説明

MR装置およびプログラム

【課題】ASL撮影法における待ち時間PLDを適正に設定することができるMR装置を提供する。
【解決手段】予備的なASL撮影により、イメージング領域内のスライスについて、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を得るよう、撮影手段を制御する撮影制御手段と、複数の予備画像P1〜P5の中から、予備画像を構成する各画素に対応する磁気共鳴信号強度の均一度および大きさのうち少なくとも一方に係る基準を満たす一つの予備画像Psを特定する特定手段と、特定された予備画像Psに対応するPLDに基づいて、本番のASL撮影におけるPLDを設定する設定手段とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血流の上流側で血液にラベリング(labeling)を行い、下流側でラベリングした血液から磁気共鳴信号を収集するASL(Arterial
Spin Labeling)撮影を行うMR(Magnetic Resonance)装置およびそのためのプログラム(program)に関する。
【背景技術】
【0002】
MR装置では、マグネットシステム(magnet system)の内部空間、すなわち、静磁場を形成した撮影空間に撮影の対象を搬入し、勾配磁場および高周波(RF:radio frequency)磁場を印加して対象内のスピンを励起して磁気共鳴信号を発生させ、その受信信号に基づいて画像を再構成する。
【0003】
パーフュージョン(perfusion)撮影、例えばASLと呼ばれる撮影法では、予め、血流の上流側において血液のスピン(spin)に磁気的なラベリングを行い、このラベリングされたスピンが関心領域に流入して発生する磁気共鳴信号(以下、MR信号という)を撮影に利用する。ラベリングはタギング(tagging)とも呼ばれるが、本書ではラベリングで統一する。
【0004】
ラベリングは、スピンのインバージョン(inversion)によって行われる。脳血流の灌流を撮影する場合、スピンのインバージョンは対象の頸部において行われ、脳の所望のスライス(slice)についてのパーフュージョン画像が撮影される。パーフュージョン画像は、ラベリング有りの断層像であるラベル(label)画像と、ラベリング無しの断層像であるコントロール(control)画像との差分画像として求められる(例えば、特許文献1,[0004]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4051232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ASL撮影法では、ラベリングされた血液がイメージング領域の全体に行き渡った状態でイメージングがなされるよう、ラベリングを行ってから一定時間以上待って、MR信号の収集を開始する必要がある。一方、この待ち時間PLD(Post Label Delay)が長過ぎると、T1緩和が進んでしまい、MR信号が弱くなってしまう。そのため、この待ち時間PLDは、ラベリングされた血液がイメージング領域の全体に行き渡るほど十分長く、かつ、T1緩和が進まないよう極力短く設定するのが望ましい。
【0007】
しかしながら、ラベリングされた血液がイメージング領域の全体に行き渡るまでに要する時間ATT(Arterial Transit Time)には、個人差があり、被検体の年齢、心拍数などによって変化する。さらに、脳梗塞など疾患がある場合には、血液の行き渡り方にむらが出る。
【0008】
そのため、この待ち時間PLDの適切な時間は、勘や経験だけで事前に決めることが難しい。
【0009】
このような事情により、ASL撮影法における待ち時間PLDを適正に設定することができるMR装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の観点の発明は、被検体における血流の上流側で血液にスピンのラベリングを行い、待ち時間PLDが経過した後に、前記血流の下流側で前記ラベリングされた血液から磁気共鳴信号を収集し、該磁気共鳴信号に基づいて前記血流を画像化するASL撮影を行うMR装置であって、予備的なASL撮影により、イメージング領域内のスライスについて、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を得るよう、撮影手段を制御する撮影制御手段と、前記複数の予備画像の中から、予備画像を構成する各画素に対応する磁気共鳴信号強度の均一度および大きさのうち少なくとも一方に係る基準を満たす一つの予備画像を特定する特定手段と、特定された予備画像に対応するPLDに基づいて、本番のASL撮影におけるPLDを設定する設定手段とを備えたMR装置を提供する。
【0011】
第2の観点の発明は、前記特定手段が、前記磁気共鳴信号強度の均一度が一定レベル(level)以上である予備画像の中で、前記磁気共鳴信号強度の大きさが最大である予備画像を特定する上記第1の観点のMR装置を提供する。
【0012】
第3の観点の発明は、前記磁気共鳴信号強度の均一度が、磁気共鳴信号強度値の分散または標準偏差であり、前記磁気共鳴信号強度の大きさは、磁気共鳴信号強度値の平均値である上記第2の観点のMR装置を提供する。
【0013】
第4の観点の発明は、前記複数の予備画像を表示させる表示制御手段をさらに備えた標記第2の観点から第3の観点のいずれか一つの観点のMR装置を提供する。
【0014】
第5の観点の発明は、被検体における血流の上流側で血液にスピンのラベリングを行い、待ち時間PLDが経過した後に、前記血流の下流側で前記ラベリングされた血液から磁気共鳴信号を収集し、該磁気共鳴信号に基づいて前記血流を画像化するASL撮影を行うMR装置であって、予備的なASL撮影により、イメージング領域内のスライス(slice)について、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を得るよう、撮影手段を制御する撮影制御手段と、前記複数の予備画像を表示させる表示制御手段と、操作者の操作に応じて前記複数の予備画像の中から一つの予備画像を特定する特定手段と、特定された予備画像に対応するPLDに基づいて、本番のASL撮影におけるPLDを設定する設定手段とを備えたMR装置を提供する。
【0015】
第6の観点の発明は、前記設定手段が、特定された予備画像に対応するPLDと実質的に等しい時間を、本番のASL撮影におけるPLDとして設定する上記第1の観点から第5の観点のいずれか一つの観点のMR装置を提供する。
【0016】
第7の観点の発明は、被検体における血流の上流側で血液にスピンのラベリングを行い、待ち時間PLDが経過した後に、前記血流の下流側で前記ラベリングされた血液から磁気共鳴信号を収集し、該磁気共鳴信号に基づいて前記血流を画像化するASL撮影を行うMR装置であって、予備的なASL撮影により、イメージング領域内のスライスについて、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を得るよう、撮影手段を制御する撮影制御手段と、前記複数の予備画像と該予備画像に対応するPLDとを対応付けて表示させる表示制御手段と、操作者の操作に応じて本番のASL撮影におけるPLDを設定する設定手段とを備えたMR装置を提供する。
【0017】
第8の観点の発明は、前記撮影制御手段が、前記ラベリングの位置または領域に対して、前記イメージング領域の実質的な血流方向の中心よりも遠い位置のスライスについて前記複数の予備画像を得るよう制御する上記第1の観点から第7の観点のいずれか一つの観点のMR装置を提供する。なお、実質的な血流方向とは、例えば、血流の平均的な方向であり、イメージング領域が頭部に設定されている場合には、被検体の体軸方向とすることができる。
【0018】
第9の観点の発明は、前記撮影制御手段が、前記イメージング領域内の複数の異なるスライスについて前記複数の予備画像をそれぞれ得るよう制御する上記第1の観点から第7の観点のいずれか一つの観点のMR装置を提供する。
【0019】
第10の観点の発明は、前記撮影制御手段が、前記予備的なASL撮影を、前記本番のASL撮影よりも低い解像度にて行うよう制御する上記第1の観点から第9の観点のいずれか一つの観点のMR装置を提供する。
【0020】
第11の観点の発明は、前記血流が、頭部における血流である上記第1の観点から第10の観点のいずれか一つの観点のMR装置を提供する。
【0021】
第12の観点の発明は、コンピュータ(computer)を、上記第1の観点から第11の観点のいずれか一つの観点のMR装置が備える各手段として機能させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0022】
上記観点の発明によれば、ASL撮影法における待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を実際に取得し、これらの予備画像を基にあるいは参照して、ラベリングされた血液がイメージング領域に行き渡るタイミング(timing)を推定することができ、本番のASL撮影における待ち時間PLDを適正に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第一実施形態のMR装置のブロック(block)図である。
【図2】第一実施形態のMR装置によるパーフュージョン撮影処理に関わる部分の機能ブロック図である。
【図3】第一実施形態のMR装置によるパーフュージョン撮影処理を示すフロー(flow)図である。
【図4】ラベリングプレーンおよびイメージング領域の設定例を示す図である。
【図5】予備撮影を行う1スライスの設定例を示す図である。
【図6】予備撮影を行う複数スライスの設定例を示す図である。
【図7】待ち時間PLDが異なる複数の予備画像の一例を示す図である。
【図8】最適なPLDに対応する予備画像の特定例を示す図である。
【図9】ラベル画像撮影用のパルスシーケンス(pulse sequence)を示す図である。
【図10】コントロール画像撮影用のパルスシーケンスを示す図である。
【図11】kスペース(k-space)の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して発明の実施形態を詳細に説明する。なお、これにより、発明の実施形態が限定されるものではない。
【0025】
(第一実施形態)
図1に磁気共鳴イメージング装置のブロック図を示す。同図に示すように、磁気共鳴イメージング装置は、マグネットシステム100を有している。マグネットシステム100は、主磁場コイル(coil)部102、勾配コイル部106およびRFコイル部108を有している。これら各コイル部は概ね円筒状の形状を有しており、互いに同軸的に配置されている。マグネットシステム100の概ね円柱状の内部空間(ボア:bore)に、撮影の対象1がクレードル(cradle)500に搭載されて図示しない搬送手段により搬入および搬出される。対象1の頭部はRFコイル部108内に収容されている。
【0026】
主磁場コイル部102は、マグネットシステム100の内部空間に静磁場を形成する。静磁場の方向は、概ね対象1の体軸の方向に平行である。すなわち、いわゆる水平磁場が形成される。主磁場コイル部102は、例えば超伝導コイルを用いて構成されている。なお、超伝導コイルに限らず常伝導コイル等を用いて構成してもよい。また、主磁場コイル部102の代えて永久磁石を用いてもよい。
【0027】
勾配コイル部106は、互いに垂直な3軸すなわちスライス軸、位相軸および周波数軸の方向において、それぞれ静磁場強度に勾配を持たせるための3つの勾配磁場を発生させる。
【0028】
静磁場空間における互いに垂直な座標軸をX,Y,Zとしたとき、いずれの軸もスライス軸とすることができる。その場合、残り2軸のうちの一方を位相軸とし、他方を周波数軸とする。また、スライス軸、位相軸および周波数軸は、相互間の垂直性を保ったままX,Y,Z軸に関して任意の傾きを持たせることも可能である。磁気共鳴イメージング装置では、対象1の体軸の方向をZ軸方向とする。
【0029】
スライス軸方向の勾配磁場をスライス勾配磁場ともいう。位相軸方向の勾配磁場を位相エンコード(encode)勾配磁場またはフェーズエンコード(phase encode)勾配磁場ともいう。周波数軸方向の勾配磁場をリードアウト(read out)勾配磁場ともいう。リードアウト勾配磁場は、周波数エンコード勾配磁場と同義である。このような勾配磁場の発生を可能にするために、勾配コイル部106は、図示しない3系統の勾配コイルを有している。以下、勾配磁場を単に勾配ともいう。
【0030】
RFコイル部108は、静磁場空間に対象1の体内のスピンを励起するための高周波磁場を形成する。以下、高周波磁場を形成することをRF励起信号の送信ともいう。また、RF励起信号をRFパルスともいう。RFコイル部108は、また、励起されたスピンが生じる電磁波すなわち磁気共鳴信号を受信する。
【0031】
勾配コイル部106には、勾配駆動部130が接続されている。勾配駆動部130は、勾配コイル部106に駆動信号を与えて勾配磁場を発生させる。勾配駆動部130は、勾配コイル部106における3系統の勾配コイルに対応して、図示しない3系統の駆動回路を有している。
【0032】
RFコイル部108には、RF駆動部140が接続されている。RF駆動部140はRFコイル部108に駆動信号を与えてRFパルスを送信し、対象1の体内のスピンを励起する。
【0033】
RFコイル部108には、データ(data)収集部150が接続されている。データ収集部150は、RFコイル部108が受信した受信信号をサンプリング(sampling)によって取り込み、それをディジタルデータ(digital data)として収集する。なお、RFコイル部108は、送信用コイルと受信用コイルとに分けて構成されていてもよい。また、送受信用コイルと、受信用コイルとに分けて構成されていてもよい。例えば、撮影部位が頭部である場合、送受信用ボディーコイルと、受信用ヘッドコイルとにより構成されるようにしてもよい。
【0034】
勾配駆動部130、RF駆動部140およびデータ収集部150には、シーケンス制御部160が接続されている。シーケンス制御部160は、勾配駆動部130ないしデータ収集部150をそれぞれ制御して磁気共鳴信号の収集を遂行する。
【0035】
シーケンス制御部160は、例えばコンピュータ等を用いて構成されている。シーケンス制御部160は、図示しないメモリ(memory)を有している。メモリは、シーケンス制御部160用のプログラムおよび各種のデータを記憶している。シーケンス制御部160の機能は、コンピュータがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0036】
データ収集部150の出力側は、データ処理部170に接続されている。データ収集部150が収集したデータが、データ処理部170に入力される。データ処理部170は、例えばコンピュータ等を用いて構成されている。データ処理部170は、図示しないメモリを有している。メモリは、データ処理部170用のプログラムおよび各種のデータを記憶している。
【0037】
データ処理部170は、シーケンス制御部160に接続されている。データ処理部170は、シーケンス制御部160の上位にあってそれを統括する。磁気共鳴イメージング装置の機能は、データ処理部170がメモリに記憶されたプログラムを実行することによりを実現される。
【0038】
データ処理部170は、データ収集部150が収集したデータをメモリに記憶する。メモリ内にはデータ空間が形成される。このデータ空間は、フーリエ(Fourier)空間(2次元と3次元が考えられるが、本例では2次元フーリエ空間)を構成している。以下、フーリエ空間をkスペースともいう。データ処理部170は、kスペースのデータを逆フ−リエ変換することにより画像を再構成する。
【0039】
マグネットシステム100、勾配駆動部130、RF駆動部140、データ収集部150、シーケンス制御部160およびデータ処理部170からなる部分は、発明における撮影手段の一例である。
【0040】
データ処理部170には、表示部180および操作部190が接続されている。表示部180は、グラフィックディスプレー(graphic display)等で構成されている。操作部190はポインティングデバイス(pointing-device)を備えたキーボード(keyboard)等で構成されている。
【0041】
表示部180は、データ処理部170から出力される再構成画像および各種の情報を表示する。操作部190は、使用者によって操作され、各種の指令や情報等をデータ処理部170に入力する。使用者は表示部180および操作部190を通じてインタラクティブ(interactive)に磁気共鳴イメージング装置を操作する。
【0042】
本実施形態のMR装置によるパーフュージョン撮影処理について説明する。
【0043】
図2に、本実施形態のMR装置によるパーフュージョン撮影処理に関わる部分の機能ブロック図を示す。また、図3に、本実施形態のMR装置によるパーフュージョン撮影処理のフロー(flow)図を示す。
【0044】
図2に示すように、本実施形態によるMR装置は、ラベリング・イメージング領域設定部601、予備撮影実行部602、予備画像特徴量算出部603、最適PLD予備画像特定部604、PLD設定部605、本撮影実行部606、および画像表示・記憶制御部607を備えている。
【0045】
ステップS1では、図4に示すように、操作者が、事前に撮影して得られたローカライザ画像L1を参照して、ラベリングプレーンLPと、イメージング領域(撮影スラブ)IRとを入力する。ラベリング・イメージング領域設定部601は、これらの入力に応じて、ラベリングプレーンLPおよびイメージング領域IRを設定する。
【0046】
ステップS2では、予備撮影実行部602が、設定されたイメージング領域IR内の所定のスライスについて、ASL撮影法により予備的なパーフュージョン撮影を実行する。
【0047】
ここで、パーフュージョン撮影について説明する。
【0048】
図9および図10に、パーフュージョン撮影に用いるパルスシーケンスの一例を示す。このパルスシーケンスによるパーフュージョン撮影は、CASL(Continuous Arterial Spin Labeling)と呼ばれる。CASLやPASLなどのASLでは、ラベリング有りの断層像であるラベル画像と、ラベリングなしの断層像であるコントロール画像とを撮影し、これらの画像の差分画像としてパーフュージョン画像を求める。
【0049】
図9は、ラベル画像撮影用のパルスシーケンス、図10は、コントロール画像撮影用のパルスシーケンスである。パルスシーケンスは左から右に進行する。両図において、(1)は高周波磁場のパルスシーケンスを示す。(2)〜(4)はいずれも勾配磁場のパルスシーケンスを示す。(2)はスライス勾配、(3)は周波数エンコード勾配、(4)は位相エンコード勾配である。なお、静磁場は一定の磁場強度で常時印加されている。
【0050】
図9のパルスシーケンスでは、先ず、ラベリングプレーンLPのスピンのラベリングが行われる。ラベリングは、所定のデューティレシオ(duty ratio)で所定回数印加される矩形波のインバージョンパルスによって行われる。これによって、動脈血中のスピンについてインバージョンによるラベリングが行われる。ラベリングされたスピンは動脈を通じてイメージング領域IRに灌流する。
【0051】
スピンのラベリングには、マグネットシステム100、勾配駆動部130、RF駆動部140およびシーケンス制御部160が関与する。
【0052】
ラベリングの後、所定の待ち時間PLDが経過した後に、イメージング領域IRについての撮影、すなわちこの領域から磁気共鳴信号を収集してイメージングが行われる。撮影は、エコープラナー・イメージング(EPI:Echo Planar Imaging)によって行われる。すなわち、イメージング領域IRについて90°パルスによるスピン励起が行われる。90°励起の所定時間後に180°励起を行い、次いで周波数エンコード勾配Gfreqおよび位相エンコード勾配Gphaseを所定のシーケンスで印加して、複数のスピンエコー(spin echo)すなわちビューデータ(view data)を逐次収集する。このようにして得られたビューデータが、データ処理部170のメモリに収集される。メモリにはkスペースが形成される。このkスペースはラベル画像用のkスペースである。
【0053】
図10のパルスシーケンスでは、先ず、ラベリングプレーンLPのスピンのRF励起が行われる。RF励起は、所定のデューティレシオで所定回数印加される正弦波のRFパルスによって行われる。
【0054】
このRFパルスの信号強度は、図9のパルスシーケンスにおけるインバージョンパルスと同等であるが、正弦波であるために全体としてスピンのインバージョンは行われない。このRF励起は、イメージング領域IR上でのスピンのサチュレーション(saturation)効果を、図9のインバージョンパルスと同じにするために行われる。
【0055】
このようなスピン操作の後に、イメージング領域について撮影が行われる。撮影は、EPIによって行われる。すなわち、イメージング領域IRについて90°パルスによるスピン励起が行われる。90°励起の所定時間後に180°励起を行い、次いで周波数エンコード勾配Gfreqおよび位相エンコード勾配Gphaseを所定のシーケンスで印加して、複数のスピンエコーすなわちビューデータを逐次収集する。このようにして得られたビューデータが、データ処理部170のメモリに収集される。メモリにはkスペースが形成される。このkスペースはコントロール画像用のkスペースである。
【0056】
図11に、kスペースの概念図を示す。kスペースにおいて横軸kxは周波数軸であり、縦軸kyは位相軸である。同図において複数の横長の長方形がそれぞれビューデータを表す。長方形内に記入された数字は位相エンコード量を表す。位相エンコード量はπ/Nで正規化してある。Nは64〜512である。位相エンコード量は位相軸kyの中心で0である。中心から両端にかけて位相エンコード量が次第に増加する。増加の極性は互いに逆である。
【0057】
このようなkスペースが、ラベル画像とコントロール画像についてそれぞれ形成される。データ処理部170は、それらkスペースのビューデータをそれぞれ逆フーリエ変換して、ラベル画像およびコントロール画像をそれぞれ再構成する。
【0058】
データ処理部170は、さらに、ラベル画像とコントロール画像との差分画像を求める。差分画像は、インバージョンすなわちラベリングされたスピンが生じる磁気共鳴信号だけに基づく画像となる。これによって、差分画像はパーフュージョン画像となる。
【0059】
ところで、ASL撮影法における、ラベリングからイメージング開始までの待ち時間PLDは、本来、ラベリングされた血液がイメージング領域IRの全体に行き渡るほど十分長く、かつ、T1緩和が進まないよう極力短く設定するのが望ましい。しかし、ラベリングされた血液がイメージング領域IRの全体に行き渡るまでに要する時間ATTには、個人差があり、被検体の年齢、心拍数などによって変化する。さらに、脳梗塞などの疾患がある場合には、左右の脳でその行き渡り方にむらが出る。そのため、この待ち時間PLDの適切な時間は、勘や経験だけで事前に決めることが難しい。
【0060】
そこで、本実施形態では、実際に待ち時間PLDを変えながら予備的なパーフュージョン撮影を行って、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を得、これら予備画像に基づいて本番のパーフュージョン撮影における最適な待ち時間PLDを決定するようにする。
【0061】
予備的なパーフュージョン撮影を行うスライスSaは、イメージング領域IR内のスライスである。このスライスを、血流Bの上流側に設定すると、ラベリングされた血液がイメージング領域IRの全体に行き渡る前に、ラベリングされた血液がそのスライスに到達してしまう。したがって、スライスSaは、血流Bの下流側に設定することが望ましい。例えば、図5に示すように、イメージング領域IRの実質的な血流方向(略Z方向)におけるセンタCよりも下流側(図では上側)にスライスSaを設定する。
【0062】
なお、予備画像に高解像度の画像は不要なので、撮影時間短縮のため、予備的なパーフュージョン撮影では、解像度を本番のパーフュージョン撮影より低くして行うようにする。
【0063】
画像表示・記憶制御部607は、このような予備的なパーフュージョン撮影によって得られた複数の予備画像を表示部180の画面に表示させる。図7に、予備画像の一例として、待ち時間PLDを0.7s(秒)〜3.0sまで5段階に変化させたときの複数の予備画像P1〜P5を示す。
【0064】
ステップS3では、予備画像特徴量算出部603が、予備画像ごとに、MR信号強度の均一度を求める。このMR信号強度の均一度は、例えば、予備画像を構成する各画素に対応するMR信号強度の分散または標準偏差とする。
【0065】
ステップS4では、予備画像特徴量算出部603が、MR信号強度の均一度が一定レベル以上の予備画像を選定する。本番のパーフュージョン撮影に最適な待ち時間PLDに対応する予備画像では、ラベリングされた血液がイメージング領域IRの全体に十分行き渡り、MR信号強度のむらが少なく、その均一度が高いと推定できる。そこで、このようにして、最適なPLDに対応する予備画像の候補を絞る。
【0066】
ステップS5では、予備画像特徴量算出部603が、選定された予備画像について、その予備画像ごとに、MR信号強度の全体的な大きさを求める。このMR信号強度の大きさは、例えば、予備画像を構成する各画素に対応するMR信号強度の平均値とする。
【0067】
ステップS6では、最適PLD予備画像特定部604が、ステップS4で選定された予備画像のうち、MR信号強度の大きさが最大であるものを、最適PLDに対応した予備画像として特定する。本番のパーフュージョン撮影に最適な待ち時間PLDに対応する予備画像では、ラベリングされた血液がイメージング領域IRの全体に十分行き渡り、MR信号強度の大きさが大きいと推定できる。そこで、このようにして、最適なPLDに対応する予備画像を特定する。
【0068】
図8に、待ち時間PLDが1.3sである予備画像P2が、最適なPLDに対応する予備画像Psとして特定された例を示す。
【0069】
ステップS7では、PLD設定部605が、ステップS6で特定された予備画像に対応した待ち時間PLDを、本番のパーフュージョン撮影における待ち時間PLDとして設定する。なお、ステップS6で特定された予備画像に対応した待ち時間PLDを基準に、Δα時間だけ加算または減算した時間を、本番のパーフュージョン撮影における待ち時間PLDとして設定してもよい。
【0070】
ステップS8では、本撮影実行部606が、ステップS7で設定された待ち時間PLDを用いて、予備的な撮影より高解像度である本番のパーフュージョン撮影を実行する。
【0071】
ステップS9では、画像表示・記憶制御部607が、本番のパーフュージョン撮影により得られたデータを基に、パーフュージョン画像を再構成し、それを表示部180に表示させるとともに、その画像データをメモリに記憶させる。
【0072】
このような本実施形態によれば、予備的なパーフュージョン撮影により、ASL撮影法における待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を実際に取得し、これらの画像の状態から最適と思われるPLDに対応する予備画像を特定するので、本番のパーフュージョン撮影における最適なPLDを設定することができる。
【0073】
(第二実施形態)
上記ステップS2において、予備撮影実行部602は、図6に示すように、イメージング領域IR内における複数のスライスS1〜Snについて、予備的なパーフュージョン撮影を実行する。これにより、複数のスライスS1〜Snの各々について、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像が得られる。
【0074】
このようにすれば、イメージング領域の全体について、予備的なパーフュージョン画像を得られるので、疾患などにより場所によってATTが異なり、むらがあるような場合であっても、本番のパーフュージョン撮影における最適なPLDを、高い精度で見つけることができる。
【0075】
なお、本実施形態において、予備的なパーフュージョン撮影を血流の下流側のスライスから順次行ってゆき、撮影された予備画像におけるMR信号強度の大きさや均一度が、それまでに得られた最大レベルから所量下回る場合、あるいは、そのような状態が所定数回繰り返された場合に、予備的なパーフュージョン撮影を終了するようにしてもよい。このようにすれば、より短い時間で効率よく、最適なPLDを見つけることができる可能性がある。
【0076】
(第三実施形態)
上記ステップS3〜S5を行う代わりに、図7に示すように、予備画像をその予備画像に対応する待ち時間PLDと対応付けて画面に表示させる。そして、ステップS6において、操作者は、表示された予備画像の中から、PLDが最適だと思われる予備画像を指定する。最適PLD予備画像特定部604は、指定された予備画像を最適PLDに対応した予備画像として特定する。
【0077】
このようにすれば、操作者が、予備画像の描写を基に、直接的に、最適PLDに対応した予備画像を特定することができ、予備画像の特徴量に頼ることなく、最も確実な方法で、本番のパーフュージョン撮影に最適なPLDを設定することができる。
【0078】
なお、発明の実施形態は、上記の実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、これらの併合、種々の変更・追加等が可能である。
【0079】
例えば、第一実施形態において、予備画像ごとにMR信号強度の大きさを求め、この大きさが一定レベル以上の予備画像を選定し、選定された予備画像についてMR信号強度の均一度を求め、この均一度が最も高いものを最適PLDに対応する予備画像として特定してもよい。
【0080】
また例えば、単純に、予備画像の全体におけるMR信号強度の大きさが最大となる予備画像、あるいは、予備画像の全体におけるMR信号強度の均一度が最高となる予備画像を、最適PLDに対応する予備画像として特定してもよい。
【0081】
また、上記の実施形態では、頭部に対するパーフュージョン撮影を例に説明しているが、もちろん、発明は、体幹部に対するパーフュージョン撮影にも適用できる。
【0082】
また、上記のような最適な待ち時間PLDの設定は、CASLによるパーフュージョン撮影ばかりでなく、例えばPASL(Pulse Arterial Spin Labeling)、EPISTAR(Echo
Planar Imaging and Signal Targeting with Alternating Radio Frequency)、QUIPSS II(Quantitative Imaging of Perfusion Using a Single Subtraction II)等によるパーフュージョン撮影に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 対象
100 マグネットシステム
102 主磁場コイル部
106 勾配コイル部
108 RFコイル部
130 勾配駆動部
140 RF駆動部
150 データ収集部
160 シーケンス制御部
170 データ処理部
180 表示部
190 操作部
500 クレードル
601 ラベリング・イメージング領域設定部
602 予備撮影実行部
603 予備画像特徴量算出部
604 最適PLD予備画像特定部
605 PLD設定部
606 本撮影実行部
607 画像表示・記憶制御部
608 頭部血管検出部
IR イメージング領域
LP ラベリングプレーン
L1 ローカライザ画像
C イメージング領域の血流方向における中心
Sa 予備撮影を行う1スライス
S1〜Sn 予備撮影を行う複数のスライス
B 血流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体における血流の上流側で血液にスピンのラベリングを行い、待ち時間PLDが経過した後に、前記血流の下流側で前記ラベリングされた血液から磁気共鳴信号を収集し、該磁気共鳴信号に基づいて前記血流を画像化するASL撮影を行うMR装置であって、
予備的なASL撮影により、イメージング領域内のスライスについて、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を得るよう、撮影手段を制御する撮影制御手段と、
前記複数の予備画像の中から、予備画像を構成する各画素に対応する磁気共鳴信号強度の均一度および大きさのうち少なくとも一方に係る基準を満たす一つの予備画像を特定する特定手段と、
特定された予備画像に対応するPLDに基づいて、本番のASL撮影におけるPLDを設定する設定手段とを備えたMR装置。
【請求項2】
前記特定手段は、前記磁気共鳴信号強度の均一度が一定レベル以上である予備画像の中で、前記磁気共鳴信号強度の大きさが最大である予備画像を特定する請求項1に記載のMR装置。
【請求項3】
前記磁気共鳴信号強度の均一度は、磁気共鳴信号強度値の分散または標準偏差であり、前記磁気共鳴信号強度の大きさは、磁気共鳴信号強度値の平均値である請求項2に記載のMR装置。
【請求項4】
前記複数の予備画像を表示させる表示制御手段をさらに備えた請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のMR装置。
【請求項5】
被検体における血流の上流側で血液にスピンのラベリングを行い、待ち時間PLDが経過した後に、前記血流の下流側で前記ラベリングされた血液から磁気共鳴信号を収集し、該磁気共鳴信号に基づいて前記血流を画像化するASL撮影を行うMR装置であって、
予備的なASL撮影により、イメージング領域内のスライスについて、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を得るよう、撮影手段を制御する撮影制御手段と、
前記複数の予備画像を表示させる表示制御手段と、
操作者の操作に応じて前記複数の予備画像の中から一つの予備画像を特定する特定手段と、
特定された予備画像に対応するPLDに基づいて、本番のASL撮影におけるPLDを設定する設定手段とを備えたMR装置。
【請求項6】
前記設定手段は、特定された予備画像に対応するPLDと実質的に等しい時間を、本番のASL撮影におけるPLDとして設定する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のMR装置。
【請求項7】
被検体における血流の上流側で血液にスピンのラベリングを行い、待ち時間PLDが経過した後に、前記血流の下流側で前記ラベリングされた血液から磁気共鳴信号を収集し、該磁気共鳴信号に基づいて前記血流を画像化するASL撮影を行うMR装置であって、
予備的なASL撮影により、イメージング領域内のスライスについて、待ち時間PLDが異なる複数の予備画像を得るよう、撮影手段を制御する撮影制御手段と、
前記複数の予備画像と該予備画像に対応するPLDとを対応付けて表示させる表示制御手段と、
操作者の操作に応じて本番のASL撮影におけるPLDを設定する設定手段とを備えたMR装置。
【請求項8】
前記撮影制御手段は、前記ラベリングの位置または領域に対して、前記イメージング領域の実質的な血流方向の中心よりも遠い位置のスライスについて前記複数の予備画像を得るよう制御する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のMR装置。
【請求項9】
前記撮影制御手段は、前記イメージング領域内の複数の異なるスライスについて前記複数の予備画像をそれぞれ得るよう制御する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のMR装置。
【請求項10】
前記撮影制御手段は、前記予備的なASL撮影を、前記本番のASL撮影よりも低い解像度にて行うよう制御する請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のMR装置。
【請求項11】
前記血流は、頭部における血流である請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のMR装置。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のMR装置が備える各手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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