説明

MR分子イメージングによる造影剤の分布情報の決定

MRベースの分子イメージングは造影剤の濃度を定量化するために使用される。本発明の例示的な実施例によれば、造影剤のR2の緩和率とR2の緩和率との間の差は、造影剤を使用した後に測定されるデータに基づいて決められる。これは、造影剤の区画化又は結合状態に関する生体内情報を提供し、これにより検査結果の重要性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子イメージングの分野に関する。特に、本発明は関心のある物体を検査するための検査機器、画像処理装置、関心のある物体を検査する方法、コンピュータ読み取り可能媒体及びプログラム要素に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴(MR)ベースの分子イメージングは、造影剤の正確な定量化により強く支えられている。腫瘍の血管形成及び潅流を変化させるような治療効果の監視は、臨床ルーチンにおいて非常に重要である。治療効果を検出することは、造影剤の分布の正確且つ定量的な決定を必要とする。造影剤が細胞に取り込まれる又は血液のような液体に溶解されるかが特に関心がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
造影剤の改善した分布決定をすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の例示的な実施例によれば、関心のある物体を検査するための検査機器が設けられ、この検査機器は、造影剤の分布情報を、前記造影剤の第1の緩和時間と前記造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決める決定ユニットを有する。
【0005】
これにより、第1の緩和時間と第2の緩和時間との間の差を決めることにより、造影剤の分布に関する情報は、測定中のこれら2つの緩和時間を比較することにより決められる。これは、MRI造影(MR imaging relaxometry)の検査結果の重要性を向上させる。
【0006】
本発明の他の例示的な実施例によれば、第1の緩和時間はスピン−スピン横緩和時間であり、第2の緩和時間は前記第1の緩和時間に基づくと共に、磁場の不均一性を取り込んでいる。
【0007】
言い換えると、第1の緩和時間は、本発明の例示的な実施例によれば、T2緩和時間であり、第2の緩和時間はT2緩和時間である。
【0008】
(スピン−スピン横緩和率とも呼ばれる)R2は、T2緩和時間の逆数(1/T2)と規定される。R2は、T2緩和時間の逆数と規定され、これはT2を含むと共に、追加として磁場の不均一性を取り込んでいる。
【0009】
本発明の他の例示的な実施例によれば、検査機器はさらに、前記関心のある物体のデータセットを取得する取得ユニットを有し、ここで前記差の決定は、この取得したデータセットに基づいて行われる。
【0010】
例えば、T2は、マルチスピンエコー系列を用いて測定され、T2は、マルチ勾配エコー系列を用いて測定される。しかし、同じ系列内においてT2及びT2を測定するための他の方法が用いられてもよいことに注意すべきである。これにより、(例えばT2及びT2に関する)情報は同時に取得される。従って、そうしないとその結果を偽ってしまう前記2つの測定間にある変化が除外される。
【0011】
これにより、関心のある物体は、この関心のある物体の夫々測定データセットを取得し、この測定されたデータセットを分析することにより、前記2つの緩和時間の間にある差を決めることにより検査される。これは、生体内検査手順に提供される。
【0012】
本発明の他の例示的な実施例によれば、分布情報は、前記差に基づく造影剤の結合状態に関する情報を有する。
【0013】
これにより、造影剤が標的に結合したかの問題は、この測定により取り組まれる。
【0014】
本発明の他の例示的な実施例によれば、分布情報は前記分布の不均質性に関する情報を有する。
【0015】
例えば、前記分布が均一である場合、R2値は夫々のR2値に等しい。前記分布の不均質性が増大することは、夫々のR2及びR2値(R2>R2)間において増大する差となる。
【0016】
本発明の他の例示的な実施例によれば、前記分布情報は、前記関心のある物体の細胞に造影剤が内在化(internalization)した状態に関する情報を有する。
【0017】
これは、前記関心のある物体の内部特性に関連する他の情報を供給する。
【0018】
本発明の他の例示的な実施例によれば、造影剤は標的造影剤である。
【0019】
本発明のさらに他の例示的な実施例によれば、前記造影剤は超常磁性酸化鉄(SPIO)の造影剤である。
【0020】
本発明の他の例示的な実施例によれば、前記検査機器は、手荷物検査機器、医療応用機器、材料検査機器又は材料科学分析機器として利用される。本発明の応用分野は、規定される本発明の機能が安全であり、信頼でき、さらに高度に正確な材料の分析を可能にするので、材料科学分析でもよい。
【0021】
本発明の他の例示的な実施例によれば、関心のある物体を検査するための画像処理装置が設けられ、この画像処理装置は、この関心のある物体のデータセットを記憶するメモリを有する。その上、この画像処理装置は、造影剤の分布情報を、この造影剤の第1の緩和時間とこの造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決める決定ユニットを有する。
【0022】
これにより、造影剤の改善された分布決定を行う画像処理装置が設けられ、これはより具体的であり、より重要な検査結果となる。
【0023】
本発明の他の例示的な実施例によれば、前記関心のある物体を検査する方法が提供され、この方法は、造影剤の分布情報を、この造影剤の第1の緩和時間とこの造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決めるステップを有する。その上、この方法は、関心のある物体のデータセットを取得するステップを有し、ここで前記差の決定は、この取得したデータセットに基づいて行われる。第1の緩和時間はスピン−スピン横緩和時間であり、第2の緩和時間は第1の緩和時間に基づくと共に、さらに磁場の不均一性を取り込んでいる。
【0024】
これにより、MR分子イメージングによる関心のある物体を検査する方法が提供され、このMR分子イメージングは造影剤の区画化(compartmentalization)又は結合状態に関する生体内情報となる造影剤の改善される分布決定となる。これは、関心のある物体のより詳細な分析のために提供される。
【0025】
本発明の他の例示的な実施例によれば、コンピュータ読み取り可能媒体が提供され、この媒体において、プロセッサにより実行されると、上述した方法ステップを実行する、関心のある物体を検査するコンピュータプログラムが記憶される。
【0026】
その上、本発明は、コンピュータ読み取り可能媒体に記憶される、関心のある物体を検査するプログラム要素に関する。このプログラム要素は、関心のある物体のデータセットを取得するステップ、及び造影剤の分布情報を、この造影剤の第1の緩和時間とこの造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決めるステップを実行し、ここで前記差の決定は前記取得したデータセットに基づいて行われる。
【0027】
前記プログラム要素は好ましくは、データプロセッサの作業メモリにロードされる。このデータプロセッサは従って、本発明の方法の例示的な実施例を実行するために装備される。このコンピュータプログラムは、例えばC++のような何らかの適当なプログラミング言語で書かれ、例えばCD−ROMのようなコンピュータ読み取り可能媒体に記憶される。さらに、前記コンピュータプログラムは例えばWWW(WorldWideWdb)のようなネットワークから利用可能であり、そこから画像処理ユニット若しくはプロセッサ、又は何らかの適当なコンピュータにダウンロードされる。
【0028】
組織のR2の緩和率とR2の緩和率との間の差が造影剤を利用した後に測定されるデータに基づいて決められることは、本発明の例示的な実施例の要旨として分かる。これは、造影剤の区画化又は結合状態に関する生体内情報を提供する。これにより、MRI造影の検査結果の重要性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に記載される実施例から明らかであり、これら実施例を参照して説明される。
【0030】
本発明の例示的な実施例は、以下において、以下の図面を参照して説明される。
【0031】
図1は、本発明によるMRスキャナシステムの実施例の簡略化した概略図を示す。このMRスキャナシステムは、軸218に沿うと共に、検査空間217の周りに配されるコイル210を有し、この空間内に検査されなければならない患者が位置付けられる。しかしながら、この説明される検査機器は、手荷物検査又は材料科学分析の分野にも同様に使用されてよいことに注意すべきである。これにより、関心のある物体215は、分析されなければならない手荷物の品物又は材料である。
【0032】
有利なことに、この関心のある物体215は、検査空間217の下方に配される移動可能なテーブル又はコンベアベルト216上に置かれる。この検査空間217を包囲しているコイル210のシステムは、HFコイル219、内部コイル213及びアクティブシールドコイル又はシールド212を有する勾配コイルからなるアクティブシールド装置、並びに低温保持装置(cryostat)211を有し、磁場の発生中、これらコイルは冷却されるように配される。勾配コイル213、212の装置は、勾配増幅器220及び造影剤の分布情報をこの造影剤の第1の緩和時間とこの造影剤の第2の緩和時間との差に基づいて決める決定ユニット(図1に図示せず)に接続される。ここで第1の緩和時間はスピン−スピン横緩和時間であり、第2の緩和時間は第1の緩和時間に基づくと共に、磁場の不均一性を取り込んでいる。
【0033】
さらに、前記MRスキャナシステムは、例えば前記コンベアベルト216を移動させるための夫々のモータ(図1には図示せず)を備えるモータ制御ユニットを有してもよい。
【0034】
MR撮像ベースの分子イメージングは、造影剤の濃度を定量化するために用いられる。R2(=1/T2)及びR2(=1/T2)の緩和率は、超常磁性酸化鉄の造影剤の濃度に関する情報を含んでいる。それに加え、この造影剤が細胞内に取り込まれる又は液体、例えば血液に溶解されるかの問題は、特に関心がある。T2とT2(又はR2とR2)との間の差は、これら造影剤の分布に関する情報を含んでいる。前記SPIOが細胞内において区画化される場合、R2の緩和率はR2のよりも高い。SPIOが液体に溶解する場合、これら緩和率は(図2から分かるように)ほぼ同じである。
【0035】
本発明の態様によれば、SPIOの区画化は、R2及びR2に関するこれら差を用いて生体内で測定される。これは、造影剤の結合状態に関する情報を含む追加のパラメタを測定することにより、MRI造影の応用に広がり、これは標的造影剤との関連で特に関心がある。造影剤が標的に結合したかの問題は、この測定により取り組まれる。従って、R2−R2の情報は、前記結合状態及びSPIOの造影剤が細胞に内在化した状態を決めるのを助け、これにより検査結果の重要性が向上する。
【0036】
図2は、水に溶解したSPIOのR2及びR2値の図表現を示す。R2は、スピン−スピン横緩和時間とも呼ばれるT2緩和時間の逆数(1/T2)と規定される。R2は、T2緩和時間の逆数と規定され、これはT2を含むと共に、磁場の不均一性を取り込んでいる。
【0037】
水平軸101は任意の単位、例えばμg/mlで、約0μg/mlの鉄濃度から約28μg/mlの鉄濃度の範囲にある鉄濃度を示す。垂直軸102は任意の単位、例えば1/msで、約0msから0.15msの範囲にある緩和率を示す。
【0038】
図2から分かるように、R2値103とR2値104との間において検出可能な差は殆ど無い。従って、造影剤が水に溶解し、これにより(少なくとも利用可能な測定精度内で)細胞内において区画化されない場合、緩和率に差はない。
【0039】
図3は、細胞に取り込まれたSPIOのR2及びR2値を示す。水平軸105は、図2の水平軸101に対応し、垂直軸106は図2の垂直軸102に対応している。
【0040】
図3から分かるように、R2の緩和率107とR2の緩和率108との間に明らかな差がある。従って、これら2つの緩和率の差を決めることにより(又はこれら2つの夫々の緩和時間の差を決めることにより)、結合状態又は前記細胞への内在化若しくは区画化の状態に関する情報が決められる。
【0041】
図4は、本発明による方法の例示的な実施例を実施するための本発明による画像処理装置の例示的な実施例を示す。図4に示される画像処理装置400は、例えば患者又は分析される材料のような関心のある物体を表す画像を記憶するためのメモリ402に接続される中央処理ユニット(CPU)又はデータプロセッサ401を有する。このデータプロセッサ401は、複数の入力/出力ネットワーク又は診断装置、例えばMR装置に接続される。データプロセッサ401はさらに、このデータプロセッサ401において計算若しくは適合する情報又は画像を表示するための表示装置403、例えばコンピュータのモニターに接続される。オペレータ又はユーザは、キーボード404及び/又は図4に表されていない他の入力装置を介してデータプロセッサ404と対話してもよい。その上、バスシステム405を介して、画像処理及び制御プロセッサ401を例えば関心のある物体の動きを監視するモーションモニターに接続することも可能である。例えば、患者の肺が撮像される場合、モーションセンサは呼気センサである。心臓が撮像される場合、前記モーションセンサは心電図でもよい。
【0042】
本発明の例示的な実施例は、MRスキャナのコンソールワークステーションに対するソフトウェアオプションとして販売される。
【0043】
"有する"と言う用語は他の要素又はステップを排除するものではなく、単数での表現はそれが複数あることを排除するものでもなく、さらに単一のプロセッサ又はシステムが請求項に挙げられる幾つかの手段又はユニットの機能を果たしてもよいことに注意すべきである。さらに、異なる実施例に関連する要素の記述が組み合わされてもよい。
【0044】
請求項における如何なる参照符号も特許請求の範囲を制限するとは考えないことにも注意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の例示的な実施例によりMRスキャナの簡略化した概略図を示す。
【図2】水に溶解するSPIOのR2及びR2値を概略的に示す。
【図3】細胞に組み込まれたSPIOのR2及びR2値を概略的に示す。
【図4】本発明による方法の例示的な実施例を実行するための、本発明による画像処理装置の例示的な実施例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心のある物体を検査するための磁気共鳴検査機器において、
造影剤の分布情報を、前記造影剤の第1の緩和時間と前記造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決める決定ユニット
を有する磁気共鳴検査機器。
【請求項2】
前記第1の緩和時間は、スピン−スピン横緩和時間であり、前記第2の緩和時間は、前記第1の緩和時間に基づくと共に、磁場の不均一性を取り込んでいる請求項1に記載の検査機器。
【請求項3】
前記関心のある物体のデータセットを取得する取得ユニットをさらに有する請求項1に記載の検査機器において、前記差の決定は、前記取得したデータセットに基づいて行われる検査機器。
【請求項4】
前記分布情報は、前記分布の不均一性に関する情報を有する請求項1に記載の検査機器。
【請求項5】
前記分布情報は、前記差に基づく前記造影剤の結合状態に関する情報を有する請求項1に記載の検査機器。
【請求項6】
前記分布情報は、前記関心のある物体の細胞に前記造影剤が内在化した状態に関する情報を有する請求項1に記載の検査機器。
【請求項7】
前記造影剤は、標的造影剤である請求項1に記載の検査機器。
【請求項8】
前記造影剤は、超常磁性酸化鉄の造影剤である請求項1に記載の検査機器。
【請求項9】
手荷物検査機器、医療応用機器、材料検査機器及び材料科学分析機器からなる集合の1つとして構成される請求項1に記載の検査機器。
【請求項10】
関心のある物体を検査するための画像処理装置において、
前記関心のある物体のデータセットを記憶するメモリ、及び
造影剤の分布情報を、前記造影剤の第1の緩和時間と前記造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決める決定ユニット
を有する画像処理装置。
【請求項11】
プロセッサにより実行されると、造影剤の分布情報を、前記造影剤の第1の緩和時間と前記造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決めるステップを実行する、関心のある物体を検査するコンピュータプログラムが記憶されるコンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項12】
プロセッサにより実行されると、造影剤の分布情報を、前記造影剤の第1の緩和時間と前記造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決めるステップを実行する、関心のある物体を検査するプログラム要素。
【請求項13】
関心のある物体を検査する方法において、
造影剤の分布情報を、前記造影剤の第1の緩和時間と前記造影剤の第2の緩和時間との間の差に基づいて決めるステップ
を有する方法。
【請求項14】
前記関心のある物体のデータセットを取得するステップをさらに有する請求項13に記載の方法において、
前記差の決定は、前記取得したデータセットに基づいて行われ、
前記第1の緩和時間は、スピン−スピン横緩和時間であり、及び
前記第2の緩和時間は、前記第1の緩和時間に基づくと共に、磁場の不均一性を取り込んでいる
方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−541918(P2008−541918A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514269(P2008−514269)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/IB2006/051657
【国際公開番号】WO2006/129248
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】