説明

N−ビニルアルキルアミド構造を有するモノマーと新規架橋剤から合成される新規高強度相互侵入網目ゲル

【課題】N−ビニルアルキルアミドをモノマーとした相互侵入網目構造を有する新規ゲルおよび該ゲルを形成するための新規架橋剤を提供する。
【解決手段】N−ビニルアルキルアミドモノマーと式(II)で表わされる架橋剤とを構成単位として合成された、相互侵入網目構造のポリ(N−ビニルアルキルアミド)ゲル:

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互侵入網目構造(IPN)を有する新規ポリマーゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は医療の発展に大きな役割を果たしている。治療における薬物投与の際、皮膚損傷と苦痛を伴う注射や、肝臓通過のために薬物不活性化が問題となる経口投与と比べると、皮膚科薬は皮膚から直接吸収され全身循環へ移行するため、患者に優しく確実な処法といえる。
【0003】
ポリ(N−ビニルアセトアミド(NVA)誘導体)はポリアクリルアミドと同様に生体高分子ポリペプチドの異性体であり、またソフトコンタクトレンズなどに利用されているピロリドンと化学構造が類似していることからも、高い生体親和性が期待される。また、湿布剤として一般に使用されているポリアクリルアミド、ポリアクリル酸と同等またはそれ以上の生体親和性が考えられ、また、ポリ(NVA誘導体)は両親媒性を示すため、油を取り込むオイルゲル化剤としての応用例が報告されており、既存の高分子材料に比べて難水溶性医薬品および親油性薬物を取り込みやすいことが見込まれる。
【0004】
ポリアクリルアミドは生体高分子ポリペプチドの異性体であり、優れた生体適合性を示すと同時に32℃付近に下限臨界溶液温度(LCST)を示すため、薬物送達システム(DDS)や細胞シート脱着表面などの機能性材料としての応用されている。これに対して、もうひとつのポリペプチド異性体であるN−ビニルアセトアミド(NVA)とその誘導体は、既に工業化された簡便な合成法が当研究室より報告されて以来、その重合反応性や共重合体などの特性が明らかとなりつつある。
【0005】
一方、高分子材料の物理的化学的性質は立体構造に大きく影響されることが知られている。例えばポリアクリルアミドでは、主鎖の一次構造制御(非特許文献4)または相互侵入網目構造(IPN)の導入(非特許文献1〜3)により、機械的強度が著しく変化することが報告されている。これらに対して、ポリ(NVA誘導体)の立体構造制御やIPN構造を導入した例についてはほとんど知られておらず、また、バイオマテリアルへの応用までには至っていない。
【非特許文献1】J. P. Gong et al., Adv. Mater., 15, 1155 (2003).
【非特許文献2】H. Tsukeshiba, et al., J. Phys. Chem. B 109, 16304 (2005).
【非特許文献3】K. Yasuda, et al, Biomaterials, 26, 4468 (2005).
【非特許文献4】Y. Isobe, et al., J. Am. Chem. Soc., 123, 7180 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みたもので、N−ビニルアルキルアミドをモノマーとした相互侵入網目構造(IPN)を有する新規ゲルおよび該ゲルを形成するための新規架橋剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は化学式(I)で表されるN−ビニルアルキルアミドモノマーを構成単位として合成された、相互侵入網目構造を有するポリ(N−ビニルアルキルアミド)ゲル:
【化1】

(式中、Rは、水素原子、または炭素原子数1〜8のアルキル基を表す)を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、新規な、相互侵入網目構造を有するポリ(N−ビニルアルキルアミド)ゲルを提供するものである。
また、本発明は、上記ゲルを製造するに有用な新規な架橋剤を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のゲルを構成する単位モノマーは、化学式(I)で表されるN−ビニルアルキルアミド(以下、単に「N−ビニルアルキルアミド」ということもある)である。式中Rは水素原子、炭素原子数1〜8の分岐していてもよいアルキル基を表す。
【0010】
を変えることにより、ポリ(N−ビニルアルキルアミド)の機能を制御することができる。例えばRを水素原子とすると、ポリマーを親水性とすることができる。Rをメチル基とすると、ポリマーを両親媒性とすることができる。Rをイソブチル基とすると、さらに感熱応答性を付与できる。Rの炭素数をさらに延ばすと、ポリマーを親油性とすることができる。
【0011】
本発明においては、上記Rが異なる2種類以上のN−ビニルアルキルアミドの混合モノマーとして使用してもよいし、また、反応性が類似し、ゲルを形成できる限り、N−ビニルアルキルアミドモノマーの一部を他のビニルモノマー、例えばビニルアセテート、(アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸メチル、等の汎用ビニルポリマーで置き換えて使用することも可能である。
【0012】
本発明のゲル製造に際しては、まずN−ビニルアルキルアミドモノマーを、架橋剤および重合開始剤を適当な溶媒中で重合してゲルを形成する。この第1段階目で合成されるゲルを本発明においてはホストゲルというものとする。またホストゲルを構成するポリマーを「ホストポリマー」というものとする。
【0013】
本発明では下記化学式(II):
【化2】

で表される架橋剤を使用するようにする。該架橋剤は、N−ビニルアルキルアミドモノマーと類似の骨格構造を有しているので、ラジカル共重合性が低いN−ビニルアルキルアミドモノマーを重合するに際して架橋点を確実に導入することができる。架橋剤は種々のものが知られているが、例えば既知の架橋剤N,N−メチレンビスアクリルアミド(MBA)を使用すると架橋反応が不十分となったりする。
【0014】
式(II)中、Rは、上記と同義であり、水素原子、または炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。Rは同一であっても異なっていてもよい。
【0015】
式(II)中Yは、下記化学式(III):
【化3】

(式中、n、nはそれぞれ独立して2または4を表す;mは0または1を表す)で表される。
【0016】
化学式(II)中、Yの具合例としてしては以下のものを挙げることができる。
【化4】

【0017】
本発明の架橋剤は、窒素雰囲気下、無水ジメチルホルムアミドを溶媒として、式(I)で表される化合物の二級アミンを水素化ナトリウムを用いてアニオン化したのちに
式(IV):
X−Y−X (IV)
(式中、Yは上記と同義、Xはハロゲン原子を表す)
で表される化合物と反応させることにより得ることができる。この反応は、一般的に求核置換反応として知られており、当業者であれば製造することができる。
【0018】
重合は、種々公知の重合開始剤や、ガンマ線などのラジカル発生条件下において行われ、例えばラジカル発生剤、例えば2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパンジヒドロクロリド]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ヒドラート、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等の熱重合開始剤、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等のレドックス系開始剤などを例示できるが、本発明においては溶媒への適切な溶解性、および二段階目にゲル化させるため、長時間冷暗所で充分に浸透させることが可能との観点から2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドを使用するようにするとよい。
【0019】
ホストゲルを合成する際に使用する溶媒に制限はないが、N−ビニルアルキルアミドの溶解性の観点から選択すればよく、N−ビニルホルムアミドの場合は水やメタノール、エタノール等のアルコール、N−ビニルアセトアミドの場合には、水、アルコール類のほかに他のN−アルキルビニルアルキルアミドと同様、ベンゼン、トルエン等の有機溶媒等を使用でき、両親媒性化合物であるために合成後種々の溶媒に置換も可能である。
【0020】
重合は、上記N−ビニルアルキルアミドモノマー、架橋剤、重合開始剤を適当な溶媒に溶解させた溶液を、不活性ガス雰囲気下、熱、UV光をかけることにより行う。その際、溶液を所望の形状を有する容器中で行うことにより、ゲルの形状を任意に制御することが可能である。
【0021】
N−ビニルアルキルアミドモノマーの濃度[M]、開始剤の濃度[I]、架橋剤の濃度[C]とすると、[M]は、1.0〜4.0mol/L、[M]100に対して、架橋剤の濃度[C]は、5〜1、開始剤の濃度[I]は、10〜1程度の割合で溶液を調製するようにすればよい。
【0022】
N−ビニルアルキルアミドモノマーの種類、架橋剤の種類、各成分の使用比、溶媒を代えることにより、得られるゲルの膨潤度を制御することが可能である。例えば、N−ビニルアルキルアミドモノマーとしてN−ビニルアミドモノマー(式(I)においてRがメチル基)を使用すると、[M]の濃度(1〜4mol/L)、架橋剤の種類、各成分の使用比([M]100に対して、架橋剤の濃度[C]を1〜3、開始剤の濃度を1〜5を変えることにより、膨潤度10〜26の間で種々異なる膨潤度を有するホストゲルを調製することができる。
【0023】
重合後、未反応モノマー、架橋剤の残渣を系から除去するようにする。除去は、得られたゲルを、たとえば反応に使用した溶媒中に浸漬し、ゲル中から溶媒中にそれらの化合物を追い出すことにより行える。その操作は複数回おこなうとより効果的である。そうした洗浄の終了は、ゲルの重量が変化しない平衡膨潤状態となった場合を目安にすればよい。
【0024】
相互侵入網目構造のポリ(N−ビニルアルキルアミド)ゲルは、上記で得られたホストゲルまたは乾燥ポリ(N−ビニルアルキルアミド)ゲルを、上記N−ビニルアルキルアミドモノマー、架橋剤、重合開始剤を適当な溶媒に溶解させた溶液中に浸漬し、各成分を溶液と同濃度になるまでホストゲル内へ拡散させ、ホストゲルを合成したと同様にN−ビニルアルキルアミドモノマーをホストゲル中で重合、架橋することにより得られる。この第2段階目で合成されるポリマーを「ゲストポリマー」ということとする。
【0025】
ゲストポリマー形成の際に使用される、N−ビニルアルキルアミドモノマー、架橋剤、重合開始剤、それらの使用割合は、ホストゲルを形成するときと同じでも異なっていてもよい。
【0026】
相互侵入網目構造(IPN構造)とは、異なった種類の架橋網目が化学的な結合を持つことなく独立に存在する状態でお互いに絡み合った構造、と定義される。例えば、ポリ−2−ヒドロキシ−3−メタクロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドを架橋親水性ポリマーとして、メラミン樹脂を架橋疎水性ポリマーとして互いに絡み合うIPN構造をとることによりいかなる溶媒にも不溶な膜を形成する。(Y. Sakai, et al., Proc. 3rd Inter. Meet. Chemical Sencers, 273 (1990))また、ここでメラミン樹脂の代わりにエチレングリコールジメタクリレートを用いることで、より耐水性を高めることが可能である(Y. Sakai et al., J. Electrochem. Soc., 140, 432 (1993))。本発明においては、N−ビニルアルキルアミドモノマー濃度[M]の溶液を使用し、一段合成で得られたゲルと、N−ビニルアルキルアミドモノマー濃度[M]/2の溶液を使用し、本発明のように2段階合成で得られたゲルとの単位面積当たりの強度、破断強度(破断時の侵入深さ、圧力)を比較することにより、確認することができる。後者のゲルの単位面積当たりの強度が、前者のそれより増加していれば、相互侵入網目構造が形成され存在しているということができる。
【0027】
両親媒性を有するN−ビニルアルキルアミドをモノマーとしたIPN構造を有するゲルはこれまで知られておらず、様々な薬物を担持する丈夫な担体としての応用が期待され、バイオマテリアル産業への有用性があると考えている。
【0028】
以上、ホストポリマー、ゲストポリマーの両者とも、架橋ポリ(N-ビニルアルキルアミド)から構成されるIPN構造のポリマーゲルについて説明した。本発明においては、ホストポリマー、ゲストポリマーのどちらか一方を、N-ビニルアルキルアミドポリマー以外の他のポリマー、例えば、アクリル酸およびメタクリル酸の塩やエステル化合物から成るポリマー、ビニルアセテートポリマー、アクリルアミドポリマー、メタクリルアミドポリマーで構成することも可能である。
例えば、アクリルアミドポリマーをホストポリマー、ゲストポリマーとするIPN構造のゲル、その調製法はすでに知られている(例えば、非特許文献1、J. T. Zhang et al., J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 42, 1249 (2004))ホストポリマー、ゲストポリマーのどちらか一方を、アクリルアミドポリマーで構成してIPN構造のポリマーゲルを調製する場合、すでに知られている(架橋)ポリアクリルアミドの調製方法を適用すればよい。架橋剤は、式IIで示した本発明の架橋剤を使用することも可能であるし、(架橋)ポリアクリルアミドの調製で用いる架橋剤を使用することもできる。
【実施例】
【0029】
(架橋剤の合成)
Cl−Y−Cl(Yは表1に示した)を用いて下記反応式に示したようにNVA骨格を有する架橋剤を合成した。このとき使用した溶媒ジメチルホルムアミドは60mLであり、市販品である油中1.02当量相当の水素化ナトリウム2.4g使用し、NVA5gと反応させた後にCl−Y−Clと反応させ、求核置換反応によって架橋剤を合成した。
【化5】

【0030】
【表1】

a)収量(g)は、シリカゲルクロマトグラフィーにより単離された重量である。
b)収率(%)は、リンカーの使用量(23mmol)に基づいて計算した値である。
【0031】
得られた架橋剤(エントリーNo.1〜3)を、室温、重アセトニトリル中で測定したプロトンNMR(400MHz)スペクトルを図1〜3に示した。
【0032】
(ホストゲルの合成1:架橋剤による膨潤度の影響)
【化6】

【0033】
NVA(0.34g,4mmol)、架橋剤2(12mg,0.04mmol)、および開始剤2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(11mg,0.04mmol)を脱気した超純水2mLへ溶解させ(NVA濃度は2mol/L)、窒素雰囲気下二枚のガラス板(隙間1mm厚)へ導入後、37℃に加熱させることで重合反応を開始させた。溶液は約30分でゲル化した。4時間反応後に得られたゲルを冷却しラジカルを失活させて反応を停止し、2.12gの透明なゲルを得た。
【0034】
得られたゲルを毎日洗浄水を交換しながら5日間、超純水中に浸すことにより洗浄し、平衡膨潤状態で6.03gのゲル(ホストゲル2)を得た。
【0035】
得られたゲルの一部(0.347g)を凍結乾燥して得られた重さ(0.023g)から、25℃における膨潤度は14、収率は99%以上であった。結果を下記表2に示す。
【0036】
架橋剤2に代えて、架橋剤1、3を用いて上記と同様にして透明なゲル(ホストゲル1,3)を調製した。架橋剤1、3を用いた場合も、架橋剤2の場合と同様にいずれも定量的に重合が進行した。結果を下記表2に示した。
【0037】
【表2】

【0038】
架橋剤1を用いて得られたゲルの膨潤度は他のものに比べて大きな値を示した。これは架橋剤の大きさが小さいために、架橋剤2,3に比べて架橋反応が不十分であったためと考えられる。
【0039】
(ホストゲルの合成2:重合条件の考察)
架橋剤2を使用し、NVAモノマー[M]の濃度、およびNVAモノマー[M]、開始剤[I]、架橋剤[C]の濃度比([M]:[I]:[C])を下記表3に示した条件に代えた以外、上記ホストゲルの合成1と同様にゲルを合成した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

上記表3に示したようにNVAの濃度は1mol/Lから4mol/Lまで広範囲で定量的にゲルの調製ができる
【0041】
(相互侵入網目構造を有するゲルの調製)
【化7】

【0042】
1mm厚で調製したホストゲル1,2,3,4,5,6,9をそれぞれ、表4に示した量使用し、NVA(2.38g,28mmol)、架橋剤2(83mg,0.28mmol)、およびホストゲルの合成1で使用した同じ開始剤(77mg,0.28mmol)と一緒に超純水と混合して全体が8mLとなるように調製し、10℃冷却下で24時間静置した。この操作により各成分がゲル内部まで同濃度に拡散され、NVA濃度は同2mol/Lとなる。
【0043】
モノマー浸漬条件を4℃で一週間とした例を記す。ホストゲル7を0.185g取り出し、一週間4℃でモノマー溶液に浸漬後再び窒素雰囲気下二枚のガラス板(隙間1mm厚)へ挟み込み、37℃6時間加熱した。これによりIPN構造を有するNVAゲルが得られる(IPNゲル8)。ここで得られたIPNゲルの膨潤度は10、収率は89%であった。
IPNゲルの膨潤度は、平行膨潤状態での重量Ws=0.4712g、乾燥状態での重量をWd=0.0432gであるから、式(Ws−Wd)/Wdより、膨潤度10と計算される。また収率は、一段階目の定量的に反応したホストゲル7において、初めに調製した2mol/L濃度に相当するゲル2mLは、平行膨潤状態では6.03gへと変化するため、1g/mLと仮定した場合、モノマー浸漬状態におけるホストゲルのNVA濃度は0.66mol/Lと補正される(同条件のホストゲル2を参照)。すなわち、二段階目のIPNゲル調製状態のNVA濃度は全体で2.66mol/Lとみなすことができ、同じ体積のホストゲル7(0.66mol/L)の乾燥重量0.012gとなることから、IPNゲルが定量的に反応した場合では0.012g×(2.66mol/L÷0.66mol/L)=0.0484gとなるはずであり、実際に得られたIPNゲルの乾燥重量は0.0432gであったから、収率は0.0432g÷0.0484g×100=89(%)と算出した。
【0044】
【表4】

【0045】
なお、前記表3に示したようにNVAの濃度は1mol/Lから4mol/Lまで広範囲で定量的にゲルの調製ができるが、表4は予備実験としてホストゲルをモノマー溶液中10℃で24時間浸したのちに重合を開始させ、IPNゲルを合成した結果であり、短時間の浸漬であってもそれぞれにIPN構造を導入することができることを平行膨潤状態の重量増加から確認している(IPNゲル1〜7)。
【0046】
破断点の測定
得られたホストゲル2,4、IPNゲル8を5mm×5mmに切り出し、圧縮試験機(島津社製、EZ test)によりゲルの破断点をそれぞれ3回測定し、平均値を比較した。結果を表5に示した。表5中、破断強度(mm)は、ゲルが破断したときの圧縮した距離を表し、破断強度(Pa)は、そのときの応力を表し、極大値から決定した。
【0047】
【表5】

【0048】
IPN構造を有するゲル(IPNゲル8)が16.5×10Paであり、IPN構造を導入する前のゲル(5.1×10Pa)やNVA濃度を2倍にして調製したホストゲル4の値(12.6×10Pa)よりも大きな値を示した。
【0049】
(生体適合性)
表4に示したIPNゲル2を用いてマウスL929繊維芽細胞の接着試験を行い、その生体適合性を評価した。
【0050】
一週間後の観察したところ、ポリ(N−ビニルアセトアミド)(NVA)ゲルへの細胞接着は、初期の接着数が少ないものの、徐々に伸展し増殖する傾向が見られ、細胞に対する強い為害性はないものと考えられた。
【0051】
(NVAと他のモノマーの組み合わせによる相互侵入網目構造の調製)
(NVAとN−イソプロピルアクリルアミド
NVA(0.51g, 6mmol)、架橋剤1(18mg, 0.06mmol)、および開始剤2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(17mg, 0.06mmol)を,脱気した超純水3mLへ溶解させた(NVA濃度は2mol/L)。得られた溶液を、窒素雰囲気下二枚のガラス板(隙間2mm厚)へ導入後、37℃に加熱させることで重合反応を開始させると約30分でゲル化した。4時間反応後に冷却しラジカルを失活させて反応を停止し、3.13gのゲルを得た。ここで得られたゲルは超純水中に24時間浸すことにより洗浄し、平衡膨潤状態で8.00gのゲルを得た。
【0052】
次に、厚さ3.00mmになった平行膨潤状態のNVAゲルを、直径9mmのディスク状に切り出して、これをホストゲル(ディスク体積=π×4.5mm×4.5mm×3.0mm=191mm3=1.91×10-4 L)とした.
なお、この直径9mmディスク(0.173g)を凍結乾燥して得られた重さ(0.011g)から、25℃における膨潤度は14.7、収率は99.8%とそれぞれ算出された。
【0053】
直径9mm,厚さ3mmのNVAゲルにIPN構造を導入する手順を以下に示す。
N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)1.8g,16mmol)、架橋剤メチレンビスアクリルアミド(MBAAm) (25mg, 0.16mmol)、および同開始剤(44mg, 0.16mmol)と一緒に超純水と混合して全体が16mLとなるように調製し、4℃冷却下で24時間静置した。この操作により各成分がゲル内部まで同濃度に拡散され、NIPAMの濃度は同1mol/Lとなる。
【0054】
ゲルを取り出し、再び窒素雰囲気下二枚のガラス板(隙間2mm厚)へ挟み込み、室温状態で6時間UV照射を行うことによりNVAとNIPAMから成るIPN構造を有するゲルを得た。これを5日間超純水に浸すことにより洗浄し、ディスク1個の平行膨潤状態で0.289g得た。このディスクの乾燥状態では0.027gであることから膨潤度は9.7、また仕込みのNVAゲルの乾燥状態が上記のように0.011gであることから、反応したNIPAMのポリマーは0.016gと算出され、反応前に仕込み状態でディスク体積内に存在していたNIPAMは、(1mol/L×113.08g/mol×1.91×10-4 L=0.0215g)であるから、収率は74%とそれぞれ計算された。
また、厚さ3mm、直径9mmのディスク状ゲルを用いた以外、上記破断点の測定と同様にして破断点を測定した。結果を下記表6に示す。
【0055】
(NVAとアクリルアミド)
ゲストポリマ構成モノマーとしてアクリルアミド(AAm)を2.0mol/L用い、重合にUV照射ではなく37度の熱重合を行った以外,N−イソプロピルアクリルアミドを使用した場合と同様にして、NVAとAAmから成るIPN構造を有するゲルを得た。収率99%以上、膨潤度7.3であった。
また、厚さ3mm、直径9mmのディスク状ゲルを用いた以外、上記破断点の測定と同様にして破断点を測定した。結果を下記表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
【化8】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリ(N−ビニルアルキルアミドモノマー)ゲルは、様々な薬物を担持する丈夫な担体としての応用が期待され、新規バイオマテリアルとして産業的な展開に繋げることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】架橋剤(エントリNo.1)のH−NMR(400MHz)スペクトル。
【図2】架橋剤(エントリNo.2)のH−NMR(400MHz)スペクトル。
【図3】架橋剤(エントリNo.3)のH−NMR(400MHz)スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)で表されるN−ビニルアルキルアミドモノマーを一段階目および二段階目に合成するゲル網目の構成単位として合成された、相互侵入網目構造のポリ(N−ビニルアルキルアミド)ゲル:
【化1】

(式中、Rは、水素原子、または炭素原子数1〜8のアルキル基を表す)。
【請求項2】
一段階目および二段階目に合成するゲル網目の構成単位が化学式(I)で表されるN−ビニルアルキルアミドモノマー、架橋剤および重合開始剤から合成された相互侵入網目構造のポリ(N−ビニルアルキルアミドモノマー)ゲル:
【化2】

(式中、Rは、水素原子、または炭素原子数1〜8のアルキル基を表す)。
【請求項3】
架橋剤が、下記化学式(II)で表される、請求項2に記載のポリ(N−ビニルアルキルアミドモノマー)ゲル:
【化3】

(式中、Rは、水素原子、または炭素原子数1〜8のアルキル基を表す;Yは、下記化学式(III):
【化4】

(式中、n、nはそれぞれ独立して2または4を表す;mは0または1を表す)で表される)。
【請求項4】
下記化学式(II)で表される化合物:
【化5】

(式中、Rは、水素原子、または炭素原子数1〜8のアルキル基を表す;Yは、下記化学式(III):
【化6】

(式中、n、nはそれぞれ独立して2または4を表す;mは0または1を表す;Xはハロゲン原子を表す)で表される)。
【請求項5】
化学式(I)で表されるN−ビニルアルキルアミドモノマーを一段階目または二段階目に合成するゲル網目の構成単位とし、アクリル酸およびメタクリル酸の塩やエステル化合物、アクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマーまたはビニルアセテートを二段階目または一段階目に合成するゲル網目の構成単位として構成された、相互侵入網目構造のポリマーゲル:
【化7】

(式中、Rは、水素原子、または炭素原子数1〜8のアルキル基を表す)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−255313(P2008−255313A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144642(P2007−144642)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月12日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第87春季年会(2007)講演予稿集」に発表、平成19年3月25日 社団法人日本化学会主催の「日本化学会第87春季年会(2007)」において文書をもって発表
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(505115854)株式会社ビーエムティーハイブリッド (6)
【Fターム(参考)】