MSRV/HERV−Wと関連した症状を治療するための組成物
本発明の組成物は、抗-Env-SU MSRV/HERV-W抗体の群(i)、またはMSRV/HERV-WのEnvタンパク質の可溶性画分もしくはMSRV/HERV-WのEnvタンパク質の可溶性画分のTLR4受容体と特異的に結合可能な抗TLR4抗体の群(ii)の中から選択された少なくとも一種類の抗体を含む。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
数年間にわたり、様々なレトロウイルス、特に、内在性レトロウイルス(HERV)の、糖尿病[1]、多発性硬化症(MS)[2]および精神分裂病(SCZ)[3]のような症状における重要な発現について多くの研究が行われてきた。HERVは、既知の動物のレトロウイルスとの相同性を有し、おそらくヒト生殖細胞系列への組み込みから生じる。ヒトゲノムにおけるこれらのHERVの配列は、全プロウイルス配列が既に特定されているにもかかわらず、一般的には不完全である。
【0002】
MSを患う患者由来の軟髄膜細胞の培養におけるレトロウイルス粒子は、既に単離されている[4]。これらの粒子の研究は、ヒトDNAに対して相同的な遺伝子配列を有するが、内在性レトロウイルスの新しいファミリー(HERV-W)を示す[2, 5, 6]。患者の血清および/または脳脊髄液(CSF)におけるMSRVの存在は、様々な研究グループによって今まで確認されておらず[7-9]、ウイルス負荷と疾患の進化との間の関係が実証されてきた[10]。MSRVおよびそのエンベロープタンパク質が、スーパー抗原(Sag)型のTリンパ球に媒介された炎症誘発性性質を有することが実証された[11]。動物モデル(ヒト化されたSCIDマウス)が、このような粒子のインビボにおける免疫病理学的能力、特に、Tリンパ球によって媒介された炎症誘発性サイトカインの分泌を誘導するその能力を確認するために開発された[12]。
【0003】
以下の記述の中で、MSRV/HERV-Wファミリーのウイルスは、区別なくMSRVまたはMSRV/HERV-Wと呼ぶ。
【0004】
他の症状は、MSのように、大量のIL-6の存在によって特徴づけられる免疫系活性化の特徴を示す。これらの中において、精神分裂病(SCZ) -遺伝的および環境的因子と関連した神経精神医学的な疾患- は、正常な状態よりも非常に高い血清IL-6レベルをその症状の程度に依存して示す。さらに、MSRVと類似するレトロウイルスの配列は、SCZ患者において同定されている[3]。さらに、より最近、新たに診断されたSCZ患者のCSFは、循環粒子と関連したMSRV/HERV-Wファミリーのレトロウイルス配列を示すことが実証された[14]。
【0005】
このような発現は、そのエンベロープタンパク質の炎症誘発性効果と活性化経路によって様々な神経学的症状における役割を有するMSRV/HERV-Wと適合する。このレトロウイルス要素(活性化共因子の制御のもとそれ自体)およびその関連した効果は、炎症性脱髄性疾患の場合において特に関係がある[15]。精神分裂病の場合において、IL-6の過剰発現を通して全身性レベルで明らかになった炎症はまた、脳内の小膠細胞/マクロファージによって媒介された炎症の既知の神経毒性および興奮毒性と関係する、脳内の灰質のレベルに局所的に関係している[16-30]。
【0006】
MSRV/HERV-W RNA配列の異なる発現はまた、躁鬱病の精神病(双極性障害)を含む精神分裂病患者の前頭皮質組織において報告されている。さらに、この異なるレトロウイルス「MSRV/HERV-W」の全身性の影響は、相克的な精神分裂症の症状をもつホモ接合の双生児の血液中において実証されてきた。従って、循環IL-6の過剰発現の役割を果たし得る「全身性」の複製の存在が実証されている[3]。
【0007】
精神分裂病患者におけるMSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質は、皮質または皮質下の神経毒性および/または興奮毒性シグナルの生成における特異的炎症因子の役割のレベルで、精神分裂病の病理カスケードの一部である。
【0008】
現時点において、様々な独立したチームからの刊行物は、MSRV/HERV-Wファミリーの成分とMSおよびSCZのような病理との間の関係を示す。また、他の疾患も含まれることが判明し得た。
【0009】
発明者らは、意外にも、Tリンパ球によって媒介された炎症とは無関係なMSRV/HERV-WのEnvタンパク質が他の炎症誘発性活性を有することを今まで示していなかった。この新規な炎症誘発性活性には、T細胞以外の細胞が関与し、かつT細胞受容体(TCR)以外の受容体が関与する。その結果、スーパー抗原によるTCRの活性化以外の炎症誘発性経路が活性化される。この新規な炎症誘発性活性は、Tリンパ球のTCRとの結合に関与するスーパー抗原の機能によって引き起こされる炎症誘発性活性とは異なる。発明者らは、この炎症誘発性活性が、MSRV/HERV-Wエンベローブタンパク質の可溶性画分のドメイン(Env-SU)によるものであることを見出した。前記ドメインは、抗原提示細胞(マクロファージ、単球、樹状細胞および小膠細胞)および同定されていない受容体によって媒介された上記新規な炎症誘発性効果の原因となる。従って、レトロウイルス粒子の表面に存在するEnv-SUは、抗原提示細胞(APC)を標的とし、APCを活性化して、大量のTNF-α、IL-1βおよびIL-6の分泌を誘導する。これらの炎症誘発性効果は、MSを患う患者において研究され、その後ドナーにおいて得られたものと比較されてきた。発明者らは、Env-SUによって誘導されたIL-6の生成がMS患者において増加し、その臨床的スコア(EDSS)と関連することを示してきた。血清中のIL-6の存在の増加、MS患者のSCFおよび障害[32-37]は、MS患者の中枢神経系において観察される障害の進行および持続において重要な役割を果たすことが推測されている。
【0010】
発明者らは、さらに驚くべきことに、これらの新規な炎症誘発性効果に関与したEnv-SU受容体が、ヒトTLR4(Toll-like受容体4)タンパク質であることを見出した。TLR4をコードする遺伝子は、第9染色体上に位置する(9q32-q33)。タンパク質は839個のアミノ酸からなり、95679 Daの分子量を有する。TLR4は、MD-2と呼ばれる他の分子と協力し、CD14と共に、この複合体が、細菌リポ多糖類(LPS)の認識に関与していることが知られている。その結果、サイトカインの分泌および炎症反応におけるNF-κ-B因子が活性化される。MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質(Env-SU)の可溶性画分についての受容体の役割は、本発明以前には知られていなかった。TLR4タンパク質は、Tリンパ球上に発現していないので、TLR4受容体で実証された効果の主たる標的ではない。発明者らはまた、患者の生物学的液体において検出された循環RNAと関連したMSRVレトロウイルス粒子(レトロウイルスの複製とは無関係である)が、マクロファージ、単球、樹状細胞および小膠細胞のような抗原提示細胞上に存在するTLR4受容体に関与する、この新規な早期の炎症誘発性活性経路の誘導体であることを示した。このため、発明者らは、産生株培養上清から精製されたMSRVウイルス粒子を不活性化し[4]、MSRV/HERV-W Envタンパク質の存在と関連したその活性について試験を行った。実験の部において示された結果は、TLR-4による生得的な免疫の不活性化のための早期の経路が、可溶性形態(Env-SU)およびMSRVウイルス粒子の表面での膜結合形態におけるエンベロープタンパク質によってターゲットされていることを確認している。
【0011】
従って、本発明の内容において得られた結果は、症状、特に神経学的症状(例えばMSおよびSCZ)における免疫療法の戦略を確立することができる。そして、特に、一以上の治療学的薬剤を血液脳関門を横切って輸送することができるベクターを同定することができる。本発明の結果の主要な側面の一つは、治療の内容において、早期の炎症シグナルの生成に関与する「MSRV/HERV-W Env-SuおよびTLR 4」リガンド/受容体系の同定によって、脳の小膠細胞/マクロファージの活性化に関連した炎症成分を標的にすることを可能にすることである。前記早期の炎症シグナルは、例えば、白質(MS)に位置する小膠細胞/マクロファージに由来するときの脱髄性カスケード、または灰質(SCZ)におけるこれらの同じ細胞によって生成されるときの興奮毒性/神経毒性カスケードを開始する。
【0012】
従って、本発明の対象は、MSRV/HERV-Wの存在と関連した症状を示す個体を治療するための方法であって、MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分に特異的に結合することができる抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体のグループ(i)から選択された少なくとも一つの抗体、またはMSRV/HERV-W Env-Suタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体と特異的に結合することができる抗体のグループ(ii)から選択された少なくとも一つの抗体と、キャリアと、必要であれば、薬学的に許容可能なベクターとを含む、治療学的組成物または薬剤の個体への投与を含む。前記抗体は、MSRV/HERV-W Env-Suの活性化によって誘導された炎症誘発カスケードを阻害する。前記方法は、特に、MSおよびSCZの治療のために使用されるが、その症状がMSRV/HERV-Wの炎症誘発性タンパク質の発現と関連している場合、他の疾患の治療にも適用することができる。
【0013】
前記抗Env-SU抗体は、特に、SEQ ID NO: 1において特定された配列のうち、アミノ酸122-131(両端の数字を含む)に対応する領域、および/またはアミノ酸312-316(両端の数字を含む)に対応する領域、および/またはアミノ酸181-186(両端の数字を含む)に対応する領域と結合することができる。
【0014】
本発明の方法によれば、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体または少なくとも一つの抗TLR4抗体を含む組成物または薬剤を、患者に投与することができる。本発明の方法の一つの実施形態において、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体と少なくとも一つの抗TLR4抗体とを含む組成物または薬剤を、患者に投与する。
【0015】
好ましくは、本発明の方法において、抗Env-SU抗体は、以下の抗体:抗MSRV/HERV-W Env-SUモノクローナル抗体(抗体3B2H4、13H5A5および3Hl0Fl0(bioMerieux))から選択され、抗TLR4抗体は、抗ヒトTLR4抗体HTAl25(eBioscience社によって販売)である。bioMerieuxモノクローナル抗体を得る方法は、以下の明細書中に記載されている。上述した抗体は独自のものであり、TLR4受容体による抗原提示細胞上で新たに実証された炎症誘発性活性に関してその活性を喪失させる特徴がある。
【0016】
抗TLR4または抗Env-STJ抗体は、必要であれば、血液脳関門(BBB)を横切って抗体を輸送するための薬学的に許容可能なベクターに付随した薬学的に許容可能なキャリアによって個体に投与される。MSについてのケースであるが、症状の進行のある一定の段階で、血液脳関門の開放が起こる場合、上記ベクターを使用する必要はない。しかし、血液脳関門の開放がないとき、SCZについてのケースであるが、上記ベクターは必要である。これらのベクターはよく知られている[38-45]。治療学的手法は、脳の小膠細胞/マクロファージの活性化に関連した炎症成分を、このドメインにおける唯一の特異性をもって標的にする。この特異性は、早期の炎症シグナルの生成に関与する「MSRV Env-SuおよびTLR4」リガンド−受容体系の同定に関係している。前記早期の炎症シグナルは、例えば、白質(MS)に位置する小膠細胞/マクロファージに由来するときの脱髄性カスケード、または灰質(SCZ)におけるこれらの同じ細胞によって生成されるときの興奮毒性/神経毒性カスケードを開始する。
【0017】
抗MSRV Env-SUまたは抗-TLR4抗体の有用性は、MSRV/HERV-Wの病理学的発現と関連した様々な疾患において、MSRV/HERV-Wの発現によって誘導される炎症誘発カスケードを「源流で」遮断することである(なお、MSRV/HERV-W自体は、ヘルペスウイルスタイプの感染性共因子によって、ホルモンシグナルによって、または特異的なサイトカインによって誘導される)。
【0018】
従って、本発明の対象は、組成物である。この組成物は、MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分に対して、またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体に対して特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体のグループ(i)または抗TLR4抗体のグループ(ii)から選択された少なくとも一つの抗体と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む、治療学的目的のための組成物であると理解される。必要であれば、前記組成物にはまた、薬学的に許容可能なベクターが含まれる。前記抗体は、MSRV/HERV-W Env-SUの活性化によって誘導された炎症誘発カスケードを阻害する。好ましくは、前記組成物には、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体と、少なくとも一つの抗TLR4抗体とが含まれる。この組成物において好ましい抗体は、抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体(3B2H4、13H5A5および3Hl0Fl0)および抗TLR4抗体HTA125である。上述の抗体は、TLR4受容体を介して抗原を提示する細胞上で新たに行われる炎症誘発性活動に関して「中和化する」モノクローナル抗体である。
【0019】
前記抗Env-SU 抗体は、特に、SEQ ID NO: 1において特定された配列のうち、アミノ酸122-131(両端の数字を含む)に対応する領域および/またはアミノ酸312-316(両端の数字を含む)に対応する領域および/またはアミノ酸181-186(両端の数字を含む)に対応する領域に結合することができる。
【0020】
本発明の対象はまた、MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分に対して、またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体に対して特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体のグループ(i)または抗TLR4抗体のグループ(ii)から選択された少なくとも一つの抗体の、薬剤の調製のための使用である。前記抗体は、MSRV/HERV-W Env-SUの活性化によって誘導された炎症誘発カスケードを阻害する。特に、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体と少なくとも一つの抗TLR4抗体が使用される。抗HERV-W Env-SU抗体は、抗体3B2H4、13H5A5および3Hl0Fl0から選択される。そして、抗TLR4抗体は、抗体HTA125である。この使用は、MSRV/HERV-W、例えば多発性硬化症または精神分裂病と関連した症状の治療のために行われる。
【0021】
前記抗-Env-SU抗体は、特に、SEQ ID NO: 1において特定された配列のうち、アミノ酸122-131 (両端の数字を含む)と対応する領域および/またはアミノ酸312-316 (両端の数字を含む)と対応する領域および/またはアミノ酸181-186 (両端の数字を含む)と対応する領域と結合することができる。
【0022】
本発明の対象はまた、MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分に対して、またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体に対して特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-Suおよび抗TLR4抗体から選択された、MSRV/HERV-Wの活性化によって誘導された炎症誘発カスケードを阻害するための抗体(特に、抗体3B2H4、13H5A5および3Hl0Fl0)である。しかしながら、他の抗体を生成および選択することは、当該技術の範囲内にある。選択のための条件は、選択された抗体が、以下の実験のセクションにおいて記載されたインビトロ試験におけるEnv-SUの炎症誘発効果を阻害することができることである。
【0023】
本発明において使用された用語「抗体」は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化された抗体、組換え型抗体および前記抗体の断片が含まれる。本発明の抗体は、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の可溶性画分についての高い親和性によって特徴づけられ、かつ非毒性または非常に弱い毒性を示す。特に、投与される個体のために、可変性の領域および/または定常領域が弱い免疫原性を示す抗体を使用するのが好ましい。本発明の抗体は、MSRV/HERV-Wに付随した症状を示す患者を治療するための効能によって特徴づけられ、同時に、無毒性または非常に弱い毒性を示すことによって特徴付けられる。弱い免疫原性および/またはこれらの抗体の高い親和性は、達成される治療学的効果に貢献するであろう。
【0024】
用語「抗体断片」は、ネガティブ抗体のF(ab)2, Fab, Fab・and sFv断片を意味することを意図し(Blazar et al., 1997, Journal of Immunology 159: 5821-5833 and Bird et al., 1988, Science 242: 423-426)、用語「キメラ抗体」は、特にネガティブ抗体のキメラ誘導体を意味することを意図する(例えばArakawa et al., 1996, J. Biochem 120: 657-662 and Chaudray et al., 1989, Nature 339:394-397を参照)。
【0025】
モノクローナル抗体の産生は、当業者の一般的知識の一部分である。参照として、「Kohler G. and Milstein C. (1975): Continuous culture of fused cells secreting antibody of predefined specificity, Nature 256: 495-497 and Galfre G. et al. (1977) Nature, 266:522-550.」を挙げる。免疫原は、免疫化の支持体としてのキーホールリンパヘモシアニン(KLHペプチド)または血清アルブミン(SAペプチド)に結合することができる。動物は、フロイントアジュバントを使用して免疫原の注入を受ける。免疫にされた動物から得られる血清およびハイブリドーマ培養上清は、それらの特異性およびそれらの選択性について、従来の技術(例えばELISA試験法またはウエスタンブロット法)を使用して分析される。最も特異的かつ最も感受性の抗体を生産するハイブリドーマが選択される。モノクローナル抗体はまた、作製されたハイブリドーマの細胞培養によって、あるいはマウスにハイブリドーマを腹腔内注入した後に腹水を回収することによって、インビトロで生産することができる。抗体は、生成方法に関係なく、上澄みまたは腹水として精製される。使用される精製方法には、主としてイオン交換ゲルおよび排除クロマトグラフィー上での濾過またはアフィニティークロマトグラフィー(プロテインAまたはG)上での濾過がある。抗体は、最も有効な抗体を選択するために、機能的な試験法で選別される。遺伝子工学によって生産される抗体断片およびキメラ抗体のインビトロ生産は、当業者には周知である。例として、抗体は、抗体の可変性断片(scFv)をコードするRNAから得られるcDNAのクローニングによって生産され得る。ヒト以外の抗体の「ヒト化された」形態、例えば、マウスの抗体は、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化された抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、受容体の超可変領域の残基が、ヒト以外のドナー種(ドナー抗体)(例えば、所望の特異性、親和性および効能を有する、マウス、ラット、ウサギまたはヒト以外の霊長類)の超可変領域の残基で置換される。あるケースでは、ヒト免疫グロブリンのFv領域の残基(FR)は、対応するヒト以外の残基で置換される。さらに、ヒト化の抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に見出せない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の効果を向上させるために作製され得る。一般的には、ヒト化された抗体は、少なくとも一つの、好ましくは二つの可変性ドメインを含む。全てのまたはほとんど全ての超可変性ループは、ヒト以外の免疫グロブリンに対応し、全てのまたはほとんど全てのFR領域は、ヒト免疫グロブリンのFRである。ヒト化された抗体はまた、任意的には免疫グロブリン、例えばヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部分を含む。一般的には、可変性領域は、ヒト以外の哺乳類の抗体に由来し、定常領域は、ヒト免疫グロブリンに由来する。好ましくは、選択された可変性領域は弱い免疫原性を示し、かつ同じく弱い免疫原性を示す定常領域と結合する。
【0026】
これらの抗体は、好ましくは以下の「中和化されている」抗体である:
−抗MSRV/HERV-W Env-SUモノクローナル抗体:抗体3B2H4、13H5A5および13H10F10(bioMerieux)、
−抗TLR4抗体:抗ヒトTLR4モノクローナル抗体HTA125(eBioscience社によって販売)。
【0027】
抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体は、以下に記載のプロトコルに従って産生される。
【0028】
−抗体3B2H4の産生:
マウスは、以下のプロトコルに従って免疫される:0日目、完全フロイントアジュバントの存在中における上述したような[11]、精製された組換え型のMSRV/Envタンパク質からなる20μgの免疫原の腹腔内注入。14日目〜28日目、不完全フロイントアジュバントの存在中における同量の免疫原のさらなる腹腔内注入。融合の4、3および2日前、生理食塩水で希釈された100のμgの免疫原の腹腔内注入。
【0029】
400の上清を、間接的ELISA技術によってスクリーニングした。プレートを、0.05Mの重炭酸塩バッファー(pH 9.6)中1μg/mlで100μlの抗原でコーティングした。コーティングされたプレートを、18〜22℃の温度で終夜インキュベートした。プレートを、200μlのPBS-1%ミルクで飽和し、かつ37℃(+/-2℃)で1時間にわたってインキュベートした。PBSバッファー-0.05Tween 20で希釈された100μlの上清または腹水液を、37℃(+/-2℃)で1時間にわたってインキュベートした。PBSバッファー-l% BSAで1/2000まで希釈された、アルカリホスファターゼ(AP)と結合した100μlのヤギ抗マウス免疫グロブリン(H+L)ポリクローナル抗体(Jackson Immunoresearch ref: 115-055-062)を添加し、その後にプレートを37℃(+/-2℃)で1時間にわたってインキュベートした。DEA-HCL (Biomerieux ref 60002989)(pH=9.8)中2mg/mlの濃度で100μlのPNPP (Biomerieux ref 60002990)を添加した。その後にプレートを37°+/-2℃の温度で30分間にわたってインキュベートした。100μlの1N NaOHの添加によって反応を遮断した。300μlのPBS-0.05% Tween 20で、3つの洗浄を各工程間で行った。PNPPを加える前に、蒸留水におけるさらなる洗浄を行った。
【0030】
22の上清を、4倍のバックグラウンド・ノイズに対応するOD>0.2での間接的ELISAによってポジティブであると見出した。特異性試験の後、一つの抗体を産生した。
【0031】
−抗体13H5A5および3H10F10の産生:
マウスは、以下のプロトコルに従って免疫される:0日目、完全フロイントアジュバントの存在中における[11]に記載されたように、精製された組換え型MSRV/Envタンパク質からなる、40μgの免疫原の腹腔内注入。14、28および78日目、不完全フロイントアジュバントの存在中における同量の免疫原のさらなる腹腔内注入。融合の4、3および2日前、生理食塩水で希釈された50μgの免疫原の腹腔内注入。
【0032】
上述したように、1350の上清を、間接的なELISA技術でスクリーニングした。39の上清が、4倍のバックグラウンドノイズに対応するOD>0.4での間接的なELISAによってポジティブであると見出された。特異性試験の後、2つの抗体を産生した。
【0033】
上述したように、上述の抗Env-SUおよび抗-TLR4抗体はMSRV/HERV-Wと関連する症状の治療のための薬剤または治療学的組成物の調製のために使用される。本発明の治療学的な目的のための組成物において、抗体または活性成分は、薬学的に許容可能なキャリアおよび、任意的には、薬学的に許容可能なベクターと結合する。薬学的に許容可能なキャリアは、選択された投与方法および薬品分野における標準的プラクティスに基づいて決定および選択される。例えば、上記キャリアが経口投与または非経口投与(静脈内、皮下内または筋肉内など)されるとき、タンパク質は消化を受けるので、投薬は吸収を最適化するために通常使用されるべきである。例えば、薬学的に許容可能なキャリアは、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th ed., Mack Publishing Co.に記載されている。例えば、注入による投与に適した腸管外組成物は、0.9%の塩化ナトリウム溶液中1.5重量%の活性成分を分解することによって調製される。それは、抗体がBBBを交差可能にする選択されたベクターと抗体を結合させるために必要である。輸送不可能な抗体は、移動可能なベクター(例えばカチオン化されたアルブミン、トランスフェリン、インスリンまたはインスリン様成長因子)と結合でき、あるいは前記タンパク質の断片と結合できる。特に、トランスフェリンまたはインスリン様成長因子のような、運搬ベクターと結合した輸送不可能なモノクローナル抗体(IgG3)は、BBBを交差可能にするが、これらの抗体の機能的な性質は保存されることは、既に示されている。他の研究班は、神経薬学的な製品がリポソームを介して脳に送達され得ることを既に示している。このアプローチはまた、あるメカニズムを介して、リポソーム内に被包され得る任意の分子が脳に向かい得ることを提示するものであり、重要である。
【0034】
抗体は、治療効果を増強または向上させるために、個別の治療薬として、あるいは他の治療薬との組み合わせにおいて投与され得る。投与量は、既知の要素、例えば、特定の物質の薬力学的な特徴、およびその投与経路の他、年齢、体重、治療の回数および所望のおよび予想される効果に依存するであろう。通常、活性成分の1日量は、ヒトでは1キログラムあたり0.01〜100ミリグラムの間にある。通常、1日あたり1キログラムあたり1〜40ミリグラム(一以上の日用量として投与される)は、所望の効果を得るための有効な量である。
【0035】
本発明はまた、IL-6、IL-12-p4OおよびTNF-αから選択されたサイトカインをアッセイすることによって、多発性硬化症または精神分裂症に患う患者の血液単核細胞の反応性の状態を決定するための、MSRV/HERV-W Env-SUの使用に関する。
【0036】
図面
図1は、Env-pV14エンベロープ、シグナルペプチド、およびEnv-SUエンベロープの可溶性画分の構造と、シグナルペプチドおよびEnv-SUエンベロープの可溶性画分のアミノ酸配列とを表わす。図1(a)は、Env-pVl4の構造(MSRVの完全なエンベロープタンパク質)と、シグナルペプチドおよびEnv-SUエンベロープの可溶性画分の構造に対応する。エンベロープ(Env-SU)の可溶性画分は、完全なEnv pVl4タンパク質の位置K316で切断された、可溶性細胞外単位を表わす287のアミノ酸の部分に対応する。図1(b)は、シグナルペプチドおよびEnv SUのアミノ酸配列を表す。図1(b)において、シグナルペプチドのアミノ酸配列は四角の枠で囲まれ、エンベロープの可溶性画分(Env-SU)は太文字で表わされる。Env-SUの配列は、配列番号1としての配列識別子において参照される。Env pVl4エンベロープの完全な配列は、登録番号AF331500のもとジーンバンクにおいて利用可能である。Env pVl4タンパク質の様々な部分は、通常、図1(a)に関してここで記載されたように定義される:
−アミノ酸1で始まりアミノ酸29で終わる(両端を含む)シグナルペプチド、
−アミノ酸30で始まりアミノ酸316で終わる(両端を含む)Env-SU、および
−アミノ酸317で始まりアミノ酸542で終わる(両端を含む)膜通過領域。
【0037】
Env-SUの算出された平均分子量は、32061.59に等しい。その推定されたpIは、9.61に等しい。そのアミノ酸組成は、以下の通りである:
非極性アミノ酸:
数 パーセンテージ
A 9 3.14
V 16 5.57
L 25 8.71
I 13 4.53
P 21 7.32
M 7 2.44
F 11 3.83
W 6 2.09
極性アミノ酸:
数 パーセンテージ
G 16 5.57
S 31 10.80
T 34 11.85
C 12 4.18
Y 10 3.48
N 18 6.27
Q 9 3.14
酸性アミノ酸:
数 パーセンテージ
D 4 1.39
E 10 3.48
塩基性アミノ酸:
数 パーセンテージ
K 9 3.14
R 12 4.18
H 14 4.88
図2:Env-SUは、ヒトPBMC(単核細胞)の培養における炎症誘発性サイトカインの生産を誘導する。図2Aは、EnvSUの投与量を増加させながら24時間刺激された正常なドナー由来のPBMCの培養上清のELISA試験法(酵素結合免疫測定法)によって分析された、TNF-α、IL-1βおよびIL-6の分泌を表す。その結果は、3つの独立した試験に対応する。Env-SUの投与量は、x-軸(μg/ml)に表わされている。y-軸は、サイトカインの量(ng/ml)に対応する。その曲線において、記号■はIL-6の分泌に対応し、記号(黒丸)はIL-1βの分泌に対応し、記号(黒三角)はTNF-αの分泌に対応する。図2Bにおいて、PBMCは、1μg/mlの自己由来のコントロール、Env-SU、LPSまたはSEBで刺激され、かつELISAによるサイトカイン分泌の分析の前に24、48および72時間にわたってインキュベートされる。x軸は時間単位の時間に対応し、y軸は、IFNγおよびIL-6(図lB (a)および1B (c))については単位「ng/ml」における、TNFαおよびIL-1β(図lB (b)およびlB (d))については単位「pg/ml」における、サイトカインIFNγ、TNFα、IL-6およびIL-lβの生産に対応する。この図において、−(黒丸)−はEnv-SUに対応し、--×--はLPSに対応し、−(黒三角)−は、自己由来のコントロールに対応し、・・・・■・・・・はSEBに対応する。
【0038】
図3:Env-SUのサイトカイン刺激活性は、内毒素による汚染が原因ではない。単核細胞PBMCは、自己由来のコントロール(MOCK)、Env-SU、LPSまたはSEBで24時間にわたって刺激された。これが示されたとき、細胞は、刺激前に10μg/mlのPolymyxin B(PdyB)で処理された(図中黒色で表示)。同時に、細胞はまた、30分間煮沸(100℃)されたタンパク質および毒素でインキュベートされた(図中灰色で表示)。培養上清を回収し、ELISAによるTNF-αの放出について試験を行った。この図において示された結果は、三つの実験結果の平均値に対応する。Y軸は、単位「pg/ml」における放出されたTNF-αの量に対応する。
【0039】
図4:抗Env-SUモノクローナル抗体(13H5A5)は、Env-SUのサイトカイン刺激活性を遮断する。単核細胞PBMCは、1μg/mlの自己由来のコントロール(CK2)、Env-SUまたはLPSで24時間にわたって刺激され、かつ、30μg/mlの抗Env-SUモノクローナル抗体(13H5A5)、抗Gagモノクローナル抗体(3H1H6)、または上記抗体を含まない溶液(×)でプレインキュベートされた。培養上清を回収し、TNF-αの分泌について試験を行った。この図において示された結果は、三つの実験結果の平均値に対応する。Y軸は、単位「pg/ml」における放出されたTNF-αの量に対応する。
【0040】
図5:Env-SUは、精製されたヒト単球を直接活性化させる。ヒト単球は、ヒトPBMCから精製される(95%を超える純度)。そして、ヒト単球は、1μg/mlの濃度で24時間にわたって自己由来のコントロール(Mock)、Env-SUまたはLPSで刺激される。図5aは、フローサイトメトリーによって分析された活性マーカーCD80(左図)およびCD86(右図)の発現を表わす。x軸に沿って表わされたものはカウントされた細胞数であり、y軸に沿って表わされたものは、細胞当たりの蛍光強度(「カウント」)である。結果は、各蛍光強度についてカウントされた細胞の数を表わす。曲線によって定義された領域は、試験対象の各条件についての細胞の総数を表わす。蛍光強度の関数としての細胞の分布は、曲線の形状によって示される。白い領域は、コントロール(Mock)で得られた結果を表わす。薄い輪郭内にシェードの入った領域は、Env-SUで得られた結果を表わす。濃い輪郭内にシェードの入った領域は、LPSで得られた結果を表わす。図5bは、ELISAによって分析された、TNF-α、IL-1β、IL-6およびIL-l2p40の分泌を表わす。白色で表わされたものは、自己由来のコントロールで刺激後に得られた結果である。Env-SUおよびLPSで刺激後に得られた結果は、それぞれ黒色および灰色で表わされたものである。y軸は、単位「ng/ml」における選択されたサイトカインの量に対応する。これらの結果は、三つの実験の平均値を表わす。
【0041】
図6:Env-SUは、単球から派生した樹状細胞(MDDC)を活性化する。MDDCは、精製された単球から生成され、その後、1μg/mlの濃度で24時間にわたって、自己由来のコントロール、Env-SUまたはLPSで刺激された。図6aは、フローサイトメトリーによって分析された、活性マーカーCD80、CD86、CD40およびHLA-DRの発現を表わす。x軸に沿って表わされたものはカウントされた細胞の数であり、y軸に沿って表わされたものは細胞当たりの蛍光強度(「カウント」)である。左上図は、CD80の分析を表わし、右上図はCD86、左下図はCD40、右下図はHLA-DRを表わす。結果は、各蛍光強度についてカウントされた細胞の数を表わす。曲線によって定義された領域は、試験対象の各条件についての全細胞の数を表わす。蛍光強度の関数としての細胞分布は、曲線の形状によって示される。左側の白色領域は、コントロール(Mock)で得られた結果を表わし、より太い線で輪郭が示された右側の白色領域は、Env-SUで得られた結果を表わし、シェードの入った領域はLPSで得られた結果を表わす。図6bは、ELISAによって分析された培養上清におけるTNF-α、IL-6、IL-12p40およびIL-l2p70の分泌を表わす。y軸は、単位「ng/ml」における分泌されたサイトカインの量に対応する。図6bにおいて表わされたヒストグラムにおいて、Mockは、自己由来のコントロールでの刺激後に得られた結果に対応し、Env-SU(黒色)は、Env-SUでの刺激後に得られた結果に対応し、LPS(灰色)は、LPSでの刺激後に得られた結果に対応する。図6cは、前もってEnv-SU(−■−)、LPS(---(黒三角)---)、またはコントロールCK2(―(黒丸)―)で刺激された樹状細胞によるT細胞の同種間の増殖を表わす。x軸は、樹状細胞の数を表わす(それぞれ、1000、5000および10 000)。y軸は、3Hチミジンが組み込まれた細胞によって放射された毎分当たりのカウントの数を表わす。
【0042】
図7:CD14およびTLR4は、Env-SUの炎症誘発性に関与している。単核細胞PBMCは、20μg/mlまたは5μg/mlの濃度で、抗CD14 (rhCDl4, ref.: AB383, R&D Systems-UK)(図7a)または抗TLR4(図7b)中和抗体で一時間にわたってプレインキュベートされた。その後、単核細胞PBMCは、1μg/mlの濃度で、CK2コントロール、Env-SU(ENV1)、LPSまたはSEBで24時間にわたって刺激された。TNF-αの放出は、ELISAによって細胞上清中で分析された。その結果を、図7aおよび7bのヒストグラムにおいて示した。Y軸は、単位「ng/ml」における放出されたTNF-αの量に対応する。黒色のヒストグラムは、抗体を添加しないで得られた結果に対応し、白色のヒストグラムは、20μg/mlの抗CD14および抗TLR4抗体の存在において得られた結果に対応し、灰色のヒストグラムは、5μg/mlの抗CD14および抗TLR4抗体の存在において得られた結果に対応する。これらの結果は、三つの実験の平均値に対応する。
【0043】
図8:TLR4経路活性化後の免疫学的増幅カスケード。このカスケードにおける治療学的ターゲットの例。
【0044】
図8は、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の病理学的発現から生じる活性化カスケードを概略的に表す。前記カスケードは、まず最初に、CD14補助受容体と結合可能なTLR4受容体を刺激する。この相互作用の前には、アゴニストMSRV-ENVタンパク質のみが存在する。この活性化後、生得の免疫の細胞が活性化され、多数の分子エフェクター(サイトカイン、酵素、脂質、フリーラジカルまたはレドックス化合物など)と活性化細胞が一緒になる。多発性硬化症の場合において、脳の白質の破壊と、Tリンパ球に対するミエリン抗原の提示、すなわち適合性免疫の自己反応性T細胞と結合した自己免疫成分の提示の後に第二の成分が活性化される。この段階で、何百または何千の異なる分子および細胞が、免疫病理学的効果を媒介することに関与する。これは、典型的には、初期刺激(MSRV/HERV-W ENV)との類似性を有さない免疫病理学的増幅カスケードを与える。
【0045】
今日までに利用可能なまたは提唱された治療は、アゴニストが現れる(例えば、抗TNF-α抗体、インターフェロンβおよびフェルラ酸のようなフリーラジカル捕捉剤分子)、増幅カスケードの段階に存在する多数のアゴニストの中から、炎症誘発性または病理学的アゴニストの「下流」をターゲットにする。これらは、これらの薬学的効果に感受性のない非常に多数の他のエフェクター(分子および細胞)の効果を阻害できない。これはMSのような疾患における多くの現在の治療の部分的および相対的効果を説明する。
【0046】
さらに、これらの治療は、病理学的MSRV/HERV-Wコピーを発現する他の細胞(反復性環境共因子、例えばヘルペスウイルス科の影響のもと)が、同じ病変部位または他の大脳部位で、同時にまたは異なる時間に、炎症誘発性エンベロープを産生することを妨げる(脳腔に関しておよび疾患の進行時間に関してMSを定義する多病巣性病変および再発/寛解の原理)。
【0047】
従って、タンパク質ターゲットによる誘導性の下流のエフェクターが全く生成されないカスケードのある段階での初期効果を阻害する治療は、このMSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の炎症誘発性効果と関連した症状において一般にデザインおよび使用される手法と比べて非常に高い関連性と潜在的な有効性を有する。実際には、たとえカスケードが活性化されても、この治療学的戦略によって上流で「枯渇」し、他方では、上流の刺激は、他の「下流」の治療学的手法において継続するであろう。最後に、疾患の寛解の期間中における再発を防止する手法において、これらの抗体は、これらがここに記載されたカスケードを始動させる前に、「MSRV/HERV-W ENV」タンパク質を中和することができ、他方では、「下流」分子または細胞をターゲットにする他の療法は、この炎症カスケードが作用内に引き起こされた後にのみ介入することができる。
【0048】
図9:MSRV/HERV-W ENVタンパク質の炎症誘発性効果に由来する二つの疾患をもたらす4つの重要な工程:
(i) 二つの共通の「上流」工程:(工程I)TLR4受容体の活性、および(工程II)局所的炎症
(ii) 二つの異なる「下流」工程:(工程III)ニューロン脱髄または興奮毒性および(工程IV)多発性硬化症または精神分裂病。
【0049】
補因子によって活性化され得、かつエンベロープタンパク質をコードする少なくとも一つのプロウイルスMSRV/HERV-Wコピーを含むターゲット組織における、この補因子の向性および細胞の存在によって決定された組織領域における、ヘルペスウイルス科ファミリー[46-49]の感染性補因子でのトランス活性化の後、エンベロープタンパク質(Env)は、病理学的活性化の状況において、MSRV/HERV-Wファミリーのレトロウイルスのコピーによって生産される。
【0050】
このように生成されたこのENVタンパク質はTLR4受容体と結合し、この状況に応じて、MSRV/HERV-W ENV および/または MSRVビリオンを生産する細胞の近傍における脳組織において存在するマクロファージまたは小膠細胞型の細胞のTLR4補助受容体、例えばCD14と結合する。前記細胞がマクロファージまたは小膠細胞である場合、この同じ細胞のTLR4受容体上での自己分泌効果が存在することを可能にする。
【0051】
このTLR4受容体での相互作用の工程の後、免疫病理学的増幅カスケードが、多量の炎症誘発性および組織破壊媒介性分子の生産とともに、MSRV/HERV-W再活性化の部位周辺の、関連した組織における局所的炎症を作り出す。
【0052】
この段階の後、該状況は、MSRV/HERV-W再活性化共因子とこれらの「応答物質」プロウイルスを収集する細胞の局在化が、白質中の発現に向かって集合するかまたは灰質中の発現に向かって集合するかによって分かれる。
【0053】
精神分裂症のような症状を発症させる病理学的経路を決定する第一のケースにおいて、
前頭皮質のニューロン構造の近くのMSRV/HERV-W要素の誘導された再活性化または誘導された過剰発現は、灰質組織において、主要な損傷誘発活性および特異的な免疫漸増を許さない局所的な炎症を誘導する。この局所的な炎症は、このレベルでのTリンパ球の侵入を許さない。他方、知的および認知的活動を担うニューロン細胞近傍で生産される炎症誘発性メディエータは、影響を受けた脳のスペースにおいて、かつこの炎症誘発性生産が起こる期間の間、付随するニューロンネットワークの機能障害を決定する局所的ニューロン興奮毒性を引き起こす[17, 20, 22-26, 29, 50, 51]。影響を及ぼす領域に応じて、ニューロン興奮毒性活性化を生じる「心的」状態は、精神分裂症の臨床病理学的な発作を特徴づける幻覚的なおよび錯乱状態の徴候によって反映される。最後に、このニューロン興奮毒性は、細胞死(神経毒性)において発生し得ることが知られている。これは、精神分裂症を患う患者の脳における、MRIによって測定される脳室拡大によって客観化される[52]。
【0054】
多発性硬化症になる病理学的経路を決定する第二のケースにおいて、白質中のミエリンは、事前炎症によって補充されるリンパ球に対する自己抗原の提示とともに、原発性脱髄を生み出すフリーラジカルおよび炎症誘発性物質の影響を受ける。これらの条件のもと、リンパ球反応性の傾向は、小神経膠細胞/マクロファージ型細胞(Th1バイアス)によって前もって分泌されるサイトカインによって条件づけられ、これらの状態の下で提示される「自己」抗原に対して十分に自己免疫反応を発生させることができる。しかしながら、さらに、全MSRVエンベロープタンパク質またはMSRVビリオンが、Tリンパ球上で異なる活性、すなわち、TCR受容体での相互作用によって特徴づけられるスーパー抗原的活性を示し得ることが示された。原発性炎症によって漸加されたTリンパ球が組織を浸潤するこの下流の状況における前記性質は、原発性炎症によって事前に損害を受けた組織で露出されるミエリン抗原に対して反応性の特異的な自己免疫Tリンパ球を増進させる、Tリンパ球の多クローン性の活性化を最終的に加える。この状況において、免疫病理学的反応の第二の特質は、自己免疫の作用と活性化されたTリンパ球によって媒介される炎症の作用で起こる。
【0055】
図10:多発性硬化症(MS)を患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、ENV-SUによって誘導されたサイトカイン(TNF-α、IL-1βおよびIL-10)の産生
図10は、第一に多発性硬化症(MS)を患う患者由来の、第二に正常なドナー(ND)由来の、生体外で採取された血液単核細胞(PBMC)における、MSRV ENV-SUタンパク質によって誘導されるサイトカインの産生を表わす。NDまたはMSに隣接した指標n=は、そのサイトカインに関する各集団の試験対象となった人の数を表す。
【0056】
x軸は、刺激されたPBMC培養上清でのサイトカインの投薬量ng/mlを表す。各グラフは、各々の集団(NDおよびMS)において1ポイント(円)によって表される、試験対象の各個体についての結果を比較する。三つのグラフは、左から右に向かって、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターロイキン(IL)-1βおよびインターロイキン(IL)-10の産生を表す。算出されたとき、NDおよびMS集団の間で比較された結果は、これらの3つのサイトカインに関して顕著な差異は無い(NS:顕著ではない)。統計学的分析は、Studentの試験で行われた。
【0057】
図11:多発性硬化症(MS)を患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、ENV-SUによって誘導されたサイトカインの産生
図11は、第一に多発性硬化症(MS)を患う患者由来の、第二に正常なドナー(ND)由来の、生体外で採取された血液単核細胞(PBMC)における、MSRV ENV-SUタンパク質によって誘導されるサイトカインの産生を表す。NDまたはMSに隣接した指標n=は、そのサイトカインに関する各集団の試験対象となった人の数を表す。
【0058】
x軸は、刺激されたPBMC培養上清でのサイトカインの投薬量ng/mlを表す。各グラフは、各々の集団(NDおよびMS)において1ポイント(円)によって表される、試験対象の各個体についての結果を比較する。二つのグラフは、左から右に向かって、インターロイキン(IL)-12p40およびインターロイキン(IL)-6の産生を表す。算出されたとき、NDおよびMS集団の間で比較された結果は、これら二つのサイトカインに関してMS集団において際立って高い(IL-12p40ではp=0.003およびIL-6ではp=0.0006)。統計学的分析は、Studentの試験で行われた。
【0059】
図12:サイトカインの産生と患者の臨床的パラメータとの間の相関関係
図12は、研究対象のMS集団の臨床パラメータ(x軸)と、MSRV-SU ENVタンパク質によるPBMCの刺激に反応して生産される特定のサイトカインの量(y軸)との間における相関関係の分析のグラフ式の結果を表す。各グラフについて、「r」の値は、相関関係線と関連した点分布の統計学的算出を表す。pの値は、この相関関係がランダムに得られる統計学的な確率を表す。従って、0.05を上回る全てのpの値は「非特異性」を意味し、0.05未満の全ての値は分析対象の因子間に相関関係が存在することを意味する。
【0060】
上側の二つのグラフは、MS患者の臨床スコア(1〜10の重症度で測定されるEDSS [53])と、IL-6(左側)またはIL12p4O(右側)との間に顕著な相関関係が見出されたパラメータを示す。
【0061】
下側の二つのグラフは、顕著な相関関係が見出されなかったパラメーターの二つの例:疾患の期間とIL-6(左側)、またはγインターフェロンと臨床スコアEDSS(右側)を示す。
【0062】
図13:精神分裂症(SCZ)を患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、サイトカイン(IL-10)の自発的産生(a)およびENV-SUによって誘導された産生(b)
図13は、第一に精神分裂病(SCZ)を患う患者由来の、第二に正常なドナー(ND)由来の、生体外で採取された血液単核細胞(PBMC)における、MSRV ENV-SUタンパク質によって誘導されるサイトカインの産生を表す。
【0063】
x軸は、刺激されたPBMC培養上清でのサイトカインの投薬量ng/mlを表す。各グラフは、各々の集団(NDおよびSCZ)において1ポイント(円)によって表される、試験対象の各個体についての結果を比較する。二つのグラフは、左から右に向かって、培養中におけるインターロイキン(IL)-10の自発的産生およびENV-SUでの刺激後に誘導されたインターロイキン(IL)-10の産生を表す。
【0064】
図14:精神分裂症(SCZ)患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、サイトカイン(IL-l2p40)の自発的産生(a)およびENV-SUによって誘導された産生(b)、ならびに相対的増加の算出(c)
図14は、第一に精神分裂病(SCZ)を患う患者由来の、第二に正常なドナー(ND)由来の、生体外から採取された血液単核細胞(PBMC)内のMSRV ENV-SUタンパク質によって誘導されるサイトカインの産生を表す。
【0065】
x軸は、刺激されたPBMC培養上清でのサイトカインの投薬量ng/mlを表す。各グラフは、各々の集団(NDおよびSCZ)において1ポイント(円)によって表される、試験対象の各個体についての結果を比較する。三つのグラフは、左から右に向かって、a) 培養中におけるインターロイキン(IL)-12p40の自発的産生、b) ENV-SUによる刺激後に誘導されたインターロイキン(IL)-10の産生およびc)式:{(ENV-SU刺激後の量−自発的な量)/自発的な量 }に従って算出されたIL12p4Oの産生の相対的な増加を表す。
【0066】
図15:正常なドナー由来のヒトPEMCの培養における、ENV-SUタンパク質によって誘導された単球-マクロファージの炎症誘発性活性を阻害する、抗MSRV/HERV-W ENVモノクローナル抗体の同定および選択。a) 2つの抗ENV抗体および対照抗体での分析、b)前記分析の特異性についての状態の検証、c)独立した試験の例、d)独立した試験の他の例:
図15aは、正常なドナー由来のPBMCの培養中における、対照タンパク質(Mock)(1μg/ml)、ENV-SU(1μg/ml)およびLPS(1μg/ml)(x軸)によって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌(y軸)を表す。各刺激条件について左から右に向かって:白抜きの棒は、抗体がない場合の結果を表し、黒色の棒は、抗MSRV ENV抗体3B2H4(30μg/ml)の存在中における結果を表し、斜め線の入った棒は、抗MSRV ENV抗体13H5AS(30μg/ml)の存在中における結果を表し、および陰影の入った棒は、抗-MSRV GAG抗体3H1HG(30μg/ml)の存在中における結果を表す。
【0067】
図15bは、図15aと同じ正常なドナー由来のPBMCの培養液における、対照タンパク質(Mock)(1μg/ml)、ENV-SU(1μg/ml)およびLPS(1μg/ml)(x軸)によって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌(y軸)を表す。各刺激条件について左から右に向かって:白抜きの棒は、抗体がない場合の結果を表し、黒色の棒は、ポリミキシンB(25μg/ml)の存在中における結果を表し、および陰影の入った棒は、PBMC培養液に添加する前に30分間にわたって100℃で加熱されたMOCK、ENV-SUまたはLPSで得られる結果を表す。
【0068】
図15cは、正常なドナー由来のPBMCの培養液における、白抜きの棒によって表された対照タンパク質(Mock)(1μg/ml)、黒色の棒によって表されたENV-SU(1μg/ml)、およびハッチングの入った棒によって表されたLPS(1μg/ml)によって誘導された、TNF-α(pg/ml)の分泌(y軸)を表す。各刺激条件について左から右に向かって:x軸に沿って示された各抗体についての結果が示されている:3B2H4(30μg/ml)と同じアイソタイプの抗トキソプラズマ抗体「X」、抗MSRV ENV抗体3B2H4(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体13H5A5(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体3H1OF1O(30μg/ml)、抗MSRV GAG抗体3H1H6(30μg/ml)。
【0069】
図15dは、正常なドナー由来のPBMCの培養液における、白抜きの棒によって表された「Mock CK2」対照タンパク質(1μg/ml)および黒色の棒によって表されたENV-SU(1μg/ml)によって誘導された、TNF-α(pg/ml)の分泌(y軸)を表す。各刺激条件について左から右に向かって:x軸に沿って示された各抗体についての結果が示されている:3B2H4(30μg/ml)と同じアイソタイプの抗トキソプラズマ抗体「X」、抗MSRV ENV抗体3B2H4(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体6A2B2(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体3H1OF1O(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体13H5A5(30μg/ml)。
【0070】
図16:PBMC上でのTNF-α産生の速度論
正常なドナー由来のPBMCは、ELISAによるTNF-α産生の分析前に(y軸、pg/ml)、5μlのバッファー(黒丸を含む破曲線)、1μg/mlのENV-SU(黒四角を含む太い曲線)、または1μg/mlのLPS(黒三角を含む細い曲線)で刺激され、2時間、24時間または48時間(x軸)にわたってインキュベートされた。
【0071】
図17:ヒト化されたSCIDにおけるENV-SUの炎症誘発性効果
体重約25gのSCIDマウスが与えられ、x軸に沿って示されるように、バッファー、1個体当たり50μgのENV-SU、および1個体当たり50μgのLPSを注入した。また、各タイプの接種原についてx軸に沿って示されたように、2時間、24時間および48時間で屠殺されたマウスの腹腔洗浄(IP)由来の血清または液体が、ELISAによって分析された。
【0072】
左側のグラフは、TNF-α(pg/ml)の量を表す。上のグラフは、マウスのサイトカインの量を表し、下のグラフは、ヒトのサイトカインの量を表す。
【0073】
右側のグラフは、IL-6 (pg/ml)の量を表す。上のグラフは、マウスのサイトカインの量を表し、下のグラフは、ヒトのサイトカインの量を表す。
【0074】
図18:MSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導
図18は、57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導からなる予備試験の結果を表す。
【0075】
x軸は、注入後の日数を表す。y軸は、研究対象の動物の平均臨床スコアを表す。
【0076】
黒四角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(myelin oligodendrocyte glycoprotein))自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質を注入された動物を表す。この一連の研究は、25日目まで続けられた。
【0077】
黒三角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)を注入されたネガティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、25日目まで続けられた。
【0078】
図19:MSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導の再現
図19は、C57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導を確認する実験の結果を表す。
【0079】
x軸は、注入後の日数を表す。y軸は、研究対象の動物の平均臨床スコアを表す。
【0080】
黒四角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原および完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含む)を注入されたポジィティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、21日目まで続けられた。
【0081】
黒三角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質を注入された動物を表す。この一連の研究は、42日目まで続けられた。
【0082】
菱形(diamond)を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)を注入されたネガティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、42日目まで続けられた。
【0083】
十字線を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびLPSを注入されたネガティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、42日目まで続けられた。
【0084】
図20:「EAE/MOG/ENV-SU」モデルのマウスおよびENVの非存在下で免疫された対照群のマウスにおける、MOG自己抗原の増加する量に対する自己免疫反応の24時間での試験
x軸は、図19に例示されたプロトコルにおいてサンプル対象となったマウスのPBMCと接触させたMOG自己抗原の濃度(μg/ml)を表す。y軸は、MOG抗原の増加する量と接触するPBMC中に存在する自己免疫性Tリンパ球によって、インビトロに分泌されるインターフェロンγの量を表す。
【0085】
白抜きの棒は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質の、インビボ注入を行ったマウス由来のPBMC5を表す(図19に例示されたシリーズの「0」日目)。
【0086】
黒色の棒は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)の、自己抗原およびインビボ注入を行った対照群のマウス由来のPBMC5を表す(図19に例示されたシリーズの「0」日目)。
【0087】
図21:「EAE/MOG/ENV-SU」モデルのマウスおよびENVの非存在下で免疫された対照群のマウスにおける、インターフェロンγの分泌によって明らかにされる、抗MOG自己免疫性Tリンパ球反応の速度論
x軸は、PBMCのサンプルが図19で例示される一連のマウスから採取される、MOGおよびアジュバント製剤の接種後の時間(h)を表す。y軸は、PBMC中に存在する自己免疫性Tリンパ球によってインビトロに分泌されたインターフェロンγの量を表す。
【0088】
白抜きの棒は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質の、インビボ注入を行ったマウス由来のPEMCを表す(図19に例示されたシリーズの「0」日目)。
【0089】
黒色の棒は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)の、インビボ注入を行った対照群のマウス由来のPEMCを表す(図19に例示されたシリーズの「0」日目)。
【0090】
図22:本発明において開発および検証されたMSモデルにおいて実証された、ENV-SUの炎症誘発活性の抑制効果について選択される抗MSRV ENV抗体の治療学的活動
図22は、C57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導と、TLR4によって媒介される炎症誘発性活動の阻害に関する試験において事前に選択される、モノクローナル抗MSRV/HERV-W ENV抗体の抑制効果とを確認する実験の結果を表す。
【0091】
x軸は、注入後の日数を表す。y軸は、研究対象の動物の平均臨床スコアを表す。
【0092】
黒四角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)および完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含む)を注入されたポジィティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、28日目に終了させた。
【0093】
黒三角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質を注入された動物を表す。この一連の研究は、28日目まで続けられた。
【0094】
菱形(diamond)を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)を注入されたネガティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、28日目まで続けられた。
【0095】
十字線を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質を注入された動物を表す。これらの動物には、さらに、キログラム当たり50μgの量、すなわち20グラム重のマウス当たり1μgの抗MSRV GAG コントロール抗体3B2H4が与えられた。この一連の研究は28日目まで続けられた。
【0096】
図23:MSRV ENVタンパク質(下側)とHERV-W 7qコピーによってコード化されるENVタンパク質(上側)との間で比較されるアミノ酸配列; 囲まれた配列は同じである(保存領域)。
【0097】
図24:ウェスタンブロッティングによる分析
MSRV ENVタンパク質と、7q染色体上に偏在して位置するHERV-Wコピーのenv orfによってコードされるENVタンパク質(クローンMSRV pV14によってコードされるVl4= ENV組換え型タンパク質、クローンHERV-W7q pH74によってコードされるH74= ENV組換え型タンパク質)との間の抗原性の交差反応性
3C1D5: MSRVクローン由来の組換え型タンパク質での免疫処置の後に得られるモノクローナル抗体。
【0098】
矢印は、検出されたバンドのレベルを示す。60 Kdaは、対応する分子量のレベルを示す。
【0099】
図25:ENV-SUタンパク質の抗原性性質の分析
ウェスタンブロッティングによる分析
図25a、bおよびcは、「Protein analysis toolbox」機能をもつ、「Mac Vector」分析ソフトウェアを使用した、MSRV ENV-SUタンパク質のアミノ酸配列の分析結果を表す。3つの長方形で囲まれた領域は、一次配列および二次配列の分析に基づいた3つの最も有望な抗原性領域を表す。
【0100】
図25aは、「ENV-SU」領域の抗原性を図示する三つのグラフ。y軸上の「0」より上の陰影の入った領域は、ポジィティブな抗原性を有し、y軸よりも下はポジィティブな抗原性を有さない(ネガティブな抗原性)。
【0101】
図25bは、上の二つのグラフは、「ENV-SU」領域の親水性を表す。y軸上の「0」より上の陰影の入った領域は、ポジィティブな親水性を有し、y軸よりも下はネガティブな親水性を有する。
【0102】
図25cは、「ENV-SU」領域の表面確率(surface probability)を表す。y軸上の「0」より上の陰影の入った領域は、ポジィティブな可動性(flexibility)を有し、y軸よりも下はネガティブな表面確率を有する。
【0103】
実験の部
インビトロでの研究
材料および方法
タンパク質および毒素
MSRVエンベロープ(Env-SU)の表面タンパク質は、全エンベロープタンパク質(Env Pv14、GenBank AF331500)のうち287のアミノ酸のタンパク質配列に対応する。Env Pv14およびEnv-SUの構造およびアミノ酸配列は、それぞれ図1 (a)および1(b)に表されている。組換え型のMSRV Env-SUタンパク質は、大腸菌内で発現し、FPLCカラム上で精製される。タンパク質の品質および純度は、質量分析およびウエスタンブロット法によって確認される。カゼインキナーゼは、自己由来のネガティブコントロールとして使用される。この対照タンパク質は、Env-SUと同じ条件の下で産生および精製された。
【0104】
2つのタンパク質は、CleanCelis社(Bouffere、フランス)によって行われるリムルスアメーバ様細胞溶解物(LAL)試験によって、エンドトキシンの存在について試験される。全ての画分は、5 lU/mlの検知閾値を下回る。Toxin Technology (Sarasota, Fl, USA)から得られるブドウ球菌腸管毒素B(SEE)は、95%の純度であった。大腸菌株026:B6のリポ多糖体(LPS)は、Sigma Aldrichから得られる。
【0105】
培養液
培養液は、以下の成分を補充したRPMI 1640培地(Gibco)である。
【0106】
1% L-グルタミン (Sigma-Aldrich)、
1% ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、
1% ピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、
1% 非必須アミノ酸(Sigma-Aldrich)、および
10% 熱不活性化FCS (ウシ胎児血清)(BioWest)。
【0107】
T細胞増殖試験については、ヒトAB血清(Sigma-Aldrich)が、FCSの代わりに使用された。
【0108】
細胞の単離および調製
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll Paque密度勾配遠心分離法によって正常なドナーから単離される。PBMCの単球は、Miltenyl Biotec社によって販売された単球単離キットを使用して、T細胞、B細胞、樹状細胞、NK細胞および好塩基球を除去することによって精製される。要約すると、PBMCは、モノクローナル抗体とハプテンと結合した抗ヒト免疫グロブリンとの反応混液でインキュベートされ、かつ磁気的に標識され(抗CD3、抗CD7、抗CD19、抗CD45RA、抗CD5Gおよび抗IgE)、その後、抗ハプテンモノクローナル抗体に結合したマイクロビーズ(MAC MicroBeads)で標識された。磁気によって標識された細胞は、磁場内のカラム上でそれらを保持することによって、最終的に除去される。回収された単球集団の純度は、フローサイトメトリー分析によるCD14の発現によって決定されたときに、常に95%を超える。単球由来された樹状細胞(MDDC)の世代のために、精製された単球は、2mlの培地中25ng/mlのIL-4と50ng/mlのGM-CSFを含む6穴プレート上での5日間にわたって培養される。培養3日目に、サイトカインの全量が細胞に加えられる。形態学的な分析およびフローサイトメトリーによって示されるように、得られた細胞試料は、90%以上のCD1a-ポジティブ樹状細胞を含む。
【0109】
細胞刺激
細胞(PBMC、単球またはMDDC)は、Env-SU、LPS、SEBまたは自己由来のコントロールでの刺激前に、1 mlの培養液中の1ウェル当たり1×106細胞の濃度で24ウェルプレート中に静置される。これらは、その後5%のCO2で加湿された雰囲気内下37℃でインキュベートされる。指示があった段階で、前記細胞は、10 μg/mlのポリミキシンB (Sigma-Aldrich)、20 μg/mlおよび5 μg/mlの抗CD14モノクローナル抗体、20 μg/mlおよび5 μg/mlの抗TLR-4抗体(HTA125, eBioscience)でプレインキュベートされるか、あるいはコントロールIgGの2aアイソタイプ(IgG2a) (eBM2a, eBioscience)でプレインキュベートされる。ある実験において、Env-SU、自己由来のコントロール、LPSおよびSEEは、細胞を処理する前に30分間にわたって煮沸される。
【0110】
結果の特異性を決定するために、1 μgのEnv-SU、LPS、SEEおよび自己由来のコントロールは、Env-SU (13H5A5; IgG1; biomerieux)またはGAG (3H1H6; IgG1, biomerieux)に対する30 μg/mlのモノクローナル抗体で4℃で1時間にわたってプレインキュベートされる。
【0111】
次に、細胞は24時間にわたって37℃でインキュベートされ、その後、細胞上清はELISAによるTNF-α, IL-lβおよびIL-6の分泌の分析のために回収される。
【0112】
T細胞増殖試験
刺激された単球およびMDDCは、T細胞刺激物質として使用される。同種間のT細胞が、「応答」細胞として、96ウェルの丸い底入れされたマイクロプレートにおいて1ウェル当たり1×105細胞で使用される。前記刺激物質である細胞は、量を増加させながらT細胞に加えられ、培養が、最終容積200μlの培養液中において三重に行われた。5日間にわたって37℃でインキュベーション後、T細胞の増殖は、組み込まれた放射活性を測定することによって評価される。これを行うために、最終的な18時間のインキュベーション後、1μCiの3Hチミジンが各ウェルに加えられる。その後、組み込まれた放射活性を測定するために、細胞はガラスフィルター層上に回収される。
【0113】
免疫蛍光法およびフローサイトメトリーによるラベリング
前記細胞は、PBS中で播種、洗浄され、その後、異なる表面マーカーで染色される。以下のモノクローナル抗体(Becton-Dickinson, San Jose, CA)が使用された:抗CD1aアロフィコシアニン(HI149-APC)、抗CD14フルオレセインイソチオシアネート(MOP9-FITC)、CD4Oフィコエリトリン(5C3-PE)、CD8Oフィコエリトリン(L307.4-PE)、CD86フィコエリトリン(IT2.2-PE)およびHLA-DRペリジンクロロフィル(L243-PerCP)。
【0114】
T細胞の直接免疫蛍光法染色は、製造業者によって推奨された濃度の様々な抗体で、氷で冷却された2% FCSを補充したPBS中で行われる。4℃で30分後、細胞が洗浄され、その後、FACS Calibur(商標名)およびCellQuestソフトウェア(商標名)(Becton Dickinson)を使用して分析が行われる。
【0115】
サイトカイン生成アッセイ
培養上清が回収され、サイトカイン分泌の分析前に-20℃で保存される。サイトカインの量は、製造業者の指示に従いながら、IL-lβ、IL-6、IL-10、IL-l2p40、IL-12p40およびTNF-αについて、OptElA(商標名)ELISAキット(Pharmigen)を使用して測定される。
【0116】
結果
Env-SUは、ヒトPBMC由来の炎症誘発性サイトカインの産生を誘導する。
【0117】
PBMC培養液中におけるサイトカインの分泌を促進する組換え型のEnv-SUタンパク質の能力について試験を行った。正常なドナー由来のPBMCは、組換え型Env-SUタンパク質の量を増加させながら24時間にわたってインキュベートされ、サイトカインTNF-α、IL-1βおよびIL-6の分泌は、ELISAによって評価された。分泌されるサイトカインの量は、自己由来のコントロール、ヒトPBMC上での炎症誘発性性質を有することが十分に知られた、SEB(十分に特徴づけられた細菌性スーパー抗原)およびLPSで得られる量と比較された。全てのタンパク質および毒素は、1μg/mlの濃度 (投与量/反応実験によって決定された炎症誘発性サイトカインの誘導のための最適濃度)で使用された。その結果は、用量依存的方法において、10ng/mlの低投与量でさえ、Env-SUが3つのサイトカインの分泌を誘発することを示す。図2に示すように、Env-SUで得られるサイトカイン分泌速度論は、SEBの速度論よりもLPSの速度論により近い。実際には、本明細書中に展開および記載されたインビトロ試験法の条件下でのEnv-SUでの刺激は、SEB抗原で表されるスーパー抗原の刺激とは完全に異なる: (i) インターフェロンγ(Tリンパ球活性化のシグナルを出す)の非初期的分泌(具体的には、スーパー抗原によってT細胞受容体(TCR)のレベルで認識される)、(ii) IL-6(単球マクロファージによって分泌され、かつTリンパ球によっては分泌されない)およびTNF-αの実質的かつ初期の分泌{スーパー抗原でのインビトロアッセイにおける我々の条件下では産生されない(SEBの例で示されたように)}。さらに、MSRV/HERV-W Envタンパク質の、そのEnv-SU領域を介した、精製された単球および樹状細胞上での活動を示す例は、これらの効果に、これらの細胞上には存在しないTCRが関与しないことを確かめ、従って、本明細書中に記載された特定の炎症誘発性効果が、TCRおよびTリンパ球との結合に関与するスーパー抗原機能によって引き起こされる炎症誘発性活性化とは全く異なることを確かめる。MSRV/HERV-W Envタンパク質の炎症誘発性活性化経路は、任意的には補助受容体CD14の補助とともに“Toll-like receptor 4”(TLR4)に関与し、図8に図示されたようにTリンパ球の活性化の上流を活性化する。この炎症誘発性(TLR4)経路は、免疫系の「生得的な」成分を動員し、Tリンパ球関連の免疫(適合性免疫)の上流を十分に動員させる。樹状細胞の活性化の後、生得的免疫の受容体の活性化に反応して分泌されるサイトカイン(例えばTLR4)によって、この上流の経路は、下流の、適合性免疫(Th1またはTh2)の活性化の状態に影響を与えることができる。前記結果は、生得的免疫経路がTリンパ球介在の適合性免疫の上流で活性化されるという事実の他に、得られたTリンパ球上での下流の効果にさえもTCR受容体が関与しないことを示す。これは、このレベルで観察されるMSRV/HERV-W Env(Env-SU)タンパク質(TLR4)の効果と、Tリンパ球受容体(TCR)が関与するスーパー抗原の効果との間の差異をはっきりと示す(例におけるSEBスーパー抗原によって例証される)。ここで、TLR4経路は、この段階でTリンパ球の原発性活性化を除外し、他の細胞(単球マクロファージ、樹状細胞、Bリンパ球)を関与させる。ここで観察される活性化経路は、従って、スーパー抗原効果の上流にあり、ここで使用された細胞試験法において「SEB」よりもリファレンス「LPS」に対応する速度論とコラボレートする。
【0118】
実際には、Env-SUおよびLPSは、24時間後から、大量のTNF-α、IL-6およびIL-lβの分泌を誘導することができ、他方、SEBは、インキュベーションの72時間後から、TNF-αの分泌のみ誘導する。Env-SUおよびLPSがそのTNF-α分泌ピークを誘導し、他方、SEBはTNF-αの一定の分泌を誘導することは興味深い。IL-1βに関して、Env-SUおよびLPSは、インキュベーションの24時間前後の分泌ピークおよびこれに続く一定の減少によって特徴づけられる、TNF-αの分泌態様と同様の分泌態様を誘導する。同じTCR Vβ特異性を有するTリンパ球の大集団を活性化することが知られているSEBは、IL-1βを全く誘導しない。IL-6は、Env-SUおよびLPSで刺激されたPBMCによって定常的に分泌されるが、SEBでは分泌されない。IL-6およびIL-1βは、活性化された単球/マクロファージによって優先的に放出される2つのサイトカインである。これらのデータは、LPSのデータと同様の手法において、Env-SUが、炎症誘発性サイトカインの放出のために生得的な免疫系の細胞(例えば単球およびマクロファージ)を標的にすること、およびTリンパ球が活性化のこのレベルで標的にならないことを示す。
【0119】
Env-SU組換え体タンパク質のエンドトキシンでの汚染の可能性を除外するために、ヒトPBMCは、刺激前にLPS阻害剤、ポリミキシンB (PB)で処理されるか、あるいは煮沸されたタンパク質および毒素でインキュベートされた。並行して、同じ反応物および材料:ヒトカゼインキナーゼCK2とともに、同じ条件下で生成および精製された自己由来のコントロールが加えられた。
【0120】
24時間にわたるインキュベーションの後、培養上清が回収され、TNF-α分泌について分析された。図4に示されるように、Env-SUおよびSEBによって誘導されたTNF-αは、PBによってのみ部分的に阻害される。一方、LPSの効果は、完全に消滅する。対照群である自己由来のタンパク質は、全てのサイトカイン分泌を誘導しない。TNF-αの放出はまた、Env-SUタンパク質が30分間にわたって煮沸されたときに著しく阻害され、他方、LPS活性は影響を与えない。これは、食品医薬品局によって承認されたLAL試験を使用する、Env-SUの精製されたサンプルと自己由来のコントロールとの両方で行われる品質コントロール分析中に得られたネガティブな結果に基づいている。
【0121】
これらの結果は、初期に観察された炎症誘発性効果がエンドトキシンでの汚染に起因しないこと、およびこれらの効果の原因となる成分があるタンパク質であることを実証する。
【0122】
Env-SUの炎症誘発性の特性を確認するために、モノクローナル抗体の効果が研究された。PBMCは、Env-SUに対するモノクローナル抗体、Gagに対するモノクローナル抗体とともに、4℃で1時間にわたってプレインキュベートされた自己由来のコントロール、Env-SUまたはLPSで、24時間にわたってインキュベートされた。このモノクローナル抗体を開発するために使用されるGagタンパク質は、炎症誘発活性を全く示さず、かつ適切なコントロールを構成する。図4に示されるように、抗Env-SUモノクローナル抗体は、特異的にはEnv-SUによって媒介されるTNF-αの分泌を遮断するが、LPSによって媒介されるTNF-αの分泌を遮断しない。サイトカインの分泌は、抗Gagモノクローナル抗体による影響を受けない。これらの結果は、サイトカインの誘導および細胞活性化におけるEnv-SUの特異性を実証する。
【0123】
Env-SUは、PBMC培養液中に炎症誘発性サイトカインを誘発する能力を有する。続いて、Env-SUが、精製された単球を直接活性化することができることが検証された。精製された単球は、24時間にわたって自己由来のコントロール、Env-SUまたはLPSで刺激され、様々な活性化マーカー、例えばCD8OおよびCD86がフローサイトメトリーによって評価された。自己由来のコントロールと比較して、Env-SUは、2つの標識の上流の制御を誘導し、得られる発現レベルは、LPSで得られる発現レベルに類似する(図5a)。大量のTNF-α、IL-1β、IL-6およびIL-12p40は、Env-SUに応答して生成される(図5b)。これらの結果は、Env-SUが、炎症誘発性サイトカインの生産に付随して、単球の迅速かつ直接的な活性化を誘導することを示す。
【0124】
樹状細胞は、ナイーヴT細胞の活性化を制御する独特の能力を有する、生得的免疫および適合性免疫を結びつける抗原提示細胞である。単球誘導型樹状細胞(MDDC)を直接活性化させるEnv-SUの能力が研究された。樹状細胞は、自己由来のコントロール、Env-SUまたはLPSで24時間にわたって刺激された高度に精製された単球からインビトロで生成された。Env-SUは、CD80、CD86、CD4OおよびHLA-DRマーカーの活性を劇的に増加させることができる(図6a)。炎症誘発性サイトカインIL-6、TNF-α、IL-12p40およびIL-12p70は、より高いレベルで分泌される。Env-SUで刺激されたMDDCは、刺激細胞の数が低いときでさえ、自己由来のコントロールと比較してより大きな程度で、T細胞の同種異系の増殖を誘導できることが示される(図6c)。従って、LPS(ポジィティブコントロール)と同様、Env-SU は、IL-12を分泌する樹状細胞の成熟を誘導することができ、それによって、一次特異的な免疫応答を誘導することができる。
【0125】
Env-SUがLPSと同じ活性経路を使用するか否かを決定するために、抗CD14または抗TLR4中和抗体でのプレインキュベートを伴うまたは伴わない、刺激後のヒトPBMCによって分泌されたTNF-αのレベルが測定された。図7aに示された結果は、CD14の遮断が、Env-SUの顕著な量依存的阻害、およびLPSによって媒介されたTNF-αの分泌の顕著な量依存的阻害をもたらした(20μgの抗CD14抗体での83%および56%それぞれの阻害)。T細胞受容体およびHLA-DRを介してT細胞および抗原提示細胞を活性することが知られているSEBは、阻害されない。TLR4の遮断は、20μgの抗TLR4抗体で、Env-SUの効果に関して37%の阻害をもたらし、かつLPSの効果に関して43%の阻害をもたらす(図7b)。二つの実験におけるコントロール抗体については、阻害の効果が観察されない。以上より、CD14およびTLR4受容体は、Env-SUによって媒介された炎症誘発性に関与している。
【0126】
結論として、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の可溶性画分は、CD14およびTLR4認識受容体を介した生得的免疫応答を刺激する。そして、炎症性病変において生じる免疫病理学的カスケードが、抗Env-SUおよび/または抗TLR4抗体から選択された少なくとも一つの抗体を含む治療学的組成物または薬剤の投与によって非常に初期の段階で遮断され得ることが、本発明において示される。
【0127】
従って、本発明において、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質に対するbioMerieuxによって生産された試験対象の様々なモノクローナル抗体を得た後、本発明においてセットアップおよび開発された細胞試験法は、TLR4経路を活性化する炎症誘発性効果を阻害する性質を有する物質を同定することを可能にし、100%に最も近い潜在的な阻害性を有する物質を、阻害抗体の中から選択することを可能にした。これらの抗体の中で、抗体3E2H4および12HSA5は、好ましい抗体である。
【0128】
従って、これらの2つの疾患のプロセスにおいてさらに下流で分岐する病理学的カスケードのはるか上流のレベルで、MSおよびSCZのような症状に関与する炎症の初期経路の阻害の性質を特定することが可能である。
【0129】
薬学的組成物または薬物の調製のための、上記に与えられた定義と対応する、これらの抗体の有用性は、はるか上流の、MSまたはSCZのような症状における病原性カスケードを遮断することができることから明らかである。
【0130】
これらの利点はまた、TLR-4受容体との相互作用の前にある阻害効果によって実証される。前記阻害は、その早期の活性化の研究にささげられた同じ細胞試験法における抗-TLR4抗体で得られるものと等しい。Tリンパ球の活性化の上流効果は、この段階で、自己免疫疾患(例えばMS)および非自己免疫疾患(例えばSCZ)に共通である病理学的アゴニストを遮断することができる(図9を参照)。従って、本発明の抗体は、MSおよびSCZのような病理における下流を異ならせしめる、上流の病理学的カスケードを遮断することができる。図8は、MSの病理学的カスケードにおいて本発明の抗体が対象とするターゲットを示し、現存する治療学的薬剤が現在対象にする全てのターゲットを予想する。実際には、本発明の抗体が介在する段階で、一つのアゴニスト(MSRV/HERV-W Env)と一つの受容体(TLR4)のみが存在し、他方、受容体の活性化の後、生物活性分子(サイトカイン、酵素、フリーラジカルなど)の形態における何百のアゴニストは、炎症プロセスに関与し、その後、MSの場合において、何千の分子および細胞性アゴニストは、自己免疫Tリンパ球クローンの活性化からなる段階の後に関与する。精神分裂病(SCZ)の場合において、それは、自己免疫経路において活性化されるTリンパ球ではないが、隣接性ニューロンのレベルで興奮毒性を引き起こす、脳灰質の細胞におけるTLR4経路の活性化後に生成された炎症誘発性メディエータである。炎症誘発性分子によって誘発される興奮毒性のこれらの現象は、個体の前頭皮質において、幻覚的な現象を引き起こすニューロメディエータの異常な放出を生じさせる。これらの興奮毒性の現象がしばしば、神経死によって示される神経毒性をもたらすことを明らかにすることはさらにより有利である。ここで、このニューロン死はSCZで知られ、脳室拡大によって客観化され、典型的には症状の進行段階にある患者のMRI画像によって視覚化される。実際には、これらの患者の脳におけるニューロンの進行的喪失は、脳室の容積における増加によって補正され、疾患の進行のある期間の後、MRIによって検出可能になる。図8および9は、本発明において開発された、細胞アッセイによって同定および選択された抗Env抗体が、MSRV/HERV-Wファミリーの一以上の病原体コピーの活性化後に、このカスケードの最上流の「第一」の刺激を遮断するという事実を明確に図示する。
【0131】
MSRV/HERV-Wレトロウイルスファミリーのエンベロープタンパク質(Env)の発現と、MSおよびSCZ症状との間の関係をより正確に確かめるために、本発明についての生得的な免疫活性化アッセイを使用して研究が行われ、MSまたはSCZ患者の免疫学的活性化におけるバイアスについて正常な患者と比較して調べた。
【0132】
生体外での研究
多発性硬化症(MS)を患う患者における生体外での研究
Env-SUで誘導されたIL-6の分泌は、MS患者から生体外に取り出された血液単球細胞中において増加し、それらの臨床スコア(EDSS)と相関させる。
【0133】
この研究において、MS患者由来のPBMCのEnv-SUに関する反応性と、正常なドナー由来のPBMCのEnv-SUに関する反応性とが比較された。32名の患者が関わり、そのうち、MRIによって行われた分析によれば、20名が急性期にあり、12名が安定期にある。これらの能力障害のレベルはまた、EDSS(延長能力障害スコア)によって決定された。並行して、19の正常なドナーが試験された。簡潔には、1×106 PBMCを、Env-SUまたはMockコントロールによって24時間インキュベートし、その後、培養上清を、サイトカイン、例えばIFN-γ、TNF-α、IL-1β、IL-6およびIL-10の分泌について分析した。得られた結果(Env-SU - Mock)を、先ず初めにグループ間で比較した。顕著な差異は、IFN-γ、TNF-α、IL-1βおよびIL-10について観察されなかった(図10)。他方、相当な差異がIL-6およびIL12p4Oで得られ、患者において増加している(図11)。さらに、ポジィティブな相関性がIL-6またはIL12p4Oの分泌のレベルと、患者の臨床スコアとの間で得られた(図12)。他の相関関係は、他のサイトカインまたは臨床データ(年齢、性別、処理)では得られなかった。図12において、誘導されたIL-6と疾患の期間との間の関係の喪失、およびインターフェロンγとEDSSとの間の関係の喪失は例として与えられる。
【0134】
Tリンパ球によって排他的に分泌されるインターフェロンγに関して、生得的な免疫と関係するサイトカインとは反対に、単球/マクロファージによって分泌されたサイトカインが、臨床スコア(EDSS)と関連しないことは非常に興味深い。これは、細胞アッセイがインビトロで行われたときに、生体外で明らかになった効果が、Tリンパ球によるこの段階で媒介されない効果と関係し、それゆえスーパー抗原の効果と関係しないことを示す。
【0135】
これらの結果は、最も進行した臨床シグナル(高いEDSS)を示すMS患者が、Env-SUのようなレトロウイルス因子に対して「過剰な感受性」を有することを示すが、炎症誘発性サイトカインおよびIL-6を介したMSの病理におけるEnv-SUについての役割も示し得る。
【0136】
Sotgiu et al. [10]による研究において、疾患を悪化させることでMSRVウイルス量の段階的な増加を示す、MS患者のCSFにおけるMSRVウイルス量で得られたデータを確認する。本発明の結果によれば、MSRVエンベローブタンパク質によって誘導された反応は、相関された方法において、EDSSによって測定された疾患の進行性を増す。これらの二つの独立した研究はMS患者の生体外で行われ、異なる手法(第一に、RT-PCRによってMSRV核酸をアッセイし、第二に、MSRVエンベロープタンパク質に対する免疫学的応答をアッセイする)が、それ自体の疾患のプロセスとMSRVレトロウイルスとの間の関係を確認する。
【0137】
精神分裂症(SCZ)を患う患者における生体外の研究
Env-SUで誘導されたIL-12p40の分泌は、SCZ患者から生体外に取り出された血液単球細胞において増加し、さらに、抗精神病療法に耐性を示し、および/またはSCZの特に進行状態にある患者の分集団を最高のレベルで同定することができる。
【0138】
この研究において、SCZ患者由来のPBMCのEnv-SUに関する反応性と、正常ドナー由来のPBMCのEnv-SUに関する反応性とが比較された。25名の患者が関わった。並行して、15名の正常なドナーが、MS患者での前記研究のプロトコルと同一のプロトコルに従って試験を受けた。
【0139】
培養上清を、サイトカイン、例えばTNF-α、IL-12p40、IL-1β、IL-6およびIL-10の分泌について分析した。研究のこの段階で、顕著な差異が、試験対象の様々なサイトカインについて、SCZを患う患者の幾数人と、全ての対象群の患者との間で観察された。結果を、以下の表1と2において示す。表1は、様々な正常なドナーを表し、各患者の番号が第一の欄の各行に示されるとともに、各行において、最上欄に示された二つの条件(MockおよびENV-SU刺激)を有する様々なサイトカインについてアッセイされたng/mlの量を示す。表2は、様々なMS患者を表し、各患者の番号が第一の欄の各行に示されるとともに、各行において、最上欄に示された二つの条件(MockおよびENV-SU刺激)を有する様々なサイトカインについてアッセイされたng/mlの量を示す。表1および2において、底二行(平均値およびSt Dev)は、それぞれ各カラムについての、平均値および測定されたデータの標準偏差を示す。
【表1】
【表2】
【0140】
先の研究対象のMS集団と比較して、差異は特定の患者についての培養液中において既に自然発生的に観察されている(IL-bおよびIL-12p40についての図13および14において図示)。これは、SCZが全身性炎症性疾患およびさらには自己免疫疾患でないにもかかわらず、予想外のデータであり、SCZ患者は、同じ条件下での正常者の対照群の免疫活性化とMS患者の免疫活性化との両方を超える、これらのPBMCにおいてある程度の自発的な免疫学的活性化を示す。これは、これらの患者における免疫の全身活性化の理解に重要なデータを与え、それゆえ、これらの疾患における炎症誘発性免疫学的成分の実体を確認する。
【0141】
Env-SUでの刺激に対する応答は、一連のSCZ患者においてさらに増加し、ある患者は正常なコントロールの平均値よりも明らかに大きな、時には一連のコントロールで観察される最大値よりも大きなサイトカインの分泌レベルに応答する(IL-10およびILl2p4Oについての図13および14において図示された)。また、SCZを患う不特定の患者においてEnv-SUに対する応答が著しく増加することが確認され、臨床的状態が同時に起こるこれらの患者のうち数人において、Env-SUがTLR4経路を通して活性化される生得的免疫の成分に関与する免疫学的な傾向を明らかにすることができる。
【0142】
しかしながら、これらの患者において、Env-SUでの刺激後、自発的なサイトカインのレベルと比較した増加{(刺激されたレベル−自発的なレベル)/自発的なレベル)}は、全体的には、正常者な対照群におけるレベルよりもSCZ患者におけるレベルの方が少ない:これは、ENV-1によって導入された分泌のレベルが全ての正常なコントロールの分泌のレベルを上回るときのケースでもある(IL-b2p40についての、図14bおよびcにおいて図示)。これは、MSRV/HERV-Wファミリーのレトロウイルス要素の原因病理学的要素に関して、MSのような症状において記述されているものに関して新しい要素を導入する。実際には、SCZにおけるこのMSRV/HERV-Wファミリーのレトロウイルス要素の役割はまた、幾つかの独立したチームによって異なる手法[3, 14, 31, 54]で実証および確認された。しかし、SCZは、MSのような自己免疫病理学的成分での疾患ではない。従って、SCZ患者由来のPBMC上でのEnv-SUタンパク質で得られる結果は、Tリンパ球(自己免疫の原因である細胞)に関する免疫学的な活性化の下流での結果はMSとは異なるものの、TLR4受容体に関与する生得的な免疫の早期の活性化の経路(Tリンパ球上には存在しない)は、これらの二つの疾患とMSRV/HERV-Wレトロウイルスファミリーとの間に初期的病理学的経路を構成することを示す。
【0143】
先に言及したように、これらの患者におけるMSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の役割は、Env-SUタンパク質に関してそれらの血液単球細胞(PBMC)の特異的な免疫学的反応性によって客観化される。
【0144】
研究のこの段階で、SCZを患う患者の臨床的データに関する最大の利点および最大の差異は、IL12p40について客観化された(図14)。
【0145】
実際には、Env-SUで誘導されたIL-12p40の最大のレベル(ここでは400 pg/mlよりも大きなレベル、このシリーズにおいて試験された正常者の対照群の最大のレベルよりも大きいレベル)の一つを示す患者には、試験対象の一連の抗精神病療法に対する耐性を有する全ての患者が含まれることが立証された。
【0146】
これは、MS患者で予め得られたものとは異なる性質を有する、進行的病状を患う、および/または、平均を上回るEnv-SUで誘導されたIL12p40分泌によって同定可能でかつ特徴づけられる現存する治療法に耐性を示す、患者の少なくとも一つの亜集団が存在することを示す。
【0147】
進行の基準と疾患重症度の基準との間の関係、これらの疾患についての新規な治療学的ターゲット、すなわち、患者のこの免疫学的な傾向と関連したMSRV/HERV-W Envタンパク質に加えて、SCZ患者由来のPBMCにおけるEnv-SU活性化によって誘導される少なくともIL12p4Oは、進行的病状において最大になり、および/または現存の治療に対して耐性を示すという事実が実証される。
【0148】
さらに、MSモデルについて行われたときに、TLR4受容体によって媒介される「上流」経路の関与の前に、免疫系の活性化を阻害できる抗体は、治療学的な関心であり、かつそのターゲットは、新たに同定された臨床生物学的状況において非常に有利である。
【0149】
これらの効果の後の結果が、ミエリンの抗原成分をターゲットにする自己免疫反応性であるMSとは反対に、MSにおける場合よりも高い生体外での自発的レベルで、生得的免疫(TLR4)の活性化のこの初期の段階で生産されるメディエータは、皮質性ニューロンでの潜在的な興奮毒性を有する[17, 21, 23-25, 29, 50, 51, 55]。
【0150】
従って、様々な共因子によるMSRV/HERV-Wプロウイルスの活性化は、脳細胞におけるMSRV/HERV-W Envタンパク質の発現を活性化でき[56]、かつ、共因子および環境の性質に依存しながら、脳の異なる領域をターゲットにする。これらの条件下のもと、前頭皮質の領域の活性化は、影響を受けた領域による様々な幻覚によって反映されるニューロン興奮毒性をもたらし得る。
【0151】
(ミエリン化された)白質における活性化の場合において、マクロファージのレベルでEnvタンパク質によって産生された早期の炎症および/または小膠細胞は、ミエリンの分解を促進することができ、それゆえ、Tリンパ球からの分泌後に、ミエリンの自己抗原に対する自己免疫を誘導することができる。
【0152】
これらの様々な概念が、図9において図示されている。これは、精神分裂病を患う患者において同定される臨床生物学的状況において、疾患の症状に明らかに関係したこの神経毒性炎症成分を阻害することが有用であることを示す。
【0153】
さらに、図8において図示されたように、これらの抗体がEnvタンパク質の生物学的効果を阻害する段階は、下流で生産され、かつ既存の抗炎症性治療物質(サイトカイン、フリーラジカル、レドックス化合物、酵素、プロスタグランジン、炎症誘発性タンパク質および脂質、活性化されたTリンパ球など)の通常のターゲットである全ての病理学的メディエータの明らかに上流にある。この段階で、唯一のアゴニストは、MSRV/HERV-W Envタンパク質それ自体であり、図8および9に図示されたような、下流から生じる様々な免疫生物学的カスケードの入口の初期経路を遮断するTLR4受容体を活性化させるのを妨げる。
【0154】
前臨床的開発研究(例えば以下のもの)を行うことは、当業者の範囲内である。
【0155】
−抗TNFαREMICADEのような既知の治療学的抗体について使用された方法に基づいた、モノクローナル抗体のヒト化。治療学的抗体の大脳内通過の最適化は、周知の技術に基づいて行われる。該技術の大半は、数多くの科学刊行物および薬学刊行物において記載されている(例えば、Merlo et alまたはPranzatelli [57, 58]);
−本発明に記載されたPBMC上のEnv-SUタンパク質による炎症誘発活性についての試験での、これらのヒト化または修飾された抗体の阻害活性の検証;
−脳におけるMSRV/HERV-W Env タンパク質の異常な発現の効果を実証する動物モデル上での抗体の治療学的効果の検証[59]。
【0156】
従って、本発明の要素は、すなわち:
−生得的な免疫の細胞のレベルでの「上流の」炎症誘発性活性化についての入口の経路としての、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質についての「TLR4」受容体の実証、
−これらの効果を検出および測定できる細胞アッセイ、
−このタンパク質の効果を阻害できる抗Envモノクローナル抗体、
−精神分裂病を患う患者から生体外へ取り出された血液免疫細胞のレベルでのこれらの効果の生物学的証拠、
−今日までに知られた知識、技術および動物モデルをもって、当業者が前臨床開発工程を行うことが可能な、かつ適切な条件下でヒトの臨床的研究に取り組む、病理に対するこれらの効果に結びつく生物学的証拠。さらに、本発明において記載された生物学的試験は、単純な血液サンプルによって、患者の治療前、治療中または治療後に、これらの治療学的抗体によって標的にされたパラメーターの生体外の生物学的調査を可能にする。
【0157】
このような治療学的ガイダンスは、治療のための適格な患者の定義にとって非常に有用な利点を提供し、生物学的結果に基づいた投与および回数の観点から、治療を調節することができる。
【0158】
動物モデル
薬物動態学的分布および治療学的抗体の毒性学を研究するためのモデルの生産
抗体:
1.抗体の性質:
急速かつ大量の肝臓における分解を防ぐために、対象の抗体は、当業者に周知の技術によってモノクローナル抗体から得られるFab’またはFab2型の断片の形態において使用される[60]。TLR4によって媒介された炎症誘発性効果を阻害する抗MSRV/HERV-W Env抗体は、抗体13H5A5および3B2H4である。抗MSRV/HERV-W Gagコントロール抗体は、抗体3H1H6である。
【0159】
2. 抗体ラベリングプロトコル:
第一に、断片が希釈される。1μg/μlの濃度で100μlが調製され、その後、製造業者によって例証された、ビーズ(lodobeads No. 28665 Pierce Rockford, Illinois, USA)上に吸着されたヨウ化ナトリウム(5mCi/50μlでの、NaI125 NEN)と接触させた。
【0160】
10分間にわたるインキューベンションの後、溶液を取り出し、チューブフリーのビーズに移す。このプロセスは、反応を停止させることができ、機能の喪失をもたらす抗体の活性部位の酸化を避けることが可能である。
【0161】
サンプルは、その後、ピロ亜硫酸ナトリウム(Fluka)の4mg/ml溶液の10μlで中和される。最後に、ヨウ化ナトリウムは、250nM/mlの投与量で10μlの冷却共留剤を使用して同調(entrained)される。
【0162】
3. 精製
精製は、陰イオン交換カラム分離技術によって行われる。この方法は、遊離ヨウ素と結合させることを目的とした陰イオン交換カラムを使用する。最初に、2mlの0.9%NaCl溶液(Aquettant)、移動バッファーで活性化される。前記精製は、0.5mlの0.9% NaClを加えた、四つのパスにおいて行われる。4つのチューブの中に含まれる放射活性がその後カウントされる。
【0163】
4. 収量
結果は、表3において示される。この表は、精製後の各抗体の回復率を表す。
【0164】
ラベリング収量は、インキュベーションの10分後に訂正する。それは時間をかけて増加しない。全てのその断片について得られたパーセンテージは、70%と80%の間にある。
【0165】
イオン交換精製は、ラベルされた抗体の良好な回復を可能にする。3B2H4 Fab2断片について、その割合はわずか50%である。
【0166】
生物分布の評価:
1. マウス
実験に関与した動物は、Charles River Laboratories (Wilmington, North Carolina, USA)によって提供された7週齢のBALB/cマウスである。
【0167】
実験を行う前、これらのマウスは、温度条件、周期的照明、ケアを考慮した設備内で飼育される。
【0168】
2. プロトコル
各試験断片について、3匹の7週齢のBALB/c白色マウスを使用する。
【0169】
第一の工程において、マウスに対し、ペントバルビタールまたは2%ケタミン−キシルアミン10g/100mlの体積対体積の混合液を麻酔をかけ、1μl/重量gの量で投与される。マウスに対し、700μCi/mgでラベルされた0.15mgの抗体で静脈内注射を行う(マウスは、試験対象の三つの抗体(3B2H4、13H5A5および3H1H6)のうちの一つの断片とインキュベートされる)。
【0170】
読み取りを注入後10、45、90および210分後に行う。
【0171】
210分後、マウスを屠殺して以下の臓器:脾臓、肝臓、腎臓、脳、心臓、肺および血液を取り出す。
【0172】
3. 結果
これらの抗体に関する急性毒性を発現させる組織病理は観察されなかった。
【0173】
抗体の生物分散の結果を表4に示す。表4は、IV注入210分後の様々な臓器における投与されたラベル抗体の分布を示す。
【0174】
表4は、組織中で異常に結合する試験対象の断片が存在しないことを実証する。
【0175】
これらの結果は、該抗体が急性の毒性をもたないこと、該抗体が生物学的液体および組織においてアッセイされ得ること、およびその分布が当業者によって期待された分布に一致することを実証する。
【0176】
従って、これらの抗体の生物分布の最適化および/または抗体の修飾後の抗体の持続性の検証が、同じプロトコルまたは同じ量に基づいて、その薬物動態学的かつ毒性学的関連性に対して評価され得る。
【0177】
表3
ヨウ素125でラベリング中の抗体断片の回収率
【表3】
【0178】
表4
BALB/cマウスにおける注入210分後の様々な臓器中に見出される抗体の投与の平均パーセンテージ
【表4】
【0179】
患者の直接的な研究に並行して、以下のことを確認することができる動物モデルを産生した:
−MSRV/HERV-W Envタンパク質によって生産される、活性化経路「生得的免疫のみ」(モデルSCID-huおよびEnv-SUタンパク質)または「生得的免疫とTリンパ球上でのスーパー抗原の効果」(モデルSCID-huおよびビリオン)に対応する「炎症誘発性」の症状が、インビボではっきりと観察され、かつ客観的基準によって分析され得る。経路「生得的免疫/TLR4 +/- CD14活性化経路」は、本発明の対象であり、炎症誘発性カスケードの上流を遮断するのに有利である。
【0180】
−ミエリン自己抗原に対する自己免疫疾患(例えばMS)は、MSRV/HERV-W Envタンパク質(モデルEAE MOG Env-SU)ではっきりと得られ、分析され得る。
【0181】
−免疫学的認識特異性を有する、これらの阻害性質について選択された抗-Envモノクローナル抗体およびその断片の使用は、測定可能な有機分布を示す治療学的組成物に匹敵し、
動物(モデルBALB/c放射性ラベル抗体)における生物毒性の喪失である。
【0182】
TLR4/生得的免疫経路の「細胞」活性化のための試験における抗Envモノクローナルの事前選択によって得られた抗Env抗体の治療学的使用。この使用は、Envによって誘導された“MOG”(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)自己抗原の存在中における、「EAE」(実験的アレルギー性脳脊髄炎)のようなモデルにおいて例証され、本明細書中で十分に記載された炎症誘発性活性化期の阻害を上回る、よりさらなる下流の病理学的結果を阻害することを可能にする(EAE-MOGモデルにおける抗Env抗体による阻害)。
【0183】
さらに、本発明において説明されたインビトロ細胞試験法による炎症誘発性効果を阻害する抗Env抗体の分泌後、動物モデルは、この最初の分泌から、病理学的場面におけるその治療学的使用後に副作用が生じない治療学的抗体を選択することを可能にする。実際には、例「EAE-MOG」(例EAE-MOGおよび抗体3H1H6を参照)における神経学的損傷を潜在化させる抗体について示されたときに、幾つかの抗体は、その特異性とは無関係な療法について不適切であることが解り得、これらの抗体が病理学的ターゲットを阻害する場合でさえ、これらの副作用は特定場面における治療学的使用の前に除去または修飾されなければならない。本発明において開発された道具は、使用の病理学的場面における、これらの有害な効果を同定することを可能にする。従って、特有かつ適切な手法において、適切な治療学的抗体の選択および検証に貢献する。
【0184】
細胞および動物における炎症誘発性モデル:
材料および方法
タンパク質および毒性
大腸菌株026:B6のリポ多糖類(LPS)を、Sigma(St Louis, Mi)から得た。組換え体Env-SUタンパク質は、約33kDaおよび287アミノ酸の、全MSRVエンベロープタンパク質、Env pV14の画分を表す。Env-SUは、クロマトグラフィーによって精製され、ウェスタンブロッティング(Protein Expert, Grenoble)によって分析された大腸菌において生成された。LAL試験(リムルスアメーバ様細胞溶解物、Clean Cell, Bouffere, France)を行い、エンドトキシンの可能な存在を検出する。その結果は、5 IU/mlの検出閾値を下回るネガティブであった。タンパク質を保存するために使用されたバッファーは、ネガティブコントロールとして実験に使用されるであろう。バッファーは、50mM Tris pH8, 0.3M NaCl, 1mM βメルカプトエタノール、2%スクロース、2%グリセロールおよび5.3 mM尿素からなる。
【0185】
細胞培養
PBMCの調製
PBMCは、Ficoll(Amersham Biosciences, Freiburg, Germany)密度勾配によって、正常なドナー由来のクエン酸化された新鮮な全血(クエン酸化された全血バッグ、Centre de Transfusion Sanguine[Blood Bank] of Valence, France)から調製された。15mlのFicoll上に注意深く静置された10mlのPBS-2% FCS(ウシ胎仔血清)での25mlの血液の希釈液は、外気温度20分間にわたり2400rpmで遠心分離される。細胞を含むバンドを回収し、PBMCを50mlのPBS-2% FCSで三回洗浄する(図11)。トリパンブルーでのカウント後、細胞を90% dFCS-10% DMSO混合液中で-80℃で冷凍し、細胞アッセイのための、またはマウスへの注入のための培養において直接使用される。
【0186】
マウス脾細胞懸濁液の調製
頚部脱臼によってマウスを屠殺後、脾臓を除去し、RPMI中の金属フィルター上に静置する。細胞懸濁液は、4℃で10分間にわたり1200rpmで遠心処理する。その後、細胞ペレットを、約4mlの生理学的食塩水またはdFCS中に取り出す(C57B16マウスへの注入または凍結)。トリパンブルーのカウントを行い、細胞濃度をその後に調整する。細胞をその後に凍結し、動物モデルについて使用する。マウスへの注入のために、ゲンタマイシンを0.2 mg/mlの濃度で添加する。最後に500μl、すなわち、50×106細胞は、C57B16の各々にIP(腹腔内)注入される。
【0187】
細胞の凍結および解凍
細胞懸濁液を、4℃で50mlのPBS(bioMerieux, France)中で一度洗浄し、4℃で7分間にわたって1400rpmで遠心処理を行う。細胞を数mlのFCSで回収し、カウントした。細胞濃度を、一般的には20×106に調整する。500μlのこの溶液を、凍結チューブ内に静置し、500μlの凍結溶液(80% dFCS-20% DMSO(Sigma))を加える。そして、細胞を1mlの90% FCS-10% DMSO溶液中で保存する。凍結チューブをイソプロパノールを含む凍結皿中に静置し、ゆるやかな温度低下を行い、-80℃で静置した。
【0188】
細胞懸濁液は、37℃の水浴中で解凍する。チューブを開ける前にアルコールで洗浄する。細胞を50mlのRPMIc-10% dFCS中に素早く移し、1400rpmで7分間4℃で遠心処理を行う。その後、RPMIc-10% FCSでさらに二回洗浄を行う。
【0189】
培養物の管理
細胞(PBMC)培養物を、5% CO2、37℃の湿潤雰囲気内でインキュベートする。使用された培養液は、56℃で30分間にわたる加熱によって脱補体化された1%のL-グルタミン、1%のペニシリン-ストレプトマイシン、1%のピルビン酸ナトリウム、1%の非必須アミノ酸(Sigma)および10%のウシ胎仔血清(Biowest, Nuaille, France)を補充されたRPMI 1640(Gibco, Rockeville, MD)からなる。
【0190】
細胞の刺激
細胞懸濁液(PBMCまたは脾細胞)を解凍し、トリパンブルーによるカウントを行う:細胞濃度を1×106細胞/mlに調整する。培養液を、48ウェルプレート(1ウェル当たり500μlの細胞懸濁液)または24ウェルプレート(1ウェル当たり1mlの細胞懸濁液)内で増殖させる。細胞をプレート内に静置し、試験対象の様々な物質を加えて、細胞を異なる時間にわたってインキュベートする。懸濁液を、ATで10分間6000rpmでの細胞懸濁液の遠心処理によって回収する。その後、エッペンドルフ管内に-20℃で凍結する。特に指示がない限り、細胞アッセイについて使用されたEnv-SUおよびLPSの濃度は、1μg/mlとした。幾つかの実験について、Env-SUおよびLPSを30分間にわたって煮沸した。Polymyxin B(PB)を25g/mlで使用し、バッファー、LPSまたはEnv-SUの添加前に細胞を45分間37℃でプレインキュベートした。抗体の使用を必要とする実験について、抗体と細胞、または抗体とEnv-SU、LPSまたはバッファーの4℃または37℃でのプレインキュベートは、異なる時間を必要とした。組換え体Env-SUまたはGagタンパク質でのマウスの免疫化後のハイブリドーマの培養によって、抗Env-SU(13H5A5および3B3H4)および抗Gag(3H1H6)IgGモノクローナル抗体(bioMerieux)を得た。特に指示がない限り、細胞アッセイについて使用される13H5A5、3B2H4および3H1H6の濃度は、30g/mlとした。
【0191】
動物モデル
マウスの管理
C57B16、BalbCまたはSCIDマウス(Charles River, L’ Arbresle, France)を、5または6週齢で購入し、受領後に休息させながら、一週間にわたって飼育する。マウスを24℃の温度で消毒されたフィルタリングケージ中で飼育する。全ての操作を薄板フローフード下で行う。
【0192】
SCIDマウスのヒト化およびC57B16マウスの調製
順応化の一週間後、SCIDマウスには、0.25mg/mlの濃度のゲンタマイシンが補充されたフェノールレッド(Eurobio, Les Ulis, France)を含まない2mlのRPMI中の、50×106新鮮ヒトPBMCの腹腔内(IP)注入を与え、再度、一週間にわたって休息させる。良好なヒト化を保証するために、50μlの抗-NK抗体(25μlの生理学的食塩水中に希釈された25μlの純粋な抗体)が、PBMCの注入2日前にRO経路を介して注入される。ヒト化の一週間後、血液サンプルを各マウスからRO経路を介して回収し、血清を-80℃で保存し、マウスのヒト化の程度を試験することができる。
【0193】
順応化の一週間後、C57B16マウスには、0.25mg/mlの濃度のゲンタマイシンが補充されたフェノールレッドを含まない2mlのRPMI中の、50×106新鮮マウス脾細胞の腹腔内(IP)注入を与え、再度、一週間にわたって休息させる。IP注入の間、液体は素早く再吸収されるが、ある程度のロスが観察される。
【0194】
ヒト化されたSCIDマウスにおけるヒトIgGのアッセイ
SCIDマウスの血清中におけるヒトIgGのアッセイは、製造業者の指示に基づいた放射状免疫拡散方法によって行われる(結合部位, Birmingham, UK)。ゲル上への血清の堆積96時間後の沈殿物の直径の測定は、較正曲線によって、その二乗を試験対象のサンプルのIgG濃度と関連づけることが可能である。
【0195】
様々な物質の注入およびマウスから回収されたサンプル
D0で、タンパク質(Env-SU)、毒素(LPS)またはバッファーを、1mlの生理学的食塩水(Fresenius Kabi, Bad Homburg, Germany)中に前記物質を希釈後、IP注入によって所望の濃度でマウスに割り当てる。抗Env-SUまたは抗GaG抗体の注入のために、これらをEnv-SU、LPSまたはバッファーとともに4℃で3時間にわたって事前にインキュベートする。対照群のマウスには1mlの生理学的食塩水を与える。サンプルは数時間(1時間、2時間)または数日(24、48、72時間)後に回収される。マウスに麻酔を行った後、血液の最大量(約1ml)を眼窩後(RO)経路を介してパスツールピペットで回収する。2mlの生理学的食塩水を、腹腔内(IP)空間に注入し、腹部のマッサージ後に、最大量の液体を回収する(1〜1.51ml)。最後に、マウスを頸部脱臼によって屠殺し、脾臓を取り除く。使用された様々なプロトコルは、図12、13および14において示される。全マウスを実験の終わりまで臨床的に観察する。炎症の徴候と神経系損傷の徴候に特に留意する。
【0196】
マウスから取り出されたサンプルの処理
取り出した脾臓を、二つの断片に分ける。その一つを、RPMIにおけるスクリーン上で細砕することによって懸濁させる。4℃での10分間にわたる1200rpmでの遠心処理後、細胞を4℃の50mlのPBS中に取り出し、その後、遠心処理を行い、凍結チューブにおいて1mlの凍結溶液(10% DMSO-90% FCS)中に凍結する。脾臓のもう一つの断片は、-80℃のエッペンドルフ管中で、現状のまま凍結する。液体回収されたIPを、ATで10分間にわたって6000rpmで遠心処理して細胞ペレットを除去し、エッペンドルフ管中で-80℃で凍結する。PBS中で洗浄後、腹膜内空から取り除かれた細胞を凍結する。血液をATで10分間にわたって6000rpmで遠心処理し、血清を回収する。血清および細胞ペレットを-80℃のエッペンドルフ管中に別々に凍結する。
【0197】
治療の結果
細胞ラベリングおよびフローサイトメトリー
細胞懸濁液を解凍し、細胞を50mlのPBS-2% dFCS-1 mM EDTA中に取り出し、4℃で7分間にわたって1400rpmで遠心処理を行う。トリパンブルーによるカウントを行い、細胞を96ウェルプレート中に堆積させる(1ウェル当たり約1×106)。4℃で1分間にわたって4000rpmでプレートを遠心処理した後、上清を取り除いて、表面マーカー抗体の50μlのカクテル(PBS-2% dFCS-1 mM EDTA中希釈液)を各ウェルに加える。細胞を再懸濁し、30分間にわたって4℃でインキュベートする。その後、これらを、1ウェル当たり100μlのPBS-2% FCS-1 mM EdTAを加えることによって洗浄し、4℃で1分間にわたって4000rpmで遠心処理を行う。上清を取り除いて200μlのPBS-2% FCS-1 mM EDTAを各ウェルに加える。細胞をFACS分析のためのチューブ内に再懸濁して移す(図15)。ストレプトアビジン-APC第二ラベリングを必要とする抗体について、同じサイクルを一回以上行う。抗体(Parmingen, San Diego, CA)およびマウス細胞をラベリングするために使用された希釈液は、CD3−FITC(1/500)、CD4-PE(1/1000)、CD8-cy-chrome(1/600)、CD25-APC(1/1000)、CD69-APC(1/500、開始時にビオチン化)である。ヒト細胞をラベリングするために、2μLの各抗体:CD3-cy-chrome、CD4-APC、CD8-PE、CD25-PE、CD69-FITCを使用する。
【0198】
サイトカインのアッセイ
細胞上清、血清および腹腔内洗浄から得られた液体を、ELISAによってサイトカインを検出する前に-20℃で保存した。ELISA法を使用するヒトまたはマウスのサイトカイン(TNF-αおよびIL-6)アッセイは、製造業者(Pharmingen)の指示に従って行った。
【0199】
生得的な免疫(TLR4活性化経路を介した)の細胞のレベルでのMSRVエンベローブタンパク質によって誘導された炎症誘発性効果を阻害する抗エンベロープ抗体の選択
bioMerieux社のモノクローナル抗体ラボラトリーにおいて産生された様々な抗MSRV/HERV-Wエンベロープ抗体を、サイトカイン(IL-6および/またはTNF-α)のアッセイとともに、Env-SUタンパク質の欠損中または存在中において、正常なドナー由来の血液単球細胞(PBMC)の培養において試験し、培養液中に存在する単球/マクロファージの活動上でその効果を決定する。さらに、我々は、本発明に記載されたプロトコルに基づいて、「TLR4」受容体の経路であることを、特に、ハイブリドーマ3Hl0Fl0、13H5A5、6A2B2、2A12A5、3C1D5および3B2H4によって生産された抗体とともに検証した。
【0200】
幾つかの抗Env抗体は、これらのアッセイにおいて検出可能な阻害活性を示さず(6A2B2および2A12A5)、あるいは緩やかな阻害活性を示すか(3C1D5)、あるいは様々なドナー由来のPBMCで行われた実験によって等しくない活性を示す(3H10F10)。これらのアッセイの例は、様々な実験におけるEnv-SUタンパク質によって生成された炎症誘発性活性に関するこれらの抗体の効果を示す図15(15a, b, cおよびd)において示されている。
【0201】
さらに、Env-SUタンパク質上の阻害活性の欠損中において、ハイブリドーマ2A12A5によって生成されたような抗体は、Env-SUタンパク質の欠損中でも、アッセイにおいて非特異的な免疫刺激を産生した。
【0202】
これらの同じアッセイにおいて試験されたコントロール抗体は、任意の特定の阻害または、全ての特定の阻害活性または刺激活性を示さなかった(特に抗GAG抗体3H1H6)。
【0203】
ハイブリドーマ13H5A5および3B2H4によって産生された抗MSRV/HERV-W Envモノクローナル抗体は、実現された条件下で検出可能な、あらゆる逆説的な炎症誘発性効果または様々な正常ドナーのPBMCで行われたアッセイ間のあらゆる顕著な変動を伴うことなく、様々な正常なヒトドナーのPBMC上でのEnv-SUタンパク質の効果に関して定常的に阻害活性を示すことが解る。
【0204】
抗体3B2H4および13H5A5の阻害活性の例、ならびに抗MSRV GAG抗体3H1H6の効果の喪失の例が、図15aにおいて示される。阻害の特異性の条件を、この活性化経路(LPS)(この経路では抗体が効果を有さない)を刺激する他のリガンドに関して検証する。図15bは、EnvSUタンパク質による活性化の特異性の条件が、細菌性LPSで、同一の条件下で生産および精製されるコントロール(模擬)タンパク質の効果の喪失、および汚染の喪失を確認する試験によって検証される(タンパク質およびLPS以外を変性させる100℃での加熱による阻害、およびLPSの効果を阻害するポリミキシンBによる阻害の喪失)。
【0205】
従って、MSRV/HERV-Wエンベロープに対して、bioMerieuxから得た様々なモノクローナル抗体で試験を行った後、本発明において設定および開発された細胞試験法は、TLR4経路を活性化している炎症誘発性効果を阻害することのできるものを同定することを可能にし、かつ阻害抗体の中から、100%に限りなく近い阻害活性を有するものを選択することを可能にする。これらの抗体の中では、抗体3B2H4および13H5A5が好ましい。これらの抗体の有用性、または当該技術の範囲内にある従来の技術によって生産され得る他の抗体の有用性が、上記に記載されたように確認される。
【0206】
機能的なヒトリンパ系を移植される動物モデルにおける、ヒト免疫系上のMSRV Envタンパク質の効果
マウスの調製:
以下の実験には、17匹の6週齢のメスのC57B16マウスが関与させる。第一の工程は、5000万のヒトPBLをIP注入することからなる。マウスをあらかじめ放射標識し、抗NK抗体を注入する(Firouzi et al., Journal of Neurovirology 2003)。マウスを、一週間(免疫系の安定化のための時間)にわたって休息させる。
【0207】
ヒトPBLの調製
細胞懸濁液を50mlチューブ中に集め、4℃で10分間、1200rpmで遠心処理を行う。約4mlの生理学的食塩水中に細胞ペレットを取り出す。トリパンブルーでのカウントを行い、細胞の濃度を調整する。ゲンタマイシンを0.2 mg/mlの濃度で加える。最後に、500μl、すなわち50×106細胞を、17匹のC57B16マウスの各々にIP注入する。接種バッチの構成:
マウスを3または4つのグループに分ける。形成された各バッチは以下の通りに命名される:
- 3*“C” ENV1バッファーを与えるネガティブコントロール群
- 3*“LPS” LPS、炎症反応についてのポジィティブコントロールの注入を与えるグループ
- 3*“ENV” MSRVウイルスのエンベロープタンパク質の溶液で注入されるバッチ
- 4*“2GR412” 30分間56℃で加熱することによって不活性化されるMSRVウイルスで感染するバッチ(ウイルス複製の喪失における、ビリオンのエンベロープタンパク質の効果を試験)。
【0208】
- 4*“GRE” 熱不活性化され、ネガティブコントロールで高度に希釈されるGREウイルスを感染させるバッチ(ウイルス血症ドナーを含む由来製剤の輸血のための血液貯留のケースにおいて、このビリオンでの生物学的サンプルの汚染の効果を評価する)。
【0209】
各バッチのマウスは、単一のIP投与において適切な容積の溶液で感染させる(LPSおよびEnvの量は、PBMCでのアッセイに使用された濃度に対応する)。溶液は、以下のように滴定される:
“LPS”:50μg/マウス; “Env”:50μg/マウス(500μlの注入); “2GR412”および“GRE”:100μlの超遠心分離法のペレット/マウス。
【0210】
全ての必要な希釈液は、無菌の生理学的食塩水中で調製される。
【0211】
観察およびサンプル:
D+lh/D+2h/D+24h/D3: 犠牲およびサンプル
各グループにおいて、一匹のマウスを犠牲にする。2mlの生理学的食塩水をIP注入し、腹部を叩いて、最大量の液体を回収する(1〜1.5ml最大値)。懸濁液を遠心処理し(6000rpm/10分/AT)、細胞ペレットを取り除き、エッペンドルフ管内に-80℃で凍結する。
【0212】
最大量の血液を、パスツールピペットを使用して、眼窩後経路を介してヘパリン管内に取り出す。血液を6000rpmで10分間にわたってATで遠心処理する。血漿および細胞ペレットを回収し、エッペンドルフ管内に-80℃で凍結する。
【0213】
取り出した脾臓を、二つの断片に分ける。その一つを、懸濁液中で懸濁させる(FACSによってヒトおよびマウスの表現型を決定する):約10mlのRPMIにおけるスクリーン上で細砕、1200rpm/4℃/10分での遠心処理後、細胞を約15mlのPBS/4℃で洗浄し、その後、遠心処理を行い、凍結チューブにおいて1mlの凍結溶液(10% DMSO-90% FCS)中に凍結する。脾臓のもう一つの断片は、-80℃のエッペンドルフ管中で、現状のまま凍結する(PCRのために)。
【0214】
このプロセスは、臨床的徴候が早期に現れない限り24時間および48時間後に行う(マウスは死亡直前までモニターして回収される)。“2GR412”および“GRE”バッチの二匹のマウスを生存させるために、これらのマウスを15〜20日後に犠牲にするか、または死亡が早期に起こる場合、その死亡直後に回収する。
【0215】
このサンプルの分布は、直後(2時間)、早期(24時間)および遅延(10〜15日間)の免疫反応に適用されることを可能にする。
【0216】
生物学的液体のサンプルは、ヒトおよびマウスのサイトカイン(IL-6およびTNFa)についてアッセイされ、かつ「Env」タンパク質についてアッセイされ、および/またはウイルスに関してELISAおよび細胞培養上でのバイオアッセイによって滴定される。
【0217】
分析は、免疫反応:炎症(サイトカイン)および細胞分布(FACS)を評価することを可能にし、任意のウイルス複製について調査することを可能にする(ELISA、バイオアッセイ)。
【0218】
臨床観察
全てのマウスを、実験の終了まで臨床的に観察する。炎症の徴候および神経学的損傷の徴候に特に注意する。
【0219】
結果:
このセクションの目的は、ヒト化されたSCIDモデル上で、前もって行われる事前調査によって決定されたパラメーターによってEnv-SUの性質をインビボ研究することである。
【0220】
PBMCの培養上でのEnv-SUの炎症誘発性効果
まず最初に、我々はヒトPBMCの培養においてEnv-SUおよびLPSによって誘導されるTNF-αの産生の速度論を研究する。タンパク質および毒素は、1μg/mlの濃度で使用された(図16)。我々は、サイトカインの産生が注射2時間後にピークに到達し、その後、48時間後にゼロになるまで段階的に減少することが観察し得る。Env-SUでのTNF-α注射後の検出は、非常に有意である。特に、バッファーでインキュベートされた細胞では、TNF-αの産生が微量であり、かろうじて2時間で30pg/mlに達する。Env-SUによる刺激によって、刺激後2時間、24時間および48時間で、それぞれ550、350、160pg/mlの産生量となる。 LPSの作用はわずかにより大きく、2時間、24時間および48時間で650、180、そして50pg/mlの産生量となる。すでに示したように、本研究はPBMC上でのEnv-SUタンパク質の炎症誘発性を確認することを可能にした。また、注入2時間後にTNF-αの産生が最大になることが観察され得る。これらのデータは、SCIDモデル上での研究について採用されるサンプリングの速度論(すなわち、2時間、24時間および48時間後)を定義することを可能にする。
【0221】
ヒト化されたSCIDマウス(SCID-h)におけるEnv-SUの炎症誘発性効果
様々なヒトおよびマウスの細胞培養上でのEnv-SUタンパク質によって引き起こされる炎症誘発性効果を観察した後、我々は、インビボにおいてSCID-huマウス上でのこれらの同じ物質の病原性を評価した。
【0222】
1グループの16匹のマウスに、眼窩後経路を介して50μLの抗NKを与えた後、50×l06ヒトPBMCをIP注入した。マウスのヒト化を検証する目的で、一週間後、血液を各マウスから取り出し、その血清中のヒトIgGをアッセイした。放射免疫拡散試験法によって、我々は、全てのSCID-huマウスの血清中のヒトIgGの濃度が4.5mg/lよりも非常に高いことを決定することができた。SCID-huマウスのIgG半減期は12日間である。従って、我々のケースにおいて、我々は、マウスのヒト化が成功したことを主張することができる。
【0223】
次に、マウスを5つのバッチに分け、各バッチには、それぞれ2mlの生理食塩水で希釈された0.2 mlのバッファー、50μgのEnv-SUまたは50μgのLPSを注入された3匹のマウスが含まれる。各バッチのマウスのうち一匹は、注入後2時間、24時間および48時間して屠殺した。全てのマウスは生存し、影響を受けている神経系の外側の徴候は、それらを屠殺するまで観察されなかった。
【0224】
ヒトおよびマウスのTNF-αおよびIL-6サイトカインを、ELISAによってアッセイした。図16の結果は、ヒトまたはマウスのサイトカインの産生は、同じ傾向:[注入後2時間で急激に検出され、その後数日間かけてゼロになる]に従うことを示す。全体として、これらの速度論は、PBMC上でインビトロ観察されるものと同一である。バッファーを注射されたマウスは、サイトカインの顕著な産生を示さない。マウスのTNF-αのアッセイは、一つの大きなピークだけを明らかにする: LPSを与えられたマウスは、その血清中で1000pg/mlを超えるTNF-αレベルを示す。マウスIL-6のアッセイに関して、EnvまたはLPSを注入されたマウスのIP液体中において約20,000 pg/mlのレベルに達する。これらのマウスの血清中に見出される濃度は、それぞれ6200 pg/mlおよび20,000 pg/mlを超える濃度に達する。
【0225】
ヒトサイトカインのアッセイは、血清中よりも高いIP液体中のサイトカインの検出を明らかにする。これは、マウスは、タンパク質および毒素投与のわずかに約十数日前に移植されるので、PBMCは脾臓および二次リンパ器官に移動してコロニーを形成するのに短い時間しか有さないからである(移動性細胞の量は比較的低いままである)。さらに、Env-SUは主に単球を標的にし、組織中のマクロファージに急速に分化する。これらの細胞は非常に強い付着性があり、二次リンパ器官にコロニーを作製するよりも腹膜に優先的に定着する。従って、腹腔内(IP)腔における、細胞の移植のまさしくその部位にサイトカインのより大量の産生を見出すことは、論理的であろう。
【0226】
ヒトTNF-αアッセイは、Env-SUを注入したマウスについて1400pg/ml(IP)に達する濃度を明らかにし、かつLPSを注入したマウスについて3000pg/ml(IP)および血清中において1200pg/mlに達する濃度を明らかにする。同じ傾向がIL-6アッセイについても観察され、Env-SUを注入したマウスのIPにおいて1700pg/mlが検出され、LPSを注入したマウスのIPおよび血清中において、それぞれ9600pg/mlおよび1400pg/mlが検出される。
【0227】
SCID-huマウスにおけるマウスのサイトカインを検出するための決定は、TおよびBリンパ球を欠くことから、驚くべきものである。しかしながら、単球-マクロファージ集団は、活性状態を保持し、これらのマウスにおけるTNF-αおよびIL-6の産生に貢献する。従って、検出されるマウスIL-6濃度がヒトIL-6濃度より常に大きいこと、TNF-αについてはそのケースにないことが示される。従って、直前のポイントは、生得的な免疫成分上でのMSRVエンベロープの直接的な効果を、このSCIDモデルにおける機能的リンパ球の喪失中においてインビボで完全に例証する(マウス成分について)。
【0228】
この研究の目的は、ヒトPBMC上のインビトロ病原性効果の証拠が与えられた後、インビボで、組換え体エンベロープタンパク質、Env-SUに関連した病原性を評価することであった。Env-SUタンパク質のおよびLPSの炎症誘発性効果は、TNF-αおよび/またはIL-6の大量のおよび単離された産生(注入後2時間)によって特徴づけられ、SCID-huマウスにおいて観察される。結果が得られた後、C57B16マウス上での先の「技術的な」事前調査におけるマウスモデル上で開発されたような、ヒト化されたSCIDマウス上での使用のために、
サンプルを採取し、サイトカインの産生を分析するための実験プロトコルを検証することが可能である(血清中およびIP洗浄によって)。
【0229】
EAE モデル
EAE モデルは、ミエリン決定因子に対する自己免疫の末梢性誘導に基づいた多発性硬化症の動物モデルです。
【0230】
このモデルは、今日まで、多発性硬化症の治療を目的とした治療学的分子の「臨床前の」検証のための全てのプロトコルについて使用された参照モデルである。
【0231】
このモデルは、深刻な神経学的症状をもたらす自己反応性Tリンパ球および脱ミエリン化の存在によって特徴づけられる。
【0232】
その発達は、従来的には、百日咳毒素の注入と関係した、適切なアジュバント(完全Freund’sアジュバント)と結合したミエリンペプチドでのC57b16マウスの注入に基づいている。
【0233】
不活性化されたミコバクテリアで構成されるアジュバントは、破壊対象の注入されたミエリンに対する寛容性を与え、自己反応性Tリンパ球の発達を促進する。
【0234】
百日咳毒素は、脳血液関門の開放を促進するが、寛容性の破壊の役割を担う。
【0235】
Env-SUがTLR4受容体を介して生得的な免疫系を活性化し、かつTh1型リンパ球反応の進行を誘導することができることが示された。従って、Env-SUは、自己免疫の機構を起動させるアジュバントの役割、および脱髄の役割を担うことができた。この潜在的役割は、EAEモデルにおいて研究された。
【0236】
三つの異なる実験が行われた。
【0237】
1−予備的実験
材料および方法
従来的に実行された多発性硬化症モデル「EAE」のために、通常使用される完全なフロイントアジュバントの活性成分(不活性化された放線菌)は、MSRVエンベロープタンパク質のEnv-SU画分で置換された。
【0238】
材料
8匹のC57B16マウス(Charles River)。
【0239】
NeosystemからのミエリンペプチドMOG(ミエリンオリゴデンドロサイト 糖タンパク質)35-55免疫等級(immunograde)
SIGMAからの完全フロイントアジュバント(CFA)
SIGMAからの不完全フロイントアジュバント(IFA)
Calbiochemからの百日咳毒素(無塩百日咳菌)
Protein ExpertからのEnv-SU
方法
200μlの皮下注射:
−ポジティブコントロール:
−150μg MOG+CFA:3匹について試験を行った。
【0240】
−ネガティブコントロール:
−150μg MOG+IFA:2匹について試験を行った。
【0241】
−Env-SU:
−150μg MOG+IFA+Env-SU(50μg):3匹について試験を行った。
【0242】
その後、0日目および2日目に200μl(IV)の百日咳毒素(200 ng)を注入した。
【0243】
神経学的徴候について毎日測定する。様々な段階(ステージ)を、観察される神経学的徴候に基づいて以下に挙げる。
【0244】
段階0は、臨床学的徴候を示さない。
【0245】
段階1は、柔らかな尾部を示す。
【0246】
段階2は、歩行障害を示す。
【0247】
段階3は、後肢の部分麻痺を示す。
【0248】
段階4は、後肢の全体麻痺を示す。
【0249】
段階5は、後肢の麻痺と前肢の部分麻痺を示す。
【0250】
段階6は、瀕死または死亡した動物を示す。
【0251】
結果:
−MOG(150μg)+CFA:3匹のうち2匹がその疾患を進行させた(段階4)。
【0252】
−MOG(150μg)+IFA:徴候は観察されなかった。
【0253】
−MOG(150μg)+Env-SU(50μg):3匹ののうち3匹が疾患を進行させた(段階1〜6)。
【0254】
予備的な研究の結果は、図18に表されている。
【0255】
この予備的研究は、TLR4受容体を介して免疫系を活性化するEnv-SUは、MSモデルの発達のためのアジュバント、EAEとして使用され得る。
【0256】
「従来の」アジュバント(CFA)でのポジティブコントロールについて、その実験を検証する。自己免疫(IFA)を誘導するための潜在性を有しない不完全アジュバントでのネガティブコントロールについて、自己免疫反応を誘導するための特定の経路による免疫系を刺激する必要性を検証する。
【0257】
従って、この予備的段階から直ちに、MSRV/HERV-WレトロウイルスのEnvタンパク質は、EAEモデルについて現在使用される「実験的」アジュバントのような中枢神経系上での効果を伴う、自己免疫感作を明らかに生じさせ得ることが明白になる。
【0258】
その活性成分がヒト結核菌の溶菌液である、CFAとの主要な差異は、このバクテリアは、ヒトで多発性硬化症を決して伴わないということである。MSRVレトロウイルスおよびHERV-Wファミリーのその遺伝的類似体は、ヒトで明らかに多発性硬化症を伴う[2, 7, 8, 10, 61-63]。さらに、このエンベロープタンパク質を有するビリオンの生物学的液体の発現および循環は、疾患の過程と関連する[10]。
【0259】
結果として、この予備的段階から直ちに、このレトロウイルスのファミリーのEnvエンベロープタンパク質の「自己免疫を誘導する」免疫学的潜在性を阻害できる全ての薬剤が、インビトロ細胞アッセイで本発明に記載された抗炎症性効果に関するその阻害活性のために選択された場合、特に有利であることが明白になる。実際には、MSRV/HERV-W Envタンパク質に対するモノクローナル抗体は、これらのタンパク質がMSを患う患者において検出可能なビリオンの表面で発現するとき、これらのタンパク質の「自己免疫を誘導する」効果の暗黙の阻害剤である[8, 10, 62]。ヒト治療のために現在許可および販売されている治療学的抗体(例えば、特に慢性関節リューマチの治療に処方される名称REMICADEの下で販売される抗-TNFα抗体)についての既知の方法に基づいて、ヒト治療におけるこれらの使用は明確であり、かつ技術的に当業者の範囲内にある。さらに、商業的に利用可能なこの治療学的な抗体が、炎症誘発性活性化カスケードの「下流の」産物を標的にすることは興味深い。他方、本発明に基づいて、治療学的ターゲットは、特にTLR4を介して、TNF-αの誘導前に十分に阻害される。
【0260】
MS治療(コルチコステロイド、インターフェロンβ、またはその他同種のもの)において現在提案されている治療薬は、免疫病理学的カスケードの開始に続いて起こる生産される炎症誘発性成分の限定された部分のみに作用することが重要であり、患者の治療における部分的かつ相対的な効果について説明する。
【0261】
他方では、TLR4受容体経路およびこの初期的時期に関与する生得的免疫の活性化の前にMSRV/HERV-W Envタンパク質の主要な効果を阻害することによって、この段階で存在する唯一の免疫病理学的アゴニストが阻害され、この経路の一次的活性化後に分泌される大量の炎症誘発性産物とはもはや関係しない(図8)。この生物学的利点は、患者における有効性についての唯一の潜在性を提供し、MSの原因病理論において「鍵となる」物質をターゲットにするので、ヒト疾患MSとは無関係である結核症物質(完全フロイントアジュバント中のM.tuberculosis)で誘導されたEAEモデルにおいて測定される、活性化の副産物のうちの一つではない。
【0262】
2−実験2
同じタイプの実験を、観察された一次的結果を確認するために行った。
【0263】
方法
200μlの皮下注射:
−MOG(150μg)+CFA:4匹について試験を行った。
【0264】
−MOG(150μg)+IFA:3匹について試験を行った。
【0265】
−MOG(150μg)+IFA+LPS(20μg):4匹について試験を行った。
【0266】
その後、0日目および2日目に200μl(IV)の百日咳毒素(200 ng)を注入した。
【0267】
臨床的徴候の測定
全てのマウスの脾臓を続いて回収し、その細胞懸濁液を凍結した。
【0268】
2匹のマウスの脳を回収し、その後4%PFAでの灌流後に凍結した(一匹のEnvマウスの脳(段階3);一匹のLPSマウスの脳(段階0))。
【0269】
特徴的な炎症性傷害が、Envタンパク質を与えられたマウスの脳内の組織学的分析によって視覚化されたが、LPSの注入を与えられたマウスの脳内では視覚化されなかった。
【0270】
結果:
神経学的徴候のモニタリング:
-MOG(150μg)+CFA:4匹のうち4匹がその疾患を進行させた(段階2〜6)。
【0271】
-MOG(150μg)+IFA:徴候は観察されなかった。
【0272】
-MOG(150μg)+Env-SU(50μg):4匹のうち4匹がその疾患を進行させた(段階1〜5)。
【0273】
-MOG(150μg)+LPS(20μg):徴候は観察されなかった。
【0274】
結果は、図19において例証される。
【0275】
これらの結果は、Env-SUが、EAEによって表されるMSモデルの発達中に観察される神経学的徴候の導入におけるアジュバントの役割を有し得ることを確認する。
【0276】
抗原提示細胞の表面でMSRV Envタンパク質と同じ受容体:TLR4を刺激するので、上記に加えて、コントロールLPS(細菌性脂質多糖体)が使用された:これらの条件下でのLPSの自己免疫誘導性効果の喪失は、Envタンパク質の免疫学的な潜在性が他のTLR4リガンドの潜在性よりも非常に大きいことを示し、さらに、このタンパク質を標的にする阻害剤が、活性化された経路を非特異的に阻害する分子よりも良好な治療学的ツールになるであろうことを示す。
【0277】
機能的研究:
脾臓を解凍し、脾細胞をインビトロにおいてMOGペプチドで再刺激した。その後、IFN-gの産生を測定した(速度論および投与反応)。
【0278】
2×106脾細胞/mlのc-RPMI+10% FCS.
Envについての3匹のマウスとIFAおよびLPSについての2匹のマウスの平均が示される。
【0279】
図20は、特異的な自己抗原の存在中においてTリンパ球の活性化をシグナルするインターフェロンγの投与量の平均によって、MOGの投与量(投与効果)の関数としての反応を例証する。真の自己免疫反応が、これらの条件下においてTLR-4経路を特に刺激するEnv-SU断片を使用して、MSRV-HERV-W Envタンパク質によって誘導されることをはっきりと示す。MSのこのモデルにおいて、Tリンパ球の反応は、MSRV/HERV-W Envによる直接的な活性化からは生じない(例えば、スーパー抗原の場合のようにT受容体(TCR)を介して)。しかし、生得的免疫の細胞(単球/マクロファージ、樹状細胞、等)のレベルで、上流経路の活性化からは生じる。これは、本発明の多数の結果によって明示される(IFN-γ分泌の喪失、精製された単球および樹状細胞の刺激、あらゆる機能的なマウスリンパ球を含まないSCIDモデルにおけるマウス「マクロファージ」サイトカインの刺激、LPSの速度論と並行したIL-6速度論、IL-6およびTNF-αの欠如、リファレンス・スーパー抗原-SEB-等によって同じ条件下で誘導されるインターフェロンγ)。
【0280】
これはまた、ミエリン抗原MOGに対する自己免疫Tリンパ球反応の長期にわたる速度論の研究によって確認される。ミエリン抗原MOGは、「EAE/MOG/Env-SU」動物から採取された脾細胞および不完全フロイントアジュバント(IFA、結核菌抽出物を含まない)を含む「Envフリー」のコントロールおよびMOGを試験するために使用される培地に、10μg/mlで加えられる。これは、図21によって例示される。図21は、Env-SUを与えられたマウスのみにおいて、長時間にわたる抗MOG自己免疫反応の非常に有意な進行を示す。
【0281】
これらの結果は、それゆえに、自己抗原に付随したEnv-SUでの刺激が、抗原提示細胞(APC、単球/マクロファージ、樹状細胞、脳小神経膠細胞等を含む)上のTLR4受容体のレベルで、カスケードの下流をEnv-SUによって開始させ、非常に多量(グラフを参照)に放出されるインターフェロンγ(IFN-γ)の唯一の原因である自己反応性Tリンパ球を発達させ、かつ、インビボにおいてこれらのTリンパ球によって媒介される自己免疫を発達させることをはっきりと示す。
【0282】
3−実験3
同じタイプの実験を行った。観察された予備的結果を確認し、かつ、インビボにおいて抗Env-SU抗体(ここではモノクローナル抗体3B2H4によって表された)の治療学的効果(モデルにおいて測定された臨床的結果)を、同じアイソタイプであって等価な特異性をもたない抗体(ここでは、抗GAGモノクローナル抗体3H1H6によって表された)と並行して試験した。
【0283】
方法
5μg/ml濃度での200μL量の抗体の皮下注入(すなわち、体重約20グラムのマウス当たり1μgの抗体(すなわち1kg当たり50μgの抗体))の皮下注入:
−MOG (150μg)+CFA: 5匹について試験を行った。
【0284】
−MOG (150μg)+IFA:5匹について試験を行った。
【0285】
−MOG (150μg)+IFA+Env-SU(50μg):5匹について試験を行った。
【0286】
−MOG (150μg)+IFA+Env-SU(50μg):5匹について試験を行った。これらのマウスにはまた、1mgのAb 3B2H4, IV(200μL)が与えられた;
0日および2日目に200μL(IP)の百日咳毒素(200 ng)を注入し、かつ臨床的徴候の測定を行った。
【0287】
結果:
得られた結果を図22に例示する。
【0288】
MSのような進行性自己免疫の発達により近い条件を試験するために、毒素がすでにIPおよびIV以外で注射された時から、前のものより「ゆるやか」になる条件下で、結果は得られる。「MOG+CFA」ポジティブコントロールは臨床的徴候を示す4/5マウスに対応し、および「MOG+IFA」ネガティブコントロールは影響を受けた0/5マウスに対応する。
【0289】
Envタンパク質で、「MOG+CFA」ポジティブコントロールと同様に、平均の臨床スコアは、前の条件と比較して減少する。しかしながら、抗Env抗体の存在中におけるこのタンパク質の病原性効果の正味の減少は、治療されたマウスにおいて観察される最小限の損害によって例示される。
【0290】
「抗Gag」抗体は、Envタンパク質によって誘導される免疫病理学的効果上での抑制効果を有しないか、またはさらにその存在を通してこの効果をわずかに増強することが注目される。ところが、抗体3B2H4は、観察される曲線が「MOG+CFA」ネガティブコントロールの曲線に向かって最も大きく移動する、非常にはっきりとした阻害効果を有する。「Tリンパ球によって媒介された自己免疫を誘導する」EAEタイプの効果のインビボにおける阻害効果は、それゆえ3B2H4を通した抗MSRV/HERV-W Env抗体の存在に結びつけられる。
【0291】
多発性硬化症モデル「EAE」において、関連する生物学的パラメーターだけでなく、特に、測定される臨床効果(神経学的傷害)である。それゆえ、研究対象の効果は、もはや上述したような生物学的効果のみではなく、専用の疾病モデルの場面におけるその臨床的変換である。従って、本明細書中で測定されたものは、実際に治療学的効果がある。ここで、これらがヒト治療のための「前臨床の」治療学的な検証の定性的な制限であることは、ヒト疾患上での任意のその後の治療学的な検証が動物モデル上で得られた基準に基づいてヒトで行われなければならないので、当業者にとって周知である。
【0292】
いったん候補治療薬が同定および選択されると、本発明の場合のように、専用の動物モデルが開発および検証される。実施された一連の試験の「定量的」拡大は、暗黙的に実施され得、薬理学的研究に対して共通の、当業者に周知の適切な対照群で既に得られたツールおよびモデルを発達させ、前診断基準を満たす。
【0293】
従って、得られた要素は、前臨床の検証を終わらせ、かつヒトにおける治療学的実験を進めるのに必要かつ十分である。
【0294】
さらに、MSRV ENVおよびHERV-W7q ENV(シンシチン)タンパク質のアミノ酸配列の分析は、MSRV/HERV-Wファミリーにおける強いホモロジーと主要なアミノ酸モチーフの保存を示す(図23)。これは、抗ENVモノクローナル抗体での交差反応性によって反映される(図24)。
【0295】
配列分析(図25を参照)はまた、配列番号1において参照されたENV-SUタンパク質の配列における対象の抗原領域を評価することを可能にする。アミノ酸122-131(両端が含まれる)および/または312-316(両端が含まれる)および/または181-186(両端が含まれる)によって定義された領域に対応する。
【0296】
結果として、MSの動物モデルにおいて、MSRV/HERV-WファミリーのレトロウイルスのEnvエンベロープタンパク質に対するモノクローナル抗体、特に、細胞アッセイにおいてTLR4受容体によって開始される炎症誘発性経路上の阻害性質のために特に選択される、そのプロトタイプの一員であるMSRVのモノクローナル抗体は、免疫病理学的潜在性(特に、このレトロウイルスファミリーのENVエンベロープタンパク質の「自己免疫を誘導する」免疫病理学的潜在性)を阻害することができる治療学的薬剤を構成する。
【0297】
従って、以下のことが明らかになった:
1) エンベロープで覆われたMSRVビリオンが、多発性硬化症を患う患者において検出される[4, 8, 10, 62, 64]。
【0298】
2) それらの発現は、疾患の発展と関連がある[10]。
【0299】
3) MSRV Envタンパク質に対する免疫学的応答は、疾患の進行および重症度と関連がある[65]。
【0300】
4) MSRVビリオンは、MSRV Envタンパク質をコードするRNAを有する[66]。
【0301】
5) MSRV/HERV-WファミリーのEnvタンパク質は、それらのアミノ酸配列のレベルおよびそれらをコードする遺伝的配列のレベルで非常に強い相同性を有する[2, 5, 66]。
【0302】
6) ヒト染色体7q21-22(HERV-W7q)の領域におけるHERV-WコピーによってコードされるMSRV Envタンパク質およびEnvタンパク質は、インビトロおよびインビボでの炎症誘発性を有する(例えば、本患者適用の例および[11,12,59])。
【0303】
7) MSRV Envタンパク質は、ミエリン(ミエリン・オリゴデンドロサイト糖タンパク質、MOG、本特許出願の例)から誘導された中枢神経系の自己抗原の存在中において、多発性硬化症(MS)、すなわち実験的なアレルギー性脳脊髄炎(EAE)の周知のモデルを再現することができる。
【0304】
8) この実験的モデルは、従来的には、結核菌の抗原性抽出物、結核のための細菌性物質(これらはヒト多発性硬化症の原因とは無関係である)で人工的に開始される。(内因性レトロウイルスファミリーHERV-Wに属し、その発現が、ビリオンの形態において疾患との関係が認められ得るか[8, 10, 62]またはMSの特徴的な脱髄病変において特異的に発現されたEnvタンパク質の形態において認められ得る[59, 67])MSRVレトロウイルスのエンベロープタンパク質でこのモデルを得ることによって、疾患の免疫病原性に関与したレトロウイルス物質をターゲットにする治療学的薬剤を研究することが可能な新規かつ唯一の動物モデルが構成される。
【0305】
9) ヒト細胞において記載されたTリンパ球の活性化と関連した炎症誘発性効果はまた、インターフェロンγの生産(本特許出願の例)についてのアッセイによって証明されたように、MSRV Envタンパク質で誘導されたEAEモデルのマウスTリンパ球のレベルで明らかに見出される。
【0306】
10) MSRV Envタンパク質の炎症誘発性効果は、リンパ系細胞および抗原提示細胞によって媒介され、その結果、免疫系によって媒介される(本特許出願の例、[11,12])。
【0307】
11) 抗MSRV Envモノクローナル抗体(3B2H4 および13H5A5)は、特にヒト血液リンパ系細胞(リンパ球および単球)において、MSRV Envタンパク質の炎症誘発性効果を特異的に阻害することができる(本特許出願の例)。
【0308】
12) MSRV Envタンパク質に対して向けられたモノクローナル抗体(3B2H4)の「特異的な阻害」効果は、MSRV ENVで誘導されたEAEの動物モデルで確証される。この効果は、同じアイソトープの無関係な抗体で処理された未処理の動物または動物と比較された、処理動物の著しい臨床的改善によって反映される(本特許出願の例)。
【0309】
従って、抗MSRV/HERV-W Envモノクローナル抗体は、疾患に関連したレトロウイルス物質のタンパク質などで誘導された自己免疫および神経学的臨床問題で、炎症上での抑制効果を有し得る。
【0310】
従って、その性質がインビトロおよびインビボで検証された抗体が、未修飾の形態において、あるいは生物学的技術(特に、遺伝子工学技術)によって改善された形態において、ヒト疾患(例えば多発性硬化症)についての新規な治療学的薬剤を構成することは明らかである。
【0311】
これらの治療学的な抗体の前臨床の評価に適した細胞試験法および動物モデルは、本明細書に記載されており、当業者がヒトの治療試験の前に必要な検証工程を行うことを可能にし、かつ当業者がMSRV/HERV-Wレトロウイルスファミリーと関連した様々な病理学的症状を調整することを可能にする。
【書誌的参考文献】
【0312】
【図面の簡単な説明】
【0313】
【図1】図1は、Env-pV14エンベロープ、シグナルペプチド、およびEnv-SUエンベロープの可溶性画分の構造と、シグナルペプチドおよびEnv-SUエンベロープの可溶性画分のアミノ酸配列とを表す。
【図2】図2は、ヒトPBMC(単核細胞)の培養における炎症誘発性サイトカインの産生を表す。
【図3】図3は、自己由来のコントロール(MOCK)、Env-SU、LPSまたはSEBで刺激されたPBMCのTNF-αの放出量を表す。
【図4】図4は、30μg/mlの抗Env-SUモノクローナル抗体(13H5A5)、抗Gagモノクローナル抗体(3H1H6)、または上記抗体を含まない溶液(×)でプレインキュベートされ、かつ自己由来のコントロール(CK2)、Env-SUまたはLPSで刺激されたPBMCのTNF-αの放出量を表す。
【図5】図5は、自己由来のコントロール(Mock)、Env-SUまたはLPSで刺激されたヒト単球の活性マーカーの発現と、各サイトカインの放出量を表す。
【図6】図6は、自己由来のコントロール(Mock)、Env-SUまたはLPSで刺激された樹状細胞の活性マーカーの発現と、各サイトカインの放出量と、3Hチミジンが組み込まれた樹状細胞によって放射される毎分当たりのカウントの数を表す。
【図7】図7は、抗CD14または抗TLR4でプレインキュベートされ、かつCK2コントロール、Env-SU(ENV1)、LPSまたはSEBで刺激されたPBMCのTNF-αの放出量を表す。
【図8】図8は、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の病理学的発現から生じる活性化カスケードを概略的に表す。
【図9】図9は、MSRV/HERV-W ENVタンパク質の炎症誘発性効果に由来する二つの疾患をもたらす4つの重要な工程を表す。
【図10】図10は、多発性硬化症(MS)を患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、ENV-SUによって誘導されたサイトカイン(TNF-α、IL-1βおよびIL-10)の産生を表す。
【図11】図11は、多発性硬化症(MS)を患う患者由来のPBMCと正常なドナー由来の(ND)のPBMCにおける、ENV-SUによって誘発されたサイトカインの産生を表す。
【図12】図12は、サイトカインの産生と患者の臨床的パラメーターとの間の相関関係を表す。
【図13】図13は、精神分裂症(SCZ)を患う患者由来のPBMCと正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、サイトカイン(IL-10)の自発的産生およびENV-SUによって誘導された産生を表す。
【図14】図14は、精神分裂症(SCZ)患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、サイトカイン(IL-l2p40)の自発的産生(a)およびENV-SUによって誘導された産生(b)、ならびに相対的増加の算出(c)を表す。
【図15A−B】図15A−Bは、正常なドナー由来のPBMCの培養中における、ENV-SUによって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌を表す。
【図15C】図15Cは、正常なドナー由来のPBMCの培養中における、ENV-SUによって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌を表す。
【図15D】図15Dは、正常なドナー由来のPBMCの培養中における、ENV-SUによって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌を表す。
【図16】図16は、バッファー(黒丸を含む破曲線)、ENV-SU(黒四角を含む太い曲線)、またはLPS(黒三角を含む細い曲線)であらかじめ刺激された正常なドナー由来のPBMCの培養液中における、TNF-α産生の経時変化を表す。
【図17】図17は、ヒト化されたSCIDマウスにおけるENV-SUの炎症誘発性効果を表す。
【図18】図18は、MSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導を表す。
【図19】図19は、C57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導を確認する実験の結果を表す。
【図20】図20は、MOG自己抗原の濃度(μg/ml)と、インビトロに分泌されるインターフェロンγの量との関係を表す。
【図21】図21は、MOGおよびアジュバント製剤の接種後の時間(h)と、インビトロに分泌されるインターフェロンγの量との関係を表す。
【図22】図22は、C57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導と、TLR4によって媒介される炎症誘発性活動の阻害に関する試験において事前に選択される、モノクローナル抗MSRV/HERV-W ENV抗体の抑制効果とを確認する実験の結果を表す。
【図23】図23は、MSRV ENVタンパク質(下側)とHERV-W 7qコピーによってコード化されるENVタンパク質(上側)との間で比較されるアミノ酸配列を表す。
【図24】図24は、ウェスタンブロッティングによる分析の結果を表す。
【図25a】図25aは、「Protein analysis toolbox」機能をもつ、「Mac Vector」分析ソフトウェアを使用した、MSRV ENV-SUタンパク質のアミノ酸配列の分析結果を表す。
【図25b】図25bは、「Protein analysis toolbox」機能をもつ、「Mac Vector」分析ソフトウェアを使用した、MSRV ENV-SUタンパク質のアミノ酸配列の分析結果を表す。
【図25c】図25cは、「Protein analysis toolbox」機能をもつ、「Mac Vector」分析ソフトウェアを使用した、MSRV ENV-SUタンパク質のアミノ酸配列の分析結果を表す。
【発明の開示】
【0001】
数年間にわたり、様々なレトロウイルス、特に、内在性レトロウイルス(HERV)の、糖尿病[1]、多発性硬化症(MS)[2]および精神分裂病(SCZ)[3]のような症状における重要な発現について多くの研究が行われてきた。HERVは、既知の動物のレトロウイルスとの相同性を有し、おそらくヒト生殖細胞系列への組み込みから生じる。ヒトゲノムにおけるこれらのHERVの配列は、全プロウイルス配列が既に特定されているにもかかわらず、一般的には不完全である。
【0002】
MSを患う患者由来の軟髄膜細胞の培養におけるレトロウイルス粒子は、既に単離されている[4]。これらの粒子の研究は、ヒトDNAに対して相同的な遺伝子配列を有するが、内在性レトロウイルスの新しいファミリー(HERV-W)を示す[2, 5, 6]。患者の血清および/または脳脊髄液(CSF)におけるMSRVの存在は、様々な研究グループによって今まで確認されておらず[7-9]、ウイルス負荷と疾患の進化との間の関係が実証されてきた[10]。MSRVおよびそのエンベロープタンパク質が、スーパー抗原(Sag)型のTリンパ球に媒介された炎症誘発性性質を有することが実証された[11]。動物モデル(ヒト化されたSCIDマウス)が、このような粒子のインビボにおける免疫病理学的能力、特に、Tリンパ球によって媒介された炎症誘発性サイトカインの分泌を誘導するその能力を確認するために開発された[12]。
【0003】
以下の記述の中で、MSRV/HERV-Wファミリーのウイルスは、区別なくMSRVまたはMSRV/HERV-Wと呼ぶ。
【0004】
他の症状は、MSのように、大量のIL-6の存在によって特徴づけられる免疫系活性化の特徴を示す。これらの中において、精神分裂病(SCZ) -遺伝的および環境的因子と関連した神経精神医学的な疾患- は、正常な状態よりも非常に高い血清IL-6レベルをその症状の程度に依存して示す。さらに、MSRVと類似するレトロウイルスの配列は、SCZ患者において同定されている[3]。さらに、より最近、新たに診断されたSCZ患者のCSFは、循環粒子と関連したMSRV/HERV-Wファミリーのレトロウイルス配列を示すことが実証された[14]。
【0005】
このような発現は、そのエンベロープタンパク質の炎症誘発性効果と活性化経路によって様々な神経学的症状における役割を有するMSRV/HERV-Wと適合する。このレトロウイルス要素(活性化共因子の制御のもとそれ自体)およびその関連した効果は、炎症性脱髄性疾患の場合において特に関係がある[15]。精神分裂病の場合において、IL-6の過剰発現を通して全身性レベルで明らかになった炎症はまた、脳内の小膠細胞/マクロファージによって媒介された炎症の既知の神経毒性および興奮毒性と関係する、脳内の灰質のレベルに局所的に関係している[16-30]。
【0006】
MSRV/HERV-W RNA配列の異なる発現はまた、躁鬱病の精神病(双極性障害)を含む精神分裂病患者の前頭皮質組織において報告されている。さらに、この異なるレトロウイルス「MSRV/HERV-W」の全身性の影響は、相克的な精神分裂症の症状をもつホモ接合の双生児の血液中において実証されてきた。従って、循環IL-6の過剰発現の役割を果たし得る「全身性」の複製の存在が実証されている[3]。
【0007】
精神分裂病患者におけるMSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質は、皮質または皮質下の神経毒性および/または興奮毒性シグナルの生成における特異的炎症因子の役割のレベルで、精神分裂病の病理カスケードの一部である。
【0008】
現時点において、様々な独立したチームからの刊行物は、MSRV/HERV-Wファミリーの成分とMSおよびSCZのような病理との間の関係を示す。また、他の疾患も含まれることが判明し得た。
【0009】
発明者らは、意外にも、Tリンパ球によって媒介された炎症とは無関係なMSRV/HERV-WのEnvタンパク質が他の炎症誘発性活性を有することを今まで示していなかった。この新規な炎症誘発性活性には、T細胞以外の細胞が関与し、かつT細胞受容体(TCR)以外の受容体が関与する。その結果、スーパー抗原によるTCRの活性化以外の炎症誘発性経路が活性化される。この新規な炎症誘発性活性は、Tリンパ球のTCRとの結合に関与するスーパー抗原の機能によって引き起こされる炎症誘発性活性とは異なる。発明者らは、この炎症誘発性活性が、MSRV/HERV-Wエンベローブタンパク質の可溶性画分のドメイン(Env-SU)によるものであることを見出した。前記ドメインは、抗原提示細胞(マクロファージ、単球、樹状細胞および小膠細胞)および同定されていない受容体によって媒介された上記新規な炎症誘発性効果の原因となる。従って、レトロウイルス粒子の表面に存在するEnv-SUは、抗原提示細胞(APC)を標的とし、APCを活性化して、大量のTNF-α、IL-1βおよびIL-6の分泌を誘導する。これらの炎症誘発性効果は、MSを患う患者において研究され、その後ドナーにおいて得られたものと比較されてきた。発明者らは、Env-SUによって誘導されたIL-6の生成がMS患者において増加し、その臨床的スコア(EDSS)と関連することを示してきた。血清中のIL-6の存在の増加、MS患者のSCFおよび障害[32-37]は、MS患者の中枢神経系において観察される障害の進行および持続において重要な役割を果たすことが推測されている。
【0010】
発明者らは、さらに驚くべきことに、これらの新規な炎症誘発性効果に関与したEnv-SU受容体が、ヒトTLR4(Toll-like受容体4)タンパク質であることを見出した。TLR4をコードする遺伝子は、第9染色体上に位置する(9q32-q33)。タンパク質は839個のアミノ酸からなり、95679 Daの分子量を有する。TLR4は、MD-2と呼ばれる他の分子と協力し、CD14と共に、この複合体が、細菌リポ多糖類(LPS)の認識に関与していることが知られている。その結果、サイトカインの分泌および炎症反応におけるNF-κ-B因子が活性化される。MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質(Env-SU)の可溶性画分についての受容体の役割は、本発明以前には知られていなかった。TLR4タンパク質は、Tリンパ球上に発現していないので、TLR4受容体で実証された効果の主たる標的ではない。発明者らはまた、患者の生物学的液体において検出された循環RNAと関連したMSRVレトロウイルス粒子(レトロウイルスの複製とは無関係である)が、マクロファージ、単球、樹状細胞および小膠細胞のような抗原提示細胞上に存在するTLR4受容体に関与する、この新規な早期の炎症誘発性活性経路の誘導体であることを示した。このため、発明者らは、産生株培養上清から精製されたMSRVウイルス粒子を不活性化し[4]、MSRV/HERV-W Envタンパク質の存在と関連したその活性について試験を行った。実験の部において示された結果は、TLR-4による生得的な免疫の不活性化のための早期の経路が、可溶性形態(Env-SU)およびMSRVウイルス粒子の表面での膜結合形態におけるエンベロープタンパク質によってターゲットされていることを確認している。
【0011】
従って、本発明の内容において得られた結果は、症状、特に神経学的症状(例えばMSおよびSCZ)における免疫療法の戦略を確立することができる。そして、特に、一以上の治療学的薬剤を血液脳関門を横切って輸送することができるベクターを同定することができる。本発明の結果の主要な側面の一つは、治療の内容において、早期の炎症シグナルの生成に関与する「MSRV/HERV-W Env-SuおよびTLR 4」リガンド/受容体系の同定によって、脳の小膠細胞/マクロファージの活性化に関連した炎症成分を標的にすることを可能にすることである。前記早期の炎症シグナルは、例えば、白質(MS)に位置する小膠細胞/マクロファージに由来するときの脱髄性カスケード、または灰質(SCZ)におけるこれらの同じ細胞によって生成されるときの興奮毒性/神経毒性カスケードを開始する。
【0012】
従って、本発明の対象は、MSRV/HERV-Wの存在と関連した症状を示す個体を治療するための方法であって、MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分に特異的に結合することができる抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体のグループ(i)から選択された少なくとも一つの抗体、またはMSRV/HERV-W Env-Suタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体と特異的に結合することができる抗体のグループ(ii)から選択された少なくとも一つの抗体と、キャリアと、必要であれば、薬学的に許容可能なベクターとを含む、治療学的組成物または薬剤の個体への投与を含む。前記抗体は、MSRV/HERV-W Env-Suの活性化によって誘導された炎症誘発カスケードを阻害する。前記方法は、特に、MSおよびSCZの治療のために使用されるが、その症状がMSRV/HERV-Wの炎症誘発性タンパク質の発現と関連している場合、他の疾患の治療にも適用することができる。
【0013】
前記抗Env-SU抗体は、特に、SEQ ID NO: 1において特定された配列のうち、アミノ酸122-131(両端の数字を含む)に対応する領域、および/またはアミノ酸312-316(両端の数字を含む)に対応する領域、および/またはアミノ酸181-186(両端の数字を含む)に対応する領域と結合することができる。
【0014】
本発明の方法によれば、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体または少なくとも一つの抗TLR4抗体を含む組成物または薬剤を、患者に投与することができる。本発明の方法の一つの実施形態において、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体と少なくとも一つの抗TLR4抗体とを含む組成物または薬剤を、患者に投与する。
【0015】
好ましくは、本発明の方法において、抗Env-SU抗体は、以下の抗体:抗MSRV/HERV-W Env-SUモノクローナル抗体(抗体3B2H4、13H5A5および3Hl0Fl0(bioMerieux))から選択され、抗TLR4抗体は、抗ヒトTLR4抗体HTAl25(eBioscience社によって販売)である。bioMerieuxモノクローナル抗体を得る方法は、以下の明細書中に記載されている。上述した抗体は独自のものであり、TLR4受容体による抗原提示細胞上で新たに実証された炎症誘発性活性に関してその活性を喪失させる特徴がある。
【0016】
抗TLR4または抗Env-STJ抗体は、必要であれば、血液脳関門(BBB)を横切って抗体を輸送するための薬学的に許容可能なベクターに付随した薬学的に許容可能なキャリアによって個体に投与される。MSについてのケースであるが、症状の進行のある一定の段階で、血液脳関門の開放が起こる場合、上記ベクターを使用する必要はない。しかし、血液脳関門の開放がないとき、SCZについてのケースであるが、上記ベクターは必要である。これらのベクターはよく知られている[38-45]。治療学的手法は、脳の小膠細胞/マクロファージの活性化に関連した炎症成分を、このドメインにおける唯一の特異性をもって標的にする。この特異性は、早期の炎症シグナルの生成に関与する「MSRV Env-SuおよびTLR4」リガンド−受容体系の同定に関係している。前記早期の炎症シグナルは、例えば、白質(MS)に位置する小膠細胞/マクロファージに由来するときの脱髄性カスケード、または灰質(SCZ)におけるこれらの同じ細胞によって生成されるときの興奮毒性/神経毒性カスケードを開始する。
【0017】
抗MSRV Env-SUまたは抗-TLR4抗体の有用性は、MSRV/HERV-Wの病理学的発現と関連した様々な疾患において、MSRV/HERV-Wの発現によって誘導される炎症誘発カスケードを「源流で」遮断することである(なお、MSRV/HERV-W自体は、ヘルペスウイルスタイプの感染性共因子によって、ホルモンシグナルによって、または特異的なサイトカインによって誘導される)。
【0018】
従って、本発明の対象は、組成物である。この組成物は、MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分に対して、またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体に対して特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体のグループ(i)または抗TLR4抗体のグループ(ii)から選択された少なくとも一つの抗体と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む、治療学的目的のための組成物であると理解される。必要であれば、前記組成物にはまた、薬学的に許容可能なベクターが含まれる。前記抗体は、MSRV/HERV-W Env-SUの活性化によって誘導された炎症誘発カスケードを阻害する。好ましくは、前記組成物には、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体と、少なくとも一つの抗TLR4抗体とが含まれる。この組成物において好ましい抗体は、抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体(3B2H4、13H5A5および3Hl0Fl0)および抗TLR4抗体HTA125である。上述の抗体は、TLR4受容体を介して抗原を提示する細胞上で新たに行われる炎症誘発性活動に関して「中和化する」モノクローナル抗体である。
【0019】
前記抗Env-SU 抗体は、特に、SEQ ID NO: 1において特定された配列のうち、アミノ酸122-131(両端の数字を含む)に対応する領域および/またはアミノ酸312-316(両端の数字を含む)に対応する領域および/またはアミノ酸181-186(両端の数字を含む)に対応する領域に結合することができる。
【0020】
本発明の対象はまた、MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分に対して、またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体に対して特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-Su抗体のグループ(i)または抗TLR4抗体のグループ(ii)から選択された少なくとも一つの抗体の、薬剤の調製のための使用である。前記抗体は、MSRV/HERV-W Env-SUの活性化によって誘導された炎症誘発カスケードを阻害する。特に、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体と少なくとも一つの抗TLR4抗体が使用される。抗HERV-W Env-SU抗体は、抗体3B2H4、13H5A5および3Hl0Fl0から選択される。そして、抗TLR4抗体は、抗体HTA125である。この使用は、MSRV/HERV-W、例えば多発性硬化症または精神分裂病と関連した症状の治療のために行われる。
【0021】
前記抗-Env-SU抗体は、特に、SEQ ID NO: 1において特定された配列のうち、アミノ酸122-131 (両端の数字を含む)と対応する領域および/またはアミノ酸312-316 (両端の数字を含む)と対応する領域および/またはアミノ酸181-186 (両端の数字を含む)と対応する領域と結合することができる。
【0022】
本発明の対象はまた、MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分に対して、またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体に対して特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-Suおよび抗TLR4抗体から選択された、MSRV/HERV-Wの活性化によって誘導された炎症誘発カスケードを阻害するための抗体(特に、抗体3B2H4、13H5A5および3Hl0Fl0)である。しかしながら、他の抗体を生成および選択することは、当該技術の範囲内にある。選択のための条件は、選択された抗体が、以下の実験のセクションにおいて記載されたインビトロ試験におけるEnv-SUの炎症誘発効果を阻害することができることである。
【0023】
本発明において使用された用語「抗体」は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化された抗体、組換え型抗体および前記抗体の断片が含まれる。本発明の抗体は、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の可溶性画分についての高い親和性によって特徴づけられ、かつ非毒性または非常に弱い毒性を示す。特に、投与される個体のために、可変性の領域および/または定常領域が弱い免疫原性を示す抗体を使用するのが好ましい。本発明の抗体は、MSRV/HERV-Wに付随した症状を示す患者を治療するための効能によって特徴づけられ、同時に、無毒性または非常に弱い毒性を示すことによって特徴付けられる。弱い免疫原性および/またはこれらの抗体の高い親和性は、達成される治療学的効果に貢献するであろう。
【0024】
用語「抗体断片」は、ネガティブ抗体のF(ab)2, Fab, Fab・and sFv断片を意味することを意図し(Blazar et al., 1997, Journal of Immunology 159: 5821-5833 and Bird et al., 1988, Science 242: 423-426)、用語「キメラ抗体」は、特にネガティブ抗体のキメラ誘導体を意味することを意図する(例えばArakawa et al., 1996, J. Biochem 120: 657-662 and Chaudray et al., 1989, Nature 339:394-397を参照)。
【0025】
モノクローナル抗体の産生は、当業者の一般的知識の一部分である。参照として、「Kohler G. and Milstein C. (1975): Continuous culture of fused cells secreting antibody of predefined specificity, Nature 256: 495-497 and Galfre G. et al. (1977) Nature, 266:522-550.」を挙げる。免疫原は、免疫化の支持体としてのキーホールリンパヘモシアニン(KLHペプチド)または血清アルブミン(SAペプチド)に結合することができる。動物は、フロイントアジュバントを使用して免疫原の注入を受ける。免疫にされた動物から得られる血清およびハイブリドーマ培養上清は、それらの特異性およびそれらの選択性について、従来の技術(例えばELISA試験法またはウエスタンブロット法)を使用して分析される。最も特異的かつ最も感受性の抗体を生産するハイブリドーマが選択される。モノクローナル抗体はまた、作製されたハイブリドーマの細胞培養によって、あるいはマウスにハイブリドーマを腹腔内注入した後に腹水を回収することによって、インビトロで生産することができる。抗体は、生成方法に関係なく、上澄みまたは腹水として精製される。使用される精製方法には、主としてイオン交換ゲルおよび排除クロマトグラフィー上での濾過またはアフィニティークロマトグラフィー(プロテインAまたはG)上での濾過がある。抗体は、最も有効な抗体を選択するために、機能的な試験法で選別される。遺伝子工学によって生産される抗体断片およびキメラ抗体のインビトロ生産は、当業者には周知である。例として、抗体は、抗体の可変性断片(scFv)をコードするRNAから得られるcDNAのクローニングによって生産され得る。ヒト以外の抗体の「ヒト化された」形態、例えば、マウスの抗体は、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化された抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、受容体の超可変領域の残基が、ヒト以外のドナー種(ドナー抗体)(例えば、所望の特異性、親和性および効能を有する、マウス、ラット、ウサギまたはヒト以外の霊長類)の超可変領域の残基で置換される。あるケースでは、ヒト免疫グロブリンのFv領域の残基(FR)は、対応するヒト以外の残基で置換される。さらに、ヒト化の抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に見出せない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の効果を向上させるために作製され得る。一般的には、ヒト化された抗体は、少なくとも一つの、好ましくは二つの可変性ドメインを含む。全てのまたはほとんど全ての超可変性ループは、ヒト以外の免疫グロブリンに対応し、全てのまたはほとんど全てのFR領域は、ヒト免疫グロブリンのFRである。ヒト化された抗体はまた、任意的には免疫グロブリン、例えばヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部分を含む。一般的には、可変性領域は、ヒト以外の哺乳類の抗体に由来し、定常領域は、ヒト免疫グロブリンに由来する。好ましくは、選択された可変性領域は弱い免疫原性を示し、かつ同じく弱い免疫原性を示す定常領域と結合する。
【0026】
これらの抗体は、好ましくは以下の「中和化されている」抗体である:
−抗MSRV/HERV-W Env-SUモノクローナル抗体:抗体3B2H4、13H5A5および13H10F10(bioMerieux)、
−抗TLR4抗体:抗ヒトTLR4モノクローナル抗体HTA125(eBioscience社によって販売)。
【0027】
抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体は、以下に記載のプロトコルに従って産生される。
【0028】
−抗体3B2H4の産生:
マウスは、以下のプロトコルに従って免疫される:0日目、完全フロイントアジュバントの存在中における上述したような[11]、精製された組換え型のMSRV/Envタンパク質からなる20μgの免疫原の腹腔内注入。14日目〜28日目、不完全フロイントアジュバントの存在中における同量の免疫原のさらなる腹腔内注入。融合の4、3および2日前、生理食塩水で希釈された100のμgの免疫原の腹腔内注入。
【0029】
400の上清を、間接的ELISA技術によってスクリーニングした。プレートを、0.05Mの重炭酸塩バッファー(pH 9.6)中1μg/mlで100μlの抗原でコーティングした。コーティングされたプレートを、18〜22℃の温度で終夜インキュベートした。プレートを、200μlのPBS-1%ミルクで飽和し、かつ37℃(+/-2℃)で1時間にわたってインキュベートした。PBSバッファー-0.05Tween 20で希釈された100μlの上清または腹水液を、37℃(+/-2℃)で1時間にわたってインキュベートした。PBSバッファー-l% BSAで1/2000まで希釈された、アルカリホスファターゼ(AP)と結合した100μlのヤギ抗マウス免疫グロブリン(H+L)ポリクローナル抗体(Jackson Immunoresearch ref: 115-055-062)を添加し、その後にプレートを37℃(+/-2℃)で1時間にわたってインキュベートした。DEA-HCL (Biomerieux ref 60002989)(pH=9.8)中2mg/mlの濃度で100μlのPNPP (Biomerieux ref 60002990)を添加した。その後にプレートを37°+/-2℃の温度で30分間にわたってインキュベートした。100μlの1N NaOHの添加によって反応を遮断した。300μlのPBS-0.05% Tween 20で、3つの洗浄を各工程間で行った。PNPPを加える前に、蒸留水におけるさらなる洗浄を行った。
【0030】
22の上清を、4倍のバックグラウンド・ノイズに対応するOD>0.2での間接的ELISAによってポジティブであると見出した。特異性試験の後、一つの抗体を産生した。
【0031】
−抗体13H5A5および3H10F10の産生:
マウスは、以下のプロトコルに従って免疫される:0日目、完全フロイントアジュバントの存在中における[11]に記載されたように、精製された組換え型MSRV/Envタンパク質からなる、40μgの免疫原の腹腔内注入。14、28および78日目、不完全フロイントアジュバントの存在中における同量の免疫原のさらなる腹腔内注入。融合の4、3および2日前、生理食塩水で希釈された50μgの免疫原の腹腔内注入。
【0032】
上述したように、1350の上清を、間接的なELISA技術でスクリーニングした。39の上清が、4倍のバックグラウンドノイズに対応するOD>0.4での間接的なELISAによってポジティブであると見出された。特異性試験の後、2つの抗体を産生した。
【0033】
上述したように、上述の抗Env-SUおよび抗-TLR4抗体はMSRV/HERV-Wと関連する症状の治療のための薬剤または治療学的組成物の調製のために使用される。本発明の治療学的な目的のための組成物において、抗体または活性成分は、薬学的に許容可能なキャリアおよび、任意的には、薬学的に許容可能なベクターと結合する。薬学的に許容可能なキャリアは、選択された投与方法および薬品分野における標準的プラクティスに基づいて決定および選択される。例えば、上記キャリアが経口投与または非経口投与(静脈内、皮下内または筋肉内など)されるとき、タンパク質は消化を受けるので、投薬は吸収を最適化するために通常使用されるべきである。例えば、薬学的に許容可能なキャリアは、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th ed., Mack Publishing Co.に記載されている。例えば、注入による投与に適した腸管外組成物は、0.9%の塩化ナトリウム溶液中1.5重量%の活性成分を分解することによって調製される。それは、抗体がBBBを交差可能にする選択されたベクターと抗体を結合させるために必要である。輸送不可能な抗体は、移動可能なベクター(例えばカチオン化されたアルブミン、トランスフェリン、インスリンまたはインスリン様成長因子)と結合でき、あるいは前記タンパク質の断片と結合できる。特に、トランスフェリンまたはインスリン様成長因子のような、運搬ベクターと結合した輸送不可能なモノクローナル抗体(IgG3)は、BBBを交差可能にするが、これらの抗体の機能的な性質は保存されることは、既に示されている。他の研究班は、神経薬学的な製品がリポソームを介して脳に送達され得ることを既に示している。このアプローチはまた、あるメカニズムを介して、リポソーム内に被包され得る任意の分子が脳に向かい得ることを提示するものであり、重要である。
【0034】
抗体は、治療効果を増強または向上させるために、個別の治療薬として、あるいは他の治療薬との組み合わせにおいて投与され得る。投与量は、既知の要素、例えば、特定の物質の薬力学的な特徴、およびその投与経路の他、年齢、体重、治療の回数および所望のおよび予想される効果に依存するであろう。通常、活性成分の1日量は、ヒトでは1キログラムあたり0.01〜100ミリグラムの間にある。通常、1日あたり1キログラムあたり1〜40ミリグラム(一以上の日用量として投与される)は、所望の効果を得るための有効な量である。
【0035】
本発明はまた、IL-6、IL-12-p4OおよびTNF-αから選択されたサイトカインをアッセイすることによって、多発性硬化症または精神分裂症に患う患者の血液単核細胞の反応性の状態を決定するための、MSRV/HERV-W Env-SUの使用に関する。
【0036】
図面
図1は、Env-pV14エンベロープ、シグナルペプチド、およびEnv-SUエンベロープの可溶性画分の構造と、シグナルペプチドおよびEnv-SUエンベロープの可溶性画分のアミノ酸配列とを表わす。図1(a)は、Env-pVl4の構造(MSRVの完全なエンベロープタンパク質)と、シグナルペプチドおよびEnv-SUエンベロープの可溶性画分の構造に対応する。エンベロープ(Env-SU)の可溶性画分は、完全なEnv pVl4タンパク質の位置K316で切断された、可溶性細胞外単位を表わす287のアミノ酸の部分に対応する。図1(b)は、シグナルペプチドおよびEnv SUのアミノ酸配列を表す。図1(b)において、シグナルペプチドのアミノ酸配列は四角の枠で囲まれ、エンベロープの可溶性画分(Env-SU)は太文字で表わされる。Env-SUの配列は、配列番号1としての配列識別子において参照される。Env pVl4エンベロープの完全な配列は、登録番号AF331500のもとジーンバンクにおいて利用可能である。Env pVl4タンパク質の様々な部分は、通常、図1(a)に関してここで記載されたように定義される:
−アミノ酸1で始まりアミノ酸29で終わる(両端を含む)シグナルペプチド、
−アミノ酸30で始まりアミノ酸316で終わる(両端を含む)Env-SU、および
−アミノ酸317で始まりアミノ酸542で終わる(両端を含む)膜通過領域。
【0037】
Env-SUの算出された平均分子量は、32061.59に等しい。その推定されたpIは、9.61に等しい。そのアミノ酸組成は、以下の通りである:
非極性アミノ酸:
数 パーセンテージ
A 9 3.14
V 16 5.57
L 25 8.71
I 13 4.53
P 21 7.32
M 7 2.44
F 11 3.83
W 6 2.09
極性アミノ酸:
数 パーセンテージ
G 16 5.57
S 31 10.80
T 34 11.85
C 12 4.18
Y 10 3.48
N 18 6.27
Q 9 3.14
酸性アミノ酸:
数 パーセンテージ
D 4 1.39
E 10 3.48
塩基性アミノ酸:
数 パーセンテージ
K 9 3.14
R 12 4.18
H 14 4.88
図2:Env-SUは、ヒトPBMC(単核細胞)の培養における炎症誘発性サイトカインの生産を誘導する。図2Aは、EnvSUの投与量を増加させながら24時間刺激された正常なドナー由来のPBMCの培養上清のELISA試験法(酵素結合免疫測定法)によって分析された、TNF-α、IL-1βおよびIL-6の分泌を表す。その結果は、3つの独立した試験に対応する。Env-SUの投与量は、x-軸(μg/ml)に表わされている。y-軸は、サイトカインの量(ng/ml)に対応する。その曲線において、記号■はIL-6の分泌に対応し、記号(黒丸)はIL-1βの分泌に対応し、記号(黒三角)はTNF-αの分泌に対応する。図2Bにおいて、PBMCは、1μg/mlの自己由来のコントロール、Env-SU、LPSまたはSEBで刺激され、かつELISAによるサイトカイン分泌の分析の前に24、48および72時間にわたってインキュベートされる。x軸は時間単位の時間に対応し、y軸は、IFNγおよびIL-6(図lB (a)および1B (c))については単位「ng/ml」における、TNFαおよびIL-1β(図lB (b)およびlB (d))については単位「pg/ml」における、サイトカインIFNγ、TNFα、IL-6およびIL-lβの生産に対応する。この図において、−(黒丸)−はEnv-SUに対応し、--×--はLPSに対応し、−(黒三角)−は、自己由来のコントロールに対応し、・・・・■・・・・はSEBに対応する。
【0038】
図3:Env-SUのサイトカイン刺激活性は、内毒素による汚染が原因ではない。単核細胞PBMCは、自己由来のコントロール(MOCK)、Env-SU、LPSまたはSEBで24時間にわたって刺激された。これが示されたとき、細胞は、刺激前に10μg/mlのPolymyxin B(PdyB)で処理された(図中黒色で表示)。同時に、細胞はまた、30分間煮沸(100℃)されたタンパク質および毒素でインキュベートされた(図中灰色で表示)。培養上清を回収し、ELISAによるTNF-αの放出について試験を行った。この図において示された結果は、三つの実験結果の平均値に対応する。Y軸は、単位「pg/ml」における放出されたTNF-αの量に対応する。
【0039】
図4:抗Env-SUモノクローナル抗体(13H5A5)は、Env-SUのサイトカイン刺激活性を遮断する。単核細胞PBMCは、1μg/mlの自己由来のコントロール(CK2)、Env-SUまたはLPSで24時間にわたって刺激され、かつ、30μg/mlの抗Env-SUモノクローナル抗体(13H5A5)、抗Gagモノクローナル抗体(3H1H6)、または上記抗体を含まない溶液(×)でプレインキュベートされた。培養上清を回収し、TNF-αの分泌について試験を行った。この図において示された結果は、三つの実験結果の平均値に対応する。Y軸は、単位「pg/ml」における放出されたTNF-αの量に対応する。
【0040】
図5:Env-SUは、精製されたヒト単球を直接活性化させる。ヒト単球は、ヒトPBMCから精製される(95%を超える純度)。そして、ヒト単球は、1μg/mlの濃度で24時間にわたって自己由来のコントロール(Mock)、Env-SUまたはLPSで刺激される。図5aは、フローサイトメトリーによって分析された活性マーカーCD80(左図)およびCD86(右図)の発現を表わす。x軸に沿って表わされたものはカウントされた細胞数であり、y軸に沿って表わされたものは、細胞当たりの蛍光強度(「カウント」)である。結果は、各蛍光強度についてカウントされた細胞の数を表わす。曲線によって定義された領域は、試験対象の各条件についての細胞の総数を表わす。蛍光強度の関数としての細胞の分布は、曲線の形状によって示される。白い領域は、コントロール(Mock)で得られた結果を表わす。薄い輪郭内にシェードの入った領域は、Env-SUで得られた結果を表わす。濃い輪郭内にシェードの入った領域は、LPSで得られた結果を表わす。図5bは、ELISAによって分析された、TNF-α、IL-1β、IL-6およびIL-l2p40の分泌を表わす。白色で表わされたものは、自己由来のコントロールで刺激後に得られた結果である。Env-SUおよびLPSで刺激後に得られた結果は、それぞれ黒色および灰色で表わされたものである。y軸は、単位「ng/ml」における選択されたサイトカインの量に対応する。これらの結果は、三つの実験の平均値を表わす。
【0041】
図6:Env-SUは、単球から派生した樹状細胞(MDDC)を活性化する。MDDCは、精製された単球から生成され、その後、1μg/mlの濃度で24時間にわたって、自己由来のコントロール、Env-SUまたはLPSで刺激された。図6aは、フローサイトメトリーによって分析された、活性マーカーCD80、CD86、CD40およびHLA-DRの発現を表わす。x軸に沿って表わされたものはカウントされた細胞の数であり、y軸に沿って表わされたものは細胞当たりの蛍光強度(「カウント」)である。左上図は、CD80の分析を表わし、右上図はCD86、左下図はCD40、右下図はHLA-DRを表わす。結果は、各蛍光強度についてカウントされた細胞の数を表わす。曲線によって定義された領域は、試験対象の各条件についての全細胞の数を表わす。蛍光強度の関数としての細胞分布は、曲線の形状によって示される。左側の白色領域は、コントロール(Mock)で得られた結果を表わし、より太い線で輪郭が示された右側の白色領域は、Env-SUで得られた結果を表わし、シェードの入った領域はLPSで得られた結果を表わす。図6bは、ELISAによって分析された培養上清におけるTNF-α、IL-6、IL-12p40およびIL-l2p70の分泌を表わす。y軸は、単位「ng/ml」における分泌されたサイトカインの量に対応する。図6bにおいて表わされたヒストグラムにおいて、Mockは、自己由来のコントロールでの刺激後に得られた結果に対応し、Env-SU(黒色)は、Env-SUでの刺激後に得られた結果に対応し、LPS(灰色)は、LPSでの刺激後に得られた結果に対応する。図6cは、前もってEnv-SU(−■−)、LPS(---(黒三角)---)、またはコントロールCK2(―(黒丸)―)で刺激された樹状細胞によるT細胞の同種間の増殖を表わす。x軸は、樹状細胞の数を表わす(それぞれ、1000、5000および10 000)。y軸は、3Hチミジンが組み込まれた細胞によって放射された毎分当たりのカウントの数を表わす。
【0042】
図7:CD14およびTLR4は、Env-SUの炎症誘発性に関与している。単核細胞PBMCは、20μg/mlまたは5μg/mlの濃度で、抗CD14 (rhCDl4, ref.: AB383, R&D Systems-UK)(図7a)または抗TLR4(図7b)中和抗体で一時間にわたってプレインキュベートされた。その後、単核細胞PBMCは、1μg/mlの濃度で、CK2コントロール、Env-SU(ENV1)、LPSまたはSEBで24時間にわたって刺激された。TNF-αの放出は、ELISAによって細胞上清中で分析された。その結果を、図7aおよび7bのヒストグラムにおいて示した。Y軸は、単位「ng/ml」における放出されたTNF-αの量に対応する。黒色のヒストグラムは、抗体を添加しないで得られた結果に対応し、白色のヒストグラムは、20μg/mlの抗CD14および抗TLR4抗体の存在において得られた結果に対応し、灰色のヒストグラムは、5μg/mlの抗CD14および抗TLR4抗体の存在において得られた結果に対応する。これらの結果は、三つの実験の平均値に対応する。
【0043】
図8:TLR4経路活性化後の免疫学的増幅カスケード。このカスケードにおける治療学的ターゲットの例。
【0044】
図8は、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の病理学的発現から生じる活性化カスケードを概略的に表す。前記カスケードは、まず最初に、CD14補助受容体と結合可能なTLR4受容体を刺激する。この相互作用の前には、アゴニストMSRV-ENVタンパク質のみが存在する。この活性化後、生得の免疫の細胞が活性化され、多数の分子エフェクター(サイトカイン、酵素、脂質、フリーラジカルまたはレドックス化合物など)と活性化細胞が一緒になる。多発性硬化症の場合において、脳の白質の破壊と、Tリンパ球に対するミエリン抗原の提示、すなわち適合性免疫の自己反応性T細胞と結合した自己免疫成分の提示の後に第二の成分が活性化される。この段階で、何百または何千の異なる分子および細胞が、免疫病理学的効果を媒介することに関与する。これは、典型的には、初期刺激(MSRV/HERV-W ENV)との類似性を有さない免疫病理学的増幅カスケードを与える。
【0045】
今日までに利用可能なまたは提唱された治療は、アゴニストが現れる(例えば、抗TNF-α抗体、インターフェロンβおよびフェルラ酸のようなフリーラジカル捕捉剤分子)、増幅カスケードの段階に存在する多数のアゴニストの中から、炎症誘発性または病理学的アゴニストの「下流」をターゲットにする。これらは、これらの薬学的効果に感受性のない非常に多数の他のエフェクター(分子および細胞)の効果を阻害できない。これはMSのような疾患における多くの現在の治療の部分的および相対的効果を説明する。
【0046】
さらに、これらの治療は、病理学的MSRV/HERV-Wコピーを発現する他の細胞(反復性環境共因子、例えばヘルペスウイルス科の影響のもと)が、同じ病変部位または他の大脳部位で、同時にまたは異なる時間に、炎症誘発性エンベロープを産生することを妨げる(脳腔に関しておよび疾患の進行時間に関してMSを定義する多病巣性病変および再発/寛解の原理)。
【0047】
従って、タンパク質ターゲットによる誘導性の下流のエフェクターが全く生成されないカスケードのある段階での初期効果を阻害する治療は、このMSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の炎症誘発性効果と関連した症状において一般にデザインおよび使用される手法と比べて非常に高い関連性と潜在的な有効性を有する。実際には、たとえカスケードが活性化されても、この治療学的戦略によって上流で「枯渇」し、他方では、上流の刺激は、他の「下流」の治療学的手法において継続するであろう。最後に、疾患の寛解の期間中における再発を防止する手法において、これらの抗体は、これらがここに記載されたカスケードを始動させる前に、「MSRV/HERV-W ENV」タンパク質を中和することができ、他方では、「下流」分子または細胞をターゲットにする他の療法は、この炎症カスケードが作用内に引き起こされた後にのみ介入することができる。
【0048】
図9:MSRV/HERV-W ENVタンパク質の炎症誘発性効果に由来する二つの疾患をもたらす4つの重要な工程:
(i) 二つの共通の「上流」工程:(工程I)TLR4受容体の活性、および(工程II)局所的炎症
(ii) 二つの異なる「下流」工程:(工程III)ニューロン脱髄または興奮毒性および(工程IV)多発性硬化症または精神分裂病。
【0049】
補因子によって活性化され得、かつエンベロープタンパク質をコードする少なくとも一つのプロウイルスMSRV/HERV-Wコピーを含むターゲット組織における、この補因子の向性および細胞の存在によって決定された組織領域における、ヘルペスウイルス科ファミリー[46-49]の感染性補因子でのトランス活性化の後、エンベロープタンパク質(Env)は、病理学的活性化の状況において、MSRV/HERV-Wファミリーのレトロウイルスのコピーによって生産される。
【0050】
このように生成されたこのENVタンパク質はTLR4受容体と結合し、この状況に応じて、MSRV/HERV-W ENV および/または MSRVビリオンを生産する細胞の近傍における脳組織において存在するマクロファージまたは小膠細胞型の細胞のTLR4補助受容体、例えばCD14と結合する。前記細胞がマクロファージまたは小膠細胞である場合、この同じ細胞のTLR4受容体上での自己分泌効果が存在することを可能にする。
【0051】
このTLR4受容体での相互作用の工程の後、免疫病理学的増幅カスケードが、多量の炎症誘発性および組織破壊媒介性分子の生産とともに、MSRV/HERV-W再活性化の部位周辺の、関連した組織における局所的炎症を作り出す。
【0052】
この段階の後、該状況は、MSRV/HERV-W再活性化共因子とこれらの「応答物質」プロウイルスを収集する細胞の局在化が、白質中の発現に向かって集合するかまたは灰質中の発現に向かって集合するかによって分かれる。
【0053】
精神分裂症のような症状を発症させる病理学的経路を決定する第一のケースにおいて、
前頭皮質のニューロン構造の近くのMSRV/HERV-W要素の誘導された再活性化または誘導された過剰発現は、灰質組織において、主要な損傷誘発活性および特異的な免疫漸増を許さない局所的な炎症を誘導する。この局所的な炎症は、このレベルでのTリンパ球の侵入を許さない。他方、知的および認知的活動を担うニューロン細胞近傍で生産される炎症誘発性メディエータは、影響を受けた脳のスペースにおいて、かつこの炎症誘発性生産が起こる期間の間、付随するニューロンネットワークの機能障害を決定する局所的ニューロン興奮毒性を引き起こす[17, 20, 22-26, 29, 50, 51]。影響を及ぼす領域に応じて、ニューロン興奮毒性活性化を生じる「心的」状態は、精神分裂症の臨床病理学的な発作を特徴づける幻覚的なおよび錯乱状態の徴候によって反映される。最後に、このニューロン興奮毒性は、細胞死(神経毒性)において発生し得ることが知られている。これは、精神分裂症を患う患者の脳における、MRIによって測定される脳室拡大によって客観化される[52]。
【0054】
多発性硬化症になる病理学的経路を決定する第二のケースにおいて、白質中のミエリンは、事前炎症によって補充されるリンパ球に対する自己抗原の提示とともに、原発性脱髄を生み出すフリーラジカルおよび炎症誘発性物質の影響を受ける。これらの条件のもと、リンパ球反応性の傾向は、小神経膠細胞/マクロファージ型細胞(Th1バイアス)によって前もって分泌されるサイトカインによって条件づけられ、これらの状態の下で提示される「自己」抗原に対して十分に自己免疫反応を発生させることができる。しかしながら、さらに、全MSRVエンベロープタンパク質またはMSRVビリオンが、Tリンパ球上で異なる活性、すなわち、TCR受容体での相互作用によって特徴づけられるスーパー抗原的活性を示し得ることが示された。原発性炎症によって漸加されたTリンパ球が組織を浸潤するこの下流の状況における前記性質は、原発性炎症によって事前に損害を受けた組織で露出されるミエリン抗原に対して反応性の特異的な自己免疫Tリンパ球を増進させる、Tリンパ球の多クローン性の活性化を最終的に加える。この状況において、免疫病理学的反応の第二の特質は、自己免疫の作用と活性化されたTリンパ球によって媒介される炎症の作用で起こる。
【0055】
図10:多発性硬化症(MS)を患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、ENV-SUによって誘導されたサイトカイン(TNF-α、IL-1βおよびIL-10)の産生
図10は、第一に多発性硬化症(MS)を患う患者由来の、第二に正常なドナー(ND)由来の、生体外で採取された血液単核細胞(PBMC)における、MSRV ENV-SUタンパク質によって誘導されるサイトカインの産生を表わす。NDまたはMSに隣接した指標n=は、そのサイトカインに関する各集団の試験対象となった人の数を表す。
【0056】
x軸は、刺激されたPBMC培養上清でのサイトカインの投薬量ng/mlを表す。各グラフは、各々の集団(NDおよびMS)において1ポイント(円)によって表される、試験対象の各個体についての結果を比較する。三つのグラフは、左から右に向かって、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターロイキン(IL)-1βおよびインターロイキン(IL)-10の産生を表す。算出されたとき、NDおよびMS集団の間で比較された結果は、これらの3つのサイトカインに関して顕著な差異は無い(NS:顕著ではない)。統計学的分析は、Studentの試験で行われた。
【0057】
図11:多発性硬化症(MS)を患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、ENV-SUによって誘導されたサイトカインの産生
図11は、第一に多発性硬化症(MS)を患う患者由来の、第二に正常なドナー(ND)由来の、生体外で採取された血液単核細胞(PBMC)における、MSRV ENV-SUタンパク質によって誘導されるサイトカインの産生を表す。NDまたはMSに隣接した指標n=は、そのサイトカインに関する各集団の試験対象となった人の数を表す。
【0058】
x軸は、刺激されたPBMC培養上清でのサイトカインの投薬量ng/mlを表す。各グラフは、各々の集団(NDおよびMS)において1ポイント(円)によって表される、試験対象の各個体についての結果を比較する。二つのグラフは、左から右に向かって、インターロイキン(IL)-12p40およびインターロイキン(IL)-6の産生を表す。算出されたとき、NDおよびMS集団の間で比較された結果は、これら二つのサイトカインに関してMS集団において際立って高い(IL-12p40ではp=0.003およびIL-6ではp=0.0006)。統計学的分析は、Studentの試験で行われた。
【0059】
図12:サイトカインの産生と患者の臨床的パラメータとの間の相関関係
図12は、研究対象のMS集団の臨床パラメータ(x軸)と、MSRV-SU ENVタンパク質によるPBMCの刺激に反応して生産される特定のサイトカインの量(y軸)との間における相関関係の分析のグラフ式の結果を表す。各グラフについて、「r」の値は、相関関係線と関連した点分布の統計学的算出を表す。pの値は、この相関関係がランダムに得られる統計学的な確率を表す。従って、0.05を上回る全てのpの値は「非特異性」を意味し、0.05未満の全ての値は分析対象の因子間に相関関係が存在することを意味する。
【0060】
上側の二つのグラフは、MS患者の臨床スコア(1〜10の重症度で測定されるEDSS [53])と、IL-6(左側)またはIL12p4O(右側)との間に顕著な相関関係が見出されたパラメータを示す。
【0061】
下側の二つのグラフは、顕著な相関関係が見出されなかったパラメーターの二つの例:疾患の期間とIL-6(左側)、またはγインターフェロンと臨床スコアEDSS(右側)を示す。
【0062】
図13:精神分裂症(SCZ)を患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、サイトカイン(IL-10)の自発的産生(a)およびENV-SUによって誘導された産生(b)
図13は、第一に精神分裂病(SCZ)を患う患者由来の、第二に正常なドナー(ND)由来の、生体外で採取された血液単核細胞(PBMC)における、MSRV ENV-SUタンパク質によって誘導されるサイトカインの産生を表す。
【0063】
x軸は、刺激されたPBMC培養上清でのサイトカインの投薬量ng/mlを表す。各グラフは、各々の集団(NDおよびSCZ)において1ポイント(円)によって表される、試験対象の各個体についての結果を比較する。二つのグラフは、左から右に向かって、培養中におけるインターロイキン(IL)-10の自発的産生およびENV-SUでの刺激後に誘導されたインターロイキン(IL)-10の産生を表す。
【0064】
図14:精神分裂症(SCZ)患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、サイトカイン(IL-l2p40)の自発的産生(a)およびENV-SUによって誘導された産生(b)、ならびに相対的増加の算出(c)
図14は、第一に精神分裂病(SCZ)を患う患者由来の、第二に正常なドナー(ND)由来の、生体外から採取された血液単核細胞(PBMC)内のMSRV ENV-SUタンパク質によって誘導されるサイトカインの産生を表す。
【0065】
x軸は、刺激されたPBMC培養上清でのサイトカインの投薬量ng/mlを表す。各グラフは、各々の集団(NDおよびSCZ)において1ポイント(円)によって表される、試験対象の各個体についての結果を比較する。三つのグラフは、左から右に向かって、a) 培養中におけるインターロイキン(IL)-12p40の自発的産生、b) ENV-SUによる刺激後に誘導されたインターロイキン(IL)-10の産生およびc)式:{(ENV-SU刺激後の量−自発的な量)/自発的な量 }に従って算出されたIL12p4Oの産生の相対的な増加を表す。
【0066】
図15:正常なドナー由来のヒトPEMCの培養における、ENV-SUタンパク質によって誘導された単球-マクロファージの炎症誘発性活性を阻害する、抗MSRV/HERV-W ENVモノクローナル抗体の同定および選択。a) 2つの抗ENV抗体および対照抗体での分析、b)前記分析の特異性についての状態の検証、c)独立した試験の例、d)独立した試験の他の例:
図15aは、正常なドナー由来のPBMCの培養中における、対照タンパク質(Mock)(1μg/ml)、ENV-SU(1μg/ml)およびLPS(1μg/ml)(x軸)によって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌(y軸)を表す。各刺激条件について左から右に向かって:白抜きの棒は、抗体がない場合の結果を表し、黒色の棒は、抗MSRV ENV抗体3B2H4(30μg/ml)の存在中における結果を表し、斜め線の入った棒は、抗MSRV ENV抗体13H5AS(30μg/ml)の存在中における結果を表し、および陰影の入った棒は、抗-MSRV GAG抗体3H1HG(30μg/ml)の存在中における結果を表す。
【0067】
図15bは、図15aと同じ正常なドナー由来のPBMCの培養液における、対照タンパク質(Mock)(1μg/ml)、ENV-SU(1μg/ml)およびLPS(1μg/ml)(x軸)によって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌(y軸)を表す。各刺激条件について左から右に向かって:白抜きの棒は、抗体がない場合の結果を表し、黒色の棒は、ポリミキシンB(25μg/ml)の存在中における結果を表し、および陰影の入った棒は、PBMC培養液に添加する前に30分間にわたって100℃で加熱されたMOCK、ENV-SUまたはLPSで得られる結果を表す。
【0068】
図15cは、正常なドナー由来のPBMCの培養液における、白抜きの棒によって表された対照タンパク質(Mock)(1μg/ml)、黒色の棒によって表されたENV-SU(1μg/ml)、およびハッチングの入った棒によって表されたLPS(1μg/ml)によって誘導された、TNF-α(pg/ml)の分泌(y軸)を表す。各刺激条件について左から右に向かって:x軸に沿って示された各抗体についての結果が示されている:3B2H4(30μg/ml)と同じアイソタイプの抗トキソプラズマ抗体「X」、抗MSRV ENV抗体3B2H4(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体13H5A5(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体3H1OF1O(30μg/ml)、抗MSRV GAG抗体3H1H6(30μg/ml)。
【0069】
図15dは、正常なドナー由来のPBMCの培養液における、白抜きの棒によって表された「Mock CK2」対照タンパク質(1μg/ml)および黒色の棒によって表されたENV-SU(1μg/ml)によって誘導された、TNF-α(pg/ml)の分泌(y軸)を表す。各刺激条件について左から右に向かって:x軸に沿って示された各抗体についての結果が示されている:3B2H4(30μg/ml)と同じアイソタイプの抗トキソプラズマ抗体「X」、抗MSRV ENV抗体3B2H4(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体6A2B2(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体3H1OF1O(30μg/ml)、抗MSRV ENV抗体13H5A5(30μg/ml)。
【0070】
図16:PBMC上でのTNF-α産生の速度論
正常なドナー由来のPBMCは、ELISAによるTNF-α産生の分析前に(y軸、pg/ml)、5μlのバッファー(黒丸を含む破曲線)、1μg/mlのENV-SU(黒四角を含む太い曲線)、または1μg/mlのLPS(黒三角を含む細い曲線)で刺激され、2時間、24時間または48時間(x軸)にわたってインキュベートされた。
【0071】
図17:ヒト化されたSCIDにおけるENV-SUの炎症誘発性効果
体重約25gのSCIDマウスが与えられ、x軸に沿って示されるように、バッファー、1個体当たり50μgのENV-SU、および1個体当たり50μgのLPSを注入した。また、各タイプの接種原についてx軸に沿って示されたように、2時間、24時間および48時間で屠殺されたマウスの腹腔洗浄(IP)由来の血清または液体が、ELISAによって分析された。
【0072】
左側のグラフは、TNF-α(pg/ml)の量を表す。上のグラフは、マウスのサイトカインの量を表し、下のグラフは、ヒトのサイトカインの量を表す。
【0073】
右側のグラフは、IL-6 (pg/ml)の量を表す。上のグラフは、マウスのサイトカインの量を表し、下のグラフは、ヒトのサイトカインの量を表す。
【0074】
図18:MSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導
図18は、57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導からなる予備試験の結果を表す。
【0075】
x軸は、注入後の日数を表す。y軸は、研究対象の動物の平均臨床スコアを表す。
【0076】
黒四角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(myelin oligodendrocyte glycoprotein))自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質を注入された動物を表す。この一連の研究は、25日目まで続けられた。
【0077】
黒三角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)を注入されたネガティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、25日目まで続けられた。
【0078】
図19:MSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導の再現
図19は、C57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導を確認する実験の結果を表す。
【0079】
x軸は、注入後の日数を表す。y軸は、研究対象の動物の平均臨床スコアを表す。
【0080】
黒四角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原および完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含む)を注入されたポジィティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、21日目まで続けられた。
【0081】
黒三角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質を注入された動物を表す。この一連の研究は、42日目まで続けられた。
【0082】
菱形(diamond)を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)を注入されたネガティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、42日目まで続けられた。
【0083】
十字線を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびLPSを注入されたネガティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、42日目まで続けられた。
【0084】
図20:「EAE/MOG/ENV-SU」モデルのマウスおよびENVの非存在下で免疫された対照群のマウスにおける、MOG自己抗原の増加する量に対する自己免疫反応の24時間での試験
x軸は、図19に例示されたプロトコルにおいてサンプル対象となったマウスのPBMCと接触させたMOG自己抗原の濃度(μg/ml)を表す。y軸は、MOG抗原の増加する量と接触するPBMC中に存在する自己免疫性Tリンパ球によって、インビトロに分泌されるインターフェロンγの量を表す。
【0085】
白抜きの棒は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質の、インビボ注入を行ったマウス由来のPBMC5を表す(図19に例示されたシリーズの「0」日目)。
【0086】
黒色の棒は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)の、自己抗原およびインビボ注入を行った対照群のマウス由来のPBMC5を表す(図19に例示されたシリーズの「0」日目)。
【0087】
図21:「EAE/MOG/ENV-SU」モデルのマウスおよびENVの非存在下で免疫された対照群のマウスにおける、インターフェロンγの分泌によって明らかにされる、抗MOG自己免疫性Tリンパ球反応の速度論
x軸は、PBMCのサンプルが図19で例示される一連のマウスから採取される、MOGおよびアジュバント製剤の接種後の時間(h)を表す。y軸は、PBMC中に存在する自己免疫性Tリンパ球によってインビトロに分泌されたインターフェロンγの量を表す。
【0088】
白抜きの棒は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質の、インビボ注入を行ったマウス由来のPEMCを表す(図19に例示されたシリーズの「0」日目)。
【0089】
黒色の棒は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)の、インビボ注入を行った対照群のマウス由来のPEMCを表す(図19に例示されたシリーズの「0」日目)。
【0090】
図22:本発明において開発および検証されたMSモデルにおいて実証された、ENV-SUの炎症誘発活性の抑制効果について選択される抗MSRV ENV抗体の治療学的活動
図22は、C57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導と、TLR4によって媒介される炎症誘発性活動の阻害に関する試験において事前に選択される、モノクローナル抗MSRV/HERV-W ENV抗体の抑制効果とを確認する実験の結果を表す。
【0091】
x軸は、注入後の日数を表す。y軸は、研究対象の動物の平均臨床スコアを表す。
【0092】
黒四角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)および完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含む)を注入されたポジィティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、28日目に終了させた。
【0093】
黒三角を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質を注入された動物を表す。この一連の研究は、28日目まで続けられた。
【0094】
菱形(diamond)を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)および不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)を注入されたネガティブコントロールの動物を表す。この一連の研究は、28日目まで続けられた。
【0095】
十字線を含む曲線は、MOG(ミエリン希突起膠細胞糖タンパク質)自己抗原、不完全フロイントアジュバント(結核症の抽出物を含まない)およびMSRV ENV-SUタンパク質を注入された動物を表す。これらの動物には、さらに、キログラム当たり50μgの量、すなわち20グラム重のマウス当たり1μgの抗MSRV GAG コントロール抗体3B2H4が与えられた。この一連の研究は28日目まで続けられた。
【0096】
図23:MSRV ENVタンパク質(下側)とHERV-W 7qコピーによってコード化されるENVタンパク質(上側)との間で比較されるアミノ酸配列; 囲まれた配列は同じである(保存領域)。
【0097】
図24:ウェスタンブロッティングによる分析
MSRV ENVタンパク質と、7q染色体上に偏在して位置するHERV-Wコピーのenv orfによってコードされるENVタンパク質(クローンMSRV pV14によってコードされるVl4= ENV組換え型タンパク質、クローンHERV-W7q pH74によってコードされるH74= ENV組換え型タンパク質)との間の抗原性の交差反応性
3C1D5: MSRVクローン由来の組換え型タンパク質での免疫処置の後に得られるモノクローナル抗体。
【0098】
矢印は、検出されたバンドのレベルを示す。60 Kdaは、対応する分子量のレベルを示す。
【0099】
図25:ENV-SUタンパク質の抗原性性質の分析
ウェスタンブロッティングによる分析
図25a、bおよびcは、「Protein analysis toolbox」機能をもつ、「Mac Vector」分析ソフトウェアを使用した、MSRV ENV-SUタンパク質のアミノ酸配列の分析結果を表す。3つの長方形で囲まれた領域は、一次配列および二次配列の分析に基づいた3つの最も有望な抗原性領域を表す。
【0100】
図25aは、「ENV-SU」領域の抗原性を図示する三つのグラフ。y軸上の「0」より上の陰影の入った領域は、ポジィティブな抗原性を有し、y軸よりも下はポジィティブな抗原性を有さない(ネガティブな抗原性)。
【0101】
図25bは、上の二つのグラフは、「ENV-SU」領域の親水性を表す。y軸上の「0」より上の陰影の入った領域は、ポジィティブな親水性を有し、y軸よりも下はネガティブな親水性を有する。
【0102】
図25cは、「ENV-SU」領域の表面確率(surface probability)を表す。y軸上の「0」より上の陰影の入った領域は、ポジィティブな可動性(flexibility)を有し、y軸よりも下はネガティブな表面確率を有する。
【0103】
実験の部
インビトロでの研究
材料および方法
タンパク質および毒素
MSRVエンベロープ(Env-SU)の表面タンパク質は、全エンベロープタンパク質(Env Pv14、GenBank AF331500)のうち287のアミノ酸のタンパク質配列に対応する。Env Pv14およびEnv-SUの構造およびアミノ酸配列は、それぞれ図1 (a)および1(b)に表されている。組換え型のMSRV Env-SUタンパク質は、大腸菌内で発現し、FPLCカラム上で精製される。タンパク質の品質および純度は、質量分析およびウエスタンブロット法によって確認される。カゼインキナーゼは、自己由来のネガティブコントロールとして使用される。この対照タンパク質は、Env-SUと同じ条件の下で産生および精製された。
【0104】
2つのタンパク質は、CleanCelis社(Bouffere、フランス)によって行われるリムルスアメーバ様細胞溶解物(LAL)試験によって、エンドトキシンの存在について試験される。全ての画分は、5 lU/mlの検知閾値を下回る。Toxin Technology (Sarasota, Fl, USA)から得られるブドウ球菌腸管毒素B(SEE)は、95%の純度であった。大腸菌株026:B6のリポ多糖体(LPS)は、Sigma Aldrichから得られる。
【0105】
培養液
培養液は、以下の成分を補充したRPMI 1640培地(Gibco)である。
【0106】
1% L-グルタミン (Sigma-Aldrich)、
1% ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、
1% ピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、
1% 非必須アミノ酸(Sigma-Aldrich)、および
10% 熱不活性化FCS (ウシ胎児血清)(BioWest)。
【0107】
T細胞増殖試験については、ヒトAB血清(Sigma-Aldrich)が、FCSの代わりに使用された。
【0108】
細胞の単離および調製
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll Paque密度勾配遠心分離法によって正常なドナーから単離される。PBMCの単球は、Miltenyl Biotec社によって販売された単球単離キットを使用して、T細胞、B細胞、樹状細胞、NK細胞および好塩基球を除去することによって精製される。要約すると、PBMCは、モノクローナル抗体とハプテンと結合した抗ヒト免疫グロブリンとの反応混液でインキュベートされ、かつ磁気的に標識され(抗CD3、抗CD7、抗CD19、抗CD45RA、抗CD5Gおよび抗IgE)、その後、抗ハプテンモノクローナル抗体に結合したマイクロビーズ(MAC MicroBeads)で標識された。磁気によって標識された細胞は、磁場内のカラム上でそれらを保持することによって、最終的に除去される。回収された単球集団の純度は、フローサイトメトリー分析によるCD14の発現によって決定されたときに、常に95%を超える。単球由来された樹状細胞(MDDC)の世代のために、精製された単球は、2mlの培地中25ng/mlのIL-4と50ng/mlのGM-CSFを含む6穴プレート上での5日間にわたって培養される。培養3日目に、サイトカインの全量が細胞に加えられる。形態学的な分析およびフローサイトメトリーによって示されるように、得られた細胞試料は、90%以上のCD1a-ポジティブ樹状細胞を含む。
【0109】
細胞刺激
細胞(PBMC、単球またはMDDC)は、Env-SU、LPS、SEBまたは自己由来のコントロールでの刺激前に、1 mlの培養液中の1ウェル当たり1×106細胞の濃度で24ウェルプレート中に静置される。これらは、その後5%のCO2で加湿された雰囲気内下37℃でインキュベートされる。指示があった段階で、前記細胞は、10 μg/mlのポリミキシンB (Sigma-Aldrich)、20 μg/mlおよび5 μg/mlの抗CD14モノクローナル抗体、20 μg/mlおよび5 μg/mlの抗TLR-4抗体(HTA125, eBioscience)でプレインキュベートされるか、あるいはコントロールIgGの2aアイソタイプ(IgG2a) (eBM2a, eBioscience)でプレインキュベートされる。ある実験において、Env-SU、自己由来のコントロール、LPSおよびSEEは、細胞を処理する前に30分間にわたって煮沸される。
【0110】
結果の特異性を決定するために、1 μgのEnv-SU、LPS、SEEおよび自己由来のコントロールは、Env-SU (13H5A5; IgG1; biomerieux)またはGAG (3H1H6; IgG1, biomerieux)に対する30 μg/mlのモノクローナル抗体で4℃で1時間にわたってプレインキュベートされる。
【0111】
次に、細胞は24時間にわたって37℃でインキュベートされ、その後、細胞上清はELISAによるTNF-α, IL-lβおよびIL-6の分泌の分析のために回収される。
【0112】
T細胞増殖試験
刺激された単球およびMDDCは、T細胞刺激物質として使用される。同種間のT細胞が、「応答」細胞として、96ウェルの丸い底入れされたマイクロプレートにおいて1ウェル当たり1×105細胞で使用される。前記刺激物質である細胞は、量を増加させながらT細胞に加えられ、培養が、最終容積200μlの培養液中において三重に行われた。5日間にわたって37℃でインキュベーション後、T細胞の増殖は、組み込まれた放射活性を測定することによって評価される。これを行うために、最終的な18時間のインキュベーション後、1μCiの3Hチミジンが各ウェルに加えられる。その後、組み込まれた放射活性を測定するために、細胞はガラスフィルター層上に回収される。
【0113】
免疫蛍光法およびフローサイトメトリーによるラベリング
前記細胞は、PBS中で播種、洗浄され、その後、異なる表面マーカーで染色される。以下のモノクローナル抗体(Becton-Dickinson, San Jose, CA)が使用された:抗CD1aアロフィコシアニン(HI149-APC)、抗CD14フルオレセインイソチオシアネート(MOP9-FITC)、CD4Oフィコエリトリン(5C3-PE)、CD8Oフィコエリトリン(L307.4-PE)、CD86フィコエリトリン(IT2.2-PE)およびHLA-DRペリジンクロロフィル(L243-PerCP)。
【0114】
T細胞の直接免疫蛍光法染色は、製造業者によって推奨された濃度の様々な抗体で、氷で冷却された2% FCSを補充したPBS中で行われる。4℃で30分後、細胞が洗浄され、その後、FACS Calibur(商標名)およびCellQuestソフトウェア(商標名)(Becton Dickinson)を使用して分析が行われる。
【0115】
サイトカイン生成アッセイ
培養上清が回収され、サイトカイン分泌の分析前に-20℃で保存される。サイトカインの量は、製造業者の指示に従いながら、IL-lβ、IL-6、IL-10、IL-l2p40、IL-12p40およびTNF-αについて、OptElA(商標名)ELISAキット(Pharmigen)を使用して測定される。
【0116】
結果
Env-SUは、ヒトPBMC由来の炎症誘発性サイトカインの産生を誘導する。
【0117】
PBMC培養液中におけるサイトカインの分泌を促進する組換え型のEnv-SUタンパク質の能力について試験を行った。正常なドナー由来のPBMCは、組換え型Env-SUタンパク質の量を増加させながら24時間にわたってインキュベートされ、サイトカインTNF-α、IL-1βおよびIL-6の分泌は、ELISAによって評価された。分泌されるサイトカインの量は、自己由来のコントロール、ヒトPBMC上での炎症誘発性性質を有することが十分に知られた、SEB(十分に特徴づけられた細菌性スーパー抗原)およびLPSで得られる量と比較された。全てのタンパク質および毒素は、1μg/mlの濃度 (投与量/反応実験によって決定された炎症誘発性サイトカインの誘導のための最適濃度)で使用された。その結果は、用量依存的方法において、10ng/mlの低投与量でさえ、Env-SUが3つのサイトカインの分泌を誘発することを示す。図2に示すように、Env-SUで得られるサイトカイン分泌速度論は、SEBの速度論よりもLPSの速度論により近い。実際には、本明細書中に展開および記載されたインビトロ試験法の条件下でのEnv-SUでの刺激は、SEB抗原で表されるスーパー抗原の刺激とは完全に異なる: (i) インターフェロンγ(Tリンパ球活性化のシグナルを出す)の非初期的分泌(具体的には、スーパー抗原によってT細胞受容体(TCR)のレベルで認識される)、(ii) IL-6(単球マクロファージによって分泌され、かつTリンパ球によっては分泌されない)およびTNF-αの実質的かつ初期の分泌{スーパー抗原でのインビトロアッセイにおける我々の条件下では産生されない(SEBの例で示されたように)}。さらに、MSRV/HERV-W Envタンパク質の、そのEnv-SU領域を介した、精製された単球および樹状細胞上での活動を示す例は、これらの効果に、これらの細胞上には存在しないTCRが関与しないことを確かめ、従って、本明細書中に記載された特定の炎症誘発性効果が、TCRおよびTリンパ球との結合に関与するスーパー抗原機能によって引き起こされる炎症誘発性活性化とは全く異なることを確かめる。MSRV/HERV-W Envタンパク質の炎症誘発性活性化経路は、任意的には補助受容体CD14の補助とともに“Toll-like receptor 4”(TLR4)に関与し、図8に図示されたようにTリンパ球の活性化の上流を活性化する。この炎症誘発性(TLR4)経路は、免疫系の「生得的な」成分を動員し、Tリンパ球関連の免疫(適合性免疫)の上流を十分に動員させる。樹状細胞の活性化の後、生得的免疫の受容体の活性化に反応して分泌されるサイトカイン(例えばTLR4)によって、この上流の経路は、下流の、適合性免疫(Th1またはTh2)の活性化の状態に影響を与えることができる。前記結果は、生得的免疫経路がTリンパ球介在の適合性免疫の上流で活性化されるという事実の他に、得られたTリンパ球上での下流の効果にさえもTCR受容体が関与しないことを示す。これは、このレベルで観察されるMSRV/HERV-W Env(Env-SU)タンパク質(TLR4)の効果と、Tリンパ球受容体(TCR)が関与するスーパー抗原の効果との間の差異をはっきりと示す(例におけるSEBスーパー抗原によって例証される)。ここで、TLR4経路は、この段階でTリンパ球の原発性活性化を除外し、他の細胞(単球マクロファージ、樹状細胞、Bリンパ球)を関与させる。ここで観察される活性化経路は、従って、スーパー抗原効果の上流にあり、ここで使用された細胞試験法において「SEB」よりもリファレンス「LPS」に対応する速度論とコラボレートする。
【0118】
実際には、Env-SUおよびLPSは、24時間後から、大量のTNF-α、IL-6およびIL-lβの分泌を誘導することができ、他方、SEBは、インキュベーションの72時間後から、TNF-αの分泌のみ誘導する。Env-SUおよびLPSがそのTNF-α分泌ピークを誘導し、他方、SEBはTNF-αの一定の分泌を誘導することは興味深い。IL-1βに関して、Env-SUおよびLPSは、インキュベーションの24時間前後の分泌ピークおよびこれに続く一定の減少によって特徴づけられる、TNF-αの分泌態様と同様の分泌態様を誘導する。同じTCR Vβ特異性を有するTリンパ球の大集団を活性化することが知られているSEBは、IL-1βを全く誘導しない。IL-6は、Env-SUおよびLPSで刺激されたPBMCによって定常的に分泌されるが、SEBでは分泌されない。IL-6およびIL-1βは、活性化された単球/マクロファージによって優先的に放出される2つのサイトカインである。これらのデータは、LPSのデータと同様の手法において、Env-SUが、炎症誘発性サイトカインの放出のために生得的な免疫系の細胞(例えば単球およびマクロファージ)を標的にすること、およびTリンパ球が活性化のこのレベルで標的にならないことを示す。
【0119】
Env-SU組換え体タンパク質のエンドトキシンでの汚染の可能性を除外するために、ヒトPBMCは、刺激前にLPS阻害剤、ポリミキシンB (PB)で処理されるか、あるいは煮沸されたタンパク質および毒素でインキュベートされた。並行して、同じ反応物および材料:ヒトカゼインキナーゼCK2とともに、同じ条件下で生成および精製された自己由来のコントロールが加えられた。
【0120】
24時間にわたるインキュベーションの後、培養上清が回収され、TNF-α分泌について分析された。図4に示されるように、Env-SUおよびSEBによって誘導されたTNF-αは、PBによってのみ部分的に阻害される。一方、LPSの効果は、完全に消滅する。対照群である自己由来のタンパク質は、全てのサイトカイン分泌を誘導しない。TNF-αの放出はまた、Env-SUタンパク質が30分間にわたって煮沸されたときに著しく阻害され、他方、LPS活性は影響を与えない。これは、食品医薬品局によって承認されたLAL試験を使用する、Env-SUの精製されたサンプルと自己由来のコントロールとの両方で行われる品質コントロール分析中に得られたネガティブな結果に基づいている。
【0121】
これらの結果は、初期に観察された炎症誘発性効果がエンドトキシンでの汚染に起因しないこと、およびこれらの効果の原因となる成分があるタンパク質であることを実証する。
【0122】
Env-SUの炎症誘発性の特性を確認するために、モノクローナル抗体の効果が研究された。PBMCは、Env-SUに対するモノクローナル抗体、Gagに対するモノクローナル抗体とともに、4℃で1時間にわたってプレインキュベートされた自己由来のコントロール、Env-SUまたはLPSで、24時間にわたってインキュベートされた。このモノクローナル抗体を開発するために使用されるGagタンパク質は、炎症誘発活性を全く示さず、かつ適切なコントロールを構成する。図4に示されるように、抗Env-SUモノクローナル抗体は、特異的にはEnv-SUによって媒介されるTNF-αの分泌を遮断するが、LPSによって媒介されるTNF-αの分泌を遮断しない。サイトカインの分泌は、抗Gagモノクローナル抗体による影響を受けない。これらの結果は、サイトカインの誘導および細胞活性化におけるEnv-SUの特異性を実証する。
【0123】
Env-SUは、PBMC培養液中に炎症誘発性サイトカインを誘発する能力を有する。続いて、Env-SUが、精製された単球を直接活性化することができることが検証された。精製された単球は、24時間にわたって自己由来のコントロール、Env-SUまたはLPSで刺激され、様々な活性化マーカー、例えばCD8OおよびCD86がフローサイトメトリーによって評価された。自己由来のコントロールと比較して、Env-SUは、2つの標識の上流の制御を誘導し、得られる発現レベルは、LPSで得られる発現レベルに類似する(図5a)。大量のTNF-α、IL-1β、IL-6およびIL-12p40は、Env-SUに応答して生成される(図5b)。これらの結果は、Env-SUが、炎症誘発性サイトカインの生産に付随して、単球の迅速かつ直接的な活性化を誘導することを示す。
【0124】
樹状細胞は、ナイーヴT細胞の活性化を制御する独特の能力を有する、生得的免疫および適合性免疫を結びつける抗原提示細胞である。単球誘導型樹状細胞(MDDC)を直接活性化させるEnv-SUの能力が研究された。樹状細胞は、自己由来のコントロール、Env-SUまたはLPSで24時間にわたって刺激された高度に精製された単球からインビトロで生成された。Env-SUは、CD80、CD86、CD4OおよびHLA-DRマーカーの活性を劇的に増加させることができる(図6a)。炎症誘発性サイトカインIL-6、TNF-α、IL-12p40およびIL-12p70は、より高いレベルで分泌される。Env-SUで刺激されたMDDCは、刺激細胞の数が低いときでさえ、自己由来のコントロールと比較してより大きな程度で、T細胞の同種異系の増殖を誘導できることが示される(図6c)。従って、LPS(ポジィティブコントロール)と同様、Env-SU は、IL-12を分泌する樹状細胞の成熟を誘導することができ、それによって、一次特異的な免疫応答を誘導することができる。
【0125】
Env-SUがLPSと同じ活性経路を使用するか否かを決定するために、抗CD14または抗TLR4中和抗体でのプレインキュベートを伴うまたは伴わない、刺激後のヒトPBMCによって分泌されたTNF-αのレベルが測定された。図7aに示された結果は、CD14の遮断が、Env-SUの顕著な量依存的阻害、およびLPSによって媒介されたTNF-αの分泌の顕著な量依存的阻害をもたらした(20μgの抗CD14抗体での83%および56%それぞれの阻害)。T細胞受容体およびHLA-DRを介してT細胞および抗原提示細胞を活性することが知られているSEBは、阻害されない。TLR4の遮断は、20μgの抗TLR4抗体で、Env-SUの効果に関して37%の阻害をもたらし、かつLPSの効果に関して43%の阻害をもたらす(図7b)。二つの実験におけるコントロール抗体については、阻害の効果が観察されない。以上より、CD14およびTLR4受容体は、Env-SUによって媒介された炎症誘発性に関与している。
【0126】
結論として、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の可溶性画分は、CD14およびTLR4認識受容体を介した生得的免疫応答を刺激する。そして、炎症性病変において生じる免疫病理学的カスケードが、抗Env-SUおよび/または抗TLR4抗体から選択された少なくとも一つの抗体を含む治療学的組成物または薬剤の投与によって非常に初期の段階で遮断され得ることが、本発明において示される。
【0127】
従って、本発明において、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質に対するbioMerieuxによって生産された試験対象の様々なモノクローナル抗体を得た後、本発明においてセットアップおよび開発された細胞試験法は、TLR4経路を活性化する炎症誘発性効果を阻害する性質を有する物質を同定することを可能にし、100%に最も近い潜在的な阻害性を有する物質を、阻害抗体の中から選択することを可能にした。これらの抗体の中で、抗体3E2H4および12HSA5は、好ましい抗体である。
【0128】
従って、これらの2つの疾患のプロセスにおいてさらに下流で分岐する病理学的カスケードのはるか上流のレベルで、MSおよびSCZのような症状に関与する炎症の初期経路の阻害の性質を特定することが可能である。
【0129】
薬学的組成物または薬物の調製のための、上記に与えられた定義と対応する、これらの抗体の有用性は、はるか上流の、MSまたはSCZのような症状における病原性カスケードを遮断することができることから明らかである。
【0130】
これらの利点はまた、TLR-4受容体との相互作用の前にある阻害効果によって実証される。前記阻害は、その早期の活性化の研究にささげられた同じ細胞試験法における抗-TLR4抗体で得られるものと等しい。Tリンパ球の活性化の上流効果は、この段階で、自己免疫疾患(例えばMS)および非自己免疫疾患(例えばSCZ)に共通である病理学的アゴニストを遮断することができる(図9を参照)。従って、本発明の抗体は、MSおよびSCZのような病理における下流を異ならせしめる、上流の病理学的カスケードを遮断することができる。図8は、MSの病理学的カスケードにおいて本発明の抗体が対象とするターゲットを示し、現存する治療学的薬剤が現在対象にする全てのターゲットを予想する。実際には、本発明の抗体が介在する段階で、一つのアゴニスト(MSRV/HERV-W Env)と一つの受容体(TLR4)のみが存在し、他方、受容体の活性化の後、生物活性分子(サイトカイン、酵素、フリーラジカルなど)の形態における何百のアゴニストは、炎症プロセスに関与し、その後、MSの場合において、何千の分子および細胞性アゴニストは、自己免疫Tリンパ球クローンの活性化からなる段階の後に関与する。精神分裂病(SCZ)の場合において、それは、自己免疫経路において活性化されるTリンパ球ではないが、隣接性ニューロンのレベルで興奮毒性を引き起こす、脳灰質の細胞におけるTLR4経路の活性化後に生成された炎症誘発性メディエータである。炎症誘発性分子によって誘発される興奮毒性のこれらの現象は、個体の前頭皮質において、幻覚的な現象を引き起こすニューロメディエータの異常な放出を生じさせる。これらの興奮毒性の現象がしばしば、神経死によって示される神経毒性をもたらすことを明らかにすることはさらにより有利である。ここで、このニューロン死はSCZで知られ、脳室拡大によって客観化され、典型的には症状の進行段階にある患者のMRI画像によって視覚化される。実際には、これらの患者の脳におけるニューロンの進行的喪失は、脳室の容積における増加によって補正され、疾患の進行のある期間の後、MRIによって検出可能になる。図8および9は、本発明において開発された、細胞アッセイによって同定および選択された抗Env抗体が、MSRV/HERV-Wファミリーの一以上の病原体コピーの活性化後に、このカスケードの最上流の「第一」の刺激を遮断するという事実を明確に図示する。
【0131】
MSRV/HERV-Wレトロウイルスファミリーのエンベロープタンパク質(Env)の発現と、MSおよびSCZ症状との間の関係をより正確に確かめるために、本発明についての生得的な免疫活性化アッセイを使用して研究が行われ、MSまたはSCZ患者の免疫学的活性化におけるバイアスについて正常な患者と比較して調べた。
【0132】
生体外での研究
多発性硬化症(MS)を患う患者における生体外での研究
Env-SUで誘導されたIL-6の分泌は、MS患者から生体外に取り出された血液単球細胞中において増加し、それらの臨床スコア(EDSS)と相関させる。
【0133】
この研究において、MS患者由来のPBMCのEnv-SUに関する反応性と、正常なドナー由来のPBMCのEnv-SUに関する反応性とが比較された。32名の患者が関わり、そのうち、MRIによって行われた分析によれば、20名が急性期にあり、12名が安定期にある。これらの能力障害のレベルはまた、EDSS(延長能力障害スコア)によって決定された。並行して、19の正常なドナーが試験された。簡潔には、1×106 PBMCを、Env-SUまたはMockコントロールによって24時間インキュベートし、その後、培養上清を、サイトカイン、例えばIFN-γ、TNF-α、IL-1β、IL-6およびIL-10の分泌について分析した。得られた結果(Env-SU - Mock)を、先ず初めにグループ間で比較した。顕著な差異は、IFN-γ、TNF-α、IL-1βおよびIL-10について観察されなかった(図10)。他方、相当な差異がIL-6およびIL12p4Oで得られ、患者において増加している(図11)。さらに、ポジィティブな相関性がIL-6またはIL12p4Oの分泌のレベルと、患者の臨床スコアとの間で得られた(図12)。他の相関関係は、他のサイトカインまたは臨床データ(年齢、性別、処理)では得られなかった。図12において、誘導されたIL-6と疾患の期間との間の関係の喪失、およびインターフェロンγとEDSSとの間の関係の喪失は例として与えられる。
【0134】
Tリンパ球によって排他的に分泌されるインターフェロンγに関して、生得的な免疫と関係するサイトカインとは反対に、単球/マクロファージによって分泌されたサイトカインが、臨床スコア(EDSS)と関連しないことは非常に興味深い。これは、細胞アッセイがインビトロで行われたときに、生体外で明らかになった効果が、Tリンパ球によるこの段階で媒介されない効果と関係し、それゆえスーパー抗原の効果と関係しないことを示す。
【0135】
これらの結果は、最も進行した臨床シグナル(高いEDSS)を示すMS患者が、Env-SUのようなレトロウイルス因子に対して「過剰な感受性」を有することを示すが、炎症誘発性サイトカインおよびIL-6を介したMSの病理におけるEnv-SUについての役割も示し得る。
【0136】
Sotgiu et al. [10]による研究において、疾患を悪化させることでMSRVウイルス量の段階的な増加を示す、MS患者のCSFにおけるMSRVウイルス量で得られたデータを確認する。本発明の結果によれば、MSRVエンベローブタンパク質によって誘導された反応は、相関された方法において、EDSSによって測定された疾患の進行性を増す。これらの二つの独立した研究はMS患者の生体外で行われ、異なる手法(第一に、RT-PCRによってMSRV核酸をアッセイし、第二に、MSRVエンベロープタンパク質に対する免疫学的応答をアッセイする)が、それ自体の疾患のプロセスとMSRVレトロウイルスとの間の関係を確認する。
【0137】
精神分裂症(SCZ)を患う患者における生体外の研究
Env-SUで誘導されたIL-12p40の分泌は、SCZ患者から生体外に取り出された血液単球細胞において増加し、さらに、抗精神病療法に耐性を示し、および/またはSCZの特に進行状態にある患者の分集団を最高のレベルで同定することができる。
【0138】
この研究において、SCZ患者由来のPBMCのEnv-SUに関する反応性と、正常ドナー由来のPBMCのEnv-SUに関する反応性とが比較された。25名の患者が関わった。並行して、15名の正常なドナーが、MS患者での前記研究のプロトコルと同一のプロトコルに従って試験を受けた。
【0139】
培養上清を、サイトカイン、例えばTNF-α、IL-12p40、IL-1β、IL-6およびIL-10の分泌について分析した。研究のこの段階で、顕著な差異が、試験対象の様々なサイトカインについて、SCZを患う患者の幾数人と、全ての対象群の患者との間で観察された。結果を、以下の表1と2において示す。表1は、様々な正常なドナーを表し、各患者の番号が第一の欄の各行に示されるとともに、各行において、最上欄に示された二つの条件(MockおよびENV-SU刺激)を有する様々なサイトカインについてアッセイされたng/mlの量を示す。表2は、様々なMS患者を表し、各患者の番号が第一の欄の各行に示されるとともに、各行において、最上欄に示された二つの条件(MockおよびENV-SU刺激)を有する様々なサイトカインについてアッセイされたng/mlの量を示す。表1および2において、底二行(平均値およびSt Dev)は、それぞれ各カラムについての、平均値および測定されたデータの標準偏差を示す。
【表1】
【表2】
【0140】
先の研究対象のMS集団と比較して、差異は特定の患者についての培養液中において既に自然発生的に観察されている(IL-bおよびIL-12p40についての図13および14において図示)。これは、SCZが全身性炎症性疾患およびさらには自己免疫疾患でないにもかかわらず、予想外のデータであり、SCZ患者は、同じ条件下での正常者の対照群の免疫活性化とMS患者の免疫活性化との両方を超える、これらのPBMCにおいてある程度の自発的な免疫学的活性化を示す。これは、これらの患者における免疫の全身活性化の理解に重要なデータを与え、それゆえ、これらの疾患における炎症誘発性免疫学的成分の実体を確認する。
【0141】
Env-SUでの刺激に対する応答は、一連のSCZ患者においてさらに増加し、ある患者は正常なコントロールの平均値よりも明らかに大きな、時には一連のコントロールで観察される最大値よりも大きなサイトカインの分泌レベルに応答する(IL-10およびILl2p4Oについての図13および14において図示された)。また、SCZを患う不特定の患者においてEnv-SUに対する応答が著しく増加することが確認され、臨床的状態が同時に起こるこれらの患者のうち数人において、Env-SUがTLR4経路を通して活性化される生得的免疫の成分に関与する免疫学的な傾向を明らかにすることができる。
【0142】
しかしながら、これらの患者において、Env-SUでの刺激後、自発的なサイトカインのレベルと比較した増加{(刺激されたレベル−自発的なレベル)/自発的なレベル)}は、全体的には、正常者な対照群におけるレベルよりもSCZ患者におけるレベルの方が少ない:これは、ENV-1によって導入された分泌のレベルが全ての正常なコントロールの分泌のレベルを上回るときのケースでもある(IL-b2p40についての、図14bおよびcにおいて図示)。これは、MSRV/HERV-Wファミリーのレトロウイルス要素の原因病理学的要素に関して、MSのような症状において記述されているものに関して新しい要素を導入する。実際には、SCZにおけるこのMSRV/HERV-Wファミリーのレトロウイルス要素の役割はまた、幾つかの独立したチームによって異なる手法[3, 14, 31, 54]で実証および確認された。しかし、SCZは、MSのような自己免疫病理学的成分での疾患ではない。従って、SCZ患者由来のPBMC上でのEnv-SUタンパク質で得られる結果は、Tリンパ球(自己免疫の原因である細胞)に関する免疫学的な活性化の下流での結果はMSとは異なるものの、TLR4受容体に関与する生得的な免疫の早期の活性化の経路(Tリンパ球上には存在しない)は、これらの二つの疾患とMSRV/HERV-Wレトロウイルスファミリーとの間に初期的病理学的経路を構成することを示す。
【0143】
先に言及したように、これらの患者におけるMSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の役割は、Env-SUタンパク質に関してそれらの血液単球細胞(PBMC)の特異的な免疫学的反応性によって客観化される。
【0144】
研究のこの段階で、SCZを患う患者の臨床的データに関する最大の利点および最大の差異は、IL12p40について客観化された(図14)。
【0145】
実際には、Env-SUで誘導されたIL-12p40の最大のレベル(ここでは400 pg/mlよりも大きなレベル、このシリーズにおいて試験された正常者の対照群の最大のレベルよりも大きいレベル)の一つを示す患者には、試験対象の一連の抗精神病療法に対する耐性を有する全ての患者が含まれることが立証された。
【0146】
これは、MS患者で予め得られたものとは異なる性質を有する、進行的病状を患う、および/または、平均を上回るEnv-SUで誘導されたIL12p40分泌によって同定可能でかつ特徴づけられる現存する治療法に耐性を示す、患者の少なくとも一つの亜集団が存在することを示す。
【0147】
進行の基準と疾患重症度の基準との間の関係、これらの疾患についての新規な治療学的ターゲット、すなわち、患者のこの免疫学的な傾向と関連したMSRV/HERV-W Envタンパク質に加えて、SCZ患者由来のPBMCにおけるEnv-SU活性化によって誘導される少なくともIL12p4Oは、進行的病状において最大になり、および/または現存の治療に対して耐性を示すという事実が実証される。
【0148】
さらに、MSモデルについて行われたときに、TLR4受容体によって媒介される「上流」経路の関与の前に、免疫系の活性化を阻害できる抗体は、治療学的な関心であり、かつそのターゲットは、新たに同定された臨床生物学的状況において非常に有利である。
【0149】
これらの効果の後の結果が、ミエリンの抗原成分をターゲットにする自己免疫反応性であるMSとは反対に、MSにおける場合よりも高い生体外での自発的レベルで、生得的免疫(TLR4)の活性化のこの初期の段階で生産されるメディエータは、皮質性ニューロンでの潜在的な興奮毒性を有する[17, 21, 23-25, 29, 50, 51, 55]。
【0150】
従って、様々な共因子によるMSRV/HERV-Wプロウイルスの活性化は、脳細胞におけるMSRV/HERV-W Envタンパク質の発現を活性化でき[56]、かつ、共因子および環境の性質に依存しながら、脳の異なる領域をターゲットにする。これらの条件下のもと、前頭皮質の領域の活性化は、影響を受けた領域による様々な幻覚によって反映されるニューロン興奮毒性をもたらし得る。
【0151】
(ミエリン化された)白質における活性化の場合において、マクロファージのレベルでEnvタンパク質によって産生された早期の炎症および/または小膠細胞は、ミエリンの分解を促進することができ、それゆえ、Tリンパ球からの分泌後に、ミエリンの自己抗原に対する自己免疫を誘導することができる。
【0152】
これらの様々な概念が、図9において図示されている。これは、精神分裂病を患う患者において同定される臨床生物学的状況において、疾患の症状に明らかに関係したこの神経毒性炎症成分を阻害することが有用であることを示す。
【0153】
さらに、図8において図示されたように、これらの抗体がEnvタンパク質の生物学的効果を阻害する段階は、下流で生産され、かつ既存の抗炎症性治療物質(サイトカイン、フリーラジカル、レドックス化合物、酵素、プロスタグランジン、炎症誘発性タンパク質および脂質、活性化されたTリンパ球など)の通常のターゲットである全ての病理学的メディエータの明らかに上流にある。この段階で、唯一のアゴニストは、MSRV/HERV-W Envタンパク質それ自体であり、図8および9に図示されたような、下流から生じる様々な免疫生物学的カスケードの入口の初期経路を遮断するTLR4受容体を活性化させるのを妨げる。
【0154】
前臨床的開発研究(例えば以下のもの)を行うことは、当業者の範囲内である。
【0155】
−抗TNFαREMICADEのような既知の治療学的抗体について使用された方法に基づいた、モノクローナル抗体のヒト化。治療学的抗体の大脳内通過の最適化は、周知の技術に基づいて行われる。該技術の大半は、数多くの科学刊行物および薬学刊行物において記載されている(例えば、Merlo et alまたはPranzatelli [57, 58]);
−本発明に記載されたPBMC上のEnv-SUタンパク質による炎症誘発活性についての試験での、これらのヒト化または修飾された抗体の阻害活性の検証;
−脳におけるMSRV/HERV-W Env タンパク質の異常な発現の効果を実証する動物モデル上での抗体の治療学的効果の検証[59]。
【0156】
従って、本発明の要素は、すなわち:
−生得的な免疫の細胞のレベルでの「上流の」炎症誘発性活性化についての入口の経路としての、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質についての「TLR4」受容体の実証、
−これらの効果を検出および測定できる細胞アッセイ、
−このタンパク質の効果を阻害できる抗Envモノクローナル抗体、
−精神分裂病を患う患者から生体外へ取り出された血液免疫細胞のレベルでのこれらの効果の生物学的証拠、
−今日までに知られた知識、技術および動物モデルをもって、当業者が前臨床開発工程を行うことが可能な、かつ適切な条件下でヒトの臨床的研究に取り組む、病理に対するこれらの効果に結びつく生物学的証拠。さらに、本発明において記載された生物学的試験は、単純な血液サンプルによって、患者の治療前、治療中または治療後に、これらの治療学的抗体によって標的にされたパラメーターの生体外の生物学的調査を可能にする。
【0157】
このような治療学的ガイダンスは、治療のための適格な患者の定義にとって非常に有用な利点を提供し、生物学的結果に基づいた投与および回数の観点から、治療を調節することができる。
【0158】
動物モデル
薬物動態学的分布および治療学的抗体の毒性学を研究するためのモデルの生産
抗体:
1.抗体の性質:
急速かつ大量の肝臓における分解を防ぐために、対象の抗体は、当業者に周知の技術によってモノクローナル抗体から得られるFab’またはFab2型の断片の形態において使用される[60]。TLR4によって媒介された炎症誘発性効果を阻害する抗MSRV/HERV-W Env抗体は、抗体13H5A5および3B2H4である。抗MSRV/HERV-W Gagコントロール抗体は、抗体3H1H6である。
【0159】
2. 抗体ラベリングプロトコル:
第一に、断片が希釈される。1μg/μlの濃度で100μlが調製され、その後、製造業者によって例証された、ビーズ(lodobeads No. 28665 Pierce Rockford, Illinois, USA)上に吸着されたヨウ化ナトリウム(5mCi/50μlでの、NaI125 NEN)と接触させた。
【0160】
10分間にわたるインキューベンションの後、溶液を取り出し、チューブフリーのビーズに移す。このプロセスは、反応を停止させることができ、機能の喪失をもたらす抗体の活性部位の酸化を避けることが可能である。
【0161】
サンプルは、その後、ピロ亜硫酸ナトリウム(Fluka)の4mg/ml溶液の10μlで中和される。最後に、ヨウ化ナトリウムは、250nM/mlの投与量で10μlの冷却共留剤を使用して同調(entrained)される。
【0162】
3. 精製
精製は、陰イオン交換カラム分離技術によって行われる。この方法は、遊離ヨウ素と結合させることを目的とした陰イオン交換カラムを使用する。最初に、2mlの0.9%NaCl溶液(Aquettant)、移動バッファーで活性化される。前記精製は、0.5mlの0.9% NaClを加えた、四つのパスにおいて行われる。4つのチューブの中に含まれる放射活性がその後カウントされる。
【0163】
4. 収量
結果は、表3において示される。この表は、精製後の各抗体の回復率を表す。
【0164】
ラベリング収量は、インキュベーションの10分後に訂正する。それは時間をかけて増加しない。全てのその断片について得られたパーセンテージは、70%と80%の間にある。
【0165】
イオン交換精製は、ラベルされた抗体の良好な回復を可能にする。3B2H4 Fab2断片について、その割合はわずか50%である。
【0166】
生物分布の評価:
1. マウス
実験に関与した動物は、Charles River Laboratories (Wilmington, North Carolina, USA)によって提供された7週齢のBALB/cマウスである。
【0167】
実験を行う前、これらのマウスは、温度条件、周期的照明、ケアを考慮した設備内で飼育される。
【0168】
2. プロトコル
各試験断片について、3匹の7週齢のBALB/c白色マウスを使用する。
【0169】
第一の工程において、マウスに対し、ペントバルビタールまたは2%ケタミン−キシルアミン10g/100mlの体積対体積の混合液を麻酔をかけ、1μl/重量gの量で投与される。マウスに対し、700μCi/mgでラベルされた0.15mgの抗体で静脈内注射を行う(マウスは、試験対象の三つの抗体(3B2H4、13H5A5および3H1H6)のうちの一つの断片とインキュベートされる)。
【0170】
読み取りを注入後10、45、90および210分後に行う。
【0171】
210分後、マウスを屠殺して以下の臓器:脾臓、肝臓、腎臓、脳、心臓、肺および血液を取り出す。
【0172】
3. 結果
これらの抗体に関する急性毒性を発現させる組織病理は観察されなかった。
【0173】
抗体の生物分散の結果を表4に示す。表4は、IV注入210分後の様々な臓器における投与されたラベル抗体の分布を示す。
【0174】
表4は、組織中で異常に結合する試験対象の断片が存在しないことを実証する。
【0175】
これらの結果は、該抗体が急性の毒性をもたないこと、該抗体が生物学的液体および組織においてアッセイされ得ること、およびその分布が当業者によって期待された分布に一致することを実証する。
【0176】
従って、これらの抗体の生物分布の最適化および/または抗体の修飾後の抗体の持続性の検証が、同じプロトコルまたは同じ量に基づいて、その薬物動態学的かつ毒性学的関連性に対して評価され得る。
【0177】
表3
ヨウ素125でラベリング中の抗体断片の回収率
【表3】
【0178】
表4
BALB/cマウスにおける注入210分後の様々な臓器中に見出される抗体の投与の平均パーセンテージ
【表4】
【0179】
患者の直接的な研究に並行して、以下のことを確認することができる動物モデルを産生した:
−MSRV/HERV-W Envタンパク質によって生産される、活性化経路「生得的免疫のみ」(モデルSCID-huおよびEnv-SUタンパク質)または「生得的免疫とTリンパ球上でのスーパー抗原の効果」(モデルSCID-huおよびビリオン)に対応する「炎症誘発性」の症状が、インビボではっきりと観察され、かつ客観的基準によって分析され得る。経路「生得的免疫/TLR4 +/- CD14活性化経路」は、本発明の対象であり、炎症誘発性カスケードの上流を遮断するのに有利である。
【0180】
−ミエリン自己抗原に対する自己免疫疾患(例えばMS)は、MSRV/HERV-W Envタンパク質(モデルEAE MOG Env-SU)ではっきりと得られ、分析され得る。
【0181】
−免疫学的認識特異性を有する、これらの阻害性質について選択された抗-Envモノクローナル抗体およびその断片の使用は、測定可能な有機分布を示す治療学的組成物に匹敵し、
動物(モデルBALB/c放射性ラベル抗体)における生物毒性の喪失である。
【0182】
TLR4/生得的免疫経路の「細胞」活性化のための試験における抗Envモノクローナルの事前選択によって得られた抗Env抗体の治療学的使用。この使用は、Envによって誘導された“MOG”(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)自己抗原の存在中における、「EAE」(実験的アレルギー性脳脊髄炎)のようなモデルにおいて例証され、本明細書中で十分に記載された炎症誘発性活性化期の阻害を上回る、よりさらなる下流の病理学的結果を阻害することを可能にする(EAE-MOGモデルにおける抗Env抗体による阻害)。
【0183】
さらに、本発明において説明されたインビトロ細胞試験法による炎症誘発性効果を阻害する抗Env抗体の分泌後、動物モデルは、この最初の分泌から、病理学的場面におけるその治療学的使用後に副作用が生じない治療学的抗体を選択することを可能にする。実際には、例「EAE-MOG」(例EAE-MOGおよび抗体3H1H6を参照)における神経学的損傷を潜在化させる抗体について示されたときに、幾つかの抗体は、その特異性とは無関係な療法について不適切であることが解り得、これらの抗体が病理学的ターゲットを阻害する場合でさえ、これらの副作用は特定場面における治療学的使用の前に除去または修飾されなければならない。本発明において開発された道具は、使用の病理学的場面における、これらの有害な効果を同定することを可能にする。従って、特有かつ適切な手法において、適切な治療学的抗体の選択および検証に貢献する。
【0184】
細胞および動物における炎症誘発性モデル:
材料および方法
タンパク質および毒性
大腸菌株026:B6のリポ多糖類(LPS)を、Sigma(St Louis, Mi)から得た。組換え体Env-SUタンパク質は、約33kDaおよび287アミノ酸の、全MSRVエンベロープタンパク質、Env pV14の画分を表す。Env-SUは、クロマトグラフィーによって精製され、ウェスタンブロッティング(Protein Expert, Grenoble)によって分析された大腸菌において生成された。LAL試験(リムルスアメーバ様細胞溶解物、Clean Cell, Bouffere, France)を行い、エンドトキシンの可能な存在を検出する。その結果は、5 IU/mlの検出閾値を下回るネガティブであった。タンパク質を保存するために使用されたバッファーは、ネガティブコントロールとして実験に使用されるであろう。バッファーは、50mM Tris pH8, 0.3M NaCl, 1mM βメルカプトエタノール、2%スクロース、2%グリセロールおよび5.3 mM尿素からなる。
【0185】
細胞培養
PBMCの調製
PBMCは、Ficoll(Amersham Biosciences, Freiburg, Germany)密度勾配によって、正常なドナー由来のクエン酸化された新鮮な全血(クエン酸化された全血バッグ、Centre de Transfusion Sanguine[Blood Bank] of Valence, France)から調製された。15mlのFicoll上に注意深く静置された10mlのPBS-2% FCS(ウシ胎仔血清)での25mlの血液の希釈液は、外気温度20分間にわたり2400rpmで遠心分離される。細胞を含むバンドを回収し、PBMCを50mlのPBS-2% FCSで三回洗浄する(図11)。トリパンブルーでのカウント後、細胞を90% dFCS-10% DMSO混合液中で-80℃で冷凍し、細胞アッセイのための、またはマウスへの注入のための培養において直接使用される。
【0186】
マウス脾細胞懸濁液の調製
頚部脱臼によってマウスを屠殺後、脾臓を除去し、RPMI中の金属フィルター上に静置する。細胞懸濁液は、4℃で10分間にわたり1200rpmで遠心処理する。その後、細胞ペレットを、約4mlの生理学的食塩水またはdFCS中に取り出す(C57B16マウスへの注入または凍結)。トリパンブルーのカウントを行い、細胞濃度をその後に調整する。細胞をその後に凍結し、動物モデルについて使用する。マウスへの注入のために、ゲンタマイシンを0.2 mg/mlの濃度で添加する。最後に500μl、すなわち、50×106細胞は、C57B16の各々にIP(腹腔内)注入される。
【0187】
細胞の凍結および解凍
細胞懸濁液を、4℃で50mlのPBS(bioMerieux, France)中で一度洗浄し、4℃で7分間にわたって1400rpmで遠心処理を行う。細胞を数mlのFCSで回収し、カウントした。細胞濃度を、一般的には20×106に調整する。500μlのこの溶液を、凍結チューブ内に静置し、500μlの凍結溶液(80% dFCS-20% DMSO(Sigma))を加える。そして、細胞を1mlの90% FCS-10% DMSO溶液中で保存する。凍結チューブをイソプロパノールを含む凍結皿中に静置し、ゆるやかな温度低下を行い、-80℃で静置した。
【0188】
細胞懸濁液は、37℃の水浴中で解凍する。チューブを開ける前にアルコールで洗浄する。細胞を50mlのRPMIc-10% dFCS中に素早く移し、1400rpmで7分間4℃で遠心処理を行う。その後、RPMIc-10% FCSでさらに二回洗浄を行う。
【0189】
培養物の管理
細胞(PBMC)培養物を、5% CO2、37℃の湿潤雰囲気内でインキュベートする。使用された培養液は、56℃で30分間にわたる加熱によって脱補体化された1%のL-グルタミン、1%のペニシリン-ストレプトマイシン、1%のピルビン酸ナトリウム、1%の非必須アミノ酸(Sigma)および10%のウシ胎仔血清(Biowest, Nuaille, France)を補充されたRPMI 1640(Gibco, Rockeville, MD)からなる。
【0190】
細胞の刺激
細胞懸濁液(PBMCまたは脾細胞)を解凍し、トリパンブルーによるカウントを行う:細胞濃度を1×106細胞/mlに調整する。培養液を、48ウェルプレート(1ウェル当たり500μlの細胞懸濁液)または24ウェルプレート(1ウェル当たり1mlの細胞懸濁液)内で増殖させる。細胞をプレート内に静置し、試験対象の様々な物質を加えて、細胞を異なる時間にわたってインキュベートする。懸濁液を、ATで10分間6000rpmでの細胞懸濁液の遠心処理によって回収する。その後、エッペンドルフ管内に-20℃で凍結する。特に指示がない限り、細胞アッセイについて使用されたEnv-SUおよびLPSの濃度は、1μg/mlとした。幾つかの実験について、Env-SUおよびLPSを30分間にわたって煮沸した。Polymyxin B(PB)を25g/mlで使用し、バッファー、LPSまたはEnv-SUの添加前に細胞を45分間37℃でプレインキュベートした。抗体の使用を必要とする実験について、抗体と細胞、または抗体とEnv-SU、LPSまたはバッファーの4℃または37℃でのプレインキュベートは、異なる時間を必要とした。組換え体Env-SUまたはGagタンパク質でのマウスの免疫化後のハイブリドーマの培養によって、抗Env-SU(13H5A5および3B3H4)および抗Gag(3H1H6)IgGモノクローナル抗体(bioMerieux)を得た。特に指示がない限り、細胞アッセイについて使用される13H5A5、3B2H4および3H1H6の濃度は、30g/mlとした。
【0191】
動物モデル
マウスの管理
C57B16、BalbCまたはSCIDマウス(Charles River, L’ Arbresle, France)を、5または6週齢で購入し、受領後に休息させながら、一週間にわたって飼育する。マウスを24℃の温度で消毒されたフィルタリングケージ中で飼育する。全ての操作を薄板フローフード下で行う。
【0192】
SCIDマウスのヒト化およびC57B16マウスの調製
順応化の一週間後、SCIDマウスには、0.25mg/mlの濃度のゲンタマイシンが補充されたフェノールレッド(Eurobio, Les Ulis, France)を含まない2mlのRPMI中の、50×106新鮮ヒトPBMCの腹腔内(IP)注入を与え、再度、一週間にわたって休息させる。良好なヒト化を保証するために、50μlの抗-NK抗体(25μlの生理学的食塩水中に希釈された25μlの純粋な抗体)が、PBMCの注入2日前にRO経路を介して注入される。ヒト化の一週間後、血液サンプルを各マウスからRO経路を介して回収し、血清を-80℃で保存し、マウスのヒト化の程度を試験することができる。
【0193】
順応化の一週間後、C57B16マウスには、0.25mg/mlの濃度のゲンタマイシンが補充されたフェノールレッドを含まない2mlのRPMI中の、50×106新鮮マウス脾細胞の腹腔内(IP)注入を与え、再度、一週間にわたって休息させる。IP注入の間、液体は素早く再吸収されるが、ある程度のロスが観察される。
【0194】
ヒト化されたSCIDマウスにおけるヒトIgGのアッセイ
SCIDマウスの血清中におけるヒトIgGのアッセイは、製造業者の指示に基づいた放射状免疫拡散方法によって行われる(結合部位, Birmingham, UK)。ゲル上への血清の堆積96時間後の沈殿物の直径の測定は、較正曲線によって、その二乗を試験対象のサンプルのIgG濃度と関連づけることが可能である。
【0195】
様々な物質の注入およびマウスから回収されたサンプル
D0で、タンパク質(Env-SU)、毒素(LPS)またはバッファーを、1mlの生理学的食塩水(Fresenius Kabi, Bad Homburg, Germany)中に前記物質を希釈後、IP注入によって所望の濃度でマウスに割り当てる。抗Env-SUまたは抗GaG抗体の注入のために、これらをEnv-SU、LPSまたはバッファーとともに4℃で3時間にわたって事前にインキュベートする。対照群のマウスには1mlの生理学的食塩水を与える。サンプルは数時間(1時間、2時間)または数日(24、48、72時間)後に回収される。マウスに麻酔を行った後、血液の最大量(約1ml)を眼窩後(RO)経路を介してパスツールピペットで回収する。2mlの生理学的食塩水を、腹腔内(IP)空間に注入し、腹部のマッサージ後に、最大量の液体を回収する(1〜1.51ml)。最後に、マウスを頸部脱臼によって屠殺し、脾臓を取り除く。使用された様々なプロトコルは、図12、13および14において示される。全マウスを実験の終わりまで臨床的に観察する。炎症の徴候と神経系損傷の徴候に特に留意する。
【0196】
マウスから取り出されたサンプルの処理
取り出した脾臓を、二つの断片に分ける。その一つを、RPMIにおけるスクリーン上で細砕することによって懸濁させる。4℃での10分間にわたる1200rpmでの遠心処理後、細胞を4℃の50mlのPBS中に取り出し、その後、遠心処理を行い、凍結チューブにおいて1mlの凍結溶液(10% DMSO-90% FCS)中に凍結する。脾臓のもう一つの断片は、-80℃のエッペンドルフ管中で、現状のまま凍結する。液体回収されたIPを、ATで10分間にわたって6000rpmで遠心処理して細胞ペレットを除去し、エッペンドルフ管中で-80℃で凍結する。PBS中で洗浄後、腹膜内空から取り除かれた細胞を凍結する。血液をATで10分間にわたって6000rpmで遠心処理し、血清を回収する。血清および細胞ペレットを-80℃のエッペンドルフ管中に別々に凍結する。
【0197】
治療の結果
細胞ラベリングおよびフローサイトメトリー
細胞懸濁液を解凍し、細胞を50mlのPBS-2% dFCS-1 mM EDTA中に取り出し、4℃で7分間にわたって1400rpmで遠心処理を行う。トリパンブルーによるカウントを行い、細胞を96ウェルプレート中に堆積させる(1ウェル当たり約1×106)。4℃で1分間にわたって4000rpmでプレートを遠心処理した後、上清を取り除いて、表面マーカー抗体の50μlのカクテル(PBS-2% dFCS-1 mM EDTA中希釈液)を各ウェルに加える。細胞を再懸濁し、30分間にわたって4℃でインキュベートする。その後、これらを、1ウェル当たり100μlのPBS-2% FCS-1 mM EdTAを加えることによって洗浄し、4℃で1分間にわたって4000rpmで遠心処理を行う。上清を取り除いて200μlのPBS-2% FCS-1 mM EDTAを各ウェルに加える。細胞をFACS分析のためのチューブ内に再懸濁して移す(図15)。ストレプトアビジン-APC第二ラベリングを必要とする抗体について、同じサイクルを一回以上行う。抗体(Parmingen, San Diego, CA)およびマウス細胞をラベリングするために使用された希釈液は、CD3−FITC(1/500)、CD4-PE(1/1000)、CD8-cy-chrome(1/600)、CD25-APC(1/1000)、CD69-APC(1/500、開始時にビオチン化)である。ヒト細胞をラベリングするために、2μLの各抗体:CD3-cy-chrome、CD4-APC、CD8-PE、CD25-PE、CD69-FITCを使用する。
【0198】
サイトカインのアッセイ
細胞上清、血清および腹腔内洗浄から得られた液体を、ELISAによってサイトカインを検出する前に-20℃で保存した。ELISA法を使用するヒトまたはマウスのサイトカイン(TNF-αおよびIL-6)アッセイは、製造業者(Pharmingen)の指示に従って行った。
【0199】
生得的な免疫(TLR4活性化経路を介した)の細胞のレベルでのMSRVエンベローブタンパク質によって誘導された炎症誘発性効果を阻害する抗エンベロープ抗体の選択
bioMerieux社のモノクローナル抗体ラボラトリーにおいて産生された様々な抗MSRV/HERV-Wエンベロープ抗体を、サイトカイン(IL-6および/またはTNF-α)のアッセイとともに、Env-SUタンパク質の欠損中または存在中において、正常なドナー由来の血液単球細胞(PBMC)の培養において試験し、培養液中に存在する単球/マクロファージの活動上でその効果を決定する。さらに、我々は、本発明に記載されたプロトコルに基づいて、「TLR4」受容体の経路であることを、特に、ハイブリドーマ3Hl0Fl0、13H5A5、6A2B2、2A12A5、3C1D5および3B2H4によって生産された抗体とともに検証した。
【0200】
幾つかの抗Env抗体は、これらのアッセイにおいて検出可能な阻害活性を示さず(6A2B2および2A12A5)、あるいは緩やかな阻害活性を示すか(3C1D5)、あるいは様々なドナー由来のPBMCで行われた実験によって等しくない活性を示す(3H10F10)。これらのアッセイの例は、様々な実験におけるEnv-SUタンパク質によって生成された炎症誘発性活性に関するこれらの抗体の効果を示す図15(15a, b, cおよびd)において示されている。
【0201】
さらに、Env-SUタンパク質上の阻害活性の欠損中において、ハイブリドーマ2A12A5によって生成されたような抗体は、Env-SUタンパク質の欠損中でも、アッセイにおいて非特異的な免疫刺激を産生した。
【0202】
これらの同じアッセイにおいて試験されたコントロール抗体は、任意の特定の阻害または、全ての特定の阻害活性または刺激活性を示さなかった(特に抗GAG抗体3H1H6)。
【0203】
ハイブリドーマ13H5A5および3B2H4によって産生された抗MSRV/HERV-W Envモノクローナル抗体は、実現された条件下で検出可能な、あらゆる逆説的な炎症誘発性効果または様々な正常ドナーのPBMCで行われたアッセイ間のあらゆる顕著な変動を伴うことなく、様々な正常なヒトドナーのPBMC上でのEnv-SUタンパク質の効果に関して定常的に阻害活性を示すことが解る。
【0204】
抗体3B2H4および13H5A5の阻害活性の例、ならびに抗MSRV GAG抗体3H1H6の効果の喪失の例が、図15aにおいて示される。阻害の特異性の条件を、この活性化経路(LPS)(この経路では抗体が効果を有さない)を刺激する他のリガンドに関して検証する。図15bは、EnvSUタンパク質による活性化の特異性の条件が、細菌性LPSで、同一の条件下で生産および精製されるコントロール(模擬)タンパク質の効果の喪失、および汚染の喪失を確認する試験によって検証される(タンパク質およびLPS以外を変性させる100℃での加熱による阻害、およびLPSの効果を阻害するポリミキシンBによる阻害の喪失)。
【0205】
従って、MSRV/HERV-Wエンベロープに対して、bioMerieuxから得た様々なモノクローナル抗体で試験を行った後、本発明において設定および開発された細胞試験法は、TLR4経路を活性化している炎症誘発性効果を阻害することのできるものを同定することを可能にし、かつ阻害抗体の中から、100%に限りなく近い阻害活性を有するものを選択することを可能にする。これらの抗体の中では、抗体3B2H4および13H5A5が好ましい。これらの抗体の有用性、または当該技術の範囲内にある従来の技術によって生産され得る他の抗体の有用性が、上記に記載されたように確認される。
【0206】
機能的なヒトリンパ系を移植される動物モデルにおける、ヒト免疫系上のMSRV Envタンパク質の効果
マウスの調製:
以下の実験には、17匹の6週齢のメスのC57B16マウスが関与させる。第一の工程は、5000万のヒトPBLをIP注入することからなる。マウスをあらかじめ放射標識し、抗NK抗体を注入する(Firouzi et al., Journal of Neurovirology 2003)。マウスを、一週間(免疫系の安定化のための時間)にわたって休息させる。
【0207】
ヒトPBLの調製
細胞懸濁液を50mlチューブ中に集め、4℃で10分間、1200rpmで遠心処理を行う。約4mlの生理学的食塩水中に細胞ペレットを取り出す。トリパンブルーでのカウントを行い、細胞の濃度を調整する。ゲンタマイシンを0.2 mg/mlの濃度で加える。最後に、500μl、すなわち50×106細胞を、17匹のC57B16マウスの各々にIP注入する。接種バッチの構成:
マウスを3または4つのグループに分ける。形成された各バッチは以下の通りに命名される:
- 3*“C” ENV1バッファーを与えるネガティブコントロール群
- 3*“LPS” LPS、炎症反応についてのポジィティブコントロールの注入を与えるグループ
- 3*“ENV” MSRVウイルスのエンベロープタンパク質の溶液で注入されるバッチ
- 4*“2GR412” 30分間56℃で加熱することによって不活性化されるMSRVウイルスで感染するバッチ(ウイルス複製の喪失における、ビリオンのエンベロープタンパク質の効果を試験)。
【0208】
- 4*“GRE” 熱不活性化され、ネガティブコントロールで高度に希釈されるGREウイルスを感染させるバッチ(ウイルス血症ドナーを含む由来製剤の輸血のための血液貯留のケースにおいて、このビリオンでの生物学的サンプルの汚染の効果を評価する)。
【0209】
各バッチのマウスは、単一のIP投与において適切な容積の溶液で感染させる(LPSおよびEnvの量は、PBMCでのアッセイに使用された濃度に対応する)。溶液は、以下のように滴定される:
“LPS”:50μg/マウス; “Env”:50μg/マウス(500μlの注入); “2GR412”および“GRE”:100μlの超遠心分離法のペレット/マウス。
【0210】
全ての必要な希釈液は、無菌の生理学的食塩水中で調製される。
【0211】
観察およびサンプル:
D+lh/D+2h/D+24h/D3: 犠牲およびサンプル
各グループにおいて、一匹のマウスを犠牲にする。2mlの生理学的食塩水をIP注入し、腹部を叩いて、最大量の液体を回収する(1〜1.5ml最大値)。懸濁液を遠心処理し(6000rpm/10分/AT)、細胞ペレットを取り除き、エッペンドルフ管内に-80℃で凍結する。
【0212】
最大量の血液を、パスツールピペットを使用して、眼窩後経路を介してヘパリン管内に取り出す。血液を6000rpmで10分間にわたってATで遠心処理する。血漿および細胞ペレットを回収し、エッペンドルフ管内に-80℃で凍結する。
【0213】
取り出した脾臓を、二つの断片に分ける。その一つを、懸濁液中で懸濁させる(FACSによってヒトおよびマウスの表現型を決定する):約10mlのRPMIにおけるスクリーン上で細砕、1200rpm/4℃/10分での遠心処理後、細胞を約15mlのPBS/4℃で洗浄し、その後、遠心処理を行い、凍結チューブにおいて1mlの凍結溶液(10% DMSO-90% FCS)中に凍結する。脾臓のもう一つの断片は、-80℃のエッペンドルフ管中で、現状のまま凍結する(PCRのために)。
【0214】
このプロセスは、臨床的徴候が早期に現れない限り24時間および48時間後に行う(マウスは死亡直前までモニターして回収される)。“2GR412”および“GRE”バッチの二匹のマウスを生存させるために、これらのマウスを15〜20日後に犠牲にするか、または死亡が早期に起こる場合、その死亡直後に回収する。
【0215】
このサンプルの分布は、直後(2時間)、早期(24時間)および遅延(10〜15日間)の免疫反応に適用されることを可能にする。
【0216】
生物学的液体のサンプルは、ヒトおよびマウスのサイトカイン(IL-6およびTNFa)についてアッセイされ、かつ「Env」タンパク質についてアッセイされ、および/またはウイルスに関してELISAおよび細胞培養上でのバイオアッセイによって滴定される。
【0217】
分析は、免疫反応:炎症(サイトカイン)および細胞分布(FACS)を評価することを可能にし、任意のウイルス複製について調査することを可能にする(ELISA、バイオアッセイ)。
【0218】
臨床観察
全てのマウスを、実験の終了まで臨床的に観察する。炎症の徴候および神経学的損傷の徴候に特に注意する。
【0219】
結果:
このセクションの目的は、ヒト化されたSCIDモデル上で、前もって行われる事前調査によって決定されたパラメーターによってEnv-SUの性質をインビボ研究することである。
【0220】
PBMCの培養上でのEnv-SUの炎症誘発性効果
まず最初に、我々はヒトPBMCの培養においてEnv-SUおよびLPSによって誘導されるTNF-αの産生の速度論を研究する。タンパク質および毒素は、1μg/mlの濃度で使用された(図16)。我々は、サイトカインの産生が注射2時間後にピークに到達し、その後、48時間後にゼロになるまで段階的に減少することが観察し得る。Env-SUでのTNF-α注射後の検出は、非常に有意である。特に、バッファーでインキュベートされた細胞では、TNF-αの産生が微量であり、かろうじて2時間で30pg/mlに達する。Env-SUによる刺激によって、刺激後2時間、24時間および48時間で、それぞれ550、350、160pg/mlの産生量となる。 LPSの作用はわずかにより大きく、2時間、24時間および48時間で650、180、そして50pg/mlの産生量となる。すでに示したように、本研究はPBMC上でのEnv-SUタンパク質の炎症誘発性を確認することを可能にした。また、注入2時間後にTNF-αの産生が最大になることが観察され得る。これらのデータは、SCIDモデル上での研究について採用されるサンプリングの速度論(すなわち、2時間、24時間および48時間後)を定義することを可能にする。
【0221】
ヒト化されたSCIDマウス(SCID-h)におけるEnv-SUの炎症誘発性効果
様々なヒトおよびマウスの細胞培養上でのEnv-SUタンパク質によって引き起こされる炎症誘発性効果を観察した後、我々は、インビボにおいてSCID-huマウス上でのこれらの同じ物質の病原性を評価した。
【0222】
1グループの16匹のマウスに、眼窩後経路を介して50μLの抗NKを与えた後、50×l06ヒトPBMCをIP注入した。マウスのヒト化を検証する目的で、一週間後、血液を各マウスから取り出し、その血清中のヒトIgGをアッセイした。放射免疫拡散試験法によって、我々は、全てのSCID-huマウスの血清中のヒトIgGの濃度が4.5mg/lよりも非常に高いことを決定することができた。SCID-huマウスのIgG半減期は12日間である。従って、我々のケースにおいて、我々は、マウスのヒト化が成功したことを主張することができる。
【0223】
次に、マウスを5つのバッチに分け、各バッチには、それぞれ2mlの生理食塩水で希釈された0.2 mlのバッファー、50μgのEnv-SUまたは50μgのLPSを注入された3匹のマウスが含まれる。各バッチのマウスのうち一匹は、注入後2時間、24時間および48時間して屠殺した。全てのマウスは生存し、影響を受けている神経系の外側の徴候は、それらを屠殺するまで観察されなかった。
【0224】
ヒトおよびマウスのTNF-αおよびIL-6サイトカインを、ELISAによってアッセイした。図16の結果は、ヒトまたはマウスのサイトカインの産生は、同じ傾向:[注入後2時間で急激に検出され、その後数日間かけてゼロになる]に従うことを示す。全体として、これらの速度論は、PBMC上でインビトロ観察されるものと同一である。バッファーを注射されたマウスは、サイトカインの顕著な産生を示さない。マウスのTNF-αのアッセイは、一つの大きなピークだけを明らかにする: LPSを与えられたマウスは、その血清中で1000pg/mlを超えるTNF-αレベルを示す。マウスIL-6のアッセイに関して、EnvまたはLPSを注入されたマウスのIP液体中において約20,000 pg/mlのレベルに達する。これらのマウスの血清中に見出される濃度は、それぞれ6200 pg/mlおよび20,000 pg/mlを超える濃度に達する。
【0225】
ヒトサイトカインのアッセイは、血清中よりも高いIP液体中のサイトカインの検出を明らかにする。これは、マウスは、タンパク質および毒素投与のわずかに約十数日前に移植されるので、PBMCは脾臓および二次リンパ器官に移動してコロニーを形成するのに短い時間しか有さないからである(移動性細胞の量は比較的低いままである)。さらに、Env-SUは主に単球を標的にし、組織中のマクロファージに急速に分化する。これらの細胞は非常に強い付着性があり、二次リンパ器官にコロニーを作製するよりも腹膜に優先的に定着する。従って、腹腔内(IP)腔における、細胞の移植のまさしくその部位にサイトカインのより大量の産生を見出すことは、論理的であろう。
【0226】
ヒトTNF-αアッセイは、Env-SUを注入したマウスについて1400pg/ml(IP)に達する濃度を明らかにし、かつLPSを注入したマウスについて3000pg/ml(IP)および血清中において1200pg/mlに達する濃度を明らかにする。同じ傾向がIL-6アッセイについても観察され、Env-SUを注入したマウスのIPにおいて1700pg/mlが検出され、LPSを注入したマウスのIPおよび血清中において、それぞれ9600pg/mlおよび1400pg/mlが検出される。
【0227】
SCID-huマウスにおけるマウスのサイトカインを検出するための決定は、TおよびBリンパ球を欠くことから、驚くべきものである。しかしながら、単球-マクロファージ集団は、活性状態を保持し、これらのマウスにおけるTNF-αおよびIL-6の産生に貢献する。従って、検出されるマウスIL-6濃度がヒトIL-6濃度より常に大きいこと、TNF-αについてはそのケースにないことが示される。従って、直前のポイントは、生得的な免疫成分上でのMSRVエンベロープの直接的な効果を、このSCIDモデルにおける機能的リンパ球の喪失中においてインビボで完全に例証する(マウス成分について)。
【0228】
この研究の目的は、ヒトPBMC上のインビトロ病原性効果の証拠が与えられた後、インビボで、組換え体エンベロープタンパク質、Env-SUに関連した病原性を評価することであった。Env-SUタンパク質のおよびLPSの炎症誘発性効果は、TNF-αおよび/またはIL-6の大量のおよび単離された産生(注入後2時間)によって特徴づけられ、SCID-huマウスにおいて観察される。結果が得られた後、C57B16マウス上での先の「技術的な」事前調査におけるマウスモデル上で開発されたような、ヒト化されたSCIDマウス上での使用のために、
サンプルを採取し、サイトカインの産生を分析するための実験プロトコルを検証することが可能である(血清中およびIP洗浄によって)。
【0229】
EAE モデル
EAE モデルは、ミエリン決定因子に対する自己免疫の末梢性誘導に基づいた多発性硬化症の動物モデルです。
【0230】
このモデルは、今日まで、多発性硬化症の治療を目的とした治療学的分子の「臨床前の」検証のための全てのプロトコルについて使用された参照モデルである。
【0231】
このモデルは、深刻な神経学的症状をもたらす自己反応性Tリンパ球および脱ミエリン化の存在によって特徴づけられる。
【0232】
その発達は、従来的には、百日咳毒素の注入と関係した、適切なアジュバント(完全Freund’sアジュバント)と結合したミエリンペプチドでのC57b16マウスの注入に基づいている。
【0233】
不活性化されたミコバクテリアで構成されるアジュバントは、破壊対象の注入されたミエリンに対する寛容性を与え、自己反応性Tリンパ球の発達を促進する。
【0234】
百日咳毒素は、脳血液関門の開放を促進するが、寛容性の破壊の役割を担う。
【0235】
Env-SUがTLR4受容体を介して生得的な免疫系を活性化し、かつTh1型リンパ球反応の進行を誘導することができることが示された。従って、Env-SUは、自己免疫の機構を起動させるアジュバントの役割、および脱髄の役割を担うことができた。この潜在的役割は、EAEモデルにおいて研究された。
【0236】
三つの異なる実験が行われた。
【0237】
1−予備的実験
材料および方法
従来的に実行された多発性硬化症モデル「EAE」のために、通常使用される完全なフロイントアジュバントの活性成分(不活性化された放線菌)は、MSRVエンベロープタンパク質のEnv-SU画分で置換された。
【0238】
材料
8匹のC57B16マウス(Charles River)。
【0239】
NeosystemからのミエリンペプチドMOG(ミエリンオリゴデンドロサイト 糖タンパク質)35-55免疫等級(immunograde)
SIGMAからの完全フロイントアジュバント(CFA)
SIGMAからの不完全フロイントアジュバント(IFA)
Calbiochemからの百日咳毒素(無塩百日咳菌)
Protein ExpertからのEnv-SU
方法
200μlの皮下注射:
−ポジティブコントロール:
−150μg MOG+CFA:3匹について試験を行った。
【0240】
−ネガティブコントロール:
−150μg MOG+IFA:2匹について試験を行った。
【0241】
−Env-SU:
−150μg MOG+IFA+Env-SU(50μg):3匹について試験を行った。
【0242】
その後、0日目および2日目に200μl(IV)の百日咳毒素(200 ng)を注入した。
【0243】
神経学的徴候について毎日測定する。様々な段階(ステージ)を、観察される神経学的徴候に基づいて以下に挙げる。
【0244】
段階0は、臨床学的徴候を示さない。
【0245】
段階1は、柔らかな尾部を示す。
【0246】
段階2は、歩行障害を示す。
【0247】
段階3は、後肢の部分麻痺を示す。
【0248】
段階4は、後肢の全体麻痺を示す。
【0249】
段階5は、後肢の麻痺と前肢の部分麻痺を示す。
【0250】
段階6は、瀕死または死亡した動物を示す。
【0251】
結果:
−MOG(150μg)+CFA:3匹のうち2匹がその疾患を進行させた(段階4)。
【0252】
−MOG(150μg)+IFA:徴候は観察されなかった。
【0253】
−MOG(150μg)+Env-SU(50μg):3匹ののうち3匹が疾患を進行させた(段階1〜6)。
【0254】
予備的な研究の結果は、図18に表されている。
【0255】
この予備的研究は、TLR4受容体を介して免疫系を活性化するEnv-SUは、MSモデルの発達のためのアジュバント、EAEとして使用され得る。
【0256】
「従来の」アジュバント(CFA)でのポジティブコントロールについて、その実験を検証する。自己免疫(IFA)を誘導するための潜在性を有しない不完全アジュバントでのネガティブコントロールについて、自己免疫反応を誘導するための特定の経路による免疫系を刺激する必要性を検証する。
【0257】
従って、この予備的段階から直ちに、MSRV/HERV-WレトロウイルスのEnvタンパク質は、EAEモデルについて現在使用される「実験的」アジュバントのような中枢神経系上での効果を伴う、自己免疫感作を明らかに生じさせ得ることが明白になる。
【0258】
その活性成分がヒト結核菌の溶菌液である、CFAとの主要な差異は、このバクテリアは、ヒトで多発性硬化症を決して伴わないということである。MSRVレトロウイルスおよびHERV-Wファミリーのその遺伝的類似体は、ヒトで明らかに多発性硬化症を伴う[2, 7, 8, 10, 61-63]。さらに、このエンベロープタンパク質を有するビリオンの生物学的液体の発現および循環は、疾患の過程と関連する[10]。
【0259】
結果として、この予備的段階から直ちに、このレトロウイルスのファミリーのEnvエンベロープタンパク質の「自己免疫を誘導する」免疫学的潜在性を阻害できる全ての薬剤が、インビトロ細胞アッセイで本発明に記載された抗炎症性効果に関するその阻害活性のために選択された場合、特に有利であることが明白になる。実際には、MSRV/HERV-W Envタンパク質に対するモノクローナル抗体は、これらのタンパク質がMSを患う患者において検出可能なビリオンの表面で発現するとき、これらのタンパク質の「自己免疫を誘導する」効果の暗黙の阻害剤である[8, 10, 62]。ヒト治療のために現在許可および販売されている治療学的抗体(例えば、特に慢性関節リューマチの治療に処方される名称REMICADEの下で販売される抗-TNFα抗体)についての既知の方法に基づいて、ヒト治療におけるこれらの使用は明確であり、かつ技術的に当業者の範囲内にある。さらに、商業的に利用可能なこの治療学的な抗体が、炎症誘発性活性化カスケードの「下流の」産物を標的にすることは興味深い。他方、本発明に基づいて、治療学的ターゲットは、特にTLR4を介して、TNF-αの誘導前に十分に阻害される。
【0260】
MS治療(コルチコステロイド、インターフェロンβ、またはその他同種のもの)において現在提案されている治療薬は、免疫病理学的カスケードの開始に続いて起こる生産される炎症誘発性成分の限定された部分のみに作用することが重要であり、患者の治療における部分的かつ相対的な効果について説明する。
【0261】
他方では、TLR4受容体経路およびこの初期的時期に関与する生得的免疫の活性化の前にMSRV/HERV-W Envタンパク質の主要な効果を阻害することによって、この段階で存在する唯一の免疫病理学的アゴニストが阻害され、この経路の一次的活性化後に分泌される大量の炎症誘発性産物とはもはや関係しない(図8)。この生物学的利点は、患者における有効性についての唯一の潜在性を提供し、MSの原因病理論において「鍵となる」物質をターゲットにするので、ヒト疾患MSとは無関係である結核症物質(完全フロイントアジュバント中のM.tuberculosis)で誘導されたEAEモデルにおいて測定される、活性化の副産物のうちの一つではない。
【0262】
2−実験2
同じタイプの実験を、観察された一次的結果を確認するために行った。
【0263】
方法
200μlの皮下注射:
−MOG(150μg)+CFA:4匹について試験を行った。
【0264】
−MOG(150μg)+IFA:3匹について試験を行った。
【0265】
−MOG(150μg)+IFA+LPS(20μg):4匹について試験を行った。
【0266】
その後、0日目および2日目に200μl(IV)の百日咳毒素(200 ng)を注入した。
【0267】
臨床的徴候の測定
全てのマウスの脾臓を続いて回収し、その細胞懸濁液を凍結した。
【0268】
2匹のマウスの脳を回収し、その後4%PFAでの灌流後に凍結した(一匹のEnvマウスの脳(段階3);一匹のLPSマウスの脳(段階0))。
【0269】
特徴的な炎症性傷害が、Envタンパク質を与えられたマウスの脳内の組織学的分析によって視覚化されたが、LPSの注入を与えられたマウスの脳内では視覚化されなかった。
【0270】
結果:
神経学的徴候のモニタリング:
-MOG(150μg)+CFA:4匹のうち4匹がその疾患を進行させた(段階2〜6)。
【0271】
-MOG(150μg)+IFA:徴候は観察されなかった。
【0272】
-MOG(150μg)+Env-SU(50μg):4匹のうち4匹がその疾患を進行させた(段階1〜5)。
【0273】
-MOG(150μg)+LPS(20μg):徴候は観察されなかった。
【0274】
結果は、図19において例証される。
【0275】
これらの結果は、Env-SUが、EAEによって表されるMSモデルの発達中に観察される神経学的徴候の導入におけるアジュバントの役割を有し得ることを確認する。
【0276】
抗原提示細胞の表面でMSRV Envタンパク質と同じ受容体:TLR4を刺激するので、上記に加えて、コントロールLPS(細菌性脂質多糖体)が使用された:これらの条件下でのLPSの自己免疫誘導性効果の喪失は、Envタンパク質の免疫学的な潜在性が他のTLR4リガンドの潜在性よりも非常に大きいことを示し、さらに、このタンパク質を標的にする阻害剤が、活性化された経路を非特異的に阻害する分子よりも良好な治療学的ツールになるであろうことを示す。
【0277】
機能的研究:
脾臓を解凍し、脾細胞をインビトロにおいてMOGペプチドで再刺激した。その後、IFN-gの産生を測定した(速度論および投与反応)。
【0278】
2×106脾細胞/mlのc-RPMI+10% FCS.
Envについての3匹のマウスとIFAおよびLPSについての2匹のマウスの平均が示される。
【0279】
図20は、特異的な自己抗原の存在中においてTリンパ球の活性化をシグナルするインターフェロンγの投与量の平均によって、MOGの投与量(投与効果)の関数としての反応を例証する。真の自己免疫反応が、これらの条件下においてTLR-4経路を特に刺激するEnv-SU断片を使用して、MSRV-HERV-W Envタンパク質によって誘導されることをはっきりと示す。MSのこのモデルにおいて、Tリンパ球の反応は、MSRV/HERV-W Envによる直接的な活性化からは生じない(例えば、スーパー抗原の場合のようにT受容体(TCR)を介して)。しかし、生得的免疫の細胞(単球/マクロファージ、樹状細胞、等)のレベルで、上流経路の活性化からは生じる。これは、本発明の多数の結果によって明示される(IFN-γ分泌の喪失、精製された単球および樹状細胞の刺激、あらゆる機能的なマウスリンパ球を含まないSCIDモデルにおけるマウス「マクロファージ」サイトカインの刺激、LPSの速度論と並行したIL-6速度論、IL-6およびTNF-αの欠如、リファレンス・スーパー抗原-SEB-等によって同じ条件下で誘導されるインターフェロンγ)。
【0280】
これはまた、ミエリン抗原MOGに対する自己免疫Tリンパ球反応の長期にわたる速度論の研究によって確認される。ミエリン抗原MOGは、「EAE/MOG/Env-SU」動物から採取された脾細胞および不完全フロイントアジュバント(IFA、結核菌抽出物を含まない)を含む「Envフリー」のコントロールおよびMOGを試験するために使用される培地に、10μg/mlで加えられる。これは、図21によって例示される。図21は、Env-SUを与えられたマウスのみにおいて、長時間にわたる抗MOG自己免疫反応の非常に有意な進行を示す。
【0281】
これらの結果は、それゆえに、自己抗原に付随したEnv-SUでの刺激が、抗原提示細胞(APC、単球/マクロファージ、樹状細胞、脳小神経膠細胞等を含む)上のTLR4受容体のレベルで、カスケードの下流をEnv-SUによって開始させ、非常に多量(グラフを参照)に放出されるインターフェロンγ(IFN-γ)の唯一の原因である自己反応性Tリンパ球を発達させ、かつ、インビボにおいてこれらのTリンパ球によって媒介される自己免疫を発達させることをはっきりと示す。
【0282】
3−実験3
同じタイプの実験を行った。観察された予備的結果を確認し、かつ、インビボにおいて抗Env-SU抗体(ここではモノクローナル抗体3B2H4によって表された)の治療学的効果(モデルにおいて測定された臨床的結果)を、同じアイソタイプであって等価な特異性をもたない抗体(ここでは、抗GAGモノクローナル抗体3H1H6によって表された)と並行して試験した。
【0283】
方法
5μg/ml濃度での200μL量の抗体の皮下注入(すなわち、体重約20グラムのマウス当たり1μgの抗体(すなわち1kg当たり50μgの抗体))の皮下注入:
−MOG (150μg)+CFA: 5匹について試験を行った。
【0284】
−MOG (150μg)+IFA:5匹について試験を行った。
【0285】
−MOG (150μg)+IFA+Env-SU(50μg):5匹について試験を行った。
【0286】
−MOG (150μg)+IFA+Env-SU(50μg):5匹について試験を行った。これらのマウスにはまた、1mgのAb 3B2H4, IV(200μL)が与えられた;
0日および2日目に200μL(IP)の百日咳毒素(200 ng)を注入し、かつ臨床的徴候の測定を行った。
【0287】
結果:
得られた結果を図22に例示する。
【0288】
MSのような進行性自己免疫の発達により近い条件を試験するために、毒素がすでにIPおよびIV以外で注射された時から、前のものより「ゆるやか」になる条件下で、結果は得られる。「MOG+CFA」ポジティブコントロールは臨床的徴候を示す4/5マウスに対応し、および「MOG+IFA」ネガティブコントロールは影響を受けた0/5マウスに対応する。
【0289】
Envタンパク質で、「MOG+CFA」ポジティブコントロールと同様に、平均の臨床スコアは、前の条件と比較して減少する。しかしながら、抗Env抗体の存在中におけるこのタンパク質の病原性効果の正味の減少は、治療されたマウスにおいて観察される最小限の損害によって例示される。
【0290】
「抗Gag」抗体は、Envタンパク質によって誘導される免疫病理学的効果上での抑制効果を有しないか、またはさらにその存在を通してこの効果をわずかに増強することが注目される。ところが、抗体3B2H4は、観察される曲線が「MOG+CFA」ネガティブコントロールの曲線に向かって最も大きく移動する、非常にはっきりとした阻害効果を有する。「Tリンパ球によって媒介された自己免疫を誘導する」EAEタイプの効果のインビボにおける阻害効果は、それゆえ3B2H4を通した抗MSRV/HERV-W Env抗体の存在に結びつけられる。
【0291】
多発性硬化症モデル「EAE」において、関連する生物学的パラメーターだけでなく、特に、測定される臨床効果(神経学的傷害)である。それゆえ、研究対象の効果は、もはや上述したような生物学的効果のみではなく、専用の疾病モデルの場面におけるその臨床的変換である。従って、本明細書中で測定されたものは、実際に治療学的効果がある。ここで、これらがヒト治療のための「前臨床の」治療学的な検証の定性的な制限であることは、ヒト疾患上での任意のその後の治療学的な検証が動物モデル上で得られた基準に基づいてヒトで行われなければならないので、当業者にとって周知である。
【0292】
いったん候補治療薬が同定および選択されると、本発明の場合のように、専用の動物モデルが開発および検証される。実施された一連の試験の「定量的」拡大は、暗黙的に実施され得、薬理学的研究に対して共通の、当業者に周知の適切な対照群で既に得られたツールおよびモデルを発達させ、前診断基準を満たす。
【0293】
従って、得られた要素は、前臨床の検証を終わらせ、かつヒトにおける治療学的実験を進めるのに必要かつ十分である。
【0294】
さらに、MSRV ENVおよびHERV-W7q ENV(シンシチン)タンパク質のアミノ酸配列の分析は、MSRV/HERV-Wファミリーにおける強いホモロジーと主要なアミノ酸モチーフの保存を示す(図23)。これは、抗ENVモノクローナル抗体での交差反応性によって反映される(図24)。
【0295】
配列分析(図25を参照)はまた、配列番号1において参照されたENV-SUタンパク質の配列における対象の抗原領域を評価することを可能にする。アミノ酸122-131(両端が含まれる)および/または312-316(両端が含まれる)および/または181-186(両端が含まれる)によって定義された領域に対応する。
【0296】
結果として、MSの動物モデルにおいて、MSRV/HERV-WファミリーのレトロウイルスのEnvエンベロープタンパク質に対するモノクローナル抗体、特に、細胞アッセイにおいてTLR4受容体によって開始される炎症誘発性経路上の阻害性質のために特に選択される、そのプロトタイプの一員であるMSRVのモノクローナル抗体は、免疫病理学的潜在性(特に、このレトロウイルスファミリーのENVエンベロープタンパク質の「自己免疫を誘導する」免疫病理学的潜在性)を阻害することができる治療学的薬剤を構成する。
【0297】
従って、以下のことが明らかになった:
1) エンベロープで覆われたMSRVビリオンが、多発性硬化症を患う患者において検出される[4, 8, 10, 62, 64]。
【0298】
2) それらの発現は、疾患の発展と関連がある[10]。
【0299】
3) MSRV Envタンパク質に対する免疫学的応答は、疾患の進行および重症度と関連がある[65]。
【0300】
4) MSRVビリオンは、MSRV Envタンパク質をコードするRNAを有する[66]。
【0301】
5) MSRV/HERV-WファミリーのEnvタンパク質は、それらのアミノ酸配列のレベルおよびそれらをコードする遺伝的配列のレベルで非常に強い相同性を有する[2, 5, 66]。
【0302】
6) ヒト染色体7q21-22(HERV-W7q)の領域におけるHERV-WコピーによってコードされるMSRV Envタンパク質およびEnvタンパク質は、インビトロおよびインビボでの炎症誘発性を有する(例えば、本患者適用の例および[11,12,59])。
【0303】
7) MSRV Envタンパク質は、ミエリン(ミエリン・オリゴデンドロサイト糖タンパク質、MOG、本特許出願の例)から誘導された中枢神経系の自己抗原の存在中において、多発性硬化症(MS)、すなわち実験的なアレルギー性脳脊髄炎(EAE)の周知のモデルを再現することができる。
【0304】
8) この実験的モデルは、従来的には、結核菌の抗原性抽出物、結核のための細菌性物質(これらはヒト多発性硬化症の原因とは無関係である)で人工的に開始される。(内因性レトロウイルスファミリーHERV-Wに属し、その発現が、ビリオンの形態において疾患との関係が認められ得るか[8, 10, 62]またはMSの特徴的な脱髄病変において特異的に発現されたEnvタンパク質の形態において認められ得る[59, 67])MSRVレトロウイルスのエンベロープタンパク質でこのモデルを得ることによって、疾患の免疫病原性に関与したレトロウイルス物質をターゲットにする治療学的薬剤を研究することが可能な新規かつ唯一の動物モデルが構成される。
【0305】
9) ヒト細胞において記載されたTリンパ球の活性化と関連した炎症誘発性効果はまた、インターフェロンγの生産(本特許出願の例)についてのアッセイによって証明されたように、MSRV Envタンパク質で誘導されたEAEモデルのマウスTリンパ球のレベルで明らかに見出される。
【0306】
10) MSRV Envタンパク質の炎症誘発性効果は、リンパ系細胞および抗原提示細胞によって媒介され、その結果、免疫系によって媒介される(本特許出願の例、[11,12])。
【0307】
11) 抗MSRV Envモノクローナル抗体(3B2H4 および13H5A5)は、特にヒト血液リンパ系細胞(リンパ球および単球)において、MSRV Envタンパク質の炎症誘発性効果を特異的に阻害することができる(本特許出願の例)。
【0308】
12) MSRV Envタンパク質に対して向けられたモノクローナル抗体(3B2H4)の「特異的な阻害」効果は、MSRV ENVで誘導されたEAEの動物モデルで確証される。この効果は、同じアイソトープの無関係な抗体で処理された未処理の動物または動物と比較された、処理動物の著しい臨床的改善によって反映される(本特許出願の例)。
【0309】
従って、抗MSRV/HERV-W Envモノクローナル抗体は、疾患に関連したレトロウイルス物質のタンパク質などで誘導された自己免疫および神経学的臨床問題で、炎症上での抑制効果を有し得る。
【0310】
従って、その性質がインビトロおよびインビボで検証された抗体が、未修飾の形態において、あるいは生物学的技術(特に、遺伝子工学技術)によって改善された形態において、ヒト疾患(例えば多発性硬化症)についての新規な治療学的薬剤を構成することは明らかである。
【0311】
これらの治療学的な抗体の前臨床の評価に適した細胞試験法および動物モデルは、本明細書に記載されており、当業者がヒトの治療試験の前に必要な検証工程を行うことを可能にし、かつ当業者がMSRV/HERV-Wレトロウイルスファミリーと関連した様々な病理学的症状を調整することを可能にする。
【書誌的参考文献】
【0312】
【図面の簡単な説明】
【0313】
【図1】図1は、Env-pV14エンベロープ、シグナルペプチド、およびEnv-SUエンベロープの可溶性画分の構造と、シグナルペプチドおよびEnv-SUエンベロープの可溶性画分のアミノ酸配列とを表す。
【図2】図2は、ヒトPBMC(単核細胞)の培養における炎症誘発性サイトカインの産生を表す。
【図3】図3は、自己由来のコントロール(MOCK)、Env-SU、LPSまたはSEBで刺激されたPBMCのTNF-αの放出量を表す。
【図4】図4は、30μg/mlの抗Env-SUモノクローナル抗体(13H5A5)、抗Gagモノクローナル抗体(3H1H6)、または上記抗体を含まない溶液(×)でプレインキュベートされ、かつ自己由来のコントロール(CK2)、Env-SUまたはLPSで刺激されたPBMCのTNF-αの放出量を表す。
【図5】図5は、自己由来のコントロール(Mock)、Env-SUまたはLPSで刺激されたヒト単球の活性マーカーの発現と、各サイトカインの放出量を表す。
【図6】図6は、自己由来のコントロール(Mock)、Env-SUまたはLPSで刺激された樹状細胞の活性マーカーの発現と、各サイトカインの放出量と、3Hチミジンが組み込まれた樹状細胞によって放射される毎分当たりのカウントの数を表す。
【図7】図7は、抗CD14または抗TLR4でプレインキュベートされ、かつCK2コントロール、Env-SU(ENV1)、LPSまたはSEBで刺激されたPBMCのTNF-αの放出量を表す。
【図8】図8は、MSRV/HERV-Wエンベロープタンパク質の病理学的発現から生じる活性化カスケードを概略的に表す。
【図9】図9は、MSRV/HERV-W ENVタンパク質の炎症誘発性効果に由来する二つの疾患をもたらす4つの重要な工程を表す。
【図10】図10は、多発性硬化症(MS)を患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、ENV-SUによって誘導されたサイトカイン(TNF-α、IL-1βおよびIL-10)の産生を表す。
【図11】図11は、多発性硬化症(MS)を患う患者由来のPBMCと正常なドナー由来の(ND)のPBMCにおける、ENV-SUによって誘発されたサイトカインの産生を表す。
【図12】図12は、サイトカインの産生と患者の臨床的パラメーターとの間の相関関係を表す。
【図13】図13は、精神分裂症(SCZ)を患う患者由来のPBMCと正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、サイトカイン(IL-10)の自発的産生およびENV-SUによって誘導された産生を表す。
【図14】図14は、精神分裂症(SCZ)患う患者および正常なドナー(ND)由来のPBMCにおける、サイトカイン(IL-l2p40)の自発的産生(a)およびENV-SUによって誘導された産生(b)、ならびに相対的増加の算出(c)を表す。
【図15A−B】図15A−Bは、正常なドナー由来のPBMCの培養中における、ENV-SUによって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌を表す。
【図15C】図15Cは、正常なドナー由来のPBMCの培養中における、ENV-SUによって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌を表す。
【図15D】図15Dは、正常なドナー由来のPBMCの培養中における、ENV-SUによって誘導されたTNFα(ng/ml)の分泌を表す。
【図16】図16は、バッファー(黒丸を含む破曲線)、ENV-SU(黒四角を含む太い曲線)、またはLPS(黒三角を含む細い曲線)であらかじめ刺激された正常なドナー由来のPBMCの培養液中における、TNF-α産生の経時変化を表す。
【図17】図17は、ヒト化されたSCIDマウスにおけるENV-SUの炎症誘発性効果を表す。
【図18】図18は、MSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導を表す。
【図19】図19は、C57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導を確認する実験の結果を表す。
【図20】図20は、MOG自己抗原の濃度(μg/ml)と、インビトロに分泌されるインターフェロンγの量との関係を表す。
【図21】図21は、MOGおよびアジュバント製剤の接種後の時間(h)と、インビトロに分泌されるインターフェロンγの量との関係を表す。
【図22】図22は、C57B16マウスにおけるMSRV ENVタンパク質によるEAEの誘導と、TLR4によって媒介される炎症誘発性活動の阻害に関する試験において事前に選択される、モノクローナル抗MSRV/HERV-W ENV抗体の抑制効果とを確認する実験の結果を表す。
【図23】図23は、MSRV ENVタンパク質(下側)とHERV-W 7qコピーによってコード化されるENVタンパク質(上側)との間で比較されるアミノ酸配列を表す。
【図24】図24は、ウェスタンブロッティングによる分析の結果を表す。
【図25a】図25aは、「Protein analysis toolbox」機能をもつ、「Mac Vector」分析ソフトウェアを使用した、MSRV ENV-SUタンパク質のアミノ酸配列の分析結果を表す。
【図25b】図25bは、「Protein analysis toolbox」機能をもつ、「Mac Vector」分析ソフトウェアを使用した、MSRV ENV-SUタンパク質のアミノ酸配列の分析結果を表す。
【図25c】図25cは、「Protein analysis toolbox」機能をもつ、「Mac Vector」分析ソフトウェアを使用した、MSRV ENV-SUタンパク質のアミノ酸配列の分析結果を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体と特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体の群(i)および抗TLR4抗体の群(ii)から選択された少なくとも一つの抗体と、薬学的に許容可能なキャリアとを含み、前記抗体がMSRV/HERV-Wの活性化によって誘導された炎症誘発性カスケードを阻害することを特徴とする組成物。
【請求項2】
薬学的に許容可能なベクターを含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体の群(i)および少なくとも一つの抗TLR4抗体の群(ii)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
抗HERV-W Env-SU抗体の群(i)が抗体3B2H4、13H5A5および3H10F10から選択され、かつ抗TLR4抗体の群(ii)が抗体HTA125であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体と特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体の群(i)および抗TLR4抗体の群(ii)から選択された少なくとも一つの抗体の、薬物の調製のための使用であって、前記抗体がMSRV/HERV-Wの活性化によって誘導された炎症誘発性カスケードを阻害することを特徴とする使用。
【請求項6】
前記抗体が、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体の群(i)および少なくとも一つの抗TLR4抗体の群(ii)である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記抗HERV-W Env-SU抗体の群(i)が抗体3B2H4、13H5A5および3H10F10から選択され、かつ前記抗TLR4抗体の群(ii)が抗体HTA125である、請求項5または6に記載の使用。
【請求項8】
MSRV/HERV-Wに付随した病理の治療のための、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記病理が、多発性硬化症または精神分裂病である請求項7に記載の使用。
【請求項10】
抗体3B2H4、13H5A5および3H10F10から選択された抗体。
【請求項11】
IL-6、IL12-p40およびTNF-αから選択されたサイトカインをアッセイすることによって、多発性硬化症または精神分裂病を患う患者の血液単核細胞の反応性の状態を決定するためのMSRV/HERV-W Env-SUの使用。
【請求項1】
MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体と特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体の群(i)および抗TLR4抗体の群(ii)から選択された少なくとも一つの抗体と、薬学的に許容可能なキャリアとを含み、前記抗体がMSRV/HERV-Wの活性化によって誘導された炎症誘発性カスケードを阻害することを特徴とする組成物。
【請求項2】
薬学的に許容可能なベクターを含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体の群(i)および少なくとも一つの抗TLR4抗体の群(ii)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
抗HERV-W Env-SU抗体の群(i)が抗体3B2H4、13H5A5および3H10F10から選択され、かつ抗TLR4抗体の群(ii)が抗体HTA125であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
MSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分またはMSRV/HERV-W Envタンパク質の可溶性画分についてのTLR4受容体と特異的に結合することができる、抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体の群(i)および抗TLR4抗体の群(ii)から選択された少なくとも一つの抗体の、薬物の調製のための使用であって、前記抗体がMSRV/HERV-Wの活性化によって誘導された炎症誘発性カスケードを阻害することを特徴とする使用。
【請求項6】
前記抗体が、少なくとも一つの抗MSRV/HERV-W Env-SU抗体の群(i)および少なくとも一つの抗TLR4抗体の群(ii)である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記抗HERV-W Env-SU抗体の群(i)が抗体3B2H4、13H5A5および3H10F10から選択され、かつ前記抗TLR4抗体の群(ii)が抗体HTA125である、請求項5または6に記載の使用。
【請求項8】
MSRV/HERV-Wに付随した病理の治療のための、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記病理が、多発性硬化症または精神分裂病である請求項7に記載の使用。
【請求項10】
抗体3B2H4、13H5A5および3H10F10から選択された抗体。
【請求項11】
IL-6、IL12-p40およびTNF-αから選択されたサイトカインをアッセイすることによって、多発性硬化症または精神分裂病を患う患者の血液単核細胞の反応性の状態を決定するためのMSRV/HERV-W Env-SUの使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A−B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25a】
【図25b】
【図25c】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A−B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
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【図24】
【図25a】
【図25b】
【図25c】
【公表番号】特表2008−505847(P2008−505847A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550240(P2006−550240)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000156
【国際公開番号】WO2005/080437
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(504473865)
【出願人】(596005872)アンスティテュ・ナシオナル・デゥ・ラ・サンテ・エ・デゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000156
【国際公開番号】WO2005/080437
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(504473865)
【出願人】(596005872)アンスティテュ・ナシオナル・デゥ・ラ・サンテ・エ・デゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル (8)
【Fターム(参考)】
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