説明

MTW型ゼオライトの製造方法

【課題】構造規定剤を用いず、かつ安価にMTW型ゼオライトを製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を含む反応混合物と、ゼオライトの種結晶とを反応させて、MTW型ゼオライトを製造する方法である。前記反応混合物として、該反応混合物のみからゼオライトを合成したときに、合成された該ゼオライトがMFI型ゼオライトを含むものとなる組成の反応混合物を用いる。前記種結晶としては、SiO2/Al23比が8〜50であり、かつ構造規定剤を含まないベータ型ゼオライトを用いる。前記種結晶を、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20質量%の割合で該反応混合物に添加し、前記種結晶が添加された前記反応混合物を100〜200℃で密閉加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造規定剤を含まない反応混合物からMTW型ゼオライトを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、その結晶構造に起因するオングストロームサイズの均一な細孔を有している。この特徴を生かして、合成ゼオライトは、特定の大きさを有する分子のみを吸着する分子ふるい吸着剤や親和力の強い分子を吸着する吸着分離剤、又は触媒基剤として工業的に利用されている。合成ゼオライトの一種であるMTW型ゼオライトとは、ゼオライトZSM−12に与えられた骨格構造種を表す名称であり、同一構造を有するゼオライトにはCZH−5、NU−13、TPZ−12、Theta−3、VS−12などがある。MTW型ゼオライトは、石油化学工業における触媒として、現在世界中で多量に使用されている。MTW型ゼオライトの特徴は、12員環一次元細孔を有する点にある。
【0003】
従来、MTW型ゼオライトは有機アンモニウムイオンを構造規定剤(以下「SDA」と略称する。)として用いる方法によってのみ製造されてきたため、MTW型ゼオライトを得るためにはSDAの使用は必須であると考えられてきた。また、合成されたMTW型ゼオライトはSDAを含んでいるため、その使用前に焼成してSDAを除去して用いることも不可避と考えられてきた。
【0004】
MTW型ゼオライトの合成法は種々提案されている。一般的な方法はテトラエチルアンモニウムイオン、メチルトリエチルアンモニウムイオン又はベンジルトリエチルアンモニウムイオン等の有機アンモニウムイオンをSDAとして用いる方法である。また同時に、ナトリウム又はリチウムなどのアルカリ金属イオンの添加が必須である。そのような方法は例えば、以下の特許文献1ないし3に記載されている。これらの方法によればSiO2/Al23比が20以上のMTW型ゼオライトが得られる。しかしながら、前記のSDAは高価である上に、MTW型ゼオライト結晶化終了後は母液中のSDAはほとんどが分解してしまうことがある。また、生成するゼオライトの結晶中にはこれらのSDAが取り込まれるため、吸着剤や触媒として使用する際にゼオライトを焼成してSDAを除去する必要がある。その際の排気ガスは環境汚染の原因となり、またSDAの分解生成物を含む合成母液の無害化処理のためにも多くの薬剤を必要とする。このように、SDAを用いるMTW型ゼオライトの合成方法は高価であるばかりでなく、環境負荷の大きい製造方法であることから、SDAを用いない製造方法及びその方法によって得られる本質的にSDAを含まないMTW型ゼオライトの実現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭52−16079号公報
【特許文献2】特公昭63−31406号公報
【特許文献3】特開昭60−264320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、本質的にSDAを含まないMTW型ゼオライトの製造方法、すなわち前述した従来技術が有する欠点を解消して環境負荷を可能な限り低減でき、SDAを用いず、かつ安価にMTW型ゼオライトを製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を含む反応混合物と、ゼオライトの種結晶とを反応させて、MTW型ゼオライトを製造する方法であって、
前記反応混合物として、該反応混合物のみからゼオライトを合成したときに、合成された該ゼオライトがMFI型ゼオライトを含むものとなる組成の反応混合物を用い、
前記種結晶として、SiO2/Al23比が8〜50であり、かつ構造規定剤を含まないベータ型ゼオライトを用い、
前記種結晶を、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20質量%の割合で該反応混合物に添加し、前記種結晶が添加された前記反応混合物を100〜200℃で密閉加熱するMTW型ゼオライトの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、SDAを使用しない反応混合物からMTW型ゼオライトが製造されるので、得られるMTW型ゼオライトは本質的にSDAを含まないものとなる。したがって、このMTW型ゼオライトは、その使用前に焼成処理が不要であるのみならず、脱水処理をしても有機物の発生がないので排ガス処理が不要である。このように本発明によれば、環境負荷が小さく、かつ安価にMTW型ゼオライトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)ないし(c)は、MTW型ゼオライト、MFI型ゼオライト及びベータ型ゼオライトのコンポジット・ビルディング・ユニットを示す図である。
【図2】図2は、MTW型ゼオライト、MFI型ゼオライト及びベータ型ゼオライトのコンポジット・ビルディング・ユニットの関係を示す図である。
【図3】図3は、本発明の製造方法を実施するための工程図である。
【図4】図4は、実施例及び比較例で用いたベータ型ゼオライトの種結晶のX線回折図である。
【図5】図5は、実施例1で得られたMTW型ゼオライトのX線回折図である。
【図6】図6は、実施例5で得られたMTW型ゼオライトのX線回折図である。
【図7】図7は、実施例7で得られたMTW型ゼオライトのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法においては、ゼオライトの種結晶を、反応混合物のゲルに添加して、該種結晶を元にMTW型ゼオライトを得る。反応混合物としては、該反応混合物のみからゼオライトを合成したときに、合成された該ゼオライトがMFI型ゼオライトを含むものとなる組成のものを用いる。ゼオライトの種結晶としては、ベータ型ゼオライトを用いる。このように本発明の製造方法は、一見すると、目的とするMTW型ゼオライトを生成させるために、MTW型ゼオライトとは無関係のゼオライトを用いているとの印象を与える。しかし、種結晶であるベータ型ゼオライトと、反応混合物のみから生成するゼオライトであるMFI型ゼオライトと、目的とするMTW型ゼオライトとは、コンポジット・ビルディング・ユニットという概念によって互いに密接に関連していることを本発明者は知見した。以下、このことについて説明する。
【0011】
これまでに知られているゼオライトは、三次元の基本構造体の組み合わせから骨格構造が構成されていることが判っている。この基本構造体はコンポジット・ビルディング・ユニットと呼ばれており、現在47種類が知られている。国際ゼオライト学会では、各コンポジット・ビルディング・ユニットを、アルファベットの小文字3つを用いたコードで表記している。例えばMTW型ゼオライトは、図1(a)に示す4つのコンポジット・ビルディング・ユニット、すなわちjbw、cas、bik、及びmtwの組み合わせから骨格構造が構成されている。MFI型ゼオライトは、図1(b)に示す4つのコンポジット・ビルディング・ユニットであるmor、cas、mel及びmfiの組み合わせから骨格構造が構成されている。ベータ型ゼオライトは、図1(c)に示す3つのコンポジット・ビルディング・ユニットであるmor、bea及びmtwの組み合わせから骨格構造が構成されている。各ゼオライトの骨格構造を構成するコンポジット・ビルディング・ユニットについては、"Atlas of Zeolite Framework Types", 6th Revised Edition 2007, Structure Commission of the International Zeolite Associationに記載されている。コンポジット・ビルディング・ユニットは、ゼオライトの骨格構造を構成する基本単位を幾何学的に分類したものであり、コンポジット・ビルディング・ユニットの構造を有する化合物が存在するわけではないことに留意すべきである。
【0012】
図2には、図1(a)ないし(c)に示す各ゼオライト間でのコンポジット・ビルディング・ユニットの関係が示されている。同図から明らかなように、目的物であるMTW型ゼオライトの骨格構造を形成するコンポジット・ビルディング・ユニットと、反応混合物のみから生成するゼオライトであるMFI型ゼオライトの骨格構造を形成するコンポジット・ビルディング・ユニットとは、casが重複している。一方、目的物であるMTW型ゼオライトの骨格構造を形成するコンポジット・ビルディング・ユニットと、種結晶であるベータ型ゼオライトの骨格構造を形成するコンポジット・ビルディング・ユニットとは、mtwが重複している。要するに、本発明においては、コンポジット・ビルディング・ユニットとしてcasを含むゼオライトであるMFI型ゼオライトの反応混合物と、コンポジット・ビルディング・ユニットとしてmtwを含むゼオライトであるベータ型ゼオライトの種結晶とから、コンポジット・ビルディング・ユニットとしてcas及びmtwを含むゼオライトであるMTW型ゼオライトを合成している。このように、本発明においては、反応混合物のみから合成されるゼオライト(イ)の骨格構造を形成するコンポジット・ビルディング・ユニットの一部と、種結晶のゼオライト(ロ)の骨格構造を形成するコンポジット・ビルディング・ユニットの一部とを組み合わせて、両方のコンポジット・ビルディング・ユニットを同時に含む骨格構造を有するゼオライト(ハ)を合成している。ここで、ゼオライト(イ)、(ロ)及び(ハ)は互いに異なる種類のゼオライトである。
【0013】
以上のとおり、本発明の製造方法は、ゼオライトの骨格構造を形成するコンポジット・ビルディング・ユニットの概念に基づいてゼオライトを合成するという、これまでにない極めて斬新な考え方に基づいている。そしてこの考え方に基づけば、反応混合物中にSDAが含まれていない条件下においても、MTW型ゼオライトを容易に合成することができるという有利な効果が奏される。
【0014】
本発明において用いられる反応混合物としては、先に述べたとおり、該反応混合物を単独で加熱して合成されたゼオライトが、MFI型ゼオライトを含むものとなる組成のものを用いる。該反応混合物は、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を混合して得られる。該反応混合物はSDAを含まないものである。そのような反応混合物として好ましい組成の一例は以下のとおりである。
【0015】
・SiO2/Al23=10〜150
・Na2O/SiO2=0.075〜0.23
・H2O/SiO2=5〜50
【0016】
更に好ましい反応混合物の組成の範囲は以下のとおりである。
・SiO2/Al23=30〜120
・Na2O/SiO2=0.1〜0.2
・H2O/SiO2=8〜20
【0017】
シリカ源としては、シリカそのもの及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのシリカ源のうち、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが、不要な副生物を伴わずに、目的とするゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0018】
アルミナ源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物を用いることができる。具体的には、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適なアルミナ源の一つである。これらのアルミナ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルミナ源のうち、アルミン酸ナトリウムや水酸化アルミニウムを用いることが、不要な副生物(例えば硫酸塩や硝酸塩等)を伴わずに、目的とするゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0019】
アルカリ源としては、例えば水酸化ナトリウムを用いることができる。なお、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合やアルミナ源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時にNaOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、Na2Oは反応混合物中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。
【0020】
反応混合物を調製するときの各原料の添加順序は、均一な反応混合物が得られ易い方法を採用すればよい。例えば、室温下、水酸化ナトリウム水溶液にアルミナ源を添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して攪拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。反応混合物を調製するときの温度にも特に制限はなく、一般的には室温(20〜30℃)で行えばよい。
【0021】
ベータ型ゼオライトの種結晶と反応混合物との混合は、例えば反応混合物の調製過程において、シリカ源に種結晶を加えながら混合することができる。あるいは、反応混合物の調製過程において、シリカ源を添加する前又は後に、反応混合物に種結晶を加えることもできる。また、反応混合物を熟成又は一時加熱した後に種結晶を添加する方法も有効である。いずれの場合においても、その後、種結晶が均一に分散するように攪拌混合する。
【0022】
反応混合物に添加されるベータ型ゼオライトの種結晶は、SiO2/Al23比が8〜50という広範な範囲から選択され、好ましくは10〜30から選択される。つまりベータ型ゼオライトの選択の自由度が極めて大きい。SiO2/Al23比が8よりも小さいベータ型ゼオライトは合成することが極めて困難であるため一般に使用することはない。SiO2/Al23比が50を超えると、反応混合物の組成に依存せず生成物はZSM−5となり易い。
【0023】
種結晶の添加量は、反応混合物中に含まれるシリカ成分に対して0.1〜20質量%の範囲である。この添加量は少ない方が好ましいが、反応速度や不純物の抑制効果などを考慮して決められる。好ましい添加量は1〜20質量%であり、更に好ましい添加量は1〜10質量%である。
【0024】
ベータ型ゼオライト種結晶の平均粒子径は、150nm以上であることが好ましく、更に好ましくは150〜1000nmであり、一層好ましくは200〜600nmである。合成によって得られるゼオライトの結晶の大きさは、一般的に均一ではなく、ある程度の粒子径分布を持っている、その中で最大頻度を有する結晶粒子径を求めることは困難ではない。平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡による観察における最大頻度の結晶の粒子直径を指す。有機SDAを用いるベータ型ゼオライトは一般的に平均粒子径が小さく、100nm〜1000nmの範囲が一般的である。しかし、小さい粒子が凝集しているために粒子径が不明確であるか、又は1000nmを超えるものも存在する。また、100nm以下の結晶を合成するためには特別な工夫が必要であり、高価なものとなってしまう。したがって、本発明では平均粒子径が150nm以上のベータ型ゼオライトを種結晶として用いることが好ましい。
【0025】
ベータ型ゼオライトの種結晶としては市販品を用いてもよい。あるいはSDAを用いて合成したベータ型ゼオライトを焼成して該SDAを除去したベータ型ゼオライトを用いてもよい。更に、Chem. Asian J. 2010, 5, 2182-2191に記載されているベータ型ゼオライトを用いてもよい。この文献に記載されているベータ型ゼオライトは、SDAを用いずに合成されたもの、すなわち”グリーンプロセス”によって合成されたものなので、本発明の製造方法においてこのベータ型ゼオライトを種結晶として用いることによって、SDAを一切用いることなくMTW型ゼオライトを合成することができる。つまり”グリーンプロセス”によってMTW型ゼオライトを合成することができる。どのような種結晶を用いる場合であっても、ベータ型ゼオライトの種結晶はSDAを含まないものである。
【0026】
図3は、本発明の製造方法を実施するための工程図である。本発明においては、同図において、<1>、<2>、<3>、<6>の順に製造を行うことができる。この手順を採用すると、幅広い範囲のSiO2/Al23比のMTW型ゼオライトを製造することができる。また同図において、<1>、<2>、<4>、<3>、<6>の順に製造を行うこともできる。この手順を採用すると、熟成を行った後に静置加熱することによって、低SiO2/Al23比の種結晶を有効に使用できる場合が多い。
【0027】
更に、図3において、<1>、<2>、<4>、<5>、<6>の順に製造を行うこともできる。この手順では、熟成及び攪拌の操作が行われる。熟成及び攪拌の操作は、MTW型ゼオライトの量産化のために必要な新しい方法である。その理由は、量産化のためには大型の加圧容器が必要なところ、そのような加圧容器の内部温度を均一に保つためには攪拌操作が不可欠だからである。しかしながら、熟成操作なしに攪拌を行うと、不純物を同伴して純度が低下し易い。
【0028】
以上の各手順においては、ベータ型ゼオライトの種結晶が添加された反応混合物を、密閉容器中に入れて加熱して反応させ、目的とするMTW型ゼオライトを結晶化する。この反応混合物にはSDAは含まれていない。
【0029】
種結晶として、SiO2/Al23比の低いものを用いた場合は、熟成をした後に、攪拌することなく加熱する方が、結晶化が進行し易い(<1>、<2>、<4>、<3>、<6>の手順)。熟成とは、反応温度よりも低い温度で一定時間その温度に保持する操作をいう。熟成においては、一般的には、攪拌することなしに静置する。熟成を行うことで、不純物の副生を防止すること、不純物の副生なしに攪拌下での加熱を可能にすること、反応速度を上げることなどの効果が奏されることが知られている。しかし作用機構は必ずしも明らかではない。熟成の温度と時間は、前記の効果が最大限に発揮されるように設定される。本発明では、好ましくは20〜100℃、更に好ましくは20〜80℃、一層好ましくは20〜60℃の温度下に、好ましくは2時間から1日の時間にわたって熟成が行われる。
【0030】
加熱中に反応混合物の温度の均一化を図るため攪拌をする場合は、熟成を行った後に加熱攪拌すれば、不純物の副生を防止することができる(<1>、<2>、<4>、<5>、<6>の手順)。攪拌は反応混合物の組成と温度を均一化するために行うものであり、攪拌羽根による混合や、容器の回転による混合などがある。攪拌強度や回転数は、温度の均一性や不純物の副生具合に応じて調整すればよい。常時攪拌ではなく、間歇攪拌でもよい。このように熟成と攪拌を組み合わせることによって、工業的量産化が可能となる。
【0031】
静置法及び攪拌法のどちらの場合も、加熱温度は100〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲であり、自生圧力下での加熱、すなわち密閉加熱である。100℃未満の温度では結晶化速度が極端に遅くなるのでMTW型ゼオライトの生成効率が悪くなる場合がある。一方、200℃超の温度では、高耐圧強度のオートクレーブが必要となるため経済性に欠けるばかりでなく、不純物の発生速度が速くなる。加熱時間は本製造方法において臨界的ではなく、結晶性の十分に高いMTW型ゼオライトが生成するまで加熱すればよい。一般に5〜240時間程度の加熱によって、満足すべき結晶性のMTW型ゼオライトが得られる。
【0032】
本発明のMTW型ゼオライトの製造方法において、加熱時間が不十分な場合はアモルファス成分が同伴する。また、目的とするMTW型ゼオライトの結晶化が終了した後、更に加熱を継続すると、反応混合物のみからゼオライトを合成したときに生じる該ゼオライト、すなわちMFI型ゼオライトの生成及び成長が始まり、目的とするMTW型ゼオライトの割合が減少する。目的とするMTW型ゼオライトのみが単一相として安定に存在する時間は温度によって異なるが、一般に長くはない。目的とするMTW型ゼオライトを単一相で得るためには、MFI型ゼオライトの生成及び成長が始まる前に加熱を終了して密閉容器を冷却し、反応を終了させる。極微量の不純物ゼオライトの同伴は、目的とするMTW型ゼオライトの特性を著しく損なうものではなく、かつそのようなゼオライトは十分使用に耐え得る。
【0033】
前記の加熱によって、目的とするMTW型ゼオライトの結晶が得られる。加熱終了後は、生成した結晶粉末をろ過によって母液と分離した後、水又は温水で洗浄して乾燥する。得られたMTW型ゼオライトの結晶は、乾燥したままの状態でSDAを含んでいないので焼成の必要はなく、脱水を行えば吸着剤などとして使用可能である。また、固体酸触媒として使用する際は、例えば結晶内のNa+イオンをNH4+イオンに交換した後、焼成することによってH+型として使用することができる。
【0034】
本製造方法で得られたMTW型ゼオライトは、その大きな細孔径と細孔容積や固体酸特性を利用して、例えば種々の工業分野における吸着分離剤や石油化学工業における触媒として好適に用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0036】
〔実施例1〕
(1)ベータ型ゼオライトの種結晶の合成
テトラエチルアンモニウムヒドロキシドをSDAとして用い、アルミン酸ナトリウムをアルミナ源、微粉状シリカ(Cab−O−sil、M−5)をシリカ源とする従来公知の方法により、165℃で96時間にわたり攪拌加熱を行って、SiO2/Al23比が24.0のベータ型ゼオライトを合成した。これを電気炉中で空気を流通しながら550℃で10時間焼成して、SDAを含まないベータ型ゼオライトの結晶を製造した。この結晶を走査型電子顕微鏡により観察した結果、平均粒子径は280nmであった。また、SiO2/Al23比は24.0であった。焼成した後のベータ型ゼオライトのX線回折図を図4に示す。このようにして、SDAを含まないベータ型ゼオライトの種結晶を得た。
【0037】
(2)MTW型ゼオライトの合成
純水10.833gに、アルミン酸ナトリウム0.290gと36%水酸化ナトリウム1.973gを溶解して水溶液を得た。微粉状シリカ(Cab−O−Sil、M−5) 4.904gと、0.490gの種結晶とを混合したものを、前記の水溶液に少しずつ添加して撹拌混合し、以下の表1に記載した組成の反応混合物を得た。この反応混合物は、これのみからゼオライトを合成すると、MFI型ゼオライトを含む複数の化合物が生成する組成のものであった。反応混合物と種結晶の混合物を60ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び撹拌することなしに165℃で4日間にわたり自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折図を図5に示す。同図に示すように、この生成物は不純物を含まないMTW型ゼオライトであることが確認された。得られたMTW型ゼオライトについて、そのSiO2/Al23比を求めた。その方法は次のとおりである。MTW型ゼオライトを水酸化カリウム(KOH)を用いて溶解させ、溶解液をICPを用いて分析しAlとSiを定量した。定量したSi及びAlの量に基づきSiO2/Al23比を算出した。
【0038】
〔実施例2ないし10〕
以下の表1に記載した条件を採用する以外は、実施例1と同様にして合成を行った。生成物のX線回折分析の結果、MTW型ゼオライトであることが確認された。実施例5及び実施例7で得られたMTW型ゼオライトのX線回折図を図6及び図7に示す。各実施例で用いた反応混合物は、これのみからゼオライトを合成すると、MFI型ゼオライトを含む複数の化合物が生成する組成のものであった。
【0039】
〔比較例1〕
本比較例においては、ベータ型ゼオライトの種結晶を使用せずにゼオライトを合成した。純水11.374gに、アルミン酸ナトリウム0.202gと36%水酸化ナトリウム2.161gを溶解して水溶液を得た。微粉状シリカ(Cab−O−Sil、M−5)4.264gを、前記の水溶液に少しずつ添加して撹拌混合し、以下の表2に記載した組成の反応混合物を得た。この反応混合物を60ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び撹拌することなしに165℃で144時間にわたり自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折分析の結果、この生成物はZSM−5(MFI型ゼオライト)、層状シリケート及びモルデナイトの混合物であることが確認された。
【0040】
〔比較例2ないし5〕
比較例1と同様に、比較例2ないし5においてもベータ型ゼオライトの種結晶を使用せずにゼオライトを合成した。ゼオライトの合成条件は、以下の表2に示すとおりである。得られた生成物についてX線回折分析を行い生成物の同定をした。その結果も表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を含む反応混合物と、ゼオライトの種結晶とを反応させて、MTW型ゼオライトを製造する方法であって、
前記反応混合物として、該反応混合物のみからゼオライトを合成したときに、合成された該ゼオライトがMFI型ゼオライトを含むものとなる組成の反応混合物を用い、
前記種結晶として、SiO2/Al23比が8〜50であり、かつ構造規定剤を含まないベータ型ゼオライトを用い、
前記種結晶を、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20質量%の割合で該反応混合物に添加し、
前記種結晶が添加された前記反応混合物を100〜200℃で密閉加熱するMTW型ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
反応混合物として以下に示すモル比で表される組成のものを用いる請求項1に記載の製造方法。
SiO2/Al23=10〜150
Na2O/SiO2=0.075〜0.23
2O/SiO2=5〜50
【請求項3】
反応混合物として以下に示すモル比で表される組成のものを用いる請求項2に記載の製造方法。
SiO2/Al23=30〜120
Na2O/SiO2=0.1〜0.2
2O/SiO2=8〜20
【請求項4】
種結晶が添加された反応混合物を120〜180℃で密閉加熱する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
反応混合物を加熱する前に、20〜100℃の温度下に熟成する請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
密閉加熱する工程で反応混合物を攪拌する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−153578(P2012−153578A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14808(P2011−14808)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】