した後のRIPA緩衝液(1%のトライトン(Triton)X - 100 、0.1%のデオキシコレート、1mM のフッ化フェニルメチルスルホニル、200トリプシン阻害ユニット/mlのトラシロール(Trasylol)(PBS溶液、pH7.2)による抽出物から得たMab M75 を用いてMN タンパク質の免疫沈降を行い、「からの」ワクチニアを用いて同様な操作を行って得た抽出物を対照として用いた。次に、MN+抗体コンプレックスをプロテインA−スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)細胞に吸着させ(ケスラー(Kessler), S. W.ら、J. Immunol., 115: 1617 - 1624(1975))、PBSを用いて2回、1mM のカルボネート緩衝液(pH8.0)を用いて1回洗浄した。同じ緩衝液中に沈殿物を再懸濁し、反応混合物に加えた。アセタゾールアミド(シグマ(Sigma)社)を用いて炭酸脱水酵素阻害を調べた(マーレン(Maren)およびエリソン(Ellison)、同上)。免疫沈降に使用した感染細胞抽出物中の総タンパク質濃度はローリー(Lowry)法によって測定し(ローリー(Lowry)ら、J. Biol. Cherm., 193: 265 - 275(1951))、MN タンパク質濃度はザヴァダ(Zavada)らの記載(Int. J. Cancer 54: 268 - 274(1993))に従い、競合ラジオイムノアッセイによって測定した。
【0173】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロットならびに125 I でラベルしたM75およびオートラジオグラフィーを用いたブロットの検出は従来法(パストレコヴァ(Pastrekova)ら、Virology, 187: 620 - 626(1992);ザヴァダ(Zavada)ら、同上)に従って行った。
【0174】
接着アッセイ
接着アッセイ(ホフマン(Hoffman), S.、「細胞接着アッセイ(Assays of cell adhesion)」(「細胞間相互作用(Cell - cell Interaction)」(スティーヴンソン(Stevenson)ら編)より、PP. 1 - 30(オックスフォード大学出版部(Oxford University Press)内IRLプレス(IRL Press)、オックスフォード、ニューヨーク、東京、1992年)については、MN タンパク質(アフィニティー精製したpGEX - 3X MN)(ザヴァダ(Zavada)ら、同上)の25μlのアリコートまたは同量の対照タンパク質を直径5cmの細菌用ペトリ皿に入れ、室温で2時間結合させた。この操作により、直径4〜5mmのタンパク質に覆われた円形の領域が得られた。50 mM のカルボネート緩衝液(pH9.2)を用いてMN タンパク質を10μg/mlに希釈した。接着した対照タンパク質パッチについても同様に調製した。対照タンパク質としては、コラーゲンのI 型およびIV 型、フィブロネクチン、ラミニンならびにゼラチン(シグマ(Sigma)社製品)が含まれており、メーカーの指示に従って希釈および吸着を行った。FCSおよびBSAも用いた。液体を吸引除去した後、ペトリ皿をPBSで2回洗浄し、5%FCS添加MEDM を満たして1時間放置した。5%FCS添加MEDM 5ml中に5×105 個の細胞を含むように細胞をペトリ皿に播種し、37℃で一晩インキュベートした。プレートをPBSで洗浄し、接着した細胞をホルマリンで固定し、さらにメタノールで後固定してギムザ(Giemsa)染色を行った。
【0175】
結果
1.MN - cDNA 感染CGL1 細胞の形質転換および復帰
MN タンパク質の発現はHeLa x 繊維芽細胞ハイブリッドの腫瘍発生性と相関していることがわかっている(ザヴァダ(Zavada)ら、同上)ため、はじめに、非腫瘍発生性ハイブリッドであるCGL1細胞について調べた。pMAM.MN構築体を用いてトランスフェクトし、ジェネティシン(Geneticin)を用いて選択を行ったCGL1 細胞は、形質転換の程度に応じてコロニーを形成したが、正常と思われるものも存在した。正常CGL1細胞には接触阻害があり、平行方向に増殖するが、形質転換細胞では非常に高密度のコロニーを形成し、接触阻害の消失を示していた。そのようなコロニーは本来のCGL1細胞よりも増殖が遅かった。
【0176】
サブクローニング後、形質転換コロニーから単離した細胞を復帰細胞と隔離した。復帰は漸次的、段階的過程を経て進行し、復帰の程度が異なるコロニーが存在していた。2回継代の後、全ての細胞集団が形態的に正常CGL1細胞と区別できるようになった。これは、復帰細胞の存在および形質転換細胞よりも増殖が早いという復帰体の選択上の特徴によるものであった。繰り返し実験を行ったにもかかわらず、安定した形質転換細胞クローンはひとつも得られなかった。「からの」pMAM 対照プラスミドを用いてトランスフェクトしたCGL1細胞においては形質転換コロニーは全く見出されなかった。5μg/mlのデキサメタゾンを添加した培地中で7日間CGL1細胞+pMAM.MN 復帰体を増殖させることにより、MN タンパク質の産生は増加したが、細胞の形態は形質転換型に戻らなかった。
【0177】
2.復帰体からの形質転換型MN の救出
MN 形質転換細胞が正常表現型に復帰することに関しては少なくとも5つの原因があると考えられる:A)MN 挿入体の消失;B)MN 挿入体のサイレント化(例えば、メチル化など);C)MN 挿入体の突然変異;D)MN タンパク質の形質転換活性を中和する物質をコードしているサプレッサー遺伝子の活性化;E)MN 結合タンパク質の消失。これらの可能性の中から原因を追及するため、以下の実験を計画した。
【0178】
マウス白血病ウイルス(MLV)由来のベクターであるpGDにMN - cDNA を挿入した。これを用い、MN 遺伝子およびウイルス構造タンパク質をコードしている遺伝子の代わりに選択的マーカーであるネオマイシン耐性遺伝子を含む欠損ウイルスを作出した。この構築体を用いてマウスNIH3T3 細胞にトランスフェクトした。ジェネティシン(Geneticin)添加培地中において、細胞は、形質転換が強度に生じたものからほぼ正常と思われるものまで幅広い表現型のコロニーを形成した。形質転換コロニーの全ておよび正常コロニーの50%においてMN タンパク質を発現していた。正常なNIH3T3 細胞とは対照的に、形質転換体は軟寒天中においてもコロニーを形成することができ、このことは、細胞形質転換の特徴である足場依存性の消失を反映するものである。継代を重ねるにつれて形質転換型コロニーから単離した細胞は正常な形態に戻り、同時に軟寒天中におけるコロニー形成能を消失したが、MN タンパク質は発現していた。復帰体においてMN タンパク質が持続的に存在することから、上述の原因A)およびB)、すなわち、MN 遺伝子の消失またはサイレント化が復帰の原因であるとする考えは除外された。
【0179】
他の3つの原因の中から原因をつきとめるため、生きた複製コンピテントMLV細胞に復帰体をスーパーインフェクト(superinfect)した。このウイルスは、如何なる形態的変化をも発現することなくNIH3T3 細胞中で増殖し、pGD.MN 構築体に対しては「ヘルパー」として作用する。MLV感染からの復帰体由来のウイルス子孫は、人工的なウイルスコンプレックス[ pGD.MN + MLV ] と表される。この構築体には2種類のビリオンが存在する:ひとつは標準型のMLV粒子であり、もうひとつは「ヘルパー」ウイルスによって提供された構造タンパク質に包囲されたpGD.MN ゲノムを有するビリオンである。このウイルスコンプレックスは新鮮NIH3T3 細胞に対して感染性であり、該細胞に対して再び形態的形質転換および軟寒天中でのコロニー形成能を誘導した。
【0180】
pGD.MN をトランスフェクトしたNIH3T3 細胞とは対照的に、[ pGD.MN + MLV ] コンプレックスを感染させた細胞のコロニーは全て、ジェネティシン(Geneticin)存在下で増殖し、一様に形質転換しており、MN タンパク質を含有していた。この感染−形質転換−復帰のサイクルを3回繰り返して行ったが、同様な結果が得られた。このことから、原因C)、すなわちMN - cDNA の突然変異が復帰の原因であるとする考えは除外された。
【0181】
正常NIH3T3 細胞は、接触阻害により、一様な細胞からなる単層を形成し、これはMab M75 およびイムノペルオキシダーゼによっては染色されない。[ pGD.MN + MLV ] コンプレックスを感染させた細胞は明らかに形質転換を起こしていた:該細胞は無秩序なパターンで増殖し、接触阻害が消失していることを示した。アポトーシスの徴候を示した細胞もあった。2回継代後には、復帰体の高頻度出現およびそれらの選択的優位性(増殖の早さおよび平板培養の効率の良さ)の結果として、細胞は全体的に本来の表現型に戻っていた。実際には、接触阻害の強度が強いため、元のNIH3T3 細胞に比べて復帰体の飽和密度が若干低いように見えた。
【0182】
対照NIH3T3 細胞はMN タンパク質を全く含んでいなかった(ウェスタンブロットより)が、形質転換細胞および復帰体はどちらも同じ量、同じ比率でMN タンパク質の54 kDa および58 kDa のバンドを含んでいた。非還元ゲル中においては、MN タンパク質は153kDaのオリゴマーの形で存在していた。競合RIA による結果同様、形質転換細胞および復帰体においては、総タンパク質1mgあたり約40 ng のMN タンパク質が検出された。
【0183】
3.炭酸脱水酵素活性およびその阻害
炭酸脱水酵素ドメインはMN タンパク質のかなりの部分を占めていることから(図8参照)、この部分が本当に酵素活性を有するのか否かを確認するための試験を行った。ワクチニアMN 構築体を感染させたVero 細胞をMN タンパク質源として用いたが、この細胞は本実験に使用した他の細胞よりも多量のMN タンパク質を含んでいた。細胞をRIPA 緩衝液で抽出し、MN タンパク質を濃縮し、MAb M75 およびSAC を用いて沈降させることにより部分精製した。免疫沈降物についてCA 活性測定を行った。沈降物78μl中に1ユニットの酵素が含まれていた。抽出物から総タンパク質濃度およびMN タンパク質濃度を求めたところ、酵素1ユニットはMN タンパク質145 ng に相当し、あるいは総タンパク質として0.83mgに相当することがわかった。対照ウイルスを感染させたVero 細胞由来の免疫沈降物には酵素活性がなかった。MN 炭酸脱水酵素の活性はアセタゾールアミドによって阻害され、薬剤濃度が1.53×10-8 Mの時に酵素活性が50%低下した。
【0184】
予備実験から、HeLa 細胞またはNIH3T3 細胞の過密培養においては、10 -5 〜10 -3 Mの濃度のアセタゾールアミドに対して3日間寛容性を示し、この間、如何なる毒性の徴候も如何なる細胞形態への影響も示さなかった。希薄培養においては10 -5Mのアセタゾールアミドは細胞増殖を阻害しなかったが、10 -4 Mではある程度の阻害を起こした。従って、[ pGD.MN + MLV ] コンプレックスを用いて新規に形質転換を行ったNIH3T3 細胞に10 -5Mのアセタゾールアミドを添加した。4日間インキュベートした後、コロニーを固定し、染色した。アセタゾールアミドの存在下で増殖した細胞と不在下で増殖した細胞との間に差異は見られず、いずれも、正しく形質転換したNIH3T3 細胞を判別することができなかった。従って、炭酸脱水酵素の酵素活性はMN タンパク質の形質転換活性と関連しているわけではない。
【0185】
4.細胞接着アッセイ
MN タンパク質が細胞接着分子(CAM)であるか否かを確認するため、プラスチック製の細菌用ペトリ皿(組織培養用の処理を行っていないもの)を用いて接着アッセイを行った。皿を結合タンパク質で被覆(コート)しない限りは、細胞がそのような皿の表面に接着することはない。NIH3T3 細胞は吸着MNタンパク質のパッチに接着し、広がり、増殖した。MN タンパク質でコートした領域外に接着した細胞はごくわずかであった。
【0186】
変形を加えたその他の実験から、吸着コラーゲンI 型およびIV 型、フィブロネクチンならびにラミニンのパッチ上においてもNIH3T3 細胞は接着し、広がった。吸着ゼラチン、FCSおよびBSA のパッチにはNIH3T3 細胞は接着しなかった。
【0187】
CGL1、HeLa およびVero 細胞もMN 細胞に接着したが、3種類の白血病細胞系は接着を示さなかった。MN タンパク質の発現が盛んなCGL3細胞のMN タンパク質パッチへの接着はCGL1よりも弱かった。培地中に10 -4 Mのアセタゾールアミドが存在していても細胞接着への影響はなかった。
【0188】
接着の特異性を確認するため、MN タンパク質をペトリ皿に塗布する前に、MAb M75 (MN に対するモノクローナル抗体)またはMAb M67(無関係な抗原に対するモノクローナル抗体)(パストレコヴァ(Pastrekova)ら、同上)を結合させたSAC にMN タンパク質を吸着させた。SAC - M75 コンプレックスを用いた吸着においては細胞結合活性は完全に阻害されたが、SAC - M67 コンプレックスを用いた吸着においては全く影響がなかった。
【0189】
細胞接着に関する追加結果
TMおよびIC 配列が欠失したMN - cDNA を有するVV を用いて感染させた5ET1 細胞(HeLa x 繊維芽細胞ハイブリッドであり、MN タンパク質を大量に発現するCGL3細胞のアナログ)またはVero 細胞から、TMおよびIC セグメントが消失した短MN が培地に放出された。放出されたMN タンパク質を培地から精製し、細胞接着アッセイを行った。吸着完全型MN タンパク質のパッチ上においてのみ細胞は接着し、広がり、増殖し、TM およびIC ドメインを欠くMN タンパク質のパッチ上においてはそのような作用は起こらなかった。その他のいくつかの接着分子に関しても同様な結果が得られている。多様な細胞(NIH3T3 , CGL1 , CGL3 , HeLa , XC など)がMN タンパク質パッチに接着したことから、MN レセプターは脊椎動物細胞の表面に共通して存在していることが示唆された。
【0190】
さらに、ニトロセルロース膜上に作成した細胞外マトリックスタンパク質または対照タンパク質のドットを用いて試験を行った。MN タンパク質溶液を用いてドットブロットを処理した。MAb M75 を用いて結合MN タンパク質を検出した。MN タンパク質はコラーゲンI 型およびIV型のドットには吸着したが、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチンまたはBSA には吸着しなかった。
【0191】
治療への応用の展望 :腫瘍タンパク質またはそれらと相互作用する分子を標的として用いる癌治療には、多数の新規な原理が含まれている(メンデルソーン(Mendelsohn)およびリップマン(Lippman)、「癌の分子細胞生物学に関する原理:増殖因子(Principles of Molecular cell biology of cancer)」(デヴィータ(De Vita)ら編、「癌:腫瘍学の原理および実際(Cancer: principles and practice of oncology)」、pp. 114 - 133 、第4版、フィラデルフィア州、リピノコット(Lippinocott)社(1993));デヴィータ(De Vita)ら編、「癌の生物学的治療(Biologic therapy of cancer)」第2版、フィラデルフィア州、リピノコット(Lippinocott)社(1995))。MN タンパク質およびそのリガンド(またはレセプター)のうちの少なくともいくつかについては、そのような目的に特に適していると考えられる。
【0192】
実施例2−MN の結合部位の確認
MN タンパク質は腫瘍関連性の細胞接着分子(CAM)である。結合部位を確認するため、MN タンパク質のN 末端ドメインに広がる一連のオーバーラップオリゴペプチドを合成した。N 末端ドメインはプロテオグリカンのそれと相同性であり、6個のアミノ酸からなる縦列反復配列を含む。
【0193】
基本的には実施例1に記載している細胞接着アッセイ法に従い、一連のオリゴペプチドについて試験を行った。合成オリゴペプチドを疎水性プラスチックの表面に固定し、細胞の接着、広がりおよび増殖を媒介するか否かを調べた。さらに、疎水性プラスチックの表面にコートした精製MN タンパク質への細胞(NIH3T3 , HaLa およびCGL1)の接着をオリゴペプチドまたは抗体が阻害するか否かも調べた。MN タンパク質がCA ドメインを保持しているため、スルホンアミドに共有結合したアガロースを用いてMN タンパク質をアフィニティー精製した。
【0194】
生物学的に活性な数種のオリゴペプチドが見出された:(i)プラスチック上に固定した場合、細胞(NIH3T3 , HaLa およびCGL1)の接着を媒介したもの;(ii)培地に添加した場合、細胞への接着について固定したMN タンパク質と競合したもの;(iii)培地中においてはTCプラスチックへの細胞の接着を阻害しないが、細胞同士の接着および細胞間接触体の形成を阻止したもの;(iv)固定したMN タンパク質および活性ペプチドをMAb M75 を用いて処理することにより、細胞への親和性を消失したもの;(v)MN タンパク質の結合部位は、MAb M75 のエピトープと非常に関連があるかまたは同一であり、少なくとも2個のコピーは、MN タンパク質のプロテオグリカン様ドメイン内に存在し、6個のアミノ酸からなる縦列反復配列の6倍の範囲(アミノ酸番号61〜96 :配列番号97)に位置している。
【0195】
従って、外部に発現されたMN タンパク質は、正常な細胞間接触に介在することによって腫瘍形成に関与している可能性が高いと結論づけた。MN タンパク質の結合部位は、治療剤を設計するための有力な標的を表している。
【0196】
材料および方法
MN / CA IX のアフィニティクロマトグラフィー:その他のCAの精製 に関する記載(ファルクブリング(Falkbring)ら、FEBS Letters, 24: 229(1972))に従い、スルホンアミド−アガロースを用いた1回の吸着−溶出サイクルによってMN / CA IX を精製した。発明者らは、p−アミノエチルベンゼンスルホンアミド−アガロース(シグマ(Sigma)社)のカラムを使用した。MN / CA IX を吸着させたカラムをPBS(8.0 g/LのNaCl , 0.2 g/LのKCl , 0.2 g/LのKH 2 PO 4 , 1.15 g/LのNa 2 H PO 4 , pH 7.2)で十分に洗浄し、0.1 mMのアセタゾールアミド(シグマ(Sigma)社)を用いて溶出した。精製の全段階は0〜5℃、pH7.2、生理的塩濃度において行った。ザヴァダ(Zavada)らが記載しているように(Int. J. Oncol., 10: 857(1997))、MN / CA IXの完全なコード領域を挿入体として有するワクチニアウイルスを感染させたVero 細胞から、1%のトライトン(Triton)X-100を含むPBSを用いて完全型MN / CA IX +を抽出した。クロマトグラフィーを行う前に、抽出物をPBSで1:6に希釈し、1500×gで1時間遠心分離した。PCR用の3’下流プライマー(5’CGTCTAGAAGGAATTCAGCTAGACTGGCTCAGCA3’(配列番号117))以外は相同な構築体から切断型MN / CA IX ΔTMΔIC を産生した。MN / CA IX Δは培地に放出され、上述のように遠心分離を行った後にアフィニティー精製を行った。精製の全段階をドットブロットでモニターした。
【0197】
細胞および培地: 次の細胞系を使用した:HeLa 、CGL1=非腫瘍発生性のHeLa x 繊維芽細胞ハイブリッド、CGL3=該ハイブリッド由来の腫瘍発生性分離株、NIH3T3 細胞=マウス繊維芽細胞。これらの細胞の起源および増殖培地についてはザヴァダ(Zavada)ら、Int. J. Cancer, 54: 268(1993) およびザヴァダ(Zavada)ら、Int. J. Oncol., 10: 857(1997) に記載されている。発明者らはさらに、結腸直腸腫瘍由来の細胞系であるHT29(ATCC No. HBT - 38)も使用した。
【0198】
細胞接着アッセイ:アッセイの条件は基本的には実施例1の記載に従った。概説すると、50mM のモノ/ビカルボネート緩衝液(pH9.2)を用いて1μg/mlに調整した精製MN / CA IX の30μlを取り、直径5cmの細菌用ペトリ皿に入れて1.5時間吸着させた。つぎに、液体を吸引除去し、PBSを用いてペトリ皿を3回洗浄し、培養培地に50%のFCSを加えて30分間ブロックした。試験には2種類の変形を取り入れた。一つめは、ペトリ皿の底部全体を50%のFCSでブロックし、5mlの細胞懸濁液(105 個/ml)を播種した。一晩インキュベートした後、培養物をPBSで洗浄し、固定、染色した。もうひとつにおいては、MN / CA IX が吸着した部分のみをブロックし、MN / CA IX 吸着部の上に増殖培地(オリゴペプチドを添加したもの、対照においては非添加)に懸濁した細胞懸濁液30μlを加えた。インキュベーション後、洗浄および固定し、50mM のトリス(Tris)緩衝液(pH8.5)を用いて調整した0.5%のトリパンブルー(Trypan blue)を使用して1時間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。接着した細胞が染色された部分を10%の酢酸で抽出し、この抽出物を96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダーを用い、波長630 nm における吸光度を測定した。
【0199】
ELISA :カルボネート緩衝液(pH9.2)を用いて10 ng/mlに調整した精製GST - MN (ザヴァダ(Zavada)ら、(1993)同上)をマキシソーブ・ストリップ(Maxisorb strips)(ヌンク(NUNC)社)に3時間吸着させた。洗浄、0.05%のツイーン20(Tween 20)PBS溶液を用いてブロック(1時間)し、抗体+抗原混合物を1ウェルあたり50μlずつ加えた。MAb M75 腹水の最終希釈は10-6 とした。M75 に対するペプチドの親和性に応じてペプチド濃度を変え、50%エンドポイントが確認できるようにした。これらの混合物を1.5時間吸着させ、ツイーン20(Tween 20)PBS溶液を用いて洗浄した。ペルオキシダーゼをコンジュゲートした抗マウスIgG(SwAM - Px (セヴァック(SEVAC)社、プラハ)を1:1000に希釈して結合抗体を検出した。発色反応においては、0.1Mのクエン酸緩衝液(pH5.0)で1mg / mlに調整したOPD(o−フェニレンジアミン二塩酸塩(シグマ(Sigma)社)を用いた。この中に最終濃度が0.03%になるようにH 2 O 2 を加えた。この反応系は、M75に競合する抗原および固定したGST - MN のエピトープに結合するペプチドについてアッセイすることができるように調整されている。
【0200】
ペプチド:本実験に使用したペプチドは、Boc / Bzl 方式を用い、固相法(メリフィールド(Merrifield)ら、「ペプチド:合成、構造および応用(Peptides: Synthesis, Structure and Applications)」pp. 93 - 169 、(グッテ(Gutte), B. 編)(アカデミック・プレス(Academic Press)社、サンディエゴ)(1995))によって調製した。ペプチド酸はPAM−樹脂を用い、ペプチドアミドはMeBHA−樹脂を用いて調製した。脱保護および樹脂からの分離は液体フッ化水素を用いて行った。C18RP HPLCカラムを用いてペプチドを精製し、アミノ酸分析およびFAB MS スペクトル測定によって特性判断を行った。
【0201】
ウェスタンブロット:PAGE ゲルから得られたMN / CA IX 抗原をPVDF膜(イモビロンP(Immobilon P)(ミリポア(Millipore)社))にうつし、続いて、M75、さらにSwAM - Px (上記参照)ならびにジアミノベンジジン(シグマ(Sigma)社)およびH 2 O 2 を用いて発色させた。ドットブロット用にはニトロセルロース膜を使用した。
【0202】
ファージディスプレイ:メーカーの指示に従い、Ph. D. - 7 ファージディスプレイペプチドライブラリキット(Ph. D. - 7 Phage Display Peptide Library Kit)(ニューイングランドバイオラブズ(New England Biolabs)社)をスクリーニングに使用した。ペプチド配列番号106 で96ウェルプレートをコートした。標的をコートしたプレートを用い、2×1011 個のファージを1時間インキュベートすることにより選別を行った。TBST(50 mM のトリス(Tris)−塩酸(pH7.5)、150 mM のNaCl 、0.1%のツイーン20(Tween 20))を用いて非結合ファージを洗い流し、M75抗体(2μg/100μlのTBS/ウェル)を用いて特異的に結合しているファージを溶出させた。溶出したファージを増幅させ、さらに追加の結合−増幅サイクルに供し、プール中の結合配列の割合を高めた。5サイクル実施後、個別のクローンを取り出し、増幅させ、T7シークエンシングキット(T7 sequencing kit)(ファルマシア(Pharmacia)社)を用いてシークエンスを行った。
【0203】
結果
MN / CA IX タンパク質のアフィニティクロマトグラフィー:他のCA に関して既に記載されているように(ファルクブリング(Falkbring)ら、同上)、MN / CA IX タンパク質の精製には、スルホンアミド−アガロースを用いたアフィニティクロマトグラフィーを行うことにした。この方法の長所は、簡便かつ迅速なことであり、全行程を非変性条件下で行うことができる。MN / CA IX タンパク質源としては、完全型MN / CA 9 cDNA 挿入体または切断型cDNA挿入体(膜貫通(TM)ドメインおよび細胞内(IC)ドメインが欠損している)を有するワクチニアウイルスベクターを用いた。
【0204】
吸着−溶出サイクルを1回行うことにより、比較的純粋なタンパク質が得られた:MN / CA IX+は54 kDa および58 kDa の2本のバンド、MN / CA IXΔは54.5 kDa および56 kDa の2本のバンドを示した。ウェスタンブロットにおいてこれらのタンパク質はMAb M75 と非常に強く反応した。ブロットにより、HeLa 、CGL3およびHT29由来の抽出物中には、ワクチニアウイルス構築体から精製したMN / CA IX+と同じ分子量の2本のバンドが存在することが明らかになった。
【0205】
MN / CA IXタンパク質への細胞の接着:疎水性プラスチック上に固定したMN / CA IXによって細胞の接着、広がりおよび増殖が可能になった。吸着緩衝液中の精製タンパク質濃度として1μg/mlに相当する非常に低濃度のMN / CA IXで十分にこの効果をもたらすことができた。他の細胞接着分子は10〜50倍の濃度で使用した。細胞接着試験においては完全型MN / CA IXのみが活性であり、切断MN / CA IXは細胞接着を全く支持しないかごく弱い接着活性を示しただけであり、細胞「忌避物質」として作用する例さえも観察された。
【0206】
固定したMN / CA IXのドットをMAb M75 と反応させることにより、MN / CA IXの細胞結合能が阻害されるが、MN / CA IXとは無関係のMAb M16 を対照として用いて反応させた場合には全く影響がなかった。M75によって細胞への結合が阻害されたことから、エピトープは、細胞レセプターに対するMN / CA IX の結合部位と同一または重複していることが示された。
【0207】
MAb M75 によって認識されるエピトープの決定:バクテリアベクターにおいて発現され、ウェスタンブロットによって確認したMN / CA 9 cDNA の細胞外部分の配列の一部を用いてあらかじめ行ったM75エピトープのマッピングによると、M75エピトープはPG内に存在していた。正確なマッピングを行うために発明者らが採用した方法は、15〜25個のアミノ酸から構成される部分重複オリゴペプチドがPGドメインを網羅するように合成し、M75を用いた競合ELISA によってこれらのオリゴペプチドを試験することである。試験結果に従い、6〜12個のアミノ酸から構成される一連のオリゴペプチドを合成した。PGドメインの主要部分は、6個のアミノ酸から構成される縦列反復配列の6倍の配列を含んでおり(アミノ酸番号61〜96)(配列番号97)、このうち4個の縦列反復配列は同一(GEEDLP ; 配列番号98)であり、後の2個については2個のアミノ酸が交換されている(SEEDSP ; 配列番号141 およびREEDPP ; 配列番号142)。
【0208】
組換えMN / CA IX およびPGドメインの配列の一部に基づいて合成したオリゴペプチドを用いた競合ELISA の結果から、哺乳類細胞内で産生されたMN / CA IX+およびMN / CA IXΔは、本実験において使用した他の如何なるタンパク質またはペプチドよりも高い血清学的活性を有していることがわかった。バクテリア内で合成した融合タンパク質GST - MN は活性が低かった。以下のペプチドがPGドメインにまたがっている:GGSSGEDDPLGEEDLPSEEDSPC(アミノ酸番号51〜72)(配列番号104);GEEDLPSEEDSPREEDPPGEEDLPGEC(アミノ酸番号61〜85)(配列番号105);EDPPGEEDLPGEEDLPGEEDLPEVC(アミノ酸番号75〜98)(配列番号106);およびEVKPKSEEEGSLKLE(アミノ酸番号97〜111)(配列番号118)。配列番号104および106は1ng / ml で50%の阻害を引き起こした。これら2個のオリゴペプチドは互いに重複していないことから、エピトープはそれぞれの配列内において反復されている。配列番号105 の活性は1/1000であり、これは、コンホメーションが異なることによると考えられる。配列番号118 は不活性であることから、M75エピトープを含んでいない。
【0209】
エピトープを決定するための次の段階は、2回繰り返されているモチーフGEEDLP(配列番号98)の環状順列を全て含むオリゴペプチドを合成することである。次の6個のドデカペプチド(12個のアミノ酸配列)(配列番号119〜124)は全て血清学的に活性であった(2個は活性が強く、4個はそれほどでもなかった):GEEDLPGEEDLP(配列番号119);EEDLPGEEDLPG(配列番号120);EDLPGEEDLP(配列番号121);DLPGEEDLPGEE(配列番号122);LPGEEDLPGEED(配列番号123);およびPGEEDLPGEEDL(配列番号124)。両末端をアラニンで平滑化した以下の一連の7アミノ酸配列について試験を行った:APGEEDLPA(配列番号125);AGEEDLPGA(配列番号126);AEEDLPGEA(配列番号127);AEDLPGEEA(配列番号128);ADLPGEEDA(配列番号129);およびALPGEEDLA(配列番号130)。その結果、最小限の活性を示した配列は、オリゴペプチドAPGEEDLPA(配列番号125)であった。100μg/mlにおける競合アッセイにおいて配列番号127 〜130は活性がないことが確認された。さらに、次のより短いオリゴペプチド(6+2アミノ酸)は、M75に対するELISA において全く競合しなかった:AGEEDLPA(配列番号131);AEEDLPGA(配列番号132);AEDLPGEA(配列番号133);ADLPGEEA(配列番号134);ALPGEEDA(配列番号135);およびAPGEEDLA(配列番号136)。
【0210】
配列番号104、105、106および118のオリゴペプチド内においては、C末端アミノ酸は酸として存在しており、一方、他のオリゴペプチドにおいては全て、C末端アミノ酸はアミドとして存在していた。これらのオリゴペプチドとMAb M75 との親和性は、ペプチド分子の大きさが大きくなるにつれて非常に強くなることは明らかである。
【0211】
固定オリゴペプチドに対する細胞の接着を証明するための試み:発明者らの本来の目的は、ピースバッカー(Piersbacher)およびロスラーティ(Ruoslahti)による先駆的な研究(PNAS, 81: 5985(1984))の追試を行うことであった。彼らは、交差結合材SPDP(N−スクシンイミジル−3[ピリジルヒドロ]プロピオネート)を用い、吸着させたウシ血清アルブミンに被験オリゴペプチドを結合させた。このため、発明者らはオリゴペプチド配列番号104〜106 のC末端にシステインを付加し、このことによってオリゴペプチドは吸着アルブミンに結合する方向に向くことができる。発明者らは、M75を用いてイムノペルオキシダーゼ染色することにより、ペトリ皿中でペプチドが直接結合することを示した。不運なことに、CGL1細胞およびCGL3細胞については、SPDP処理し、オリゴペプチドの代わりにエタノールアミンでブロックした対照アルブミンへの接着強度が、オリゴペプチドを結合させたBSAドットへの接着強度と同程度であった。発明者らは、この非特異接着を阻止することができなかった。オリゴペプチド配列番号104〜106は、細菌用ペトリ皿への吸着が非常に弱かったことから、細胞接着アッセイを行うことはできなかった。
【0212】
別の方法として、発明者らは、オリゴペプチドによるMN / CA IXドットへの細胞接着阻害試験を行い、このとき、ピースバッカー(Piersbacher)およびロスラーティ(Ruoslahti)の記載(同上)に従い、培地には細胞懸濁液と共にオリゴペプチドを加えた。100μg/ml および10μg/mlにおいて、配列番号104〜106および配列番号118〜136の全てのペプチドについて試験を行った。再現性良くCGL1細胞の接着を阻害したものはひとつもなかった。
【0213】
MN / CA IXへの細胞接着を阻害するM75エピトープに対する親和性を有するオリゴペプチド:モノクローナル抗体とは別の手段として、M75エピトープおよびランダムヘプタペプチド(7個のアミノ酸配列)から構成されるファージディスプレイライブラリpH. D. - 7 由来のMN / CA IXレセプター結合部位に親和性を有するオリゴペプチドの選択を計画した。発明者らの目的は、固定ペプチド配列番号106上で選別することによって所望するヘプタペプチドを含むファージを選択し、それに続いてM75を用いて溶出させることである。溶出したファージは適切なバクテリア中で増殖させ、さらに選別−溶出サイクルを4回繰り返した。選択したファージ集団から10個のプラークを取り出し、増幅し、ヘプタペプチドを含む領域をシークエンスした。3種類のヘプタペプチドが存在するのみであった。これらの3種類のヘプタペプチドの両端にアラニンを付加したところ、次のようなノナペプチド(9個のアミノ酸配列)が得られた:AKKMKRRKA(配列番号137);AITFNAQYA(配列番号138);およびASASAPVSA(配列番号139)。最後のヘプタペプチドについて、両端にアラニンをつけて再合成したところ、ノナペプチドAGQTRSPLA(配列番号140)が得られ、GST - MN 上で選別することによって確認し、アセタゾールアミドを用いて溶出させた。この最後のペプチドは、MN / CA IX 炭酸脱水酵素の活性部位に対して親和性を有する。発明者らはこれらの7+2アミノ酸から構成されるペプチドを合成し、競合ELISA および細胞接着阻害について試験を行った。これらの試験からは基本的に矛盾しない結果が得られた:ペプチド配列番号138が最も高い活性を示し、ペプチド配列番号137の活性はやや弱く、ペプチド配列番号139はELISA においてのみぎりぎり陽性を示し、ペプチド配列番号140は不活性であった。これら4個のノナペプチドにおいては全て、C末端アミドがアミドの形で存在していた。
【0214】
考察:MN / CA IX のような膜貫通タンパク質の精製には技術的困難を伴うことが多いが、これは、膜貫通タンパク質に疎水性のTMセグメントが存在するために、他の膜タンパク質と凝集体を形成する傾向があるからである。この現象を避けるため、発明者らは培地中に分泌される切断型MN / CA IXΔICΔTMを作出した。事実、切断型MN / CA IX はMN / CA IX+よりも高純度で得られた。不運なことに、このタンパク質は細胞接着アッセイにおいて不活性であったため、発明者らの目的には全く役立たなかった。このような状況は他の細胞接着分子に関しても記載されている。切断され、短くなった構造から、不活性なコンホメーションをとることが予測され、または完全型タンパク質は疎水性のTMセグメントによって「正しい」位置に吸着しているが、切断型は疎水性プラスチックに「逆さま」に吸着していることが予測される。
【0215】
MN / CA IX タンパク質は、ジスルフィド結合によって連結された150kDaのオリゴマーを形成している。これらがホモ(同種)オリゴマーであるのかヘテロ(異種)オリゴマーであるのかはわかっていないが、PAGE およびウェスタンブロット分析から、おそらくホモオリゴマーであり、3量体であることが示唆されている。これは、クーマジーブルー(Coomassie Blue)でゲルを染色した場合、MN / CA IX に特異的な2本のバンドと同程度の強度を示す他のバンドが検出されなかったからである。また、ゲル上およびウェスタンブロット上の染色濃度が良く一致していたことから、2本の主要なMN / CA IX バンドのうちの1本と共泳動するさらなるタンパク質が存在する可能性は低い。
【0216】
精製MN / CA IX+に細胞接着特異性があることは疑いがないと考えられる。腹水の1:1000希釈液を用いた場合でも特異的MAb M75 によって阻害された。このことは、発明者らの以前の報告(ザヴァダ(Zavada)ら、Int. J. Oncol., 10: 857(1997))を補正するものであり、その中で、ワクチニアウイルスベクターによって産生されたMN / CA IX および融合タンパク質GST - MN が細胞接着を支持することを観察したが、GSTアンカー自身がM75によってブロックされない別の結合部位を有していることは認識していなかった。
【0217】
如何なる条件下(生細胞の表面上の生来型の抗原を用いた場合、ウェスタンブロットにおいて変性タンパク質を用いた場合、およびホルマリン固定した生検組織のパラフィン片中の抗原を用いた場合)においてもMAb M75 はMN / CA IX と良好に反応したことから、エピトープは小さく、近接して存在していることが示唆された。競合ELISA においては、M75と反応性があった最小配列は7+2アミノ酸配列であったが、M75と被験ペプチドとの親和性の強度は分子量に強く影響を受けていた。完全型MN / CA IX の活性は、最も分子量が小さい血清学的に活性なペプチドと比較すると、重量/容量濃度に換算して100,000倍であった。モル濃度に換算すると、この差は150,000,000倍であった。中程度の分子量のオリゴペプチドは中程度の活性を示した。このような活性の差異は、分子の大きさによって影響を受けるコンホメーションに起因するものであるのか、または、完全型MN / CA IX はエピトープのコピーを複数個有するが、最も小さい分子は1個しか持たないという事実に起因するものであるのかについての説明は今後に残されている。
【0218】
エピトープはMN / CA IX 内の細胞接着構造と同一であるという可能性について考えることにより、なぜオリゴペプチドによって細胞接着阻害を検出することができなかったのかを理解することができた。結合部位は、原型ペプチドRGD(ウィンター(Winter)、「タンパク質工学:原理と実際(Protein Engineering : Principles and Practice)」(クレランド(Cleland)およびクライク(Craik)編)、pp. 349 - 369(ウィレー−リス(Wiley - Liss)社、ニューヨーク)(1996))ほどに単純ではなかった。
【0219】
当然、MN / CA IX の大きさはイムノグロブリン分子とほぼ同程度であり、M75がそのエピトープに結合することにより、細胞接着部位を構成する別の配列が立体障害を受ける可能性があるという議論が出るかもしれない。この説は、M75エピトープおよび細胞結合部位がいずれもノナペプチド(7+2アミノ酸配列)によってブロックされることでは説明しきれない。その結果、エピトープと結合部位は本当に同一であることが強く示唆された。
【0220】
次のような理由から、MN / CA IX およびそのPGドメインは、治療のための標的分子となり得ると考えられる:(i)これらが細胞表面に露出していること;(ii)ある種のヒトの癌に存在する割合が高いこと;(iii)通常、MN / CA IX は消化管の粘膜内において発現し、この場所は腫瘍とは異なり、循環抗体が到達することができないこと;(iv)体液中には放出されない(または極微量しか放出されない)こと;(v)モチーフGEEDLP(配列番号98)は、各MN / CA IX 分子の表面において18回反復されていること。新薬開発の第一段階として、オリゴペプチドディスプレイライブラリを使用した(ウィンター(Winter)、同上)。選択したオリゴペプチドは、薬物として必要な特性を追有する新規な分子のコンピューター設計のためのリード化合物とすることができる(デキャンプ(DeCamp)ら、(クレランド(Cleland)およびクライク(Craik)編の上記の著書)、pp. 467- 505)。
【0221】
実施例3−ファージディスプレイを用いて行ったMN タンパク質に結合するペプチドの確認
(a)MN タンパク質によって認識されるペプチドを確認するため、ヘプタペプチドファージディスプレイライブラリ(Ph. D. - 7 ペプチド7マーライブラリキット(Ph. D. - 7 Peptide 7 - mer Library Kit)(ファージディスプレイペプチドライブラリキット);ニューイングランド・バイオラブズ(New England Biolabs)社(米国マサチューセッツ州ビバリー)をスクリーニングした。ライブラリのスクリーニングにあたっては、選択過程、すなわち生化学的選別(パームレー(Parmley)およびスミス(Smith)、Gene, 73: 308(1988);ノレン(Noren), C . J ., NEB Transcript, 8(1): 1(1996))を行い、これは、MN タンパク質でコートしたプレートを用い、ペプチドをコードしているファージをインキュベートし、非結合ファージを洗い流し、特異的に結合したファージを溶出させ、増幅させることによって行った。
【0222】
この過程における標的MN タンパク質は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)MN 融合タンパク質(GST - MN)であった。GST - MN は、シグナルペプチドを有しないMN タンパク質に対するcDNA を含むpGEX - 3X - MN から発現される組換え融合タンパク質である。変形培養条件(光学的濃度を下げ、温度を下げる)下においてはGST - MN はバクテリア内で産生される。そのような培養を行うことにより、不完全な状態での翻訳停止を防ぐことができ、ほとんど全てが全長を有するタンパク質分子を合成することができた。GST - MN タンパク質をウェルのコートおよび関連ファージの結合に使用した。結合ファージはアセタゾールアミドを用いて溶出し、増幅させ、さらに2回のスクリーニングを行った。
【0223】
3回のスクリーニングの後に得られた数個の別異のファージクローンについてシークエンスを行ったところ、以下のヘプタペプチドが得られた:
(1)GETRAPL(配列番号107)
(2)GETREPL(配列番号108)
(3)GQTRSPL(配列番号109)
(4)GQTRSPL(配列番号109)
(5)GQTRSPL(配列番号109)
(6)GQTRSPL(配列番号109)
(7)GQTRSPL(配列番号109)
ヘプタペプチドが非常に類似または一致した配列であったことから、結合は特異的であることが示唆された。これらのヘプタペプチドを産生するファージは、炭酸脱水酵素活性の阻害剤であるアセタゾールアミドによって溶出されたことから、ペプチドがMN タンパク質のCA ドメインに結合することが示唆される。
【0224】
(b)ヘプタペプチドファージディスプレイについて、同様なスクリーニングを行い、ファージの溶出にはMN タンパク質への結合性を示すコラーゲンI 型を用いた。MN タンパク質分子の別異の部分に結合する別異のペプチドが確認されることが期待された。そのようなMN 結合ペプチドを確認した後、対応する合成ペプチドの生物学的影響を調べるために分析を行うべきである。
【0225】
実施例4−腫瘍細胞および胃内で発現されたMN タンパク質のイン・ビボ(in vivo)における到達性
ラットMN タンパク質を発現するBP6皮下腫瘍(直径約1cm)を有するルイス(Lewis)ラット(384g)に125 I - M75 MAb (2.5×106 cpm)を腹腔内投与(i.p.)した。5日後、0.5〜1gの腫瘍または組織をはかり取り、ガンマカウンターを用いて放射活性を測定した。
【0226】
表2に結果をまとめた。最も高い放射活性を示したのは腫瘍であった。比較的高い放射活性を示したのは肝臓および腎臓であり、マウスIgG の血中からのクリアランスをほぼ反映した結果であった。胃においては放射活性が比較的低い状態が続いたことから、M75 MAb は消化管粘膜内に露出したMN タンパク質に限定的に到達したことが示唆された。
【表2】
【0227】
実施例5−CGL3細胞内でのMN タンパク質発現のFACS 分析:アポトーシス
FACS 調査を計画し、MN タンパク質の合成に影響を与える条件を探し、アポトーシス刺激を受けたCGL3細胞集団中におけるMN 陽性細胞対MN 陰性細胞の細胞周期分布を分析した。事前に行ったウェスタンブロット分析から、CGL3細胞は、様々な培養条件下において比較的多量のMN タンパク質を発現することが示されていた。CGL3細胞はMN タンパク質の本質的な産生体であると考えられている。しかしながら、ウェスタンブロットではタンパク質レベルの微小な差異を認識することができない。対照的に、FACS では個々のMN 陽性細胞の検出、分析した集団中のMN 陽性細胞の割合の計算、細胞中のMN タンパク質レベルの判定、および細胞周期分布の決定を行うことが可能である。
【0228】
CGL3細胞中でのMN タンパク質発現に対する培養条件の影響を研究する目的で、様々な相対密度および血清濃度の中にCGL3細胞を播種した。3日後、細胞を回収し、MAb M75 を用いて表面をラベルし、続いてFITC コンジュゲート抗マウスIgG を反応させ、すぐにFACS で分析した。
【0229】
分析から、HeLa 細胞と同様に、接着性細胞においては、MN タンパク質の発現は細胞密度に影響を受けていることが示された。しかしながら、低密度培養においても検出可能な濃度のMN タンパク質を産生していた。低密度培養においては、血清濃度は影響していないようであった。比較的高密度の培養においては、血清濃度が低下するとMN タンパク質の発現が若干低下したが、これはおそらく、3日間の培養期間中に細胞が到達することができた密度の低さによるものであると考えられる。
【0230】
真の細胞密度の影響は顕著であり、MN タンパク質の発現(15〜90%の細胞中で検出された)は、非常に感受性の高いモニター因子であった。全ての実験において、細胞集団のMN 陽性部分中の周期中細胞の割合は、MN 陰性部分中のそれに比べて約5%高かった。この事実から、増殖に好ましくない条件下、すなわちアポトーシス誘導後におけるMN 陽性CGL3細胞の細胞周期分布の分析の必要が生じた。
【0231】
アポトーシス
いくつかの薬剤、例えば、シクロヘキシミド、アクチノマイシンDおよびデキサメタゾンなどによってCGL3細胞をアポトーシス性の死に至らしめることができる。FACS 研究により、MN 陽性細胞内ではアポトーシスの発現が遅延することが示されていることから、この過程におけるMN タンパク質の保護作用が示唆された。アポトーシスの誘発により、時間依存的にMN タンパク質の発現が抑制されることも観察された。同じ現象はBcl-2 抗アポトーシスタンパク質についても報告されており、また、アポトーシス中にある種の制御遺伝子が抑制されることによって細胞が敏感になり、アポトーシス死が進行するという説がある。アポトーシスにおけるMN タンパク質の役割を証明する目的で、MN cDNA をトランスフェクトした細胞を用いた同様の研究を行った。
【0232】
予備実験の結果から、MN が関与している可能性があるのはアポトーシスの抑制であることが示唆された。増殖の増加および細胞死の減少の結果として腫瘍が生じるという最近の見解は、イン・ビボ(in vivo)におけるMN タンパク質の腫瘍との関連性と一致していると思われる。
【0233】
ATCC への寄託
以下に挙げた材料は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection: ATCC)(米国バージニア州マナサス、ユニバーシティ通り10810番地、郵便番号20110−2209)に寄託した。寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約(ブダペスト条約)に基づいて行った。生存細胞培養の維持は寄託の日から30年間保証されている。ブダペスト条約の取り決めに基づき、ハイブリドーマおよびプラスミドの分与が可能であり、寄託者とATCC との間の合意がなされている。これは、特許申請時から特許の付与に基づき、公衆がハイブリドーマおよびプラスミドを無制限に入手できることを保証するものである。寄託株の入手可能性については、政府の権威機関がその国の特許法に従って付与した権利に違反して発明を実施するにあたっての許可証であると解釈すべきではない。
ハイブリドーマ 寄託日 ATCC #
VU - M75 1992年9月17日 HB11128
MN 12.2.2 1994年6月9日 HB11647
プラスミド 寄託日 ATCC #
A4a 1995年6月6日 97199
XE1 1995年6月6日 97200
XE3 1995年6月6日 97198
本発明の実施態様に関する以上の記述は、説明を目的とするものである。それらは明確な形式で開示されている本発明を網羅するものでも制限するものでもなく、上述の教示に照らし合わせることにより、多くの変形および変更が可能であることは明らかである。本発明の原理およびその実際的な用途を説明するために実施態様を選択して記載しており、それにより、当業者であれば、多様な実施態様において、および特定の利用に適するように多様な変形を行って本発明を利用することが可能である。
【0234】
本明細書中に引用している全ての参考文献を参照として取り入れておく。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝医学の一般的分野および生化学工学、免疫化学および腫瘍学の分野にある。さらに詳細には、本発明は、MN遺伝子−現在MNタンパク質としても知られるオンコタンパク質、MN/CA IXイソエンザイムまたはMN/G250タンパク質をコードするオンコジーンであると考えられる細胞性遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(Zavada et al.,)(1993年9月16日に刊行された)および特許文献2(1996年2月7日に出願された)には、MaTuの生物学的および分子の性質の説明が記載されており、MN遺伝子およびタンパク質を発見する原因となった。MN遺伝子は、テストされたすべての脊椎動物の染色体DNA中に存在することが発見され、その発現は腫瘍形成と強く相関していることが分かった。
【0003】
MNタンパク質は最初、子宮頸のヒト癌に由来するHeLa細胞において同定された。MNタンパク質は多くのタイプのヒト癌において見られる(特に子宮頸、卵巣、子宮内膜、腎臓、膀胱、乳房、結腸直腸、肺、食道、および前立腺)。任意の有意の程度までMNタンパク質を発現することが知られる正常組織はほとんど無い。それらのMNを発現する正常組織には、ヒト胃粘膜および胆嚢上皮、および消化管のいくつかの他の正常組織が含まれる。逆説的に、MN遺伝子発現は、通常MNを発現するいくつかの組織、例えば胃粘膜における癌および他の新生物発生前の/腫瘍性の病気において失われるまたは減少することがわかっている。
【0004】
通常、オンコジーンは、MNタンパク質の異常な発現により示され得る。例えば、オンコジーンは、(1)通常は任意の有意の程度までMNタンパク質を発現しない組織中にMNタンパク質が存在する場合;(2)通常MNタンパク質を発現する組織にMNタンパク質が存在しない場合;(3)MN遺伝子発現が、通常組織中で発現されるよりも有意に増加したレベル、または有意に減少したレベルである場合;(4)MNタンパク質が、細胞内の異常な位置で発現される場合に示され得る。
【0005】
Zavadaらによる特許文献1およびZavadaらによる特許文献3(1995年12月21日に刊行された)には、MN遺伝子およびタンパク質の発見方法および癌および前癌状態についての診断/予後および治療方法が生じる原因となったMN遺伝子発現および腫瘍形成の強い関連が記載されている。そこには、脊椎動物中の異常なMN遺伝子発現を検出するまたは検出および定量することにより腫瘍性の病気の発症および存在を同定するための方法および組成物が提供されている。脊椎動物における様々の従来のアッセイにより、例えば、MN抗原を検出するまたは検出および定量するためのMN特異的抗体を使用するイムノアッセイにより、ハイブリダイゼーションアッセイによりまたはMN mRNAのようなMN核酸を検出するまたは検出および定量するためにMN cDNAのようなMN核酸を使用するRT-PCRのようなPCRアッセイにより、異常なMN遺伝子発現を検出するまたは検出および定量することができる。
【0006】
Zavadaらによる特許文献1および2には、MN特異的抗体の産生が記載されている。代表的なおよび好ましいMN特異的抗体である、モノクローナル抗体M75(Mab M75)は、ATCC番号HB 11128の下でアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection: ATCC) inManassus, VA(USA)に寄託されている。M75抗体を使用して、MNタンパク質を発見および同定し、例えば、新鮮な、冷凍した、またはホルマリン、アルコール、アセトンまたはその他で固定されたおよび/またはパラフィンで包埋されたおよび脱パラフィン化された組織サンプル中で、ウェスタンブロットにおいて、ラジオイムノアッセイにおいておよび免疫組織化学的にMN抗原を容易に同定できる。別の代表的なおよび好ましいMN特異的抗体であるMab MN12は、HB 11647の番号の下でATCCに寄託されたハイブリドーマMN 12.2.2により分泌される。Zavadaらによる特許文献3の実施例1には、MAb M75を使用する組織の免疫組織化学染色からの代表的な結果が提供されており、この結果はMN遺伝子をオンコジーンとして指定する補助となる。
【0007】
多くの研究により、MNの診断/予後利用が確認されてきた。非特許文献1−5には、前癌および癌の頸部損傷の診断/予後判定におけるMN特異的Mab M75の使用が記載されている。
【0008】
前癌性および癌性結腸直腸病変(Premalignant and Malignant Colorectal Lesions)
MNは、正常な胃、腸、および胆道粘膜中で検出されている(非特許文献6)。正常な大腸の免疫組織化学的分析により、近位結腸における適度な染色が示され、反応は遠位になるにつれて弱くなる。染色は、最大の増殖能力のある領域である、陰窩上皮細胞の基底外側表面に制限された。MNは粘膜の上側よりも増殖性陰窩上皮においてずっと豊富であるので、腸上皮細胞の増殖および分化のコントロールにおいてある役割を果たすかもしれない。細胞増殖は、結腸直腸上皮の前悪性および悪性損傷において異常に増加し、したがって、結腸直腸腫瘍の進行の指標であると考えられる(非特許文献7および8)。
【0009】
MNタンパク質は現在、これまで記載されている最初の腫瘍関連炭酸脱水酵素(CA)イソエンザイムであると考えられている。炭酸脱水酵素(CA)は、生理的に非常に重要な亜鉛金属酵素をコードする遺伝子の大きいファミリを形成する。二酸化炭素の可逆性水和の触媒として、これらの酵素は、呼吸、石灰化、酸−塩基平衡、骨吸収、房水の調製、髄液、唾液および胃酸を含む様々の生物学的過程に関係する(非特許文献9を参照)。CAは、異なる生体中に広く分布している。
【0010】
MN由来アミノ酸配列の分析により、保存された亜鉛結合部位並びに酵素の活性中心を有して、MNタンパク質の中心部分と炭酸脱水酵素との間に著しい相同性が示され、哺乳類中で、少なくとも7つのイソエンザイム(CA I-VII)および少数のCA関連タンパク質(CARP/CA VIII, RPTP-β,RPTP-γ)が同定された(非特許文献10)。その後MNタンパク質は、亜鉛に結合しCA活性を有することが分かった。このデータに基づき、MNタンパク質は現在、9つ目の炭酸脱水酵素イソエンザイム−MN/CA IXであると考えられている(非特許文献11)。[CA IXを命名法上の名称として示すHewett- Emmett, supraも参照]。
【0011】
CAおよびCA関連タンパク質は、組織分布および推定のまたは確定の生物学的機能において広い多様性を示す(非特許文献12)。CAのいくつかは、ほとんどすべての組織中で発現されるのに対し(CA II)、他の発現はより制限されるようである(唾液腺中のCA VIおよびCA VII)。細胞中で、それらは細胞質(CA I、CA II、CA III、およびCA VII)、ミトコンドリア(CA V)、分泌顆粒(CA VI)中に存在するか、または膜と結合する(CA IV)。時に、いくつかのイソエンザイムの核局在化について言及されてきた(非特許文献13−15)。
【0012】
CAおよびCA関連タンパク質はまた、速度論特性および阻害剤に対する感受性において異なる(非特許文献16)。消化管において、炭酸脱水酵素活性は、唾液分泌、胃酸の産生、膵液および胆液、腸水およびイオン輸送、脂肪酸吸収および肝臓における生物発生のような多くの重要な機能に関係する。少なくとも7つのCAイソエンザイムは、消化管の異なる領域中で示されている。しかしながら、生化学的、組織化学的および免疫組織化学的研究により、そのレベルおよび分布におけるかなりの不均一性が示される(非特許文献17および18)。CA IIが消化管全体に沿って見られるのに対し、CA IVはより低い胃腸管に結合し、CA I、IIIおよびVは少数の組織中にのみ存在し、CA VIおよびVIIの発現は唾液腺に制限される(非特許文献19−21)。
【0013】
MN/CA IXは多くの特性を有しており、これにより他の既知のCAイソエンザイムと区別され、腫瘍形成との関連性が示される。これらの特性には、細胞培養における密度依存性発現(例えばHeLa細胞)、HeLaと正常なヒト繊維芽細胞との間の体細胞雑種の腫瘍化表現型との相関、多くのヒト癌との密接な関連および対応する正常組織における不存在が含まれる(例えば、非特許文献22−30を参照)。さらに、MN/CA IX cDNAのインビトロにおける形質転換の可能性が、NIH 3T3繊維が細胞において示されている[Pastorek et al., id.]。
【0014】
MNタンパク質は、G250抗原としても同定されている。非特許文献31は、「配列分析およびデータベース探索により、G250抗原は、頸部腫瘍において同定されたヒト腫瘍関連抗原であるMNと同一であることが示された(Pastorek et al., 1994)」と述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第93/18152号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,387,676号明細書
【特許文献3】国際公開第95/34650号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Leff, D. N., 「HeLa細胞の半世紀:欧州の抗原は頸部癌Pap試験の信頼性を高める、臨床試験中」,BioWorld Today: The Daily Biotechnology Newspaper, 9(55)(1998年3月24日)
【非特許文献2】Stanbridge, E. J.,「頸部マーカーは不明瞭なPap塗抹標本の解析を補助することができる」, Diagnostics Intelligence, 10(5): 11(1998)
【非特許文献3】Liao and Stanbridge,「頸部パパニコロー塗抹標本中におけるMN抗原の発現は頸部形成異常の初期診断生物マーカーである」, Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention, 5: 549-557(1996)
【非特許文献4】Brewer et al.,「頸部癌における生物マーカーおよび新しい生物マーカーMNの臨床相関の研究」, Gynecologic Oncology, 63: 337-344(1996)
【非特許文献5】Liao et al.,「頸部上皮内扁平および腺新形成および頸部癌の診断生物マーカーとしてのMN抗原の同定」, American loumal of Pathology, 145(3): 598-609(1994)
【非特許文献6】Pastorekova et al., Gastroenterology, 112: 398-408(1997)
【非特許文献7】Risio, M., J. Cell Biochem, 16G: 79-87(1992)
【非特許文献8】Moss et al., Gastroenterology, 111: 1425-1432(1996)
【非特許文献9】Dodgson et al., The Carbonic Anhydrases, Plenum Press, New York-London, pp. 398(1991)
【非特許文献10】Hewett-Emmett and Tashian, Mol. Phyl. Evol., 5: 50-77(1996)
【非特許文献11】Opavsky et al., Genomics, 33: 480-487 (May 1996)
【非特許文献12】Tashian, R. E., Adv. In Genetics, 30: 321-356(1992)
【非特許文献13】Parkkila et al., Gut, 35: 646-650(1994)
【非特許文献14】Parkkila et al., Histochem. J., 27: 133-138(1995)
【非特許文献15】Mori et al., Gastroenterol., 105: 820-826(1993)
【非特許文献16】Sly and Hu, Annu. Rev. Biochem., 64: 375-401(1995)
【非特許文献17】Swensen, E. R.,「消化管における炭酸脱水酵素分布および機能」In: The Carbonic Anhydrases. Cellular Physiology and Molecular Genetics, (Dodgson et al. eds.) Plenum Press, New York, pages 265-287(1991)
【非特許文献18】Parkkila and Parkkila, Scan J. Gastroenterol., 31: 305-317(1996)
【非特許文献19】Pakkila et al., Gut, 35: 646-650(1994)
【非特許文献20】Fleming et al., J. Clin. Invest., 96: 2907-2913(1995)
【非特許文献21】Pakkila et al., Hepatology, 24: 104(1996)
【非特許文献22】Zavada et al., Int. J. Cancer, 54: 268-274(1993)
【非特許文献23】Pastorekova et al., Virology, 187: 620-626(1992)
【非特許文献24】Liao et al., Am. J. Pathol., 145: 598-609(1994)
【非特許文献25】Pastorek et al., Oncogene, 9: 2788-2888(1994)
【非特許文献26】Cote, Women’s Health Weekly: News Section, p.7(March 30, 1998)
【非特許文献27】Liao et al., Cancer Res., 57: 2827(1997)
【非特許文献28】Vermylen et al.,「肺癌および関連する前癌状態の生物マーカーとしてのMN抗原の発現」, Proceedings AACR, 39: 334(1998)
【非特許文献29】McKiernan et al., Cancer Res., 57: 2362(1997)
【非特許文献30】Turner et al., Hum. Pathol., 28(6): 740(1997)
【非特許文献31】Uemura et al.,「泌尿器癌における腫瘍関連抗原MN/G250の発現:潜在的な治療標的」, J. Urol., 154(4 Suppl.): 377(Abstract 1475; 1997)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
ここに同定されるのは、MNタンパク質結合部位の位置である。特に重要なのは、6アミノ酸の6倍縦列反復を有するaa 61-96(配列番号97)であるプロテオグリカン様ドメイン内であって、M75 Mab残基に対するエピトープが少なくとも2つのコピー中に存在し、MN結合部位が位置すると考えられるドメイン内の領域である。別のMN結合部位は、CAドメイン中に位置するかもしれない。
【0018】
細胞への結合について不朽化MNタンパク質と競合するMNタンパク質およびMNポリペプチドもまた同定される。そのようなMNタンパク質/ポリペプチドは、細胞間接着および細胞内接触の形成を妨げる。
【0019】
ここに開示されるのは、脊椎動物細胞、好ましくは哺乳類細胞、より好ましくはヒト細胞が結合するMNタンパク質上の結合部位を同定するために使用される細胞接着アッセイ方法である。次に前記部位に特異的に結合するMN特異的抗体、または無機または有機分子、好ましくは有機分子、より好ましくはタンパク質/ポリペプチドによりブロックできる治療標的として、そのようなMN結合部位を同定する。
【0020】
さらに、異常なMN発現と関連するまたはそれにより特徴付けられる新生物発生前の/腫瘍性の病気を有する患者を治療するための治療方法であって、前記結合部位に特異的に結合する無機または有機の分子であるが好ましくは有機分子、より好ましくはタンパク質/ポリペプチドにより前記MN結合部位をブロックすることに基づく方法が開示される。異常にMNタンパク質を発現させる脊椎動物の新生物発生前の/腫瘍性の細胞の成長は、そのような有機または無機分子、好ましくは有機分子、より好ましくは生理的に許容できる製剤中で治療に効果的な量のタンパク質/ポリペプチドを投与することにより抑制できる。そのような好ましい治療タンパク質/ポリペプチドはここで、配列番号107−109からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むと考えられる。そのようなヘプタペプチドは、MNタンパク質のパートナーに含まれると考えられる。MNタンパク質とその結合パートナーとの間の相互作用をブロックすることにより、腫瘍の成長が減少することが期待される。
【0021】
さらに、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトの、MNタンパク質を異常に発現させる新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞の成長を抑制する他の治療方法が提供される。前記方法には、MN特異的抗体の可変領域をコードする核酸に機能できるように結合する発現コントロール配列を含むベクターにより前記細胞をトランスフェクションする工程が含まれ、前記領域は柔軟なリンカーペプチド、好ましくは配列番号116により分離される。好ましい前記発現コントロール配列には、MN遺伝子プロモーターが含まれる。
【0022】
さらなる治療方法には、MN遺伝子プロモーターに機能できるように結合した、HSVtkのような細胞障害性タンパク質/ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターにより前記細胞をトランスフェクションする工程が含まれる。そのような治療ベクターには、IL-2またはIFNのようなサイトカインをコードする核酸が含まれてもよい。
【0023】
ここに開示される本発明の態様は、以下により詳細に記載される。有機または無機分子、好ましくは有機分子の治療上の使用が開示される。好ましいそのような分子は、細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞が接着するMNタンパク質上の部位に特異的に結合し、インビトロでテストする場合、該分子は細胞がMNタンパク質に接着するのを抑制する。さらに好ましくは、そのような分子は、MNタンパク質を異常に発現する脊椎動物の新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞と接触している場合、前記細胞の成長を抑制する。前記脊椎動物細胞は、好ましくは哺乳類細胞であり、寄り好ましくはヒト細胞である。
【0024】
好ましくはそのような分子は有機分子であり、より好ましくはそのような有機分子はタンパク質またはポリペプチドである。さらに好ましくは、前記タンパク質またはポリペプチドには、配列番号107、108、109、137および138からなる群より選択されるアミノ酸配列が含まれる。さらに好ましくは、前記ポリペプチドは、配列番号107、108、109、137および138からなる群より選択される。
【0025】
前記細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞が接着するMNタンパク質上の部位は好ましくは、プロテオグリカン様ドメイン[配列番号50]内またはMNタンパク質の炭酸脱水酵素ドメイン[配列番号51]内である。好ましくは該部位には、配列番号10および97−106からなる群より選択されるアミノ酸配列が含まれる。さらに好ましくは、前記部位は、配列番号10および97−106からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する。
【0026】
本発明の別の態様は、細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞の接着を媒介するMNタンパク質およびMNポリペプチドに関し、該MNタンパク質およびMNポリペプチドは脊椎動物細胞の細胞外液環境中に導入されると細胞内接触および前記脊椎動物細胞の互いの接着を妨げる。そのようなMNタンパク質およびMNポリペプチドがそのような脊椎動物細胞の細胞外液環境中に導入される場合、そのようなMNタンパク質およびMNポリペプチドは、MNタンパク質を異常に発現する脊椎動物の新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞の成長を抑制するのに有用であるかもしれない。前記脊椎動物細胞は好ましくは哺乳類細胞であり、より好ましくはヒト細胞である。
【0027】
細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞の接着を媒介する前記MNタンパク質またはMNポリペプチドは、好ましくは配列番号97から、配列番号50から、または配列番号51から、より好ましくは配列番号50からのアミノ酸配列を有する。さらに好ましくはそのようなMNタンパク質またはMNポリペプチドには、配列番号10および97−106からなる群より選択されるアミノ酸配列が含まれる。あるいは、前記MNポリペプチドは、配列番号10および97−106からなる群より選択される。
【0028】
細胞接着アッセイにおいて脊椎動物細胞の接着を媒介する代表的なMNタンパク質またはMNポリペプチドは、ATCC番号HB 11128の下でアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマVU-M75から分泌されるM75モノクローナル抗体により、またはATCC番号HB 11647の下でアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されたハイブリドーマMN 12.2.2から分泌されたN12モノクローナル抗体により、または両方の前記モノクローナル抗体により、特異的に結合される。
【0029】
本発明の別の態様は、脊椎動物細胞による細胞接着アッセイにおいて前記MNタンパク質からの連続オーバーラップポリペプチドをテストすることにより脊椎動物細胞が接着するMNタンパク質上の部位を同定し、細胞が前記連続からのポリペプチドに接着するか否か、前記ポリペプチドに脊椎動物細胞が接着する前記MNタンパク質上の部位が含まれるか否かを測定する方法である。
【0030】
本発明のさらに別の態様は、MN特異的抗体の可変領域をコードする核酸に機能できるように結合する発現コントロール配列を含むベクターであり、該ベクターは、異常にMNタンパク質を発現する脊椎動物の新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞中にトランスフェクションされた場合、該細胞の成長を抑制する。好ましくは前記発現コントロール配列には、前記核酸に機能できるように結合するMN遺伝子プロモーターが含まれる。さらに好ましくは、前記柔軟なリンカーポリペプチドは配列番号116のアミノ酸配列を有し、さらに好ましくは、前記MN遺伝子プロモーターは配列番号27のヌクレオチド配列を有する。
【0031】
本発明のさらに別の態様は、MN遺伝子プロモーターに機能できるように結合する細胞障害性タンパク質または細胞障害性ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターに関し、該ベクターは、異常にMNタンパク質を発現する脊椎動物の新生物発生前のまたは腫瘍性の細胞中にトランスフェクションされた場合、該細胞の成長を抑制する。ある好ましい実施の形態において、前記細胞障害性タンパク質は、HSVチミジンキナーゼである。好ましくは、前記ベクターはさらに、前記MN遺伝子プロモーターに機能できるように結合するサイトカインをコードする核酸を含む。別のおよび好ましい実施の形態において、前記サイトカインはインターフェロンまたはインターロイキン−2である。
【0032】
MN遺伝子プロモーターをここに特徴付ける。MN転写のリプレッサーについての結合部位の同定が開示される。突然変異分析により、有効なリプレッサー結合には直列反復配列AGGGCacAGGGC[配列番号143]が必要であることが示された。
【0033】
リプレッサーに結合するタンパク質の同定およびその結合特性の変化は、癌治療に導くMN発現の調節のための別の経路である。陰性調節遺伝子の過発現による腫瘍細胞中のMN発現の抑制は、腫瘍の成長を減少させると期待される。少なくとも二つのサブユニットを含むリプレッサー複合体は、MN遺伝子プロモーターの配列番号115に結合することが分かった。UV架橋により配列番号115と直接接触することが分かったリプレッサー複合体は、それぞれ35および42キロダルトンの分子量を有する二つのタンパク質を含む。
【0034】
省略
以下の省略をここで用いる:
aa − アミノ酸
ATCC − アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション
Bp − 塩基対
BLV − ウシ白血病ウイルス
BSA − ウシ血清アルブミン
BRL − ベセスダ研究実験所
CA − 炭酸脱水酵素
CAM − 細胞接着分子
CARP − 炭酸脱水酵素関連タンパク質
CAT − クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ
Ci − キュリー
cm − センチメートル
CMV − サイトメガロウイルス
cpm − 毎分のカウント
C-末端 − カルボキシル末端
CTL − 細胞障害性Tリンパ球
℃ − 摂氏度
DEAE − ジエチルアミノエチル
DMEM − ダルベッコ調製イーグル培地
ds − 二本鎖
EDTA − エチレンジアミンテトラアセテート
EGF − 上皮増殖因子
EIA − エンザイムイムノアッセイ
ELISA − 酵素結合免疫吸着アッセイ
EMSA − 電気泳動移動度シフトアッセイ
F − 繊維芽細胞
FACS − 細胞蛍光光度法研究
FCS − ウシ胎児血清
FITC − フルオレセインイソチオシアネート
FTP − DNアーゼ1フットプリント法
GST-MN − 融合タンパク質MNグルタチオンS-トランスフェラーゼ
GVC − ガンシクロビル
H − HeLa細胞
H-E − ヘマトキシリン−エオシン
HEF − ヒト胚繊維芽細胞
HeLa K − HeLa細胞の標準型
HeLa S − スタンブリッジの突然変異体HeLa D98/AH.2
H/F-T − HeLa D98/AH.2に由来する、腫瘍形成性の雑種HeLa繊維芽細胞
H/F-N − HeLa D98/AH.2に由来する、非腫瘍形成性の雑種HeLa繊維芽細胞
HPV − ヒト乳頭腫ウイルス
HRP − ホースラディッシュペルオキシダーゼ
HSV − 単純疱疹ウイルス
IC − 細胞内
IFN − インターフェロン
IL-2 − インターロイキン−2
Inr − イニシエーター
IPTG − イソプロピル−β−D−チオガラクト−ピラノシド
kb − キロベース
kbp − キロベースペア
kdまたはkDa − キロダルトン
KS − ケラタン硫酸
LCMV − リンパ性脈絡髄膜炎ウイルス
LTR − 長い末端反復
M − モル濃度
mA − ミリアンペア
MAb − モノクローナル抗体
MCSF − マクロファージコロニー刺激因子
ME − メルカプトエタノール
MEM − 最少必須培地
min. − 分
mg − ミリグラム
ml − ミリリットル
mM − ミリモル濃度
MMC − マイトマイシンC
mmol − ミリモル
MLV − マウス白血病ウイルス
N − 正常な濃度
NEG − 陰性
ng − ナノグラム
nm − ナノメーター
nt − ヌクレオチド
N-末端 − アミノ末端
ODN − オリゴデオキシヌクレオチド
ORF − オープンリーディングフレーム
PA − タンパク質A
PBS − リン酸緩衝化生理食塩水
PCR − ポリメラーゼ連鎖反応
PEST − プロリン、グルタミン酸、セリン、トレオニンについての一文字省略の組合せ
PG − プロテオグリカン
pi − 等電点
PMA − ホルボール 12-ミリステート 13-アセテート
POS − 陽性
Py − ピリミジン
RACE − cDNA端の急速増幅
RCC − 腎細胞癌
RIA − ラジオイムノアッセイ
RIP − ラジオイムノプレシピテーション
RIPA − ラジオイムノプレシピテーションアッセイ
RNP − RNアーゼ保護アッセイ
RT-PCR − 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
SAC − スタフィロコッカス アウレウス細胞
S. areus − スタフィロコッカス アウレウス
sc − 皮下
SDRE − 血清用量反応エレメント
SDS − ドデシル硫酸ナトリウム
SDS-PAGE − ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動
SINE − 短い散在性の反復配列
SP − シグナルペプチド
SP-RIA − 固相ラジオイムノアッセイ
SSDS − 合成スプライス供与部位
SSH − 減法抑制PCR
SSPE − NaCl(0.18M)、リン酸ナトリウム(0.01M)、EDTA(0.001M)
TBE − トリス−ホウ酸/EDTA電気泳動緩衝液
TC − 組織培養
TCA − 三塩化酢酸
TC培地 − 組織培養培地
TC − 組織培養
tk − チミジンキナーゼ
TM − 膜貫通
TMB − テトラメチルベンジジン
Tris − トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
μCi − マイクロキュリー
μg − マイクログラム
μl − マイクロリットル
μM − マイクロモル濃度
VSV − 水疱性口内炎ウイルス
VV − ワクシニアウイルス
X-MLV − 異種栄養性マウス白血病ウイルス
細胞系
AGS − 初期腺胃癌に由来する細胞系[Barranco and Townsend, Cancer Res., 43: 1703(1983)およびInvest. New Drugs, 1: 117(1983)]; CRL-1739の下でATCCから入手可能;
BL-3 − ウシBリンパ球[ATCC; 白血病細胞懸濁; J. Natl. Cancer Inst. (Bethesda) 40: 737(1968)];
C33 − ヒト頸部癌生検に由来する細胞系[Auersperg, N., J. Nat’l. Cancer Inst. (Bethesda), 32: 135-148(1964)];HTB-31の下でATCCから入手可能;
C33A − ヒト頸部癌細胞[ATCC HTB-31; J. Natl. Cancer Inst. (Bethesda) 32: 135(1964)];
COS − シミアン細胞系[Gluzman, Y., Cell, 23: 175(1981)];
HeLa K − HeLa細胞の標準型;Professor B. Korych, [Institute of Medical Microbiology and Immunology, Charles University; Prague, Czech Republic]から得られるヒト頸部腺癌から単離された異数体の上皮様細胞系[Gey et al., Cancer Res., 12: 264(1952); Jones et al., Obstet. Gynecol., 38: 945-949(1971)];
HeLa D98/AH.2 (HeLa S)
− Eric J. Stanbridge [Department of Microbiology, College of Medicine, University of California, Irvine, CA(USA)]により提供され、Stanbridge et al., Science, 215: 252-259(15 Jan. 1982)に報告される、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ−欠失(HGPRT)である突然変異体HeLaクローン
KATO III − 胃癌の転移形態から調製される細胞系[Sekiguchi et al., Japan J. Exp. Med., 48: 61(1978)];HTB-103の下でATCCから入手できる;
NIH-3T3 − Aaronson, Science, 237: 178(1987)に報告されるマウス繊維芽細胞系;
QT35 − ウズラ繊維肉腫細胞[ECACC: 93120832; Cell, 11: 95(1977)];
Raj − ヒトバーキットリンパ腫細胞系[ATCC CCL-86; Lancet. 1: 238(1964)];
Rat2TK − 細胞系(ラット胚、チミジンキナーゼ突然変異体)は、フィッシャーラット繊維芽細胞3T3様細胞系Rat1の5’−ブロモ−デオキシウリジン耐性菌のサブクローンに由来した;該細胞は適切なレベルの核チミジンキナーゼを有していない[Ahrens, B., Virology, 113: 408(1981)];
SiHa − ヒト頸部扁平癌細胞系[ATCC HTB-35; Friedl et al., Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 135: 543(1990)];
XC − Jan Svoboda[Institute of Molecular Genetics, Czechoslovak Academy of Sciences; Prague, Czech Republic]により提供される、ラウス肉腫ウイルス誘発ラット肉腫により誘発されるラット横紋筋肉腫に由来する細胞[Svoboda, J., Natl. Cancer Center Institute Monograph No.17, IN:「鳥類腫瘍ウイルスについての国際会議」(J. W. Beard ed.), pp. 277-198(1964)];
CGL1 − H/F-N雑種細胞(HeLa D98/AH.2誘導体);
CGL2 − H/F-N雑種細胞(HeLa D98/AH.2誘導体);
CGL3 − H/F-T雑種細胞(HeLa D98/AH.2誘導体);
CGL4 − H/F-T雑種細胞(HeLa D98/AH.2誘導体)。
【0035】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列記号
ここでヌクレオチドを示すために、以下の記号を使用する:
塩基
記号 意味
A アデニン
C シトシン
G グアニン
T チミン
U ウラシル
I イノシン
M AまたはC
R AまたはG
W AまたはT/U
S CまたはG
Y CまたはT/U
K GまたはT/U
V AまたはCまたはG
H AまたはCまたはT/U
D AまたはGまたはT/U
B CまたはGまたはT/U
N/X AまたはCまたはGまたはT/U
20の主要なアミノ酸が存在し、そのそれぞれが3つの隣接ヌクレオチド(トリプレットコドンまたはコドン)の異なる配置により特徴付けられ、特定の順序で互いに結合して特有のタンパク質を形成する。ここで3文字または1文字の慣習を使用して、例えば以下の図1に示すように、前記アミノ酸を同定する:
3文字 1文字
アミノ酸名 省略 省略
アラニン Ala A
アルギニン Arg R
アスパラギン Asn N
アスパラギン酸 Asp D
システイン Cys C
グルタミン酸 Glu E
グルタミン Gln Q
グリシン Gly G
ヒスチジン His H
イソロイシン Ile I
ロイシン Leu L
リシン Lys K
メチオニン Met M
フェニルアラニン Phe F
プロリン Pro P
セリン Ser S
トレオニン Thr T
トリプトファン Trp W
チロシン Tyr Y
バリン Val V
未知またはその他 X
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】本明細書に記載されるように単離されたMN cDNA[配列番号1]クローンについてのヌクレオチド配列、およびcDNAによりコードされる予測アミノ酸配列[配列番号2]を示す。
【図1B】図1Aの続き
【図1C】図1Bの続き
【図2A】MNの10,898bpの完全なゲノム配列を示す[配列番号5]。塩基の数は以下の通りである:2654 A; 2739 C; 2645 G; および2859 T。大文字で11のエキソンが概して示されているが、エキソン1は、RNアーゼ保護アッセイにより測定すると位置3507で始まると考えられる。
【図2B】図2Aの続き
【図2C】図2Bの続き
【図2D】図2Cの続き
【図2E】図2Dの続き
【図2F】図2Eの続き
【図3】全長MN cDNAの制限酵素地図である。オープンリーディングフレームは、白抜きのボックスで示される。制限酵素地図の下の太い線は、二つのオーバーラップcDNAクローンのサイズおよび位置を示す。水平の矢印は、5’端RACEに使用されるプライマーR1[配列番号7]およびR2[配列番号8]の位置を示す。適切な制限部位は、BamHI(B)、EcoRV(V)、EcoRI(E)、PstI(Ps)、PvuII(Pv)である。
【図4】MNゲノムクローンの5’MNゲノム領域を示す概略図であり、番号はRACEにより判断される転写開始部位に対応する。
【図5】ヒトMN/CA IX遺伝子のエキソン−イントロン地図を示す。エキソン(番号のある、網状の陰影のついたボックス)、Alu反復エレメント(白抜きのボックス)およびLTR関連配列(最初の番号の無い点刻されたボックス)の位置およびサイズを、示される目盛りに調整する。それぞれのMN/CA IXタンパク質ドメインに対応するエキソンは、PG(プロテオグリカン様ドメイン)、CA(炭酸脱水酵素ドメイン)、TM(膜貫通アンカー)およびIC(細胞質内テール)と称される点線の枠に囲まれる。地図の下におけるアミノ酸配列の整合により、MN/CA IXタンパク質PGドメイン(aa 53-111)[配列番号50]とヒトアグリカン(aa 781-839)[配列番号54]との間の相同性の程度が示される。
【図6】ヒトMN遺伝子の計画されたプロモーターについてのヌクレオチド配列である[配列番号27]。RNアーゼ保護アッセイにしたがって、転写開始部位からヌクレオチドに番号を付ける。可能性のある調節エレメントには上線を引く。対応するヌクレオチド上の星印(RNアーゼ保護)および点(RACE)により転写開始部位を示す。第1のエキソンの配列は星印の下で始まる。MN4プロモーター断片のFTP分析により、コード鎖および非コード鎖の両方で保護される5つの領域(I-V)、およびコード鎖で保護されるが非コード鎖で保護されない2つの領域(VIおよびVII)が示された。
【図7】転写開始部位に関連する位置に従ってMNゲノムクローンの整合を概略する。Bd3以外のすべてのゲノム断片は、HeLa細胞に由来するラムダFIX IIゲノムライブラリから単離された。クローンBd3は、ヒト胎児脳ライブラリに由来した。
【図8】MNタンパク質構造の概略図である。省略は図5において使用されるのと同じである。目盛りはアミノ酸の数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
「MN/CA IX」および「MN/CA9」という用語はここで、MNについて同義語であると考えられる。また、G250抗原は、MNタンパク質/ポリペプチドを称すると考えられる。[Uemura et al., J. Urol., 154(4 Suppl.): 377(Abstract 1475; 1997).]
MN/CA IXは、ウェスタンブロットにより約58および54キロダルトン(kDA)の分子量を有すると判断される形質膜および核タンパク質として、子宮頸のヒト癌に由来するHeLa細胞において最初に同定された。これは単一の3kDaの炭水化物鎖によりN-グリコシル化されており、非還元状態においてS-S結合したオリゴマーを形成する[Pastorekova et al., Virology, 187: 620-626(1992); Pastorek et al., Oncogene, 9: 2788-2888(1994)]。MN/CA IXは細胞表面に位置する膜貫通タンパク質であるが、核において検出されることもある[Zabada et al., Int. j. cancer, 54: 268-274(1993); Pastorekova et al., supra]。
【0038】
MNは、一対のタンパク質、p54/58NによりHeLa細胞中で示される。p54/58Nと反応性のモノクローナル抗体 (MAb M75) を使用する免疫ブロットにより、54kdおよび58kdにおいて二つのバンドが示された。これらの二つのバンドは、おそらく翻訳後プロセシングにより分化されるタンパク質の一つのタイプに対応するかもしれない。ここに、「対のタンパク質」という用語は、p54/58Nを示す。
【0039】
Zavada et al.,国際公開第93/18152号および/または同第95/34650号には、ここで図1A-1Cに示されるMN cDNA配列(配列番号1)、ここに同じく図1A-1Cに示されるMNアミノ酸配列(配列番号2)、およびここに図2A-2Fに示されるMNゲノム配列(配列番号5)が開示される。MN遺伝子は、11のエキソンおよび10のイントロンの構造を有する。
【0040】
図1A-1Cに示されるMNタンパク質の最初の37のアミノ酸は、おそらくMNシグナルペプチドである[配列番号6]。MNタンパク質は、細胞外ドメイン[図1A-1Cのアミノ酸(aa)38-414(配列番号87)]、膜貫通ドメイン[aa 415-434(配列番号52)]および細胞内ドメイン[aa 435-459(配列番号53)]を有する。細胞外ドメインには、プロテオグロリカン様ドメイン[aa 53-111(配列番号50)]および炭酸脱水酵素(CA)ドメイン[aa 135-391(配列番号51)]が含まれる。
【0041】
MNタンパク質とレセプター分子との相互作用をブロックする抗癌剤および抗体
MNタンパク質は、以下を含む多くの理由により癌治療に非常に適切な標的であると考えられる。(1)細胞表面に局在しており、接近しやすくなっている。(2)ヒト癌の高い割合で発現されるが(例えば、特に子宮頸部、腎、結腸、乳、食道、肺、頭部および頸部癌)、そのような癌が生ずる正常組織中で任意の有意の程度までは通常発現されない。
【0042】
(3)通常、胃粘膜および消化管の一部の上皮(胆嚢および小腸の上皮)においてのみ発現される。したがって、MNを発現させる新生物発生前/腫瘍性のおよびMNを発現させる正常な組織の間に吻合性関門が存在する。したがって、抗体を含む薬は、投与されるとMNを発現させる正常組織と相互作用することなく腫瘍に到達できる。
【0043】
(4)MAb M75は、MNタンパク質に対して高い親和性および特異性を有する。(5)タンパク質コードおよび遺伝子調節配列を有するMN cDNAおよびMNゲノムクローンが単離された。(6)動物実験および腎癌患者のフェーズI臨床試験においてMN特異的キメラ抗体について示されるように、MN特異的抗体は、固体腫瘍中で抗腫瘍抗体による臨床実験において報告されたように最大の腫瘍取込みを有する一つであることが示された。[Steffens et al., J. Clin. Oncol.., 15: 1529(1997).]また、MN特異的抗体は、正常組織中では低い取込みを有する。
【0044】
例えばここに示されるデータは、正常組織および新生物発生前/腫瘍性組織におけるMNタンパク質の作用方法に関する以下の理論と矛盾しない。正常組織において(例えば胃粘膜において)、MNタンパク質は分化因子であると考えられる。これは正常レセプターS(胃について)と結合する。胃癌は、MNタンパク質を含まないことが示された。
【0045】
他の組織におけるMNタンパク質の異所的発現により、細胞の悪性転換が起こる。そのような異所的発現は、MNタンパク質と代替レセプターH(HeLa細胞について)との結合により起こると考えられ、悪性の原因となる情報伝達経路につながる。レセプターHに対するMNタンパク質の結合部位をブロックする薬または抗体は、新生物発生前/腫瘍性細胞を正常細胞に転換させるまたはそれらの死を誘発すると期待される。
【0046】
MNをブロックする薬または抗体の作製および開発
MNをブロックする薬、例えばMNタンパク質に対して高い親和性を有するペプチド、または抗体を作製および開発する方法は、いくつかの工程を有する。まず、以下に記載される細胞接着アッセイに基づき、レセプターに対するMNタンパク質の結合についてテストする。同じ方法を使用して、MNタンパク質結合部位をブロックする薬についてアッセイしてもよい。二者択一のレセプターSおよびH、胃上皮細胞または復帰突然変異体(選択的にSレセプターを含む)を考慮して、HeLa細胞(Hレセプターを含有しSレセプターを欠失している)を細胞接着アッセイにおいて使用する。
【0047】
MNタンパク質のレセプター結合部位を同定するために、異なるドメインを欠失しているMNタンパク質の欠失突然変異体を使用して、MNタンパク質とレセプターとの相互作用の原因であるドメインを同定することができる。実施例2には、MNタンパク質上の他の結合部位を検出する方法が同定され説明される。好ましいMN結合部位は、MNタンパク質のプロテオグリカン様ドメイン中の6アミノ酸の6倍縦列反復(aa 61-96配列番号97)内に少なくとも二つのコピーが位置するMAb M75についてのエピトープに密接に関連するまたは同一であると考えられる。より小さい欠失突然変異体を、関連するドメイン内で調製できる、例えばMNタンパク質の小さい部分のみを有する融合タンパク質を調製できる。また、特異的なプロテアーゼによるMNタンパク質のコントロールされた分解およびその後の産物の分離を行うことができる。
【0048】
さらに、予想される結合部位を有するペプチドを合成することができる。これらの産物はすべて、以下に示されるように細胞接着アッセイにおいてテストできる。[例えば、Pierschbacher and Ruoslahti, PNAS, 81:5985(1984); Ruoslahti and Pierschbacher, Science, 238:491参照。]
分子を構成して、MNレセプター結合部位をブロックすることができる。例えば、実施例2および3に記載されるようにファージ表示ペプチドライブラリキット[Ph.D-7 Peptide 7-Mer Library Kit from New England Biolabs; Beverly, MA(USA)のような]を使用して、標的分子に対して高い親和性を有するペプチドを発見することができる。同定されたペプチドの生物学的活性を、MNタンパク質への細胞接着の抑制、細胞形態における効果およびMN関連腫瘍細胞(HeLa)および対照細胞の成長特性により、インビトロでテストする。[Symington, J. Biol. Chem., 267: 25744(1992).]HeLa細胞を注入されたヌードマウスにおいて、インビボのスクリーニングを行う。
【0049】
MNタンパク質の結合部位を含有するペプチドを調製する[例えばMAP(複合抗原ペプチド); Tam, J.P.,PNAS(USA) 85: 5409(1988); Butz et al., Peptide Res., 7: 20(1994)]。MAPを使用して免疫化し、結合部位を認識しブロックする抗体(ポリクローナルおよび/またはモノクローナル)を得る。[例えば、Brooks et al., Cell, 79: 1157(1994)参照。]次に「ワクチン接種」を使用して、動物内の防御についてテストする。MN結合部位に対する抗体を使用して、MNタンパク質と他の分子との相互作用をブロックすることが潜在的にできる。
【0050】
コンピューターモデリングを使用して、MNタンパク質とそのレセプターとの間の立体化学的抑制を媒介するMNタンパク質に対して特異的な親和性を有する分子を作製することができる。レセプターに対するMN結合部位のコンピューターモデルには、空間の、静電性の、疎水性のおよびこの構成物の他の特性が含まれる。結合部位に最適に適合する、該構成物に相補的な有機分子を作製する。MN結合部位をブロックできる無機分子も同様にテストできる。
【0051】
新しい癌治療を開発するための標的として腫瘍タンパク質を使用することは、当業者により従来技術であると考えられる。[例えば、Mendelsohn and Lippman,「成長因子」, pp. 114-133, IN: DeVita et al.(eds.), Cancer: Principles and Practice of Oncology(4th Ed.; Lippincott; Philadelphia, 1993参照。]最も広い意味において、阻止薬の作製は、競合阻害実験を基礎とすることができる。そのような実験を使用して、スルホンアミド(葉酸の前駆体であるパラ−アミノ安息香酸の競合阻害剤)の発見以来、薬が発明されてきた。また、細胞増殖抑制剤は、競合阻害剤である(例えば、特にハロゲン化ピリミジン)。
【0052】
しかしながら、MNへのそのようなアプローチの適用は新しい。他の腫瘍関連分子(例えば成長因子およびそのレセプター)と比較して、MNは吻合性関門により分離される、新生物発生前/腫瘍性および正常な組織中で異なって発現されるという特有の特性を有する。
【0053】
MN遺伝子−クローニングおよび配列決定
図1A-Cは、以下に記載されるように単離された全長MN cDNAクローンについてのヌクレオチド配列を示す[配列番号1]。図2A-Fは、完全なMNゲノム配列を示す[配列番号5]。図6は、計画されたMNプロモーターについてのヌクレオチド配列を示す[配列番号27]。
【0054】
遺伝暗号の縮重のために、すなわち、一つ以上のコドンが一つのアミノ酸をコードするために(例えば、それぞれアミノ酸ロイシン(Leu)についての暗号であるTTA、TTG、CTT、CTC、CTAおよびCTG)、例えば一つのコドンが別のコドンに置換されている配列暗号1および5中のヌクレオチド配列の突然変異体は、本発明により実質的に等しいタンパク質またはポリペプチドを産生する。MN cDNAのヌクレオチド配列および相補的核酸配列中のそのような突然変異体はすべて、本発明の範囲内に含まれる。
【0055】
ここに記載され、図1,2および6に示されるヌクレオチド配列は、ここに単離され記載されるcDNA、ゲノムおよびプロモーターのヌクレオチド配列の正確な構造のみを示すこともさらに理解される。わずかに修飾されたヌクレオチド配列が発見されるかまたは当業者により修飾されて例えば同様のエピトープを有する実質的に類似するまたは相同のMNタンパク質およびポリペプチドをコードできることが予想され、そのようなヌクレオチド配列およびタンパク質/ポリペプチドは本発明のために同等であると考えられる。等しいコドンを有するDNAまたはRNAは本発明の範囲内であると考えられ、同様にMNタンパク質/ポリペプチドに相同であるまたは実質的に相同であるタンパク質/ポリペプチドをコードする合成核酸配列、並びにストリンジェントな条件下で前記相補的配列[配列番号1,5および27]にハイブリダイズする、または遺伝暗号の縮重についてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で前記cDNAヌクレオチド配列にハイブリダイズする核酸配列も本発明の範囲内である。ここに示されるようにヌクレオチド配列の修飾および突然変異により、例としてのMN配列およびその断片と実質的に同じ配列が生ずると考えられる。
【0056】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件はここで、当該技術においてストリンジェントであると考えられる標準的なハイブリダイゼーション条件に従う。例えば、ストリンジェントな条件には、例えば50℃から70℃までの温度で0.02Mから0.15MまでのNaClにより提供されるような相対的に低い塩および/または高い温度条件が含まれると一般的に理解される。例えば20℃から55℃までの範囲の温度において0.15Mから0.9Mまでの塩のようなよりストリンジェントでない条件は、温度の増加と同様にハイブリッド二重鎖を不安定化するホルムアミドの量を増加させながら加えることによってよりストリンジェントにすることができる。
【0057】
典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, pages 1.91 and 9.47-9.51(Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratoty Press: Cold Spring Harbor, NY; 1989); Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, pages 387-389(Cold Spring Harbor Laboratory; Cold Spring Harbor, NY; 1982); Tsuchiya et al., Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, 71(6): 721-725(1991年6月)に記載されている。
【0058】
Zavada et al.,国際公開第95/34650号には、部分的なMN cDNAクローン、全長MN cDNAクローンおよびMN遺伝子クローンが単離され配列決定された方法が記載されている。また、Zavada et al., Int. J. Cancer, 54: 268(1993)には、1397bpの長さの部分的なMN cDNAの単離および配列決定が記載されている。原cDNAライブラリから全長クローンを単離する試みは簡単に失敗した。したがって、本発明者は、原cDNAクローンの5’領域に由来するMN特異的プライマー、R1およびR2[配列番号7および8]を使用してcDNA端の急速増幅(RACE)を行った。RACE産物をpブルースクリプト中に挿入し、組換えプラスミドの全母集団を、MN特異的プライマーODN1[配列番号3]により配列決定した。このようにして、図1に示されるようにMN cDNAの5’端における信頼できる配列[配列番号1]が得られた。
【0059】
特に、RACEは以下のように5’RACEシステム[GIBCO BRL; Gaithersburg, MD(USA)]を使用して行った。第一鎖cDNAのためのテンプレートとして1μgのmRNA(上述と同じ)を使用し、MN特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドであるR1(5’-TGGGGTTCTTGAGGATCTCCAGGAG-3’)[配列番号7]をプライマーとした。第一鎖の産物を、酢酸アンモニウムの存在下で二度沈降させ、ホモポリマー性CテールをTdTにより3’端に付着させた。その後テールのついたcDNAを、nestedプライマーであるR2(5’-CTCTAACTTCAGGGAGCCCTCTTCTT-3’)[配列番号8]およびホモポリマー性テールにアニーリングするアンカープライマー(5’-CUACUACUACUAGGCCACGCGTCGACTAGTACGGGGGGGGGG-3’)[配列番号9]を使用するPCRにより増幅した。増幅された産物をBamHIおよびSalI制限酵素により分解し、pブルースクリプトII KSプラスミド中にクローニングした。形質転換の後、プラスミドDNAを形質転換された細胞の全個体群から精製し、MN特異的プライマーODN1[配列番号3;29-mer 5’ CGCCCAGTGGGTCATCTTCCCCAGAAGAG 3’]による配列決定のためのテンプレートとして使用した。
【0060】
MN調節を調べるために、MNゲノムクローンを単離した。プローブとしてMN cDNAおよびcDNA ODN1[上述の配列番号3]およびODN2[配列番号4;19-mer(5’ GGAATCCTCCTGCATCCGG 3’)]に由来するMN特異的プライマーを使用して胎児脳から調製されたヒトコスミドライブラリからあるゲノムクローン(Bd3)を単離した。配列分析により、ゲノムクローンはMN転写開始部位からの上流でありMN cDNA内に局在するBamHI制限部位で終了する領域に広がることが示された。他のMNゲノムクローンも同様に単離できる。
【0061】
図7は、転写開始部位に従うMNゲノムクローンの整合の概略図である。A4aクローンおよびXE1およびXE3サブクローンを含有するプラスミドを、それぞれ寄託番号第97199号、同第97200号、および同第97198号の下で1995年6月6日にアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託した。
【0062】
完全なMNゲノム領域のエキソン−イントロン構造
オーバーラップクローンの完全な配列は、10,898bpを含有する(配列番号5)。図5は、ヒトMN遺伝子の構成を示し、すべての11エキソンの位置並びに2つの上流および6つのイントロン性Alu反復エレメントが示される。すべてのエキソンは小さく、445bpである最初のエキソンを除き27bpから191bpまでの範囲である。イントロンのサイズは89bpから1400bpまでの範囲である。CAドメインはエキソン2−8によりコードされるのに対し、エキソン1、10および11はそれぞれ、プロテオグリカン様ドメイン、膜貫通アンカーおよびMN/CA IXタンパク質の細胞質テールに対応する。以下の表1には、AG-GTモチーフを含むコンセンサススプライス配列に従うスプライス供与および受容配列が記載される[Mount, Nucleic Acids Res. 10: 459-472(1982)]。
【表1】
【0063】
MN遺伝子転写開始および終了部位のマッピング
Zavada et al.,国際公開第95/34650号には、MN遺伝子転写開始および終了部位をマッピングする方法が記載されている。MN遺伝子の5’端の良好なマッピングのためにRNアーゼ保護アッセイが使用された。プローブは一律に標識された470ヌクレオチドコピーRNA(nt −205から+265まで)[配列番号55]であり、MNを発現させるHeLaおよびCGI.3細胞からのトータルRNAにハイブリダイズさせ、塩基配列決定ゲル上で分析した。この分析により、MN遺伝子転写は多くの部位で開始することが示され、最長のMN転写物の5’端は、以前RACEにより特徴付けられていたより30nt長い。
【0064】
5’フランキング領域の特徴付け
ヒト胎児脳コスミドライブラリから単離されたBd3ゲノムクローンは、MN遺伝子の転写開始部位から3.5kb上流の領域に広がることが分かった。重要なコード領域は含有しない。二つのAlu反復は、位置−2587から−2296まで[配列番号56]および−1138から−877まで[配列番号57]に位置する(RNPにより測定される転写開始に関して)。
【0065】
転写開始までのDNA 5’のヌクレオチド配列分析により(nt −507まで)、最初のエキソンの始まりから予想される距離内において認識可能なTATAボックスは示されなかった。しかしながら、転写因子に対する潜在的な結合部位の存在により、この領域にはMN遺伝子についてのプロモーターが含まれ得ることが示される。転写因子AP1およびAP2について並びに他の調節因子について、p53結合部位を含む多くのコンセンサス配列がある[Locker and Buzard, J., DNA Sequencing and Mapping, 1: 3-11(1990); Imagawa et al. Cell, 51: 251-260(1987); EI Deiry et all., Nat. Genet, 1: 44-49(1992)]。推定のプロモーター領域には59.3%のC+Gが含有されるが、ハウスキーピング遺伝子のTATAの少ないプロモーターに特有であるCpGに富む島という追加の属性を有しない[Bird, Nature, 321: 209-213(1986)]。TATAボックスを欠く遺伝子の別の種類は、プロモーターとしてイニシエーター(Inr)エレメントを使用する。これらの遺伝子の多くは構造的に活性ではないが、分化または成長中に調節される。Inrは、PyPyPyCAPyPyPyPyPy[配列番号23]のコンセンサス配列を有し、転写開始部位を含む[Smale and Baltimore, Cell, 57: 103-113(1989)]。二つのそのようなコンセンサス配列がMN推定プロモーター中に存在する;しかしながら、転写開始をオーバーラップしない(図6)。
【0066】
関心のある領域が、MN遺伝子の中央に発見された。この領域は約1.4kbの長さであり[ゲノム配列のnt 4,600−6,000;配列番号49]、第1のイントロンの3’部分から第5のエキソンの端までに及ぶ。この領域は、62.8%のC+G含量および82 CpGを有する典型的なCpGに富む島:131 GpCジヌクレオチドという特性を有する。さらに、この領域の中心に集中した、転写因子AP2およびSp1[Locker and Buzard, supra; Briggs et al., Science, 234: 47-52(1986)]に対する多くの推測結合部位が存在する。特に131bpの長さの第3のイントロンは、三つのSp1および三つのAP2コンセンサス配列を含有する。このデータにより、MN遺伝子発現の調節における該領域の可能な改良が示される。しかしながら、該領域、並びに計画された5’ MNプロモーター中で見られる他の調節エレメントの機能性は、まだ測定されていない。
【0067】
MNプロモーター
MNプロモーターの研究により、MNプロモーターはTATAが少なく、AP-1、AP-2、並びに二つのp53結合部位についての調節配列を含有することが示された。MN遺伝子の3.5kbフランキング領域上流の5’端の配列は、HERV-K内因性レトロウイルスのLTRに広い相同性を示す。CATおよび新レポーター遺伝子を使用する分析により示されるように、プロモーターの基底転写活性は非常に弱い。しかしながら、レポーター遺伝子の発現は、3.5kbフランキング領域からされる場合、数倍に増加され、これは推測のエンハンサーの改良を示す。
【0068】
欠失分析による3.5kbのMN 5’上流領域の機能の特徴付けにより、[−173、+31]断片[配列番号91](あるいは、より好ましくはないが、ほぼ同一の−173、+31断片[配列番号91])をMNプロモーターとして同定できる。インビトロにおけるDNアーゼフットプリンティングにより、MNプロモーター内に5つの保護された領域(PR)が存在することが示された。プロモーターの詳細な欠失分析により、PR1および2(転写開始から番号を付けた)を転写活性に最も重要であることが同定された。PR4[配列番号115]は、転写に負の影響を与えて欠失によりプロモーター活性を増加させ、プロモーター、位置および配向と独立したサイレンサーエレメントとして機能することが確かめられた。突然変異分析により、直列反復AGGGCacAGGGC[配列番号143]は有効なリプレッサー結合に必要であることが示された。リプレッサー複合体の二つの成分(35kDaおよび42kDa)は、UV架橋によりPR4と直接接触していることが分かった。MN発現を誘発することが知られている、細胞密度の増加は、HeLa細胞中のPR4結合のレベルに影響を与えない。大きく減少したリプレッサーレベルは、非腫瘍形成性CGL1 HeLa x正常繊維芽ハイブリッド細胞と比較して腫瘍形成性CGL3の場合にMNがアップレギュレーションされる原因であると考えられる。
【0069】
遺伝子治療のための腫瘍特異的プロモーターとしてのMNプロモーターの利用
MN遺伝子プロモーターは、自殺遺伝子[HSVのチミジンキナーゼ(tk)]を発現させ腫瘍細胞の直接およびバイスタンダー(bystander)殺傷を媒介する腫瘍特異的プロモーターとして使用できるか否かを調べる。腫瘍細胞に形質転換されたHSVtk遺伝子は、ヌクレオシド類似体ガンシクロビル(GCV)を毒性トリホスフェートに変換し、導入されたおよび近隣の腫瘍細胞の死を媒介する。MN遺伝子プロモーターによるHSVtkのコントロールにより、その発現はMNタンパク質の生物合成に寛容な腫瘍細胞中でのみ可能であり、そのような腫瘍細胞は選択的に殺されるが、MN発現が抑制される正常細胞は殺されない。
【0070】
HSVtkがMNプロモーター領域のBd3の下流にクローニングされ、MNの近位および遠位調節エレメントを含有するプラスミド構成物を調製した。それぞれリン酸カルシウム沈降およびリポフェクションを使用して、プラスミドpMN-HSVtkをRat2TK細胞およびC33ヒト頸部癌細胞にトランスフェクションした。トランスフェクタントを、HSVtkおよびGVC感受性の発現についてテストした。トランスフェクタントの分析により、低濃度においてもGVCの著しい細胞障害性のインビトロにおける効果が示された(細胞の95%までが殺された)。
【0071】
pGEX-3X中でGSTとの融合タンパク質を使用して、HSVtkに対するポリクローナルウサギ抗血清を調製し、トランスフェクションされた細胞中で合成されたHSVtkを免疫検出する。このモデルシステムを研究して、バイスタンダー効果、クローニング有効性の特性および形質導入されGVC処理された細胞のコラーゲン基質への侵入性を判断する。MNプロモーターによるHSVtkによる組換えレトロウイルスベクターを調製して、動物モデル(例えばSCIDマウス)を使用してインビボにおける有効性をテストする。
【0072】
MNプロモーター分析
MNプロモーターは弱いので、一過性トランスフェクションの相対的に低い有効性(10%まで)のために標準的な研究方法は制限されるであろう。したがって、CAT遺伝子に融合したMNプロモーターを含有する安定したクローン細胞系発現構成物を調製した。そのようなクローン系において、100%の細胞がMNプロモーターによるCAT遺伝子を発現し、したがってプロモーターの活性は、一過性の実験におけるよりも容易に検出できる。また、プロモーター活性は、異なる条件下で同じ細胞中で反復して分析できるまたは異なる因子および薬により処理できる。この方法は、転写開始のレベルにおいてMN調節の基礎をなす機構の研究を考慮に入れる。
【0073】
レポーターCAT遺伝子に結合したプロモーター構成物による多くのタイプのトランスフェクション(カルシウム沈降、DMSOショックおよび/またはクロロキンと組み合わせたDEAEデキストラン、並びにエレクトロポレーション)、CAT活性アッセイの異なる方法(シンチレーション方法、薄層クロマトグラフィー)およびMN発現のレベルおよびトランスフェクション有効性において異なる多くの受容細胞系(HeLa、SiHa、CGL3、KATO III、Rat2TKおよびC33細胞)。好ましくはCGL3細胞のエレクトロポレーションおよび薄層クロマトグラフィーによりMNプロモーターの活性を検出した。さらに好ましくは、MNプロモーター-CAT構成物およびpSV2neoにより共トランスフェクションされたC33細胞を使用した。
【0074】
1.MNプロモーターの基底活性を検出し、コアプロモーターの位置を判断するために、CGL3細胞へのトランスフェクション後構成物pMN1からpMN7までのCAT遺伝子の発現を分析した。進行性5’欠失を有するプラスミドをCGL3細胞中にトランスフェクションし、活性をCATアッセイにより分析した。[pBLV-LTR(2μg)を除くすべての場合において8μgのDNAをトランスフェクションに使用した。]
pMN1およびpMN2(それぞれ933bpおよび600bpのプロモーター配列を含有する)によりトランスフェクションされた細胞中で非常に弱いCAT活性のみが検出された。少し高い活性は、構成物pMN3、pMN4およびpMN6(それぞれプロモーターの446bp、243bpおよび58bpを含有する)により示された。活性のわずかなピークは、pMN5(転写開始に関して位置−172において開始する)により得た。したがって、MNコアプロモーターの機能は、MN転写開始部位から約500bpすぐ上流の領域に原因があり得る。
【0075】
興味深いことに、大きいBd3領域(転写開始の3.5kbp上流に広がる)は、コアプロモーターの活性よりも数倍高かった。しかしながら、そのレベルは、ポジティブコントロール、すなわちTaxによりトランス作用されたBLV-LTRにより示されるレベルよりもずっと低く、トランス作用の無いBLV-LTRの活性よりも低かった。コアプロモーターと比較してBd3の活性が高いということにより、ある調節エレメントの存在が考えられる。そのようなエレメントは、おそらくpMN1とBd3との間の配列中に位置する(すなわち−1kbpから−3.5kbpまで)[配列番号58]。示される領域に広がるBd3の多くの欠失バージョンのクローニングおよびトランスフェクションを使用して、推定調節エレメントの位置を測定することができる。
【0076】
同様の結果は、Bd3およびpMN4によりKATO III細胞をトランスフェクションすることから得られた。トランスフェクションされた細胞は、CGL3細胞より低いレベルのMNを発現した。したがって、MNプロモーターの活性は、CGL3細胞中よりも低いことが分かった。
【0077】
2.MNプロモーターを調べる平行方法において、neo遺伝子からの関心のあるクローニングされた上流のプロモーターを含有するプラスミドによりトランスフェクションされた細胞のG418選択に基づく分析を行った。この方法は、感度が標準的なCATアッセイよりもずっと高いため、弱いプロモーターの研究に適切である。この方法の基礎となる原理は、以下のようである:活性のあるプロモーターは、トランスフェクションされた細胞をG418の細胞障害性効果から保護するneo遺伝子を発現させるのに対し、不活性のプロモーターは、neo産物を生ぜず、これによりトランスフェクションされた細胞はG418の作用により死ぬ。したがって、プロモーターの活性は、G418による二週間の選択後に得られる細胞コロニーの数に従って判断できる。最初の実験において、pMN1neo、pMN4neoおよびpMN7neoの3つの構成物を使用した。pMN7neoは転写開始部位の30bp上流を含有しているだけなので、ネガティブコントロールであると考えられた。ポジティブコントロールとして、SV40に由来するプロモーターを有するpSVneoを使用した。カルシウム沈降法により高い効率でトランスフェクションすることができるので、Rat2TK細胞を受容細胞として選択した。
【0078】
トランスフェクションの後、細胞を二週間で選択した。次に培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、メチレンブルーで染色することによりコロニーを視覚化した。3つの独立した実験から得られた結果により、CATアッセイからのデータが確認された。プロモーター構成物pMN4neoは、pMN1neoより高い転写活性を示した。しかしながら、ポジティブコントロールとpMN4neoとの間の相違は、CATアッセイにおけるように著しくなかった。これは、Taxトランス作用されたpBLV-LTRと比較して低いpSV2neoのプロモーター活性およびトランスフェクション後の細胞の成長について異なる条件のせいかもしれない。この観点から、安定なトランスフェクションは、細胞が密接に接触するコロニー中で細胞が成長し実験が長く続くので、おそらくMN発現により都合がよく、これによりプロモーター活性を検出するよりよい機会が提供される。
【0079】
3.MNプロモーター-CATキメラ遺伝子を発現させる安定したトランスフェクタントを、適切なプラスミドとpSVneoとの共トランスフェクションにより調製した。受容細胞として、HeLa細胞を最初に使用した。しかしながら、プロモーター-CAT構成物を発現させるクローンは得られなかった。この否定的な結果はおそらく、対応する内因性配列によるMNのトランスフェクションされたゲノム領域(例えばプロモーター)の相同組換えにより起こった。この実験を基礎として、HPV-陰性頸部癌に由来するC33細胞を使用した。C33細胞は、腫瘍形成の工程中にMN遺伝子を含有する染色体領域9pを含む遺伝子物質を失うので、MNを発現しない。これらの実験において、MN遺伝子の不存在は、相同組換えが避けられる可能性としての利点が示されるかもしれない。
【0080】
MNプロモーター-CAT構成物によりトランスフェクションされたC33細胞
MNプロモーター領域Bd3(−3500/+31)[配列番号90]およびMN5(−172/+31)[配列番号91]の下でCAT遺伝子を発現するC33細胞を使用して、MNプロモーターの転写活性における細胞密度の影響を分析する最初の実験を行った。この結果により、細胞が接近した後産生されたシグナルが細胞培養の密度に比例してMNプロモーターからCATタンパク質の転写を活性化することが示された。興味深いことに、このデータにより、密度の影響がMN−陰性C33細胞中で明らかに示されているので、MNタンパク質は情報伝達のこの段階に必要ではないことが示された。むしろ、MNタンパク質は密集した細胞中で産生されるエフェクター分子として作用し、ある生物学的作用を行う(すなわち接触阻害を混乱させる)ようである。また興味深いことに、MNプロモーター活性は、非常に散在している細胞培養中でも検出可能であり、これはMNが非常に低いレベルで発現されることを示す。
【0081】
欠失突然変異体。次にBd3-CATプロモーター構成物の欠失突然変異体を調製した。この構成物をpSV2neoとともにC33頸部細胞中に共トランスフェクションした。G418による選択の後、安定してトランスフェクションされた細胞の全個体群をCAT ELIZA分析にかけた。欠失構成物の発現により、Bd3-CAT構成物により得られたのと同様のレベルのCATタンパク質が合成された。この呼びデータに基づいて、本発明者は、MNの転写を刺激する配列は転写開始の上流−3506と−3375との間[配列番号92]に位置すると考えた。これはHERV-K LTRに相同性を示す配列である。
【0082】
しかしながら、CGL3細胞中における一過性のトランスフェクションの研究により、LTR領域は基礎MNプロモーター活性の増強に必要でないことが繰り返し示された。さらに、CGL3細胞中で得られた結果により、活性化エレメントは転写開始部位に関して−933から−2179までの領域[配列番号110]に局在することが示される(この領域の位置はBd3欠失突然変異体中のオーバーラップ配列から導き出された)。
【0083】
核タンパク質とMNプロモーター配列との相互作用
MNプロモーターに結合しその活性を潜在的に調節する転写因子を同定するために、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)およびDNアーゼIフットプリント分析(FTP)を使用して一連の分析を行った。
【0084】
EMSA
EMSAにおいて、クレノウ酵素により3’端で標識された、精製された断片であるMN4(−243/+31)[配列番号93]、MN5(−172/+31)[配列番号91]、MN6(−58/+31)[配列番号94]およびpMN7(−30/+31)[配列番号95]を、CGL1およびCGL3細胞から調製された核抽出物中のタンパク質と相互作用させた。[40μgの核タンパク質を、2μgのポリ(dldC)の存在下で30,000cpmの末端標識されたDNA断片と共にインキュベートした。]DNA−タンパク質複合体をPAGE(非変性6%)により分析し、結合したタンパク質の成分に依存する移動度におけるシフトにより、該複合体は自由なDNA断片よりも遅く移動する特別のバンドを生じた。
【0085】
MN4およびMN5プロモーター断片のEMSAにより複数のDNA−タンパク質複合体が示された;しかしながら、それぞれCGL1およびCGL3核抽出物により得られた結合パターンは同一ではなかった。シグナルCGL-1特異的複合体が存在する。
【0086】
MN6プロモーター断片のEMSAにより、CGL1およびCGL3核抽出物との3つの同一の複合体が形成されるが、MN7プロモーター断片は核タンパク質とは結合しなかった。
【0087】
EMSAの結果により、CGL1核抽出物は、CGL1細胞中のMN発現の負の調節に関係し得る特定の因子を含有することが示された。特定のDNA−タンパク質複合体は、MN4(−243/+31)[配列番号93]およびMN5(−172/+31)[配列番号91]プロモーター断片を有するがMN6(−58/+31)[配列番号94]を有しないように形成されるので、該特定の複合体のタンパク質性分の結合部位は転写開始に関して−173bpと−58bpとの間[配列番号96]に位置する。
【0088】
次の段階は、FTP分析において保護された領域に従って作製された二本鎖(ds)オリゴヌクレオチドを使用する一連のEMSA分析であった。MNプロモーターの保護された領域PR2[−72から−56bpまでの配列[配列番号111]に広がる]に由来するdsオリゴヌクレオチドにより、AP-1についての結合部位を示す市販されているdsオリゴヌクレオチドを使用する競合EMSAにおけるAP-1転写因子の結合が確かめられた。
【0089】
PR1[−46から−24bpまで(配列番号112)]、PR2[−72から−56bpまで(配列番号111)]、PR3[−102から−85bpまで(配列番号113)]およびPR5[−163から−144まで(配列番号114)]の保護された領域に由来するdsオリゴヌクレオチドのEMSAによって、CGL1およびCGL3細胞から抽出された核タンパク質の結合パターンにおいて相違は示されず、これによりそれらの領域がCGL3中のMN遺伝子の活性化、またはCGL1中の負の調節をコントロールする重要な転写因子を結合しないことが示される。しかしながら、保護された領域PR4[−133から−108まで;配列番号115]からのdsオリゴヌクレオチドのEMSAにより、CGL1およびCGL3核タンパク質の結合において著しい量的相違が繰り返し示された。CGL1核タンパク質は、実質的に多くのDNA−タンパク質複合体を形成し、これはPR4領域に、CGL1細胞中におけるMN遺伝子転写の負の調節遺伝子を示すかもしれない特定の転写因子に対する結合部位が含まれることを示す。この事実は、プロモーター断片pMN4(−243/+31;配列番号93)およびpMN5(−172/+31;配列番号91)を有するがpMN6(−58/+31;配列番号94)を有しないCGL-1特異的DNA−タンパク質複合体を示す前記のEMSAデータと適合している。
【0090】
複合したタンパク質またはPR4領域中のMNプロモーターとの特定の複合体の形成を同定するために、磁気ビーズに共有結合した適切なdsオリゴヌクレオチドを使用して、対応する転写因子を精製する。あるいはONE Hybrid System[Clontech(Palo Alto, CA(USA)]を使用して、分析されたプロモーター領域の調節に関係する転写因子を探しクローニングする。HeLa細胞からのcDNAライブラリをこの研究に使用する。
【0091】
FTP
MN遺伝子の転写調節に関連するシス(cis)調節エレメントの正確な位置を測定するために、FTPを使用した。それぞれCGL1およびCGL3細胞から調製された核抽出物中のタンパク質を、一本の鎖の5’端で標識されたMNプロモーター(MN4,−243/+31)[配列番号93]の精製されたds DNA断片と相互作用させた。[MN4断片を、Xho1部位(−243/+31)またはXba1部位(−243/+31)のいずれかで標識した。]次に、DNA−タンパク質複合体にDNアーゼIを作用させ、これによりタンパク質と結合していない場合には特定の塩基でDNA鎖が破壊される。[対照には、DNアーゼの代わりにBSAを使用した。]ゲル電気泳動[8%変性ゲル]後の変性DNAのバンドパターンを調べることにより、標識された鎖上の塩基がタンパク質により保護されていることが示された。
【0092】
MN4プロモーター断片のFTP分析により、コード鎖および非コード鎖において保護された5つの領域(I-V)、並びにコード鎖において保護されるが非コード鎖においては保護されない2つの領域(VIおよびVII)が示された。図6は、保護されたMNプロモーター上の一般的領域を示す。
【0093】
同定された保護された領域(PR)の配列を、SIGNALSCANプログラムを使用してコンピューター分析し、転写因子についての既知のコンセンサス配列に一致するか否かを調べた。このコンピューター分析により得られたデータは、以下のようである:
PRI − コード鎖−AP-2、p53、GAL4非コード鎖−JVC反復
PRII − コード鎖−AP-1、CGN4非コード鎖−TCF-1、dFRA、CGN4
PRIII − コード鎖−AP1と一部のみオーバーラップする未知のコンセンサス配列非コード鎖−2 TCF-1部位
PRIV − コード鎖−TCF-1、ADR-1非コード鎖−CTCF、LF-A1、LBP-1
PRV − コード鎖−未知のコンセンサスモチーフ非コード鎖−JCV反復
PRVI − コード鎖−未知のコンセンサスモチーフ非コード鎖−SV40、GAL4のT抗原
PRVII − コード鎖−NF-uE4、U2snRNA.2非コード鎖−AP-2、IgHC.12、MyoD。
【0094】
EMSAと対照的に、FTP分析は、CGL1およびCGL3核抽出物の間で相違を示さなかった。しかしながら、EMSAによりCGL1核抽出物中で検出された特定のDNA−タンパク質相互作用の存在は、DNAタンパク質−タンパク質複合体を形成する追加のタンパク質の結合から生じた。この特定のタンパク質がDNA配列と直接接触しない場合、その存在はFTPにより検出できない。
【0095】
EMSAスーパーシフト分析
FTPの結果により、転写因子AP-1、AP-2並びに腫瘍抑制タンパク質p53は潜在的にMN発現の調節に関連することが示される。MNプロモーターへのこれらの特定のタンパク質の結合を確かめるために、これらのタンパク質に特異的な抗体を使用するスーパーシフト分析を行った。この分析のために、EMSAについて記載されるように調製されたDNA−タンパク質複合体を、潜在的に複合体に含まれるタンパク質に特異的なMAbまたはポリクローナル抗体と相互作用させた。対応するタンパク質への抗体の結合により、PAGEにより追加の、より遅く移動するバンドであると視覚化されるDNA−タンパク質−抗体複合体の移動度における追加のシフト(スーパーシフト)が生じる。
【0096】
この方法により、MNプロモーターへのAP-2の結合を確かめた。しかしながら、この方法はAP-1転写因子の結合の証拠とならなかった。MNタンパク質は、このアッセイにおいて使用される抗体により認識されるAP-1と抗原的に相違するAP-1関連タンパク質を結合することが可能である。
【0097】
また興味深いことに、p53腫瘍抑制タンパク質はMNプロモーターに結合し得る。wt p53は、成長制限遺伝子の発現を活性化し、直接または間接に進行中の細胞増殖に必要な遺伝子の発現を下方に調節する転写因子として作用することがよく知られている。wt p53 DNAおよびmut p53 cDNAと組み合わせてpMN4-CATプロモーター構成物を使用する一過性の共トランスフェクション実験によりそれぞれ、wt p53はMNの発現を負に調節するがmut p53はしないことが示された。さらに、MNプロモーター中の二つのp53結合部位の一つは、FTP分析において保護されており(図6)、これは対応するタンパク質に結合することを示す。したがって、二つのp53特異的抗体、例えばMab421およびDO-1[後者はDr. Vojtesek from Masaryk Memorial Cancer Institute in Brno, Czech Republicにより提供される]によりp53がMNプロモーターに結合することを証明するためのスーパーシフト分析は、例えば十分なレベルでwt p53を発現するMCF-7乳癌細胞からの適切な核抽出物で行われる。
【0098】
MN発現およびMNプロモーターの調節
MNは、細胞増殖のコントロールおよび細胞形質転換に直接関係する新しい調節タンパク質のようである。HeLa細胞において、MNの発現は細胞密度により正に調節される。そのレベルはLCMVによる持続感染により増加する。HeLaと正常繊維芽細胞との間のハイブリッド細胞において、MN発現は腫瘍形成と相関する。MNは腫瘍形成性のハイブリッド細胞(CGL1)中に存在しないが腫瘍形成分離欠失染色体11中で発現されるという事実により、MNは染色体11中の推定サプレッサーにより負に調節されることが示される。
【0099】
MNタンパク質の調節する役割を支持する証拠が、MNタンパク質を構造的に発現させるNIH 3T3細胞の安定したトランスフェクタントの産生において発見された。MN発現の結果として、NIH 3T3細胞は、形質転換された表現系と関係する特徴を獲得した:変化した形態、増加した飽和濃度、血清の減少した培地中における増殖の利点、増強されたDNA合成および足場非依存性成長をする能力。さらに、非同期型細胞個体群のフローサイトメトリ分析により、MNタンパク質の発現によってG1期を通る細胞の増殖が促進され、細胞のサイズが減少し、不適切な条件下で成長を停止する能力が失われることが示された。また、MNを発現する細胞は、DNAを損傷する薬であるマイトマイシンCに対する感受性が減少したことを示す。
【0100】
非腫瘍形成性のヒト細胞であるCGL1細胞もまた、全長MN cDNAとトランスフェクションした。NIH 3T3細胞をトランスフェクションするのに使用したのと同じようにpSV2neoプラスミドと組み合わせてpSG5C-MN構成物を使用した。15のMN陽性クローンのうち(SP-RIAおよびウェスタンブロットによりテストした)、3つをさらなる分析のために選択した。空のプラスミドによりトランスフェクションしたCGL1細胞から単離した2つのMN陰性クローンを対照として加えた。最初の分析により、MNトランスフェクションされたCGL1細胞の形態および成育習性は大きく変化しないが、成長速度およびコロニー形成率は増加することが示される。
【0101】
MNプロモーター−センス/アンチセンス構成物
上述のように単離されたMNゲノムクローンからのプロモーター領域がMN cDNAと結合しCGL1ハイブリッド細胞中にトランスフェクションされる場合、MNタンパク質の発現は選択後すぐに可能である。しかしながら、その後次第に減少し、このようにしてフィードバック調製の作用が示される。推定調節エレメントは、全長cDNAをトランスフェクションのために使用した場合に同様の効果が観察されないので、MNプロモーターにより活性となると考えられる。
【0102】
「アンチセンス」MN cDNA/MNプロモーター構成物を使用して、CGL3細胞をトランスフェクションした。その効果は、「センス」構成物によりトランスフェクションされたCGL1細胞の効果と逆であった。トランスフェクションされたCGL1細胞は対照のCGL1より数倍大きいコロニーを形成したのに対し、トランスフェクションされたCGL3細胞は対照のCGL3細胞よりずっと小さいコロニーを形成した。SiHaおよびHeLa細胞におけるアンチセンスMN cDNAトランスフェクションにより同じ結果が得られた。
【0103】
これらの実験について、BamHI部位によりMN cDNAに結合したプロモーター領域の一部は、MNゲノムクローン[Bd3]のNcoI-BamHI断片に由来し、転写開始部位から数100bp上流の領域を示す。ライゲーションの後、連結DNAをpBK-CMV発現ベクター[Stratagene]中に挿入した。挿入された配列の必要な配向を定方向クローニングにより確保し、続いて制限酵素分析により確かめた。トランスフェクション工程は、NIH 3T3細胞のトランスフェクションに使用したのと同じであったが、neo選択標識はpBK-CMVベクター中に容易に含まれるので、pSV2neoとの共トランスフェクションは必要ではなかった。
【0104】
G418を含有する培地中における二週間の選択の後、上述のように成長したクローンの数およびサイズの間の著しい相違が明らかとなった。選択およびクローニングの直後、MNトランスフェクションされたCGL1およびCGL3さいぼうを、それぞれMNの発現および抑制についてSP-RIAによりテストした。単離されたトランスフェクションされたCGL1クローンはMN陽性であったのに対し(レベルは全長cDNAで得られたよりも低かったが)、MNタンパク質はトランスフェクションされたCGL3クローンにほとんど存在しなかった。しかしながら、その後の経過において、トランスフェクションされたCGL1細胞中のMNの発現は終了し始め、その後ブロックされ、これはおそらくコントロールフィードバック機構の証拠となる。
【0105】
トランスフェクションされたCGL3細胞の非常に低い増殖の結果として、大部分のクローニングされた細胞を拡大するのは困難であり(最低レベルのMNを有するSP-RIAに従って)、継代中に失われた。しかしながら、クローンの一部はその問題を克服し、再びMNを発現した。一度これらの細胞が高品質に達すると、内因的に産生されるMN mRNAのレベルは異所的に発現されるアンチセンスmRNAの量を超えて増加することが可能である。
【0106】
MN発現のコントロールに関する特定の転写因子の同定
転写レベルにおけるMN発現のコントロールには、MNプロモーターの調節エレメントが含まれる。これらのエレメントは、腫瘍細胞中におけるMN活性化および/または正常細胞中における抑制の原因となる転写因子を結合する。これらの特定の転写因子の同定および単離およびそれらがMN発現を調節する方法の理解により、MN発現の調節において治療に利用できる。
【0107】
EMSA実験により、MN遺伝子リプレッサーの存在が示される。One Hybrid System[Clontech(Palo Alto, CA); 標的、シス作用調節エレメントまたは任意の他の短いDNA結合配列に結合するタンパク質をコードする遺伝子を単離するインビボにおける酵母遺伝子アッセイ; Fields and Song, Nature, 340: 245(1989); Wu et al., EMBO J. 13: 4823(1994)]および差引き抑制型PCR(SSH)を使用する。SSHにより、HeLa細胞の密度対散在性、および固定対粘着HeLa細胞のようなMN発現を上方または下方調節することが知られる条件下で示差発現する遺伝子のクローニングが可能になる。
【0108】
HPV不朽化頸部細胞(HCE 16/3)による実験において、MN発現の調節は完全に形質転換された癌細胞における調節と異なることが分かった。例えば、HPV転写を活性化するグルココルチコイドホルモンは、HCE中でMN発現を負に調節するが、HeLaおよびSiHa中でMNを刺激する。HPVオンコジーンの転写をダウンレギュレートする角質細胞増殖因子は、固定HCE中でMN発現を刺激するが、粘着細胞中では発現しない。
【0109】
EGFおよびインシュリンは、不朽化細胞および癌細胞の両方においてMN発現の活性化に関係する。すべての示された事実は、MN特異的転写因子の探索および治療のためのMN発現の調節に使用できる。
【0110】
推定アミノ酸配列
図1に示されるMN cDNAのORFは、49.7kdと計算される分子量を有する459アミノ酸タンパク質をコードする能力を有する。MN/CA IXタンパク質の全アミノ酸組成は、やや酸性であり、4.3の等電点を有すると考えられる。二次元電気泳動およびその後の免疫ブロットによるCGL3細胞からの天然MN/CA IXタンパク質の分析により、コンピューターの予測と一致して、MN/CA IXは、4.7から6.3までの範囲の等電点を有する等電形態で存在する酸性タンパク質である。
【0111】
アミノ酸配列分析により評価されるように、MNタンパク質の推定される一次構造は、4つの異なる領域に分けることができる。37アミノ酸(aa)の第1の領域はシグナルペプチドに対応する。主要なタンパク質は、377アミノ酸[aa 38-414(配列番号87)]のN末端または細胞外部分、20アミノ酸[aa 415-434(配列番号52)]の疎水性膜貫通断片および25アミノ酸[aa 435-459(配列番号53)]のC末端領域を有する。
【0112】
細胞外部分は、二つの異なるドメインからなる:(1)プロテオグリカン様ドメイン[aa 53-111(配列番号50)];および(2)形質膜の近くに位置するCAドメイン[aa 135-391(配列番号51)]。[アミノ酸の数は、図1の数に合わせる。]
MNタンパク質の一次構造へのより詳細な洞察により、多くのコンセンサス配列の存在が開示される。一つの潜在的なN-グリコシル化部位は、図1の位置346に見られる。この特徴は、予測された膜に広がる領域と共に、結果と矛盾しておらず、MNは形質膜中に局在するN-グリコシル化タンパク質であることが示される。cDNAから導き出されるMNタンパク質配列はまた、遺伝子調節タンパク質中でしばしば見られるモチーフとしてSuzuki, J. Mol. Biol., 207: 61-84(1989)により定められる7つのS/TPXX配列エレメント[配列番号25および26](それらの一つはシグナルペプチド中にある)を含有することが分かった。しかしながら、それらの二つのみが示されたコンセンサスアミノ酸から成る。
【0113】
亜鉛帯電キレートセファロースを使用するアフィニティクロマトグラフィーにより示されるように、実験によりMNタンパク質は亜鉛陽イオンを結合できることが示された。Mab M75によりHeLa細胞から免疫沈降されたMNタンパク質は、CAの弱い触媒活性を有することが分かった。MNのCA様ドメインは、小さい可溶性領域に対する結合部位として作用する構造傾向を有する。したがって、MNタンパク質はある種の情報伝達を媒介することができる。
【0114】
LCMV感染したHeLa細胞からのMNタンパク質は、DNAセルロースアフィニティクロマトグラフィーにより、固定化された二本鎖サケ精子DNAに結合することが示される。結合活性には、結合緩衝剤中に亜鉛陽イオンが存在することおよび還元剤が存在しないことが必要である。
【0115】
トランスフェクションされたNIH 3T3繊維芽細胞の増加した増殖がなければ足場非依存性に必要なCAドメイン
トランスフェクションされたNIH 3T3繊維芽細胞中で、MNタンパク質は形態的形質転換、増加した増殖および足場非依存性を誘発する。NIH 3T3細胞中における二つのMN切断された突然変異体の構成性発現の結果を研究した。プロテオグリカン様ドメインは、トランスフェクションされた細胞の形態的変化に十分であり、おそらく接触抑制の原因に関係する成長促進活性を示すことが分かった。
【0116】
CAドメインは、足場非依存性の誘発に不可欠であるのに対し、TMアンカーおよびICテールはその生物効果について重要ではない。MNタンパク質もまた、トランスフェクションされた細胞中で形質膜ラッフリング(ruffling)を起こすことができ、固体支持体への結合に関係するようである。このデータにより、細胞増殖、接着および細胞内情報伝達の調節におけるMNの関与が示される。
【0117】
配列類似性
MN cDNA配列のコンピューター分析を、DNASISおよびPROSIS(Pharmacia Software package)を使用して行った。GenBank, EMBL,タンパク質同定供給源およびSWISS-PROTデータベースを、すべての可能な配列類似性について検索した。さらに、MNと配列類似性を共有するタンパク質の検索を、FastA program[Pearson and Lipman, PNAS(USA), 85: 2444(1988)]を使用してMIPSで行った。
【0118】
シグナルペプチドとCAドメインとの間のプロテオグリカン様ドメイン[aa 53-111(配列番号50)]は、ヒトの大集合プロテオグリカンアグリカンのケラタン硫酸結合ドメイン[Doege et al., J. Biol. Chem., 266: 894-902(1991)]と大きい相同性を示す(38%同一および44%確実)。
【0119】
CAドメイン[aa 135-391(配列番号51)]は、265aaにわたって広がり、ヒトCA VIイソエンザイム[Aldred et al., Biochemistry, 30: 569-575(1991)]と38.9%のアミノ酸同一性を示す。MN/CA IXと他のイソエンザイムとの間の相同性は、以下のようである:261 aaオーバーラップ中CA IIと35.2%[Montgommery et al., Nucl. Acids. Res., 15: 4687(1987)]、261 aaオーバーラップ中CA Iと31.8%[Barlow et al., Nucl. Acids Res., 15: 2386(1987)]、266 aaオーバーラップ中CA IVと31.6%[Okuyama et al., PNAS(USA)89: 1315-1319(1992)]、および259 aaオーバーラップ中CA IIIと30.5%[Lloyd et al., Genes. Dev., 1: 594-602(1987)]。
【0120】
CAドメインに加えて、MN/CA IXは、他のCAイソエンザイムと関連せずにN末端およびC末端を伸長させる。膜貫通アンカーおよび細胞質内テールから成るC末端部のアミノ酸配列は、任意の既知のタンパク質配列に大きな相同性を示さない。
【0121】
MN遺伝子は、ヒトゲノムに由来する新しい配列であることがはっきりと分かった。cDNA MN配列と異なるCAイソエンザイムをコードするcDNA配列との間の全体の配列相同性は、48−50%の範囲の相同性であり、これは当業者によって低いと考えられる。したがって、MN cDNA配列は、任意のCA cDNA配列と密接に関連しない。
【0122】
少なくとも80−90%の相同性を有する非常に密接に関連するnt配列のみが、ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズする。図1に示されるMN cDNA配列とヒト炭酸脱水酵素II(CA II)の対応するcDNAとの配列比較により、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で25以上のヌクレオチドを有するCA II cDNA配列の断片をMN cDNAにハイブリダイズさせるまたはその逆をするのに十分長い同一性の範囲は二つの配列間に無いことが示された。
【0123】
EMBLデータライブラリにおけるMN遺伝子に関連するnt配列の検索によって、69.8%から91%までの範囲でAlu配列に相同性を有する6つの完全なおよび2つの部分的なAlu型反復を除き、特定の相同性は示されなかった[Jurka and Milosavljevic, J. Mol. Evol. 32: 105-121(1991)]。ゲノム領域の5’端に近い222bp配列もまた、HERV-K LTRの領域に非常に相同であることが示される。
【0124】
通常、好ましくは25塩基以上の、より好ましくは50塩基以上の、AluまたはLTR様領域中に存在しないヌクレオチド配列は、機械的にテストしスクリーニングでき、ストリンジェントな条件下でMNヌクレオチド配列にのみハイブリダイズすることが分かる。さらに、Alu様MNゲノム配列内のすべての相同性がAlu反復に近く、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイゼーションシグナルを与えるわけではない。MN Alu様領域と標準Alu-J配列との間の相同性のパーセントは、以下に示される:
【0125】
MNタンパク質および/またはポリペプチド
「MNタンパク質および/またはポリペプチド(MNタンパク質/ポリペプチド)」という用語は、ここで、MN遺伝子またはその断片によりコードされるタンパク質および/またはポリペプチドを意味すると定義される。本発明による典型的なおよび好ましいMNタンパク質は、図1に示される推定アミノ酸配列を有する。好ましいMNタンパク質/ポリペプチドは、図1に示されるMNタンパク質と実質的な相同性を有するタンパク質および/またはポリペプチドである。例えば、そのような実質的に相同なMNタンパク質/ポリペプチドは、本発明のMN特異的抗体、好ましくはMab M75、MN12、MN9およびMN7またはそれらの等価物と反応性のものである。
【0126】
「ポリペプチド」または「ペプチド」は、ペプチド結合により共有結合したアミノ酸鎖であり、ここで50以下のアミノ酸からなると考えられる。「タンパク質」は、ここで、50以上のアミノ酸からなるポリペプチドと定義される。ポリペプチドという用語には、ペプチドおよびオリゴペプチドという用語が含まれる。
【0127】
MNタンパク質は、多くの興味ある特徴を示す:細胞膜局在、HeLa細胞中における細胞密度依存性発現、HeLa×繊維芽細胞体細胞ハイブリッドの腫瘍性表現型との相関、および多くの組織中のヒト癌における発現。MNタンパク質は、腫瘍組織部分において直接見ることができるが、通常は対照の正常組織中で見られない(正常な胃粘膜および胆嚢組織について以下に例外が示される)。MNはまた、異形成および/または悪性を示す組織標本の形態的に正常に見える領域において時に発現される。まとめると、これらの特徴により、細胞の増殖、分化および/または形質転換の調節におけるMNの可能な改良が示される。
【0128】
インビボにおいて腫瘍性の細胞により産生されるタンパク質またはポリペプチドは、細胞培養中の腫瘍細胞によりまたは形質転換された細胞により産生されるものと配列において変化し得ることが認識される。したがって、無制限にアミノ酸置換、伸長、欠失、切断およびその組合せを含む変化するアミノ酸配列を有するMNタンパク質および/またはポリペプチドは、本発明の範囲内である。体液中に存在するタンパク質を、タンパク分解工程のような分解工程にかけることもまた認識できる;したがって、有意に切断されたMNタンパク質およびMNポリペプチドは、血清のような体液中で見られる。ここで用いた「MN抗原」という用語には、MNタンパク質および/またはポリペプチドが含まれる。
【0129】
MNタンパク質およびポリペプチドのアミノ酸配列は遺伝子技術により修飾できることがさらに認識されるであろう。一つ以上のアミノ酸を欠失または置換することができる。そのようなアミノ酸変化は、タンパク質またはポリペプチドの生物活性に測定可能な変化を起こさず、本発明の範囲内のタンパク質またはポリペプチド、並びにMN突然変異タンパク質を生ずる。
【0130】
本発明のMNタンパク質およびポリペプチドは、本発明による様々の方法、例えば組換え、合成またはそうでなければ生物学的に、すなわちより長いたんぱく質およびポリペプチドを酵素によりおよび/または化学的に開裂することにより調製できる。MNタンパク質を調製する好ましい方法は、組換え法による。MNタンパク質を産生する組換えの特に好ましい方法は、GST-MN、MN 20-19、MN-FcおよびMN-PAタンパク質について以下に記載される。
【0131】
MNタンパク質およびポリペプチドの組換え産生
図1に示されるMNタンパク質またはその断片を産生する代表的な方法は、MN cDNAの全長または適切な断片を以下に示される適切な発現ベクター中に挿入することである。上述のZavada et al.,国際公開第93/18152号には、ベクターpGEX-3X(Pharmacia)中で部分的なcDNAクローンを使用する(上述される)融合タンパク質GEX-3X-MN(ここでGST-MNと称する)の産生が記載される。XL-1Blue細胞からの非グリコシル化GST-MN(MN融合タンパク質MNグルタチオンS-トランスフェラーゼ)。
【0132】
Zavada et al.,国際公開第95/34650号には、発現プラスミドpEt-22b[Novagen Inc.; Madison, WI(USA)]昆虫細胞から発現されたグリコシル化MNタンパク質および大腸菌から発現された非グリコシル化MNタンパク質の組換え産生が記載される。組換えバキュロウイルス発現ベクターを使用して、昆虫細胞を感染させた。グリコシル化MN20−19タンパク質を、バキュロウイルス感染したsf9細胞中で組換えにより産生した[Clontech; Palo Alto, CA(USA)]。MN20−19タンパク質は、配列番号6の推定シグナルペプチド(aa 1-37)がなく(図1)、発現のためにN末端にメチオニン(Met)、および精製のためにC末端に付加されたLeu-Glu-His-His-His-His-His-His[配列番号22]を有する。
【0133】
GST-MN融合タンパク質についてのMNコード配列の一部を変わりの発現系に挿入するために、PCRのために一群のプライマーを作製した。コード配列のそれぞれの端に制限酵素部位、並びにフレーム中に開始および停止コドンを提供するように、プライマーを構成した。制限酵素開裂部位および発現標識を示すプライマーの配列は、以下に示される。
【0134】
プライマー#20:N末端
【0135】
配列番号17および18プライマーを使用して、標準的なPCR技術を使用してGEX-3X-MNベクター中に存在するMNコード配列を増幅した。生じたPCR産物(MN20−19と称される)を、0.5%アガロース/1X TBEゲル上で電気泳動した;1.3kbのバンドを切断した;使用説明書に従いGene Clean IIキット[Bio101; Lajolla, CA(USA)]を使用してDNAを回収した。
【0136】
MNタンパク質パートナーの同定
MNと相互作用するタンパク質の検索を、対応するcDNAおよびプローブとしてMN-Fc融合タンパク質の発現クローニングを使用して開始した。キメラのMN-Fc cDNAを、マウスIgGのFc断片をコードするcDNAによりMNタンパク質の膜貫通アンカーおよび細胞内テールをコードするMN cDNA配列を置換することによってpSG5Cベクター中で構成した。Fc断片cDNAを、IgG2a抗体を産生するマウスハイブリドーマからRT-PCRにより調製した。
【0137】
キメラのMN-Fc cDNAを、COS細胞中における一過性のトランスフェクションにより発現させた。レプトフェクション(leptofection)を使用してCOS細胞をトランスフェクションした。組換えMN-Fcタンパク質をトランスフェクションされた細胞(膜貫通ドメインが欠失していることによる)のTC培地に放出し、プロテインAセファロース上でアフィニティクロマトグラフィーにより精製し、さらなる実験に使用した。
【0138】
偽トランスフェクションされた細胞からのタンパク質抽出物およびpSG5C-MN-Fcによりトランスフェクションされた細胞を、M75 MAb、SwαM-PxおよびECL検出[ECL−リン酸化チロシン残基を検出するための強化化学発光システム; Amersham; Arlington, Hts., IL(USA)]を使用して免疫ブロットにより分析した。pSG5Cベクターから発現されたMN-Fcタンパク質のサイズは、コンピューターにより予想された分子量と一致した。
【0139】
35S標識されたMN-Fcタンパク質を、細胞表面結合アッセイにおいて使用した。多くの哺乳類細胞、例えばHeLa、Raji、COS、QT35、BL3に結合することが分かった。同様の結果は、細菌ペトリ皿上に滴下したMN-Fcタンパク質を使用して細胞接着アッセイにおいて得られた。これらのアッセイにより、KATO IIIヒト胃腺癌細胞型はMN-Fcタンパク質と相互作用する能力を欠失していることが示された。この発見により、MN結合タンパク質をコードするcDNAの発現クローニングおよびスクリーニングのためにKATO III細胞を使用することが可能になった。
【0140】
pBK-CMVベクター中のcDNA発現ライブラリを、密性HeLa細胞から調製し、KATO III細胞のトランスフェクションに使用した。第1ラウンドのスクリーニングのために、KATO III細胞をエレクトロポレーションによりトランスフェクションした。二日間のインキュベーション後、リガンド発現細胞をMN-Fcタンパク質に結合させ、その後ビオチンと化合したプロテインAに結合させ、最後にストレプタビジン被覆された磁気ビーズにより選択した。プラスミドDNAを選択された細胞から抽出し、大腸菌に形質転換した。個々の大腸菌コロニーを選択し、8−10クローンのプールを調製した。プールからのプラスミドDNAを単離し、第2ラウンドのスクリーニングに使用した。
【0141】
第2ラウンドのスクリーニングにおいて、KATO III細胞をDEAEデキストラン法によりトランスフェクションした。MN結合タンパク質についてcDNAを含有するプールを同定するために、トランスフェクションされた細胞へのMN-Fcの結合に基づくELISA法、およびペルオキシド標識されたプロテインAを使用する検出を使用した。MN-Fcを結合する能力によりプールを選択する。
【0142】
第3ラウンドのスクリーニングにおいて、選択されたプールの個々の細菌コロニーから単離されたプラスミドDNAをKATO III細胞にトランスフェクションする。トランスフェクションされた細胞を、MN-Fcと結合させ、前記のようにプロテインAにより検出する。そのような例としてのスクリーニングは、推定MNタンパク質パートナーをコードするcDNAを含有するクローンを同定すると予想される。その後前記クローンを配列決定し、細胞接着アッセイにより発現産物をMNタンパク質に結合すると確かめた。(ファー−ウェスタンブロット、共同沈降等。)次に発現産物へのMabを産生するハイブリドーマを調製し、これによりMNのタンパク質パートナーの生物学的特徴の分析が可能となる。
【0143】
MN特異的抗体の調製
「抗体」という用語は、抗体全体、並びに抗体の生物活性断片、好ましくは抗原結合領域を含有する断片を含むと定義される。さらに抗体の定義には、MNタンパク質および他の組織特異的抗原に特異的な二重特異性抗体が含まれる。
【0144】
Zavada et al.,国際公開第93/18152号および同第95/34650号には、MN特異的抗体を産生する方法、およびM75、MN7、MN9、およびMN12モノクローナル抗体として典型的なMN特異的抗体を調製する工程が詳細に記載されている。好ましいMN抗原エピトープには、以下のものが含まれる:aa 62-67(配列番号10);aa 61-66、aa 79-84、aa 85-90およびaa 91-96(配列番号98);aa 62-65、aa 80-83、aa 86-89およびaa 92-95(配列番号99);aa 62-65、aa 80-84、aa 86-90およびaa 92-96(配列番号100);aa 63-68(配列番号101);aa 62-68(配列番号102);aa 82-87およびaa 88-93(配列番号103);aa 55-60(配列番号11);aa 127-147(配列番号12);aa 36-51(配列番号13);aa 68-91(配列番号14);aa 279-291(配列番号15);およびaa 435-450(配列番号16)。実施例2は、好ましいMN抗原エピトープに関するさらなる記載を提供する。
【0145】
二重特異性抗体。二重特異性抗体を、所望の特性の二つの抗体を化学的に結合することにより産生できる。二重特異性MAbは、好ましくは2つのハイブリドーマの体細胞ハイブリダイゼーションにより作製することができる。標的MNタンパク質および他の抗原に対する二重特異性MAbは、MN特異的MAbを産生するハイブリドーマと他の抗原に特異的なMAbを産生するハイブリドーマとを融合することにより産生できる。例えば、MN特異的MAbを産生するハイブリドーマと抗細胞障害細胞抗体を産生するハイブリドーマとの融合により形成される細胞(クアッドローマ(quadroma))は、親抗体の特異性を有するハイブリッド抗体を産生するであろう。[例えば、Immunol. Rev.(1979); Cold Spring Harbor Symposium Quant. Biol., 41: 793(1997); van Dijk et al., Int. J. Cancer, 43: 344-349(1989)参照。]したがって、MN特異的MAbを産生するハイブリドーマを、例えば抗T3抗体を産生するハイブリドーマと融合して、細胞障害T細胞の標的をMN発現腫瘍細胞にすることができるMN/T3二重特異性抗体を産生する細胞系を生ずることができる。
【0146】
治療および/または想像上の使用について好ましくは、抗体は生物活性抗体断片、好ましくは遺伝子操作された断片、より好ましくはVHおよび/またはVL領域からの遺伝子操作された断片、およびさらに好ましくはその超可変部を含む断片である。しかしながら、ある治療上の使用について、MNタンパク質および細胞障害性細胞を標的とする二重特異性抗体が好ましい。
【0147】
エピトープ
エピトープを含有するペプチドに対するMAbの親和性は、状況、例えばペプチドが短い配列(4-6 aa)であるか、またはそのような短いペプチドの一端または両端により長いaa配列が位置するか、またはエピトープについてのテストにおいてペプチドが溶解状態であるかまたは表面で不朽化されているかに依存する。したがって、MN特異的MAbについてここに記載される代表的なエピトープはMAbを使用する状況で変化するということは当業者は分かるであろう。
【0148】
「MNタンパク質/ポリペプチドのエピトープに対応する」という用語は、例えば天然に発生するタンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列突然変異が抗原性であり、腫瘍性の病気および/または抗腫瘍形成性の効果に対して保護免疫を与えるという実用的な可能性を含むと理解されるであろう。可能性のある配列突然変異には、無制限にアミノ酸置換、伸長、欠失、切断、挿入およびその組合せが含まれる。そのような突然変異は、それを含有するタンパク質またはポリペプチドが免疫性であり、そのようなポリペプチドまたはタンパク質により誘導される抗体が天然発生MNタンパク質およびポリペプチドと十分な程度に交差反応しワクチンとして投与された場合に保護免疫および/または抗腫瘍形成活性を提供する場合、本発明の範囲内であると考えられる。
【0149】
M75 MAbについてのエピトープ
M75エピトープは、MNタンパク質のプロテオグリカンドメイン内の6アミノ酸[aa 61-96(配列番号97)]の6倍直列反復内の少なくとも二つのコピー中に存在すると考えられる。エピトープは状況に依存することを示す例としてのペプチドには、直列反復からの以下のペプチドが含まれてもよい:EEDLPS(配列番号10;aa 62-67);GEEDLP(配列番号98;aa 61-66;aa 79-84;aa 85-90;aa 91-96);EEDL(配列番号99;aa 62-65;aa 80-83;aa 86-89:aa 92-95);EEDLP(配列番号100;aa 62-66;aa 80-84;aa 86-90;aa 92-96)EDLPSE(配列番号101;aa 63-68);EEDLPSE(配列番号102;aa 62-68);およびDLPGEE(配列番号103;aa 82-87;aa 88-93)。
【0150】
図1に示されるMNタンパク質のECドメインについての推定aa配列からの3つの合成ペプチドを調製した。これらの合成ペプチドは、aa 51-72(配列番号104)、aa 61-85(配列番号105)およびaa 75-98(配列番号106)により示される。これらの合成ペプチドはそれぞれ、モチーフEEDLP(配列番号100)を含有し、M75 MAbと反応性であることが示された。
【0151】
他のエピトープ
Mab MN9。モノクローナル抗体MN9(Mab MN9)は、上述のようにMab M75と同じエピトープに反応する。Mab M75と同様に、Mab MN9は、GST-MN融合タンパク質および天然MNタンパク質の両方を同じように認識する。
【0152】
Mab MN9に対応するMabを、GST-MN融合タンパク質のようなMNタンパク質/ポリペプチドに対して、Mab M75およびMN9についてエピトープを示すペプチドに対して調製された一群のmabをスクリーニングすることにより再生可能に調製できる。あるいは、Novatopeシステム[Novagen]または寄託されたMab M75との競合を使用して、Mab M75およびMN9に比較可能なmabを選択できる。
【0153】
Mab MN12。モノクローナル抗体MN12(Mab MN12)を、ATCC HB 11647の下で寄託されたマウスリンパ球性ハイブリドーマMN 12.2.2により産生する。Mab MN12に対応する抗体もまた、Mab MN9についての上述される方法と同様に、MNタンパク質/ポリペプチドに対して、Mab MN12についてエピトープを示すペプチドに対して調製された一群の抗体をスクリーニングすることにより作製できる。該ペプチドは、図1のaa 55−aa 60である。[配列番号1]。Novatopeシステムはまた、前記エピトープに特異的な抗体を発見するために使用できる。
【0154】
Mab MN7。モノクローナル抗体MN7(Mab MN7)を、上述のように非グリコシル化GST-MNに対して調製されたmabから選択した。これは、図1のMNタンパク質のaa 127からaa 147までのアミノ酸配列[配列番号12]により示されるエピトープを認識する。Mab MN9およびMN12について上述される方法と同様に、Mab MN7に対応するmabは、配列番号12を有するペプチドと反応性のMNタンパク質/ポリペプチドに対して調製されたmabを選択することにより、または規定される代わりの方法により調製できる。
【0155】
MN特異的細胞内発現抗体−細胞表面へのMNタンパク質の輸送を遮断するためのMN特異的抗体の細胞内発現による標的腫瘍の殺傷
抗原をコードする遺伝子を操作して、抗原結合ドメインを細胞内で発現させることができる。小胞体の管腔を標的とするそのような「細胞内発現抗体」は、細胞表面への形質膜タンパク質の輸送を抑制するための簡単で効果的な機構を提供する。[Marasco, W.A., “Review-Intrabodies: turning the humoral immune system outside in or intracellular immunization,” Gene Therapy, 4: 11-15(1997); Chen et al., “Intracellular antibodies as a new class of therapy,” Hum. Gene Ther., 5(5): 595-601(1994); Mhashilkar et al., EMBO J., 14: 1542-1551(1995); Mhashilkar et al., J. Virol., 71: 6486-6494(1997); Marasco(Ed.), Intrabodies: Basic Research and Clinical Gene Therapy Applications, (Springer Life Sciences 1998; ISBN 3-540-64151-3](細胞内発現抗体を使用した世界中の実験室からの前臨床試験を概要する); Zanetti and Capra(Eds.), “Intrabodies: From Antibody Genes to Intracellular Communication,” The Antibodies: Volume 4, [Harwood Academic Publishers; ISBN 90-5702-559-0(Dec. 1997); Jones and Marasco, Advanced Drug Delivery Reviews, 31(1-2): 153-170(1998); Pumphrey and Marasco, Biodrugs, 9(3): 179-185(1988); Dachs et al., Oncology Res., 9(6-7); 313-325(1997); Rondon and Mar
asco, Ann. Rev. Microbiol., 51: 257-283(1997)]; Marasco, W.A., Immunotechnology, 1(1): 1-19(1995); and Richardson and Marasco, Trends in Biotechnology, 13(8): 306-310(1995).]
MN特異的抗体は、MNタンパク質の成熟および細胞表面への輸送を妨げ、したがってMNタンパク質が腫瘍形成過程において作用するのを妨げる。MNのEC、TMまたはICドメインに方向付けられた抗体は、この点で有用である。MNタンパク質は、ECドメインからICテールへシグナルを輸送し、細胞内の他の細胞内タンパク質と結合させることにより、情報伝達を媒介すると考えられる。MN特異的細胞内発現抗体は、該結合を破壊し、MNの作用を混乱させる。
【0156】
MNタンパク質の機能を不活性化することにより、腫瘍細胞を形質転換されていない表現型に転換することができる。[Marasco et al.(1997), supra.]ここに示されるように、頸部癌細胞中のMN cDNAのアンチセンス発現により、MNタンパク質が無くなることによりトランスフェクションされた細胞の成長が抑制されることが示された。同様に、細胞表面へのMNタンパク質輸送の抑制は同様の効果を有することが予想される。M75 MAbの様々の領域のクローニングおよび細胞内発現を研究して、この予想を確かめるべきである。
【0157】
好ましくは、細胞内で産生されるMN特異的抗体は、一本鎖抗体、特に一本鎖の可変領域断片またはsFvであり、重鎖および軽鎖可変領域は、単一のポリペプチドとして合成され、柔軟なリンカーペプチド、好ましくは(Gly4-Ser)3[配列番号116]により分離される。
【0158】
MN特異的な細胞内で産生される抗体を治療において使用して、MNタンパク質を異常に発現する新生物発生前/腫瘍性細胞を、発現コントロール配列に機能可能に結合したMN特異的抗体可変領域断片をコードする核酸を含むベクターでトランスフェクションすることにより、新生物発生前/腫瘍性の病気を治療することができる。好ましくは前記発現コントロール配列には、MN遺伝子プロモーターが含まれる。
【0159】
MN特異的抗体またはMN発現腫瘍細胞を標的にするペプチドを使用する抗体媒介遺伝子導入
DNAを充填しその負電荷を中和するポリケーション(polycation)である、ポリリシンに結合したMN特異的抗体またはペプチドは、生物学的に活性のあるDNAをMN発現腫瘍細胞中に有効に供給すると予想される。MNプロモーターのコントロール下で充填DNAにHSVtkが含まれる場合、このシステムはMN発現腫瘍細胞中のみにおける認識および発現について二重の特異性を有するであろう。充填DNAはまた、サイトカインをコードしてCTL活性を誘発できる、または他の生物学的活性分子をコードできる。M75 MAb(または、例えば一本鎖抗体として、またはその可変領域として)は、そのようなMN特異的抗体の例である。
【0160】
以下に記載する実施例は例示のためのものであり、如何なる意味においても本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0161】
実施例1−MNタンパク質による哺乳類細胞の一過性形質転換
本実施例1においては、(1)発現ベクター内に挿入されたMN - cDNA を用いてヒトまたはマウスの細胞にトランスフェクトすることによって生じる生物学的変化を特に腫瘍発生性におけるMN タンパク質の関与という点から調査し;(2)MN タンパク質が炭酸脱水酵素(炭酸デヒドラターゼ)活性を発揮するか否かを確認し、また、そのような活性は細胞の形態的形質転換と関係があるのか否かを確認し;さらに(3)MN タンパク質が細胞接着分子(CAM)であるか否かを試験した。
【0162】
概要
方法:MN - cDNA を3種類の発現ベクターに挿入し、これをヒトまたはマウスの細胞へのトランスフェクトに用いた。MNタンパク質は、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ(放射免疫検定法)またはイムノペルオキシダーゼ染色によって検出し、これら全ての試験においてMN 特異的モノクローナル抗体であるM75(MAb M75)を用いた。炭酸脱水酵素活性は、CO 2 雰囲気下、カルボネート(炭酸)緩衝液の酸性化速度によって測定した。
【0163】
結果:(1)MN - cDNA を用いてトランスフェクトした細胞(ヒトCGL - 1細胞およびマウス NIH3T3 細胞)は形態的形質転換を示したが、4〜5週間後には通常の表現型に戻っていた。(2)この復帰は、MN 挿入体の消失、沈黙(サイレント化)または突然変異によるものではなかった。(3)MN タンパク質は炭酸脱水酵素活性を有しており、これはアセタゾールアミドによって阻害することができるが、炭酸脱水酵素活性の阻害は形質転換に影響を与えなかった。(4)MNタンパク質は細胞と細胞との接触に関与する接着タンパク質である。
【0164】
背景
本実施例は、レトロウイルス由来の発現ベクターに挿入したMN - cDNA を用いた哺乳類細胞の形質転換に関する。そのようなベクターは、細胞性DNA への効率的かつ安定的な組み込み、ならびにMN タンパク質の持続的発現に適している。このような構築体を用いてトランスフェクトした細胞は形態的形質転換を示したが、一定期間が経過した後に通常の表現型に戻ってしまった。
【0165】
アセタゾールアミドを含むスルホンアミド類は、既知の炭酸脱水酵素に対する非常に強力な阻害剤である(マレン(Maren)およびエリソン(Ellison)、Mol. Pharmacol., 3: 503 - 508 (1967))。アセタゾールアミドに関して、MN - 炭酸脱水酵素も阻害するか否か、もし阻害するのであれば、酵素が阻害されることによって細胞の形質転換に影響を与えるか否かを調べた。
【0166】
MN タンパク質が細胞間の直接相互作用に関与していると考えられていることについてはいくつかの理由が挙げられる。A)これまでの知見から、MNタンパク質は、エンベロープを有するウイルスの表面糖タンパク質(これが細胞表面に存在するレセプターへのウイルスの接着を媒介する)と機能的に類似していることが示されており、MN タンパク質は、水疱性口内炎ウイルスの多様な表現型のビリオンの形成に関与していた。B)高密度充填単層の状態で増殖中のHeLa 細胞においてMN タンパク質の発現が誘導されることから、細胞間の直接相互作用に関与していることが示唆された。C)最後に、MN タンパク質とレセプターであるチロシンホスファターゼβとは構造的に類似しており、後者はさらにプロテオグリカンおよび炭酸脱水酵素ドメインを有し、これらのドメインは、発達中の神経系の細胞間の直接接触を媒介する(ペレス(Peles)ら、Cell , 82: 251 - 260 (1995))。故に、MN タンパク質が細胞表面のレセプターに結合するか否かについて調べたところ、結合が生じたことから、明らかに陽性であった。
【0167】
材料および方法
細胞系:本実施例において使用した細胞は次の通りである:CGL - 1およびCGL - 3 (それぞれ、非腫瘍発生性および腫瘍発生性のHeLa x 繊維芽細胞ハイブリッド)(スタンブリッジ(Stanbridge)ら、Somat. Cell Genet., 7: 699 - 712 (1981))、マウス細胞系NIH3T3 、HeLa 細胞ならびにサルのVero 細胞。NIH3T3細胞は非常に低密度で播種し、1個の細胞由来のコロニーを得た。最も正常な状態を呈していたコロニーであったサブクローン2を取り出し、本実施例に報告している実験に使用した。
【0168】
発現ベクター
MN - cDNA の全長はpBluescript のサブクローンから得た(パストレック(Pastorek)ら、Oncogene, 9: 2877 - 2888 (1994))。後で行う遺伝子の発現を減弱すると考えられた5’および3’の非コード配列を除去するため、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。5’プライマーであるTAGACAGATCTACGATGGCTCCCCTGTGCCCCAG(配列番号88)には翻訳開始部位およびBg1 II クローニング部位を含んでおり、3’プライマーである ATTCCTCTAGACAGTTACCGGCTCCCCCTCAGAT (配列番号89)には停止コドンおよびXba I クローニング部位を含んでいる。反応においては、MN - cDNA の全長を鋳型とし、Pfu DNA Polymerase (ストラタジーン(Stratagene)社、米国カリフォルニア州ラホーヤ)を用いた。
【0169】
PCR産物をシークエンスし、鋳型と一致することを確認した。突然変異は起こっていなかった。MN コード配列を1個有するPCR産物を3種類のベクターに挿入した。1.pMAMneo (クロンテック(Clontech)社、米国カリフォルニア州パロアルト)−このプラスミドはMMTV長末端反復配列(LTR)プロモーターによって駆動されるデキサメタゾン誘導性の発現を行い、抗生物質であるジェネティシン(G418)含有培地中における形質転換体の選択に用いるネオマイシン耐性遺伝子を含む。2.レトロウイルス由来の発現ベクターpGD(ダレー(Daley)ら、Science, 247: 824 - 829 (1990);ニューヨーク・ケンブリッジのデイヴィッド・バルティモア(David Baltimore)博士から供与)−このベクターは、MLV−LTRプロモーターおよび抗生物質G418による選択用のネオマイシン耐性遺伝子を含む。3.ワクシニアウイルス由来の発現ベクターpSC11(チャクラバルティ(Chakrabarti)ら、Mol. Cell Biol., 5: 3403 - 3409 (1985))。サンブルック(Sambrook)ら(編)「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning : A Laboratory Manual)」第2版(コールドスプリングハーバーラボラトリープレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)社、(1989年))の記載に従い、リン酸カルシウム沈澱法によってトランスフェクトを行った。
【0170】
ワクシニアウイルス株Praha クローン13を親ウイルスとして用いた(クティノヴァ(Kutinova)ら、Vaccine, 13: 487 - 493 (1995))。ワクシニアウイルス組換え体は一般的な方法(パークス(Perkus)ら、Virology, 152 : 285 - 297 (1986))に従って調製した。組換えウイルスを選択し、5’−ブロモデオキシウリジン(100μg/ml)の存在下、チミジンキナーゼを含まないラットのRAT2 細胞中でプラーク精製を2回行った(トップ(Topp)ら、Virology, 113: 408 - 411(1981))。5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X - Gal)(200μg/ml)を含む寒天を重ねることにより、青色のプラークを確認した。
【0171】
CA アッセイ
炭酸脱水酵素活性はマイクロ法(ブリオン(Brion)ら、Anal. Biochem., 175: 289 - 297(1988))によって測定した。その原理は、カルボネート(炭酸)緩衝液の酸性化に要する時間を測定することによってCO 2 +H 2 O →H 2 CO 3 の反応速度を求めるものであり、このときpH指示薬としてフェノールレッドを用いる。この反応は酵素不在下においても進行し、t 0 =対照時間とする(60秒に設定した)。炭酸脱水酵素は酸性化に要する時間(t)を短縮し、1ユニットの酵素活性とは、反応時間が対照時間の1/2になる(t/t 0 =1/2)活性をさす。
【0172】
本実験においては、ワクチニア−MN 構築体を感染させたVero 細胞が細胞変性効果(CPE)を発現した後のRIPA緩衝液(1%のトライトン(Triton)X - 100 、0.1%のデオキシコレート、1mM のフッ化フェニルメチルスルホニル、200トリプシン阻害ユニット/mlのトラシロール(Trasylol)(PBS溶液、pH7.2)による抽出物から得たMab M75 を用いてMN タンパク質の免疫沈降を行い、「からの」ワクチニアを用いて同様な操作を行って得た抽出物を対照として用いた。次に、MN+抗体コンプレックスをプロテインA−スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)細胞に吸着させ(ケスラー(Kessler), S. W.ら、J. Immunol., 115: 1617 - 1624(1975))、PBSを用いて2回、1mM のカルボネート緩衝液(pH8.0)を用いて1回洗浄した。同じ緩衝液中に沈殿物を再懸濁し、反応混合物に加えた。アセタゾールアミド(シグマ(Sigma)社)を用いて炭酸脱水酵素阻害を調べた(マーレン(Maren)およびエリソン(Ellison)、同上)。免疫沈降に使用した感染細胞抽出物中の総タンパク質濃度はローリー(Lowry)法によって測定し(ローリー(Lowry)ら、J. Biol. Cherm., 193: 265 - 275(1951))、MN タンパク質濃度はザヴァダ(Zavada)らの記載(Int. J. Cancer 54: 268 - 274(1993))に従い、競合ラジオイムノアッセイによって測定した。
【0173】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロットならびに125 I でラベルしたM75およびオートラジオグラフィーを用いたブロットの検出は従来法(パストレコヴァ(Pastrekova)ら、Virology, 187: 620 - 626(1992);ザヴァダ(Zavada)ら、同上)に従って行った。
【0174】
接着アッセイ
接着アッセイ(ホフマン(Hoffman), S.、「細胞接着アッセイ(Assays of cell adhesion)」(「細胞間相互作用(Cell - cell Interaction)」(スティーヴンソン(Stevenson)ら編)より、PP. 1 - 30(オックスフォード大学出版部(Oxford University Press)内IRLプレス(IRL Press)、オックスフォード、ニューヨーク、東京、1992年)については、MN タンパク質(アフィニティー精製したpGEX - 3X MN)(ザヴァダ(Zavada)ら、同上)の25μlのアリコートまたは同量の対照タンパク質を直径5cmの細菌用ペトリ皿に入れ、室温で2時間結合させた。この操作により、直径4〜5mmのタンパク質に覆われた円形の領域が得られた。50 mM のカルボネート緩衝液(pH9.2)を用いてMN タンパク質を10μg/mlに希釈した。接着した対照タンパク質パッチについても同様に調製した。対照タンパク質としては、コラーゲンのI 型およびIV 型、フィブロネクチン、ラミニンならびにゼラチン(シグマ(Sigma)社製品)が含まれており、メーカーの指示に従って希釈および吸着を行った。FCSおよびBSAも用いた。液体を吸引除去した後、ペトリ皿をPBSで2回洗浄し、5%FCS添加MEDM を満たして1時間放置した。5%FCS添加MEDM 5ml中に5×105 個の細胞を含むように細胞をペトリ皿に播種し、37℃で一晩インキュベートした。プレートをPBSで洗浄し、接着した細胞をホルマリンで固定し、さらにメタノールで後固定してギムザ(Giemsa)染色を行った。
【0175】
結果
1.MN - cDNA 感染CGL1 細胞の形質転換および復帰
MN タンパク質の発現はHeLa x 繊維芽細胞ハイブリッドの腫瘍発生性と相関していることがわかっている(ザヴァダ(Zavada)ら、同上)ため、はじめに、非腫瘍発生性ハイブリッドであるCGL1細胞について調べた。pMAM.MN構築体を用いてトランスフェクトし、ジェネティシン(Geneticin)を用いて選択を行ったCGL1 細胞は、形質転換の程度に応じてコロニーを形成したが、正常と思われるものも存在した。正常CGL1細胞には接触阻害があり、平行方向に増殖するが、形質転換細胞では非常に高密度のコロニーを形成し、接触阻害の消失を示していた。そのようなコロニーは本来のCGL1細胞よりも増殖が遅かった。
【0176】
サブクローニング後、形質転換コロニーから単離した細胞を復帰細胞と隔離した。復帰は漸次的、段階的過程を経て進行し、復帰の程度が異なるコロニーが存在していた。2回継代の後、全ての細胞集団が形態的に正常CGL1細胞と区別できるようになった。これは、復帰細胞の存在および形質転換細胞よりも増殖が早いという復帰体の選択上の特徴によるものであった。繰り返し実験を行ったにもかかわらず、安定した形質転換細胞クローンはひとつも得られなかった。「からの」pMAM 対照プラスミドを用いてトランスフェクトしたCGL1細胞においては形質転換コロニーは全く見出されなかった。5μg/mlのデキサメタゾンを添加した培地中で7日間CGL1細胞+pMAM.MN 復帰体を増殖させることにより、MN タンパク質の産生は増加したが、細胞の形態は形質転換型に戻らなかった。
【0177】
2.復帰体からの形質転換型MN の救出
MN 形質転換細胞が正常表現型に復帰することに関しては少なくとも5つの原因があると考えられる:A)MN 挿入体の消失;B)MN 挿入体のサイレント化(例えば、メチル化など);C)MN 挿入体の突然変異;D)MN タンパク質の形質転換活性を中和する物質をコードしているサプレッサー遺伝子の活性化;E)MN 結合タンパク質の消失。これらの可能性の中から原因を追及するため、以下の実験を計画した。
【0178】
マウス白血病ウイルス(MLV)由来のベクターであるpGDにMN - cDNA を挿入した。これを用い、MN 遺伝子およびウイルス構造タンパク質をコードしている遺伝子の代わりに選択的マーカーであるネオマイシン耐性遺伝子を含む欠損ウイルスを作出した。この構築体を用いてマウスNIH3T3 細胞にトランスフェクトした。ジェネティシン(Geneticin)添加培地中において、細胞は、形質転換が強度に生じたものからほぼ正常と思われるものまで幅広い表現型のコロニーを形成した。形質転換コロニーの全ておよび正常コロニーの50%においてMN タンパク質を発現していた。正常なNIH3T3 細胞とは対照的に、形質転換体は軟寒天中においてもコロニーを形成することができ、このことは、細胞形質転換の特徴である足場依存性の消失を反映するものである。継代を重ねるにつれて形質転換型コロニーから単離した細胞は正常な形態に戻り、同時に軟寒天中におけるコロニー形成能を消失したが、MN タンパク質は発現していた。復帰体においてMN タンパク質が持続的に存在することから、上述の原因A)およびB)、すなわち、MN 遺伝子の消失またはサイレント化が復帰の原因であるとする考えは除外された。
【0179】
他の3つの原因の中から原因をつきとめるため、生きた複製コンピテントMLV細胞に復帰体をスーパーインフェクト(superinfect)した。このウイルスは、如何なる形態的変化をも発現することなくNIH3T3 細胞中で増殖し、pGD.MN 構築体に対しては「ヘルパー」として作用する。MLV感染からの復帰体由来のウイルス子孫は、人工的なウイルスコンプレックス[ pGD.MN + MLV ] と表される。この構築体には2種類のビリオンが存在する:ひとつは標準型のMLV粒子であり、もうひとつは「ヘルパー」ウイルスによって提供された構造タンパク質に包囲されたpGD.MN ゲノムを有するビリオンである。このウイルスコンプレックスは新鮮NIH3T3 細胞に対して感染性であり、該細胞に対して再び形態的形質転換および軟寒天中でのコロニー形成能を誘導した。
【0180】
pGD.MN をトランスフェクトしたNIH3T3 細胞とは対照的に、[ pGD.MN + MLV ] コンプレックスを感染させた細胞のコロニーは全て、ジェネティシン(Geneticin)存在下で増殖し、一様に形質転換しており、MN タンパク質を含有していた。この感染−形質転換−復帰のサイクルを3回繰り返して行ったが、同様な結果が得られた。このことから、原因C)、すなわちMN - cDNA の突然変異が復帰の原因であるとする考えは除外された。
【0181】
正常NIH3T3 細胞は、接触阻害により、一様な細胞からなる単層を形成し、これはMab M75 およびイムノペルオキシダーゼによっては染色されない。[ pGD.MN + MLV ] コンプレックスを感染させた細胞は明らかに形質転換を起こしていた:該細胞は無秩序なパターンで増殖し、接触阻害が消失していることを示した。アポトーシスの徴候を示した細胞もあった。2回継代後には、復帰体の高頻度出現およびそれらの選択的優位性(増殖の早さおよび平板培養の効率の良さ)の結果として、細胞は全体的に本来の表現型に戻っていた。実際には、接触阻害の強度が強いため、元のNIH3T3 細胞に比べて復帰体の飽和密度が若干低いように見えた。
【0182】
対照NIH3T3 細胞はMN タンパク質を全く含んでいなかった(ウェスタンブロットより)が、形質転換細胞および復帰体はどちらも同じ量、同じ比率でMN タンパク質の54 kDa および58 kDa のバンドを含んでいた。非還元ゲル中においては、MN タンパク質は153kDaのオリゴマーの形で存在していた。競合RIA による結果同様、形質転換細胞および復帰体においては、総タンパク質1mgあたり約40 ng のMN タンパク質が検出された。
【0183】
3.炭酸脱水酵素活性およびその阻害
炭酸脱水酵素ドメインはMN タンパク質のかなりの部分を占めていることから(図8参照)、この部分が本当に酵素活性を有するのか否かを確認するための試験を行った。ワクチニアMN 構築体を感染させたVero 細胞をMN タンパク質源として用いたが、この細胞は本実験に使用した他の細胞よりも多量のMN タンパク質を含んでいた。細胞をRIPA 緩衝液で抽出し、MN タンパク質を濃縮し、MAb M75 およびSAC を用いて沈降させることにより部分精製した。免疫沈降物についてCA 活性測定を行った。沈降物78μl中に1ユニットの酵素が含まれていた。抽出物から総タンパク質濃度およびMN タンパク質濃度を求めたところ、酵素1ユニットはMN タンパク質145 ng に相当し、あるいは総タンパク質として0.83mgに相当することがわかった。対照ウイルスを感染させたVero 細胞由来の免疫沈降物には酵素活性がなかった。MN 炭酸脱水酵素の活性はアセタゾールアミドによって阻害され、薬剤濃度が1.53×10-8 Mの時に酵素活性が50%低下した。
【0184】
予備実験から、HeLa 細胞またはNIH3T3 細胞の過密培養においては、10 -5 〜10 -3 Mの濃度のアセタゾールアミドに対して3日間寛容性を示し、この間、如何なる毒性の徴候も如何なる細胞形態への影響も示さなかった。希薄培養においては10 -5Mのアセタゾールアミドは細胞増殖を阻害しなかったが、10 -4 Mではある程度の阻害を起こした。従って、[ pGD.MN + MLV ] コンプレックスを用いて新規に形質転換を行ったNIH3T3 細胞に10 -5Mのアセタゾールアミドを添加した。4日間インキュベートした後、コロニーを固定し、染色した。アセタゾールアミドの存在下で増殖した細胞と不在下で増殖した細胞との間に差異は見られず、いずれも、正しく形質転換したNIH3T3 細胞を判別することができなかった。従って、炭酸脱水酵素の酵素活性はMN タンパク質の形質転換活性と関連しているわけではない。
【0185】
4.細胞接着アッセイ
MN タンパク質が細胞接着分子(CAM)であるか否かを確認するため、プラスチック製の細菌用ペトリ皿(組織培養用の処理を行っていないもの)を用いて接着アッセイを行った。皿を結合タンパク質で被覆(コート)しない限りは、細胞がそのような皿の表面に接着することはない。NIH3T3 細胞は吸着MNタンパク質のパッチに接着し、広がり、増殖した。MN タンパク質でコートした領域外に接着した細胞はごくわずかであった。
【0186】
変形を加えたその他の実験から、吸着コラーゲンI 型およびIV 型、フィブロネクチンならびにラミニンのパッチ上においてもNIH3T3 細胞は接着し、広がった。吸着ゼラチン、FCSおよびBSA のパッチにはNIH3T3 細胞は接着しなかった。
【0187】
CGL1、HeLa およびVero 細胞もMN 細胞に接着したが、3種類の白血病細胞系は接着を示さなかった。MN タンパク質の発現が盛んなCGL3細胞のMN タンパク質パッチへの接着はCGL1よりも弱かった。培地中に10 -4 Mのアセタゾールアミドが存在していても細胞接着への影響はなかった。
【0188】
接着の特異性を確認するため、MN タンパク質をペトリ皿に塗布する前に、MAb M75 (MN に対するモノクローナル抗体)またはMAb M67(無関係な抗原に対するモノクローナル抗体)(パストレコヴァ(Pastrekova)ら、同上)を結合させたSAC にMN タンパク質を吸着させた。SAC - M75 コンプレックスを用いた吸着においては細胞結合活性は完全に阻害されたが、SAC - M67 コンプレックスを用いた吸着においては全く影響がなかった。
【0189】
細胞接着に関する追加結果
TMおよびIC 配列が欠失したMN - cDNA を有するVV を用いて感染させた5ET1 細胞(HeLa x 繊維芽細胞ハイブリッドであり、MN タンパク質を大量に発現するCGL3細胞のアナログ)またはVero 細胞から、TMおよびIC セグメントが消失した短MN が培地に放出された。放出されたMN タンパク質を培地から精製し、細胞接着アッセイを行った。吸着完全型MN タンパク質のパッチ上においてのみ細胞は接着し、広がり、増殖し、TM およびIC ドメインを欠くMN タンパク質のパッチ上においてはそのような作用は起こらなかった。その他のいくつかの接着分子に関しても同様な結果が得られている。多様な細胞(NIH3T3 , CGL1 , CGL3 , HeLa , XC など)がMN タンパク質パッチに接着したことから、MN レセプターは脊椎動物細胞の表面に共通して存在していることが示唆された。
【0190】
さらに、ニトロセルロース膜上に作成した細胞外マトリックスタンパク質または対照タンパク質のドットを用いて試験を行った。MN タンパク質溶液を用いてドットブロットを処理した。MAb M75 を用いて結合MN タンパク質を検出した。MN タンパク質はコラーゲンI 型およびIV型のドットには吸着したが、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチンまたはBSA には吸着しなかった。
【0191】
治療への応用の展望 :腫瘍タンパク質またはそれらと相互作用する分子を標的として用いる癌治療には、多数の新規な原理が含まれている(メンデルソーン(Mendelsohn)およびリップマン(Lippman)、「癌の分子細胞生物学に関する原理:増殖因子(Principles of Molecular cell biology of cancer)」(デヴィータ(De Vita)ら編、「癌:腫瘍学の原理および実際(Cancer: principles and practice of oncology)」、pp. 114 - 133 、第4版、フィラデルフィア州、リピノコット(Lippinocott)社(1993));デヴィータ(De Vita)ら編、「癌の生物学的治療(Biologic therapy of cancer)」第2版、フィラデルフィア州、リピノコット(Lippinocott)社(1995))。MN タンパク質およびそのリガンド(またはレセプター)のうちの少なくともいくつかについては、そのような目的に特に適していると考えられる。
【0192】
実施例2−MN の結合部位の確認
MN タンパク質は腫瘍関連性の細胞接着分子(CAM)である。結合部位を確認するため、MN タンパク質のN 末端ドメインに広がる一連のオーバーラップオリゴペプチドを合成した。N 末端ドメインはプロテオグリカンのそれと相同性であり、6個のアミノ酸からなる縦列反復配列を含む。
【0193】
基本的には実施例1に記載している細胞接着アッセイ法に従い、一連のオリゴペプチドについて試験を行った。合成オリゴペプチドを疎水性プラスチックの表面に固定し、細胞の接着、広がりおよび増殖を媒介するか否かを調べた。さらに、疎水性プラスチックの表面にコートした精製MN タンパク質への細胞(NIH3T3 , HaLa およびCGL1)の接着をオリゴペプチドまたは抗体が阻害するか否かも調べた。MN タンパク質がCA ドメインを保持しているため、スルホンアミドに共有結合したアガロースを用いてMN タンパク質をアフィニティー精製した。
【0194】
生物学的に活性な数種のオリゴペプチドが見出された:(i)プラスチック上に固定した場合、細胞(NIH3T3 , HaLa およびCGL1)の接着を媒介したもの;(ii)培地に添加した場合、細胞への接着について固定したMN タンパク質と競合したもの;(iii)培地中においてはTCプラスチックへの細胞の接着を阻害しないが、細胞同士の接着および細胞間接触体の形成を阻止したもの;(iv)固定したMN タンパク質および活性ペプチドをMAb M75 を用いて処理することにより、細胞への親和性を消失したもの;(v)MN タンパク質の結合部位は、MAb M75 のエピトープと非常に関連があるかまたは同一であり、少なくとも2個のコピーは、MN タンパク質のプロテオグリカン様ドメイン内に存在し、6個のアミノ酸からなる縦列反復配列の6倍の範囲(アミノ酸番号61〜96 :配列番号97)に位置している。
【0195】
従って、外部に発現されたMN タンパク質は、正常な細胞間接触に介在することによって腫瘍形成に関与している可能性が高いと結論づけた。MN タンパク質の結合部位は、治療剤を設計するための有力な標的を表している。
【0196】
材料および方法
MN / CA IX のアフィニティクロマトグラフィー:その他のCAの精製 に関する記載(ファルクブリング(Falkbring)ら、FEBS Letters, 24: 229(1972))に従い、スルホンアミド−アガロースを用いた1回の吸着−溶出サイクルによってMN / CA IX を精製した。発明者らは、p−アミノエチルベンゼンスルホンアミド−アガロース(シグマ(Sigma)社)のカラムを使用した。MN / CA IX を吸着させたカラムをPBS(8.0 g/LのNaCl , 0.2 g/LのKCl , 0.2 g/LのKH 2 PO 4 , 1.15 g/LのNa 2 H PO 4 , pH 7.2)で十分に洗浄し、0.1 mMのアセタゾールアミド(シグマ(Sigma)社)を用いて溶出した。精製の全段階は0〜5℃、pH7.2、生理的塩濃度において行った。ザヴァダ(Zavada)らが記載しているように(Int. J. Oncol., 10: 857(1997))、MN / CA IXの完全なコード領域を挿入体として有するワクチニアウイルスを感染させたVero 細胞から、1%のトライトン(Triton)X-100を含むPBSを用いて完全型MN / CA IX +を抽出した。クロマトグラフィーを行う前に、抽出物をPBSで1:6に希釈し、1500×gで1時間遠心分離した。PCR用の3’下流プライマー(5’CGTCTAGAAGGAATTCAGCTAGACTGGCTCAGCA3’(配列番号117))以外は相同な構築体から切断型MN / CA IX ΔTMΔIC を産生した。MN / CA IX Δは培地に放出され、上述のように遠心分離を行った後にアフィニティー精製を行った。精製の全段階をドットブロットでモニターした。
【0197】
細胞および培地: 次の細胞系を使用した:HeLa 、CGL1=非腫瘍発生性のHeLa x 繊維芽細胞ハイブリッド、CGL3=該ハイブリッド由来の腫瘍発生性分離株、NIH3T3 細胞=マウス繊維芽細胞。これらの細胞の起源および増殖培地についてはザヴァダ(Zavada)ら、Int. J. Cancer, 54: 268(1993) およびザヴァダ(Zavada)ら、Int. J. Oncol., 10: 857(1997) に記載されている。発明者らはさらに、結腸直腸腫瘍由来の細胞系であるHT29(ATCC No. HBT - 38)も使用した。
【0198】
細胞接着アッセイ:アッセイの条件は基本的には実施例1の記載に従った。概説すると、50mM のモノ/ビカルボネート緩衝液(pH9.2)を用いて1μg/mlに調整した精製MN / CA IX の30μlを取り、直径5cmの細菌用ペトリ皿に入れて1.5時間吸着させた。つぎに、液体を吸引除去し、PBSを用いてペトリ皿を3回洗浄し、培養培地に50%のFCSを加えて30分間ブロックした。試験には2種類の変形を取り入れた。一つめは、ペトリ皿の底部全体を50%のFCSでブロックし、5mlの細胞懸濁液(105 個/ml)を播種した。一晩インキュベートした後、培養物をPBSで洗浄し、固定、染色した。もうひとつにおいては、MN / CA IX が吸着した部分のみをブロックし、MN / CA IX 吸着部の上に増殖培地(オリゴペプチドを添加したもの、対照においては非添加)に懸濁した細胞懸濁液30μlを加えた。インキュベーション後、洗浄および固定し、50mM のトリス(Tris)緩衝液(pH8.5)を用いて調整した0.5%のトリパンブルー(Trypan blue)を使用して1時間染色し、水で洗浄後、乾燥させた。接着した細胞が染色された部分を10%の酢酸で抽出し、この抽出物を96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダーを用い、波長630 nm における吸光度を測定した。
【0199】
ELISA :カルボネート緩衝液(pH9.2)を用いて10 ng/mlに調整した精製GST - MN (ザヴァダ(Zavada)ら、(1993)同上)をマキシソーブ・ストリップ(Maxisorb strips)(ヌンク(NUNC)社)に3時間吸着させた。洗浄、0.05%のツイーン20(Tween 20)PBS溶液を用いてブロック(1時間)し、抗体+抗原混合物を1ウェルあたり50μlずつ加えた。MAb M75 腹水の最終希釈は10-6 とした。M75 に対するペプチドの親和性に応じてペプチド濃度を変え、50%エンドポイントが確認できるようにした。これらの混合物を1.5時間吸着させ、ツイーン20(Tween 20)PBS溶液を用いて洗浄した。ペルオキシダーゼをコンジュゲートした抗マウスIgG(SwAM - Px (セヴァック(SEVAC)社、プラハ)を1:1000に希釈して結合抗体を検出した。発色反応においては、0.1Mのクエン酸緩衝液(pH5.0)で1mg / mlに調整したOPD(o−フェニレンジアミン二塩酸塩(シグマ(Sigma)社)を用いた。この中に最終濃度が0.03%になるようにH 2 O 2 を加えた。この反応系は、M75に競合する抗原および固定したGST - MN のエピトープに結合するペプチドについてアッセイすることができるように調整されている。
【0200】
ペプチド:本実験に使用したペプチドは、Boc / Bzl 方式を用い、固相法(メリフィールド(Merrifield)ら、「ペプチド:合成、構造および応用(Peptides: Synthesis, Structure and Applications)」pp. 93 - 169 、(グッテ(Gutte), B. 編)(アカデミック・プレス(Academic Press)社、サンディエゴ)(1995))によって調製した。ペプチド酸はPAM−樹脂を用い、ペプチドアミドはMeBHA−樹脂を用いて調製した。脱保護および樹脂からの分離は液体フッ化水素を用いて行った。C18RP HPLCカラムを用いてペプチドを精製し、アミノ酸分析およびFAB MS スペクトル測定によって特性判断を行った。
【0201】
ウェスタンブロット:PAGE ゲルから得られたMN / CA IX 抗原をPVDF膜(イモビロンP(Immobilon P)(ミリポア(Millipore)社))にうつし、続いて、M75、さらにSwAM - Px (上記参照)ならびにジアミノベンジジン(シグマ(Sigma)社)およびH 2 O 2 を用いて発色させた。ドットブロット用にはニトロセルロース膜を使用した。
【0202】
ファージディスプレイ:メーカーの指示に従い、Ph. D. - 7 ファージディスプレイペプチドライブラリキット(Ph. D. - 7 Phage Display Peptide Library Kit)(ニューイングランドバイオラブズ(New England Biolabs)社)をスクリーニングに使用した。ペプチド配列番号106 で96ウェルプレートをコートした。標的をコートしたプレートを用い、2×1011 個のファージを1時間インキュベートすることにより選別を行った。TBST(50 mM のトリス(Tris)−塩酸(pH7.5)、150 mM のNaCl 、0.1%のツイーン20(Tween 20))を用いて非結合ファージを洗い流し、M75抗体(2μg/100μlのTBS/ウェル)を用いて特異的に結合しているファージを溶出させた。溶出したファージを増幅させ、さらに追加の結合−増幅サイクルに供し、プール中の結合配列の割合を高めた。5サイクル実施後、個別のクローンを取り出し、増幅させ、T7シークエンシングキット(T7 sequencing kit)(ファルマシア(Pharmacia)社)を用いてシークエンスを行った。
【0203】
結果
MN / CA IX タンパク質のアフィニティクロマトグラフィー:他のCA に関して既に記載されているように(ファルクブリング(Falkbring)ら、同上)、MN / CA IX タンパク質の精製には、スルホンアミド−アガロースを用いたアフィニティクロマトグラフィーを行うことにした。この方法の長所は、簡便かつ迅速なことであり、全行程を非変性条件下で行うことができる。MN / CA IX タンパク質源としては、完全型MN / CA 9 cDNA 挿入体または切断型cDNA挿入体(膜貫通(TM)ドメインおよび細胞内(IC)ドメインが欠損している)を有するワクチニアウイルスベクターを用いた。
【0204】
吸着−溶出サイクルを1回行うことにより、比較的純粋なタンパク質が得られた:MN / CA IX+は54 kDa および58 kDa の2本のバンド、MN / CA IXΔは54.5 kDa および56 kDa の2本のバンドを示した。ウェスタンブロットにおいてこれらのタンパク質はMAb M75 と非常に強く反応した。ブロットにより、HeLa 、CGL3およびHT29由来の抽出物中には、ワクチニアウイルス構築体から精製したMN / CA IX+と同じ分子量の2本のバンドが存在することが明らかになった。
【0205】
MN / CA IXタンパク質への細胞の接着:疎水性プラスチック上に固定したMN / CA IXによって細胞の接着、広がりおよび増殖が可能になった。吸着緩衝液中の精製タンパク質濃度として1μg/mlに相当する非常に低濃度のMN / CA IXで十分にこの効果をもたらすことができた。他の細胞接着分子は10〜50倍の濃度で使用した。細胞接着試験においては完全型MN / CA IXのみが活性であり、切断MN / CA IXは細胞接着を全く支持しないかごく弱い接着活性を示しただけであり、細胞「忌避物質」として作用する例さえも観察された。
【0206】
固定したMN / CA IXのドットをMAb M75 と反応させることにより、MN / CA IXの細胞結合能が阻害されるが、MN / CA IXとは無関係のMAb M16 を対照として用いて反応させた場合には全く影響がなかった。M75によって細胞への結合が阻害されたことから、エピトープは、細胞レセプターに対するMN / CA IX の結合部位と同一または重複していることが示された。
【0207】
MAb M75 によって認識されるエピトープの決定:バクテリアベクターにおいて発現され、ウェスタンブロットによって確認したMN / CA 9 cDNA の細胞外部分の配列の一部を用いてあらかじめ行ったM75エピトープのマッピングによると、M75エピトープはPG内に存在していた。正確なマッピングを行うために発明者らが採用した方法は、15〜25個のアミノ酸から構成される部分重複オリゴペプチドがPGドメインを網羅するように合成し、M75を用いた競合ELISA によってこれらのオリゴペプチドを試験することである。試験結果に従い、6〜12個のアミノ酸から構成される一連のオリゴペプチドを合成した。PGドメインの主要部分は、6個のアミノ酸から構成される縦列反復配列の6倍の配列を含んでおり(アミノ酸番号61〜96)(配列番号97)、このうち4個の縦列反復配列は同一(GEEDLP ; 配列番号98)であり、後の2個については2個のアミノ酸が交換されている(SEEDSP ; 配列番号141 およびREEDPP ; 配列番号142)。
【0208】
組換えMN / CA IX およびPGドメインの配列の一部に基づいて合成したオリゴペプチドを用いた競合ELISA の結果から、哺乳類細胞内で産生されたMN / CA IX+およびMN / CA IXΔは、本実験において使用した他の如何なるタンパク質またはペプチドよりも高い血清学的活性を有していることがわかった。バクテリア内で合成した融合タンパク質GST - MN は活性が低かった。以下のペプチドがPGドメインにまたがっている:GGSSGEDDPLGEEDLPSEEDSPC(アミノ酸番号51〜72)(配列番号104);GEEDLPSEEDSPREEDPPGEEDLPGEC(アミノ酸番号61〜85)(配列番号105);EDPPGEEDLPGEEDLPGEEDLPEVC(アミノ酸番号75〜98)(配列番号106);およびEVKPKSEEEGSLKLE(アミノ酸番号97〜111)(配列番号118)。配列番号104および106は1ng / ml で50%の阻害を引き起こした。これら2個のオリゴペプチドは互いに重複していないことから、エピトープはそれぞれの配列内において反復されている。配列番号105 の活性は1/1000であり、これは、コンホメーションが異なることによると考えられる。配列番号118 は不活性であることから、M75エピトープを含んでいない。
【0209】
エピトープを決定するための次の段階は、2回繰り返されているモチーフGEEDLP(配列番号98)の環状順列を全て含むオリゴペプチドを合成することである。次の6個のドデカペプチド(12個のアミノ酸配列)(配列番号119〜124)は全て血清学的に活性であった(2個は活性が強く、4個はそれほどでもなかった):GEEDLPGEEDLP(配列番号119);EEDLPGEEDLPG(配列番号120);EDLPGEEDLP(配列番号121);DLPGEEDLPGEE(配列番号122);LPGEEDLPGEED(配列番号123);およびPGEEDLPGEEDL(配列番号124)。両末端をアラニンで平滑化した以下の一連の7アミノ酸配列について試験を行った:APGEEDLPA(配列番号125);AGEEDLPGA(配列番号126);AEEDLPGEA(配列番号127);AEDLPGEEA(配列番号128);ADLPGEEDA(配列番号129);およびALPGEEDLA(配列番号130)。その結果、最小限の活性を示した配列は、オリゴペプチドAPGEEDLPA(配列番号125)であった。100μg/mlにおける競合アッセイにおいて配列番号127 〜130は活性がないことが確認された。さらに、次のより短いオリゴペプチド(6+2アミノ酸)は、M75に対するELISA において全く競合しなかった:AGEEDLPA(配列番号131);AEEDLPGA(配列番号132);AEDLPGEA(配列番号133);ADLPGEEA(配列番号134);ALPGEEDA(配列番号135);およびAPGEEDLA(配列番号136)。
【0210】
配列番号104、105、106および118のオリゴペプチド内においては、C末端アミノ酸は酸として存在しており、一方、他のオリゴペプチドにおいては全て、C末端アミノ酸はアミドとして存在していた。これらのオリゴペプチドとMAb M75 との親和性は、ペプチド分子の大きさが大きくなるにつれて非常に強くなることは明らかである。
【0211】
固定オリゴペプチドに対する細胞の接着を証明するための試み:発明者らの本来の目的は、ピースバッカー(Piersbacher)およびロスラーティ(Ruoslahti)による先駆的な研究(PNAS, 81: 5985(1984))の追試を行うことであった。彼らは、交差結合材SPDP(N−スクシンイミジル−3[ピリジルヒドロ]プロピオネート)を用い、吸着させたウシ血清アルブミンに被験オリゴペプチドを結合させた。このため、発明者らはオリゴペプチド配列番号104〜106 のC末端にシステインを付加し、このことによってオリゴペプチドは吸着アルブミンに結合する方向に向くことができる。発明者らは、M75を用いてイムノペルオキシダーゼ染色することにより、ペトリ皿中でペプチドが直接結合することを示した。不運なことに、CGL1細胞およびCGL3細胞については、SPDP処理し、オリゴペプチドの代わりにエタノールアミンでブロックした対照アルブミンへの接着強度が、オリゴペプチドを結合させたBSAドットへの接着強度と同程度であった。発明者らは、この非特異接着を阻止することができなかった。オリゴペプチド配列番号104〜106は、細菌用ペトリ皿への吸着が非常に弱かったことから、細胞接着アッセイを行うことはできなかった。
【0212】
別の方法として、発明者らは、オリゴペプチドによるMN / CA IXドットへの細胞接着阻害試験を行い、このとき、ピースバッカー(Piersbacher)およびロスラーティ(Ruoslahti)の記載(同上)に従い、培地には細胞懸濁液と共にオリゴペプチドを加えた。100μg/ml および10μg/mlにおいて、配列番号104〜106および配列番号118〜136の全てのペプチドについて試験を行った。再現性良くCGL1細胞の接着を阻害したものはひとつもなかった。
【0213】
MN / CA IXへの細胞接着を阻害するM75エピトープに対する親和性を有するオリゴペプチド:モノクローナル抗体とは別の手段として、M75エピトープおよびランダムヘプタペプチド(7個のアミノ酸配列)から構成されるファージディスプレイライブラリpH. D. - 7 由来のMN / CA IXレセプター結合部位に親和性を有するオリゴペプチドの選択を計画した。発明者らの目的は、固定ペプチド配列番号106上で選別することによって所望するヘプタペプチドを含むファージを選択し、それに続いてM75を用いて溶出させることである。溶出したファージは適切なバクテリア中で増殖させ、さらに選別−溶出サイクルを4回繰り返した。選択したファージ集団から10個のプラークを取り出し、増幅し、ヘプタペプチドを含む領域をシークエンスした。3種類のヘプタペプチドが存在するのみであった。これらの3種類のヘプタペプチドの両端にアラニンを付加したところ、次のようなノナペプチド(9個のアミノ酸配列)が得られた:AKKMKRRKA(配列番号137);AITFNAQYA(配列番号138);およびASASAPVSA(配列番号139)。最後のヘプタペプチドについて、両端にアラニンをつけて再合成したところ、ノナペプチドAGQTRSPLA(配列番号140)が得られ、GST - MN 上で選別することによって確認し、アセタゾールアミドを用いて溶出させた。この最後のペプチドは、MN / CA IX 炭酸脱水酵素の活性部位に対して親和性を有する。発明者らはこれらの7+2アミノ酸から構成されるペプチドを合成し、競合ELISA および細胞接着阻害について試験を行った。これらの試験からは基本的に矛盾しない結果が得られた:ペプチド配列番号138が最も高い活性を示し、ペプチド配列番号137の活性はやや弱く、ペプチド配列番号139はELISA においてのみぎりぎり陽性を示し、ペプチド配列番号140は不活性であった。これら4個のノナペプチドにおいては全て、C末端アミドがアミドの形で存在していた。
【0214】
考察:MN / CA IX のような膜貫通タンパク質の精製には技術的困難を伴うことが多いが、これは、膜貫通タンパク質に疎水性のTMセグメントが存在するために、他の膜タンパク質と凝集体を形成する傾向があるからである。この現象を避けるため、発明者らは培地中に分泌される切断型MN / CA IXΔICΔTMを作出した。事実、切断型MN / CA IX はMN / CA IX+よりも高純度で得られた。不運なことに、このタンパク質は細胞接着アッセイにおいて不活性であったため、発明者らの目的には全く役立たなかった。このような状況は他の細胞接着分子に関しても記載されている。切断され、短くなった構造から、不活性なコンホメーションをとることが予測され、または完全型タンパク質は疎水性のTMセグメントによって「正しい」位置に吸着しているが、切断型は疎水性プラスチックに「逆さま」に吸着していることが予測される。
【0215】
MN / CA IX タンパク質は、ジスルフィド結合によって連結された150kDaのオリゴマーを形成している。これらがホモ(同種)オリゴマーであるのかヘテロ(異種)オリゴマーであるのかはわかっていないが、PAGE およびウェスタンブロット分析から、おそらくホモオリゴマーであり、3量体であることが示唆されている。これは、クーマジーブルー(Coomassie Blue)でゲルを染色した場合、MN / CA IX に特異的な2本のバンドと同程度の強度を示す他のバンドが検出されなかったからである。また、ゲル上およびウェスタンブロット上の染色濃度が良く一致していたことから、2本の主要なMN / CA IX バンドのうちの1本と共泳動するさらなるタンパク質が存在する可能性は低い。
【0216】
精製MN / CA IX+に細胞接着特異性があることは疑いがないと考えられる。腹水の1:1000希釈液を用いた場合でも特異的MAb M75 によって阻害された。このことは、発明者らの以前の報告(ザヴァダ(Zavada)ら、Int. J. Oncol., 10: 857(1997))を補正するものであり、その中で、ワクチニアウイルスベクターによって産生されたMN / CA IX および融合タンパク質GST - MN が細胞接着を支持することを観察したが、GSTアンカー自身がM75によってブロックされない別の結合部位を有していることは認識していなかった。
【0217】
如何なる条件下(生細胞の表面上の生来型の抗原を用いた場合、ウェスタンブロットにおいて変性タンパク質を用いた場合、およびホルマリン固定した生検組織のパラフィン片中の抗原を用いた場合)においてもMAb M75 はMN / CA IX と良好に反応したことから、エピトープは小さく、近接して存在していることが示唆された。競合ELISA においては、M75と反応性があった最小配列は7+2アミノ酸配列であったが、M75と被験ペプチドとの親和性の強度は分子量に強く影響を受けていた。完全型MN / CA IX の活性は、最も分子量が小さい血清学的に活性なペプチドと比較すると、重量/容量濃度に換算して100,000倍であった。モル濃度に換算すると、この差は150,000,000倍であった。中程度の分子量のオリゴペプチドは中程度の活性を示した。このような活性の差異は、分子の大きさによって影響を受けるコンホメーションに起因するものであるのか、または、完全型MN / CA IX はエピトープのコピーを複数個有するが、最も小さい分子は1個しか持たないという事実に起因するものであるのかについての説明は今後に残されている。
【0218】
エピトープはMN / CA IX 内の細胞接着構造と同一であるという可能性について考えることにより、なぜオリゴペプチドによって細胞接着阻害を検出することができなかったのかを理解することができた。結合部位は、原型ペプチドRGD(ウィンター(Winter)、「タンパク質工学:原理と実際(Protein Engineering : Principles and Practice)」(クレランド(Cleland)およびクライク(Craik)編)、pp. 349 - 369(ウィレー−リス(Wiley - Liss)社、ニューヨーク)(1996))ほどに単純ではなかった。
【0219】
当然、MN / CA IX の大きさはイムノグロブリン分子とほぼ同程度であり、M75がそのエピトープに結合することにより、細胞接着部位を構成する別の配列が立体障害を受ける可能性があるという議論が出るかもしれない。この説は、M75エピトープおよび細胞結合部位がいずれもノナペプチド(7+2アミノ酸配列)によってブロックされることでは説明しきれない。その結果、エピトープと結合部位は本当に同一であることが強く示唆された。
【0220】
次のような理由から、MN / CA IX およびそのPGドメインは、治療のための標的分子となり得ると考えられる:(i)これらが細胞表面に露出していること;(ii)ある種のヒトの癌に存在する割合が高いこと;(iii)通常、MN / CA IX は消化管の粘膜内において発現し、この場所は腫瘍とは異なり、循環抗体が到達することができないこと;(iv)体液中には放出されない(または極微量しか放出されない)こと;(v)モチーフGEEDLP(配列番号98)は、各MN / CA IX 分子の表面において18回反復されていること。新薬開発の第一段階として、オリゴペプチドディスプレイライブラリを使用した(ウィンター(Winter)、同上)。選択したオリゴペプチドは、薬物として必要な特性を追有する新規な分子のコンピューター設計のためのリード化合物とすることができる(デキャンプ(DeCamp)ら、(クレランド(Cleland)およびクライク(Craik)編の上記の著書)、pp. 467- 505)。
【0221】
実施例3−ファージディスプレイを用いて行ったMN タンパク質に結合するペプチドの確認
(a)MN タンパク質によって認識されるペプチドを確認するため、ヘプタペプチドファージディスプレイライブラリ(Ph. D. - 7 ペプチド7マーライブラリキット(Ph. D. - 7 Peptide 7 - mer Library Kit)(ファージディスプレイペプチドライブラリキット);ニューイングランド・バイオラブズ(New England Biolabs)社(米国マサチューセッツ州ビバリー)をスクリーニングした。ライブラリのスクリーニングにあたっては、選択過程、すなわち生化学的選別(パームレー(Parmley)およびスミス(Smith)、Gene, 73: 308(1988);ノレン(Noren), C . J ., NEB Transcript, 8(1): 1(1996))を行い、これは、MN タンパク質でコートしたプレートを用い、ペプチドをコードしているファージをインキュベートし、非結合ファージを洗い流し、特異的に結合したファージを溶出させ、増幅させることによって行った。
【0222】
この過程における標的MN タンパク質は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)MN 融合タンパク質(GST - MN)であった。GST - MN は、シグナルペプチドを有しないMN タンパク質に対するcDNA を含むpGEX - 3X - MN から発現される組換え融合タンパク質である。変形培養条件(光学的濃度を下げ、温度を下げる)下においてはGST - MN はバクテリア内で産生される。そのような培養を行うことにより、不完全な状態での翻訳停止を防ぐことができ、ほとんど全てが全長を有するタンパク質分子を合成することができた。GST - MN タンパク質をウェルのコートおよび関連ファージの結合に使用した。結合ファージはアセタゾールアミドを用いて溶出し、増幅させ、さらに2回のスクリーニングを行った。
【0223】
3回のスクリーニングの後に得られた数個の別異のファージクローンについてシークエンスを行ったところ、以下のヘプタペプチドが得られた:
(1)GETRAPL(配列番号107)
(2)GETREPL(配列番号108)
(3)GQTRSPL(配列番号109)
(4)GQTRSPL(配列番号109)
(5)GQTRSPL(配列番号109)
(6)GQTRSPL(配列番号109)
(7)GQTRSPL(配列番号109)
ヘプタペプチドが非常に類似または一致した配列であったことから、結合は特異的であることが示唆された。これらのヘプタペプチドを産生するファージは、炭酸脱水酵素活性の阻害剤であるアセタゾールアミドによって溶出されたことから、ペプチドがMN タンパク質のCA ドメインに結合することが示唆される。
【0224】
(b)ヘプタペプチドファージディスプレイについて、同様なスクリーニングを行い、ファージの溶出にはMN タンパク質への結合性を示すコラーゲンI 型を用いた。MN タンパク質分子の別異の部分に結合する別異のペプチドが確認されることが期待された。そのようなMN 結合ペプチドを確認した後、対応する合成ペプチドの生物学的影響を調べるために分析を行うべきである。
【0225】
実施例4−腫瘍細胞および胃内で発現されたMN タンパク質のイン・ビボ(in vivo)における到達性
ラットMN タンパク質を発現するBP6皮下腫瘍(直径約1cm)を有するルイス(Lewis)ラット(384g)に125 I - M75 MAb (2.5×106 cpm)を腹腔内投与(i.p.)した。5日後、0.5〜1gの腫瘍または組織をはかり取り、ガンマカウンターを用いて放射活性を測定した。
【0226】
表2に結果をまとめた。最も高い放射活性を示したのは腫瘍であった。比較的高い放射活性を示したのは肝臓および腎臓であり、マウスIgG の血中からのクリアランスをほぼ反映した結果であった。胃においては放射活性が比較的低い状態が続いたことから、M75 MAb は消化管粘膜内に露出したMN タンパク質に限定的に到達したことが示唆された。
【表2】
【0227】
実施例5−CGL3細胞内でのMN タンパク質発現のFACS 分析:アポトーシス
FACS 調査を計画し、MN タンパク質の合成に影響を与える条件を探し、アポトーシス刺激を受けたCGL3細胞集団中におけるMN 陽性細胞対MN 陰性細胞の細胞周期分布を分析した。事前に行ったウェスタンブロット分析から、CGL3細胞は、様々な培養条件下において比較的多量のMN タンパク質を発現することが示されていた。CGL3細胞はMN タンパク質の本質的な産生体であると考えられている。しかしながら、ウェスタンブロットではタンパク質レベルの微小な差異を認識することができない。対照的に、FACS では個々のMN 陽性細胞の検出、分析した集団中のMN 陽性細胞の割合の計算、細胞中のMN タンパク質レベルの判定、および細胞周期分布の決定を行うことが可能である。
【0228】
CGL3細胞中でのMN タンパク質発現に対する培養条件の影響を研究する目的で、様々な相対密度および血清濃度の中にCGL3細胞を播種した。3日後、細胞を回収し、MAb M75 を用いて表面をラベルし、続いてFITC コンジュゲート抗マウスIgG を反応させ、すぐにFACS で分析した。
【0229】
分析から、HeLa 細胞と同様に、接着性細胞においては、MN タンパク質の発現は細胞密度に影響を受けていることが示された。しかしながら、低密度培養においても検出可能な濃度のMN タンパク質を産生していた。低密度培養においては、血清濃度は影響していないようであった。比較的高密度の培養においては、血清濃度が低下するとMN タンパク質の発現が若干低下したが、これはおそらく、3日間の培養期間中に細胞が到達することができた密度の低さによるものであると考えられる。
【0230】
真の細胞密度の影響は顕著であり、MN タンパク質の発現(15〜90%の細胞中で検出された)は、非常に感受性の高いモニター因子であった。全ての実験において、細胞集団のMN 陽性部分中の周期中細胞の割合は、MN 陰性部分中のそれに比べて約5%高かった。この事実から、増殖に好ましくない条件下、すなわちアポトーシス誘導後におけるMN 陽性CGL3細胞の細胞周期分布の分析の必要が生じた。
【0231】
アポトーシス
いくつかの薬剤、例えば、シクロヘキシミド、アクチノマイシンDおよびデキサメタゾンなどによってCGL3細胞をアポトーシス性の死に至らしめることができる。FACS 研究により、MN 陽性細胞内ではアポトーシスの発現が遅延することが示されていることから、この過程におけるMN タンパク質の保護作用が示唆された。アポトーシスの誘発により、時間依存的にMN タンパク質の発現が抑制されることも観察された。同じ現象はBcl-2 抗アポトーシスタンパク質についても報告されており、また、アポトーシス中にある種の制御遺伝子が抑制されることによって細胞が敏感になり、アポトーシス死が進行するという説がある。アポトーシスにおけるMN タンパク質の役割を証明する目的で、MN cDNA をトランスフェクトした細胞を用いた同様の研究を行った。
【0232】
予備実験の結果から、MN が関与している可能性があるのはアポトーシスの抑制であることが示唆された。増殖の増加および細胞死の減少の結果として腫瘍が生じるという最近の見解は、イン・ビボ(in vivo)におけるMN タンパク質の腫瘍との関連性と一致していると思われる。
【0233】
ATCC への寄託
以下に挙げた材料は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection: ATCC)(米国バージニア州マナサス、ユニバーシティ通り10810番地、郵便番号20110−2209)に寄託した。寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約(ブダペスト条約)に基づいて行った。生存細胞培養の維持は寄託の日から30年間保証されている。ブダペスト条約の取り決めに基づき、ハイブリドーマおよびプラスミドの分与が可能であり、寄託者とATCC との間の合意がなされている。これは、特許申請時から特許の付与に基づき、公衆がハイブリドーマおよびプラスミドを無制限に入手できることを保証するものである。寄託株の入手可能性については、政府の権威機関がその国の特許法に従って付与した権利に違反して発明を実施するにあたっての許可証であると解釈すべきではない。
ハイブリドーマ 寄託日 ATCC #
VU - M75 1992年9月17日 HB11128
MN 12.2.2 1994年6月9日 HB11647
プラスミド 寄託日 ATCC #
A4a 1995年6月6日 97199
XE1 1995年6月6日 97200
XE3 1995年6月6日 97198
本発明の実施態様に関する以上の記述は、説明を目的とするものである。それらは明確な形式で開示されている本発明を網羅するものでも制限するものでもなく、上述の教示に照らし合わせることにより、多くの変形および変更が可能であることは明らかである。本発明の原理およびその実際的な用途を説明するために実施態様を選択して記載しており、それにより、当業者であれば、多様な実施態様において、および特定の利用に適するように多様な変形を行って本発明を利用することが可能である。
【0234】
本明細書中に引用している全ての参考文献を参照として取り入れておく。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MNタンパク質の異常発現によって特徴付けられる前腫瘍性および/または腫瘍性疾患を治療するのに有用である有機または無機分子を同定する方法であって、
MNタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインの酵素活性中心内の部位であって配列番号51のアミノ酸配列を含む部位に結合しかつ該部位に特異的に結合するため炭酸脱水酵素阻害剤によって溶出される分子を同定することを含む方法。
【請求項2】
前記炭酸脱水酵素阻害剤がスルホンアミドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記炭酸脱水酵素阻害剤がアセタゾールアミドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記分子が無機分子であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記分子が有機分子であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記分子がタンパク質またはポリペプチドであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質またはポリペプチドが、配列番号107-109および140から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ポリペプチドが、配列番号107-109および140から選択されるアミノ酸配列から成ることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記有機または無機分子が、MNタンパク質を異常発現する脊椎動物の前腫瘍性または腫瘍性細胞と接触させた場合に、該細胞の増殖を抑制することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項1】
MNタンパク質の異常発現によって特徴付けられる前腫瘍性および/または腫瘍性疾患を治療するのに有用である有機または無機分子を同定する方法であって、
MNタンパク質の炭酸脱水酵素ドメインの酵素活性中心内の部位であって配列番号51のアミノ酸配列を含む部位に結合しかつ該部位に特異的に結合するため炭酸脱水酵素阻害剤によって溶出される分子を同定することを含む方法。
【請求項2】
前記炭酸脱水酵素阻害剤がスルホンアミドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記炭酸脱水酵素阻害剤がアセタゾールアミドであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記分子が無機分子であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記分子が有機分子であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記分子がタンパク質またはポリペプチドであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質またはポリペプチドが、配列番号107-109および140から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ポリペプチドが、配列番号107-109および140から選択されるアミノ酸配列から成ることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記有機または無機分子が、MNタンパク質を異常発現する脊椎動物の前腫瘍性または腫瘍性細胞と接触させた場合に、該細胞の増殖を抑制することを特徴とする請求項1記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−88443(P2010−88443A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277351(P2009−277351)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【分割の表示】特願2007−233872(P2007−233872)の分割
【原出願日】平成11年10月22日(1999.10.22)
【出願人】(501161745)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【分割の表示】特願2007−233872(P2007−233872)の分割
【原出願日】平成11年10月22日(1999.10.22)
【出願人】(501161745)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]