説明

N−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の製造方法

【課題】 医農薬原料として有用なN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の安価かつ簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】 N−置換−3−ピロリン誘導体と、クロロギ酸エステル類とを反応させることを特徴とするN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医農薬中間として有用な、N−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の製造方法としては、これまでも種々の方法が開示されている。例えば、(1)カルバミン酸エステル誘導体を水素化ナトリウムの存在下にシス−1,4−ジクロロブテンと反応させる方法(例えば、特許文献1など)、(2)ルテニウム遷移金属触媒の存在下にN,N−ジアリルアミノ−N−カルバミン酸エステル誘導体を閉環メタセシスにより環化する方法(非特許文献1など)、(3)3−ピロリンを塩基の存在下にクロロギ酸エステル類或いはジ置換炭酸無水物類と反応させる方法(非特許文献2など)などが提案されてきた。
【0003】
しかしながら、上記(1)の方法は塩基として発火性、禁水性の水素化ナトリウムを使用しているため、その危険性ゆえに工業的な製造方法とは言い難く、(2)の方法は高価なルテニウム遷移金属触媒を必要とする点、および触媒の不安定さゆえに大量の取り扱いが困難である点、さらに原料の合成に多段階を要する点を考慮すると、おおよそ工業的な製造方法とは言い難く、(3)の方法は簡便ではあるものの、原料の3−ピロリンの工業的な製造方法が未だ確立されておらず、かつ該化合物が不安定である点で工業的な実施が困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−349565号公報
【非特許文献1】オーガニック・シンセシス(Org. Synth.)、80巻、85ページ(2003)
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー(J. Org. Chem.)、62巻、4285ページ(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は医農薬原料として有用なN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の安価かつ簡便な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記従来法の課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記一般式(1)

(ただし、式中、R’は炭素数1から5の直鎖、もしくは分岐の低級アルキル基、または置換もしくは無置換のアラルキル基である)で表されるN−置換−3−ピロリン誘導体と、下記一般式(2)

(ただし、式中、Rは炭素数1から5の直鎖、もしくは分岐の低級アルキル基、アリル基、シリルアルキル基、或いは置換もしくは無置換のアリール基、アラルキル基である)で表されるクロロギ酸エステル類とを反応させることを特徴とする、下記一般式(3)

(ただし、式中、Rは前記定義の通りである)で表されるN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、反応を有機溶媒の共存下に行うこと;上記一般式(1)における置換基R’が、ベンジル基であること;上記一般式(2)における置換基Rが、メチル基、エチル基、イソブチル基、ビニール基およびベンジル基のうちの少なくとも1種であること;上記一般式(2)における置換基Rがベンジル基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、医農薬原料として有用なN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体を安価かつ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
本発明の下記一般式(3)

(ただし、式中、Rは前記定義の通りである)で表されるN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の製造方法は、下記一般式(1)

(ただし、式中、R’は炭素数1から5の直鎖、もしくは分岐の低級アルキル基、または置換もしくは無置換のアラルキル基である)で表されるN−置換−3−ピロリン誘導体と、下記一般式(2)

(ただし、式中、Rは炭素数1から5の直鎖、もしくは分岐の低級アルキル基、アリル基、シリルアルキル基、或いは置換もしくは無置換のアリール基、アラルキル基である)で表されるクロロギ酸エステル類とを反応させることを特徴とする。
【0010】
本発明において使用できる一般式(1)で表されるN−置換−3−ピロリン誘導体の置換基R’としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリブチル基、ベンジル基、(α−メチル)ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。これらのN−置換−3−ピロリン誘導体は、シス−1,4−ジクロロ−2−ブテンと対応するアミン類を塩基存在下に環化反応に付すことにより容易に得られる(特開2001−270862号公報参照)。上記置換基R’としては、一般式(1)のベンジル置換体(N−ベンジル−3−ピロリン)が入手が容易であるなどの理由でとりわけベンジル基が好ましい。
【0011】
上記一般式(1)で表わされるN−置換−3−ピロリン誘導体と反応させる、前記一般式(2)で表されるクロロギ酸エステル類の置換基Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ターシャリブチル基、ビニル基、プロペニル基、トリメチルシリルエチル基、ベンジル基、(α−メチル)ベンジル基、フェネチル基、(9−フルオレニル)メチル基などが挙げられる。これらは工業的に入手容易な原料である。一般式(2)における置換基Rは、メチル基、エチル基、イソブチル基、ビニール基およびベンジル基のうちの少なくとも1種であることが好ましく、特に一般式(2)のベンジル置換体(ベンジルクロロホルメート)は医薬品の中間原料[ジャーナル・オブ・メデシナル・ケミストリー(J. Med. Chem.)33,1962(1990)]として採用され、後工程での脱保護基が容易であるなどの理由でベンジル基が特に好ましい。
【0012】
前記一般式(1)の化合物と前記一般式(2)の化合物とを反応させる本発明の反応は、溶媒の存在下、もしくは非存在下で実施できる。溶媒の非存在下に反応を実施する場合は、基質であるクロロギ酸エステル類を大過剰に用いることにより系の攪拌状態を良好に保持できる。しかしながら、経済性、および反応後の後処理の容易さを考慮すると、溶媒の使用が好ましい。溶媒の存在下に本発明の反応を行う場合、使用するクロロギ酸エステル類の使用量は前記一般式(1)で表されるN−置換−3−ピロリン誘導体に対して、1.0から1.5当量モルが好ましく、さらに好ましい使用量は1.05から1.1当量モルである。
【0013】
上記反応においては、中間状態において第四級アンモニウム塩が生成するため、該第四級アンモニウム塩の溶解能が高く、かつ反応に不活性な有機溶媒を選択することが好ましい。具体的には、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族ハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの脂肪族ニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノンなどの非プロトン性極性溶媒などが使用できる。これらの中でも、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンなどは、経済性、および後処理の容易さから好適に用いられる。溶媒の使用量は、中間状態で塩の生成が生じるため、反応系の攪拌を確保できる量を任意に選択できる。
【0014】
前記反応は−20℃から基質として用いるクロロギ酸エステル類、或いは使用する溶媒の常圧下の沸点を選択できる。好ましい反応温度は0℃から130℃であるが、中間体として生成する塩の溶媒への溶解度、および溶媒の使用量に鑑みて反応温度は適宜選択できる。すなわち、塩の溶解能の高い溶媒を用いた場合は、比較的少ない使用量、かつ低温での反応が可能である。
【0015】
反応の進行は、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどで追跡できる。原料化合物の減少、もしくは消失、或いは目的化合物の増加を観察して反応の終点を決定できる。反応終了後は、一般的な後処理を施した後に常法で単離精製を行なえばよい。以上の如き方法により、簡便、かつ安価に所望のN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン類の製造が可能である。
【実施例】
【0016】
以下に実施例で本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1](N−(メトキシカルボニル)−3−ピロリンの製造)
N−ベンジル−3−ピロリン(5.57g;35.0mmol)のジクロロメタン溶液(15ml)に、5℃に冷却下メチルクロロホルメート(3.63g;38.5mmol)を窒素雰囲気下に15分を要して滴下した。反応混合物を25℃に昇温後6時間攪拌した。反応液を氷水中に投入し、油相と分離した水相をジクロロメタン(15ml×2)で抽出した。抽出液を有機相のジクロロメタン相と合し、2N苛性ソーダ水溶液、10質量%クエン酸水溶液および飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、次いで溶媒であるジクロロメタンを留去して濃縮後、得られた油状物を減圧蒸留に付して、bp.72〜75℃/20torr(mp.38〜39.5℃)の表題化合物(N−(メトキシカルボニル)−3−ピロリン)3.53g(79.3%)を得た(本化合物の恒数はオーストラリアン・ジャーナル・ケミストリー(Aust. J. Chem.)37,1503(1984)に報告(mp.41〜42℃)されている。)。
【0017】
上記化合物の分析結果は以下の通りであった。
1HNMR(CDCl3):δ 3.71(3H,s),4.16(4H,m),5.78(2H,m)
MS(APCI):m/z 128(M+H)+
IR(KBr)cm-1:ν 1706,1622cm-1
【0018】
[実施例2](N−(エトキシカルボニル)−3−ピロリンの製造)
N−ベンジル−3−ピロリン(6.36g;40.0mmol)のジクロロメタン溶液(15ml)に、5℃に冷却下エチルクロロホルメート(4.77g;44.0mmol)を窒素雰囲気下に15分を要して滴下した。次いで実施例1と同様に行ない、bp.85〜88℃/11torrの表題化合物(N−(エトキシカルボニル)−3−ピロリン)4.51g(80.0%)を得た(本化合物の恒数はアグリカルチャル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agric. Biol. Chem.)51,435(1987)に報告(bp.120〜125℃/20torr)されている。)。
【0019】
上記化合物の分析結果は以下の通りであった。
1HNMR(CDCl3):δ 1.28(3H,t,J=7.1Hz),4.11−4.24(6H,m),5.78(2H,m)
MS(APCI):m/z 142(M+H)+
IR(film)cm-1:ν 1704,1624cm-1
【0020】
[実施例3](N−(イソブチルオキシカルボニル)−3−ピロリンの製造)
N−ベンジル−3−ピロリン(5.57g;35.0mmol)のジクロロメタン溶液(15ml)に、5℃に冷却下イソブチルクロロホルメート(7.19g;53.0mmol)を窒素雰囲気下に15分を要して滴下した。次いで反応液を25℃に昇温後24時間攪拌した。後処理は実施例1と同様に行ない、bp.112〜115℃/18torrの表題化合物(N−(イソブチルオキシカルボニル)−3−ピロリン)5.11g(86.4%)を得た。
【0021】
上記化合物の分析結果は以下の通りであった。
1HNMR(CDCl3):δ 0.95(6H,d,J=6.7Hz),1.97(1H,m),3.89(2H,d,J=6.7Hz),4.12−4.20(4H,m),5.79(2H,m)
MS(APCI):m/z 170(M+H)+
IR(film)cm-1:ν 1710,1625cm-1
【0022】
[実施例4](N−(ベンジルオキシカルボニル)−3−ピロリンの製造)
N−ベンジル−3−ピロリン(4.77g;30.0mmol)のトルエン溶液(15ml)に、5℃に冷却下ベンジルクロロホルメート(6.14g;36.0mmol)を窒素雰囲気下に15分を要して滴下した。反応混合物を110℃に加温し12時間攪拌した。次いで反応液を氷水中に投入し、油相と分離した水相をトルエン(15ml×2)で抽出した。抽出液を有機相のトルエン相と合し、2N苛性ソーダ水溶液、10質量%クエン酸水溶液および飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、次いで溶媒を留去して濃縮後、得られた油状物を減圧蒸留に付して、bp.137〜140℃/1torrの表題化合物(N−(ベンジルオキシカルボニル)−3−ピロリン)4.1g(66.7%)を得た(本化合物の恒数はケミカル・アンド・ファマシュテイカル・ブレチン(Chem. Pharm. Bull)18,2478(1970)に報告(bp.133〜137℃/0.6torr)されている。)。
【0023】
上記化合物の分析結果は以下の通りであった。
1HNMR(CDCl3):δ 4.19(4H,m),5.16(2H,s),5.78(2H,m),7.26−7.40(5H,m)
MS(APCI):m/z 204(M+H)+
IR(film)cm-1:ν 1710,1624cm-1
【0024】
[実施例5](N−(ベンジルオキシカルボニル)−3−ピロリンの製造)
N−ベンジル−3−ピロリン(4.77g;30.0mmol)のジクロロメタン溶液に、5℃に冷却下ベンジルクロロホルメート(6.14g;36.0mmol)を窒素雰囲気下に滴下した。次いで実施例1と同様に行ない、表題化合物(N−(ベンジルオキシカルボニル)−3−ピロリン)4.76g(78.0%)を得た。
【0025】
[実施例6](N−(ビニルオキシカルボニル)−3−ピロリンの製造)
N−ベンジル−3−ピロリン(4.77g;30.0mmol)のジクロロメタン溶液(15ml)に、0℃に冷却下ビニルクロロホルメート(3.50g;33.0mmol)を窒素雰囲気下に1時間を要して滴下した。次いで反応液を25℃に昇温し3.5時間攪拌した。後処理は実施例1と同様に行ない、bp.80〜83℃/18torrの表題化合物(N−(ビニルオキシカルボニル)−3−ピロリン)3.66g(87.8%)を得た。
【0026】
上記化合物の分析結果は以下の通りであった。
1HNMR(CDCl3):δ 4.23(4H,s),4.46(1H,dd,J=6.3、1.5Hz),4.80(1H,dd,J=14.0、1.5Hz),5.81(2H,m),7.24(1H,dd,J=14.0、6.3Hz)
MS(APCI):m/z 140(M+H)+
IR(film)cm-1:ν 1728,1648&1625cm-1
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、医農薬原料として有用なN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体を安価かつ簡便に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)

(ただし、式中、R’は炭素数1から5の直鎖、もしくは分岐の低級アルキル基、または置換もしくは無置換のアラルキル基である)で表されるN−置換−3−ピロリン誘導体と、下記一般式(2)

(ただし、式中、Rは炭素数1から5の直鎖、もしくは分岐の低級アルキル基、アリル基、シリルアルキル基、或いは置換もしくは無置換のアリール基、アラルキル基である)で表されるクロロギ酸エステル類とを反応させることを特徴とする、下記一般式(3)

(ただし、式中、Rは前記定義の通りである)で表されるN−(アルコキシカルボニル)−3−ピロリン誘導体の製造方法。
【請求項2】
反応を有機溶媒の共存下に行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)における置換基R’が、ベンジル基である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(2)における置換基Rが、メチル基、エチル基、イソブチル基、ビニール基およびベンジル基のうちの少なくとも1種である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(2)における置換基Rがベンジル基である請求項4に記載の製造方法。